説明

チェーンテンショナー装置

【課題】テンショナーアームの一部を構成するテンショナーアーム本体が、プレス成形された金属板材から成り、テンショナーアームがカムチェーン側に向けて付勢されるチェーンテンショナー装置において、ウエッジおよび付勢手段の組付けを容易としてテンショナーアームをコンパクトかつシンプルな構成とする。
【解決手段】テンショナーアーム35Aが、テンショナーアーム本体39Aと、カムチェーン25に摺接する摺接面58を有してテンショナーアーム本体39Aに保持される摺接部材40とを備え、ウエッジ受け部36およびテンショナーアーム本体39Aに摺接するウエッジ37がテンショナーアーム本体39Aに摺動可能に保持され、ウエッジ37を付勢するようにしてウエッジ37およびテンショナーアーム本体39A間に介設される付勢手段38がテンショナーアーム本体39A内に保持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン本体に設けられるチェーン通路を走行するカムチェーンの緩み側外面に摺接するようにして一端部がエンジン本体に回動可能に支承されるテンショナーアームの一部を構成するテンショナーアーム本体が、プレス成形された金属板材から成り、前記テンショナーアームが前記カムチェーン側に向けて付勢されるチェーンテンショナー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プレス成形された金属板材から成るとともにテンショナーアーム本体の一端にガイド部材がピボットを介して連結され、カムチェーンに摺接するようにしてテンショナーアーム本体に取付けられたスリッパをカムチェーンに押しつけるウエッジが、前記テンショナーアーム本体およびガイド部材間に設けられ、ウエッジを貫通するガイド軸の前記ピボットとは反対側に設けられるばね受け部と、前記ウエッジとの間に設けられてウエッジをピボット側に向けて付勢するスプリングが前記ガイド軸に保持されるようにしたチェーンテンショナー装置が、特許文献1で知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許明細書第3426606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記特許文献1で開示されるものでは、テンショナーアームが、ウエッジおよび付勢手段が組み付けられるようにしてコンパクトな構成とされているが、テンショナーアーム本体に、別体のガイド部材を組み付ける必要があり、このガイド部材にウエッジおよびスプリングが組付けられる構成となっているので、組付けが煩雑であった。
【0005】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、ウエッジおよび付勢手段の組付けを容易としてテンショナーアームをコンパクトかつシンプルな構成とし得るようにしたチェーンテンショナー装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、エンジン本体に設けられるチェーン通路を走行するカムチェーンの緩み側外面に摺接するようにして一端部がエンジン本体に回動可能に支承されるテンショナーアームの一部を構成するテンショナーアーム本体が、プレス成形された金属板材から成り、前記テンショナーアームが前記カムチェーン側に向けて付勢されるチェーンテンショナー装置において、前記テンショナーアームが、前記テンショナーアーム本体と、前記カムチェーンに摺接する摺接面を有して前記テンショナーアーム本体に保持される摺接部材とを備え、前記エンジン本体に固定的に配設されるウエッジ受け部および前記テンショナーアーム本体に摺接するウエッジが前記テンショナーアーム本体に摺動可能に保持され、前記ウエッジを付勢するようにして前記ウエッジおよび前記テンショナーアーム本体間に介設される付勢手段が前記テンショナーアーム本体内に保持されることを第1の特徴とする。
【0007】
また本発明は、第1の特徴の構成に加えて、金属板材のプレス成形で形成される第1および第2アーム部材が、前記付勢手段の少なくとも一部を収容、保持する収容空間を相互間に形成するように結合されて前記テンショナーアーム本体が構成されることを第2の特徴とする。
【0008】
本発明は、第2の特徴の構成に加えて、少なくとも一部がU字状の横断面形状を有するように形成される第1および第2アーム部材が、前記U字状である部分の開口端を相互に嵌合させて結合されることを第3の特徴とする。
【0009】
