チモシーの品種識別用のSSRマーカープライマー対及び当該プライマーセットを用いたチモシー品種の識別方法
【課題】簡便、迅速かつ正確にチモシーの品種識別を行うためのプライマー対、特定マーカー遺伝子及びその品種識別方法を提供する。
【解決手段】チモシーのゲノム上のSSR領域の両側の塩基配列を用いて設計したプライマー対、該プライマー対を利用して対象となるチモシーをバルクすることで、個体間の遺伝子のばらつきを無くし、品種特異的なSSRをPCRで特異的に増幅させた特定マーカー遺伝子、及び増幅されたマーカー遺伝子断片の長さの違いを検出することで品種の識別を行う品種識別方法。
【効果】従来の形態形質及び出穂期などの品種区別法と比べて、必要とする工程数が少なく、複数個体のバルクDNAをテンプレートDNAとして使用するチモシーの品種識別方法を提供することができる。
【解決手段】チモシーのゲノム上のSSR領域の両側の塩基配列を用いて設計したプライマー対、該プライマー対を利用して対象となるチモシーをバルクすることで、個体間の遺伝子のばらつきを無くし、品種特異的なSSRをPCRで特異的に増幅させた特定マーカー遺伝子、及び増幅されたマーカー遺伝子断片の長さの違いを検出することで品種の識別を行う品種識別方法。
【効果】従来の形態形質及び出穂期などの品種区別法と比べて、必要とする工程数が少なく、複数個体のバルクDNAをテンプレートDNAとして使用するチモシーの品種識別方法を提供することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チモシー11品種を識別するため、特定のSSR領域を増幅させるための遺伝子増幅用プライマーのFプライマー及びRプライマー対及びその利用に関するものであり、更に詳しくは、チモシー11品種を識別することを可能とする、特定のSSR領域を増幅させるための遺伝子増幅用のFプライマー及びRプライマー対、該プライマー対からPCR増幅させた識別対象の遺伝子の特定マーカーの塩基配列、該マーカーを利用してチモシーの品種を識別する方法に関するものである。本発明は、チモシーの品種識別用のSSRプライマー、該プライマーを利用してチモシーのゲノムDNAをPCR増幅させ、その増幅断片のマーカーを比較することで品種を識別することを可能とするチモシー品種の識別方法に関する新技術・新製品を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
チモシー(Phleum pratense L.)は、主に飼料作物として利用される多年生の他殖性のイネ科植物である。先行技術として、主に飼料作物として利用される他殖性のイネ科牧草の品種識別法としては、イタリアンライグラスにおいて、12品種を識別する方法が開発されている(特許文献1参照)。
【0003】
この方法は、イタリアンライグラスのゲノム上のSSR(Simple Sequence Repeats)領域をPCRで増幅させ、増幅された断片の長さの違いを検出することで品種を識別するものである。しかし、チモシーにおいては、このような品種識別法が開発されていない。
【0004】
このため、チモシーの品種識別は、これまで、圃場での特性調査により行われてきた。圃場での特性調査とは、例えば、一検体につき10個体6反復計60個体を栽培し、草丈、出穂月日、草型、葉身長等の形質を調査し、共に栽培した60個体の標準個体と比較して同品種かどうか判定を行う方法である。しかしながら、このような圃場での特性調査は、1)調査のための圃場が必要である、2)調査に多くの労力が必要である、3)調査結果が判明するまでに多くの時間が必要である、等の問題点がある。
【0005】
チモシーにおいて、本発明者らは、SSRマーカーを、ゲノムのSSR濃縮ライブラリーから開発した(非特許文献1)。また、チモシー品種の遺伝的変異について、RAPD(Random Amplified Polymorphic DNA )及びUP−PCR(Universally primed PCR )マーカーによって解析した報告がある(非特許文献2)。ただし、この文献では、品種の識別法としては、説明がなされていない。
【0006】
チモシーは、日本で、一番栽培面積の大きい寒地型牧草で、現在、日本国内で、10数種類の品種が流通している。その中のほとんどは、国内育成品種である。これらの品種は、早晩生及びその他の農業形質をもって区別できるが、DNAレベルの識別では、いまだ報告がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−237180号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Cai HW, Yuyama N, Tamaki H, and Yoshizawa A (2003) Isolation and characterization of simple sequence repeat markers in the hexaploid forage grass timothy (Phleum pratense L.). Theor Appl Genet 107: 1337−1349
【非特許文献2】Guo YD, Yli−mattila T and Pulli S. (2003) Assessment of genetic variation in timothy (Phleum pratense L.) using RAPD and UP−PCR. Hereditas 138: 101−113
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、短期間で、簡便且つ正確にチモシー11品種を識別できる新しい手法を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、チモシーのゲノム上におけるSSR領域の両側の塩基配列を用いて作成したプライマーから増幅される特定マーカーを用いることにより所期の目的を達成し得ることを見出し、更に研究を重ねて、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、労力及び時間が必要な従来の圃場での特性調査に代わり、短期間で、簡便且つ正確にチモシーの品種識別を可能にするPCR用のプライマー対、該プライマー対からPCR増幅させた識別対象の遺伝子の特定マーカー塩基配列、該マーカーを利用したチモシーの品種識別方法を提供することを目的とするものである。
