説明

チオフェン誘導体を用いたフォトクロミック材料並びに光記録媒体

【課題】 熱安定性に優れ、高量子収率で光環化反応を起こすチオフェン誘導体を提供する。
【解決手段】 式〔1〕または式〔2〕で表されるチオフェン誘導体。


{式中、Aは、Ph又はS含有五員環を表し、Eは、−(CH2n−(nは、0または1を表す。)、−O−、−S−等を表し、R,R,R,Rは、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基等を表す}

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なチオフェン誘導体、並びにこのチオフェン誘導体を用いたフォトクロミック材料、および光記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトクロミック材料とは、光の照射によって状態の異なる二つの異性体を可逆的に生成する分子または分子集合体を含む材料である。
このフォトクロミック材料は、近年、光記録媒体、サングラス等の光学的フィルタ、マスキング用材料、ディスプレイ用材料などの各種用途に幅広く使用されている。
メタシクロファン誘導体は、フォトクロミック化合物としての研究報告があり、酸素が無い状態では、下記式〔I〕で表される可逆的光化学反応を起こすことが知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
【化1】

【0004】
このメタシクロファン誘導体については、着色、退色の速度、波長特性、耐候性等に優れたフォトクロミック化合物を得る目的で、多くの化合物が合成されている(例えば、特許文献1〜9参照)。
さらに、メタシクロファン誘導体を用いたフォトクロミズムに関する研究(例えば、非特許文献2〜6参照)や、光学活性メタシクロファンを用いたエナンチオ選択的フォトクロミズム(例えば、特許文献10参照)の研究も行われている。
しかしながら、これらは全てメタシクロファン化合物を用いたものであり、本発明に関するチオフェン誘導体の合成例、および光記録媒体への応用例はない。
また、光学活性チオフェン誘導体を用いたエナンチオ選択的フォトクロミズム(例えば、特許文献11参照)が報告されているが、この化合物は、閉環体の熱安定性に課題を有している。
【0005】
【特許文献1】米国特許第3390192号明細書
【特許文献2】米国特許第3557218号明細書
【特許文献3】米国特許第3697585号明細書
【特許文献4】米国特許第3697592号明細書
【特許文献5】米国特許第3697604号明細書
【特許文献6】米国特許第3716595号明細書
【特許文献7】米国特許第3719709号明細書
【特許文献8】米国特許第3723547号明細書
【特許文献9】米国特許第3728394号明細書
【特許文献10】特開2003−206271号公報
【特許文献11】特開2004−262796号公報
【非特許文献1】H.Cerfontainら、Liebigs Ann./Recl.,1997,5,873-878
【非特許文献2】M.Takeshita, T.Yamato; Tetrahedron Lett.,2001,42,4345
【非特許文献3】R.H.Mitchell, T.R.Ward, Y.Wang; Heterocycles,2001,54,249
【非特許文献4】Y.-H.Lai, P.Chen; J.Org.Chem.,1997,62,606
【非特許文献5】Y.-H.Lai, P.Chen; J.Org.Chem.,1996,61,935
【非特許文献6】S.Murakami, T.Tsutsui, S.Saito, A.Miyazawa, T.Yamato, M.Tashiro; Chem. Lett.,1988,5
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、熱安定性に優れ、高量子収率で光環化反応を起こすチオフェン誘導体、並びにこのチオフェン誘導体を用いたフォトクロミック材料、および光記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、開環体および閉環体の両異性体とも熱安定性に優れ、しかも光環化反応の量子収率が高いチオフェン誘導体を見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、
1. 式〔1〕または式〔2〕で表されることを特徴とするチオフェン誘導体、
【化2】

