説明

ダイオキシン類の測定方法

【課題】 同じ試料が高分解能ガスクロマトグラフ質量分析法による測定にも適用可能な、簡易測定法の提供。
【解決手段】 排ガス中のダイオキシン類の生物学的測定法において、内標準物質として抗ダイオキシン類抗体又は芳香族炭化水素受容体と反応しない、13Cでラベルされたダイオキシン類から選ばれる1種以上を用いることを特徴とするダイオキシン類の生物学的測定法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は排ガス中のダイオキシン類の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルドリン、DDT、PCP、CNP等の有機塩素系農薬、ダイオキシン類、ポリ塩化ビフェニル類等の有機塩素系化合物は、環境汚染をもたらす物質として問題となっている。ダイオキシン類(ポリクロロジベンゾダイオキシン(以下、「PCDDs」と記載する)とポリクロロジベンゾフラン(以下、「PCDFs」と記載する)及びコプラナーポリクロロビフェニル(以下、「Co-PCBs」と記載する)の総称として使用する)は、都市ゴミ焼却における燃焼生成物、あるいは有機塩素系化合物の製造過程における副生成物として非意図的に生成されることが知られており、難分解性物質であることから広く長く環境中に存在している。また、ダイオキシン類は毒性が高く、人体に対する毒性評価の観点から耐容一日摂取量4pg/kg・dayの基準が定められている。よって、ダイオキシン類は、超高感度の分析精度が要求され、試料中のダイオキシン類を分析するためには、試料中に含まれる複雑なマトリックス成分から分離し定量する必要がある。抽出、クリーンアップ、高分解能ガスクロマトグラフ質量分析法という手順の測定方法が、公定法としてJISに定められている(非特許文献1参照)。
【0003】
このように、ダイオキシン類の分析には煩雑な手順を要するため、簡易的におおよその濃度を把握する目的で簡易測定法の開発がなされている。環境省では、底質のダイオキシン類の汚染監視調査において簡易測定法の適用を認め、また、生物学的測定法を用いたダイオキシン類の簡易測定法について検討を開始する等、簡易測定技術に大きな期待が高まっている。
【0004】
生物学的測定法としては、酵素免疫測定方法(以下、「ELISA」と記載する)や芳香族炭化水素受容体(以下、「Ah受容体」と記載する)バインディングアッセイ法が提案されている。これらの生物学的測定法に用いる試料の採取、前処理方法は、基本的には公定法と同じで、ダイオキシン類の測定が効率的に行われるためには、公定法と共通の試料とすることが好ましいと考えられている。
しかしながら、公定法では、試料の採取から抽出までの操作結果を確認するために内標準物質を各前処理工程で添加する必要がある(非特許文献1参照)。内標準物質には、13C又は37Clでラベルされたダイオキシン類が用いられている。そのため、内標準物質を添加した試料で生物学的測定法を行うと、抗ダイオキシン類抗体やAh受容体と交差反応してしまい、全ての試料が擬陽性となり、簡易測定法としての性能が損なわれてしまう。そこで、生物学的測定法では、内標準物質を添加しない試料を用いて測定を行っているが、簡易測定後、同一対象について高分解能ガスクロマトグラフ質量分析法を行う場合には、改めて検定用に内標準物質を添加して試料の採取、前処理を行う必要があり、効率的ではない。
【非特許文献1】JIS K0311
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の目的は、同じ試料が高分解能ガスクロマトグラフ質量分析法による測定にも適用可能な、簡易測定法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、ELISAやバインディングアッセイ法に使用でき、また毒性をもたないダイオキシン類について種々検討した結果、13C又は37Clでラベルされたダイオキシン類のうち、抗ダイオキシン類抗体やAh受容体と交差反応しないダイオキシン類を内標準物質として用いることで擬陽性とならず、当該方法で用いた試料はそのまま高分解能ガスクロマトグラフ質量分析法にも利用できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、排ガス中のダイオキシン類の生物学的測定法において、内標準物質として抗ダイオキシン類抗体又は芳香族炭化水素受容体と反応しない、13Cでラベルされたダイオキシン類から選ばれる1種以上を用いることを特徴とするダイオキシン類の生物学的測定法を提供するものである。
また本発明は、排ガスに、内標準物質として、抗ダイオキシン類抗体又は芳香族炭化水素受容体と反応しない、13Cでラベルされたダイオキシン類から選ばれる1種以上を添加した試料を用いることを特徴とする、排ガス中のダイオキシン類の生物学的測定及び高分解能ガスクロマトグラフ質量分析を行う方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の生物学的測定法によれば、内標準物質と試料中のダイオキシン類の区別ができるため予め内標準物質を試料へ添加して測定を行うことができ、簡易測定後、同一対象について高分解能ガスクロマトグラフ質量分析法を行う場合にも、改めて検定用に内標準物質を添加して試料の採取、前処理を行う必要がなく、簡便且つ効率的にダイオキシン類の測定をすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に用いられる13Cでラベルされたダイオキシン類は、抗ダイオキシン類抗体又はAh受容体と反応せず、また毒性のない特定のダイオキシン類の炭素原子すべてを13C同位体元素でラベルしたダイオキシン類である。ここで、抗ダイオキシン類抗体又はAh受容体と反応しないとは、内標準物質と抗ダイオキシン類抗体又はAh受容体との交差反応率が0.01%以下であることをいう。
