説明

ダストシール

【課題】シール性の向上を図ったダストシールを提供する。
【解決手段】相対的に回転かつ偏心する軸20とハウジングの軸孔との間の環状隙間を封止するゴム状弾性体製のダストシール10において、補助リップ14は、軸20の組み付け時において、軸20の先端が補助リップ14の部位を通過する際には該軸20に対する締め付け力が生じておらず、軸20の挿入に伴うメインリップ12の変形に伴って、その先端が該メインリップ12の先端側に向かって回転するように変形することで、軸20に対する締め付け力が生ずるように構成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸とハウジングの軸孔との間の環状隙間を封止するダストシールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、軸とハウジングの軸孔との間の環状隙間から装置内部に塵や泥水などのダストが侵入することを防止するためにダストシールが用いられている。例えば、インヒビタースイッチにおいては、樹脂製の軸と、樹脂製のハウジングの軸孔との間の環状隙間を封止するためにダストシールが用いられる(特許文献1参照)。
【0003】
この種の技術においては、軸とハウジングが相対的に回転すると共に、軸とハウジングが偏心するように構成される場合がある。このような場合に用いられる従来例に係るダストシールについて、図4を参照して説明する。図4は従来例に係るダストシールの模式的断面図である。なお、同図(a)はダストシール単体の断面図を示しており、同図(b)はダストシールが使用されている状態(軸及びハウジングに組み付けられた状態)での断面図を示している。
【0004】
図示のように、従来例に係るダストシール100は、環状の本体部110と、本体部110から大気側(A)に向かって伸びるメインリップ120と、本体部110から大気側(A)に向かって伸びる外周シール部130とを備えている。また、メインリップ120が軸200に対して追随する際に、メインリップ120の姿勢を維持するために、本体部110から大気側(A)とは反対側(B)に向かって伸びる補助リップ140も備えられている。
【0005】
ここで、図4(a)中、点線200Xは軸200の外周表面の位置に相当し、点線300Xはハウジング300の軸孔内周表面310の位置に相当する。これらの位置関係から分かるように、メインリップ120の内径と、補助リップ140の内径は、いずれも軸200の外径よりも小さくなるように設定されている。また、外周シール部130の外径は、ハウジング300の軸孔の内径よりも大きくなるように設定されている。このように、従来例に係るダストシール100においては、組み付け前の状態において、メインリップ120,補助リップ140,外周シール部130のいずれも締め代を有するように構成されている。
【0006】
これにより、使用状態(組み付け状態)においては、メインリップ120及び補助リップ140は、いずれも軸200の外周表面に対して摺動自在に接触し、外周シール部130はハウジング300の軸孔内周表面310に対して密着した状態となる。このような構成により、軸200とハウジング300が相対的に偏心すると、本体部110の変形によって、メインリップ120と補助リップ140は、軸200に対して摺動自在に接触した状態を維持したまま、軸200に追随する。従って、軸200とハウジング300が相対的に回転かつ偏心しても、環状隙間を封止した状態を保つことができる。
【0007】
しかしながら、このような従来例に係るダストシール100においては、補助リップ140は、組み付け前の状態において締め代を有する構成である。そのため、補助リップ140側から軸200を組み付ける際に、補助リップ140が反転してしまうおそれがあり、シール性低下の原因となり得る。
【0008】
また、上記従来例においては、略径方向に伸びる本体部110の内周面側がメインリッ
プ120及び補助リップ140の根元の部分となり、外周面側が外周シール部130の根元の部分となる構成を採用している。そのため、軸200とハウジング300が偏心した際に、ハウジング300の軸孔内周表面310と軸200の外周表面が近づく側では、本体部110が内周面側と外周面側の双方から圧縮されて、非常に大きな圧縮応力が生じる。したがって、メインリップ120及び補助リップ140による軸200への摺動抵抗が大きくなり、トルクの上昇や摺動摩耗の促進の原因となってしまう。そして、摺動摩耗の促進は、シール性の低下の原因となる。
【0009】
以上のことから、上記のような従来例に係るダストシールでは、軸とハウジングの偏心量が大きなものに対しては要求性能を十分に満足させることが難しかった。
【0010】