【0011】
本発明は、従来の形質調査の方法より、栽培を要する時間及び季節を制限することなく、幼苗より抽出した複数個体のDNAを混合するバルクDNAをテンプレートDNAとすることにより、時間の短縮を行い、且つ正確なチモシーの品種識別を可能にするPCR用のプライマー対を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)チモシーの品種識別用のプライマーであって、チモシーのゲノム上におけるSSR(Simple Sequence Repeats)領域を増幅させるための遺伝子増幅用プライマー対。
(2)チモシーのゲノム上におけるSSR(Simple Sequence Repeats)領域を増幅させるための遺伝子増幅用プライマーのF(Forward)プライマー及びR(Reverse)プライマーからなる、前記(1)に記載のプライマー対。
(3)チモシーのゲノム上におけるSSR領域の両端の塩基配列を用いて設計した遺伝子増幅用プライマー対であって、配列表の配列番号1〜13のF(Forward)プライマー及び配列番号14〜26のR(Reverse)プライマーを1対とするプライマー対である、前記(1)又は(2)に記載のプライマー対。
(4)前記(2)又は(3)に記載のプライマー対の単数又は複数の組合せからなることを特徴とするチモシーの品種識別用プライマーセット。
(5)チモシーのゲノム上におけるSSR領域を増幅する前記(1)、(2)又は(3)に記載のプライマー対から増幅されるPCR増幅産物からなることを特徴とする特定マーカー遺伝子。
(6)配列表の配列番号27〜39のいずれかの塩基配列を有する、前記(5)に記載の特定マーカー遺伝子。
(7)前記(5)又は(6)に記載の特定マーカー遺伝子を使用し、識別対象のチモシーDNAのPCR増幅の増幅産物の多型を確認することで品種の識別を行うことを特徴とするチモシーの品種識別方法。
(8)前記(5)又は(6)に記載の特定マーカー遺伝子を使用し、識別対象の遺伝子のPCR増幅産物のサイズ又はバンドパターンに基づいて、品種の識別を行うことを特徴とするチモシーの品種識別方法。
(9)対象品種のバルクDNAをテンプレートDNAとして使用したチモシー遺伝子のPCRによる増幅を行い、同時に、数品種の識別を行う、前記(7)又は(8)に記載の方法。
(10)アッケシ、キリタップ、クンプウ、なつさかり、ノサップ、ホクシュウ、シリウス、ホクエイ、ホクセイ、ホライズン、オーロラの11品種からなるチモシー品種を識別する、前記(7)から(9)のいずれかに記載の品種識別方法。
【0013】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、チモシーの品種識別用のプライマーであって、チモシーのゲノム上におけるSSR領域を増幅させるための遺伝子増幅用プライマー対の点に特徴を有するものである。また、本発明は、チモシーの品種識別方法であって、チモシーのゲノム上におけるSSR領域を増幅する上記のプライマーから増幅される特定マーカーを使用し、識別対象のチモシーDNAのPCRによる増幅産物の多型を確認することで、品種の識別を行うことを特徴とするものである。
【0014】
本発明では、チモシーのゲノム上におけるSSR領域の両側の塩基配列を用いて作成したプライマー対から、識別対象のチモシー遺伝子の特定マーカーをPCR増幅し、そのマーカーのサイズ、及びバンドパターン(複数の遺伝子座のバンドの有無による組み合わせ)を確認することで、品種の識別を行う。
【0015】
本発明では、個体単位での解析が不要となるため、対象品種のバルクDNAを使用したチモシー遺伝子のPCRによる増幅を行い、同時に数品種の識別を行う。他殖性であるチモシーは、個体間で遺伝的に異なるが、バルクDNAをテンプレートとして用いることによって、この品種の非特異的な個体間の差異を無くし、且つ効率よく品種の識別が可能となる。
【0016】
本発明により、チモシーの品種を識別するチモシーのSSRマーカーが提供され、単数又は複数のプライマー対を使用した、PCRによる識別対象の遺伝子を増幅させ、そのマーカーのサイズ及びバンドパターンを検証することにより、チモシーのアッケシ、キリタップ、クンプウ、なつさかり、ノサップ、ホクシュウ、シリウス、ホクエイ、ホクセイ、ホライズン、オーロラからなる11品種での品種識別を行うことができる。
【0017】
本発明では、2〜3塩基が高頻度に繰り返された配列からなるSSR領域の両側を挟むように設計した遺伝子増幅用プライマーの13対のプライマー(表1参照)で、単数又は複数のプライマー対を使用し、対象となるチモシー11品種について、PCR増幅を行い、その増幅断片を比較することで、品種を識別する。
【0018】
本発明では、実際の使用時に、バルクDNAをテンプレートとすることを想定し、品種特異的なSSRマーカーを選抜するため対象品種のゲノムDNAを複数個体混合するバルクしたDNAをテンプレートとすることにより、識別を行う。そのため、本発明では、例えば、濃度を一定にしたチモシーのDNAを10個体合わせて、バルクDNAテンプレートとして使用する。
【0019】
本発明で使用されるSSRプライマー対は、プライマー設計ソフトウエア「Primer0.5, ftp://ftp−genome.wi.mit.edu/distribution/software/primer0.5」を使用して作成した。本発明で、チモシーの品種識別に有用なプライマー対の配列を、次の表1に示す。
【0020】
【表1】
【0021】
上記表1の配列のプライマー対の11品種内での増幅型の詳細について説明する。
【0022】
プライマー「b168」は、アッケシ、シリウス及びホクセイを識別するプライマー対で、105bp付近〜175bpの間で、他品種とは異なる増幅パターンを示す(図1参照)。
【0023】
