説明

チューブ挿入用スペーサ

【課題】熱交換用のチューブと既製杭の内周面との接触を防止しつつ、チューブを既製杭の内周面に近接した位置に容易に配設することができるチューブ挿入用スペーサを提供する。
【解決手段】既製杭2の内方に配置されるチューブ3の既製杭2内方への挿入を誘導し、チューブ3の既製杭2内方における所定位置を保持するためのスペーサであって、既製杭2の内周に沿う環状に形成され、チューブ3を支持しつつ、既製杭2内方へ挿入されるチューブ支持部材4と、チューブ支持部材4に上下方向に回転可能に設けられるとともに、既製杭2の内周面2aとチューブ3との接触を防止するために、チューブ3に並設され、チューブ3よりも既製杭2の内周面2a側に突出される誘導リング5とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換のために既製杭内に配設される熱交換用のチューブの挿入用スペーサに関する。
【背景技術】
【0002】
地中熱を融雪設備や空調設備等の熱源に利用するために、地中に熱交換用配管を埋設して地中と配管内の冷媒との間で熱交換を行っている。熱交換用配管を地中に垂直方向で設置する場合、一般的に、地盤面に掘削された配管専用の縦孔の内方に熱交換用配管を設置し、該縦孔内方にグラウト材を注入している。熱交換用配管としては、縦孔内の配管部分に接手部を設ける必要がなく、冷媒が漏出する危険性を低減でき、施工が簡略化できる長尺のチューブが用いられている。長尺のチューブは、一般に樹脂製のものが使用され、縦孔内でU型にループさせることにより往きと還りのチューブが配設されている。縦孔内のチューブは、熱干渉を抑えるために往きと還り管の離隔距離を保持するとともに、縦孔内へのグラウト材注入の障害とならないように配設する必要がある。縦孔内の配設位置を保持するためにチューブにはスペーサが取り付けらる。このスペーサとしては、特許文献1のものが知られている。図8に示すように特許文献1におけるスペーサ100は、熱交換チューブ削孔101の中央部のグラウト管102の周囲に配置された熱交換チューブ103を囲むように設けられている。
【0003】
一方、熱交換用配管としてのチューブを、それ専用の縦孔を掘削して地中に埋設する工法に代えて、建築物等の基礎杭を利用してチューブを地中に配設することで、熱交換用配管専用の縦孔を省略して建設コストを低減する工法が近年採用されている。
【特許文献1】特開2002−303088号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
建築物等の基礎杭を利用して熱交換用のチューブを埋設する場合、基礎杭の直径は熱交換用配管専用の縦孔の直径と比べて大きくなるため、チューブをできるだけ基礎杭の外周部側に配置し、地盤とチューブ内の冷媒との熱交換効率を確保する必要がある。基礎杭が場所打ち杭である場合には、基礎杭内部に配置される杭鉄筋を利用してチューブを支持することで、基礎杭の外周部側へ挿入し、その位置を保持することができるが、基礎杭に筒状の既製杭が採用される場合には、その内方へ挿入される杭鉄筋が存在しないため、チューブを既製杭の内周面に接近して挿入し、配置するためのスペーサが必要となる。しかし、特許文献1のスペーサではチューブを基礎杭の外周部側に保持することが難しく、さらにスペーサ100が既製杭の内周面に傷を与えるおそれがあって基礎杭の構造上好ましくない。また、既製杭の種類によっては、上杭と下杭の接続金物が存在するため、チューブを既製杭内へ挿入する際、この接続部金物にスペーサが引っかかり、挿入作業の効率が低下するという問題点があった。さらに、既製杭の場合には、その先端金物や接続金物等にチューブが接触し、チューブに傷がつく可能性も高くなる。
【0005】
