説明

チップ構造体

【課題】レンズを不要の構成とすることが可能となり、低コストにも係わらず、集光効率が落ちてS/Nの値が低下することがない、表面プラズモン増強蛍光装置に用いられるチップ構造体を提供する。
【解決手段】表面プラズモン増強蛍光測定装置に用いられるチップ構造体であって、
一方の面に励起光が照射されることにより電場が増強される金属薄膜と、
前記金属薄膜の他方の面側に形成された反応部であって、増強された前記電場により蛍光物質を励起させる反応部と、
蛍光を透過する基材からなり、流路溝が形成された面を前記金属薄膜の面に接合することにより前記反応部を底面として液体を送液する流路を形成した基体と、を有し、
前記基体には、前記反応部を中心として、その周囲を囲み上方に伸びる空洞溝が設けられており、前記空洞溝と前記基体との境界面で前記蛍光を反射可能であるチップ構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面プラズモン励起増強蛍光分光法(SPFS;Surface Plasmon-field enhanced Fluorescence Spectroscopy)の原理に基づいた表面プラズモン増強蛍光測定装置に用いられるチップ構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、表面プラズモン励起増強蛍光分光法(SPFS)の原理に基づき、例えば生体内の極微少なアナライトの検出が行われている。表面プラズモン励起増強蛍光分光法(SPFS)は、光源より照射したレーザ光(励起光)が金属薄膜表面で全反射減衰(ATR;attenuated total reflectance)する条件において、金属薄膜表面に粗密波(表面プラズモン)を発生させることによって、光源より照射したレーザ光(励起光)が有するフォトン量を数十倍〜数百倍に増やし(表面プラズモンの電場増強効果)、これにより金属薄膜近傍の蛍光物質を効率良く励起させることによって、極微量および/または極低濃度のアナライトを検出する方法である。
【0003】
近年、このような表面プラズモン励起増強蛍光分光法(SPFS)の原理に基づいた表面プラズモン増強蛍光測定装置の開発が進められており、例えば特許文献1や特許文献2などにその技術開示がなされている。
【0004】
このような表面プラズモン増強蛍光測定装置10は、図8に示したように基本的な構造において、誘電体部材106の表面に金属薄膜102、更にその表面に反応部104が設けられたチップ構造体108を備えている。
【0005】
そして、チップ構造体108の誘電体部材106側には、誘電体部材106内に入射され、金属薄膜102に向かって励起光b1を照射する光源112を備え、さらに光源112から照射され金属薄膜102で全反射した金属薄膜全反射光b2を受光する受光手段116が備えられている。
【0006】
一方、チップ構造体108の反応部104側には、反応部104に捕捉されたアナライトを標識した蛍光物質が発する蛍光b3を受光する光検出手段120が設けられている。
【0007】
なお、反応部104と光検出手段120との間には、蛍光b3を効率よく集光するための集光部材122と、蛍光b3以外に含まれる光を除去し、必要な蛍光のみを選択するフィルタ124が設けられている。
【0008】
そして、表面プラズモン増強蛍光測定装置10の使用においては、あらかじめ金属薄膜102の表面上には検出対象のDNA等のアナライトに含まれる抗原に特異的に結合する1次抗体があらかじめ固定されている。金属薄膜102に接する反応部104に、アナライト及び当該アナライトに特異的に結合する2次抗体を順に送液して、2次抗体を反応部104で捕捉させる。アナライトとともに捕捉される2次抗体は蛍光物質で標識されている。
【0009】
反応部104の蛍光標識に光源112より誘電体部材106内に励起光b1を照射し、この励起光b1が特定の角度(共鳴角)θ1で金属薄膜102に入射することで、金属薄膜102上に粗密波(表面プラズモン)を生ずるようになっている。なお、金属薄膜102上に粗密波(表面プラズモン)が生ずる際には、励起光b1と金属薄膜102中の電子振動とがカップリングし、金属薄膜全反射光b2の光量減少という現象が生ずる。
【0010】
