ダイプレクサ及びマルチプレクサ
【課題】通過帯域の低域側において良好な減衰特性を有するバンドパスフィルタを備えたダイプレクサ等を提供する。
【解決手段】本発明のダイプレクサ10は、共通端子T0と第1の端子T1との間に接続され第1の周波数帯域を通過帯域とするバンドパスフィルタ11と、共通端子T0と第2の端子T2との間に直列接続されたハイパスフィルタ12a及びローパスフィルタ12bにより構成され、第2の周波数帯域を通過帯域とするバンドパスフィルタ12とを備えている。ハイパスフィルタ12aは、共通端子T0と出力ノードNaの間に直列接続されたコンデンサC20、C21と、これらのコンデンサC20、C21の間の接続点とグランドとの間に接続されたインダクタL20と、出力ノードNaとグランドとの間に接続されたノッチ回路(インダクタL21及びコンデンサC22)とを含み、特に通過帯域の低域側の減衰特性の改善に有効である。
【解決手段】本発明のダイプレクサ10は、共通端子T0と第1の端子T1との間に接続され第1の周波数帯域を通過帯域とするバンドパスフィルタ11と、共通端子T0と第2の端子T2との間に直列接続されたハイパスフィルタ12a及びローパスフィルタ12bにより構成され、第2の周波数帯域を通過帯域とするバンドパスフィルタ12とを備えている。ハイパスフィルタ12aは、共通端子T0と出力ノードNaの間に直列接続されたコンデンサC20、C21と、これらのコンデンサC20、C21の間の接続点とグランドとの間に接続されたインダクタL20と、出力ノードNaとグランドとの間に接続されたノッチ回路(インダクタL21及びコンデンサC22)とを含み、特に通過帯域の低域側の減衰特性の改善に有効である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体通信機器等に搭載され、複数の周波数帯域の信号を選択的に伝送するダイプレクサ及びマルチプレクサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の移動体通信機器は、複数の異なる周波数帯域を共用可能に構成されるのが一般的になっている。そのため、アンテナ端子と周波数帯域ごとに設けられた高周波回路との間にマルチプレクサを配置し、複数の周波数帯域の信号を選択的に伝送する構成が採用される。2つの周波数帯域の信号を選択的に伝送するダイプレクサを例にとると、例えば、低周波帯域用のローパスフィルタと高周波帯域用のハイパスフィルタとにより構成することができる。しかし、この構成では、2つの周波数帯域の各信号を分離できるものの、低周波帯域の低域側と高周波帯域の高域側の不要成分を除去できない。そのため、ダイプレクサやマルチプレクサにおいて、それぞれの周波数帯域に対応するローパスフィルタとハイパスフィルタを組み合わせてバンドパスフィルタを構成する手法が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
【特許文献1】特開2007−251107号公報
【特許文献2】特開2006−101149号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来の構成をダイプレクサに適用する場合を考えると、低周波帯域用のバンドパスフィルタよりも、高周波帯域用のバンドパスフィルタに特性上の問題が生じやすい。例えば、上記特許文献1の構成では、高周波帯域用のバンドパスフィルタの通過帯域の低域側近傍では急峻な減衰特性が得られるが、それよりも低域側で減衰特性が劣化している。また、上記特許文献2の構成では、高周波帯域用のバンドパスフィルタの通過帯域の低域側における減衰特性は全般的に良好であるが、通過帯域の低域側近傍では減衰量が不十分である。このように従来の構成を採用したとしても、高周波帯域用のバンドパスフィルタは、通過帯域の低域側近傍を含む広い周波数範囲にわたって良好な減衰特性を確保して不要成分を確実に除去することが困難であった。
【0004】
そこで、本発明はこれらの問題を解決するためになされたものであり、2以上の周波数帯域の信号を選択的に伝送する際、高周波帯域用のフィルタの通過帯域の低域側における減衰特性を改善し、不要成分を確実に除去可能に構成されたダイプレクサ及びマルチプレクサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明のダイプレクサは、共通端子に伝送される信号のうち、少なくとも第1の周波数帯域の信号と当該第1の周波数帯域の信号より高い第2の周波数帯域の信号とを選択的に伝送するダイプレクサであって、前記共通端子と第1の端子との間に接続され、前記第1の周波数帯域を通過させて前記第2の周波数帯域を遮断する第1のフィルタと、前記共通端子と第2の端子との間に直列接続されたハイパスフィルタ及びローパスフィルタにより構成され前記第2の周波数帯域を通過させて前記第1の周波数帯域を遮断する第2のフィルタとを備えて構成される、そして、前記ハイパスフィルタは、一端が前記共通端子に接続された第1のコンデンサと、前記第1のコンデンサに直列に接続された第2のコンデンサと、前記第1のコンデンサ及び前記第2のコンデンサの間の接続点とグランドとの間に接続された第1のインダクタと、前記第2のコンデンサの他端とグランドとの間に接続されたノッチ回路とを含んでいる。
【0006】
本発明のダイプレクサによれば、高周波側の第2の周波数帯域用に設けられた第2のフィルタは、ハイパスフィルタとローパスフィルタを直列接続したバンドパスフィルタとして構成され、このうち、前段のハイパスフィルタは、第1及び第2のコンデンサ、第1のインダクタ、ノッチ回路を上記のように接続して構成されている。そして、前段のハイパスフィルタの構成により、特に第2の周波数帯域の低域側における減衰特性を改善する効果があり、第1の周波数帯域の信号を遮断することに加え、低域側の不要成分を十分に除去することができる。なお、シミュレーションの結果、このような減衰特性の改善がローパスフィルタの接続構成に基づいて得られることが確認された。
【0007】
本発明のダイプレクサにおいて、前記ノッチ回路は、第3のコンデンサおよび第2のインダクタからなる直列共振回路を用いて構成してもよい。この場合、前記ノッチ回路の共振周波数は、前記第2のフィルタの周波数特性において前記第2の周波数帯域の低域側近傍に減衰極が生じるように調整することが望ましい。
【0008】
本発明のダイプレクサにおいて、前記第1のフィルタ及び前記第2のフィルタは、集中定数素子としての複数のコンデンサ及び複数のインダクタを用いて構成してもよい。これにより、集中定数素子を用いた簡単な構成のダイプレクサを実現することができる。
【0009】
本発明のダイプレクサにおいて、前記第1のフィルタ及び前記第2のフィルタは、複数の誘電体層を積層した積層体に構成してもよい。この場合、前記第1のフィルタを構成する回路素子と前記第2のフィルタを構成する回路素子とを、前記積層体の平面方向の異なる領域に形成し、積層方向で互いに重ならないように配置することが望ましい。
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のマルチプレクサは、共通端子に伝送される信号のうち、N個の異なる周波数帯域の信号の各々を選択的に伝送するマルチプレクサであって、前記共通端子とN個の端子の各々との間に接続され、前記N個の異なる周波数帯域の各々を通過させて他の周波数帯域を遮断するN個のフィルタを備え、前記N個の周波数帯域のうち最も低い周波数帯域に対応する前記フィルタを除いたN−1個のフィルタには、共通端子と前記端子との間に直列接続されたハイパスフィルタ及びローパスフィルタにより構成された少なくとも1個のバンドパスフィルタが含まれる。そして、前記ハイパスフィルタは、一端が前記共通端子に接続された第1のコンデンサと、一端が前記第1のコンデンサの他端に接続された第2のコンデンサと、前記第1のコンデンサ及び前記第2のコンデンサの間の接続点とグランドとの間に接続された第1のインダクタと、前記第2のコンデンサの他端とグランドとの間に接続されたノッチ回路とを含んでいる。
【0011】
本発明のマルチプレクサにおいて、前記ノッチ回路は、第3のコンデンサおよび第2のインダクタからなる直列共振回路を用いて構成してもよい。この場合、前記ノッチ回路の共振周波数は、前記バンドパスフィルタの周波数特性において前記第2の周波数帯域の低域側近傍に減衰極が生じるように調整することが望ましい。
【0012】
本発明のマルチプレクサにおいて、前記N個のフィルタは、複数の誘電体層を積層した積層体に構成してもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、低周波側の第1の周波数帯域を通過帯域とする第1のフィルタと、高周波側の第2の周波数帯域を通過帯域とする第2のフィルタとを備えるダイプレクサにおいて、ハイパスフィルタとローパスフィルタを直列接続して第2のフィルタを構成し、このうちハイパスフィルタの接続構成を規定することにより、第2の周波数帯域の低域側における減衰特性を改善することができる。特に、第2の周波数帯域の低域側近傍で急峻な減衰特性を確保しつつ、低域側のより広い周波数範囲にわたって十分な減衰量を確保し、さらには共通端子における良好なインピーダンス整合を保つことができるので、第1の周波数帯域の信号を確実に遮断しつつ、それ以外の低域側の不要成分を確実に除去し得る高性能のダイプレクサを実現することができる。
