説明

ダイキャスト用水性離型剤組成物及びその使用方法並びにそれを用いたダイキャスト方法及び成形品の製造方法

【課題】 成形型に塗布後、水分を速やかに蒸発させて離型成分による被膜を形成できるダイキャスト用水性離型剤組成物及びその使用方法並びにそれを用いたダイキャスト方法及び成形品の製造方法を提供する。
【解決手段】 本ダイキャスト用水性離型剤組成物は、離型成分(アルキル/アラルキル変性シリコーン等)、分散剤成分(ノニオン界面活性剤等)、起泡性物質(ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステルNa塩等)を含むことを特徴とする。本ダイキャスト用離型剤組成物の使用方法は、上記ダイキャスト用水性離型剤組成物を水で希釈し、このダイキャスト用離型剤組成物を100質量%とした場合に、起泡性物質の含有量が0.001〜0.01質量%である希釈液を調整し、この希釈液を成形型に塗布する。本ダイキャスト方法は、上記ダイキャスト用離型剤組成物を用いることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイキャスト用水性離型剤組成物及びその使用方法並びにそれを用いたダイキャスト方法及び成形品の製造方法に関する。更に詳しくは、本発明は、成形型に塗布後、水分を速やかに蒸発させて離型成分による被膜を形成できるダイキャスト用水性離型剤組成物及びその使用方法並びにそれを用いたダイキャスト方法及び成形品の製造方法に関する。本発明は、アルミニウム合金、マグネシウム合金、亜鉛合金等の射出成形機(ダイキャストマシン)の成形型内に塗布される離型剤分野において幅広く利用できる。
【背景技術】
【0002】
従来、ダイキャスト用の離型成分としては、シリコーン化合物、ワックス類、鉱油、油脂類、合成油等が広く使用されていた。また、近年では、発火の危険性や作業環境悪化の面から、これらの離型成分を、界面活性剤等の分散剤成分を用いて水中に乳化分散させたエマルションタイプの離型剤が主に使われるようになってきている。
【0003】
上記エマルションタイプの離型剤は、通常、水で適度の割合に希釈された後、使用時に高温の成形型にスプレー等で塗布される。ダイキャストにおける成形型の温度は、鋳造物の形状や大きさにもよるが、通常100℃前後から400℃程度までの分布を有する。よって、塗布後、上記エマルションタイプの離型剤に含まれる水分は蒸発し、成形型には離型成分による被膜が形成され、成形時の離型剤として有効に作用する。この過程において、水分の蒸発は、高温の成形型に接触することによる蒸発が主となるが、成形型の温度が低い場合や短時間で被膜を得ようとする場合には、エアブロー等により強制的に水分を除去する手法が一般的にとられていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、エアブロー時間が長くなるほど生産サイクルを必要以上に延ばすこととなり、生産効率の低下に繋がる。更に、エアブローでも十分に水を除去できない場合があり、残留した水分がダイキャスト製品に巻き込まれて、鋳巣等の欠陥を生じる原因の一つともなっている。このため、成形型に塗布された後に速やかに水分が蒸発して離型成分による被膜が形成され、生産サイクルを短縮でき、且つ残留した水分等による欠陥(鋳巣等)のない高品質の製品を得ることのできるダイカスト用離型剤が求められていた。
【0005】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、成形型に塗布後、水分を速やかに蒸発させて離型成分による被膜を形成することができるダイキャスト用水性離型剤組成物及びその使用方法並びにそれを用いたダイキャスト方法及び成形品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、通常のダイキャスト用水性離型剤の主成分である離型成分、該離型成分を水中に乳化分散させる分散剤成分及び水に加えて、特定の起泡性物質を含有させることにより、エマルション状態のように水と混合した状態で成形型(金型等)に塗布した際に、速やかに水分を蒸発させて離型成分による被膜を形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明は、以下に示す通りである。