{式中、Aは、
【化3】

を表し、Eは、−(CH2n−(nは、0または1を表す。)、−O−、−S−、−S(O)−、−S(O)2−、または−NR5−〔R5は、水素原子、炭素数3〜6のシクロアルキル基、炭素数1〜10のアルキル基〈該アルキル基は、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、フェニル基(該フェニル基は、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルコキシ基、または炭素数1〜10のアルキル基で任意に置換されていてもよい。)で任意に置換されていてもよい。〉、またはフェニル基(該フェニル基は、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルコキシ基、または炭素数1〜10のアルキル基で任意に置換されていてもよい。)を表す。〕を表し、R1およびR2は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基、またはフッ素原子もしくは塩素原子で任意に置換されてもよい炭素数1〜10のハロゲン化アルキル基を表すか、R1とR2とが一緒になってヘキサフルオロプロピレン基、−CO−NH−CNH−、−CO−NR5−CO−(R5は、前記に同じ。)、またはカルボン酸無水物を表し、R3およびR4は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルコキシ基、炭素数3〜6のシクロアルキル基、炭素数3〜6のシクロアルコキシ基、炭素数1〜10のアルキル基、フッ素原子もしくは塩素原子で任意に置換されてもよい炭素数1〜10のハロゲン化アルキル基、またはジフェニルアミノ基を表す。}
2. 前記R3およびR4が、それぞれ独立して水素原子、メトキシ基、メチル基、エチル基、イソプロピル基、ターシャリーブチル基、またはトリフルオロメチル基である1のチオフェン誘導体、
3. 前記Aが、
【化4】

であり、前記Eが、−O−、−S−、または−NR5−〔R5は、水素原子、メチル基、エチル基〈該メチル基およびエチル基は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシル基、メトキシ基、フェニル基(該フェニル基はメトキシ基またはメチル基で置換されていてもよい。)で任意に置換されていてもよい。〉、またはフェニル基(該フェニル基はメトキシ基またはメチル基で置換されていてもよい。)を表す。〕であり、前記R1およびR2が、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ニトロ基、シアノ基、メチル基、エチル基、イソプロピル基、ターシャリーブチル基、トリフルオロメチル基であるか、R1とR2とが一緒になってヘキサフルオロプロピレン基、−CO−NH−CNH−、−CO−NR5−CO−〔R5は、水素原子、メチル基、エチル基〈該メチル基およびエチル基は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシル基、メトキシ基、フェニル基(該フェニル基は、メトキシ基またはメチル基で置換されていてもよい。)で任意に置換されていてもよい。〉、またはフェニル基(該フェニル基は、メトキシ基またはメチル基で置換されていてもよい。)を表す。〕、またはカルボン酸無水物である1または2のチオフェン誘導体、
4. 前記Eが、−S−であり、前記R1およびR2が、これらが一緒になってヘキサフルオロプロピレン基であり、前記R3およびR4が、メチル基である1〜3のいずれかのチオフェン誘導体、
5. 1〜4のいずれかのチオフェン誘導体から成るフォトクロミック材料、
6. 1〜4のいずれかのチオフェン誘導体を含有する記録層を備える光記録媒体
を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のチオフェン誘導体は、後述するように、高い量子収率でフォトクロミズムを示すものである。このチオフェン誘導体は、開環体および閉環体の両異性体とも熱安定性に優れ、しかも光環化反応の量子収率が高いため、光記録媒体として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
まず、上記式〔1〕および〔2〕における各置換基を具体的に説明する。
上記式〔1〕,〔2〕中、Aは、
【0011】
【化5】