【0014】
また、本発明によれば、N個の異なる周波数帯域を通過帯域とするN個のフィルタを備えるマルチプレクサにおいて、最も低い周波数帯域以外の周波数帯域を通過帯域とする所定のフィルタを上述のように構成することにより、任意の周波数帯域の低域側において良好な減衰特性を有する高性能のマルチプレクサを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。以下では、移動体通信機器において2つの周波数帯域の信号を選択的に伝送するダイプレクサに対し本発明を適用する場合を説明する。
【0016】
図1は、本実施形態のダイプレクサ10の等価回路を示す図である。本実施形態のダイプレクサ10は、低周波側の第1の周波数帯域を通過帯域とするバンドパスフィルタ11(本発明の第1のフィルタ)と、第1の周波数帯域よりも高い第2の周波数帯域を通過帯域とするバンドパスフィルタ12(本発明の第2のフィルタ)とを備えている。バンドパスフィルタ11は、共通端子T0と端子T1(本発明の第1の端子)との間に配置され、バンドパスフィルタ12は、共通端子T0と端子T2(本発明の第2の端子)との間に配置されている。共通端子T0はアンテナ等に接続される端子であり、端子T1は第1の周波数帯域用の送受信回路に接続される端子であり、端子T2は第2の周波数帯域用の送受信回路に接続される端子である。
【0017】
第1の周波数帯域用のバンドパスフィルタ11は、インダクタL10、L11、L12、L13と、コンデンサC10、C11、C12、C13、C14を含んで構成されている。このうちインダクタL10、コンデンサC10、インダクタL11、コンデンサC11を含む前段の回路部分は、第1の周波数帯域の高域側を減衰させるローパスフィルタとして動作する。また、コンデンサC12、インダクタL12、コンデンサC13、インダクタL13、コンデンサC14を含む後段の回路部分は、第1の周波数帯域の低域側を減衰させるハイパスフィルタとして動作する。これらのローパスフィルタとハイパスフィルタを直列接続して各素子の定数を適切に設定することにより、第1の周波数帯域を通過帯域とするバンドパスフィルタ11が構成される。
【0018】
一方、第2の周波数帯域用のバンドパスフィルタ12は、前段のハイパスフィルタ12aと、後段のローパスフィルタ12bとを直列接続して構成されている。このうちハイパスフィルタ12aは、コンデンサC20、C21、C22と、インダクタL20、L21を含み、第2の周波数帯域の低域側を減衰させるように動作する。また、ローパスフィルタ12bは、コンデンサC23、C24、C25と、インダクタL22を含み、第2の周波数帯域の高域側を減衰させるように動作する。
【0019】
本実施形態のダイプレクサにおいては、バンドパスフィルタ12の前段のハイパスフィルタ12aの回路構成に特徴がある。図1に示すように、ハイパスフィルタ12aにおいて、コンデンサC20(本発明の第1のコンデンサ)及びコンデンサC21(本発明の第2のコンデンサ)は、共通端子T0と出力ノードNaとの間に直列接続されている。インダクタL20(本発明の第1のインダクタ)は、コンデンサC20、C21の間の接続点とグランドの間に接続されている。ノッチ回路を構成するインダクタL21(本発明の第2のインダクタ)及びコンデンサC22(本発明の第3のコンデンサ)は、出力ノードNaとグランドの間に直列接続されている。図1に示すハイパスフィルタ12aの回路構成によれば、第2の周波数帯域の通過特性を保ちつつ、その低域側の周波数範囲における減衰特性を改善する効果が得られるが、詳しくは後述する。
【0020】
図1の構成において、アンテナから共通端子T0に伝送される受信信号のうち、第1の周波数帯域の受信信号は、バンドパスフィルタ11を通過する一方、バンドパスフィルタ12により十分に減衰するため端子T1に伝送される。これに対し、上記の受信信号のうち、第2の周波数帯域の受信信号は、バンドパスフィルタ11により十分に減衰する一方、バンドパスフィルタ12を通過して端子T2に伝送される。なお、逆の経路で端子T1、T2からバンドパスフィルタ11、12を経由して伝送される第1、第2の各周波数帯域の送信信号は、共通端子T0を介してアンテナに伝送される。
【0021】
なお、ハイパスフィルタ12aの後段のノッチ回路の役割は、バンドパスフィルタ12の通過帯域の低域側近傍で急峻な減衰特性を確保することである。そのため、インダクタL21及びコンデンサC22の各定数は、バンドパスフィルタ12の周波数特性において第2の周波数帯域の低域側近傍に減衰極が生じるように調整することが望ましい。ただし、図1のノッチ回路と同様の作用を有する限り、図1の構成に限られることなく、異なる構成のノッチ回路を用いることができる。
【0022】
次に、図2〜図4を参照して、本実施形態のダイプレクサ10の一形態として、複数の誘電体層を積層した積層体を用いた構造例について説明する。図2は、本実施形態のダイプレクサ10が構成される積層体10aの外観斜視図を示している。図2に示す積層体10aは、導体パターンを形成した複数の誘電体層(10層)を積層して形成される。積層体10aの側面には、共通端子T0と、第1の周波数帯域側の端子T1と、第2の周波数帯域側の端子T2と、3つのグランド端子Tgが形成され、それぞれ外部接続が可能となっている。これらの各端子は、いずれも積層体10aの内部の導体パターンに接続されている。
【0023】
図2に示すように、積層体10aは、平面方向で2つの領域R1、R2に区分されている。領域R1には、第1の周波数帯域用のバンドパスフィルタ11の回路素子が形成され、領域R2には、第2の周波数帯域用のバンドパスフィルタ12の回路素子が形成される。これにより、2つのバンドパスフィルタ11、12が積層方向で互いに重ならない領域に配置され、それぞれのアイソレーションを十分に確保するために適した配置となっている。
【0024】
図3及び図4は、積層体10aの各層の構造を示す平面図である。積層体10aの内部には、下層から順にセラミックグリーンシートを用いた誘電体層M1〜M10が積層されている。誘電体層M1〜M10には、多数の導体パターンが形成されるとともに、各層の導体パターン同士を接続するために積層方向に貫通する多数のビア導体V(図中、点線で示す)が形成されている。これらのビア導体Vの各々は、誘電体層M1〜M10のうちの連続する所定数の誘電体層を貫いて積層方向に延伸形成される。誘電体層M1〜M10のそれぞれの厚さ及び誘電率については、必要な電気的特性に応じて適宜に設定される。なお、各々の誘電体層M1〜M10は図2に従って区分されており、略中央の位置を基準に、右側がバンドパスフィルタ11の領域R1に対応し、左側がバンドパスフィルタ12の領域R2に対応する。
【0025】
図3に示すように、最下層の誘電体層M1には、広いグランドパターン15が形成され、その外縁部が図2の3つのグランド端子Tgに接続されている。グランドパターン15には、上方に延伸される2つのビア接続部Vが接続されている。なお、誘電体層M1の裏面(不図示)には、図2の各端子の位置に導体パターンが形成されている。
【0026】
誘電体層M2には、バンドパスフィルタ11の回路に対応して、コンデンサC10の電極20と、コンデンサC14の電極21が形成されるとともに、バンドパスフィルタ12の回路に対応して、コンデンサC23の電極22と、コンデンサC22の電極23と、コンデンサC25の電極24が形成されている。これらの電極20〜24は、下層のグランドパターン15と対向配置されている。また、電極24は側面の端子T2に接続されている。
【0027】
誘電体層M3には、バンドパスフィルタ11の回路に対応して、インダクタL10及びL11のそれぞれの一部となる導体パターン30と、インダクタL12の一部となる導体パターン31と、インダクタL13の一部となる導体パターン32が形成されるとともに、バンドパスフィルタ12の回路に対応して、インダクタL21の一部となる導体パターン33と、インダクタL22の一部となる導体パターン34が形成されている。導体パターン30〜34の各々には、下方の各誘電体層から延伸されるビア導体Vが接続されている。すなわち、導体パターン30が電極20に、導体パターン31がグランドパターン15に、導体パターン32が電極21に、導体パターン33が電極23に、導体パターン34が電極22に、それぞれビア導体Vを介して接続されている。
【0028】
誘電体層M4には、バンドパスフィルタ11の回路に対応して、インダクタL10の一部となる導体パターン40と、インダクタL11の一部となる導体パターン41と、インダクタL12の一部となる導体パターン42と、インダクタL13の一部となる導体パターン43が形成されるとともに、バンドパスフィルタ12の回路に対応して、インダクタL21の一部となる導体パターン44と、インダクタL22の一部となる導体パターン45が形成されている。導体パターン40〜45の各々には、それぞれ下方の各誘電体層から延伸されるビア導体Vが接続されている。すなわち、導体パターン40が導体パターン30の一端に、導体パターン41が導体パターン30の他端に、導体パターン42が導体パターン31に、導体パターン43が導体パターン32に、導体パターン44が導体パターン33に、導体パターン45が導体パターン34に、それぞれビア導体Vを介して接続されている。また、導体パターン45は側面の端子T2に接続されている。
