説明

チタン錯体を含む潤滑油組成物

【課題】内燃機関の金属摩耗を軽減できる潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】(a)主要量の潤滑粘度の油、並びに(b)(i)α−、β−、もしくはγ−ヒドロキシカルボニル化合物のアニオン;(ii)α−、β−、もしくはγ−ヒドロキシカルボン酸のアニオン、該カルボン酸のアミド、または該カルボン酸のエステル;(iii)α−、β−、もしくはγ−アミノカルボン酸のアニオン;および(iv)α−、β−、もしくはγ−ケト酸のアニオンからなる群より選ばれる配位子を持つハロゲン不含油溶性チタン錯体を含む潤滑油組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般的に云って、潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のスパーク点火装置とディーゼルエンジンは、バルブ、カム、およびロッカーアームを含む弁系システムを有する。これらについては特段の潤滑性の検討が必要である。潤滑剤、すなわちエンジン油が摩耗からこれらの部品を保護することは極めて重要である。エンジン油については、エンジン中の堆積物の生成を抑制することも重要である。そのような堆積物は、使用するエンジン油の劣化に起因し、炭化水素燃料(例、ガソリンおよびディーゼル燃料油)の非燃焼物および不完全燃焼の生成物である。
【0003】
代表的なエンジン油は、鉱物油もしくは合成油を基油として使用する。しかし、単に基油のみでは、内燃機関を保護するために必要とされる摩耗防止、堆積制御などを実現する機能を提供することができない。従って、基油には、無灰性分散剤、金属清浄剤(金属含有清浄剤)、抗摩耗剤、抗酸化剤(酸化防止剤)、粘度指数向上剤その他のような補助的な機能を分担する様々な添加剤が処方され、処方済み油(潤滑油組成物)が供給されている。
【0004】
そのようなエンジン油添加剤は、多数が知られており、実際に用いられている。例えば、ジアルキルジチオリン酸亜鉛は、抗摩耗剤としての望ましい性質および酸化防止剤としての性能を理由に、市販の内燃機関用油、特に自動車に用いられるエンジン油に普通に含まれている。
【0005】
一方、ジアルキルジチオリン酸亜鉛の使用に伴う問題は、そのリンおよび硫黄の誘導体が、触媒コンバータの触媒成分を害することである。これは、有効な触媒コンバータが必要とされていること、そして触媒コンバータは、汚染を減少させ、炭化水素、一酸化炭素、および窒素酸化物のような内燃機関が排出する排気中の有害な気体を減少させるために制定されている政府の規制に適合させるために必要とされていることと大いに関係がある。そのような触媒コンバータは、一般に触媒金属(例、白金)と金属酸化物との組合せを用いている。触媒コンバータは、排気の気流中(例、自動車の排気管)に取り付けられ、毒性の気体を無毒の気体に変換する。既に述べたように、これらの触媒成分は、ジアルキルジチオリン酸亜鉛のリンおよび硫黄成分もしくはリンおよび硫黄分解生成物により害される。そのため、リンおよび硫黄添加剤を含むエンジン油の使用は、触媒コンバータの寿命と効果とを相当程度低下させる。
【0006】
リンと硫黄の含有量を削減することについては、政府と自動車産業からの圧力もある。例えば、現在のGF−4仕様の自動車油の仕様書では、調合済みの油について、リンは0.08質量%未満、硫黄は0.7質量%未満の含有量であることが要求されている。一方、CJ−4仕様の自動車油の仕様書では、最新世代の耐久性ディーゼルエンジン油について、リンは0.12質量%未満、硫黄は0.4質量%未満、そして硫酸灰分は1.0質量%未満の量であることが要求されている。このような限度まで低下させると、エンジンの性能、エンジンの耐久性、およびエンジン油の酸化に対して深刻な影響が生じる可能性があると広く信じられている。これは、エンジン油中のリン含有量の大部分が、歴史的にジアルキルジチオリン酸亜鉛を起源としているからである。従って、潤滑油からジアルキルジチオリン酸亜鉛の量を減らし、それにより触媒の不活性化を抑制し、さらに触媒コンバータの寿命と効果とを改善することが望まれる。同時に、エンジン油中のリンおよび硫黄の含有量を、提案される将来の工業基準にも適合することも望まれる。しかし、単にジアルキルジチオリン酸亜鉛の量を減らすだけでは、問題が起きる。すなわち、それだけでは、潤滑油の抗摩耗性および酸化防止性能が低下することが避けられないためである。そのため、リンおよび硫黄の含有量が高いエンジン油における抗摩耗性を依然として維持しながら、リンおよび硫黄の含有量を削減もしくは削除する方法を見い出す必要がある。
【0007】
特許文献1は、潤滑粘度の油、化合物中に約50乃至約85%のビニリデン二重結合を有するポリアルキレン化合物から誘導される少なくとも一種のコハク酸イミド分散剤、金属含有清浄剤、少なくとも一種の摩耗軽減剤、少なくとも一種の酸化防止剤、および摩擦緩和剤としてチタンアルコキシドと約C乃至約C25のカルボン酸との反応生成物である炭化水素可溶性チタン化合物を含む潤滑油組成物を開示している。この潤滑油組成物はモリブデン化合物を実質的に含まない。特許文献1は、さらに上記の摩耗軽減剤が、少なくとも一種のジヒドロ炭化水素ジチオリン酸金属化合物、例えば、ジヒドロ炭化水素ジチオリン酸亜鉛であることを開示している。
【0008】
特許文献2は、(a)潤滑粘度の油、(b)有機モリブデン摩擦緩和剤、グリセロールエステル摩擦緩和剤、およびそれらの混合物から実質的になる群より選ばれる摩擦緩和剤、並びに(c)炭化水素可溶性チタン化合物が欠落している潤滑油組成物の耐摩耗性能の改良よりも潤滑油組成物の耐摩耗性能が改良されるために有効な量で少なくとも一種の炭化水素可溶性チタン化合物を含む耐摩耗剤を含む潤滑油組成物を開示している。この化合物は実質的に硫黄およびリン原子を含まない。特許文献2は、さらに炭化水素可溶性チタン化合物がチタンアルコキシドと約C乃至約C25のカルボン酸との反応生成物であることを開示している。特許文献2が開示するすべての実施例は、炭化水素可溶性チタン化合物をジチオリン酸亜鉛と組み合わせることを示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許出願公開第2007/0111908号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2007/0149418号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上に述べたように、潤滑油のリン含有量をさらに減少させ、硫黄含有量を制限するとの要求が非常に高いため、現在の実用化されている方法では、そのような削減要求を満足することができない。それだけではなく、依然として、今日のエンジン油に要求されている厳しい耐摩耗性能と酸化−腐食防止性能とに適合できていない。従って、リン含有量が比較的低レベルであるか、あるいは全く含まず、硫黄および硫酸灰分も比較的低レベルであるが、必要とされる摩耗防止性能を実現する潤滑油組成物を開発することが望まれる。ところが、それらの性能は、現在でも依然としてジアルキルジチオリン酸亜鉛を含む潤滑油によって提供されている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一つの態様では、下記成分を含む潤滑油組成物が提供される:(a)主要量の潤滑粘度の油;並びに(b)(i)α−、β−、もしくはγ−ヒドロキシカルボニル化合物のアニオン;(ii)α−、β−、もしくはγ−ヒドロキシカルボン酸のアニオン;(iii)α−、β−、もしくはγ−アミノカルボン酸のアニオン、該カルボン酸のアミド、または該カルボン酸のエステル;および(iv)α−、β−、もしくはγ−ケト酸のアニオンからなる群より選ばれる少なくとも一つの配位子を持つ一種以上のハロゲン不含油溶性チタン錯体。
【0012】
本発明の第二の態様では、下記成分を含む潤滑油組成物の存在下でエンジンを作動させることを含む内燃機関における金属部分の摩耗を軽減する方法が提供される:(a)主要量の潤滑粘度の油;並びに(b)(i)α−、β−、もしくはγ−ヒドロキシカルボニル化合物のアニオン;(ii)α−、β−、もしくはγ−ヒドロキシカルボン酸のアニオン;(iii)α−、β−、もしくはγ−アミノカルボン酸のアニオン、該カルボン酸のアミド、または該カルボン酸のエステル;および(iv)α−、β−、もしくはγ−ケト酸のアニオンからなる群より選ばれる少なくとも一つの配位子を持つ一種以上のハロゲン不含油溶性チタン錯体。
【0013】
本発明の第三の態様では、下記成分を含む潤滑油組成物による潤滑下に運転される内燃機関が提供される:(a)主要量の潤滑粘度の油;並びに(b)(i)α−、β−、もしくはγ−ヒドロキシカルボニル化合物のアニオン;(ii)α−、β−、もしくはγ−ヒドロキシカルボン酸のアニオン、該カルボン酸のアミド、または該カルボン酸のエステル;(iii)α−、β−、もしくはγ−アミノカルボン酸のアニオン;および(iv)α−、β−、もしくはγ−ケト酸のアニオンからなる群より選ばれる少なくとも一つの配位子を持つ一種以上のハロゲン不含油溶性チタン錯体。
【発明の効果】
【0014】
潤滑油組成物において本明細書が開示する上記の一種以上のハロゲン不含油溶性チタン錯体を用いることで、意外にも、本明細書が開示するハロゲン不含油溶性チタン錯体をジアルキルジチオリン酸亜鉛化合物もしくは別のチタン錯体に置き換えた点以外については同等の潤滑油組成物と比較して、改良された、もしくはほぼ同等の摩耗軽減性能を示す潤滑油組成物となることが見出された。さらに、リン含有量が比較的低レベルであるか、いかなるリン含有量も実質的に存在せず、硫黄および硫酸灰分の含有量も比較的低レベルである本発明の潤滑油組成物において、摩耗軽減性能を達成することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(定義)
