説明

チューブインオリフィス型ノズルの検査方法および中空糸膜の製造方法および中空糸膜

【課題】中空糸膜の製造において肉厚部の偏りが少ない安全な膜を提供する。
【解決手段】中空糸膜製造用のチューブインオリフィス型ノズルの検査方法であって、該ノズルの外側環状部に25℃での粘度0.89cP以上1011cP以下の流体を、室温にて線速度0.1m/s以上5.0m/s以下で吐出した際に、該ノズルから吐出された流体の曲がりがノズルの中心軸に対して角度12度未満のものを良品として選別するチューブインオリフィス型ノズルの検査方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば血液浄化用の中空糸膜を製造するためのノズルの検査方法および該検査方法により選別されたノズルを用いる中空糸膜の製造方法および中空糸膜に関する。より詳しくは、欠陥や偏肉の発生を抑えた高品質の中空糸膜を得るための方法および該方法により得られる高品質で安全性が高められた中空糸膜に関する。
【背景技術】
【0002】
中空糸膜が肉厚面に偏りを有すると品質上問題があるのみならず、使用時の応力が均一でないために耐久性が下がり、場合によっては使用時に破損する問題がある。そのため偏肉度を向上させることが必要である。
【0003】
従来、複数の口金孔の詰まりを検出する手段として、口金孔に照射された光を電荷結合素子カメラで受光し、孔の詰まりを検査する技術が開示されている。(特許文献1参照)。この方法では、カメラによる受光によって孔のつまりを判断するために、良品と不良品の判断に定量性がない。また口金孔の詰まりが小さいと検出感度が低くなる問題がある。さらに口金孔の内部に屈曲部を有する場合には、検査自体できない。
【特許文献1】特開平7−243831号公報
【0004】
また、偏肉度を向上させる手段として、製膜原液の吐出口であるノズルのスリット幅を厳密に均一にする方法がある。スリット幅とは、製膜原液を吐出する外側環状部の幅を指すが、このスリット幅のばらつきを小さくすることで、紡糸された中空糸膜の偏肉を減らすことができると提案されている。(例えば特許文献2、3参照)。
【特許文献2】特開2005−21510号公報
【特許文献3】特開2005−329127号公報
【0005】
上記技術によって飛躍的に偏肉を減らすことが可能となった。しかしながら、ノズルの種類によっては内部に流路の屈曲部が存在するものや、ノズルを繰り返し紡糸で使用することで紡糸原液中の異物による詰まりが屈曲部の奥まったところで生じることがあり、そのようなノズルを使用すると中空糸膜の品質を低下させるだけでなく、そのような中空糸膜は廃棄処分にせざるを得ず、製造コストの増大にもつながる。
【0006】
すなわち、現在は、ノズルブロックにノズルを装着し、製膜原液をノズルから吐出して中空糸膜を製造してみないと中空糸膜の品質(欠陥、偏肉度)を確認することができないのが現状である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は従来技術の課題を背景になされたものであって、肉厚部の偏りが少ない高品質で高性能、さらに安全性の高い中空糸膜を提供することを目的とする。そして、紡糸前に使用するノズルの洗浄不良や詰まりを確認することを可能とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究した結果、中空糸膜に偏肉が発生するノズルと、ある特定の条件で検査した際の検査液の吐出曲がりには相関関係があることを見出し本発明に至った。
すなわち、本願発明は以下のものである。
(1)本発明は、中空糸膜製造用のチューブインオリフィス型ノズルの検査方法であって、該ノズルの外側環状部に25℃での粘度0.89cP以上1011cP以下の流体を、室温にて線速度0.1m/s以上5.0m/s以下で吐出した際に、該ノズルから吐出された流体の曲がりがノズルの中心軸に対して角度12度未満のものを良品として選別するチューブインオリフィス型ノズルの検査方法である。
(2)また、ノズルの外側環状部の幅が50μm以上400μm以下であることを特徴とするチューブインオリフィス型ノズルの検査方法である。
(3)また、ノズルの外側環状部の外径が200μm以上3000μm以下であることを特徴とするチューブインオリフィス型ノズルの検査方法である。
(4)また、流体が、水、低級アルコール、脂肪族炭化水素、製膜原液の調製に用いる溶剤および非溶剤から選ばれる1種以上であるチューブインオリフィス型ノズルの検査方法である。
