説明

ダンパ装置およびこれを備えた高圧ポンプ

【課題】燃料圧力の脈動低減効果を向上することの可能なダンパ装置を提供する。
【解決手段】ダンパ装置の燃料室に設けられるパルセーションダンパ50は、第1ダイアフラム51、第2ダイアフラム61および接合部57を有する。第1ダイアフラム51は、弾性変形可能な第1可動部52、及び第1可動部52の外縁に環状の第1外縁部53を有する。第2ダイアフラム61は、第1可動部52と共に密閉空間60を形成する弾性変形可能な第2可動部62、及び第2可動部62の外縁に第1外縁部53と突き合わされた環状の第2外縁部63を有する。接合部57は、第1外縁部53と第2外縁部とが突き合わされた個所を板厚方向から所定の幅で溶接されることで周方向に連続して形成される。板厚方向からの溶接により、板厚による溶接の正否の影響が低減されるので、第1、第2ダイアフラム51、61の板厚を薄くすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料の圧力脈動を低減するダンパ装置、およびこれを備えた高圧ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高圧ポンプの吸入工程で燃料通路から加圧室に吸入された燃料により生じる燃圧脈動、及び調量行程で加圧室から燃料通路に排出された燃料により生じる燃圧脈動を低減するダンパ装置が知られている。このダンパ装置は、加圧室と連通する燃料室にパルセーションダンパを収容し、そのパルセーションダンパの弾性変形による燃料室の容積変化により燃圧脈動を低減している。
特許文献1及び2に記載のパルセーションダンパは、金属からなる2枚のダイアフラムが重ねられ、その外周部が溶接されている(特許文献1の図4、図5、図12及び図13、並びに特許文献2の図7及び図8参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−138071号公報
【特許文献2】特許第3823060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、パルセーションダンパは、その径外側から2枚のダイアフラムの接合面に向けてレーザーを照射するレーザー溶接によって外周部が接合される。しかしながら、パルセーションダンパの外周部にレーザー溶接をする場合、2枚のダイアフラムの製造上の公差、レーザーの位置精度、またはレーザーの集光径などの制約から、レーザー溶接が可能な範囲でダイアフラムの板厚が設定される。このため、パルセーションダンパは、ダイアフラムの板厚がレーザー溶接の精度を維持可能な一定の厚さ以上に制限される。ここで、パルセーションダンパは、主にダイアフラムの板厚によって、脈動低減性能が規定される。したがって、特許文献1及び2に記載のパルセーションダンパは、脈動低減効果が制約されるという問題がある。
また、パルセーションダンパの外周部を溶接すると、その溶接によって形成された接合部の疲労強度が低いので、接合部に繰り返し応力を加えた場合、接合部が破損するおそれがある。このため、特許文献1及び2では、パルセーションダンパの接合部よりも径方向内側を上下方向から互いに押圧する2個の保持器を備えている。このため、保持器によってパルセーションダンパの可動部の大きさが制限されるので、脈動低減効果が制約されることが懸念される。また、保持器にかかるコストにより、ダンパ装置の製造コストが高くなるという問題が生じる。
また、一般にレーザー溶接は、油分や洗浄剤の残存等が、その溶接品質に影響を及ぼす。このため、レーザー溶接によって外周部を接合したパルセーションダンパは、2枚のダイアフラムの内側の密閉空間に封入した気体の漏れ検査を必要とする。特許文献1に記載のパルセーションダンパは、密閉空間にヘリウムガスが封入され、封入ガスの漏れ検査を可能にしている(特許文献1の明細書の段落「0036」参照)。
また、一般に、レーザー溶接の品質向上を図るため、アルゴンガスを用いることが知られている。しかしながら、アルゴンまたはヘリウムなどの単原子分子ガスは、多原子分子ガスと比較して比熱比が高いので、パルセーションダンパを収容する燃料室の温度上昇と共に、密閉空間の気圧が高くなることがある。これにより、パルセーションダンパの脈動抑制効果が低下することが懸念される。
また、アルゴンガスまたはヘリウムガスにかかるコストにより、ダンパ装置の製造コストが高くなるという問題が生じる。
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、燃料圧力の脈動低減効果を向上することの可能なダンパ装置、及びそれを用いた高圧ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明によると、燃料が流れる燃料室を有するダンパハウジングと、燃料室に設けられるパルセーションダンパとを備える。
パルセーションダンパは、第1ダイアフラム、第2ダイアフラムおよび接合部を有する。
第1ダイアフラムは、燃料室の燃圧脈動により弾性変形可能な第1可動部、及び第1可動部の外縁に設けられる環状の第1外縁部を有する。
第2ダイアフラムは、第1可動部と共に密閉空間を形成し燃料室の燃圧脈動により弾性変形可能な第2可動部、及び第2可動部の外縁に設けられ、第1外縁部と突き合わされた環状の第2外縁部を有する。
接合部は、第1外縁部と第2外縁部とが突き合わされた個所を板厚方向から所定の幅で溶接されることで周方向に連続して形成される。
【0006】
これにより、従来パルセーションダンパの外周部を径方向から溶接していたものと比較して、第1外縁部と第2外縁部とを板厚方向から溶接することで、板厚による溶接の正否の影響が低減される。このため、従来のパルセーションダンパよりも第1、第2ダイアフラムの板厚を薄くすることが可能になる。したがって、ダンパ装置の脈動低減効果を向上することができる。
また、従来パルセーションダンパの外周部を線状に溶接していたものと比較して、溶接の幅を広くすることで、接合部の溶接強度が高くなると共に、接合部の切欠き係数を減じることが可能になる。これにより、従来、接合部への繰り返し応力を抑制するために第1外縁部と第2外縁部とを板厚方向から互いに押圧していた保持器を廃止することができる。したがって、燃料室にパルセーションダンパを設置するスペースが広くなり、パルセーションダンパの外径及び可動部外径を大きく形成することが可能になる。この結果、ダンパ装置の脈動低減効果を向上することができる。
さらに、溶接の幅を広くすることで、気密性の高い溶接を行うことが可能になる。これにより、第1ダイアフラムと第2ダイアフラムとの間の密閉空間に封入される気体の漏れ検査を廃止することができる。したがって、ダンパ装置の製造コストを低減することができる。
なお、板厚方向の溶接として、抵抗シーム溶接及びレーザー溶接等が例示される。
また、所定の幅とは、第1外縁部と第2外縁部とが突き合わされた範囲で任意に設定することが可能である。
【0007】
ところで、第1ダイアフラムと第2ダイアフラムの板厚を薄くすると、例えば第1外縁部と第2外縁部とを抵抗シーム溶接した場合、電極の回転によってしわがよることが懸念される。また、第1ダイアフラム及び第2ダイアフラムの板厚を薄くすると、第1可動部及び第2可動部の変位量が大きくなることで、接合部への繰り返し応力が大きくなるおそれがある。
そこで、請求項2に記載の発明によると、ダンパ装置は、第1外縁部の第2外縁部と反対側に設けられる環状の第1補強部、および、第2外縁部の第1外縁部と反対側に設けられる環状の第2補強部を備える。接合部は、第1補強部又は第2補強部の板厚方向から所定の幅で溶接されることで周方向に連続して形成される。
これにより、第1、第2補強部を第1、第2外縁部と共に溶接することで、第1、第2外縁部の剛性が高くなる。このため、第1可動部と第2可動部との変位によって第1外縁部と第2外縁部とが互いに離れる方向へ開くことが抑制される。したがって、接合部の切欠き係数による影響を低減することができる。
また、例えば第1外縁部と第2外縁部とを抵抗シーム溶接した場合、電極の回転によってしわがよることを抑制することができる。
【0008】
一般に、パルセーションダンパは、第1ダイアフラムと第2ダイアフラムとを溶接した後、燃料室に設置される。燃料供給系統に設けられた高圧ポンプが作動していない状態のとき、燃料室の燃圧は大気圧と同等である。このため、パルセーションダンパは第1可動部と第2可動部とが互いに離れる方向に大きく膨らんでいる。一方、高圧ポンプが作動を開始すると、燃料室の燃圧が大気圧よりも高くなる。このため、パルセーションダンパはその膨らみが小さくなり、高圧ポンプの作動と共に所定の範囲で変位する。パルセーションダンパは、高圧ポンプの非作動時から作動時に移行するときの燃料室の燃圧の変動に起因する第1、第2可動部の変位による応力振幅により、耐用期間が短くなることが懸念される。
そこで、請求項3に記載の発明によると、ダンパ装置は、第1規制部及び第2規制部を備える。
第1規制部は、第1補強部から第1可動部の第2可動部と反対側へ延び、第1可動部の第2可動部と反対側への膨らみを規制する。
第2規制部は、第2補強部から第2可動部の第1可動部と反対側へ延び、第2可動部の第1可動部と反対側への膨らみを規制する。