1.離型成分と、分散剤成分と、起泡性物質と、を含むことを特徴とするダイキャスト用水性離型剤組成物。
2.100℃以上の成形型との接触後に起泡する上記1記載のダイキャスト用水性離型剤組成物。
3.上記起泡性物質が、脂肪酸アルカリ塩、アルキルスルホン酸塩及びその誘導体、アルキル硫酸エステル及びその誘導体、カルボン酸アミド及びその誘導体、ナトリウム高級アルコールサルフェート、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステルナトリウム塩、ポリアルキレンエチレングリコール及びその誘導体、ポリエチレングリコールカルボン酸エステル及びその誘導体、カルボン酸モノグリセリド及びその誘導体、アルキルアミンオキサイド及びその誘導体、並びに糖類のうちの少なくとも1種である上記1又は2記載のダイキャスト用水性離型剤組成物。
4.上記起泡性物質の含有量が、上記離型成分を100質量部とした場合に0.1〜20質量部である上記1乃至3のいずれかに記載のダイキャスト用水性離型剤組成物。
5.上記起泡性物質の含有量が、本ダイキャスト用離型剤組成物を100質量%とした場合に0.001〜5質量%である上記1乃至4のいずれかに記載のダイキャスト用水性離型剤組成物。
6.上記離型成分が、シリコーン化合物、ワックス類、鉱油、油脂類及び合成油のうちの少なくとも1種である上記1乃至5のいずれかに記載のダイキャスト用水性離型剤組成物。
7.上記分散剤成分が、アニオン系界面活性剤及びノニオン活性剤のうちの少なくとも1種である上記1乃至6のいずれかに記載のダイキャスト用水性離型剤組成物。
8.上記1乃至7のいずれかに記載のダイキャスト用水性離型剤組成物を少なくとも水を含有する水系溶媒で希釈することにより、希釈液全量を100質量%とした場合に、起泡性物質の含有量が0.001〜0.01質量%である希釈液を調整し、該希釈液を成形型に塗布することを特徴とするダイキャスト用水性離型剤組成物の使用方法。
9.上記1乃至7のいずれかに記載のダイキャスト用水性離型剤組成物を用いることを特徴とするダイキャスト方法。
10.上記1乃至7のいずれかに記載のダイキャスト用水性離型剤組成物を用いてダイキャスト方法により被加工材を成形することを特徴とする成形品の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明のダイキャスト用水性離型剤組成物によれば、成形型に塗布後、水分を速やかに蒸発させて離型成分による被膜を形成できるため、塗布後の乾燥時間を短くして生産サイクルを短縮することができる。更に、被塗布面に残留する水分を低減させることができるため、内部欠陥(鋳巣)の少ない高品質な製品を得ることができる。
また、上記起泡性物質が特定の物質である場合には、乾燥性能に優れ、水分を速やかに蒸発させることができ、且つ十分な付着性能を有するダイキャスト用水性離型剤組成物とすることができる。
更に、上記起泡性物質の含有量が特定の範囲である場合には、乾燥性能に優れ、水分を速やかに蒸発させることができ、且つ十分な付着性能を有するダイキャスト用水性離型剤組成物とすることができる。
本発明のダイキャスト用水性離型剤組成物の使用方法によれば、離型剤組成物中の起泡性物質の量を適度な範囲とすることにより、鋳造物における離型剤組成物の残留水分などに起因する鋳巣等の欠陥を低減させ、生産効率を向上させることができる。
本発明のダイキャスト方法によれば、上記ダイキャスト用水性離型剤組成物を用いるため、鋳造物における離型剤組成物の残留水分などに起因する鋳巣等の欠陥を低減させ、生産効率を向上させることができる。
本発明の成形品の製造方法によれば、内部欠陥(鋳巣)の少ない高品質な製品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(1)ダイキャスト用水性離型剤組成物
本発明のダイキャスト用水性離型剤組成物は、離型成分と、分散剤成分と、起泡性物質と、を含むことを特徴とする。
【0010】