用語「全塩基価」もしくは「TBN」は、1グラムの生成物を中和するために必要なミリグラム単位のKOHの当量数を意味する。従って、高いTBNは、強い過塩基性の生成物および、その結果として酸を中和するためにより高い塩基性が確保されていることを反映している。生成物のTBNは、ASTMに規定されているD2896もしくは同等の操作により測定できる。より高いTBNを有する潤滑剤は、低TBNの潤滑剤よりも大きなアルカリ性を持つ。言い換えると、前者はより多量の酸性種を中和することができる。
【0016】
本出願が開示する物質のすべての濃度は、別に特定しない限り、「活性物質」基準である。これは、記載する濃度が、例えば、希釈剤または未反応の出発物質もしくは中間体を含まないことである。
【0017】
本発明は、少なくとも下記成分を含む潤滑油組成物に関する:(a)主要量の潤滑粘度の油;並びに(b)(i)α−、β−、もしくはγ−ヒドロキシカルボニル化合物のアニオン;(ii)α−、β−、もしくはγ−ヒドロキシカルボン酸のアニオン、該カルボン酸のアミド、または該カルボン酸のエステル;(iii)α−、β−、もしくはγ−アミノカルボン酸のアニオン;および(iv)α−、β−、もしくはγ−ケト酸のアニオンからなる群より選ばれる少なくとも一つの配位子を持つ一種以上のハロゲン不含油溶性チタン錯体。
【0018】
ある態様では、本発明の潤滑油組成物は少なくとも(a)主要量の潤滑粘度の油;並びに(b)(i)α−、β−、もしくはγ−ヒドロキシカルボニル化合物のアニオン;(ii)α−、β−、もしくはγ−ヒドロキシカルボン酸のアニオン、該カルボン酸のアミド、または該カルボン酸のエステル;(iii)α−、β−、もしくはγ−アミノカルボン酸のアニオン;および(iv)α−、β−、もしくはγ−ケト酸のアニオンからなる群より選ばれる少なくとも一つの配位子を持つ一種以上のハロゲン不含油溶性チタン錯体を含み、上記の潤滑油組成物は、あらゆるリンを実質的に含まず、硫黄が約0.2質量%未満であり、ASTM D874により測定される硫酸灰分量が約0.9質量%以下である。
【0019】
ある態様では、本発明の潤滑油組成物は、一種以上のリン、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、および硫黄を実質的に含まない。本明細書で使用する用語「実質的に含まない」は、リン、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、および/または硫黄が、いずれも相対的に微量であるか、あるいは全く存在しないことを示す量、例えば、約0.01質量%未満の量であることを意味すると理解すべきである。
【0020】
別の態様では、本発明の潤滑油組成物は、少なくとも(a)主要量の潤滑粘度の油;並びに(b)(i)α−、β−、もしくはγ−ヒドロキシカルボニル化合物のアニオン;(ii)α−、β−、もしくはγ−ヒドロキシカルボン酸のアニオン、該カルボン酸のアミド、または該カルボン酸のエステル;(iii)α−、β−、もしくはγ−アミノカルボン酸のアニオン;および(iv)α−、β−、もしくはγ−ケト酸のアニオンからなる群より選ばれる少なくとも一つの配位子を持つ一種以上のハロゲン不含油溶性チタン錯体を含み、上記の潤滑油組成物は、リンが0.05質量%未満であり、硫黄が約0.3質量%未満であって、ASTM D874により測定される硫酸灰分量が約0.9質量%以下である。
【0021】
別の態様では、本発明の潤滑油組成物は、少なくとも(a)主要量の潤滑粘度の油;並びに(b)(i)α−、β−、もしくはγ−ヒドロキシカルボニル化合物のアニオン;(ii)α−、β−、もしくはγ−ヒドロキシカルボン酸のアニオン、該カルボン酸のアミド、または該カルボン酸のエステル;(iii)α−、β−、もしくはγ−アミノカルボン酸のアニオン;および(iv)α−、β−、もしくはγ−ケト酸のアニオンからなる群より選ばれる少なくとも一つの配位子を持つ一種以上のハロゲン不含油溶性チタン錯体を含み、上記の潤滑油組成物は、硫黄が約0.4質量%未満であり、ASTM D874により測定される硫酸灰分量が約1.0質量%以下である。
【0022】
本発明の潤滑油組成物において、リンおよび硫黄の量は、ASTM D4951に従い測定される。
【0023】
ある態様では、本発明の潤滑油組成物は、いかなるジアルキルジチオリン酸亜鉛も含まない。
【0024】
本発明の潤滑油組成物において使用する潤滑粘度の油は、基油とも呼ばれ、一般に主要量、例えば、組成物の全質量に基づき50質量%を超える量、好ましくは約70質量%を超える量、さらに好ましくは約80乃至約99.5質量%、最も好ましくは約85乃至約98質量%でその中に存在する。本明細書で使用する表現「基油」は、単一の製造者により同一の仕様に(供給源や製造者の所在地とは無関係に)製造され、同じ製造者の仕様を満たし、かつ各々特有の処方、製造物確認番号、もしくはそれらの両方によって識別される潤滑剤成分である、基材油もしくは配合された基材油を意味する。
【0025】
本発明で使用される基油は、ありとあらゆる用途(例、エンジン油、舶用シリンダー油、機能液、具体的には油圧作動油、ギア油、変速機液等)で潤滑油組成物を処方する際に使用される、今日知られているか、あるいは後日発見されるいかなる潤滑粘度の油であってもよい。特定の基油は、潤滑油について意図している適用分野と他の添加剤の存在とに基づいて選択する。例えば、本発明の実用において有用な潤滑粘度の油は、軽質留出鉱物油から、重質潤滑油、例えば、ガソリンエンジン油、鉱物潤滑油、および高負荷ディーゼル油に至るまでの範囲の粘度が可能である。さらに、本発明で使用するための基油は、任意に、粘度指数向上剤(例、重合アルキルメタクリレート);オレフィン性コポリマー(例、エチレン−プロピレンコポリマーもしくはスチレン−ブタジエンコポリマー);その他、およびそれらの混合物を含むことができる。
【0026】
本発明の潤滑油組成物は、従来の技術により、適切な量の本明細書が開示する上記の一種以上のハロゲン不含油溶性チタン錯体を、潤滑粘度の油および従来の潤滑油添加剤と混合することにより製造することができる。あるいは、本発明の潤滑油組成物は、従来の技術により、適切な量の本明細書が開示する上記の一種以上のハロゲン不含油溶性チタン錯体を、添加剤濃縮物中に、潤滑粘度の油および従来の潤滑油添加剤と混合することによって製造することができる。
【0027】
当業者であれば容易に理解できるように、基油の粘度は用途に依存する。従って、ここで使用する基油の粘度は、通常、摂氏100度(℃)で約2乃至約2000センチストークス(cSt)の範囲にある。一般にエンジン油として使用される個々の基油は、動粘度範囲が100℃で約2cSt乃至約30cSt、好ましくは約3cSt乃至約16cSt、最も好ましくは約4cSt乃至約12cStであり、そして所望の最終用途および最終油の添加剤に応じて選択または配合されて、所望のグレードのエンジン油、例えばSAE粘度グレードが0W、0W−20、0W−30、0W−40、0W−50、0W−60、5W、5W−20、5W−30、5W−40、5W−50、5W−60、10W、10W−20、10W−30、10W−40、10W−50、15W、15W−20、15W−30、もしくは15W−40の潤滑油組成物を与える。ギア油として使用される油は、100℃において約2cSt乃至約2000cStの範囲の粘度を持つことができる。
【0028】
基材油は様々な種類の方法を用いて製造することができ、その例は、これらに限定されるものではないが、蒸留、溶剤精製、水素処理、オリゴマー化、エステル化、および再精製を含む。再精製基材油には、製造、汚染もしくは以前の使用において混入した物質が実質的に含まれない。本発明の潤滑油組成物の基油は、いかなる天然もしくは合成潤滑基油であってもよい。適切な炭化水素合成油は、限定されるものではないが、エチレンの重合または1−オレフィン類の重合でポリマーにすることにより製造された油、例えばポリアルファオレフィン(PAO)油もしくはフィッシャー・トロプシュ法のような一酸化炭素ガスと水素ガスとを用いた炭化水素合成法により製造された油を含む。例えば適切な基油は、重質留分を含む場合でもその量がわずかであり、例えば100℃で粘度が20cSt以上の潤滑油留分をほとんど含むことのない油である。
【0029】
基油は、天然潤滑油、合成潤滑油、もしくはそれらの混合物から誘導することができる。適切な基油は、合成ろうおよび粗ろうの異性化により得られる基材油、並びに粗原料の芳香族および極性成分を(溶剤抽出というよりはむしろ)水素化分解することにより生成する水素化分解基材油を含む。適切な基材油は、API公報1509、第14版、補遺I、1998年12月に規定されたAPI分類I、II、III、IV、およびVに属するものすべてを含む。IV種基材油はポリアルファオレフィン(PAO)類である。V種基材油には、I、II、III、もしくはIV種に含まれなかったその他すべての基材油が含まれる。II、III、およびIV種基材油が本発明で使用するために好ましいが、これらの好ましい基材油を、一種以上のI、II、III、IV、およびV種基材油もしくは基油を組み合わせて製造することもできる。
【0030】
