説明

チップ駆動装置

【課題】低侵襲で生存率を高く維持したまま、細胞に物質を高効率で導入すること。
【解決手段】可撓性を有するレバー部に対して所定の角度でディッシュ14内の細胞70方向に形成されたチップ部を所定の角度に保持しつつ、チップ部を上記細胞70の方向に移動可能なチップ駆動装置において、上記チップ部を形成した上記レバー部を取付けたシャフト56が該チップ駆動装置の装置本体を装着した倒立顕微鏡のコンデンサレンズ26に接触するのを回避(第1の要件)、上記レバー部の先端を確認するためのレバー部確認領域66を確保(第2の要件)、上記シャフト56がディッシュ側壁68に接触するのを回避(第3の要件)、及び、上記ディッシュ14が上記チップ部に対して相対移動するディッシュ可動領域72を確保(第4の要件)、の4つの要件を満たすように、上記シャフト56を設置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チップ駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、微細針先端に遺伝子等の導入物質を電気的に吸着させ、この微細針を細胞内に侵入させて、この微細針にパルス電圧を印加することにより、細胞内に導入物質を導入するマイクロインジェクション方法及び装置が開示されている。ここで、微細針の侵入は、微細針と同軸に伸縮する圧電素子を用いて微動することにより行うようになっている。
【特許文献1】WO04/092369号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1は、微細針先端部に遺伝子を保持する方式であり、細胞に対して低侵襲で遺伝子を導入することが可能で、高い生存率を得ることができる。
【0004】
しかしながら、カンチレバー先端の微細針の細胞内への侵入容積は微小であり、また、細胞膜が流動性を有しているために、微細針の先端が細胞内に侵入したと思われる位置までカンチレバーを移動させても、細胞膜が流動的に針部の表面を覆ってしまい、細胞膜を貫通させることができない場合がある。このため、チップ駆動が安定せず、良好な導入率を得ることができないという不都合がある。
【0005】
また、上記特許文献1の構成では、微細針に通電することで細胞に電気的な刺激を与えて、生きたままの細胞を効率良く観察することもできなかった。
【0006】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたもので、低侵襲で生存率を高く維持したまま、細胞に物質を高効率で導入し、又は、細胞に電気的な刺激を与え、生細胞を効率良く観察することができる、チップ駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のチップ駆動装置の一態様は、可撓性を有する支持部に対して所定の角度で対象物方向に形成されたチップ部を所定の角度に保持しつつ、チップ部を対象物の方向に移動可能なチップ駆動装置において、
上記チップ部を形成した上記支持部を取付けたシャフトと、
上記シャフトを、上記チップ部が上記所定の角度を保持しつつ上記対象物の方向に移動させる装置本体と、
を具備し、
上記シャフトが上記装置本体を装着した倒立顕微鏡のコンデンサレンズに接触するのを回避するという第1の要件と、
上記支持部の先端を確認するための領域を確保するという第2の要件と、
上記シャフトが上記対象物を収容するディッシュの側壁に接触するのを回避するという第3の要件と、
上記ディッシュが上記チップ部に対して相対移動する領域を確保するという第4の要件と、
の4つの要件を満たすように、上記シャフトが設置されていることを特徴とする。
また、本発明のチップ駆動装置の別の態様は、可撓性を有する支持部に対して所定の角度で対象物方向に形成されたチップ部を所定の角度に保持しつつ、チップ部を対象物の方向に移動可能なチップ駆動装置において、
上記チップ部を形成した上記支持部を取付けたシャフトと、
上記シャフトを、上記チップ部が上記所定の角度を保持しつつ上記対象物の方向に移動させる装置本体と、
を具備し、
上記装置本体を装着した倒立顕微鏡のコンデンサレンズの下端よりも高い位置では、上記コンデンサレンズが存在する領域を回避するという第1の要件と、
上記コンデンサレンズの下端から上記ディッシュの側壁の上端までの位置では、上記支持部の先端を確認するための領域を回避するという第2の要件と、
上記ディッシュの側壁の上端より低い位置では、上記支持部の先端を確認するための領域と、上記ディッシュが上記チップ部に対して外側に向けて相対移動する際に上記ディッシュの側壁が掃引する領域とを回避するという第3の要件と、
の3つの要件を満たすように、上記シャフトが設置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、低侵襲で生存率を高く維持したまま、細胞に物質を高効率で導入し、又は、細胞に電気的な刺激を与え、生細胞を効率良く観察することができる、チップ駆動装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面を参照して説明する。
【0010】
[第1実施形態]
まず、本発明の第1実施形態に係るチップ駆動装置について、図1乃至図7を参照して説明する。
【0011】
本実施形態に係るチップ駆動装置10は、図1に示すように、細胞を観察するための倒立顕微鏡12に装着して使用される。
【0012】
倒立顕微鏡12は、細胞を収容したディッシュ14上の細胞を照明する照明装置16と、上記ディッシュ14をX方向及びY方向に移動する顕微鏡XYステージ18と、該顕微鏡XYステージ18を駆動する顕微鏡XYステージハンドル20と、細胞において反射あるいは透過した光、あるいは細胞から発生した蛍光を観察するための図示しない対物レンズ及び接眼レンズ22と、を備えている。
【0013】
なお、ディッシュ14は、細胞の観察を行えるよう、少なくともその底面は透明な材料、例えばガラスで形成されている。
【0014】
なお、ここでは、手動操作される倒立顕微鏡12を説明したが、コンピュータにより顕微鏡XYステージ18を駆動制御する電動の倒立形顕微鏡であっても良い。更に、CCDカメラ等を備え、モニタに観察画像を表示するような倒立形顕微鏡でも良い。
【0015】
