説明

チタニアナノチューブアレイ及びその形成方法

【課題】チタニアナノチューブアレイを提供すること、また、チタニアナノチューブの底の開閉状態を制御することができるチタニアナノチューブアレイの形成方法を提供すること、さらにまた、短尺化されたチタニアナノチューブからなるチタニアナノチューブアレイの形成方法を提供すること。
【解決手段】両端が開いた形状を有し、垂直に配向したチタニアナノチューブが、面内に配列してなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタニアナノチューブアレイ及びその形成方法に関し、詳しくは、陽極酸化の処理条件を特定の条件とすることによりチタニアナノチューブの形成形状を制御するチタニアナノチューブアレイの形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化チタン(以下、チタニアと略称する)は、太陽エネルギーの紫外線成分を吸収して、優れた光触媒性能を発現することから、揮発性有機化合物の分解、大気汚染物質の除去、殺菌、防汚等、環境分野での応用展開がなされている。
【0003】
また、水の光分解による水素製造のための触媒体や色素増感太陽電池の電極材料等、エネルギー分野での応用展開も盛んである。
【0004】
上記のようなチタニアの応用展開において、さらに高性能化・高機能化を図るには、チタニア材料の比表面積を増大させることが有効である。
【0005】
比表面積を増大させるために、チタニア粉末をアルカリ処理することでナノチューブ形状に形成する方法が提案されている(例えば、非特許文献1、特許文献1参照)。
【0006】
ナノチューブ形状のチタニアを形成するその他の方法として、チタン基板表面を陽極酸化する際に、チタン基板表面に対して垂直に配列したアレイ状のチタニアナノチューブを自己組織化的に形成させる方法がある(例えば、非特許文献2参照)。
【0007】
陽極酸化とは、金属を陽極として、電解質溶液中で通電することにより、金属表面に酸化皮膜を作る方法である。
【0008】
陽極酸化により形成されるナノチューブは、微小均一で、実質的に互いに平行で、ほぼ等間隔に分布する。
【0009】
一般に、チタニアナノチューブは、チタン金属表面をフッ化物化合物を含む電解質溶液に、100mV〜30Vの範囲から選択される化成電圧で、約1分〜2時間、またはこれを超える時間にわたって曝露することにより形成される。
【0010】
また、陽極酸化によるチタニアナノチューブの自己組織化的な形成過程は、例えば図1を用いて以下のように説明される(例えば、非特許文献3、非特許文献4参照)。
【0011】
電解質溶液中で、チタンは下記(1)式のように酸化される。
Ti+2HO → TiO+4H+4e ・・・(1)
さらに、電解質溶液中に含まれるフッ素の影響によって、酸化物表面では、下記の反応式(2)で表される局所的な溶解が生じる。
TiO+6F+4H → [TiF2−+2HO ・・・(2)
陽極酸化初期においては、図1(a)に示すように、チタン基板11表面に酸化物皮膜12が直ちに形成されるとともに、酸化物皮膜12の表面にはさらに微小なピット13が形成される。
【0012】
さらに、陽極酸化初期において形成されたピット13のうちの幾つかは、酸化物皮膜12の成長が進行するのにしたがって、数〜数百nmの周期性を持つナノポーラス構造へと変化し、やがて図1(b)に示すようなチタニアナノチューブアレイ14へと変化する。
【0013】
また、チタニアナノチューブアレイ14中の各々のチタニアナノチューブの成長は、図1(c)に示されるように、上記(1)式の反応はTiとTiOの界面で進行し、上記(2)式の反応はTiOと電解質溶液の界面で進行する。
【0014】
ナノチューブの孔径は、印加化成電圧と電解質溶液中のフッ化物化合物の濃度によって数〜数百nmの範囲で大きく変化することが知られている。
【0015】
さらに、ナノチューブの自然長は、ナノチューブの成長が進行するのにしたがって、上記(1)式の反応と上記(2)式の反応の速度がほぼ同じになり、数百nm〜数μmの範囲で一定となることが知られている。
【0016】
これまでに、ナノチューブを長尺化して、より高い比表面積とするための工夫がなされおり、例えば250μmの自然長を有するチタニアナノチューブアレイの形成も報告されている(例えば、非特許文献5参照)。
【0017】
さらに、チタニアナノチューブアレイの多様な応用展開を図るために、シリコン基板やガラス基板上にチタン薄膜を形成し、該チタン薄膜を陽極酸化してチタニアナノチューブアレイを形成させる研究及び、チタニアナノチューブに金属、細胞、薬剤等の有機・無機の異種材料を担持もしくは内包させる研究も行なわれている。以下にその詳細について説明する。
【0018】
チタニアナノチューブアレイは、水素センサの感応電極や(例えば非特許文献6、特許文献2参照)、酵素センサ用の担体としての研究がなされている(例えば、非特許文献7参照)。該水素センサや酵素センサ等のガスセンサやバイオセンサは、例えば水素ガス用センサと揮発性有機物質用センサを同一基板上に配列する等、微細化と集積化をすることにより、さらに高機能化・高性能化されたデバイスとすることができる。
【0019】
チタニアナノチューブアレイを用いた各種のセンサを微細化及び集積化するためには、シリコン基板やガラス基板を用いた既存のリソグラフィ技術を用いることが重要である。
【0020】
またチタニアナノチューブアレイは、磁性金属微粒子を内包させて規則的に配列させるための高密度磁気メモリ用構造基材や(例えば、非特許文献8参照)、血管内皮細胞等の培養担体(例えば、非特許文献9参照)、薬剤溶出性ステントとしての研究(例えば、非特許文献10参照)もなされている。
【0021】
チタニアナノチューブに磁性金属を内包させて該高密度磁気メモリに応用させるためには、チタニアナノチューブは両端が開いた形状を有することにより、磁性金属が下地のシリコン基板と直接界面を形成させることが望ましい。
【0022】
チタニアナノチューブに薬剤を内包させて薬剤溶出性ステントに応用させるためには、チタニアナノチューブは底が閉じた形状を有することにより、薬剤が漏れないように形成させることが望ましい。
【0023】
チタニアナノチューブアレイを電界効果トランジスタ型のガスセンサのための感応電極に応用させるためには、チタニアナノチューブは底が閉じた形状を有することにより、チタニアナノチューブの底が下地のシリコン基板と界面を形成させることが望ましい。
