説明

チオ尿素を使用した無電解メッキ液、及びこれを用いた無電解メッキ方法及び無電解メッキ被処理物

【課題】本発明の目的は、被処理物との密着性が極めて良好なフッ素樹脂被膜を有する無電解メッキ被処理物及びその無電解メッキ方法、並びにそのために使用される無電解メッキ液を提供することである。
【解決手段】本発明は、金属塩と、金属錯化剤と、還元剤とを含有し、更に50〜100ppmのチオ尿素を含有する第1の無電解メッキ液中に被処理物を曝すことにより前記被処理物の表面上に第1メッキ層を形成する工程と、フッ素樹脂、金属塩、金属錯化剤、還元剤、及び界面活性剤を含有する第2の無電解メッキ液に前記被処理物をさらに曝すことにより前記第1メッキ層上に第2メッキ層を形成する工程と、を含むことを特徴とする無電解メッキ方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解メッキ液、及びこれを用いた無電解メッキ法及び無電解メッキ被処理物に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素樹脂は化学薬品に対する耐久性が極めて強く、電気的性質も優れ、高温にも安定であるという諸特性を具備していることより、従来より、機械部品、電気、電子部品等の表面にフッ素樹脂をコーティングすることが一般的に行われている。このようなフッ素樹脂をコーティングの被処理物に対する密着性を向上させるため、予め被処理物の表面を粗化形成処理をした後にフッ素樹脂をコーティングする方法が一般的に行われているほか、無機又は有機バインダーによる処理を行った後、層厚が100〜200μm程度になるようにフッ素樹脂を比較的厚くコーティングする方法も行われている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6報参照)。
【0003】
しかしながら、上記従来技術のように、被処理物の表面を粗化形成処理後、粗化面にフッ素樹脂コーティングする方法では、凹凸の形状によっては次のような不具合が生じる場合がある。つまり凹部と凸部との高低差が1μ程度のあまり高くない凹凸形状の粗面化が形成された場合、フッ素樹脂によるメッキ層が凹部を埋め尽くして凹凸の高さが殆どなくなり、フッ素樹脂の密着性が著しく低く、剥離等が発生するという問題点があった。
【0004】
また、フッ素樹脂は、比較的高価であるため、フッ素樹脂の層厚を薄くし、フッ素樹脂の使用量を少量化して低コストを図ることが市場から要請されている。しかしながら、フッ素樹脂のコーティングを単に薄くするのみでは、フッ素樹脂とフッ素樹脂コーティング物との摩擦係数の低さを理由に密着性が極めて悪く、しかも被膜にピンホールが発生しやすく、層厚の薄いフッ素樹脂コーティング被膜を形成することは不可能であるという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−328121号公報
【特許文献2】特開2000−328256号公報
【特許文献3】特開平4−365875号公報
【特許文献4】特公平1−60584号公報
【特許文献5】特開昭61−234202号公報
【特許文献6】特開昭51−1112348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、被処理物との密着性が極めて良好なフッ素樹脂被膜を有する無電解メッキ被処理物及びその無電解メッキ方法、並びにそのために使用される無電解メッキ液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記諸問題を解決するために鋭意研究を行った結果、被処理物をアンモニア水及びチオ硫酸塩を含有する組成液及びチオ尿素から選択される少なくとも1つを含む第1のメッキ液に曝して第1のメッキ層を形成し、該第1メッキ層の表面にフッ素樹脂を含有する第2メッキ液に曝して第2のメッキ層を形成することにより、密着性の極めて良好なフッ素樹脂被膜の薄膜が形成されることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明の最初の実施態様において、金属塩と、金属錯化剤と、還元剤と、アンモニア水及びチオ硫酸塩を含有する組成液並びにチオ尿素からなる群のうち少なくとも1つと、を含有することを特徴とする無電解メッキ液を提供する。