また、上記照明装置16には、細胞に対して、上記接眼レンズ22とは反対側から照明光を照射する透過照明光源24と、該透過照明光源24から発せられた照明光を細胞に集光するコンデンサレンズ26と、細胞に対して上記接眼レンズ22と同一方向から照明光を照射する落射照明光源28とが備えられている。
【0016】
そして、本実施形態に係るチップ駆動装置10は、装置本体30と、該装置本体30のコンデンサレンズ26への取り付け部である顕微鏡アダプタ32と、上記装置本体30に図示しないケーブルを介して接続され、任意の位置に設置可能な操作モジュール34とから構成されている。図1では、装置本体30を、接眼レンズ22が設けられた側である倒立顕微鏡12の前面側に対し、コンデンサレンズ26の右側に装着した状態を示している。
【0017】
装置本体30は、駆動対象であるチップ部36を備えるニードル38を装着したアダプタ40を取り付けるためのアダプタ保持部42と、該アダプタ保持部42をZ方向に移動することで上記チップ部36をZ方向に移動させるZ駆動部44と、上記アダプタ保持部42をX方向及びY方向に移動することで上記チップ部のXY位置を調整する針先XY調整ノブ46と、を備えている。
【0018】
ここで、アダプタ保持部42には、図2(A)に示すように、Z駆動部44の図示しない直線移動機構に、図示しないXY駆動機構(針先XY調整ノブ46はこの駆動機構によりアダプタ保持部42を駆動する)を介して取り付けるためのZ軸駆動部取付部48とは長手方向反対側に、上記アダプタ40を着脱自在に装着するための装着部材、例えばアダプタ40が金属製ないしは対応する箇所に金属部を設けたものであればマグネット50、が設けられている。なお、図2(A)において、一点鎖線の右側が装置本体30内に収容される部分である。即ち、上記マグネット50は、装置本体30外部となる位置に設けられている。また、このマグネット50の近傍に、アダプタ40の位置決めのために、アダプタ40に設けられた穴や溝に嵌合する嵌合部52が配設されている。嵌合部52は、倒立顕微鏡12の前面側に向けて突出しており、アダプタ40がこの前面側から差し込みにより装着できるようになっている。
【0019】
なお、装置本体30がコンデンサレンズ26の左側に装着された際にもアダプタ40を装着できるように、マグネット50及び嵌合部52をアダプタ保持部42の裏面側にも設けても良い。あるいは、装置本体30の装着位置に応じて、アダプタ保持部42を交換可能に構成しても良い。
【0020】
上記アダプタ40に装着されるニードル38は、図2(B)に示すように、チップ部36を形成したカンチレバーチップ54を、該カンチレバーチップ54を保持するためのシャフト56の先端に接着して構成されている。カンチレバーチップ54は、シリコンプロセスにより製造されるもので、他の部分との接着用のシリコンベース部58と、該シリコンベース部58から延在し、例えば厚み2.7μm、長さ240μmで2N/m程度の弾性定数を持つ可撓性のレバー部60と、該レバー部60の自由端に、該レバー部60の長手方向に対しておおむね90度の角度で形成された上記チップ部36とからなる。
【0021】
本実施形態に係るチップ駆動装置10では、上記ニードル38をアダプタ40に空けられた図示しない穴に挿入・固定し、その後、該ニードル38を装着したアダプタ40を装置本体30に装着するようになっている。こうすることで、基本的に交換品度の高い構成品(消耗品)であるニードル38を交換することができ、コンタミネーションの虞なく、該チップ駆動装置10を繰り返し使用することができる。
【0022】
また、細長いニードル38を装置本体30に直接装着する構成とすると、作業性が悪く、装着作業時にチップ部36が顕微鏡XYステージ18等の倒立顕微鏡12の何処かに当たって破損してしまう虞がある。本実施形態では、装置本体30から取り外したアダプタ40にニードル38を装着した上で、該アダプタ40を装置本体30の前面側から装着するようにしているので、そのような破損の虞を少なくすることができる。
【0023】
なお、アダプタ40は、装置本体30に装着された際に、ニードル38のシャフト56を所定の角度で斜め下方に向けて保持するように構成されており、また、カンチレバーチップ54はこのシャフト56に対して所定の角度となるように接着されている。また、上記したようにチップ部36は、レバー部60の長手方向に対して交差する方向に延びるように設けられている。従って、アダプタ40が装置本体30に装着された状態では、チップ部36は、レバー部60の自由端において、先端をほぼ鉛直下方に向けて保持されることとなる。
【0024】
ここで、上記アダプタ40がシャフト56を保持した状態で、シャフト56が設置可能な領域について、図3及び図4(A)乃至(C)を参照して説明する。なお、図4(A)は、図3中のA−A線矢視断面図であり、図4(B)は、図3中のB−B線矢視断面図であり、図4(C)は、図3中のC−C線矢視断面図である。
【0025】
まず、上記アダプタ40がシャフト56を固定角度で保持する際、シャフト56を起き上げ過ぎると、コンデンサレンズ26に干渉してしまう。従って、シャフト設置可能領域62は、シャフト56がコンデンサレンズ26に接触するのを回避する領域にしなければならない(要件1)。これは、コンデンサレンズ26の下端に相当するZより上方では、コンデンサレンズ26の存在領域する領域を回避しなければならないということである。即ち、図4(C)にハッチングして示す領域を回避するように、シャフト設置可能領域62は、コンデンサレンズ境界64より装置本体30側となる。なお、コンデンサレンズ26は、様々なWD(作業距離)や外径を有するコンデンサレンズの中から用途に応じて適宜選択することが可能であり、例えば、超長作動距離型のコンデンサレンズ(WDが約45mm、最下面における外径が約56mm)を用いることが可能である。
【0026】
また、レバー部60先端を確認するための領域を確保しなければならない(要件2)。これは、シャフト設置可能領域62は、シャフト56がコンデンサレンズ26から出射される照明光を遮る領域(シャフト56の存在によってコンデンサレンズ26のNAを著しく低下させないようにする必要がある領域(シャフト56がこの領域に存在することを完全に排除するものではない))を回避する領域にしなければならないということである。従って、コンデンサレンズ26の下端に相当するZより下方(Zからディッシュ14の底面に相当するZまで)では、図3にハッチングして示すようなレバー部確認領域66を回避しなければならない。即ち、シャフト設置可能領域62は、図4(B)にハッチングして示すレバー部確認領域66を除いた領域となる。