【0024】
磁性金属をチタニアナノチューブに内包させて高密度磁気メモリを高性能化させるためには、チタニアナノチューブの自然長、外径を短尺小径化させて微細化、集積化及び高感度化させることが重要である。
【0025】
電界効果トランジスタ型のガスセンサのための感応電極にチタニアナノチューブを用いて高性能化させるためには、チタニアナノチューブアレイの比表面積は増大、自然長は短く形成させること、即ち、自然長、外径を短尺小径化させて高感度化させることが重要である。
【0026】
また、薬剤溶出性ステントにチタニアナノチューブを応用して高性能化させるためには、所望量の薬剤を包含させるべくチタニアナノチューブの自然長及び外径を広範囲に任意制御させることが重要である。
【0027】
さらに、チタニアナノチューブアレイを短尺小径化することにより、波長より狭い周期の構造屈折率を利用する反射防止微細構造体、超精密濾過用フィルタ等への応用も可能になるのみならず、新たな機能を発現する量子効果素子を開発することもできる。
【0028】
上述のように、チタニアナノチューブアレイの多様な応用展開を図り、高機能化・高性能化を図るためには、チタニアナノチューブアレイをガラスやシリコン等の異種基板上に形成させ、且つチタニアナノチューブの外径、自然長を広範囲に任意に制御することが重要となる。
【0029】
しかしながら、従来のチタン金属表面を陽極酸化することによりチタニアナノチューブアレイを形成させる方法では、図1(c)と化学反応式(1)及び(2)によって示すように、チタンの酸化反応と局所的な溶解が常に同時進行するため、ナノチューブの底の形状は必ず閉じた状態となり、底が開いた形状のナノチューブを製造できないという問題があった。
【0030】
また、従来のチタン金属表面を陽極酸化することによりチタニアナノチューブアレイを形成させる方法では、前記のようにチタニアナノチューブの成長の進行とともに前記化学反応式(1)と(2)の速度がほぼ同じとなる時点で、数百nm〜数μmの範囲の自然長となるため、50nm程度の短尺ナノチューブを陽極酸化により制御性良く形成することは困難であるという問題があった。
【0031】
シリコン基板やガラス基板上にチタン薄膜を形成し、該チタン薄膜を陽極酸化してチタニアナノチューブアレイを形成させる研究が報告されている。これらの研究では、絶縁性ガラス基板上に膜厚400nmのチタン薄膜を形成し、該チタン薄膜を完全に陽極酸化することにより透明なチタニアナノチューブアレイを形成させている(例えば、非特許文献11参照)。また、シリコン基板上に膜厚500nmのチタン薄膜を形成し、該チタン薄膜の一部を5〜20Vの種々の化成電圧で陽極酸化して、直径30〜100nm、自然長160〜400nmの範囲のチタニアナノチューブアレイを形成させている(例えば、非特許文献12参照)。
【0032】
しかしながら、これらに開示されているいずれの技術においても、チタニアナノチューブアレイの底の形状を制御することはできず、また、自然長30〜150nm、外径5〜30nm程度の短尺小径化されたチタニアナノチューブアレイを制御性良く形成することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0033】
【特許文献1】特開平10−152323号公報
【特許文献2】United States Patent No. US7011737B2.
【非特許文献】
【0034】
【非特許文献1】T. Kasuga, M. Hiramatsu, A. Hoson, T. Sekino and K. Niihara, Langmuir, Vol. 14, p.3160 (1998).
【非特許文献2】D. Gong, C.A. Grimes, O.K. Varghese, W. Hu, R.S. Singh, Z. Chen and E.C. Dickey, Journal of Materials Research, Vol. 16, p. 3331 (2001).
【非特許文献3】J.M. Macak, H. Tsuchiya, A. Ghicov, K. Yasuda, R. Hahn, S. Bauer and P. Schmuki, Current Opinion in Solid State and Materials Science, Vol. 11, p. 3 (2007).
【非特許文献4】G.K. Mor, O.K. Varghese, M. Paulose, K. Shankar and C.A. Grimes, Solar Energy Materials & Solar Cells, Vol. 90, p. 2011 (2006).
【非特許文献5】S.P. Albu, A. Ghicov, J.M. Macak and P. Schumuki, physica status solidi - Rapid Research Letters, Vol. 1, p. R65 (2007).
【非特許文献6】O.K. Varghese, D. Gong, M. Paulose, K.G. Ong and C.A. Grimes, Sensor and Actuators B, Vol. 93, p.338 (2003).
【非特許文献7】S. Liu and A. Chen, Langmuir, Vol. 21, p. 8409 (2005).
【非特許文献8】S.K. Mohapatra, S. Banerjee and M. Misra, Nanotechnology, Vol. 19, p. 315601 (2008).
【非特許文献9】K.S. Brammer, S. Oh, J.O. Gallagher and S. Jin, Nanoletter, Vol. 8, p.786 (2008).
【非特許文献10】K.C. Popat, M. Eltgroth, T.L. LaTempa, C.A. Grimes and T.A. Desai, Small, Vol. 3, p. 1878 (2007).
【非特許文献11】GK. Mor, O.K. Varghese, M. Paulose and C.A. Grimes, Advanced Functional Materials, Vol. 15, p.1291 (2005).
