説明

チエノチオフェン共重合体組成物

【課題】加工性に優れ、高い導電性と透明性とを有する透明導電膜の材料として有用であるチエノチオフェン共重合体組成物を提供する。
【解決手段】導電性チエノチオフェン共重合体組成物は、有機溶剤を含む溶媒中に溶解及び/又は分散している、下記化学式(I)


[式(I)中、R及びRは、炭素数1〜20のアルキル基若しくはアルコキシ基、又は水素原子、Rは、炭素数1〜20のアルキル基又は下記化学式(II)−[(CHa−W]−R・・・(II)(式(II)中、Rは炭素数1〜20のアルキル基、Wは酸素原子又は硫黄原子、aは1〜5、bは1〜30)で示される側鎖基、Mは炭素数1〜10のアルキレン基、mは1又は2]で表される繰り返し単位を含むチエノチオフェン共重合体と、ドーパントとを含有するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電膜の材料として有用であり、導電性を有するチエノチオフェン−チエニレン共重合体(以下、チエノチオフェン共重合体という)を含有する組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロニクス材料におけるフレキシブル化の必要性が高まっている。これに伴い、π共役系高分子の導電材料、発光材料、トランジスタ材料、光電変換材料、非光学系機能材料などへの応用が盛んに研究されている。
【0003】
π共役系高分子として、チオフェン、ピロール、アニリン、それらの誘導体を重合したものが数多く開示されている。その中でも、特にポリチオフェンは、導電性や加工性で有利であることから、コンデンサや帯電防止剤として実用化されている。
【0004】
このようなポリチオフェンにドーパントを注入することで金属様の性質を発現することが知られている。しかし、ドープされたポリチオフェンは、主鎖骨格が剛直化し溶媒への溶解性が著しく低下するものである。電子工学製品や光学製品では極めて高い耐水性や平滑性が要求されるため、汎用有機溶媒での検討が続けられているが、ポリチオフェンの多くが汎用有機溶媒に対して十分に溶解又は分散することができない。有機溶媒中におけるポリチオフェンの安定性が不十分であると、困難な加工条件を抱えるため、形成された製品の導電性や透明性が不十分なものとなる。
【0005】
例えば、実用化されているポリチオフェンの例として、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との複合体(PEDOT/PSS)が挙げられる。導電性が高い共役高分子の1つであり、一部で実用化されている他、太陽電池や発光デバイスなどに有用である導電性薄膜の材料としての研究がなされている。しかし、PEDOT/PSSは水分散型が中心であり、分散粒子が凝集してしまうことや、水を使うことからエレクトロニクス分野においてデバイスの性能低下を引き起こしてしまうことなど、その使用工程において課題がある(非特許文献1)。
【0006】
また、チエノ〔3,2−b〕チオフェン共重合体は、良好な電荷移動性を示すことが開示されている(特許文献1)。しかし、実験的には半導体特性を見ているにすぎず、ドープされたチエノ〔3,2−b〕チオフェン共重合体の導電性や透明性を追求しているものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2008−504379号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】ソーラー エナジー マテリアルズ アンド ソーラー セルズ(Solar Energy Materials & Solar Cells),2006年,第90巻,p.3520−3530
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、汎用の有機溶剤と容易に混合でき、安定に溶解や分散しているものであって、加工性に優れ、高い導電性と透明性とを有する透明導電膜の材料として有用であるチエノチオフェン共重合体組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するためになされた、特許請求の範囲の請求項1に記載された導電性チエノチオフェン共重合体組成物は、有機溶剤を含む溶媒中に溶解及び/又は分散している、下記化学式(I)
【化1】