これにより、高圧ポンプの作動時と非作動時との燃料室の燃圧の変動による第1可動部と第2可動部との変位を小さくすることが可能になる。したがって、その際の応力振幅が小さくなり、パルセーションダンパの耐用期間を長くすることができる。
さらに、第1規制部と第1補強部とを一体とし、第2規制部と第2補強部とを一体とすることで、第1、第2補強部および第1、第2外縁部を溶接加工した後の第1可動部と第2可動部との変位を小さくすることが可能になる。
【0009】
請求項4に記載の発明によると、ダンパ装置は、第1補強部または第2補強部から燃料室を形成するダンパハウジングの内壁側へ延び、その内壁に接続されることで、パルセーションダンパを燃料室に取り付けることの可能な取付部を備える。
第1補強部または第2補強部と取付部とを一体で構成することで、簡素な構成でパルセーションダンパを燃料室に設置することが可能になる。このため、燃料室にパルセーションダンパを設置するスペースが広くなる。したがって、パルセーションダンパの外径を大きく形成し、脈動低減効果を向上することができる。
また、第1補強部または第2補強部と取付部との一体化による構成部品の集約により、ダンパ装置のコストを低減することができる。
【0010】
請求項5に記載の発明によると、取付部は、環状に形成され、板厚方向に燃料が流通可能な流路を有する。
これにより、パルセーションダンパの第1可動部と第2可動部とを有効に利用し、脈動低減効果を向上することができる。
【0011】
請求項6に記載の発明によると、ダンパ装置は、第1外縁部と第2外縁部との間に挟まれ、第1外縁部と第2外縁部との間から径外方向へ延び、燃料室を形成するダンパハウジングの内壁に接続されるプレートを備える。接合部は、第1外縁部、第2外縁部及びプレートの板厚方向から一体で溶接されることで周方向に連続して形成される。
これにより、一回の溶接工程により、プレートとパルセーションダンパとを組み付けることが可能になるので、溶接にかかるコストを低減することができる。
【0012】
請求項7に記載の発明によると、ダンパハウジングは、燃料室の一端に開口を有している。ダンパ装置は、ダンパハウジングの開口を塞ぎ、燃料室を密閉する蓋部材を備える。ダンパハウジングと蓋部材との間にプレートが挟まれることで、パルセーションダンパは燃料室に取り付けられる。
これにより、簡素な構成でパルセーションダンパを燃料室に設置することが可能になる。このため、燃料室にパルセーションダンパを設置するスペースが広くなり、パルセーションダンパの外径を大きく形成することができる。
【0013】
請求項8に記載の発明によると、パルセーションダンパの密閉空間には、大気圧以上の空気が封入される。
第1外縁部と第2外縁部とを板厚方向に溶接することで、溶接の幅を広くし、気密性の高い溶接を行うことが可能になる。これにより、密閉空間に封入される気体の漏れ検査を廃止することができる。このため、封入ガスをヘリウムなどに特定する制約がない。また、接合部の溶接にレーザー溶接を用いた場合、密閉空間に封入する気体をアルゴンなどに特定する制約がない。したがって、密閉空間に空気を封入することが可能になり、ヘリウム又はアルゴンなどにかかるコストを低減することができる。
【0014】
請求項9に記載の発明によると、パルセーションダンパの密閉空間には、大気圧以上の乾燥空気が封入される。
乾燥空気は湿り空気と比較して熱伝達率が低い。このため、燃料室の温度上昇に対し、密閉空間の気圧の上昇が抑制される。したがって、燃料室の温度上昇に起因するパルセーションダンパの脈動抑制効果の低下を抑制することができる。
【0015】
請求項10に記載の発明によると、密閉空間には、単原子分子を除く気体が封入される。
単原子分子ガスは、二原子分子ガス及び多原子分子ガスと比較して比熱比が高い。このため、密閉空間の封入ガスに単原子分子を除く気体を封入することで、パルセーションダンパを収容する燃料室の温度上昇による密閉空間の気圧の上昇を抑制することができる。
【0016】
請求項11に記載の発明によると、密閉空間には、CO2が封入される。
CO2は、二原子分子ガス及び多原子分子のうち、比熱比の低い物質である。したがって、燃料室の温度上昇による密閉空間の気圧の上昇を抑制することができる。
また、CO2の固定に役立つので、環境保護に貢献するという利点も得られる。
【0017】
請求項12に記載の発明によると、高圧ポンプは、プランジャと、そのプランジャの往復移動によって燃料が加圧される加圧室を有するポンプハウジングと、加圧室から当該加圧室に連通する燃料室に排出される燃料の圧力脈動を低減可能な請求項1〜10のいずれか一項に記載のダンパ装置を備える。
上述した請求項1〜11に記載のダンパ装置は、高圧ポンプと一体に構成することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(A)は本発明の第1実施形態によるダンパ装置のパルセーションダンパを示す平面図、(B)は図1(A)のIB−IB線断面図。
【図2】本発明の第1実施形態によるダンパ装置が用いられる内燃機関の燃料系統の模式図。
【図3】本発明の第1実施形態によるダンパ装置が用いられる高圧ポンプの断面図。
【図4】本発明の第1実施形態によるダンパ装置のパルセーションダンパの要部断面図。
【図5】図3のV−V線断面図であり、パルセーションダンパと取付部のみを示す平面図。
【図6】図3のVI部分の拡大図。
【図7】(A)パルセーションダンパの両側抵抗シーム溶接機の模式図、(B)は図7(A)のVII方向の矢視図。
【図8】(A)パルセーションダンパの片側抵抗シーム溶接機の模式図、(B)は図8(A)のVIII方向の矢視図。
【図9】(A)パルセーションダンパの抵抗シーム溶接機に使用される直流電流の説明図、(B)は抵抗シーム溶接機に直流電流を使用したときの熱量変動の説明図。
【図10】(A)パルセーションダンパの抵抗シーム溶接機に使用される交流電流の説明図、(B)は抵抗シーム溶接機に交流電流を使用したときの熱量変動の説明図。
【図11】気体の分子構造と比熱比との関係図。
【図12】(A)は本発明の第2実施形態によるダンパ装置のパルセーションダンパを示す平面図、(B)は図12(A)のXIIB−XIIB線断面図。
【図13】(A)は本発明の第3実施形態によるダンパ装置のパルセーションダンパを示す平面図、(B)は図13(A)のXIIIB−XIIIB線断面図。
【図14】本発明の第3実施形態によるダンパ装置が用いられる高圧ポンプの断面図。
【図15】図14のXV−XV線断面図であり、パルセーションダンパと取付部のみを示す平面図。
【図16】図14のXVI部分の拡大図。
【図17】(A)は本発明の第4実施形態によるダンパ装置のパルセーションダンパを示す平面図、(B)は図17(A)のXVIIB−XVIIB線断面図。
【図18】(A)は本発明の第4実施形態によるダンパ装置の第1ダイアフラムの変位を示すグラフ、(B)は本発明の第1実施形態によるダンパ装置の第1ダイアフラムに生じる応力を示すグラフ。
【図19】(A)は本発明の第5実施形態によるダンパ装置のパルセーションダンパを示す平面図、(B)は図19(A)のXIXB−XIXB線断面図。
【図20】本発明の第5実施形態によるダンパ装置が用いられる高圧ポンプの断面図。
【図21】(A)は本発明の第6実施形態によるダンパ装置のパルセーションダンパを示す平面図、(B)は図21(A)のXXIB−XXIB線断面図。
【図22】本発明の第6実施形態によるダンパ装置が用いられる高圧ポンプの断面図。
【図23】(A)は本発明の第7実施形態によるダンパ装置のパルセーションダンパを示す平面図、(B)は図23(A)のXXIIIB−XXIIIB線断面図。
【図24】本発明の第7実施形態によるダンパ装置が用いられる高圧ポンプの断面図。
【図25】(A)は本発明の第8実施形態によるダンパ装置のパルセーションダンパを示す平面図、(B)は図25(A)のXXVB−XXVB線断面図。
【図26】本発明の第8実施形態によるダンパ装置が用いられる高圧ポンプの断面図。
【図27】(A)は比較例のパルセーションダンパを示す平面図、(B)は図27(A)のXXVIIB−XXVIIB線断面図。
【図28】比較例のパルセーションダンパの要部断面図。
【図29】比較例のダンパ装置が用いられる高圧ポンプの断面図。
【図30】(A)は比較例の第1ダイアフラムの変位を示すグラフ、(B)は比較例の第1ダイアフラムに生じる応力を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の複数の実施形態を図面に基づいて説明する。
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態によるダンパ装置を適用した内燃機関の燃料供給系統を図2に示す。燃料供給系統1は、燃料タンク2、低圧ポンプ3、高圧ポンプ10、デリバリパイプ4及びダンパ装置5等を備えている。
高圧ポンプ10は、燃料タンク2から低圧ポンプ3によって汲み上げられた燃料を加圧し、デリバリパイプ4へ圧送する。デリバリパイプ4に貯留された高圧燃料は、デリバリパイプ4に接続するインジェクタ6により図示しない内燃機関の気筒内に噴射される。
高圧ポンプ10は、加圧室121の容積を可変するプランジャ13を備えている。プランジャ13は、タペット9を介してカムシャフト7に駆動され、軸方向に往復移動することで加圧室121の燃料を加圧する。
