説明

チタン酸化物およびその製造方法

【課題】可視光を吸収して光触媒活性を示すチタン酸化物およびその製造方法を提供する。
【解決手段】本チタン酸化物は、Ti23の化学組成を有し、赤外線吸収スペクトルの900cm-1以上925cm-1以下の範囲内に赤外線吸収ピークを有し、波長550nmの光の反射率が80%以下、波長500nmの光の反射率が60%以下、波長450nmの光の反射率が40%以下、および波長400nmの光の反射率が30%以下、であるチタン酸化物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒として好適に利用できるチタン酸化物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン酸化物は、近年光触媒としての需要が高く、種々の製造方法により、生産されている(たとえば、特開平06−293519号公報(特許文献1)、特開平08−081223号公報(特許文献2))。
【0003】
しかし、上記の特開平06−293519号公報(特許文献1)または特開平08−081223号公報(特許文献2)に開示されているチタン酸化物は、主として紫外光(波長400nmより小さい波長の光)を吸収して光触媒活性を示すものであり、可視光(波長が400nm以上700nm以下)の吸収が極めて小さく、可視光が多い太陽光のもとでは、光触媒活性が低かった。
【0004】
そこで、可視光を吸収して光触媒活性を示すチタン酸化物の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平06−293519号公報
【特許文献2】特開平08−081223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、可視光を吸収して光触媒活性を示すチタン酸化物およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、Ti23の化学組成を有し、赤外線吸収スペクトルの900cm-1以上925cm-1以下の範囲内に赤外線吸収ピークを有し、波長550nmの光の反射率が80%以下、波長500nmの光の反射率が60%以下、波長450nmの光の反射率が40%以下、および波長400nmの光の反射率が30%以下、であるチタン酸化物である。ここで、本発明にかかるチタン酸化物は、アナターゼ型またはルチル型の結晶構造を有することができる。
【0008】
また、本発明は、チタンアルコキシドにアルコキシ基含有液体と第1の過酸化水素含有水性液体を加えて、チタン水酸化物を生成させる工程と、チタン水酸化物を含水状態で母液から分離する工程と、分離された含水状態のチタン水酸化物に第2の過酸化水素含有水性液体を自己熱反応させることにより、チタンの酸化物および水酸化物の少なくともいずれかを含むチタン化合物含有ゲルを生成させる工程と、チタン化合物含有ゲルを乾燥させて第1のチタン酸化物を得る工程と、を含むチタン酸化物の製造方法である。
【0009】
また、本発明は、チタンアルコキシドにアルコキシ基含有液体と第1の過酸化水素含有水性液体を加えて、チタン水酸化物を生成させる工程と、チタン水酸化物を含水状態で母液から分離する工程と、分離された含水状態のチタン水酸化物に第2の過酸化水素含有水性液体を自己熱反応させることにより、チタンの酸化物および水酸化物の少なくともいずれかを含むチタン化合物含有ゲルを生成させる工程と、チタン化合物含有ゲルに、第3の過酸化水素含有水性液体を1回以上自己熱反応させることにより、チタンの酸化物および水酸化物の少なくともいずれかを含むチタン化合物含有液体を生成させる工程と、チタン化合物含有液体を乾燥させて第2のチタン酸化物を得る工程と、を含むチタン酸化物の製造方法である。
【0010】
なお、本発明において、アルコキシ基含有液体、過酸化水素含有水性液体およびチタン化合物含有液体における「液体」には、溶液のみならず懸濁液をも含むものとする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、可視光を吸収して光触媒活性を示すチタン酸化物およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明にかかる第1のチタン酸化物のIRスペクトルを示す図である。
【図2】本発明にかかる第1のチタン酸化物のX線回折ピークを示す図である。
【図3】本発明にかかる第1のチタン酸化物における波長400nm〜700nmの光の反射率を示す図である。
【図4】本発明にかかる第2のチタン酸化物のIRスペクトルを示す図である。
【図5】本発明にかかる第2のチタン酸化物のX線回折ピークを示す図である。
【図6】本発明にかかるチタン酸化物の製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施形態1)
本発明にかかるチタン酸化物の一実施形態は、Ti23の化学組成を有し、赤外線吸収スペクトルの900cm-1以上925cm-1以下の範囲内に赤外線吸収ピークを有し、波長550nmの光の反射率が80%以下、波長500nmの光の反射率が60%以下、波長450nmの光の反射率が40%以下、および波長400nmの光の反射率が30%以下、である。本実施形態のチタン酸化物は、可視光のうち少なくとも波長が400nm〜550nmの範囲の光を吸収して、光触媒活性を示すことができる。以下、詳細に説明する。
