ダイシング装置
【課題】装置総体の低重心化が図られ、スピンドルのZ軸方向移動を不要としスピンドル保持機構が単純化された、小型のダイシング装置を提供する。
【解決手段】Z軸移動機構34内にθ回転機構16が取り囲まれて配置され、重心位置が低くなるように一体化形成されたZ軸-θ軸機構50が、ワークテーブル保持機構40側に組み込まれている。重心位置を低くすることによって、ワークテーブル24をX軸、Y軸、θ軸方向に高速で移動させた際にダイシング装置内で発生する振動の振幅を小さく抑えている。また、スピンドル保持機構32はZ軸移動機構を備えない構成とすることによって、スピンドルの移動に伴う歳差運動が発生しない構造とされている。
【解決手段】Z軸移動機構34内にθ回転機構16が取り囲まれて配置され、重心位置が低くなるように一体化形成されたZ軸-θ軸機構50が、ワークテーブル保持機構40側に組み込まれている。重心位置を低くすることによって、ワークテーブル24をX軸、Y軸、θ軸方向に高速で移動させた際にダイシング装置内で発生する振動の振幅を小さく抑えている。また、スピンドル保持機構32はZ軸移動機構を備えない構成とすることによって、スピンドルの移動に伴う歳差運動が発生しない構造とされている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はダイシング装置に関し、特にワークテーブル保持機構及びスピンドル保持機構の構成部分の低重心化を図り、切削性能を向上させたダイシング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイシング装置は、加工対象である半導体や電子部品材料等のワークに対し、相対的に、回転ブレードを切り込み方向、切削送り方向、及びインデックス送り方向に移動させて当該ワークを賽の目状に切削加工する装置である。
【0003】
ここで、説明の便宜のために、ダイシング装置に対して互いに直交するX軸、Y軸、及びZ軸からなる直交座標系を以下のように設定する。すなわち、切り込み方向をZ軸方向にとり、インデックス送り方向をY軸方向にとり、切削送り方向をX軸方向にとる。切り込み方向とは、半導体ウェーハ等のワークに対して回転ブレードを切り込ませる切込み深さの方向である。インデックス送り方向とは、回転ブレードの回転軸に平行な方向である。また、切削送り方向とは、回転ブレードの切削あるいは切断中の移動方向である。
【0004】
半導体ウェーハ等のワークをダイシング加工するには、一本の切削溝を形成するごとにダイスの一辺の長さに相当する分だけ回転ブレードを回転軸に沿って移動させる。この作業を繰り返し平行な複数の切削溝を形成し、更にワークを90°回転させて、同様に平行な複数の切削溝を形成することによってダイスが形成される。このダイスの形成工程において、ダイスの一辺の長さに相当する分だけ回転ブレードを回転軸に沿って移動させるこの送り方向がインデックス送り方向である。
【0005】
また、回転軸を意味するスピンドルと、この回転軸を回転可能に包囲するハウジングであるスピンドルハウジングを区別するため、スピンドル(回転軸)とスピンドルハウジングとを含んで構成される構造体を指してスピンドルユニットと呼称されることもある。しかしながら、以後の説明ではこのような厳密な書き分けを行う必要がないので、多くの技術文献において行われているように、このスピンドルユニットのことを単にスピンドルと略記する。更に、回転ブレードを装着する回転軸を特に指示する必要があるときは、スピンドルの回転軸あるいは回転ブレードの回転軸と記載することもある。
【0006】
1980年代初期の頃のダイシング装置では、ワークテーブル保持機構側にθ回転機構とZ軸移動機構とを組み込む構成のものも見られる(例えば、特許文献1参照)。1980年代半ば以降のダイシング装置では、ウェーハの大口径化、及びチップの微細化(ストリートの狭小化)に対応するため、θ軸方向はX-Y平面により高い精度で直交するように設置することが要請されるようになった。また切り込み深さの精密な制御が必要とされ、Z軸の動作を精密に制御することも強く要請されるようになった。
【0007】
このような要求に応えたダイシング装置では、ワークテーブルを保持するワークテーブル保持機構側にθ回転機構とX軸移動機構とが備えられ、スピンドルを保持するスピンドル保持機構側にZ軸移動機構とY軸移動機構とが備えられている。スピンドル保持機構側にZ軸移動機構とY軸移動機構とを備えることによって、回転ブレードをワークに対して相対的に切り込み方向とインデックス送り方向に移動させることが可能な構成となっている(例えば、特許文献2及び3参照)。また、各移動機構の動作が更に精密化された。
【0008】
ダイシング装置は、半導体製造装置としてクリーンルームに設置されることが多い。クリーンルームは単位床面積当りの建設費が高いため、ダイシング装置等の半導体製造装置は小型化することが重要な課題である。また半導体製造装置の常として、低コストで製造されることも必須である。さらに処理速度が速く、高性能、高信頼性のある装置であることが絶えず求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭56−155534号公報
【特許文献2】特許第3918149号公報
【特許文献3】特許第4517269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載された板状材の切断設備及びそのハンドリング装置は、ワークテーブル保持機構側にθ回転機構とZ軸移動機構とを含むという特徴を持つ。特許文献1には、「タレット18は垂直アーバ20を摺動自在に受け、このアーバの上端68はテーブルを受ける」と記載されている。すなわちメカニカル機構だけでθ回転軸の方向を調整している。
【0011】
しかしながら、後述するようにθ回転軸とX-Y平面との直交性が0.001°ずれると、8インチウェーハの両端では、3.5μm(=8inch×sin0.001°≒200mm×sin0.001°)の高低差となる。現在のダイシング装置では、切り込み深さは5μm程度の精度(目標としては2μm以内)は必須であり、θ回転軸の方向は、X-Y平面と直交性が0.001°以内(12インチウェーハを対象とするとさらに精度良く)でなければならない。メカニカル機構だけで、θ軸方向とX-Y平面との直交性を0.001°以内とすることは難しく、θ回転軸の精密な方向調整機構と調整方法が確立されなければこの精度は達成できない。
【0012】
またメカニカルな機構だけで90°回転させ、Y方向を切削すると、Y方向の切削方向からずれて不良品を作ることとなる。特に、近年は12インチウェーハの生産量も拡大しているので、動作精度の粗いメカニカルな機構のみによってワークテーブルを90°回転させる構成を備えるダイシング装置ではその切削精度を十分に確保できない。ダイシング装置でのY方向ズレの許容値は最大で2μm程度である。θ回転の精度としては0.0005°以内が必要となる(例えば0.001°ずれると、8インチウェーハでは3.5μm、12インチウェーハでは5.3μmの角度ズレとなる)。すなわちメカニカルな機構だけで90°回転精度を0.0005°以内とさせることは出来ない。なお、特許文献1には、90°の回転をゼネバ機構で実行すると記載されているが、現在の代表的なダイシング装置では、精密アライメントを実施して、正確な回転角度が実現されるための処理がなされている。また、特許文献1に開示されている装置では、θ回転機構とZ軸移動機構との総計の高さは大きく、高速化、小型化に適さない。
【0013】
現在広く一般的に利用されているダイシング装置は、スピンドル保持機構によってスピンドルをZ軸方向とY軸方向とに移動させる構造が採用されている。特許文献2及び特許文献3に記載されるダイシング装置では、スピンドルはZ軸に沿って上方向から吊り下がる構造となっている。このような構造をとると、Z軸方向に背の高い装置となる。
【0014】
また、ダイシング装置内では、スループットを上げるため、X軸移動機構、Y軸移動機構は出来るだけ高速で稼動させることが求められる。しかしながら、背の高い装置で各軸を高速に動かすと振動が起きやすくなる。更にZ軸移動機構を介して重量の重いスピンドルを固定するため、振動を起こす要因が増加する。ダイシング装置で振動が発生すると、チッピング等が発生しやすくなり、切削性能が悪化する。
【0015】
特許文献2及び特許文献3に記載されるダイシング装置では、重量が重くかつ高速に回転しているスピンドルを、Z軸方向とY軸方向に高精度に高速で移動させることとなり、このためのメカニカル機構が複雑である。また高速に回転しているスピンドルを回転軸と直交したZ軸方向に移動させるため、Z軸方向移動に伴うスピンドルの動的安定性を確保することが難しく、ダイシング装置の製造工程において、スピンドルの移動精度を確認するための調整に長時間を必要とする。
【0016】
上述したように、現在広く利用されているダイシング装置は、スピンドルを移動させるためのメカニカル機構が複雑であり、しかも製造段階でスピンドル保持機構の動作を調整しつつ製造しなければならずこの調整工程に長時間を要する。このためダイシング装置の製造コストが高くなる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この出願の発明者は、Z軸移動機構内にθ回転機構を取り囲んで設置することにより、これら2つの移動機構の総計の高さを低くして一体化したZ軸-θ軸機構を持ったワークテーブル保持機構を構成することが可能であることに思い至った。
【0018】
また、このZ軸-θ軸機構をワークテーブル保持機構に採用すれば、スピンドル保持機構をZ軸方向に移動させる動作が不要となるので、Z軸方向移動時に発生するスピンドルの歳差運動に起因する動的不安定性も解消される。更にスピンドル保持機構からZ軸移動機構が省かれることで、スピンドルを保持する構成部分を単純化して軽量化することも可能で、装置総体の低重心化が図られることに思い至った。
【0019】
したがって、この発明の目的は、装置総体の低重心化が図られ、スピンドルのZ軸方向移動を不要としスピンドル保持機構が単純化された、小型のダイシング装置を提供することにある。
【0020】
上述の理念に基づくこの発明の要旨によれば、以下のダイシング装置が提供される。
【0021】
この発明の第1のダイシング装置は、Y軸移動機構を備え、回転ブレードが装着されたスピンドルユニットを保持するスピンドル保持機構と、ワークを載荷するワークテーブルを保持するワークテーブル保持機構を備えるダイシング装置である。Y軸移動機構は、回転ブレードの回転軸と平行なインデックス送り方向であるY軸方向の移動を行う。
【0022】
ワークテーブル保持機構は、X軸移動機構上に、Z軸移動機構とθ回転機構を備えている。X軸移動機構は、ワークに対する切削送り方向であるX軸方向の移動を行う。Z軸移動機構は、切り込み方向であるZ軸方向の移動を行う。θ回転機構は、Z軸方向に平行な方向をθ回転軸とする回転を行う。
【0023】
このθ回転機構はZ軸移動機構内に取り囲まれるように構成されている。このように構成することで、X軸移動機構、Z軸移動機構、及びこのθ回転機構を単純に積み重ねて構成した場合と比較して、このワークテーブル保持機構の重心位置が低い位置にくるように形成されている。
【0024】
この発明の第2のダイシング装置は、スピンドル保持機構とワークテーブル保持機構を備えるダイシング装置である。
【0025】
ワークテーブル保持機構は、X軸移動機構とY軸移動機構とが組み合わせられたX-Y移動機構と、このX-Y移動機構上にZ軸移動機構とθ回転機構が配置されている。
【0026】
このθ回転機構は、第1のダイシング装置と同様に、Z軸移動機構内に取り囲まれており、X-Y移動機構、Z軸移動機構、及びこのθ回転機構を単純に積み重ねて構成した場合と比較して、このワークテーブル保持機構の重心位置が低い位置にくるように形成されている。
【0027】
第2のダイシング装置の第1のダイシング装置との相違は、第1のダイシング装置にあってはY軸移動機構がスピンドル保持機構側に備えられるのに対して、第2のダイシング装置にあっては、Y軸移動機構がワークテーブル保持機構側に備えられている点にある。
【発明の効果】
【0028】
この発明の第1及び第2のダイシング装置によれば、スピンドル保持機構にはZ軸移動機構が備えられていないので、Z軸移動機構を備える構成と比較してダイシング装置の総体としてZ軸方向の高さを低くすることが可能である。また、スピンドル保持機構の重量を軽量化ができるので、ダイシング装置の総体としての重心位置を低くすることが可能である。
【0029】
ダイシング装置の総体としての重心位置が低いほど、スピンドルを高速回転させた際に、及びワークテーブルをX軸、Y軸、Z軸方向に高速で移動又はθ軸に沿って回転させた際にダイシング装置内で発生する振動の振幅を小さくすることが可能である。ダイシング装置内で発生する振動は、チッピングを発生させ、切削加工性能に大きな影響を与え、振動の振幅が小さいほど切削加工性能を高く保つことができる。
【0030】
Z軸移動機構がスピンドル保持機構側に備えられたダイシング装置においては、スピンドルをZ軸移動機構によってZ軸方向に移動させ、またY軸移動機構によってY軸方向に移動させる構造が採用されている。Z軸方向、Y軸方向のいずれの方向に対しても、高速度移動させることがダイシング装置として優位になるので、Z軸移動機構を備えて重量が重くなっているスピンドル保持機構は、頑強で大掛かりな構造とせざるを得ない。
【0031】
これに対して、スピンドル保持機構にZ軸移動機構を備えていないこの発明の第1及び第2のダイシング装置にあっては、スピンドル保持機構の重量が少なくともZ軸移動機構の重量分軽いので、従来のダイシング装置のスピンドル保持機構ほど大掛かりな構成とする必要がなく小型化が可能である。また、スピンドル保持機構の製造コストを低くすることが可能となる。
【0032】