(5)また、鉛直上向きまたは下向きに固定されたノズルから流体を吐出して曲がりを測定することを特徴とするチューブインオリフィス型ノズルの検査方法である。
(6)さらに、選別された複数本のチューブインオリフィス型ノズルの外側環状部から紡糸原液を吐出し、内管より中空形成剤を吐出し、凝固、水洗することを特徴とする中空糸膜の製造方法である。
(7)さらに、前記方法により製造されたことを特徴とする中空糸膜である。
【発明の効果】
【0009】
本願発明により、高品質で(肉厚部の偏りが少なく、欠陥のない)、耐圧性の優れた中空糸膜を提供することが可能である。また、実紡糸前に使用するノズルの吐出精度の確認が可能であるため、生産性の向上、保全に役立つ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0011】
本発明において、偏肉度とは、中空糸膜断面を観察した際の膜厚の偏りのことであり、最大値と最小値の比で示す。本発明では、中空糸膜の偏肉度は0.65以上であることが好ましい。偏肉度は高いほうが膜の均一性が増し耐圧性が向上するため好ましい。逆に、偏肉度が低いと血液浄化中に中空糸が破裂したり裂けたりして、血液リークの原因になることがある。したがって、偏肉度は0.78以上がより好ましく、0.90以上がさらに好ましく、0.94以上がさらにより好ましい。
【0012】
本発明において、チューブインオリフィス型ノズルの製膜原液吐出口のスリット幅(外側環状部の幅)は50μm以上400μm以下であることが好ましい。吐出孔のスリット幅が大きすぎると、ノズルから流体が吐出されるまでに流体の流れが緩和してしまい、曲がりとして検出することができないことがある。また、吐出孔のスリット幅が小さすぎると、流路が狭いために、良品と思われるほどのわずかなノズルの異常(わずかな異物、加工精度上のわずかな不良)であっても曲がりが発生してしまうために、良品と不良品とを厳密に選別できない可能性がある。したがって、チューブインオリフィス型ノズルの外側環状部の幅は55μm以上350μm以下がより好ましく、60μm以上300μm以下がさらに好ましく、60μm以上250μm以下がさらにより好ましい。
【0013】
本願発明において、チューブインオリフィス型ノズルの外側環状部の外径は200〜3000μmであることが好ましい。外側環状部の外径が大きすぎると、曲がりが発生しても視覚的に判別できないことがある。また、外側環状部の外径が小さすぎると、吐出された流体が緩衝して曲がりの判別ができないことがある。したがって、外側環状部の外径は220〜2900μmがより好ましく、250〜2800μmがさらに好ましい。
【0014】
本発明において、ノズル検査用の流体としては温度25℃での粘度が0.89cP以上1011cP以下である流体を用いることが好ましい。流体の粘度が高すぎると、流体の勢いが弱まるとか、重力の影響を受けたりして、曲がりとして検出することができないことがある。逆に、流体の粘度が低すぎると、ノズルの外側環状部内で流体の流れの斑が緩和してしまい、曲がりを検出できないことがある。このような流体を用いて、室温にて検査を行うことにより、作業安全性を確保しながら簡便、迅速に検査、選別を行うことができる。前記粘度を有する液体を室温(15〜40℃程度)でノズルより吐出することにより、効率よく正確にノズルの検査を行うことが出来る。
【0015】
本発明において、検査用に用いる流体は、検査温度範囲において液体であり、特定の範囲の粘度を有するものであれば特に限定されないが、水、低級アルコール、脂肪族炭化水素、製膜原液の調製に用いる溶剤および非溶剤から選ばれる1種以上であることが好ましい。検査に用いる流体は、検査後に洗い流す必要があるため、簡便に洗浄が行える流体が好ましい。具体的には、水、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール類、グリセリン類、流動パラフィン、ノナン、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルアセトアミドなどが好ましく用いられる。
【0016】
本発明において、製膜原液吐出口にノズル検査用の流体を線速度5.0m/s以下で供給するのが好ましい。線速度が大きすぎると、流体の勢いが強いために流体の曲がる角度が小さくなり、曲がるはずのものが曲がらなくなる(検出感度が低くなる)おそれがある。したがって、線速度は小さい方が好ましい。逆に、線速度が小さすぎると、ノズルから流体が吐出されるまでに流体の流れが緩和してしまうとか、重力の影響を受けたりして、曲がりとして検出することができないことがある。したがって、流体の線速度は0.5〜5.0m/sがより好ましく、1.0〜5.0m/sがさらに好ましい。