【0009】
上記本発明に係る無電解メッキ液において、前記チオ尿素の濃度が0.1〜100ppmであることができる。
【0010】
上記本発明に係る無電解メッキ液において、前記金属錯化剤が乳酸であることができる。
【0011】
上記本発明に係る無電解メッキ液において、前記金属錯化剤の濃度が1〜100g/lであることができる。
【0012】
上記本発明に係る無電解メッキ液において、前記金属塩がニッケル塩、コバルト塩、クロム塩、チタン塩、及び次亜リン酸塩からなる群から選択された少なくとも1種以上であることができる。
【0013】
本発明の第2の実施態様において、上記の第1の無電解メッキ液中に被処理物を曝すことにより前記被処理物の表面上に第1メッキ層を形成する工程と、フッ素樹脂、金属塩、金属錯化剤、還元剤、及び界面活性剤を含有する第2の無電解メッキ液に前記被処理物をさらに曝すことにより前記第1メッキ層上に第2メッキ層を形成する工程と、を含むことを特徴とする無電解メッキ方法を提供する。
【0014】
上記本発明に係る無電解メッキ方法において、前記第2の無電解メッキ液に含有される前記金属塩がニッケル塩、コバルト塩、クロム塩、チタン塩、及び次亜リン酸塩からなる群から選択された少なくとも1種以上であることができる。
【0015】
上記本発明に係る無電解メッキ方法において、前記第2の無電解メッキ液に含有される前記界面活性剤がカチオン系界面活性剤及び非イオン界面活性からなる群のうち少なくとも1つであることができる。
【0016】
上記本発明に係る無電解メッキ方法において、前記第2の無電解メッキ液に含有されるフッ素樹脂の濃度が20〜60g/lであることができる。
【0017】
本発明の第3の実施態様において、上記無電解メッキ方法により得られることを特徴とするメッキ被処理物を提供する。
【0018】
上記の本発明に係るメッキ被処理物において、メッキ硬度が400HV以上であることができる。
【0019】
上記の本発明に係るメッキ被処理物において、メッキ密着強度が350kgf/cm以上であることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、メッキ被処理物に第1のメッキ層を形成した状態を示す断面図である。
【図2】図2は、メッキ被処理物に第1のメッキ層及び第2のメッキ層を形成した状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本願発明に係る無電解メッキ液、及びこれを用いた無電解メッキ方法及び無電解メッキ被処理物の好ましい形態について詳細に説明する。
【0022】
本願発明に係る無電解メッキ液(第1の無電解メッキ液)は、金属塩と、金属錯化剤と、還元剤と、アンモニア水及びチオ硫酸塩を含有する組成液並びにチオ尿素からなる群のうち少なくとも1つと、を含有する。さらに、本発明に係る無電解メッキ方法は、上記の無電解メッキ液(第1の無電解メッキ液)中に被処理物を曝すことにより前記被処理物の表面上に第1メッキ層を形成する工程と、フッ素樹脂、金属塩、金属錯化剤、及び界面活性剤を含有する第2の無電解メッキ液に前記被処理物をさらに曝すことにより前記第1メッキ層上に第2メッキ層を形成する工程とを含む。なお、第1図は、メッキ被処理物に第1のメッキ層を形成した状態を概念的に示す断面図である。第2図は、メッキ被処理物に第1のメッキ層及び第2のメッキ層を形成した状態を概念的に示す断面図である。1は被処理物を、2は凸部を、3は凹部を、4は第1メッキ層を、5は第2メッキ層を示す。
【0023】
上記「無電解メッキ」とは、通電せずに被処理物上にメッキする方法である。
【0024】