【0027】
また、上記アダプタ40がシャフト56を固定角度で保持する際、シャフト56を寝かし過ぎると、ディッシュ側壁68に干渉してしまう。従って、シャフト設置可能領域62は、シャフト56がディッシュ側壁68に接触するのを回避する領域としなければならない(要件3)。
【0028】
更に、チップ部36がディッシュ14の中央(初期位置)にある細胞70だけでなく、ディッシュ14内のほぼ全ての細胞70にアクセスできることが好ましい。従って、ディッシュ14がチップ部36に対して相対移動する領域を確保しなければならない(要件4)。本実施形態の場合、ディッシュ14に対するチップ部36の相対移動は、ディッシュ14の中央から装置本体30とは反対側に向かう方向に沿ってディッシュ14の半径Rの分だけ可能となっていれば良い。これは、ディッシュ14を任意に回転させることでディッシュ14の底面の任意の領域に対してアクセス可能となるからである。
【0029】
上記要件3及び要件4より、シャフト設置可能領域62は、図3にハッチングして示すような、ディッシュ14がチップ部36に対して外側に向けて相対移動する際にディッシュ側壁68が掃引する領域であるディッシュ可動領域72を回避する領域となる。このディッシュ可動領域72は、ディッシュ14の半径Rとディッシュ側壁68の側壁高Hにより決まる領域である。即ち、シャフト設置可能領域62は、上記ディッシュ側壁68の側壁高Hに相当するZより下方(Zからディッシュ14の底面に相当するZまで)では、上記ディッシュ可動領域72を回避しなければならない。従って、シャフト設置可能領域62は、図4(A)にハッチングして示す上記レバー部確認領域66とディッシュ可動領域72とを除いた領域となる。
【0030】
なお、シャフト設置可能領域62は、シャフト56の先端にカンチレバーチップ54が取付けられるので、ディッシュ14内では、ディッシュ14の底面に相当するZよりも、カンチレバーチップ54の高さ分だけ狭くなることは言うまでもない。
【0031】
シャフト56は、上記要件1乃至要件4を満たすようなシャフト設置可能領域62に設置されなければならない。
【0032】
シャフト56がアダプタ40側からチップ部36側に至るまで直線形状である場合には、図5に示すように、シャフト角度θは、コンデンサレンズ26の位置及びサイズによって決まる最大角度θと、ディッシュ14の半径R及びディッシュ側壁68の側壁高Hによって決まる最小角度θとの間となる。例えば、シャフト56の長さを約50mm、ディッシュ14として一般に細胞培養で使用される頻度の高い35mmガラスボトムディッシュ(半径Rは約17.5mm、側壁高Hは約11mm)を使用すると、最大角度θは約60度、最小角度θは約30度となる。この場合には、30度乃至60度の中間である45度に設定することが好ましい。アダプタ40によりシャフト56を45度の角度で保持するように設定した場合、上記35mmガラスボトムディッシュのガラス面(φ14mm程度)に対し、コンデンサレンズ26やディッシュ側壁68に干渉することなく作業が行える。なお、このとき、上記ディッシュ可動領域72は、ディッシュ14の中央から装置本体30に向かう方向に沿ってとった断面の大きさが、上記半径Rと側壁高Hで規定されるような領域となる。
【0033】
このように、アダプタ40がシャフト56を保持する固定角度は、上記要件1乃至要件4を満たすように決定している。そして、アダプタ40には、ニードル38のシャフト56を挿入・固定するため図示しない穴が、この固定角度でシャフト56を保持するような角度を持って形成されている。
【0034】
一方、チップ駆動装置10の操作モジュール34は、図1に示すように、Z調整用ハンドル74、速度設定ダイアル76、微調整(上)ボタン78、微調整(下)ボタン80、移動量設定ダイアル82、及びZ値セットボタン84を備えている。
【0035】
ここで、Z調整用ハンドル74及び速度設定ダイアル76は、アダプタ保持部42の粗いZ方向の移動(mm単位)に使用するものである。Z調整用ハンドル74の回転操作により、その回転方向に応じて上記Z駆動部44を用いてアダプタ保持部42がZ方向に駆動され、速度設定ダイアル76は、Z調整用ハンドル74の回転操作に応じた駆動量を大・中・小の3段階で切り替え設定するためのものである。
【0036】
また、微調整ボタン78,80及び移動量設定ダイアル82は、アダプタ保持部42の細かいZ方向の移動(μm単位)に使用するものである。微調整(上)ボタン78又は微調整(下)ボタン80の操作により、そのボタンに応じて上記Z駆動部44を用いてアダプタ保持部42がZ方向に微小駆動され、移動量設定ダイアル82は、1回の微調整ボタン78,80のON操作に応じた微小駆動量を大・中・小の3段階で切り替え設定するためのものである。
【0037】
Z値セットボタン84は、Z方向任意の位置を記憶する指示を行うためのボタンであり、上記Z調整用ハンドル74や上記微調整ボタン78,80を操作しても該Z値セットボタン84により記憶された位置よりも下(ディッシュ14内のサンプルの方向)にはアダプタ保持部42が下降しないようにするものである。なお、このZ値セットボタン84は、図示しないラッチ機構を備えており、操作者が押下操作即ちON操作すると、再度押下操作されるまで、その押下状態即ちON状態を維持する。以降、Z値セットボタン84がOFF状態におけるZ調整用ハンドル74及び微調整ボタン78,80の操作を「第1モード」と呼び、Z値セットボタン84がON状態におけるZ調整用ハンドル74及び微調整ボタン78,80の操作を「第2モード」と呼ぶ。
【0038】
図6は、本実施形態に係るチップ駆動装置10の電気的な構成を示すブロック図である。
装置本体30は、上記Z駆動部44に加えて、アダプタ保持部42の位置を検出するための位置検出部86を備えている。この位置検出部86としては、アダプタ保持部42の位置を、光学的に直接検出するものであっても良いし、Z駆動部44の駆動量を検出することで間接的に検出するものであっても良い。また、位置検出部86を、装置本体30とは別体に設けても構わない。
【0039】
操作モジュール34は、入力部88、記憶部90、判定部92、表示灯94、制御部96、及び電源98を備えている。
【0040】