【0012】
を表すが、好ましくは下記で示される基である。
【0013】
【化6】

【0014】
Eは、−(CH2n−(nは、0または1を表す。)、−O−、−S−、−S(O)−、−S(O)2−、または−NR5−〔R5は、水素原子、炭素数3〜6のシクロアルキル基、炭素数1〜10のアルキル基〈このアルキル基は、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、フェニル基(このフェニル基は、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルコキシ基、または炭素数1〜10のアルキル基で任意に置換されていてもよい。)で任意に置換されていてもよい。〉、またはフェニル基(このフェニル基は、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルコキシ基、または炭素数1〜10のアルキル基で任意に置換されていてもよい。)を表す。〕を表す。
【0015】
ここで、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
炭素数3〜6のシクロアルキル基の具体例としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基が挙げられる。
炭素数1〜3のアルコキシ基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基等が挙げられる。
【0016】
炭素数1〜10のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、ノーマルブチル基、イソブチル基、セカンダリーブチル基、ターシャリーブチル基、シクロブチル基、ノーマルペンチル基、アミル基、イソアミル基、ターシャリーアミル基、ネオペンチル基、シクロペンチル基、ノーマルヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられる。
ハロゲン原子等で任意に置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基の具体例としては、上記炭素数1〜10のアルキル基で例示した基に加え、トリフルオロメチル基、ヒドロキシエチル基、メトキシメチル基、ベンジル基、メトキシベンジル基、メチルベンジル基、クロロベンジル基等が挙げられる。
ハロゲン原子等で任意に置換されていてもよいフェニル基としては、フェニル基、トリル基、クロロフェニル基、ジクロロフェニル基、ブロモフェニル基等が挙げられる。
【0017】
中でも、Eとしては、−O−、−S−、または−NR5−〔R5は、水素原子、メチル基、エチル基(これらのメチル基およびエチル基は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシル基、メトキシ基、フェニル基(このフェニル基は、メトキシ基またはメチル基で置換されていてもよい。)で任意に置換されていてもよい。)、またはフェニル基(このフェニル基は、メトキシ基またはメチル基で置換されていてもよい。)を表す。)が好ましく、−S−がより好ましい。
【0018】
1およびR2は、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基、またはフッ素原子もしくは塩素原子で任意に置換されてもよい炭素数1〜10のハロゲン化アルキル基を表すか、R1とR2とが一緒になってヘキサフルオロプロピレン基、−CO−NH−CNH−、−CO−NR5−CO−(R5は、水素原子、炭素数3〜6のシクロアルキル基、炭素数1〜10のアルキル基(このアルキル基は、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、フェニル基(このフェニル基は、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルコキシ基、または炭素数1〜10のアルキル基で任意に置換されていてもよい。)で任意に置換されていてもよい。)、またはフェニル基(このフェニル基は、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルコキシ基、または炭素数1〜10のアルキル基で任意に置換されていてもよい。)を表す。)、またはカルボン酸無水物を表す。
【0019】
ここで、フッ素原子または塩素原子で任意に置換されてもよい炭素数1〜10のハロゲン化アルキル基の具体例としては、トリフルオロメチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、1,1,2,2,2−ペンタフルオロエチル基、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル基等が挙げられる。
なお、ハロゲン原子、炭素数3〜6のシクロアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、炭素数1〜10のアルキル基、ハロゲン原子等で任意に置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基、ハロゲン原子等で任意に置換されていてもよいフェニル基の具体例は上述した基と同様のものが挙げられる。
【0020】
中でも、R1およびR2としては、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ニトロ基、シアノ基、メチル基、エチル基、イソプロピル基、ターシャリーブチル基、トリフルオロメチル基であるか、R1とR2とが一緒になってヘキサフルオロプロピレン基、−CO−NH−CNH−、−CO−NR5−CO−(R5は、水素原子、メチル基、エチル基、トリフルオロメチル基、メトキシメチル基、ベンジル基、メトキシベンジル基、メチルベンジル基、フェニル基、メチルフェニル基、またはメトキシフェニル基を表す。)、またはカルボン酸無水物であることが好ましく、それぞれ独立して水素原子、またはシアノ基であるか、R1とR2とが一緒になってヘキサフルオロプロピレン基、−CO−NR5−CO−(R5は、水素原子、またはメチルベンジル基を表す。)、またはカルボン酸無水物であることが、より好ましい。
【0021】
3およびR4は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルコキシ基、炭素数3〜6のシクロアルキル基、炭素数3〜6のシクロアルコキシ基、炭素数1〜10のアルキル基、フッ素原子もしくは塩素原子で任意に置換されてもよい炭素数1〜10のハロゲン化アルキル基、またはジフェニルアミノ基を表す。
ここで、炭素数3〜6のシクロアルコキシ基の具体例としては、シクロプロピルオキシ基等が挙げられる。
なお、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルコキシ基、炭素数3〜6のシクロアルキル基、炭素数1〜10のアルキル基、フッ素原子または塩素原子で任意に置換されてもよい炭素数1〜10のハロゲン化アルキル基の具体例は上述した基と同様のものが挙げられる。
中でも、R3およびR4としては、水素原子、メチル基、メトキシ基、イソプロピル基、ターシャリーブチル基、トリフルオロメチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0022】
次に、式〔1〕および式〔2〕で表される各化合物の製造法について、Eが、−O−、−S−、または−NR5−(R5は上記と同じ。)の場合を例に挙げて、説明する。
上記式〔1〕および式〔2〕で示される化合物は、以下の方法で合成できる。
【0023】
【化7】