プライマー「b67」は、シリウスを識別するプライマー対で、204bp〜230bp付近で、他品種とは異なる増幅パターンを示す(図2)。
【0024】
プライマー「d56」は、シリウス及びホクシュウを識別するプライマー対で、175bp〜200bpの間で、他品種とは異なる増幅パターンを示す(図3)。
【0025】
プライマー「b227」は、ホクシュウを識別するプライマー対で、175bpの付近で、他品種とは異なる増幅を示す(図4)。
【0026】
プライマー「b195」は、クンプウを識別するプライマー対で、175bp〜200bpの間に、他品種とは異なる増幅を示す(図5)。
【0027】
プライマー「b131」は、ホライズンを識別するプライマー対で、204bp付近で、他品種とは異なる増幅を示す(図6)。
【0028】
プライマー「d6」は、キリタップを識別するプライマー対で、145〜175bpの間で、他品種とは異なる増幅を示す(図7)。
【0029】
プライマー「b189」は、ホクエイを識別するプライマー対で、200bp付近で、他品種とは異なる増幅を示す(図8)。
【0030】
プライマー「b181」は、ホクエイ及びなつさかりを識別するプライマー対で、ホクエイは、145bp付近で、なつさかりは204bp〜230bpの間で、他品種とは異なる増幅を示す(図9)。
【0031】
プライマー「d59」は、ノッサプを識別するプライマー対で、175bp付近で、他品種とは異なる増幅を示す、なお、ホクエイ及びなつさかり両品種では、やや下のところに増幅がある(図10)。
【0032】
プライマー「b317」は、オーロラを識別するプライマー対で、120bp〜145bp付近で、他品種とは異なる増幅を示す(図11)。
【0033】
プライマー「d120」は、ホクセイを識別するプライマー対で、175bp付近で、他品種とは異なる増幅を示す(図12)。
【0034】
プライマー「b197」は、なつさかりを識別するプライマー対で、255bp付近で、他品種とは異なる増幅を示す(図13)。
【0035】
表2にSSRマーカーバルク法によるチモシー品種識別早見表(100個体中に品種特異的なマーカーアレルの個体数)を示す。表中、+は、品種特異的な増幅があることを示し、−は、品種に特定領域に特異的な増幅が見られないことを示す。
【0036】
【表2】
【発明の効果】
【0037】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)本発明により、チモシーの品種を識別するチモシーのSSRマーカーが提供される。
(2)単数又は複数のプライマー対を使用したPCRによる識別対象の遺伝子を増幅させ、そのマーカーのサイズ及びバンドパターンを検証することにより、チモシーの品種識別を行うことができる。
(3)本発明により、アッケシ、キリタップ、クンプウ、なつさかり、ノサップ、ホクシュウ、シリウス、ホクエイ、ホクセイ、ホライズン、オーロラからなる11品種相互での品種識別を行うことができる。
(4)個体単位の解析ではなく、複数個体のDNAを混合するバルクDNAをテンプレートDNAとすることにより、解析時間の短縮及び正確な品種識別が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】実施例におけるb168を用いたPCRの電気泳動の結果を示す。Mは、サイズマーカー(単位はbp)を示し、左から各4レーンは、一組1品種で、それぞれ「アッケシ」「シリウス」「ホクシュウ」「クンプウ」「ホライズン」「キリタップ」「ホクエイ」「ノサップ」「オーロラ」「ホクセイ」「クライマックス」(本発明の識別品種に含まれていない)及び「なつさかり」を、それぞれ電気泳動した結果を示す。図2−13も同様である。
【図2】実施例におけるb67を用いたPCRの電気泳動の結果を示す。
【図3】実施例におけるd56を用いたPCRの電気泳動の結果を示す。
【図4】実施例におけるb227を用いたPCRの電気泳動の結果を示す。
【図5】実施例におけるb195を用いたPCRの電気泳動の結果を示す。
【図6】実施例におけるb131を用いたPCRの電気泳動の結果を示す。
【図7】実施例におけるd6を用いたPCRの電気泳動の結果を示す。
【図8】実施例におけるb189を用いたPCRの電気泳動の結果を示す。
【図9】実施例におけるd181を用いたPCRの電気泳動の結果を示す。
【図10】実施例におけるd59を用いたPCRの電気泳動の結果を示す。
【図11】実施例におけるb317を用いたPCRの電気泳動の結果を示す。
【図12】実施例におけるb120を用いたPCRの電気泳動の結果を示す。
【図13】実施例におけるb197を用いたPCRの電気泳動の結果を示す。
【図14】本発明の特定のプライマー対を用いてPCR増幅させた識別対象の遺伝子の増幅産物である特定マーカー遺伝子の塩基配列を示す。
【図15】本発明の特定のプライマー対を用いてPCR増幅させた識別対象の遺伝子の増幅産物である特定マーカー遺伝子の塩基配列を示す。
【図16】本発明の特定のプライマー対を用いてPCR増幅させた識別対象の遺伝子の増幅産物である特定マーカー遺伝子の塩基配列を示す。
【図17】本発明の特定のプライマー対を用いてPCR増幅させた識別対象の遺伝子の増幅産物である特定マーカー遺伝子の塩基配列を示す。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0040】
本発明で使用した機器は、以下の通りである。
すなわち、本実施例では、T GRADIENT Themocycler(Biometra)、及び、Gene Amp PCR System 9700(ABI)、DNAシーケンシングシステムLIC−4200L(s)(LICOR社)、を用いた。
【0041】
本発明で使用した試薬は、以下の通りである。
〈50%アクリルアミドゲル〉
アクリルナニドゲルとして、尿素(和光純薬工業株式会社)、Long Ranger Gel solution DNA Sequencing用(タカラバイオ株式会社)、10xTBE buffer、10%APS、TEMED(和光純薬工業株式会社)を用いた。
【0042】
〈PCR反応液〉