【非特許文献12】J.N. Macak, H. Tsuchiya, S. Berger, S. Bauer, S. Fujimoto and P. Schmuki, Chemical Physics Letters, Vol. 428, p. 421 (2006).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0035】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、従来の問題点を解消したチタニアナノチューブアレイを提供すること、また、チタニアナノチューブの底の開閉状態を制御することができるチタニアナノチューブアレイの形成方法を提供すること、さらにまた、短尺化されたチタニアナノチューブからなるチタニアナノチューブアレイの形成方法及び、自立したチタニアナノチューブを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0036】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
【0037】
第1に、両端が開いた形状を有し、垂直に配向したチタニアナノチューブが、面内に配列してなるチタニアナノチューブアレイである。
【0038】
第2に、チタン又はチタンを主成分とする合金からなる薄膜(以下、チタン薄膜と略称する)を、チタン又はチタンを主成分とする合金とは異なる材料からなる導電性基板上に形成し、陽極酸化領域のチタン薄膜を完全に陽極酸化することにより、両端が開いた形状を有し、垂直に配向したチタニアナノチューブが、面内に配列してなるチタニアナノチューブアレイを形成する。
【0039】
第3に、上記第2のチタニアナノチューブアレイの形成方法において、陽極酸化を5〜30Vの一定の化成電圧で行い、電流値の変化において、陽極酸化開始直後、直ちに急激に減少し、減少の度合いが小さくなるかほぼ一定となった後、さらに減少して極小値となることを観測した後に、再び上昇して一定となることを観測した時点で陽極酸化処理を停止することにより、両端が開いた形状を有し、垂直に配向したチタニアナノチューブが、面内に配列してなるチタニアナノチューブアレイを形成する。
【0040】
第4に、上記第2のチタニアナノチューブアレイの形成方法において、陽極酸化を(1)10秒〜5分間の5〜30Vの正電圧、(2)1秒〜1分間の−8〜−1Vの負電圧、(3)1秒〜5分間の零電圧を1サイクルとするパルス化成電圧を繰り返し印加し、(1)10秒〜5分間の5〜30Vの正電圧印加における電流値の変化において、陽極酸化開始直後、直ちに急激に減少し、減少の度合いが小さくなるかほぼ一定となった後、さらに減少して極小値となることを観測した後に、再び上昇して一定となることを観測した時点で陽極酸化処理を停止することにより、両端が開いた形状を有し、垂直に配向したチタニアナノチューブが、面内に配列してなるチタニアナノチューブアレイを形成する。
【0041】
第5に、チタン薄膜を、チタン又はチタンを主成分とする合金とは異なる材料からなる導電性基板上に形成し、陽極酸化領域のチタン薄膜を完全に陽極酸化することにより、薄膜表面に底が閉じた形状を有し、垂直に配向したチタニアナノチューブが、面内に複数配列してなるチタニアナノチューブアレイを形成する。
【0042】
第6に、上記第5のチタニアナノチューブアレイの形成方法において、陽極酸化を5〜30Vの一定の化成電圧で行い、電流値の変化において、陽極酸化開始直後、直ちに急激に減少し、減少の度合いが小さくなるかほぼ一定となった後、さらに減少して極小値となったことを観測した時点で陽極酸化処理を停止することにより、底が閉じた形状を有し、垂直に配向したチタニアナノチューブが、面内に配列してなるチタニアナノチューブアレイを形成する。
【0043】
第7に、上記第5のチタニアナノチューブアレイの形成方法において、陽極酸化を(1)10秒〜5分間の5〜30Vの正電圧、(2)1秒〜1分間の−8〜−1Vの負電圧、(3)1秒〜5分間の零電圧を1サイクルとするパルス化成電圧を繰り返し印加し、(1)10秒〜5分間の5〜30Vの正電圧印加における電流値の変化において、陽極酸化開始直後、直ちに急激に減少し、減少の度合いが小さくなるかほぼ一定となった後、さらに減少して極小値となったことを観測した時点で陽極酸化処理を停止することにより、底が閉じた形状を有し、垂直に配向したチタニアナノチューブが、面内に配列してなるチタニアナノチューブアレイを形成する。
【0044】
第8に、上記第2から第7のチタニアナノチューブアレイの形成方法において、チタン薄膜を30〜150nmの膜厚とすることにより、陽極酸化領域のチタン薄膜全体を外径5〜30nm、自然長30〜150nmの垂直に配向したチタニアナノチューブが面内に配列してなるチタニアナノチューブアレイを形成する。
【0045】
第9に、上記第2から第4、第8のチタニアナノチューブアレイの形成方法において、得られたチタニアナノチューブアレイを導電性基板から剥離した後、分離することによって、両端が開いた形状を有する自立したチタニアナノチューブを得る。
【0046】
第10に、上記第9のチタニアナノチューブアレイの形成方法によって得られる両端が開いた形状を有し、自立しているチタニアナノチューブである。
【0047】
第11に、上記第5から第7、第8のチタニアナノチューブアレイの形成方法において、得られたチタニアナノチューブアレイを導電性基板から剥離した後、分離することによって、一方が閉じた形状を有する自立したチタニアナノチューブを得る。
【0048】
第12に、上記第11のチタニアナノチューブアレイの形成方法によって得られる一方が閉じた形状を有し、自立しているチタニアナノチューブである。
【発明の効果】
【0049】
上記第1の発明によれば、両端が開いた形状を有し、垂直に配向したチタニアナノチューブが、面内に配列したチタニアナノチューブアレイであるので、このチタニアナノチューブアレイを関連技術に適用することにより、応用展開を図り、高機能化・高性能化を図ることが可能となる。
【0050】
