説明

チタン酸アルミニウム質触媒担体の被覆方法、及び、被覆チタン酸アルミニウム質触媒担体

【課題】 触媒を担持したまたはウォッシュコートの施されたチタン酸アルミニウム質触媒担体の熱膨張係数の上昇を抑え、且つ、ガス透過率の減少を十分に抑制することが可能な、チタン酸アルミニウム質触媒担体の被覆方法を提供すること。
【解決手段】 気孔率が40〜50%でありMgをMgO換算で0.1〜10重量%含むチタン酸アルミニウム質触媒担体を、該担体への触媒の担持を行う前に、被覆する方法であって、ポリビニルアルコール/ビニルアミンコポリマー、ポリビニルアルコール/ビニルホルムアミドコポリマー、及び、ゼラチンからなる群より選択される少なくとも一種のコーティング材料を含む液体混合物により上記担体を被覆する工程と、上記液体混合物を乾燥させ、上記担体を上記コーティング材料で被覆する工程と、を有する、チタン酸アルミニウム質触媒担体の被覆方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関からの排ガスの制御に用いられるチタン酸アルミニウム質触媒担体の被覆方法、及び、被覆チタン酸アルミニウム質触媒担体に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン酸アルミニウムは、近年、ディーゼルエンジンなどの内燃機関から排出される排ガスに含まれる微細なカーボン粒子を捕集するためのセラミックスフィルターを構成する材料として、産業上の利用価値が高まっている。
【0003】
チタン酸アルミニウムの製造方法としては、少なくともアルミニウム源粉末及びチタン源粉末を含み、必要に応じてケイ素源粉末やマグネシウム源粉末などを含む原料混合物を成形し、焼成する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、原料混合物として、更に、有機バインダ、造孔材などの有機添加物を含むものを用い、この原料混合物のグリーン成形体を酸素含有雰囲気下にて150〜900℃で加熱することにより有機添加物を除去した後、1300℃以上で焼成する方法も知られている(特許文献1の段落0031〜0032)。
【0004】
ところで、チタン酸アルミニウムハニカム構造体などのチタン酸アルミニウム質触媒担体の熱的性質への触媒コーティングプロセスの悪影響がよく知られており、これらの問題に対する解決策が数多く提案されてきた。主な問題は、アルミナなどの、触媒または触媒支持コーティングの酸化物成分が、コーティングおよび硬化プロセス中にチタン酸アルミニウム質触媒担体の微小構造(気孔)中に入り込み、ハニカム構造体の熱膨張係数を上昇させることである。このような熱膨張の増加により、ハニカム構造体の耐熱衝撃性が低下することとなる。特許文献2〜5には、上記の問題とそれに対する様々な解決策が記載されている。
【0005】
排ガスからの煤などの粒子状物質を効率的に除去するための、内燃機関の排ガス規制のために現在用いられているハニカム構造体は、当該技術分野において、ウォール・フロー・フィルタと称されるタイプの構造体である。そのようなフィルタは一般に、交互のチャンネルに端部栓が設けられた多孔質セラミックハニカムであり、この構造体を通り抜ける排ガスは、排ガスの排出前に粒子状物質を捕捉する多孔質チャンネル壁(隔壁)を通過しなければならない。そのため、この多孔質チャンネル壁には、十分なガス透過率を有していることが求められる。チタン酸アルミニウムは、そのようなフィルタを製造するのに有用なセラミック材料である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第05/105704号パンフレット
【特許文献2】米国特許第4452517号明細書
【特許文献3】米国特許第4483940号明細書
【特許文献4】米国特許第4532228号明細書