[式(I)中、R及びRは、それぞれ、置換基を有してもよい炭素数1〜20の直鎖状、分岐状、環状のアルキル基若しくはアルコキシ基、又は水素原子、Rは、置換基を有してもよい炭素数1〜20の直鎖状、分岐状、若しくは環状のアルキル基、又は下記化学式(II)
−[(CH−W]−R ・・・ (II)
(式(II)中、Rは、置換基を有してもよい炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状のアルキル基、Wは酸素原子又は硫黄原子、aは1〜5、bは1〜30)で示される側鎖基、Mは炭素数1〜10の直鎖状のアルキレン基、mは1又は2]で表される繰り返し単位を含むチエノチオフェン共重合体と、ドーパントとを含有することを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載のチエノチオフェン共重合体組成物は、請求項1に記載されたものであって、前記化学式(I)中、mが2であることを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載のチエノチオフェン共重合体組成物は、請求項1に記載されたものであって、前記化学式(I)中、mが1であることを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載のチエノチオフェン共重合体組成物は、請求項1に記載されたものであって、前記化学式(I)中、R及びRがそれぞれ水素原子であることを特徴とする。
【0014】
請求項5に記載のチエノチオフェン共重合体組成物は、請求項4に記載されたものであって、前記化学式(I)中、R及びRがそれぞれ水素原子、前記化学式(II)中、Wが酸素原子であることを特徴とする。
【0015】
請求項6に記載のチエノチオフェン共重合体組成物は、請求項1に記載されたものであって、前記チエノチオフェン共重合体の数平均分子量が、1000〜2,000,000であることを特徴とする。
【0016】
請求項7に記載のチエノチオフェン共重合体組成物は、請求項2に記載されたものであって、前記チエノチオフェン共重合体が、下記化学式(III)
【化2】

[式(III)中、R及びRは、それぞれ、置換基を有してもよい炭素数1〜20の直鎖状、分岐状、環状のアルキル基若しくはアルコキシ基、又は水素原子、Rは、置換基を有してもよい炭素数1〜20の直鎖状、分岐状、若しくは環状のアルキル基、又は下記化学式(II)
−[(CH−W]−R ・・・ (II)
(式(II)中、Rは置換基を有してもよい炭素数1から20の直鎖状又は分岐状のアルキル基であり、Wは酸素原子又は硫黄原子、aは1〜5、bは1〜30)で示される側鎖基、Mは炭素数1〜10の直鎖状のアルキレン基]で表される繰り返し単位であることを特徴とする。
【0017】
請求項8に記載のチエノチオフェン共重合体組成物は、請求項7に記載されたものであって、前記チエノチオフェン共重合体が、下記化学式(IV)
【化3】

[式(IV)中、R及びRは、それぞれ、置換基を有してもよい炭素数1〜20の直鎖状、分岐状、環状のアルキル基若しくはアルコキシ基、又は水素原子、Rは、置換基を有してもよい炭素数1〜20の直鎖状、分岐状、若しくは環状のアルキル基、又は下記化学式(II)
−[(CHa−W]−R ・・・ (II)
(式(II)中、Rは置換基を有してもよい炭素数1から20の直鎖状又は分岐状のアルキル基であり、Wは酸素原子又は硫黄原子、aは1〜5、bは1〜30)で示される側鎖基、Mは炭素数1〜10の直鎖状のアルキレン基]で表されるチエノチオフェン誘導体を、化学酸化重合又は電解重合したものであることを特徴とする。
【0018】
請求項9に記載の透明導電膜は、基材上に、請求項1に記載のチエノチオフェン共重合体組成物が硬化していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明のチエノチオフェン共重合体組成物は、透明性と導電性とに優れた透明導電膜の材料として用いることができる。このチエノチオフェン共重合体組成物は、チエノチオフェン共重合体とドーパントとが、有機溶剤を含む溶媒中で安定に溶解及び/又は分散しており、加工性に優れ簡便に透明導電膜を形成することができる。
【0020】
本発明の透明導電膜は、安定性に優れたチエノチオフェン共重合体組成物を用いて煩雑な工程を必要とせずに原料コスト及び成膜コストを抑えて大量に生産することができるものであって、かつ優れた透明性と導電性とを示すことができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0022】
本発明のチエノチオフェン共重合体組成物は、前記化学式(I)に表される繰り返し単位を有するチエノチオフェン共重合体と、ドーパントと、少なくとも有機溶剤を含む溶媒とを含有しているものである。
【0023】
前記化学式(I)、その具体例である化学式(III)及び化学式(IV)において、R、R及びRが表す置換基を有していてもよい炭素数1〜20の直鎖状、分岐状、又は環状のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−デシル基、n−ドデシル基、n−ヘキサデシル基、イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、2−メチルヘキシル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基、シクロプロピル基などが挙げられる。
【0024】
前記化学式(I)、(III)及び(IV)において、R及びRが表すアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、n−ヘキシルオキシ基、n−オクチルオキシ基、n−デシルオキシ基、n−ドデシルオキシ基、n−ヘキサデシルオキシ基、2−メチルヘキシルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基などが挙げられる。
【0025】
前記化学式(II)において、Rが表す置換基を有していてもよい炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−デシル基、n−ドデシル基、n−ヘキサデシル基、イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、2−メチルヘキシル基、2−エチルヘキシル基などが挙げられる。
【0026】
以下に化学式(I)で表されるチエノチオフェン共重合体の繰り返し単位の具体例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0027】
【化4】

