説明

チタノシリケートの製造方法

【課題】 チタノシリケート中の全チタンに対する4配位チタンの含有比率がより高いMWW構造を有するチタノシリケートの製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明のチタノシリケートの製造方法は、ケイ素化合物、チタン化合物、ホウ素化合物、水及び構造規定剤の混合物を水熱合成反応に付し、得られた結晶を酸処理した後、焼成することによりMWW構造を有するチタノシリケートを製造する方法であって、前記酸処理を0〜75℃で1〜48時間行うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ化やオキシム化等の酸化反応用の触媒等として有用なMWW構造を有するチタノシリケートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ化やオキシム化等の酸化反応用の触媒の一つとして、MWW構造を有するチタノシリケートが知られている。そして、一般に、前記チタノシリケートにおいて、触媒活性点として作用するのは、主に4配位チタンであり、チタノシリケート中の全チタンに対する4配位チタンの含有比率が高いほど、エポキシ化やオキシム化等の酸化反応に対する触媒性能が高くなることが知られている(非特許文献1参照)。
【0003】
かかるチタノシリケートの製造方法としては、ケイ素化合物、チタン化合物、ホウ素化合物、水及び構造規定剤の混合物を水熱合成反応に付し、得られた結晶を100℃で20時間酸処理した後、焼成する方法が提案されている(非特許文献1参照)。
【0004】
【非特許文献1】ケミストリー・レターズ(Chemistry Letters)、(日本)、2000年、p.774−775
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記方法により製造されたチタノシリケートにおいては、4配位チタンの含有比率は未だ満足しうるレベルではなかった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、チタノシリケート中の全チタンに対する4配位チタンの含有比率がより高いMWW構造を有するチタノシリケートの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、前記課題を解決するべく鋭意検討を行った。その結果、ケイ素化合物、チタン化合物、ホウ素化合物、水及び構造規定剤の混合物を水熱合成反応に付して得られた結晶を酸処理する際、かかる酸処理を従来よりも低い特定温度(具体的には、0〜75℃)で特定時間(具体的には、1〜48時間)行うことにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、ケイ素化合物、チタン化合物、ホウ素化合物、水及び構造規定剤の混合物を水熱合成反応に付し、得られた結晶を酸処理した後、焼成することによりMWW構造を有するチタノシリケートを製造する方法であって、前記酸処理を0〜75℃で1〜48時間行うことを特徴とするチタノシリケートの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、チタノシリケート中の全チタンに対する4配位チタンの含有比率がより高いMWW構造を有するチタノシリケートを製造することができる、という効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のチタノシリケートの製造方法は、ケイ素化合物、チタン化合物、ホウ素化合物、水及び構造規定剤の混合物を水熱合成反応に付し、得られた結晶を酸処理した後、焼成するものである。
【0011】
前記ケイ素化合物としては、例えば、テトラエチルオルソシリケートのようなテトラアルキルオルソシリケート、シリカ(ヒュームドシリカ)等が挙げられる。
【0012】
前記チタン化合物としては、例えば、テトラ−n−ブチルオルソチタネートのようなテトラアルキルオルソチタネート、ペルオキシチタン酸テトラ−n−ブチルアンモニウムのようなペルオキシチタン酸塩、ハロゲン化チタン等が挙げられる。
前記ホウ素化合物としては、例えば、ホウ酸、無水ホウ酸等が挙げられる。
【0013】
前記構造規定剤は、層状構造を形成するためのテンプレートとして用いられるものであり、例えば、ピペリジン、ヘキサメチレンイミン等の従来公知の構造規定剤が使用できる。
【0014】