本発明は、第3の特徴の構成に加えて、第1アーム部材は、前記カムチェーンとは反対側を開放したU字状の横断面形状を有するアーム部材主部の一端に前記エンジン本体に支軸を介して支承される支持腕部が一体に設けられて成り、第2アーム部材が、幅方向一側を前記アーム部材主部に嵌合せしめる一対の側壁と、それらの側壁の長手方向一端部の幅方向他側間を連結する第1連結壁と、前記両側壁の長手方向他端部の幅方向他側間を連結する第2連結壁と、前記ウエッジを摺動可能に保持するようにして第1および第2連結壁間の中間部間から第2連結壁間にわたって前記両側壁の幅方向他側にそれぞれ設けられるガイド部とを一体に有し、前記両ガイド部および第1連結壁間で前記両側壁の幅方向他側間には、前記ウエッジの一部を挿入するための挿入用開口部が形成されることを第4の特徴とする。
【0010】
本発明は、第4の特徴の構成に加えて、前記挿入用開口部が、前記テンショナーアームの長手方向で前記ウエッジの全長よりも大きく形成され、第1連結壁が、前記付勢手段で前記テンショナーアームの長手方向一端側に付勢される前記ウエッジの前記テンショナーアームの前記一端側からの抜け止めを果たすことを第5の特徴とする。
【0011】
本発明は、第4または第5の特徴の構成に加えて、前記両ガイド部が、前記両側壁の幅方向他側から相互に対向する方向に突出され、前記ウエッジの両側面に、それらのガイド部を摺動可能に係合せしめる溝がそれぞれ形成されることを第6の特徴とする。
【0012】
本発明は、第4〜第6の特徴の構成のいずれかに加えて、第1アーム部材に、アーム部材主部の長手方向と直交するように屈曲されたばね受け部が、前記支持腕部とは反対側で前記アーム部材主部の他端に連なるようにして一体に形成され、前記付勢手段であるコイルばねが、前記ばね受け部に対向して前記ウエッジに一体に設けられる突部を該コイルばねの一端側に挿入せしめるようにして前記ウエッジおよび前記ばね受け部間に設けられることを第7の特徴とする。
【0013】
本発明は、第2の特徴の構成に加えて、第1アーム部材の一部に、相互に平行な一対の側壁と、それらの側壁間を結ぶ端壁とから成る屈曲部が側方に開口するU字状の横断面形状を有するようにして形成され、第2アーム部材が、前記屈曲部の開口端を閉じて付勢手段の一部を収容する収容空間を第1アーム部材との間に形成するようにして第1アーム部材に側方から結合されることを第8の特徴とする。
【0014】
本発明は、第8の特徴の構成に加えて、第2アーム部材が、前記屈曲部の一部を構成する一対の側壁の一方に重なる平板部を一体に有することを第9の特徴とする。
【0015】
さらに本発明は、第9の特徴の構成に加えて、前記一方の側壁および前記平板部の一部が前記ウエッジの移動を許容するために切欠かれ、その切欠き部の端縁部がガイド部として前記ウエッジの両側面の溝に摺動可能に係合されることを第10の特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の第1の特徴によれば、テンショナーアームが、テンショナーアーム本体と、前記テンショナーアーム本体に保持される摺接部材とを備え、ウエッジがテンショナーアーム本体に摺動可能に保持され、ウエッジを付勢する付勢手段がテンショナーアーム本体内に保持されるので、ウエッジおよび付勢手段の組付けを容易としつつ、テンショナーアームをコンパクトかつシンプルな構成とすることができる。
【0017】
また本発明の第2の特徴によれば、テンショナーアーム本体が第1および第2アーム部材を結合して構成され、第1および第2アーム部材間に付勢手段を収容、保持する収容空間が形成されるので、簡単な構成で収容空間を形成することができる。
【0018】
本発明の第3の特徴によれば、第1および第2アーム部材の少なくとも一部がU字状の横断面形状を有するように形成されており、U字状である部分の開口端を相互に嵌合させて第1および第2アーム部材が結合されるので、収容空間を簡単に形成することができる。
【0019】
本発明の第4の特徴によれば、第1アーム部材のアーム部材主部が、カムチェーンとは反対側を開放したU字状の横断面形状を有し、第2アーム部材が、幅方向一側を前記アーム部材主部に嵌合せしめる一対の側壁と、それらの側壁の長手方向両端部の幅方向他側間を連結する第1および第2連結壁と、第1および第2連結壁間の中間部間から第2連結壁間にわたって両側壁の幅方向他側にそれぞれ設けられるガイド部とを一体に有しており、両ガイド部および第1連結壁間で両側壁の幅方向他側間にはウエッジの一部を挿入するための挿入用開口部が形成されるので、第2アーム部材のプレス成形時に、第2アーム部材にガイド部および挿入用開口部を形成することができ、第2アーム部材の加工が容易である。
【0020】
本発明の第5の特徴によれば、挿入用開口部がテンショナーアームの長手方向でウエッジの全長よりも大きく形成されるので、ウエッジの一部をテンショナーアーム本体内に挿入することが容易であり、しかもテンショナーアーム本体に組み付けられたウエッジが付勢手段で付勢されて第1連結壁に当接することでウエッジのテンショナーアーム本体からの離脱が阻止される。