【0028】
【化5】

【0029】
前記化学式(I)と化学式(1)〜(27)とで示される繰り返し単位を有するチエノチオフェン基とチエニレン基との共重合体は、単一構造の繰り返し重合体であってもよく、前記化学式(I)や化学式(1)〜(27)に示される繰り返し単位を2種以上含む共重合体であってもよい。その構造における結合配列は、位置規則的にヘッド−テイル繰り返し構造が配列したものであってもよく、ヘッド−ヘッド繰り返し構造、及び/又はテイル−テイル繰り返し構造が配列したものであってもよい。これらのチエノチオフェン共重合体の数平均分子量は、1000〜2,000,000の範囲であると好ましく、2000〜500,000の範囲であるとより好ましい。
【0030】
本発明のチエノチオフェン共重合体組成物は、好ましくは、前記化学式(I)に表される繰り返し単位を有するチエノチオフェン共重合体にドーパントを作用させて導電性を付与(ドーピング)したものを、少なくとも有機溶剤を含む溶媒中に溶解又は分散させることによって得ることができる。
【0031】
ドーパントは、チエノチオフェン共重合体を酸化還元させることにより導電性を向上できるものであれば、特に制限はなく、公知の種々の電子供与性物質や、電子吸引性物質を適宜選択し、用いることができる。中でも、電子吸引性物質を使用することが好ましい。電子吸引性物質は、酸化された正の電荷を帯びたチエノチオフェン共重合体に対するカウンターアニオンとして機能する。
【0032】
ドーパントとして使用される電子吸引物質は、具体例に、ハロゲンとしてCl、Br、I、ICl、IBr、及びIF、ルイス酸としてPF、AsF、SbF、BF、BCl、BBr、及びSO、プロトン酸としてHF、HCl、HNO、HSO、HClO、FSOH、CISOH、CFSOH、p−トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、カンファースルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、その他各種有機酸、及びアミノ酸など、遷移金属化合物としてFeCl、Fe(OCl、TiCl、ZrCl、HfCl、NbF、NbCl、TaCl、MoF、MoCl、UF、LnCl(Ln=La、Ce、Pr、Nd、Smなどのランタノイド)、電解質アニオンとしてCl、Br、I、ClO、AlCl、FeCl、SnCl、PF、AsF、SbF、BF、NO、SO2−、p−トルエンスルホン酸アニオン、ナフタレンスルホン酸アニオン、カンファースルホン酸アニオン、ドデシルベンゼンスルホン酸アニオン、及びその他各種有機酸アニオンなどが挙げられる。電子吸引物質はこれらに限定されるものではない。
【0033】
本発明に含有されるドーパントは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。このドーパントの添加方法は、特に限定されず、例えば、酸化剤兼ドーパントとして重合反応系中に共存させることもできるし、重合後に所望のドーパントを適宜添加することができる。
【0034】
本発明のチエノチオフェン共重合体組成物におけるドーパントの含有率は、特に制限はなく、任意に選択することができるが、チエノチオフェン共重合体100質量部に対し1〜50質量部の範囲であると好ましい。その含有量は、チエノチオフェン共重合体組成物の調製工程において、イオン交換樹脂や種々ろ過法などによって、適宜調整することができる。
【0035】
チエノチオフェン共重合体組成物全体に対するチエノチオフェン共重合体及びドーパントの合計質量は、0.01〜20質量%であるのが好ましい。
【0036】
本発明で用いる有機溶剤は、特に限定されるものではなく、ハロゲン化炭化水素、窒素原子含有炭化水素、アルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類、セロソゾブ類、芳香族炭化水素類、脂肪族炭化水素類など、種々の液体媒体であり、中でも、クロロホルム、N−メチルピロリドン、ニトロメタン、トルエンが好ましい。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。また、任意に水と混合することもできる。
【0037】
本発明のチエノチオフェン共重合体組成物には、チエノチオフェン共重合体と、ドーパントと、有機溶剤を含む溶媒との構成成分の他に、必要に応じて任意の添加剤を含有していてもよく、その添加するタイミングも任意に選択することができる。添加剤としては、公知の添加剤などの中から適宜選択することができ、例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、劣化防止剤、分散剤、界面活性剤、重合禁止剤、表面改質剤、脱泡剤、可塑剤、抗菌剤などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
前記化学式(I)に表される繰り返し単位を有するチエノチオフェン共重合体の製法は、特に制限なく、クロスカップリング重合法、化学酸化重合法、電解重合法等、如何なる合成方法であってもよい。例えば、上記化学式(IV)で表されるチエノチオフェン誘導体を化学酸化重合又は電解重合してもよいし、また参考合成例として、ネイチャー マテリアルズ(nature materials),2006年,第5巻,p.328−333、ザ ジャーナル オブ フィジカル ケミストリー B(The Journal of Physical Chemistry B)2009年,第45巻,p.14981−14985、の文献が挙げられる。これらを参考に、下記化学反応式(A)、(B)、(C)及び(D)に示すように、金属錯体存在下、クロスカップリングする方法でチエノチオフェン共重合体を得ることができる。
【0039】
【化6】