具体的には、抗ダイオキシン類抗体と反応しないダイオキシン類として、1312-1,2,3,4-テトラクロロジベンゾダイオキシン、1312-1,2,3,4-テトラクロロジベンゾフラン、1312-1,2,3,4,6,7-ヘキサクロロジベンゾダイオキシン、1312-1,2,3,4,6,7-ヘキサクロロジベンゾフラン、1312-1,2,3,4,6,9-ヘキサクロロジベンゾダイオキシン、1312-1,2,3,4,6,9-ヘキサクロロジベンゾフラン、1312-オクタクロロジベンゾダイオキシン、1312-オクタクロロジベンゾフラン、1312-3,3',4,5'‐テトラクロロビフェニル、1312-2,3,4,5‐テトラクロロビフェニル、1312-2,3,4,6‐テトラクロロビフェニル、1312-3,4,4',5-テトラクロロビフェニル、1312-3,3',4,4',5-ペンタクロロビフェニル、1312-3,3',4,4',5,5'-ヘキサクロロビフェニル、1312-2,3,3',4,4'-ペンタクロロビフェニル、1312-2,3,4,4',5-ペンタクロロビフェニル、1312-2,3',4,4',5-ペンタクロロビフェニル、1312-2',3,4,4',5-ペンタクロロビフェニル、1312-2,3,3',4,4',5-ヘキサクロロビフェニル、1312-2,3,3',4,4',5'-ヘキサクロロビフェニル、1312-2,3',4,4',5,5'-ヘキサクロロビフェニル及び1312-2,3,3',4,4',5,5'-ヘプタクロロビフェニルが挙げられる。
【0010】
Ah受容体と反応しないダイオキシン類として、1312-1,2,3,4-テトラクロロジベンゾダイオキシン、1312-1,2,3,4-テトラクロロジベンゾフラン、1312-1,2,3,4,6,7-ヘキサクロロジベンゾダイオキシン、1312-1,2,3,4,6,7-ヘキサクロロジベンゾフラン、1312-1,2,3,4,6,9-ヘキサクロロジベンゾダイオキシン及び1312-1,2,3,4,6,9-ヘキサクロロジベンゾフランが挙げられる。
【0011】
本発明の13Cでラベルされたダイオキシン類を内標準物質として測定に用いる場合、1種以上であればよいが、4塩素化物から1種類と6塩素化物から1種類を組み合わせて2種以上を併用するのが好ましい。例えば、1312-1,2,3,4-テトラクロロジベンゾダイオキシン又は1312-1,2,3,4-テトラクロロジベンゾフランのいずれか一つと、1312-1,2,3,4,6,7-ヘキサクロロジベンゾダイオキシン、1312-1,2,3,4,6,7-ヘキサクロロジベンゾフラン、1312-1,2,3,4,6,9-ヘキサクロロジベンゾダイオキシン又は1312-1,2,3,4,6,9-ヘキサクロロジベンゾフランのいずれか一つを組み合わせて使用することが好ましく、特に1312-1,2,3,4-テトラクロロジベンゾダイオキシンの場合は、1312-1,2,3,4,6,7-ヘキサクロロジベンゾフラン又は1312-1,2,3,4,6,9-ヘキサクロロジベンゾフランのいずれかが好ましく、1312-1,2,3,4-テトラクロロジベンゾフランの場合は、1312-1,2,3,4,6,7-ヘキサクロロジベンゾダイオキシン又は1312-1,2,3,4,6,9-ヘキサクロロジベンゾダイオキシンのいずれかが好ましい。
【0012】
これらの13Cでラベルされたダイオキシン類は内標準物質として、例えば非特許文献1記載の方法により添加し、試料の採取、抽出を行い、得られた試料の抽出液の一部は各生物学的測定法に合った適切な処理を施し、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の溶媒に転溶し、測定に用いることができる。また、同抽出液は公定法に従ってクリーンアップを行い高分解能ガスクロマトグラフ質量分析法の測定にも用いることができる。
【0013】
試料への添加量は、内標準物質の回収率が70%以上又は130%以下となる量であり、好ましくは1〜20ngである。
【0014】
試料としては、ダイオキシン類を含む可能性のある排ガスであればよい。
【0015】
本発明における生物学的測定法としては、ELISAやAh受容体バインディングアッセイ法が挙げられる。
ELISAとしては、直接競合法と間接競合法がある。直接競合法は、ポリクローナル抗体やモノクロ−ナル抗体をプレート上に固相化し、試料中の被測定物質と酵素標識抗原を競合的に結合させる方法であり、間接競合法は、試料類似物質をプレート上に固相化し、ポリクローナル抗体やモノクロ−ナル抗体と試料を添加して、抗体に対して固相化抗原と試料中の被測定物質を競合反応させた後、酵素標識抗体等のニ次抗体を加える方法である。本発明に係るELISAの一例として、後述する実施例に記載の高感度ELISAを挙げることができる。
【0016】
また、Ah受容体バインディングアッセイ法としては、ルシフェラーゼを発現させるレポーター遺伝子を導入した組換え細胞を用いるレポータージーンアッセイ法、抗Ahレセプター複合体抗体を用いたイムノアッセイ法、AhレセプターアッセイPCR法等がある。Ah受容体を用いたバインディングアッセイ法としては、市販されているキット等を用いて実施することができる。Ah受容体は、ヒト、マウス、ラット、ウサギ又はブタ由来のものを利用した細胞があり、例えば、特開2004-135662に記載の方法に従い、製造できる。
【0017】
標識抗原としては、酵素標識抗原、放射性同位体標識抗原等が使用されるが、酵素標識抗原を使用するのが検出感度の点で好ましい。酵素標識抗原の酵素としては、ペルオキシダーゼ、βガラクトシダ−ゼ、アルカリフォスファターゼ、ウレアーゼ、グルコースオキシダーゼ、グルコアミラーゼ、アセチルコリンエステラーゼ、リゾチーム、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ、リボヌクレア−ゼ等が挙げられ、特にペルオキシダーゼ、βガラクトシダ−ゼ、アルカリフォスファターゼ等が好ましい。
