説明

チップ抵抗器およびその製造方法

【課題】本発明は、抵抗値が低くTCRが小さいチップ抵抗器およびその製造方法を提供することを目的とするものである。
【解決手段】本発明のチップ抵抗器は、絶縁基板11と、この絶縁基板11の上面に形成された抵抗体12と、この抵抗体12の上面の両端部に形成されたCuからなる一対の上面電極13と、前記抵抗体12を覆うように形成された保護膜14と、前記絶縁基板11の両端面において前記抵抗体12、一対の上面電極と13接続されるように形成された端面電極15とを備え、前記抵抗体12を、Cuからなる第1抵抗層12aと、前記一対の上面電極13が位置しない箇所において前記第1抵抗層12aの厚みより厚いCuNiからなる第2抵抗層12bとで構成したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子回路に広く使用されるチップ抵抗器に関して、特に、抵抗値の低い領域でTCR(抵抗温度係数)の小さい、高精度のチップ抵抗器およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種のチップ抵抗器は、図5に示すように、絶縁基板1と、この絶縁基板1の上面に形成されたCuNiからなる抵抗体2と、この抵抗体2の上面の両端部に形成されたCuからなる一対の上面電極3と、前記抵抗体2を覆うように形成された保護膜4と、前記絶縁基板1の両端面において前記抵抗体2、一対の上面電極3と接続されるように形成された端面電極5とを備えていた。
【0003】
なお、この出願の発明に関する先行技術文献情報としては、例えば、特許文献1が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−88162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した従来のチップ抵抗器においては、抵抗体2に含まれているNiが焼成工程で一対の上面電極3に拡散されるため、一対の上面電極3の抵抗値が上昇する場合があった。
【0006】
また、抵抗体2をCuで構成すると、一対の上面電極3への拡散を防止できるとともに、低い抵抗値を得ることができるが、TCRが大きくなるという課題を有していた。
【0007】
本発明は上記従来の課題を解決するもので、抵抗値が低くTCRが小さいチップ抵抗器およびその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は以下の構成を有するものである。
【0009】
本発明の請求項1に記載の発明は、絶縁基板と、この絶縁基板の上面に形成された抵抗体と、この抵抗体の上面の両端部に形成されたCuからなる一対の上面電極と、前記抵抗体を覆うように形成された保護膜と、前記絶縁基板の両端面において前記抵抗体、一対の上面電極と接続されるように形成された端面電極とを備え、前記抵抗体を、Cuからなる第1抵抗層と、前記一対の上面電極が位置しない箇所において前記第1抵抗層の厚みより厚いCuNiからなる第2抵抗層とで構成したもので、この構成によれば、比抵抗が小さいCuからなる第1抵抗層と、その膜厚が厚い第2抵抗層とで抵抗体を構成できるため、抵抗値を低くすることができ、さらに、抵抗体にTCRが小さいCuNiからなる第2抵抗層を形成しているため、チップ抵抗器のTCRを小さくすることができるという作用効果が得られるものである。
【0010】
本発明の請求項2に記載の発明は、絶縁基板の上面にCu層を形成する工程と、前記Cu層の上面の両端部にCuからなる一対の上面電極を形成し、前記Cu層の上面において前記一対の上面電極に接しない位置にCuNi層を形成する工程と、前記Cu層およびCuNi層を覆うように保護膜を形成する工程と、前記絶縁基板の両端面において前記Cu層、一対の上面電極と接続されるように端面電極を形成する工程とを備え、前記一対の上面電極を焼成する際に前記CuNi層のNiを前記Cu層の一部に拡散させてCuNiからなる第2抵抗層を形成するとともに、前記Cu層の前記CuNi層のNiが拡散されない第1抵抗層を形成し、前記第1抵抗層と第2抵抗層とで構成される抵抗体を形成するようにしたもので、この製造方法によれば、比抵抗が小さいCuからなる第1抵抗層と、Cu層がCuNi層と一体的に構成されてその膜厚が厚くなった第2抵抗層とで抵抗体を構成できるため、抵抗値を低くすることができ、さらに、抵抗体にTCRが小さいCuNiからなる第2抵抗層を形成しているため、チップ抵抗器のTCRを小さくすることができるという作用効果が得られるものである。