本発明は上記従来の課題に鑑みて創案されたものであって、熱交換用のチューブと既製杭の内周面との接触を防止しつつ、チューブを既製杭の内周面に近接した位置に容易に配設することができるチューブ挿入用スペーサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にかかるチューブ挿入用スペーサは、既製杭の内方に配置されるチューブの該既製杭内方への挿入を誘導し、該チューブの該既製杭内方における所定位置を保持するためのスペーサであって、上記既製杭の内周に沿う環状に形成され、上記チューブを支持しつつ、該既製杭内方へ挿入されるチューブ支持部材と、該チューブ支持部材に上下方向に回転可能に設けられるとともに、上記既製杭の内周面と上記チューブとの接触を防止するために、該チューブに並設され、かつ該チューブよりも該既製杭の内周面側に突出される誘導リングとを備えることを特徴とする。
【0007】
前記チューブが前記チューブ支持部材の外周側で支持されることを特徴とする。
【0008】
前記チューブが、前記チューブ支持部材に複数支持されるとともに、前記誘導リングが、該各チューブごとに配置されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明にかかるチューブ挿入用スペーサにあっては、熱交換用のチューブと既製杭の内周面との接触を防止しつつ、チューブを既製杭の内周面に近接した位置に容易に配設することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明にかかるチューブ挿入用スペーサの好適な一実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。本実施形態にかかるチューブ挿入用スペーサは基本的には、図1から図6に示すように、既製杭2の内方に配置されるチューブ3の既製杭2内方への挿入を誘導し、チューブ3の既製杭2内方における所定位置を保持するためのチューブ挿入用スペーサ1であって、既製杭2の内周に沿う環状に形成され、チューブ3を支持しつつ、既製杭2内方へ挿入されるチューブ支持部材4と、チューブ支持部材4に上下方向に回転可能に設けられるとともに、既製杭2の内周面2aとチューブ3との接触を防止するために、チューブ3に並設され、かつチューブ3よりも既製杭2の内周面2a側に突出される誘導リング5とを備えている。また、チューブ3がチューブ支持部材4の外周側で支持されている。さらに、チューブ3は、チューブ支持部材4に複数支持されるとともに、誘導リング5が、各チューブ3ごとに配置されている。
【0011】
既製杭2は、建築物の基礎を構成する略円筒状の杭であり、工場等で予め成形された杭が単独で又は複数接続されて構築されている。既製杭2は中空円筒体状に形成され、その外径サイズは複数設定されている。本実施形態における既製杭2は、工場で生産されたPC杭(遠心力成形のプレストレストコンクリート杭)を複数接続して構築され、その外径は700mm〜1000mm程度に、その内径は500mm〜740mm程度に設定されている。PC杭は、上杭の端面と下杭の端面それぞれに取り付けられた接続金物同士を溶接や接続金物により連結されて、既製杭2の所定長さが確保されている。本実施形態における既製杭2の底部は支持地盤に達し、根固め用のコンクリートが打設されている。既製杭2の内方には、その長さ方向に熱交換用配管としてのチューブ3が配置され、グラウト材としてセメントミルク(セメントと水とを練り混ぜてできたミルク状のものであり、時間経過により固化し液体から固体となる。)が注入される。したがって、チューブ3は、最終的に既製杭2内方でセメントミルク内に埋設される。既製杭2はPC杭により構築されるものに限定されず、中空筒体状のであれば、RC杭(遠心力形成の鉄筋コンクリート杭)、PHC杭(遠心力形成の高強度プレストレストコンクリート杭)、SC杭(遠心成形の外殻鋼管付コンクリート杭)、鋼管杭等で構築されても良い。なお、既製杭2の大きさは、チューブ3を内方に設置できるものであれば、上記サイズに限定されるものではない。また、既製杭2の内方にセメントミルク等のグラウト材が充填されない場合もある。
【0012】