【0014】
本実施形態のチタン酸化物は、Ti23の化学組成を有する。ここで、チタン酸化物の化学組成比、特に、酸素組成比は、酸素窒素同時分析装置などを用いて測定することができる。また、後述するように、本実施形態のチタン酸化物は赤色を呈する。現在、代表的なチタン酸化物としては、以下のものが知られている。チタン(II)酸化物(TiO)は、黒色の等軸晶系結晶であり、TiO2を約2000℃で炭素または水素により還元することにより得られる。チタン(III)酸化物(Ti23)は、黒紫色の菱面体晶系または六方晶系の結晶であり、コランダム構造を有し、TiO2を、水素とTiCl4の混合気流下1000℃で還元するか、700℃で炭素還元することにより得られる。チタン(IV)酸化物(TiO2)は、無色の正方晶系結晶であり、粉末は乱反射により白色に見え、ルチル型、ブルッカイト(板チタン石)型およびアナターゼ(鋭錐石)型の3種類の変態を有する。いずれも鉱物として産出される。本実施形態のチタン酸化物は、赤色のTi23であり、従来の黒紫色のTi23とは異なり、従来の黒色のTiOと無色または白色のTiO2との混合物でもない。
【0015】
また、本実施形態のチタン酸化物は、図1および図4を参照して、赤外線吸収スペクトルの900cm-1以上925cm-1以下の範囲内に赤外線吸収ピークを有する。900cm-1以上925cm-1以下の範囲内に現れる赤外線吸収ピークは、帰属は不明であるが、本実施形態のチタン酸化物に特有のものであり、本実施形態のチタン酸化物に特有のTi−Oの結合態様を示しているものと考える。ここで、チタン酸化物における赤外線吸収スペクトルは、赤外分光器を用いて測定することができる。
【0016】
また、本実施形態のチタン酸化物は、図3を参照して、波長550nmの光の反射率が80%以下、波長500nmの光の反射率が60%以下、波長450nmの光の反射率が40%以下、および波長400nmの光の反射率が30%以下である。このため、本実施形態のチタン酸化物は、可視光のうち少なくとも波長400nm〜550nmの範囲の光の少なくとも一部を吸収することにより、光触媒活性を示すことができる。ここで、チタン酸化物における光の反射率は、測色機を用いて測定することができる。
【0017】
また、本実施形態のチタン酸化物は、光触媒活性を有するものであれば特に制限はないが、図2および図5を参照して、アナターゼ型またはルチル型であることが好ましい。正方晶系結晶のチタン酸化物は、アナターゼ型、ルチル型およびブルッカイト型の3種類の変態を有するが、これらの変態のうちでアナターゼ型およびルチル型が高い触媒活性を示すからである。
【0018】
(実施形態2)
本発明にかかるチタン酸化物の製造方法の一実施形態は、図6を参照して、チタンアルコキシド11にアルコキシ基含有液体と第1の過酸化水素含有水性液体を加えて、チタン水酸化物12を生成させる工程S1と、チタン水酸化物を含水状態で母液から分離する工程S2と、分離された含水状態のチタン水酸化物12に、第2の過酸化水素含有水性液体を自己熱反応させることにより、チタンの酸化物および水酸化物の少なくともいずれかを含むチタン化合物含有ゲル13を生成させる工程S3と、チタン化合物含有ゲル13を乾燥させて第1のチタン酸化物31を得る工程S11と、を含む。かかる工程により、短時間で効率よく実施形態1のチタン酸化物が得られる。以下、詳細に説明する。
【0019】
本実施形態のチタン酸化物の製造方法は、チタンアルコキシド11にアルコキシ基含有液体と第1の過酸化水素含有水性液体を加えてチタン水酸化物を生成させる工程S1を備える。かかる工程S1により、短時間で効率よく、チタンアルコキシド11が加水分解されてチタン水酸化物12が得られる。
【0020】
チタン水酸化物を生成させる工程S1において、アルコキシ基含有液体の存在下、チタンアルコキシドを加水分解させることにより、チタン水酸化物にアルコキシ基を含ませることができる。ここで、液体中で4価のTiイオンの配位数は6であり、液体中のTi(OH)4においては、4価のTi(チタン)イオンの6つの配位サイトの内の4つにはOH基が入り、残りの2つにはOR基(アルコシキ基)またはOH2が入ると考えられる。また、第1の過酸化水素含有水性液体の過酸化水素の存在下、チタンアルコキシドを加水分解させることにより、得られるチタン水酸化物の液体中における凝集粒子の大きさを小さく(すなわち、凝集粒子の粒径を小さく)することができる。
【0021】
ここで、チタンアルコキシドのアルコキシ基としては、特に制限はないが、反応性が高い観点から、炭素数が10以下のものが好ましい。
【0022】
また、アルコキシド基含有液体は、アルコキシ基を含む液体であれば特に制限はないが、チタンアルコキシドおよびチタン水酸化物に配位し得る観点から、アルコール類、多価アルコール類、エーテル類、エステル類などが好ましく用いられる。ここで、アルコキシ基は、チタンアルコキシドおよびチタン水酸化物に配位するのが容易な観点から、炭素数が10以下のものが好ましい。
【0023】
また、第1の過酸化水素含有水性液体は、溶質として過酸化水素を含み溶媒として水を含む液体であれば特に制限はないが、チタンアルコキシドの加水分解を促進させる観点から、過酸化水素水が好ましく用いられる。