【0017】
本発明において、ノズルから吐出された流体の曲がりがノズルの中心軸方向に対して角度12度未満であることが好ましい。
ノズルの軸方向に対して流体に曲がりが生じるということは、吐出孔内部で流体の流速にばらつきが生じているか、または視覚的に判別できない程度の環状部の偏心や閾部の曲がりがあるためである。このようなノズルを中空糸膜の紡糸に使用すると、流速が大きい部分で膜厚が大きくなり、流速が小さい部分で膜厚が小さくなる傾向にある。それによって偏肉度の低下を引き起こすことにつながる。したがって、ノズルから吐出された流体の曲がりはノズルの中心軸方向に対して、小さいほうが好ましい。
例えば、中空糸膜を血液浄化用に用いる場合、血液浄化用の中空糸膜は一般的に膜厚が10〜50μm程度と薄く、偏肉度が大きすぎると必要な強度が得られないとか、膜性能の偏りが生じるなどの問題が生じることがある。また、このような中空糸膜は血液浄化器作製時に中空糸膜が折れたり切れたりして血液浄化器作製の歩留まりを低下させたり、血液浄化器を作製できたとしても臨床使用中に中空糸膜が破れ血液が漏出するとか、膜厚の薄い部分から有用タンパクが漏れるなどの問題を引き起こす可能性がある。したがって、中空糸膜の偏肉度は高い方がよく、0.75以上がより好ましく、0.85以上がさらに好ましく、0.90以上がさらにより好ましい。
本発明者らが偏肉度と流体曲がりとの関係について調べたところ、図1に示すように、流体曲がりがほぼ12度未満であれば、中空糸膜の偏肉度が概ね0.65以上の範囲に入ることを突き止めたものである。
【0018】
本発明において、鉛直上向きまたは下向きに固定されたチューブインオリフィス型ノズルから流体を吐出して曲がりを測定するのが好ましい。鉛直横向きに流体を吐出させると、重力の影響を受けるためノズルの良品、・不良品に関わらずノズルの吐出軸方向に対して曲がりが生じてしまうので、適切な検査ができない可能性がある。そのため、鉛直上向きまたは下向きに固定された該ノズルから流体を吐出して曲がりを測定するのが好ましい。
【0019】
本発明において、上記した方法により選別されたノズルを用いた中空糸膜の製造方法について以下に説明する。
【0020】
本発明において、中空糸膜の内径は100〜1500μmであることが好ましい。中空糸膜の内径が前記範囲であれば、本発明のノズル選別の効果がより顕著に表れるため好ましい。また、内径が100μm未満の場合には中空糸膜中空部を流れる被処理液(血液など)の圧力損失が大きくなる為、例えば血液を流した時溶血することがある。したがって、中空糸膜の内径は130μm以上がより好ましく、150μm以上がさらに好ましい。逆に、中空糸膜の内径が300μmより大きい場合には中空糸膜中空部を流れる血液の剪断速度が小さく、濾過に伴いタンパク質などが膜の内面に堆積しやすくなる傾向がある。したがって、中空糸膜の内径は280μm以下がより好ましく、260μm以下がさらに好ましい。
【0021】
本発明において、中空糸膜の膜厚は10〜100μmであることが好ましい。中空糸膜の膜厚が前記範囲であれば、本発明の効果がより顕著に表れるため好ましい。また、可紡性や血液浄化器の組立て性向上の面から10〜50μmの範囲にあることがより好ましい。高い透過性能を得るためには10〜30μmがさらに好ましい。
【0022】
ポリマーおよびポリマーに対する溶媒、非溶媒を溶解して製膜溶液を調製し、得られた製膜溶液をチューブインオリフィス型ノズルの外側環状部から吐出すると同時に中心孔より中空形成材を吐出する。ノズルから吐出された製膜溶液は、空中走行部(エアギャップ)を通過させた後、凝固液に浸漬させ製膜溶液の凝固、相分離を行なわせる、いわゆる乾湿式紡糸法で製造することができる。得られた中空糸膜は、過剰の溶媒、非溶媒等を除去するために洗浄工程を経た後、綛等に巻き取る。あるいは、洗浄工程を経た後、さらに中空糸膜に親水化剤や孔径保持剤を含浸させるための液体槽に浸漬させる。このようにして得られた湿潤中空糸膜をドライヤーに通して乾燥し、ボビンにチーズ状に巻き取る。
【0023】
本発明において、中空糸膜の素材としては、再生セルロース、改質セルロース、酢酸セルロースなどのセルロース系ポリマー、ポリメタクリル酸メチル、ビニルアルコール−エチレン共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなどのポリスルホン系ポリマーなどが挙げられるが、タンパク吸着量が少なく、透水性、溶質透過性に優れる点でポリスルホン系ポリマーやセルロース系ポリマーを用いるのが好ましい。高い透水性を得ることができ、溶質分離特性に優れ、生体適合性にも優れることから、セルロースジアセテートやセルローストリアセテートがより好ましい。
