説明

ダイアモンドを基にして得られた電極を活性化するプロセス及びそれらの使用

【課題】電荷移動速度、安定性及び/又は電気化学的特性の再現性の点において改善された特性を有する、ホウ素化ダイアモンドに基づく電極、より一般的にはドープされた又はドープされていないダイアモンドに基づく電極を得ること。
【解決手段】本発明は、ダイアモンド系電極を活性化するためのプロセスに関し、このプロセスは、イオン性電解質を含有する水溶液の存在下、該電極を10μA/cmから1mA/cmの間のアノード及びカソード電流密度を得るために振幅を増大させる交互カソード及びアノード分極電位に供することから構成される工程を含む。本発明はまた、このプロセスによって活性化されたダイアモンド系電極、及びそれらの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイアモンド系電極、それらの調製及びそれらの活性化の分野の範囲内にある。
より詳細には、本発明は、経時的に安定な高い電気化学的反応性を有する電極を電気化学的活性化によって製造可能なダイアモンド系電極の処理方法、及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
sp3型の炭素原子の四面体配置からなる結晶であるダイアモンドは、優れた特性を有する。この物質の属性、例えばその極めて高い硬度、耐食性、禁制帯が広い半導体特性、生物不活性(Bio-inertness)及び熱伝導性は、光学、電子工学、健康、エネルギー又はさらには機械工学のような様々な分野で次第に使用されるようになることを意味している。しかし、天然ダイアモンドの欠点、ひいてはその桁違いのコストのために、有望な属性にも拘わらず、その用途の発展は長年にわたって妨げられてきた。革新的な高圧高温合成プロセスの開発、さらに最近では低圧低温プロセス、例えば化学蒸着により、この15年間ほどで、その用途を発展させるに至っている。
ダイアモンドよりも安価な多結晶ダイアモンド膜を基板上に経済的に成長させる効率の良い技術が開発されている。さらに、これらの方法により、ダイアモンドにホウ素のような原子又は分子を組み込むことができる。後者の場合、p型半導体ができる。このようにして、特にダイアモンド独特の特性と優れた電気化学的特性とを組み合わせた、B−NCD(ホウ素ドープされたナノ結晶ダイアモンド)と呼ばれる、電極を製造するための新しいタイプの材料を得ることができる[非特許文献1]。
【0003】
ホウ素ドープされたダイアモンドに基づく電極は、広い電位窓、水性及び有機媒体中での安定性、低い残留電流、並びに高い化学的及び電気化学的耐食性を含む有利な電気化学的特性を有する[非特許文献1]。これらの特徴のために、ダイアモンドは多くの電気化学的用途に最適な物質となっている。多結晶ダイアモンド膜には、半導体挙動(1018<[B]<1020cm−3)から準金属挙動([B]>3×1020cm−3)に至る挙動を含むレベルまでドープできる。
半導体電極は特に検出又は分析目的には適しているが、電気化学的合成、廃水の電解処理又は生体電子工学センサのような用途では、高い導電性又はさらには金属挙動を有する電極が必要である。最近の研究は、電気化学的反応性に影響を及ぼす因子に関して行なわれている。これらの因子のうち、主な因子は、実際に表面部分で発現し、ひいては結晶性膜の粗さ、ホウ素ドープレベル、非結晶性炭素相及び膜の表面終端化が起こる[非特許文献1];[非特許文献2]。
【0004】
膜の表面終端化に関するパラメータに関しては、多くの研究により、ダイアモンド表面の化学組成に関連する電極の電気化学的応答の感度が示されている。このように、水素化膜は、高い反応性に関連する疎水性の特徴、負電子親和性を示す[非特許文献2];[非特許文献3];[非特許文献4]。ホウ素ドープされたナノ結晶ダイアモンド(B−NCD)は水素化媒体中(水素プラズマ下)で製造されるので、合成反応器を離れた材料表面は水素終端化され、結果として電気化学的反応性が高くなる[非特許文献4]。残念ながら、数日間空気に曝されるか、作用電極として単に使用されるだけで、この反応性は大きく低下する。しかし、この後者の場合では、主要な電気化学的用途には不十分な程度の値ではあるが、安定化する傾向にある。この現象を示すために、図1は、合成された直後のB−NCD電極上で測定された電子移動速度定数(k)の低下を、実験の時間順序の関数として示す。
これらの実験は、迅速な酸化還元対(Fe(CN)3−/4−)の等モル溶液を用い、平衡電位(E=+0.21V/SCE)を用いて、電気化学インピーダンス分光法(EIS)により行なった。インピーダンスの測定は約5分間継続させるので、kの値は、電位に供されることなく、1時間程度で5.9×10−2から4.2×10−3cm/sに至ることがわかる。
【0005】
図2は、同じバッチからの2つのB−NCD作用電極を用いて記録したEISスペクトルを示すが、一方は10日間空気に曝される前のものであり、他方は曝された後のものである。インピーダンスのスペクトルデータから、kの値5.8×10−2cm/s(空気曝露前)及び2.0×10−4cm/s(空気曝露後)が推定される。他のサンプルについても観測された、こうした完全に再現可能な現象から、初期に水素化されたB−NCD電極の反応性が、数日間単に空気に曝しただけで大きく低下すると結論付けることができる。
電気化学的反応性のこうした低下は、刊行物でもあまり言及されないが、このことは、初期に水素化された後、空気に曝された膜の表面における酸素の検出について言及することで明らかになる。特定の著者のもとでは、電極を水素プラズマ処理によって周期的に再活性化する必要があることからこの問題を明示している。対照的に、酸化された表面は、安定で親水性であり、正電子親和性を有するだけでなく、反応性が低い[非特許文献2];[非特許文献3];[非特許文献4]。
【0006】
B−NCDの表面終端化を改質し、それによって電気化学的特性を最適化することを目的とする種々の表面処理が、こうした技術的問題を解決するために既に提案されている。具体的には、数ある表面処理のうち、専門文献での表面処理は次のようなものである:熱処理[非特許文献5];プラズマ処理[非特許文献6];光化学処理、一重項酸素、オゾン及び化学的酸化(熱KNO/HSO)処理及び最終的な電気化学的処理。後者の処理は、通常、HClO媒体[非特許文献5]、HNO媒体又はHSO媒体[非特許文献3]中におけるアノード分極によって、カソード分極によって規定時間固定電位を印加すること、又は平衡電位から始めてアノード又はカソード範囲における周期的電位変動(pH2においてリン酸塩緩衝液中0〜+2.5V/SECの間を循環させる)[非特許文献6]を適用することから構成される。しかし、酸素化ダイアモンド材料の性能安定性が増大することは、適度な電気化学的反応性を無視できることを意味しない。