【特許文献5】米国特許第5346722号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した従来技術に対し、チタン酸アルミニウム質触媒担体の熱膨張係数および耐熱衝撃性への触媒コーティングプロセスの悪影響を抑制する方法の開発が求められている。また、触媒を担持させたフィルタは、高いガス透過率を維持していることが求められる。よって、本発明は、触媒を担持したまたはウォッシュコートの施されたチタン酸アルミニウム質触媒担体の熱膨張係数の上昇を抑え、且つ、ガス透過率の減少を十分に抑制することが可能な、チタン酸アルミニウム質触媒担体の被覆方法、及び、被覆チタン酸アルミニウム質触媒担体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、気孔率が40〜50%でありMgをMgO換算で0.1〜10重量%含むチタン酸アルミニウム質触媒担体を、該担体への触媒の担持を行う前に、被覆する方法であって、ポリビニルアルコール/ビニルアミンコポリマー、ポリビニルアルコール/ビニルホルムアミドコポリマー、及び、ゼラチンからなる群より選択される少なくとも一種のコーティング材料を含む液体混合物により上記担体を被覆する工程と、上記液体混合物を乾燥させ、上記担体を上記コーティング材料で被覆する工程と、を有する、チタン酸アルミニウム質触媒担体の被覆方法を提供する。
【0009】
かかる被覆方法は、触媒コーティングまたはウォッシュコートのための担体として用いられるチタン酸アルミニウム質触媒担体を製造する又は表面保護する方法である。この被覆方法によれば、上記各工程を経ることにより、担体の微細な気孔構造体中への触媒またはウォッシュコート液の望ましくない侵入を遮断するのに十分に安定であるコーティング材料の層を担体上に形成することができる。これにより、担体の微細な気孔構造体中への触媒またはウォッシュコートの侵入並びに触媒またはウォッシュコートによる担体の気孔の封鎖を防ぐことができ、また、担体上への触媒またはウォッシュコートの分布を良好なものとすることができる。よって、この被覆方法によりコーティング材料で被覆されたチタン酸アルミニウム質触媒担体を用いることにより、触媒が担持されたまたはウォッシュコートの施された担体の熱膨張係数の上昇を抑え、且つ、気孔率およびガス透過率の減少を十分に抑制することができる。
【0010】
ここで、上記液体混合物は、乾燥中にコポリマーまたはゼラチンの架橋を促進させるために、架橋剤を更に含むことが好ましい。これにより、担体上には、化学的に架橋したコーティング材料の層が形成されることとなる。このコーティング材料の架橋層は、触媒コーティングまたはウォッシュコート配合物との適合性が良く、また、触媒コーティングまたはウォッシュコーティングプロセス中において良好な耐溶解性を示す。そのため、コーティング材料の架橋層は、チタン酸アルミニウム質触媒担体を、熱膨張の上昇およびガス透過率の減少からより効果的に保護することができる。
【0011】
また、上記液体混合物のpHは、3〜8の範囲内であることが好ましい。pHが3〜8の範囲に調節された液体混合物を用いることにより、担体上におけるコーティング材料により被覆された部分が、一般に酸性であるウォッシュコートまたは触媒コーティング調製物のpHに影響し難くなるという点で、加工上の利点が得られる。
【0012】
本発明はまた、気孔率が40〜50%でありMgをMgO換算で0.1〜10重量%含むチタン酸アルミニウム質触媒担体を、ポリビニルアルコール/ビニルアミンコポリマー、ポリビニルアルコール/ビニルホルムアミドコポリマー、及び、ゼラチンからなる群より選択される少なくとも一種のコーティング材料により被覆してなる、被覆チタン酸アルミニウム質触媒担体を提供する。
【0013】
上記コーティング材料により被覆された被覆チタン酸アルミニウム質触媒担体は、その熱膨張係数の増加、及び、ガス透過率の減少を十分に抑制しつつ、慣例のプロセスを用いて、触媒担体上に触媒コーティングまたはウォッシュコートを施すことができる。
【0014】
ここで、上記コーティング材料は、化学的に架橋していることが好ましい。化学的に架橋したコーティング材料の層は、触媒コーティングまたはウォッシュコート配合物との適合性が良く、また、触媒コーティングまたはウォッシュコーティングプロセス中において良好な耐溶解性を示す。そのため、コーティング材料の架橋層は、チタン酸アルミニウム質触媒担体を、熱膨張の上昇およびガス透過率の減少からより効果的に保護することができる。
【0015】