高圧ポンプ10は、プランジャ13が下死点から上死点へ移動する間の所定時刻まで吸入弁部30を開弁し、加圧室121の燃料を低圧ポンプ3側の供給通路100へ排出する。所定時刻にコントローラ8から電磁駆動部70に通電されると、吸入弁部30が閉弁する。これにより、加圧室121から吐出弁部90を経由し、デリバリパイプ4へ圧送される燃料の量が決定される。
ダンパ装置5は、吸入弁部30の低圧ポンプ3側に設けられ、吸入工程で燃料通路から加圧室に吸入された燃料により生じる燃圧脈動、及び調量工程にて加圧室121から排出される燃料により生じる燃圧脈動を低減する。このダンパ装置5の燃料室110にパルセーションダンパ50が設置されている。
【0020】
次に、ダンパ装置5を備える高圧ポンプ10の基本構成および作動について、図3を参照して説明する。
高圧ポンプ10は、ポンプハウジング11、プランジャ13、ダンパ装置5、吸入弁部30、電磁駆動部70及び吐出弁部90などを備えている。
ポンプハウジング11とプランジャ13について説明する。
ポンプハウジング11には、円筒状のシリンダ14が設けられている。シリンダ14には、プランジャ13が軸方向に往復移動可能に収容されている。プランジャ13の一端は、シリンダ14の深部に形成された加圧室121に臨むように設けられている。プランジャ13の他端には、スプリング座18が取り付けられている。スプリング座18とオイルシールホルダ25との間に、スプリング19が設けられている。このスプリング19により、スプリング座18はカムシャフト7側へ付勢される。これにより、タペット9がカムシャフト7のカムと接することで、プランジャ13は軸方向に往復移動する。プランジャ13の往復移動により、加圧室121の容積が変化することで燃料が吸入、加圧される。
【0021】
次に、ダンパ装置5について説明する。
ダンパ装置5は、ダンパハウジング111、蓋部材12、パルセーションダンパ50及び取付部材40によって構成されている。
ポンプハウジング11には、シリンダ14の反対側に、シリンダ側に凹むダンパハウジング111が設けられている。ダンパハウジング111とポンプハウジング11とは一体に形成されている。ダンパハウジング111は、ポンプハウジング11の外側に開口している。このダンパハウジング111の開口112を蓋部材12が塞いでいる。ダンパハウジング111と蓋部材12との間に、燃料室110が形成される。
【0022】
燃料室110には、燃料タンク2から低圧ポンプ3によって汲み上げられた燃料が低圧燃料配管を通じて供給される。また、燃料室110は、供給通路100を通じて加圧室121と連通している。このため、プランジャ13の往復移動により供給通路100から加圧室121側へ燃料が吸入されるもしくは、加圧室121から供給通路100側へ燃料が排出されると、燃料室110に燃圧脈動が生じる。
【0023】
燃料室110に収容されるパルセーションダンパ50は、燃料室110の燃圧脈動を低減する。図1に示すように、パルセーションダンパ50は、第1ダイアフラム51、第2ダイアフラム61、及び第1ダイアフラム51と第2ダイアフラム61とが接合された接合部57を有する。
第1ダイアフラム51および第2ダイアフラム61は、例えばステンレス等、耐力および疲労限界の高い金属板をプレス加工することで皿状に形成されている。
第1ダイアフラム51は、燃料室110の燃圧脈動により弾性変形可能な第1可動部52、及び第1可動部52の外縁に設けられる環状の第1外縁部53を有する。第2ダイアフラム61も、第1ダイアフラム51と同様の形状に形成された第2可動部62及び第2外縁部63を有する。
なお、第1可動部52の中央の円板状の領域を第1円板部54と称し、その外側の曲面状の領域を第1曲面部55と称する。第2可動部62の中央の円板状の領域を第2円板部64と称し、その外側の曲面状の領域を第2曲面部65と称する。
【0024】
図4に示すように、パルセーションダンパ50は、第1ダイアフラム51の第1外縁部53と第2ダイアフラム61の第2外縁部63とが面接触するように突合わされている。そして第1外縁部53と第2外縁部63とが面接触した個所が板厚方向から所定の幅で周方向に連続して溶接されることで接合部57が形成される。接合部57の幅W1は、第1外縁部53と第2外縁部63との溶接の信頼性が担保され、かつ後述する密閉空間60の気密性が担保される幅である。接合部57は、パルセーションダンパ50の全周に形成される。これにより、第1ダイアフラム51と第2ダイアフラム61との間に、密閉された密閉空間60が形成される。密閉空間60の気圧は、内燃機関の作動に必要な最低燃料圧力以上で燃料に発生するベーパを抑制可能な気圧である。2枚のダイアフラム51、61の板厚、材質、外径及び密閉空間60に封入される気圧等を、耐久性或いはその他の要求性能に応じて適宜設定することで、パルセーションダンパ50のばね常数が設定される。そして、このばね常数により、パルセーションダンパ50が低減する脈動周波数及び脈動減衰性能が決定される。
第1可動部52と第2可動部62とは、燃料室110の圧力変化に応じて弾性変形する。これにより、密閉空間60の容積が変化し、燃料室110を流通する燃料の圧力脈動が減衰される。第1ダイアフラム51及び第2ダイアフラム61の板厚が薄いと、パルセーションダンパ50の圧力脈動の減衰効果が向上する。また、第1、第2可動部52、62の外径が大きいと、パルセーションダンパ50の圧力脈動の減衰効果が向上する。
【0025】
図5及び図6に示すように、取付部材40は、パルセーションダンパ50の周方向に略均等に3個取り付けられている。取付部材40は、上当接部41、下当接部42および固定部43を有する。上当接部41は、第1外縁部53の第2外縁部63と反対側の外壁に当接する。下当接部42は、第2外縁部63の第1外縁部53と反対側の外壁に当接する。取付部材40は、1枚のステンレス板をプレス加工等することで形成されており、上当接部41と下当接部42とがパルセーションダンパ50の軸方向に重なっていない。固定部43は、上当接部41及び下当接部42に対して略垂直に折れ曲がり、ダンパハウジング111の内壁に圧入などによって固定される。
取付部材40の上当接部41と下当接部42がパルセーションダンパ50の第1、第2外縁部53、63を上下から挟み、固定部43がダンパハウジング111の内壁に固定されることで、パルセーションダンパ50は燃料室110に設置される。
【0026】
続いて、吸入弁部30について図3を参照して説明する。
ポンプハウジング11には、シリンダ14の中心軸と略垂直に筒部15が設けられている。筒部15の内側に供給通路100が形成されている。供給通路100は燃料室110と加圧室121とを連通している。
弁ボディ31は、供給通路100に収容されている。弁ボディ31は、小径筒部32と大径筒部33を有している。大径筒部33の底部に凹テーパ状の弁座34が形成されている。
吸入弁35は弁ボディ31の大径筒部33の内側に配置されている。吸入弁35は、小径筒部32に設けられた孔36の内壁に案内されて往復移動する。吸入弁35の弁座34側に形成された凸テーパ状の弁シート37は、弁ボディ31の弁座34に着座および離座可能である。
【0027】
弁ボディ31の大径筒部33の内壁にストッパ39が固定されている。このストッパ39は、吸入弁35の開弁方向(図3の右方向)への移動を規制する。ストッパ39の内側と吸入弁35との間には第1スプリング21が設けられている。第1スプリング21は、吸入弁35を弁座34に着座させる方向、すなわち閉弁方向へ付勢している。
ストッパ39には、ストッパ39の軸に対して傾斜する傾斜通路104が周方向に複数形成されている。
【0028】
次に電磁駆動部70について説明する。
電磁駆動部70は、コイル71、固定コア72、可動コア73、フランジ75などから構成される。
フランジ75は磁性体からなり、ポンプハウジング11の筒部15の端部を塞いでいる。フランジ75は、固定コア72及びコネクタ77を保持している。
フランジ75の加圧室121と反対側に磁性体からなる固定コア72が設けられている。固定コア72とフランジ75との間の磁気的な短絡を非磁性体からなる筒部材79が防止している。
固定コア72の径方向外側に樹脂製のスプール78が設けられている。スプール78の径外側にコイル71が巻回されている。
【0029】
可動コア73は磁性体からなり、フランジ75の固定コア72側に設けられた収容室74に軸方向に往復移動可能に収容されている。
フランジ75の中央に設けられた孔の内壁には、筒状のガイド筒76が取り付けられている。
ニードル38は略円筒状に形成され、ガイド筒76の内壁に案内されて往復移動する。ニードル38は、一方の端部が可動コア73と一体に組み付けられ、他方の端部が吸入弁35の電磁駆動部70側の端面に当接するように設置されている。
【0030】
固定コア72と可動コア73との間に第2スプリング22が設けられている。この第2スプリング22は、ストッパ39側の第1スプリング21が吸入弁35を閉弁方向に付勢する力よりも強い力で、可動コア73を吸入弁35側へ付勢している。
コイル71に通電していないとき、可動コア73は固定コア72に吸引されず、第2スプリング22の弾性力により互いに離れている。このため、可動コア73と一体のニードル38が吸入弁35側へ移動し、ニードル38の端面が吸入弁35を押圧することで吸入弁35が開弁する。