上記被処理物には、金属製品、アルミナ製品、ゴム製品、合成樹脂などの広範な素材を用いることができる。なお、被処理物は、各材質に応じ、被処理物との密着性向上等のための前処理をしておくことが望ましい。
【0025】
上記第1の無電解メッキ中に含有される金属塩には、ニッケル塩、コバルト塩、クロム塩、チタン塩、次亜リン酸塩などが含まれ、単独でまたは組み合わせて用いることができるが、これらに限定するものではない。ニッケル塩及びコバルト塩からなる群から選択された少なくとも1種以上であることが好ましい。
【0026】
本発明の第1の無電解メッキ液には含有される金属錯化剤は金属塩と錯体を形成する有機物等であるが、被処理物上に好ましい凹面が得られるものが好ましい。限定するものではないが、金属錯化剤として乳酸を用いることが好ましい。金属錯化剤がメッキ液中で還元された場合、メッキ溶液中に金属錯化剤の粉末微粒子が生成するが、約2〜3μmの大きな金属錯化剤粉末微粒子が生成する場合には、液中で不安定になり、液分解を促すため、凹面を得るのに好ましくない。乳酸では微粒子粉末が1μm以下であるため、液分解が小さく、凹面を得るのに好ましい。なお、第2の無電解メッキ液に含有される金属錯化剤はグリシンなどの慣用のものを用いることができる。
【0027】
上記第1の無電解メッキ液中に含有される金属錯化剤の濃度は、1〜100g/lであることが好ましく、約10〜20g/lがさらに好ましい。メッキ液中の金属錯化剤の濃度を増加させるとメッキ層が粗化し、メッキ層表面の凹凸の程度(高低差)が大きくなり、フッ素樹脂コーティングとの良好な密着性が得ることができる。金属錯化剤の濃度が上記範囲においてはフッ素コーティングに適した凹凸の高低差が得られ、かつ、液分解がなくなるため、フッ素樹脂コーティングとの特に好ましい密着性が得られる。
【0028】
上記第1の無電解メッキ液に含有されるアンモニア水及びチオ硫酸塩を含有する組成液及びチオ尿素は、メッキ層表面に形成される凹凸の凸部の高さを均一化するのに用いることができ、これによりフッ素樹脂コーティングと非常に良好な密着性を有する被処理物が得られる。以下、より詳細に説明する。上記の通り、低濃度の金属錯化剤を含む無電解メッキ液(第1無電解メッキ液)で被処理物をメッキした場合にはメッキ層の表面は凹凸が殆どなく、このような凹凸の程度(高低差)が小さい表面を有するメッキ層の上にフッ素樹脂でコーティングを施しても良好なフッ素樹脂コーティングが得られない。一方、メッキ液中の金属錯化剤の濃度を増加させるに従ってメッキ層が粗化し、メッキ層表面における凹凸の程度(高低差)が大きくなるが、凸部の高さが不均一で一定化しないメッキ層が形成される。このような表面凸部の高さが不均一なメッキ層の上にフッ素樹脂コーティングを施しても密着性が良好なフッ素樹脂コーティングが得られない。本発明者らは、被処理物表面に形成される第1メッキ層を形成する際に第1無電解メッキ液に上記組成液またはチオ尿素またはこれらの混合物を含有することにより、第1メッキ層表面の凸部の高さが均一化された、すなわち、メッキ層平坦表面に凹部のみが形成された第1メッキ層が形成され、この第1メッキ層の上にフッ素樹脂を含む第2の無電解メッキ液でフッ素樹脂コーティングを行うと、被処理物との密着性が非常に良好なフッ素樹脂コーティングを有することを見出し、本発明に至ったものである。なお、上記組成液やチオ尿素を用いると表面の凸部の高さが一定化され、平坦部に凹部のみが形成されたメッキ層が形成されるメカニズムは未だ解明されていないが、上記組成液やチオ尿素が何らかの形で凹凸の析出を抑制しているものと思われる。
【0029】
上記アンモニア水及びチオ硫酸塩を含有する組成液に含有されるチオ硫酸塩としては、チオ硫酸ナトリウムなどとして用いることができる。上記第1の無電解メッキ液に含有されるアンモニア水及びチオ硫酸塩を含有する組成液にはさらに塩素などを含有することができる。
【0030】
上記第1の無電解メッキ液に含有される上記組成液の含有量は、良好な密着性を有するフッ素樹脂コーティングを得る観点から、1〜40g/lであることが好ましく、10〜30g/lであることがさらに好ましい。