上記「離型成分」は特に限定されず、一般的なダイキャスト離型剤として使用されているものを用いることができる。例えば、シリコーン化合物、ワックス類、鉱油、油脂類及び合成油等が挙げられる。上記シリコーン化合物としては、シリコーンオイル、シリコーンワックス、アルキル基、アラルキル基、カルボキシルアルキル基、カルボン酸アルキル基、ヒドロキシアルキル基又はアミノアルキル基等で一部あるいは全体が変性されたオルガノポリシロキサン等が挙げられる。上記ワックス類としては、パラフィンワックス、オレフィンワックス、ポリエチレンワックス、及びポリプロピレンワックス等の石油系ワックス、酸化ポリエチレンワックス及び酸化ポリプロピレン等の酸化ワックス、並びに蜜ろう、カルナバワックス、及びモンタンワックス等の天然ワックス等が挙げられる。上記油脂類としては、動物油及び植物油等が挙げられる。上記合成油としては、ポリブテン及びポリエステル等が挙げられる。更には、これら以外にも、ステアリン酸及びフタル酸等のカルボン酸、脂肪酸アミド及び脂肪酸アルカノールアミド等のカルボン酸アミド、石油樹脂、レジン及び合成樹脂等の樹脂類等を用いることもできる。
上記離型成分は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0011】
上記「分散剤成分」は、上記離型成分を水中に乳化分散させることが可能な性質を有するのであれば特に限定されない。上記分散剤成分は、例えば、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤及び両性界面活性剤等が用いられる。これらの中でも、ノニオン界面活性剤及びアニオン界面活性剤のうちの少なくとも1種であることが好ましい。上記ノニオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシアルキレングリコール、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアリルエーテル及びポリオキシエチレンソルビタンモノオレート等が挙げられる。また、上記アニオン界面活性剤としては、例えば、脂肪酸石けん、アルキル/アリルスルホネート等が挙げられる。
これらの分散剤成分は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0012】
上記分散剤成分の含有量は、上記離型成分を水中に乳化分散させることができる限り特に限定されず適宜調整できる。例えば、この含有量は、上記離型成分を100質量部とした場合に、通常1〜30質量部、好ましくは3〜20質量部、更に好ましくは5〜15質量部とすることができる。
【0013】
上記「起泡性物質」としては、高温の成形型との接触後(接触時も含む。)に起泡させることができる性質を有する限り特に限定はない。上記起泡性物質としては、例えば、脂肪酸アルカリ塩、アルキルスルホン酸塩及びその誘導体、アルキル硫酸エステル及びその誘導体、カルボン酸アミド及びその誘導体、ナトリウム高級アルコールサルフェート、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステルナトリウム塩、ポリアルキレンエチレングリコール及びその誘導体、ポリエチレングリコールカルボン酸エステル及びその誘導体、カルボン酸モノグリセリド及びその誘導体、アルキルアミンオキサイド及びその誘導体、並びに糖類等を用いることができる。これらの中でも、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステルナトリウム塩、ラウリルジメチルアミンオキシド、ナトリウム高級アルコールサルフェート、ラウリン酸ジエタノールアミド、アルキルスルホン酸塩が好ましい。この場合、乾燥性能に優れ、水分を速やかに蒸発させることができ、且つ十分な付着性能を有するダイキャスト用水性離型剤組成物を得ることができる。尚、上記起泡性物質は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0014】
本発明のダイキャスト用水性離型剤組成物は、上記起泡性物質を含有することにより、水が蒸発する過程で気泡を生じやすくさせ、速やかに乾燥させることができる。乾燥速度が短縮される理由は明確とはなっていないが、水分の蒸発時に発生する泡の撹乱作用により熱伝達が加速し、その結果、水分の蒸発が促進されて乾燥時間が短縮されると考えられる。尚、当該理由は発明者の推定に基づくものであり、何ら本願発明の限定を意図する記載でないことを付言する。
【0015】