【0024】
本発明において、ポリマーに対する溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどが挙げられるが、ポリスルホン系ポリマーやセルロース系ポリマーの凝固および相分離のコントロールのしやすさ、作業安全性、廃棄処理の観点からN−メチル−2−ピロリドン、ジメチルアセトアミドを用いるのが好ましい。
【0025】
また、ポリマーに対する非溶媒としては、グリセリン、エチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール等が好ましく用いられるが、溶媒との相溶性や洗浄除去性、安全性の観点からトリエチレングリコール、ポリエチレングリコールがより好ましい。ポリエチレングリコールとしては分子量200、400のものを用いるのが、室温で液体であり、取り扱い性に優れる点より好ましい。
さらに、製膜溶液には、酸化防止剤や微孔形成剤、ポリビニルピロリドンなどの親水化剤を必要に応じて加えることができる。
【0026】
本発明において用いる中空形成材としては、ポリマーに対して活性のある液体、不活性な液体および気体を用いることができる。活性のある液体としては、ポリマーの溶媒および非溶媒と水との混合液、不活性な液体としては流動パラフィン、ミリスチン酸イソプロピルなど、不活性な気体としては窒素、アルゴンなどを用いることが可能である。中空形成材として活性のある液体を用いると、得られる中空糸膜は不均一構造となりやすく、また不活性な液体および気体を用いると得られる中空糸膜は均一構造となりやすい。
【0027】
エアギャップを通過した製膜溶液は、凝固液槽に浸漬し、凝固および相分離を進行させる。ここで凝固液としては、製膜溶液の調製に用いた溶媒および非溶媒と水との混合液を用いるのが好ましい。凝固液組成により得られる中空糸膜の構造、特性が変化するため、溶媒、非溶媒、水の混合比率は目的とする膜構造、膜特性にあわせて試行錯誤により決定すればよい。本発明において凝固液の調製に用いる溶媒、非溶媒は、製膜溶液の調製に用いたものと同じものを使用することが好ましく、さらに製膜時の経時的な組成変化を抑制するため製膜溶液中の溶媒、非溶媒比と同じにするのが好ましい。
【0028】
洗浄工程は、中空糸膜製膜に用いた溶媒、非溶媒等を除去するためのものであり、洗浄装置の構成や用いる洗浄液については特に限定されるものではない。洗浄液については、溶媒、非溶媒と相溶性のあるものであればよく、水、アルコールなどを用いる事が可能であり、本発明においては洗浄液として、水を用いるのが好ましい。より好ましくは、限外処理した水をさらに逆浸透膜処理した水を用いる。
【0029】
洗浄終了後の中空糸膜は、一旦、必要本数を綛に巻き取り、中空糸膜束の状態で後処理工程を行っても良いし、洗浄終了後、引き続き中空糸膜細孔に孔径保持剤等を含浸させるための工程に導いてもよい。孔径保持剤としては、グリセリンを用いるのが好ましい。グリセリンは医薬品や化粧料の用途として用いられる安全性の高い物質であるが、室温における粘度が高いため、原液のままでは孔径保持剤として使用するのは困難である。したがって、本発明においてはグリセリンを水に溶解したものを100℃以下に加熱した後、中空糸膜と接触させることにより細孔内に含浸するようにしている。溶液中のグリセリン濃度や温度は、中空糸膜の細孔の大きさや数、分布状態によって適宜設定する必要がある。
本発明においては、選別されたノズルを使用し、中空糸膜の膜厚の偏りを抑制しているため、膜厚全体を通してグリセリンの含浸が均一になされるという副次効果も得られる。
【0030】
グリセリン水溶液を含浸させた中空糸膜は、次に乾燥工程にて乾燥される。乾燥温度は40〜120℃が好ましい。ここで、中空糸膜を乾燥させる目的としては、中空糸膜に含まれる水を蒸発させて中空糸膜の軽量化を行うだけでなく、血液浄化器の組立て性の確保(ポッティング剤が水と反応し接着不良を起こすことを防ぐ)、グリセリンの脱落防止(余剰の水を蒸発させることによりグリセリンの流動性を低下させる)、膜構造の固定化(その後の温度変化による細孔の拡大縮小を防ぐ)などが挙げられる。乾燥温度が低過ぎると瞬時に水を蒸発させることができず、グリセリンの脱落を招くことがある。したがって、乾燥温度は45℃以上がより好ましく、50℃以上がさらに好ましい。また、乾燥温度が高過ぎると、グリセリンが熱酸化を起こすことがある。したがって、乾燥温度は115℃以下がより好ましく、110℃以下がさらに好ましい。
