説明

ダイスおよびフィルムの製造方法

【課題】溶融樹脂の流動性や離型性を向上し、パージ性を改善できるダイスおよびフィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】溶融樹脂を押出成膜するダイス1において、ダイス1の内面のうちマニホールド部3の表面粗度の最大高さRyが0.5≦Ry≦10の範囲内であるダイス1を用いてフィルムを製造する。マニホールド部3の内面の粗面化は、ウォーターホーニングによることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融樹脂の押出成膜に用いられるダイスおよびフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂を用いてフィルムを成形するには、該熱可塑性樹脂を溶融させ、この溶融樹脂をダイスから押し出す押出成膜の方法が広く用いられている。従来のダイスにおいては、異物の引っ掛かりを抑制する等の観点により、ダイスの内面は平滑に加工されている。従来は、例えばメッキ面等の表面加工により、表面粗度として、最大高さRyが0.1〜0.2程度のダイスが用いられている(例えば特許文献1)。
また、特許文献2には、ダイの押出面に付着する「目やに」を軽減するため、ダイの接液面の表面粗さの最大高さ(Rya)と大気開放面の表面粗さの最大高さ(Ryb)の比(Ryb/Rya)が1.5〜20の範囲にあるダイの提案がある。この提案における大気開放面とは、接液面に隣接して大気に開放された、ダイの外面である(特許文献2の段落0010参照)。
【特許文献1】特開2002−331564号公報
【特許文献2】特開平10−264229号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
近年、樹脂製品においても多品種生産の要求がますます高まっている。樹脂の色や種類を変更するとき、新しい樹脂を流して変更前の樹脂をパージ(追い出し)する作業が必要である。この作業にはかなりの時間や樹脂量が必要であり、生産性の点で問題である上、古い樹脂が残留すると、新しい樹脂で成形した製品に混入して、製造不良となる。
また、溶融樹脂の滞留や付着による樹脂の炭化の促進、フィルムの幅方向における厚さのバラツキなどの問題があり、このような現象が生じると、フィルムの製造不良となり、歩留まりに悪影響を与えることになる。
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、溶融樹脂の流動性や離型性を向上し、パージ性を改善できるダイスおよびフィルムの製造方法を提供することを課題とする。本発明は、さらに、パージ性の改善とともに、フィルムの幅方向における厚さのバラツキを低減できるダイスおよびフィルムの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するため、本発明は、溶融樹脂を押出成膜するダイスにおいて、ダイスの内面のうちマニホールド部の表面粗度の最大高さRyが0.5≦Ry≦10の範囲内であることを特徴とするダイスを提供する。
前記マニホールド部は、ウォーターホーニングにより最大高さRyが0.5≦Ry≦10の範囲内とされたものであることが好ましい。
さらにダイスの内面のうちランド部の表面粗度の最大高さRyが0.5≦Ry≦10の範囲内であることが好ましい。ランド部の表面粗度の最大高さRyは、1.5≦Ry≦4の範囲内であることが好ましい。
【0006】
また、本発明は、上述のダイスを用いて溶融樹脂を押出成膜することを特徴とするフィルムの製造方法を提供する。
前記樹脂としては、例えばポリオレフィンを用いることができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ダイスの内面のうちマニホールド部の表面粗度を最適化することにより、パージ性を改善して、より短時間、少量の樹脂を用いてパージを確実に行うことができる。
さらにダイスの内面のうちランド部の表面粗度を最適化することにより、溶融樹脂の滞留や付着による樹脂の炭化などが抑制され、フィルムの幅方向における厚さのバラツキの小さいフィルムを得ることができる。
これらの結果、フィルムの生産性や品質、歩留まりを改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、最良の形態に基づき、図面を参照して本発明を説明する。