【発明の効果】
【0011】
以上のように本発明のチップ抵抗器は、抵抗体を、Cuからなる第1抵抗層と、一対の上面電極が位置しない箇所において第1抵抗層の厚みより厚いCuNiからなる第2抵抗層とで構成しているため、比抵抗が小さいCuからなる第1抵抗層と、その膜厚が厚い第2抵抗層とで抵抗体を構成することになり、これにより、抵抗値を低くすることができ、さらに、抵抗体にTCRが小さいCuNiからなる第2抵抗層を形成しているため、チップ抵抗器のTCRを小さくすることができるという優れた効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施の形態におけるチップ抵抗器の断面図
【図2】同チップ抵抗器の製造工程図
【図3】(a)(b)同チップ抵抗器の製造途中の状態を示す断面図
【図4】CuNi合金のNi含有率と抵抗値およびTCRとの関係を示す図
【図5】従来のチップ抵抗器の断面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施の形態におけるチップ抵抗器について、図面を参照しながら説明する。
【0014】
図1は本発明の一実施の形態におけるチップ抵抗器の断面図である。
【0015】
本発明の一実施の形態におけるチップ抵抗器は、図1に示すように、絶縁基板11と、この絶縁基板11の上面に形成された抵抗体12と、この抵抗体12の上面の両端部に形成されたCuからなる一対の上面電極13と、前記抵抗体12を覆うように形成された保護膜14と、前記絶縁基板11の両端面において前記抵抗体12、一対の上面電極13と接続されるように形成された端面電極15とを備えている。そして、前記抵抗体12を、Cuからなる第1抵抗層12aと、前記一対の上面電極13が位置しない箇所において第1抵抗層12aの厚みより厚いCuNiからなる第2抵抗層12bとで構成している。
【0016】
上記構成において、前記絶縁基板11は、矩形状で、純度96%のアルミナからなる。なお、窒化アルミニウム等のアルミナ以外の絶縁材料を用いてもよい。
【0017】
また、前記抵抗体12は、絶縁基板11の上面に設けられ、中央部のCuNiからなる第2抵抗層12bと、その両端部に位置するCuからなる第1抵抗層12aとで構成されている。そして、2つの第1抵抗層12aと第2抵抗層12bとが直列に接続された状態となっている。さらに、抵抗体12には抵抗値調整のためのトリミング溝(以下、図示せず)が形成されている。
【0018】
そして、前記第2抵抗層12bは、第1抵抗層12aと一体的に形成されたCu層と、その中央部の上面に形成されたCuNi層とを積層して構成される。このとき、一対の上面電極13を焼成して形成する際、CuNi層に含まれているNiがその下層に位置するCu層に拡散されて、一体化されたCuNiからなる第2抵抗層12bが構成される。したがって、第2抵抗層12bは、下層のCu層と上層のCuNi層とが積層されていることになり、第1抵抗層12aよりもその膜厚が厚くなっている。
【0019】
さらに、前記一対の上面電極13は、Cuを主成分とする金属で構成され、第1抵抗層12aの上面両端部に形成されている。なお、一対の上面電極13は、第2抵抗層12bと接しない範囲で、第1抵抗層12aの上面の略全面を覆うようにしてもよい。
【0020】
そして、前記保護膜14は、エポキシ等の樹脂で構成され、少なくとも第1抵抗層12aを覆うように形成されている。
【0021】
また、前記端面電極15は、Ag等で構成され、抵抗体12、一対の上面電極13と電気的に接続されるように絶縁基板11の両端面に形成されている。さらに、端面電極15を覆うように、CuめっきやNiめっきあるいはその両方からなる下層めっき層16とSnめっき層17とで構成される2層あるいは3層構造のめっき層を形成しているものである。なお、Cuめっきは、上面電極13および端面電極15の抵抗値を低くするために形成される。