【0018】
本発明に利用される抗ダイオキシン類抗体は、測定対象であるダイオキシン類に特異的に反応するものであれば、特に制限はなく、各種公知の抗体又はそれらに準じて製造した抗体を用いることができる。また、抗Ahレセプター複合体抗体は、ダイオキシン類、Ahレセプター及びARNTからなる複合体に対して特異的に反応するものであれば、特に制限はなく、各種公知の抗体又はそれらに準じて製造した抗体を用いることができる。該抗体にはポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体が包含される。当該抗体は測定対象とするダイオキシン類に応じて適時選択することができる。特に、毒性係数の高い2,3,7,8-TeCDDや、毒性等価量と強い相関のある2,3,4,7,8-PeCDFと反応する抗体が好ましいが、これに限定されるものではない。当該抗体は、公知の方法(Toxicology,45,229-243(1987); J. Agric. Food Chem., 46,2407-2416(1998);Anal. chem., 70,1092-1099(1998))に従い得ることができる。
【0019】
例えば、免疫抗原としては、下記式(1)で表される化合物を適当な高分子化合物に結合させてから用いることができる。
【0020】
【化1】

【0021】
高分子化合物としては、カブトガニヘモシアニン(以下、「LPH」と記載する)、ウシ血清アルブミン(以下、「BSA」と記載する)、ウサギ血清アルブミン(以下、「RSA」と記載する)等が挙げられる。
【0022】
式(1)で表される化合物と高分子化合物との結合は、例えば、活性化エステル法(J. Agric. Food Chem., 42,301-309(1994))又は混合酸無水物法(J.Biol.Chem.234,1090-1094(1954))等の公知の方法によって行うことができる。得られた免疫抗原を使用して、慣用化された方法によりポリクローナル抗体を作製することができる。
例えば、式(1)で表される化合物とLPH結合体をリン酸緩衝液(以下、「PBS」と記載する)に溶解し、Freund完全アジュバント又はFreund不完全アジュバント等の補助剤と混合したものを免疫抗原として動物に免疫することによって行う。免疫される動物としては当該分野で常用されるものをいずれも使用できるが、例えば、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ウマ等を挙げることができ、マウス、ヒツジ、ヤギ、ウサギが好ましく、特にウサギが好ましい。
【0023】
免疫の際の投与法は、皮下注射、腹腔内注射、静脈内注射、皮内注射、筋肉内注射のいずれでもよいが、皮下注射又は腹腔内注射が好ましい。投与は1回又は適当な間隔で、好ましくは1週間ないし5週間の間隔で複数回行うことができる。
【0024】
免疫した動物から血液を採取し、そこから分離した血清を用い、所望のポリクローナル抗体を得ることができる。また、モノクローナル抗体についても慣用化された方法により作製することができる。例えば、式(1)で表される化合物とLPH結合体をPBSに溶解し、Freund完全アジュバントの補助剤と混合したものを免疫抗原として静脈内、背部等の皮下や腹腔内に注射して免疫し、脾臓細胞を得る。得られた脾臓細胞と骨髄腫細胞(以下、「ミエロ−マ」と記載する)とを細胞融合させ、これにより得られたハイブリド−マから所望の抗体を産生するハイブリド−マを選択する。このハイブリド−マを大量培養あるいは動物の腹腔内で増殖させ、この培養液あるいは腹水から分離することにより作製することができる。
【0025】
定量にあたっては、標準物質と抗ダイオキシン類抗体との反応を行い、その測定値と対比することによるのが好ましい。本発明の生物学的測定法に使用する標準物質としては特に限定されないが、2,3,7-トリクロロ-8-メチル-ジベンゾパラダイオキシン(以下、「TMDD」と記載する)又は2,3,7,8-TeCDDを用いてダイオキシン類濃度をTMDD又は2,3,7,8-TeCDD相当量として測定するのが好ましい。
【0026】
前記特定の内標準物質を添加した試料は、そのまま高分解能ガスクロマトグラフ質量分析に用いることができる。従って、前記生物学的測定法及び高分解能ガスクロマトグラフ質量分析法を同じ試料を用いて行うことができる。ここで、高分解能ガスクロマトグラフ質量分析法は、JIS K0311に従って行えばよい。
【実施例】
【0027】
以下、実施例、参考例により本発明をさらに詳細に説明する。しかしこれらの実施例、参考例は非制限的なものであり、本発明の範囲はそれらの例によって限定されるものではない。
【0028】
参考例1(免疫用ハプテンの調製)
免疫用ハプテン(5-(3,7,8-トリクロロジベンゾ-p-ジオキン-2-イル)-トランス,トランス-ペンタ-2,4-ジエン酸)の合成
(1)2,4-ジクロロ-5-ニトロベンズアルデヒドの合成
2,4-ジクロロベンズアルデヒド7g(40mmol)を濃硫酸100mLに溶解し、反応容器を氷水浴で冷却後、硝酸カリウム4.45g(44mmol)を加え、氷水浴で冷却したまま1時間、室温で1時間、更に油浴温65℃にて1時間撹拌した。反応容器を氷水浴で冷却後、撹拌しながら蒸留水100mLを加えると黄色の結晶が生成した。反応容器内の反応混合物を1Lビーカーに投入し、蒸留水を加えて全量を1Lとした後、吸引ろ過により結晶をろ別した。この結晶を蒸留水でよく洗浄した後、真空乾燥し、2,4-ジクロロ-5-ニトロベンズアルデヒドを7.02g(収率80%)得た。
【0029】
TLC(プレート:Silica gel 60 F254
Rf=0.5(展開溶媒 n-ヘキサン:酢酸エチル=4:1)
Rf=0.7(展開溶媒 ベンゼン)
1H-NMR(CDCl3, 400MHz)