コイル71に通電されると、固定コア72、可動コア73、フランジ75などによって形成された磁気回路に磁束が流れ、可動コア73は固定コア72に吸引される。可動コア73と一体のニードル38が固定コア72側へ移動し、ニードル38は吸入弁35に対する押圧力を解除する。
【0031】
次に吐出弁部90について説明する。
加圧室121と燃料出口91とを吐出通路114が連通している。
吐出弁92は、有底筒状に形成され、吐出通路114に往復移動可能に収容されている。吐出弁92は、吐出通路114に内壁に形成された弁座95に着座することで吐出通路114を閉塞し、弁座95から離座することで吐出通路114を開放する。
吐出弁92の燃料出口91側に筒状の規制部材93が設けられている。規制部材93は、吐出弁92の燃料出口91側への移動を規制する。
スプリング94は、一端が規制部材93に当接し、他端が吐出弁92に当接している。スプリング94は、吐出弁92を弁座95側へ付勢している。規制部材93の設置位置によって、スプリング94のばね荷重を設定し、吐出弁92の開弁圧を調整することができる。
【0032】
加圧室121の燃料の圧力が上昇し、加圧室121側の燃料から吐出弁92が受ける力がスプリング94のばね力と弁座95の下流側の燃料から受ける力との和よりも大きくなると、吐出弁92は弁座95から離座する。これにより、加圧室121から吐出通路114を通り、燃料出口91から燃料が吐出される。
一方、加圧室121の燃料の圧力が低下し、加圧室121側の燃料から吐出弁92が受ける力がスプリング94のばね力と弁座95の下流側の燃料から受ける力との和よりも小さくなると、吐出弁92は弁座95に着座する。これにより、弁座95の下流側の燃料が加圧室121へ逆流することが防止される。
【0033】
次に可変容積室122について説明する。
プランジャ13は、小径部131及び大径部133を有している。小径部131と大径部133との接続部分に段差面132が形成される。段差面132に向き合うように、略円環状のプランジャストッパ23が設けられている。
プランジャストッパ23は、加圧室121側の端面がポンプハウジング11に当接している。プランジャストッパ23の中央の孔をプランジャ13が挿通している。プランジャストッパ23は、中央の孔から径外方向に放射状に延びる複数の溝路28を有している。
プランジャ13の段差面132、小径部131の外壁、シリンダ14の内壁、プランジャストッパ23およびシール部材24に囲まれる略円環状の空間により可変容積室122が形成される。
【0034】
ポンプハウジング11には、シリンダ14が開口する側の外壁に、加圧室121側へ略円環状に凹む凹部105が設けられている。凹部105には、オイルシールホルダ25が嵌め込まれている。オイルシールホルダ25は、プランジャストッパ23との間にシール部材24を挟んで、ポンプハウジング11に固定されている。シール部材27は、内周のテフロンリング(「テフロン」は登録商標)と、外周のOリングとからなる。シール部材24は、小径部131周囲の燃料油膜の厚さを規制し、プランジャ13の摺動によるエンジンへの燃料のリークを抑制する。オイルシールホルダ25の加圧室121と反対側の端部には、オイルシール26が装着されている。オイルシール26は、小径部131周囲のオイル油膜の厚さを規制し、プランジャ13の摺動によるオイルのリークを抑制する。
【0035】
オイルシールホルダ25とポンプハウジング11との間には、筒状通路106とこの筒状通路106に連通する環状通路107が形成されている。筒状通路106はプランジャストッパ23の溝路28に連通している。環状通路107はポンプハウジング11に形成された図示しない戻し通路を経由して燃料室110に連通している。このように、溝路28、筒状通路106、環状通路107及び戻し通路が順に連通することで、可変容積室122と燃料室110とが連通する。
【0036】
続いて、パルセーションダンパ50の製造方法を説明する。
図7に示すように、本実施形態のパルセーションダンパ50は、抵抗シーム溶接機300によって、第1外縁部53と第2外縁部63との溶接が行われる。図7に示すのは、両側抵抗シーム溶接機である。抵抗シーム溶接機300は、コントローラ310、トランス320および回転電極330、340を備える。抵抗シーム溶接機300による溶接工程は、パルセーションダンパ50の密閉空間60に封入する気体が所定の気圧で充満した溶接室内で行われる。所定の気圧は、例えば数百kPaの圧力が設定される。
まず、パルセーションダンパ50の第1外縁部53と第2外縁部63とが2個の回転電極330、340の間に挟まれる。
次に、2個の回転電極330、340を回転し、第1外縁部53と第2外縁部63とを加圧しながら電流を断続的に通電することで連続的に抵抗溶接を行う。この時、パルセーションダンパ50は、その軸を中心に周方向に回転する。これにより、回転電極330、340の幅とほぼ同じ幅の接合部57が形成される。
その後、パルセーションダンパ50を溶接室から取り出し、パルセーションダンパ50に取付部材40を取り付ける。そして高圧ポンプ10の燃料室110にパルセーションダンパ50を設置する。
【0037】
なお、図8に示す片側抵抗シーム溶接機301は、上側に回転電極330を備え、下側に固定電極350を備える。この場合、回転電極330と固定電極350との間にパルセーションダンパ50の第1外縁部53及び第2外縁部63を挟む。次に、上側の回転電極330を回転し、第1外縁部53と第2外縁部63とを加圧しながら、電流を断続的に通電し、連続的に抵抗溶接を行う。この時、パルセーションダンパ50は、その軸を中心に周方向に回転する。これにより、回転電極330の幅とほぼ同じ幅の接合部57が形成される。
【0038】
次に、抵抗シーム溶接機300に直流電流を使用したとき場合と交流電流を使用した場合の違いを図9および図10を参照して説明する。
抵抗シーム溶接機300に交流電流を使用した場合の電流波形を図10(A)に示す。そしてこの時の熱量を図10(B)に示す。抵抗シーム溶接機300の回転電極330及び固定電極350に交流電流を通電した場合、熱量は、発熱ネルギーが0点まで下がる状態と、加熱する状態とを繰り返す。
これに対し、抵抗シーム溶接機300に直流電流を使用した場合の電流波形を図9(A)に示す。そしてこの時の熱量を図9(B)に示す。抵抗シーム溶接機300の回転電極330及び固定電極350に直流電流を通電した場合、熱量は、発熱ネルギーが0点まで下がることなく、加熱する状態が持続する。これにより、第1外縁部53と第2外縁部63とは連続して加熱される。
この結果、通電時間が同一の場合、抵抗シーム溶接機300に使用する電流は、交流式よりも直流式の方が発熱量が多い。したがって、抵抗シーム溶接機300に使用する電流は、交流式よりも直流式の方が熱効率に優れている。直流式は、交流式と比較して、抵抗シーム溶接の通電時間を少なくすることが可能であり、消費電力を低減することができる。また、直流式は、発熱ネルギーが0点まで下がることないので、溶接の信頼性を向上することができる。
【0039】
続いて、パルセーションダンパ50の密閉空間60に封入する気体について説明する。
本実施形態では、密閉空間60に空気が封入される。
上述した抵抗シーム溶接により、気密性の高い溶接を行うことが可能になる。これにより、密閉空間60に封入される気体の漏れ検査を廃止することができる。このため、封入ガスをヘリウムまたはアルゴンなどに特定する制約がないので、密閉空間60に空気を封入することが可能になる。ここでさらに乾燥空気とすると湿り空気と比較して熱伝達率が低い。このため、密閉空間60に乾燥空気を封入することで、燃料室110の温度上昇に対し、密閉空間60の気圧の上昇を抑制することが可能になる。
【0040】
気体の分子構造と比熱比との関係を図11に示す。図11を参照すると、単原子分子ガスは、多原子分子ガスと比較して比熱比が高い。また、CO2は、多原子分子のうちで比熱比の低い物質である。したがって、本実施形態において、パルセーションダンパ50の密閉空間60に、単原子分子を除く気体を封入することが好ましい。これにより、パルセーションダンパ50を収容する燃料室110の温度上昇に起因する密閉空間60の気圧の上昇を抑制することができるからである。
さらに、密閉空間60には、CO2を封入することがさらに好ましい。これにより、CO2の固定に役立ち、環境保護に貢献するという利点も得られるからである。
【0041】
ここで、比熱比について説明する。
Cvは定積比熱、Cpは定圧比熱とする。比熱比γは、γ=Cv/Cpで表される。
マイヤー(Mayer)の法則:nモルの気体に対してはCp=Cv+nR(1モルなら Cp=Cv+R)が成立する。
ただし、Rは気体定数:R≒8.31J/(mol・K)。
気体の定積比熱Cvは絶対温度をT、内部エネルギーをUとすると、Cv=dU/dTで与えられる。
理想気体ではUは温度だけの関数なので、T=0での零点エネルギーを無視すると、気体の内部エネルギーはU=CvTといえる。
物体の常温での内部エネルギーUは、1粒子の運動する自由度1つごとにkBT/2だけの値を割り当てられる。
ここでkBはボルツマン定数:気体分子1個当たりの気体定数。
kBは気体1分子当たりの気体定数なので、R=N0kB、またはN0=R/kBとすると気体1モルというのはN0個の分子の集合体を意味する。
