説明

チョコレート類

【課題】本発明の課題は、低油分のテンパー型チョコレート類、特にコーティングまたはエンローバー(上掛け)用途に適した低油分のテンパー型チョコレート類を提供することである。
【解決手段】1,3−ジパルミトイル−2−オレオイルグリセリン(POP)の含有量が65質量%以上であり、オレオイルジパルミチン(P2O)に対するPOPの質量比(POP/P2O)が0.90以上である油脂組成物を2〜19質量%含有し、かつ、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有することを特徴とする油分が29〜38質量%であるテンパー型チョコレート類。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テンパー型チョコレート類、特にエンローバー用途に適したテンパー型チョコレート類である。
【0002】
なお、本発明で「チョコレート類」とは、規約「チョコレート類の表示に関する公正規約」乃至法規上の規定により限定されるものではなく、いわゆるカカオ代用脂等を使用したチョコレート類及び油脂加工食品をも含むものである。
【背景技術】
【0003】
チョコレートはカカオ脂を含む油脂及び砂糖等の甘味料を必須成分とするものであるが、カカオ脂は比較的高価であるため、その代替脂肪の利用が広まって来た。代替脂肪は、テンパー型と非テンパー型に大別され、テンパー型はカカオ脂と近似した対称型のトリグリセリド構造を持つため、カカオ脂肪との相溶性が良く、カカオ独特の芳香味に富んだチョコレートができるが、油脂の結晶型を3鎖長β型に揃えるためのテンパリングという調温工程を経る必要がある。
【0004】
チョコレートは、また、その形態としては、そのまま食される固形チョコレートに加え、例えばビスケット、クッキー等の焼き菓子へのコーティング、サンド、包餡といった複合菓子にも幅広く使用されている。
【0005】
焼き菓子等にチョコレートを上掛け(エンローバー)する場合、特に、テンパー型チョコレートを使用する場合は、上掛けされるチョコレートの量を一定にして製品のバラつきを防ぐために、テンパリング後もチョコレート生地の粘度を低く保つ必要がある。このため、テンパー型チョコレートを上掛けするには、通常のテンパリング作業に加え、テンパリング後も煩雑なチョコレート生地の温度調節が不可欠である。
【0006】
テンパリング後の生地粘度上昇を抑えるために、融点が低い液体油や低融点硬化油を配合する方法(例えば、特許文献1参照)が採られ得るが、粘度は低下するものの、上掛け後のチョコレート生地の乾きが遅くなる難点があった。乾きを改善するために少量の高融点油脂を添加する場合もあるが、粘度の上昇や口溶けが優れない等のまた別の問題があり、十分に満足の行くものではなかった。
【0007】
また、パーム中融点部(PMF)も同様に、チョコレートをソフトにする用途に使用され得るが、同様に上掛け後の乾きや耐熱性に問題があった。耐熱性やブルームの問題解決のため、1−パルミト−2−オレオ−3−ステアリン(POSt)と1,3−ステアロ−2−オレイン(StOSt)の組成比と合計量、及びグリセリン−ジ脂肪酸エステル含量を規定したハードバター組成物(例えば、特許文献2参照)も提案されているが、機能的には従来のテンパー型カカオ代用脂と何等変わるものではなかった。
【0008】
また、近年、カカオ豆、カカオ代用脂等のチョコレート原材料の価格高騰により、経済的により油分の低いチョコレート類が求められているが、エンローバー用途のテンパー型チョコレート類は粘度抑制のため通常油分が40%程度必要であり、通常のスナップ性が重視される所謂板チョコと比べ低油分化が困難であった。また、特別な糖類を使用した低油分・低カロリーチョコレート類(例えば、特許文献3参照)が知られているが、経済性に乏しく、また、その実際の製造はおおよそ困難なものであった。
【特許文献1】特開昭59−135841号公報
【特許文献2】特開平7−264981号公報
【特許文献3】特開平10−99022号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、低油分のテンパー型チョコレート類、特にコーティングまたはエンローバー(上掛け)用途に適した低油分のテンパー型チョコレート類を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、パーム中融点部のオレオイルジパルミチン(P2O)の対称性と濃度を高めた特定の油脂と、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルとを併用することで、従来、油分を低減すると増粘が起こるため困難であると考えられていたエンローバー用のテンパー型チョコレート類の油分を低減できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明第1の発明は、1,3−ジパルミトイル−2−オレオイルグリセリン(POP)の含有量が65質量%以上であり、オレオイルジパルミチン(P2O)に対するPOPの質量比(POP/P2O)が0.90以上である油脂組成物を2〜19質量%含有し、かつ、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有することを特徴とする油分が29〜38質量%であるテンパー型チョコレート類である。