本実施形態における、チューブ3は呼び径20A〜25Aの架橋ポリエチレン管で構成された樹脂製チューブであり可撓性を有している。チューブ3は、それを二本平行に配置し、それらの一方の端部をU型接手6により接続したU型の熱交換用配管として構成される。U型の熱交換用配管の一方のチューブ3が冷媒の往き管となり、他方が還り管となる。本実施形態におけるU型接手6は、工場等で予めチューブ3に取り付けられ、チューブ3にはU型接手6からの長さが1m単位で印字されている。U型の熱交換用配管を構成する各チューブ3、3の間隔は、U型接手6近辺を除き、チューブ3の可撓性により調整することが可能になっている。チューブ3は、U型接手6側の端部3a(以下「ループ端3a」という)から他方の端部3b(以下「開放端3b」という)までの長さが、既製杭2の長さより十分に長く設定され、チューブ3を既製杭2内方に配置した際に、U型接手6以外の接手が既製杭2内方に存在しないよう形成されている。なお、本実施形態におけるチューブ3は樹脂製であるが、長尺のチューブ、すなわち可撓性を有し、接手を用いることなく一体に形成された管であればこの材質に限定されない。例えば金属製のメッシュ管の内側に樹脂コーティングを施したチューブなどでもよい。
【0013】
本実施形態において、一本の既製杭2の内方には、4本のチューブ3、(U型の熱交換用配管としては2本)が挿入される。チューブ3は、そのループ端3aのU型接手6に錘7を取り付けて、既製杭2内方にほぼ垂直に配置される。各チューブ3は、その所定長さ毎にチューブ挿入用スペーサ1により一体に支持され、既製杭2の内周面2aに近接して、内周面2aに沿ってほぼ等間隔で配置される。なお、本実施形態において、2本のチューブを一つのU型接手6で接続したが、4本以上のチューブ3を一つのU型接手6で接続してもよい。また、現場でチューブ3にU型接手6を取り付けても良い。
【0014】
チューブ挿入用スペーサ1は、チューブ支持部材4と誘導リング5により構成される。チューブ支持部材4は、既製杭2の内周に沿う環状に形成され、既製杭2の水平方向断面において、各チューブ3相互間の所定の位置を保持する機能を有する。本実施形態において既製杭2の内周に沿う環状とは、既製杭2の水平方向断面における内周面2aの形状に沿う環状をいう。本実施形態のチューブ支持部材4は、鉄筋(D6からD13程度の異形棒鋼)を、その端部同士を固定することなく周方向で重ねて、既製杭2の内周に沿う円形状に加工して構成されている。チューブ支持部材4の端部が固定されていないため、チューブ支持部材4は、その直径を縮小する方向に弾性変形することが可能に形成されている。チューブ支持部材4は、既製杭2の内周に沿う円形状であるため、既製杭2にセメントミルクを充填する際に、トレミー管をチューブ支持部材4の内方へ容易に挿通することができる。なお、チューブ支持部材4は、鉄筋の両端部がその長さ方向に相互に移動可能であれば、両端部を重ねることなく、隙間を空けて対向させてC字型に加工して構成してもよく、また、トレミー管を挿通するスペースが確保されれば、チューブ支持部材4の内方に補強材を設けてもよい。
【0015】
本実施形態におけるチューブ支持部材4は、その外周側に、その周方向に沿ってほぼ等間隔で4本のチューブ3を支持する。すなわち、チューブ支持部材4の周方向に90°間隔で4箇所でチューブ3を支持する。各チューブ3は、それらの長さ方向で相にほぼ平行し、チューブ支持部材4と上下方向で直交してチューブ支持部材4に支持される。ただし、チューブ支持部材4に支持されるチューブ3相互間の距離は、チューブ3、3間の熱干渉が軽減されるよう、ほぼ等間隔に支持されればよい。本実施形態において、チューブ3は樹脂製の結束材8を用いてチューブ支持部材4へ固定されて支持される。樹脂製の結束材8は、市販されている樹脂製の結束バンドなどであり、チューブ3とチューブ支持部材4を簡単に固定でき、施工時の緩みや位置ずれを防止できればよい。また、樹脂製の結束材8を使用することで、チューブ3に傷を与えることを防止できる。なお、チューブ3とチューブ支持部材4の固定は、樹脂製の結束材8に限定されるものではなく、チューブ支持部材4とチューブ3の位置関係を保持して容易に固定できるものであればよく、チューブ3に傷を与えない材質であれば、クランプ等の装置を用いても良い。
【0016】