本発明において、触媒担体に用いるセラミック材料は、気孔率が40〜50%でありMgをMgO換算で0.1〜10重量%含むチタン酸アルミニウムである。フロー・スルー型触媒担体およびウォール・フロー・フィルタの製造のためのチタン酸アルミニウムの利点としては、その非常に低い熱膨張係数が挙げられる。しかし、この低い熱膨張係数は、チタン酸アルミニウム結晶の熱膨張係数の異方性により焼結過程で発生するマイクロクラックの存在によるものである。本発明の方法は、このようなマイクロクラックの生じたチタン酸アルミニウムを保護するのに特に効果的であり、さらに、触媒担体がウォール・フロー・フィルタとしての構造を有する場合に、高いガス透過率を維持するのに特に効果的である。
【0016】
また、チタン酸アルミニウム質触媒担体の気孔率が40〜50%である場合、担体の微細な気孔構造体中への触媒またはウォッシュコートの侵入、あるいは触媒またはウォッシュコートによる担体の気孔の封鎖が生じやすいが、本発明の方法により担体をコーティング材料で被覆することにより、これらの問題を効果的に改善することができる。
【0017】
また、チタン酸アルミニウム質触媒担体がMgをMgO換算で0.1〜10重量%含むことにより、本発明の効果がより有効に得られるのに加え、チタン酸アルミニウム質触媒担体の耐熱性をより向上させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、触媒を担持したまたはウォッシュコートの施されたチタン酸アルミニウム質触媒担体の熱膨張係数の上昇を抑え、且つ、ガス透過率の減少を十分に抑制することが可能な、チタン酸アルミニウム質触媒担体の被覆方法、及び、被覆チタン酸アルミニウム質触媒担体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1の(a)は、チタン酸アルミニウム質触媒担体の一実施形態を示す斜視図であり、図1の(b)は、図1の(a)の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、場合により図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一又は相当部分には同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0021】
本発明のチタン酸アルミニウム質触媒担体の被覆方法は、気孔率が40〜50%でありMgをMgO換算で0.1〜10重量%含むチタン酸アルミニウム質触媒担体を、該担体への触媒の担持を行う前に、被覆する方法であって、ポリビニルアルコール/ビニルアミンコポリマー、ポリビニルアルコール/ビニルホルムアミドコポリマー、及び、ゼラチンからなる群より選択される少なくとも一種のコーティング材料を含む液体混合物により上記担体を被覆する工程と、上記液体混合物を乾燥させ、上記担体を上記コーティング材料で被覆する工程と、を有する方法である。
【0022】
ポリビニルアルコール/ビニルアミン(PVOH/VAM)コポリマー、ポリビニルアルコール/ビニルホルムアミド(PVOH/VF)コポリマーまたはゼラチンは、従来のウォッシュコートおよび触媒コーティングの材料およびプロセスに非常に適合しているので、多孔質のチタン酸アルミニウム質触媒担体を被覆するコーティング(以下、「バリアコーティング」とも言う)材料として適している。これらのバリアコーティング材料は、多孔質のマイクロクラックが形成されたチタン酸アルミニウム質触媒担体の気孔構造体に十分に浸透する、比較的低粘度の水溶液または水性懸濁液(液体混合物)を形成する。さらに、乾燥したコーティング材料は親水性であり、ウォッシュコートおよび触媒コーティング調製物に容易に濡れるため、触媒担体上で上記調製物の分布を妨げない。そのため、適切な量のウォッシュコート(触媒)材料を、従来の手法を用いて、乾燥したバリアコーティング材料上に容易に堆積することができる。
【0023】
本発明においては、上述した種類の任意の様々なコポリマーおよびゼラチンを用いることができる。使用できるゼラチンとしては、牛皮、牛骨、豚皮、および魚皮などの供給源に由来するものが挙げられる。ゼラチンは、AタイプまたはBタイプのものであっても、任意のブルーム値のものであっても差し支えない。ゼラチンとしては、例えば、写真用ゼラチングレードのような低イオン含有量のゼラチンが好ましい。ブルーム値の低いまたはゼロのゼラチンも、溶解または加工中に加熱する必要性がなくなるので、好ましい。特に好ましいゼラチンは、米国、ニュージャージー州、クランスベリー所在のノーランド・プロダクツ社(Norland Products Inc.)製の高分子量魚ゼラチン(High Molecular Weight Fish Gelatin)である。
