説明

ダクト

【課題】工数を増やすことなく、所望の形状が得られると共に、ファンの作動音を低減させ、ダクトの過剰加熱を抑制することが可能なダクトを提供する。
【解決手段】本実施形態のダクト(1)は、熱可塑性樹脂に発泡剤を添加して成形されたダクト(1)であり、ダクト(1)の内側から見て凸形状、ダクト(1)の外側から見て凹形状となるリブ(2)を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロジェクタ等の冷却ファンと併用する排気ダクトとして用いられる熱可塑性樹脂製のダクトに関し、特に、ブロー成形により樹脂を発泡させ所望の形状を得たダクトに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、光源装置から射出された光束を画像情報に応じて変調させて画像光を形成し、該画像光を拡大投射するプロジェクタが利用されている。このようなプロジェクタは、投影の際、光源装置等が発熱することになる。このため、筐体外部から取り入れた空気を利用し、光源装置等を冷却し、ファンを用いて排気ダクトを介して光源装置等の熱を奪い、高温となった空気をプロジェクタ外部へ放出する手法が採用されている。
【0003】
しかし、上記の冷却ファンを使用する排気系では、ファンモータの発する音もプロジェクタの外部へ放出される。プロジェクタは、暗騒音の小さい場所で使用される機会が多いため、ファンの音は利用者の集中を妨げたり不快感を招いたりする要因となり得る。
【0004】
なお、これまで排気ダクト出口から放出される騒音を低減するため、例えば、特許文献1ではダクト内部に吸音材を配する手法を提案しており、また、特許文献2ではレーザを用いダクト壁に細孔を設ける手法を提案している。
【0005】
一方、光源装置等の冷却後に排気される空気は高温となっており、排気ダクトや筐体が熱を帯びる問題も生じている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−117761号公報
【特許文献2】特開2009−281166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1では吸音材を接着させてダクトを作成しており、特許文献2ではレーザによる開孔を成形後に行っているため、いずれの手法においても工程数が増加し、多種の材料を用意する必要があると共に、形状の規制が大きい。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、工数を増やすことなく、所望の形状が得られると共に、ファンの作動音を低減させ、ダクトの過剰加熱を抑制することが可能なダクトを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するために、本発明は、以下の特徴を有する。
本発明にかかるダクトは、
熱可塑性樹脂に発泡剤を添加して成形されたダクトであって、
ダクトの内側から見て凸形状、ダクトの外側から見て凹形状となるリブを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、工数を増やすことなく、所望の形状が得られると共に、ファンの作動音を低減させ、ダクトの過剰加熱を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施形態のダクトの概略図である。
【図2】図1に示すダクトにおける排気流体の流動方向と平行をなす面の断面概略図である。
【図3】図1に示すダクトにおける排気流体の流動方向と垂直をなす面の断面概略図である。
【図4】図2に示すリブ断面の拡大模式図である。
【図5】ピン型リブを配した例を示す概略図であり、(a)は、リブを通るダクト流路と垂直な断面図であり、(b)は、PLを通るダクト流路と平行な断面図である。
【図6】衝立型リブを配した例を示す概略図であり、(a)は、リブを通るダクト流路と垂直な断面図であり、(b)は、PLを通るダクト流路と平行な断面図である。
【図7】ダクト出口の音圧測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照しながら、本実施形態の排気ダクト1について詳細に説明する。
【0013】