また、この発明の第1及び第2のダイシング装置によれば、1ラインを切削するごとにスピンドルを上下させる代わりに、ワークテーブル保持機構に組み込まれたZ軸移動機構によってワークテーブルを上下させる。スピンドルを上下させる場合と比較して、ワークテーブル保持機構に組み込まれたZ軸移動機構によってワークテーブルを上下させる方が、スピンドル保持機構より相対的に軽い重量のワークテーブル保持機構を移動させるので、動作スピードを高速化することが可能である。
【0033】
また、スピンドルを上下させる(Z軸方向に移動させる)必要がなくなることから、スピンドル(回転ブレードの回転軸)に歳差運動が発生することもない。この理由は以下のとおりである。
【0034】
回転プレードを高速(例えば30,000〜60,000rpmの回転数で)回転させている状態でスピンドルをZ軸方向に移動させると、角運動量保存則によりスピンドルに歳差運動が発生する。歳差運動により、回転ブレードの回転軸は、Z軸移動前の回転軸方向の周りを3次元的に回転することとなる。このような歳差運動で発生した回転ブレードの回転軸の3次元的な回転は、回転ブレードの切削端では、切り込み深さを正確に制御することを困難にする。そして回転ブレードの回転軸の3次元的な回転は、ダイシング装置内で振動も発生させる。
【0035】
歳差運動は回転スピードに依存し、回転スピードが速くなると大きくなる。高速回転するスピンドルをZ軸方向に移動させるのに伴い発生するスピンドルの3次元的な回転運動は「スピンドルの暴れ」として、ダイシング装置の製造工程では知られている。従来のダイシング装置では、スピンドル保持機構を頑強で大掛かりな構造とすることで、歳差運動を抑えている。なお既知の知識として、高速回転する剛体では剛体の重心点において力の釣り合いとモーメントの釣り合いが必要であること、及びモーメントが釣り合わなくなると回転力が働き、歳差運動が発生する(角運動量保存則)ことが知られている。そして回転力の大きさは、回転軸の方向と力の方向(移動方向)との角度の正弦(sine)に依存する。
【0036】
この発明の第1及び第2のダイシング装置によれば、Z軸移動機構をワークテーブル保持機構側に備える構成とされているので、スピンドルを回転ブレードの回転軸と直交するZ軸方向に移動させる必要がない構成である。従って、この発明の第1及び第2のダイシング装置においては、スピンドルの歳差運動に伴うダイシング装置内に発生する振動をなくすことが可能となる。
【0037】
更に、従来のダイシング装置の製造工程おいては、スピンドルにチェック用の回転ブレードを取り付けて、回転動作をさせた状態で、装置全体の振動等の動的な特性(歳差運動の発生特性等)をチェックしつつ、スピンドルをスピンドル保持機構に取り付ける作業を行う必要があった。これに対して、この発明の第1及び第2のダイシング装置は、スピンドルを回転ブレードの回転軸に対して直角の方向(Z軸方向)に移動させない構成であるので、歳差運動の発生についての考慮を払う必要がなく、スピンドル保持機構の製造工程が簡略化される。
【0038】
また、この発明の第2のダイシング装置のスピンドル保持機構は、Z軸移動機構と共にY軸移動機構も取り付ける必要がないので、第1のダイシング装置のスピンドル保持機構の製造工程より一層簡略化される。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】従来の典型的なダイシング装置の概略的構成を示す図である。
【図2】この発明の実施形態の第1のダイシング装置の概略的構成を示す図である。
【図3】この発明の実施形態の第2のダイシング装置の概略的構成を示す図である。
【図4】Z軸移動機構の概略的構成を示す斜視図である。
【図5】クロスローラの概略的構成を示す斜視図である。
【図6】Z軸移動機構固定部に対してZ軸移動機構可動部を上下させるための動力伝達機構についての説明に供する図である。
【図7】動力伝達機構の設置箇所についての説明に供する図である。
【図8】ボールネジ駆動装置のZ軸移動機構可動部底面板への取り付け形態についての説明に供する図である。
【図9】Z軸移動機構のX-Y移動機構への装着についての説明に供する図である。
【図10】Z軸移動機構内へθ回転機構が取り囲まれるように設置されて実現される装着形態についての説明に供する図である。
【図11】θ回転機構の概略的構成を示す斜視図である。
【図12】θ回転機構のZ軸移動機構への装着についての説明に供する図である。
【図13】Z軸-θ軸機構のZ軸方向及びθ軸方向の調整についての説明に供する図である。
【図14】θ回転角度に対する高さ方向の変位量を与える関数を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、図を参照して、この発明の実施の形態につき説明する。なお、各図は、この発明が理解できる程度に各構成部分を概略的に示してあるに過ぎず、この発明を図示例に限定するものではない。また、各図において同じ構成要素については同一の番号を付して示し、これらの機能等に関して、その重複する説明を省略することもある。
【0041】
<従来のダイシング装置>
まず、この発明の実施形態のダイシング装置の説明に先立ち、従来の典型的なダイシング装置の構造及びその動作について説明し、この発明が解決しようとする課題を具体的に明らかにする。
【0042】
図1は、従来の典型的なダイシング装置の概略的構成を示す図である。図1は、以下に述べる課題についての説明に必要な範囲で構成要素を限定し、かつ各構成要素を簡略化して概念的に示した図であり、産業上利用されている現実の装置の形態を厳密に示すものではない。
【0043】
ダイシング装置は、回転ブレードを高速回転させて半導体基板等のワークに対して相対的にX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向に移動させつつワークを切削加工する装置である。
【0044】
回転ブレード22はスピンドル20の回転軸48に装着されており、このスピンドル20がスピンドル支持部材18-4に固定されている。スピンドル支持部材18-4はZ軸方向に移動するZ軸移動テーブル18-3に固定される。Z軸移動テーブル18-3はZ軸ガイド18-1に沿ってスライドさせることが可能な構成とされている。Z軸ボールネジ18-2によりZ軸移動テーブル18-3が精度良く移動することで、切り込み深さの精密な制御が実行される。
【0045】
したがって、従来のダイシング装置にあっては、Z軸ガイド18-1、Z軸ボールネジ18-2、Z軸移動テーブル18-3、及びスピンドル支持部材18-4によって、Z軸移動機構18が構成されている。そして、Z軸ガイド18-1及びZ軸ボールネジ18-2がY軸移動機構14に固定され、スピンドル支持部材18-4にスピンドル20が固定されている。すなわち、スピンドル20の回転軸48の方向であるY軸方向の移動を行うY軸移動機構14とZ軸移動機構18とを備えてスピンドル保持機構30が構成されている。また、Y軸移動機構14は、Y軸ガイド14-1、Y軸ボールネジ14-2、Y軸移動テーブル14-3、及びY軸支持体14-4を備えて構成される。
【0046】
スピンドル20はZ軸移動機構18とY軸移動機構14とを介して台座10に設置されており、スピンドル保持機構30によって、スピンドル20をZ軸方向とY軸方向とに移動させることが可能な構成となっている。
【0047】
一方、半導体基板等のワーク26はワークテーブル24に真空吸着法等の手法で載荷されており、このワークテーブル24はθ回転機構16の上部に固定されている。また、θ回転機構16はX軸移動機構12に固定され、このX軸移動機構12は台座10に固定されている。すなわち、スピンドル20の回転軸48と直交する方向であるX軸方向の移動を行うX軸移動機構12と、θ回転機構16とを備えてワークテーブル保持機構28が構成されている。そして、スピンドル保持機構30とワークテーブル保持機構28は、共通の台座10に固定されている。X軸移動機構12のX軸移動機構固定部としては、X軸ガイド12-1及びX軸ボールネジ12-2を備えて構成される。X軸移動機構12のX軸移動機構可動部は、ボールネジナット(図示を省略してある)及びX軸移動テーブル12-3を備えている。
【0048】
上述したように、従来のダイシング装置では、ワークテーブル保持機構28側にθ回転機構16とX軸移動機構12とを備え、スピンドル保持機構30側にZ軸移動機構18とY軸移動機構14とを備えた構成とされている。スピンドル20の重量は重くかつ高速回転するため、十分な精度でスピンドル20を移動させるZ軸移動機構18とY軸移動機構14をスピンドル保持機構30側に備えることは、その構造を複雑化させている。このため装置総体として小型化することが難しい。
【0049】
スピンドル保持機構30側にZ軸移動機構18とY軸移動機構14とを備えた構成とすると、ダイシング装置としてZ方向に背丈の高い構造となるので、装置総体としての重心位置が高くなる。1回の切削スピードを速めるためX軸移動機構12の速度を上げた場合に、Z軸方向に背丈の高い構造は、ダイシング装置内に振動を発生させ易い構造である。また重量の重いスピンドル保持機構30を1回の切削で上下移動させるため、ダイシング作業における切削作業効率を向上させることに限界がある。
【0050】
また、Z軸方向、Y軸方向のいずれの方向に対してもスピンドルを高速度移動させることが要求されるので、Z軸移動機構18を備えて重量が重くなっているスピンドル保持機構30は頑強で大掛かりな構造である。
【0051】
<第1のダイシング装置>
図2を参照して、この発明の実施形態の第1のダイシング装置の構成及びその動作について説明する。図2も図1と同様に、説明に必要な範囲で構成要素を限定し、しかも各構成要素を簡略化して概念的に示した図であり、この発明の実施に当たって具体的に構成されるダイシング装置の細部にわたる厳密な形状及び構成を示すものではない。特に、第1のダイシング装置の特徴であるスピンドル保持機構及びワークテーブル保持機構が備えるX軸移動機構の配置関係を概念的に示してあるにすぎない。第1のダイシング装置が備えるスピンドル保持機構及びワークテーブル保持機構の詳細な構成及び動作については、新たに図面を参照して詳細に後述する。
【0052】
従来のダイシング装置にあってはスピンドル保持機構側にZ軸移動機構が備えられているのに対して、この発明の実施形態の第1のダイシング装置ではワークテーブル保持機構40側に、Z軸移動機構34内にθ回転機構16を取り囲んで設置して一体化形成したZ軸-θ軸機構50を備えている。
【0053】
回転ブレード22はスピンドル20の回転軸48に装着されており、このスピンドル20がスピンドル支持部材36に固定されている。スピンドル支持部材36にはY軸移動機構14とスピンドル20とが強固に固定されている。Y軸移動機構14はスピンドル固定台38に固定されている。また、回転ブレード22の回転軸の方向であるY軸方向の移動を行うY軸移動機構14と、スピンドル支持部材36と、スピンドル固定台38とが組み合わせられてスピンドル保持機構32が構成されている。したがって、スピンドル20はスピンドル支持部材36とY軸移動機構14とスピンドル固定台38とを介して台座10に設置されている。このような構成とすることによって、スピンドル20をスピンドル保持機構32によってY軸方向に沿って移動させることが可能となる。
【0054】
スピンドル20のハウジングにはフランジが設けられ、フランジ端面をスピンドル20の精度基準面として、スピンドル20はこの面を精度の基準として製作される。スピンドル20はこのフランジによってスピンドル支持部材36に固定される。スピンドル取付け時は、フランジのボルトの締付トルクは管理される。このようにスピンドル支持部材36を介してY軸移動機構14とスピンドル20とが強固に固定されている。
【0055】
一方、半導体基板等のワーク26はワークテーブル24に、従来装置と同様に、真空吸着法等の手法で載荷されており、このワークテーブル24はZ軸移動機構34とθ回転機構16とが組み合わせられたZ軸-θ軸機構50の上部に固定されている。また、Z軸-θ軸機構50はX軸移動機構12に固定され、このX軸移動機構12は台座10に固定されている。すなわち、X軸移動機構12及びZ軸-θ軸機構50を備えてワークテーブル保持機構40が構成されている。
【0056】
X軸移動機構12としては、従来のダイシング装置が備える移動機構と同一のものを利用すればよく、例えば、ダイレクトドライブモータや、ボールネジとリニアガイドを用いたスライド機構を適宜利用することが可能である。
【0057】
ワークテーブル保持機構40は、Z軸移動機構34を備えていることに特徴があり、Z軸移動機構34にθ回転機構16を固定する機構には、θ回転機構16とZ軸移動機構34との総合的高さを低く抑えるため、Z軸移動機構内にθ回転機構を取り囲んで設置する構造が採用されている。そして、ワークテーブル24の回転時の平面性を確保するため、θ軸方向及びZ軸方向の傾きのずれをそれぞれ適宜調整できる機構(後述するθ軸方向調整ネジ及びZ軸方向調整ネジ)を併せ持つ構造とされている。
【0058】
スピンドル保持機構32とワークテーブル保持機構40は、従来のダイシング装置と同様の固定方法で共通の台座10に固定されている。
【0059】
<第2のダイシング装置>
図3を参照して、この発明の実施形態の第2のダイシング装置の構成及びその動作について説明する。図3も図1及び図2と同様に、説明に必要な範囲で構成要素を限定し、しかも各構成要素を簡略化して概念的に示した図であり、この発明の実施に当たって具体的に構成されるダイシング装置の細部にわたる厳密な形状及び構成を示すものではない。特に、第2のダイシング装置の特徴であるスピンドル保持機構、並びにワークテーブル保持機構が備えるX軸移動機構及びY軸移動機構の配置関係を概念的に示してあるにすぎない。第2のダイシング装置が備えるスピンドル保持機構及びワークテーブル保持機構の詳細な構成及び動作については、新たに図面を参照して詳細に後述する。
【0060】