一方、本実施形態におけるチューブ支持部材4は鉄筋で構成されるため、チューブ3の損傷防止のために、チューブ3が接触するチューブ支持部材4の部分には保護部40が設けられている。本実施形態における保護部40は、チューブ支持部材4のチューブ3が接触する位置にゴム製のテープ材を巻いて形成されている。この保護部40に弾性を有するゴム製のテープ材を使用することで、保護部40とチューブ3との摩擦接触作用を増加させて、位置ずれ防止機能を保護部40に持たせることができる。なお、保護部40はチューブ3の保護機能を有していれば、材質や形状に限定はなく、例えば、ブロック状のゴム材等をチューブ3とチューブ支持部材4の間に挿入してもよい。また、保護部40はチューブ3に設けても、チューブ3とチューブ支持部材4の双方に取り付けても良い。さらに、チューブ3の機能に障害を与えるような傷が発生しない場合、保護部40を設けなくても良い。
【0017】
チューブ支持部材4には、誘導リング5が各チューブ3ごとに並設される。本実施形態における「並設」とは、誘導リング5が各チューブ3の側部に隣接させて取り付けられることを意味する。また、「各チューブ3ごとに」とは一つのチューブ3に少なくとも一以上の誘導リング5が対応して、チューブ支持部材4に設けられることを意味する。本実施形態においては、チューブ支持部材4に支持されるチューブ3と同数の誘導リング5が、チューブ3の一方の側方に1つずつ設けられている。なお、誘導リング5をチューブ3を挟むように両側に設け、一つのチューブ3に対し二つの誘導リング5を配置してもよい。
【0018】
誘導リング5は、チューブ支持部材4に固定されたチューブ3と既製杭2の内周面2aとの接触を防止する機能と、既製杭2の水平方向断面の所定位置にチューブ3を保持するスペーサ機能と、チューブ3を既製杭2内方へ挿入しやすくするための誘導機能とを有している。本実施形態における誘導リング5は、円形状の樹脂製部材であり、外周環5aとその中心部に設けられた中心環5bと、中心環5bから放射状に外周環5aに向かって設けられたスポーク5cにより構成される。中心環5bにチューブ支持部材4が嵌合することにより、誘導リング5がチューブ支持部材4を中心として上下方向に回転可能に取り付けられる。外周環5aと中心環5bには、チューブ支持部材4をその中心環5bに回転可能に嵌合させるための切り欠き部が形成され、切り欠き部には外周環5aから中心環5bへ向けて間隔が小さくなる一対のガイド部5d、5dが形成される。ガイド部5d、5dの中心環5b側の間隔は、チューブ支持部材4よりも幅が狭く形成されて、チューブ支持部材4から誘導リング5が離脱することを防止するストッパーの機能を有している。
【0019】
誘導リング5の外径寸法は、チューブ支持部材4に取り付けられた誘導リング5の外周縁が、チューブ支持部材4に支持されたチューブ3よりも、既製杭2の内周面2a側に突出する寸法に設定されている。この寸法の設定により、チューブ3と既製杭2の内周面2aとの接触が防止できる。また、チューブ3からの誘導リング5の突出寸法を、施工精度等を加味した上で可能な限り小さく設定することによりチューブ3を既製杭2の内壁面2aに出来る限り近接して配置できる。誘導リング5の大きさは、既製杭2の内周面2aに、鋼管杭における接続部の溶接用裏当て金などの突出部が存在する場合には、突出部の突出寸法より大きくなるように設定される。これにより、突出部とチューブ3との接触も防止できる。このように、誘導リング5の大きさは、チューブ3が、既製杭2の内周面2aに接触することを防止しつつ、内周面2aに近接できる寸法に適宜設定される。
【0020】
この誘導リング5の大きさと、既製杭2の内周面2aの直径が設定されることにより、チューブ支持部材4の大きさが定まる。すなわち、環状のチューブ支持部材4の外周側縁の半径は、既製杭2の内周面2aの半径の寸法から、誘導リング5のチューブ支持部材4からの突出寸法を差し引いた寸法より小さい値に設定される。これにより、チューブ支持部材4と誘導リング5で形成されたチューブ誘導用スペーサ1の大きさが、既製杭2の内周面2aの直径よりやや小さく設定され、既製杭2の内方へ容易に挿入することができる。