前記各原材料の使用割合は、ケイ素化合物中のケイ素を基準にして、チタン化合物はチタンとして0.01〜0.1モル倍であり、ホウ素化合物はホウ素として0.1〜2モル倍であり、水は3〜50モル倍であり、構造規定剤は0.3〜3モル倍であることが好ましい。特に、チタン化合物の使用量が、該チタン化合物中のチタン基準で、前記ケイ素化合物中のケイ素1モルに対して0.05〜0.10モルであることが、触媒活性の点で好ましい。
【0015】
水熱合成とは、高温の水とくに高温高圧の水の存在の下に行われる物質の合成および結晶成長法をいい(「岩波 理化学辞典」、第4版、株式会社岩波書店、1987年、p.647参照)をいい、具体的には、前記各原材料を混合し、オートクレーブ中、自圧下に100〜200℃程度の温度で加熱して、数時間〜数日間、攪拌することにより行われる。
【0016】
水熱合成反応を行うに際し、前記各原材料の混合方法は、特に制限されず、例えば、全ての原材料を一括して混合し均一に攪拌してから水熱合成反応に供してもよいし(一括添加法)、一部の原材料を混合し均一に攪拌して予め水熱合成反応を行ったのちに、得られた反応液に残部の原材料を添加して均一に攪拌して水熱合成反応に供するようにしてもよい(2段添加法)。好ましくは、後者の2段添加法がよく、特に、少なくともチタン化合物を除く原材料を混合し均一に攪拌して予め水熱合成反応を行ったのちに、チタン化合物を含む残部の原材料を添加して均一に攪拌して水熱合成反応に供するようにすることが好ましい。このように、チタン化合物を除く原材料で先に結晶化させることにより、チタン化合物が結晶化を阻害して反応混合物が粘調になるのを回避することができる。また、一括添加法、2段添加法いずれの場合も、液体である原材料を先に混合した後に固体である原材料を混合することが、均一に攪拌でき、得られたチタノシリケートにおいてチタンの偏りが生じるのを防ぐことができる点で好ましい。
【0017】
前記水熱合成反応により得られる結晶は、層状チタノシリケートである。この層状チタノシリケートの層構造は、具体的には、X線回折パターンにおける001面ないし002面のピークの存在により、確認することができる(例えば、前記非特許文献1のほか、第33回石油・石油化学討論会講演要旨;触媒、2001年、第43巻、p158−160;ケミカル・コミュニケーションズ(Chemical Communications)(英国)、2002年、p1026−1027;触媒、2002年、第44巻、p468−470;等参照)。そして、この層状チタノシリケートの層構造は、焼成により、結晶シートの層間脱水縮合が生じて三次元結晶構造が形成されることで、MWW構造に変換される。この構造変換は、具体的には、X線回折パターンにおいて、前記001面ないし002面のピークが消失することにより確認することができる(前記各文献参照)。
【0018】
前記水熱合成反応により得られた結晶には、特定条件で酸処理が施される。かかる酸処理を行うことにより、チタノシリケート骨格に導入されたホウ素および骨格外のチタンを除去することができる。
【0019】
前記酸処理は、0〜75℃で1〜48時間行うことが重要である。これにより、4配位チタンの含有比率が高いチタノシリケートを得ることができる。酸処理温度は、好ましくは50〜70℃とするのがよい。なお、ここで言う酸処理温度は、反応液の温度(内温)を意味するのであるが、測定された反応液の温度が前記範囲内であっても、反応液が接する反応器表面の温度が高温であると、局所的に反応液の温度が上がり、得られたチタノシリケートの触媒活性が低下するおそれがあるので、加熱媒体の温度(例えば、オイルバス等の設定温度)は100℃以下に制御することが望ましい。他方、酸処理時間は、好ましくは1〜24時間、より好ましくは1〜8時間とするのがよい。
【0020】
前記酸処理に用いることができる酸としては、例えば、硝酸、硫酸、炭酸、リン酸のような無機酸、ギ酸、酢酸のような有機酸が挙げられる。これらの中でも特に、硝酸、硫酸が好ましい。酸の使用量は、特に制限されるものではなく、チタノシリケート骨格に導入されたホウ素および骨格外のチタンを充分に除去できる範囲で適宜設定すればよい。
【0021】
前記酸処理後の結晶(層状チタノシリケート)には、焼成が施される。焼成条件は、特に制限されるものではなく、例えば、200〜700℃程度の温度で1〜24時間程度加熱すればよい。
【0022】