【0022】
次に、図1および図2に示した工程図にもとづいて、本発明の一実施の形態におけるチップ抵抗器の製造方法について説明する。
【0023】
まず、純度96%のアルミナからなる絶縁基板11を用意する。なお、表面に予め分割のための複数の1次分割溝と2次分割溝を有し、この1次分割溝、2次分割溝で1つのチップ抵抗器に相当する部分が区切られたシート状の絶縁基板を通常は用いるが、説明を簡単にするために、以降は特に断りがなければ、1つのチップ抵抗器を用いた説明をする。
【0024】
次に、この絶縁基板11の片面に厚膜Cuペーストをスクリーン印刷して乾燥させ、そしてベルト式連続焼成炉により焼成することによって、Cu層を形成する。このCu層は、その両端部が第1抵抗層12aを構成し、その中央部は上面に設けられたCuNi層とともに第2抵抗層12bを構成する。
【0025】
次に、図3(a)に示すように、上記Cu層18aの中央部上面に、CuNiを主成分とする厚膜合金ペーストをスクリーン印刷してCuNi層18bを形成する。
【0026】
次に、このCu層の両端部の上面に厚膜Cuペーストをスクリーン印刷して乾燥させ、一対の上面電極13を形成し、ベルト式連続焼成炉により焼成する。このときの熱により、図3(b)に示すように、CuNi層18bのNiが、Cu層18aの中央部分に拡散してCuNi合金化させ、CuNi合金からなる第2抵抗層12bを形成する。このとき、Cu層18aの上面にCuNi層18bが形成されない部分にはNiが拡散せず、Cu層18aの状態のままで第1抵抗層12aが構成される。なお、Cu層18a、CuNi層18b、一対の上面電極13を一括して焼成してもよい。
【0027】
ここで、図4に示すように、CuNi合金の金属組成と、電気抵抗率およびTCRには相関関係がある。従って、CuNi合金中のCuとNiの比率を変えることにより、TCRをコントロールすることが可能である。また、抵抗値もCuとNiの比率により変化する。なお、図4から明らかなように、Cu:Niが60:40(重量比)のときにTCRが最小になる。そして、TCRの小さい高精度のチップ抵抗器を得る、または、より低い抵抗値を得るためなどの目的に応じて、CuNi合金からなるCuNi層のCuとNiの比率を設定する。この場合、CuNi層中のCuとNiの比率と、一対の上面電極13焼成後の抵抗体12のTCR、抵抗値との関係を予め確認しておく必要がある。
【0028】
次に、目的の抵抗値を得るために、一対の上面電極13に抵抗値測定用プローブを当てながらレーザ照射して抵抗体12の抵抗値の修正を行う。
【0029】
上記の工程により、所望の抵抗値およびTCRを有する抵抗体12が形成されるため、これ以降の工程では特性に影響を与えるような高温工程がないことが必要である。従って、以下に示すような低温プロセスにより、これ以降の工程を行う。
【0030】
次に、抵抗値を修正した後の抵抗体12を少なくとも完全に覆うように、耐湿性および耐熱性に優れたエポキシ系樹脂のペーストをスクリーン印刷し、そしてベルト式連続乾燥炉を用いて、上記樹脂を硬化することにより保護層14を形成する。
【0031】
次に、絶縁基板11の対向する一対の両端部をコ字状に覆い、かつ抵抗体12の保護層14に覆われていない露出された部分と電気的に接続するように、Agからなる端面電極15を形成する。このとき、シート状の絶縁基板を用いる場合には、この端面電極15は、それを形成するための一次分割工程において、シート状の絶縁基板を短冊状に分割し、端面電極15を形成する端面部を露出させる。その後、短冊状の絶縁基板を凹凸状の保持治具を用いて端面電極形成面が水平になるように固定し、抵抗体12の少なくとも一部を覆うように、Agの樹脂電極ペーストを均一にステンレスローラー上に形成してこのステンレスローラーを回転させるとともに、凹凸状の保持治具を移動させることにより、ステンレスローラー上の樹脂電極ペーストを短冊状基板の側面に接触させて塗布する。そして、ベルト式連続遠赤外線硬化炉により、熱処理を行うことにより、端面電極15を形成する。さらに、二次分割工程により、個片状のチップ抵抗器とする。
【0032】