【0029】
誘電体層M5には、バンドパスフィルタ11の回路に対応して、インダクタL10の一部となる導体パターン50と、インダクタL11の一部となる導体パターン51と、インダクタL12の一部となる導体パターン52と、インダクタL13の一部となる導体パターン53が形成されるとともに、バンドパスフィルタ12の回路に対応して、インダクタL20の一部となる導体パターン54と、インダクタL21の一部となる導体パターン55が形成されている。導体パターン50〜55の各々には、それぞれ下方の各誘電体層から延伸されるビア導体Vが接続されている。すなわち、導体パターン50が導体パターン40に、導体パターン51が導体パターン41に、導体パターン52が導体パターン42に、導体パターン53が導体パターン43に、導体パターン54がグランドパターン15に、導体パターン55が導体パターン44に、それぞれビア導体Vを介して接続されている。
【0030】
次に図4に示すように、誘電体層M6には、バンドパスフィルタ11の回路に対応して、インダクタL10の一部となる導体パターン60と、インダクタL11の一部となる導体パターン61と、インダクタL12の一部となる導体パターン62と、インダクタL13の一部となる導体パターン63が形成されるとともに、バンドパスフィルタ12の回路に対応して、インダクタL20の一部となる導体パターン64と、インダクタL21の一部となる導体パターン65が形成されている。導体パターン60〜65の各々には、それぞれ下方の各誘電体層から延伸されるビア導体Vが接続されている。すなわち、導体パターン60が導体パターン50に、導体パターン61が導体パターン51に、導体パターン62が導体パターン52に、導体パターン63が導体パターン53に、導体パターン64が導体パターン54に、導体パターン65が導体パターン55に、それぞれビア導体Vを介して接続されている。
【0031】
誘電体層M7には、バンドパスフィルタ11の回路に対応して、インダクタL10の一部となる導体パターン70と、インダクタL12の一部となる導体パターン71と、インダクタL13の一部となる導体パターン72が形成されるとともに、バンドパスフィルタ12の回路に対応して、インダクタL20の一部となる導体パターン73と、インダクタL21の一部となる導体パターン74が形成されている。導体パターン70〜74の各々には、それぞれ下方の各誘電体層から延伸されるビア導体Vが接続されている。すなわち、導体パターン70が導体パターン60に、導体パターン71が導体パターン62に、導体パターン72が導体パターン63に、導体パターン73が導体パターン64に、導体パターン74が導体パターン65に、それぞれビア導体Vを介して接続されている。
【0032】
誘電体層M8には、バンドパスフィルタ11の回路に対応して、インダクタL10の一部となる導体パターン80と、インダクタL12の一部となる導体パターン81と、インダクタL13の一部となる導体パターン82が形成されるとともに、バンドパスフィルタ12の回路に対応して、インダクタL20の一部となる導体パターン83と、インダクタL21の一部となる導体パターン84が形成されている。導体パターン80〜84の各々には、それぞれ下方の各誘電体層から延伸されるビア導体Vが接続されている。すなわち、導体パターン80が導体パターン70に、導体パターン81が導体パターン71に、導体パターン82が導体パターン72に、導体パターン83が導体パターン73に、導体パターン84が導体パターン74に、それぞれビア導体Vを介して接続されている。また、導体パターン80は側面の共通端子T0に接続されるとともに、導体パターン82は側面の端子T1に接続されている。
【0033】
誘電体層M9には、バンドパスフィルタ11の回路に対応して、コンデンサC11の電極90と、コンデンサC12、C13に共通の電極91が形成されるとともに、バンドパスフィルタ12の回路に対応して、コンデンサC20、C21に共通の電極92と、コンデンサC24の電極93が形成されている。電極90は、下方の誘電体層M3の導体パターン30にビア導体Vを介して接続されている。電極91は、下方の誘電体層M8の導体パターン81にビア導体Vを介して接続されている。電極92は、下方の誘電体層M8の導体パターン83にビア導体Vを介して接続されている。また、電極93は側面の端子T2に接続されている。
【0034】
誘電体層M10には、バンドパスフィルタ11の回路に対応して、コンデンサC11、C12に共通の電極100と、コンデンサC13の電極101が形成されるとともに、バンドパスフィルタ12の回路に対応して、コンデンサC20の電極102と、コンデンサC21、C24に共通の電極103が形成されている。電極100は下層の電極90,91と対向配置され、電極101は下層の電極91と対向配置されている。同様に、電極102は下層の電極92と対向配置され、電極103は下層の電極92、93と対向配置されている。電極100は、下方の誘電体層M6の導体パターン61にビア導体Vを介して接続されている。電極103は、下方の誘電体層M8の導体パターン84と下方の誘電体層M3の導体パターン34とにそれぞれビア導体Vを介して接続されている。また、電極101は側面の端子T1に接続され、電極102は側面の共通端子T0に接続されている。なお、誘電体層M10の上部には、積層体10aのカバーとして、素子が形成されない誘電体層(不図示)が設けられている。
【0035】
次に、上述の積層体10aに構成されるダイプレクサ10の減衰特性について具体的に説明する。図5は、図3及び図4の構造に基づきダイプレクサ10のシミュレーションを行って得られた減衰特性を示している。図5においては、第1の周波数帯域に対応するバンドパスフィルタ11の特性S1と、第2の周波数帯域に対応するバンドパスフィルタ12の特性S2とを重ねて示している。特性S1は、バンドパスフィルタ11において共通端子T0から端子T1に至るSパラメータS21(透過特性)の周波数特性を表している。また、特性S2は、バンドパスフィルタ12において共通端子T0から端子T2に至るSパラメータS21(透過特性)の周波数特性を表している。バンドパスフィルタ11は概ね2〜3GHzの範囲を通過帯域とし、バンドパスフィルタ12は概ね3〜4.2GHzの範囲を通過帯域とし、それぞれの通過帯域の低域側及び高域側で減衰量が大きくなることがわかる。
【0036】
本実施形態のダイプレクサ10では、バンドパスフィルタ12の特性S2のうち、通過帯域の低域側で十分な減衰量が確保されている点が特徴である。すなわち、特性S2において、ほぼ0.5〜2.7GHzの範囲内で30dB程度の減衰量が得られていることがわかる。このように特性S2を有するバンドパスフィルタ12は、通過帯域の低域側近傍とその低域側を含む広い周波数範囲にわたって十分な減衰量を得ることができるが、これは主に図1のハイパスフィルタ12aの作用に依存するものである。本実施形態の構成を採用することにより、第2の周波数帯域の信号を確実に通過させつつ、第1の周波数帯域の信号を遮断し、さらに低域側の不要成分を十分に減衰させることができる。
【0037】
ここで、本実施形態のダイプレクサ10の効果を確認するため、図1のローパスフィルタ12aの回路構成を部分的に変更した4通りの比較例を示し、それぞれの減衰特性を本実施形態のダイプレクサ10の減衰特性と比較する。まず、図6は、図1のバンドパスフィルタ12に対応する第1の比較回路を示している。第1の比較回路は、上記従来の特許文献1に開示された構成であり、コンデンサC30a、C30b、C30c、インダクタL30から構成されたハイパスフィルタ30を備えている。コンデンサC30a、C30bは図1のコンデンサC20、C21に対応するが、両者の接続点とグランドの間に、直列接続されたインダクタL30及びコンデンサC30cからなるノッチ回路を接続した点が異なっている。なお、図6及び以下の各変形例において、後段のローパスフィルタの部分は図1と同様に構成されるので説明を省略する。
【0038】
図7は、第1の比較回路の減衰特性を示している。なお、図5のバンドパスフィルタ12の特性S2を実線で示し、それに重ねて第1の比較回路の特性Saを点線で示している。図7からわかるように、第1の比較回路の特性Saは、通過帯域の低域側で減衰量が部分的に劣化している。例えば、2GHz付近では減衰量が20dB程度に劣化し、不要成分を十分に除去するには不十分である。かかる相違は、主に図1のハイパスフィルタ12aにおける前段のインダクタL20及び後段のノッチ回路の接続構成に基づくものである。
【0039】
次に図8は、図1のバンドパスフィルタ12に対応する第2の比較回路を示している。第2の比較回路は、上記従来の特許文献2に開示された構成であり、コンデンサC31a、C31b、インダクタL31から構成されたハイパスフィルタ31を備えている。図8において、図1の回路構成のうち、後段のノッチ回路を取り除いた点が異なっている。
【0040】