PCR反応液として、Gene Taq NT(和光純薬工業株式会社)、1pmol/μl M13 Foward(−29)Primer:IRD700もしくはIRD800の蛍光標識を含む(LICOR社)、色素マーカーとして、50−350bp SIZING STANDARD−BULK(LICOR社)を用いた。本発明では、LICOR社のプロトコールに基づいて、ゲルの作製を行った。
【0043】
国内で育成されたチモシーのアッケシ、キリタップ、クンプウ、なつさかり、ノサップ、ホクシュウ、シリウス、ホクエイ、ホクセイ、ホライズン、オーロラの11品種から、CTAB法を用いて、ゲノムDNAを抽出した。
【0044】
抽出したDNA溶液は、滅菌水でDNA濃度を50ng/μlに調整し、10個体を混合し、バルクにしたものを、PCR用のテンプレートDNAとして用いた。
【0045】
〈PCR反応液:計10μl〉
PCR反応液の調製は、以下の通りとした。
チモシー対象品種から抽出したバルクDNA:1μl
10xGene Taq Universal buffer:1μl
2.5mM dNTP Mixture:0.8μl
ddH2O:6.5μl
Primer Forward(20pmol/ul):0.06μl
Primer Reverse(20pmol/μl):0.3μl
M13Forward(−29)Primer:0.3μl
Gene Taq NT(5 unit/μl):0.1μl
【0046】
〈PCR条件〉
PCR条件は、以下の通りとした。
95℃1分−65℃1分−72℃1分30秒(2サイクル)95℃1分−65℃1分−72℃1分30秒(10サイクル。1サイクルごとに65℃を1℃ずつ下げていく)95℃1分−55℃1分−72℃1分30秒(30サイクル)で反応させた。PCR増幅産物は、色素マーカー5μlを加え、90℃3分のディネーチャーを行った後、遮光し、氷上で1時間以上静置させることで、安定させた後、アクリルアミドゲルを使用して、電気泳動を行い、マーカーの増幅を確認した。
【0047】
チモシーのアッケシ、キリタップ、クンプウ、なつさかり、ノサップ、ホクシュウ、シリウス、ホクエイ、ホクセイ、ホライズン、オーロラの11品種を使用し、「b168」プライマー対を使用し、PCRを行った。
【0048】
アッケシ及びシリウスを増幅パターンで、ある位置では、ほかの品種がそれぞれすべてバンドのでる部分に、バンドの欠如が見られた。それに対して、ホクセイは、ほかの品種と異なる増幅を示した。「b168」プライマー対を用いたPCRの電気泳動の結果を、図1に示す。プライマーである、「b67」、「d56」、「b227」、「b195」、「b131」、「d6」、「b189」、「d181」、「d59」、「b317」、「b120」、「b197」を用いたPCRの電気泳動の結果を、それぞれ図2〜13に示す。
【0049】
本発明の特定のプライマー対を用いて、PCR増幅させた識別対象の遺伝子の増幅産物である特定マーカー遺伝子を、図14〜17に示す。
【産業上の利用可能性】
【0050】
以上詳述したように、本発明は、チモシーの品種識別に有用なSSRプライマー対及びその利用に係るものであり、本発明により、チモシー11品種を特定のSSR領域を増幅させるための遺伝子増幅用プライマーのFプライマー及びRプライマー対を提供することができる。また、本発明により、単数又は複数のプライマー対を使用した、PCRによる識別対象の遺伝子を増幅させた特定マーカー遺伝子を提供することができる。本発明は、そのマーカーのサイズ及びバンドパターンを検証することにより、チモシーの品種識別を行うことを可能とするものである。本発明により、アッケシ、キリタップ、クンプウ、なつさかり、ノサップ、ホクシュウ、シリウス、ホクエイ、ホクセイ、ホライズン、オーロラからなる11品種相互での品種識別を行うことができる。本発明は、短い時間で、正確なチモシーの品種識別を可能にする、新しい品種識別方法を提供するものとして有用である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、チモシー11品種を識別するため、特定のSSR領域を増幅させるための遺伝子増幅用プライマーのFプライマー及びRプライマー対及びその利用に関するものであり、更に詳しくは、チモシー11品種を識別することを可能とする、特定のSSR領域を増幅させるための遺伝子増幅用のFプライマー及びRプライマー対、該プライマー対からPCR増幅させた識別対象の遺伝子の特定マーカーの塩基配列、該マーカーを利用してチモシーの品種を識別する方法に関するものである。本発明は、チモシーの品種識別用のSSRプライマー、該プライマーを利用してチモシーのゲノムDNAをPCR増幅させ、その増幅断片のマーカーを比較することで品種を識別することを可能とするチモシー品種の識別方法に関する新技術・新製品を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
チモシー(Phleum pratense L.)は、主に飼料作物として利用される多年生の他殖性のイネ科植物である。先行技術として、主に飼料作物として利用される他殖性のイネ科牧草の品種識別法としては、イタリアンライグラスにおいて、12品種を識別する方法が開発されている(特許文献1参照)。
【0003】
この方法は、イタリアンライグラスのゲノム上のSSR(Simple Sequence Repeats)領域をPCRで増幅させ、増幅された断片の長さの違いを検出することで品種を識別するものである。しかし、チモシーにおいては、このような品種識別法が開発されていない。
【0004】
このため、チモシーの品種識別は、これまで、圃場での特性調査により行われてきた。圃場での特性調査とは、例えば、一検体につき10個体6反復計60個体を栽培し、草丈、出穂月日、草型、葉身長等の形質を調査し、共に栽培した60個体の標準個体と比較して同品種かどうか判定を行う方法である。しかしながら、このような圃場での特性調査は、1)調査のための圃場が必要である、2)調査に多くの労力が必要である、3)調査結果が判明するまでに多くの時間が必要である、等の問題点がある。
【0005】