本発明第2の発明は、油脂組成物のPOPの含有量が72質量%以上であり、POP/P2Oが0.92以上であることを特徴とする第1の発明をより特定したテンパー型チョコレート類である。
本発明第3の発明は、油脂組成物のトリパルミチン(PPP)含有量が2〜6質量%であることを特徴とする第1発明または第2発明をより特定したテンパー型チョコレート類である。
本発明第4の発明は、本発明第1〜第3の発明であるテンパリング型チョコレート類を、特にコーティングまたはエンローバ−用途に限定したものである。
本発明第5の発明は、本発明第1〜第4の発明であるテンパリング型チョコレート類を使用した菓子類またはパン類である。
本発明第6の発明は、1,3−ジパルミトイル−2−オレオイルグリセリン(POP)の含有量が65質量%以上であり、オレオイルジパルミチン(P2O)に対するPOPの質量比(POP/P2O)が0.90以上である油脂組成物とポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルとからなるテンパー型チョコレート類の粘度低減剤である。
本発明第7の発明は、1,3−ジパルミトイル−2−オレオイルグリセリン(POP)の含有量が65質量%以上であり、オレオイルジパルミチン(P2O)に対するPOPの質量比(POP/P2O)が0.90以上である油脂組成物とポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルとを配合することを特徴とするテンパー型チョコレート類の粘度低減方法である。
本発明第8の発明は、1,3−ジパルミトイル−2−オレオイルグリセリン(POP)の含有量が65質量%以上であり、オレオイルジパルミチン(P2O)に対するPOPの質量比(POP/P2O)が0.90以上である油脂組成物を2〜19質量%配合し、かつ、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを配合することを特徴とする油分が29〜38質量%であるテンパー型チョコレート類の製造法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、低油分と経済性にも優れたものでありながら、テンパリング後の粘度上昇が抑制され、コーティング、特にエンローバー後の乾きも速く、口溶けにも優れたコーティング、特にエンローバーに適した低油分(油分29〜38質量%)のテンパー型チョコレート類を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、1,3−ジパルミトイル−2−オレオイルグリセリン(POP)の含有量が65質量%以上であり、オレオイルジパルミチン(P2O)に対するPOPの質量比(POP/P2O)が0.90以上である油脂組成物を2〜19質量%含有し、かつ、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有することを特徴とする油分が29〜38質量%であるテンパー型チョコレート類に関する。
ここで、脂肪酸を表す記号を説明すると、P:パルミチン酸、O:オレイン酸である。
【0013】
本発明でいうオレオイルジパルミチン(P2O)とは、グリセリンとの結合位置に関係なくパルミチン酸が2箇所、オレイン酸が1箇所に結合したトリアシルグリセロール種、すなわち、PPO、POP、及びOPPの総和を意味する。オレオイルジパルミチンの内、対称型トリグリセリドに相当するのは1,3−ジパルミトイル−2−オレオイルグリセリンであるPOPのみである。オレオイルジパルミチン(P2O)に対するPOPの質量比(POP/P2O)が0.90以上とは、P2Oの質量に対するPOPの質量の比が0.90以上ということである。
【0014】
本発明を構成する油脂組成物はPOPが65質量%以上であり、このような油脂組成物は化学合成によっても得られるが、POPを豊富に含有する植物油脂、特にパーム油を分別等の加工をすることによって得ることが経済的で好ましい。POP濃度を上げる方法としては、パーム油(ヨウ素価(以下IV)約52)から高融点部(パームステアリン、IV30〜36)と低融点部(IV62〜68)とを乾式分別及び/又は溶剤分別により取り除いた中融点部(ソフト、IV41〜47、POP:40質量%以上、POP/P2O=0.82〜0.90)、及び、中融点部(ソフト)から更に低融点部を取り除いた中融点部(ハード、IV31〜37、POP:55質量%以上、POP/P2O=0.84〜0.94)から適宜選択したものを原料油として、パルミチン酸と混合し、リパーゼ製剤を用いて1,3位選択的エステル交換を行ってPOP濃度を高めた上で、残余の脂肪酸を蒸留にて除去し、更にトリ飽和トリグリセリド(主にPPP)とジ不飽和モノ飽和トリグリセリドとを分別により除いた中融点部として得られる。より具体的には、例えば、特開昭55−71797号公報、特開昭61−209298号公報に開示されている。別の方法としては、同様のパーム中融点油脂を原料として、リパーゼ製剤により1,3位選択的エステル交換を行ってPOP/P2O比を高めた上で、副生したトリ飽和トリグリセリド(主にPPP)とジ不飽和モノ飽和トリグリセリドとを分別により除いた中融点部として得ることができる。より具体的には特開平11−169191号公報に開示されている。また、別の方法としては、同様のパーム中融点部を原料として溶剤分別と乾式分別とを繰り返し、得ることができる。より具体的には特開2000−336389に開示されている。