【0021】
本実施形態のチューブ支持部材4には、チューブ3に並設された誘導リング5の位置がずれること防止のために位置決め部41が設けられている。位置決め部41は、チューブ支持部材4表面に、誘導リング5の中心環5bの内径より大径に形成された部分であり、誘導リング5の取り付け位置を挟んで左右に形成される。すなわち、位置決め部41は、誘導リング5の取り付けスペース分の間隔を空けて左右一対の突起部としてチューブ支持部材4に形成される。さらに、位置決め部41を、誘導リング5の取り付け前にチューブ支持部材4に設けておくことにより、誘導リング5の取り付け位置を示すマーカーとしての機能を発揮する。本実施形態の位置決め部41は、チューブ支持部材4の表面にテープを巻いて、チューブ支持部材4の構成材の部材径を拡大することにより形成されている。
【0022】
位置決め部41の形式は、チューブ3に並設された誘導リング5の移動を防止できれば、その形式は限定されない。例えばチューブ支持部材4に結束線などを巻き付けたり、溶接などによりその鉄筋表面に突起物を取り付けて位置決め部41を形成しても良い。また、位置決め部41の左右一対のいずれか一方の突起部を、チューブ支持部材4に支持されたチューブ3または保護部40で兼用してもよい。
【0023】
本実施形態のチューブ挿入用スペーサ1は、チューブ3にその長さ方向に適宜間隔で複数設けられ、チューブ3の座屈変形(たわみ)を防止する。さらに、チューブ挿入用スペーサ1は、複数のチューブ3をほぼ等間隔で支持して一体化するため、既製杭2内に埋設されるチューブ3全体が一つの籠体10を構成する。籠体10に構成することにより、チューブ3を変形の少ない集合体として扱え、既製杭2内方への挿入作業が容易になる。また、籠体10とすることで既製杭2内方にセメントミルクを充填した際の浮力によってチューブ3が変形することも防止しやすくなる。本実施形態においては、呼び径20A〜25Aの樹脂製のチューブ3に対してチューブ挿入用スペーサ1を2m以下の間隔で設けることにより、籠体10が形成されるチューブ3のたわみが防止できる。
【0024】
以上説明した本実施形態にかかるチューブ挿入用スペーサ1の作用について説明する。まず、チューブ挿入スペーサ1の組立てについて説明する。既製杭2内方へのチューブ3の挿入作業に先だって、チューブ挿入スペーサ1を組み立てる。本実施形態における、チューブ挿入スペーサ1は、そのチューブ支持部材4の外周側にほぼ等間隔で4本のチューブ3を支持する。また、誘導リング5は、各チューブ3に対応してチューブ支持部材4にほぼ等間隔で4つ設けられる。
【0025】
まず、チューブ挿入スペーサ1を構成するチューブ支持部材4を加工する。チューブ支持部材4を鉄筋で形成する。鉄筋は、その端部を重ね接手にして、既製杭2の内周に沿う円形状に加工する。円形状に加工されたチューブ支持部材4に、チューブ3の支持位置と誘導リング5の取り付け位置を墨出し、その墨出し位置に対応させて位置決め部41と保護部40を形成する。位置決め部41は、チューブ支持部材4に誘導リング5の取り付け位置の両側にテープを巻いて形成する。次いで、墨出しされたチューブ3の支持位に合わせて保護部40を設ける。保護部40は、施工後等を勘案して、置取り付けられた各位置決め部41に近接させてチューブ3が当接する可能性のあるチューブ支持部材4の範囲に設けておく。保護部40は、チューブ3を保護するだけでなく、チューブ支持部材4へのチューブ3の取り付け位置の目安ともなる。各保護部40は、位置決め部41の左右いずれか一方に統一して設け、チューブ支持部4の周方向にほぼ等間隔で、厚手のゴム製テープを巻いて形成する
各位置決め部41、保護部40が形成されたチューブ支持部材4に、各位置決め部41を目安にして誘導リング5を取り付ける。誘導リング5は、その切り欠き部からガイド部5dに沿ってチューブ支持部材4を中心環5b方向へ挿入し、中心環5bへチューブ支持部材4を回転可能に嵌合される。チューブ支持部材4に嵌合された誘導リング5は、そのガイド部5dの中心環5b側端部のストッパー機能により容易に離脱しない。各位置決め部41が目安となるため、誘導リング5の取り付け作業は容易となる。このようにしてチューブ誘導スペーサ1を予め必要個数組み立てておく。