【0024】
流動性のバリアコーティング水溶液を形成できるPVOH/VAMコポリマーおよびPVOH/VFコポリマーは、比較的幅広い分子量に亘り市販されている。中でも、約30,000〜140,000の分子量範囲に亘る市販のコポリマーが特に適している。そのコポリマー中に存在するビニルアミンまたはビニルホルムアミドの量は、具体的な用途の要求に応じて変えればよい。市販のコポリマーの具体例としては、スペイン国、タラゴナ所在のエルコール社(Erkol, S.A.)から市販されている、Erkol(登録商標)E6、M12、M6i、およびM12iが挙げられる。
【0025】
必須ではないが、ウォッシュコートまたは触媒コーティングにおいて遭遇する条件により、有害なバリアコーティングの相互作用が生じ得る場合には、これらの液体バリアコーティング配合物(液体混合物)に化学架橋剤を加えてもよい。これらの架橋剤は、ポリマー水溶液に加えられる場合、乾燥プロセス中にそのポリマーを架橋させ、乾燥後のコーティング材料の水溶性を著しく減少させることができる。水溶性が減少したことにより、ウォッシュコートまたは触媒コーティングする最中にバリアコーティングが移行する可能性、例えば、触媒の有効性を減少させ得る、バリアコーティングからウォッシュコートまたは触媒コーティング中へのコポリマーの抽出の可能性が減少する。それと同時に、チタン酸アルミニウム質触媒担体の微小気孔またはマイクロクラックの形成された領域からのコポリマーの溶解の可能性を最小にすることができる。このような溶解は、ウォッシュコーティング時または触媒コーティング時における粒子の侵入を許容する可能性がある。
【0026】
適切な架橋剤は、ベースのコーティング材料であるゼラチンまたはコポリマーの1つまたはそれ以上の官能基と反応し得る官能基を含有するものである。中でも、多孔質のチタン酸アルミニウム質触媒担体上にバリアコーティング配合物が堆積するまで、架橋を促進しない架橋剤が特に有用である。出荷および貯蔵中にほとんどまたは全く架橋しない一液性組成物として貯蔵できる、架橋剤およびベースバリアコーティング材料の配合物が有益であるが、コポリマーおよび架橋剤を別々に保持し、次いで、必要なときにブレンドされる二液性組成物も適している。
【0027】
特に適した架橋剤は、使用条件下で、ベースのゼラチンまたはコポリマーのコーティング材料の官能基と反応できる官能基を2つまたはそれ以上含有する材料である。ゼラチン系のバリアコーティング配合物の場合、架橋剤は、タンパク質ポリマー鎖に沿うカルボキシル基、アミノ基、アルコール基、およびフェノール基と相互作用を行なうことが可能な基を含むべきであるが、一方で、PVOH/VAMコポリマー配合物の場合には、架橋剤は、ヒドロキシ側基およびアミノ側基と効果的に相互作用を行なうものとすべきである。
【0028】
有機架橋剤の例としては、以下に限られないが、多官能性カルボジイミド、アルデヒド、無水物、エポキシ、イミデート、イソシアネート、メラミンホルムアルデヒド、エピクロロヒドリン、2,5−ジメトキシテトラヒドロフラン、および2−(4−ジメチルカルバモイル−ピリジノ)エタン−1−スルホネートが挙げられる。中でも、特に好ましい市販の架橋剤は、日本国、千葉県所在の日清紡績株式会社から販売されている、カルボジライト(登録商標)V−02、V−02−L2、V−04、E−02、およびE−03Aカルボジイミドなどの多官能性カルボジイミド材料である。また、無機架橋剤の例としては、以下に限られないが、オキシ塩化リン、チタンテトラブトキシド、炭酸ジルコニウムアンモニウムなどが挙げられる。
【0029】
ゼラチン系バリアコーティング溶液のための最も効果的な架橋剤は、グリオキサール系の架橋添加剤である。その市販の材料の例としては、米国、ロードアイランド州クランストン所在のバーセン社(Bercen, Inc.)から販売されているBerset(登録商標)2506、2125、2155、および2700架橋剤が挙げられる。
【0030】