前記化学反応式(A)中、R、R、R及びMは、前記化学式(I)及び(II)と同様のものである。X及びX'は同一又は異なり、ハロゲン原子であり、Y及びY'は−MgCl、−MgBr、−MgI、−ZnCl、−ZnBr、−ZnI、−Sn(Aky)、ホウ酸、ホウ酸エステルから選ばれる基である。なお、ここでAkyとは、アルキル基を表す。
【0040】
【化7】

前記化学反応式(B)中、R、R、R、M、X、X'、Y及びY'は、前記化学反応式(A)と同様のものである。
【0041】
【化8】

前記化学反応式(C)中、R、R、R、M、X、X'、Y及びY'は、前記化学反応式(A)と同様のものである。
【0042】
【化9】

前記化学反応式(D)中、R、R、R、M、X、X'、Y及びY'は、前記化学反応式(A)と同様のものである。
【0043】
このように取得したチエノチオフェン共重合体は、中性状態を示しており、ドーピング工程を経て、導電性を有するチエノチオフェン共重合体組成物となる。
【0044】
ドープされたチエノチオフェン共重合体は、少なくとも有機溶剤を含む溶媒中に分散させる。分散させる際に、乳化機を使用してもよい。使用する乳化機は、ドープされたチエノチオフェン共重合体の平均粒子径を10μm以下、好ましくは5μm以下とすることができるものであれば、どのような機種でもよい。乳化機の例としては、超音波ホモジナイザー、ホモミキサー、マイルダー、アトライター、(超)高圧ホモジナイザー及びコロイドミルなどを挙げることができる。
【0045】
ドープされたチエノチオフェン共重合体の平均粒子径に制限はないが、10μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましい。
【0046】
ドープされたチエノチオフェン共重合体の平均粒子径は、市販の粒度測定機を使用することができる。粒度測定機の例としては、光子相関法、レーザー回折散乱法、動的光散乱法による測定機を用いることができる。
【0047】
このようにして得られた本発明のチエノチオフェン共重合体組成物は、有機溶剤を含む溶媒中でドープされたチエノチオフェン共重合体が安定に分散されており、優れた透明性と導電性とを有する透明導電膜の材料として有用である。
【0048】
透明導電膜は、本発明のチエノチオフェン共重合体組成物を、例えば板状の透明基材に後で例示する塗布法等により塗布し、溶媒を除去し成膜することによって、形成することができる。
【0049】
透明基材は、特に制限されず、その材料、形状、厚みなどについては公知のものから任意に選択することができ、例えば、ガラスや樹脂材料が挙げられる。
【0050】
樹脂材料としては、公知のものから任意に選択することが可能で、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリブタジエン樹脂、酢酸セルロース、硝酸セルロース、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合樹脂などが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用して使用してもよい。
【0051】
本発明のチエノチオフェン共重合体組成物を用いて得られる透明導電膜の厚みは、特に制限されず、任意に選択することが可能であるが、導電性、透明性及び基材との接着性などを考慮すると、例えば0.01〜10μmが好ましい。
【0052】
透明導電膜の電気抵抗値としては、表面抵抗率として、10000Ω/□以下であることが好ましく、2000Ω/□以下であることが更に好ましい。表面抵抗率は、例えばJIS−K6911、ASTM D257などに準拠して測定することができ、また市販の表面抵抗率計を用いて簡便に測定することができる。
【0053】
透明導電膜の可視光線透過率としては、70%以上であることが好ましく、80%以上であることが更に好ましく、90%以上であることが最も好ましい。
【0054】
次に、本発明のチエノチオフェン共重合体組成物を用いて透明導電膜を製造する際の形成方法について説明する。
【0055】
透明導電膜の形成方法としては特に制限は無く、公知の方法の中から適宜選択することができ、例えば、塗布法、印刷法などが好適に挙げられる。これらは1種単独の方法であってもよく、2種以上を併用した方法であってもよい。
【0056】
塗布法としては特に制限はなく、公知の方法の中から適宜選択することができ、例えば、スピンコート法、ロールコート法、バーコート法、ディップコーティング法、グラビアコート法、カーテンコート法、ダイコート法、スプレーコート法、ドクターコート法などを挙げることができる。印刷法としては特に制限はなく、公知の方法の中から適宜選択することができ、例えば、スクリーン印刷法、スプレー印刷法、インクジェット印刷法、凸版印刷法、凹版印刷法、平版印刷法などを挙げることができる。
【0057】
透明導電膜としては、本発明のチエノチオフェン共重合体組成物による透明導電膜が透明基材上の全面に形成されていてもよいし、電極や配線パターンなどを形成するなど部分的に形成されていてもよい。
【実施例】
【0058】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0059】
本発明のチエノチオフェン共重合体組成物に用いられるチエノチオフェン共重合体の合成を合成例1〜2、得られたチエノチオフェン共重合体を含有する導電性のチエノチオフェン共重合体組成物の調製を実施例1〜12、及びその薄膜作製を示す。
【0060】
得られたチエノチオフェン共重合体の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比である分散度(Mw/Mn)は、検出器として示差屈折率計を用い、溶離液としてテトラヒドロフランを用いたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定により、標準ポリスチレンで作成した検量線による換算値として求めた。
【0061】
GPC測定:カラムとして、TSK−gel SuperMultipore HZ−M(商品名:東ソー株式会社製、)2本を直列につないだものを使用し、カラム温度40℃、溶離液の流速0.35mL/分の条件で測定した。
【0062】
(合成例1)
ポリ〔2,5−ビス〔3−〔2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ〕メチルチオフェン−2−イル〕チエノ〔3,2−b〕チオフェン(チエノチオフェン共重合体1)の合成
【0063】
【化10】