前記焼成は、通常、結晶(層状チタノシリケート)を含む酸処理後の反応液から結晶を分離し、必要に応じて、洗浄、乾燥を施した後に行われる。このとき、分離、洗浄および乾燥の条件や方法は、特に制限されるものではなく、通常の条件や方法に従い行うことができる。例えば、濾過により分離し、濾残を水により洗液のpHが4以上になる程度まで洗浄し、50〜150℃で1〜24時間程度乾燥すればよい。また、乾燥をスプレードライヤーを用いて行うと、乾燥と同時に、粒径1〜1000μm程度の粒子に成形することができる点で有利である。なお、このような分離、洗浄および乾燥は、必要に応じて、前記酸処理の前に、水熱合成反応により得られた結晶に対して行うこともできる。
【0023】
本発明の製造方法で得られるチタノシリケートは、MWW構造を有する結晶性チタノシリケートであり(以下、MWW構造を有する結晶性チタノシリケートを「Ti−MWW」と称することがある)、ここで、MWWとは、国際ゼオライト学会〔International Zeolite Association(IZA)〕が定めるゼオライトの構造コードの1つである。なお、MWW構造を有する化合物の具体例としては、MCM−22、SSZ−25、ITQ−1、ERB−1、PSH−3等が挙げられる。
【0024】
ここで言うチタノシリケートとは、骨格を構成する元素として、チタン、ケイ素及び酸素を含むものであり、実質的にチタン、ケイ素及び酸素のみから骨格が構成されるものであってもよいし、骨格を構成する元素としてさらにホウ素、アルミニウム、ガリウム、鉄、クロム等、チタン、ケイ素及び酸素以外の元素を含むものであってもよい。
【0025】
本発明の製造方法で得られるTi−MWWにおける、ケイ素に対するチタンの原子比(Ti/Si)は、通常0.005〜0.1、好ましくは0.01以上である。なお、このチタノシリケートがチタン、ケイ素及び酸素以外の元素を含む場合、ケイ素に対する含有元素の原子比は、通常0.05以下、好ましくは0.02以下である。また、酸素は、酸素以外の各元素の原子比及び酸化数に対応して存在しうる。かかるチタノシリケートの典型的な組成は、ケイ素を基準(=1)として、次式で示すことができる。
SiO2・xTiO2・yMOn/2
(式中、Mはケイ素、チタン及び酸素以外の少なくとも1種の元素を表し、nは該元素の酸化数であり、xは0.005〜0.1であり、yは0〜0.05である。)
【0026】
本発明の製造方法で得られるTi−MWWに含まれるチタンには、4配位チタンとして存在するものと、6配位チタンとして存在するものがあり、これら全てのチタン総量がチタノシリケートに占める含有比率(全Ti含有率)は、通常0.4%以上、好ましくは1%以上である。また、このうち、チタノシリケート中の全チタンに対する4配位チタンの含有比率(4配位Tiの含有比率)は、通常50%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは95%以上である。上述したように、酸化反応における触媒活性点として有効に作用するのは主に4配位チタンであり、本発明の製造方法で得られるTi−MWWは4配位チタンの含有比率が前記範囲に示すように極めて高いものであるので、例えばエポキシ化やオキシム化等の酸化反応に用いる触媒として優れた性能を発揮することが期待される。
【0027】
本発明の製造方法により得られたTi−MWWは、エポキシ化やオキシム化等の酸化反応における触媒として優れた触媒活性を発揮することが期待されるものである。例えば、このTi−MWWの存在下に、ケトンを過酸化物及びアンモニアによりアンモキシム化反応を行うことで、オキシムを収率良く製造することが期待できる。
【0028】
本発明の製造方法により得られたTi−MWWを触媒として用いる際には、バインダーを用いて又は用いずに、粒状やペレット状等に成形して使用してもよいし、担体に担持して使用してもよい。
本発明の製造方法により得られたTi−MWWを用いて、例えば、ケトンを過酸化物及びアンモニアによりアンモキシム化反応させてオキシムを製造する場合、触媒として用いるTi−MWWは、反応混合物の液相に懸濁させて固相として存在させるのがよく、その割合は、液相に対して通常0.1〜10重量%程度とするのがよい。また、Ti−MWWの触媒活性の低下を抑制すること等を目的として、シリカゲル、ケイ酸、結晶性シリカ等のチタノシリケート以外のケイ素化合物を共存させてもよい。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例により限定されるものではない。
なお、各実施例および比較例で得られたチタノシリケート(Ti−MWW)の全Ti含有率(Ti−MWW中に占める全チタン総量の含有比率)および4配位Tiの含有比率(Ti−MWW中の全チタンに対する4配位チタンの含有比率)は、以下の方法で測定した。
【0030】
<全Ti含有率>