【0021】
本発明の第6の特徴によれば、第2アーム部材の両側壁から相互に対向する方向にガイド部が突設され、ウエッジの両側面に形成された溝に、ウエッジ摺動を可能としてガイド部が係合するので、ウエッジを保持しつつガイドするガイド部を第2アーム部材の成形時に形成することができ、シンプルかつ簡単にウエッジの保持およびガイド構造を構成することができる。
【0022】
本発明の第7の特徴によれば、アーム部材主部の長手方向と直交するように屈曲されてアーム部材主部の他端に連なるばね受け部が第1アーム部材に設けられ、付勢手段であるコイルばねが、ウエッジに一体に設けられる突部を該コイルばねの一端側に挿入せしめるようにしてウエッジおよびばね受け部間に設けられるので、ウエッジでコイルばねの径方向の位置決めを果たしつつコイルばねをテンショナーアーム本体およびウエッジ間に設けることができる。
【0023】
本発明の第8の特徴によれば、第1アーム部材の一部に、側方に開口するU字状の横断面形状を有する屈曲部が設けられ、その屈曲部の開口端を閉じて付勢手段の一部を収容する収容空間を第1アーム部材との間に形成するようにして第2アーム部材が第1アーム部材に側方から結合されるので、収容空間を簡単に形成することができる。
【0024】
本発明の第9の特徴によれば、第2アーム部材が一体に有する平板部が、屈曲部の一部を構成する側壁に重なるので、第1および第2アーム部材の結合部の剛性を高めることができる。
【0025】
さらに本発明の第10の特徴によれば、第1および第2アーム部材の重合結合部の一部を利用して、シンプルかつ簡単にウエッジの保持およびガイド構造を構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】第1の実施の形態でのエンジンの要部縦断面図である。
【図2】テンショナーアームの斜視図である。
【図3】図1の3−3線断面図である。
【図4】テンショナーアーム本体の分解斜視図である。
【図5】図1の5ー5線断面図である。
【図6】摺接部材の斜視図である。
【図7】図5の707線断面図である。
【図8】第2の実施の形態の図5に対応した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の実施の形態について、添付の図面を参照しながら説明する。
【0028】
本発明の第1の実施の形態について図1〜図7を参照しながら説明すると、先ず図1において、このエンジンはたとえば自動二輪車に搭載されるものであり、そのエンジン本体11は、自動二輪車の車幅方向に沿う軸線を有するクランクシャフト12を回転自在に支承するクランクケース13と、前上がりに傾斜して前記クランクケース13に結合されるシリンダブロック14と、該シリンダブロック14に結合されるシリンダヘッド15と、シリンダヘッド15との間に動弁室17を形成するようにして前記シリンダヘッド15に結合されるヘッドカバー16とを備える。
【0029】
前記動弁室17に収容される動弁機構18は、前記クランクシャフト12と平行な軸線を有するカムシャフト19を有しており、このカムシャフト19は前記シリンダヘッド15に設けられるホルダ部20と、該ホルダ部20に締結されるキャップ21との間に回転自在に支承される。
【0030】
前記クランクシャフト12および前記カムシャフト19間には、クランクシャフト12の回転動力を1/2の減速比でカムシャフト19側に伝達する調時伝動機構22が設けられており、この調時伝動機構22は、前記カムシャフト19に固定される駆動側カムスプロケット23と、前記カムシャフト19の一端部に固定される被動側カムスプロケット24と、駆動側カムスプロケット23および被動側カムスプロケット24に巻き掛けられる無端状のカムチェーン25とで構成される。また前記クランクケース13、前記シリンダブロック14および前記シリンダヘッド15には、前記カムチェーン25を走行させるチェーン通路26が設けられ、前記クランクシャフト12の回転に応じて前記カムチェーン25は矢印で示す走行方向27に走行する。
【0031】
前記駆動側カムスプロケット23および前記被動側カムスプロケット24間のカムチェーン25のうち駆動側カムスプロケット23で牽引される側である緊張側の外周にはカムチェーンガイド28が当接される。このカムチェーンガイド28は適度な剛性および弾性を有する合成樹脂によってカムチェーン25側に向けて沿った略弓形をなすように形成されており、カムチェーンガイド28のクランクシャフト12側端部は、上方に開いてクランクケース13に設けられる支持凹部29に嵌合、支持される。前記カムチェーンガイド28のカムシャフト19側には前記カムチェーン25とは反対側に臨む支持面30が形成されており、該支持面30に当接する当接支持部31がシリンダヘッド15に設けられる。またカムチェーンガイド28の前記支持面30寄り中間部両側には、横断面円形の突起32が一体に突設され、シリンダブロック14Aのシリンダヘッド15への結合面には、突起32を嵌合して位置決めする位置決め凹部33が設けられる。