Becker及びJuttner[非特許文献7及び8]は、水性溶媒の分解区域にて、NaSO溶液中で100回の酸化還元サイクルを行なうことによってB−NCD電極を予備処理した。しかし、Becker及びJuttnerは、使用したプロトコルについて詳細には記載していない:彼らは電位窓、電流密度、又は使用した走査速度についても示唆もしていない。試料の電気化学的特徴は、その予備処理の前に測定されていないので、当業者は、この予備処理を再現することも、この予備処理により所望される又は達成される利点を評価することもできない。故にこの刊行物は、決定的ではない。
【0007】
多くの研究にも拘わらず、電気化学的処理、表面状態及び電気化学的特性を関連付ける機構はあまり理解されていない。行なわれた研究は、特定の酸化還元対の反応機構に依存する結果を導くものであり、矛盾する結果に終わることが多い。故に、例として、ホウ素ドープされたダイアモンドに基づく電極の電荷移動に対する表面終端化の特質効果を調べたFerro及びその共同研究者も、Ce4+/3+酸化還元対を用いた酸化電極でのサイクリックボルタンメトリー曲線のΔE値における大きな変動については触れていなかった[非特許文献5]。これらの著者は、高度にドープされた電極の金属挙動を確認している。非常に類似した条件下でのGirard及びその共同研究者による業績では、適度なアノード処理後(10秒間100μAcm−2)での電荷移動速度における異なる挙動及び顕著な低下を証明している[非特許文献3]。
この文献において、電極表面と迅速な酸化還元対Fe(CN)3−/4−との間の電荷移動における表面酸化の効果についても問題点が多い。Yagi及びGirard[非特許文献2];[非特許文献3]の場合では、適度な電気化学的処理又は酸素プラズマ処理後では、系はより不可逆性になる。Granger及びその共同研究者[非特許文献9]は、反応は特定の酸素阻害された表面部位を介して生じるように見えると説明している。対照的に、他の著者は、電極のアノード処理によって電荷移動速度が改善されることを示している[非特許文献6]。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】M.Hupert,A.Muck,J.Wang,J.Stotter,Z.Cvackova,S.Haymond,Y.Show及びG.M.Swain,Diamond and Related Materials,(2003)12,pp1940−1949
【非特許文献2】I.Yagi,H.Notsu,T.Kondo,D.A.Tryk及びA.Fujishima,Journal of Electroanalytical Chemistry,(1999),473,pp173−178
【非特許文献3】H.Girard,N.Simon,D.Ballutaud,M.Herlem及びA.Etcheberry,Diamond and Related Materials,(2007),16,pp316−325
【非特許文献4】D.A.Tryk,K.Tsunozaki,T.N.Rao及びA.Fujishima,Diamond and related material(2001)10,pp1804−1809
【非特許文献5】S.Ferro及びA.De Battisti,Physical Chemistry Chemical Physics,(2002),4,pp1915−1920
【非特許文献6】C.H.Goeting,F.Marken,A.Gutierrez−Sosa,R.G.Compton及びJ.S.Foord,Diamond and Related Materials,(2000),9,pp390−396
【非特許文献7】D.Becker及びK.Juttner,Electrochimica Acta,(2003),49,pp29−39
【非特許文献8】D.Becker及びK.Juttner,Journal of Applied Electrochemistry,(2007),37,pp27−32
【非特許文献9】M.C.Granger及びG.M.Swain,The Electrochemical Society,(1999),146,pp4551−4558
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
故に、電荷移動速度、安定性及び/又は電気化学的特性の再現性の点において改善された特性を有する、ホウ素化ダイアモンドに基づく電極、より一般的にはドープされた又はドープされていないダイアモンドに基づく電極を得ることが真に必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、高い電気化学的反応性を有し、経時的に安定であるダイアモンド系電極を製造可能な特定の電気化学的処理及びそれらの使用を提供することによって、上述の技術問題を解決できる。
具体的には、本発明が基づく研究は、ダイアモンド系電極の本質的特徴をなす電位窓(又は電位枠(potential frame))の関連を基礎とする。この特徴は、非電気活性塩を含有する観測されている水性溶媒の電気分解(気体状酸素の生成を伴うアノード範囲における水の酸化、及び気体状水素の生成を伴うカソード範囲での水の還元)を生じることなく電極を使用できる電位範囲とみなされる。一般に、B−NCD電極の文脈内にて、水性媒体中の電位窓の幅は3〜3.5Vであり、この値は、特にダイアモンドのドーピングレベル及び表面終端化に応じて変動し得、アノード及びカソード電流密度±50μA/cmに関して決定される。
【0011】
そのため、電位窓の決定は、ダイアモンド系電極、特にB−NCD電極の特徴付けにおいて、重要な工程である。それは、マクロな濃度で存在する非電気活性の支持塩を含有する脱気されるのが有利な支持電解質(例えば、B−NCD電極に関して、0.5mol/lの濃度を有するLiClO)中での、電位走査の間に行なわれる。脱気は、使用前に、アルゴンを電解質中に少なくとも15分間バブリングすることによって行なわれる。電位窓の決定実験は、電位範囲の限界を徐々に増大させることによって開始する。B−NCD電極の場合、この増大は、±150μA/cmオーダーのアノード及びカソード電流が得られるまで行なわれ、電極の電位窓は±50μA/cmの電流密度に対応する電位範囲に等しい(慣例による)。図3は、B−NCD電極を用いて電位窓を決定するために使用した典型的なボルタモグラムを示す。