試料を白金皿に秤り取り、フッ化水素酸および硝酸を加え、加温して蒸発乾固させた後、炭酸ナトリウムおよびホウ酸を加えてバーナーで融解させ、得られた融解物に希塩酸を加えて加温し、定容として供試液を得た。この供試液中のTiをICP発光分析装置(セイコー電子工業製「SPS4000」)にてICP分析し、試料中のTi含有率を求めた。
【0031】
<4配位Tiの含有比率>
EXAFS測定により4配位Ti量と6配位Ti量との比率を求めた。
すなわち、まず、前処理として、試料をメノウ乳鉢で軽く粉砕後、約30mgを秤量し、12mmφのペレットに成型した。このペレット状の試料を、真空中350℃で約2時間、加熱脱気処理した後、これを吸水させない条件下でEXAFS測定を行った。なお、1つの試料につき2枚のペレットを用意し、各試料について2回ずつ測定を行った。EXAFS測定条件を以下に示す。
【0032】
〔EXAFS測定条件〕
測定場所:大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構 放射光科学研究施設(Photon Factory)BL9A
測定方法:透過法
分光結晶:Si(111)
解析ソフト:REX−2000(リガク電機工業製)
【0033】
測定に際しては、TiのXAFSスペクトルは、エネルギーステップを表1に示すようにいくつかの段階に分けて、XANES領域を丁寧に取るように、そして吸収端より低エネルギー側や吸収端から遠いところは大まかに取るようにして測定した。また、Ti−k3x(k)スペクトルのフーリエ変換は、3〜11Åの範囲(ノイズと区別でき、EXAFS振動が確認できる最大範囲)で行った。
【0034】
各試料のXANESスペクトルのフィッティングには、4配位Tiと6配位Tiの標準試料としてそれぞれ、TS−1触媒(これを100%の4配位Tiとして)とアナターゼ型TiO2のデータを用いた。
【0035】
【表1】

【0036】
(参考例−種晶の調製)
ビーカーに、純水445.87g、ピペリジン77.53g、テトラ−n−ブチルオルソチタネート11.07gを入れ、空気雰囲気下、室温で均一になるまで攪拌した後、ホウ酸53.93gを加えて均一になるまで攪拌した。得られた水溶液にヒュームドシリカ(CABOT社製「CAB−O−SIL M−7D」)39.20gを加えて室温で1時間攪拌した後、混合液をオートクレーブに移してオートクレーブを密閉した。この混合液を、攪拌しながら、オートクレーブをヒータで加熱することにより、5時間かけて室温から170℃まで昇温した。混合液の温度(内温度)が170℃に到達した後、同温度で7.5日間加熱して水熱合成を行った。得られた懸濁液をろ過し、濾残を洗液のpHが10以下になるまで洗浄した後、110℃で16時間乾燥し、白色粉末44.40gを得た。この白色粉末30gを2M硝酸900g中で16時間加熱還流した後、濾過し、濾残を洗液のpHが4以上になるまで洗浄した。得られた白色粉末を乾燥後、530℃で10時間焼成して、全Ti含有率が2.1%のTi−MWWを得た。
【0037】
(実施例1)
ビーカーに、純水445.06g、ピペリジン95.02gを入れ、空気雰囲気下、室温で均一になるまで攪拌した後、ホウ酸53.63gを加えて均一になるまで攪拌した。得られた水溶液にヒュームドシリカ(CABOT社製「CAB−O−SIL M−7D」)40.36gを加えて1時間攪拌した後、種晶として参考例で得たTi−MWWを0.47g加えた。得られた混合液をオートクレーブに移してオートクレーブを密閉した後、攪拌しながらこの混合液を8時間かけて160℃まで昇温した後に同温度で10時間加熱して水熱合成を行い、その後、さらに3時間かけて170℃まで再度昇温した後に同温度で4日間加熱して水熱合成を行った。次に、一旦加熱を中断してオートクレーブを室温まで冷却した後、オートクレーブ内の反応液に、あらかじめ純水102.29g、ピペリジン19.76g、及びテトラ−n−ブチルオルソチタネート13.34gを均一に混合した溶液を加えた。次いで、再度オートクレーブを密閉した後、最初の水熱合成の場合と同様に、8時間かけて160℃まで昇温した後に同温度で10時間加熱して、その後、さらに3時間かけて170℃まで再度昇温し、170℃で2日間加熱して水熱合成を行った。得られた懸濁液をろ過し、濾残を洗液のpHが10以下になるまで洗浄した後、110℃で16時間乾燥し、白色粉末(A)47.83gを得た。
【0038】