δ(ppm):7.74(Ar-H, s, 1H), 8.44(Ar-H, s, 1H), 10.41(CHO, s, 1H)
13C-NMR(CDCl3, 100MHz)
δ(ppm):126.2, 129.5, 131.5, 133.3, 133.8, 141.0, 186.3
【0030】
(2)5-(2,4-ジクロロ-5-ニトロフェニル)-トランス,トランス-2,4-ペンタジエン酸エチルの合成
窒素雰囲気下、水素化ナトリウム(60% 油中)0.92g(23mmol)を無水テトラヒドロフラン(以下、「THF」と記載する)40mLに懸濁し、4-ホスホノクロトン酸トリエチル4.9mL(5.5g, 22mmol)を室温で滴下した。その後、氷水浴で冷却しながら、20mLの無水THFに溶解した2,4-ジクロロ-5-ニトロベンズアルデヒド4.4g(20mmol)を滴下した。氷水浴を取り除いた後、油浴温85℃にて一晩還流加熱撹拌した。還流加熱撹拌中、無水THFが揮発して減るので、随時無水THFの補充を行った。TLCにより原料の消失を確認後、油浴温40℃にてTHFを減圧留去した。室温まで放冷した後、ジエチルエーテル50mLと蒸留水50mLを加え、激しく撹拌した。次いで、有機層と水層の境界線がはっきりするまで塩化ナトリウムを加えてから、分液ろう斗にて有機層と水層を分離した。分離した有機層にジエチルエーテル100mLを加え、飽和食塩水50mLで3回洗浄した後、無水硫酸マグネシウム上で乾燥し、ロータリーエバポレーターで濃縮した。濃縮残査をアセトン100mLに溶解し、シリカゲル20gを加え、アセトンを減圧留去した。フラスコ内に残ったシリカゲルから、n-ヘキサン:酢酸エチル=9:1で溶出を行った。溶出液をロータリーエバポレーターで濃縮し、濃縮残査をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製して5-(2,4-ジクロロ-5-ニトロフェニル)-トランス,トランス-2,4-ペンタジエン酸エチル0.40g(収率6.3%)を得た。
【0031】
TLC(プレート:Silica gel 60 F254
Rf=0.5(展開溶媒 ベンゼン)
Rf=0.6(展開溶媒 n-ヘキサン:酢酸エチル=4:1)
1H-NMR(CDCl3, 400MHz)
δ(ppm):1.33(CH3, t, J=7.2Hz, 3H), 4.25(OCH2, q, J=7.2Hz, 2H), 6.13(=CH-CO2, d, J=15.6Hz, 1H), 6.94(-CH=, dd, J=15.6Hz,11.2Hz, 1H), 7.18(Ar-CH=, d, J=15.6Hz, 1H), 7.46(=CH-, dd, J=15.6Hz,11.2Hz, 1H), 7.62(Ar-H, s, 1H), 8.17(Ar-H, s, 1H)
13C-NMR(CDCl3, 100MHz)
δ(ppm):14.2, 60.7, 123.3, 124.9, 127.2, 131.5, 132.0, 132.8, 134.2, 137.8, 142.6, 146.3, 166.3
【0032】
(3)4,5-ジクロロカテコールの合成
窒素雰囲気下、カテコール11.01g(100mmol)を無水ジエチルエーテル50mLに溶解後、氷水浴で冷却しながら塩化スルフィニル(SO2Cl2)18mL(30.0g, 220mmol)を1mL/minで滴下した。滴下終了後、室温で一晩撹拌を続けた。氷水浴で冷却しながら飽和食塩水50mLを加えた後、ジエチルエーテル50mLを追加し、分液ろう斗で有機層と水層を分離した。有機層は、飽和食塩水50mLで洗浄した後、無水硫酸ナトリウム上で乾燥し、ロータリーエバポレーターで濃縮した。濃縮残査を真空乾燥して4,5-ジクロロカテコール17.9g(収率100%)を得た。
【0033】
TLC
Rf=0.2(プレート RP-18 F254S、展開溶媒 水:MeOH=2:3)
Rf=0.5(プレート Silica gel 60 F254、展開溶媒 n-ヘキサン:酢酸エチル=1:1)
1H-NMR(CDCl3, 400MHz)
δ(ppm):5.56(OH, br, 1H), 6.96(Ar-H, s, 1H)
13C-NMR(CDCl3, 100MHz)
δ(ppm):114.3, 116.8, 142.8
【0034】
(4)5-(3,7,8-トリクロロジベンゾ-p-ジオキシン-2-イル)-トランス,トランス-ペンタ-2,4-ジエン酸エチルの合成
窒素雰囲気下、ジクロロカテコール0.135g(0.754mmol)とカリウム tert-ブトキシド0.173g(1.54mmol)を、無水ジメチルホルムアミド2mLに溶解し、更に、18-クラウン-6 0.409g(1.55mmol)を加え、室温で1時間撹拌した。2mLの無水ジメチルホルムアミドに溶解した5-(2,4-ジクロロ-5-ニトロフェニル)-トランス,トランス-2,4-ペンタジエン酸エチル0.147g(0.464mmol)を室温にて滴下した後、室温で1時間、油浴温120℃で30分、更に油浴温140℃で30分撹拌した。放冷後、蒸留水30mLを加えた。反応混合物をセライトろ過し、ろ別された沈殿を蒸留水20mLで洗浄し、次いで、酢酸エチル50mLで溶出を行った。酢酸エチル溶出液を無水硫酸ナトリウム上で乾燥後、ロータリーエバポレーターで濃縮した。濃縮残査をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、5-(3,7,8-トリクロロジベンゾ-p-ジオキシン-2-イル)-トランス,トランス-ペンタ-2,4-ジエン酸エチル0.048g(収率25%)を得た。
【0035】
TLC(プレート:Silica gel 60 F254
Rf=0.66(展開溶媒 n-ヘキサン:酢酸エチル=4:1)
1H-NMR(CDCl3, 400MHz)