図9は、第2の比較回路の減衰特性を示している。図9に示すように、バンドパスフィルタ12の特性S2(実線)に比べ、第2の比較回路の特性Sb(点線)は、通過帯域の低域側で減衰量の変化が緩やかになっている。そのため、特に第1の周波数帯域の信号を十分に遮断できず、ダイプレクサ10の性能として不十分である。かかる相違は、図1のハイパスフィルタ12aの後段に配置したノッチ回路の作用に基づくものである。
【0041】
次に図10は、図1のバンドパスフィルタ12に対応する第3の比較回路を示している。第3の比較回路は、コンデンサC32a、C32b、C32c、インダクタL32a、L32bから構成されたハイパスフィルタ32を備えている。図10においては、図1の回路構成のうち、前段のインダクタL20と後段のノッチ回路を入れ替えて配置した点が異なっている。
【0042】
図11は、第3の比較回路の減衰特性を示している。図11に示すように、バンドパスフィルタ12の特性S2(実線)に比べ、第3の比較回路の特性Sc(点線)は、図7の場合と同様、通過帯域の低域側で減衰量が部分的に劣化している。そのため、通過帯域の低域側で不要成分を十分に除去するには不十分である。かかる相違は、主に図1のハイパスフィルタ12aにおける前段のインダクタL20及び後段のノッチ回路の接続構成に基づくものである。
【0043】
次に図12は、図1のバンドパスフィルタ12に対応する第4の比較回路を示している。第4の比較回路は、コンデンサC33a、C33b、インダクタL33a、L33bから構成されたハイパスフィルタ33を備えている。図12においては、図1の回路構成のうち、共通端子T0とインダクタL20の間のコンデンサC20を取り除いた点が異なっている。
【0044】
第4の比較回路の構成は、共通端子T0を介して2つのバンドパスフィルタ11、12のそれぞれの入力側のインピーダンス整合に影響を与えるため、第4の比較回路を用いた場合のバンドパスフィルタ11の減衰特性(図13(A))と、バンドパスフィルタ12の減衰特性(図13(B))をそれぞれ示している。図13(A)に示すように、本実施形態のバンドパスフィルタ11の特性S1(実線)に比べ、第4の比較回路の特性Sd1(点線)は、通過帯域における減衰量が大きくなっている。また、図13(B)に示すように、本実施形態のバンドパスフィルタ12の特性S2(実線)に比べ、第4の比較回路の特性Sd2(点線)は、上記と同様に通過帯域における減衰量が大きくなるとともに、通過帯域の低域側の減衰量が劣化している。このように、第4の比較回路では、主にコンデンサC20を取り除いたことにより、共通端子T0における適切なインピーダンス整合が取れなくなり、特に通過帯域の特性が不十分になる。
【0045】
以上説明したように、本実施形態のダイプレクサ10において、図1に示す回路構成を有するローパスフィルタ12aを用いて第2の周波数帯域用のバンドパスフィルタ12を構成することにより、第2の周波数帯域の低域側の広い周波数範囲にわたって減衰特性を改善することができる。すなわち、通過帯域の低域側近傍では急峻な減衰となり、より低域側では十分な減衰量を確保でき、さらに共通端子T0において良好なインピーダンス整合を取ることができる。なお、低周波側のバンドパスフィルタ11の回路構成と、高周波側のバンドパスフィルタ12のうちのローパスフィルタ12bの回路構成については、特に制約はなく多様な構成を適用することができる。また、ダイプレクサ10の回路を集中定数素子を用いて構成し、さらに積層体10aに構成することで、小型かつ低コストのダイプレクサ10を実現することができる。
【0046】
以上、本実施形態に基づき本発明の内容を具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を施すことができる。例えば、上記実施形態では、2つの周波数帯域の信号を選択的に伝送するダイプレクサに対して本発明を適用する場合を説明したが、より多数の周波数帯域の信号を選択的に伝送するマルチプレクサに対しても本発明を適用可能である。N個の異なる周波数帯域を前提に考えると、共通端子とN個の端子の各々との間に接続されるN個のフィルタを設け、このうち最も低い周波数帯域以外を通過帯域とするN−1個のフィルタのうちの任意のフィルタを、上記のバンドパスフィルタ12と同様に構成することができる。これにより、マルチプレクサにおいて、例えば、移動体通信機器等による外来の不要成分の影響が問題となる場合、該当する周波数における減衰特性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本実施形態のダイプレクサ10の等価回路を示す図である。
【図2】本実施形態のダイプレクサ10が構成される積層体10aの外観斜視図である。
【図3】本実施形態の積層体10aの各層の構造を示す第1の平面図である。
【図4】本実施形態の積層体10aの各層の構造を示す第2の平面図である。
【図5】本実施形態のダイプレクサ10の減衰特性を示す図である。
【図6】図1のバンドパスフィルタ12に対応する第1の比較回路を示す図である。
【図7】第1の比較回路の減衰特性を示す図である。
【図8】図1のバンドパスフィルタ12に対応する第2の比較回路を示す図である。
【図9】第2の比較回路の減衰特性を示す図である。
【図10】図1のバンドパスフィルタ12に対応する第3の比較回路を示す図である。
【図11】第3の比較回路の減衰特性を示す図である。
【図12】図1のバンドパスフィルタ12に対応する第4の比較回路を示す図である。
【図13】第4の比較回路の減衰特性を示す図である。
【符号の説明】
【0048】
10…ダイプレクサ
10a…積層体
11…バンドパスフィルタ(第1の周波数帯域)
12…バンドパスフィルタ(第2の周波数帯域)
12a…ハイパスフィルタ
12b…ローパスフィルタ
15…グランドパターン
20〜24、90〜93、100〜103…電極
30〜34、40〜45、50〜55、60〜65、70〜74、80〜84…導体パターン
C10〜C14、C20〜C25…コンデンサ
L10〜L13、L20〜L22…インダクタ
T0…共通端子
T1、T2…端子
Tg…グランド端子
M1〜M10…誘電体層
V…ビア導体
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体通信機器等に搭載され、複数の周波数帯域の信号を選択的に伝送するダイプレクサ及びマルチプレクサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の移動体通信機器は、複数の異なる周波数帯域を共用可能に構成されるのが一般的になっている。そのため、アンテナ端子と周波数帯域ごとに設けられた高周波回路との間にマルチプレクサを配置し、複数の周波数帯域の信号を選択的に伝送する構成が採用される。2つの周波数帯域の信号を選択的に伝送するダイプレクサを例にとると、例えば、低周波帯域用のローパスフィルタと高周波帯域用のハイパスフィルタとにより構成することができる。しかし、この構成では、2つの周波数帯域の各信号を分離できるものの、低周波帯域の低域側と高周波帯域の高域側の不要成分を除去できない。そのため、ダイプレクサやマルチプレクサにおいて、それぞれの周波数帯域に対応するローパスフィルタとハイパスフィルタを組み合わせてバンドパスフィルタを構成する手法が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
【特許文献1】特開2007−251107号公報
【特許文献2】特開2006−101149号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来の構成をダイプレクサに適用する場合を考えると、低周波帯域用のバンドパスフィルタよりも、高周波帯域用のバンドパスフィルタに特性上の問題が生じやすい。例えば、上記特許文献1の構成では、高周波帯域用のバンドパスフィルタの通過帯域の低域側近傍では急峻な減衰特性が得られるが、それよりも低域側で減衰特性が劣化している。また、上記特許文献2の構成では、高周波帯域用のバンドパスフィルタの通過帯域の低域側における減衰特性は全般的に良好であるが、通過帯域の低域側近傍では減衰量が不十分である。このように従来の構成を採用したとしても、高周波帯域用のバンドパスフィルタは、通過帯域の低域側近傍を含む広い周波数範囲にわたって良好な減衰特性を確保して不要成分を確実に除去することが困難であった。
【0004】
そこで、本発明はこれらの問題を解決するためになされたものであり、2以上の周波数帯域の信号を選択的に伝送する際、高周波帯域用のフィルタの通過帯域の低域側における減衰特性を改善し、不要成分を確実に除去可能に構成されたダイプレクサ及びマルチプレクサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明のダイプレクサは、共通端子に伝送される信号のうち、少なくとも第1の周波数帯域の信号と当該第1の周波数帯域の信号より高い第2の周波数帯域の信号とを選択的に伝送するダイプレクサであって、前記共通端子と第1の端子との間に接続され、前記第1の周波数帯域を通過させて前記第2の周波数帯域を遮断する第1のフィルタと、前記共通端子と第2の端子との間に直列接続されたハイパスフィルタ及びローパスフィルタにより構成され前記第2の周波数帯域を通過させて前記第1の周波数帯域を遮断する第2のフィルタとを備えて構成される、そして、前記ハイパスフィルタは、一端が前記共通端子に接続された第1のコンデンサと、前記第1のコンデンサに直列に接続された第2のコンデンサと、前記第1のコンデンサ及び前記第2のコンデンサの間の接続点とグランドとの間に接続された第1のインダクタと、前記第2のコンデンサの他端とグランドとの間に接続されたノッチ回路とを含んでいる。