【0031】
無電解メッキ液中に含有されるチオ尿素の含有量は、良好な密着性を有するフッ素樹脂コーティングを得る観点から、第1の無電解メッキ液中に含有されるチオ尿素の濃度は0.1〜100ppmであることが好ましく、より好ましくは50〜100ppmであることが好ましい。なお、チオ尿素を多量に用いると毒性作用が強くなり、フッ素樹脂と反応して樹脂が分解し、フッ素樹脂の被膜生成が困難となるが、上記の濃度範囲であれば良好なフッ素樹脂コーティングが得られる。
【0032】
上記第1の無電解メッキ液及び第2の無電解メッキ液に含有される還元剤は慣用のものを用いることができ、例えば、水素化ホウ素ナトリウムなどを用いることができる。
【0033】
上記第1の無電解メッキ液及び第2の無電解メッキ液のpHは、これらのメッキ液に含有される金属塩が金属として析出できるpHであればよい。メッキ液中の金属塩は乳酸と安定な可溶性錯体を形成しているが、pHの上昇に伴って遊離の金属イオン濃度が低下し、平衡電位が負の方向に移動するため、pHが高すぎると金属が析出しにくくなる一方、pHが低すぎても被膜が再溶解するため、金属が析出しにくくなる。本発明のメッキ処理において良好に金属析出を行うために、第1の無電解メッキ液及び第2の無電解メッキ液のpHは、4.1〜6.0がより好ましい。
【0034】
上記第2の無電解メッキ液に含有するフッ素樹脂はフッ素基を含有する樹脂をいい、テトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素樹脂を用いることができる。第2の無電解メッキ液中のフッ素樹脂の含有濃度は用途に応じて任意に選択することができ、20〜60g/lが好ましいが、これに限定するものではない。
【0035】
上記第2無電解メッキ液に含有される界面活性剤は、複合化する物質の沈殿を防ぎ、第1メッキ層の凹部にフッ素樹脂の分散侵入が良好になるように、フッ素樹脂の分散剤としての機能を発揮する。このような界面活性剤には、カチオン系界面活性剤及び非イオン界面活性からなる群のうち少なくとも1つ用いることが好ましい。カチオン系界面活性剤には、第4アンモニウム塩、第2アミン類、第3アミン類、インダゾリン類が含まれ、非イオン界面活性には、ポリオキシエチレン系、ポリエチレン系、カルボン酸系、スルホン酸系の非イオン界面活性を用いることができるが、これらに限定するものではない。また、分子内に炭素元素やフッ素原子の結合を有するフッ素界面活性剤を用いることも好ましい。第2無電解メッキ液中の界面活性剤の含有量は、0.1〜1g/lが好ましく、0.1〜0.5g/lがより好ましい。上記範囲で金属塩を含有するフッ素樹脂が第1メッキ層の凹部に良好に分散侵入することができる一方で、第2メッキ層の表面粗度が低く適度な滑らかな表面とすることができるからである。なお、第2無電解メッキ液には、第1メッキ層の凹部にフッ素樹脂の分散侵入が一層良好にするため、分散補助剤を含有することが好ましい。このような分散補助剤には酸化セリウム、炭化ケイ素が含まれるが、これらに限定するものではない。
【0036】
上記本発明の無電解メッキ処理工程は、メッキ業界で通常行われている無電解メッキ方法と同様にして行うことができる。以下、メッキ処理工程の例示説明をするが、これに限定するものではない。まず、被処理物を液温約60〜70℃の上記第1無電解メッキ液に約5〜30分間浸漬した後に取り出し、水洗した後、常温約25℃環境下に放置し、乾燥する。上記第1無電解メッキ液でメッキ処理することにより得られるメッキ層は凸部の高さが均一化されている。次いで、第1メッキ液で処理された被処理物を液温約60〜70℃の第2無電解メッキ液に約60〜120分間浸漬した後に取り出し、水洗した後、常温約25℃環境下に放置し乾燥する。次いで、第1メッキ層及び第2メッキ層が表面に被着形成された被処理物を約300〜500℃に昇温保持した炉内に配設し、約10〜60分間放置して焼付け処理を行い、被処理物の表面にフッ素樹脂コーティングを有する本発明に係るメッキ被処理物を得る。