受光手段116及び光源112とは対となって金属薄膜102の照射領域を中心として回動し、金属薄膜102への入射角度を変更することができる。入射角度を変化させ、その際の受光手段116で受光される金属薄膜全反射光b2のシグナルが変化(光量が減少)する地点を見つければ、粗密波(表面プラズモン)が生ずる共鳴角θ1を得ることができる。
【0011】
そして、この粗密波(表面プラズモン)を生ずる現象により、金属薄膜102上の反応部104の蛍光物質が効率良く励起され、これにより蛍光物質が発する蛍光b3の光量が増大することとなる。
【0012】
この増大した蛍光b3を、集光部材122およびフィルタ124を介して光検出手段120で受光することで、極微量および/または極低濃度のアナライトを検出することができるようになっている。
【0013】
このように、表面プラズモン増強蛍光測定装置10は、特に生体分子間などの微細な分子活動を観察可能とする高感度計測センサである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特許第3294605号公報
【特許文献2】特開2008−102117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、上述したような従来の表面プラズモン増強蛍光装置10では、集光部材122を用いて、増強された蛍光b3を光検出手段120で検出するようになっている。このような集光部材122には通常レンズが用いられているが、レンズは非常に高価であり、焦点合わせが非常に大変なものあった。
【0016】
また、反応部104の蛍光物質から発せられる蛍光を効率よく集光するためには、集光部材122を反応部104に近接することが望ましいが、チップ構造体108と集光部材122とは別部品で構成されているために、自ずと限界があり、離れた位置に配置された集光部材122では十分な集光効率が確保できず、やはりS/Nの値が低くなってしまう問題を有するものであった。
【0017】
本発明はこのような問題に鑑み、レンズを不要の構成とすることが可能となり、低コストにも係わらず、集光効率が落ちてS/Nの値が低下することがない、表面プラズモン増強蛍光装置に用いられるチップ構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記の目的は、下記に記載する発明により達成される。
【0019】
1.表面プラズモン増強蛍光測定装置に用いられるチップ構造体であって、
一方の面に励起光が照射されることにより電場が増強される金属薄膜と、
前記金属薄膜の他方の面側に形成された反応部であって、増強された前記電場により蛍光物質を励起させる反応部と、
蛍光を透過する基材からなり、流路溝が形成された面を前記金属薄膜の面に接合することにより前記反応部を底面として液体を送液する流路を形成した基体と、を有し、
前記基体には、前記反応部を中心として、その周囲を囲み上方に伸びる空洞溝が設けられており、前記空洞溝と前記基体との境界面で前記蛍光を反射可能であることを特徴とするチップ構造体。
【0020】
2.前記空洞溝に囲まれた基体の形状は円柱状又は、上方に広がる円錐台形状であることを特徴とする前記1に記載のチップ構造体。
【0021】
3.前記空洞溝は、前記流路に貫通していないことを特徴とする、前記1又は2に記載のチップ構造体。
【0022】
4.前記空洞溝には、前記基材よりも低屈折率の他の基材からなる部材が挿入されていることを特徴とする前記1から3のいずれか一項に記載のチップ構造体。
【0023】
5.前記基材は、透明樹脂であり、前記基体は成形により製造されていることを特徴とする前記1から4のいずれか一項に記載のチップ構造体。
【0024】
6.表面プラズモン増強蛍光測定装置に用いられるチップ構造体であって、
一方の面に励起光が照射されることにより電場が増強される金属薄膜と、
前記金属薄膜の他方の面側に形成された反応部であって、増強された前記電場により蛍光物質を励起させる反応部と、
蛍光を透過する基材からなり、流路溝が形成された面を前記金属薄膜の面に接合することにより前記反応部を底面として液体を送液する流路を形成した基体と、を有し、
前記基体には、前記反応部を中心として、その上方に空洞溝が設けられており、
前記空洞溝には、円柱状又は円錐台形状の集光ロッドが挿入されており、前記集光ロッドの側壁で前記蛍光を反射可能であることを特徴とするチップ構造体。