【0026】
次にチューブ3へのチューブ誘導スペーサ1の取り付けと、チューブ3の既製杭2内への挿入について説明する。建築物の既製杭2(PC杭)の埋設完了後、フーチングや地中梁等の配筋前に、チューブ3を既製杭2の内方へ挿入する。本実施形態におけるチューブ3は、それら2本をU型接手6で接続したU型の配管として、ロール状に巻かれて挿入場所へ搬入される。一つの既製杭2には、4本のチューブ3が挿入される。埋設完了時の既製杭3は杭周辺地盤から、接続用の金物が取り付けられた杭端部が突出した状態となっているため、チューブ3は、杭端部により傷が付かないよう、既製杭2の上方からほぼ垂直に吊り下ろすようにして既製杭2内方へ挿入する。チューブ誘導スペーサ1は既製杭2の杭端部上方でチューブ3を一体に支持した後、既製杭2へ挿入される。以下に挿入工程を詳細に説明する。
【0027】
まず、挿入の開始前に、既製杭2の上方でチューブ3のループ端3aの位置(高さ)を合わせを行い、各チューブ3の長さ方向の位置を合わせる。具体的には、各チューブ3を、既製杭2の上方にほぼ垂直下げて左右に並べ、それらの各ループ端3aに錘7を取り付け、各ループ端3aの高さを合わせる。各ループ端3a位置合わせ後に、各チューブ3を、予め組み立てられたチューブ誘導スペーサ1のチューブ支持部材4の外周側にほぼ等間隔で支持する。チューブ挿入用スペーサ1は、各チューブ3のループ端3aからの距離が等しくなる位置に、各チューブ3とチューブ支持部材4をほぼ直交させて取り付ける。この際、各チューブ3に印字されたループ端3aからの距離を目安にチューブ挿入用スペーサ1の取り付け位置を判断する。チューブ3を誘導リング5の側部で保護部40に当接させて、樹脂製の結束材8を用いてチューブ支持部材4に支持する。誘導リング5や保護部を40を目安にチューブ3を支持することで、確実にチューブ3と誘導リング5を並設でき、チューブ3より外側に誘導リング5の外周縁を位置させることができる。また、チューブ支持部材4の外周側にチューブ3を支持するため、チューブ支持部材4の内方にチューブ3を挿通する作業が不要となり支持作業は簡略化される。最初のチューブ誘導スペーサ1を取り付けることにより、各チューブ3が、その長さが一致した状態で一体化される。
【0028】
チューブ誘導スペーサ1により一体化されたチューブ3を、錘7が取り付けられたループ端3a(U型接手6側)から既製杭2の内方へ挿入する。既製杭2内方には、まだセメントミルクは充填されていないが地下水が内方に侵入しているため、その浮力に抗してチューブ3を挿入するために錘7が機能する。チューブ誘導スペーサ1をほぼ水平に保持しながら、チューブ3を既製杭2へ挿入し、チューブ誘導スペーサ1も既製杭2へ挿入する。最初のチューブ誘導スペーサ1の誘導リング5が既製杭2の内方に挿入されることにより、既製杭2の水平方向断面におけるチューブ3の位置がほぼ確定する。この結果、チューブ誘導スペーサ1に支持されたチューブ3が既製杭2の内周面2aに近接しつつ、内周面2aとの接触が防止される。一方、チューブ3の挿入過程において、既製杭2内方へ挿入されたチューブ誘導スペーサ1は、その誘導リング5が既製杭2の内周面2aと接触する場合が生じる。その際、誘導リング5が上下方向に回転可能であるため、チューブ誘導スペーサ1と内周面2aとの間に大きな摩擦を生じることなく、また、内周面2aに構造上問題となるような傷付けることもなくスムーズにチューブ3を既製杭2の下方へ誘導できる。
【0029】
引き続きチューブ3を既製杭2内に挿入し、最初のチューブ誘導スペーサ1の取り付け位置から所定間隔で二つ目以降のチューブ誘導スペーサ1をチューブ3に順次取り付ける。この取付要領は上記手順と同様であるため説明を省略する。本実施形態において、チューブ誘導スペーサ1の取付間隔は2m以下に設定され、チューブ誘導スペーサ1、1間のチューブ3のたわみ(座屈変形)が防止される。最初と二番目のチューブ誘導スペーサ1、1とこれらの間の4本のチューブ3とにより籠体10が形成される。この籠体10により、各チューブ3のねじれ等を抑制しつつ、各チューブ3をまとめて既製杭2内方へ容易に挿入できる。その後はチューブ3の挿入にともなって、所定間隔でチューブ誘導スペーサ1をチューブ3に取り付けていき、籠体10も順次形成されて長くなる。