なお、軸とハウジングとの芯出し機構(ベアリングなど)がない装置においては、軸がハウジングの軸孔に接触する位置まで偏心し得るため、偏心量は大きくなる。また、軸やハウジングが樹脂成形品の場合であって成形後に後加工がなされない場合には寸法公差が大きく、初期状態から偏心量が大きくなり易い。また、軸やハウジングが樹脂成型品の場合、経時的な摩耗により、軸とハウジングとの偏心量が大きくなっていく特性がある。このように、軸とハウジングの偏心量が大きなものに対しても、長期にわたって安定したシール性を発揮するダストシールが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−278608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、シール性の向上を図ったダストシールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
【0014】
すなわち、本発明のダストシールは、
相対的に回転かつ偏心する軸とハウジングの軸孔との間の環状隙間を封止するゴム状弾性体製のダストシールにおいて、
環状の本体部と、
前記本体部から大気側に向かって伸びて前記軸の外周表面に摺動自在に接触するメインリップと、
前記本体部から大気側とは反対側に向かって伸びて前記軸の外周表面に摺動自在に接触し、前記メインリップの姿勢を維持させる補助リップと、
前記本体部から大気側に向かって伸びて前記軸孔の内周表面に密着する外周シール部と、
を備え、
前記補助リップは、前記軸の組み付け時において、前記軸の先端が前記補助リップの部位を通過する際には該軸に対する締め付け力が生じておらず、前記軸の挿入に伴う前記メインリップの変形に伴って、その先端が該メインリップの先端側に向かって回転するように変形することで、前記軸に対する締め付け力が生ずるように構成されていることを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、軸の組み付け時において、軸の先端が補助リップの部位を通過する際には、補助リップによる軸への締め付け力が生じていないので、軸の組み付け時に補助リップが反転してしまうことはない。したがって、安定的にシール性を発揮させることがで
きる。
【0016】
前記軸が組み付けられた状態においては、前記本体部とメインリップとの繋ぎ部分が、前記本体部と外周シール部との繋ぎ部分よりも大気側にずれた位置となるように構成されているとよい。
【0017】
これにより、軸とハウジングが偏心した場合には、本体部が曲がるように変形することによって、メインリップ及び補助リップが軸に追随するため、従来例のように本体部が圧縮することで、各リップが軸に追随する場合に比して、各リップの摺動抵抗の増加を抑制することができる。
【0018】
前記本体部には、外周面側よりも内周面側の方が、肉厚が薄くなる段差部が設けられているとよい。
【0019】
こうすることで、本体部は段差部の部分を起点として折れ曲がるように変形する。つまり、折れ曲がり位置が規定され、本体部の折れ曲がり方を安定的にすることができる。
【0020】
前記外周シール部における前記本体部との繋ぎ部分の付近の外径は、前記軸孔の内径と略等しくなるように設定されているとよい。
【0021】
これにより、外周シール部における圧縮変形が、メインリップや補助リップに対して影響を及ぼすことを抑制できる。
【0022】
なお、上記各構成は、可能な限り組み合わせて採用し得る。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、本発明によれば、シール性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は本発明の実施例に係るダストシールの模式的断面図である。
【図2】図2は本発明の実施例に係るダストシールの使用状態を示す模式的断面図である。
【図3】図3は本発明の実施例に係るダストシールの使用状態を示す模式的断面図である。
【図4】図4は従来例に係るダストシールの模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0026】
(実施例)
図1〜図3を参照して、本発明の実施例に係るダストシールについて説明する。
【0027】
<ダストシールの構成>
特に、図1を参照して、本発明の実施例に係るダストシールの構成について説明する。なお、図1においては、ダストシール単体の断面図と、組み付け直前の軸の先端部の位置を示している。
【0028】
本実施例に係るゴム状弾性体製のダストシール10は、環状の本体部11と、本体部11から内周面側かつ一方の側(使用時における大気側(A))に伸びるメインリップ12と、本体部11から外周面側かつ一方の側に伸びる外周シール部13とを備えている。また、ダストシール10は、本体部11から内周面側かつ他方の側(使用時における大気側(A)とは反対側(B))に伸びる補助リップ14も備えている。
【0029】