【0025】
7.前記集光ロッドは、光ファイバであることを特徴とする前記6に記載のチップ構造体。
【0026】
8.表面プラズモン増強蛍光測定装置に用いられるチップ構造体であって、
一方の面に励起光が照射されることにより電場が増強される金属薄膜と、
前記金属薄膜の他方の面側に形成された反応部であって、増強された前記電場により蛍光物質を励起させる反応部と、
蛍光を透過する基材からなり、流路溝が形成された面を前記金属薄膜の面に接合することにより前記反応部を底面として液体を送液する流路を形成した基体と、を有し、
前記基体には、前記反応部を中心として、その上方に空洞溝が設けられており、
前記基体の前記空洞溝に面する表面に鏡面加工が施されていることを特徴とするチップ構造体。
【発明の効果】
【0027】
レンズを不要の構成とすることが可能となり、低コストにも係わらず、集光効率が落ちてS/Nの値が低下することがない、表面プラズモン増強蛍光装置に用いられるチップ構造体を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】マイクロチップ送液システムを用いた表面プラズモン増強蛍光測定装置の概略図である。
【図2】図2(a)はマイクロチップ14周辺の断面図であり、図2(b)はその一部の上面図である。
【図3】チップ構造体108の構成を示す模式図である。
【図4】第2の実施形態におけるチップ構造体108の構成を示す模式図である。
【図5】第3の実施形態におけるチップ構造体108の構成を示す模式図である。
【図6】第4の実施形態におけるチップ構造体108の構成を示す模式図である。
【図7】第5の実施形態におけるチップ構造体108の構成を示す模式図である。
【図8】従来の表面プラズモン増強蛍光測定装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明を実施の形態に基づいて説明するが、本発明は該実施の形態に限られない。
【0030】
図1、図2は、実施形態に係るマイクロチップ送液システムを用いた表面プラズモン増強蛍光測定装置の概略図である。
【0031】
表面プラズモン増強蛍光測定装置は、励起光を金属薄膜に照射して粗密波(表面プラズモン)を生じさせて励起された蛍光物質が生ずる蛍光を正確に検出し、検出感度を上げても超高精度に蛍光検出を行うことを可能とするものである。
【0032】
[表面プラズモン増強蛍光測定装置10、及び検体検出方法]
本発明の表面プラズモン増強蛍光測定装置10は、図1に示したように、金属薄膜102と、金属薄膜102の表面に形成された反応部104と、基体142とを有するチップ構造体108を備えている。金属薄膜102の一方の面側には誘電体部材106が形成されており、反応部104は金属薄膜102の他方の面側に形成されている。
【0033】
基体に用いる基材としては、樹脂が用いられる。その樹脂としては、成形性(転写性、離型性)が良いこと、透明性が高いこと、紫外線や可視光に対する自家蛍光性が低いことなどが条件として挙げられるが、特に限定されるものではない。例えば、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン6、ナイロン66、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリプロピレン、ポリイソプレン、ポリエチレン、ポリジメチルシロキサン、環状ポリオレフィンなどが用いられる。
【0034】
また、高屈折率の観点からは、更にポリカーボネートが好ましい。
【0035】
基体142の一方の面には流路溝が形成されており、流路溝が形成された面を金属薄膜102の面に接着剤塗布あるいは加熱及び加圧を所定時間行うこと等により接合することにより反応部104を底面として液体を送液する流路143が形成される。また基体142には反応部104を中心として、その周囲を囲み上方に伸びる空洞溝h1が設けられている。空洞溝h1についての詳細は後述の図3の説明で行う。また、基体142の形成方法としては、コストの観点から金型を用いた射出成形が好ましい。
【0036】
またチップ構造体108の誘電体部材106側には、誘電体部材106内に入射され、金属薄膜102に向かって励起光b1を照射する光源112を備え、さらに光源112から照射され金属薄膜102に全反射した金属薄膜全反射光b2を受光する受光手段116を備えている。