有用な天然油は、鉱物潤滑油、例えば液体石油、パラフィン系、ナフテン系、もしくは混合パラフィン−ナフテン系の溶剤処理もしくは酸処理鉱物潤滑油、石炭もしくは頁岩から誘導された油、動物油および植物油(例、ナタネ油、ヒマシ油、およびラード油)その他を含む。
【0031】
有用な合成潤滑油は、これらに限定されるものではないが、炭化水素油およびハロゲン置換炭化水素油、例えば重合化および共重合化オレフィン類、具体的にはポリブチレン類、ポリプロピレン類、プロピレン・イソブチレンコポリマー、塩素化ポリブチレン類、ポリ(1−ヘキセン)類、ポリ(1−オクテン)類、ポリ(1−デセン)類その他およびそれらの混合物;アルキルベンゼン類、例えばドデシルベンゼン類、テトラデシルベンゼン類、ジノニルベンゼン類、ジ(2−エチルヘキシル)ベンゼン類その他;ポリフェニル類、例えばビフェニル類、ターフェニル類、アルキル化ポリフェニル類その他;アルキル化ジフェニルエーテル類およびアルキル化ジフェニルスルフィド類、並びにそれらの誘導体、類似物、および同族体その他を含む。
【0032】
他の有用な合成潤滑油は、これらに限定されるものではないが、炭素原子が5未満のオレフィン類、例えばエチレン、プロピレン、ブチレン類、イソブテン、ペンテン、およびそれらの混合物を重合することにより製造された油を含む。そのような重合油の製造方法は当業者によく知られている。
【0033】
別の有用な合成炭化水素油は、適正な粘度を有するアルファオレフィン類の液状ポリマーを含む。特に有用な合成炭化水素油は、C乃至C12のアルファオレフィンの水素化液状オリゴマー類、例えば1−デセン三量体である。
【0034】
有用な合成潤滑油の別の分類は、これらに限定されるものではないが、アルキレンオキシドポリマー、すなわち単独ポリマー、コポリマー、および末端ヒドロキシル基が、例えばエステル化もしくはエーテル化により変性したそれらの誘導体を含む。これらの油の例は、エチレンオキシドもしくはプロピレンオキシドの重合により製造された油、これらポリオキシアルキレンポリマーのアルキルおよびフェニルエーテル類(例、平均分子量1000のメチルポリプロピレングリコールエーテル、分子量500乃至1000のポリエチレングリコールのジフェニルエーテル、分子量1000乃至1500のポリプロピレングリコールのジエチルエーテル等)、もしくはそれらのモノおよびポリカルボン酸エステル類、例えば酢酸エステル類、C乃至Cの混合脂肪酸エステル類、もしくはテトラエチレングリコールのC13オキソ酸ジエステルである。
【0035】
有用な合成潤滑油のさらに別の分類は、これらに限定されるものではないが、ジカルボン酸類(例、フタル酸、コハク酸、アルキルコハク酸類、アルケニルコハク酸類、マレイン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、アジピン酸、リノール酸二量体、マロン酸、アルキルマロン酸類、アルケニルマロン酸類等)と各種アルコール類(例、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコール等)とのエステル類を含む。これらエステル類の具体例は、ジブチルアジペート、ジ(2−エチルヘキシル)セバケート、ジ−n−ヘキシルフマレート、ジオクチルセバケート、ジイソオクチルアゼレート、ジイソデシルアゼレート、ジオクチルフタレート、ジデシルフタレート、ジエイコシルセバケート、リノール酸二量体の2−エチルヘキシルジエステル、セバシン酸1モルをテトラエチレングリコール2モルおよび2−エチルヘキサン酸2モルと反応させて生成した複合エステルその他を含む。
【0036】
合成油として有用なエステル類は、これらに限定されるものではないが、炭素原子が約5乃至約12のカルボン酸類と、アルコール類(例、メタノール、エタノール等、ポリオールおよびポリオールエーテル類、例えばネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトール、トリペンタエリトリトールその他)とから製造されたものも含む。
【0037】
ケイ素系の油、例えばポリアルキル−、ポリアリール−、ポリアルコキシ−、もしくはポリアリールオキシ−シロキサン油およびシリケート油は、合成潤滑油の別の有用な分類を構成する。その具体例は、これらに限定されるものではないが、テトラエチルシリケート、テトライソプロピルシリケート、テトラ(2−エチルヘキシル)シリケート、テトラ(4−メチルヘキシル)シリケート、テトラ(p−tert−ブチルフェニル)シリケート、ヘキシル(4−メチル−2−ペントキシ)ジシロキサン、ポリ(メチル)シロキサン類、およびポリ(メチルフェニル)シロキサン類その他を含む。
【0038】
潤滑油は、以上に開示した種類のうち、天然、合成、もしくは任意の二種以上の混合物の未精製、精製、および再精製の油から誘導することができる。未精製油は、天然もしくは合成原料(例、石炭、頁岩、もしくはタール・サンド・ビチューメン)から直接に、それ以上の精製や処理を施すことなく得られた油である。未精製油の例は、これらに限定されるものではないが、レトルト操作により直接得られた頁岩油、蒸留により直接得られた石油、またはエステル化処理により直接得られたエステル油を含み、これらの各々はその後それ以上の処理なしで使用される。精製油は、一つ以上の性状を改善するために一以上の精製工程でさらに処理されたことを除いては、未精製油と同じである。これらの精製技術は、当業者に知られているが、例えば溶剤抽出、二次蒸留、酸もしくは塩基抽出、ろ過、パーコレート、水素処理、脱ろう等が挙げられる。再精製油は、精製油を得るのに用いたのと同様の方法で使用済みの油を処理することにより得られる。そのような再精製油は、再生もしくは再処理油としても知られていて、消費された添加剤や油分解生成物の除去を目的とする技術によりしばしばさらに処理される。
【0039】
ろうの水素異性化から誘導された潤滑油基材油も、単独で、あるいは前記の天然および/または合成基材油と組み合わせて使用することができる。そのようなろう異性化油は、天然もしくは合成ろうまたはそれらの混合物を水素異性化触媒により水素異性化することにより生成する。
【0040】
天然ろうは一般に、鉱物油を溶剤脱ろうすることにより回収された粗ろうであり、合成ろうは一般に、フィッシャー・トロプシュ法により生成されたろうである。
【0041】
本発明の潤滑油組成物は、(i)α−、β−、もしくはγ−ヒドロキシカルボニル化合物のアニオン;(ii)α−、β−、もしくはγ−ヒドロキシカルボン酸のアニオン、該カルボン酸のアミド、または該カルボン酸のエステル;(iii)α−、β−、もしくはγ−アミノカルボン酸のアニオン;および(iv)α−、β−、もしくはγ−ケト酸のアニオンからなる群より選ばれる少なくとも一つの配位子を持つ一種以上のハロゲン不含油溶性チタン錯体も含む。
【0042】
ある態様では、上記のチタン錯体はチタン核を含み、これは単量体、二量体、もしくは多量体のいずれでもよい。例えば、Ti(OEt)(AcCHCOOEt)は二量体であり、ビス(エチルアセトアセテート)、すなわちTi(OEt)(AcCHCOOEt)は本質的に単量体である。ある態様において、チタン核は単量体である。別の態様において、チタン核はTi4+である。
【0043】
ある態様では、本発明の潤滑油組成物は、α−、β−、もしくはγ−ヒドロキシカルボニル化合物のアニオンを含む少なくとも一つの配位子を持つ一種以上のハロゲン不含油溶性チタン錯体を含む。ある態様では、本発明の潤滑油組成物は、β−ヒドロキシカルボニル化合物のアニオンを含む少なくとも一つの配位子を持つ一種以上のハロゲン不含油溶性チタン錯体を含む。ある態様では、上記のハロゲン不含油溶性チタン錯体は、チタン核およびそこに結合している同一でも異なっていてもよいα−、β−、もしくはγ−ヒドロキシカルボニル化合物のアニオンを含む少なくとも二つの配位子を持つ。別の態様では、上記のハロゲン不含油溶性チタン錯体は、チタン核およびそこに結合している同一でも異なっていてもよいα−、β−、もしくはγ−ヒドロキシケトン化合物のアニオンまたはα−、β−、もしくはγ−ヒドロキシアルデヒド化合物のアニオンを含む少なくとも二つの配位子を持つ。さらに別の態様では、上記のハロゲン不含油溶性チタン錯体は、チタン核およびそこに結合している同一でも異なっていてもよいα−、β−、もしくはγ−ヒドロキシケトン化合物のアニオンを含む少なくとも二つの配位子を持つ。
【0044】
一般に、α−、β−、もしくはγ−ヒドロキシカルボニル化合物のアニオンを含む配位子は、この技術で知られている任意のα−、β−、もしくはγ−ヒドロキシカルボニル化合物、またはα−、β−、もしくはγ−ヒドロキシカルボニル化合物のアニオンを生成できる任意の化合物から誘導できる。ある態様において、α−、β−、もしくはγ−ヒドロキシカルボニル化合物は、α−、β−、もしくはγ−ヒドロキシケトン化合物またはα−、β−、もしくはγ−ヒドロキシアルデヒド化合物である。α−、β−、もしくはγ−ヒドロキシカルボニル化合物の代表的な例は、それぞれ下記の式I−IIIにおける構造で表される:
【0045】
【化1】

【0046】
式中、RおよびR’は独立に、水素原子もしくはC−C30の炭化水素基であり、隣接する炭素原子上の任意の二つのR’は二重結合を形成することができる。適切なC−C30の炭化水素基は、例示してみると、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のアルキレン基、置換もしくは未置換のシクロアルキル基、置換もしくは未置換のシクロアルキルアルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、置換もしくは未置換のアリールアルキル基、置換もしくは未置換のシクロアルキレン基、または置換もしくは未置換のアリーレン基である。