【0030】
チューブ3の挿入過程では、チューブ誘導スペーサ1が既製杭2の上杭と下杭の接続部を通過する。既製杭2の内周面2a側に接続金物等の突出部が存在する場合には、この突出部にチューブ誘導スペーサ1の誘導リング5が当り、チューブ3に、既製杭2内方へ押し込む力を加えて、チューブ誘導スペーサ1を押し下げることとなる。この際、チューブ3が籠体10を構成していることから、チューブ3が変形することなく有効にチューブ誘導スペーサ1を押し下げることができる。さらに、チューブ誘導スペーサ1を押し下げた際、誘導リング5を支持しているチューブ支持部材4が、その直径を縮小する方向で弾性変形し、誘導リング5が、突出部上を下方へ回転しながら、既製杭2の内方側へも移動して無理なく突出部を超えることが可能となる。これにより、チューブ3を押し込む力により、チューブ3に対するチューブ誘導スペーサ1の取り付け位置がずれることが防止でき、さらに、既製杭2の接続部の構造に制約を受けることなく、チューブ誘導スペーサ1を用いてチューブ3を既製杭2の内方へ挿入することができる。
【0031】
チューブ3を所定深さまで挿入した後、チューブ3を既製杭2の上端部で仮固定する。仮固定された段階における既製杭2内方のチューブ3の位置は、チューブ誘導スペーサ1により保持される。その後、既製杭2の内方にグラウト材としてのセメントミルクを充填する。セメントミルクの充填において、トレミー管を既製杭2の内方へ挿入するが、本実施形態のチューブ誘導スペーサ1は環状であるため、チューブ誘導スペーサ1の内方にトレミー管を容易に挿通できる。また、チューブ3がチューブ支持部材4の外周側で支持されているため、トレミー管と接触する危険性も低くなる。チューブ誘導スペーサ1の誘導リング5は幅が薄く、チューブ支持部材4の構成部材も小径の鉄筋であるため、充填されたセメントミルクが既製杭2の底部から上昇してくる際の障害とならず、良好なセメントミルク充填が可能となる。さらに、既製杭2の内方にセメントミルクを充填することにより、水よりも大きい浮力がチューブ3に作用するが、チューブ誘導スペーサ1によりチューブ3が籠体10を構成しているため浮力による変形を生じることが少なく、チューブ3の上端部を固定しておくことで、チューブ3を所定の深さに容易に保持できる。最後に、セメントミルク硬化後にチューブ3の仮固定を解体し、挿入工程が終了する。
【0032】
本実施形態において、既製杭2の内方に配置されるチューブ3の既製杭2内方への挿入を誘導し、チューブ3の既製杭2内方における所定位置を保持するためのチューブ挿入用スペーサ1が、既製杭2の内周に沿う環状に形成され、チューブ3を支持しつつ、既製杭2内方へ挿入されるチューブ支持部材4と、チューブ支持部材4に上下方向に回転可能に設けられるとともに、既製杭2の内周面とチューブ3との接触を防止するために、チューブ3に並設され、かつチューブ3よりも既製杭2の内周面2a側に突出される誘導リング5とを備えているため、チューブ3と既製杭2の内周面2aとの接触を防止しつつ、チューブ3を既製杭2の内周面2aに近接した位置に容易に配置できる。また、チューブ3相互間の位置関係も保持され、チューブ挿入用スペーサ1が既製杭2の内周面2aに傷を与えることもない。さらに、既製杭2内方へのチューブ3の挿入が容易となる。
【0033】
本実施形態におけるチューブ挿入用スペーサ1においては、チューブ3がチューブ支持部材4の外周側で支持されているため、チューブ3を既製杭2の内周面2aにより接近させて配置することが可能となり、熱交換用配管としての熱交換効率を確保しやすくなる。また、チューブ挿入用スペーサ1にチューブ3を挿通する必要がないため、チューブ3とチューブ支持部材4との固定が容易である。さらに、チューブ挿入用スペーサ1が、基礎杭2内方へのセメントミルクの充填作業の障害にならず、逆にチューブ3がトレミー管等により傷等を受ける危険性も少なくできる。