(式中、A、R1、R2、R3およびR4は、上記と同じ。Eは、−O−、−S−、または−NR5−(R5は上記と同じ。)を表し、Xはハロゲン原子を表す。)
【0024】
すなわち、ビス(クロロメチル)ジチエニルエテン誘導体〔A〕を、チオウレアと反応させた後、水酸化ナトリウムで加水分解してビス(メルカプトメチル)ジチエニルエテン誘導体〔B〕が得られる((a)工程)。
得られた〔B〕と、ジハロゲン化合物〔C〕とのカップリング反応により、目的とするチオフェン誘導体〔1〕が得られる((b)工程)。
さらに、チオフェン誘導体〔1〕を光化学反応により環化させ、閉環体チオフェン誘導体〔2〕に導くことができる((c)工程)。
【0025】
以下、各工程について詳細に説明する。
[1](a)工程
この工程は、ビス(クロロメチル)ジチエニルエテン誘導体〔A〕を、ジメチルスルホキシド(DMSO)中、チオウレアと反応させた後、水酸化ナトリウムで加水分解してビス(メルカプトメチル)ジチエニルエテン誘導体〔B〕を合成する工程である。
反応溶媒としては、通常、ジメチルスルホキシド(DMSO)などの非プロトン性極性溶媒が用いられる。反応雰囲気は、窒素、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気が好ましい。
反応温度は、特に制限されないが、操作上、20〜50℃程度が好ましい。
反応時間は、反応の速度に依存するが、通常、10〜20時間程度である。
【0026】
[2](b)工程
この工程は、水酸化カリウム、水素化ホウ素ナトリウムの存在化、ジクロロ化合物〔C〕とビス(メルカプトメチル)ジチエニルエテン誘導体〔B〕とを希釈条件下でカップリングさせ、目的とするチオフェン誘導体〔1〕を合成する工程である。
反応溶媒としては、通常、メタノール、エタノールなどのアルコール類や、ジメチルホルムアミド(DMF)などの非プロトン性極性溶媒が用いられる。
反応温度は、溶媒の氷点から沸点の範囲であれば特に制限されないが、操作上、0〜100℃が好ましい。反応時間は、反応の速度に依存するが、通常、数時間から数日程度である。
【0027】
[3](c)工程
この工程は、(b)工程で得られたチオフェン誘導体〔1〕を光照射による分子内環化反応で閉環体チオフェン誘導体〔2〕に変換する工程である。
反応溶媒としては、出発物質が溶解し、光照射を阻害しない透明なものであれば特に制限はないが、メタノール、エタノール、アセトニトリル、アセトン、ジエチルエーテル、酢酸エチル、ピリジン、ヘキサン、シクロヘキサン、ペンタン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン等が好ましい。
反応温度は、特に制限されないが、操作上、0〜100℃程度が好ましい。
反応時間は、反応の速度に依存するが、通常、10ピコ秒〜1分程度である。
【0028】
なお、各工程に用いられる反応溶媒としては、当該反応条件下において安定であり、かつ不活性で反応を妨げないものであれば、上述した各種溶媒に限定されるものではなく、例えば、水、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、オクタノールなど)、セロソルブ類(メトキシエタノール、エトキシエタノールなど)、非プロトン性極性有機溶媒類(ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセタミド、テトラメチルウレア、スルホラン、N,N−ジメチルイミダゾリジノンなど)、エーテル類(ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなど)、脂肪族炭化水素類(ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、デカリン、石油エーテルなど)、芳香族炭化水素類(ベンゼン、クロロベンゼン、ニトロベンゼン、トルエン、キシレン、テトラリンなど)、ハロゲン系炭化水素類(クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、四塩化炭素など)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトンなど)、低級脂肪族酸エステル(酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチルなど)、アルコキシアルカン類(ジメトキシエタン、ジエトキシエタンなど)、アセトニトリル等の各種溶媒から反応の起こり易さなどに応じて適宜選択して用いることができる。これらは1種単独で、または2種以上混合して用いることができる。
なお、これらの溶媒は、必要に応じて適当な脱水剤や乾燥剤を用いて非水溶媒として用いることもできる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、実施例にて採用した分析装置は、下記のとおりである。
NMR測定装置;JEOL AL300
質量測定装置 ;JEOL JMS−GCMATE II
IR測定装置 ;Perkin Elmer FT−IR 200
元素分析装置 ;ヤナコCHNコーダー MT−5
吸収スペクトル測定装置;(株)日立製作所 U−3310
【0030】
[実施例1]3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロ−9,24,26,27−テトラメチル−8,12,21,25−テトラチアペンタシクロ−[21.2.1.1〈7,10〉0〈2,6〉0〈14,19〉]へプタコサ−1(26),2(6),7(27),9,14(19),15,17,23(24)−オクタンの合成
【化8】