【0047】
本発明で使用できる置換もしくは未置換のアルキル基の代表的な例は、炭素原子および水素原子を含み、1乃至約20の炭素原子、好ましくは1乃至約8の炭素原子を有する直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基(例、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、n−ペンチル等)その他を含む。
【0048】
本発明で使用できる置換もしくは未置換のアルキレン基の代表的な例は、炭素原子および水素原子を含み、1乃至約20の炭素原子、好ましくは1乃至約8の炭素原子を有し、少なくとも一つの炭素−炭素間二重結合を伴う直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基(例、メチレン、エチレン、n−プロピレン等)その他を含む。
【0049】
本発明で使用できる置換もしくは未置換のシクロアルキル基の代表的な例は、約3乃至約20の炭素原子を有する置換もしくは未置換の非芳香族性単環式もしくは多環式の環系、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、架橋環基、もしくはスピロ二環式基(例、スピロ(4,4)−ノン−2−イルその他)を含み、任意に一つ以上のヘテロ原子(例、OおよびNその他)を含む。
【0050】
本発明で使用できる置換もしくは未置換のシクロ(アルキル)(アルキル)基の代表的な例は、約3乃至約20の炭素原子を含む置換もしくは未置換の環状構造含有基がアルキル基に直接結合しており、上記のアルキル基が、さらに上記のアルキル基の任意の炭素原子においてモノマーの主構造に結合し、その結果として安定な構造が作り出されており、例えば、シクロプロピルメチル、シクロブチルエチル、シクロペンチルエチルその他を含む。上記の環状構造は、任意に一つ以上のヘテロ原子(例、OおよびNその他)を含むことができる。
【0051】
本発明で使用できる置換もしくは未置換のシクロアルキレン基の代表的な例は、少なくとも一つの炭素−炭素間二重結合を伴う約3乃至約20の炭素原子を含む置換もしくは未置換の環状構造含有基、例えば、シクロプロペニル、シクロブテニル、シクロペンテニルその他を含む。上記の環状構造は、任意に一つ以上のヘテロ原子(例、OおよびNその他)を含むことができる。
【0052】
本発明で使用できる置換もしくは未置換のアリール基の代表的な例は、約5乃至約20の炭素原子を含む置換もしくは未置換の単環式芳香族もしくは多環式芳香族の基、例えば、フェニル、ナフチル、テトラヒドロナフチル、インデニル、ビフェニルその他を含み、それらは任意に一つ以上のヘテロ原子(例、OおよびNその他)を含む。
【0053】
本発明で使用できる置換もしくは未置換のアリールアルキル基の代表的な例は、本明細書で定義した置換もしくは未置換のアリール基が本明細書で定義したアルキル基に結合しているもの(例、−CH、−Cその他)を含み、上記のアリール基は任意に一つ以上のヘテロ原子(例、OおよびNその他)を含むことができる。
【0054】
本発明で使用できる置換もしくは未置換のアリーレン基の代表的な例は、少なくとも一つの炭素−炭素間二重結合を伴う約5乃至約20の炭素原子を含む置換もしくは未置換の環状構造含有基、例えば、フェニルメチレン、フェニルエチレン、1−フェニルプロピレン、2−フェニルプロピレンその他を含み、上記の環は任意に一つ以上のヘテロ原子(例、OおよびNその他)を含むことができる。
【0055】
上記の「置換アルキル」、「置換アルキレン」、「置換シクロアルキル」、「置換シクロアルキルアルキル」、「置換シクロアルキレン」、「置換アリール」、「置換アリールアルキル」、および「置換アリーレン」における置換基は、同一でも異なっていてもよい一つ以上の置換基であって、例えば、水素原子、ヒドロキシ、ハロゲン原子、カルボキシル、シアノ、ニトロ、オキソ(=O)、チオ(=S)、置換もしくは未置換のアルキル、置換もしくは未置換のアルコキシ、置換もしくは未置換のアルケニル、置換もしくは未置換のアルキニル、置換もしくは未置換のアリール、置換もしくは未置換のアリールアルキル、置換もしくは未置換のシクロアルキル、置換もしくは未置換のシクロアルケニル、置換もしくは未置換のアミノ、置換もしくは未置換のアリール、置換もしくは未置換のヘテロアリール、置換ヘテロシクロアルキル環、置換もしくは未置換のヘテロアリールアルキル、置換もしくは未置換のヘテロ環、置換もしくは未置換のグアニジン、−COOR、−C(O)R、−C(S)R、−C(O)NR、−C(O)ONR、−NRCONR、−N(R)SOR、−N(R)SO、−(=N−N(R)R)、−NRC(O)OR、−NR、−NRC(O)R−、−NRC(S)R、−NRC(S)NR、−SONR−、−SONR−、−OR、−ORC(O)NR、−ORC(O)OR−、−OC(O)R、−OC(O)NR、−RNRC(O)R、−ROR、−RC(O)OR、−RC(O)NR、−RC(O)R、−ROC(O)R、−SR、−SOR、−SO、−ONOである。上記のそれぞれの基におけるR、R、およびRは同一でも異なっていてもよく、水素原子、置換もしくは未置換のアルキル、置換もしくは未置換のアルコキシ、置換もしくは未置換のアルケニル、置換もしくは未置換のアルキニル、置換もしくは未置換のアリール、置換もしくは未置換のアリールアルキル、置換もしくは未置換のシクロアルキル、置換もしくは未置換のシクロアルケニル、置換もしくは未置換のアミノ、置換もしくは未置換のアリール、置換もしくは未置換のヘテロアリール、置換ヘテロシクロアルキル環、置換もしくは未置換のヘテロアリールアルキル、または置換もしくは未置換のヘテロ環である。
【0056】
ある態様では、α−、β−、もしくはγ−ヒドロキシカルボニルのアニオンは、β−ジケトン(または1,3−ジケトン)から誘導されるβ−ヒドロキシケトンのアニオンである。これは、R’の基が二重結合を形成する場合の上記の式IIに従う構造に対応する。β−ジケトンは、良く知られているように、下記の機構により互変異性体であるβ−ヒドロキシケトンを生成する:
【0057】
【化2】

【0058】
β−ジケトンは、特に互変異性体であるエノールもしくはエノラートを形成する傾向がある。これは、別のカルボニル基と共にエノールもしくはエノラートが共役するためであると共に、錯体を(例えば、チタンと)形成する場合、6員環を形成することにより得られる安定性に寄与する。
【0059】
α−、β−、もしくはγ−ヒドロキシカルボニルのアニオンを誘導することができる化合物の代表的な例は、アセチルアセトン(2,4−ペンタンジオン)、ヒドロキシアセトン、サリチルアルデヒド、4−ヒドロキシ−2−ブタノン、2−アセチルシクロヘキサノン、3−ヒドロキシプロパナール、l,3−ビス(p−メトキシフェニル)−l,3−プロパンジオン、5,5−ジメチル−l,3−シクロヘキサンジオン、2,6−ジメチル−3,5−ヘプタンジオン、1,3−ジ(2−ナフチル)−1,3−プロパンジオン、l,5−ジフェニル−l,3,5−ペンタントリオン、l,3−ジフェニル−l,3−プロパンジオン、2,4−ヘキサンジオン、6−メチル−2,4−ペンタンジオン、4,6−ノナンジオン、1−フェニル−1,3−ブタンジオン、1−フェニル−2,4−ペンタンジオン、2,2,6,6−テトラメチル−ヘプタン−3,5−ジオン、H−BREWとの商品名で、ストレム・ケミカル社(マサチューセッツ州、ニューベリーポート)から市販品が入手可能であるプロピルおよびブチル混合置換ベータ−ジケトン類その他を含む。
【0060】
ある態様では、本発明の潤滑油組成物は、α−、β−、もしくはγ−ヒドロキシカルボン酸のアニオン、該カルボン酸のアミド、または該カルボン酸のエステルを含む少なくとも一つの配位子を持つ一種以上のハロゲン不含油溶性チタン錯体を含む。ある態様では、本発明の潤滑油組成物は、β−ヒドロキシカルボン酸のアニオン、該カルボン酸のアミド、または該カルボン酸のエステルを含む少なくとも一つの配位子を持つ一種以上のハロゲン不含油溶性チタン錯体を含む。一般に、α−、β−、もしくはγ−ヒドロキシカルボン酸のアニオン、該カルボン酸のアミド、または該カルボン酸のエステルを含む上記の配位子は、この技術で知られている任意のα−、β−、もしくはγ−ヒドロキシカルボン酸、そのアミド、またはそのエステルから誘導できる。α−、β−、もしくはγ−ヒドロキシカルボン酸、そのアミド、またはそのエステルの代表的な例は、下記の式IV乃至VIの構造で、それぞれ表される:
【0061】
【化3】

【0062】
式中、Yは、OH、OR、NH、NRH、もしくはNRであり、RおよびR’は、前記の意味を有する。α−、β−、もしくはγ−ヒドロキシカルボン酸のアニオン、該カルボン酸のアミド、または該カルボン酸のエステルを誘導できる化合物の代表的な例は、グリコール酸、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、マンデル酸、酒石酸、タルトロン酸、サッカリン酸、サリチル酸、α−、β−、およびγ−ヒドロキシ酪酸、α−ヒドロキシイソ酪酸、カルニチン、3−ヒドロキシプロピオン酸、ガラクツロン酸、ラクトン類、例えばグルクロノラクトン、グルコノラクトン、ピルビン酸メチル、N−(4−アニリノフェニル)−2−ヒドロキシイソブチルアミド、アセト酢酸メタクリルオキシエチル、アセト酢酸アリル、アセト酢酸エチルその他を含む。
【0063】