図1は、ダイスの概略構成を示す断面図である。図1に示すダイス1において、符号2はダイ本体である。このダイ本体2はフィルムの幅方向に対応して幅方向(図1の紙面に垂直な方向)に延設されている。ダイ本体2の内部には、ダイ本体2の幅方向に溶融樹脂を均等に分配するための空間であるマニホールド部3が形成されている。
【0009】
図2は、このダイスを具備する押出成膜装置の一例を示す概略斜視図である。図2は、押出成膜装置10のうち押出機11とその先端に取り付けたダイス1を示し、簡略のため他の構成要素の図示を省略したものである。
マニホールド部3の上方には、マニホールド部3に連通する溶融樹脂供給路4が形成されており、図2に示すように、押出機11内で加熱溶融され、さらに混練された溶融樹脂が溶融樹脂供給路4を経由してマニホールド部3に供給されるようになっている。
【0010】
マニホールド部3の下方には、厚さが同一となるよう平行に垂下し、ダイ本体2の下端に開口するスリット状のランド部5が形成されている。また、ダイ本体2の下端からは、ダイ本体2のランド部5を介した両側からランド部5の厚さ方向中央部に向け、一対のリップ部6がそれぞれ突出している。この結果、ランド部5の下方には、リップ部6同士の間に離間するスリット7が形成される。スリット7の前後方向の間隔は、リップ部6の上下動により調整することができる。
【0011】
ダイス1の内面は、溶融樹脂が接触しうる面であり、本発明では、ダイス1の内面を粗面化する。これにより、溶融樹脂の流動性の改善に対して大きな効果を得ることができる。ダイス1の内面には、マニホールド部3、溶融樹脂供給路4、ランド部5、および、リップ部6のスリット7に臨む内面6aなどが含まれる。
【0012】
本発明においては、ダイス1の内面のうちマニホールド部3の最大高さRyを0.5≦Ry≦10の範囲内とする。マニホールド部3の最大高さRyは、より好ましくは1.0≦Ry≦4、さらに好ましくは1.5≦Ry≦2.5の範囲内とすることが好ましい。
このようにマニホールド部3の表面粗さを最適化することにより、マニホールド部3の内面に対する樹脂の流動抵抗を軽減し、マニホールド部3内における溶融樹脂の流動性、離型性を高め、パージ性を改善することができる。この結果、より短時間、少量の樹脂を用いてパージをより確実に行うことができる。
【0013】
本発明においては、マニホールド部3の最大高さRyを上記の範囲内とした上で、さらにダイス1の内面のうちランド部5の最大高さRyを0.5≦Ry≦10の範囲内とすることが好ましい。ランド部5の最大高さRyは、より好ましくは1.5≦Ry≦4の範囲内とすることが好ましい。
これにより、ランド部5における溶融樹脂の流動性や離型性が改善され、フィルムの幅方向における厚さのバラツキの小さいフィルムを製造することができる。
【0014】
本発明において、最大高さRyとは、JIS B 0601−1994に規定される最大高さRy(またはRmaxともいう。)であり、μmを単位として表した数値である。
【0015】
これらマニホールド部3、ランド部5など、ダイス1の内面のRyを上記の範囲内に調整する方法は特に限定されるものではないが、例えば、ウォーターホーニングやサンドブラストなどにより、ダイス1の内面を粗面化する方法等が挙げられる。
なかでもウォーターホーニングは、マニホールド部3の粗面化に適用した場合、パージ性が優れた表面が得られやすいので好ましい。
【0016】
すなわち、図3に示すように、サンドブラストによる表面粗さ曲線(図3(a)、Ry=3.0μm、Ra=0.37μm)に比べて、ウォーターホーニングによる表面粗さ曲線(図3(b)、Ry=3.7μm、Ra=0.29μm)は、Ryが同程度でもRaの小さな(振幅の小さな)粗さ曲線を呈する表面が得られ、このことがパージ性の改善には一層有利である。
ダイス1の内面の粗面化は、図4に示すように、ダイ本体2を2つに分割し、内面を開いた状態で片側ずつ処理することにより、容易に内面の粗面化処理を行うことができる。
【0017】
上述のようにマニホールド部の内面を粗面化したダイスを用いることにより、溶融樹脂の流動性や離型性が改善され、フィルム成形に用いる樹脂をパージして色や種類等が異なる樹脂に置換するときのパージ性が向上される。従って、生産時のフィルムへの異樹脂の混入や、樹脂の置換に要するパージ樹脂の量や時間を低減し、低コスト化、生産性の向上を図ることができる。すなわち、樹脂の置換後に、より迅速に生産を開始することができ、また生産開始後の製品の歩留まりを向上することができる。