なお、本発明者らは、非電気活性塩を含有する脱気された水性媒体中のB−NCD電極を、±1.8V(Ag/AgCl,[KCl]=3M)までの範囲に及ぶ可能性のある高い電位値に交互分極させるという事実が、その電気化学的特性及び長期間の安定性を顕著に改善することを見出した。この現象を、以降「酸化還元活性化」と称する。
従来の特徴付け実験から派生しているが、酸化還元活性化はB−NCD電極、一般にはあらゆるダイアモンド系電極を活性化する極めて新規な方法である。このことは、こうした操作が試験下の材料を損傷、さらには破壊する傾向にある場合があるので、電位窓は常に他の特徴付け(サイクリックボルタンメトリー、EISなど)後に測定されているという理由による。さらに、電位窓の限界点では弱い電位が増大する(J(μA/cm)=f(E(V)曲線)での垂直上昇)間に、試験される電極に非常に高い電流密度が誤って通過してしまう場合がある。
【0012】
さらに、ダイアモンド系電極を酸化還元循環によって活性化する試みは、経験にそぐわない手法である。これは、アノード活性化によって生じる表面終端化は、カソード範囲での走査中に変更、さらには破壊されてしまい、その逆も同様であると予想され得るためである。しかし、実験は異なる挙動を示した。
故に、本発明は、ダイアモンド系電極を活性化するためのプロセスに関し、このプロセスは、イオン性電解質を含有する水溶液の存在下、電極を、10μA/cm〜1mA/cmのアノード及びカソード電流密度を得るために、振幅を増大させる交互カソード及びアノード分極電位に供することから構成される工程を含む。
「電極の活性化」という表現は、本発明の文脈内にて、電極を処理に供する動作、この場合は電気化学的反応性に関して電極の特性を改善できる電気化学的処理を意味すると理解される。
【0013】
本発明のプロセスは、ダイアモンドがドープされているかいないかに拘わらず、あらゆる種類のダイアモンド系電極、及びドープされたダイアモンド系電極の文脈内では、あらゆるドーパントに適用するという点において注目に値する。
故に、「ダイアモンド系電極」という表現は、本発明の文脈内にて、構成成分又は構成成分の1つがダイアモンドであるあらゆる電極を意味する。本発明の文脈内にて、ダイアモンド系電極は、電極としてダイアモンドだけからなる電極であるのが好適であり、ここでこのダイアモンドは、単に電極の一部を構成するものである。この場合、ダイアモンドは、連続又は不連続に拘わらず、薄膜の形態をとることができ、例えばFe、Ti、Zr、Nb、Ni、Ta、Mo、W、B、Si、グラファイト及び/又はダイアモンドを含有する基板のような基板表面上の膜の形態をとることができる。結果として、本発明に使用される電極のダイアモンドは、単結晶ダイアモンド、マクロ結晶ダイアモンド、ミクロ結晶ダイアモンド、ナノ結晶ダイアモンド又は超ナノ結晶ダイアモンド(UNCD)の形態をとり得る。
【0014】
本発明の第1の変形では、使用される電極のダイアモンドは全くドープされていないダイアモンドである。
第2の変形において、ダイアモンド系電極はドープされたダイアモンドを含む。ドープされたダイアモンドは、電極表面に位置し得る。有利なことには、電極のダイアモンド全体がドープされたダイアモンドである。いずれかのドーパント、特に二価又は三価又は五価のドーパントのいずれかが、本発明の文脈内にて使用できる。より詳細には、ドーパントは、ホウ素、窒素、リン、ニッケル、硫黄及びこれらの混合物から成る群から選択される。
当業者には、ドープされた又はドープされていないダイアモンドのいずれかに基づいて電極を調製できる種々の技術、例えば、上記で想定されたようなものが既知である。例として、限定しようとするものではないが、使用される技術は、ダイアモンドの熱フィラメント又はマイクロ波プラズマ化学蒸着であることができる。
【0015】
ドープされたダイアモンド系電極の文脈内にて、当業者は、創意工夫を必要とせずに、ドープされた(半導体又は準金属)ダイアモンドの所望の挙動及び/又は電極の後続用途に依存して、使用するドーパント又はドーパントの混合物の量を知ることができる。例として、本発明の文脈内にて使用できるホウ素化ダイアモンドに基づく電極は、cmあたり1018超過のホウ素原子、特にcmあたり1020超過のホウ素原子を含んでいてもよい。
当業者に既知のイオン性電解質のいずれかを本発明の文脈内で使用できる。有利なことに、使用されるイオン性電解質は、非電気活性のイオン性電解質である。「非電気活性のイオン性電解質」という表現は、本発明の文脈内では、本発明の方法に使用される電位にて、電荷の伝導を確実にするが、水の電気化学分解以外の酸化還元反応には関与できない非電気活性塩をマクロ濃度にて含有するイオン性電解質を意味すると理解される。より詳細には、非電気活性のイオン性電解質は、非電気活性塩の水溶液である。この非電気活性塩は、特に、LiClO、NaClO、KClO、NaSO、KSO及びLiSOから成る群から選択できる。有利な非電気活性のイオン性電解質又は非電気活性イオン性塩は、0.01からこの電解質又はこの塩の溶解限度までの範囲の量で水溶液中に存在し得る。例として、特にホウ素化ダイアモンド系電極の文脈内では、0.5〜1Mの範囲の濃度を有するLiClO水溶液が使用できる。
【0016】
好ましくは、有利な非電気活性のイオン性電解質を含有する水溶液は、本発明のプロセスが実施される前に脱気される。これは、水溶液を前もって脱気することで、活性化プロセスが行なわれている間に、カソード範囲での走査中に水に溶解した酸素の還元を回避できるからである。本発明の文脈内において、水溶液を脱気できる当業者に既知のいずれかの技術が使用できる。例として、この技術は、水溶液内でのアルゴンスパージ(又はバブリング)からなることができ、それを数分間継続させる、特に15分間継続させる。
本発明の酸化還元活性化プロセスは、平衡電位から、水溶液が酸素及び水素に分解し始めるアノード又はカソード電流密度をわずかに超える適度なアノード及びカソード電流密度が得られるまで電位範囲を徐々に増加させることから構成される。水溶液が分解し始める電流密度は、当業者には容易に理解できるパラメータである(通常、J=10μA/cm)。
【0017】