【0037】
ここで光源112から照射される励起光b1としてはレーザ光が好ましく、波長200〜1000nmのガスレーザまたは固体レーザ、波長385〜800nmの半導体レーザが好適である。
【0038】
一方、チップ構造体108の反応部104側には、反応部104で生じた蛍光b3を受光する光検出手段120が設けられている。
【0039】
光検出手段120としては、超高感度の光電子増倍管、または多点計測が可能なCCDイメージセンサを用いることが好ましい。
【0040】
そしてチップ構造体108の反応部104と光検出手段120との間には、光を効率よく集光するための集光部材122と、光の内で蛍光b3とは異なる波長の光の透過を低減して蛍光b3を選択的に透過するように形成されたフィルタ124が設けられている。
【0041】
なお、集光部材122は、本実施形態においては空洞溝h1を設けた基体142にその機能の一部を担わせることで省略することが可能である。そのことにより表面プラズモン増強蛍光測定装置全体としてコストダウンが図れる。また集光部材122が設けた構成においても、集光効率が良くなりS/Nの値が低下することがない、
集光部材122としては、光検出手段120に蛍光シグナルを効率よく集光することを目的とするものであれば、任意の集光系で良い。簡易な集光系としては、顕微鏡などで使用されている市販の対物レンズを転用してもよい。対物レンズの倍率としては、10〜100倍が好ましい。
【0042】
一方、フィルタ124としては、光学フィルタ、カットフィルタなどを用いることができる。光学フィルタとしては、減光(ND)フィルタ、ダイアフラムレンズなどが挙げられる。さらにカットフィルタとしては、外光(装置外の照明光)、励起光(励起光の透過成分)、迷光(各所での励起光の散乱成分)、プラズモンの散乱光(励起光を起源とし、プラズモン励起センサ表面上の構造体または付着物などの影響で発生する散乱光)、酵素蛍光基質の自家蛍光などの各種ノイズ光を除去するフィルタであって、例えば干渉フィルタ、色フィルタなどが挙げられる。
【0043】
そして、このような表面プラズモン増強蛍光測定装置10を用いたアナライト検出方法では、反応部104に接する側の金属薄膜102表面上には1次抗体を結合させたSAM膜(Self-Assembled Monolayer:「自己組織化単分子膜」ともいう)あるいは高分子材料膜が設けられている。1次抗体はSAM膜あるいは高分子材料膜の一方の面に結合されており、SAM膜あるいは高分子材料膜の他方の面は、直接若しくは間接に金属薄膜102表面に固定されている。SAM膜としては例えばHOOC−(CH11−SHなどの置換脂肪族チオールで形成された膜、高分子材料としては例えばポリエチレングリコール(polyethylene glycol、以下「PEG」と記す。)やMPCポリマー等が挙げられる。これは使用時に調製しても、予めこれらを結合させた基板を用いてもよい。また、1次抗体に対する反応性基(または反応性基に変換可能な官能基)を備えたポリマーを直接基板上に固定化し、その上に1次抗体を固定化してもよい。各種反応性基を利用して抗体やポリマーを結合させる際には、スクシンイミジル化を経たアミド化縮合反応や、マレイミド化を経た付加反応等が一般的である。
【0044】
このようにして構成した反応部104に標的物質としてのアナライトの抗原を含む溶液(以下、検体液ともいう)と、二次抗体を含む試薬液の送液を行う。固定化した一次抗体によって抗原を捕捉することが可能である。これに対しさらに蛍光物質で標識した二次抗体を含む試薬液を作用させることで捕捉された抗原を標識している。なお予め抗原と二次抗体とを反応させておいてから一次抗体を作用させてもよい。
【0045】
蛍光物質で標識されたアナライトの検出を行うには、アナライトが捕捉された反応部104に光源112より誘電体部材106に励起光b1を照射し、この励起光b1が金属薄膜102に対して特定の入射角度(共鳴角θ1)で金属薄膜102に入射することで、金属薄膜102上に粗密波(表面プラズモン)を生ずるようになる。
【0046】
なお、金属薄膜102上に粗密波(表面プラズモン)が生ずる際には、励起光b1と金属薄膜102中の電子振動とがカップリングし、金属薄膜全反射光b2のシグナルが変化(光量が減少)することとなるため、受光手段116で受光される金属薄膜全反射光b2のシグナルが変化(光量が減少)する地点を見つければ良い。