入力部88は、上記Z調整用ハンドル74及び上記微調整ボタン78,80のON操作に応じて移動指示信号を出力する移動指示部88Aと、上記速度設定ダイアル76によって設定された移動速度を示す速度設定信号を出力する速度設定部88Bと、上記移動量設定ダイアル82によって設定された移動量を示す移動量設定信号を出力する移動量設定部88Cと、上記Z値セットボタン84のON操作に応じてZ値セット信号を出力するZ値セット部88Dとを含む。この入力部88から出力される各信号は、制御部96に入力される。
【0041】
記憶部90は、上記Z値セットボタン84がON操作されたときの、上記位置検出部86で検出されたアダプタ保持部42の位置をZ値として記憶するものである。判定部92は、上記位置検出部86で検出したアダプタ保持部42の位置と記憶部90に記憶されているZ値とを比較して、アダプタ保持部42が上記Z値の位置に到達したか否かを判定するものである。表示灯94は、上記Z値セット部88Dからの上記Z値セット信号に応じて点灯するものであり、操作者は該表示灯94の点灯によりZ値の記憶を確認できるようにしている。
【0042】
制御部96は、該チップ駆動装置10の全体を制御するものである。そして、電源98は、該チップ駆動装置10の各部を動作させる電力を供給するものである。
【0043】
以下、このように構成された本実施形態に係るチップ駆動装置10を用いたチップ駆動方法について説明する。
【0044】
ここでは、本実施形態に係るチップ駆動装置10を用いて、ディッシュ14内の培養液中で培養される細胞に物質を導入する場合を例に説明する。
【0045】
即ち、図7に示すように、まず、装置本体30の取付けサイドを選択して、コンデンサレンズ26に顕微鏡アダプタ32を介して装着する(ステップS10)。
【0046】
次に、装置本体30から取り外されているアダプタ40に、ニードル38を差し込み装着する(ステップS12)。そして、そのニードル38が装着されたアダプタ40を、倒立顕微鏡12の前面側から、装置本体30のアダプタ保持部42に装着する(ステップS14)。
【0047】
その後、チップ位置決めを行う(ステップS16)。即ち、接眼レンズ22で観察しながら装置本体30の針先XY調整ノブ46と操作モジュール34のZ調整用ハンドル74を操作して、目視により、ニードル38の先端に形成されているチップ部36の位置を、図示しない対物レンズの中央位置(視野中央位置)に設定する。これは、顕微鏡XYステージ18にディッシュ14を載置せずに行う。なお、Z方向に関しては、操作モジュール34の速度設定ダイアル76を大又は中にセットして、Z調整用ハンドル74の操作により、視野にカンチレバーチップ54のレバー部60が目視で確認できるところまで、チップ部36の下降動作を行う。
【0048】
こうしてチップ位置決めがなされたならば、次に、サンプルのセット、即ち、顕微鏡XYステージ18上へのディッシュ14の載置を行う(ステップS18)。これは、操作モジュール34のZ調整用ハンドル74を操作してニードル38先端のチップ部36を安全な領域(Z方向上側)に退避し、かつ、倒立顕微鏡12の支柱100を後ろ側に倒し(装置本体30全体が移動)、サンプルセットのスペースを確保した上で、ディッシュ14(サンプル)を顕微鏡XYステージに載置し、その後に倒立顕微鏡12の支柱100を元に戻すというようにして実施する。なお、ディッシュ14(サンプル)は、当該ディッシュ14内の培養液中で培養される細胞に物質を導入するために、その導入しようとする物質を分散させた状態でセットされる。
【0049】
そして、導入対象の細胞を選択する(ステップS20)。これは、まず、接眼レンズ22で観察しながら、顕微鏡XYステージハンドル20を操作することで、顕微鏡XYステージ18を作動させ、ディッシュ14内の観察したい細胞を顕微鏡観察下に配置する。その後、Z駆動部44を作動させ、ニードル38のチップ部36を細胞の上方から細胞に近接させる。即ち、まず、接眼レンズ22で観察しながら視野にカンチレバーチップ54のレバー部60が目視で確認できるところまで、チップ部36のZ方向への下降動作を行う。これは、操作モジュール34の速度設定ダイアル76を小にセットして、Z調整用ハンドル74の操作により行う。ディッシュ14内の細胞とチップ部36とが同じ高さではないので、チップ部36には合焦しておらず、チップ部36を観察することは困難であり、よって、チップ部36よりも大きく合焦していなくても大まかに識別可能なレバー部60を指標としてZ方向への下降動作を行う。そして、視野にレバー部60が目視で確認できるところまで下降させたならば、次に、接眼レンズ22で観察しながら目視で、顕微鏡XYステージのXY方向への調整を行い、導入対象の細胞の真上にチップ部36と思われる位置を設定する。以上のようにして、導入対象の細胞を選択する(決定する)。
【0050】
その後の動作は、操作モジュール34の記憶部90にZ値をセットしているか否かにより異なる。
【0051】
1回目のチップ駆動では、まだ記憶部90にZ値をセットしていないので(ステップS22)、第1モード(Z値なし)でのチップ導入を行う(ステップS24)。即ち、操作モジュール34のZ調整用ハンドル74又は微調整ボタン78,80を操作しながら、接眼レンズ22で観察して、「細胞の歪み」または「レバー部60の撓み」を確認しながら、Z方向の最適位置を決める。このとき、Z調整用ハンドル74の操作は、速度設定ダイアル76の大・中・小でその感度を適宜切り替えながら行うことになる。また、微調整ボタン78,80の操作は、移動量設定ダイアル82の大・中・小でその感度適宜切り替えながら行うことなる。
【0052】
このようにしてチップ部36を下降させディッシュ14の底面へ近づけていき、チップ部36の先端が下降していく途中において、ディッシュ14内の細胞に接触する。ここで、更にチップ部36を下降させていくと、チップ部36の先端が細胞内、即ち、細胞膜及び核に孔または傷をつける。こうして形成された孔または傷に、ディッシュ14内に分散された物質を流通することにより、物質が細胞内に流入する。導入しようとする粒子のサイズ等によっては、孔または傷をつけなくてもチップで細胞を変形させることによる物理的刺激でストレッチレセプター等に結合されたチャンネルが開くことによっても流入する。このとき、操作モジュール34のZ値セットボタン84を押すことで、位置検出部86で検出されるそのときのアダプタ保持部42の位置を最適位置を示すZ値として、記憶部90に記憶させる(ステップS25)。
【0053】