本発明の活性化プロセス中、低い電流密度を流すという事実により、ダイアモンド系電極にて、表面終端化の不均一な改質をもたらし得る水の酸化及び還元によるガスの生成を制限する。実際、電極のドープされた又はドープされていないダイアモンド上へのガス泡の付着は、遮断効果によりその表面積を変えてしまう。表面積の減少により、直接的な結果として、非隠蔽区域における電流密度が人工的に増大し、ガス泡の付着点ではデッドゾーンが生じ、そこでは処理の間に泡が自然に取り除かれるまで電気化学的活性化がブロックされる。
活性化方法中、ダイアモンド系電極に適度〜低い電流密度を流すという事実が本発明の本質的な態様である。故に、その絶対値が高すぎるために電極に損傷を与える危険性のある電流密度は完全に回避されるような電流密度を得るためのプロセスのいずれかが、本発明の文脈内で使用できると想定されなければならない。
好ましくは、本発明のプロセスは、±1mA/cm未満、すなわち±10〜±1000μA/cm、特に±10〜±900μA/cm、特に±10〜±800μA/cm、より特に±10〜±700μA/cmであるアノード及びカソード電流密度が得られるまで、平衡電位から電位範囲を徐々に増大させることから構成される。例として、ホウ素化ダイアモンド系電極の文脈内にて、電極が供される電位は、10〜500μA/cmの等しいアノード及びカソード電流密度を得るために調節される。特に好ましい電流密度は、有利なことに300〜500μA/cm(例えば、400μA/cm)又は100〜200μA/cm(例えば、150μA/cm)である。
【0018】
こうした電流密度を得るためにダイアモンド系電極に適用されるべき電位は、活性化されるべき電極の特質並びに使用される非電気活性のイオン性電解質の特質及びその濃度に依存して、数十mV異なっていてもよい。当業者は、活性化プロセスの文脈内で使用されるものと同じ非電気活性のイオン性電解質を含有する水溶液中にて電極の電位を測定することによって所望の電流密度に応じて適用されるべき電位を如何にして決定すべきかを知ることができる。例として、ホウ素化ダイアモンド系電極の文脈内にて、400μA/cm又は150μA/cmの領域の電流密度を得るために電極に適用されるべき電位は、それぞれ−1.85±0.05V〜+1.70±0.05V及び−1.50±0.5V〜+1.50±0.5Vである。これらの値は、本明細書では、内部電解質として、3mol/l濃度の塩化カリウム溶液を有する銀/塩化銀電極である参照電極に関して表される(この参照電極は、本明細書にて「Ag/AgCl,[KCl]=3M」として示される)。
本発明に従うプロセスを実施する好ましい方法において、ダイアモンド系電極が供される第1の電位は、カソード分極電位である。本発明に従うプロセスを実施する別の好ましい方法において、ダイアモンド系電極が供される第1の電位は、アノード分極電位である。ダイアモンド系電極が本発明に従うプロセスの概念内で供される電位の増大する振幅は、電位の増分によって得られ、その値は、有利なことに50〜150mV、特に約100mVである。例として、ホウ素ダイアモンド系電極の文脈内にて、1つの適切な実験手法は、以降に規定される3電極装置を用いて[−1.5V;+1.5V]値から始めて、所望の電流密度(J)値、すなわち+400μA/cmのアノード電流密度及び−400μA/cmのカソード電流密度が得られるまで、100mV増分、次いで50mV増分により電位範囲を徐々に増大させることで構成される。変形として、適切な実験手法は、以降に規定される3電極装置を用いて[−1.1V;+1.1V]値から、+150μA/cmのアノード電流密度及び−150μA/cmのカソード電流密度が得られるまで、100mV増分、次いで50mV増分により電位範囲を徐々に増大させることから構成される。
【0019】
本発明に従う活性化プロセスの文脈内では、増大する振幅電位に関して、偶発的な過電圧における損傷から電極を保護するために、連続的な手法によって行なうことが重要である。特定の理論に束縛されることを望まないが、増分手法を用いていないことが、Becker及びJuttnerが使用した電気化学的活性化の不確定な結果の説明となり得る[Becker及びJuttner,2003及び2007]。
本発明に従うダイアモンド系電極を活性化するプロセスは、所望のアノード及びカソード電流密度に到達したときに、電極を、一定振幅での少なくとも1回、特に少なくとも2回、特に少なくとも3回の交互カソード及びアノード分極電位サイクルに供することで構成される後続工程を含むことができる。この工程の一定電位が、所望のアノード及びカソード電流密度の達成を可能にする電位であることは明らかである。この後続工程において、ダイアモンド系電極は、一定振幅での5回超過、特に10回超過、とりわけ特に10〜50回の交互カソード及びアノード分極電位に供されるのが有利である。原理上、この後続処理工程を50サイクル超過で行なう利益はない。
本発明に従うプロセスを実施する好ましい方法において、ダイアモンド系電極が供される最終電位は、平衡電位(OCP)に到達するアノード分極電位である。
【0020】
本発明によれば、各電位におけるカソード分極及びアノード分極間の交代は、50〜150mV/s、有利なことには100mV/sに等しい速度で行なう。この走査速度は、ダイアモンド系電極が増大する振幅の電位に供される工程と、電位が一定の振幅を有する後続工程との両方に適用される。
上記で規定された連続手順の変形として、ダイアモンド系電極が増大する振幅の電位に供される工程と、電位が一定の振幅を有する後続工程との両方において、走査せずにカソード及びアノード分極間を交代させる不連続な手順を有することが想定できる。
別の変形において、連続手順及び不連続手順は、1つの同じ活性化プロセス中に実施されてもよい。
【0021】
本発明に従うプロセスを実施するための装置は、3電極配置と呼ばれるものである。具体的には、酸化還元活性化実験は、参照電極、作用電極及び対電極を備えた電気化学セルにて行なわれる。あらゆる参照電極が使用できる。当業者は、創意工夫なしで、使用するのに好適な参照電極を知ることができる。参照電極は、SCE(飽和塩化第一水銀電極)タイプ又はAg/AgCl,[KCl]=3M参照電極のいずれか、又は場合により単純な白金ワイヤである。作用電極は、好ましくドープされたダイアモンド電極であり、対電極は、作用電極より少なくとも5倍大きい表面積を有する白金メッシュである。図5は、1つの可能な配置の例を示す。この配置の変形は、セルの底部を構成するようにダイアモンドを不動態化することで構成されてもよい。この場合、作用電極は、もはや含浸電極タイプではない。電解質は、非電気活性のイオン性電解質を含有する水溶液、例えばB−NCD電極については予めpHを調節していない0.5M濃度でのLiClOである。種々の電極をポテンショスタットタイプの電流発生器に接続させる。電位走査は、ポテンショスタットと連動させるためのソフトウェアを備えたPCによって制御される。