【0037】
以下、上記本発明に係る無電解メッキ方法によりメッキされたメッキ被処理物について説明する。メッキ被処理物の第1メッキ層の膜厚は、被処理物とのフッ素樹脂との密着性を得るため、0.1〜50μmであることが好ましく、0.1〜10μmがより好ましい。メッキ被処理物の第2メッキ層の膜厚も、良好なフッ素樹脂の密着性を発揮できる膜厚とするために、0.1〜50μmであることが好ましく、0.1〜30μmがより好ましい。
【0038】
上記の方法により得られるメッキ被処理物は、フッ素樹脂コーティングと被処理物とが優れた密着性を有し、350kgf/cm、好ましくは600kgf/cm以上、750kgf/cm以上の密着強度を有する。また、上記の方法により得られるメッキ被処理物は、400HV以上の硬度を有するが、好ましくは500HV以上の硬度、さらに好ましくは950HV以上の硬度を有する。
【実施例】
【0039】
以下に本発明に係る無電解メッキ液、これを用いた無電解メッキ方法及びメッキ被処理物の具体例を示すが、該実施例は本発明の実施態様の例示であり、これらに何ら限定されるものでない。なお、各実施例で得られたメッキ処理物について、以下の測定条件の下、表面粗さ測定、メッキ硬度測定、メッキ密着強度測定、耐腐食性試験、及び表面分析を行った。
【0040】
表面粗さ測定は蛍光X線方式を用いて行った。
【0041】
メッキ密着強度測定は、JIS B7721に規定する金属折り曲げ方式(すなわち、金属板を折り曲げ、その折り曲げる力によって表面処理の剥れを確認する方式)より測定した。
【0042】
メッキ硬度測定では、硬度計として、島津微小硬度計HNV−2000(株)(島津製作所製)を用いた。
【0043】
耐腐食性試験は、(A)100℃の塩酸液(濃度36.47%)に60分間浸透後、液中より取り出し、水洗後、常温に放置して乾燥する、(B)100℃の水酸化ナトリウム液(濃度50%)に80分間浸透後、液中より取り出し、常温に放置して乾燥する、(C)100℃のトリクレン液(濃度50%)(フッ酸液、塩酸液、硫酸液共に濃度20%)、温度25℃、24時間浸透後、液中より取り出し、純水洗浄後常温乾燥したものをそれぞれ、電子顕微鏡(Scanning Electron Microsco)を用いて表面を50000倍に拡大して観察することにより調べた。
【0044】
表面分析は、粒子の欠落やピンホールの発生があるか否かを調べるためのものである。被処理物の表面を電子顕微鏡により50000倍に拡大して観察することにより調べた。
【0045】
(実施例1)
硫酸ニッケル40g/l、酢酸コバルト25g/l、次亜リン酸ナトリウム0.5g/l、金属錯化剤としての乳酸10g/l、及びアンモニア水40重量%とチオ硫酸ナトリウム50重量%と塩素10重量%とからなる組成液40g/lを含有させ、液のpHを5.8、液温80℃に保持された第1の無電解メッキ液中に、ステンレス板(JlS規格SUS304)を30分間浸漬後、このステンレス板を第1の無電解メッキ液より取出し、水洗後常温環境下に放置し乾燥した。ステンレス板の表面粗さは0.18μmであった。ステンレス板の表面には、平坦面に溝の深さが約4μmの凹部を有する層厚5μmの第1のメッキ層が形成された。
【0046】
次いで、上記第1メッキ層を有するステンレス板をさらに、70℃に保持された第1の無電解メッキ液中に20分間浸漬後、このステンレス板を第2の無電解メッキ液より取出し、水洗後常温環境下に放置し乾燥した。上記第2の無電解メッキ液には、硫酸ニッケル30g/l、酢酸コバルト20g/l、次亜リン酸ナトリウム0.5g/l、金属錯化剤としてグリシン0.5g/l、分散補助剤としての酸化セリウム15g/l、フッ素樹脂としてポリテトラフルオロエチレン(PTEF)60g/l、表面安定効果として酸化リン10g/l、カチオン性界面活性剤であるメガファックF−150(大日本インキ工業(株))、及び非イオン界面活性剤であるTritomnx−100(石津製薬(株))を含有させ、液のpHを3.5した。上記ステンレス板の第1メッキ層上には、ブロンズ色を有する、層厚7μmの第2のメッキ層が形成された。この第2のメッキ層の表面はPTFEにより平坦面となっていた。