電磁攪拌装置、還流冷却器及び温度計付した内容量100mlの3つ口フラスコに窒素雰囲気下、ビス(トリメチルスズ)チエノ〔3,2−b〕チオフェン550mg、5,5‘−ジブロモ−ビス〔3−〔2−(2−メトキシ)エトキシ〕メチルチオフェン728mg、塩化リチウム50mgを入れ、クロロベンゼン60mlに溶解させた。そこへ、トリ−オルト−トリフェニルホスフィン28.7mg、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム21.6mgを投入し、反応液をオイルバスで加熱して内温120℃、24時間攪拌した。反応終了後、室温まで冷やし、多量のメタノールに注ぎ込んだ。ろ過し、水、メタノール、アセトンで洗浄した。得られたものを50℃で減圧乾燥し、前記化学式(28)に表される繰り返し単位を有するポリ〔2,5−ビス〔3−〔2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ〕メチルチオフェン−2−イル〕チエノ〔3,2−b〕チオフェンを570mg取得した。得られたポリマーのMnは32000、分散度は2.2であった。
【0064】
(合成例2)
ポリ〔2,5−ビス〔3−ドデシルオキシ〕メチルチオフェン−2−イル〕チエノ〔3,2−b〕チオフェン(チエノチオフェン共重合体2)の合成
【0065】
【化11】