ある態様では、本発明の潤滑油組成物は、α−、β−、もしくはγ−アミノカルボン酸のアニオンを含む少なくとも一つの配位子を持つ一種以上のハロゲン不含油溶性チタン錯体を含む。ある態様では、本発明の潤滑油組成物は、β−アミノカルボン酸のアニオンを含む少なくとも一つの配位子を持つ一種以上のハロゲン不含油溶性チタン錯体を含む。一般に、α−、β−、もしくはγ−アミノカルボン酸のアニオンを含む上記の配位子は、この技術で知られている任意のα−、β−、もしくはγ−アミノカルボン酸から誘導できる。α−、β−、もしくはγ−アミノカルボン酸の代表的な例は、下記の式VII乃至IXの構造で、それぞれ表される:
【0064】
【化4】

【0065】
式中、RおよびR’は、前記の意味を有する。
【0066】
ある態様では、本発明の潤滑油組成物は、α−、β−、もしくはγ−ケト酸のアニオンを含む少なくとも一つの配位子を持つ一種以上のハロゲン不含油溶性チタン錯体を含む。ある態様では、本発明の潤滑油組成物は、β−ケト酸のアニオンを含む少なくとも一つの配位子を持つ一種以上のハロゲン不含油溶性チタン錯体を含む。一般に、α−、β−、もしくはγ−ケト酸のアニオンを含む上記の配位子は、この技術で知られている任意のα−、β−、もしくはγ−ケト酸から誘導できる。α−、β−、もしくはγ−ケト酸の代表的な例は、下記の式X乃至XIの構造で、それぞれ表される:
【0067】
【化5】

【0068】
式中、RおよびR’は、前記の意味を有する。
【0069】
本明細書が開示する上記の一種以上のハロゲン不含油溶性チタン錯体は、この技術で知られており、ゲレスト社のような供給源から市販品が入手でき、あるいは、この技術で知られている方法により容易に製造できる。例えば、本明細書に記載する上記の一種以上のハロゲン不含油溶性チタン錯体は、チタンアルコキシドと、一種以上のα−、β−、もしくはγ−ヒドロキシカルボニル化合物、および/または一種以上のα−、β−、もしくはγ−ヒドロキシカルボン酸、そのアミド、もしくはそのエステル、および/または一種以上のα−、β−、もしくはγ−アミノカルボン酸、および/または一種以上のα−、β−、もしくはγ−ケト酸との反応生成物として得ることができる。上記の反応生成物は、下記の式で表すことができる:
【0070】
【化6】

【0071】
式中、R、R、R、およびRは、独立にC乃至C20のアルコキシ基、好ましくは独立にC乃至Cのアルコキシ基であるか、あるいはα−、β−、もしくはγ−ヒドロキシカルボニル化合物のアニオン;(ii)α−、β−、もしくはγ−ヒドロキシカルボン酸のアニオン、該カルボン酸のアミド、または該カルボン酸のエステル;(iii)α−、β−、もしくはγ−アミノカルボン酸のアニオン;または(iv)α−、β−、もしくはγ−ケト酸のアニオンであって、R、R、R、およびRの少なくとも一つは、α−、β−、もしくはγ−ヒドロキシカルボニル化合物のアニオン;あるいはα−、β−、もしくはγ−ヒドロキシカルボン酸のアニオン、該カルボン酸のアミド、または該カルボン酸のエステル;あるいはα−、β−、もしくはγ−アミノカルボン酸のアニオンまたはα−、β−、もしくはγ−ケト酸のアニオンである。ある態様において、R、R、R、およびRのうち二つ以上は、同じ化合物から誘導される。すなわち、この場合の配位子は、二座もしくは多座である。ある態様において、R、R、R、およびRの少なくとも二つは、独立にα−、β−、もしくはγ−ヒドロキシカルボニル化合物のアニオンである。
【0072】
本発明で使用できるC乃至C20のアルコキシ基の代表的な例は、本明細書で定義したアルキル基が分子の残りの部分に酸素結合を介して結合しているものを含む。すなわち、一般式は−ORであって、RはC乃至C20のアルキル、C乃至C20のシクロアルキル、C乃至C20のシクロアルキルアルキル、C乃至C20のシクロアルケニル、C乃至C20のアリール、もしくはC乃至C20のアリールアルキルであり、それぞれ本明細書で定義した通りである。例としては、−OCH、−OC、もしくは−OCその他である。
【0073】
アルコキシド基の代表的な例は、メトキシド、エトキシド、プロポキシド、イソプロポキシド、ブトキシド、2−エチルヘキソキシド、イソブトキシド、4−メチル−2−ペントキシド、ヘキソキシド、ペントキシド、イソペントキシド、2−[N,N−(2−ヒドロキシエチル)−アミノ]−エトキシドその他、およびそれらの混合物を含む。
【0074】
上記の一種以上のハロゲン不含油溶性チタン錯体は、いかなるジアルキルジチオリン酸亜鉛も含まない潤滑油組成物に添加した場合において、耐摩耗性の保護機能を有利に発現する。一般に、潤滑油組成物における上記の一種以上のハロゲン不含油溶性チタン錯体の量は、潤滑油組成物の全質量に基づきTi金属として、約10ppm乃至約3000ppmの範囲である。ある態様では、潤滑油組成物における上記の一種以上のハロゲン不含油溶性チタン錯体の量は、潤滑油組成物の全質量に基づきTi金属として、約50乃至約2500ppmの範囲である。ある態様では、潤滑油組成物における上記の一種以上のハロゲン不含油溶性チタン錯体の量は、潤滑油組成物の全質量に基づきTi金属として、約300ppm乃至約2000ppmの範囲である。ある態様では、潤滑油組成物における上記の一種以上のハロゲン不含油溶性チタン錯体の量は、潤滑油組成物の全質量に基づき約600乃至約1800ppmの範囲である。ある態様では、潤滑油組成物における上記の一種以上のハロゲン不含油溶性チタン錯体の量は、潤滑油組成物の全質量に基づき約1600ppmである。
【0075】
本発明のチタン錯体、並びに本発明の潤滑油組成物において有用な他の添加剤は、添加剤パッケージもしくは濃縮物として提供することができ、上記の錯体もしくは添加剤を、実質的に不活性で一般に液状の有機希釈剤、例えば、鉱物油、ナフサ、ベンゼン、トルエン、もしくはキシレンに導入して、添加剤濃縮物とする。このような濃縮物は、通常約20質量%乃至約80質量%の上記のような希釈剤を含む。一般に、100℃において約4乃至約8.5cSt、好ましくは100℃において約4乃至約6cStの粘度を有する中性油を上記の希釈剤として使用するが、合成油、並びに上記の添加剤および最終的な潤滑油と相溶性がある他の有機液体も使用することができる。
【0076】
本発明の潤滑油組成物は、任意の機能を付与するために、その他の従来からの添加剤を含むことができ、それにより、そのような添加剤が分散もしくは溶解している最終的な潤滑油組成物を生成する。例えば、潤滑油組成物には、酸化防止剤、分散剤、清浄剤、耐摩耗剤、さび止め剤、曇り除去剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、摩擦緩和剤、流動点降下剤、消泡剤、補助溶媒、パッケージ混合剤、腐食防止剤、染料、極圧剤その他、およびそれらの混合物を配合することができる。上記の添加剤は、様々な種類が知られており、市販品が利用できる。このような添加剤もしくはそれらの類似化合物は、本発明の潤滑油組成物の製造のため、通常の配合操作によって用いることができる。
【0077】
酸化防止剤の例は、これらに限定されるものではないが、アミン型(例、ジフェニルアミン、フェニル−アルファ−ナフチル−アミン、N,N−ジ(アルキルフェニル)アミン類、およびアルキル化フェニレンジアミン類);フェノール系、例えば、BHT、立体障害のあるアルキルフェノール類(例、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、および2,6−ジ−tert−ブチル−4−(2−オクチル−3−プロパン酸)フェノール);およびそれらの混合物を含む。
【0078】
潤滑油組成物において用いられる上記の一種以上の分散剤は、当業者に知られている任意の分散剤であってもよい。適切な分散剤は、一種以上の無灰分散剤化合物を含み、一般に使用中の酸化によって生じる不溶解物質を懸濁状態で維持するために使用され、それによりスラッジの凝結および金属部分への沈澱もしくは堆積を防止する。無灰分散剤は一般に、分散すべき微粒子と会合できる官能基を有する油溶性重合体炭化水素骨格を含む。多くの種類の無灰分散剤が、この技術分野で知られている。
【0079】
無灰分散剤の代表的な例は、これらに限定されるものではないが、アミン、アルコール、アミド、もしくはエステルの極性部分が連結基を介してポリマーの主鎖に結合しているものを含む。本発明の無灰分散剤は、例えば、長鎖炭化水素置換モノおよびジカルボン酸もしくはそれらの無水物の油溶性の塩、エステル、アミノ−エステル、アミド、イミド、およびオキサゾリン;長鎖炭化水素のチオカルボキシレート誘導体、直接結合しているポリアミンを有する長鎖脂肪族炭化水素;および長鎖置換フェノールをホルムアルデヒドおよびポリアルキレンポリアミンで縮合して生成したマンニッヒ縮合生成物から選択できる。
【0080】
カルボン酸系分散剤は、少なくとも約34、好ましくは少なくとも約54の炭素原子を含むカルボン酸系アシル化剤(酸、無水物、エステル等)と、窒素含有化合物(例えば、アミン)、有機ヒドロキシ化合物(例えば、一価および多価のアルコールを含む脂肪族化合物、もしくはフェノールおよびナフトールを含む芳香族化合物)、および/または塩基性無機物質との反応生成物である。これらの反応生成物は、イミド、アミド、およびエステルを含む。
【0081】
コハク酸イミド分散剤は、カルボン酸系分散剤の一種である。それらは、炭化水素置換コハク酸アシル化剤を、有機ヒドロキシ化合物、もしくは窒素原子に結合している少なくとも一つの水素原子を含むアミン、もしくは上記のヒドロキシ化合物とアミンとの混合物と反応させることにより生成する。用語「コハク酸アシル化剤」は炭化水素置換コハク酸もしくはコハク酸生成化合物を意味し、後者は酸そのものを包含する。そのような物質は一般に、炭化水素置換コハク酸、無水物、(半エステルを含む)エステル、およびハロゲン化物を含む。