【0024】
チタン水酸化物を生成させる工程S1において、チタンアルコキシド中のアルコキシ基ORMに対するアルコキシ基含有液体中のアルコキシ基ORAのモル比ORA/ORMは、0.001以上10以下であることが好ましく、0.01以上5以下であることがより好ましい。かかるモル比ORA/ORMが、0.001より小さいとチタン水酸化物がアルコシキ基を保持することが困難となり、10より大きいとTi(チタン)に配位しない無駄なアルコキシ基が多くなる。
【0025】
また、チタンアルコキシド中のアルコキシ基ORMに対する第1の過酸化水素含有水性液体中の過酸化水素HPAのモル比HPA/ORMは、0.001以上20以下であることが好ましく、0.01以上10以下であることがより好ましい。かかるモル比HPA/ORMが、0.001より小さいとチタンアルコキシドの加水分解が不十分となりチタン水酸化物の生成が少なくなり、20より大きいと急激な酸化が起こる。
【0026】
また、チタンアルコキシドにアルコキシ基含有液体および第1の過酸化水素含有水性液体を加えて、チタンアルコキシドを加水分解させる初期温度は、特に制限はないが、263K(−10℃)以上373K(100℃)以下が好ましく、273K(0℃)以上323K(50℃)以下がより好ましい。加水分解の初期温度が、263Kより小さいとチタンアルコキシドが凝固して反応性が低減し、373Kより大きいと過酸化水素が分解してしまう。
【0027】
また、本実施形態のチタン酸化物の製造方法は、チタン水酸化物12を含水状態で母液から分離する工程S2を備える。かかる分離工程により、チタン水酸化物を単離することができる。ここで、チタン水酸化物を含水状態で母液から分離するのは、チタン水酸化物に含まれるアルコキシ基を保つためである。また、チタン水酸化物を母液から分離する方法は、特に制限はなく、濾過、遠心分離などの各種の方法を用いることができる。また、分離したチタン水酸化物を、純水、蒸留水、イオン交換水などで水洗いすることにより、精製することも好ましい。
【0028】
また、本実施形態のチタン酸化物の製造方法は、分離された含水状態のチタン水酸化物12に第2の過酸化水素含有水性液体を自己熱反応させることにより、チタンの酸化物および水酸化物の少なくともいずれかを含むチタン化合物含有ゲル13を生成させる工程S3を備える。かかる工程により、短時間で効率よく、チタン化合物含有ゲル13が得られる。かかるチタン化合物含有ゲル13は、その化学組成および構造が特定できていないが、チタンの水酸化物および酸化物の少なくともいずれかを含んでいる。ここで、自己熱反応とは、複数の化学種の自己熱により起こる反応をいう。
【0029】
本実施形態の自己熱反応は、たとえば、分離された含水状態のチタン水酸化物12に特定の初期温度で第2の過酸化水素含有水性液体を加えることにより起こる。また、チタン水酸化物中の水酸基に対する第2の過酸化水素含有水性液体中の過酸化水素のモル比を大きくして、チタン水酸化物の酸化を促進することにより、チタン酸化物を含有するチタン酸化物含有ゲル(チタン化合物含有ゲル)が得られる。
【0030】
ここで、第2の過酸化水素含有水性液体は、第1の過酸化水素含有水性液体と同様に、溶質として過酸化水素を含み溶媒として水を含む液体であれば特に制限はないが、チタン水酸化物の酸化を促進させるとともに反応温度の上昇を抑制する観点から、過酸化水素水が好ましく用いられる。
【0031】
チタン化合物含有ゲル13を生成させる工程S3において、チタン水酸化物12中の水酸基OHMに対する第2の過酸化水素含有水性液体中の過酸化水素HPBのモル比HPB/OHMは、0.001以上20以下であることが好ましく、0.01以上10以下であることがより好ましい。かかるモル比HPB/OHMが、0.001より小さいと反応時間が長くなり、20より大きいと急激な反応が起こる。
【0032】
また、チタン水酸化物に第2の過酸化水素含有水性液体を加えて、チタン水酸化物と第2の過酸化水素含有水性液体とを自己熱反応を開始させる初期温度は、273K(0℃)以上573K(300℃)以下が好ましく、293K(20℃)以上473K(200℃)以下がより好ましく、300K(27℃)以上315K(42℃)以下が特に好ましい。自己熱反応の初期温度が、273Kより小さいと自己熱反応が起こりにくく、573Kより大きいと水性液体が急激に失われ急激な反応が起こる。
【0033】
また、本実施形態のチタン酸化物の製造方法は、チタン化合物含有ゲル13を乾燥させる工程S11を備える。かかる工程により、チタン化合物含有ゲル13の液体成分が蒸発して、第1のチタン酸化物31が得られる。かかる第1のチタン酸化物には、チタン化合物含有ゲル13を乾燥させる工程において形成されるチタン酸化物の結晶が含まれる。
【0034】
本実施形態において、チタン化合物含有ゲルを乾燥させる工程は、チタン化合物含有ゲル中の液体成分を沸騰させない状態で行なうことが好ましい。チタン化合物含有ゲル中の液体成分を、沸騰させないで、穏やかに蒸発させることにより、乾燥工程におけるチタン酸化物(チタン化合物)の結晶の形成が阻害されず、結晶化率の高いチタン酸化物(チタン化合物)が得られる。
【0035】