δ(ppm):1.32(CH3, t, J=7.2Hz, 3H), 4.23(OCH2, q, J=7.2Hz, 2H), 6.00(=CH-CO2, d, J=15.6Hz, 1H), 6.70(-CH=, dd, J=15.6Hz,11.2Hz, 1H), 6.85(Ar-H, s, 1H), 6.92(Ar-H, s, 1H), 6.93(Ar-H, s, 1H), 7.05(Ar-H, s, 1H), 7.09(Ar-CH=, d, J=15.6Hz, 1H), 7.41 (=CH-, dd, J=15.6Hz,11.2Hz, 1H)
13C-NMR(CDCl3, 100MHz)
δ(ppm):14.3, 60.5, 113.6, 117.6, 117.9, 117.9, 122.7, 127.0, 127.3, 128.2, 128.8, 128.9, 130.2, 134.1, 140.1, 140.4, 141.6, 143.8, 166.7
【0036】
(5)5-(3,7,8-トリクロロジベンゾ-p-ジオキシン-2-イル)-トランス,トランス-ペンタ-2,4-ジエン酸の合成
5-(3,7,8-トリクロロジベンゾ-p-ジオキシン-2-イル)-トランス,トランス-ペンタ-2,4-ジエン酸エチル44.1mg(0.107mmol)を、2-メトキシエタノール1mLに溶解した。別途、水酸化カリウム0.2gを蒸留水1mLに溶解し、その70μLを前述の溶液に添加し、油浴温80℃で1時間撹拌した。放冷後、1mol/L塩酸1mLを加え、生成した沈殿を吸引ろ過によりろ別した。ろ別した沈殿を蒸留水10mLで洗浄した後、1,4-ジオキサンで溶出した。1,4-ジオキサン溶出液を無水硫酸ナトリウム上で乾燥し、ロータリーエバポレーターで濃縮して反応混合物40.3mgを得た。この反応混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、5-(3,7,8-トリクロロジベンゾ-p-ジオキシン-2-イル)-トランス,トランス-ペンタ-2,4-ジエン酸7.0mg(収率17%)を得た。
【0037】
TLC(プレート:Silica gel 60 F254
Rf=0.1(展開溶媒 n-ヘキサン:酢酸エチル=4:1)
Rf=0.6(展開溶媒 酢酸エチル)
1H-NMR(C4D8O2, 400MHz)
δ(ppm):5.99(d, J=15.6Hz, 1H), 6.91(dd, J=15.6Hz, 11.2Hz, 1H), 7.08(s, 1H),
7.16(s, 1H), 7.18(d, J=15.6Hz, 1H), 7.20(s, 1H), 7.3(s, 1H), 7.46(dd, J=15.6,
11.2Hz, 1H), 10.39(br, 1H)
13C-NMR(C4D8O2, 100MHz)
δ(ppm):114.4, 118.2, 118.5, 118.6, 123.4, 127.2, 127.4, 129.0, 129.7, 131.2,
134.2, 141.1, 141.3, 141.5, 142.5, 145.0, 167.3
【0038】
参考例2(免疫用ハプテンとカブトガニヘモシアニン(LPH)との結合)
(1)0.2Mホウ酸緩衝液(pH 8.0)の調製
ホウ酸(H3BO3)0.618g(10mmol)と塩化ナトリウム(NaCl)0.1461g(2.5mmol)を蒸留水50mLに溶解した(溶液I)。四ホウ酸ナトリウム10水和物(Na2B4O7・10H2O)0.953g(2.5mmol)を蒸留水50mLに溶解した(溶液II)。溶液I 28mLと溶液II 12mLを混合し、0.2mol/Lホウ酸緩衝液(pH 8.0)を調製した。
【0039】
(2)結合体の合成
参考例1で調製した免疫用ハプテン7mg(18μmol)を、無水1,4-ジオキサン2mLに溶解した後、室温にてトリn-ブチルアミン12μL(約50μmol)を加え、30分撹拌した。次いで、クロロぎ酸イソブチル6.5μL(約50μmol)を加え、蓋をして30分撹拌した。別途、LPH 30mg(SIGMA社製)を、0.2mol/Lホウ酸緩衝液(pH 8.0)30mLに溶解した後、室温にて1,4-ジオキサン1.3mLを加えた。このLPH溶液に室温にて前述の免疫用ハプテン溶液を加えた後、4℃にて一晩撹拌した。室温に戻した後、反応液をセロハン透析膜内に移し、少量の70%エタノールで洗い込み、蒸留水2Lで5回透析を行った。透析を終了した反応液をポリプロピレン製容器に移し、凍結乾燥(減圧乾燥)した。容器に蓋をし、凍結乾燥後の粉末(結合体)を均一に混合し、免疫用ハプテン−LPH結合体(=免疫原)を得た。得られた結合体は0.2mol/Lホウ酸酸緩衝液(pH 8.0)に1mg/mLの濃度で溶解してUVスペクトルを測定し、同濃度の結合前LPHのUVスペクトルと比較して結合の確認を行った。本結合体は-20℃で保管した。
【0040】
参考例3(ポリクローナル抗体の取得)
参考例2で得た免疫抗原を200μg/mLになるよう滅菌済み生理食塩水に懸濁させた。これにフロイント完全アジュバント(Sigma社製)を等容量混合し、乳化させた。ウサギ(ニュージーランド白色種、3〜3.5kg、メス)7羽にそれぞれ免疫原-アジュバント混合液を1.0mL(免疫原100μg分)皮下免疫した。50μL/箇所で、1羽当たり10〜20箇所に免疫した。ウサギを識別するため、No.1〜7とした。
二次免疫は一次免疫の30日後に実施した。フロイント不完全アジュバント(Sigma社製)を使用し、免疫原100μg/匹を免疫した。その他は一次免疫と同様に実施した。追加免疫10日後に2mLの血液を評価用としてウサギの耳より採取した。得られた血液は遠心し、上清を採取して抗血清を得、-80℃にて凍結保存した。これを用いて抗体性能試験を実施した。追加免疫及び評価用採血は30日おきに抗体価が上がらなくなるまで(合計4〜5回)実施した。抗体価の上昇が認められなくなったウサギについては、前回免疫日から数えて30日後に追加免疫を実施し、その10日後に25〜30mLの血液を部分採血した。得られた血液は遠心し、上清を採取して抗血清を得、-80℃にて凍結保存した。部分採血した日から20日後、再び部分採血を実施した。2回目の部分採血日から20日後に追加免疫を実施し、その10日後に全採血を行った。得られた血液は遠心し、上清を採取して抗血清を得、-80℃にて凍結保存した。