N0はアボガドロ数:6.02×1023
nモルの気体を構成する分子数はnN0個のため、
それの1自由度あたりの内部エネルギーはnN0kBT/2=nRT/2
以上の事実はエネルギー等分配の法則といわれている。
単原子分子気体では分子1個の自由度は並進運動の自由度3だけなので
nモルの気体の内部エネルギーはU=3nRT/2
そこでCv=3nR/2、Cp=Cv+nR=5nR/2となる。
また、2原子分子気体は回転の自由度2が加わるので、
分子1個の自由度は並進運動(重心運動)の自由度3と合わせて5となる。
そこでnモルの気体の内部エネルギーはU=5nRT/2となる。
そこでCv=5nR/2,Cp=7nR/2となる。
3原子分子以上では分子自体を剛体と考えられるために、その重心の周りの回転の自由度が最大の3になるので、
これを並進運動(重心運動)の自由度3と合わせると分子1個の自由度は6となるため、nモルの内部エネルギーはU=3nRTで、CV=3nR、Cp=4nRとなる。
以上をまとめると、
単原子分子の比熱比:γ=(5nR/2)/(3nR/2)=5/3≒1.67
二原子分子の比熱比:γ=(7nR/2)/(5nR/2)=7/5=1.4
三原子分子以上の比熱比:γ=(4nR)/(3nR)=4/3=1.33
【0042】
次に、高圧ポンプ10の作動について説明する。
(1)吸入行程
カムシャフト7の回転により、プランジャ13が上死点から下死点に向かって下降すると、加圧室121の容積が増加し、燃料が減圧される。吐出弁92は弁座95に着座し、吐出通路114を閉塞する。
一方、吸入弁35は、加圧室121と供給通路100との差圧により、第1スプリング21の付勢力に抗して加圧室121側へ移動し、開弁状態となる。このとき、コイル71への通電は停止されているので、可動コア73とニードル38は第2スプリング22の付勢力により加圧室121側へ移動する。したがって、ニードル38と吸入弁35とが当接し、吸入弁35は開弁状態を維持する。これにより、燃料室110から供給通路100を経由し、加圧室121に燃料が吸入される。
【0043】
吸入行程では、プランジャ13の下降により、可変容積室122の容積が減少する。したがって、可変容積室122の燃料は、筒状通路106、環状通路107及び戻し通路を経由し、燃料室110へ送り出される。
ここで、大径部133と可変容積室122の断面積比は概ね1:0.6である。したがって、加圧室121の容積の増加分と可変容積室122の容積の減少分の比も1:0.6となる。よって、加圧室121が吸入する燃料の約60%が可変容積室122から供給され、残りの約40%が燃料入口から吸入される。これにより、加圧室121への燃料の吸入効率が向上するとともに、燃圧脈動が低減される。
【0044】
吸入行程では、燃料室110の燃料圧力が低下するので、第1ダイアフラム51の第1可動部52と第2ダイアフラム61の第2可動部62とは、互いに離れる方向へ変位する。パルセーションダンパ50は、第1、第2外縁部53、63の径方向に広い範囲で溶接がされており、接合部57の幅W1が広いので、接合部57の溶接強度が高く、接合部57に作用する切欠き係数の効果を低減することが可能になる。
【0045】
(2)調量行程
カムシャフト7の回転により、プランジャ13が下死点から上死点に向かって上昇すると、加圧室121の容積が減少する。このとき、所定の時期まではコイル71への通電が停止されているので、第2スプリング22の付勢力によりニードル38と吸入弁35は開弁位置にある。これにより、供給通路100は開放された状態が維持される。このため、一度加圧室121に吸入された低圧燃料が供給通路100を経由し、燃料室110へ戻される。したがって、加圧室121の圧力は上昇しない。
【0046】
調量行程では、プランジャ13の上昇により、可変容積室122の容積が増大する。したがって、燃料室110の燃料は、戻し通路、環状通路107及び筒状通路106を経由し、可変容積室122へ流入する。
このとき、加圧室121が燃料室110側へ排出する低圧燃料の容積の約60%が、燃料室110から可変容積室122に吸入される。これにより、燃圧脈動の約60%が低減される。
【0047】
調量行程では、燃料室110の燃料圧力が上昇するので、第1ダイアフラム51の第1可動部52と第2ダイアフラム61の第2可動部62とは、互いに近づく方向へ変位する。第1ダイアフラム51及び第2ダイアフラム61を薄板材から形成することで、第1可動部52と第2可動部62の変位を大きくすることが可能になる。また、パルセーションダンパ50の外径を大きくすることで、第1可動部52と第2可動部62の変位による燃料室110の容積変化を大きくすることが可能になる。このため、燃料室110の燃圧脈動の低減効果が向上する。
【0048】
(3)加圧行程
プランジャ13が下死点から上死点に向かって上昇する途中の所定の時刻に、コイル71へ通電される。するとコイル71に発生する磁界により、固定コア72と可動コア73との間に磁気吸引力が発生する。この磁気吸引力が第2スプリング22の弾性力と第1スプリング21の弾性力との差よりも大きくなると、可動コア73とニードル38は固定コア72側(図3の左方向)へ移動する。これにより、吸入弁35に対するニードル38の押圧力が解除される。吸入弁35は、第1スプリング21の弾性力、及び加圧室121から燃料室110側へ排出される低圧燃料の流れによって生ずる力により、弁座34側へ移動する。したがって、吸入弁35は弁座34に着座し、供給通路100が閉塞される。
【0049】
吸入弁35が弁座34に着座した時から、加圧室121の燃料圧力は、プランジャ13の上死点に向かう上昇と共に高くなる。加圧室121の燃料圧力が吐出弁92に作用する力が、吐出通路114の燃料圧力が吐出弁92に作用する力およびスプリング94の付勢力よりも大きくなると、吐出弁92が開弁する。これにより、加圧室121で加圧された高圧燃料は吐出通路114を経由して燃料出口91から吐出する。
なお、加圧行程の途中でコイル71への通電が停止される。加圧室121の燃料圧力が吸入弁35に作用する力は、第2スプリング22の付勢力より大きいので、吸入弁35は閉弁状態を維持する。
【0050】
高圧ポンプ10は、(1)から(3)の行程を繰り返し、内燃機関に必要な量の燃料を加圧して吐出する。
コイル71へ通電するタイミングを早くすれば、調量行程の時間が短くなると共に、加圧行程の時間が長くなる。これにより、加圧室121から供給通路100へ戻される燃料が少なくなり、吐出通路114から吐出される燃料が多くなる。
一方、コイル71へ通電するタイミングを遅くすれば、調量行程の時間が長くなると共に、吐出行程の時間が短くなる。これにより、加圧室121から供給通路100へ戻される燃料が多くなり、吐出通路114から吐出される燃料が少なくなる。
このように、コイル71へ通電するタイミングを制御することで、高圧ポンプ10から吐出される燃料の量を内燃機関が必要とする量に制御することができる。
【0051】
ここで、比較例のパルセーションダンパを図27〜図30に示す。
図27〜図30では、第1実施形態のパルセーションダンパの構成に付した符号の末尾に「0」を付記して説明を省略する。
比較例のパルセーションダンパ500は、その外周部がレーザー溶接されている。そのレーザー溶接によって形成された接合部570の径方向の幅W3は、第1実施形態の接合部57の径方向の幅W1と比較して小さいものとなっている。
パルセーションダンパ500の径外側から2枚のダイアフラム510、610の外周部にレーザー溶接をする場合、ダイアフラム510、610の板厚が薄いと、溶接の信頼性に影響が生じる。ダイアフラム510、610の板厚は、その製造上の公差、レーザーの位置精度、またはレーザーの集光径などの制約から、レーザー溶接が可能な範囲の板厚に設定される。このため、比較例のダイアフラム510、610は、径方向からのレーザー溶接の信頼性を維持可能な厚さ以上の板厚である。したがって、パルセーションダンパ500の脈動低減効果が制約されている。
なお、比較例のパルセーションダンパ500を燃料室110に設置する場合、接合部570への繰り返し応力を抑制し、接合部に作用する切欠き効果を低減するため、第1外縁部530と第2外縁部630とを上下方向から互いに押圧する保持器400を必要とする。この保持器400は上下方向に重なるように設置しなければならないので、パルセーションダンパ500の径方向外側でその保持器400の位置決め部440を設けることが必要となる。したがって、パルセーションダンパ500の外径を小さく形成しなければならない。
【0052】
上述した比較例に対し、本実施形態では、以下の作用効果を奏する。
(1)本実施形態では、第1外縁部53と第2外縁部63とを板厚方向から溶接することで、比較例のパルセーションダンパ500と比較して、板厚による溶接の正否の影響が低減される。このため、比較例のパルセーションダンパ500よりも第1、第2ダイアフラム51、61の板厚を薄くすることが可能になる。したがって、ダンパ装置5の脈動低減効果を向上することができる。
(2)本実施形態では、接合部57の幅W1を比較例の接合部570の幅W3よりも広くすることで、接合部57の溶接強度が高くなると共に、接合部57の切欠き係数を減じることが可能になる。このため、比較例のパルセーションダンパ500が必要とする保持器400を廃止することができる。したがって、燃料室110にパルセーションダンパ50を設置するスペースが広くなり、パルセーションダンパ50の外径を大きく形成することが可能になる。この結果、ダンパ装置5の脈動低減効果を向上することができる。