【0032】
また前記駆動側カムスプロケット23および前記被動側カムスプロケット24間のカムチェーン25のうち駆動側カムスプロケット23から送り出される側である緩み側の外周には、一端部がエンジン本体11におけるクランクケース13に回動可能に支承されるテンショナーアーム35Aが摺接しており、前記エンジン本体11におけるシリンダブロック14のうち前記チェーン通路26に臨む部分の内面側にウエッジ受け部36が固定的に配設され、該ウエッジ受け部36および前記テンショナーアーム35A間に介在するとともに前記テンショナーアーム35Aを前記カムチェーン25側に向けて付勢するように移動することを可能として前記ウエッジ受け部36に摺接するウエッジ37と、該ウエッジ37を付勢するようにしてテンショナーアーム35Aおよびウエッジ37間に設けられる付勢手段としてのコイルばね38がテンショナーアーム35Aに装着される。
【0033】
図2において、前記テンショナーアーム35Aは、アルミニウム合金等の軽金属から成るとともにプレス成形された金属板材から成るテンショナーアーム本体39Aと、前記カムチェーン25の緩み側外周に摺接するようにして前記テンショナーアーム本体39Aに取付けられる摺接部材40とから成る。
【0034】
図3を併せて参照して、前記テンショナーアーム本体39Aは、金属板材のプレス成形で形成される第1および第2アーム部材41,42が、前記コイルばね38の少なくとも一部(この実施の形態では一部)を収容、保持する収容空間43を相互間に形成するように結合されて前記テンショナーアーム本体39Aが構成される。しかも少なくとも一部がU字状の横断面形状を有するように形成される第1および第2アーム部材41,42が、前記U字状である部分の開口端を相互に嵌合させて結合される。
【0035】
図4において、第1アーム部材41は、前記カムチェーン25とは反対側を開放したU字状の横断面形状を有するアーム部材主部41aの一端に前記エンジン本体11のクランクケース13に支軸44(図1参照)に支軸44を介して支承される一対の支持腕部41b,41bが一体に設けられて成り、両支持腕部41b…には支持孔45,45が同軸に設けられる。
【0036】
前記ウエッジ37は、第1アーム部材41におけるアーム部材主部41aの閉塞端およびウエッジ受け部36間に設けられるものであり、このウエッジ37には、テンショナーアーム35Aに対するウエッジ37の組み付けおよび取り外し時に該ウエッジを37を把持するための略U字状の把っ手56が一体に設けられる。
【0037】
第2アーム部材42は、幅方向一側を前記アーム部材主部41aに嵌合せしめる一対の側壁46,46と、それらの側壁36…の長手方向一端部の幅方向他側間を連結する第1連結壁47と、前記両側壁46…の長手方向他端部の幅方向他側間を連結する第2連結壁48と、前記ウエッジ37を摺動可能に保持するようにして第1および第2連結壁47,48間の中間部間から第2連結壁48間にわたって前記両側壁46,46の幅方向他側にそれぞれ設けられるガイド部49,49とを一体に有し、前記両ガイド部49…および第1連結壁47間で前記両側壁46,46の幅方向他側間には、前記ウエッジ37の一部を挿入するための挿入用開口部50が形成される。
【0038】
而して第2アーム部材42における両側壁46…の一端部および他端部には係止孔51…、52…が設けられ、第1アーム部材41におけるアーム部材主部41aの長手方向両端部両側壁には、内方に突出するようにして切り起こされた係合突部53…,54…が設けられており、第2アーム部材42を第1アーム部材41に嵌合することで、係止孔51…、52…に係合突部53…,54…が係合され、それによって第1および第2アーム部材41,42が結合されてテンショナーアーム本体39Aが構成される。
【0039】
而して第1および第2アーム部材41,42の結合時に、第2連結壁48が設けられている部分で第1および第2アーム部材41,42間に、図3で示すように、横断面を閉断面とした前記収容空間43が形成される。
【0040】
また前記挿入用開口部50は、前記テンショナーアーム35Aの長手方向で前記ウエッジ37の全長よりも大きく形成され、前記コイルばね38でテンショナーアーム35Aの長手方向一端側に付勢される前記ウエッジ37の前記テンショナーアーム35Aの前記一端側からの抜け止めは、ウエッジ37が第1連結壁47に当接することで果たされる。