ここで、チタン化合物含有ゲル中の液体成分を沸騰させない状態とは、チタン化合物含有ゲルの乾燥の際の雰囲気圧力が液体成分の蒸気圧よりも高い状態をいう。また、チタン化合物含有ゲルの乾燥を促進させる観点から、チタン化合物含有ゲルの乾燥の際の雰囲気圧力と液体成分の蒸気圧との差が小さいことが好ましい。
【0036】
乾燥の際の雰囲気圧力と液体成分の蒸気圧との差を小さくする方法には、特に制限はないが、たとえば、乾燥の際の雰囲気圧力を低減する方法(減圧乾燥方法)、乾燥の際の雰囲気圧力を増大するとともに乾燥温度を高める方法(高圧乾燥方法)などを用いることができる。また、チタン化合物含有ゲル中の液体成分には、アルコキシ基含有液体であるアルコール類と過酸化水素含有水性液体である過酸化水素水が含まれており、アルコール類と水とには極小共沸点があるため、乾燥の際の雰囲気圧力と液体成分の蒸気圧との差を小さくすることができる。
【0037】
ここで、チタン化合物含有ゲルの乾燥条件は、チタン化合物含有ゲル中の液体成分を沸騰させない条件であれば特に制限はない。たとえば、減圧乾燥方法においては、たとえば、雰囲気圧力1Pa〜100kPaにおいて乾燥温度193K(−80℃)〜373K(100℃)の条件が好ましく用いられる。
【0038】
(実施形態3)
本発明にかかるチタン酸化物の製造方法の他の実施形態は、図6を参照して、チタンアルコキシド11にアルコキシ基含有液体と第1の過酸化水素含有水性液体を加えて、チタン水酸化物12を生成させる工程S1と、チタン水酸化物12を含水状態で母液から分離する工程S2と、分離された含水状態のチタン水酸化物12に、第2の過酸化水素含有水性液体を自己熱反応させることにより、チタンの酸化物および水酸化物の少なくともいずれかを含むチタン化合物含有ゲル13を生成させる工程S3と、チタン化合物含有ゲル13に、第3の過酸化水素含有水性液体を1回以上自己熱反応させることにより、チタンの酸化物および水酸化物の少なくともいずれかを含むチタン化合物含有液体14を生成させる工程S4と、チタン化合物含有液体14を乾燥させて第2のチタン酸化物41を得る工程S21と、を含む。かかる工程により、短時間で効率よく実施形態1のチタン酸化物が得られる。以下、詳細に説明する。
【0039】
本実施形態のチタン酸化物の製造方法は、実施形態2のチタン酸化物の製造方法と同様のチタン水酸化物12を生成させる工程S1と、チタン水酸化物12を含水状態で母液から分離する工程S2と、チタン化合物含有ゲル13を生成させる工程S3とを備える。
【0040】
また、本実施形態のチタン酸化物の製造方法は、チタン化合物含有ゲル13に第3の過酸化水素含有水性液体を1回以上自己熱反応させることにより、チタン化合物含有液体14を生成させる工程S4を含む。かかる工程により、チタンの酸化物および水酸化物の少なくともいずれかを含むチタン化合物含有液体が得られる。ここで、自己熱反応とは、実施形態2における自己熱反応と同様に、複数の化学種の自己熱により起こる反応をいう。
【0041】
本実施形態の自己熱反応は、たとえば、チタン化合物含有ゲル13に特定の初期温度で第3の過酸化水素含有水性液体を加えることにより起こる。本実施形態の自己熱反応においては、第3の過酸化水素含有水性液体中の過酸化水素の作用により、水性液体中におけるチタン化合物の凝集粒子の大きさが小さく(すなわち、凝集粒子の粒径が小さく)され、チタン化合物含有ゲルが水性液体中に分散または溶解される。ここで、第3の過酸化水素含有水性液体は、第2の過酸化水素含有水性液体に比べて、過酸化水素の含有量を増やすことが好ましい。
【0042】
本実施形態において、チタン化合物含有ゲル13を第3の過酸化水素含有水性液体中に均一に分散または溶解させるのに必要な自己熱反応の回数は、少なくとも2回である。チタン化合物含有ゲル13に、1回目の過酸化水素含有水性液体を加えることにより1回目の自己熱反応が起こり、さらに2回目の過酸化水素含有水性液体を加えることにより2回目の自己熱反応が起こり、そしてk回目(k≧2)の過酸化水素含有水性液体を加えることによりk回目の自己熱反応が起こる。このようにして、チタン化合物含有ゲルに過酸化水素含有水性液体を1回以上自己熱反応させることができる。ここで、k回目の過酸化水素含有水性液体は、k−1回目の過酸化水素含有水性液体に比べて、過酸化水素の含有量を増やすことが好ましい。
【0043】
また、チタン化合物含有ゲル中のチタンに配位するのに必要な水酸基OHGに対する第3の過酸化水素含有水性液体中の過酸化水素HPCのモル比HPC/OHGを大きくし、チタン化合物含有ゲルの酸化を促進することにより、チタン酸化物を含有するチタン化合物含有液体が得られる。ここで、「チタン原子に配位するのに必要な水酸基」とは、チタン原子の価数に等しい数の水酸基をいう。
【0044】
ここで、第3の過酸化水素含有水性液体は、第1および第2の過酸化水素含有水性液体と同様に、溶質として過酸化水素を含み溶媒として水を含む液体であれば特に制限はないが、チタン化合物含有ゲルの酸化および凝集粒子の微細化を促進させるとともに反応温度の上昇を抑制する観点から、過酸化水素水が好ましく用いられる。
【0045】
チタン化合物含有液体を生成させる工程S4において、チタン化合物含有ゲル中のチタン原子に配位するのに必要な水酸基OHGに対する第3の過酸化水素含有水性液体中の過酸化水素HPCのモル比HPC/OHGは、0.001以上20以下であることが好ましく、0.01以上10以下であることがより好ましい。かかるモル比が、0.001より小さいと反応時間が長くなり、20より大きいと急激な反応が起こる。