本発明においては、選別されたノズルを使用し、中空糸膜の膜厚の偏りを抑制しているため、乾燥工程における乾燥斑を抑えることができるとか、収縮斑を抑えることができるなど品質面、性能面に与える悪影響を排除できる。
【0031】
本発明を適用して得られた中空糸膜は、選別されたノズルを用いているので、ノズルの外側環状部のいずれの部分においても、製膜原液が均一に吐出されている。したがって、エアギャップ部や凝固液層における凝固や相分離に斑がない。凝固や相分離に斑がないという事は、円周方向や長さ方向に膜厚の偏りが少ないだけでなく、膜構造にボイドやピンホールなどの欠陥が非常に少ないということにもつながる。また、細孔径の分布が従来膜に比較して小さいということもできる。
【0032】
したがって、本発明は、血液透析膜や血液濾過膜、血液透析濾過膜、血漿分離膜に対して特に好適に使用できるが、その他、逆浸透、限外ろ過(UF)、精密ろ過などの各種用途膜の製造において特筆する効果を発揮できるものである。
【実施例】
【0033】
以下、実施例にて本発明の好ましい実施形態を説明する。ただし、本発明はこれに何ら限定されるものではない。
【0034】
(中空糸膜内径、膜厚の測定方法)
中空糸膜断面のサンプルは以下のようにして得る事ができる。測定には中空形成剤を洗浄、除去した後、中空糸膜を乾燥させた状態で観察する。乾燥方法は特に問わないが、乾燥により著しく形態が変化する場合には中空形成剤を洗浄、除去した後、純水に置換し、湿潤状態で観察を行う。中空糸膜を厚さ2mmのスライドガラスの中央に開けられたφ1mmの孔に適当数通し、スライドガラス上下面で剃刀によりカットし、中空部を露出させた断面サンプルを得る。得られたサンプルは投影機(Nikon-12A)を用いて、視野内の任意の5サンプルを無作為に抽出し、各中空糸膜断面内側の短径と長径をそれぞれ測定し、その算術平均値を中空糸膜1個の内径とした。さらに5サンプルの平均値をもって中空糸膜内径とした。
【0035】
(偏肉度の測定)
中空糸膜内径、膜厚の測定方法の項に記載したのと同様のサンプルを用い、中空糸膜100本の断面を200倍の投影機で観察する。一視野中、最も膜厚差がある一本の中空糸膜断面について、最も厚い部分と最も薄い部分の厚さを測定する。
偏肉度=最薄部/最厚部
偏肉度=1で膜厚が完璧に均一となる。
【0036】
(実施例1)
ノズルを検査装置に吐出口が上向きになるように設置し、ノズル検査用流体として「粘度0.89cP(25℃)の純水」を用い、室温で「スリット幅50μm」、「外径1000μm」のノズルより「吐出線速度1.1m/s」で吐出した。下から上方向に吐出を行い、ノズルの中心軸方向に対する曲がりの角度を測定した。このノズル検査法で「曲がりの角度が12度以下」のノズルを使用し、製膜原液として、セルローストリアセテート(ダイセル化学工業社製)18.5質量%、N‐メチル‐2‐ピロリドン(三菱化学社製)57.05質量%、トリエチレングリコール(三井化学社製)24.45質量%を180℃にて混合溶解させたものを用い、これを焼結フィルターに通した後、紡糸用口金から垂直下方に向け吐出した。同時に内側の管には流動パラフィンを芯液として供給し、エアギャップ部を通過させた後、凝固浴に浸漬した。凝固浴から引き出された中空糸膜を、引き続き水洗槽に導き過剰の溶媒、非溶媒を洗浄した後、グリセリン処理槽、乾燥工程を経てボビンに巻き取った。こうして得られた中空糸膜の内径は200μm、膜厚は16μmであった。偏肉度の測定結果ほかを表1にまとめた。
【0037】
(比較例1)
実施例1と同様の検査方法で、「粘度0.89cP(25℃)の純水」を用い、「スリット幅50μm」、「外径1000μm」のノズルより「吐出線速度1.1m/s」で吐出し、「曲がりの角度が12度超」のノズルのみを用いて紡糸した。得られた中空糸膜の断面検査の結果を表1に示した。
【0038】
(実施例2)
実施例1と同様の検査方法で、「粘度0.89cP(25℃)の純水」を用い、「スリット幅400μm」、「外径2500μm」のノズルより「吐出線速度1.1m/s」で吐出し「曲がりの角度が12度以下」であるノズルのみを用いて紡糸した。得られた中空糸の断面検査の結果を表1に示した。
【0039】
(比較例2)
実施例1と同様の検査方法で、「粘度0.89cP(25℃)の純水」を用い、「スリット幅400μm」、「外径2500μm」のノズルより「吐出線速度1.1m/s」で吐出し、「曲がりの角度が12度超」であるノズルのみを用いて紡糸した。得られた中空糸の断面検査の結果を表1に示した。