【0041】
図5において、前記両ガイド部49,49は、第2アーム部材42の両側壁46,46の幅方向他側から相互に対向する方向に突出され、前記ウエッジ37の両側面には、それらのガイド部49,49を摺動可能に係合せしめる溝55,55がそれぞれ形成されている。しかも前記ガイド部49…の先端部は屈曲されている。
【0042】
第1アーム部材41には、アーム部材主部41aの長手方向と直交するように屈曲されたばね受け部41cが、前記支持腕部41b…とは反対側で前記アーム部材主部41aの他端に連なるようにして一体に形成され、前記コイルばね38が、前記ばね受け部41cに対向して前記ウエッジ37に一体に設けられる突部37aを該コイルばね38の一端側に挿入せしめるようにして前記ウエッジ37および前記ばね受け部41c間に設けられる。
【0043】
図6において、前記摺接部材40は、テンショナーアーム本体39A側に向けて開放したU字状の横断面形状を有しつつ、カムチェーン25側に向けて膨らんだ弓形に形成されており、カムチェーン25側に臨んで前記摺接部材40には該カムチェーン25に摺接する摺接面58が形成される。
【0044】
前記摺接部材40の一端部には、テンショナーアーム本体39Aにおける第1アーム部材41の支持腕部41b,41b間に挿入されてそれらの支持腕部41b…とともに支軸44を介してエンジン本体11のクランクケース13に回動可能に支承される支持部40aが、支軸44を挿入せしめる支持孔59を有して一体に設けられる。また摺接部材40の他端部には、前記テンショナーアーム本体39Aの他端部に係合される係合部40bが一体に設けられる。
【0045】
図7において、前記テンショナーアーム本体39Aと、樹脂製の前記摺接部材40との間には、空間67が形成されており、この空間67には、その両端部を前記テンショナーアーム本体39Aおよび前記摺接部材40の一方(この実施の形態ではテンショナーアーム本体39A)に当接させるとともに中央部を前記テンショナーアーム本体39Aおよび前記摺接部材40の他方(この実施の形態では摺接部材40)に当接させるようにしてアーチ状に形成される板ばね66が配置される。しかも前記空間67は、前記テンショナーアーム35Aの長手方向に沿う前記板ばね66の全長よりも長く形成される。
【0046】
また前記板ばね66および前記テンショナーアーム本体39A間と、前記板ばね66および前記摺接部材40間とには、それぞれ空間67a,67b,67bが形成される。
【0047】
さらに前記摺接部材40の両側には、テンショナーアーム本体39Aの両側面に当接、係合する複数ずつの係合爪60,61,62;63,64,65が設けられており、両側の係合爪60〜62,63〜65はテンショナーアーム本体39Aの長手方向に沿って相互にずれた位置に配置される。
【0048】
しかも前記係合爪60〜62,63〜65の少なくとも一部、この実施の形態では、全ての係合爪60〜62,63〜65が側面視で前記板ばね66と重なる位置に配置される。
【0049】
次にこの実施の形態の作用について説明するとテンショナーアーム35Aが、プレス成形された金属板材から成るテンショナーアーム本体39Aと、カムチェーン25に摺接する摺接面58を有して前記テンショナーアーム本体39Aに保持される摺接部材40とを備え、エンジン本体11に固定的に配設されるウエッジ受け部36およびテンショナーアーム本体39Aに摺接するウエッジ37がテンショナーアーム本体39Aに摺動可能に保持され、ウエッジ37を付勢するようにしてウエッジ37およびテンショナーアーム本体39A間に介設されるコイルばね38が前記テンショナーアーム本体39A内に保持されるので、ウエッジ37およびコイルばね38の組付けを容易としつつ、テンショナーアーム35Aをコンパクトかつシンプルな構成とすることができる。
【0050】
また金属板材のプレス成形で形成される第1および第2アーム部材41,42が、前記コイルばね38の少なくとも一部を収容、保持する収容空間43を相互間に形成するように結合されて前記テンショナーアーム本体39Aが構成されるので、簡単な構成で収容空間43を形成することができる。
【0051】
しかも少なくとも一部がU字状の横断面形状を有するように形成される第1および第2アーム部材41,42が、前記U字状である部分の開口端を相互に嵌合させて結合されるので収容空間43を簡単に形成することができる。
【0052】