電磁攪拌装置、還流冷却器及び温度計付した内容量100mlの3つ口フラスコに窒素雰囲気下、ビス(トリメチルスズ)チエノ〔3,2−b〕チオフェン550mg、5,5‘−ジブロモ−ビス〔3−〔2−(2−メトキシ)エトキシ〕メチルチオフェン851mg、塩化リチウム50mgを入れ、クロロベンゼン60mlに溶解させた。そこへ、トリ−オルト−トリフェニルホスフィン28.7mg、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム21.6mgを投入し、反応液をオイルバスで加熱して内温120℃、24時間攪拌した。反応終了後、室温まで冷やし、多量のメタノールに注ぎ込んだ。ろ過し、水、メタノール、アセトンで洗浄した。得られたものを50℃で減圧乾燥し、前記化学式(19)に表される繰り返し単位を有するポリ〔2,5−ビス〔3−ドデシルオキシ〕メチルチオフェン−2−イル〕チエノ〔3,2−b〕チオフェンを485mg取得した。得られたポリマーのMnは65000、分散度は1.8であった。
【0066】
(調製例1)
ポリスチレンスルホン酸(PSS)を1重量%含む水溶液19gに、1%硫酸鉄(III)水溶液を490mg、濃硝酸を300mg、3,4−エチレンジオキシチオフェンを90mg及び11重量%ぺルオキソニ硫酸水溶液を1.2g添加した。この反応液を18度で20時間攪拌した。次いで、この反応混合物にイオン交換樹脂を加えて2時間攪拌した後、イオン交換樹脂をろ別して脱塩を行い、ポリ(3,4−チレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との複合物の分散体であるPEDOT/PSS分散体(固形分1.42%)を得た。
【0067】
(実施例1)
合成例1で得られたチエノチオフェン共重合体1の20mgをクロロホルム6mlに溶解させた。この溶液を激しく攪拌しながら、ベンゾニトリル0.5mlに溶解した過塩素酸鉄n水和物70mgを添加した。その後、3時間攪拌した。得られた黒色懸濁液から遠心分離(3000rpm)によりドープされたチエノチオフェン共重合体1を分離した後、アセトン洗浄を行った。その後、ドープされたチエノチオフェン共重合体1とクロロホルム3.5gとを混合し、激しく攪拌した。遠心分離(3000rpm)にかけた後、上澄み部分を取得し、ドープされたチエノチオフェン共重合体1がクロロホルムに分散しているチエノチオフェン共重合体組成物を取得した。
【0068】
(実施例2)
合成例1で得られたチエノチオフェン共重合体1の20mgをクロロホルム6mlに溶解させた。この溶液を激しく攪拌しながら、ベンゾニトリル0.5mlに溶解したp−トルエンスルホン酸鉄六水和物195mgを添加した。その後、3時間攪拌した。得られた黒色懸濁液から遠心分離(3000rpm)によりドープされたチエノチオフェン共重合体1を分離した後、アセトン洗浄を行った。その後、ドープされたチエノチオフェン共重合体1とクロロホルム3.5gとを混合し、激しく攪拌した。遠心分離(3000rpm)にかけた後、上澄み部分を取得し、ドープされたチエノチオフェン共重合体1がクロロホルムに分散しているチエノチオフェン共重合体組成物を取得した。
【0069】
(実施例3)