本実施形態の排気ダクト1は、図1に示すように、壁面に螺旋状のリブ2を有しており、図2、図3に示すように、該リブ2は、ダクト外壁が凹形状を、ダクト内壁が凸形状をしている。
【0014】
ファンモータの騒音は、排気ダクト1を介して筐体外部へ誘導される。その際、排気ダクト1が有する図2のダクト内壁リブ表面2aと音波が接触することで、音波の反射頻度が増加すると共に音圧の減衰が行われる。さらにリブ2と接触し、屈折した音波が、他の音波と干渉し、打ち消し合うことでも減音効果が得られる。
【0015】
リブ2を螺旋状に延びるように形成することは、ダクト内流路4を通過する排気流体の急激な方向転換を防止し、通気抵抗の増大を抑制する効果がある。
【0016】
排気流体の流れ方向について、図4に示すダクト内壁リブ表面2aの接線とダクト内壁面3aがなすリブ取付角度5が一定以上であると、空気の流動を妨げるおそれがあるため、リブ取付角度5は45°以下が好ましく40°以下がさらに好ましい。反面、リブ取付角度5が過剰に小である時、流路内における音波の反射回数が十分に発生しないため、リブ取付角度5は10°以上が好ましく20°以上がさらに好ましい。なお、図4に示すように、リブ取付角度5は傾斜が最大となる部分で測定する。
【0017】
図2に示すリブ高さ6も通気抵抗と音圧低減効果とに多大な影響を与える。要求される排気流量及びダクト流路の断面積に依存してリブ高さ6の制限は変動するが、リブ2を除外した流路の幅を1としたとき、リブ高さ6は1/20〜1/3の範囲であることが好ましく、1/7〜1/4の範囲であることがさらに好ましい。リブ高さ6が大となると通気抵抗が増大し、小となると十分な減音効果が得られない。
【0018】
ファンにより排気ダクトを介して筐体外部へ誘導される高温空気は、ダクト内壁と接触する際に熱を伝導するため、プロジェクタを長時間使用するとダクトが高温となるおそれがある。ダクト外壁面3bに形成された凹形状リブ2bは、ダクト流路外の空気7とダクト壁の接触面積を増大させ、ダクト外壁での放熱を促進する効果を有する。
【0019】
ポリオレフィンを主原料とする樹脂に発泡剤を添加し、押出機にて混練した後、アキュームレータに樹脂を貯蔵し、続いて所定の樹脂量が貯留された後、ピストンを押出し形成されたパリソンを分割金型に附形することで所望の形状を得る発泡ブロー成形法が一般的に知られている。上記発泡剤には空気や窒素ガス、炭酸ガス、水等の無機系物理発泡剤か、ブタンやヘキサン等の有機系有機系物理発泡剤か、重炭酸ナトリウムに代表される無機系化学発泡剤か、アゾジカルボンアミドやジニトロソペンタメチレンテトラミン等の有機系化学発泡剤かのいずれかが使用される。
【0020】
本実施形態の排気ダクト1は、発泡ブロー成形で作成されている。ブロー成形で製造したダクトの壁は金型形状を転写され、内外壁に類似した凹凸形状をもたらすため、ダクトの内外壁に容易に螺旋状のリブを形成することが可能であり、成形後にリブを作成する工程を必要としない。
【0021】
さらにブロー成形を用いることで直管形状のみならず、屈曲形状を有するダクトを容易に表現できる。なお、屈曲部では排気流体の方向転換が生じるため、通気抵抗は増加するが減音効果も増加する。
【0022】
また、発泡ブロー成形では附形の圧力が低いため、射出成形に比べて高い発泡倍率を得ることが出来る。排気ダクト1の壁面を発泡体とすることで、壁内に含まれる気泡の振動により高い吸音効果を得ることができる。
【0023】
さらにダクト壁内に微細な気泡を配することで、多数の空気層が形成され、温度境界層が増加するため、壁全体での熱伝導率が小さくなり、ダクトの温度上昇抑制効果を有することができる。
【0024】
上記の騒音抑制効果ならびに温度上昇抑制効果を得るために、ダクトの発泡倍率は1.5倍以上が好ましく、2倍以上がさらに好ましい。
【0025】
ここで述べた発泡倍率とは、基材となる樹脂ペレットの見掛け比重を成形品の見掛け比重で除したものを表す。例えば、基材樹脂の見掛け比重が1であり、成形品の見掛け比重が0.5であれば発泡倍率は2倍となる。
【0026】
発泡倍率が同一である樹脂においては、ダクト壁内部に散在する気泡の平均径縮小に従い断熱効果が単調増加するが、気泡径を抑制すると発泡倍率の高い製品を得難くなる。この点を鑑み、製品の平均気泡径は20μmから130μmが好ましく、30から110μmがさらに好ましい。