上記第2の発明によれば、チタン薄膜を、チタン又はチタンを主成分とする合金とは異なる材料からなる導電性基板上に形成し、陽極酸化領域のチタン薄膜を完全に陽極酸化することにより、両端が開いた形状を有し、垂直に配向したチタニアナノチューブが、面内に配列してなるチタニアナノチューブアレイを形成するので、これまで困難であった両端が開いた形状のチタニアナノチューブによるチタニアナノチューブアレイを形成することが可能となる。
【0051】
上記第3の発明よれば、上記第2のチタニアナノチューブアレイの形成方法において、陽極酸化を5〜30Vの一定の化成電圧で行い、電流値の変化において、陽極酸化開始直後、直ちに急激に減少し、減少の度合いが小さくなるかほぼ一定となった後、さらに減少して極小値となることを観測した後に、再び上昇して一定となることを観測した時点で陽極酸化処理を停止することにより、両端が開いた形状を有し、垂直に配向したチタニアナノチューブが、面内に配列してなるチタニアナノチューブアレイを形成するので、上記第2の発明を確実に顕著なものとすることができる。即ち、これまで困難であった両端が開いた形状のチタニアナノチューブによるチタニアナノチューブアレイを精度よく形成することが可能となる。
【0052】
上記第4の発明によれば、上記第2のチタニアナノチューブアレイの形成方法において、陽極酸化を(1)10秒〜5分間の5〜30Vの正電圧、(2)1秒〜1分間の−8〜−1Vの負電圧、(3)1秒〜5分間の零電圧を1サイクルとするパルス化成電圧を繰り返し印加し、(1)10秒〜5分間の5〜30Vの正電圧印加における電流値の変化において、陽極酸化開始直後、直ちに急激に減少し、減少の度合いが小さくなるかほぼ一定となった後、さらに減少して極小値となることを観測した後に、再び上昇して一定となることを観測した時点で陽極酸化処理を停止することにより、両端が開いた形状を有し、垂直に配向したチタニアナノチューブが、面内に配列してなるチタニアナノチューブアレイを形成するので、上記第2の発明をさらに確実に顕著なものとすることができる。即ち、これまで困難であった両端が開いた形状のチタニアナノチューブによるチタニアナノチューブアレイをより精度よく形成することが可能となる。
【0053】
上記第5の発明によれば、チタン薄膜を、チタン又はチタンを主成分とする合金とは異なる材料からなる導電性基板上に形成し、陽極酸化領域のチタン薄膜を完全に陽極酸化することにより、薄膜表面に底が閉じた形状を有し、垂直に配向したチタニアナノチューブが、面内に複数配列してなるチタニアナノチューブアレイを形成するので、底が閉じた形状のチタニアナノチューブによるチタニアナノチューブアレイを制御し、形成することが可能となる。
【0054】
上記第6の発明によれば、上記第5のチタニアナノチューブアレイの形成方法において、陽極酸化を5〜30Vの一定の化成電圧で行い、電流値の変化において、陽極酸化開始直後、直ちに急激に減少し、減少の度合いが小さくなるかほぼ一定となった後、さらに減少して極小値となったことを観測した時点で陽極酸化処理を停止することにより、底が閉じた形状を有し、垂直に配向したチタニアナノチューブが、面内に配列してなるチタニアナノチューブアレイを形成するので、上記第5の発明を確実に顕著なものとすることができる。即ち、これまで困難であった底が閉じた形状のチタニアナノチューブによるチタニアナノチューブアレイを精度よく制御して形成することが可能となる。
【0055】
上記第7の発明によれば、上記第5のチタニアナノチューブアレイの形成方法において、陽極酸化を(1)10秒〜5分間の5〜30Vの正電圧、(2)1秒〜1分間の−8〜−1Vの負電圧、(3)1秒〜5分間の零電圧を1サイクルとするパルス化成電圧を繰り返し印加し、(1)10秒〜5分間の5〜30Vの正電圧印加における電流値の変化において、陽極酸化開始直後、直ちに急激に減少し、減少の度合いが小さくなるかほぼ一定となった後、さらに減少して極小値となったことを観測した時点で陽極酸化処理を停止することにより、底が閉じた形状を有し、垂直に配向したチタニアナノチューブが、面内に配列してなるチタニアナノチューブアレイを形成するので、上記第5の発明をさらに確実に顕著なものとすることができる。即ち、これまで困難であった底が閉じた形状のチタニアナノチューブによるチタニアナノチューブアレイをより精度よく制御して形成することが可能となる。
【0056】
上記第8の発明によれば、チタン薄膜を30〜150nmの膜厚とすることにより、陽極酸化領域のチタン薄膜全体を外径5〜30nm、自然長30〜150nmの垂直に配向したチタニアナノチューブが面内に配列してなるチタニアナノチューブアレイを形成するので、上記第2から第7の発明をさらに確実に顕著なものとすることができる。即ち、これまで困難であったチタニアナノチューブの外径及び自然長を精度よく制御して形成することが可能となる。
【0057】
上記第9の発明によれば、上記第2から第4、第8の形成方法によって得られるチタニアナノチューブアレイを導電性基板から剥離した後、分離することによって、両端が開いた形状を有する自立したチタニアナノチューブを得ることができるので、チタニアナノチューブアレイの形成方法として適用範囲を飛躍的に拡大することが可能となる。
【0058】
上記第10の発明によれば、チタニアナノチューブが、上記第9のチタニアナノチューブアレイの形成方法によって得られ、両端が開いた形状を有し、自立しているので、このチタニアナノチューブを、関連技術、特に高密度磁気メモリ等の技術に適用することにより、応用展開を図り、高機能化・高性能化を図ることが可能となる。
【0059】
上記第11の発明によれば、上記第5から第7、第8の形成方法によって得られるチタニアナノチューブアレイを導電性基板から剥離した後、分離することによって、一方が閉じた形状を有する自立したチタニアナノチューブを得ることができるので、チタニアナノチューブアレイの形成方法として適用範囲を飛躍的に拡大することが可能となる。
【0060】
上記第12の発明によれば、チタニアナノチューブが、上記第11のチタニアナノチューブアレイの形成方法によって得られ、一方が閉じた形状を有し、自立しているので、このチタニアナノチューブを、関連技術、特に薬剤溶出性ステント等の技術に適用することにより、応用展開を図り、高機能化・高性能化を図ることが可能となる。