【0041】
参考例4(固相化ハプテンの調製)
7,8-ジクロロ-[1,4]ベンゾジオキシノ[2,3-b]ピリジン-3-カルボン酸)の合成
(1)6-ヒドロキシ-5-ニトロニコチン酸の合成
6-ヒドロキシニコチン酸10g(71.9mmol)に氷水浴で冷却しながら、発煙硝酸(d1.50〜1.52)80mLを加え1時間撹拌した。この間に反応容器上に減圧蒸留頭を装着した。水浴に切り替えて更に1時間撹拌、油浴温45℃にて更に4時間撹拌した。次いで、油浴温50℃にて硝酸を減圧蒸留して取り除いた。次に、反応容器内の減圧蒸留残査に蒸留水120mlを加え、吸引ろ過により結晶をろ別した。ろ紙上の結晶を蒸留水100mLで洗浄し、ろ別した結晶に蒸留水120mLを加え、結晶が溶解しきるまで還流加熱攪拌した。室温まで放冷後、結晶のろ別・洗浄を繰り返した。次に、ろ別した結晶を真空乾燥した後、NMR測定により結晶が6-ヒドロキシ-5-ニトロニコチン酸であることを確認した。
【0042】
1H-NMR(DMSO-d6, 400MHz)
δ(ppm):3.52(OH & NH, br, 1H), 8.38(Ar-H, d, J=2.4Hz, 1H), 8.66(Ar-H, d, J=2.4Hz, 1H), 13.33(COOH, s, 1H)
13C-NMR(DMSO-d6, 100MHz)
δ(ppm):108.0, 137.2, 138.6, 146.1, 154.4, 164.1
【0043】
(2)6-クロロ-5-ニトロニコチン酸メチルの合成
6-ヒドロキシ-5-ニトロニコチン酸1.84g(10mmol)と五塩化リン6g(28.8mmol)に、塩化ホスホリル10mL(約107mmol)を加え、窒素雰囲気下、油浴温100℃にて2時間撹拌した。次いで、油浴温を40℃までクールダウンし、過剰の塩化ホスホリルを減圧蒸留により取り除いた。その後、窒素雰囲気下、氷水浴で冷却し、減圧蒸留残査に無水メタノール20mLと蒸留水80mLを加えて吸引ろ過により結晶をろ別した。次いで、ろ紙上の結晶を蒸留水でよく洗浄した。ろ別した結晶を乾燥後、トルエンに溶解し、シリカゲルカラムに通した。次いで、トルエン溶液をロータリーエバポレーターを用いて濃縮し、濃縮残査をn-ヘキサン:トルエン=4:1から再結晶した。次に、結晶を真空乾燥し、NMR測定により結晶が6-クロロ-5-ニトロニコチン酸メチルであることを確認した。
【0044】
1H-NMR(CDCl3, 400MHz)
δ(ppm):4.04(CH3, d, J=8Hz, 3H), 8.78(Ar-H, t, J=16Hz, 1H), 9.18(Ar-H, t, J=16Hz 1H)
13C-NMR(CDCl3, 100MHz)
δ(ppm):53.4, 126.0, 135.0, 147.1, 152.9, 152.9, 162.9
【0045】
(3)7,8-ジクロロ-[1,4]ベンゾジオキシノ[2,3-b]ピリジン-3-カルボン酸メチルの合成
窒素雰囲気下、カリウム tert-ブトキシド0.37g(3.3mmol)を無水ジメチルホルムアミド4mLに懸濁した。無水ジメチルホルムアミド3mLに溶解したジクロロカテコール0.282g(1.58mmol)を、室温にて前工程の懸濁液に滴下した。次に、18-クラウン-6 0.872g(3.3mmol)を無水ジメチルホルムアミド5mLに溶解した後、前工程の懸濁液に加え1時間撹拌した。次に、6-クロロ-5-ニトロニコチン酸メチル0.325g(1.5mmol)を無水ジメチルホルムアミド30mLに溶解した後、室温にて前工程の懸濁液に滴下した。室温で30分、油浴温120℃にて2時間撹拌した後、室温まで放冷した。次に、氷水浴で冷却しながら蒸留水100mLを加え、分液ろう斗に移して、ジエチルエーテル50mLで抽出した。集めた抽出液を蒸留水30mLで洗浄し、無水硫酸マグネシウム上で乾燥し、ロータリーエバポレーターで濃縮した。次に、濃縮残査をアセトンに溶解し、シリカゲル1gを加え、ロータリーエバポレーターを用いてアセトンを除去した。次に、前工程で反応混合物が擦り込まれたシリカゲルを少量のn-ヘキサン:酢酸エチル=95:5に懸濁し、シリカゲルカラムにアプライした後、フラクションに分けて回収した。次に、TLC(Silica gel 60 F254)でRf=0.4(n-ヘキサン:酢酸エチル=4:1)のUVスポットを持つフラクションを集めてロータリーエバポレーターで濃縮後、真空乾燥した。NMR測定により濃縮残査が7,8-ジクロロ-[1,4]ベンゾジオキシノ[2,3-b]ピリジン-3-カルボン酸メチルであることを確認した。
【0046】
1H-NMR(CDCl3, 400MHz)
δ(ppm):3.94(CH3, s, 3H), 7.03(Ar-H, s, 1H), 7.10(Ar-H, s, 1H), 7.75(Ar-H, d, J=1.6Hz, 1H), 8.50(Ar-H, d, J=1.6Hz, 1H)
13C-NMR(CDCl3, 100MHz)
δ(ppm):52.6, 117.9, 118.6, 124.5, 125.1, 127.7, 140.2, 144.5, 151.4, 164.3
【0047】
(4)7,8-ジクロロ-[1,4]ベンゾジオキシノ[2,3-b]ピリジン-3-カルボン酸の合成
7,8-ジクロロ-[1,4]ベンゾジオキシノ[2,3-b]ピリジン-3-カルボン酸メチル7.9mg(25.3μmol)を、1,4-ジオキサン0.5mLに溶解し、蒸留水180μLと1mol/L水酸化ナトリウム水溶液60μL(60μmol)を加えて撹拌した。次いで、湯浴温60℃で1時間撹拌し、室温まで放冷後、蒸留水1mLを加えて撹拌した。更に、1mol/L塩酸水溶液を1mL(1mmol)加えて、吸引ろ過により沈殿をろ別した。次に、前工程の沈殿をアセトン10mLに懸濁し、シリカゲルカラムにアプライし、1,4-ジオキサン20mLを流した。次に1,4-ジオキサン溶出液をロータリーエバポレーターで濃縮後、真空乾燥した。NMR測定により、濃縮残査が7,8-ジクロロ-[1,4]ベンゾジオキシノ[2,3-b]ピリジン-3-カルボン酸であることを確認した。