チモシーにおいて、本発明者らは、SSRマーカーを、ゲノムのSSR濃縮ライブラリーから開発した(非特許文献1)。また、チモシー品種の遺伝的変異について、RAPD(Random Amplified Polymorphic DNA )及びUP−PCR(Universally primed PCR )マーカーによって解析した報告がある(非特許文献2)。ただし、この文献では、品種の識別法としては、説明がなされていない。
【0006】
チモシーは、日本で、一番栽培面積の大きい寒地型牧草で、現在、日本国内で、10数種類の品種が流通している。その中のほとんどは、国内育成品種である。これらの品種は、早晩生及びその他の農業形質をもって区別できるが、DNAレベルの識別では、いまだ報告がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−237180号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Cai HW, Yuyama N, Tamaki H, and Yoshizawa A (2003) Isolation and characterization of simple sequence repeat markers in the hexaploid forage grass timothy (Phleum pratense L.). Theor Appl Genet 107: 1337−1349
【非特許文献2】Guo YD, Yli−mattila T and Pulli S. (2003) Assessment of genetic variation in timothy (Phleum pratense L.) using RAPD and UP−PCR. Hereditas 138: 101−113
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、短期間で、簡便且つ正確にチモシー11品種を識別できる新しい手法を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、チモシーのゲノム上におけるSSR領域の両側の塩基配列を用いて作成したプライマーから増幅される特定マーカーを用いることにより所期の目的を達成し得ることを見出し、更に研究を重ねて、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、労力及び時間が必要な従来の圃場での特性調査に代わり、短期間で、簡便且つ正確にチモシーの品種識別を可能にするPCR用のプライマー対、該プライマー対からPCR増幅させた識別対象の遺伝子の特定マーカー塩基配列、該マーカーを利用したチモシーの品種識別方法を提供することを目的とするものである。
【0011】
本発明は、従来の形質調査の方法より、栽培を要する時間及び季節を制限することなく、幼苗より抽出した複数個体のDNAを混合するバルクDNAをテンプレートDNAとすることにより、時間の短縮を行い、且つ正確なチモシーの品種識別を可能にするPCR用のプライマー対を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)チモシーの品種識別用のプライマーであって、チモシーのゲノム上におけるSSR(Simple Sequence Repeats)領域を増幅させるための遺伝子増幅用プライマー対。
(2)チモシーのゲノム上におけるSSR(Simple Sequence Repeats)領域を増幅させるための遺伝子増幅用プライマーのF(Forward)プライマー及びR(Reverse)プライマーからなる、前記(1)に記載のプライマー対。
(3)チモシーのゲノム上におけるSSR領域の両端の塩基配列を用いて設計した遺伝子増幅用プライマー対であって、配列表の配列番号1〜13のF(Forward)プライマー及び配列番号14〜26のR(Reverse)プライマーを1対とするプライマー対である、前記(1)又は(2)に記載のプライマー対。
(4)前記(2)又は(3)に記載のプライマー対の単数又は複数の組合せからなることを特徴とするチモシーの品種識別用プライマーセット。
(5)チモシーのゲノム上におけるSSR領域を増幅する前記(1)、(2)又は(3)に記載のプライマー対から増幅されるPCR増幅産物からなることを特徴とする特定マーカー遺伝子。
(6)配列表の配列番号27〜39のいずれかの塩基配列を有する、前記(5)に記載の特定マーカー遺伝子。
(7)前記(5)又は(6)に記載の特定マーカー遺伝子を使用し、識別対象のチモシーDNAのPCR増幅の増幅産物の多型を確認することで品種の識別を行うことを特徴とするチモシーの品種識別方法。
(8)前記(5)又は(6)に記載の特定マーカー遺伝子を使用し、識別対象の遺伝子のPCR増幅産物のサイズ又はバンドパターンに基づいて、品種の識別を行うことを特徴とするチモシーの品種識別方法。
(9)対象品種のバルクDNAをテンプレートDNAとして使用したチモシー遺伝子のPCRによる増幅を行い、同時に、数品種の識別を行う、前記(7)又は(8)に記載の方法。
(10)アッケシ、キリタップ、クンプウ、なつさかり、ノサップ、ホクシュウ、シリウス、ホクエイ、ホクセイ、ホライズン、オーロラの11品種からなるチモシー品種を識別する、前記(7)から(9)のいずれかに記載の品種識別方法。
【0013】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、チモシーの品種識別用のプライマーであって、チモシーのゲノム上におけるSSR領域を増幅させるための遺伝子増幅用プライマー対の点に特徴を有するものである。また、本発明は、チモシーの品種識別方法であって、チモシーのゲノム上におけるSSR領域を増幅する上記のプライマーから増幅される特定マーカーを使用し、識別対象のチモシーDNAのPCRによる増幅産物の多型を確認することで、品種の識別を行うことを特徴とするものである。
【0014】
本発明では、チモシーのゲノム上におけるSSR領域の両側の塩基配列を用いて作成したプライマー対から、識別対象のチモシー遺伝子の特定マーカーをPCR増幅し、そのマーカーのサイズ、及びバンドパターン(複数の遺伝子座のバンドの有無による組み合わせ)を確認することで、品種の識別を行う。