【0006】
本発明のダイプレクサによれば、高周波側の第2の周波数帯域用に設けられた第2のフィルタは、ハイパスフィルタとローパスフィルタを直列接続したバンドパスフィルタとして構成され、このうち、前段のハイパスフィルタは、第1及び第2のコンデンサ、第1のインダクタ、ノッチ回路を上記のように接続して構成されている。そして、前段のハイパスフィルタの構成により、特に第2の周波数帯域の低域側における減衰特性を改善する効果があり、第1の周波数帯域の信号を遮断することに加え、低域側の不要成分を十分に除去することができる。なお、シミュレーションの結果、このような減衰特性の改善がローパスフィルタの接続構成に基づいて得られることが確認された。
【0007】
本発明のダイプレクサにおいて、前記ノッチ回路は、第3のコンデンサおよび第2のインダクタからなる直列共振回路を用いて構成してもよい。この場合、前記ノッチ回路の共振周波数は、前記第2のフィルタの周波数特性において前記第2の周波数帯域の低域側近傍に減衰極が生じるように調整することが望ましい。
【0008】
本発明のダイプレクサにおいて、前記第1のフィルタ及び前記第2のフィルタは、集中定数素子としての複数のコンデンサ及び複数のインダクタを用いて構成してもよい。これにより、集中定数素子を用いた簡単な構成のダイプレクサを実現することができる。
【0009】
本発明のダイプレクサにおいて、前記第1のフィルタ及び前記第2のフィルタは、複数の誘電体層を積層した積層体に構成してもよい。この場合、前記第1のフィルタを構成する回路素子と前記第2のフィルタを構成する回路素子とを、前記積層体の平面方向の異なる領域に形成し、積層方向で互いに重ならないように配置することが望ましい。
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のマルチプレクサは、共通端子に伝送される信号のうち、N個の異なる周波数帯域の信号の各々を選択的に伝送するマルチプレクサであって、前記共通端子とN個の端子の各々との間に接続され、前記N個の異なる周波数帯域の各々を通過させて他の周波数帯域を遮断するN個のフィルタを備え、前記N個の周波数帯域のうち最も低い周波数帯域に対応する前記フィルタを除いたN−1個のフィルタには、共通端子と前記端子との間に直列接続されたハイパスフィルタ及びローパスフィルタにより構成された少なくとも1個のバンドパスフィルタが含まれる。そして、前記ハイパスフィルタは、一端が前記共通端子に接続された第1のコンデンサと、一端が前記第1のコンデンサの他端に接続された第2のコンデンサと、前記第1のコンデンサ及び前記第2のコンデンサの間の接続点とグランドとの間に接続された第1のインダクタと、前記第2のコンデンサの他端とグランドとの間に接続されたノッチ回路とを含んでいる。
【0011】
本発明のマルチプレクサにおいて、前記ノッチ回路は、第3のコンデンサおよび第2のインダクタからなる直列共振回路を用いて構成してもよい。この場合、前記ノッチ回路の共振周波数は、前記バンドパスフィルタの周波数特性において前記第2の周波数帯域の低域側近傍に減衰極が生じるように調整することが望ましい。
【0012】
本発明のマルチプレクサにおいて、前記N個のフィルタは、複数の誘電体層を積層した積層体に構成してもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、低周波側の第1の周波数帯域を通過帯域とする第1のフィルタと、高周波側の第2の周波数帯域を通過帯域とする第2のフィルタとを備えるダイプレクサにおいて、ハイパスフィルタとローパスフィルタを直列接続して第2のフィルタを構成し、このうちハイパスフィルタの接続構成を規定することにより、第2の周波数帯域の低域側における減衰特性を改善することができる。特に、第2の周波数帯域の低域側近傍で急峻な減衰特性を確保しつつ、低域側のより広い周波数範囲にわたって十分な減衰量を確保し、さらには共通端子における良好なインピーダンス整合を保つことができるので、第1の周波数帯域の信号を確実に遮断しつつ、それ以外の低域側の不要成分を確実に除去し得る高性能のダイプレクサを実現することができる。
【0014】
また、本発明によれば、N個の異なる周波数帯域を通過帯域とするN個のフィルタを備えるマルチプレクサにおいて、最も低い周波数帯域以外の周波数帯域を通過帯域とする所定のフィルタを上述のように構成することにより、任意の周波数帯域の低域側において良好な減衰特性を有する高性能のマルチプレクサを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。以下では、移動体通信機器において2つの周波数帯域の信号を選択的に伝送するダイプレクサに対し本発明を適用する場合を説明する。
【0016】
図1は、本実施形態のダイプレクサ10の等価回路を示す図である。本実施形態のダイプレクサ10は、低周波側の第1の周波数帯域を通過帯域とするバンドパスフィルタ11(本発明の第1のフィルタ)と、第1の周波数帯域よりも高い第2の周波数帯域を通過帯域とするバンドパスフィルタ12(本発明の第2のフィルタ)とを備えている。バンドパスフィルタ11は、共通端子T0と端子T1(本発明の第1の端子)との間に配置され、バンドパスフィルタ12は、共通端子T0と端子T2(本発明の第2の端子)との間に配置されている。共通端子T0はアンテナ等に接続される端子であり、端子T1は第1の周波数帯域用の送受信回路に接続される端子であり、端子T2は第2の周波数帯域用の送受信回路に接続される端子である。
【0017】
第1の周波数帯域用のバンドパスフィルタ11は、インダクタL10、L11、L12、L13と、コンデンサC10、C11、C12、C13、C14を含んで構成されている。このうちインダクタL10、コンデンサC10、インダクタL11、コンデンサC11を含む前段の回路部分は、第1の周波数帯域の高域側を減衰させるローパスフィルタとして動作する。また、コンデンサC12、インダクタL12、コンデンサC13、インダクタL13、コンデンサC14を含む後段の回路部分は、第1の周波数帯域の低域側を減衰させるハイパスフィルタとして動作する。これらのローパスフィルタとハイパスフィルタを直列接続して各素子の定数を適切に設定することにより、第1の周波数帯域を通過帯域とするバンドパスフィルタ11が構成される。
【0018】
一方、第2の周波数帯域用のバンドパスフィルタ12は、前段のハイパスフィルタ12aと、後段のローパスフィルタ12bとを直列接続して構成されている。このうちハイパスフィルタ12aは、コンデンサC20、C21、C22と、インダクタL20、L21を含み、第2の周波数帯域の低域側を減衰させるように動作する。また、ローパスフィルタ12bは、コンデンサC23、C24、C25と、インダクタL22を含み、第2の周波数帯域の高域側を減衰させるように動作する。
【0019】
本実施形態のダイプレクサにおいては、バンドパスフィルタ12の前段のハイパスフィルタ12aの回路構成に特徴がある。図1に示すように、ハイパスフィルタ12aにおいて、コンデンサC20(本発明の第1のコンデンサ)及びコンデンサC21(本発明の第2のコンデンサ)は、共通端子T0と出力ノードNaとの間に直列接続されている。インダクタL20(本発明の第1のインダクタ)は、コンデンサC20、C21の間の接続点とグランドの間に接続されている。ノッチ回路を構成するインダクタL21(本発明の第2のインダクタ)及びコンデンサC22(本発明の第3のコンデンサ)は、出力ノードNaとグランドの間に直列接続されている。図1に示すハイパスフィルタ12aの回路構成によれば、第2の周波数帯域の通過特性を保ちつつ、その低域側の周波数範囲における減衰特性を改善する効果が得られるが、詳しくは後述する。
【0020】
図1の構成において、アンテナから共通端子T0に伝送される受信信号のうち、第1の周波数帯域の受信信号は、バンドパスフィルタ11を通過する一方、バンドパスフィルタ12により十分に減衰するため端子T1に伝送される。これに対し、上記の受信信号のうち、第2の周波数帯域の受信信号は、バンドパスフィルタ11により十分に減衰する一方、バンドパスフィルタ12を通過して端子T2に伝送される。なお、逆の経路で端子T1、T2からバンドパスフィルタ11、12を経由して伝送される第1、第2の各周波数帯域の送信信号は、共通端子T0を介してアンテナに伝送される。
【0021】
なお、ハイパスフィルタ12aの後段のノッチ回路の役割は、バンドパスフィルタ12の通過帯域の低域側近傍で急峻な減衰特性を確保することである。そのため、インダクタL21及びコンデンサC22の各定数は、バンドパスフィルタ12の周波数特性において第2の周波数帯域の低域側近傍に減衰極が生じるように調整することが望ましい。ただし、図1のノッチ回路と同様の作用を有する限り、図1の構成に限られることなく、異なる構成のノッチ回路を用いることができる。