酸化還元活性化が可逆性の現象であるため、電気化学的測定分野での集中的な用途(電極、センサなど)により、その反応性の全て又は一部が失われた電極を、本発明に従うプロセスにより周期的に再活性化できる。
【0022】
結果として、本発明は、上記で定義されたようなダイアモンド系電極の電気化学的反応性を維持するための、上記で規定されたプロセスの使用に関する。特に、電気化学の分野にて、長期間空気中で保存された後又は集中的な分析的用途の後に、その反応性の一部を失ったダイアモンド系電極の電気化学的反応性を保持することが必要な場合がある。
本発明の活性化プロセスが実施されているときに、ボルタモグラムは、強度及び/又は形状が変動する場合がある。これは、電極のダイアモンド表面終端化の特質が変更されているためである。図5は、B−NCDの電極の酸化還元活性化中に所与の実験に関して得られたいくつかのボルタモグラムを重ね合わせたものである。
この酸化還元活性化プロセス後、ダイアモンド系電極は、経時的に優れた反応性及び良好な安定性を有する。驚くべきことに、そして特徴的なことに、同じ特質をもつ電極に対して実施された本発明の所与の酸化還元活性化プロセスでは、活性化されていない又は一部の先行技術の活性化プロセスにより活性化された同一の電極が一定しない特性を示す一方で、電気化学的反応性の点では一定の特性を有する活性化電極を得ることができる。本発明のプロセスによって活性化された電極について得られた性能の幾つかの例を以下に示す。
【0023】
従って、本発明はまた、上記で規定された活性化プロセスにより得ることができる活性化ダイアモンド系電極に関する。このダイアモンド系電極は、迅速な酸化還元対を用いて測定された電子移動速度定数k並びにアノード及びカソードピークの分離のような電気化学的特性を特に改善する。
上述した活性化プロセスにより得ることができる活性化ダイアモンド系電極は、30°配置(表面に対して高感度)にて得られたXPSスペクトルにおける炭素成分の主要成分として成分CHx(式中、xは2又は3に等しい)を有することができる。「炭素成分」という表現は、本発明の文脈内にて、少なくとも1つの炭素原子を必要とする成分、例えば成分C−C、CH、CHx(式中、xは2又は3に等しい)、COH、COC及びC=Oを意味すると理解される。「主要成分」という表現は、本発明の文脈内にて、全ての炭素成分に対して最も豊富な炭素成分を意味する。当業者にとっては、30°配置にて得られたXPSスペクトルから、炭素成分、特に上記で列挙したものそれぞれの光子放出ピーク、及び各ピークについて、問題の炭素の豊富な結合状態に比例するその面積を得る方法は既知である。上記で規定された活性化プロセスによって得ることができる活性化された水素化ダイアモンドに基づく特定電極に関して、CHx成分(式中、xは2又は3に等しい)と、炭素成分の合計との比が、同一であるが活性化されていない電極に関して得られた比よりも、少なくとも1.2倍、特に少なくとも1.4倍、とりわけ少なくとも1.6倍、とりわけ特に少なくとも1.8倍大きいことが観測された。
【0024】
上記で規定された活性化プロセスによって得ることのできる活性化ダイアモンド系電極は、迅速な酸化還元対を用いて測定された電子移動速度定数kが同一であるが、活性化されていない電極の電子移動速度定数kよりも、少なくとも1.1倍、特に少なくとも2倍、有利なことには少なくとも5倍、とりわけ少なくとも10倍、さらにとりわけ少なくとも50倍、とりわけ特に少なくとも100倍大きく、特に活性化前に観測された値に対して、空気中で数週間保存された場合でも高い定数を維持できる。本発明によれば、「数週間」という表現は、少なくとも2週間、特に少なくとも4週間、とりわけ少なくとも8週間、とりわけ特に少なくとも12週間を意味すると理解される。特徴的で重要な事実として、本発明のプロセスに従う活性化の後、迅速な酸化還元対を用いて測定された、この高い電子移動速度定数kは、数回の電気化学的操作サイクルを経ても維持される。本発明によれば、「数回の電気化学的操作サイクル」という表現は、少なくとも4回のボルタンメトリーサイクル、特に少なくとも10回のボルタンメトリーサイクル、とりわけ少なくとも25回のボルタンメトリーサイクル、さらにとりわけ少なくとも50回のボルタンメトリーサイクル、とりわけ特に少なくとも100回のボルタンメトリーサイクルを意味すると理解される。
例として、本発明に従う方法によって活性化された水素終端化ホウ素ドープされた電極の第1のタイプは、その反応性(定数k)が100倍高い一方で、第2のタイプは、その反応性(定数k)が15〜20倍高く、この反応性の70%が、8時間にわたる連続的な電気化学インピーダンス測定を経ても又は50回のサイクリックボルタンメトリーサイクル後にも保持される。
【0025】
本発明に従うプロセスによって活性化された酸化されたホウ素ドープされた電極について、k値は、少なくとも8時間、すなわち30回の連続的な電気化学インピーダンス測定にわたって維持される(観測される損失は最大でも3%未満)。
「迅速な酸化還元対」という概念は、当業者に周知である。念のため、「迅速な」酸化還元対と呼ばれる特定の酸化還元対は、可逆性の電気化学反応によって特徴つけられるが、他の酸化還元対は、不可逆性の電気化学反応によって特徴付けられる場合に「遅い」対と呼ばれる。迅速な酸化還元対の文脈内にて、作用電極との電子交換は、種の溶媒和圏に変更をもたらさない程度に迅速である一方で、遅い酸化還元対の場合の電子移動は、内部配位圏において分子内結合の破壊又は形成をもたらす。この種の反応は、さらに、電極表面での反応体及び/又は反応生成物の吸着によって複雑化される。本発明の文脈内にて、使用できる迅速な酸化還元対は、例えば、Fe(CN)3−/4−、IrCl2−/3−又はRu(NH2+/3+である。
例として、ホウ素化ダイアモンド系電極の文脈内にて、本発明の活性化プロセスにより、迅速な酸化還元対に関して、10−3cm/sを超える、特に10−2cm/sを超える、とりわけ0.2cm/sを超える電子移動速度定数(k)を得ることができる。
【0026】