また第1アーム部材41は、カムチェーン25とは反対側を開放したU字状の横断面形状を有するアーム部材主部41aの一端にエンジン本体11のクランクケース13に支軸44を介して支承される支持腕部41b…が一体に設けられて成り、第2アーム部材42が、幅方向一側を前記アーム部材主部41aに嵌合せしめる一対の側壁46,46と、それらの側壁46…の長手方向一端部の幅方向他側間を連結する第1連結壁47と、前記両側壁46…の長手方向他端部の幅方向他側間を連結する第2連結壁48と、前記ウエッジ37を摺動可能に保持するようにして第1および第2連結壁47,48間の中間部間から第2連結壁48間にわたって前記両側壁46…の幅方向他側にそれぞれ設けられるガイド部49,49とを一体に有し、前記両ガイド部49…および第1連結壁47間で前記両側壁46…の幅方向他側間には、前記ウエッジ37の一部を挿入するための挿入用開口部50が形成されるので、第2アーム部材42のプレス成形時に、第2アーム部材42にガイド部49…および挿入用開口部50を形成することができ、第2アーム部材42の加工が容易である。
【0053】
また挿入用開口部50が、前記テンショナーアーム35Aの長手方向で前記ウエッジ37の全長よりも大きく形成されるので、ウエッジ37の一部をテンショナーアーム本体39A内に挿入することが容易であり、第1連結壁47が、コイルばね38で前記テンショナーアーム35Aの長手方向一端側に付勢される前記ウエッジ37の前記テンショナーアーム35Aの前記一端側からの抜け止めを果たすので、ウエッジ37のテンショナーアーム本体39Aからの離脱が阻止される。
【0054】
また両ガイド部49…が、前記両側壁46…の幅方向他側から相互に対向する方向に突出され、前記ウエッジ37の両側面に、それらのガイド部49…を摺動可能に係合せしめる溝55,55がそれぞれ形成されるので、ウエッジ37を保持しつつガイドするガイド部49…を第2アーム部材42の成形時に形成することができ、シンプルかつ簡単にウエッジ37の保持およびガイド構造を構成することができる。
【0055】
また第1アーム部材41に、アーム部材主部41aの長手方向と直交するように屈曲されたばね受け部41cが、支持腕部41b…とは反対側で前記アーム部材主部41aの他端に連なるようにして一体に形成され、前記コイルばね38が、前記ばね受け部41cに対向して前記ウエッジ37に一体に設けられる突部37aを該コイルばね38の一端側に挿入せしめるようにして前記ウエッジ37および前記ばね受け部41c間に設けられるので、ウエッジ37でコイルばね38の径方向の位置決めを果たしつつコイルばね38をテンショナーアーム本体39Aおよびウエッジ37間に設けることができる。
【0056】
またテンショナーアーム35Aが、テンショナーアーム本体39Aと、カムチェーン25に摺接する摺接面58を有してテンショナーアーム本体39Aに保持される摺接部材40との間に板ばね66が介設されて成るものであるので、駆動側および被動側カムスプロケット23,24で生じる微細振動を摺接部材40が撓むことで吸収することができ、カムチェーン25にかかる荷重を低減することができる。
【0057】
またテンショナーアーム本体39Aが金属製であり、摺接部材40が樹脂製であり、テンショナーアーム本体39Aおよび摺接部材40間に形成される空間67に板ばね66が配置されるので、摺接部材40を撓ませることができ、しかも板ばね66による付勢力で良好な振動吸収を行うことができる。
【0058】
また板ばね66および前記テンショナーアーム本体39A間と、前記板ばね66および前記摺接部材40間とには、それぞれ空間67a,57b,67bが形成されるので、摺接部材40を撓み易くすることができ、しかも板ばね66の形状変更を許容することができる。
【0059】
また板ばね66の全長よりも長い空間67がテンショナーアーム本体39Aおよび摺接部材40間に形成されるので、摺接部材40が撓み得る距離を板ばね66よりも長くすることで、摺接部材40を撓み易くし、板ばね66の形状変更を許容することができる。
【0060】
しかも板ばね66が、その中央部を摺接部材40に当接せしめ、両端部をテンショナーアーム本体39Aに当接されるようにしてアーチ状に形成されるので、摺接部材40を撓ませるように弾性変形し易く、しかも板ばね66の形状変更を許容することができる。
【0061】
さらに摺接部材40に設けられる複数の係合爪60,61,62;63,64,65がテンショナーアーム本体39Aの両側面に当接、係合し、係合爪60〜62,63〜65の少なくとも一部、この実施の形態では全ての係合爪60〜62,63〜65が、側面視で前記板ばね66と重なる位置に配置されるので、摺接部材40をテンショナーアーム本体39Aに対する幅方向の位置決めを果たしつつテンショナーアーム本体39Aに保持することができ、またテンショナーアーム本体39Aおよび摺接部材40間から板ばね66が離脱してしまうことを阻止することができる。