この発明の実施形態の第2のダイシング装置の特徴は、ワークテーブル保持機構44側に、Y軸移動機構14、Z軸移動機構34、X軸移動機構12、及びθ回転機構16を備える構成とした点にある。X軸移動機構12は、X軸ガイド12-1、X軸ボールネジ12-2、X軸移動テーブル12-3、及びX軸支持体12-4を備えている。X軸移動機構12は、X軸移動機構12の構成要素であるX軸支持体12-4を挟んでY軸移動テーブル14-3の上に設置されている。すなわち、この発明の実施形態の第2のダイシング装置は、スピンドル保持機構46側には移動機構を設けず、スピンドル保持機構46は台座10に固定されたままの状態が維持される構成とされている。
【0061】
回転ブレード22は、スピンドル20の回転軸48に装着されており、このスピンドル20が、スピンドル20のハウジングのフランジによってスピンドル支持部材36に固定されている。スピンドル支持部材36にはスピンドル固定台38が強固に固定されている。スピンドル固定台38には移動機構が設けられておらず、直接台座10に固定されている。すなわち、スピンドル保持機構46は、スピンドル支持部材36とスピンドル固定台38とによって構成されている。
【0062】
一方、半導体基板等のワーク26はワークテーブル24に、従来装置と同様に真空吸着法等の手法で載荷されている。このワークテーブル24は、X軸移動機構12とY軸移動機構14とが組み合わせられたX-Y移動機構52と、X-Y移動機構52上にZ軸移動機構34内にθ回転機構16を取り囲んで設置して一体化構成されたZ軸-θ軸機構50の上に固定されている。すなわち、X-Y移動機構52及びZ軸-θ軸機構50を備えてワークテーブル保持機構44が形成されている。
【0063】
θ回転機構16にZ軸移動機構34を固定する機構には、θ回転機構16とZ軸移動機構34との総合的高さを低く抑えるため、Z軸移動機構34内にθ回転機構16を取り囲んで設置された構造とされており、回転時の平面性を確保するためにθ軸方向及びZ軸方向の傾きをそれぞれ適宜調整できる機構を併せ持つ構造とされている。
【0064】
これをもとに、スピンドル保持機構46とワークテーブル保持機構44は、従来のダイシング装置と同様の固定方法で共通の台座10に固定されている。
【0065】
上述したように、この発明の実施形態の第2のダイシング装置では、ワーク26を載荷するワークテーブル保持機構44側にZ軸-θ軸機構50及びX-Y移動機構52を備え、スピンドル20を保持するスピンドル保持機構46側には移動機構を一切備えない構成とされている。
【0066】
<精密アライメント工程>
ここで、この発明の実施形態の第1及び第2のダイシング装置において、切削対象であるウェーハ等のワーク26の表面とθ回転機構16のθ回転軸の方向とが直交するように調整する工程は、従来のダイシング装置においてとられている方法と同様の周知の方法で実施することが可能である。
【0067】
また、第1及び第2のダイシング装置において、θ回転機構16において、ワークの載荷の角度ズレ12°を加え、372°(=360°+12°)回転可能として0°〜372°回転する機能を有するθ回転機構を採用すれば、ワークテーブル24をX方向、Y方向、-X方向、及び-Y方向に回転させることにより、ゆとりをもってワーク26を0°〜360°回転させてワーク26を切削する工程の実施が可能となる。ワーク26に対して、X方向、Y方向、-X方向、及び-Y方向に切削するために、予めX方向、Y方向、-X方向、及び-Y方向にアライメントを実施し、それぞれのθ軸の回転角度を、コンピュータシステムのメモリにセイブしておく。現在のダイシング装置では、切削方向とチップのストリートとの方向とが合致するように、精密アライメント工程の角度追い込み処理で正確にθ軸の回転角度を求める手法が使われる。
【0068】
切削を実行する工程の前に、第1のダイシング装置においてはワークテーブル保持機構40の-X方向に対して、第2のダイシング装置においてはワークテーブル保持機構44の-X方向及び-Y方向に対して精密アライメントを実施して、θ軸の回転角度を求めておく。このような処理をしておくことによって、切削を実行する工程では、X方向とY方向の切削だけでなく、-X方向、及び-Y方向の切削工程を有し、アライメントで求めた回転角度をメモリから読み出し、θ軸の回転角度をその角度に位置づけて切削を行うことが可能となる。
【0069】
<Z軸-θ軸機構>
図4〜図12を参照して、Z軸移動機構34内にθ回転機構16を取り囲んで設置して一体化して形成されるZ軸-θ軸機構50の構成について説明する。
【0070】
以下、Z軸-θ軸機構50を構成するZ軸移動機構34の構成について、Z軸方向への移動メカニズム及び移動のための動力機構について説明し、θ回転機構16の構成及びZ軸移動機構34への装着形態について順次説明する。
【0071】
図4は、Z軸移動機構34の概略的構成を示す斜視図である。Z軸移動機構34は、U字型のZ軸移動機構固定部60内に、Z軸移動機構可動部64が取り囲まれて設置されて構成されている。
【0072】
Z軸移動機構34は、Z軸移動機構固定部60に対してZ軸移動機構可動部64を上下方向に滑らかに動かすことでZ軸方向の移動が実現される。例えば、Z軸移動機構固定部60とZ軸移動機構可動部64とがガイド機構を介して互いに接触する構成とし、互いにガイド機構において摺動するように形成すればよい。又は、図4に示すように、Z軸移動機構固定部60とZ軸移動機構可動部64とをクロスローラ66によって滑らかに動かすことでZ軸方向の移動が実現される。クロスローラ66は、クロスローラガイド66-1と66-2とが組み合わせられて構成される。
【0073】
Z軸移動機構固定部60にはクロスローラガイド66-1が取り付けられており、Z軸移動機構可動部64にはクロスローラガイド66-2が取り付けられている。クロスローラガイド66-1と66-2の組み合わせは、図4に示すように4箇所に形成されている。
【0074】
Z軸移動機構可動部64のZ軸移動機構可動部底面62には、後述するθ回転機構16が設置される。このように、Z軸移動機構34に対してθ回転機構16が設置されることによって、θ回転機構16がZ軸移動機構34内に取り囲まれて設置される。
【0075】
図5を参照してクロスローラ66の構成の一例を説明する。クロスローラ66は、クロスローラガイド120、クロスローラガイド122、及び円筒コロ126を備えている。クロスローラガイド122にV字形の溝が形成されており、この溝に円筒コロ126が挿入されている。円筒コロ126を介してクロスローラガイド120に対してクロスローラガイド122が滑らかに移動する。これによって、Z軸移動機構固定部60に対してZ軸移動機構可動部64を上下方向に滑らかに移動させることが可能となる。
【0076】
図6を参照して、Z軸移動機構固定部60に対してZ軸移動機構可動部64を上下させるための動力伝達機構56について説明する。動力伝達機構56は、ボールネジ駆動装置70、ボールネジナット72、及びボールネジ74が組み合わせられて構成される。
【0077】
Z軸移動機構可動部64にはボールネジナット72が取り付けられており、Z軸移動機構固定部60にはボールネジ駆動装置70が取り付けられている。図6では、ボールネジ駆動装置70の詳細な構成を省略し、ボールネジ駆動装置70が空間的に占める領域を破線で囲って示してある。
【0078】
ボールネジ74がボールネジ駆動装置70によって回転すると、ボールネジ74が噛合っているボールネジナット72に力が伝達し、Z軸移動機構固定部60に対してZ軸移動機構可動部64が移動する。Z軸移動機構可動部64の移動方向はボールネジ74の回転方向によって決まる。
【0079】
図7を参照して、動力伝達機構56の設置箇所について説明する。図7では、図面が煩雑化することを避けるため、Z軸移動機構可動部64のZ軸移動機構可動部底面板68と、動力伝達機構56を構成するボールネジナット(72-1、72-2)、及びボールネジ(74-1、74-2)だけを取り出して示してある。Z軸移動機構可動部底面板68とはZ軸移動機構可動部64の底面を構成する部材であり、図6に示したように、Z軸移動機構可動部64を構成している側壁部64-Sと一体化されている。
【0080】
図7では、Z軸移動機構可動部底面板68の2箇所に動力伝達機構56が設けられている。1箇所目はボールネジナット72-1でありこれにはボールネジ74-1が噛み合わせられており、2箇所目はボールネジナット72-2でありこれにはボールネジ74-2が噛み合わせられている。ここでは、動力伝達機構56が2箇所に設けられている例を示したが1箇所でもよい。
【0081】
図8(A)及び(B)を参照して、ボールネジ駆動装置70のZ軸移動機構可動部底面板68への取り付け形態について説明する。図8(A)は、ボールネジ74の軸方向がボールネジ駆動装置70を構成するモータ54の回転軸に対して垂直に取り付けられている例を示し、図8(B)は、ボールネジ74の軸方向がボールネジ駆動装置70を構成するモータ54の回転軸に対して平行に取り付けられている例を示している。
【0082】
ボールネジナット72は、Z軸移動機構可動部底面板68に取り付けられている。モータ54の回転がカップリング部76に伝えられ、カップリング部76の回転となる。カップリング部76はボールネジ74に接合されており、カップリング部76の回転がボールネジ74の回転となる。ボールネジ74は、ボールネジナット72と噛合っているので、ボールネジ74の回転によって、Z軸移動機構可動部底面板68が上下方向に滑らかに移動する。すなわち、ボールネジ74の回転によって、Z軸移動機構可動部64がZ軸移動機構固定部60に対して上下方向に滑らかに移動する。
【0083】
図8(A)あるいは図8(B)のいずれの形態を採用するかは、Z軸-θ軸機構のワークテーブル保持機構への設置の都合により適宜選択される。
【0084】
図9を参照して、Z軸移動機構34のX-Y移動機構52への装着について説明する。図9においては、X-Y移動機構52が、Y軸移動機構110の上にX軸移動機構100が積み重ねられることによって形成された構成例を示しているが、X-Y移動機構52を、X軸移動機構100上にY軸移動機構110を積み重ねて形成された構成としてもよい。
【0085】
また、図9では、Z軸移動機構34が空間的に占める領域を一点破線で囲って示し、Z軸移動機構34についてZ軸移動機構固定部60とZ軸移動機構可動部底面板68の部分以外の詳細な構成部分を省略してある。
【0086】
Z軸移動機構34のZ軸移動機構固定部60をX軸移動機構100の上面に固定するに当っては、Z軸移動機構固定部60の底部の3箇所にZ軸方向調整ネジ(92-1、92-2、92-3)を取り付け、このZ軸方向調整ネジによって、Z軸移動機構固定部60のX軸移動機構100の上面に対する姿勢が調整可能としてある。この三箇所に設けられたZ軸方向調整ネジによってZ軸移動機構固定部60の姿勢を調整し、X軸移動機構100の上面に対するZ軸移動機構34のZ軸方向が調整される。そしてZ軸移動機構34は3点支持で固定される。
【0087】
図10を参照して、Z軸移動機構34内へθ回転機構16が取り囲まれるように設置されて実現される装着形態について説明する。図10においては、Z軸移動機構34が空間的に占める領域を一点破線で囲って示し、Z軸移動機構34についてZ軸移動機構固定部60とZ軸移動機構可動部底面板68の部分以外の詳細な構成部分を省略してある。また、θ回転機構16についても、詳細な構成部分を省略してある。
【0088】
図10に示すように、Z軸移動機構34内へθ回転機構16が取り囲まれるように設置する構成とすることによって、Z軸移動機構34とθ回転機構16とを積み重ねて構成した場合と比較してワークテーブル保持機構の重心位置が低くなる。
【0089】
図11を参照してθ回転機構16の構成を説明する。θ回転機構16は、ステイター部86とローター84とで構成されるダイレクトドライブモータ(DDモータ)80にワークテーブル82が設置されて構成される。図11に示すθ回転機構16と、図2及び図3に示したθ回転機構16とワークテーブル24との関係は以下のとおりである。図11に示すワークテーブル82が図2及び図3に示したワークテーブル24に対応し、図11に示すDDモータ80が図2及び図3に示したθ回転機構16に対応する。
【0090】
DDモータ80を利用する理由は、ワークテーブル82の回転を、ゼネバ機構等を利用する粗いメカニカルな機構だけで実現させるより高精度な回転が実現されるように配慮した結果である。DDモータ80を利用したθ回転機構16はソフトウエアでサポータされたサーボシステムで、精密アライメントにより、切削対象ウェーハの角度ズレを許容値以内となるようにθ回転角度を調整する。調整された角度は精密アライメントの結果としてメモリにセイブされる。
【0091】
ローター84は中空構造(図示を省略してある。)であり、この中空の内部に真空チューブ等を配置する。真空チューブ(図示を省略してある。)は、ワークをワークテーブル82に真空吸着するための真空吸着機構を構成する部品である。
【0092】
図12を参照して、θ回転機構16のZ軸移動機構34内への装着について説明する。図12では、Z軸移動機構34についてZ軸移動機構可動部底面板68の部分以外の詳細な構成部分を省略してある。
【0093】
θ回転機構16をZ軸移動機構可動部底面板68の上面に固定するに当っては、Z軸移動機構可動部底面板68の底部の3箇所にθ軸方向調整ネジ(90-1、90-2、90-3)を取り付け、このθ軸方向調整ネジによって、θ回転機構16のZ軸移動機構可動部底面板68の上面に対する姿勢を調整可能としてある。この三箇所に設けられたθ軸方向調整ネジによってθ回転機構16の姿勢を調整し、Z軸移動機構可動部底面板68の上面に対するθ回転機構16のθ軸方向が調整される。そしてθ回転機構16は3点支持で固定される。
【0094】
<Z軸-θ軸機構のZ軸方向及びθ軸方向の調整>