【0047】
そして、この粗密波(表面プラズモン)により、金属薄膜102上の反応部104で生じた蛍光物質が効率良く励起され、これにより蛍光物質が発する蛍光b3の光量が増大し、この蛍光b3を集光部材122およびフィルタ124を介して光検出手段120で受光することで、極微量および/または極低濃度のアナライトを検出することができる。
【0048】
なお、金属薄膜102の材質としては、好ましくは金、銀、アルミニウム、銅、および白金からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属からなり、より好ましくは金からなり、さらにこれら金属の合金から成ることである。
【0049】
このような金属は、酸化に対して安定であり、かつ粗密波(表面プラズモン)による電場増強が大きくなることから金属薄膜102に好適である。
【0050】
また、金属薄膜102の形成方法としては、例えばスパッタリング法、蒸着法(抵抗加熱蒸着法、電子線蒸着法など)、電解メッキ、無電解メッキ法などが挙げられる。中でもスパッタリング法、蒸着法は、薄膜形成条件の調整が容易であるため好ましい。
【0051】
さらに金属薄膜102の厚さとしては、金:5〜500nm、銀:5〜500nm、アルミニウム:5〜500nm、銅:5〜500nm、白金:5〜500nm、およびそれらの合金:5〜500nmの範囲内であることが好ましい。
【0052】
電場増強効果の観点からは、金:20〜70nm、銀:20〜70nm、アルミニウム:10〜50nm、銅:20〜70nm、白金:20〜70nm、およびそれらの合金:10〜70nmの範囲内であることがより好ましい。
【0053】
金属薄膜102の厚さが上記範囲内であれば、粗密波(表面プラズモン)が発生し易く好適である。また、このような厚さを有する金属薄膜102であれば、大きさ(縦×横)は特に限定されないものである。
【0054】
また、誘電体部材106としては、例えば高屈折率の60度プリズムを用いることができる。材料としては光学的に透明な各種の無機物、天然ポリマー、合成ポリマーを用いることができ、化学的安定性、製造安定性および光学的透明性の観点から、二酸化ケイ素(SiO)または二酸化チタン(TiO)を含むことが好ましい。
【0055】
さらに、このような表面プラズモン増強蛍光測定装置10は、光源112から金属薄膜102に照射される励起光b1による表面プラズモン共鳴の最適角(共鳴角θ1)を調整するため、角度可変部(図示せず)を有している。
【0056】
ここで、角度可変部(図示せず)は制御部13により制御され、「共鳴角スキャン工程」においては角度可変部のサーボモータで全反射減衰(ATR)条件を求めるために受光手段116と光源112とを同期して、照射領域を中心として回動し、45〜85°の範囲で角度変更を可能としている。また分解能は0.01°以上であることが好ましい。
【0057】
図2(a)は、マイクロチップ14周辺の断面図であり、図2(b)はその一部の上面図である。流路143の経路中には、反応部104が設けられている。流路143の一方の端部には開口144aが、他方の端部には開口144bがそれぞれ設けられている。また開口144a側には接続部145が設けられている。
【0058】
接続部145へは、ピペット150が接続可能である。接続部145は弾性体材料で構成されており、ピペット150を装填する際にはシール部材として機能する。他方の端部側の開口144bの先には、液溜部151が設けられている。なお液溜部151の上部には不図示の微細な空気孔が設けられている。
【0059】
基体142の空洞溝h1が設けられている付近の厚み(Z方向長さ)は好ましくは2〜5mmであるがこれよりも厚くてもよい。流路143の幅(Y方向長さ)は1mm〜3mm、高さ(Z方向)は50μm〜500μm、反応部104の幅は流路143の幅と同等であり、長さ(X方向)は1mm〜3mmであるが、必ずしも限定されるものではなくそれよりも長く流路143の全域に渡っていても良い。また流路143の両端の開口144a、144bの大きさは流路143の幅と同等のφ1mm〜φ3mmである。ピペット150の先端は開口144aとほぼ同等の形状であり、根元部分はこれよりも太い軸径の円柱形状である。液溜部151は流路方向で開口144bよりも大きな断面形状であり、例えば断面が2〜4mm角の角柱形状としている。