さらに、本発明に従う活性化されたダイアモンド系電極は、同一であるが活性化されていない電極のアノード及びカソードピークの分離と比較した場合に、ボルタモグラムにおけるアノード及びカソードピークの分離(ΔE)が良好である。例として、ホウ素化ダイアモンド系電極の文脈内にて、アノード及びカソードピークの分離は、75mV、特に65mV、とりわけ61±2mVに低減でき、すなわち単一電子を交換する酸化還元対に関して得られる58〜60mVの理論限度に近い。
本発明はまた、電気化学的分析のための、微量元素の検出のための、バイオテクノロジー検出器及び/又はグラフト化用途における電極としての、本発明に従う活性化されたダイアモンド系電極の使用に関する。
最後に、本発明は、化学産業、冶金産業又は農業食品産業あるいは都市用水からの排出水の浄化のための、本発明に従う活性化されたダイアモンド系電極の使用に関する。
【0027】
本発明の他の特徴及び利点はまた、添付の図5〜15を参照して、以下に例示された実施例を読むことにより明らかになるであろうが、限定することを意図するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】13回の連続的なEIS実験にわたるk(cm/s単位)の変動を示す([Fe(CN)3−/4−]=10−3M、[KCl]=0.5M、E=0.21V/SCE)。
【図2】初期に水素化された電極の空気中での10日間の経時過程にわたるEISスペクトル([Fe(CN)3−/4−]=10−3M、[KCl]=0.5M、E=0.21V/SCE)の変化を示す。
【図3】B−NCD電極の電位窓の決定を示す。
【図4】B−NCD電極の酸化還元活性化中に使用される実験配置を示す。
【図5】0.5M[LiClO]媒体中でのB−NCD電極の酸化還元活性化に関するボルタモグラムを示す。
【図6A】酸化還元活性化前の、以下で規定される電極#272のサイクリックボルタンメトリーを示す。
【図6B】酸化還元活性化前の電極#272の電気化学インピーダンス分光法(EIS)を示す。
【図7A】酸化還元活性化後の電極#272のサイクリックボルタンメトリーを示す。
【図7B】酸化還元活性化後の電極#272の電気化学インピーダンス分光法(EIS)を示す。
【図8A】酸化還元活性化前の電極#080107(3)のサイクリックボルタンメトリーを示す。
【図8B】酸化還元活性化前の電極#080107(3)の電気化学インピーダンス分光法(EIS)を示す。
【図9A】酸化還元活性化後の電極#080107(3)のサイクリックボルタンメトリーを示す。
【図9B】酸化還元活性化後の電極#080107(3)の電気化学インピーダンス分光法(EIS)を示す。
【図10A】30°配置(図10A)及び0°配置(図10B)における、酸化還元活性化前の電極#080107(3)のXPSスペクトルを示す。
【図10B】30°配置(図10A)及び0°配置(図10B)における、酸化還元活性化前の電極#080107(3)のXPSスペクトルを示す。
【図11A】30°配置(図11A)及び0°配置(図11B)における、酸化還元活性化後の電極#080107(3)のXPSスペクトルを示す。
【図11B】30°配置(図11A)及び0°配置(図11B)における、酸化還元活性化後の電極#080107(3)のXPSスペクトルを示す。
【図12】反応器を離れた直後の電極◇B140408(1)、酸化還元活性化1後の電極□B140408(2)及び酸化還元活性化2後の電極◆B140408(7)の電気化学インピーダンス分光法(EIS)を示す。これら3つの電極は、同一のダイアモンド試料の同じバッチ、すなわちバッチB140408からのものである。
【図13】総時間が8時間を超える30回超過の連続EIS実験中における酸化還元活性化1後の電極B140408(2)及び酸化還元活性化2後の電極B140408(7)のk(cm/s単位)の変動を示す。
【図14】電極B180707のサイクリックボルタンメトリーを示す。
【図15】酸化還元活性化後の同一試料の同一バッチからの電極310807(1)、(4)及び(9)のサイクリックボルタモグラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
I.本発明に従う電気化学的活性化の例
I.1.電極#272。
電極#272は、シリコン(Si厚み=350μm)上に堆積した主に(111)面(表面積0.6cm)を有するダイアモンドからなり、表面を電気活性にするために、その表面にてホウ素ドープされたダイアモンドを成長させた(厚み3.75 10−2μm)。
酸化還元活性化の前は、電極の初期反応性は普通であった。サイクリックボルタンメトリー曲線(抵抗降下について補正)は、アノード及びカソードピーク間に大きな分離(ΔE)を示す。例として、走査速度が50mV/sの場合、ΔE=180mVであった(理想的な反応性電極では、同じ実験条件下では、ΔEはおよそ60mVが得られる)。このΔE値は走査速度とともに増大し(図6A)、これは、反応性の欠如を説明するためのさらなる根拠である。インピーダンス分光法(図6B)は、高い電子移動抵抗(R約700Ω)が、低い電子移動速度定数k約6.5×10−4cm/sとなることを示す。酸化還元活性後(電位を−1.7Vから+1.7Vの間で10回サイクルにて徐々に増大させた(Ag/AgCl,[KCl]=3M))、電極の電気化学的特徴は大幅に改善した。サイクリックボルタンメトリー曲線(図7A)は、アノードピークとカソードピークとの分離(ΔE)が68mVであることを示す。酸化還元活性化前に得られた値とは対照的に、この分離はもはや走査速度に依存しない。インピーダンス分光法(図7B)は、低い電子移動抵抗(R約14Ω)を示し、高い電子移動速度定数k約3.2×10−2cm/sが得られる。電極の反応性は、50倍に増大しており、経時的に安定である。
【0030】
I.2.電極#080107(3)。
電極#080107(3)は、ドープされたシリコン基板上に堆積した面積0.60cm及び厚み0.530μmを有するホウ素ドープされたダイアモンド膜からなる。成長後、試料を水素雰囲気下で2時間冷却した。試料の調製と使用との間に、ダイアモンドを約10日間空気に曝した。
酸化還元活性化前に、電極の初期反応性はごく普通であった。サイクリックボルタンメトリー曲線(図8A)は、アノード及びカソードピークが正確に区別できないが、走査速度に対してピークがシフトするようである。電流密度は、試験された他の試料の場合よりも顕著に低かった。インピーダンス分光法(図8B)は、非常に高い電子移動抵抗(R約1750Ω)を示し、低い電子移動速度定数k約2.4×10−4cm/sが得られる。
【0031】