本体部11は孔の空いた略円板形状の部位であり、この本体部11には、外周面側よりも内周面側の方が、肉厚が薄くなる段差部11aが設けられている。メインリップ12は、この本体部11の内周端部から、更に内周面側に伸びるように構成されている。本体部11の内周端部の内径は、軸20の外径R1とほぼ同じ寸法に設定されており、メインリップ12のリップ先端の内径は、軸20の組み付け前の状態において、軸20の外径R1よりも小さくなるように設定されている。
【0030】
図1中、点線31Xは、ハウジング30の軸孔の内周面(本実施例では、後述するように装着溝の溝底面に相当)の位置を示している。この図から明らかなように、外周シール部13における本体部11との繋ぎ部分13aの付近の外径は、前記軸孔の内径R2と略等しくなるように設定されている。また、外周シール部13は、その先端に向かうにつれて外周面側に伸びており、その先端付近の外径は、軸孔の内径R2よりも大きくなるように設定されている。
【0031】
補助リップ14は、軸20を組み付ける前の状態においては、軸の挿入方向とは反対側に向かって真っ直ぐ伸びるように構成されている。この補助リップ14の内周面の内径は、軸20の外径R1と略等しいか僅かに大きくなるように設定されている。これにより、軸20の組み付け時において、軸20の先端が補助リップ14の部位を通過する際には、軸20に対して、補助リップ14による締め付け力は生じない。
【0032】
<組み付け時のダストシールの動作>
特に、図1及び図2を参照して、組み付け時におけるダストシール10の動作について説明する。
【0033】
まず、ダストシール10にグリースを塗布した後に、当該ダストシール10を、ハウジング30における軸孔内周に設けられている環状の装着溝31に装着させる。ダストシール10を装着溝31に装着させることによって、外周シール部13の先端が内周面側に向かって撓むように変形して、外周シール部13の外周面全体が装着溝31の溝底面31aに密着した状態となる。このことから分かるように、装着溝31の溝底面31aが、ダストシール10によって封止する部位における軸孔の内周表面となる。
【0034】
次に、軸20を図1中矢印X方向に挿入して、ハウジング30の軸孔内に組み付ける。この軸20の組み付け過程において、軸20の先端がメインリップ12に突き当たった後に、メインリップ12は、本体部11と共に図1中矢印A方向に向かって撓むように変形する。このとき、本体部11は、段差部11aを起点として折れ曲がるように変形する。そして、メインリップ12の変形に伴って、補助リップ14は、その先端がメインリップ12の先端側に向かって図1中矢印B方向に回転するように変形する。これにより、軸20が通過する際には締め付け力を生じていなかった補助リップ14が、軸20の表面に対して押し付けられる状態となり、補助リップ14による軸20に対する締め付け力が生じる。
【0035】
図2は組み付けが完了した状態であって、軸20とハウジング30との間に偏心が生じていない状態を示している。図示のように、組み付けが完了した状態においては、本体部11が、外周面側から内周面側に向かって、大気側(A)に向かって伸びるように撓んだ
状態となる。これにより、本体部11とメインリップ12との繋ぎ部分が、本体部11と外周シール部13との繋ぎ部分よりも大気側(A)にずれた位置となる。
【0036】
<使用時におけるダストシールの動作>
特に、図2及び図3を参照して、使用時におけるダストシール10の動作について説明する。
【0037】
軸20とハウジング30が相対的に回転している状態においては、ダストシール10における外周シール部13はハウジング30の装着溝31の溝底面31aに密着しており、ハウジング30に対してダストシール10は静止した状態となっている。一方、ダストシール10におけるメインリップ12と補助リップ14は、軸20の外周表面に対して摺動かつ接触した状態となっている。
【0038】
そして、軸20とハウジング30が相対的に偏心した場合には、本体部11が撓むように変形することで、メインリップ12と補助リップ14は軸20に対して追随し、軸20に対して接触した状態を維持する。なお、軸20とハウジング30が相対的に回転しながら偏心した場合であっても、メインリップ12と補助リップ14は軸20の外周表面に対して摺動接触した状態を維持する。なお、図3は軸20とハウジング30が相対的に大きく偏心した状態を示している。また、軸20の偏心時においても、補助リップ14によりメインリップ12の姿勢が維持されるので、安定的にシール性を発揮させることができる。
【0039】
以上のように、ダストシール10によって、相対的に回転かつ偏心する軸20とハウジング30の軸孔との間の環状隙間が封止され、大気側(A)からその反対側(B)、つまり装置内部側へのダストの侵入が防止(抑制)される。
【0040】
<本実施例に係るダストシールの優れた点>
本実施例に係るダストシール10によれば、軸20の組み付け時において、軸20の先端が補助リップ14の部位を通過する際には、補助リップ14による軸20への締め付け力は生じていない。これにより、軸20の組み付け時に補助リップ14が反転してしまうことはない。したがって、メインリップ12及び補助リップ14を所望の姿勢に維持させることができ、安定的にシール性を発揮させることができる。