【0022】
次に、図2〜図4を参照して、本実施形態のダイプレクサ10の一形態として、複数の誘電体層を積層した積層体を用いた構造例について説明する。図2は、本実施形態のダイプレクサ10が構成される積層体10aの外観斜視図を示している。図2に示す積層体10aは、導体パターンを形成した複数の誘電体層(10層)を積層して形成される。積層体10aの側面には、共通端子T0と、第1の周波数帯域側の端子T1と、第2の周波数帯域側の端子T2と、3つのグランド端子Tgが形成され、それぞれ外部接続が可能となっている。これらの各端子は、いずれも積層体10aの内部の導体パターンに接続されている。
【0023】
図2に示すように、積層体10aは、平面方向で2つの領域R1、R2に区分されている。領域R1には、第1の周波数帯域用のバンドパスフィルタ11の回路素子が形成され、領域R2には、第2の周波数帯域用のバンドパスフィルタ12の回路素子が形成される。これにより、2つのバンドパスフィルタ11、12が積層方向で互いに重ならない領域に配置され、それぞれのアイソレーションを十分に確保するために適した配置となっている。
【0024】
図3及び図4は、積層体10aの各層の構造を示す平面図である。積層体10aの内部には、下層から順にセラミックグリーンシートを用いた誘電体層M1〜M10が積層されている。誘電体層M1〜M10には、多数の導体パターンが形成されるとともに、各層の導体パターン同士を接続するために積層方向に貫通する多数のビア導体V(図中、点線で示す)が形成されている。これらのビア導体Vの各々は、誘電体層M1〜M10のうちの連続する所定数の誘電体層を貫いて積層方向に延伸形成される。誘電体層M1〜M10のそれぞれの厚さ及び誘電率については、必要な電気的特性に応じて適宜に設定される。なお、各々の誘電体層M1〜M10は図2に従って区分されており、略中央の位置を基準に、右側がバンドパスフィルタ11の領域R1に対応し、左側がバンドパスフィルタ12の領域R2に対応する。
【0025】
図3に示すように、最下層の誘電体層M1には、広いグランドパターン15が形成され、その外縁部が図2の3つのグランド端子Tgに接続されている。グランドパターン15には、上方に延伸される2つのビア接続部Vが接続されている。なお、誘電体層M1の裏面(不図示)には、図2の各端子の位置に導体パターンが形成されている。
【0026】
誘電体層M2には、バンドパスフィルタ11の回路に対応して、コンデンサC10の電極20と、コンデンサC14の電極21が形成されるとともに、バンドパスフィルタ12の回路に対応して、コンデンサC23の電極22と、コンデンサC22の電極23と、コンデンサC25の電極24が形成されている。これらの電極20〜24は、下層のグランドパターン15と対向配置されている。また、電極24は側面の端子T2に接続されている。
【0027】
誘電体層M3には、バンドパスフィルタ11の回路に対応して、インダクタL10及びL11のそれぞれの一部となる導体パターン30と、インダクタL12の一部となる導体パターン31と、インダクタL13の一部となる導体パターン32が形成されるとともに、バンドパスフィルタ12の回路に対応して、インダクタL21の一部となる導体パターン33と、インダクタL22の一部となる導体パターン34が形成されている。導体パターン30〜34の各々には、下方の各誘電体層から延伸されるビア導体Vが接続されている。すなわち、導体パターン30が電極20に、導体パターン31がグランドパターン15に、導体パターン32が電極21に、導体パターン33が電極23に、導体パターン34が電極22に、それぞれビア導体Vを介して接続されている。
【0028】
誘電体層M4には、バンドパスフィルタ11の回路に対応して、インダクタL10の一部となる導体パターン40と、インダクタL11の一部となる導体パターン41と、インダクタL12の一部となる導体パターン42と、インダクタL13の一部となる導体パターン43が形成されるとともに、バンドパスフィルタ12の回路に対応して、インダクタL21の一部となる導体パターン44と、インダクタL22の一部となる導体パターン45が形成されている。導体パターン40〜45の各々には、それぞれ下方の各誘電体層から延伸されるビア導体Vが接続されている。すなわち、導体パターン40が導体パターン30の一端に、導体パターン41が導体パターン30の他端に、導体パターン42が導体パターン31に、導体パターン43が導体パターン32に、導体パターン44が導体パターン33に、導体パターン45が導体パターン34に、それぞれビア導体Vを介して接続されている。また、導体パターン45は側面の端子T2に接続されている。
【0029】
誘電体層M5には、バンドパスフィルタ11の回路に対応して、インダクタL10の一部となる導体パターン50と、インダクタL11の一部となる導体パターン51と、インダクタL12の一部となる導体パターン52と、インダクタL13の一部となる導体パターン53が形成されるとともに、バンドパスフィルタ12の回路に対応して、インダクタL20の一部となる導体パターン54と、インダクタL21の一部となる導体パターン55が形成されている。導体パターン50〜55の各々には、それぞれ下方の各誘電体層から延伸されるビア導体Vが接続されている。すなわち、導体パターン50が導体パターン40に、導体パターン51が導体パターン41に、導体パターン52が導体パターン42に、導体パターン53が導体パターン43に、導体パターン54がグランドパターン15に、導体パターン55が導体パターン44に、それぞれビア導体Vを介して接続されている。
【0030】
次に図4に示すように、誘電体層M6には、バンドパスフィルタ11の回路に対応して、インダクタL10の一部となる導体パターン60と、インダクタL11の一部となる導体パターン61と、インダクタL12の一部となる導体パターン62と、インダクタL13の一部となる導体パターン63が形成されるとともに、バンドパスフィルタ12の回路に対応して、インダクタL20の一部となる導体パターン64と、インダクタL21の一部となる導体パターン65が形成されている。導体パターン60〜65の各々には、それぞれ下方の各誘電体層から延伸されるビア導体Vが接続されている。すなわち、導体パターン60が導体パターン50に、導体パターン61が導体パターン51に、導体パターン62が導体パターン52に、導体パターン63が導体パターン53に、導体パターン64が導体パターン54に、導体パターン65が導体パターン55に、それぞれビア導体Vを介して接続されている。
【0031】
誘電体層M7には、バンドパスフィルタ11の回路に対応して、インダクタL10の一部となる導体パターン70と、インダクタL12の一部となる導体パターン71と、インダクタL13の一部となる導体パターン72が形成されるとともに、バンドパスフィルタ12の回路に対応して、インダクタL20の一部となる導体パターン73と、インダクタL21の一部となる導体パターン74が形成されている。導体パターン70〜74の各々には、それぞれ下方の各誘電体層から延伸されるビア導体Vが接続されている。すなわち、導体パターン70が導体パターン60に、導体パターン71が導体パターン62に、導体パターン72が導体パターン63に、導体パターン73が導体パターン64に、導体パターン74が導体パターン65に、それぞれビア導体Vを介して接続されている。
【0032】
誘電体層M8には、バンドパスフィルタ11の回路に対応して、インダクタL10の一部となる導体パターン80と、インダクタL12の一部となる導体パターン81と、インダクタL13の一部となる導体パターン82が形成されるとともに、バンドパスフィルタ12の回路に対応して、インダクタL20の一部となる導体パターン83と、インダクタL21の一部となる導体パターン84が形成されている。導体パターン80〜84の各々には、それぞれ下方の各誘電体層から延伸されるビア導体Vが接続されている。すなわち、導体パターン80が導体パターン70に、導体パターン81が導体パターン71に、導体パターン82が導体パターン72に、導体パターン83が導体パターン73に、導体パターン84が導体パターン74に、それぞれビア導体Vを介して接続されている。また、導体パターン80は側面の共通端子T0に接続されるとともに、導体パターン82は側面の端子T1に接続されている。
【0033】
誘電体層M9には、バンドパスフィルタ11の回路に対応して、コンデンサC11の電極90と、コンデンサC12、C13に共通の電極91が形成されるとともに、バンドパスフィルタ12の回路に対応して、コンデンサC20、C21に共通の電極92と、コンデンサC24の電極93が形成されている。電極90は、下方の誘電体層M3の導体パターン30にビア導体Vを介して接続されている。電極91は、下方の誘電体層M8の導体パターン81にビア導体Vを介して接続されている。電極92は、下方の誘電体層M8の導体パターン83にビア導体Vを介して接続されている。また、電極93は側面の端子T2に接続されている。
【0034】