【0082】
コハク酸起源の分散剤は、広く様々な化学構造を有している。コハク酸起源の分散剤の一つの分類は、次の式で表すことができる:
【0083】
【化7】

【0084】
式中、Rは、それぞれ独立に炭化水素基、例えば、ポリオレフィン誘導基である。一般に、上記の炭化水素基はアルキル基、例えば、ポリイソブチル基である。別に表示すると、上記のR基は約40乃至約500の炭素原子を含むことができ、これらの原子は脂肪族の状態で存在できる。Rはアルキレン基、一般にエチレン(C)基である。コハク酸イミド分散剤の例は、例えば、米国特許第3172892号、同第4234435号、および同第6165235号の各明細書に記載されているものを含む。
【0085】
置換基を誘導できるポリアルケンは、一般に2乃至約16の炭素原子、通常は2乃至6の炭素原子を有する重合性オレフィンモノマーのホモポリマーおよびインターポリマーである。コハク酸アシル化剤と反応して、カルボン酸系分散剤組成物を生成する前記のアミンは、モノアミンもしくはポリアミンのいずれでもよい。
【0086】
コハク酸イミド分散剤が、そのように呼ばれるのは、それらが一般にイミドとして機能する状態の窒素原子を主に含むためであるが、アミドとしての機能がアミン塩、アミド、イミダゾリン、並びにそれらの混合物の状態に存在していてもよい。コハク酸イミド分散剤を製造するため、任意に実質的に不活性な有機液状溶媒/希釈剤の存在下で、一種以上のコハク酸生成化合物と一種以上のアミンとを加熱し、一般に水を除去する。反応温度は、約80℃乃至上記の混合物もしくは生成物の分解温度の範囲とすることができ、これは一般に約100℃乃至約300℃の範囲内である。本発明のコハク酸イミド分散剤を製造するための操作について、さらに詳細な内容と例は、例えば、米国特許第3172892号、同第3219666号、同第3272746号、同第4234435号、同第6165235号、および同第6440905号の各明細書に記載されているものを含む。
【0087】
適切な無灰分散剤はアミン分散剤も含むことができ、アミン分散剤は比較的高分子量のハロゲン化脂肪族とアミンとの反応生成物であり、好ましくはポリアルキレンポリアミンである。そのようなアミン分散剤の例は、例えば、米国特許第3275554号、同第3438757号、同第3454555号、および同第3565804号の各明細書に記載されているものを含む。
【0088】
適切な無灰分散剤は、さらに「マンニッヒ分散剤」を含み、これはアルキル基が少なくとも約30の炭素原子を含むアルキルフェノールとアルデヒド(特にホルムアルデヒド)およびアミン(特にポリアルキレンポリアミン)との反応生成物である。そのような分散剤の例は、例えば米国特許第3036003号、同第3586629号、同第3591598号、および同第3980569号の各明細書に記載されているものを含む。
【0089】
窒素含有無灰(金属フリー)分散剤は塩基性であり、それらを添加し、さらに硫酸灰を加えることがない潤滑油組成物の塩基指数もしくはBN(ASTM D2896で測定)に寄与する。
【0090】
適切な無灰分散剤は、後処理された無灰分散剤、例えば後処理されたコハク酸イミドであってもよい(例、ボレートもしくはエチレンカーボネートを含む後処理方法、例えば米国特許第4612132号および同第4746446号の各明細書に記載;その他、並びに他の後処理方法)。カーボネート処理されたアルケニルコハク酸イミドは、約450乃至約3000、好ましくは約900乃至約2500、さらに好ましくは約1300乃至約2400、最も好ましくは約2000乃至約2400の分子量を有するポリブテン、並びにこれらの分子量を有する混合物から誘導されるポリブテンコハク酸イミドである。好ましくは米国特許第5716912号明細書に記載されているように、反応条件下で、ポリブテンコハク酸誘導体、不飽和酸性試薬とオレフィンとの不飽和酸性試薬コポリマー、およびポリアミンの混合物を反応させることにより製造される。上記の明細書の内容は、参照のための本明細書の記載とする。
【0091】
適切な無灰分散剤は重合体であってもよく、この重合体は、油に可溶性にするためのモノマー、例えば、メタクリル酸デシル、ビニルデシルエーテル、および高分子量オレフィンと、極性置換基を含むモノマーとのインターポリマーである。重合体分散剤の例は、例えば、米国特許第3329658号、同第3449250号、および同第3666730号の各明細書に記載されているものを含む。
【0092】
本発明の好ましい態様の一つにおいて、潤滑油組成物で使用するための無灰分散剤は、約700乃至約2300の数平均分子量を有するポリイソブテニル基から誘導されるビスコハク酸イミドである。本発明の潤滑油組成物において使用するための分散剤は、好ましくは非重合体(例、モノもしくはビスコハク酸イミド)である。
【0093】
一般に、上記の一種以上の分散剤は、潤滑油組成物において、潤滑油組成物の全質量に基づき、約0.5乃至約8質量%の範囲の量で存在する。ある態様において、上記の一種以上の分散剤は、潤滑油組成物において、潤滑油組成物の全質量に基づき、約1乃至約5質量%の範囲の量で存在する。
【0094】
潤滑油組成物において使用する清浄剤は、当業者に知られている任意の清浄剤でよい。適切な清浄剤一種以上の金属含有清浄剤化合物を含み、一般に、堆積物を削減もしくは除くための清浄剤と、酸中和剤もしくはさび止め剤との双方の機能を有し、これにより摩耗と腐食とを軽減し、エンジンの寿命を延ばす。清浄剤は、一般に長い疎水性の尾部を伴う極性の頭部を含み、極性の頭部は酸性有機化合物の金属塩を含む。
【0095】
本発明に従う潤滑油組成物は、一種以上の清浄剤を含むことができる。清浄剤は通常は塩、特に過塩基性の塩である。過塩基性の塩もしくは過塩基性の物質は、金属と該金属に反応する特定の酸性有機化合物との化学量論的な存在量よりも過剰な金属含有量を特徴とする単相で均一なニュートン系である。過塩基性物質は、少なくとも一種の不活性有機溶媒(例えば、鉱物油、ナフサ、トルエン、キシレン)中、化学量論的に過剰な金属塩基および促進剤の存在下、酸性物質(典型的には、二酸化炭素のような無機酸もしくは低級カルボン酸)を、酸性有機化合物を含む混合物と反応させることにより製造される。
【0096】
清浄剤を製造するために有用な酸性有機化合物は、カルボン酸、スルホン酸、リン含有酸、フェノール、およびそれらの混合物を含む。好ましくは、酸性有機化合物はカルボン酸もしくはスルホン酸、および炭化水素置換サリチル酸である。
【0097】
カルボキシレート清浄剤(例、サリチレート)は、芳香族カルボン酸を、酸化物もしくは水酸化物のような適切な金属化合物と反応させることにより製造できる。次に、中性もしくは過塩基性の生成物は、この技術において良く知られている方法により得ることができる。芳香族カルボン酸の芳香族部分は、窒素原子および酸素原子のようなヘテロ原子を一つ以上含むことができる。好ましくは、芳香族部分は炭素原子のみである。より好ましくは、芳香族部分はベンゼン部分のように6以上の炭素原子を含む。芳香族カルボン酸は、一つ以上のベンゼン部分のように、一つ以上の芳香族部分を含むことができ、任意に一緒になって縮合もしくはアルキレン架橋を介して連絡してもよい。芳香族カルボン酸の代表的な例は、サリチル酸類およびその硫化誘導体(例えば、炭化水素置換サリチル酸およびその誘導体)を含む。例えば、炭化水素置換サリチル酸の硫化処理は、当業者に公知の方法で実施できる。サリチル酸は一般に、フェノキシドのカルボキシル化(例えば、コルベ−シュミット法)によって製造される。その場合、サリチル酸は通常、カルボキシル化されなかったフェノールとの混合物中で希釈剤中から得られる。
【0098】
フェノールおよび硫化フェノールの金属塩は、酸化物もしくは水酸化物のような適切な金属化合物との反応により製造される。中性もしくは過塩基性の生成物は、この分野で良く知られている方法により得ることができる。例えば、硫化フェノールは、フェノールを硫黄または硫化水素、モノハロゲン化硫黄、もしくはジハロゲン化硫黄のような硫黄含有化合物と反応させ、二つ以上のフェノールが硫黄含有結合により連結されている化合物の混合物として生成物を生じさせることにより製造できる。
【0099】
過塩基性塩の製造に有用な金属化合物は一般に、元素の周期律表のI族もしくはII族の金属の化合物である。好ましくは、金属化合物はII族の金属であり、IIa族のアルカリ土類金属(例、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム)のみではなく、亜鉛やカドミウムのようなIIb族の金属も含む。II族の金属は、好ましくはマグネシウム、カルシウム、バリウム、もしくは亜鉛であり、さらに好ましくはマグネシウムもしくはカルシウムであり、最も好ましくはカルシウムである。過塩基性清浄剤の例は、限定されるものではないが、カルシウムスルホネート、カルシウムフェネート、カルシウムサリチレート、カルシウムステアレート、およびそれらの混合物を含む。
【0100】
本発明の潤滑油組成物中で使用するのに適した清浄剤濃縮物を、低い過塩基性(例、約100よりも低いBNを有する過塩基性清浄剤濃縮物)にすることができる。そのような低過塩基性清浄剤濃縮物のBNは、約5乃至約50、もしくは約10乃至約30、もしくは約15乃至約20にすることができる。あるいは、本発明の潤滑油組成物中で使用するのに適した過塩基性清浄剤濃縮物を、高度の過塩基性(例、約100を超えるBNを有する過塩基性清浄剤)にすることができる。そのような高過塩基性清浄剤濃縮物のBNは、約100乃至約450、もしくは約200乃至約350、もしくは約250乃至約280とすることができる。約17のBNを有する低過塩基性スルホン酸カルシウム清浄剤濃縮物と、約120のBNを有する高過塩基性硫化カルシウムフェネート濃縮物とは、本発明の潤滑油組成物中で使用する過塩基性清浄剤濃縮物を代表する二つの例である。