【0015】
本発明では、個体単位での解析が不要となるため、対象品種のバルクDNAを使用したチモシー遺伝子のPCRによる増幅を行い、同時に数品種の識別を行う。他殖性であるチモシーは、個体間で遺伝的に異なるが、バルクDNAをテンプレートとして用いることによって、この品種の非特異的な個体間の差異を無くし、且つ効率よく品種の識別が可能となる。
【0016】
本発明により、チモシーの品種を識別するチモシーのSSRマーカーが提供され、単数又は複数のプライマー対を使用した、PCRによる識別対象の遺伝子を増幅させ、そのマーカーのサイズ及びバンドパターンを検証することにより、チモシーのアッケシ、キリタップ、クンプウ、なつさかり、ノサップ、ホクシュウ、シリウス、ホクエイ、ホクセイ、ホライズン、オーロラからなる11品種での品種識別を行うことができる。
【0017】
本発明では、2〜3塩基が高頻度に繰り返された配列からなるSSR領域の両側を挟むように設計した遺伝子増幅用プライマーの13対のプライマー(表1参照)で、単数又は複数のプライマー対を使用し、対象となるチモシー11品種について、PCR増幅を行い、その増幅断片を比較することで、品種を識別する。
【0018】
本発明では、実際の使用時に、バルクDNAをテンプレートとすることを想定し、品種特異的なSSRマーカーを選抜するため対象品種のゲノムDNAを複数個体混合するバルクしたDNAをテンプレートとすることにより、識別を行う。そのため、本発明では、例えば、濃度を一定にしたチモシーのDNAを10個体合わせて、バルクDNAテンプレートとして使用する。
【0019】
本発明で使用されるSSRプライマー対は、プライマー設計ソフトウエア「Primer0.5, ftp://ftp−genome.wi.mit.edu/distribution/software/primer0.5」を使用して作成した。本発明で、チモシーの品種識別に有用なプライマー対の配列を、次の表1に示す。
【0020】
【表1】
【0021】
上記表1の配列のプライマー対の11品種内での増幅型の詳細について説明する。
【0022】
プライマー「b168」は、アッケシ、シリウス及びホクセイを識別するプライマー対で、105bp付近〜175bpの間で、他品種とは異なる増幅パターンを示す(図1参照)。
【0023】
プライマー「b67」は、シリウスを識別するプライマー対で、204bp〜230bp付近で、他品種とは異なる増幅パターンを示す(図2)。
【0024】
プライマー「d56」は、シリウス及びホクシュウを識別するプライマー対で、175bp〜200bpの間で、他品種とは異なる増幅パターンを示す(図3)。
【0025】
プライマー「b227」は、ホクシュウを識別するプライマー対で、175bpの付近で、他品種とは異なる増幅を示す(図4)。
【0026】
プライマー「b195」は、クンプウを識別するプライマー対で、175bp〜200bpの間に、他品種とは異なる増幅を示す(図5)。
【0027】
プライマー「b131」は、ホライズンを識別するプライマー対で、204bp付近で、他品種とは異なる増幅を示す(図6)。
【0028】
プライマー「d6」は、キリタップを識別するプライマー対で、145〜175bpの間で、他品種とは異なる増幅を示す(図7)。
【0029】
プライマー「b189」は、ホクエイを識別するプライマー対で、200bp付近で、他品種とは異なる増幅を示す(図8)。
【0030】
プライマー「b181」は、ホクエイ及びなつさかりを識別するプライマー対で、ホクエイは、145bp付近で、なつさかりは204bp〜230bpの間で、他品種とは異なる増幅を示す(図9)。
【0031】
プライマー「d59」は、ノッサプを識別するプライマー対で、175bp付近で、他品種とは異なる増幅を示す、なお、ホクエイ及びなつさかり両品種では、やや下のところに増幅がある(図10)。
【0032】
プライマー「b317」は、オーロラを識別するプライマー対で、120bp〜145bp付近で、他品種とは異なる増幅を示す(図11)。
【0033】
プライマー「d120」は、ホクセイを識別するプライマー対で、175bp付近で、他品種とは異なる増幅を示す(図12)。
【0034】
プライマー「b197」は、なつさかりを識別するプライマー対で、255bp付近で、他品種とは異なる増幅を示す(図13)。
【0035】
表2にSSRマーカーバルク法によるチモシー品種識別早見表(100個体中に品種特異的なマーカーアレルの個体数)を示す。表中、+は、品種特異的な増幅があることを示し、−は、品種に特定領域に特異的な増幅が見られないことを示す。
【0036】
【表2】
【発明の効果】
【0037】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)本発明により、チモシーの品種を識別するチモシーのSSRマーカーが提供される。
(2)単数又は複数のプライマー対を使用したPCRによる識別対象の遺伝子を増幅させ、そのマーカーのサイズ及びバンドパターンを検証することにより、チモシーの品種識別を行うことができる。
(3)本発明により、アッケシ、キリタップ、クンプウ、なつさかり、ノサップ、ホクシュウ、シリウス、ホクエイ、ホクセイ、ホライズン、オーロラからなる11品種相互での品種識別を行うことができる。
(4)個体単位の解析ではなく、複数個体のDNAを混合するバルクDNAをテンプレートDNAとすることにより、解析時間の短縮及び正確な品種識別が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】実施例におけるb168を用いたPCRの電気泳動の結果を示す。Mは、サイズマーカー(単位はbp)を示し、左から各4レーンは、一組1品種で、それぞれ「アッケシ」「シリウス」「ホクシュウ」「クンプウ」「ホライズン」「キリタップ」「ホクエイ」「ノサップ」「オーロラ」「ホクセイ」「クライマックス」(本発明の識別品種に含まれていない)及び「なつさかり」を、それぞれ電気泳動した結果を示す。図2−13も同様である。