誘電体層M10には、バンドパスフィルタ11の回路に対応して、コンデンサC11、C12に共通の電極100と、コンデンサC13の電極101が形成されるとともに、バンドパスフィルタ12の回路に対応して、コンデンサC20の電極102と、コンデンサC21、C24に共通の電極103が形成されている。電極100は下層の電極90,91と対向配置され、電極101は下層の電極91と対向配置されている。同様に、電極102は下層の電極92と対向配置され、電極103は下層の電極92、93と対向配置されている。電極100は、下方の誘電体層M6の導体パターン61にビア導体Vを介して接続されている。電極103は、下方の誘電体層M8の導体パターン84と下方の誘電体層M3の導体パターン34とにそれぞれビア導体Vを介して接続されている。また、電極101は側面の端子T1に接続され、電極102は側面の共通端子T0に接続されている。なお、誘電体層M10の上部には、積層体10aのカバーとして、素子が形成されない誘電体層(不図示)が設けられている。
【0035】
次に、上述の積層体10aに構成されるダイプレクサ10の減衰特性について具体的に説明する。図5は、図3及び図4の構造に基づきダイプレクサ10のシミュレーションを行って得られた減衰特性を示している。図5においては、第1の周波数帯域に対応するバンドパスフィルタ11の特性S1と、第2の周波数帯域に対応するバンドパスフィルタ12の特性S2とを重ねて示している。特性S1は、バンドパスフィルタ11において共通端子T0から端子T1に至るSパラメータS21(透過特性)の周波数特性を表している。また、特性S2は、バンドパスフィルタ12において共通端子T0から端子T2に至るSパラメータS21(透過特性)の周波数特性を表している。バンドパスフィルタ11は概ね2〜3GHzの範囲を通過帯域とし、バンドパスフィルタ12は概ね3〜4.2GHzの範囲を通過帯域とし、それぞれの通過帯域の低域側及び高域側で減衰量が大きくなることがわかる。
【0036】
本実施形態のダイプレクサ10では、バンドパスフィルタ12の特性S2のうち、通過帯域の低域側で十分な減衰量が確保されている点が特徴である。すなわち、特性S2において、ほぼ0.5〜2.7GHzの範囲内で30dB程度の減衰量が得られていることがわかる。このように特性S2を有するバンドパスフィルタ12は、通過帯域の低域側近傍とその低域側を含む広い周波数範囲にわたって十分な減衰量を得ることができるが、これは主に図1のハイパスフィルタ12aの作用に依存するものである。本実施形態の構成を採用することにより、第2の周波数帯域の信号を確実に通過させつつ、第1の周波数帯域の信号を遮断し、さらに低域側の不要成分を十分に減衰させることができる。
【0037】
ここで、本実施形態のダイプレクサ10の効果を確認するため、図1のローパスフィルタ12aの回路構成を部分的に変更した4通りの比較例を示し、それぞれの減衰特性を本実施形態のダイプレクサ10の減衰特性と比較する。まず、図6は、図1のバンドパスフィルタ12に対応する第1の比較回路を示している。第1の比較回路は、上記従来の特許文献1に開示された構成であり、コンデンサC30a、C30b、C30c、インダクタL30から構成されたハイパスフィルタ30を備えている。コンデンサC30a、C30bは図1のコンデンサC20、C21に対応するが、両者の接続点とグランドの間に、直列接続されたインダクタL30及びコンデンサC30cからなるノッチ回路を接続した点が異なっている。なお、図6及び以下の各変形例において、後段のローパスフィルタの部分は図1と同様に構成されるので説明を省略する。
【0038】
図7は、第1の比較回路の減衰特性を示している。なお、図5のバンドパスフィルタ12の特性S2を実線で示し、それに重ねて第1の比較回路の特性Saを点線で示している。図7からわかるように、第1の比較回路の特性Saは、通過帯域の低域側で減衰量が部分的に劣化している。例えば、2GHz付近では減衰量が20dB程度に劣化し、不要成分を十分に除去するには不十分である。かかる相違は、主に図1のハイパスフィルタ12aにおける前段のインダクタL20及び後段のノッチ回路の接続構成に基づくものである。
【0039】
次に図8は、図1のバンドパスフィルタ12に対応する第2の比較回路を示している。第2の比較回路は、上記従来の特許文献2に開示された構成であり、コンデンサC31a、C31b、インダクタL31から構成されたハイパスフィルタ31を備えている。図8において、図1の回路構成のうち、後段のノッチ回路を取り除いた点が異なっている。
【0040】
図9は、第2の比較回路の減衰特性を示している。図9に示すように、バンドパスフィルタ12の特性S2(実線)に比べ、第2の比較回路の特性Sb(点線)は、通過帯域の低域側で減衰量の変化が緩やかになっている。そのため、特に第1の周波数帯域の信号を十分に遮断できず、ダイプレクサ10の性能として不十分である。かかる相違は、図1のハイパスフィルタ12aの後段に配置したノッチ回路の作用に基づくものである。
【0041】
次に図10は、図1のバンドパスフィルタ12に対応する第3の比較回路を示している。第3の比較回路は、コンデンサC32a、C32b、C32c、インダクタL32a、L32bから構成されたハイパスフィルタ32を備えている。図10においては、図1の回路構成のうち、前段のインダクタL20と後段のノッチ回路を入れ替えて配置した点が異なっている。
【0042】
図11は、第3の比較回路の減衰特性を示している。図11に示すように、バンドパスフィルタ12の特性S2(実線)に比べ、第3の比較回路の特性Sc(点線)は、図7の場合と同様、通過帯域の低域側で減衰量が部分的に劣化している。そのため、通過帯域の低域側で不要成分を十分に除去するには不十分である。かかる相違は、主に図1のハイパスフィルタ12aにおける前段のインダクタL20及び後段のノッチ回路の接続構成に基づくものである。
【0043】
次に図12は、図1のバンドパスフィルタ12に対応する第4の比較回路を示している。第4の比較回路は、コンデンサC33a、C33b、インダクタL33a、L33bから構成されたハイパスフィルタ33を備えている。図12においては、図1の回路構成のうち、共通端子T0とインダクタL20の間のコンデンサC20を取り除いた点が異なっている。
【0044】
第4の比較回路の構成は、共通端子T0を介して2つのバンドパスフィルタ11、12のそれぞれの入力側のインピーダンス整合に影響を与えるため、第4の比較回路を用いた場合のバンドパスフィルタ11の減衰特性(図13(A))と、バンドパスフィルタ12の減衰特性(図13(B))をそれぞれ示している。図13(A)に示すように、本実施形態のバンドパスフィルタ11の特性S1(実線)に比べ、第4の比較回路の特性Sd1(点線)は、通過帯域における減衰量が大きくなっている。また、図13(B)に示すように、本実施形態のバンドパスフィルタ12の特性S2(実線)に比べ、第4の比較回路の特性Sd2(点線)は、上記と同様に通過帯域における減衰量が大きくなるとともに、通過帯域の低域側の減衰量が劣化している。このように、第4の比較回路では、主にコンデンサC20を取り除いたことにより、共通端子T0における適切なインピーダンス整合が取れなくなり、特に通過帯域の特性が不十分になる。
【0045】
以上説明したように、本実施形態のダイプレクサ10において、図1に示す回路構成を有するローパスフィルタ12aを用いて第2の周波数帯域用のバンドパスフィルタ12を構成することにより、第2の周波数帯域の低域側の広い周波数範囲にわたって減衰特性を改善することができる。すなわち、通過帯域の低域側近傍では急峻な減衰となり、より低域側では十分な減衰量を確保でき、さらに共通端子T0において良好なインピーダンス整合を取ることができる。なお、低周波側のバンドパスフィルタ11の回路構成と、高周波側のバンドパスフィルタ12のうちのローパスフィルタ12bの回路構成については、特に制約はなく多様な構成を適用することができる。また、ダイプレクサ10の回路を集中定数素子を用いて構成し、さらに積層体10aに構成することで、小型かつ低コストのダイプレクサ10を実現することができる。
【0046】
以上、本実施形態に基づき本発明の内容を具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を施すことができる。例えば、上記実施形態では、2つの周波数帯域の信号を選択的に伝送するダイプレクサに対して本発明を適用する場合を説明したが、より多数の周波数帯域の信号を選択的に伝送するマルチプレクサに対しても本発明を適用可能である。N個の異なる周波数帯域を前提に考えると、共通端子とN個の端子の各々との間に接続されるN個のフィルタを設け、このうち最も低い周波数帯域以外を通過帯域とするN−1個のフィルタのうちの任意のフィルタを、上記のバンドパスフィルタ12と同様に構成することができる。これにより、マルチプレクサにおいて、例えば、移動体通信機器等による外来の不要成分の影響が問題となる場合、該当する周波数における減衰特性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本実施形態のダイプレクサ10の等価回路を示す図である。
【図2】本実施形態のダイプレクサ10が構成される積層体10aの外観斜視図である。
【図3】本実施形態の積層体10aの各層の構造を示す第1の平面図である。
【図4】本実施形態の積層体10aの各層の構造を示す第2の平面図である。