【0061】
本発明により、両端が開いた形状を有する垂直に配向したチタニアナノチューブが面内に複数配列してなるチタニアナノチューブアレイを提供することができる。
【0062】
また、陽極酸化の処理条件を特定することにより、チタニアナノチューブの底の開閉形状を制御する形成方法を提供することができる。
【0063】
また、チタン薄膜を特定の厚みとすることにより、チタニアナノチューブの外径及び、自然長の寸法を制御して形成するチタニアナノチューブアレイの形成方法を提供することができる。
【0064】
さらにまた、形成したチタニアナノチューブアレイを導電性基板から剥離、分離することにより、自立したチタニアナノチューブアレイを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】陽極酸化による自己組織化的なナノチューブアレイの形成過程を示した説明図。
【図2】本発明の陽極酸化による自己組織化的なナノチューブアレイの形成過程を示した説明図。
【図3】本発明の陽極酸化装置図。
【図4】実施例1における陽極酸化中の基板電流密度の時間変化グラフ。
【図5】実施例1において作製された底が閉じた形状のチタニアナノチューブアレイの表面の電子顕微鏡写真。
【図6】実施例1において作製された底が閉じた形状のチタニアナノチューブアレイの裏面の電子顕微鏡写真。
【図7】実施例1において作製された両端が開いた形状のチタニアナノチューブアレイの裏面の電子顕微鏡写真。
【図8】実施例1における陽極酸化中の基板電流密度とパルス化成電圧の時間変化グラフ。
【図9】実施例2において作製された底が閉じた形状のチタニアナノチューブアレイの表面の電子顕微鏡写真。
【図10】実施例2において作製された底が閉じた形状のチタニアナノチューブアレイの側面の電子顕微鏡写真。
【図11】実施例2において作製された両端が開いた形状のチタニアナノチューブアレイの側面の電子顕微鏡写真。
【図12】実施例2において作製された、両端が開いた形状の、より短尺化されたチタニアナノチューブアレイの側面の電子顕微鏡写真。
【発明を実施するための形態】
【0066】
次に本発明について、図2及び図3を用いて、さらに詳細に説明する。
【0067】
本発明の態様は、図2(b)に示すように、チタン薄膜32を、該チタン薄膜32とは異なる材料からなる導電性基板31上に形成した後に、図3に示すような装置を用いて陽極酸化をすることにより、陽極酸化領域のチタン薄膜32全体を、自己組織化的にチタニアナノチューブアレイとする工程を有するものである。
【0068】
導電性基板31としては、例えば、シリコン等の半導体材料や、酸化インジウム(Indium−Tin−Oxide:ITO)からなる透明導電膜を、ガラス(ITOガラス)等に被服した導電性基板を挙げることができる。
【0069】
陽極酸化で形成されるチタニアナノチューブは、微小均一で、実質的に互いに平行で、ほぼ等間隔に分布している。
【0070】
チタン薄膜32は、スパッタリング法、蒸着法、メッキ法、溶射法等によって形成することができる。
【0071】
さらに本発明は、あらかじめ形成しておく薄膜の厚さを特定の厚さにすることによって、この厚さに応じた自然長のチタニアナノチューブ、例えば50〜150nmの自然長のチタニアナノチューブを形成させることができる。
【0072】
導電性基板31のサイズは、陽極酸化槽のサイズ等により任意に定めることができ、例えば、1平方センチメートル程度から、数平方メートルまでのサイズとすることができる。
【0073】
これら導電性基板31のサイズ及び陽極酸化槽のサイズにより陽極酸化領域が決定される。
【0074】
本発明の方法における陽極酸化に用いる電解質溶液21としては、従来公知とされている任意のフッ素化合物を含む電解質溶液を用いることができる。
【0075】
本発明に用いる陽極酸化装置としては、図3に示すように、チタン薄膜32が形成された導電性基板31を作用極22とし、対極23、参照極24を備えたものを用いることができる。対極に用いる材質としては白金等を好適に用いることができる。
【0076】
本発明の方法においては、電解条件のうち、電解質溶液21、対極間化成電圧等をポテンショスタット25で制御することによって、5〜50nmの間で所望のチタニアナノチューブの外径を制御して形成することができる。
【0077】
さらに本発明の方法においては、電解条件のうち、酸化時間、液温等を制御し、導電性基板の電流を観測することにより、チタニアナノチューブの底の開閉を制御することができる。
【0078】
本発明の方法で行う陽極酸化プロセスにおいて、電解質溶液21の液温は0〜15℃の温度範囲とするのが好ましい。
【0079】
まず10mV/秒〜1V/秒の範囲で、作用極たるチタン薄膜が形成された基板試料への印加化成電圧が上昇される。
【0080】
続いて、100mV〜30Vの範囲で一定の化成電圧に保つと、作用極であるチタン薄膜が形成された導電性基板において検出される電流値は、図2(a)に示されるような挙動を示す。
【0081】
以下に、この電流値の挙動についてさらに詳しく説明する。
【0082】
まず、図2(c)に示すように、チタン薄膜が形成された導電性基板の表面に、直ちに酸化物皮膜33が形成されるために、図2(a)の(I)で示されるように、導電性基板の電流値は直ちに急激に減少する。
【0083】
このとき、電解質溶液中に含まれるフッ素の影響によって、該酸化物皮膜33の表面には微小なピット34が形成される。
【0084】
その後、図2(a)の(II)で示されるように、電流値の減少が緩やかになる。
【0085】
このとき、陽極酸化が進行するにしたがって、図2(d)に示すように、陽極酸化初期において形成されたピット34のうちの幾つかが、数〜数百nmのオーダーで周期性を持つナノポーラス構造へと変化し、ナノポーラスチタニア35が形成される。
【0086】
さらに陽極酸化が進行して、該チタン薄膜と導電性基板との界面にまで到達すると、図2(a)の(III)で示されるように、電流値が急激に減少し、極小値となる。
【0087】