Z軸-θ軸機構50のZ軸方向及びθ軸方向は、X-Y平面に対して直交するようにダイシング装置に組み込まなければならない。ダイシング装置の組み立てでは、先ず台座にX軸移動機構とY軸移動機構とが据え付けられ、X軸とY軸の直交性が調整される。X軸移動機構とY軸移動機構とが調整されると、X軸移動機構100(図2及び図3に示したX軸移動テーブル12-3)の上面にX-Y平面が形成される。このX-Y平面は、Z軸-θ軸機構取付けの基準平面となるので、X軸移動機構でX方向を移動させ、Y軸移動機構でY方向を移動させ、X軸移動機構100の上面の高さを接触式電気マイクロメータで測定し、平面の精度を確認する。なお接触式電気マイクロメータは、この発明の実施形態の第1のダイシング装置では、Y軸移動機構の適宜な位置に冶具によって取り付け、この発明の実施形態の第2のダイシング装置では、台座の適宜な位置に冶具によって取り付ける。
【0095】
図13を参照して、ダイシング装置にZ軸-θ軸機構50を組み込む時に実行されるZ軸方向及びθ軸方向の調整について説明する。図13は、X軸移動機構100の上面に置かれたZ軸-θ軸機構50のZ軸-θ軸の方向に垂直の方向から見た概略的構成図である。図13では、Z軸方向調整ネジ(92-1、92-2、92-3)及びθ軸方向調整ネジ(90-1、90-2、90-3)の内、Z軸方向調整ネジ92-3とθ軸方向調整ネジ90-3の図示を省略してある。
【0096】
Z軸方向及びθ軸方向に当っては、まずZ軸方向及びθ軸方向の調整作業を残し完成されたZ軸-θ軸機構50をX軸移動機構100の上面に置く。図13では、X軸移動機構100の上面を調整用基準平面として採用している。すなわち、Z軸移動機構34のZ軸移動機構固定部60の底面が、X軸移動機構100の上面の直上にくるようにZ軸-θ軸機構50が置かれている。
【0097】
図13には、Z軸方向の傾き及びθ軸方向の傾きを、それぞれ計測するための装置を含めて示してある。図13において、Pで示す矢印はZ軸が傾いたときに影響が現れる方向を示し(Z軸方向の傾きは3次元的な方向となるのでPは紙面に示される成分と紙面に垂直な成分とからなる)、Qで示す矢印はθ軸が傾いたときに影響が現れる方向を示している(図13ではX軸に平行な断面として示す)。
【0098】
ワークテーブル82の上面の傾きを測定する装置は、高さ測定プローブ94A及び94Bである。高さ測定プローブ94Aによってワークテーブル82の上面Aの位置(高さ測定点A)の高さが測定され、高さ測定プローブ94Bによってワークテーブル82の上面Bの位置(高さ測定点B)の高さが測定される。
【0099】
Z軸-θ軸機構50のZ軸方向の傾きは、Z軸方向測定プローブ96-1及び96-2によって測定される。Z軸方向測定プローブ96-1及び96-2の測定端は、Z軸移動機構可動部64の側壁部64-Sに設けられたZ軸方向測定用基準部材98-1及び98-2に接触させてある。Z軸方向測定プローブ96-1によってZ軸方向の傾きのX方向成分が測定され、Z軸方向測定プローブ96-2によってZ軸方向の傾きのY方向成分が測定される。
【0100】
高さ測定プローブ94A及び94BとZ軸方向測定プローブ96-1及び96-2は、測定プローブ支持基体88-1、88-2に固定されている。また測定プローブ支持基体88-1、88-2は、X軸移動機構100の上面に固定されている。
【0101】
これらの測定プローブとしては、接触式電気マイクロメータが使われる。この接触式電気マイクロメータは、最小0.1μmの測定精度を有している。
【0102】
まず、Z軸-θ軸機構50のZ軸方向を調整する。この調整はZ軸方向調整ネジ(92-1、92-2、92-3)を用いて、Z軸方向測定プローブ96-1及び96-2で変位量を計測しつつ実行する。Z軸方向の調整は、具体的には、Z軸移動機構可動部64を上下させてZ軸方向測定プローブ96-1及び96-2で測定される変位量が高さに依存しないように、Z軸方向調整ネジ(92-1、92-2、92-3)を用いて調整する作業である。
【0103】
続いてθ回転機構16のθ軸方向を調整する。この調整はθ軸方向調整ネジ(90-1、90-2、90-3)を用いて、高さ測定プローブ94A及び94Bで変位量を計測しつつ実行する。θ回転機構16のθ軸方向の調整には、ワークテーブル82の高さ測定点A及びθ軸に対してこの高さ測定点Aと180°の位置の高さ測定点Bの高さ方向の変位量を計測することによって行う。測定点Aの位置及び測定点Bの位置における変位量は、それぞれ高さ測定プローブ94A及び94Bによって計測される。
【0104】
θ回転機構16が0°〜360°範囲で回転可能な構成である場合には、θ軸方向の調整に当って高さ方向の変位量の計測は一箇所で行えばよい。その場合は、高さ測定プローブ94A及び94Bのいずれか一方を用いればよい。
【0105】
θ回転角度に対する高さ測定プローブ94A及び94Bによる高さ方向の変位量をグラフ化すると、ほぼ正弦曲線に類似した曲線になる。図14に、θ回転角度に対する高さ方向の変位量を与える関数を示す。図14には、θ回転機構16が0°〜180°範囲で回転可能な構成である場合を示しており、実線で高さ測定点Aにおける変位量の変動を示し、破線で高さ測定点Bにおける変位量の変動を示している。θ回転機構16が0°〜360°範囲で回転可能な構成である場合は、高さ測定点AあるいはBのいずれか一箇所における計測で0°〜360°にわたって変位量が得られる。
【0106】
図14に示す測定点Aの変位量の変動は、θ=0°、180°において0となり、測定点Bの変位量の変動は、180°、360°で0になる場合を示しているが、一般に変位量が0となる位置はこれらの角度に限らない。いずれにしても高さ方向の変位量を与える関数は、0°〜360°を1周期とする正弦曲線に類似した曲線で与えられる。
【0107】
θ軸方向の調整はθ軸方向調整ネジ(90-1、90-2、90-3)を用いて、高さ測定プローブ94A及び94Bで変位量を計測しつつ実行する。具体的にθ軸方向の調整とは、θ回転機構16でワークテーブル82を1回転させて高さ測定プローブ94A及び94Bで測定される変位量を与える正弦曲線に類似した曲線の振幅が0になるように、θ回転機構16のZ軸移動機構可動部底面板68の上面に対する姿勢を、θ軸方向調整ネジ(90-1、90-2、90-3)を用いて調整する作業である。
【0108】
通常のダイシング装置のワークテーブルのZ軸方向の可動範囲幅は40 mm以下である。ワークであるウェーハの厚みは1 mm以下であるので、切り込み深さの制御だけであれば、Z軸方向の可動範囲幅は1 mm程度でよい。しかしながら、使われる回転ブレードの直径が一種類ではないので、Z軸方向の可動範囲幅は最大40 mm程度に設定されている。
【0109】
ここで、Z軸方向が0.01°傾いている場合を想定する。この場合、ワークテーブルの位置を下から上に向って、あるいは上から下に向って40 mm移動させたとき、X-Y平面内で7μm(=40mm×sin0.01°)の位置ずれ誤差が発生する。この誤差は、図13においてPで示す方向に発生する。
【0110】
一方、θ軸の方向が0.01°傾いている場合を想定する。ワークである8インチウェーハの直径の左右両端を200 mmとしたとき、この2点間で深さ方向(Z軸方向)に最大35μm(=200mm×sin0.01°)の深さ方向のずれ誤差が発生する。この誤差は、図13においてQで示す方向に発生する。これだけの深さ方向のずれ誤差が発生すると、ダイシング装置として切り込み深さの制御ができないこととなる。
【0111】
以上の試算結果から、Z軸方向とθ軸方向とで同じ角度傾いた場合、Qで示すθ軸方向の傾きの影響は、Pで示すZ軸方向の傾きの影響より大きく現れる。このことは、ワークテーブル82の回転軸となるθ軸方向の調整が切り込み深さの制御を行う上で重要なポイントとなることを示唆している。
【0112】
一般にダイシング装置としては、θ軸方向はZ軸方向より高精度で調整する必要がある。上述したようにZ軸方向が0.01°傾いてもX-Y平面内の切削位置精度には大きな影響を与えないが、θ軸方向が0.01°傾くと切り込み深さの制御は不可能となる。また、このX-Y平面内の切削位置ずれについては、ダイシング装置の制御システムの制御プログラム上でX-Y平面内の位置ずれ情報を組み込んでおくことによって対処可能である。これに対して、θ軸のずれはダイシング装置の基本的機能である切り込み深さの制御を不可能にする。
【0113】
このようにθ軸方向の傾きはZ軸方向の傾きよりも1桁以上の高精度を持って調整する必要がある。仮にθ軸方向が0.001°傾いているとすると、8 inchウェーハの両端では3.5μm(=200 mm ×sin0.001°)の高さの差となって現れる。θ軸方向の傾きは0.0005°以内であることが必要である。Z軸-θ軸機構のZ軸方向及びθ軸方向の調整は、この点に留意して行うことが求められる。すなわち、θ軸方向の調整を調整ネジ等のメカニカルな調整手段を以って予め重点的に高精度に行うことが重要である。
【0114】
以上説明したZ軸方向及びθ軸方向の調整作業が完了したら、測定プローブ支持基体(88-1、88-2)、高さ測定プローブ(94A、94B)、Z軸方向測定プローブ(96-1、96-2)、及びZ軸方向測定用基準部材98-1及び98-2を取り去ることによって、Z軸-θ軸機構50の調整作業が終了する。
【0115】
また予め精密定盤上で、Z軸-θ軸機構50のZ軸方向及びθ軸方向を調整しておき、その後にダイシング装置のX軸移動機構100の上面に組み込むようにすると、調整作業は容易となる。
【符号の説明】
【0116】
10:台座
12、100:X軸移動機構
12-1:X軸ガイド
12-2:X軸ボールネジ
12-3:X軸移動テーブル
12-4:X軸支持体
14、110:Y軸移動機構
14-1:Y軸ガイド
14-2:Y軸ボールネジ
14-3:Y軸移動テーブル
14-4:Y軸支持体
16:θ回転機構
18、34:Z軸移動機構
18-1:Z軸ガイド
18-2:Z軸ボールネジ
18-3:Z軸移動テーブル
18-4、36:スピンドル支持部材
20:スピンドル
22:回転ブレード
24、82:ワークテーブル
26:ワーク
28、40、44:ワークテーブル保持機構
30、32、46:スピンドル保持機構
38:スピンドル固定台
48:回転軸
50:Z軸-θ軸機構
52:X-Y移動機構
54:モータ
56:動力伝達機構
60:Z軸移動機構固定部
62:Z軸移動機構可動部底面
64:Z軸移動機構可動部
66:クロスローラ
66-1、66-2、120、122:クロスローラガイド
68:Z軸移動機構可動部底面板
70:ボールネジ駆動装置
72、72-1、72-2:ボールネジナット
74、74-1、74-2:ボールネジ
76:カップリング部
80:ダイレクトドライブモータ(DDモータ)
84:ローター
86:ステイター部
88-1、88-2:測定プローブ支持基体
90-1、90-2、90-3:θ軸方向調整ネジ
92-1、92-2、92-3:Z軸方向調整ネジ
94A、94B:高さ測定プローブ
96-1、96-2:Z軸方向測定プローブ
98-1、98-2:Z軸方向測定用基準部材
126:円筒コロ
【技術分野】
【0001】
この発明はダイシング装置に関し、特にワークテーブル保持機構及びスピンドル保持機構の構成部分の低重心化を図り、切削性能を向上させたダイシング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイシング装置は、加工対象である半導体や電子部品材料等のワークに対し、相対的に、回転ブレードを切り込み方向、切削送り方向、及びインデックス送り方向に移動させて当該ワークを賽の目状に切削加工する装置である。
【0003】
ここで、説明の便宜のために、ダイシング装置に対して互いに直交するX軸、Y軸、及びZ軸からなる直交座標系を以下のように設定する。すなわち、切り込み方向をZ軸方向にとり、インデックス送り方向をY軸方向にとり、切削送り方向をX軸方向にとる。切り込み方向とは、半導体ウェーハ等のワークに対して回転ブレードを切り込ませる切込み深さの方向である。インデックス送り方向とは、回転ブレードの回転軸に平行な方向である。また、切削送り方向とは、回転ブレードの切削あるいは切断中の移動方向である。
【0004】
半導体ウェーハ等のワークをダイシング加工するには、一本の切削溝を形成するごとにダイスの一辺の長さに相当する分だけ回転ブレードを回転軸に沿って移動させる。この作業を繰り返し平行な複数の切削溝を形成し、更にワークを90°回転させて、同様に平行な複数の切削溝を形成することによってダイスが形成される。このダイスの形成工程において、ダイスの一辺の長さに相当する分だけ回転ブレードを回転軸に沿って移動させるこの送り方向がインデックス送り方向である。
【0005】
また、回転軸を意味するスピンドルと、この回転軸を回転可能に包囲するハウジングであるスピンドルハウジングを区別するため、スピンドル(回転軸)とスピンドルハウジングとを含んで構成される構造体を指してスピンドルユニットと呼称されることもある。しかしながら、以後の説明ではこのような厳密な書き分けを行う必要がないので、多くの技術文献において行われているように、このスピンドルユニットのことを単にスピンドルと略記する。更に、回転ブレードを装着する回転軸を特に指示する必要があるときは、スピンドルの回転軸あるいは回転ブレードの回転軸と記載することもある。
【0006】
1980年代初期の頃のダイシング装置では、ワークテーブル保持機構側にθ回転機構とZ軸移動機構とを組み込む構成のものも見られる(例えば、特許文献1参照)。1980年代半ば以降のダイシング装置では、ウェーハの大口径化、及びチップの微細化(ストリートの狭小化)に対応するため、θ軸方向はX-Y平面により高い精度で直交するように設置することが要請されるようになった。また切り込み深さの精密な制御が必要とされ、Z軸の動作を精密に制御することも強く要請されるようになった。
【0007】
このような要求に応えたダイシング装置では、ワークテーブルを保持するワークテーブル保持機構側にθ回転機構とX軸移動機構とが備えられ、スピンドルを保持するスピンドル保持機構側にZ軸移動機構とY軸移動機構とが備えられている。スピンドル保持機構側にZ軸移動機構とY軸移動機構とを備えることによって、回転ブレードをワークに対して相対的に切り込み方向とインデックス送り方向に移動させることが可能な構成となっている(例えば、特許文献2及び3参照)。また、各移動機構の動作が更に精密化された。
【0008】