【0047】
第1及び第2メッキ層が表面に被着形成されたステンレス板を380℃に昇温保持した炉内に配設し、30分間放置して焼付け処理を行い、無電解メッキによる薄膜が表面に形成された最終製品である被メッキ被処理物を得た。
【0048】
上記最終被メッキ被処理物の表面粗さは0.81μmであった。上記の通り、第1メッキ層の表面粗さ及びステンレス板の表面粗さはそれぞれ0.35μm及び0.18μmであり、このことは最終被メッキ被処理物(第2メッキ層)の表面粗さが極めて滑らかであることが分かる。
【0049】
また、上記のようにして得られた薄膜のメッキ硬度は480HVという極めて高い値であった。また、最終被メッキ被処理物のメッキ密着密度は750kgf/cmであった。さらに、耐腐食性試験として上記(A)から(C)を行ったが、いずれの場合にも粒子の欠落やピンホールの異常は見られず、何ら変化はなかった。
【0050】
(実施例2)
硫酸ニッケル30g/l、酢酸コバルト20g/l、次亜リン酸ナトリウム0.5g/l、金属錯化剤としての乳酸1.5g/l、及びアンモニア水40重量%とチオ硫酸ナトリウム50重量%と塩素10重量%とからなる組成液15g/lを含有させ、液のpHを5.3、液温70℃に保持された第1の無電解メッキ液中に、ステンレス板(JlS規格SUS304)を20分間浸漬後、このステンレス板を第1の無電解メッキ液より取出し、水洗後常温環境下に放置し乾燥した。ステンレス板の表面粗さは約1μmであった。ステンレス板の表面には、平坦面に溝の深さが約3μmの凹部を有する層厚10μmの第1のメッキ層が形成された。
【0051】
次いで、上記第1メッキ層を有するステンレス板をさらに、70℃に保持された第1の無電解メッキ液中に20分間浸漬後、このステンレス板を第2の無電解メッキ液より取出し、水洗後常温環境下に放置し乾燥した。上記第2の無電解メッキ液には、硫酸ニッケル40g/l、酢酸コバルト20g/l、次亜リン酸ナトリウム0.5g/l、金属錯化剤としてグリシン0.5g/l、分散補助剤としての酸化セリウム1.5g/l、フッ素樹脂としてポリテトラフルオロエチレン(PTEF)40g/l、還元剤としての酸化チタン1.5g/l、カチオン性界面活性剤であるメガファックF−150(大日本インキ工業(株))、及び非イオン界面活性剤であるTritomnx−100(石津製薬(株))を含有させ、液のpHを5.3とした。上記ステンレス板の第1メッキ層上には、ブロンズ色を有する、層厚10μmの第2のメッキ層が形成された。この第2のメッキ層の表面はTEFにより平坦面となっていた。
【0052】
第1及び第2メッキ層が表面に被着形成されたステンレス板を70℃に昇温保持した炉内に配設し、20分間放置して焼付け処理を行い、無電解メッキによる薄膜が表面に形成された最終製品である被処理物を得た。
【0053】
上記最終被メッキ被処理物の表面粗さは5μmであった。上記の通り、第1メッキ層の表面粗さ及びステンレス板の表面粗さはそれぞれ3μm及び4μmであり、このことは最終被メッキ被処理物(第2メッキ層)の表面粗さが極めて滑らかであることが分かる。
【0054】
また、上記のようにして得られた薄膜のメッキ硬度は980HVという極めて高い値であった。また、最終被メッキ被処理物のメッキ密着密度は750kgf/cmであった。さらに、耐腐食性試験として上記(A)から(C)を行ったが、いずれの場合にも粒子の欠落やピンホールの異常は見られず、何ら変化はなかった。
【0055】
(実施例3)