上述したゼラチンおよびコポリマー系のバリアコーティング配合物は、従来のウォッシュコートまたは触媒コーティングのか焼工程中に、約550℃を超えない温度で容易に完全に燃え尽きるという利点を有している。さらに、バリアコーティング配合物の分解副生成物、例えば、ゼラチンからの一般的な炭素質材料、コポリマーからの炭素と水素の酸化物、ガス状アミン、およびアンモニアは、触媒およびウォッシュコートにとって無害であるという利点を有している。また、コポリマーおよび/またはゼラチンコーティング材料、並びに、それらの分解副生成物のいずれも実質的に塩素を含まず、触媒担体や触媒の腐食を防止できることが、特に重要な利点である。
【0031】
先に示したように、PVOH/VAMコポリマー、PVOH/VFコポリマーおよびゼラチンポリマーは、易水溶性である。後で施されるウォッシュコートまたは触媒調製物のpHへのコポリマーまたはゼラチンコーティングの影響を最小にするために、コーティング材料を含む液体混合物のpHは、3〜8の範囲に調節することが望ましい。pHの調節は、液体混合物への酸添加により容易に行われる。これらの液体混合物は比較的低粘度であるため、チタン酸アルミニウム質触媒担体の被覆は、浸漬または真空溶浸により効率的に行うことができる。
【0032】
チタン酸アルミニウム質触媒担体の構造は特に限定されず、ウォール・フロー型やフロー・スルー型の構造が挙げられるが、ウォール・フロー型の構造であることが好ましい。ウォール・フロー型の構造を有するチタン酸アルミニウム質触媒担体としては、例えば、図1に示すようなハニカム構造体が挙げられる。
【0033】
図1の(a)は、チタン酸アルミニウム質触媒担体の一実施形態を示す斜視図であり、図1の(b)は、図1の(a)の部分拡大図である。本実施形態に係るチタン酸アルミニウム質触媒担体70は、図1の(a)に示すように、隔壁70cにより区画された多数の流路70a,70bが略平行に配置された円柱体である。流路70a,70bの断面形状は、図1の(b)に示すように正方形である。これらの複数の流路70a,70bは、触媒担体70において、端面から見て、正方形配置、すなわち、流路70a,70bの中心軸が、正方形の頂点にそれぞれ位置するように配置されている。また、本実施形態の触媒担体70において、流路70a,70bは、その両端の開口部のうちの一方が封口されている。図1の(b)に示した側の端部(図1(a)における上端部)では、流路70aが開口し、粒子70bが封口されている。また、これとは反対側の端部(図1(a)における下端部)では、流路70aが封口され、流路70bが開口している。触媒担体70においては、図1の(b)に示すように、このような流路70aと流路70bとが交互に配置されている。流路70a,70bの断面の正方形のサイズは、例えば、一辺0.5〜2.5mmとすることができる。
【0034】
なお、流路70a,70bの断面の形状について、図1では正方形の場合を示したが、この形状は特に限定されず、例えば、三角形、長方形、六角形、八角形、円形などでもよく、また複数の形状の組み合わせでもよい。
【0035】
触媒担体70の寸法は、図1に示したような円柱体である場合、例えば、直径約100mm以上、長さ約100mm以上、隔壁70cの壁厚は約0.5mm以下であることが好ましい。また、セル構造は流路70a,70bの合計数として100CPSI以上、有効気孔率は40〜50%(体積%)、平均細孔直径は1〜20μm、細孔径分布(D90−D10)/D50は0.5未満であることが好ましい。ここで、D10、D50、D90は全細孔容積のうち累積細孔容積が各々10%、50%、90%になるときの細孔直径である。なお、触媒担体70の気孔率は、水銀圧入法により測定することができる。
【0036】
上述したコーティング材料によるチタン酸アルミニウム質触媒担体70の被覆は、例えば、以下の手順で行われる。まず、上述したコーティング材料を含む液体混合物を調製し、浸漬または真空溶浸により触媒担体70を液体混合物で被覆する。これにより、液体混合物は、触媒担体70の隔壁70cの表面を覆うとともに、その一部は隔壁70cの気孔内にも充填されることとなる。次に、この液体混合物を乾燥させることにより、触媒担体70を上記コーティング材料で被覆する。乾燥により、隔壁70cの気孔の開口部はコーティング材料で塞がれることとなる。また、液体混合物が架橋剤を含有していると、乾燥時に上記コーティング材料の架橋反応が促進される。以上の工程を経て、コーティング材料により被覆されてなる被覆チタン酸アルミニウム質触媒担体が得られる。
【0037】