(3)本実施形態では、接合部57の幅W1を広くすることで、気密性の高い溶接を行うことが可能になる。これにより、第1ダイアフラム51と第2ダイアフラム61との間の密閉空間60に封入された気体の漏れ検査を廃止することができる。したがって、ダンパ装置5の製造コストを低減することができる。
また、密閉空間60に封入する気体を漏れ検査に必須であるヘリウムに特定する制約がない。したがって、ヘリウムにかかるコストを低減することができる。
【0053】
(4)本実施形態では、簡素な構成の取付部材40により、パルセーションダンパ50を燃料室110に設置することが可能である。比較例のパルセーションダンパ500に必要とされていた保持器400と位置決め部440とを廃止することが可能である。これにより、燃料室110にパルセーションダンパ50を設置するスペースが広くなる。したがって、パルセーションダンパ50の外径を大きく形成し、脈動低減効果を向上することができる。
(5)本実施形態では、複数個の取付部材40と取付部材40との間に、パルセーションダンパ50の板厚方向を燃料が流れる流路が形成される。これにより、第1可動部52と第2可動部62との双方の弾性変形による脈動低減機能を有効に利用することができる。
(6)本実施形態では、密閉空間60に空気が封入される。これにより、燃料室110の温度上昇に対し、密閉空間60の気圧の上昇が抑制される。したがって、燃料室110の温度上昇に起因するパルセーションダンパ50の脈動抑制効果の低下を抑制することができる。また、ダンパ装置の封入ガスにかかるコストを低減することができる。
(7)本実施形態では、密閉空間60に乾燥空気が封入される。これにより、燃料室110の温度上昇に対し、密閉空間60の気圧の上昇が抑制される。したがって、燃料室110の温度上昇に起因するパルセーションダンパ50の脈動抑制効果の低下を抑制することができる。
【0054】
(8)本実施形態では、密閉空間60に多原子分子を封入することが好ましい。これにより、パルセーションダンパ50を収容する燃料室110の温度上昇による密閉空間60の気圧の上昇を抑制することができる。
(9)本実施形態では、密閉空間60にCO2を封入することが好ましい。これにより、燃料室110の温度上昇による密閉空間60の気圧の上昇を抑制することができる。また、CO2の固定に役立つので、環境保護に貢献するという利点も得られる。
【0055】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態によるダンパ装置5のパルセーションダンパ50を図12に示す。以下、複数の実施形態において実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
本実施形態では、第1外縁部53と第2外縁部63の最外径まで溶接されている。接合部57の幅W2は、第1実施形態の接合部57の幅W1よりも径外方向へ広く形成されている。これにより、第1外縁部53と第2外縁部63と溶接の信頼性及び気密性をさらに向上することができる。
また、接合部57の幅W2を第1実施形態の接合部57の幅W1と同じ幅とすれば、第1実施形態よりも第1外縁部53と第2外縁部63の径方向の幅を小さく形成し、第1、第2可動部52、62の外径を大きく形成することが可能である。したがって、ダンパ装置5の脈動低減性能を向上することができる。
【0056】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態によるダンパ装置5のパルセーションダンパ50を図13〜図16に示す。本実施形態では、第1外縁部53の第2外縁部63と反対側に環状の第1補強部211が設けられている。また、第2外縁部63の第1外縁部53と反対側に環状の第2補強部221が設けられている。
第1、第2ダイアフラム51、61と第1、第2補強部211、221とは、第1補強部211又は第2補強部221の板厚方向から所定の幅で溶接される。これにより、図16に示すように、第1補強部211と第1ダイアフラム51との間、第1ダイアフラム51と第2ダイアフラム61との間、および第2ダイアフラム61と第2補強部221との間に周方向に連続して接合部57が形成される。
【0057】
図14〜図16に示すように、取付部材40は、パルセーションダンパ50の周方向に略均等に3個取り付けられている。取付部材40は、上当接部41、下当接部42および固定部43を有する。上当接部41は、第1補強部211の第1外縁部53と反対側の外壁に当接する。下当接部42は、第2補強部221の第2外縁部63と反対側の外壁に当接する。固定部43は、上当接部41及び下当接部42に対して略垂直に折れ曲がり、ダンパハウジング111の内壁に圧入などによって固定される。
取付部材40の上当接部41と下当接部42がパルセーションダンパ50の第1、第2外縁部53、63を上下から挟み、固定部43がダンパハウジング111の内壁に固定されることで、パルセーションダンパ50は燃料室110に設置される。
【0058】
本実施形態では、第1、第2補強部211、221と第1、第2外縁部53、63とを板厚方向から一緒に溶接している。これにより、第1外縁部53と第2外縁部63とを抵抗シーム溶接する場合、電極の回転によって第1外縁部53または第2外縁部63にしわがよることが抑制される。このため、接合部57における溶接の信頼性を高めると共に、第1ダイアフラム51と第2ダイアフラム61の板厚を薄くすることができる。
【0059】
高圧ポンプの吸入行程において、燃料室110の燃圧が低下すると、第1ダイアフラム51の第1可動部52と第2ダイアフラム61の第2可動部62とは、互いに離れる方向へ変位する。高圧ポンプの調量行程において、燃料室110の燃料圧力が上昇すると、第1ダイアフラム51の第1可動部52と第2ダイアフラム61の第2可動部62とは、互いに近づく方向へ変位する。これにより、燃料室110の燃圧脈動が低減される。本実施形態では、第1、第2外縁部53、63にしわがよることが抑制されることと、レーザー溶接の位置決め精度等の制約がないので、第1ダイアフラム51と第2ダイアフラム61の板厚を第1実施形態よりもさらに薄くすることが可能である。このため、燃圧脈動の低減効果を向上することができる。
【0060】
第1補強部211と第2補強部221の剛性はその板厚の3乗に比例する。第1補強部211と第2補強部221の剛性を高くすることで、第1外縁部53と第2外縁部63とが互いに離れる方向へ変位することが抑制される。このため、第1、第2ダイアフラム51、61の板厚を薄くすることで第1、第2可動部52、62の変位量が大きくなった場合でも、接合部57の切欠き係数による影響をなくすことが可能になり、接合部57への繰り返し応力を低減することができる。
【0061】
(第4実施形態)
本発明の第4実施形態によるダンパ装置5のパルセーションダンパ50を図17及び図18に示す。本実施形態では、第1ダイアフラム51の第2ダイアフラム61と反対側に第1カバー部材210が設けられ、第2ダイアフラム61の第1ダイアフラム51と反対側に第2カバー部材220が設けられている。第1カバー部材210および第2カバー部材220は、例えばステンレス等の所定の剛性を有する金属をプレス加工などすることにより形成される。
第1カバー部材210は、第1補強部211及び第1規制部212を有する。第1補強部211は、環状に形成され、第1外縁部53の第2外縁部63と反対側に設けられる。第1規制部212は、第1補強部211の内縁から第1ダイアフラム51の第1曲面部55の外側に延びる第1腕部213と、第1腕部213の第1補強部211の反対側の端部から径内方向へ延びる第1当接部214とからなる。第1規制部212は、第1補強部211の周方向に複数個設けられている。
【0062】
ここで、第1ダイアフラム51の第1外縁部53と第2ダイアフラム61の第2外縁部63との当接面を含む平面を仮想平面Sする。また、パルセーションダンパ50の密閉空間60とパルセーションダンパ50の外側との気圧が同等の場合における仮想平面Sと第1可動部52の外側端面の中心Oとの距離を距離dとする。
第1カバー部材210は、第1当接部214の第1ダイアフラム51側の端面と仮想平面Sとの距離が距離d1となるように形成されている。ここで、d1>dの関係がある。これにより、第1規制部212は、第1可動部52の第2可動部62と反対側への膨らみを規制することが可能である。
【0063】
第2カバー部材220も第1カバー部材210と同様の形状の第2補強部221及び第2規制部222を有する。第2カバー部材220は、第2当接部224の第2ダイアフラム61側の端面と仮想平面Sとの距離が距離d1となるように形成されている。ここで、d1>dの関係がある。これにより、第2規制部222は、第2可動部62の第1可動部52と反対側への膨らみを規制することが可能である。
【0064】
第1、第2補強部211、221と第1、第2外縁部53、63とは、板厚方向から所定の幅で溶接される。これにより、第1補強部211と第1ダイアフラム51との間、第1ダイアフラム51と第2ダイアフラム61との間、第2ダイアフラム61と第2補強部221との間に周方向に連続して接合部57が形成される。