実施例1のクロロホルムの代わりにN−メチルピロリドンを用いた以外は同様の操作を行った。
【0070】
(実施例4)
実施例1のクロロホルムの代わりにニトロメタンを用いた以外は同様の操作を行った。
【0071】
(実施例5)
実施例2のクロロホルムの代わりにN−メチルピロリドンを用いた以外は同様の操作を行った。
【0072】
(実施例6)
実施例2のクロロホルムの代わりにニトロメタンを用いた以外は同様の操作を行った。
【0073】
(実施例7)
合成例2で得られたチエノチオフェン共重合体2の20mgをクロロホルム6mlに溶解させた。この溶液を激しく攪拌しながら、ベンゾニトリル0.5mlに溶解した過塩素酸鉄・n水和物70mgを添加した。その後、3時間攪拌した。得られた黒色懸濁液から遠心分離(3000rpm)によりドープされたチエノチオフェン共重合体2を分離した後、アセトン洗浄を行った。その後、ドープされたチエノチオフェン共重合体2とクロロホルム3.5gとを混合し、激しく攪拌した。遠心分離(3000rpm)にかけた後、上澄み部分を取得し、ドープされたチエノチオフェン共重合体2がクロロホルムに分散しているチエノチオフェン共重合体組成物を取得した。
【0074】
(実施例8)
合成例2で得られたチエノチオフェン共重合体2の20mgをクロロホルム6mlに溶解させた。この溶液を激しく攪拌しながら、ベンゾニトリル0.5mlに溶解したp−トルエンスルホン酸鉄195mgを添加した。その後、3時間攪拌した。得られた黒色懸濁液から遠心分離(3000rpm)によりドープされたチエノチオフェン共重合体2を分離した後、アセトン洗浄を行った。その後、ドープされたチエノチオフェン共重合体2とクロロホルム3.5gとを混合し、激しく攪拌した。遠心分離(3000rpm)にかけた後、上澄み部分を取得し、ドープされたチエノチオフェン共重合体2がクロロホルムに分散しているチエノチオフェン共重合体組成物を取得した。
【0075】
(実施例9)
実施例7のクロロホルムの代わりにトルエンを用いた以外は同様の操作を行った。
【0076】
(実施例10)
実施例7のクロロホルムの代わりにニトロメタンを用いた以外は同様の操作を行った。
【0077】
(実施例11)
実施例8のクロロホルムの代わりにトルエンを用いた以外は同様の操作を行った。
【0078】
(実施例12)
実施例8のクロロホルムの代わりにニトロメタンを用いた以外は同様の操作を行った。
【0079】
実施例1〜実施例12で調整した有機溶剤に分散するチエノチオフェン共重合体組成物を、ガラス板(2.5cm×2.5cm×0.1cm)に滴下しスピンコーターにて1000rpmで30秒攪拌し、約50nmの薄膜を作製した。
【0080】
(比較例1)
調製例1で作製したPEDOT/PSS分散体を、ガラス板(2.5cm×2.5cm×0.1cm)に滴下しスピンコーターにて1000rpmで30秒攪拌し、約400nmの薄膜を作製した。
【0081】
(電気伝導度の測定)
各試料の電気伝導度は4探針方式の測定器(三菱化学社製 MCP−T610)により測定した。その結果を表1に示す。
【0082】
(透過率の測定)
透過率は、UV−VIS−NIR(島津Solidspec−3700)にて測定した。
【0083】
【表1】