【図2】実施例におけるb67を用いたPCRの電気泳動の結果を示す。
【図3】実施例におけるd56を用いたPCRの電気泳動の結果を示す。
【図4】実施例におけるb227を用いたPCRの電気泳動の結果を示す。
【図5】実施例におけるb195を用いたPCRの電気泳動の結果を示す。
【図6】実施例におけるb131を用いたPCRの電気泳動の結果を示す。
【図7】実施例におけるd6を用いたPCRの電気泳動の結果を示す。
【図8】実施例におけるb189を用いたPCRの電気泳動の結果を示す。
【図9】実施例におけるd181を用いたPCRの電気泳動の結果を示す。
【図10】実施例におけるd59を用いたPCRの電気泳動の結果を示す。
【図11】実施例におけるb317を用いたPCRの電気泳動の結果を示す。
【図12】実施例におけるb120を用いたPCRの電気泳動の結果を示す。
【図13】実施例におけるb197を用いたPCRの電気泳動の結果を示す。
【図14】本発明の特定のプライマー対を用いてPCR増幅させた識別対象の遺伝子の増幅産物である特定マーカー遺伝子の塩基配列を示す。
【図15】本発明の特定のプライマー対を用いてPCR増幅させた識別対象の遺伝子の増幅産物である特定マーカー遺伝子の塩基配列を示す。
【図16】本発明の特定のプライマー対を用いてPCR増幅させた識別対象の遺伝子の増幅産物である特定マーカー遺伝子の塩基配列を示す。
【図17】本発明の特定のプライマー対を用いてPCR増幅させた識別対象の遺伝子の増幅産物である特定マーカー遺伝子の塩基配列を示す。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0040】
本発明で使用した機器は、以下の通りである。
すなわち、本実施例では、T GRADIENT Themocycler(Biometra)、及び、Gene Amp PCR System 9700(ABI)、DNAシーケンシングシステムLIC−4200L(s)(LICOR社)、を用いた。
【0041】
本発明で使用した試薬は、以下の通りである。
〈50%アクリルアミドゲル〉
アクリルナニドゲルとして、尿素(和光純薬工業株式会社)、Long Ranger Gel solution DNA Sequencing用(タカラバイオ株式会社)、10xTBE buffer、10%APS、TEMED(和光純薬工業株式会社)を用いた。
【0042】
〈PCR反応液〉
PCR反応液として、Gene Taq NT(和光純薬工業株式会社)、1pmol/μl M13 Foward(−29)Primer:IRD700もしくはIRD800の蛍光標識を含む(LICOR社)、色素マーカーとして、50−350bp SIZING STANDARD−BULK(LICOR社)を用いた。本発明では、LICOR社のプロトコールに基づいて、ゲルの作製を行った。
【0043】
国内で育成されたチモシーのアッケシ、キリタップ、クンプウ、なつさかり、ノサップ、ホクシュウ、シリウス、ホクエイ、ホクセイ、ホライズン、オーロラの11品種から、CTAB法を用いて、ゲノムDNAを抽出した。
【0044】
抽出したDNA溶液は、滅菌水でDNA濃度を50ng/μlに調整し、10個体を混合し、バルクにしたものを、PCR用のテンプレートDNAとして用いた。
【0045】
〈PCR反応液:計10μl〉
PCR反応液の調製は、以下の通りとした。
チモシー対象品種から抽出したバルクDNA:1μl
10xGene Taq Universal buffer:1μl
2.5mM dNTP Mixture:0.8μl
ddH2O:6.5μl
Primer Forward(20pmol/ul):0.06μl
Primer Reverse(20pmol/μl):0.3μl
M13Forward(−29)Primer:0.3μl
Gene Taq NT(5 unit/μl):0.1μl
【0046】
〈PCR条件〉
PCR条件は、以下の通りとした。
95℃1分−65℃1分−72℃1分30秒(2サイクル)95℃1分−65℃1分−72℃1分30秒(10サイクル。1サイクルごとに65℃を1℃ずつ下げていく)95℃1分−55℃1分−72℃1分30秒(30サイクル)で反応させた。PCR増幅産物は、色素マーカー5μlを加え、90℃3分のディネーチャーを行った後、遮光し、氷上で1時間以上静置させることで、安定させた後、アクリルアミドゲルを使用して、電気泳動を行い、マーカーの増幅を確認した。
【0047】
チモシーのアッケシ、キリタップ、クンプウ、なつさかり、ノサップ、ホクシュウ、シリウス、ホクエイ、ホクセイ、ホライズン、オーロラの11品種を使用し、「b168」プライマー対を使用し、PCRを行った。
【0048】
アッケシ及びシリウスを増幅パターンで、ある位置では、ほかの品種がそれぞれすべてバンドのでる部分に、バンドの欠如が見られた。それに対して、ホクセイは、ほかの品種と異なる増幅を示した。「b168」プライマー対を用いたPCRの電気泳動の結果を、図1に示す。プライマーである、「b67」、「d56」、「b227」、「b195」、「b131」、「d6」、「b189」、「d181」、「d59」、「b317」、「b120」、「b197」を用いたPCRの電気泳動の結果を、それぞれ図2〜13に示す。
【0049】
本発明の特定のプライマー対を用いて、PCR増幅させた識別対象の遺伝子の増幅産物である特定マーカー遺伝子を、図14〜17に示す。
【産業上の利用可能性】
【0050】
以上詳述したように、本発明は、チモシーの品種識別に有用なSSRプライマー対及びその利用に係るものであり、本発明により、チモシー11品種を特定のSSR領域を増幅させるための遺伝子増幅用プライマーのFプライマー及びRプライマー対を提供することができる。また、本発明により、単数又は複数のプライマー対を使用した、PCRによる識別対象の遺伝子を増幅させた特定マーカー遺伝子を提供することができる。本発明は、そのマーカーのサイズ及びバンドパターンを検証することにより、チモシーの品種識別を行うことを可能とするものである。本発明により、アッケシ、キリタップ、クンプウ、なつさかり、ノサップ、ホクシュウ、シリウス、ホクエイ、ホクセイ、ホライズン、オーロラからなる11品種相互での品種識別を行うことができる。本発明は、短い時間で、正確なチモシーの品種識別を可能にする、新しい品種識別方法を提供するものとして有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チモシーの品種識別用のプライマーであって、チモシーのゲノム上におけるSSR(Simple Sequence Repeats)領域を増幅させるための遺伝子増幅用プライマー対。