ダイシング装置は、半導体製造装置としてクリーンルームに設置されることが多い。クリーンルームは単位床面積当りの建設費が高いため、ダイシング装置等の半導体製造装置は小型化することが重要な課題である。また半導体製造装置の常として、低コストで製造されることも必須である。さらに処理速度が速く、高性能、高信頼性のある装置であることが絶えず求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭56−155534号公報
【特許文献2】特許第3918149号公報
【特許文献3】特許第4517269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載された板状材の切断設備及びそのハンドリング装置は、ワークテーブル保持機構側にθ回転機構とZ軸移動機構とを含むという特徴を持つ。特許文献1には、「タレット18は垂直アーバ20を摺動自在に受け、このアーバの上端68はテーブルを受ける」と記載されている。すなわちメカニカル機構だけでθ回転軸の方向を調整している。
【0011】
しかしながら、後述するようにθ回転軸とX-Y平面との直交性が0.001°ずれると、8インチウェーハの両端では、3.5μm(=8inch×sin0.001°≒200mm×sin0.001°)の高低差となる。現在のダイシング装置では、切り込み深さは5μm程度の精度(目標としては2μm以内)は必須であり、θ回転軸の方向は、X-Y平面と直交性が0.001°以内(12インチウェーハを対象とするとさらに精度良く)でなければならない。メカニカル機構だけで、θ軸方向とX-Y平面との直交性を0.001°以内とすることは難しく、θ回転軸の精密な方向調整機構と調整方法が確立されなければこの精度は達成できない。
【0012】
またメカニカルな機構だけで90°回転させ、Y方向を切削すると、Y方向の切削方向からずれて不良品を作ることとなる。特に、近年は12インチウェーハの生産量も拡大しているので、動作精度の粗いメカニカルな機構のみによってワークテーブルを90°回転させる構成を備えるダイシング装置ではその切削精度を十分に確保できない。ダイシング装置でのY方向ズレの許容値は最大で2μm程度である。θ回転の精度としては0.0005°以内が必要となる(例えば0.001°ずれると、8インチウェーハでは3.5μm、12インチウェーハでは5.3μmの角度ズレとなる)。すなわちメカニカルな機構だけで90°回転精度を0.0005°以内とさせることは出来ない。なお、特許文献1には、90°の回転をゼネバ機構で実行すると記載されているが、現在の代表的なダイシング装置では、精密アライメントを実施して、正確な回転角度が実現されるための処理がなされている。また、特許文献1に開示されている装置では、θ回転機構とZ軸移動機構との総計の高さは大きく、高速化、小型化に適さない。
【0013】
現在広く一般的に利用されているダイシング装置は、スピンドル保持機構によってスピンドルをZ軸方向とY軸方向とに移動させる構造が採用されている。特許文献2及び特許文献3に記載されるダイシング装置では、スピンドルはZ軸に沿って上方向から吊り下がる構造となっている。このような構造をとると、Z軸方向に背の高い装置となる。
【0014】
また、ダイシング装置内では、スループットを上げるため、X軸移動機構、Y軸移動機構は出来るだけ高速で稼動させることが求められる。しかしながら、背の高い装置で各軸を高速に動かすと振動が起きやすくなる。更にZ軸移動機構を介して重量の重いスピンドルを固定するため、振動を起こす要因が増加する。ダイシング装置で振動が発生すると、チッピング等が発生しやすくなり、切削性能が悪化する。
【0015】
特許文献2及び特許文献3に記載されるダイシング装置では、重量が重くかつ高速に回転しているスピンドルを、Z軸方向とY軸方向に高精度に高速で移動させることとなり、このためのメカニカル機構が複雑である。また高速に回転しているスピンドルを回転軸と直交したZ軸方向に移動させるため、Z軸方向移動に伴うスピンドルの動的安定性を確保することが難しく、ダイシング装置の製造工程において、スピンドルの移動精度を確認するための調整に長時間を必要とする。
【0016】
上述したように、現在広く利用されているダイシング装置は、スピンドルを移動させるためのメカニカル機構が複雑であり、しかも製造段階でスピンドル保持機構の動作を調整しつつ製造しなければならずこの調整工程に長時間を要する。このためダイシング装置の製造コストが高くなる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この出願の発明者は、Z軸移動機構内にθ回転機構を取り囲んで設置することにより、これら2つの移動機構の総計の高さを低くして一体化したZ軸-θ軸機構を持ったワークテーブル保持機構を構成することが可能であることに思い至った。
【0018】
また、このZ軸-θ軸機構をワークテーブル保持機構に採用すれば、スピンドル保持機構をZ軸方向に移動させる動作が不要となるので、Z軸方向移動時に発生するスピンドルの歳差運動に起因する動的不安定性も解消される。更にスピンドル保持機構からZ軸移動機構が省かれることで、スピンドルを保持する構成部分を単純化して軽量化することも可能で、装置総体の低重心化が図られることに思い至った。
【0019】
したがって、この発明の目的は、装置総体の低重心化が図られ、スピンドルのZ軸方向移動を不要としスピンドル保持機構が単純化された、小型のダイシング装置を提供することにある。
【0020】
上述の理念に基づくこの発明の要旨によれば、以下のダイシング装置が提供される。
【0021】
この発明の第1のダイシング装置は、Y軸移動機構を備え、回転ブレードが装着されたスピンドルユニットを保持するスピンドル保持機構と、ワークを載荷するワークテーブルを保持するワークテーブル保持機構を備えるダイシング装置である。Y軸移動機構は、回転ブレードの回転軸と平行なインデックス送り方向であるY軸方向の移動を行う。
【0022】
ワークテーブル保持機構は、X軸移動機構上に、Z軸移動機構とθ回転機構を備えている。X軸移動機構は、ワークに対する切削送り方向であるX軸方向の移動を行う。Z軸移動機構は、切り込み方向であるZ軸方向の移動を行う。θ回転機構は、Z軸方向に平行な方向をθ回転軸とする回転を行う。
【0023】
このθ回転機構はZ軸移動機構内に取り囲まれるように構成されている。このように構成することで、X軸移動機構、Z軸移動機構、及びこのθ回転機構を単純に積み重ねて構成した場合と比較して、このワークテーブル保持機構の重心位置が低い位置にくるように形成されている。
【0024】
この発明の第2のダイシング装置は、スピンドル保持機構とワークテーブル保持機構を備えるダイシング装置である。
【0025】
ワークテーブル保持機構は、X軸移動機構とY軸移動機構とが組み合わせられたX-Y移動機構と、このX-Y移動機構上にZ軸移動機構とθ回転機構が配置されている。
【0026】
このθ回転機構は、第1のダイシング装置と同様に、Z軸移動機構内に取り囲まれており、X-Y移動機構、Z軸移動機構、及びこのθ回転機構を単純に積み重ねて構成した場合と比較して、このワークテーブル保持機構の重心位置が低い位置にくるように形成されている。
【0027】
第2のダイシング装置の第1のダイシング装置との相違は、第1のダイシング装置にあってはY軸移動機構がスピンドル保持機構側に備えられるのに対して、第2のダイシング装置にあっては、Y軸移動機構がワークテーブル保持機構側に備えられている点にある。
【発明の効果】
【0028】
この発明の第1及び第2のダイシング装置によれば、スピンドル保持機構にはZ軸移動機構が備えられていないので、Z軸移動機構を備える構成と比較してダイシング装置の総体としてZ軸方向の高さを低くすることが可能である。また、スピンドル保持機構の重量を軽量化ができるので、ダイシング装置の総体としての重心位置を低くすることが可能である。
【0029】
ダイシング装置の総体としての重心位置が低いほど、スピンドルを高速回転させた際に、及びワークテーブルをX軸、Y軸、Z軸方向に高速で移動又はθ軸に沿って回転させた際にダイシング装置内で発生する振動の振幅を小さくすることが可能である。ダイシング装置内で発生する振動は、チッピングを発生させ、切削加工性能に大きな影響を与え、振動の振幅が小さいほど切削加工性能を高く保つことができる。
【0030】
Z軸移動機構がスピンドル保持機構側に備えられたダイシング装置においては、スピンドルをZ軸移動機構によってZ軸方向に移動させ、またY軸移動機構によってY軸方向に移動させる構造が採用されている。Z軸方向、Y軸方向のいずれの方向に対しても、高速度移動させることがダイシング装置として優位になるので、Z軸移動機構を備えて重量が重くなっているスピンドル保持機構は、頑強で大掛かりな構造とせざるを得ない。
【0031】
これに対して、スピンドル保持機構にZ軸移動機構を備えていないこの発明の第1及び第2のダイシング装置にあっては、スピンドル保持機構の重量が少なくともZ軸移動機構の重量分軽いので、従来のダイシング装置のスピンドル保持機構ほど大掛かりな構成とする必要がなく小型化が可能である。また、スピンドル保持機構の製造コストを低くすることが可能となる。
【0032】
また、この発明の第1及び第2のダイシング装置によれば、1ラインを切削するごとにスピンドルを上下させる代わりに、ワークテーブル保持機構に組み込まれたZ軸移動機構によってワークテーブルを上下させる。スピンドルを上下させる場合と比較して、ワークテーブル保持機構に組み込まれたZ軸移動機構によってワークテーブルを上下させる方が、スピンドル保持機構より相対的に軽い重量のワークテーブル保持機構を移動させるので、動作スピードを高速化することが可能である。
【0033】
また、スピンドルを上下させる(Z軸方向に移動させる)必要がなくなることから、スピンドル(回転ブレードの回転軸)に歳差運動が発生することもない。この理由は以下のとおりである。
【0034】
回転プレードを高速(例えば30,000〜60,000rpmの回転数で)回転させている状態でスピンドルをZ軸方向に移動させると、角運動量保存則によりスピンドルに歳差運動が発生する。歳差運動により、回転ブレードの回転軸は、Z軸移動前の回転軸方向の周りを3次元的に回転することとなる。このような歳差運動で発生した回転ブレードの回転軸の3次元的な回転は、回転ブレードの切削端では、切り込み深さを正確に制御することを困難にする。そして回転ブレードの回転軸の3次元的な回転は、ダイシング装置内で振動も発生させる。
【0035】
歳差運動は回転スピードに依存し、回転スピードが速くなると大きくなる。高速回転するスピンドルをZ軸方向に移動させるのに伴い発生するスピンドルの3次元的な回転運動は「スピンドルの暴れ」として、ダイシング装置の製造工程では知られている。従来のダイシング装置では、スピンドル保持機構を頑強で大掛かりな構造とすることで、歳差運動を抑えている。なお既知の知識として、高速回転する剛体では剛体の重心点において力の釣り合いとモーメントの釣り合いが必要であること、及びモーメントが釣り合わなくなると回転力が働き、歳差運動が発生する(角運動量保存則)ことが知られている。そして回転力の大きさは、回転軸の方向と力の方向(移動方向)との角度の正弦(sine)に依存する。
【0036】
この発明の第1及び第2のダイシング装置によれば、Z軸移動機構をワークテーブル保持機構側に備える構成とされているので、スピンドルを回転ブレードの回転軸と直交するZ軸方向に移動させる必要がない構成である。従って、この発明の第1及び第2のダイシング装置においては、スピンドルの歳差運動に伴うダイシング装置内に発生する振動をなくすことが可能となる。
【0037】
更に、従来のダイシング装置の製造工程おいては、スピンドルにチェック用の回転ブレードを取り付けて、回転動作をさせた状態で、装置全体の振動等の動的な特性(歳差運動の発生特性等)をチェックしつつ、スピンドルをスピンドル保持機構に取り付ける作業を行う必要があった。これに対して、この発明の第1及び第2のダイシング装置は、スピンドルを回転ブレードの回転軸に対して直角の方向(Z軸方向)に移動させない構成であるので、歳差運動の発生についての考慮を払う必要がなく、スピンドル保持機構の製造工程が簡略化される。
【0038】
また、この発明の第2のダイシング装置のスピンドル保持機構は、Z軸移動機構と共にY軸移動機構も取り付ける必要がないので、第1のダイシング装置のスピンドル保持機構の製造工程より一層簡略化される。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】従来の典型的なダイシング装置の概略的構成を示す図である。
【図2】この発明の実施形態の第1のダイシング装置の概略的構成を示す図である。
【図3】この発明の実施形態の第2のダイシング装置の概略的構成を示す図である。
【図4】Z軸移動機構の概略的構成を示す斜視図である。
【図5】クロスローラの概略的構成を示す斜視図である。
【図6】Z軸移動機構固定部に対してZ軸移動機構可動部を上下させるための動力伝達機構についての説明に供する図である。
【図7】動力伝達機構の設置箇所についての説明に供する図である。
【図8】ボールネジ駆動装置のZ軸移動機構可動部底面板への取り付け形態についての説明に供する図である。
【図9】Z軸移動機構のX-Y移動機構への装着についての説明に供する図である。
【図10】Z軸移動機構内へθ回転機構が取り囲まれるように設置されて実現される装着形態についての説明に供する図である。
【図11】θ回転機構の概略的構成を示す斜視図である。
【図12】θ回転機構のZ軸移動機構への装着についての説明に供する図である。
【図13】Z軸-θ軸機構のZ軸方向及びθ軸方向の調整についての説明に供する図である。
【図14】θ回転角度に対する高さ方向の変位量を与える関数を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、図を参照して、この発明の実施の形態につき説明する。なお、各図は、この発明が理解できる程度に各構成部分を概略的に示してあるに過ぎず、この発明を図示例に限定するものではない。また、各図において同じ構成要素については同一の番号を付して示し、これらの機能等に関して、その重複する説明を省略することもある。