【0031】
[1](a)工程
1,2−ビス(4−メルカプトメチル−3,5−ジメチルチエン−2−イル)−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン〔B〕の合成
【化9】

【0032】
1,2−ビス(4−クロロメチル−3,5−ジメチルチエン−2−イル)−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロペンテン1.97g(5.00mmol)とチオウレア760mg(10.0mmol)とをジメチルスルホキシド10mlに溶解し、窒素気流下、室温で14時間攪拌した。反応混合物を5%水酸化ナトリウム水溶液25mlに注ぎ込み、1時間攪拌した後、10%塩酸で溶液を酸性にし、析出した沈殿をクロロホルムで抽出、食塩水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧留去し、残渣をヘキサンから再結晶し、オレンジ色プリズム晶の化合物〔B〕を1.15g、収率46%で得た。
【0033】
m.p.: 129.0-131.0℃
1HNMR (300MHz, CDCl3): δ= 0.90 (t, J = 7 Hz, 2H), 1.70 (s, 6H), 2.45 (s, 6H), 3.50 (d, J = 7 Hz, 4H) ppm.
EI(m/z): 487 (M+).
【0034】
[2](b)工程
3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロ−9,24,26,27−テトラメチル−8,12,21,25−テトラチアペンタシクロ−[21.2.1.1〈7,10〉0〈2,6〉0〈14,19〉]へプタコサ−1(26),2(6),7(27),9,14(19),15,17,23(24)−オクタン
【化10】

【0035】
水酸化カリウム55.0mg(1.00mmol)と水素化ホウ素ナトリウム4.75mg(0.13mmol)とをエタノール75mlに溶解し、還流させている中に、1,2−ビス(クロロメチル)ベンゼン43.5mg(0.25mmol)と、(a)工程で得られた化合物(B)122mg(0.25mmol)のエタノール/ベンゼン(1:1)2.5ml溶液とを24時間かけて滴下した。溶媒を留去し、残渣を氷水に注ぎ、ジクロロメタンで抽出、食塩水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、ヘキサン:クロロホルム=2:1で分取し、ヘキサンより再結晶することにより、淡黄色プリズム晶の表題化合物を32mg、収率22%で得た。
【0036】
m.p.: 225.0 - 227.0℃.
1HNMR (300MHz, CD3CN, 25℃, TMS): δ= 1.80 (s, 6H), 2.45 (s, 6H), 3.40 (d, J = 15 Hz, 2H), 3.50 (d, J = 10 Hz, 2H), 3.65 (d, J = 10 Hz, 2H), 4.10 (d, J = 15 Hz, 2H), 7.20-7.30 (m, 4H) ppm.
13CNMR (75MHz, CDCl3): δ= 14.5, 27, 28, 32, 37, 43, 118, 127, 128, 132, 135, 137, 138, 142 ppm.
EI(m/z): 589(M+).
IR(KBr):1490, 1440, 1332, 1266, 1111, 1045, 982, 871, 864 cm-1
元素分析: C27H24S4F6 (590.73): calcd. C, 54.90, H, 4.10; found: C, 54.97, H, 4.13.
【0037】
[実施例2]10,10,11,11,12,12−ヘキサフルオロ−6,16,26,27−テトラメチル−3,7,15,19−テトラチアペンタシクロ−[19.3.1.1〈5,8〉1〈14,17〉0〈9,13〉]へプタコサ−1(25),5(6),8(26),9(13),14(27),16,21,(22),23−オクタンの合成
【化11】