【図5】本実施形態のダイプレクサ10の減衰特性を示す図である。
【図6】図1のバンドパスフィルタ12に対応する第1の比較回路を示す図である。
【図7】第1の比較回路の減衰特性を示す図である。
【図8】図1のバンドパスフィルタ12に対応する第2の比較回路を示す図である。
【図9】第2の比較回路の減衰特性を示す図である。
【図10】図1のバンドパスフィルタ12に対応する第3の比較回路を示す図である。
【図11】第3の比較回路の減衰特性を示す図である。
【図12】図1のバンドパスフィルタ12に対応する第4の比較回路を示す図である。
【図13】第4の比較回路の減衰特性を示す図である。
【符号の説明】
【0048】
10…ダイプレクサ
10a…積層体
11…バンドパスフィルタ(第1の周波数帯域)
12…バンドパスフィルタ(第2の周波数帯域)
12a…ハイパスフィルタ
12b…ローパスフィルタ
15…グランドパターン
20〜24、90〜93、100〜103…電極
30〜34、40〜45、50〜55、60〜65、70〜74、80〜84…導体パターン
C10〜C14、C20〜C25…コンデンサ
L10〜L13、L20〜L22…インダクタ
T0…共通端子
T1、T2…端子
Tg…グランド端子
M1〜M10…誘電体層
V…ビア導体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
共通端子に伝送される信号のうち、少なくとも第1の周波数帯域の信号と当該第1の周波数帯域の信号より高い第2の周波数帯域の信号とを選択的に伝送するダイプレクサであって、
前記共通端子と第1の端子との間に接続され、前記第1の周波数帯域を通過させて前記第2の周波数帯域を遮断する第1のフィルタと、
前記共通端子と第2の端子との間に直列接続されたハイパスフィルタ及びローパスフィルタにより構成され、前記第2の周波数帯域を通過させて前記第1の周波数帯域を遮断する第2のフィルタと、
を備え、前記ハイパスフィルタは、一端が前記共通端子に接続された第1のコンデンサと、前記第1のコンデンサに直列に接続された第2のコンデンサと、前記第1のコンデンサ及び前記第2のコンデンサの間の接続点とグランドとの間に接続された第1のインダクタと、前記第2のコンデンサの他端とグランドとの間に接続されたノッチ回路と、を含むことを特徴とするダイプレクサ。
【請求項2】
前記ノッチ回路は、第3のコンデンサおよび第2のインダクタからなる直列共振回路であることを特徴とする請求項1に記載のダイプレクサ。
【請求項3】
前記ノッチ回路の共振周波数は、前記第2のフィルタの周波数特性において前記第2の周波数帯域の低域側近傍に減衰極が生じるように調整されていることを特徴とする請求項2に記載のダイプレクサ。
【請求項4】
前記第1のフィルタ及び前記第2のフィルタは、集中定数素子としての複数のコンデンサ及び複数のインダクタを用いて構成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のダイプレクサ。
【請求項5】
前記第1のフィルタ及び前記第2のフィルタは、複数の誘電体層を積層した積層体に構成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のダイプレクサ。
【請求項6】
前記第1のフィルタを構成する回路素子と前記第2のフィルタを構成する回路素子とが、前記積層体の平面方向の異なる領域に形成され、積層方向で互いに重ならないように配置されることを特徴とする請求項5に記載のダイプレクサ。
【請求項7】
共通端子に伝送される信号のうち、N個の異なる周波数帯域の信号の各々を選択的に伝送するマルチプレクサであって、
前記共通端子とN個の端子の各々との間に接続され、前記N個の異なる周波数帯域の各々を通過させて他の周波数帯域を遮断するN個のフィルタを備え、
前記N個の周波数帯域のうち最も低い周波数帯域に対応する前記フィルタを除いたN−1個のフィルタには、共通端子と前記端子との間に直列接続されたハイパスフィルタ及びローパスフィルタにより構成された少なくとも1個のバンドパスフィルタが含まれ、
前記ハイパスフィルタは、一端が前記共通端子に接続された第1のコンデンサと、一端が前記第1のコンデンサの他端に接続された第2のコンデンサと、前記第1のコンデンサ及び前記第2のコンデンサの間の接続点とグランドとの間に接続された第1のインダクタと、前記第2のコンデンサの他端とグランドとの間に接続されたノッチ回路と、を含むことを特徴とするマルチプレクサ。
【請求項8】
前記ノッチ回路は、第3のコンデンサおよび第2のインダクタからなる直列共振回路であることを特徴とする請求項7に記載のマルチプレクサ。
【請求項9】
前記ノッチ回路の共振周波数は、前記バンドパスフィルタの周波数特性において前記第2の周波数帯域の低域側近傍に減衰極が生じるように調整されていることを特徴とする請求項8に記載のマルチプレクサ。
【請求項10】
前記N個のフィルタは、複数の誘電体層を積層した積層体に構成されていることを特徴とする請求項7から9のいずれかに記載のマルチプレクサ。
【請求項1】
共通端子に伝送される信号のうち、少なくとも第1の周波数帯域の信号と当該第1の周波数帯域の信号より高い第2の周波数帯域の信号とを選択的に伝送するダイプレクサであって、
前記共通端子と第1の端子との間に接続され、前記第1の周波数帯域を通過させて前記第2の周波数帯域を遮断する第1のフィルタと、
前記共通端子と第2の端子との間に直列接続されたハイパスフィルタ及びローパスフィルタにより構成され、前記第2の周波数帯域を通過させて前記第1の周波数帯域を遮断する第2のフィルタと、
を備え、前記ハイパスフィルタは、一端が前記共通端子に接続された第1のコンデンサと、前記第1のコンデンサに直列に接続された第2のコンデンサと、前記第1のコンデンサ及び前記第2のコンデンサの間の接続点とグランドとの間に接続された第1のインダクタと、前記第2のコンデンサの他端とグランドとの間に接続されたノッチ回路と、を含むことを特徴とするダイプレクサ。
【請求項2】
前記ノッチ回路は、第3のコンデンサおよび第2のインダクタからなる直列共振回路であることを特徴とする請求項1に記載のダイプレクサ。
【請求項3】
前記ノッチ回路の共振周波数は、前記第2のフィルタの周波数特性において前記第2の周波数帯域の低域側近傍に減衰極が生じるように調整されていることを特徴とする請求項2に記載のダイプレクサ。
【請求項4】
前記第1のフィルタ及び前記第2のフィルタは、集中定数素子としての複数のコンデンサ及び複数のインダクタを用いて構成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のダイプレクサ。
【請求項5】
前記第1のフィルタ及び前記第2のフィルタは、複数の誘電体層を積層した積層体に構成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のダイプレクサ。
【請求項6】
前記第1のフィルタを構成する回路素子と前記第2のフィルタを構成する回路素子とが、前記積層体の平面方向の異なる領域に形成され、積層方向で互いに重ならないように配置されることを特徴とする請求項5に記載のダイプレクサ。
【請求項7】
共通端子に伝送される信号のうち、N個の異なる周波数帯域の信号の各々を選択的に伝送するマルチプレクサであって、
前記共通端子とN個の端子の各々との間に接続され、前記N個の異なる周波数帯域の各々を通過させて他の周波数帯域を遮断するN個のフィルタを備え、
前記N個の周波数帯域のうち最も低い周波数帯域に対応する前記フィルタを除いたN−1個のフィルタには、共通端子と前記端子との間に直列接続されたハイパスフィルタ及びローパスフィルタにより構成された少なくとも1個のバンドパスフィルタが含まれ、
前記ハイパスフィルタは、一端が前記共通端子に接続された第1のコンデンサと、一端が前記第1のコンデンサの他端に接続された第2のコンデンサと、前記第1のコンデンサ及び前記第2のコンデンサの間の接続点とグランドとの間に接続された第1のインダクタと、前記第2のコンデンサの他端とグランドとの間に接続されたノッチ回路と、を含むことを特徴とするマルチプレクサ。
【請求項8】
前記ノッチ回路は、第3のコンデンサおよび第2のインダクタからなる直列共振回路であることを特徴とする請求項7に記載のマルチプレクサ。
【請求項9】
前記ノッチ回路の共振周波数は、前記バンドパスフィルタの周波数特性において前記第2の周波数帯域の低域側近傍に減衰極が生じるように調整されていることを特徴とする請求項8に記載のマルチプレクサ。
【請求項10】
前記N個のフィルタは、複数の誘電体層を積層した積層体に構成されていることを特徴とする請求項7から9のいずれかに記載のマルチプレクサ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−141859(P2010−141859A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−319021(P2008−319021)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】
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