本発明のダイキャスト用水性離型剤組成物は、予め、水等の少なくとも水を含む所定量の水系溶媒に乳化・分散させたエマルション組成物とすることができる。この場合、ダイキャスト用水性離型剤組成物として、そのまま用いてもよく、あるいは必要に応じて水系溶媒で更に希釈して用いることもできる。また、本発明のダイキャスト用水性離型剤組成物は、使用する際に、所定量の水系溶媒に乳化・分散させて用いることもできる。
【0016】
上記起泡性物質の含有量は、上記離型成分を100質量部とした場合に0.1〜20質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜15質量部、更に好ましくは0.8〜10質量部、特に好ましくは1〜7質量部、最も好ましくは1.5〜5質量部である。上記含有量が上記範囲である場合には、乾燥性能に優れ、水分を速やかに蒸発させることができ、且つ十分な付着性能を有するダイキャスト用水性離型剤組成物を得ることができるので好ましい。
【0017】
また、上記起泡性物質の含有量は、本離型剤組成物全量を100質量%とした場合、通常は0.001〜5質量%、好ましくは0.001〜3質量%、更に好ましくは0.01〜1質量%、より好ましくは0.05〜0.7質量%、特に好ましくは0.1〜0.5質量%である。上記含有量が上記範囲である場合には、乳化分散状態が安定であると共に、塗布後の離型剤組成物における水分を速やかに蒸発させることができるので好ましい。
【0018】
本発明のダイキャスト用水性離型剤組成物の使用時における上記起泡性物質の含有量は、通常は0.001〜0.01質量%であり、好ましくは0.001〜0.008質量%であり、更に好ましくは0.002〜0.007質量%であり、より好ましくは0.002〜0.006質量%であり、特に好ましくは0.003〜0.005質量%である。上記含有量が上記範囲である場合には、塗布後の離型剤組成物における水分を速やかに蒸発させることができ、且つ十分な付着性能を有するダイキャスト用水性離型剤組成物を得ることができるので好ましい。よって、本発明のダイキャスト用水性離型剤組成物において、上記起泡性物質の含有量は、上記の範囲とすることもできる。上記起泡性物質の含有量が上記の範囲であれば、希釈することなく直ちに使用することができるので好ましい。
【0019】
本発明のダイキャスト用水性離型剤組成物は、上記のように、高温の成形型との接触後(接触時も含む。)に起泡することにより、速やかに乾燥させることができる。より具体的には、本発明のダイキャスト用水性離型剤組成物は、通常90℃以上、特に100℃以上、更には100〜400℃となった成形型との接触後(接触時も含む)に起泡する性質を有することが好ましい。
【0020】
また、本ダイキャスト用水性離型剤組成物には、本発明の効果を損なわない範囲内で、他の添加剤を含有させることができる。この他の添加剤としては、一般的なダイキャスト用水性離型剤に使用される添加剤を用いることができる。例えば、防錆剤、防腐剤、酸化防止剤等が挙げられる。尚、上記他の添加剤の含有量は適宜調整することができる。
【0021】
(2)ダイキャスト用水性離型剤組成物の使用方法
本発明のダイキャスト用水性離型剤組成物の使用方法は、本発明のダイキャスト用水性離型剤組成物を少なくとも水を含有する水系溶媒で希釈することにより、希釈液全量を100質量%とした場合に、起泡性物質の含有量が0.001〜0.01質量%である希釈液を調整し、該希釈液を成形型に塗布することを特徴とする。
【0022】
上記希釈液を調製するための上記「水系溶媒」は、少なくとも水を含んでいればよい。通常は水であるが、水と他の溶媒の1種又は2種以上含有する混合溶媒でもよい。該他の溶媒としては、例えば、エタノール、n−プロパノール、イソ−プロパノール等が挙げられる。また、上記混合溶媒中の水の含有量は、通常は50質量%以上100質量%未満、好ましくは60〜99質量%、更に好ましくは70〜95質量%である。
【0023】