【0060】
図2(a)においては、ピペット150を装填した状態を示している。なお、液溜部151はマイクロチップ14に固定した例を示しているが、ピペット150と同様に取り外し可能な構成としてもよい。なおピペット150はポンプ130の駆動による内圧の変化に対して変形せずに容積の変化がほとんど生じない程度の剛性を備えていればよい。本実施形態では、材料としてはポリプロピレンを用いている。また接続部145を介して容易に脱着が可能であり、供給した検体液とともにピペット150の廃棄を容易に行うことができる。
【0061】
ポンプ130は例えばシリンジポンプであり、所定量の液体を吐出あるいは吸引することが可能である。ポンプ130により、ピペット150の内部に貯留した検体液等の液体をマイクロチップ14の内部に送液する。このようにして流路143には蛍光物質が標識された二次抗体等が含まれる試薬液や、アナライトが含まれる検体液がポンプ130により送液される。
【0062】
検体としては、血液、血清、血漿、尿、鼻孔液、唾液、便、体腔液(髄液、腹水、胸水等)などが挙げられる。検体中に含有されるアナライトは、例えば、核酸(一本鎖であっても二本鎖であってもよいDNA、RNA、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、PNA(ペプチド核酸)等、またはヌクレオシド、ヌクレオチドおよびそれらの修飾分子)、タンパク質(ポリペプチド、オリゴペプチド等)、アミノ酸(修飾アミノ酸も含む。)、糖質(オリゴ糖、多糖類、糖鎖等)、脂質、またはこれらの修飾分子、複合体などが挙げられ、具体的には、AFP(αフェトプロテイン)等のがん胎児性抗原や腫瘍マーカー、シグナル伝達物質、ホルモンなどであってもよく、特に限定されない。
【0063】
さらに蛍光物質としては、所定の励起光b1を照射するか、または電界効果を利用することで励起し、蛍光b3を発する物質であれば特に限定されないものである。なお本明細書でいう蛍光b3とは、燐光など各種の発光も含まれるものである。
【0064】
図3は、チップ構造体108の構成を示す模式図であり、図2を一部拡大したものである。図3(a)は上面図、図3(b)はA−A断面図である。これらの図に示すように空洞溝h1は反応部104を中心としてその周囲を囲むように設けられおり、上方に伸びている。より詳しくは、空洞溝h1は反応部104の蛍光物質からの蛍光b3が発光する領域の周囲を囲むように設けられている。蛍光b3が発光する領域とは、蛍光物質が標識された二次抗体が捕捉されている反応部104であって、かつ、励起光b1の照射により電場が増強されている領域である。図3(図4〜図7でも同様)に示す例では、反応部104の領域は、電場が増強される領域よりも狭いので、反応部104の領域と蛍光b3が発光する領域とは一致している。
【0065】
基体142は、中央部142aと外周部142c、及びこれらを接続する架橋部142bからなる。中央部142aの外周壁a2(空洞溝と基体との境界面)はほぼ垂直になっており、空洞溝h1に囲まれた中央部142aの形状は円柱状である。
【0066】
中央部142aを含む基体142の基材は、高屈折率の材料を用いている。空洞溝h1は空間(空気)なのでその屈折率の低い(ほぼ1.0)。反応部104から発光して上方の中央部142aの内部に入射した蛍光b3は、外周壁a2に対して臨界角以上の角度で入射した場合には、全反射することになる。蛍光b3は全反射を繰り返して上面a4から抜けてゆく。このように、基体142の中央部142aは集光部材として機能することが可能であり、これにより反応部104から発光した蛍光b3を効率よく集光することが可能となる。
【0067】
また、空洞溝h1の下端部a1は流路143へは貫通しておらず、流路143を構成する上壁面a3はフラットである。このことにより流路143を流れる液体の送液にスムーズに行え、悪影響を及ぼさない。また基体142の外周部142cと中央部142aとは、空洞溝h1に下方にある架橋部142bにより接続されているが、架橋部142bの厚み(Z方向)は強度を許す限り、なるべく薄くして空洞溝h1の下端部a1が反応部104に近い方が効率良く蛍光b3を集光できるので好ましい。また図3に示す構成では空洞溝h1は環状で架橋部142bは下端にのみ設けられていたが、これに限られず空洞溝h1の中に架橋部142bを設け、環状の一部が寸断された構成であってもよい。更に中央部142aは断面が真円の円柱形状であったが、断面が楕円の円柱形状であってもよい。