得られた白色粉末(A)5gを、冷却管、温度計、攪拌装置を取り付けたセパラブルフラスコに仕込み、2M硝酸150gを加えた。次いで、攪拌しながら70℃に設定したオイルバスで加熱し、内温が67℃で安定した後、同温度で8時間攪拌することにより酸処理を行った。次に、酸処理後の反応液を室温まで冷却した後、濾過し、濾残を洗液のpHが4以上になるまで洗浄した。得られた白色粉末を乾燥後、530℃で10時間焼成して、Ti−MWWを得た。このTi−MWWの全Ti含有率は1.4%であり、4配位Tiの含有比率は97%であった。
【0039】
(実施例2)
実施例1で得られた白色粉末(A)5gを、温度計、攪拌装置を取り付けたセパラブルフラスコに仕込み、2M硝酸150gを加えた。次いで、室温(24℃)で24時間攪拌することにより酸処理を行った。次に、酸処理後の反応液を濾過し、濾残を洗液のpHが4以上になるまで洗浄した。得られた白色粉末を乾燥後、530℃で10時間焼成して、Ti−MWWを得た。このTi−MWWの全Ti含有率は0.9%であり、4配位Tiの含有比率は91%であった。
【0040】
(比較例1)
実施例1で得られた白色粉末(A)30gを、冷却管、温度計、攪拌装置を取り付けたセパラブルフラスコに仕込み、2M硝酸900gを加えた。次いで、攪拌しながら153℃に設定したオイルバスで加熱し、内温が104℃で安定した後、同温度で8時間攪拌することにより酸処理を行った。次に、酸処理後の反応液を室温まで冷却した後、濾過し、濾残を洗液のpHが4以上になるまで洗浄した。得られた白色粉末を乾燥後、530℃で10時間焼成して、Ti−MWWを得た。このTi−MWWの全Ti含有率は2.6%であり、4配位Tiの含有比率は40%であった。
【0041】
実施例1、2および比較例1の結果を纏めて表2に示す。
【表2】

【0042】
表2から、実施例1、2で得られたTi−MWWは、比較例1で得られたTi−MWWに比べ、チタノシリケート中の全チタンに対する4配位チタンの含有比率が格段に高いことが明らかである。
【0043】
他方、実施例1、2および比較例1で得られたTi−MWWのUV吸収スペクトルを測定した。チタノシリケートのUV吸収スペクトルにおいては、4配位チタン量に対応して220nm付近に吸収スペクトルが観測され、6配位のアナターゼチタン量に対応して320〜330nmに吸収スペクトルが観測されるので、UV吸収スペクトルを測定することによって、4配位Tiと6配位Tiの比率を判定することができる。
【0044】
UV吸収スペクトルの測定に際しては、試料をメノウ乳鉢でよく粉砕し、測定用のセラミックスセル(直径5mm、高さ3mm)に表面が平坦になるように詰めて、下記条件で測定した。反射率をK−M変換して吸光度(abs.)とし、200nmにおける吸光度(abs.)が0.6となるよう補正をした結果を図1に示す。
【0045】
〔UV吸収スペクトル測定条件〕
測定装置(本体):紫外可視分光光度計(島津製作所製「UV−2450PC」)
(セル):真空加熱拡散反射セル(HARRICK製「DPR−XXX+HVC−VUV型」)
圧力:大気圧
測定値(M):反射率
スキャン速度(P):低速
スリット幅(W):5nm
測定波長:200〜400nm
分解能:0.1nm
ベースライン補正(リファレンス):BaSO4
【0046】
図1から、実施例1、2で得られたTi−MWWは、比較例1で得られたTi−MWWに比べ、220nm付近における吸収は多く、320〜330nmにおける吸収が少ないことが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】実施例1、2および比較例1で得られたTi−MWWのUV吸収スペクトルの測定結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素化合物、チタン化合物、ホウ素化合物、水及び構造規定剤の混合物を水熱合成反応に付し、得られた結晶を酸処理した後、焼成することによりMWW構造を有するチタノシリケートを製造する方法であって、前記酸処理を0〜75℃で1〜48時間行うことを特徴とするチタノシリケートの製造方法。
【請求項2】
前記チタン化合物の使用量が、該チタン化合物中のチタン基準で、前記ケイ素化合物中のケイ素1モルに対して0.05〜0.10モルである、請求項1記載のチタノシリケートの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−308387(P2008−308387A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−160640(P2007−160640)
【出願日】平成19年6月18日(2007.6.18)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】