【0101】
本発明の潤滑油組成物は、一種以上の過塩基性清浄剤濃縮物を含むことができる。複数の過塩基性清浄剤濃縮物は、いずれも低BN清浄剤濃縮物であっても、いずれも高BN清浄剤濃縮物であっても、あるいは両者の混合物であってもよい。例えば、本発明の潤滑油組成物は、約100乃至約450のBNを有する過塩基性アルカル土類金属スルホネートもしくはフェネート清浄剤濃縮物である第一の金属含有清浄剤と約10乃至約50のBNを有する過塩基性アルカリ土類金属スルホネートもしくはフェネート清浄剤濃縮物である第二の金属含有清浄剤濃縮物とを含むことができる。
【0102】
潤滑油組成物における使用に適切な清浄剤は、例えばフェネート/サリチレート、スルホネート/フェネート、スルホネート/サリチレート、スルホネート/フェネート/サリチレートその他のような「ハイブリッド」清浄剤も含む。ハイブリッド清浄剤の例は、例えば米国特許第6153565号、同第6281179号、同第6429178号、および同第6429179号の各明細書に記載されているものを含む。
【0103】
一般に、一種以上の金属含有清浄剤は潤滑油組成物中に、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.5乃至約8質量%の範囲の量で存在する。ある態様において、一種以上の清浄剤は潤滑油組成物中に、潤滑油組成物の全質量に基づき約1乃至約5質量%の範囲の量で存在する。二種類の金属含有清浄剤を用いる場合、潤滑油組成物の全質量に基づき、第一の金属含有清浄剤は潤滑油組成物中に約0.2乃至約5質量%の範囲の量で存在し、第二の金属含有清浄剤は潤滑油組成物中に約0.2乃至約5質量%の範囲の量で存在する。
【0104】
さび止め剤の例は、これらに限定されるものではないが、非イオン性ポリオキシアルキレン界面活性剤、例えばポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンソルビトールモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビトールモノオレエート、およびポリエチレングリコールモノオレエート;ステアリン酸および他の脂肪酸;ジカルボン酸;金属石鹸;脂肪酸アミン塩;重質スルホン酸の金属塩;多価アルコールの部分カルボン酸エステル;リン酸エステル;(短鎖)アルケニルコハク酸;それらの部分エステルおよびそれらの窒素含有誘導体;合成アルカリールスルホネート、例えば、金属ジノニルナフタレンスルホネート;その他、およびそれらの混合物を含む。
【0105】
摩擦緩和剤の例は、これらに限定されるものではないが、アルコキシル化脂肪族アミン;ホウ酸化脂肪族エポキシド;脂肪族ホスファイト、脂肪族エポキシド、脂肪族アミン、ホウ酸化アルコキシル化脂肪族アミン、脂肪酸の金属塩、脂肪酸アミド、グリセロールエステル、ホウ酸化グリセロールエステル;および米国特許第6372696号明細書に開示されている脂肪族イミダゾリン、その開示内容も参照のため本明細書の記載とする;C乃至C75、好ましくはC乃至C24、最も好ましくはC乃至C20の脂肪酸エステルと、アンモニアおよびアルカノールアミンからなる群より選ばれた窒素含有化合物との反応生成物から得られた摩擦緩和剤、その他、およびそれらの混合物を含む。
【0106】
消泡剤の例は、これらに限定されるものではないが、アルキルメタクリレートポリマー;ジメチルシリコーンポリマー、その他、およびそれらの混合物を含む。
【0107】
流動点降下剤の例は、これらに限定されるものではないが、ポリメタクリレート、アルキルアクリレートポリマー、アルキルメタクリレートポリマー、ジ(テトラ−パラフィンフェノール)フタレート、テトラ−パラフィンフェノールの縮合物、塩素化パラフィンとナフタレンとの縮合物、およびそれらの混合物を含む。ある態様では、流動点降下剤はエチレン−ビニルアセテートコポリマー、塩素化パラフィンとフェノールとの縮合物、ポリアルキルスチレン、その他、およびそれらの組合せを含む。流動点降下剤の量は、約0.01質量%乃至約10質量%の範囲で変更することができる。
【0108】
抗乳化剤の例は、これらに限定されるものではないが、アニオン性界面活性剤(例、アルキル−ナフタレンスルホネート、アルキルベンゼンスルホネート等)、非イオン性アルコキシル化アルキルフェノール樹脂、アルキレンオキシドポリマー(例、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、エチレンオキシド、プロピレンオキシド等のブロックコポリマー)、油溶性酸のエステル、ポリオキシエチレンのソルビタンエステル、その他、およびそれらの組合せを含む。抗乳化剤の量は、約0.01質量%乃至約10質量%の範囲で変更することができる。
【0109】
腐食防止剤の例は、これらに限定されるものではないが、ドデシルコハク酸、リン酸エステル、チオホスフェート、アルキルイミダゾリン、サルコシン、その他、およびそれらの組合せの半エステルもしくはアミドを含む。腐食防止剤の量は、約0.01質量%乃至約5質量%の範囲で変更することができる。
【0110】
極圧剤の例は、これらに限定されるものではないが、硫化した動物もしくは植物の脂肪もしくは油、硫化した動物もしくは植物の脂肪酸エステル、完全にもしくは部分的にエステル化したリンの3価もしくは5価の酸のエステル、硫化オレフィン、ジ炭化水素ポリスルフィド、硫化したディールス−アルダー付加物、硫化ジシクロペンタジエン、脂肪酸エステルおよびモノ不飽和オレフィンの硫化もしくは共硫化混合物、脂肪酸の共硫化混合物、脂肪酸エステルおよびアルファ−オレフィン、官能基置換ジ炭化水素ポリスルフィド、チアアルデヒド、チアケトン、エピチオ化合物、硫黄−含有アセタール誘導体、テルペンおよび非環状オレフィンの共硫化混合物、およびポリスルフィドオレフィン生成物、リン酸エステルもしくはチオリン酸エステルのアミン塩、その他、およびそれらの組合せを含む。極圧剤の量は、約0.01質量%乃至約5質量%の範囲で変更することができる。
【0111】
これまでに述べた添加剤をそれぞれ使用する場合は、潤滑剤に望ましい性質を与えるため機能的に有効な量で使用する。すなわち、例えば、添加剤が摩擦緩和剤である場合、この摩擦緩和剤の機能的な有効量は、必要とする摩擦機能を潤滑剤に付与するために充分な量である。一般に、これらの添加剤それぞれを使用する際の濃度は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.001%乃至約20質量%、そしてある態様では約0.01%乃至約10質量%の範囲である。
【0112】
本発明の潤滑油組成物の最終用途は例えば、クロスヘッドディーゼルエンジンの舶用シリンダー潤滑油、自動車や鉄道その他のクランクケース潤滑油、製鋼所その他の重機用潤滑油、あるいは軸受その他のためのグリースであってよい。ある態様において、本発明の潤滑油組成物は、排ガス再循環装置(EGR)、触媒コンバータおよび微粒子捕集装置のうちの少なくとも一つを備えた、大型車両用ディーゼルエンジンまたは圧縮点火ディーゼルエンジンなどのディーゼルエンジンに潤滑作用を与えるために使用される。
【0113】
潤滑油組成物が液体であるか固体であるかは通常、増粘剤が存在するか否かに係っている。代表的な増粘剤としては、酢酸ポリ尿素類、およびステアリン酸リチウムその他が挙げられる。
【0114】
本発明の別の態様では、本明細書が開示する上記の一種以上のハロゲン不含油溶性チタン錯体は、他の添加剤と共に添加剤パッケージとして提供することができる。添加剤パッケージは、一般に上記の様々な他の添加剤および希釈剤を一種以上、必要とされる量かつ必要量の基油と直接組み合わせることを容易にする比率で含む。
【0115】
以下の限定的ではない実施例は、本発明を説明するものである。
【実施例】
【0116】
[比較例A]
基準となる自動車のエンジン油を、ジアルキルジチオリン酸亜鉛なしで、おおよそ80質量%のシェブロン220Nとシェブロン600Nとの7:1混合物からなるII種基油、8.1質量%のポリイソブチレンコハク酸イミド分散剤の油濃縮物の混合物、2.2質量%の高および低BNを有する清浄剤の油濃縮物の混合物、モリブデン抑制剤、アミン系およびフェノール系の酸化防止剤の混合物、エチレン−プロピレンコポリマー粘度指数向上剤、および消泡剤を含むように調製した。以下の実施例において、チタン化合物は、最終潤滑油中に、おおよそ1600ppmとなるTiの量で加えた。
【0117】
得られた基準となる潤滑油の処方は、ASTM D874により測定される0.63質量%の硫酸灰分量、0質量%のリン含有量、0.16質量%の硫黄含有量を有していた。
【0118】
[実施例1]
基準となる潤滑油の処方を、比較例Aと同じ添加剤、基油、および処理比を含むように生成した。ゲレスト社から入手可能なジイソプロポキシド・ビス(テトラメチルヘプタンジオネート)チタン錯体を、上記の基準となる潤滑油の処方に対して1.8質量%で処方した。
【0119】
得られた潤滑油組成物は、ASTM D874により測定される0.88質量%の硫酸灰分量、0質量%のリン含有量、0.13質量%の硫黄含有量を示した。
【0120】
[実施例2]