【0068】
更に、励起光b1や可視光による誘電体部材106からの自家蛍光b301がノイズとなりS/N値に影響するが、本実施形態においては、このような自家蛍光b301は外周部142cの内周壁a5(空洞溝外側と基体との境界面)で全反射できるので、その影響を少なくすることができる。また空洞溝h1の外側と内側の壁面(内周壁a5及び外周壁a2)は平行にする必要はなく、外側の内周壁a5で自家蛍光b301をより効率よく全反射するためには、自家蛍光b301の内周壁a5への入射角が臨界角以上となりやすいように角度を決定してもよい。さらに、射出成形により基体142する場合に転写性を高めるために空洞溝h1の外側と内側の壁面に2〜5°の抜きテーパを形成してもよい。
【0069】
[他の実施形態]
図4〜図7は、それぞれ第2〜第5の実施形態におけるチップ構造体108の構成を示す模式図である。図3に対応するものであり、図3と共通する構成に関しては同符号を付すことにより説明に換える。また図4に示す構成以外は図1〜図2と共通であり説明は省略する。
【0070】
図4に示す第2の実施形態に係るチップ構造体108では、空洞溝h1に囲まれた中央部142aの形状は、上方に広がる円錐台形状である。このような構成とすることにより中央部142aの外周壁a2は反応部104が形成されている面に対してラッパ状に広がった傾斜を持つので、外周壁a2により蛍光b3は、より平行光(反応部104の面に対する法線方向)に近い角度で全反射されるので集光効率が向上する。
【0071】
図5に示す第3の実施形態におけるチップ構造体108では、図3に示した基体142に対して空洞溝h1の部分に部材147を挿入している。部材147は、基体142の基材よりも低屈折率の基材から構成されているので、図3に示した構成と同様に、基体142の中央部142a内部へ照射された蛍光b3は、部材147と中央部142aとの境界で全反射させることができる。そして、部材147を挿入することにより、基体142全体の剛性強度を増すことが可能となる。低屈折率な基材としてはPDMS(ポリジメチルシロキサン)が好ましい。
【0072】
図6に示す第4の実施形態に係るチップ構造体108では、空洞溝h2に集光ロッド148を挿入し、集光ロッド148を集光部材として用いるものである。集光ロッド148とはガラスあるいは樹脂でできた一体構造物であって、その一方の片面から光を取り込み内部で導光し、他の片面から光を放出する構造物のことである。
【0073】
図6(a)は基体142を示す図であり円柱状の空洞溝h2は、反応部104を覆うように上方に設けられている。図6(b)は、図6(a)に示す基体142を用いて構成されたチップ構造体108を示す図であり、同図においては集光ロッド148を挿入している。同図に示す集光ロッドは円柱状であり高屈折率の基材から構成されているので、図3に示した構成と同様に、反応部104から基体142の中央部142dを透過して集光ロッド148の内部へ照射された蛍光b3は、集光ロッド148とその外側の空間(空洞溝h2)との境界で全反射させることができる。蛍光b3は全反射を繰り返して上面a4から抜けてゆく。このように、集光ロッド148は集光部材として機能することが可能であり、これにより反応部104から発光した蛍光b3を効率よく集光することが可能となる。
【0074】
なお集光ロッド148は、円柱状のみならず上方に広がる円錐台形状としてもよい。また集光ロッド148の代わりに、光ファイバを空洞溝h2に挿入してもよい。光ファイバは、ガラスファイバ、若しくは中空光ファイバであり集光ロッドにくらべてフレキシブルに屈曲できる点で好ましい。例えば複雑に込み入った所に配置されたセンサ面まで光ファイバにより検出光を導光することができるので、設計の自由度が向上する。
【0075】
図7に示す第5の実施形態に係るチップ構造体108では、空洞溝h2に面する基体142の表面は鏡面加工が施されている鏡面a6である。鏡面加工とは光が反射するように、表面に対して研磨処理あるいはスパッタリング法や蒸着法により金属薄膜の形成処理をしてその表面を平滑にすることである。