硫酸ニッケル40g/l、酢酸コバルト40g/l、次亜リン酸ナトリウム0.5g/l、金属錯化剤としての乳酸1.5g/l、及びアンモニア水40重量%とチオ硫酸ナトリウム50重量%と塩素10重量%とからなる組成液1.5g/lを含有させ、液のpHを6.0、液温75℃に保持された第1の無電解メッキ液中に、ステンレス板(JlS規格SUS304)を30分間浸漬後、このステンレス板を第1の無電解メッキ液より取出し、水洗後常温環境下に放置し乾燥した。ステンレス板の表面粗さは3μmであった。ステンレス板の表面には、平坦面に溝の深さが約3μmの凹部を有する層厚10μmの第1のメッキ層が形成された。
【0056】
次いで、上記第1メッキ層を有するステンレス板をさらに、70℃に保持された第1の無電解メッキ液中に20分間浸漬後、このステンレス板を第2の無電解メッキ液より取出し、水洗後常温環境下に放置し乾燥した。上記第2の無電解メッキ液には、硫酸ニッケル20g/l、酢酸コバルト15g/l、次亜リン酸ナトリウム0.5g/l、金属錯化剤としてグリシン0.5g/l、分散補助剤としての酸化セリウム0.5g/l、フッ素樹脂としてポリテトラフルオロエチレン(PTEF)45g/l、還元剤としての酸化チタン10g/lカチオン性界面活性剤であるメガファックF−150(大日本インキ工業(株))、及び非イオン界面活性剤であるTritomnx−100(石津製薬(株))を含有させ、液のpHを5.8とした。上記ステンレス板の第1メッキ層上には、ブロンズ色を有する、層厚10μmの第2のメッキ層が形成された。この第2のメッキ層の表面はTEFにより平坦面となっていた。
【0057】
第1及び第2メッキ層が表面に被着形成されたステンレス板を70℃に昇温保持した炉内に配設し、20分間放置して焼付け処理を行い、無電解メッキによる薄膜が表面に形成された最終製品である被メッキ被処理物を得た。
【0058】
上記最終被メッキ被処理物の表面粗さは2μmであった。上記の通り、第1メッキ層の表面粗さ及びステンレス板の表面粗さはそれぞれ1μm及び2μmであり、このことは最終被メッキ被処理物(第2メッキ層)の表面粗さが極めて滑らかであることが分かる。
【0059】
また、上記のようにして得られた薄膜のメッキ硬度は480HVという極めて高い値であった。また、最終被メッキ被処理物のメッキ密着密度は750kgf/cmであった。さらに、耐腐食性試験として上記(A)から(C)を行ったが、いずれの場合にも粒子の欠落やピンホールの異常は見られず、何ら変化はなかった。
【0060】
(実施例4)
硫酸ニッケル30g/l、酢酸コバルト10g/l、次亜リン酸ナトリウム0.5g/l、金属錯化剤としての乳酸15g/l、及びアンモニア水40重量%とチオ硫酸ナトリウム50重量%と塩素10重量%とからなる組成液15g/lを含有させ、液のpHを5.3、液温70℃に保持された第1の無電解メッキ液中に、ステンレス板(JlS規格SUS304)を20分間浸漬後、このステンレス板を第1の無電解メッキ液より取出し、水洗後常温環境下に放置し乾燥した。次いで、上記実施例1と同じ第2無電解メッキ液を用いて同様にメッキ処理し、同様の条件で焼付け処理を行ってメッキ被処理物を得た。
【0061】
ステンレス板の表面には、平坦面に溝の深さが約2μmの凹部を有する層厚2μmの第1のメッキ層が形成された。上記第1メッキ層上には、ブロンズ色を有する、層厚15μmの第2のメッキ層が形成された。
【0062】
上記最終被メッキ被処理物の表面粗さは2μmであった。第1メッキ層の表面粗さ及びステンレス板の表面粗さはそれぞれ2μm及び5μmであり、このことは最終被メッキ被処理物(第2メッキ層)の表面粗さが極めて滑らかであることが分かる。
【0063】
また、上記のようにして得られた薄膜のメッキ硬度は480HVという極めて高い値であった。また、最終被メッキ被処理物のメッキ密着密度は780kgf/cmであった。さらに、耐腐食性試験として上記(A)から(C)を行ったが、いずれの場合にも粒子の欠落やピンホールの異常は見られず、何ら変化はなかった。
(実施例5)