【0041】
<従来のダイシング装置>
まず、この発明の実施形態のダイシング装置の説明に先立ち、従来の典型的なダイシング装置の構造及びその動作について説明し、この発明が解決しようとする課題を具体的に明らかにする。
【0042】
図1は、従来の典型的なダイシング装置の概略的構成を示す図である。図1は、以下に述べる課題についての説明に必要な範囲で構成要素を限定し、かつ各構成要素を簡略化して概念的に示した図であり、産業上利用されている現実の装置の形態を厳密に示すものではない。
【0043】
ダイシング装置は、回転ブレードを高速回転させて半導体基板等のワークに対して相対的にX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向に移動させつつワークを切削加工する装置である。
【0044】
回転ブレード22はスピンドル20の回転軸48に装着されており、このスピンドル20がスピンドル支持部材18-4に固定されている。スピンドル支持部材18-4はZ軸方向に移動するZ軸移動テーブル18-3に固定される。Z軸移動テーブル18-3はZ軸ガイド18-1に沿ってスライドさせることが可能な構成とされている。Z軸ボールネジ18-2によりZ軸移動テーブル18-3が精度良く移動することで、切り込み深さの精密な制御が実行される。
【0045】
したがって、従来のダイシング装置にあっては、Z軸ガイド18-1、Z軸ボールネジ18-2、Z軸移動テーブル18-3、及びスピンドル支持部材18-4によって、Z軸移動機構18が構成されている。そして、Z軸ガイド18-1及びZ軸ボールネジ18-2がY軸移動機構14に固定され、スピンドル支持部材18-4にスピンドル20が固定されている。すなわち、スピンドル20の回転軸48の方向であるY軸方向の移動を行うY軸移動機構14とZ軸移動機構18とを備えてスピンドル保持機構30が構成されている。また、Y軸移動機構14は、Y軸ガイド14-1、Y軸ボールネジ14-2、Y軸移動テーブル14-3、及びY軸支持体14-4を備えて構成される。
【0046】
スピンドル20はZ軸移動機構18とY軸移動機構14とを介して台座10に設置されており、スピンドル保持機構30によって、スピンドル20をZ軸方向とY軸方向とに移動させることが可能な構成となっている。
【0047】
一方、半導体基板等のワーク26はワークテーブル24に真空吸着法等の手法で載荷されており、このワークテーブル24はθ回転機構16の上部に固定されている。また、θ回転機構16はX軸移動機構12に固定され、このX軸移動機構12は台座10に固定されている。すなわち、スピンドル20の回転軸48と直交する方向であるX軸方向の移動を行うX軸移動機構12と、θ回転機構16とを備えてワークテーブル保持機構28が構成されている。そして、スピンドル保持機構30とワークテーブル保持機構28は、共通の台座10に固定されている。X軸移動機構12のX軸移動機構固定部としては、X軸ガイド12-1及びX軸ボールネジ12-2を備えて構成される。X軸移動機構12のX軸移動機構可動部は、ボールネジナット(図示を省略してある)及びX軸移動テーブル12-3を備えている。
【0048】
上述したように、従来のダイシング装置では、ワークテーブル保持機構28側にθ回転機構16とX軸移動機構12とを備え、スピンドル保持機構30側にZ軸移動機構18とY軸移動機構14とを備えた構成とされている。スピンドル20の重量は重くかつ高速回転するため、十分な精度でスピンドル20を移動させるZ軸移動機構18とY軸移動機構14をスピンドル保持機構30側に備えることは、その構造を複雑化させている。このため装置総体として小型化することが難しい。
【0049】
スピンドル保持機構30側にZ軸移動機構18とY軸移動機構14とを備えた構成とすると、ダイシング装置としてZ方向に背丈の高い構造となるので、装置総体としての重心位置が高くなる。1回の切削スピードを速めるためX軸移動機構12の速度を上げた場合に、Z軸方向に背丈の高い構造は、ダイシング装置内に振動を発生させ易い構造である。また重量の重いスピンドル保持機構30を1回の切削で上下移動させるため、ダイシング作業における切削作業効率を向上させることに限界がある。
【0050】
また、Z軸方向、Y軸方向のいずれの方向に対してもスピンドルを高速度移動させることが要求されるので、Z軸移動機構18を備えて重量が重くなっているスピンドル保持機構30は頑強で大掛かりな構造である。
【0051】
<第1のダイシング装置>
図2を参照して、この発明の実施形態の第1のダイシング装置の構成及びその動作について説明する。図2も図1と同様に、説明に必要な範囲で構成要素を限定し、しかも各構成要素を簡略化して概念的に示した図であり、この発明の実施に当たって具体的に構成されるダイシング装置の細部にわたる厳密な形状及び構成を示すものではない。特に、第1のダイシング装置の特徴であるスピンドル保持機構及びワークテーブル保持機構が備えるX軸移動機構の配置関係を概念的に示してあるにすぎない。第1のダイシング装置が備えるスピンドル保持機構及びワークテーブル保持機構の詳細な構成及び動作については、新たに図面を参照して詳細に後述する。
【0052】
従来のダイシング装置にあってはスピンドル保持機構側にZ軸移動機構が備えられているのに対して、この発明の実施形態の第1のダイシング装置ではワークテーブル保持機構40側に、Z軸移動機構34内にθ回転機構16を取り囲んで設置して一体化形成したZ軸-θ軸機構50を備えている。
【0053】
回転ブレード22はスピンドル20の回転軸48に装着されており、このスピンドル20がスピンドル支持部材36に固定されている。スピンドル支持部材36にはY軸移動機構14とスピンドル20とが強固に固定されている。Y軸移動機構14はスピンドル固定台38に固定されている。また、回転ブレード22の回転軸の方向であるY軸方向の移動を行うY軸移動機構14と、スピンドル支持部材36と、スピンドル固定台38とが組み合わせられてスピンドル保持機構32が構成されている。したがって、スピンドル20はスピンドル支持部材36とY軸移動機構14とスピンドル固定台38とを介して台座10に設置されている。このような構成とすることによって、スピンドル20をスピンドル保持機構32によってY軸方向に沿って移動させることが可能となる。
【0054】
スピンドル20のハウジングにはフランジが設けられ、フランジ端面をスピンドル20の精度基準面として、スピンドル20はこの面を精度の基準として製作される。スピンドル20はこのフランジによってスピンドル支持部材36に固定される。スピンドル取付け時は、フランジのボルトの締付トルクは管理される。このようにスピンドル支持部材36を介してY軸移動機構14とスピンドル20とが強固に固定されている。
【0055】
一方、半導体基板等のワーク26はワークテーブル24に、従来装置と同様に、真空吸着法等の手法で載荷されており、このワークテーブル24はZ軸移動機構34とθ回転機構16とが組み合わせられたZ軸-θ軸機構50の上部に固定されている。また、Z軸-θ軸機構50はX軸移動機構12に固定され、このX軸移動機構12は台座10に固定されている。すなわち、X軸移動機構12及びZ軸-θ軸機構50を備えてワークテーブル保持機構40が構成されている。
【0056】
X軸移動機構12としては、従来のダイシング装置が備える移動機構と同一のものを利用すればよく、例えば、ダイレクトドライブモータや、ボールネジとリニアガイドを用いたスライド機構を適宜利用することが可能である。
【0057】
ワークテーブル保持機構40は、Z軸移動機構34を備えていることに特徴があり、Z軸移動機構34にθ回転機構16を固定する機構には、θ回転機構16とZ軸移動機構34との総合的高さを低く抑えるため、Z軸移動機構内にθ回転機構を取り囲んで設置する構造が採用されている。そして、ワークテーブル24の回転時の平面性を確保するため、θ軸方向及びZ軸方向の傾きのずれをそれぞれ適宜調整できる機構(後述するθ軸方向調整ネジ及びZ軸方向調整ネジ)を併せ持つ構造とされている。
【0058】
スピンドル保持機構32とワークテーブル保持機構40は、従来のダイシング装置と同様の固定方法で共通の台座10に固定されている。
【0059】
<第2のダイシング装置>
図3を参照して、この発明の実施形態の第2のダイシング装置の構成及びその動作について説明する。図3も図1及び図2と同様に、説明に必要な範囲で構成要素を限定し、しかも各構成要素を簡略化して概念的に示した図であり、この発明の実施に当たって具体的に構成されるダイシング装置の細部にわたる厳密な形状及び構成を示すものではない。特に、第2のダイシング装置の特徴であるスピンドル保持機構、並びにワークテーブル保持機構が備えるX軸移動機構及びY軸移動機構の配置関係を概念的に示してあるにすぎない。第2のダイシング装置が備えるスピンドル保持機構及びワークテーブル保持機構の詳細な構成及び動作については、新たに図面を参照して詳細に後述する。
【0060】
この発明の実施形態の第2のダイシング装置の特徴は、ワークテーブル保持機構44側に、Y軸移動機構14、Z軸移動機構34、X軸移動機構12、及びθ回転機構16を備える構成とした点にある。X軸移動機構12は、X軸ガイド12-1、X軸ボールネジ12-2、X軸移動テーブル12-3、及びX軸支持体12-4を備えている。X軸移動機構12は、X軸移動機構12の構成要素であるX軸支持体12-4を挟んでY軸移動テーブル14-3の上に設置されている。すなわち、この発明の実施形態の第2のダイシング装置は、スピンドル保持機構46側には移動機構を設けず、スピンドル保持機構46は台座10に固定されたままの状態が維持される構成とされている。
【0061】
回転ブレード22は、スピンドル20の回転軸48に装着されており、このスピンドル20が、スピンドル20のハウジングのフランジによってスピンドル支持部材36に固定されている。スピンドル支持部材36にはスピンドル固定台38が強固に固定されている。スピンドル固定台38には移動機構が設けられておらず、直接台座10に固定されている。すなわち、スピンドル保持機構46は、スピンドル支持部材36とスピンドル固定台38とによって構成されている。
【0062】
一方、半導体基板等のワーク26はワークテーブル24に、従来装置と同様に真空吸着法等の手法で載荷されている。このワークテーブル24は、X軸移動機構12とY軸移動機構14とが組み合わせられたX-Y移動機構52と、X-Y移動機構52上にZ軸移動機構34内にθ回転機構16を取り囲んで設置して一体化構成されたZ軸-θ軸機構50の上に固定されている。すなわち、X-Y移動機構52及びZ軸-θ軸機構50を備えてワークテーブル保持機構44が形成されている。
【0063】
θ回転機構16にZ軸移動機構34を固定する機構には、θ回転機構16とZ軸移動機構34との総合的高さを低く抑えるため、Z軸移動機構34内にθ回転機構16を取り囲んで設置された構造とされており、回転時の平面性を確保するためにθ軸方向及びZ軸方向の傾きをそれぞれ適宜調整できる機構を併せ持つ構造とされている。
【0064】
これをもとに、スピンドル保持機構46とワークテーブル保持機構44は、従来のダイシング装置と同様の固定方法で共通の台座10に固定されている。
【0065】
上述したように、この発明の実施形態の第2のダイシング装置では、ワーク26を載荷するワークテーブル保持機構44側にZ軸-θ軸機構50及びX-Y移動機構52を備え、スピンドル20を保持するスピンドル保持機構46側には移動機構を一切備えない構成とされている。
【0066】
<精密アライメント工程>
ここで、この発明の実施形態の第1及び第2のダイシング装置において、切削対象であるウェーハ等のワーク26の表面とθ回転機構16のθ回転軸の方向とが直交するように調整する工程は、従来のダイシング装置においてとられている方法と同様の周知の方法で実施することが可能である。
【0067】
また、第1及び第2のダイシング装置において、θ回転機構16において、ワークの載荷の角度ズレ12°を加え、372°(=360°+12°)回転可能として0°〜372°回転する機能を有するθ回転機構を採用すれば、ワークテーブル24をX方向、Y方向、-X方向、及び-Y方向に回転させることにより、ゆとりをもってワーク26を0°〜360°回転させてワーク26を切削する工程の実施が可能となる。ワーク26に対して、X方向、Y方向、-X方向、及び-Y方向に切削するために、予めX方向、Y方向、-X方向、及び-Y方向にアライメントを実施し、それぞれのθ軸の回転角度を、コンピュータシステムのメモリにセイブしておく。現在のダイシング装置では、切削方向とチップのストリートとの方向とが合致するように、精密アライメント工程の角度追い込み処理で正確にθ軸の回転角度を求める手法が使われる。
【0068】
切削を実行する工程の前に、第1のダイシング装置においてはワークテーブル保持機構40の-X方向に対して、第2のダイシング装置においてはワークテーブル保持機構44の-X方向及び-Y方向に対して精密アライメントを実施して、θ軸の回転角度を求めておく。このような処理をしておくことによって、切削を実行する工程では、X方向とY方向の切削だけでなく、-X方向、及び-Y方向の切削工程を有し、アライメントで求めた回転角度をメモリから読み出し、θ軸の回転角度をその角度に位置づけて切削を行うことが可能となる。
【0069】
<Z軸-θ軸機構>
図4〜図12を参照して、Z軸移動機構34内にθ回転機構16を取り囲んで設置して一体化して形成されるZ軸-θ軸機構50の構成について説明する。
【0070】
以下、Z軸-θ軸機構50を構成するZ軸移動機構34の構成について、Z軸方向への移動メカニズム及び移動のための動力機構について説明し、θ回転機構16の構成及びZ軸移動機構34への装着形態について順次説明する。
【0071】