【0048】
1H-NMR(1,4-dioxane-d8, 400MHz)
δ(ppm):7.20(Ar-H, s, 1H), 7.34(Ar-H, s, 1H), 7.74(Ar-H, s, 1H), 8.42(Ar-H, s, 1H), 10.76(COOH, s, 1H)
13C-NMR(1,4-dioxane-d8, 100MHz)
δ(ppm):118.0, 119.0, 124.8, 127.6, 141.0, 144.8, 152.2, 165.0
【0049】
参考例5(固相化ハプテンとウシ血清アルブミン(BSA)との結合)
10mLねじ口試験管に参考例4で調製した固相化ハプテン5.5mg(18.5μmol)を無水1,4-ジオキサン1mLに溶解し、トリn-ブチルアミン12μL(約50μmol)を加え、20分以上撹拌後、更にクロロぎ酸イソブチル6.5μL(約50μmol)を加え、20分以上撹拌した。次に、BSA30.8mg(SIGMA社製 約0.46μmol)を、0.2mol/Lホウ酸緩衝液(pH 8)に溶解し、1,4-ジオキサン1.3mLを加えた後、前工程で得られた溶液を滴下した。充分混和後、蓋をして4℃にて一晩撹拌した。室温に戻した後、反応液をセロハン透析膜内に移し、少量の70%エタノールで洗い込み、エタノール250mLで3回透析した。更に蒸留水2Lで5回透析した。透析を終了した反応液をポリプロピレン製15mL容器に移し、凍結乾燥した。凍結乾燥後の粉末(結合体)を均一に混合し、固相化ハプテン−BSA結合体を得た。
【0050】
参考例6(ハプテン固相化プレートの作製)
参考例5で調製した固相化ハプテン−BSA結合体の粉末10mgを秤量し、リン酸緩衝液(pH 7.2)1mLに溶解し、10mg/mL溶液を調製した。次いで、10mg/mL溶液の10μLを固相化用50mmol/L炭酸緩衝液(pH 9.6)990μLで希釈し、100μg/mL溶液を調製した。更に、100μg/mL溶液を固相化用50mmol/L炭酸緩衝液(pH 9.6)で希釈し、96wellマイクロタイタープレートに100uLづつ分注し、4℃で一晩静置した。静置後、上清を除去し、洗浄液(0.02%Tween20を含むPBS)で5回洗浄後、ブロッキング液(0.2%BSAを含むPBS)を300μL/wellで添加した。次いで、室温で2時間静置した後、上清を除去し、洗浄液(0.02%Tween20を含むPBS)で5回洗浄後、PBSを加え、ハプテン固相化プレートとした。
【0051】
実施例1
(1)標準液の調製
DMSOを希釈液とし、2,3,7-トリクロロ-8-メチルジベンゾパラダイオキシン(2,3,7-Trichloro-8-methyldibenzo-p-dioxin;以下、「TMDD」という)をそれぞれ、40000,1600,64,2.56,0pg/mLの濃度に希釈調製し標準液とした。
(2)交差反応性試料の調整
各化合物の標準品を窒素パ−ジにより溶媒を留去した後、DMSOを加えて再溶解し、試験液とした。
(3)試料の調製
JISK0311に従い、採取装置(採取管部、フィルター捕集部、液体捕集部、吸着捕集部、吸引ポンプ及び流量測定部からなる)を設置し、吸着捕集部に1312-1,2,3,4-テトラクロロジベンゾフラン1ngと1312-1,2,3,4,6,7-ヘキサクロロジベンゾダイオキシン1ngを添加した排ガス試料10試料を必要量採取した。採取後、ろ紙、樹脂、吸収液など形態ごとに抽出し、抽出液を合わせた。得られたそれぞれの抽出液の1/80〜1/160を分取し、ロータリーエバポレーターで約1mLに濃縮し、予め200mLのヘキサンで洗浄した多層カラム(スペルコ社製)に負荷した。次いで、ヘキサン150mLで溶出した後ロータリーエバポレーターで濃縮した。かかる手順により得られた試料溶液をそれぞれDMSO溶液120μLに溶解し、免疫測定に供した。一方、残りの抽出液を用いて、JISK0311に従い前処理を行い高分解能ガスクロマトグラフ質量分析法(HRGC/HRMS)の値を測定した。
【0052】
(4)抗ダイオキシン類抗体の調製
参考例3で得られたウサギNo1〜7のうち力価の確認されたNo1の抗血清を、それぞれ0.3%ウシ血清アルブミンを含むリン酸緩衝液で3500倍に希釈して使用した。
(5)2次抗体液の調製
ペルオキシダーゼ標識抗ウサギIgG抗体(シグマ社製)を、0.05%Tween20,10%ウシ胎児血清を含むリン酸緩衝液で3000倍に希釈して使用した。
(6)発色液の調製
ジメチルホルムアミド20mLに3,3',5,5'-テトラメチルベンチジン(シグマ社製)0.2g溶解したものを原液とし、使用時に0.006%過酸化水素を含む酢酸緩衝液(pH5.5)で原液を101倍希釈して使用した。
【0053】
(7)免疫測定
ハプテン固相化プレートの測定に使用するウエル全てにリン酸緩衝液25μLを分注した後、DMSO溶液で調製した各濃度の標準液25μL、DMSO溶液で調製した交差反応性試料及び排ガス試料25μLを各ウエルに加えた。さらに抗ダイオキシン類抗体50μLを使用するウエル全てに加えて室温で90分間反応させた。反応終了後、各ウエルの液を除き洗浄液で5回洗浄した。各ウエルに2次抗体液100μLを分注し、室温で60分間反応させた。反応終了後各ウエルの液を除き洗浄液で5回洗浄した。各ウエルに発色液100μLを分注し室温で20分間反応させた。反応終了後1規定硫酸を各ウエルに50μL加えて反応を停止した。マイクロプレートリーダーを用いて波長450nmにて各ウエルの吸光度を測定した。得られた各標準液の吸光度から検量線を作成し、排ガス試料濃度を測定した。