【0034】
本実施形態におけるチューブ挿入用スペーサ1において、チューブ3は、チューブ支持部材4に複数支持されるとともに、誘導リング5が、各チューブ3ごとに配置されているため、各チューブ3が既製杭2の内周面2aとの接触を確実に防止することができる。
【0035】
本実施形態におけるチューブ挿入用スペーサ1のチューブ支持部材4は、既製杭2の内周に沿う円形状に形成されるが、円形状に限定されるものではなく、既製杭2の内周に沿う形状で有れば四角形や六角形等などの多角形でも良い。例えば、図7に示すようにチューブ支持部材4を四角形に形成したチューブ挿入用スペーサ1でもよい。図7における、チューブ支持部材4の各角部には、チューブ支持部材4の対角線方向で外周側へ突出させて、誘導リング5が設けられている。チューブ3は、既製杭2の内周面2aとの距離が最も近くなる、チューブ支持部材4の角部近辺に支持される。チューブ支持部材4の大きさは、その対角方向の外周寸法が、既製杭2の内周2aの直径から、誘導リング5のチューブ支持部材4からの突出寸法の2倍を差し引いた寸法より小さく設定される。この変形例においても上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0036】
本実施形態の誘導リング5は、チューブ支持部材4を中心にして、上下方向に回転可能に設けられるが、チューブ支持部材4に誘導リング5を取り付ける別部材を設け、その別部材に誘導リング5を上下方向に回転自在に取りつけても良い。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係るチューブ挿入用スペーサの好適な一実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1に示すチューブ挿入用スペーサにチューブを支持した状況を示す斜視図である。
【図3】図1に示すチューブ挿入用スペーサで支持したチューブが挿入された既製杭の垂直方向の断面図である。
【図4】図3に示す既製杭の水平方向の断面図である。
【図5】図3に示す既製杭のチューブ挿入用スペーサ部分の垂直方向の断面図である。
【図6】図5におけるチューブ挿入用スペーサのチューブ支持状況を示す既製杭内方から見た立面図である。
【図7】本発明に係るチューブ挿入用スペーサの好適な変形例をしめす、既設杭の水平方向断面図である。
【図8】従来技術のスペーサを示す縦孔の水平方向断面図である。
【符号の説明】
【0038】
1 チューブ挿入用スペーサ
2 既製杭
2a 既製杭の内周面
3 チューブ
4 チューブ支持部材
5 誘導リング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既製杭の内方に配置されるチューブの該既製杭内方への挿入を誘導し、該チューブの該既製杭内方における所定位置を保持するためのスペーサであって、
上記既製杭の内周に沿う環状に形成され、上記チューブを支持しつつ、該既製杭内方へ挿入されるチューブ支持部材と、
該チューブ支持部材に上下方向に回転可能に設けられるとともに、上記既製杭の内周面と上記チューブとの接触を防止するために、該チューブに並設され、かつ該チューブよりも該既製杭の内周面側に突出される誘導リングとを備えることを特徴とするチューブ挿入用スペーサ。
【請求項2】
前記チューブが前記チューブ支持部材の外周側で支持されることを特徴とする請求項1に記載のチューブ挿入用スペーサ。
【請求項3】
前記チューブが、前記チューブ支持部材に複数支持されるとともに、前記誘導リングが、該各チューブごとに配置されることを特徴とする請求項1又は2に記載のチューブ挿入用スペーサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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