このように電流値が急激に減少し、極小値となるのは、チタン薄膜32を陽極酸化させるための条件下では、下地の導電性基板31の表面は陽極酸化されにくいため、図2(a)の(III)の時点では、酸化反応に伴うイオンの伝導が停止するからである。
【0088】
図2(a)の(III)の時点では、図2(e)に示すように、チタン薄膜全体が、閉じた丸底形状を有するチタニアナノチューブアレイ36へと構造変化する。
【0089】
さらに、陽極酸化を続けて、チタニアナノチューブの丸底形状の部分の溶解が起こり始めると、電流値は再び増加傾向を示し、図2(a)の(IV)で示されるように、電流値はほぼ一定になる。
【0090】
このとき、図2(f)に示されるように、両端が開いた形状のチタニアナノチューブアレイ37へと構造変化する。
【0091】
即ち、前記の導電性基板の電流値を観測した条件下での陽極酸化プロセスにおいて、電流値が極小値となる時点において陽極酸化を停止することにより、丸底形状のチタニアナノチューブアレイを形成させることができる。
【0092】
また、前記の陽極酸化プロセスにおいて、電流値が極小値をとった後に再び増加して一定になった時点において陽極酸化を停止することにより、両端が開いた形状のチタニアナノチューブアレイを形成させることができる。
【0093】
次に、陽極酸化の条件として、本発明のパルス化成電圧の印加によるチタニアナノチューブアレイの形成について詳しく説明する。
【0094】
本発明においては、陽極酸化を、
(1)10秒〜5分間の5〜30Vの正電圧、好ましくは10秒〜1分間の10〜20Vの正電圧、さらに好ましくは10秒間の14Vの正電圧、
(2)1秒〜1分間の−8〜−1Vの負電圧、好ましくは10秒〜1分間の−5〜−2Vの負電圧、さらに好ましくは10秒間の−4Vの負電圧、
(3)1秒〜5分間の零電圧、好ましくは10秒〜1分間の零電圧、さらに好ましくは20秒間の零電圧、
を1サイクルとするパルス化成電圧を繰り返し印加し、上記(1)の印加化成電圧における電流値が陽極酸化開始後、極小値となることを観測した時点で陽極酸化処理を停止することにより、さらに優れた両端が開いた形状を有するチタニアナノチューブアレイを形成することができる。
【0095】
上記、パルス化成電圧の印加について詳しく説明する。
【0096】
化成電圧を正の一定の化成電圧印加とした場合、チタニアナノチューブアレイの表面には、チタニアの微粒子からなる表面層がスタックする。
【0097】
前記微粒子からなる表面層は、陽極酸化中に以下に示すような現象によって形成されるものと考えられる。
【0098】
電解質溶液中でチタンは陽極酸化されて酸化物皮膜が形成されるのと同時に、電解質溶液中に含まれるフッ素の影響によって局所的な溶解が起こり、[TiF2−種が形成される。
【0099】
しかし、前記[TiF2−種は、エチレングリコール系の電解質溶液には溶解しにくいため、酸化物表面近傍から脱離することが容易ではなく、それ故、酸化物皮膜表面近傍において下記の反応式で表されるような再酸化が生じる。
[TiF2−+2HO → TiO+4HF+2F ・・・(3)
上記(3)式に示されるように生じるTiOは微粒子状になり、陽極酸化によって自己組織化的に形成されていくチタニアナノチューブアレイ表面層に、好ましくない表面層を形成していくものと考えられる。
【0100】
上記考察から、化成電圧を(1)正(2)負(3)ゼロの順に、パルス化成電圧として印加することによって、このような微粒子状のTiOに起因する表面層が形成されず、表面形態が良好なチタニアナノチューブアレイが形成され得ることを見出した。
【0101】
上記パルス化成電圧を印加する際、正電圧が印加されている時は、チタンの酸化と局所的溶解が進行する。
【0102】
上記パルス化成電圧を印加する際、負電圧が印加されている時は、[TiF2−種が電解によって試料表面か付近から引き離されるとともに、試料表面においてTiO微粒子が形成されることが抑制される。
【0103】
上記パルス化成電圧を印加する際、零電圧、即ち化成電圧が印加されていない時は、前記(1)式のような酸化反応によって生成される水素の泡が、試料表面から脱離されて電解質溶液外へと移動させられる。
【0104】
上記の水素脱離によって、続いて正電圧が印加されている時の、チタンの酸化と局所的溶解が良好に進行できる。
【0105】
上記の理由により、パルス化成電圧印加による陽極酸化では、より良質なチタニアナノチューブアレイが自己組織化的に形成される。
【実施例】
【0106】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0107】
<陽極酸化の条件>
12mm×12mmの大きさのシリコン基板上に、直流マグネトロンスパッタリング法により、多結晶のチタン薄膜を形成した。
【0108】
膜厚は150nmであった。スパッタリング法の成膜条件は、ターゲット材料として、純度99.9%の金属チタンタブレットを用い、スパッタリング出力として35Wを投入した。
【0109】
ガスは、アルゴンを導入し、成膜時のガス圧は0.1Paであった。
【0110】
また、成膜時の基材温度は320℃としたが、この場合、無加熱で非晶質チタン薄膜を成膜した後、320℃で熱処理を施して多結晶のチタン薄膜を形成させることもできる。
【0111】
続いて、上記試料を、アセトン、エタノールでの超音波処理により清浄化した後、蒸留水ですすぎ、乾燥させた試料を陽極酸化を行うためのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製ホルダで固定した。
【0112】
このとき、シリコン基板の裏面、即ちチタン薄膜が堆積されていない面は、アルミニウム板の電極と接しており、さらにチタン薄膜表面は、Oリングを介して、0.8平方センチメートルが電解質溶液に曝露されるように載置した。陰極として、白金の対極を用いた。
【0113】
電解質溶液は、100mlのエチレングリコールに1gのフッ化アンモニウムを溶かし、0.27Mのフッ化アンモニウムを含有するエチレングリコール電解質溶液を調製した。
【0114】