上記「ダイキャスト用水性離型剤組成物」及び上記「起泡性物質」については、前記の各説明をそのまま適用することができる。また、希釈前の上記ダイキャスト用水性離型剤組成物中の上記起泡性物質の含有量は、上記のように、上記離型成分を100質量部とした場合に0.1〜20質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜15質量部、更に好ましくは0.8〜10質量部、特に好ましくは1〜7質量部、最も好ましくは1.5〜5質量部とすることができる。また、希釈前の上記ダイキャスト用水性離型剤組成物中の上記起泡性物質の含有量は、本離型剤組成物全量を100質量%とした場合、通常は0.001〜5質量%、好ましくは0.001〜3質量%、更に好ましくは0.01〜1質量%、より好ましくは0.05〜0.7質量%、特に好ましくは0.1〜0.5質量%とすることができる。
【0024】
更に、上記希釈液中の上記起泡性物質の含有量は0.001〜0.01質量%であり、好ましくは0.001〜0.008質量%であり、更に好ましくは0.002〜0.007質量%であり、より好ましくは0.002〜0.006質量%であり、特に好ましくは0.003〜0.005質量%である。上記含有量が上記範囲である場合には、塗布後の離型剤組成物における水分を速やかに蒸発させることができるので好ましい。
【0025】
上記希釈液の塗布方法は特に限定されず、通常ダイキャストで使用されるスプレーノズルや銅パイプなどを用いたスプレー方法等により塗布することができる。尚、この際の塗布量は、成形型へ射出する溶湯の種類、射出圧、成形型の温度等、ダイキャスト条件によって適宜調整できる。
【0026】
(3)ダイキャスト用水性離型剤組成物の他の使用方法
本発明のダイキャスト用水性離型剤組成物は、少なくとも水を含有する水系溶媒に乳化・分散させ、組成物全量を100質量%とした場合に、起泡性物質の含有量が0.001〜0.01質量%であるエマルション組成物に調整し、この組成物を成形型に塗布して使用することができる。
【0027】
上記「水系溶媒」、上記「ダイキャスト用水性離型剤組成物」及び上記「起泡性物質」については、前記の各説明をそのまま適用することができる。また、上記ダイキャスト用水性離型剤組成物中の上記起泡性物質の含有量は、上記のように、上記離型成分を100質量部とした場合に0.1〜20質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜15質量部、更に好ましくは0.8〜10質量部、特に好ましくは1〜7質量部、最も好ましくは1.5〜5質量部とすることができる。
【0028】
更に、上記エマルション組成物中の上記起泡性物質の含有量は0.001〜0.01質量%であり、好ましくは0.001〜0.008質量%であり、更に好ましくは0.002〜0.007質量%であり、より好ましくは0.002〜0.006質量%であり、特に好ましくは0.003〜0.005質量%である。上記含有量が上記範囲である場合には、塗布後の離型剤組成物における水分を速やかに蒸発させることができるので好ましい。
【0029】
上記エマルション組成物の塗布方法及び塗布量は、前記の各説明をそのまま適用することができる。
【0030】
(4)ダイキャスト方法
本発明のダイキャスト方法は、本発明のダイキャスト用水性離型剤組成物を用いることを特徴とする。上記ダイキャスト用水性離型剤組成物を用いることで、鋳造物における離型剤組成物の残留水分などに起因する鋳巣等の欠陥を低減させることができ、生産効率を向上させることができる。
【0031】
本発明のダイキャスト方法において、ダイキャストの条件については特に限定はない。装置及び金型としては公知の装置及び金型を用いることができる。また、温度や圧力等の条件についても、被加工材及び成形品の材質、形状及び種類等に応じて適宜の条件とすることができる。尚、上記「ダイキャスト用水性離型剤組成物」については、前記の説明をそのまま適用することができる。
【0032】
(5)成形品の製造方法
本発明の成形品の製造方法は、本発明のダイキャスト用水性離型剤組成物を用いてダイキャスト方法により被加工材を成形することを特徴とする。
本発明の被加工材及び成形品の材質、形状及び種類については特に限定はない。例えば、上記被加工材としては、例えば、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛又はそれらの合金等が挙げられる。また、上記被加工材の形状は、シリンダーブロックなどの自動車部品から携帯電話などの電化製品の筐体等まで多岐にわたる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