その結果、表1に示すように1312-1,2,3,4-テトラクロロジベンゾフランと1312-1,2,3,4,6,7-ヘキサクロロジベンゾダイオキシンを添加したものは、高分解能ガスクロマトグラフ質量分析と免疫測定の測定値がほぼ同等な値が得られた(表1)。また図1に示すように、良好な相関関係が認められ(図1)、本発明者は、特定の13Cでラベルされたダイオキシン類を用いることで抗ダイオキシン類抗体や芳香族炭化水素受容体と反応せず、擬陽性とならないことを見出し、且つ公定法である高分解能ガスクロマトグラフ質量分析法用の試料にも利用できることを確認した。
【0054】
【表1】

【0055】
実施例2
表2に記載したそれぞれの化合物(50μg/mL;ノナン溶液)をデカンで10倍希釈し、その0.25 mLを先細スピッツ管に採取し,窒素パ−ジにより溶媒を留去させ、DMSOを加えて再溶解した(5μg/mL)。これをDMSO溶液で5倍づつ10段階まで希釈して試験溶液とした。各化合物の検量線を実施例1の(4)から(7)に従い作成し、交差反応率については、次式に従ってIC50の値を2,3,7-Trichloro-8-Methyl-Dibenzo-p-Dioxin(TMDD)により得られたIC50値と比較して算出した。
交差反応率(%)=(IC50 of TMDD/IC50 of the cross-reacting compound)×100
その結果、表2に示すように、交差反応率0.01%以下である物質は、本発明の内標準物質として適当であることを確認した。一方、交差反応率0.01%以上の物質は、生物検定法で用いることはできない(表2)。
【0056】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】実施例1の排ガス試料を内標準物質1312-1,2,3,4-テトラクロロジベンゾフランと1312-1,2,3,4,6,7-ヘキサクロロジベンゾダイオキシンを添加して測定した時の高分解能ガスクロマトグラフ質量計値と免疫測定値との相関を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排ガス中のダイオキシン類の生物学的測定法において、内標準物質として抗ダイオキシン類抗体又は芳香族炭化水素受容体と反応しない、13Cでラベルされたダイオキシン類から選ばれる1種以上を用いることを特徴とするダイオキシン類の生物学的測定法。
【請求項2】
内標準物質が、1312-1,2,3,4-テトラクロロジベンゾダイオキシン、1312-1,2,3,4-テトラクロロジベンゾフラン、1312-1,2,3,4,6,7-ヘキサクロロジベンゾダイオキシン、1312-1,2,3,4,6,7-ヘキサクロロジベンゾフラン、1312-1,2,3,4,6,9-ヘキサクロロジベンゾダイオキシン及び1312-1,2,3,4,6,9-ヘキサクロロジベンゾフランから選ばれる1種又は2種以上である請求項1記載の生物学的測定法。
【請求項3】
生物学的測定法が酵素免疫測定法であり、内標準物質が、1312-3,3',4,5'‐テトラクロロビフェニル、1312-2,3,4,5‐テトラクロロビフェニル及び1312-2,3,4,6‐テトラクロロビフェニルから選ばれる1種又は2種以上である請求項1記載の生物学的測定法。
【請求項4】
生物学的測定法が酵素免疫測定法であり、抗ダイオキシン類抗体がマウス、ラット、ヒツジ又はヤギを免疫動物として使用して得られたものである請求項1〜3のいずれか1項記載の生物学的測定法。
【請求項5】
生物学的測定法がバインディングアッセイ法であり、芳香族炭化水素受容体がヒト、マウス、ラット、ウサギ又はブタ由来の芳香族炭化水素受容体を用いる請求項1又は2に記載の生物学的測定法。
【請求項6】
排ガスに、内標準物質として、抗ダイオキシン類抗体又は芳香族炭化水素受容体と反応しない、13Cでラベルされたダイオキシン類から選ばれる1種以上を添加した試料を用いることを特徴とする、排ガス中のダイオキシン類の生物学的測定及び高分解能ガスクロマトグラフ質量分析を行う方法。
【請求項7】
内標準物質が、1312-1,2,3,4-テトラクロロジベンゾダイオキシン、1312-1,2,3,4-テトラクロロジベンゾフラン、1312-1,2,3,4,6,7-ヘキサクロロジベンゾダイオキシン、1312-1,2,3,4,6,7-ヘキサクロロジベンゾフラン、1312-1,2,3,4,6,9-ヘキサクロロジベンゾダイオキシン及び1312-1,2,3,4,6,9-ヘキサクロロジベンゾフランから選ばれる1種又は2種以上である請求項6記載の方法。
【請求項8】
生物学的測定が酵素免疫測定であり、内標準物質が、1312-3,3',4,5'‐テトラクロロビフェニル、1312-2,3,4,5‐テトラクロロビフェニル及び1312-2,3,4,6‐テトラクロロビフェニルから選ばれる1種又は2種以上である請求項6記載の方法。
【請求項9】
生物学的測定が酵素免疫測定であり、抗ダイオキシン類抗体がマウス、ラット、ヒツジ又はヤギを免疫動物として使用して得られたものである請求項6〜8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
生物学的測定がバインディングアッセイであり、芳香族炭化水素受容体がヒト、マウス、ラット、ウサギ又はブタ由来の芳香族炭化水素受容体を用いる請求項6又は7に記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−250612(P2006−250612A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−65351(P2005−65351)
【出願日】平成17年3月9日(2005.3.9)
【出願人】(000105567)コスモ石油株式会社 (443)
【出願人】(505087735)
【Fターム(参考)】