【0018】
また、さらにランド部の内面を粗面化したダイスを用いることにより、フィルムの幅方向における厚さのバラツキの小さいフィルムを製造することができる。
この理由としては、ダイス内面の金属表面における流動性を向上されることにより、手前の流路で発生している溶融樹脂の流れをレベリングされ、また、金属表面での離型性が向上されることにより、溶融樹脂の金属表面への付着や樹脂流の滞留が低減され、流路面の樹脂による流れの阻害が抑制されるためと考えられる。
【実施例】
【0019】
(試験例1)
ダイスの内面を粗面化した効果を検証するため、図5に示すように押出機21の長手方向に対してT字型にダイス22を取り付けた押出成膜装置20を用意した。ダイス22は、幅方向の一方の側においてマニホールド部の内面をウォーターホーニングにより粗面化するとともに、他方の側においてマニホールド部の内面を鏡面化したものを用いた。マニホールド部の内面の表面粗さは、粗面部分においてRy=2.0μm、鏡面部分においてRy=0.2μmである。
このような押出成膜装置20によれば、押出機21の長手方向に対して、ダイス22の粗面部分と鏡面部分とが対称に位置するので、図2に示す通常の設置状態に比べて溶融樹脂の流れ方向の影響が生じにくく、より等しい条件にて両者の性能を比較できるものと考えられる。
【0020】
上記の押出成膜装置20を用いてポリエチレン(PE)を押出成形したときのリップクリアランス(左軸、棒グラフ)と、幅方向における膜厚の変動(右軸、折れ線グラフ)を図6に示す。図6において、測定位置0〜250mmの範囲がマニホールド部の内面を粗面化した部分に、測定位置250〜500mmの範囲がマニホールド部の内面を鏡面化した部分に対応している。
【0021】
また、ポリエチレンの押出成形を5回繰り返して実施し、得られたフィルムを粗面部分から押出成形された部分と鏡面部分から押出成形された部分とに切り分け、それぞれの質量を測定した。フィルムの質量と押出に要した時間とから樹脂の平均流量を算出した結果を表1に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
図6及び表1に示す結果から分かるように、マニホールド部の内面を粗面にした部分では樹脂の平均流量が大きくなり、膜厚が厚く、幅方向における膜厚のばらつきが小さいフィルムが得られた。これに対して、マニホールド部の内面を鏡面にした部分では樹脂の平均流量が比較的小さく、ダイスの幅方向の中央部(測定位置が250mmに近い部分)から端部(測定位置が500mmに近い部分)に向かって膜厚が減少傾向にあり、幅方向における膜厚のばらつきが大きくなる結果となった。また、マニホールド部の内面を鏡面にした部分の端部(測定位置が500mmに近い部分)ではリップクリアランスが拡大する現象が生じていることから、マニホールド部の内面を鏡面にした部分では溶融樹脂の流動抵抗が大きいために押出圧力が過大になっているものと考えられる。
【0024】
試験例1のダイス22において樹脂がパージされる様子を検証するため、着色した樹脂を用いてフィルムの押出成膜を行った。先に緑色に着色したPEを用いてフィルムを製造したのち、青色に着色したPPを押し出して、切り替え時間の差を測定した。パージの途中では、図7に示すように、ダイス22から押し出されるフィルムは、中央線Cに近い側から新しい樹脂(青色PP)が押し出され、両外側では古い樹脂(緑色PE)の幅が徐々に狭くなっていく様子を確認することができた。このとき、粗面化処理をした側(図7左側)では、鏡面化処理をした側(図7右側)に比べて、新しい青色PPが押し出される幅の広がる速さが速かった。青色PPの帯が押出フィルムの端に達するまで(緑色PEの帯が見えなくなるまで)の時間を樹脂切り替え時間として測定したところ、樹脂切り替え時間は、粗面化処理をした側で6分30秒、鏡面化処理をした側で7分30秒であり、粗面化処理による樹脂切り替え時間の短縮効果を検証することができた。
【0025】
(試験例2)
ランド部のRyが表2に示す範囲であるダイスを用意し、それぞれのダイスを用いて厚みが約300μmのポリオレフィンフィルムを製造した。ポリオレフィンフィルムとしては、ポリプロピレン(PP)を用いた。
【0026】
【表2】

【0027】
フィルムの幅方向に、等間隔に76個の測定点を設定し、順に番号1〜76とした。実施例1および比較例1のダイスより押出成形されたフィルムについて、フィルムの幅方向の各測定点におけるフィルムの厚さを測定した。