[1]ダイキャスト用水性離型剤組成物の調製
実施例1〜5
アルキル/アラルキル変性シリコーン(離型成分)15質量%、酸化ポリエチレンワックス(離型成分)3質量%、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル(分散剤成分)3.4質量%、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート(分散剤成分)2.15質量%、水76質量%、防錆剤(チアゾリン系)0.05質量%及び防腐剤(カルボン酸アミン塩)0.1質量%を含む組成物に対して、表1に示す各起泡性物質0.3質量%を配合して離型剤組成物を調整した後、更に水で70倍に希釈し、実施例1〜5のダイキャスト用水性離型剤組成物を得た(起泡性物質の含有量は、離型剤100質量部に対して2質量部であり、組成物全量を100質量%とした場合に約0.0043質量%である。)。
【0034】
【表1】

【0035】
比較例1
上記起泡性物質を配合しないこと以外は、上記各実施例と同様にして比較例1のダイキャスト用水性離型剤組成物を調製した。
【0036】
[2]性能評価
上記[1]で調製したダイキャスト用水性離型剤組成物について、下記の各性能評価及び実機試験を行った。
(1)乾燥性能
図1に示すように、表面温度を100〜150℃に調整した金型(形状は図1参照)にシリンジを用いてダイキャスト用水性離型剤組成物を20μL滴下し、水分が蒸発して乾燥するまでの時間を計測し、乾燥性能を評価した。この結果を表2に示す。尚、表2に示す乾燥時間は、同一操作を3回繰り返して測定された時間の平均値である。
【0037】
(2)付着性能
図2に示すように、ダイキャスト用水性離型剤組成物を加圧タンクに入れて圧力を3kg/cmに調整し、その後、ヒーター上に鋼板(「SPCC−SB」、100mm×100mm×2mm)を設置し、設定温度に達したところで鋼板上に離型剤組成物40ccをスプレー塗布(ノズル−鋼板間距離200mm、噴霧時間2秒間、吐出圧力5kg/cm)し、次いで、エアブローを行って十分に風乾する。その後、鋼板に付着した成分の重量を測定し、付着性能を評価した。この結果を表3に示す。尚、離型剤組成物の噴霧は、鋼板温度が100℃から400℃までの100℃毎に行い、同一操作を3回繰り返して得た値を付着量とした。また、この測定は、実施例1及び比較例1のみを用いて行った。
【0038】
(3)実機試験
型締め力350tのダイキャストマシン(東洋機械金属株式会社製)を用いて実機試験を行った。尚、鋳造物はハウジング部品である。
ダイキャスト用金型[可動型・固定型、温度分布;100〜400℃(金型部位によって異なる)]にダイキャスト用水性離型剤組成物1Lをスプレー塗布(約5秒間)し、その後、約8秒間エアブローを行い、ハウジング部品を300個鋳造した。そして、鋳巣の発生による不良率を求めた。この結果を表4に示す。尚、この測定は、実施例1及び比較例1のみを用いて行った。また、実施例1及び比較例1の各離型剤組成物を用いた際に発生した各々の鋳巣の直径の平均をX線CT装置により測定し、比較した。
【0039】
【表2】

【0040】
【表3】

【0041】
【表4】

【0042】
[3]実施例の効果
表2によれば、100〜150℃の各温度において、起泡性物質を含有していない比較例1の離型剤組成物の乾燥時間に対して、各種の起泡性物質を含有する実施例1〜5の離型剤組成物の乾燥時間は約11.1〜47.8%も短縮されていることが分かった。このことから、実施例1〜5の各離型剤組成物は優れた乾燥性能を有することが分かる。
【0043】
表3によれば、100〜400℃の各温度において、起泡性物質を含有しておらず、従来品に相当する比較例1の離型剤組成物の付着量と、起泡性物質を含有する実施例1の離型剤組成物の付着量は同等であった。このことから、起泡性物質を含有させても十分な付着性能が得られることが分かった。
【0044】
表4によれば、起泡性物質を含有していない比較例1の離型剤組成物を用いた際の不良率が14%であったのに対して、起泡性物質を含有する実施例1の離型剤組成物を用いた際の不良率は5%であった。このように、起泡性物質を含有させることで鋳巣に起因する不良率が大幅に低減していることから、成形型に塗布された離型剤組成物における水分が速やかに乾燥し、残留水分が減少していると考えられる。