【請求項2】
チモシーのゲノム上におけるSSR(Simple Sequence Repeats)領域を増幅させるための遺伝子増幅用プライマーのF(Forward)プライマー及びR(Reverse)プライマーからなる、請求項1に記載のプライマー対。
【請求項3】
チモシーのゲノム上におけるSSR領域の両端の塩基配列を用いて設計した遺伝子増幅用プライマー対であって、配列表の配列番号1〜13のF(Forward)プライマー及び配列番号14〜26のR(Reverse)プライマーを1対とするプライマー対である、請求項1又は2に記載のプライマー対。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のプライマー対の単数又は複数の組合せからなることを特徴とするチモシーの品種識別用プライマーセット。
【請求項5】
チモシーのゲノム上におけるSSR領域を増幅する請求項1、2又は3に記載のプライマー対から増幅されるPCR増幅産物からなることを特徴とする特定マーカー遺伝子。
【請求項6】
配列表の配列番号27〜39のいずれかの塩基配列を有する、請求項5に記載の特定マーカー遺伝子。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の特定マーカー遺伝子を使用し、識別対象のチモシーDNAのPCR増幅の増幅産物の多型を確認することで品種の識別を行うことを特徴とするチモシーの品種識別方法。
【請求項8】
請求項5又は6に記載の特定マーカー遺伝子を使用し、識別対象の遺伝子のPCR増幅産物のサイズ又はバンドパターンに基づいて、品種の識別を行うことを特徴とするチモシーの品種識別方法。
【請求項9】
対象品種のバルクDNAをテンプレートDNAとして使用したチモシー遺伝子のPCRによる増幅を行い、同時に、数品種の識別を行う、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
アッケシ、キリタップ、クンプウ、なつさかり、ノサップ、ホクシュウ、シリウス、ホクエイ、ホクセイ、ホライズン、オーロラの11品種からなるチモシー品種を識別する、請求項7から9のいずれかに記載の品種識別方法。
【請求項1】
チモシーの品種識別用のプライマーであって、チモシーのゲノム上におけるSSR(Simple Sequence Repeats)領域を増幅させるための遺伝子増幅用プライマー対。
【請求項2】
チモシーのゲノム上におけるSSR(Simple Sequence Repeats)領域を増幅させるための遺伝子増幅用プライマーのF(Forward)プライマー及びR(Reverse)プライマーからなる、請求項1に記載のプライマー対。
【請求項3】
チモシーのゲノム上におけるSSR領域の両端の塩基配列を用いて設計した遺伝子増幅用プライマー対であって、配列表の配列番号1〜13のF(Forward)プライマー及び配列番号14〜26のR(Reverse)プライマーを1対とするプライマー対である、請求項1又は2に記載のプライマー対。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のプライマー対の単数又は複数の組合せからなることを特徴とするチモシーの品種識別用プライマーセット。
【請求項5】
チモシーのゲノム上におけるSSR領域を増幅する請求項1、2又は3に記載のプライマー対から増幅されるPCR増幅産物からなることを特徴とする特定マーカー遺伝子。
【請求項6】
配列表の配列番号27〜39のいずれかの塩基配列を有する、請求項5に記載の特定マーカー遺伝子。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の特定マーカー遺伝子を使用し、識別対象のチモシーDNAのPCR増幅の増幅産物の多型を確認することで品種の識別を行うことを特徴とするチモシーの品種識別方法。
【請求項8】
請求項5又は6に記載の特定マーカー遺伝子を使用し、識別対象の遺伝子のPCR増幅産物のサイズ又はバンドパターンに基づいて、品種の識別を行うことを特徴とするチモシーの品種識別方法。
【請求項9】
対象品種のバルクDNAをテンプレートDNAとして使用したチモシー遺伝子のPCRによる増幅を行い、同時に、数品種の識別を行う、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
アッケシ、キリタップ、クンプウ、なつさかり、ノサップ、ホクシュウ、シリウス、ホクエイ、ホクセイ、ホライズン、オーロラの11品種からなるチモシー品種を識別する、請求項7から9のいずれかに記載の品種識別方法。
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図15】
【図16】
【図17】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−211944(P2011−211944A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−82133(P2010−82133)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(501025388)社団法人日本草地畜産種子協会 (11)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(501025388)社団法人日本草地畜産種子協会 (11)
【Fターム(参考)】
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