硫酸ニッケル40g/l、酢酸コバルト5g/l、次亜リン酸ナトリウム20g/l、金属錯化剤としての乳酸15g/l、及びチオ尿素0.5ppmを含有させ、液のpHを5、液温60℃に保持された第1の無電解メッキ液中に、ステンレス板(JlS規格SUS304)を20分間浸漬後、このステンレス板を第1の無電解メッキ液より取出し、水洗後常温環境下に放置し乾燥した。次いで、上記実施例1と同じ第2無電解メッキ液を用いて同様にメッキ処理し、同様の条件で焼付け処理を行ってメッキ被処理物を得た。ステンレス板の表面には、平坦面に溝の深さが約2μmの凹部を有する層厚3μmの第1のメッキ層が形成された。上記第1メッキ層上には、ブロンズ色を有する、層厚10μmの第2のメッキ層が形成された。
【0064】
上記最終被メッキ被処理物の表面粗さは4μmであった。第1メッキ層の表面粗さ及びステンレス板の表面粗さはそれぞれ2μm及び3μmであり、このことは最終被メッキ被処理物(第2メッキ層)の表面粗さが極めて滑らかであることが分かる。
【0065】
また、上記のようにして得られた薄膜のメッキ硬度は480HVという極めて高い値であった。また、最終被メッキ被処理物のメッキ密着密度は780kgf/cmであった。さらに、耐腐食性試験として上記(A)から(C)を行ったが、いずれの場合にも粒子の欠落やピンホールの異常は見られず、何ら変化はなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属塩と、金属錯化剤と、還元剤とを含有し、更に50〜100ppmのチオ尿素を含有する第1の無電解メッキ液中に被処理物を曝すことにより前記被処理物の表面上に第1メッキ層を形成する工程と、
フッ素樹脂、金属塩、金属錯化剤、還元剤、及び界面活性剤を含有する第2の無電解メッキ液に前記被処理物をさらに曝すことにより前記第1メッキ層上に第2メッキ層を形成する工程と、を含むことを特徴とする無電解メッキ方法。
【請求項2】
前記金属錯化剤が乳酸であることを特徴とする請求項1に記載の無電解メッキ方法。
【請求項3】
前記金属錯化剤の濃度が1〜100g/lであることを特徴とする請求項1または2に記載の無電解メッキ方法。
【請求項4】
前記金属塩がニッケル塩、コバルト塩、クロム塩、チタン塩、及び次亜リン酸塩からなる群から選択された少なくとも1種以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の無電解メッキ方法。
【請求項5】
前記第2の無電解メッキ液に含有される前記金属塩がニッケル塩、コバルト塩、クロム塩、チタン塩、及び次亜リン酸塩からなる群から選択された少なくとも1種以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の無電解メッキ方法。
【請求項6】
前記第2の無電解メッキ液に含有される前記界面活性剤がカチオン系界面活性剤及び非イオン界面活性からなる群のうち少なくとも1つであることを特徴とする請求項1または5に記載の無電解メッキ方法。
【請求項7】
前記第2の無電解メッキ液に含有されるフッ素樹脂の濃度が20〜60g/lであることを特徴とする請求項1、5または6に記載の無電解メッキ方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の無電解メッキ方法により得られることを特徴とするメッキ被処理物。
【請求項9】
メッキ硬度が400HV以上であることを特徴とする請求項8に記載のメッキ被処理物。
【請求項10】
メッキ密着強度が350kgf/cm以上であることを特徴とする請求項8または9に記載のメッキ被処理物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−102750(P2009−102750A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−33259(P2009−33259)
【出願日】平成21年2月16日(2009.2.16)
【分割の表示】特願2004−535952(P2004−535952)の分割
【原出願日】平成15年9月11日(2003.9.11)
【出願人】(000108797)エスペック株式会社 (282)
【Fターム(参考)】