【0084】
以上の結果から、本発明の有機高分子組成物は、透明導電膜用の材料として有用であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明のチエノチオフェン共重合体組成物は、透明性が高く、優れた導電性を示す透明導電膜の材料として用いることができる。また、このチエノチオフェン共重合体組成物により形成された透明導電膜は、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、エレクトロルミネッセンスディスプレイ、エレクトロクロミックディスプレイ、太陽電池、タッチパネルなどの透明電極、コンデンサ、二次電池、接続用部材、高分子半導体素子、帯電防止コーティング、帯電防止包装材などの帯電防止材、電磁波シールド材、更に、転写ベルト、現像ロール、帯電ロール、転写ロールなどの電子写真機器部品などに用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶剤を含む溶媒中に溶解及び/又は分散している、下記化学式(I)
【化1】

[式(I)中、R及びRは、それぞれ、置換基を有してもよい炭素数1〜20の直鎖状、分岐状、環状のアルキル基若しくはアルコキシ基、又は水素原子、Rは、置換基を有してもよい炭素数1〜20の直鎖状、分岐状、若しくは環状のアルキル基、又は下記化学式(II)
−[(CHa−W]−R ・・・ (II)
(式(II)中、Rは、置換基を有してもよい炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状のアルキル基、Wは酸素原子又は硫黄原子、aは1〜5、bは1〜30)で示される側鎖基、Mは炭素数1〜10の直鎖状のアルキレン基、mは1又は2]
で表される繰り返し単位を含むチエノチオフェン共重合体と、ドーパントとを含有することを特徴とする導電性チエノチオフェン共重合体組成物。
【請求項2】
前記化学式(I)中、mが2であることを特徴とする請求項1に記載のチエノチオフェン共重合体組成物。
【請求項3】
前記化学式(I)中、mが1であることを特徴とする請求項1に記載のチエノチオフェン共重合体組成物。
【請求項4】
前記化学式(I)中、R及びRがそれぞれ水素原子であることを特徴とする請求項1に記載のチエノチオフェン共重合体組成物。
【請求項5】
前記化学式(I)中、R及びRがそれぞれ水素原子、前記化学式(II)中、Wが酸素原子であることを特徴とする請求項4に記載のチエノチオフェン共重合体組成物。
【請求項6】
前記チエノチオフェン共重合体の数平均分子量が、1000〜2,000,000であることを特徴とする請求項1に記載のチエノチオフェン共重合体組成物。
【請求項7】
前記チエノチオフェン共重合体が、下記化学式(III)
【化2】

[式(III)中、R及びRは、それぞれ、置換基を有してもよい炭素数1〜20の直鎖状、分岐状、環状のアルキル基若しくはアルコキシ基、又は水素原子、Rは、置換基を有してもよい炭素数1〜20の直鎖状、分岐状、若しくは環状のアルキル基、又は下記化学式(II)
−[(CHa−W]−R ・・・ (II)
(式(II)中、Rは置換基を有してもよい炭素数1から20の直鎖状又は分岐状のアルキル基であり、Wは酸素原子又は硫黄原子、aは1〜5、bは1〜30)で示される側鎖基、Mは炭素数1〜10の直鎖状のアルキレン基]
で表される繰り返し単位であることを特徴とする請求項2に記載のチエノチオフェン共重合体組成物。
【請求項8】
前記チエノチオフェン共重合体が、下記化学式(IV)
【化3】

[式(IV)中、R及びRは、それぞれ、置換基を有してもよい炭素数1〜20の直鎖状、分岐状、環状のアルキル基若しくはアルコキシ基、又は水素原子、Rは、置換基を有してもよい炭素数1〜20の直鎖状、分岐状、若しくは環状のアルキル基、又は下記化学式(II)
−[(CHa−W]−R ・・・ (II)
(式(II)中、Rは置換基を有してもよい炭素数1から20の直鎖状又は分岐状のアルキル基であり、Wは酸素原子又は硫黄原子、aは1〜5、bは1〜30)で示される側鎖基、Mは炭素数1〜10の直鎖状のアルキレン基]
で表されるチエノチオフェン誘導体を、化学酸化重合又は電解重合したものであることを特徴とする請求項7に記載のチエノチオフェン共重合体組成物。
【請求項9】
基材上に、請求項1に記載のチエノチオフェン共重合体組成物が硬化していることを特徴とする透明導電膜。

【公開番号】特開2012−92265(P2012−92265A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−242423(P2010−242423)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】