また、実施例1の離型剤組成物を用いた場合に発生した鋳巣の直径の平均は、比較例1の離型剤組成物を用いた場合に発生したものより20〜30%小径化していたことからも、残留水分が減少していると考えられる。
【0045】
以上のことから、本実施例のダイキャスト用水性離型剤組成物は、成形型に塗布後、水分を速やかに蒸発させて、塗布後の乾燥時間を短くして生産サイクルを短縮することができる。更には、被塗布面に残留する水分を低減させることができるため、内部欠陥(鋳巣)の少ない高品質な製品を得ることができる。
【0046】
尚、本発明においては、上記具体的実施例に示すものに限られず、目的、用途に応じて本発明の範囲内で種々変更した実施例とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】乾燥時間の測定方法を説明する説明図である。
【図2】付着量の測定方法を説明する説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
離型成分と、分散剤成分と、起泡性物質と、を含むことを特徴とするダイキャスト用水性離型剤組成物。
【請求項2】
100℃以上の成形型との接触後に起泡する請求項1記載のダイキャスト用水性離型剤組成物。
【請求項3】
上記起泡性物質が、脂肪酸アルカリ塩、アルキルスルホン酸塩及びその誘導体、アルキル硫酸エステル及びその誘導体、カルボン酸アミド及びその誘導体、ナトリウム高級アルコールサルフェート、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステルナトリウム塩、ポリアルキレンエチレングリコール及びその誘導体、ポリエチレングリコールカルボン酸エステル及びその誘導体、カルボン酸モノグリセリド及びその誘導体、アルキルアミンオキサイド及びその誘導体、並びに糖類のうちの少なくとも1種である請求項1又は2記載のダイキャスト用水性離型剤組成物。
【請求項4】
上記起泡性物質の含有量が、上記離型成分を100質量部とした場合に0.1〜20質量部である請求項1乃至3のいずれかに記載のダイキャスト用水性離型剤組成物。
【請求項5】
上記起泡性物質の含有量が、本ダイキャスト用離型剤組成物全量を100質量%とした場合に0.001〜5質量%である請求項1乃至4のいずれかに記載のダイキャスト用水性離型剤組成物。
【請求項6】
上記離型成分が、シリコーン化合物、ワックス類、鉱油、油脂類及び合成油のうちの少なくとも1種である請求項1乃至5のいずれかに記載のダイキャスト用水性離型剤組成物。
【請求項7】
上記分散剤成分が、アニオン系界面活性剤及びノニオン活性剤のうちの少なくとも1種である請求項1乃至6のいずれかに記載のダイキャスト用水性離型剤組成物。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載のダイキャスト用水性離型剤組成物を少なくとも水を含有する水系溶媒で希釈することにより、希釈液全量を100質量%とした場合に、起泡性物質の含有量が0.001〜0.01質量%である希釈液を調整し、該希釈液を成形型に塗布することを特徴とするダイキャスト用水性離型剤組成物の使用方法。
【請求項9】
請求項1乃至7のいずれかに記載のダイキャスト用水性離型剤組成物を用いることを特徴とするダイキャスト方法。
【請求項10】
請求項1乃至7のいずれかに記載のダイキャスト用水性離型剤組成物を用いてダイキャスト方法により被加工材を成形することを特徴とする成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−212691(P2006−212691A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−30933(P2005−30933)
【出願日】平成17年2月7日(2005.2.7)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年10月31日 社団法人日本ダイカスト協会発行の「2004年 日本ダイカスト会議論文集」に発表
【出願人】(000115083)ユシロ化学工業株式会社 (69)
【Fターム(参考)】