その後、操作モジュール34のZ調整用ハンドル74を操作して、ニードル38を上昇させることで、チップ部36を退避させる(ステップS26)。この際には、操作モジュール34の速度設定ダイアル76を中又は小にセットして、Z調整用ハンドル74の操作により、チップ部36の上昇動作を行う。
【0054】
なお、チップ部36を上昇させてチップ部36を細胞から引き抜いた後は、ある一定時間が経過すると、細胞膜は自己修復により回復し、細胞内に物質が取り込まれた状態となる。
【0055】
以下、任意のサンプル細胞個々に対して物質の導入を繰り返し行う。
即ち、接眼レンズ22で観察しながら、顕微鏡XYステージハンドル20を操作することで、顕微鏡XYステージ18を作動させ、導入対象の細胞の真上にチップ部36を設定する。つまり、導入対象の細胞を選択する(ステップS20)。
【0056】
2回目からのチップ駆動では、記憶部90にZ値をセットしているので(ステップS22)、第2モード(Z値セットあり)でのチップ導入動作を実施することになる(ステップS28)。この場合には、Z値が記憶部90にセットされているので、水平方向を位置決めした後は、Z調整用ハンドル74及び微調整ボタン76、78による行き過ぎた操作を気にせずに、チップ部36を十分下降させる操作をするだけで、最適位置まで下降させることができる。即ち、操作モジュール34の判定部92が位置検出部86で検出したアダプタ保持部42の位置と記憶部90にセットされているZ値とを比較して、アダプタ保持部42(チップ部36)が上記Z値の位置に到達したと判定したならば、操作モジュール34の制御部96は、Z調整用ハンドル74及び微調整ボタン76、78が操作されても、それ以上Z駆動部44が下降しないように制御することができる。
【0057】
なお、最適Z位置が記憶部90にセットされているので、その位置まで自動でアダプタ保持部42(チップ部36)が下降するようにしても良い。即ち、第2モードでのハンドル操作を自動化しても良い。
【0058】
また、手動操作型の倒立顕微鏡12ではなく、コンピュータにより顕微鏡XYステージ18を駆動制御すると共に、CCDカメラ等を備え、モニタに観察画像を表示するような電動型の倒立形顕微鏡においては、物質の導入が必要な細胞を予め画像上で選択しておき、自動でその位置まで移動するようにしても良い。即ち、顕微鏡XYステージ18のXY方向への調整を自動化しても良い。
【0059】
なお、細胞内に導入する物質としては、遺伝子、色素、量子ドットなどの蛍光試薬、イオン、ペプチド、タンパク質、多糖類、等、ディッシュ14内に分散できるものであれば良い。
【0060】
[実施例]
HelaS3細胞を遺伝子溶液中に浸漬し、導入を試みた例を示す、導入した遺伝子は、GFP蛍光タンパク質を発現する遺伝子であり、導入の正否は蛍光観察により確認することができる。
【0061】
図8(A)は、遺伝子導入直後の導入を試みた細胞の顕微鏡観察像を示す。観察画像中の複数の細胞を選定し導入を試みている。図8(B)及び(C)は、導入24時間経過後に導入の成否を確認した顕微鏡観察像である。図8(B)は、位相差観察像であり、24時間経過後の細胞の状態を示している。図8(C)は、この細胞を蛍光観察により観察したものであり、導入が成功した細胞では、遺伝子が発現し強い蛍光強度が得られている。この結果より、非常に効率良く、細胞に遺伝子が導入されていることが確認できる。
【0062】
以上のようにして、本実施形態に係るチップ駆動装置10では、ディッシュ14上の多くの細胞70にアクセス可能であるので、従来と同様に低侵襲で生存率は高いまま、更に、導入物質を細胞内に確実且つ高い導入効率で導入することができる。
【0063】
また、本実施形態に係るチップ駆動装置10では、チップ部36とディッシュ14とを相対的に移動させることで、ディッシュ14の全領域をカバーすることが可能である。
【0064】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態に係るチップ駆動装置について、図9を参照して説明する。図9は、本実施形態に係るチップ駆動装置の特徴部の構成を示す図である。
【0065】
上記第1実施形態では、アダプタ40側からチップ部36側に至るまで直線形状のシャフト56を用いたが、本実施形態では、アダプタ40側の第1のシャフト部102と、チップ部36側の第2のシャフト部104と、これら第1のシャフト部102と第2のシャフト部104とを少なくとも1回は屈折して連結する接続部106と、を備える非直線形状のシャフト56を用いるものである。
【0066】
この場合、上記要件1乃至要件4を満たすために、上記第1のシャフト部102のXY平面(ディッシュ14の載置面)に対する角度である第1の角度θは、上記第2のシャフト部104のXY平面に対する角度である第2の角度θよりも大きいことが必要となる。また、第1のシャフト部102は、細胞70の照明に寄与する領域である有効照明領域108外となるように構成することが望ましい。
【0067】
このような、本第2実施形態に係るチップ駆動装置によれば、上記第1実施形態と同様に、従来と同様に低侵襲で生存率は高いまま、更に、導入物質を細胞内に確実且つ高い導入効率で導入することができる。
【0068】
また、第1のシャフト部102が有効照明領域108の外にあるので、該第1のシャフト部102によるコンデンサレンズ26から出射される照明光のけられを防止できる。即ち、コンデンサレンズ26に近い位置に在れば在るほどけられる照明光が多くなり、遠い位置に在れば在るほどけられる照明光が少なくなる。コンデンサレンズ26に近い領域となってしまう第1のシャフト部102を有効照明領域108外とすることで、細胞の照明に与える影響を少なくすることができる。
【0069】
なお、第1のシャフト部102と第2のシャフト部104とを屈折して連結する接続部106は、図9に示すように1回の屈折に限るものではなく、図10に示すように2回、あるいはそれ以上屈折しても良い。
【0070】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態に係るチップ駆動装置について、図11を参照して説明する。図11は、本実施形態に係るチップ駆動装置の特徴部の構成を示す図である。
【0071】
本実施形態においては、上記第2実施形態とは逆に、上記第1のシャフト部102のXY平面に対する角度である第1の角度θが、上記第2のシャフト部104のXY平面に対する角度である第2の角度θよりも小さくなるように構成したものである。この場合、第2のシャフト部104は、ディッシュ側壁68の側壁高Hよりも高い位置まで延伸する長さを持つことが好ましい。