【0040】
(実施例3)
実施例1と同様の検査方法で、「粘度1011cP(25℃)のグリセリン」を用い、「スリット幅100μm」、「外径1000μm」のノズルより「吐出線速度1.1m/s」で吐出し、「曲がりの角度が12度以下」であるノズルのみを用いて紡糸した。得られた中空糸の断面検査の結果を表1に示した。
【0041】
(比較例3)
実施例1と同様の検査方法で、「粘度1011cP(25℃)のグリセリン」を用い、「スリット幅100μm」、「外径1000μm」のノズルより「吐出線速度1.1m/s」で吐出し、「曲がりの角度が12度超」であるノズルのみを用いて紡糸した。得られた中空糸の断面検査の結果を表1に示した。
【0042】
(実施例4)
実施例1と同様の検査方法で、「粘度0.89cP(25℃)の純水」を用い、「スリット幅100μm」、「外径1000μm」のノズルより「吐出線速度5.0m/s」で吐出し、「曲がりの角度が12度以下」であるノズルのみを用いて紡糸した。得られた中空糸の断面検査の結果を表1に示した。
【0043】
(比較例4)
実施例1と同様の検査方法で、「粘度0.89cP(25℃)の純水」を用い、「スリット幅100μm」、「外径1000μm」のノズルより「吐出線速度5.0m/s」で吐出し、「曲がりの角度が12度超」であるノズルのみを用いて紡糸した。得られた中空糸の断面検査の結果を表1に示した。
【0044】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、肉厚部の偏りが少なく、耐圧性の優れた膜を提供することが可能である。また、紡糸前に使用するノズルの吐出精度の確認が可能であるため、生産性の向上、保全に役立つ。したがって、産業の発展に寄与することが大である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】流体曲がりと偏肉度との関係を示す図。
【図2】本願発明のノズル検査を示す模式図。
【図3】本願発明のノズル検査に用いるノズルの内部構造を示す模式図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空糸膜製造用のチューブインオリフィス型ノズルの検査方法であって、該ノズルの外側環状部に25℃での粘度0.89cP以上1011cP以下の流体を、室温にて線速度0.1m/s以上5.0m/s以下で吐出した際に、該ノズルから吐出された流体の曲がりがノズルの中心軸に対して角度12度未満のものを良品として選別するチューブインオリフィス型ノズルの検査方法。
【請求項2】
ノズルの外側環状部の幅が50μm以上400μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のチューブインオリフィス型ノズルの検査方法。
【請求項3】
ノズルの外側環状部の外径が200μm以上3000μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のチューブインオリフィス型ノズルの検査方法。
【請求項4】
流体が、水、低級アルコール、脂肪族炭化水素、製膜原液の調製に用いる溶剤および非溶剤から選ばれる1種以上である請求項1〜3いずれかに記載のチューブインオリフィス型ノズルの検査方法。
【請求項5】
鉛直上向きまたは下向きに固定されたノズルから流体を吐出して曲がりを測定することを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載のチューブインオリフィス型ノズルの検査方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載された方法により選別された複数本のチューブインオリフィス型ノズルの外側環状部から紡糸原液を吐出し、内管より中空形成剤を吐出し、凝固、水洗することを特徴とする中空糸膜の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法により製造されたことを特徴とする中空糸膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−291398(P2008−291398A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−138972(P2007−138972)
【出願日】平成19年5月25日(2007.5.25)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】