陽極酸化は、上記電解質溶液中で2℃の温度条件下、電位を0.1V/秒の割合で14Vまで傾斜させ、その後14V一定の化成電圧を印加して行なった。
【0115】
14V一定化成電圧が印加されているときの試料電流密度の陽極酸化時間変化を図4に示す。
【0116】
14V一定化成電圧を約500秒印加した時点で試料電流密度は極小値をとり、一旦増加した後、ほぼ一定になった。
<底の閉じたチタニアナノチューブアレイの形成>
14V一定の化成電圧を500秒印加して、試料電流密度が極小値となった時点で陽極酸化を停止し、その時点で得られたチタニアナノチューブアレイ表面の形状を、走査型電子顕微鏡を用いて観察した。その走査型電子顕微鏡写真を図5に示す。
【0117】
図5に示すように、約30nmの外径を有するチタニアナノチューブアレイが形成されていることが確認された。
【0118】
さらに、作製したチタニアナノチューブアレイが形成されたシリコン基板表面を、別途作製したシリコン基板表面と張り合わせ、エタノール中で超音波処理を施して、チタニアナノチューブアレイの一部を剥離させ、別のシリコン基板表面に付着させ、チタニアナノチューブアレイの裏側の形状を、走査型電子顕微鏡を用いて観察した。その走査型電子顕微鏡写真を図6に示す。
【0119】
これより、チタニアナノチューブアレイの裏面は閉じた丸底形状をしていることが確認でき、実施例1の初期においてシリコン基板上に形成させた150nmのチタン薄膜は、全体が150nm以下の自然長を有するナノチューブアレイに構造変化したことが確認された。
<両端の開いたチタニアナノチューブアレイの形成>
上記と同様にしてシリコン基板上に多結晶のチタン薄膜を形成した試料に陽極酸化を600秒施し、試料電流密度が極小値をとった後に再び増加して一定になるのを観測した上で陽極酸化を停止した。作製したチタニアナノチューブアレイが形成されたシリコン基板表面を、別途作製したシリコン基板表面と張り合わせ、エタノール中で超音波処理を施して、チタニアナノチューブアレイの一部を剥離させ、別のシリコン基板表面に付着させ、チタニアナノチューブアレイの裏側の形状を、走査型電子顕微鏡を用いて観察した。その走査型電子顕微鏡写真を図7に示す。
【0120】
これより、チタニアナノチューブアレイの裏面は開いた形状をしていることが確認され、実施例1のように導電性基板の電流値を観測して陽極酸化を施すことにより、チタニアナノチューブアレイの底の開閉構造を制御できることが確認された。
【実施例2】
【0121】
<陽極酸化の条件>
実施例1において、14V一定の化成電圧を印加して陽極酸化を行なう代わりに、シリコン基板上に膜厚150nmの多結晶チタン薄膜を形成した試料に、順番に(1)14V、10秒間、(2)−4V、10秒間、(3)0V、20秒間を1サイクルとするパルス化成電圧を、繰り返して印加することで陽極酸化を行なった。
【0122】
上記パルス化成電圧が繰り返し印加されているときの試料電流密度の陽極酸化時間変化を図8に示す。
<底の閉じたチタニアナノチューブアレイの形成>
上記パルス化成電圧の繰り返し印加を開始してから約1400秒後、即ち、35回のサイクルのパスル化成電圧を印加した時に、14V印加の時の試料電流密度は極小値となった。
【0123】
さらに上記パルス化成電圧の繰り返し印加を継続すると、14V印加の時の試料電流密度は再び増加した後ほぼ一定になった。
【0124】
そこで、順番に(1)14V、10秒間、(2)−4V、10秒間、(3)0V、20秒間を1サイクルとするパスル化成電圧を35回繰り返して印加して、14V印加の時の試料電流密度が極小値となった時点で陽極酸化を停止し、その時点で得られたチタニアナノチューブアレイ表面の形状を走査型電子顕微鏡を用いて観察した。その走査型電子顕微鏡写真を図9に示す。また、チタニアナノチューブアレイ側面の形状の走査型電子顕微鏡写真を図10に示す。
【0125】
図9に示すように、約30nmの外径を有するチタニアナノチューブアレイが形成されており、且つ、図6に示したような実施例1によって作製されたチタニアナノチューブアレイの表面よりも、より良好な表面形態であることが確認された。
【0126】
さらに、作製したチタニアナノチューブアレイが形成されたシリコン基板をエタノール中に浸漬し、超音波処理を施すと、チタニアナノチューブアレイの一部に亀裂が入り、亀裂の両側のチタニアナノチューブアレイの底が向かい合うように捲れ上がった状態となった。
【0127】
図11に、捲れ上がった状態のナノチューブアレイ側面の電子顕微鏡写真を示す。
【0128】
これより、チタニアナノチューブの底は閉じた形状をしており、自然長が150nm程度であることが確認された。
<両端の開いたチタニアナノチューブアレイの形成>
上記と同様にしてシリコン基板上に膜厚150nmの多結晶チタン薄膜を形成した試料に、順番に(1)14V、10秒間、(2)−4V、10秒間、(3)0V20秒間を1サイクルとするパスル化成電圧を40回繰り返して印加して、14V印加の時の試料電流密度が極小値となった後に再び増加して一定になるのを観測した上で陽極酸化を停止し、その時点で得られたチタニアナノチューブアレイ側面の形状を、走査型電子顕微鏡を用いて観察した。その走査型電子顕微鏡写真を図11に示す。
【0129】
これより、チタニアナノチューブの両端は開いた形状をしており、自然長が150nm程度であることが確認された。
【0130】
さらに、上記と同様にしてシリコン基板上に膜厚50nmの多結晶チタン薄膜を形成した試料に、順番に(1)14V、10秒間、(2)−4V、10秒間、(3)0V、20秒間を1サイクルとするパスル化成電圧を繰り返して印加し、14V印加の時の試料電流密度が極小値となった後に再び増加して一定になるのを観測した上で陽極酸化を停止し、その時点で得られたチタニアナノチューブアレイ側面の形状を、走査型電子顕微鏡を用いて観察した。その走査型電子顕微鏡写真を図12に示す。
【0131】
これより、チタニアナノチューブの両端は開いた形状をしており、自然長が50nm程度であることが確認された。
【0132】
以上の結果から、図5と図9を比較しても明らかなように、実施例2においては、実施例1よりもナノチューブアレイの表面形態を良好とすることができた。
【0133】