−1.75と+1.70V間の30回の酸化還元活性化サイクル(Ag/AgCl,[KCl]=3M)後、電極の電気化学的特徴は顕著に改善された。サイクリックボルタンメトリー曲線(図9A)は、高いアノード及びカソード電流密度並びに71mVのアノード/カソードピーク分離(ΔE)を示す。酸化還元活性化前に観測された値とは対照的に、この値はもはや走査速度に依存しない。インピーダンス分光法(図9B)は、低い電子移動抵抗(R約18Ω)が、高い電子移動速度定数k約2.4×10−2cm/sという結果となることを示す。電極反応性は、100倍に増大し、経時的に安定であった。
I.3.項目I.1.及びI.2に使用される酸化還元活性化のデータ要約。
以下の表1では、電極#272及び#080107(3)の酸化還元活性化データを要約する。
【表1】

【0032】
II.酸化還元活性化後の安定性の幾つかの例
以下の表2は、本発明に記載されるプロセスに従って予め活性化されたB−NCD電極の安定性の例を示す。安定性は、異なる迅速な酸化還元対を含有する電解質中にて50回の酸化還元サイクル前及びサイクル後に電子移動速度定数k(cm/s単位)を測定することによって決定した。
【表2】

III.本発明に従う酸化還元活性化前及び活性化後の電極#080107のXPS分析
電極#080107を、本発明に従う電気化学的活性化処理前及び処理後のX線光電子分光法(XPS)によって特徴付けた。2つの配置を使用した:0°及び30°。0°配置は、「標準」配置と参照され、一方30°配置は、表面に対してより高感度である(まさに第1原子層のみがプローブされる)。
【0033】
III.1.酸化還元活性化前のXPS分析
酸化還元活性化前の電極#080107について得られたXPSスペクトルを、それぞれ30°及び0°配置について図10A及び10Bに示す。これらのスペクトルにおけるそれぞれの特徴的な光子放出ピークに関して得られた値を以下の表3に示す。
【表3】

種々の区域にて得られた結果は同質である。CHx成分は、標準(0°)形における総炭素面積の22%であり、30°配置では29%である。
種々の炭素−酸素結合に対応する幾つかの成分が存在することに留意すべきである。これらの成分によって示される面積は、炭素の総面積の8%である(標準形における4つの区域の平均)。
【0034】
III.2.酸化還元活性化後のXPS分析
酸化還元活性化後の電極#080107について得られたXPSスペクトルを30°及び0°配置それぞれについて図11A及び11Bに示す。これらのスペクトルにおけるそれぞれの特徴的な光子放出ピークに関して得られた値を以下の表4に示す。
【表4】

本発明に従う電気化学的処理は、表面高感度配置におけるCHx成分を結果的に強め、この成分は、処理前の試料における場合よりも非常に強くなる。結果は観測された4つの区域にわたって非常に均一である。
【0035】
IV.電極B140408(X)
IV.1.本発明のプロセスに従う酸化還元活性化。
電極B140408(X)を、同一ダイアモンド試料のバッチ(バッチB140408)から得た。これらの電極は、シリコン上に堆積した高度にドープされたダイアモンドからなっていた。
電極B140408(1)を反応器から離した直後に試験し、電極B140408(2)は過塩素酸ナトリウム水溶液中での活性化後に試験し、電極B140408(7)は、過塩素酸リチウム水溶液中での活性化後に試験した。
この活性化は、非電気活性塩、すなわち過塩素酸リチウム([LiClO]=0.5M;酸化還元活性化2)又は過塩素酸ナトリウム([NaClO]=0.5M;酸化還元活性化1)を含有する水溶液中で、電極を劣化させないように、アノード及びカソード電流密度が決して150μA/cmを超えないように調節した、溶媒分解境界間での走査速度100mV/sにおける20回の酸化還元サイクルを行なうことで構成した。
マクロ濃度([KCl]=0.5M)で支持塩を含有する水溶液[Fe(CN)3−/4−(10−3M)にて行なうインピーダンス分光法(図12)は、初期電子移動抵抗(R=17Ω/cm)が、酸化還元活性化1により非常に大きく低下し(R=1.2Ω/cm)、酸化還元活性化2によってさらに低下し(R=0.94Ω/cm)、電子移動速度定数は、初期のk=1.6×10−2cm/sから処理1後のk=0.22cm/s、処理2後のk=0.28cm/sに非常に大きく増大することを示した。
【0036】
IV.2.酸化還元活性化後のXPS分析
それぞれの酸化還元活性化処理後、電極B140408(2)及びB140408(7)をインピーダンス分光法により試験した。測定は、マクロ濃度([KCl]=0.5M)で支持塩を含有する水溶液[Fe(CN)3−/4−(10−3M)にて、8時間超過にわたって一定の時間間隔にて行なったが、これは30回超過の連続EIS実験と表される。
この8時間後、電極B140408(2)は、活性化後に測定された反応性の83%を保持していたが、電極B140408(7)は70%を保持していた(図13)。
V.電極B180707
電極B180707は、シリコン基板上に堆積した高度にドープされたダイアモンド膜からなっていた。
マクロ濃度([KCl]=0.5M)で支持塩を含有する水溶液[Fe(CN)3−/4−(10−3M)にて、Ag/AgClに関して−0.15mVから+0.65mV間における速度75mV/sでの1500回酸化還元サイクル前及びサイクル後に行なわれた、この電極に関するサイクリックボルタンメトリーを図14に示す。
2つの図は重なるので、15時間超過にわたるサイクリックボルタンメトリーによって決定された電極の電気化学的応答の完全な安定性についての証明になる。
【0037】
アノードピーク及びカソードピーク間の電位差(ΔE=64mV)も、この電極の非常に大きな反応性についての証拠となる。
VI.電極B310807(X)
電極B310807(X)は、同一のダイアモンド試料のバッチ(バッチB310807)から得られた。これらの電極は、シリコン上に堆積した高度にドープされたダイアモンドからなっていた。
それらを過塩素酸リチウム水溶液中での活性化後に試験した。この活性化は、非電気活性塩、すなわち過塩素酸リチウム([LiClO]=0.5M)を含有する水溶液中で、電極を劣化させないように、アノード及びカソード電流密度が決して150μA/cmを超えないように調節した、溶媒分解境界間での走査速度100mV/sにおける20回の酸化還元サイクルを行なうことで構成した。