【0072】
このような、本第3実施形態に係るチップ駆動装置でも、上記第1実施形態と同様に、従来と同様に低侵襲で生存率は高いまま、更に、導入物質を細胞内に確実且つ高い導入効率で導入することができる。
【0073】
また、本実施形態では、ディッシュ14とシャフト56とが半径2R以下の領域を相対移動できるものとしている。これにより、ディッシュ14を回転しない状態におけるディッシュ14の底面へのアクセス領域がより広がることになる。
【0074】
なお、第1のシャフト部102と第2のシャフト部104とを屈折して連結する接続部106は、図11に示すように1回の屈折に限るものではなく、図12に示すように2回、あるいはそれ以上屈折しても良い。
【0075】
[第4実施形態]
次に、本発明の第4実施形態に係るチップ駆動装置について、図13(A)及び(B)を参照して説明する。図13(A)及び(B)は、本実施形態に係るチップ駆動装置におけるニードル38の先端部分を示す側面図及び平面図である。
【0076】
上記第1乃至第3実施形態のようにシャフト56が細い棒状に構成されることでコンデンサレンズ26からの照明のけられは少なくなるが、シャフト56は棒状に限定されるものではなく、薄板状のものであっても、同様の効果が得られる。
【0077】
[第5実施形態]
次に、本発明の第5実施形態に係るチップ駆動装置について説明する。
【0078】
上記第1乃至第4実施形態では、倒立顕微鏡12にチップ駆動装置10を一つだけ装着して使用する例を説明したが、チップ駆動装置10は同時に複数用いても良く、例えば、装置本体30をコンデンサレンズ26の両側に装着して使用することができる。
【0079】
このようにチップ駆動装置10を複数使用することで、物質の導入の用途だけでなく、例えば、複数のチップ部36の間に電位差を与えることで細胞に電気的な刺激を与える用途にも利用できる。なお、上記電気的な刺激は、複数のチップ部36を用いることに限定されるものではなく、1つのチップ部36と図示しない所定の電極(例えばITO付きガラスボトム等)の間に電位差を与えることでも可能である。このような場合、チップ部36は導電性を有していることが好ましい。
【0080】
これにより本実施形態では、低侵襲で生存率を高く維持したまま、細胞に電気的な刺激を与え、生細胞を効率良く観察することができるようになる。
【0081】
以上実施形態に基づいて本発明を説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形や応用が可能なことは勿論である。
【0082】
(付記)
前記の具体的実施形態から、以下のような構成の発明を抽出することができる。
【0083】
(1) 可撓性を有する支持部に対して所定の角度で対象物方向に形成されたチップ部を所定の角度に保持しつつ、チップ部を対象物の方向に移動可能なチップ駆動装置において、
上記チップ部を形成した上記支持部を取付けたシャフトと、
上記シャフトを、上記チップ部が上記所定の角度を保持しつつ上記対象物の方向に移動させる装置本体と、
を具備し、
上記シャフトが上記装置本体を装着した倒立顕微鏡のコンデンサレンズに接触するのを回避するという第1の要件と、
上記支持部の先端を確認するための領域を確保するという第2の要件と、
上記シャフトが上記対象物を収容するディッシュの側壁に接触するのを回避するという第3の要件と、
上記ディッシュが上記チップ部に対して相対移動する領域を確保するという第4の要件と、
の4つの要件を満たすように、上記シャフトが設置されていることを特徴とするチップ駆動装置。
【0084】
(対応する実施形態)
この(1)に記載のチップ駆動装置に関する実施形態は、第1乃至第5実施形態が対応する。それらの実施形態において、レバー部60が上記可撓性を有する支持部に、細胞70が上記対象物に、チップ部36が上記チップ部に、チップ駆動装置10が上記チップ駆動装置に、シャフト56が上記シャフトに、装置本体30が上記装置本体に、倒立顕微鏡12が上記倒立顕微鏡に、コンデンサレンズ26が上記コンデンサレンズに、レバー部確認領域66が上記支持部の先端を確認するための領域に、ディッシュ14が上記ディッシュに、ディッシュ側壁68が上記ディッシュの側壁に、ディッシュ可動領域72が上記ディッシュが上記チップ部に対して相対移動する領域に、それぞれ対応する。
【0085】
(作用効果)
この(1)に記載のチップ駆動装置によれば、ディッシュ上の多くの対象物(細胞)にアクセス可能であるので、低侵襲で生存率を高く維持したまま、細胞に物質を高効率で導入し、又は、細胞に電気的な刺激を与え、生細胞を効率良く観察することができる。
【0086】
また、チップ部とディッシュとを相対的に移動させることで、ディッシュの全領域をカバーすることが可能である。
【0087】
(2) 可撓性を有する支持部に対して所定の角度で対象物方向に形成されたチップ部を所定の角度に保持しつつ、チップ部を対象物の方向に移動可能なチップ駆動装置において、
上記チップ部を形成した上記支持部を取付けたシャフトと、
上記シャフトを、上記チップ部が上記所定の角度を保持しつつ上記対象物の方向に移動させる装置本体と、
を具備し、
上記装置本体を装着した倒立顕微鏡のコンデンサレンズの下端よりも高い位置では、上記コンデンサレンズが存在する領域を回避するという第1の要件と、
上記コンデンサレンズの下端から上記ディッシュの側壁の上端までの位置では、上記支持部の先端を確認するための領域を回避するという第2の要件と、
上記ディッシュの側壁の上端より低い位置では、上記支持部の先端を確認するための領域と、上記ディッシュが上記チップ部に対して外側に向けて相対移動する際に上記ディッシュの側壁が掃引する領域とを回避するという第3の要件と、
の3つの要件を満たすように、上記シャフトが設置されていることを特徴とするチップ駆動装置。
【0088】
(対応する実施形態)
この(2)に記載のチップ駆動装置に関する実施形態は、第1乃至第5実施形態が対応する。それらの実施形態において、レバー部60が上記可撓性を有する支持部に、細胞70が上記対象物に、チップ部36が上記チップ部に、チップ駆動装置10が上記チップ駆動装置に、シャフト56が上記シャフトに、装置本体30が上記装置本体に、ディッシュ14が上記ディッシュに、倒立顕微鏡12が上記倒立顕微鏡に、コンデンサレンズ26が上記コンデンサレンズに、ディッシュ側壁68が上記ディッシュの側壁に、レバー部確認領域66が上記支持部の先端を確認するための領域に、ディッシュ可動領域72が上記ディッシュの側壁が掃引する領域に、それぞれ対応する。