【0046】
また、チタン化合物含有ゲルに第3の過酸化水素含有水性液体を加えて自己熱反応を開始させる初期温度は、273K(0℃)以上573K(300℃)以下が好ましく、293K(20℃)以上493K(200℃)以下がより好ましく、300K(27℃)以上315K(42℃)以下が特に好ましい。自己熱反応の初期温度が、273Kより小さいと自己熱反応が起こりにくく、573Kより大きいと水性液体が急激に失われ急激な反応が起こる。
【0047】
こうして得られるチタン化合物含有液体は、セラミックス、金属、その他の無機材料など表面が親水性の母材、および、樹脂、その他の有機材料など表面が親油性の母材のいずれに対しても、いわゆるはじき現象を起こすことなく、均一の厚さで薄く塗布することができる。これは、チタン化合物含有液体中に、親水性および親油性の両方の性質を有する官能基であるアルコキシ基が含まれていることによるものと考えられる。すなわち、含水状態のチタン水酸化物に含まれるアルコキシ基が、チタン水酸化物と第2の過酸化水素含有水性液体との反応により得られるチタン化合物含有ゲルにも含まれ、チタン化合物含有ゲルに含まれているアルコキシ基が、チタン化合物含有ゲルと第3の過酸化水素含有水性液体との反応によって得られたチタン化合物含有液体に含まれているものと考えられる。
【0048】
また、本実施形態のチタン酸化物の製造方法は、チタン化合物含有液体14を乾燥させる工程S21を備える。かかる工程により、チタン化合物含有液体14の液体成分が蒸発して、第2のチタン酸化物41が得られる。かかる第2のチタン酸化物には、チタン化合物含有液体14を乾燥させる工程において形成されるチタン酸化物の結晶が含まれる。
【0049】
ここで、チタン化合物含有液体14においては、第3の過酸化水素含有水性液体中の過酸化水素の作用により、チタン化合物含有液体中のチタン化合物の凝集粒子の大きさは、チタン化合物含有ゲル中のチタン化合物の凝集粒子の大きさに比べて、小さくなっていると考えられる。
【0050】
本実施形態において、チタン化合物含有液体を乾燥させる工程は、チタン化合物含有液体中の液体成分を沸騰させない状態で行なうことが好ましい。チタン化合物含有液体中の液体成分を、沸騰させないで、穏やかに蒸発させることにより、乾燥工程におけるチタン酸化物(チタン化合物)の結晶の形成が阻害されず、結晶化率の高いチタン酸化物(チタン化合物)が得られる。
【0051】
ここで、チタン化合物含有液体中の液体成分を沸騰させない状態とは、チタン化合物含有液体の乾燥の際の雰囲気圧力が液体成分の蒸気圧よりも高い状態をいう。また、チタン化合物含有液体の乾燥を促進させる観点から、チタン化合物含有液体の乾燥の際の雰囲気圧力と液体成分の蒸気圧との差が小さいことが好ましい。
【0052】
乾燥の際の雰囲気圧力と液体成分の蒸気圧との差を小さくする方法には、特に制限はなく、実施形態2の場合と同様の方法を用いることができる。ここで、チタン化合物含有液体の乾燥条件は、チタン化合物含有液体中の液体成分を沸騰させない条件であれば特に制限はない。たとえば、減圧乾燥方法においては、雰囲気圧力1Pa〜100kPaにおいて乾燥温度193K(−80℃)〜373K(100℃)の条件が好ましく用いられる。
【0053】
ここで、本発明にかかるチタン酸化物の膜(チタン酸化物膜)の製造方法の一例は、図6を参照して、本実施形態において得られたチタン化合物含有液体14を含む塗料を母材に塗布する工程S31と、母材に塗布された塗料を乾燥させる工程S32と、を含む。かかる工程により、母材に塗布されたチタン化合物含有液体14を含む塗料の液体成分が蒸発して、第2のチタン酸化物の膜42(チタン酸化物膜)が得られる。かかるチタン酸化物膜には、塗料に含まれるチタン化合物含有液体14を乾燥させる工程において形成されるチタン酸化物の結晶が含まれる。
【0054】
こうして得られるチタン化合物含有液体14を含む塗料は、本実施形態におけるチタン化合物含有液体14についての説明から明らかなように、セラミックス、金属、その他の無機材料など表面が親水性の母材、および、樹脂、その他の有機材料など表面が親油性の母材のいずれに対しても、塗料に含まれるチタン化合物含有液体を、いわゆるはじき現象を起こすことなく、均一の厚さで薄く塗布することができる。かかる厚さが均一なチタン化合物含有液体の膜を乾燥させることにより、厚さが均一な第2のチタン酸化物の膜42が得られる。
【0055】
ここで、チタン化合物含有液体14を含む塗料とは、チタン酸化物の膜42を形成することができるチタン化合物含有液体14を含む塗料をいう。かかる塗料は、チタン化合物含有液体14からなるものであってもよいが、塗布および乾燥中における塗料中のチタン化合物の凝集を防止して厚さが小さく均一なチタン酸化物の膜42を形成させる観点から、チタン化合物含有液体に加えて、チタン化合物凝集防止剤および希釈溶媒のいずれかを含んでいてもよい。ここで、チタン化合物凝集防止剤は、塗料の溶媒に任意の割合で溶解しかつ塗料の溶媒に比べて沸点の高いものが好ましく用いられる。たとえば、チタン化合物含有液体が水性液体の場合は、チタン化合物凝集防止剤は、水に任意の割合で溶解しかつ水に比べて沸点が高いものが好ましく、たとえば、プロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどが好ましい。また、希釈溶媒は、塗料の溶媒に任意の割合で溶解するものが好ましく用いられる。たとえば、チタン化合物含有液体が水性液体の場合は、水に任意の割合で溶解するものが好ましく、たとえば、水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどが好ましい。