【0038】
実施例1の(b)工程と同様にして、実施例1の(a)工程で得られた化合物〔B〕と1,3−ビス(クロロメチル)ベンゼンとから、淡黄色プリズム晶の表題化合物を29mg、収率20%で得た。
m.p.: 146.0-149.0℃.
1HNMR: (300MHz, CDCl3, 25℃, TMS): δ= 1.80 (s, 6H), 2.45 (s, 6H), 3.57 (s, 4H), 3.59 (s, 4H), 6.90-7.20 (m, 4H) ppm.
13CNMR (75MHz, CDCl3): δ= 14.4, 28, 29, 31, 37, 43, 119, 127, 128, 132, 135, 138, 140, 142 ppm.
EI(m/z): 589(M+).
IR(KBr): 1373, 1336, 1270, 1185, 1111, 1052, 982, 882, 709 cm-1
元素分析: C27H24S4F6 (590.73): C, 54.90, H, 4.10; found: C, 55.12, H, 4.22.
【0039】
[実施例3]10,10,11,11,12,12−ヘキサフルオロ−6,16,26,27−テトラメチル−3,7,15,19−テトラチアペンタシクロ−[19.2.2.1〈5,8〉1〈14,17〉0〈9,13〉]へプタコサ−1(23),5(6),8(26),9(13),14(27),16,21,(22),24−オクタンの合成
【化12】

【0040】
実施例1の(b)工程と同様にして、実施例1の(a)工程で得られた化合物〔B〕と1,4−ビス(クロロメチル)ベンゼンとから、黄色プリズム晶の表題化合物を35mg、収率24%で得た。
m.p.: 128.0-130.0℃.
1HNMR: (300MHz, CDCl3, 25℃, TMS): δ= 1.80 (s, 6H), 2.45 (s, 6H), 3.65 (s, 4H), 3.75 (s, 4H), 6.90 (s, 4H) ppm.
13CNMR: (75MHz, CDCl3): δ= 14.5, 27, 29, 33, 37, 44, 118, 128, 129, 132, 135, 137, 139, 141 ppm.
EI(m/z): 589(M+).
IR(KBr): 1594, 1472, 1270, 1188, 1041, 971, 875, 849, 768 cm-1
元素分析: C27H24S4F6 (590.73): C, 54.90, H, 4.10; found: C, 55.09, H, 4.19.
【0041】
[実施例4]吸収スペクトルの測定
吸収スペクトルの測定は、吸収スペクトル測定装置(U−3310、(株)日立製作所)を使用した。光閉環反応と光開環反応の量子収率を表1に示す。なお、光閉環反応および開環反応の量子収率は、ビス(2−メチル−1−ベンゾチエン−3−イル)ヘキサフルオロシクロペンテンのヘキサン溶液の着色および消色速度との比較により求めた(K. Uchida, E.Tsuchida, Y.Aoi, S.Nakamura, M.Irie, Chem. Lett. 1999, 63-64.)。
なお、実施例1で得られた化合物のトルエン溶液を封管し、オーブン中、100℃で5時間保存したところ、最初と最後の吸収スペクトル間に変化は認められなかった。この結果は、実施例1で得られた化合物の各光異性体が熱的に安定であり、異性化が室温下では、光照射のみで起こることを示している。
【0042】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】実施例1で得られた化合物のヘキサン溶液に紫外光を照射したときの照射時間による吸収スペクトル変化である。照射時間は、0秒、10秒、20秒、30秒、40秒、50秒、60秒である。その吸光度は、図中の「↓」,「↑」の方向へ経時変化を示した。
【図2】実施例2で得られた化合物のヘキサン溶液に紫外光を照射したときの照射時間による吸収スペクトル変化である。照射時間は、0秒、10秒、20秒、30秒、40秒、50秒、60秒である。その吸光度は、図中の「↓」,「↑」の方向へ経時変化を示した。
【図3】実施例3で得られた化合物のヘキサン溶液に紫外光を照射したときの照射時間による吸収スペクトル変化である。照射時間は、0秒、10秒、20秒、30秒、40秒、50秒、60秒である。その吸光度は、図中の「↓」,「↑」の方向へ経時変化を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式〔1〕または式〔2〕で表されることを特徴とするチオフェン誘導体。
【化1】