ここで、液体混合物は、少なくともコーティング材料を含むものであるが、架橋剤や各種添加剤を含むことができる。添加剤としては、例えば、pH調整のための濃硝酸、塩酸、酢酸、ギ酸等の酸;コーティング材料を溶解または分散させるための水、アルコール、エーテル等の溶剤;PVA等のバインダ;ポリアクリル酸塩等の分散剤などが挙げられる。
【0038】
液体混合物中のコーティング材料の含有量は、液体混合物全量を基準として10〜70重量%とすることが好ましく、40〜60重量%とすることがより好ましい。コーティング材料の含有量が10重量%以上であることで、触媒担体70における隔壁70cの気孔の開口部をコーティング材料で塞ぎやすくなる傾向があり、70重量%以下であることで、液体混合物の流動性が良好なものとなり、触媒担体70を均一に被覆しやすくなる傾向がある。
【0039】
また、液体混合物の乾燥条件は、溶剤の十分な除去及びコーティング材料の架橋反応の促進の観点から、80〜200℃で30分〜24時間とすることが好ましい。
【0040】
乾燥後の被覆チタン酸アルミニウム質触媒担体において、コーティング材料の被覆量は、被覆チタン酸アルミニウム質触媒担体の全量を基準として5〜20重量%であることが好ましく、10〜15重量%であることがより好ましい。コーティング材料の被覆量が5重量%以上であることで、触媒またはウォッシュコートの気孔内への侵入を抑制しやすくなる傾向があり、20重量%以下であることで、触媒担体の必要な部分への触媒の担持を妨げにくい傾向がある。
【0041】
上記各工程を経て得られた被覆チタン酸アルミニウム質触媒担体に対し、一般的な方法で、触媒コーティングまたはウォッシュコートが施される。このとき、チタン酸アルミニウム質触媒担体がコーティング材料で被覆されていることにより、触媒またはウォッシュコートの気孔内への侵入が防がれる。その後、触媒コーティングまたはウォッシュコートのか焼工程を行うことで、コーティング材料が燃え尽きて除去され、触媒またはウォッシュコートは、チタン酸アルミニウム質触媒担体の気孔を塞ぐことなく、良好に分布して触媒担体に担持されることとなる。したがって、得られる触媒を担持させたフィルタは、チタン酸アルミニウム質触媒担体の高いガス透過率および低い熱膨張係数を維持することが可能となる。
【符号の説明】
【0042】
70…チタン酸アルミニウム質触媒担体、70a,70b…流路、70c…隔壁。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気孔率が40〜50%でありMgをMgO換算で0.1〜10重量%含むチタン酸アルミニウム質触媒担体を、該担体への触媒の担持を行う前に、被覆する方法であって、
ポリビニルアルコール/ビニルアミンコポリマー、ポリビニルアルコール/ビニルホルムアミドコポリマー、及び、ゼラチンからなる群より選択される少なくとも一種のコーティング材料を含む液体混合物により前記担体を被覆する工程と、
前記液体混合物を乾燥させ、前記担体を前記コーティング材料で被覆する工程と、
を有する、チタン酸アルミニウム質触媒担体の被覆方法。
【請求項2】
前記液体混合物が架橋剤を更に含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記液体混合物のpHが3〜8の範囲内である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
気孔率が40〜50%でありMgをMgO換算で0.1〜10重量%含むチタン酸アルミニウム質触媒担体を、ポリビニルアルコール/ビニルアミンコポリマー、ポリビニルアルコール/ビニルホルムアミドコポリマー、及び、ゼラチンからなる群より選択される少なくとも一種のコーティング材料により被覆してなる、被覆チタン酸アルミニウム質触媒担体。
【請求項5】
前記コーティング材料が化学的に架橋している、請求項4記載の触媒担体。

【図1】
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【公開番号】特開2011−240231(P2011−240231A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−113259(P2010−113259)
【出願日】平成22年5月17日(2010.5.17)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】