図4は、Z軸移動機構34の概略的構成を示す斜視図である。Z軸移動機構34は、U字型のZ軸移動機構固定部60内に、Z軸移動機構可動部64が取り囲まれて設置されて構成されている。
【0072】
Z軸移動機構34は、Z軸移動機構固定部60に対してZ軸移動機構可動部64を上下方向に滑らかに動かすことでZ軸方向の移動が実現される。例えば、Z軸移動機構固定部60とZ軸移動機構可動部64とがガイド機構を介して互いに接触する構成とし、互いにガイド機構において摺動するように形成すればよい。又は、図4に示すように、Z軸移動機構固定部60とZ軸移動機構可動部64とをクロスローラ66によって滑らかに動かすことでZ軸方向の移動が実現される。クロスローラ66は、クロスローラガイド66-1と66-2とが組み合わせられて構成される。
【0073】
Z軸移動機構固定部60にはクロスローラガイド66-1が取り付けられており、Z軸移動機構可動部64にはクロスローラガイド66-2が取り付けられている。クロスローラガイド66-1と66-2の組み合わせは、図4に示すように4箇所に形成されている。
【0074】
Z軸移動機構可動部64のZ軸移動機構可動部底面62には、後述するθ回転機構16が設置される。このように、Z軸移動機構34に対してθ回転機構16が設置されることによって、θ回転機構16がZ軸移動機構34内に取り囲まれて設置される。
【0075】
図5を参照してクロスローラ66の構成の一例を説明する。クロスローラ66は、クロスローラガイド120、クロスローラガイド122、及び円筒コロ126を備えている。クロスローラガイド122にV字形の溝が形成されており、この溝に円筒コロ126が挿入されている。円筒コロ126を介してクロスローラガイド120に対してクロスローラガイド122が滑らかに移動する。これによって、Z軸移動機構固定部60に対してZ軸移動機構可動部64を上下方向に滑らかに移動させることが可能となる。
【0076】
図6を参照して、Z軸移動機構固定部60に対してZ軸移動機構可動部64を上下させるための動力伝達機構56について説明する。動力伝達機構56は、ボールネジ駆動装置70、ボールネジナット72、及びボールネジ74が組み合わせられて構成される。
【0077】
Z軸移動機構可動部64にはボールネジナット72が取り付けられており、Z軸移動機構固定部60にはボールネジ駆動装置70が取り付けられている。図6では、ボールネジ駆動装置70の詳細な構成を省略し、ボールネジ駆動装置70が空間的に占める領域を破線で囲って示してある。
【0078】
ボールネジ74がボールネジ駆動装置70によって回転すると、ボールネジ74が噛合っているボールネジナット72に力が伝達し、Z軸移動機構固定部60に対してZ軸移動機構可動部64が移動する。Z軸移動機構可動部64の移動方向はボールネジ74の回転方向によって決まる。
【0079】
図7を参照して、動力伝達機構56の設置箇所について説明する。図7では、図面が煩雑化することを避けるため、Z軸移動機構可動部64のZ軸移動機構可動部底面板68と、動力伝達機構56を構成するボールネジナット(72-1、72-2)、及びボールネジ(74-1、74-2)だけを取り出して示してある。Z軸移動機構可動部底面板68とはZ軸移動機構可動部64の底面を構成する部材であり、図6に示したように、Z軸移動機構可動部64を構成している側壁部64-Sと一体化されている。
【0080】
図7では、Z軸移動機構可動部底面板68の2箇所に動力伝達機構56が設けられている。1箇所目はボールネジナット72-1でありこれにはボールネジ74-1が噛み合わせられており、2箇所目はボールネジナット72-2でありこれにはボールネジ74-2が噛み合わせられている。ここでは、動力伝達機構56が2箇所に設けられている例を示したが1箇所でもよい。
【0081】
図8(A)及び(B)を参照して、ボールネジ駆動装置70のZ軸移動機構可動部底面板68への取り付け形態について説明する。図8(A)は、ボールネジ74の軸方向がボールネジ駆動装置70を構成するモータ54の回転軸に対して垂直に取り付けられている例を示し、図8(B)は、ボールネジ74の軸方向がボールネジ駆動装置70を構成するモータ54の回転軸に対して平行に取り付けられている例を示している。
【0082】
ボールネジナット72は、Z軸移動機構可動部底面板68に取り付けられている。モータ54の回転がカップリング部76に伝えられ、カップリング部76の回転となる。カップリング部76はボールネジ74に接合されており、カップリング部76の回転がボールネジ74の回転となる。ボールネジ74は、ボールネジナット72と噛合っているので、ボールネジ74の回転によって、Z軸移動機構可動部底面板68が上下方向に滑らかに移動する。すなわち、ボールネジ74の回転によって、Z軸移動機構可動部64がZ軸移動機構固定部60に対して上下方向に滑らかに移動する。
【0083】
図8(A)あるいは図8(B)のいずれの形態を採用するかは、Z軸-θ軸機構のワークテーブル保持機構への設置の都合により適宜選択される。
【0084】
図9を参照して、Z軸移動機構34のX-Y移動機構52への装着について説明する。図9においては、X-Y移動機構52が、Y軸移動機構110の上にX軸移動機構100が積み重ねられることによって形成された構成例を示しているが、X-Y移動機構52を、X軸移動機構100上にY軸移動機構110を積み重ねて形成された構成としてもよい。
【0085】
また、図9では、Z軸移動機構34が空間的に占める領域を一点破線で囲って示し、Z軸移動機構34についてZ軸移動機構固定部60とZ軸移動機構可動部底面板68の部分以外の詳細な構成部分を省略してある。
【0086】
Z軸移動機構34のZ軸移動機構固定部60をX軸移動機構100の上面に固定するに当っては、Z軸移動機構固定部60の底部の3箇所にZ軸方向調整ネジ(92-1、92-2、92-3)を取り付け、このZ軸方向調整ネジによって、Z軸移動機構固定部60のX軸移動機構100の上面に対する姿勢が調整可能としてある。この三箇所に設けられたZ軸方向調整ネジによってZ軸移動機構固定部60の姿勢を調整し、X軸移動機構100の上面に対するZ軸移動機構34のZ軸方向が調整される。そしてZ軸移動機構34は3点支持で固定される。
【0087】
図10を参照して、Z軸移動機構34内へθ回転機構16が取り囲まれるように設置されて実現される装着形態について説明する。図10においては、Z軸移動機構34が空間的に占める領域を一点破線で囲って示し、Z軸移動機構34についてZ軸移動機構固定部60とZ軸移動機構可動部底面板68の部分以外の詳細な構成部分を省略してある。また、θ回転機構16についても、詳細な構成部分を省略してある。
【0088】
図10に示すように、Z軸移動機構34内へθ回転機構16が取り囲まれるように設置する構成とすることによって、Z軸移動機構34とθ回転機構16とを積み重ねて構成した場合と比較してワークテーブル保持機構の重心位置が低くなる。
【0089】
図11を参照してθ回転機構16の構成を説明する。θ回転機構16は、ステイター部86とローター84とで構成されるダイレクトドライブモータ(DDモータ)80にワークテーブル82が設置されて構成される。図11に示すθ回転機構16と、図2及び図3に示したθ回転機構16とワークテーブル24との関係は以下のとおりである。図11に示すワークテーブル82が図2及び図3に示したワークテーブル24に対応し、図11に示すDDモータ80が図2及び図3に示したθ回転機構16に対応する。
【0090】
DDモータ80を利用する理由は、ワークテーブル82の回転を、ゼネバ機構等を利用する粗いメカニカルな機構だけで実現させるより高精度な回転が実現されるように配慮した結果である。DDモータ80を利用したθ回転機構16はソフトウエアでサポータされたサーボシステムで、精密アライメントにより、切削対象ウェーハの角度ズレを許容値以内となるようにθ回転角度を調整する。調整された角度は精密アライメントの結果としてメモリにセイブされる。
【0091】
ローター84は中空構造(図示を省略してある。)であり、この中空の内部に真空チューブ等を配置する。真空チューブ(図示を省略してある。)は、ワークをワークテーブル82に真空吸着するための真空吸着機構を構成する部品である。
【0092】
図12を参照して、θ回転機構16のZ軸移動機構34内への装着について説明する。図12では、Z軸移動機構34についてZ軸移動機構可動部底面板68の部分以外の詳細な構成部分を省略してある。
【0093】
θ回転機構16をZ軸移動機構可動部底面板68の上面に固定するに当っては、Z軸移動機構可動部底面板68の底部の3箇所にθ軸方向調整ネジ(90-1、90-2、90-3)を取り付け、このθ軸方向調整ネジによって、θ回転機構16のZ軸移動機構可動部底面板68の上面に対する姿勢を調整可能としてある。この三箇所に設けられたθ軸方向調整ネジによってθ回転機構16の姿勢を調整し、Z軸移動機構可動部底面板68の上面に対するθ回転機構16のθ軸方向が調整される。そしてθ回転機構16は3点支持で固定される。
【0094】
<Z軸-θ軸機構のZ軸方向及びθ軸方向の調整>
Z軸-θ軸機構50のZ軸方向及びθ軸方向は、X-Y平面に対して直交するようにダイシング装置に組み込まなければならない。ダイシング装置の組み立てでは、先ず台座にX軸移動機構とY軸移動機構とが据え付けられ、X軸とY軸の直交性が調整される。X軸移動機構とY軸移動機構とが調整されると、X軸移動機構100(図2及び図3に示したX軸移動テーブル12-3)の上面にX-Y平面が形成される。このX-Y平面は、Z軸-θ軸機構取付けの基準平面となるので、X軸移動機構でX方向を移動させ、Y軸移動機構でY方向を移動させ、X軸移動機構100の上面の高さを接触式電気マイクロメータで測定し、平面の精度を確認する。なお接触式電気マイクロメータは、この発明の実施形態の第1のダイシング装置では、Y軸移動機構の適宜な位置に冶具によって取り付け、この発明の実施形態の第2のダイシング装置では、台座の適宜な位置に冶具によって取り付ける。
【0095】
図13を参照して、ダイシング装置にZ軸-θ軸機構50を組み込む時に実行されるZ軸方向及びθ軸方向の調整について説明する。図13は、X軸移動機構100の上面に置かれたZ軸-θ軸機構50のZ軸-θ軸の方向に垂直の方向から見た概略的構成図である。図13では、Z軸方向調整ネジ(92-1、92-2、92-3)及びθ軸方向調整ネジ(90-1、90-2、90-3)の内、Z軸方向調整ネジ92-3とθ軸方向調整ネジ90-3の図示を省略してある。
【0096】
Z軸方向及びθ軸方向に当っては、まずZ軸方向及びθ軸方向の調整作業を残し完成されたZ軸-θ軸機構50をX軸移動機構100の上面に置く。図13では、X軸移動機構100の上面を調整用基準平面として採用している。すなわち、Z軸移動機構34のZ軸移動機構固定部60の底面が、X軸移動機構100の上面の直上にくるようにZ軸-θ軸機構50が置かれている。
【0097】
図13には、Z軸方向の傾き及びθ軸方向の傾きを、それぞれ計測するための装置を含めて示してある。図13において、Pで示す矢印はZ軸が傾いたときに影響が現れる方向を示し(Z軸方向の傾きは3次元的な方向となるのでPは紙面に示される成分と紙面に垂直な成分とからなる)、Qで示す矢印はθ軸が傾いたときに影響が現れる方向を示している(図13ではX軸に平行な断面として示す)。
【0098】
ワークテーブル82の上面の傾きを測定する装置は、高さ測定プローブ94A及び94Bである。高さ測定プローブ94Aによってワークテーブル82の上面Aの位置(高さ測定点A)の高さが測定され、高さ測定プローブ94Bによってワークテーブル82の上面Bの位置(高さ測定点B)の高さが測定される。
【0099】
Z軸-θ軸機構50のZ軸方向の傾きは、Z軸方向測定プローブ96-1及び96-2によって測定される。Z軸方向測定プローブ96-1及び96-2の測定端は、Z軸移動機構可動部64の側壁部64-Sに設けられたZ軸方向測定用基準部材98-1及び98-2に接触させてある。Z軸方向測定プローブ96-1によってZ軸方向の傾きのX方向成分が測定され、Z軸方向測定プローブ96-2によってZ軸方向の傾きのY方向成分が測定される。
【0100】
高さ測定プローブ94A及び94BとZ軸方向測定プローブ96-1及び96-2は、測定プローブ支持基体88-1、88-2に固定されている。また測定プローブ支持基体88-1、88-2は、X軸移動機構100の上面に固定されている。
【0101】
これらの測定プローブとしては、接触式電気マイクロメータが使われる。この接触式電気マイクロメータは、最小0.1μmの測定精度を有している。
【0102】
まず、Z軸-θ軸機構50のZ軸方向を調整する。この調整はZ軸方向調整ネジ(92-1、92-2、92-3)を用いて、Z軸方向測定プローブ96-1及び96-2で変位量を計測しつつ実行する。Z軸方向の調整は、具体的には、Z軸移動機構可動部64を上下させてZ軸方向測定プローブ96-1及び96-2で測定される変位量が高さに依存しないように、Z軸方向調整ネジ(92-1、92-2、92-3)を用いて調整する作業である。
【0103】
続いてθ回転機構16のθ軸方向を調整する。この調整はθ軸方向調整ネジ(90-1、90-2、90-3)を用いて、高さ測定プローブ94A及び94Bで変位量を計測しつつ実行する。θ回転機構16のθ軸方向の調整には、ワークテーブル82の高さ測定点A及びθ軸に対してこの高さ測定点Aと180°の位置の高さ測定点Bの高さ方向の変位量を計測することによって行う。測定点Aの位置及び測定点Bの位置における変位量は、それぞれ高さ測定プローブ94A及び94Bによって計測される。
【0104】
θ回転機構16が0°〜360°範囲で回転可能な構成である場合には、θ軸方向の調整に当って高さ方向の変位量の計測は一箇所で行えばよい。その場合は、高さ測定プローブ94A及び94Bのいずれか一方を用いればよい。
【0105】