{式中、Aは、
【化2】

を表し、
Eは、−(CH2n−(nは、0または1を表す。)、−O−、−S−、−S(O)−、−S(O)2−、または−NR5−〔R5は、水素原子、炭素数3〜6のシクロアルキル基、炭素数1〜10のアルキル基〈該アルキル基は、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、フェニル基(該フェニル基は、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルコキシ基、または炭素数1〜10のアルキル基で任意に置換されていてもよい。)で任意に置換されていてもよい。〉、またはフェニル基(該フェニル基は、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルコキシ基、または炭素数1〜10のアルキル基で任意に置換されていてもよい。)を表す。〕を表し、
1およびR2は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基、またはフッ素原子もしくは塩素原子で任意に置換されてもよい炭素数1〜10のハロゲン化アルキル基を表すか、R1とR2とが一緒になってヘキサフルオロプロピレン基、−CO−NH−CNH−、−CO−NR5−CO−(R5は、前記に同じ。)、またはカルボン酸無水物を表し、
3およびR4は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルコキシ基、炭素数3〜6のシクロアルキル基、炭素数3〜6のシクロアルコキシ基、炭素数1〜10のアルキル基、フッ素原子もしくは塩素原子で任意に置換されてもよい炭素数1〜10のハロゲン化アルキル基、またはジフェニルアミノ基を表す。}
【請求項2】
前記R3およびR4が、それぞれ独立して、水素原子、メトキシ基、メチル基、エチル基、イソプロピル基、ターシャリーブチル基、またはトリフルオロメチル基である請求項1記載のチオフェン誘導体。
【請求項3】
前記Aが、
【化3】

であり、
前記Eが、−O−、−S−、または−NR5−〔R5は、水素原子、メチル基、エチル基〈該メチル基およびエチル基は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシル基、メトキシ基、フェニル基(該フェニル基はメトキシ基またはメチル基で置換されていてもよい。)で任意に置換されていてもよい。〉、またはフェニル基(該フェニル基はメトキシ基またはメチル基で置換されていてもよい。)を表す。〕であり、
前記R1およびR2が、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ニトロ基、シアノ基、メチル基、エチル基、イソプロピル基、ターシャリーブチル基、トリフルオロメチル基であるか、R1とR2とが一緒になってヘキサフルオロプロピレン基、−CO−NH−CNH−、−CO−NR5−CO−〔R5は、水素原子、メチル基、エチル基〈該メチル基およびエチル基は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシル基、メトキシ基、フェニル基(該フェニル基は、メトキシ基またはメチル基で置換されていてもよい。)で任意に置換されていてもよい。〉、またはフェニル基(該フェニル基は、メトキシ基またはメチル基で置換されていてもよい。)を表す。〕、またはカルボン酸無水物である請求項1または2記載のチオフェン誘導体。
【請求項4】
前記Eが、−S−であり、前記R1およびR2が、これらが一緒になってヘキサフルオロプロピレン基であり、前記R3およびR4が、メチル基である請求項1〜3のいずれか1項記載のチオフェン誘導体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載のチオフェン誘導体から成るフォトクロミック材料。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項記載のチオフェン誘導体を含有する記録層を備える光記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−335672(P2006−335672A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−161193(P2005−161193)
【出願日】平成17年6月1日(2005.6.1)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【出願人】(504209655)国立大学法人佐賀大学 (176)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】