【0089】
(作用効果)
この(2)に記載のチップ駆動装置によれば、ディッシュ上の多くの対象物(細胞)にアクセス可能であるので、低侵襲で生存率を高く維持したまま、細胞に物質を高効率で導入し、又は、細胞に電気的な刺激を与え、生細胞を効率良く観察することができる。
【0090】
また、チップ部とディッシュとを相対的に移動させることで、ディッシュの全領域をカバーすることが可能である。
【0091】
(3) 上記シャフトは、上記装置本体側の第1のシャフト部と、上記チップ部側の第2のシャフト部と、上記第1のシャフト部と上記第2のシャフト部とを少なくとも1回は屈折して連結する接続部と、を備え、
上記第1のシャフト部の上記ディッシュの設置面に対する角度である第1の角度は、上記第2のシャフト部の上記ディッシュの設置面に対する角度である第2の角度よりも大きい、
ことを特徴とする(1)又は(2)に記載のチップ駆動装置。
【0092】
(対応する実施形態)
この(3)に記載のチップ駆動装置に関する実施形態は、第2、第4及び第5実施形態が対応する。それらの実施形態において、第1のシャフト部102が上記第1のシャフト部に、第2のシャフト部104が上記第2のシャフト部に、接続部106が上記接続部に、第1の角度θが上記第1の角度に、第2の角度θが上記第2の角度に、それぞれ対応する。
【0093】
(作用効果)
この(3)に記載のチップ駆動装置によれば、シャフトとして折れ曲がったものを使用できる。
【0094】
(4) 上記第1のシャフト部は、細胞の照明に寄与する有効照明領域外にあることを特徴とする(3)に記載のチップ駆動装置。
【0095】
(対応する実施形態)
この(4)に記載のチップ駆動装置に関する実施形態は、第2、第4及び第5実施形態が対応する。それらの実施形態において、有効照明領域108が上記有効照明領域に対応する。
【0096】
(作用効果)
この(4)に記載のチップ駆動装置によれば、照明光のシャフトによるけられを防止できる。
【0097】
(5) 上記シャフトは、上記装置本体側の第1のシャフト部と、上記チップ部側の第2のシャフト部と、上記第1のシャフト部と上記第2のシャフト部とを少なくとも1回は屈折して連結する接続部と、を備え、
上記第1のシャフト部の上記ディッシュの設置面に対する角度である第1の角度は、上記第2のシャフト部の上記ディッシュの設置面に対する角度である第2の角度よりも小さい、
ことを特徴とする(1)又は(2)に記載のチップ駆動装置。
【0098】
(対応する実施形態)
この(5)に記載のチップ駆動装置に関する実施形態は、第3乃至第5実施形態が対応する。それらの実施形態において、第1のシャフト部102が上記第1のシャフト部に、第2のシャフト部104が上記第2のシャフト部に、接続部106が上記接続部に、第1の角度θが上記第1の角度に、第2の角度θが上記第2の角度に、それぞれ対応する。
【0099】
(作用効果)
この(5)に記載のチップ駆動装置によれば、シャフトとして折れ曲がったものを使用できる。
【0100】
(6) 上記ディッシュが上記チップ部に対して相対移動する領域は、上記ディッシュの半径をRとしたとき、半径2R以下であることを特徴とする(5)に記載のチップ駆動装置。
【0101】
(対応する実施形態)
この(6)に記載のチップ駆動装置に関する実施形態は、第3乃至第5実施形態が対応する。
【0102】
(作用効果)
この(6)に記載のチップ駆動装置によれば、ディッシュを回転しない状態におけるディッシュの底面へのアクセス領域がより広がることになる。
【0103】
(7) 上記シャフトは、
上記装置本体側から上記チップ部側に至るまで直線形状であり、
上記コンデンサレンズの位置及びサイズによって決まる最大角度と、上記ディッシュの半径及び側壁の高によって決まる最小角度との間の角度をなすように設置される、
ことを特徴とする(1)又は(2)に記載のチップ駆動装置。
【0104】
(対応する実施形態)
この(7)に記載のチップ駆動装置に関する実施形態は、第1、第4及び第5実施形態が対応する。
【0105】
(作用効果)
この(7)に記載のチップ駆動装置によれば、シャフトを容易に製造できる。
【0106】
(8) 上記第3の要件における、上記ディッシュの側壁が掃引する領域は、上記ディッシュの中央から上記装置本体に向かう方向に沿ってとった断面の大きさが、上記ディッシュの半径Rと側壁高Hで規定される、
ことを特徴とする請求項2に記載のチップ駆動装置。
【0107】
(対応する実施形態)
この(8)に記載のチップ駆動装置に関する実施形態は、第1乃至第4実施形態が対応する。
【0108】
(作用効果)
この(8)に記載のチップ駆動装置によれば、上記ディッシュとして、一般に細胞培養で使用される頻度の高い35mmガラスボトムディッシュを用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】図1は、本発明の第1実施形態に係るチップ駆動装置を示す全体構成図である。
【図2】図2(A)は、第1実施形態に係るチップ駆動装置の特徴部の構成を示す図であり、図2(B)は、ニードルの構成を示す図である。
【図3】図3は、第1実施形態に係るチップ駆動装置におけるシャフトの設置可能領域を説明するための図である。
【図4】図4(A)は、図3中のA−A線矢視断面図であり、図4(B)は、図3中のB−B線矢視断面図であり、図4(C)は、図3中のC−C線矢視断面図である。
【図5】図5は、シャフトが直線形状の場合におけるシャフト角度を説明するための図である。
【図6】図6は、第1実施形態に係るチップ駆動装置の電気的な構成を示すブロック図である。
【図7】図7は、本実施形態に係るチップ駆動装置を用いたチップ駆動方法を説明するためのフローチャートを示す図である。
【図8】図8(A)は、第1実施形態に係るチップ駆動装置によってHelaS3細胞にGFP蛍光タンパク質を発現する遺伝子を導入した直後の顕微鏡画像を示す図であり、図8(B)及び(C)はそれぞれ24時間経過後の位相差観察顕微鏡画像及び蛍光観察による顕微鏡画像を示す図である。
【図9】図9は、本発明の第2実施形態に係るチップ駆動装置におけるシャフト形状を説明するための特徴部を示す図である。
【図10】図10は、第2実施形態におけるシャフトの変形例を示す図である。