最後に、端面電極15のはんだ付けを行う際の信頼性を確保するために、端面電極15を覆うように電気めっきにより下層めっき膜16を形成し、さらにこの下層めっき膜16を覆うように電気めっきによりはんだ(Sn)めっき膜17を形成し、本発明によるチップ抵抗器を製造する。
【0033】
上記のように本発明の一実施の形態におけるチップ抵抗器は、抵抗体12を、Cuからなる第1抵抗層12aと、一対の上面電極13が位置しない箇所において第1抵抗層12aの厚みより厚いCuNiからなる第2抵抗層12bとで構成しているため、比抵抗が小さいCuからなる第1抵抗層12aと、その膜厚が厚い第2抵抗層12bとで抵抗体12を構成することになり、これにより、抵抗値を低くすることができ、さらに、抵抗体12にTCRが小さいCuNiからなる第2抵抗層12bを形成しているため、チップ抵抗器のTCRを小さくすることができるという効果が得られるものである。
【0034】
すなわち、抵抗体12として導電率の大きいCuからなる第1抵抗層12aを有しているため低い抵抗値が得られ、さらに、第2抵抗層12bは導電率が小さいが、その厚みはCuNi層に相当する部分の厚みが加算されるため厚く、したがって、第2抵抗層12bの抵抗値も低くなり、この結果、抵抗値を低くすることができる。そして、第1抵抗層12aはCuで構成されていることからTCRは大きいが、導電率も高く、また、上面が上面電極13に覆われているため、抵抗値が低く、これにより、チップ抵抗器全体に及ぼすTCRの影響は小さいため、第2抵抗層12bのCuNiのTCRが支配的となる。この結果、チップ抵抗器の全体のTCRを小さくすることができる。
【0035】
また、第2抵抗層12bを一対の上面電極13が位置しない箇所に形成しているため、第2抵抗層12bに含まれるNiが一対の上面電極13に拡散し、一対の上面電極13の抵抗値が上昇するのを防止できる。
【0036】
さらに、従来のチップ抵抗器の生産設備である、焼成炉、めっき設備などをほぼそのまま使用できるため、量産が容易であり、かつ安価に製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明に係るチップ抵抗器およびその製造方法は、抵抗値が低くTCRが小さいという効果を有するものであり、特に、抵抗値の低い領域でTCRの小さい、高精度のチップ抵抗器およびその製造方法等において有用となるものである。
【符号の説明】
【0038】
11 絶縁基板
12 抵抗体
12a 第1抵抗層
12b 第2抵抗層
13 上面電極
14 保護膜
15 端面電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板と、この絶縁基板の上面に形成された抵抗体と、この抵抗体の上面の両端部に形成されたCuからなる一対の上面電極と、前記抵抗体を覆うように形成された保護膜と、前記絶縁基板の両端面において前記抵抗体、一対の上面電極と接続されるように形成された端面電極とを備え、前記抵抗体を、Cuからなる第1抵抗層と、前記一対の上面電極が位置しない箇所において前記第1抵抗層の厚みより厚いCuNiからなる第2抵抗層とで構成したチップ抵抗器。
【請求項2】
絶縁基板の上面にCu層を形成する工程と、前記Cu層の上面の両端部にCuからなる一対の上面電極を形成し、前記Cu層の上面において前記一対の上面電極に接しない位置にCuNi層を形成する工程と、前記Cu層およびCuNi層を覆うように保護膜を形成する工程と、前記絶縁基板の両端面において前記Cu層、一対の上面電極と接続されるように端面電極を形成する工程とを備え、前記一対の上面電極を焼成する際に前記CuNi層のNiを前記Cu層の一部に拡散させてCuNiからなる第2抵抗層を形成するとともに、前記Cu層の前記CuNi層のNiが拡散されない第1抵抗層を形成し、前記第1抵抗層と第2抵抗層とで構成される抵抗体を形成するようにしたチップ抵抗器の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−231051(P2012−231051A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−99171(P2011−99171)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】