【0062】
本発明の第2の実施の形態について図8を参照しながら説明するが、上記第1の実施の形態に対応する部分には同一の参照符号を付して図示するのみとし、詳細な説明は省略する。
【0063】
テンショナーアーム35Bの一部を構成するテンショナーアーム本体39Bは、金属板材のプレス成形で形成される第1および第2アーム部材71,72が結合されて成り、第1アーム部材41の一部には、相互に平行な一対の側壁73,74と、それらの側壁73,74間を結ぶ端壁75とから成る屈曲部71aが側方に開口するU字状の横断面形状を有するようにして形成される。また第2アーム部材72は、前記屈曲部71aの開口端を閉じてコイルばね38の一部を収容する収容空間43を第1アーム部材71との間に形成するようにして第1アーム部材71に側方から結合されるものであり、この第2アーム部材72は、前記屈曲部71aの一部を構成する一対の側壁73,74の一方73に重なる平板部72aを一体に有する。
【0064】
ところで前記収容空間43を形成する部分を除いて前記側壁73および前記平板部72aはウエッジ37の移動を許容するために切欠かれており、その切欠き部の端縁部がガイド部75,75として前記ウエッジ37の両側の溝55,55に摺動可能に係合する。
【0065】
この第2の実施の形態によれば、第1アーム部材71の一部に、側方に開口するU字状の横断面形状を有する屈曲部71aが設けられ、その屈曲部71aの開口端を閉じてコイルばね38の一部を収容する収容空間43を第1アーム部材71との間に形成するようにして第2アーム部材72が第1アーム部材71に側方から結合されるので、第1および第2アーム部材71,72でテンショナーアーム本体39Bが構成されるので、収容空間43を簡単に形成することができる。
【0066】
また第2アーム部材72が一体に有する平板部72aが、屈曲部71aの一部を構成する側壁73に重なるので、第1および第2アーム部材71,72の結合部の剛性を高めることができる。
【0067】
さらに収容空間43を形成する部分を除いて前記側壁73および前記平板部72aはウエッジ37の移動を許容するために切欠かれており、その切欠き部の端縁部がガイド部75,75として前記ウエッジ37の両側の溝55,55に摺動可能に係合するので、第1および第2アーム部材71,72の重合結合部の一部を利用して、シンプルかつ簡単にウエッジ37の保持およびガイド構造を構成することができる。
【0068】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行うことが可能である。
【符号の説明】
【0069】
11・・・エンジン本体
25・・・カムチェーン
26・・・チェーン通路
35A,35B・・・テンショナーアーム
36・・・ウエッジ受け部
37・・・ウエッジ
37a・・・突部
38・・・付勢手段である板ばね
39A,39B・・・テンショナーアーム本体
40・・・摺接部材
41,71・・・第1アーム部材
41a・・・アーム部材主部
41b・・・支持腕部
41c・・・ばね受け部
42,72・・・第2アーム部材
43・・・収容空間
44・・・支軸
46,73,74・・・側壁
47・・・第1連結壁
48・・・第2連結壁
49・・・ガイド部
50・・・挿入用開口部
55・・・溝
58・・・摺接面
71a・・・屈曲部
72a・・・平板部
74・・・端壁
75・・・ガイド部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン本体(11)に設けられるチェーン通路(26)を走行するカムチェーン(25)の緩み側外面に摺接するようにして一端部がエンジン本体(11)に回動可能に支承されるテンショナーアーム(35A,35B)の一部を構成するテンショナーアーム本体(39A.39B)が、プレス成形された金属板材から成り、前記テンショナーアーム(35A,35B)が前記カムチェーン(25)側に向けて付勢されるチェーンテンショナー装置において、前記テンショナーアーム(35A,35B)が、前記テンショナーアーム本体(39A,39B)と、前記カムチェーン(25)に摺接する摺接面(58)を有して前記テンショナーアーム本体(39A,39B)に保持される摺接部材(40)とを備え、前記エンジン本体(11)に固定的に配設されるウエッジ受け部(36)および前記テンショナーアーム本体(39A,39B)に摺接するウエッジ(37)が前記テンショナーアーム本体(39A,39B)に摺動可能に保持され、前記ウエッジ(37)を付勢するようにして前記ウエッジ(37)および前記テンショナーアーム本体(39A,39B)間に介設される付勢手段(38)が前記テンショナーアーム本体(39A,39B)内に保持されることを特徴とするチェーンテンショナー装置。