【実施例】
【0056】
(実施例1)
1−1.チタン化合物含有ゲルの製造
100gのチタンイソプロポキシド(チタンアルコキシド)に、171gのイソプロピルアルコール(アルコキシ基含有液体)と25gの35質量%の過酸化水素水(第1の過酸化水素含有水性液体)を加えて1分間混合すると、チタンイソプロポキシドが激しく加水分解して黄色のスラリー状のチタン水酸化物が得られた。ここで、チタンイソプロポキシド中のイソプロポキシ基(アルコキシ基)ORMに対するイソプロピルアルコールのイソプロポキシ基(アルコキシ基)ORAのモル比ORA/ORMは2.0であり、チタンイソプロポキシド中のイソプロポキシ基(アルコキシ基)ORMに対する35質量%の過酸化水素含有水性液体(第1の過酸化水素含有水性液体)中の過酸化水素HPAのモル比HPA/ORMは0.18であり、雰囲気温度は室温293K(20℃)であった。
【0057】
次に、このスラリー状のチタン水酸化物を含水状態のまま濾別して、黄色のペースト状のチタン水酸化物が得られた。
【0058】
次に、得られたペースト状のチタン水酸化物に、初期温度300K(27℃)で、35質量%の過酸化水素水(第2の過酸化水素含有水性液体)を544g加えて20秒間自己熱反応させると、チタン酸化物およびチタン水酸化物を含むチタン化合物含有ゲルが得られた。ここで、チタン水酸化物中のチタン原子に配位するのに必要な水酸基OHMに対する35質量%の過酸化水素含有水性液体(第2の過酸化水素含有水性液体)中の過酸化水素HPBのモル比HPB/OHMは4.0であった。なお、チタン水酸化物中のチタン原子は4価であるため、1モルのチタン原子に配位するのに必要な水酸基は4モルである。
【0059】
このようにして、本実施例においては、10分間でチタンイソプロポキシドからチタン化合物含有ゲルが得られた。本実施例のチタン化合物含有ゲルの製造時間は、チタンイソプロポキシドからチタン化合物含有液体を得るのに720時間を要する従来の方法に比べて、約1/4320の時間に短縮された。
【0060】
1−2.第1のチタン酸化物の製造
上記1−1.で得られたチタン化合物含有ゲルを、凍結真空乾燥装置(日本真空技術社製DF−01H)を用いて、雰囲気圧力51kPa、乾燥温度355K(82℃)で30分間乾燥させて、第1のチタン酸化物が得られた。本実施例の第1のチタン酸化物の製造時間は、チタン化合物含有液体からチタン酸化物を得るのに5時間を要する従来の方法に比べて、約1/10の時間に短縮された。
【0061】
1−3.第1のチタン酸化物の物性
このようにして得られた第1のチタン酸化物は、赤色を呈し、酸素窒素同時分析装置(LECO社製TR−436)を用いて酸素組成比を分析したところTi23の組成を有していた。
【0062】
また、この第1のチタン酸化物の粉末について、フーリエ変換IR(赤外線)吸収スペクトル測定装置(日本電子社製JIR−7000)を用いて、IRスペクトルの測定を行なったところ、図1に示すIRスペクトルが得られた。このIRスペクトルには、900cm-1以上925cm-1以下の範囲内の912cm-1に本発明のチタン酸化物特有のIR吸収ピークが現れた。
【0063】
また、この第1のチタン酸化物の粉末について、X線回折機(PANALYTICAL社製XPELT−PRO)を用いて、粉末X線回折を行なったところ、図3に示すX線回折ピークが得られた。複数のX線回折ピークの半値幅およびパターンの解析から、この第1のチタン酸化物には、アナターゼ型結晶が61%、ルチル型結晶が8%、非結晶が31%の確率で含まれていた。したがって、この第1のチタン酸化物は、光触媒活性を有すものと考えられる。
【0064】
また、この第1のチタン酸化物の粉末における400nm〜700nmの波長の光の反射率を、測色機(マクベス社製Color−Eye3100)を用いて測定した。このとき、比較のために、白色チタン酸化物(TiO2、アナターゼ型結晶、石原産業社製ST−01)の粉末における400nm〜700nmの波長の光の反射率を測定した。これらの結果を図3に示した。図3において、Rは白色チタン酸化物についての反射率曲線を示し、Sは赤色の第1のチタン酸化物についての反射率曲線を示す。
【0065】
図3を参照して、白色チタン酸化物は、450nm未満の波長の光の反射率がわずかに低減するのみで、450nm以上の波長の光は80%程度の高い反射率を示した。これに対して、第1の酸化チタンは、600nm〜700nmの波長の光の反射率は85〜90%程度と高いが、600nmから400nmにかけて波長が小さくなるにつれてその波長の光の反射率が大きく低減した。具体的には、550nmの波長の光の反射率は約75%、500nmの波長の光の反射率は約55%、450nmの波長の光の反射率は約35%、および400nmの波長の光の反射率は約25%であった。すなわち、550nmの波長の光の反射率は80%以下、500nmの波長の光の反射率は60%以下、450nmの波長の光の反射率は40%以下、および400nmの波長の光の反射率は30%以下であった。このように、550nm以下の波長の光の反射率が小さい、すなわち、550nm以下の波長の光が大きく吸収されることにより、第1の酸化チタンが赤色を呈したことがわかる。また、従来の白色チタン酸化物が略450nm以下の波長の光を吸収して光触媒活性を示すのに対し、赤色の第1のチタン酸化物は略550nm以下の波長の光を吸収して光触媒活性を示すものと考えられる。