【0027】
ダクト壁内で生じる吸音において、径の小さい気泡は高周波音のサウンドパワーレベル低減に効果を発揮し、径の大きい気泡は低周波音のサウンドパワーレベル低減に有効である。発泡ブロー成形では樹脂のドローダウンやプリブロー等の影響を受け、不均一な気泡を形成するため、広い周波数領域に対しての減音に効果が期待できる。
【0028】
特にブロー成形では溶融樹脂を金型に附形する際、ブローエアーをパリソン内に吹込む方法が一般的であり、ダクト壁の断面には、エアーの圧力により潰され楕円形状を呈した気泡が多数存在する。
【0029】
発泡ブロー成形ではパリソンを分割金型に附形する際、パリソン内部にブローエアーを吹込み、パリソン内部の圧力により樹脂が圧されるため、ダクト壁内に存在する気泡は、壁面の厚み方向に短径を有しており、また、一般的にパリソンは自重により引き伸ばされるため、パリソンが重力加速度を被る方向に長径を有する傾向がある。
【0030】
そのため上記の気泡径は、ダクト両端部と排気流路中央部の互いに向き合う2つの壁面6箇所について、ダクト内部の排気流体が移動する方向と垂直をなす面を鋭利な刃物で切断し、現れた断面についてダクト壁厚みを示す線分を引き、この線分と交差する全ての気泡について、セルの壁により分断された気泡内に存在する該線分の長さを測定し、その平均値より求める。なお、平均値は上記の分断された線分長の総和を気泡数で除し算出する。
【0031】
図3に示すように、排気ダクト1は、排気流体が流動する方向と直交するダクトの断面が形成する四角形の、辺部10ではなく、向き合う角部9にパーティングライン(PL)11が形成されている。
【0032】
この形状により、パーティングライン11を除くほぼ全てのダクト壁面に螺旋状リブを配置しても、金型から製品を抜くことが可能となる。
【0033】
樹脂の種類としては、ダクト形状の自由度と発泡性が高いことから、ポリプロピレンやポリエチレンもしくはポリスチレン樹脂が好ましいが、排気が特に高温となることが予想される用途においては耐熱性能に優れるポリプロピレンまたはポリスチレンを使用することが望ましい。
【0034】
また、先述した原料には発泡倍率を著しく低下させない範囲で、所望の機能に併せ着色材や抗菌材、難燃材等の配合剤を添加しても良い。
【0035】
なお、螺旋以外のリブ形状を採用することもできる。例えば、図5のようなピン型のリブ81(ダクト内側に突出する複数の棒状の突起)や図6のような衝立型のリブ82(ダクト内側に突出する複数の板状の突起)を採用することもできる。
【実施例】
【0036】
次に、上述した実施形態の実施例について説明する。但し、以下の実施例は、一部の実施例であり、以下の実施例に限定するものではない。
【0037】
<ダクトを用いた騒音測定>
ダクトの一端にスピーカを取付け、ランダムノイズを発生させ、他端にマイクを配し、ダクト出口部の音圧測定を行った。試験ではスピーカの音圧を42dBもしくは62dBに固定し、ダクトを交換することでそれぞれの吸音性能を比較した。なお、排気流路の長さは125mm、壁厚みは平均1.5mm、排気方向と直交する断面は長方形を呈しており、該断面の長手は80mm該断面の短手は50mmであるダクトを試験片として使用した。
【0038】
(実施例1)
ポリプロピレンを主原料とする、リブ高さ約20mm、リブ取付角度40°螺旋状リブ(ダクトの一端から他端まで形成されダクト周りに1周しているリブ)を有する、発泡倍率2.7倍であるダクトを、発泡ブロー成形により作成した。なお、本ダクトはBOREALIS社製WB140を主成分とするPP系樹脂を主原料としている。本ダクトを使用した音圧測定試験では、音源音圧42dB設定時におけるダクト出口のオーバーオール値は35.1dBであり、音源音圧62dB設定時におけるダクト出口のオーバーオール値は56.2dBであった。
【0039】
(比較例1)
ポリプロピレンを主原料とする、リブ高さ約20mm、リブ取付角度40°の実施例1と同形状の螺旋状リブを有する非発泡ダクトをブロー成形により作成した。なお、本ダクトはBOREALIS社製WB140を主成分とするPP系樹脂を主原料としている。本ダクトを使用した音圧測定試験では、音源音圧42dB設定時におけるダクト出口のオーバーオール値は39.3dBであり、音源音圧62dB設定時におけるダクト出口のオーバーオール値は59.1dBであった。