実施例2のダイスにおいては、加工条件や設備等を変更することなく押出成形加工を行った1回のロットについて、押出成形加工を開始した直後のフィルムを実施例2−1とし、押出成形加工を約65時間継続した後のフィルムを実施例2−2とする。
また、比較例2のダイスから押出成形加工されたフィルムの比較例は、比較例2−1とする。
【0028】
図8〜図10に、上記測定によって示されたフィルムの幅方向における厚さの変動の様子を示す。図8は、実施例2−1のフィルムに対応する測定結果を示すグラフであり、図9は、実施例2−2のフィルムに対応する測定結果を示すグラフであり、図10は、比較例2−1のフィルムに対応する測定結果を示すグラフである。
また、各フィルムの幅方向における厚さのバラツキを指標化するため、それぞれのフィルム厚さの測定結果について、厚さのレンジ(最大値と最小値との差)および標準偏差を求めた。この結果を表3に示す。表3には、各フィルムの成形に用いたダイスのRy(表1参照)を併せて示した。
【0029】
【表3】

【0030】
図8〜図10及び表3に示す結果から明らかなように、実施例のダイスを用いてフィルムを製造した場合には、比較例のダイスを用いてフィルムを製造した場合と比較して、フィルムの幅方向における厚さのバラツキを低減することができた。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、例えばポリオレフィン等の熱可塑性樹脂の押出成形によるフィルムの製造に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】ダイスの概略構成を示す断面図である。
【図2】ダイスを具備する押出成膜装置の一例を示す概略斜視図である。
【図3】(a)はサンドブラストにて粗面化された表面の粗さ曲線の一例であり、(b)はウォーターホーニングにて粗面化された表面の粗さ曲線の一例である。
【図4】ダイスを開いた状態を示す断面図である。
【図5】試験例1で用いたダイスを具備する押出成膜装置の概略斜視図である。
【図6】試験例1の試験結果を示すグラフである。
【図7】試験例1のダイスにおいて樹脂がパージされる様子を示す模式図である。
【図8】実施例2−1のフィルムの幅方向における厚さの変動の測定結果を示すグラフである。
【図9】実施例2−2のフィルムの幅方向における厚さの変動の測定結果を示すグラフである。
【図10】比較例2−1のフィルムの幅方向における厚さの変動の測定結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0033】
1…ダイス、2…ダイ本体、3…マニホールド部、4…溶融樹脂供給路、5…ランド部、6…リップ部、10…押出成膜装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融樹脂を押出成膜するダイスにおいて、ダイスの内面のうちマニホールド部の表面粗度の最大高さRyが0.5≦Ry≦10の範囲内であることを特徴とするダイス。
【請求項2】
前記マニホールド部は、ウォーターホーニングにより最大高さRyが0.5≦Ry≦10の範囲内とされたものであることを特徴とする請求項1に記載のダイス。
【請求項3】
さらにダイスの内面のうちランド部は、表面粗度の最大高さRyが0.5≦Ry≦10の範囲内であることを特徴とする請求項1または2に記載のダイス。
【請求項4】
さらにダイスの内面のうちランド部は、表面粗度の最大高さRyが1.5≦Ry≦4の範囲内であることを特徴とする請求項1または2に記載のダイス。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載のダイスを用いて溶融樹脂を押出成膜することを特徴とするフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記樹脂がポリオレフィンであることを特徴とする請求項5に記載のフィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−160826(P2007−160826A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−362897(P2005−362897)
【出願日】平成17年12月16日(2005.12.16)
【出願人】(000224101)藤森工業株式会社 (292)
【Fターム(参考)】