本実施形態のパルセーションダンパ50は、第3実施形態と同様の取付部材によって、燃料室110に設置される。
【0065】
次に、高圧ポンプの作動時等にパルセーションダンパ50に生じる応力について説明する。
本実施形態のパルセーションダンパ50の第1ダイアフラム51の変位を図18(A)に示し、そのときに第1ダイアフラム51に生じる応力を図18(B)に示す。
図18(A)の時刻t0の左側は、車両のエンジンが停止しているときなどに高圧ポンプが作動していない状態(以下「非作動状態」という)である。時刻t0から時刻t1で高圧ポンプは非作動状態から作動開始状態に移行する。時刻t1以降、高圧ポンプは作動中状態となる。
第1ダイアフラム51は第1規制部212により膨らみが規制されているので、非作動状態において、第1可動部52の外側端面の中心Oと仮想平面Sとの距離はd1である。非作動状態から作動開始状態に移行すると、燃料室110の燃圧が高くなることで、第1可動部52と第2可動部62とが互いに近づく方向に変位し、中心Oと仮想平面Sとの距離が小さくなりdとなる。作動中状態になると、第1可動部52と第2可動部62とは、燃料室110の燃圧脈動により、互いに近づく動作と遠ざかる動作とを繰り返す。このため、第1ダイアフラム51の中心Oと仮想平面Sとの距離は、一定の範囲で変動する。
【0066】
図18(B)では、中心Oと仮想平面Sとの距離がdよりも大きいときに第1ダイアフラム51に生じる応力を縦軸の正側(+)に示し、中心Oと仮想平面Sとの距離がdよりも小さいときに第1ダイアフラム51に生じる応力を縦軸の負側(−)に示す。
第1ダイアフラム51は第1規制部212により膨らみがd1に規制されているため、非作動状態のときに第1ダイアフラム51に生じる応力はσ1である。非作動状態から作動開始状態に移行すると、第1ダイアフラム51に生じる応力は0になる。作動中状態になると、第1ダイアフラム51に生じる応力は、一定の範囲で変動する。
なお、第2ダイアフラム61の変位、及び第2ダイアフラム61に生じる応力も、第1ダイアフラム51の変位及び応力と同様に生じる。
【0067】
ここで、比較例のパルセーションダンパ500に生じる応力について説明する。
比較例のパルセーションダンパ500の密閉空間600の気圧は、本実施形態と同様の気圧である。図27に示すように、パルセーションダンパ500は、大気圧に置かれた状態において第1可動部520と第2可動部620とが互いに遠ざかり、膨らんだ状態となっている。このときの第1可動部520の外側端面の中心Oと仮想平面Sとの距離は、距離d+Δdで表される。また、パルセーションダンパ500の密閉空間600とパルセーションダンパ500の外側との気圧が同等の場合における仮想平面Sと第1可動部520の外側端面の中心Oとの距離を距離dとする。
【0068】
比較例のパルセーションダンパ500の第1ダイアフラム510の変位を図30(A)に示し、そのときに第1ダイアフラム510に生じる応力を図30(B)に示す。
図30(A)の時刻t0の左側は高圧ポンプの非作動状態である。時刻t0から時刻t1で高圧ポンプは非作動状態から作動開始状態に移行する。時刻t1以降、高圧ポンプは作動中状態となる。
比較例では、非作動状態において、第1ダイアフラム510の中心Oと仮想平面Sとの距離はd+Δdである。非作動状態から作動開始状態に移行すると、第1可動部520と第2可動部620とが互いに近づく方向に変位することで、中心Oと仮想平面Sとの距離が小さくなり、dとなる。作動中状態になると、第1可動部520と第2可動部620とは、互いに近づく動作と遠ざかる動作とを繰り返す。このため、第1ダイアフラム510の中心Oと仮想平面Sとの距離は、一定の範囲で変動する。
図18(B)に示すように、非作動状態のときに第1ダイアフラム510に生じる応力は正側に非常に大きな値を示す。非作動状態から作動開始状態に移行すると、第1ダイアフラム510に生じる応力は0となる。作動中状態になると、第1ダイアフラム510に生じる応力は、一定の範囲で変動する。
比較例では、高圧ポンプが非作動状態から作動開始時状態に移行するときの第1ダイアフラム510の変位の幅が大きい。このとき、第1ダイアフラム510に生じる応力の変動幅(応力振幅)も大きなものとなる。
【0069】
これに対し、本実施形態によるパルセーションダンパ50は、第1、第2カバー部材210、220が第1、第2ダイアフラム51、61の膨らみを規制する。このため、高圧ポンプが非作動状態から作動開始時状態に移行するときの第1ダイアフラム51の変位の幅が、比較例のダンパ装置に比べてΔd−d1小さい。このため、高圧ポンプが非作動状態から作動開始時状態に移行するときに第1ダイアフラム51に生じる応力の変動幅を低減することができる。その結果、パルセーションダンパ50の耐用期間を長くすることができるとともに、より薄い板厚のダイアフラムでも信頼性を確保可能となるため、脈動抑制効果を向上可能である。
【0070】
また、本実施形態において、高圧ポンプの作動状態において第1可動部52と第2可動部62とが変位を繰り返すとき、第1規制部212および第2規制部222は第1可動部52と第2可動部62からd1−dだけ離れている。これにより、第1、第2規制部212、222と、第1、第2可動部52、62との摩耗を低減することができる。
【0071】
(第5実施形態)
本発明の第5実施形態によるダンパ装置5のパルセーションダンパ50を図19及び図20に示す。本実施形態では、第1カバー部材210の第1補強部211から径外方向に取付部215が設けられている。取付部215は、パルセーションダンパ50の周方向に略均等に3か所設けられている。取付部215は、1枚のステンレス板をプレス加工等することで第1カバー部材210と一体で形成される。取付部215は、第1補強部211に対して略垂直に折れ曲がり、ダンパハウジング111の内壁に圧入などによって固定される。これにより、パルセーションダンパ50は燃料室110に設置される。
本実施形態では、第1補強部211と取付部215とを一体で構成することで、簡素な構成でパルセーションダンパ50を燃料室110に設置することが可能になる。このため、燃料室110にパルセーションダンパ50を設置するスペースが広くなる。したがって、パルセーションダンパ50の外径を大きく形成し、脈動低減効果を向上することができる。
また、第1補強部211と取付部215との一体化による構成部品の集約により、ダンパ装置5のコストを低減することができる。
【0072】
(第6実施形態)
本発明の第6実施形態によるダンパ装置5のパルセーションダンパ50を図21及び図22に示す。本実施形態では、第1カバー部材210の第1補強部211が径外方向に延び、取付部216として構成されている。取付部216は、周方向に連続し、環状に形成されている。取付部216には、板厚方向に通じる流路217が設けられている。流路217は、パルセーションダンパ50の周方向に略均等に3か所設けられている。この流路217を通じてパルセーションダンパ50の上側と下側の燃料室110を燃料が流れる。
取付部216の外縁は、ダンパハウジング111と蓋部材12との間に挟まれ、固定されている。これにより、パルセーションダンパ50は燃料室110に設置される。
【0073】
本実施形態では、取付部216を第1補強部211に対して折り曲げる工程が省かれる。また、ダンパハウジング111と蓋部材12と取付部216とを溶接などにより同時に固定することができる。このため、製造コストを低減することができる。
本実施形態では、パルセーションダンパ50を燃料室110に取り付ける際、取付部216をダンパハウジング111と蓋部材12との間に挟むことで、第1、第2ダイアフラム51、52に過度の応力が作用することを抑制することができる。これにより、パルセーションダンパ50の脈動低減効果を向上することができる。
本実施形態では、取付部216に流路217を設けることで、パルセーションダンパ50の第1可動部52と第2可動部62とを有効に利用し、脈動低減効果を向上することができる。
さらに、流路217の径方向の幅を小さくし、パルセーションダンパ50の第1、第2可動部52、62の外径を大きく形成することで、脈動低減効果を向上することができる。
【0074】
(第7実施形態)
本発明の第7実施形態によるダンパ装置5のパルセーションダンパ50を図23及び図24に示す。本実施形態では、第1ダイアフラム51と第2ダイアフラム61との間にプレート80が設けられている。プレート80は、例えばステンレスから形成される。プレート80は、第1外縁部53と第2外縁部63との間に設けられ、パルセーションダンパ50から径外方向へ延びている。
第1、第2ダイアフラム51、61と第1、第2カバー部材210、220とプレート80とは、第1補強部211又は第2補強部221の板厚方向から所定の幅で溶接される。これにより、第1補強部211と第1ダイアフラム51との間、第1ダイアフラム51とプレート80との間、プレート80と第2ダイアフラム61との間、および第2ダイアフラム61と第2補強部221との間に周方向に連続して接合部57が形成される。
プレート80には、板厚方向に通じる流路81が設けられている。流路81は、パルセーションダンパ50の周方向に略均等に3か所設けられている。この流路81を通じてパルセーションダンパ50の上側と下側の燃料室110を燃料が流れる。