【0040】
(比較例2)
ポリプロピレンを主原料とするリブを持たない発泡倍率2.7倍であるダクトを、発泡ブロー成形により作成した。なお、本ダクトはBOREALIS社製WB140を主成分とするPP系樹脂を主原料としている。本ダクトを使用した音圧測定試験では、音源音圧42dB設定時におけるダクト出口のオーバーオール値は40.3dBであり、音源音圧62dB設定時におけるダクト出口のオーバーオール値は60.0dBであった。
【0041】
(比較例3)
ポリプロピレンを主原料とするリブを持たない非発泡ダクトをブロー成形により作成した。なお、本ダクトはBOREALIS社製WB140を主成分とするPP系樹脂を主原料としている。本ダクトを使用した音圧測定試験では、音源音圧42dB設定時におけるダクト出口のオーバーオール値は40.9dBであり、音源音圧62dB設定時におけるダクト出口のオーバーオール値は60.7dBであった。
【0042】
樹脂を発泡化させリブを配することでオーバーオール値が減衰したことが確認された。また、音源音圧を変化させても各ダクト間での音圧減衰傾向は同一であることが判明した。
【0043】
図7に、音源音圧を42dBに設定したときの試験結果を示す。図7より、800Hz以下の周波数領域では発泡化による音圧低下が顕著に現れたことが確認できる。例えば、周波数500Hzでは、発泡樹脂を使用している実施例1が7.9dB、非発泡樹脂を使用している比較例1が21.1dBである。発泡化により13.2dBの音圧低減が確認された。
【0044】
発泡させることでダクト壁内に無数のセルが生じ、音圧の影響を受けセル壁が振動する。この際、セル壁の内部摩擦や、セル壁が有する弾性により音のエネルギーは吸収され、低周波領域での音圧低減が生じたものと予想される。
【0045】
また、図7に示すように、5000Hz以上の周波数領域では螺旋リブを配置することによる音圧低減が顕著に確認された。例えば、周波数5000Hzについてリブの有無を比べると、リブを有する実施例1が29.5dB、リブを持たない比較例2は37.2dBで、リブを配することにより7.7dBの音圧低減が確認された。
【0046】
これはリブの背後に空気層が存在していることで壁全体が振動しやすい状態になっており、音波がリブに衝突する際、リブを含む壁全体が振動することで、内部エネルギーが損失し、音圧が減衰するためと考えられる。
【0047】
高周波数領域では、セル壁の質量が音のエネルギーに対して優勢となるため、セル壁の振動が生じなくなり、発泡化による音圧低減は生じにくいものと予想される。
【0048】
なお、上述した実施形態及び実施例は、本発明の好適な実施形態及び実施例であり、上記実施形態及び実施例のみに本発明の範囲を限定するものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更を施した形態での実施が可能である。
【符号の説明】
【0049】
1 排気ダクト
2 リブ
2a ダクト内壁リブ表面
2b ダクト外壁リブ表面
3 ダクト壁面
3a ダクト内壁面
3b ダクト外壁面
4 ダクト内流路
5 リブ取付角度
6 リブ高さ
7 ダクト流路外空気
8 螺旋以外のリブ形状
81 ピン型リブ
82 衝立型リブ
9 角部
10 辺部
11 パーティングライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂に発泡剤を添加して成形されたダクトであって、
ダクトの内側から見て凸形状、ダクトの外側から見て凹形状となるリブを有することを特徴とするダクト。
【請求項2】
前記リブが、ダクトの流路方向に延びる螺旋形状を有することを特徴とする請求項1記載のダクト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−201072(P2012−201072A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−69789(P2011−69789)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000104674)キョーラク株式会社 (292)
【Fターム(参考)】