【0066】
(実施例2)
2−1.チタン化合物含有液体の製造
上記1−1.で得られたチタン化合物含有ゲルに、初期温度300K(27℃)で、35質量%の過酸化水素水(第3の過酸化水素含有水性液体)を1088g加えて40秒間自己熱反応させることにより、チタンの酸化物および水酸化物を含むチタン化合物含有液体が得られた。ここで、チタン化合物ゲル中のチタン原子に配位するのに必要な水酸基OHGに対する35質量%の過酸化水素含有水性液体(第3の過酸化水素含有水性液体)中の過酸化水素HPCのモル比HPC/OHGは8.0であった。なお、チタン化合物ゲル中のチタン原子は4価であるため、1モルのチタン原子に配位するのに必要な水酸基は4モルである。しかし、このチタン化合物含有液体は、チタン化合物が液体に均一に分散または溶解していなかった。
【0067】
そこで、このチタン化合物含有液体に、初期温度300K(27℃)で、さらに、35質量%の過酸化水素水(第3の過酸化水素含有水性液体)を1360g加えて1分間自己熱反応させた。ここで、チタン化合物ゲル中のチタン原子に配位するのに必要な水酸基OHGに対する35質量%の過酸化水素含有水性液体(第3の過酸化水素含有水性液体)中の過酸化水素HPCのモル比HPC/OHGは10.0であった。このように、チタン化合物含有ゲルに、35質量%の過酸化水素水(第3の過酸化水素含有水性液体)を、2回自己熱反応させた。こうして、チタン化合物が液体に均一に分散または溶解したチタン化合物含有液体が得られた。
【0068】
このようにして、本実施例においては、10分間でチタン化合物含有ゲルからチタン化合物含有液体が得られた。すなわち、20分間でチタンイソプロポキシドからチタン化合物含有液体が得られた。本実施例のチタン化合物含有液体の製造時間は、チタンイソプロポキシドからチタン化合物含有液体を得るのに720時間を要する従来の方法に比べて、約1/2160の時間に短縮された。
【0069】
2−2.第2のチタン化合物の製造
上記2−1.で得られたチタン化合物含有液体を、凍結真空乾燥装置(日本真空技術社製DF−01H)を用いて、雰囲気圧力51kPa、乾燥温度355K(82℃)で4時間乾燥させて、第2のチタン酸化物が得られた。本実施例の第2のチタン酸化物の製造時間は、チタン化合物含有液体からチタン酸化物を得るのに5時間を要する従来の方法に比べて、約4/5の時間に短縮された。
【0070】
2−3.第2のチタン酸化物の物性
このようにして得られた第2のチタン酸化物は、第1のチタン化合物と同様に、Ti23の化学組成を有する赤色のチタン酸化物であった。
【0071】
また、この第2のチタン酸化物の粉末について、図4に示すIR(赤外線)スペクトルが得られた。第2のチタン酸化物のIRスペクトルにも、図1に示す第1のチタン酸化物のIRスペクトルの場合と同様に、900cm-1以上925cm-1以下の範囲内の912cm-1に本発明のチタン酸化物特有のIR吸収ピークが現れた。また、第1のチタン酸化物のIRスペクトル(図1)の1714cm-1、1619cm-1、1532cm-1、1438cm-1および1026cm-1のIR吸収ピークにそれぞれ対応するように、第2のチタン酸化物のIRスペクトル(図4)に1707cm-1、1619cm-1、1525cm-1、1418cm-1および1026cm-1のIR吸収ピークが現れた。一方、第1のチタン酸化物のIRスペクトル(図1)には3393cm-1に幅広い大きな吸収ピークPが現われたが、第2のチタン酸化物のIRスペクトル(図4)には吸収ピークPに対応する吸収ピークが現われなかった。したがって、第2のチタン酸化物は、第1のチタン酸化物と同様の色(赤色)および化学組成(Ti23)を有し、後述する結晶構造は別として、ほぼ同様のTi−Oの結合態様を有するチタン酸化物と考えられる。
【0072】
また、第2のチタン酸化物の粉末について、図5に示すX線回折ピークが得られた。複数のX線回折ピークの半値幅およびパターンの解析から、この第2のチタン酸化物には、アナターゼ型結晶が54%、非結晶が46%の確率で含まれていた。したがって、この第2のチタン酸化物も、光触媒活性を有すものと考えられる。ここで、第2のチタン酸化物の結晶構造は、第1の結晶構造とは少し相違していた。かかる相違が、チタン化合物含有ゲルとチタン化合物含有液体との相違によるものか、乾燥の際に発生する相違なのかについては不明である。
【0073】
(実施例3)
3−1.チタン化合物膜の製造
上記2−1.で得られたチタン化合物含有液体(液体中にチタン化合物が均一に分散または溶解している液体)5質量%に、チタン化合物凝集防止剤として1質量%のプロピレングリコールと、希釈溶媒として94質量%の水と、を加えて均一に混合分散させることにより、チタン化合物含有液体を含む塗料を作製した。