プレート80の外縁は、ダンパハウジング111と蓋部材12との間に挟まれ、固定されている。これにより、パルセーションダンパ50は燃料室110に設置される。
【0075】
本実施形態では、第1、第2補強部211、221と第1、第2外縁部53、63とプレート80とを板厚方向から一緒に溶接することで、第1、第2外縁部53、63にしわがよることが抑制される。このため、第1ダイアフラム51と第2ダイアフラム61の板厚を薄くすることが可能である。したがって、燃圧脈動の低減効果を向上することができる。また、接合部57の切欠き係数による影響をなくすことが可能になり、接合部57への繰り返し応力を低減することができる。
本実施形態では、パルセーションダンパ50を燃料室110に取り付ける際、取付部をダンパハウジング111と蓋部材12との間に挟むことで、第1、第2ダイアフラム51、61に過度の応力が作用することを抑制することができる。これにより、パルセーションダンパ50の脈動低減効果を向上することができる。
【0076】
(第8実施形態)
本発明の第8実施形態によるダンパ装置5のパルセーションダンパ50を図25及び図26に示す。本実施形態では、プレート80の周方向に略均等間隔で3個の取付部82が設けられている。取付部82は、ダンパハウジング111と蓋部材12との間に挟まれている。燃料室110を形成する蓋部材12は有底筒状に形成され、ポンプハウジングの径外方向の外壁に溶接などにより固定される。これにより、パルセーションダンパ50は燃料室110に設置される。
取付部82と取付部82との間には、パルセーションダンパ50の板厚方向を燃料が流れる流路が形成される。これにより、第1可動部52と第2可動部62との弾性変形による脈動低減機能を有効に利用することができる。
本実施形態では、プレート80に板厚方向に通じる流路を設けることなく、パルセーションダンパ50の上側と下側の燃料室110を燃料が流れるように構成することが可能である。これにより、ダンパ装置5の製造コストを低減することができる。
【0077】
(他の実施形態)
上述した複数の実施形態では、パルセーションダンパ50の外縁部53、63を板厚方向から抵抗シーム溶接することで、接合部57を形成した。これに対し、本発明の他の実施形態では、パルセーションダンパの外縁部を板厚方向から所定の幅でレーザー溶接することで、接合部を形成してもよい。ここで、レーザー溶接時に溶接信頼性を高めるために
必要であれば、従来技術のようにアルゴンのような不活性ガスを封入しても良い。
本発明の他の実施形態では、パルセーションダンパを燃料室に取り付ける取付部または取付部材の個数に限定されない。また、取付部または取付部材は、パルセーションダンパを燃料室に取り付け可能なものであれば、形状、大きさなどに制限されない。さらに、パルセーションダンパを取り付け可能な溝をダンパハウジングの内壁に設け、取付部を設けること無く、パルセーションダンパを直接燃料室に設置してもよい。
本発明の他の実施形態では、第1可動部および第2可動部は、平板状に限らず、同心円状のひだを形成することにより、断面が波形の形状となるように形成されていてもよい。
本発明の他の実施形態では、ダンパ部材の密閉空間に封入する気体の圧力は、大気圧以上であれば任意の圧力に設定することが可能である。 上述した複数の実施形態では、高圧ポンプと一体に設けられたダンパ装置について説明した。これに対し、本発明の他の実施形態では、ダンパ装置を高圧ポンプと別体で構成してもよく、また、流体の脈動を減衰する要求のある種々の装置に適用してもよい。
上述した複数の実施形態では、高圧ポンプの加圧室の上流側にダンパ装置を設けた。これに対し、本発明の他の実施形態では、ダンパ装置を高圧ポンプの下流側に設けてもよい。
このように、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施可能である。
【符号の説明】
【0078】
1 ・・・燃料供給系統
5 ・・・ダンパ装置
11 ・・・ハウジング
12 ・・・蓋部材
13 ・・・プランジャ
50 ・・・パルセーションダンパ
51 ・・・第1ダイアフラム
52 ・・・第1可動部
53 ・・・第1外縁部
57 ・・・接合部
60 ・・・密閉空間
61 ・・・第2ダイアフラム
62 ・・・第2可動部
63 ・・・第2外縁部
80 ・・・プレート
110 ・・・燃料室
111 ・・・ダンパハウジング(ハウジング)
211 ・・・第1補強部
212 ・・・第1規制部
215、216・・・取付部
217 ・・・流路
221 ・・・第2補強部
222 ・・・第2規制部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料が流れる燃料室を有するダンパハウジング、および、前記燃料室に設けられるパルセーションダンパを備え、燃料の圧力脈動を低減するダンパ装置であって、
前記パルセーションダンパは、
前記燃料室の燃圧脈動により弾性変形可能な第1可動部、及びこの第1可動部の外縁に設けられる環状の第1外縁部を有する第1ダイアフラムと、
前記第1可動部と共に密閉空間を形成し前記燃料室の燃圧脈動により弾性変形可能な第2可動部、及びこの第2可動部の外縁に設けられ、前記第1外縁部と突き合わされた環状の第2外縁部を有する第2ダイアフラムと、
前記第1外縁部と前記第2外縁部とが突き合わされた個所を板厚方向から所定の幅で溶接されることで周方向に連続して形成される接合部と、を有することを特徴とするダンパ装置。
【請求項2】
前記第1外縁部の前記第2外縁部と反対側に設けられる環状の第1補強部、および、前記第2外縁部の前記第1外縁部と反対側に設けられる環状の第2補強部を備え、
前記接合部は、前記第1補強部又は前記第2補強部の板厚方向から所定の幅で溶接されることで周方向に連続して形成されることを特徴とする請求項1に記載のダンパ装置。
【請求項3】
前記第1補強部から前記第1可動部の前記第2可動部と反対側へ延び、前記第1可動部の前記第2可動部と反対側への膨らみを規制する第1規制部と、
前記第2補強部から前記第2可動部の前記第1可動部と反対側へ延び、前記第2可動部の第1可動部と反対側への膨らみを規制する第2規制部と、を備えることを特徴とする請求項2に記載のダンパ装置。
【請求項4】
前記第1補強部または前記第2補強部から前記燃料室を形成する前記ダンパハウジングの内壁側へ延び、前記内壁に接続されることで、前記パルセーションダンパを前記燃料室に取り付けることの可能な取付部を備えることを特徴とする請求項2または3に記載のダンパ装置。
【請求項5】
前記取付部は、環状に形成され、板厚方向に燃料が流通可能な流路を有することを特徴とする請求項4に記載のダンパ装置。
【請求項6】
前記第1外縁部と前記第2外縁部との間に挟まれ、前記第1外縁部と前記第2外縁部との間から径外方向へ延び、前記燃料室を形成する前記ダンパハウジングの内壁に接続されるプレートを備え、
前記接合部は、前記第1外縁部、前記第2外縁部及び前記プレートの板厚方向から一体で溶接されることで周方向に連続して形成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のダンパ装置。
【請求項7】
前記ダンパハウジングは、前記燃料室の一端に開口を有しており、
前記ダンパハウジングの開口を塞ぎ、前記燃料室を密閉する蓋部材を備え、
前記ダンパハウジングと前記蓋部材との間に前記プレートが挟まれることで、前記パルセーションダンパは前記燃料室に取り付けられることを特徴とする請求項6に記載のダンパ装置。
【請求項8】
前記パルセーションダンパの前記密閉空間には、大気圧以上の空気が封入されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のダンパ装置。
【請求項9】
前記パルセーションダンパの前記密閉空間には、大気圧以上の乾燥空気が封入されることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載のダンパ装置。
【請求項10】
前記パルセーションダンパの前記密閉空間には、単原子分子を除く気体が封入されることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載のダンパ装置。
【請求項11】
前記パルセーションダンパの前記密閉空間には、CO2が封入されることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載のダンパ装置。
【請求項12】
プランジャと、
前記プランジャの往復移動によって燃料が加圧される加圧室を有するポンプハウジングと、
前記加圧室から当該加圧室に連通する前記燃料室に排出される燃料の圧力脈動を低減可能な請求項1〜11のいずれか一項に記載のダンパ装置と、を備える高圧ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【公開番号】特開2012−184757(P2012−184757A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50160(P2011−50160)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】