【0076】
図3に示した構成と同様に、反応部104から基体142の中央部142dを透過して上方の空洞溝h2に抜けた蛍光b3は鏡面a6で全反射させることができる。蛍光b3は全反射を繰り返して上方に抜けてゆく。このように、鏡面a6を備えた基体142を集光部材として機能することが可能であり、これにより反応部104から発光した蛍光b3を効率よく集光することが可能となる。
【符号の説明】
【0077】
10 表面プラズモン増強蛍光測定装置
102 金属薄膜
104 反応部
106 誘電体部材
108 チップ構造体
112 光源
116 受光手段
120 光検出手段
122 集光部材
124 フィルタ
142 基体
142a 中央部
142b 架橋部
142c 外周部
142d 中央部
h1、h2 空洞溝
a1 下端部
a2 外周壁
a3 上壁面
a4 上面
a5 内周壁
a6 鏡面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面プラズモン増強蛍光測定装置に用いられるチップ構造体であって、
一方の面に励起光が照射されることにより電場が増強される金属薄膜と、
前記金属薄膜の他方の面側に形成された反応部であって、増強された前記電場により蛍光物質を励起させる反応部と、
蛍光を透過する基材からなり、流路溝が形成された面を前記金属薄膜の面に接合することにより前記反応部を底面として液体を送液する流路を形成した基体と、を有し、
前記基体には、前記反応部を中心として、その周囲を囲み上方に伸びる空洞溝が設けられており、前記空洞溝と前記基体との境界面で前記蛍光を反射可能であることを特徴とするチップ構造体。
【請求項2】
前記空洞溝に囲まれた基体の形状は円柱状又は、上方に広がる円錐台形状であることを特徴とする請求項1に記載のチップ構造体。
【請求項3】
前記空洞溝は、前記流路に貫通していないことを特徴とする、請求項1又は2に記載のチップ構造体。
【請求項4】
前記空洞溝には、前記基材よりも低屈折率の他の基材からなる部材が挿入されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のチップ構造体。
【請求項5】
前記基材は、透明樹脂であり、前記基体は成形により製造されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のチップ構造体。
【請求項6】
表面プラズモン増強蛍光測定装置に用いられるチップ構造体であって、
一方の面に励起光が照射されることにより電場が増強される金属薄膜と、
前記金属薄膜の他方の面側に形成された反応部であって、増強された前記電場により蛍光物質を励起させる反応部と、
蛍光を透過する基材からなり、流路溝が形成された面を前記金属薄膜の面に接合することにより前記反応部を底面として液体を送液する流路を形成した基体と、を有し、
前記基体には、前記反応部を中心として、その上方に空洞溝が設けられており、
前記空洞溝には、円柱状又は円錐台形状の集光ロッドが挿入されており、前記集光ロッドの側壁で前記蛍光を反射可能であることを特徴とするチップ構造体。
【請求項7】
前記集光ロッドは、光ファイバであることを特徴とする請求項6に記載のチップ構造体。
【請求項8】
表面プラズモン増強蛍光測定装置に用いられるチップ構造体であって、
一方の面に励起光が照射されることにより電場が増強される金属薄膜と、
前記金属薄膜の他方の面側に形成された反応部であって、増強された前記電場により蛍光物質を励起させる反応部と、
蛍光を透過する基材からなり、流路溝が形成された面を前記金属薄膜の面に接合することにより前記反応部を底面として液体を送液する流路を形成した基体と、を有し、
前記基体には、前記反応部を中心として、その上方に空洞溝が設けられており、
前記基体の前記空洞溝に面する表面に鏡面加工が施されていることを特徴とするチップ構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−185698(P2011−185698A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−50330(P2010−50330)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】