【請求項2】
金属板材のプレス成形で形成される第1および第2アーム部材(41,42;71,72)が、前記付勢手段(38)の少なくとも一部を収容、保持する収容空間(43)を相互間に形成するように結合されて前記テンショナーアーム本体(39A,39B)が構成されることを特徴とする請求項1記載のチェーンテンショナー装置。
【請求項3】
少なくとも一部がU字状の横断面形状を有するように形成される第1および第2アーム部材(41,42)が、前記U字状である部分の開口端を相互に嵌合させて結合されることを特徴とする請求項2記載のチェーンテンショナー装置。
【請求項4】
第1アーム部材(41)は、前記カムチェーン(25)とは反対側を開放したU字状の横断面形状を有するアーム部材主部(41a)の一端に前記エンジン本体(11)に支軸(44)を介して支承される支持腕部(41b)が一体に設けられて成り、第2アーム部材(42)が、幅方向一側を前記アーム部材主部(41a)に嵌合せしめる一対の側壁(46)と、それらの側壁(46)の長手方向一端部の幅方向他側間を連結する第1連結壁(47)と、前記両側壁(46)の長手方向他端部の幅方向他側間を連結する第2連結壁(48)と、前記ウエッジ(37)を摺動可能に保持するようにして第1および第2連結壁(47,48)間の中間部間から第2連結壁(48)間にわたって前記両側壁(46)の幅方向他側にそれぞれ設けられるガイド部(49)とを一体に有し、前記両ガイド部(49)および第1連結壁(47)間で前記両側壁(46)の幅方向他側間には、前記ウエッジ(37)の一部を挿入するための挿入用開口部(50)が形成されることを特徴とする請求項3記載のチェーンテンショナー装置。
【請求項5】
前記挿入用開口部(50)が、前記テンショナーアーム(35A)の長手方向で前記ウエッジ(37)の全長よりも大きく形成され、第1連結壁(47)が、前記付勢手段(38)で前記テンショナーアーム(35A)の長手方向一端側に付勢される前記ウエッジ(37)の前記テンショナーアーム(35A)の前記一端側からの抜け止めを果たすことを特徴とする請求項4記載のチェーンテンショナー装置。
【請求項6】
前記両ガイド部(49)が、前記両側壁(46)の幅方向他側から相互に対向する方向に突出され、前記ウエッジ(37)の両側面に、それらのガイド部(49)を摺動可能に係合せしめる溝(55)がそれぞれ形成されることを特徴とする請求項4または5記載のチェーンテンショナー装置。
【請求項7】
第1アーム部材(41)に、アーム部材主部(41a)の長手方向と直交するように屈曲されたばね受け部(41c)が、前記支持腕部(41b)とは反対側で前記アーム部材主部(41a)の他端に連なるようにして一体に形成され、前記付勢手段であるコイルばね(38)が、前記ばね受け部(41c)に対向して前記ウエッジ(37)に一体に設けられる突部(37a)を該コイルばね(38)の一端側に挿入せしめるようにして前記ウエッジ(37)および前記ばね受け部(41c)間に設けられることを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載のチェーンテンショナー装置。
【請求項8】
第1アーム部材(71)の一部に、相互に平行な一対の側壁(72,73)と、それらの側壁(72,73)間を結ぶ端壁(74)とから成る屈曲部(71a)が側方に開口するU字状の横断面形状を有するようにして形成され、第2アーム部材(72)が、前記屈曲部(71a)の開口端を閉じて付勢手段(38)の一部を収容する収容空間(43)を第1アーム部材(71)との間に形成するようにして第1アーム部材(71)に側方から結合されることを特徴とする請求項2記載のチェーンテンショナー装置。
【請求項9】
第2アーム部材(72)が、前記屈曲部(71a)の一部を構成する一対の側壁(73,74)の一方(73)に重なる平板部(72a)を一体に有することを特徴とする請求項8記載のチェーンテンショナー装置。
【請求項10】
前記一方の側壁(73)および前記平板部(72a)の一部が前記ウエッジ(37)の移動を許容するために切欠かれ、その切欠き部の端縁部がガイド部(75)として前記ウエッジ(37)の両側面の溝(55)に摺動可能に係合されることを特徴とする請求項9記載のチェーンテンショナー装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−241806(P2012−241806A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−112684(P2011−112684)
【出願日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】