【図11】図11は、本発明の第3実施形態に係るチップ駆動装置におけるシャフト形状を説明するための特徴部を示す図である。
【図12】図12は、第3実施形態におけるシャフトの変形例を示す図である。
【図13】図13(A)及び図13(B)は、本発明の第4実施形態に係るチップ駆動装置におけるニードルの先端部分を示す側面図及び平面図である。
【符号の説明】
【0110】
10…チップ駆動装置、 12…倒立顕微鏡、 14…ディッシュ、 16…照明装置、 18…顕微鏡XYステージ、 20…顕微鏡XYステージハンドル、 22…接眼レンズ、 24…透過照明光源、 26…コンデンサレンズ、 28…落射照明光源、 30…装置本体、 32…顕微鏡アダプタ、 34…操作モジュール、 36…チップ部、 38…ニードル、 40…アダプタ、 42…アダプタ保持部、 44…Z駆動部、 46…針先XY調整ノブ、 48…Z軸駆動部取付部、 50…マグネット、 52…嵌合部、 54…カンチレバーチップ、 56…シャフト、 58…シリコンベース部、 60…レバー部、 62…可動範囲、 64…コンデンサレンズ境界、 66…レバー部確認領域、 68…ディッシュ側壁、 70…細胞、 72…ディッシュ可動領域、 74…Z調整用ハンドル、 76…速度設定ダイアル、 78…微調整(上)ボタン、 80…微調整(下)ボタン、 82…移動量設定ダイアル、 84…Z値セットボタン、 86…位置検出部、 88…入力部、 88A…移動指示部、 88B…速度設定部、 88C…移動量設定部、 88D…Z値セット部、 90…記憶部、 92…判定部、 94…表示灯、 96…制御部、 98…電源、 100…支柱、 102…第1のシャフト部、 104…第2のシャフト部、 106…接続部、 108…有効照明領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有する支持部に対して所定の角度で対象物方向に形成されたチップ部を所定の角度に保持しつつ、チップ部を対象物の方向に移動可能なチップ駆動装置において、
上記チップ部を形成した上記支持部を取付けたシャフトと、
上記シャフトを、上記チップ部が上記所定の角度を保持しつつ上記対象物の方向に移動させる装置本体と、
を具備し、
上記シャフトが上記装置本体を装着した倒立顕微鏡のコンデンサレンズに接触するのを回避するという第1の要件と、
上記支持部の先端を確認するための領域を確保するという第2の要件と、
上記シャフトが上記対象物を収容するディッシュの側壁に接触するのを回避するという第3の要件と、
上記ディッシュが上記チップ部に対して相対移動する領域を確保するという第4の要件と、
の4つの要件を満たすように、上記シャフトが設置されていることを特徴とするチップ駆動装置。
【請求項2】
可撓性を有する支持部に対して所定の角度で対象物方向に形成されたチップ部を所定の角度に保持しつつ、チップ部を対象物の方向に移動可能なチップ駆動装置において、
上記チップ部を形成した上記支持部を取付けたシャフトと、
上記シャフトを、上記チップ部が上記所定の角度を保持しつつ上記対象物の方向に移動させる装置本体と、
を具備し、
上記装置本体を装着した倒立顕微鏡のコンデンサレンズの下端よりも高い位置では、上記コンデンサレンズが存在する領域を回避するという第1の要件と、
上記コンデンサレンズの下端から上記ディッシュの側壁の上端までの位置では、上記支持部の先端を確認するための領域を回避するという第2の要件と、
上記ディッシュの側壁の上端より低い位置では、上記支持部の先端を確認するための領域と、上記ディッシュが上記チップ部に対して外側に向けて相対移動する際に上記ディッシュの側壁が掃引する領域とを回避するという第3の要件と、
の3つの要件を満たすように、上記シャフトが設置されていることを特徴とするチップ駆動装置。
【請求項3】
上記シャフトは、上記装置本体側の第1のシャフト部と、上記チップ部側の第2のシャフト部と、上記第1のシャフト部と上記第2のシャフト部とを少なくとも1回は屈折して連結する接続部と、を備え、
上記第1のシャフト部の上記ディッシュの設置面に対する角度である第1の角度は、上記第2のシャフト部の上記ディッシュの設置面に対する角度である第2の角度よりも大きい、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のチップ駆動装置。
【請求項4】
上記第1のシャフト部は、細胞の照明に寄与する有効照明領域外にあることを特徴とする請求項3に記載のチップ駆動装置。
【請求項5】
上記シャフトは、上記装置本体側の第1のシャフト部と、上記チップ部側の第2のシャフト部と、上記第1のシャフト部と上記第2のシャフト部とを少なくとも1回は屈折して連結する接続部と、を備え、
上記第1のシャフト部の上記ディッシュの設置面に対する角度である第1の角度は、上記第2のシャフト部の上記ディッシュの設置面に対する角度である第2の角度よりも小さい、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のチップ駆動装置。
【請求項6】
上記ディッシュが上記チップ部に対して相対移動する領域は、上記ディッシュの半径をRとしたとき、半径2R以下であることを特徴とする請求項5に記載のチップ駆動装置。
【請求項7】
上記シャフトは、
上記装置本体側から上記チップ部側に至るまで直線形状であり、
上記コンデンサレンズの位置及びサイズによって決まる最大角度と、上記ディッシュの半径及び側壁の高によって決まる最小角度との間の角度をなすように設置される、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のチップ駆動装置。
【請求項8】
上記第3の要件における、上記ディッシュの側壁が掃引する領域は、上記ディッシュの中央から上記装置本体に向かう方向に沿ってとった断面の大きさが、上記ディッシュの半径Rと側壁高Hで規定される領域である、
ことを特徴とする請求項2に記載のチップ駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−139865(P2009−139865A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−318891(P2007−318891)
【出願日】平成19年12月10日(2007.12.10)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】