【0074】
スプレーガンを用いて、ガラス板およびアクリル樹脂板の表面の一部に、上記塗料を、均一の厚さに塗布(目付け量:60g/m2)して、雰囲気温度353K(80℃)で3時間乾燥させた。ここで、ガラス板は、予め大気中で7日間放置して、その表面が撥水状態になっているものを使用した。こうして、表面の一部にチタン化合物含有液体を含む塗料が塗布されたガラス板およびアクリル樹脂板に、板の表面から10cmの距離から32形の紫外線吸収膜付蛍光灯(東芝ライテック株式会社製FHF32EX−N・NU−MS)の光を2時間照射した。かかる紫外線吸収膜付蛍光灯の光は、発光スペクトルが400nm〜700nmの範囲にあり、発光ピーク波長が440nm、490nm、550nm、590nmおよび620nmに現れる。光照射後、ガラス板およびアクリル樹脂板の表面を水洗いして、表面の親水性を評価した。表面の親水性の評価においては、ガラス板およびアクリル樹脂板を垂直に立てて、水洗い後の水滴が表面に残らないものを親水性、水洗い後の水滴が表面に残るものを撥水性とした。結果を表1にまとめた。
【0075】
【表1】

【0076】
表1を参照して、ガラス板およびアクリル樹脂板いずれの場合も、チタン化合物含有液体を含む塗料が塗布されていない表面は撥水性であったのに対し、チタン化合物含有液体を含む塗料が塗布された表面は親水性であった。このことは、ガラス板およびアクリル樹脂板に塗布された塗料に含まれるチタン化合物含有液体は乾燥されてチタン酸化物膜(これは、上記の結果から第2の酸化チタンの膜と考えられる)が形成され、波長400nm〜700nmの光の照射により、チタン化合物膜(第2の酸化チタンの膜)の光触媒活性作用により、ガラス板およびアクリル樹脂板の表面を親水性にしたものと考えられる。
【0077】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明でなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内のすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0078】
11 チタンアルコキシド、12 チタン水酸化物、13 チタン化合物含有ゲル、14 チタン化合物含有液体、31 第1のチタン酸化物、41 第2のチタン酸化物、42 第2のチタン酸化物の膜、S1 チタン水酸化物を生成させる工程、S2 チタン水酸化物を含水状態で母液から分離する工程、S3 チタン化合物含有ゲルを生成させる工程、S4 チタン化合物含有液体を生成させる工程、S11 チタン化合物含有ゲルを乾燥させる工程、S21 チタン化合物含有液体を乾燥させる工程、S31 チタン化合物含有液体を含む塗料を母材に塗布する工程、S32 母材に塗布された塗料を乾燥させる工程。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ti23の化学組成を有し、
赤外線吸収スペクトルの900cm-1以上925cm-1以下の範囲内に赤外線吸収ピークを有し、
波長550nmの光の反射率が80%以下、波長500nmの光の反射率が60%以下、波長450nmの光の反射率が40%以下、および波長400nmの光の反射率が30%以下、であるチタン酸化物。
【請求項2】
アナターゼ型またはルチル型の結晶構造を有する請求項1に記載のチタン酸化物。
【請求項3】
チタンアルコキシドにアルコキシ基含有液体と第1の過酸化水素含有水性液体を加えて、チタン水酸化物を生成させる工程と、
前記チタン水酸化物を含水状態で母液から分離する工程と、
前記分離された含水状態の前記チタン水酸化物に、第2の過酸化水素含有水性液体を自己熱反応させることにより、チタンの酸化物および水酸化物の少なくともいずれかを含むチタン化合物含有ゲルを生成させる工程と、
前記チタン化合物含有ゲルを乾燥させて第1のチタン酸化物を得る工程と、を含むチタン酸化物の製造方法。
【請求項4】
チタンアルコキシドにアルコキシ基含有液体と第1の過酸化水素含有水性液体を加えて、チタン水酸化物を生成させる工程と、
前記チタン水酸化物を含水状態で母液から分離する工程と、
前記分離された含水状態の前記チタン水酸化物に、第2の過酸化水素含有水性液体を自己熱反応させることにより、、前記チタン水酸化物およびチタン酸化物の少なくともいずれかを含むチタン化合物含有ゲルを生成させる工程と、
前記チタン化合物含有ゲルに、第3の過酸化水素含有水性液体を1回以上自己熱反応させることにより、チタンの酸化物および水酸化物の少なくともいずれかを含むチタン化合物含有液体を生成させる工程と、
前記チタン化合物含有液体を乾燥させて第2のチタン酸化物を得る工程と、を含むチタン酸化物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−260760(P2010−260760A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−112128(P2009−112128)
【出願日】平成21年5月1日(2009.5.1)
【出願人】(306022546)
【出願人】(507054951)長宗産業株式会社 (2)
【出願人】(599067879)稀産金属株式会社 (2)
【Fターム(参考)】