θ回転角度に対する高さ測定プローブ94A及び94Bによる高さ方向の変位量をグラフ化すると、ほぼ正弦曲線に類似した曲線になる。図14に、θ回転角度に対する高さ方向の変位量を与える関数を示す。図14には、θ回転機構16が0°〜180°範囲で回転可能な構成である場合を示しており、実線で高さ測定点Aにおける変位量の変動を示し、破線で高さ測定点Bにおける変位量の変動を示している。θ回転機構16が0°〜360°範囲で回転可能な構成である場合は、高さ測定点AあるいはBのいずれか一箇所における計測で0°〜360°にわたって変位量が得られる。
【0106】
図14に示す測定点Aの変位量の変動は、θ=0°、180°において0となり、測定点Bの変位量の変動は、180°、360°で0になる場合を示しているが、一般に変位量が0となる位置はこれらの角度に限らない。いずれにしても高さ方向の変位量を与える関数は、0°〜360°を1周期とする正弦曲線に類似した曲線で与えられる。
【0107】
θ軸方向の調整はθ軸方向調整ネジ(90-1、90-2、90-3)を用いて、高さ測定プローブ94A及び94Bで変位量を計測しつつ実行する。具体的にθ軸方向の調整とは、θ回転機構16でワークテーブル82を1回転させて高さ測定プローブ94A及び94Bで測定される変位量を与える正弦曲線に類似した曲線の振幅が0になるように、θ回転機構16のZ軸移動機構可動部底面板68の上面に対する姿勢を、θ軸方向調整ネジ(90-1、90-2、90-3)を用いて調整する作業である。
【0108】
通常のダイシング装置のワークテーブルのZ軸方向の可動範囲幅は40 mm以下である。ワークであるウェーハの厚みは1 mm以下であるので、切り込み深さの制御だけであれば、Z軸方向の可動範囲幅は1 mm程度でよい。しかしながら、使われる回転ブレードの直径が一種類ではないので、Z軸方向の可動範囲幅は最大40 mm程度に設定されている。
【0109】
ここで、Z軸方向が0.01°傾いている場合を想定する。この場合、ワークテーブルの位置を下から上に向って、あるいは上から下に向って40 mm移動させたとき、X-Y平面内で7μm(=40mm×sin0.01°)の位置ずれ誤差が発生する。この誤差は、図13においてPで示す方向に発生する。
【0110】
一方、θ軸の方向が0.01°傾いている場合を想定する。ワークである8インチウェーハの直径の左右両端を200 mmとしたとき、この2点間で深さ方向(Z軸方向)に最大35μm(=200mm×sin0.01°)の深さ方向のずれ誤差が発生する。この誤差は、図13においてQで示す方向に発生する。これだけの深さ方向のずれ誤差が発生すると、ダイシング装置として切り込み深さの制御ができないこととなる。
【0111】
以上の試算結果から、Z軸方向とθ軸方向とで同じ角度傾いた場合、Qで示すθ軸方向の傾きの影響は、Pで示すZ軸方向の傾きの影響より大きく現れる。このことは、ワークテーブル82の回転軸となるθ軸方向の調整が切り込み深さの制御を行う上で重要なポイントとなることを示唆している。
【0112】
一般にダイシング装置としては、θ軸方向はZ軸方向より高精度で調整する必要がある。上述したようにZ軸方向が0.01°傾いてもX-Y平面内の切削位置精度には大きな影響を与えないが、θ軸方向が0.01°傾くと切り込み深さの制御は不可能となる。また、このX-Y平面内の切削位置ずれについては、ダイシング装置の制御システムの制御プログラム上でX-Y平面内の位置ずれ情報を組み込んでおくことによって対処可能である。これに対して、θ軸のずれはダイシング装置の基本的機能である切り込み深さの制御を不可能にする。
【0113】
このようにθ軸方向の傾きはZ軸方向の傾きよりも1桁以上の高精度を持って調整する必要がある。仮にθ軸方向が0.001°傾いているとすると、8 inchウェーハの両端では3.5μm(=200 mm ×sin0.001°)の高さの差となって現れる。θ軸方向の傾きは0.0005°以内であることが必要である。Z軸-θ軸機構のZ軸方向及びθ軸方向の調整は、この点に留意して行うことが求められる。すなわち、θ軸方向の調整を調整ネジ等のメカニカルな調整手段を以って予め重点的に高精度に行うことが重要である。
【0114】
以上説明したZ軸方向及びθ軸方向の調整作業が完了したら、測定プローブ支持基体(88-1、88-2)、高さ測定プローブ(94A、94B)、Z軸方向測定プローブ(96-1、96-2)、及びZ軸方向測定用基準部材98-1及び98-2を取り去ることによって、Z軸-θ軸機構50の調整作業が終了する。
【0115】
また予め精密定盤上で、Z軸-θ軸機構50のZ軸方向及びθ軸方向を調整しておき、その後にダイシング装置のX軸移動機構100の上面に組み込むようにすると、調整作業は容易となる。
【符号の説明】
【0116】
10:台座
12、100:X軸移動機構
12-1:X軸ガイド
12-2:X軸ボールネジ
12-3:X軸移動テーブル
12-4:X軸支持体
14、110:Y軸移動機構
14-1:Y軸ガイド
14-2:Y軸ボールネジ
14-3:Y軸移動テーブル
14-4:Y軸支持体
16:θ回転機構
18、34:Z軸移動機構
18-1:Z軸ガイド
18-2:Z軸ボールネジ
18-3:Z軸移動テーブル
18-4、36:スピンドル支持部材
20:スピンドル
22:回転ブレード
24、82:ワークテーブル
26:ワーク
28、40、44:ワークテーブル保持機構
30、32、46:スピンドル保持機構
38:スピンドル固定台
48:回転軸
50:Z軸-θ軸機構
52:X-Y移動機構
54:モータ
56:動力伝達機構
60:Z軸移動機構固定部
62:Z軸移動機構可動部底面
64:Z軸移動機構可動部
66:クロスローラ
66-1、66-2、120、122:クロスローラガイド
68:Z軸移動機構可動部底面板
70:ボールネジ駆動装置
72、72-1、72-2:ボールネジナット
74、74-1、74-2:ボールネジ
76:カップリング部
80:ダイレクトドライブモータ(DDモータ)
84:ローター
86:ステイター部
88-1、88-2:測定プローブ支持基体
90-1、90-2、90-3:θ軸方向調整ネジ
92-1、92-2、92-3:Z軸方向調整ネジ
94A、94B:高さ測定プローブ
96-1、96-2:Z軸方向測定プローブ
98-1、98-2:Z軸方向測定用基準部材
126:円筒コロ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転ブレードの回転軸と平行なインデックス送り方向であるY軸方向の移動を行うY軸移動機構を備え、前記回転ブレードが装着されたスピンドルユニットを保持するスピンドル保持機構と、ワークを載荷するワークテーブルを保持するワークテーブル保持機構とを備え、
該ワークテーブル保持機構は、
前記ワークに対する切削送り方向であるX軸方向の移動を行うX軸移動機構上に、切り込み方向であるZ軸方向の移動を行うZ軸移動機構と、前記Z軸方向に平行な方向をθ回転軸とする回転を行うθ回転機構を備え、
該θ回転機構は前記Z軸移動機構内に取り囲まれていることを特徴とするダイシング装置。
【請求項2】
回転ブレードの回転軸と平行なインデックス送り方向であるY軸方向の移動を行うY軸移動機構を備え、前記回転ブレードが装着されたスピンドルユニットを保持するスピンドル保持機構と、ワークを載荷するワークテーブルを保持するワークテーブル保持機構とを備え、
該ワークテーブル保持機構は、
前記ワークに対する切削送り方向であるX軸方向の移動を行うX軸移動機構上に、切り込み方向であるZ軸方向の移動を行うZ軸移動機構と、前記Z軸方向に平行な方向をθ回転軸とする回転を行うθ回転機構を備え、
該θ回転機構は前記Z軸移動機構内に取り囲まれており、前記X軸移動機構、前記Z軸移動機構、及び当該θ回転機構を積み重ねて構成した場合と比較して当該ワークテーブル保持機構の重心位置が低い位置にくるように形成されている
ことを特徴とするダイシング装置。
【請求項3】
回転ブレードが装着されたスピンドルユニットを保持するスピンドル保持機構と、ワークを載荷するワークテーブルを保持するワークテーブル保持機構を備え、
該ワークテーブル保持機構は、
前記ワークに対する切削送り方向であるX軸方向の移動を行うX軸移動機構と前記回転ブレードの回転軸と平行なインデックス送り方向であるY軸方向の移動を行うY軸移動機構とが組み合わせられたX-Y移動機構と、該X-Y移動機構上に、切り込み方向であるZ軸方向の移動を行うZ軸移動機構と、前記Z軸方向に平行な方向をθ回転軸とする回転を行うθ回転機構が配置され、
該θ回転機構は前記Z軸移動機構内に取り囲まれていることを特徴とするダイシング装置。
【請求項4】
回転ブレードが装着されたスピンドルユニットを保持するスピンドル保持機構と、ワークを載荷するワークテーブルを保持するワークテーブル保持機構を備え、
該ワークテーブル保持機構は、
前記ワークに対する切削送り方向であるX軸方向の移動を行うX軸移動機構と前記回転ブレードの回転軸と平行なインデックス送り方向であるY軸方向の移動を行うY軸移動機構とが組み合わせられたX-Y移動機構と、該X-Y移動機構上に、切り込み方向であるZ軸方向の移動を行うZ軸移動機構と、前記Z軸方向に平行な方向をθ回転軸とする回転を行うθ回転機構が配置され、
該θ回転機構は前記Z軸移動機構内に取り囲まれており、前記X-Y軸移動機構、前記Z軸移動機構、及び当該θ回転機構を積み重ねて構成した場合と比較して当該ワークテーブル保持機構の重心位置が低い位置にくるように設定されている
ことを特徴とするダイシング装置。
【請求項5】
前記θ回転機構が0°〜360°の範囲で回転可能であり、前記ワークテーブルに載荷されたワークをX方向、-X方向、Y方向、及び-Y方向に切削可能とされていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のダイシング装置
【請求項1】
回転ブレードの回転軸と平行なインデックス送り方向であるY軸方向の移動を行うY軸移動機構を備え、前記回転ブレードが装着されたスピンドルユニットを保持するスピンドル保持機構と、ワークを載荷するワークテーブルを保持するワークテーブル保持機構とを備え、
該ワークテーブル保持機構は、
前記ワークに対する切削送り方向であるX軸方向の移動を行うX軸移動機構上に、切り込み方向であるZ軸方向の移動を行うZ軸移動機構と、前記Z軸方向に平行な方向をθ回転軸とする回転を行うθ回転機構を備え、
該θ回転機構は前記Z軸移動機構内に取り囲まれていることを特徴とするダイシング装置。
【請求項2】
回転ブレードの回転軸と平行なインデックス送り方向であるY軸方向の移動を行うY軸移動機構を備え、前記回転ブレードが装着されたスピンドルユニットを保持するスピンドル保持機構と、ワークを載荷するワークテーブルを保持するワークテーブル保持機構とを備え、
該ワークテーブル保持機構は、
前記ワークに対する切削送り方向であるX軸方向の移動を行うX軸移動機構上に、切り込み方向であるZ軸方向の移動を行うZ軸移動機構と、前記Z軸方向に平行な方向をθ回転軸とする回転を行うθ回転機構を備え、
該θ回転機構は前記Z軸移動機構内に取り囲まれており、前記X軸移動機構、前記Z軸移動機構、及び当該θ回転機構を積み重ねて構成した場合と比較して当該ワークテーブル保持機構の重心位置が低い位置にくるように形成されている
ことを特徴とするダイシング装置。
【請求項3】
回転ブレードが装着されたスピンドルユニットを保持するスピンドル保持機構と、ワークを載荷するワークテーブルを保持するワークテーブル保持機構を備え、
該ワークテーブル保持機構は、
前記ワークに対する切削送り方向であるX軸方向の移動を行うX軸移動機構と前記回転ブレードの回転軸と平行なインデックス送り方向であるY軸方向の移動を行うY軸移動機構とが組み合わせられたX-Y移動機構と、該X-Y移動機構上に、切り込み方向であるZ軸方向の移動を行うZ軸移動機構と、前記Z軸方向に平行な方向をθ回転軸とする回転を行うθ回転機構が配置され、
該θ回転機構は前記Z軸移動機構内に取り囲まれていることを特徴とするダイシング装置。
【請求項4】
回転ブレードが装着されたスピンドルユニットを保持するスピンドル保持機構と、ワークを載荷するワークテーブルを保持するワークテーブル保持機構を備え、
該ワークテーブル保持機構は、
前記ワークに対する切削送り方向であるX軸方向の移動を行うX軸移動機構と前記回転ブレードの回転軸と平行なインデックス送り方向であるY軸方向の移動を行うY軸移動機構とが組み合わせられたX-Y移動機構と、該X-Y移動機構上に、切り込み方向であるZ軸方向の移動を行うZ軸移動機構と、前記Z軸方向に平行な方向をθ回転軸とする回転を行うθ回転機構が配置され、
該θ回転機構は前記Z軸移動機構内に取り囲まれており、前記X-Y軸移動機構、前記Z軸移動機構、及び当該θ回転機構を積み重ねて構成した場合と比較して当該ワークテーブル保持機構の重心位置が低い位置にくるように設定されている
ことを特徴とするダイシング装置。
【請求項5】
前記θ回転機構が0°〜360°の範囲で回転可能であり、前記ワークテーブルに載荷されたワークをX方向、-X方向、Y方向、及び-Y方向に切削可能とされていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のダイシング装置
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−230982(P2012−230982A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−97743(P2011−97743)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【特許番号】特許第4852178号(P4852178)
【特許公報発行日】平成24年1月11日(2012.1.11)
【出願人】(596117887)株式会社テクノホロン (6)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【特許番号】特許第4852178号(P4852178)
【特許公報発行日】平成24年1月11日(2012.1.11)
【出願人】(596117887)株式会社テクノホロン (6)
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