ダイアモンドの利点の1つは、この物質により到達できる電気化学電位の非常に広い電位窓である。そのため、本発明者らは、その標準的な電気化学電位[Ru(NH2+/3+、[Fe(CN)3−/4−(E°=0.3610V)及び[IrCl2−/3−(E°=0.867V)について選択された酸化還元対([酸化還元対]=10−3M)を用いて電極を試験することによってこの窓の一部を探し出そうとした。図15は、こうして得られたボルタモグラムを示す。
【0038】
活性化された電極は、3つの酸化還元対のそれぞれについて非常に良好な反応性を示すので(ΔE[Ru(NH2+/3+=67mV、ΔE[Fe(CN)3−/4−=64mV、ΔE[IrCl2−/3−=64mV、走査速度25mV/s)、活性化されたダイアモンド電極は、電気化学における用途に関して有利な電荷移動速度を伴い広範囲の電位にわたって使用できることを確証する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイアモンド系電極を活性化するプロセスであって、10μA/cmから1mA/cmの間のアノード及びカソード電流密度を得るために、イオン性電解質を含有する水溶液の存在下、振幅を増大させる交互アノード及びカソード分極電位に該電極を供することで構成される工程を含む、プロセス。
【請求項2】
前記ダイアモンド系電極が、単結晶ダイアモンド、マクロ結晶ダイアモンド、ミクロ結晶ダイアモンド、ナノ結晶ダイアモンド又は超ナノ結晶ダイアモンド(UNCD)のみからなることを特徴とする、請求項1に記載の活性化プロセス。
【請求項3】
前記ダイアモンドが、前記単結晶ダイアモンド−、マクロ結晶ダイアモンド−、ミクロ結晶ダイアモンド−、ナノ結晶ダイアモンド−又は超ナノ結晶ダイアモンド(UNCD)−系電極の一部のみを構成することを特徴とする、請求項1に記載の活性化プロセス。
【請求項4】
前記ダイアモンド系電極がドーパントによりドープされたダイアモンドを含むことを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の活性化プロセス。
【請求項5】
前記ドーパントが、ホウ素、窒素、リン、ニッケル、硫黄及びこれらの混合物から成る群から選択されることを特徴とする、請求項4に記載の活性化プロセス。
【請求項6】
前記イオン性電解質が非電気活性のイオン性電解質であることを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の活性化プロセス。
【請求項7】
前記非電気活性のイオン性電解質が、好ましくはLiClO、NaClO、KClO、NaSO、KSO、LiSOから成る群から選択される非電気活性塩であることを特徴とする、請求項6に記載の活性化プロセス。
【請求項8】
前記イオン性電解質を含有する水溶液が予め脱気されていることを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の活性化プロセス。
【請求項9】
前記ダイアモンド系電極が供される第1の電位がカソード分極電位であることを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の活性化プロセス。
【請求項10】
本発明に従う方法の概念内にて前記ダイアモンド系電極が供される電位の振幅の増大が、電位増分によって得られることを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の活性化プロセス。
【請求項11】
前記方法が、所望のアノード及びカソード電流密度に到達したときに、前記電極を、一定振幅にて少なくとも1回の交互カソード及びアノード分極電位サイクルに供することで構成される後続工程を含むことを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の活性化プロセス。
【請求項12】
前記電極が供される最終電位が、平衡電位(OCP)に到達するアノード分極電位であることを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の活性化プロセス。
【請求項13】
各電位に関して前記カソード分極及びアノード分極間の交代が、50から150mV/sの間の速度にて行なわれることを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の活性化プロセス。
【請求項14】
参照電極、前記ダイアモンド系電極に対応する作用電極、及び対電極を用いる3電極配置と呼ばれる配置を用いて実施することを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の活性化プロセス。
【請求項15】
請求項2〜5のいずれか1項に記載のダイアモンド系電極の電気化学的反応性を保持するための、先行する請求項のいずれか1項に記載の活性化プロセスの使用。
【請求項16】
請求項1〜14のいずれか1項に記載の活性化プロセスによって得ることのできる活性化ダイアモンド系電極。
【請求項17】
迅速な酸化還元対を用いて測定される電子移動速度定数kが、同一であるが活性化されていない電極の電子移動速度定数kより少なくとも1.1倍大きいことを特徴とする、請求項16に記載の活性化ダイアモンド系電極。
【請求項18】
電気化学的分析のための、微量元素の検出のための、バイオテクノロジー検出器及び/又はグラフト化用途における電極としての、請求項16及び17のいずれか1項に記載の活性化ダイアモンド系電極の使用。
【請求項19】
化学産業、冶金産業又は農業食品産業又は都市用水からの排出水の浄化のための、請求項16及び17のいずれか1項に記載の活性化ダイアモンド系電極の使用。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公表番号】特表2010−530927(P2010−530927A)
【公表日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−510813(P2010−510813)
【出願日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際出願番号】PCT/EP2008/057032
【国際公開番号】WO2008/148861
【国際公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(502124444)コミッサリア ア レネルジー アトミーク エ オ ゼネルジ ザルタナテイヴ (383)
【Fターム(参考)】