【0041】
そして、軸20が組み付けられた状態においては、本体部11とメインリップ12との繋ぎ部分が、本体部11と外周シール部13との繋ぎ部分よりも大気側(A)にずれた位置となる。これにより、軸20とハウジング30が偏心した場合には、本体部11が曲がるように変形することによって、メインリップ12及び補助リップ14が軸20に追随する。そのため、従来例のように本体部が圧縮することで、各リップが軸に追随する場合に比して、各リップの摺動抵抗の増加を抑制することができる。したがって、トルクの増加や摺動摩耗の促進を抑制することができる。
【0042】
また、本実施例においては、本体部11には、外周面側よりも内周面側の方が、肉厚が薄くなる段差部11aが設けられている。そのため、本体部11は段差部11aの部分を起点として折れ曲がるように変形する。つまり、本体部11は、その折れ曲がり位置が規定され、本体部11の折れ曲がり方を安定的にすることができる。これにより、本体部11が想定外の態様で変形してしまうことを抑制でき、安定的なシール性を維持することができる。
【0043】
また、本実施例においては、外周シール部13における本体部11との繋ぎ部分13aの付近の外径は、ハウジング30における軸孔(装着溝31の溝底面31a)の内径と略
等しくなるように設定されている。これにより、外周シール部13における圧縮変形が、メインリップ12や補助リップ14に対して影響を及ぼすことを抑制できる。つまり、この繋ぎ部分13aの付近の外径を、仮に、軸孔内径よりも大きく設定した場合には、当該付近において本体部11が圧縮されるため、メインリップ12等に影響を及ぼしてしまう。このような影響は、シール性の低下の原因となり得るため、本実施例では、そのような影響が出ないようにしている。
【0044】
以上のように、本実施例に係るダストシール10によれば、軸20とハウジング30が大きく偏心するような場合でも、優れたシール性を発揮する。したがって、軸とハウジングとの芯出し機構(ベアリングなど)がない装置に用いられる場合のように、軸とハウジングとが大きく偏心する場合でも、本実施例に係るダストシール10を用いれば、優れたシール性を発揮する。また、軸20及びハウジング30が樹脂成形品であって、かつ成形後に後加工がなされないために、寸法公差が大きく、初期状態から偏心量が大きな場合であっても、本実施例に係るダストシール10を用いれば、優れたシール性を発揮する。更に、軸20及びハウジング30が樹脂成形品の場合のように、経時的な摩耗により偏心量が大きくなっていく場合であっても、本実施例に係るダストシール10を用いれば、長期にわたって安定したシール性を発揮する。
【符号の説明】
【0045】
10 ダストシール
11 本体部
11a 段差部
12 メインリップ
13 外周シール部
13a 繋ぎ部分
14 補助リップ
20 軸
30 ハウジング
31 装着溝
31a 溝底面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対的に回転かつ偏心する軸とハウジングの軸孔との間の環状隙間を封止するゴム状弾性体製のダストシールにおいて、
環状の本体部と、
前記本体部から大気側に向かって伸びて前記軸の外周表面に摺動自在に接触するメインリップと、
前記本体部から大気側とは反対側に向かって伸びて前記軸の外周表面に摺動自在に接触し、前記メインリップの姿勢を維持させる補助リップと、
前記本体部から大気側に向かって伸びて前記軸孔の内周表面に密着する外周シール部と、
を備え、
前記補助リップは、前記軸の組み付け時において、前記軸の先端が前記補助リップの部位を通過する際には該軸に対する締め付け力が生じておらず、前記軸の挿入に伴う前記メインリップの変形に伴って、その先端が該メインリップの先端側に向かって回転するように変形することで、前記軸に対する締め付け力が生ずるように構成されていることを特徴とするダストシール。
【請求項2】
前記軸が組み付けられた状態においては、前記本体部とメインリップとの繋ぎ部分が、前記本体部と外周シール部との繋ぎ部分よりも大気側にずれた位置となるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のダストシール。
【請求項3】
前記本体部には、外周面側よりも内周面側の方が、肉厚が薄くなる段差部が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載のダストシール。
【請求項4】
前記外周シール部における前記本体部との繋ぎ部分の付近の外径は、前記軸孔の内径と略等しくなるように設定されていることを特徴とする請求項1,2または3に記載のダストシール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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