基準となる潤滑油の処方を、比較例Aと同じ添加剤、基油、および処理比を含むように生成した。ゲレスト社から入手可能なジ−n−ブトキシド・ビス(2,4−ペンタンジオネート)チタン錯体を、上記の基準となる潤滑油の処方に対して1.3質量%で処方した。
【0121】
得られた潤滑油組成物は、ASTM D874により測定される0.89質量%の硫酸灰分量、0質量%のリン含有量、0.13質量%の硫黄含有量を示した。
【0122】
[比較例B]
基準となる潤滑油の処方を、比較例Aと同じ添加剤、基油、および処理比を含むように生成した。チタン(IV)イソプロポキシドを、上記の基準となる潤滑油の処方に対して1質量%で処方した。
【0123】
得られた潤滑油組成物は、ASTM D874により測定される0.92質量%の硫酸灰分量、0質量%のリン含有量、0.15質量%の硫黄含有量を示した。
【0124】
[比較例C]
基準となる潤滑油の処方を、比較例Aと同じ添加剤、基油、および処理比を含むように生成した。二級ZnDTPを、上記の基準となる潤滑油の処方に対して19ミリモルZn/kg潤滑油で処方した。
【0125】
得られた潤滑油組成物は、ASTM D874により測定される0.93質量%の硫酸灰分量、0.13質量%のリン含有量、および0.48質量%の硫黄含有量を示した。
【0126】
(性能試験)
実施例1および2の潤滑油組成物と比較例A〜Cの潤滑油組成物との摩耗防止性能を、「ディーゼルエンジン内のすすによる摩耗」E.S.ヤマグチ、M.ウンターマン、S.H.ロビー、P.R.リアソン、およびS.W.イーのジャーナル・オブ・エンジニアリング・トライボロジー、220(J5)、2006年8月によりシェブロン社が変更したPCS MTMベンチテストを用いて評価した。この試験では、エンジンのすすを加えた試験油で潤滑している回転中の金属ディスクを、固定した金属ボールに擦り付けた。摩耗による傷が、固定した金属ボール上に生じる。摩耗による傷の直径を測定し、記録する。摩耗による傷が低レベルであることは、優れた摩耗防止性能を有する油であるとみることができる。
【0127】
試験油は、試験潤滑油に、9質量%のエンジンのすすを混合して製造した。すすは、試験潤滑油とホモジナイザー中で混合した。エンジン試験設備のオーバーヘッド回収システムから得られたエンジンのすすを、この試験に使用した。すすはペンタンを用いてスラリーとして、試験潤滑油に加える前に、焼結ガラス製の漏斗を通してろ過し、窒素雰囲気下の吸引オーブン内で乾燥し、最大で50メッシュ(300μm)となるまで粉砕した。この作業の目的は、最新のEGRエンジンに見られるような研磨摩耗を引き起こす再現性のある粒子を製造することであった。
【0128】
上記のPCS MTM装置は、装置に付随していたピンホルダーを、1/4インチの直径を有するファレックス社の52100スチール試験ボールに(特製のホルダーと共に)置き換えることにより変更した[例えば、ヤマグチ、E.S.、「変更したMTM摩擦計を用いる摩擦および摩耗の測定」IPコム・ジャーナル7、2巻、9、57〜58頁(2002年8月)、IPCOM番号000009117D参照]。この装置は、ピン・オン・ディスク方式で使用し、すべり条件で作動させた。特製のホルダー内でボールを堅く固定して実施し、それにより、ディスクのすべり方向に対して、ボールの遊びが1°しかないようにした。条件を表1に示す。
【0129】
表1
MTMの試験条件
──────────────────
負荷 14N
初期接触圧力 1.53GPa
温度 116℃
摩擦の組合せ 52100/52100
──────────────────
速度 mm/秒 分
──────────────────
3800 10
2000 10
1000 10
100 10
20 10
10 10
5 10
──────────────────
時間の長さ 70分
ディーゼルエンジンのすす 9%
──────────────────
【0130】
試験試料を準備するために、PCSインスツルメンツ社の52100平滑(0.02ミクロンのRa)スチール製ディスクから、ヘプタン、ヘキサン、およびイソオクタンを用いて、耐食性被膜を除いた。次に、ディスクを柔らかなティッシュできれいに拭き、ディスク・トラック上の被膜が除かれ、ディスクのトラックが輝いて見えるまで、洗浄用溶剤を入れたビーカーに沈めた。ディスクと試験ボールとを別々の容器に入れて、シェブロン450シンナーに浸した。最後に、試験試料を超音波洗浄器に入れて20分間超音波洗浄をした。シェブロン社が変更したPCS摩耗試験の試験結果を表2に示す。
【0131】
表2
────────────────
実施例/比較例 WSD(μm)
────────────────
実施例1 289
実施例2 345
比較例A 549
比較例B 345
比較例C 378
────────────────
【0132】
本発明の潤滑油組成物が、改良された摩耗性能を示すことは明らかである。
【0133】
本明細書が開示する態様について、様々な変更が可能であることが理解できるであろう。従って、以上の説明は限定的に解釈されるべきではなく、好ましい態様の例示にすぎないと理解すべきである。例えば、上記のおよび本発明を実施するための最良の態様として実施されるべき機能は、説明のみを目的としている。他の変更や方式も、本発明の範囲や精神を逸脱することなく、当業者は実施できるであろう。さらに当業者は、ここに書き添えられている請求の範囲と精神の中で他の変更を行うことも可能であろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分を含む潤滑油組成物:(a)主要量の潤滑粘度の油;並びに(b)(i)α−、β−、もしくはγ−ヒドロキシカルボニル化合物のアニオン;(ii)α−、β−、もしくはγ−ヒドロキシカルボン酸のアニオン、該カルボン酸のアミド、または該カルボン酸のエステル;(iii)α−、β−、もしくはγ−アミノカルボン酸のアニオン;および(iv)α−、β−、もしくはγ−ケト酸のアニオンからなる群より選ばれる少なくとも一つの配位子を持つ一種以上のハロゲン不含油溶性チタン錯体。
【請求項2】
潤滑油組成物が内燃機関用油である請求項1の潤滑油組成物。
【請求項3】
上記の一種以上のハロゲン不含油溶性チタン錯体が、α−、β−、もしくはγ−ヒドロキシカルボニル化合物のアニオンを含む少なくとも一つの配位子を持つ請求項1および2のいずれか一項に従う潤滑油組成物。
【請求項4】
上記の一種以上のハロゲン不含油溶性チタン錯体が、α−、β−、もしくはγ−ヒドロキシケトン化合物のアニオンを含む少なくとも一つの配位子を持つ請求項1および2のいずれか一項に従う潤滑油組成物。
【請求項5】
上記の一種以上のハロゲン不含油溶性チタン錯体が、同一でも異なっていてもよいα−、β−、もしくはγ−ヒドロキシカルボニル化合物のアニオンを含む少なくとも二つの配位子を持つ請求項1および2のいずれか一項に従う潤滑油組成物。
【請求項6】
上記の一種以上のハロゲン不含油溶性チタン錯体が、同一でも異なっていてもよいα−、β−、もしくはγ−ヒドロキシケトン化合物のアニオンを含む少なくとも二つの配位子を持つ請求項1および2のいずれか一項に従う潤滑油組成物。
【請求項7】
上記の一種以上のハロゲン不含油溶性チタン錯体が、ジイソプロポキシド・ビス(テトラメチルヘプタンジオネート)チタン錯体、ジ−n−ブトキシド・ビス(2,4−ペンタンジオネート)チタン錯体、およびそれらの混合物からなる群より選ばれる請求項1および2のいずれか一項に従う潤滑油組成物。
【請求項8】
上記の一種以上のチタン錯体を潤滑油組成物の全質量に基づき、Ti金属として10ppm乃至3000ppm含む請求項1乃至7のいずれか一項に従う潤滑油組成物。
【請求項9】
いかなるジアルキルジチオリン酸亜鉛も実質的に含まない請求項1乃至8のいずれか一項に従う潤滑油組成物。
【請求項10】
いかなるリン含有量も実質的に存在しない請求項1乃至9のいずれか一項に従う潤滑油組成物。
【請求項11】
いかなるリンもしくは硫黄の含有量も実質的に存在しない請求項9の潤滑油組成物。
【請求項12】
ASTM D874により測定される硫酸灰分量が1.0質量%以下である請求項1乃至11のいずれか一項に従う潤滑油組成物。
【請求項13】
さらに(c)一種以上の分散剤および(d)一種以上の清浄剤を含む請求項1乃至12のいずれか一項に従う潤滑油組成物。
【請求項14】
さらに酸化防止剤、耐摩耗剤、さび止め剤、曇り除去剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、摩擦緩和剤、流動点降下剤、消泡剤、腐食防止剤、染料、極圧剤、およびそれらの混合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の添加剤を含む請求項1乃至13のいずれか一項に従う潤滑油組成物。
【請求項15】
内燃機関における金属部分の摩耗を軽減する方法であって、請求項1乃至14のいずれか一項に従う潤滑油組成物の存在下でエンジンを作動させることを含む方法。

【公表番号】特表2013−513712(P2013−513712A)
【公表日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−544527(P2012−544527)
【出願日】平成22年11月12日(2010.11.12)
【国際出願番号】PCT/US2010/056563
【国際公開番号】WO2011/081731
【国際公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(598037547)シェブロン・オロナイト・カンパニー・エルエルシー (135)
【Fターム(参考)】