即ち、前述したパルス化成電圧を印加することによる良好な形成を確認することができた。
【符号の説明】
【0134】
11 チタン基板
12 チタン酸化物皮膜
13 ピット
14 チタニアナノチューブアレイ
21 Fイオンを含む電解質溶液
22 作用極
23 対極
24 参照極
25 ポテンショスタット
31 シリコンやITOガラス等からなる導電性基板
32 チタン薄膜
33 チタン酸化物皮膜
34 ピット
35 ナノポーラスチタニア
36 底の閉じた丸底形状を有するチタニアナノチューブアレイ
37 両端が開いた形状を有するチタニアナノチューブアレイ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端が開いた形状を有し、垂直に配向したチタニアナノチューブが、面内に配列してなることを特徴とするチタニアナノチューブアレイ。
【請求項2】
チタン又はチタンを主成分とする合金からなる薄膜を、チタン又はチタンを主成分とする合金とは異なる材料からなる導電性基板上に形成し、陽極酸化領域のチタン又はチタンを主成分とする合金からなる薄膜を完全に陽極酸化することにより、両端が開いた形状を有し、垂直に配向したチタニアナノチューブが、面内に配列してなるチタニアナノチューブアレイを形成することを特徴とするチタニアナノチューブアレイの形成方法。
【請求項3】
陽極酸化を5〜30Vの一定の化成電圧で行い、電流値の変化において、陽極酸化開始直後、直ちに急激に減少し、減少の度合いが小さくなるかほぼ一定となった後、さらに減少して極小値となることを観測した後に、再び上昇して一定となることを観測した時点で陽極酸化を停止することにより、両端が開いた形状を有し、垂直に配向したチタニアナノチューブが、面内に配列してなるチタニアナノチューブアレイを形成することを特徴とする請求項2に記載のチタニアナノチューブアレイの形成方法。
【請求項4】
陽極酸化を(1)10秒〜5分間の5〜30Vの正電圧、(2)1秒〜1分間の−8〜−1Vの負電圧、(3)1秒〜5分間の零電圧を1サイクルとするパルス化成電圧を繰り返し印加し、(1)10秒〜5分間の5〜30Vの正電圧印加における電流値の変化において、陽極酸化開始直後、直ちに急激に減少し、減少の度合いが小さくなるかほぼ一定となった後、さらに減少して極小値となることを観測した後に、再び上昇して一定となることを観測した時点で陽極酸化を停止することにより、両端が開いた形状を有し、垂直に配向したチタニアナノチューブが、面内に配列してなるチタニアナノチューブアレイを形成することを特徴とする請求項2に記載のチタニアナノチューブアレイの形成方法。
【請求項5】
チタン又はチタンを主成分とする合金からなる薄膜を、チタン又はチタンを主成分とする合金とは異なる材料からなる導電性基板上に形成し、陽極酸化領域のチタン又はチタンを主成分とする合金からなる薄膜を完全に陽極酸化することにより、薄膜表面に底が閉じた形状を有し、垂直に配向したチタニアナノチューブが、面内に複数配列してなるチタニアナノチューブアレイを形成することを特徴とするチタニアナノチューブアレイの形成方法。
【請求項6】
陽極酸化を5〜30Vの一定の化成電圧で行い、電流値の変化において、陽極酸化開始直後、直ちに急激に減少し、減少の度合いが小さくなるかほぼ一定となった後、さらに減少して極小値となったことを観測した時点で陽極酸化を停止することにより、底が閉じた形状を有し、垂直に配向したチタニアナノチューブが、面内に配列してなるチタニアナノチューブアレイを形成することを特徴とする請求項5に記載のチタニアナノチューブアレイの形成方法。
【請求項7】
陽極酸化を(1)10秒〜5分間の5〜30Vの正電圧、(2)1秒〜1分間の−8〜−1Vの負電圧、(3)1秒〜5分間の零電圧を1サイクルとするパルス化成電圧を繰り返し印加し、(1)10秒〜5分間の5〜30Vの正電圧印加における電流値の変化において、陽極酸化開始直後、直ちに急激に減少し、減少の度合いが小さくなるかほぼ一定となった後、さらに減少して極小値となったことを観測した時点で陽極酸化を停止することにより、底が閉じた形状を有し、垂直に配向したチタニアナノチューブが、面内に配列してなるチタニアナノチューブアレイを形成することを特徴とする請求項5に記載のチタニアナノチューブアレイの形成方法。
【請求項8】
チタン又はチタンを主成分とする合金からなる薄膜を30〜150nmの膜厚とすることにより、陽極酸化領域のチタン又はチタンを主成分とする合金からなる薄膜全体を、外径5〜30nm、自然長30〜150nmの垂直に配向したチタニアナノチューブが面内に配列してなるチタニアナノチューブアレイを形成することを特徴とする請求項2から7のいずれかに記載のチタニアナノチューブアレイの形成方法。
【請求項9】
請求項2から4、8のいずれかに記載の形成方法によって得られるチタニアナノチューブアレイを導電性基板から剥離した後、分離することによって、両端が開いた形状を有する自立したチタニアナノチューブを得ることを特徴とするチタニアナノチューブアレイの形成方法。
【請求項10】
請求項9に記載のチタニアナノチューブアレイの形成方法によって得られる両端が開いた形状を有し、自立していることを特徴とするチタニアナノチューブ。
【請求項11】
請求項5から7、8のいずれかに記載の形成方法によって得られるチタニアナノチューブアレイを導電性基板から剥離した後、分離することによって、一方が閉じた形状を有する自立したチタニアナノチューブを得ることを特徴とするチタニアナノチューブアレイの形成方法。
【請求項12】
請求項11に記載のチタニアナノチューブアレイの形成方法によって得られる一方が閉じた形状を有し、自立していることを特徴とするチタニアナノチューブ。

【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−111660(P2011−111660A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−270755(P2009−270755)
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】