【0015】
本発明を構成する油脂組成物はPOP含量が65質量%以上であり、72質量%以上であることがより好ましい。POP含量の上限としては特に限定はないが、過度の濃縮は期待できる効果以上にコスト増しとなるので、90質量%以下、より実質的には80質量%以下であることが好ましい。また、P2Oに対するPOPの質量比(POP/P2O)は、0.90以上であり、0.92以上であることが好ましく、0.94以上であることが更に好ましく、0.96以上であることが最も好ましい。POP/P2O比の上限としては特に限定はないが、過度の対称性の向上は期待できる効果以上にコスト増しとなるので、0.98以下であることが好ましい。POP/P2O比が上記範囲である場合、テンパー型チョコレート類に配合することで、チョコレート類の口溶けが良くなり、テンパリング後の生地粘度上昇を有意に抑制することができる。
【0016】
本発明を構成する油脂組成物はまた、トリパルミチン(PPP)を2〜6質量%含有することが好ましい。一般的にはテンパー型代用脂中のトリ飽和トリグリセリドは、テンパリング後の増粘やチョコレートの口溶け性低下を引き起こすため、上記に例示した公報におけるパーム中融点加工油を含め、できる限り少なくすることが好ましいとされているが、本発明を構成する油脂組成物の場合、POP含量が高く、POP/P2O質量比が高いことに起因してか意外にも、2〜6質量%を含有することで、テンパリング後に増粘することなく、コーティングもしくはエンロービング(上掛け)後は乾きが速く、口溶けにも影響しないことが見出された。油脂組成物中におけるトリパルミチンの含量は2〜6質量%であることが好ましく、3〜5質量%であることが更に好ましい。PPP含量の調整は、トリパルミチンに富んだ油脂を添加したり、エステル交換反応で副生するPPPを利用することができる。
【0017】
本発明を構成する油脂組成物の好ましい態様としては、上記のPOP含量及びPOP/P2O質量比が高められたパーム中融点加工油、例えば、パーム中融点油脂(ハード)を原料として、リパーゼ製剤により1,3−位選択的エステル交換を行ってPOP/P2O比を高めた上で、副生したトリ飽和トリグリセリド(主にPPP)とジ不飽和モノ飽和トリグリセリド(主にPOO)とを分別により除きPOP含量を高めた中融点部に、トリパルミチンもしくはトリパルミチンに富んだ油脂を少量配合することによって、POPの含有量が65質量%以上であり、POP/P2Oが0.90以上であって、且つ、トリパルミチン(PPP)を2〜6質量%含有する油脂組成物として得られる。トリパルミチンに富んだ油脂としては、パームステアリンを更に分別した2段分別ステアリン(以下パームハードステアリン、ヨウ素価15未満、PPP含量70質量%以上)が挙げられ、油脂組成物中に2〜6質量%配合されるのが好ましい。
【0018】
本発明油脂組成物の更に好ましい態様としては、上記同様のパーム中融点部(ハード)を出発原料として、溶剤または乾式分別により、POPが70質量%以上に濃縮され、POP/P2O比が0.89〜0.94、更に好ましくは0.91〜0.94までに高められた高融点もしくは中融点部を得た後、1,3−位選択性の高いリパーゼによりエステル交換反応を行うことが挙げられる。この方法によれば、最後のエステル交換の工程で更にPOP/P2O比が高められ、且つ、PPPの生成が同時に達成されるため、PPPを後から別に添加する必要が無く、簡便かつ経済的で好ましい。

POP + PPO →(1,3位エステル交換)→ POP + POO(PPOの減少) + PPP(PPPの生成) ⇒ (POP/P2O比向上)
【0019】
本発明を構成する油脂組成物のテンパー型チョコレート類への配合量は、テンパー型チョコレート中2〜19質量%であり、3〜14質量%であることが好ましく、3〜9質量%であることが最も好ましい。上記範囲で本発明を構成する油脂組成物をテンパー型チョコレート類に配合することにより、カカオ脂がリッチなチョコレート配合であっても、テンパリン後の粘度上昇が有意に抑制される。また、チョコレート油分中の油脂組成物の配合割合としては、5〜50質量%であることが好ましく、7〜30質量%であることが更に好ましく、9〜19質量%であることが最も好ましい。
【0020】
本発明のテンパー型チョコレート類は、上記の油脂組成物の他に、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有するものである。ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルは、縮合リシノレイン酸ポリグリセリン、ポリグリセリンポリリシノレート、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル等と表記されることがある。製法としては主にヒマシ油から得られるリシノレイン酸を脱水縮合した縮合リシノレイン酸とポリグリセリンとのエステル化により得られが、実際的には市販品を使用するのが簡便で経済的であり好ましい。市販品としては、坂本薬品工業株式会社のSY−GlysterCR−310、CR−500、CR−ED、CRS−75、太陽化学株式会社のサンソフトNo.818DG、818SK、818R等が適宜使用できる。
【0021】
ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの本発明テンパー型チョコレート類への添加量は、チョコレート全量に対して0.1〜1.0質量%が好ましく、0.1〜0.5質量%であることがより好ましい。添加量が上記範囲である場合、経済的に効率よくチョコレート生地の減粘効果が得られるので好ましい。また、レシチン0.1〜1.0質量%、好ましくは0.1〜0.5質量%と併用して使用される場合、より経済的に効率よくチョコレート生地の減粘効果が得られるので好ましい。
【0022】
本発明のテンパー型チョコレート類は、上記の油脂組成物とポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルとを併用することにより、通常のエンローバーに使用されるテンパー型チョコレート(油分約40%)よりも低油分ながら、テンパリン後も粘度低減持続効果が得られる。粘度低減持続効果とは、テンパリング直後の生地粘度を低減するのみではなく、その後数時間粘度の低い状態を持続する効果である。本発明のテンパー型チョコレート類の油分は、29〜38質量%であり、31〜37質量%であることが好ましく、33〜36質量%であることが更に好ましい。本発明のテンパー型チョコレート類の油分が上記範囲にある場合、テンパリング後に粘度低減持続効果が得られるので好ましい。チョコレート生地のテンパリング後の粘度は、B型粘度計を使用し、32℃で、ローターNo6、回転数4rpmで測定した場合、10000〜30000mPasであることが好ましく、10000〜25000mPasであることがより好ましく、10000〜20000mPasであることが最も好ましい。チョコレート生地のテンパリング後の粘度が上記範囲にある場合、上掛け(エンロービング)作業が安定して行えるので好ましい。
【0023】
また、本発明のテンパー型チョコレート類においては、本発明を構成する油脂組成物とポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルとを混合したものを剤(粘度低減持続剤)として配合すると簡便で良い。粘度低減持続剤としての油脂組成物とポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルとの混合比(質量比)は90:10〜99:1であることが好ましい。該粘度低減持続剤は、油脂組成物とポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルとを混合し、必要に応じて加熱融解し、均一な混合物とすることで得られる。該粘度低減持続剤のチョコレート類への配合量は、2〜19質量%であることが好ましく、3〜14質量%であることがより好ましく、3〜9質量%であることが最も好ましい。配合量が上記範囲にある場合、テンパリング後に粘度低減持続効果が得られるので好ましい。
【0024】
本発明のテンパー型チョコレート類の製造は、上記の油脂組成物とポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルとを併用すること以外は、基本的には従来からの公知の方法に準じて実施すれば良く、粉糖やカカオマス等の固形分と油脂とを混合してミキシングする工程、その後混合物をロール掛け、コンチングを行い、テンパリング後に冷却固化して製造することができる。ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルは、コンチングの追油時に添加することが好ましい。
【0025】
本発明のテンパー型チョコレート類は、その機能を阻害しない限り、チョコレートのブルーム耐性向上、アンチマイグレーション機能強化等を目的に、その他の乳化剤を加えても良い。このときの乳化剤としては、食用に使用できるものであれば制限がないが、縮合リシノレインエステル以外のポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル及びソルビタン脂肪酸エステルの中から選ばれた1種または2種以上の乳化剤を使用するのが好ましく、ポリグリセリン脂肪酸エステルまたはショ糖脂肪酸エステルを使用するのがさらに好ましい。
【0026】
また、本発明のテンパー型チョコレート類は、通常のチョコレートに含有されるカカオ分、糖、タンパク質、乳製品、炭水化物、抗酸化剤、ビタミン、調味料、香辛料、水分等を含有させてもよい。
【0027】
本発明のテンパー型チョコレート類は、通常のチョコレート類の使用用途であれば、何れにおいても使用できるが、テンパリング後のチョコレート生地の粘度上昇が抑えられるという特徴を有するものであるから、その用途はコーティングチョコレート類、特に、エンロービングマシンを使用してなされる上掛け(エンローバー)用途に適している。
【実施例】
【0028】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により、何等制限されるものではない。
【0029】
〔リパーゼ製剤の調製〕
リパーゼ製剤A:
ノボザイムズA/S社製リポザイムTL−IM5gを特殊機化工業(株)製L型マイコロイダーを用いて粉砕した。粉砕したリパーゼの粒子径を堀場製作所製の粒度分布計LA−500を用いて測定したところ、平均粒子径66.4μmであった。この粉末にろ過助剤としてセルロースパウダー(日本製紙ケミカル社製:平均粒子径30μm)を5g加えて粉末組成物を得た。この粉末組成物5gに対し、菜種油90gおよびODO(日清オイリオグループ(株)社製)10gを添加して25℃で5時間攪拌した後ろ過して、粉末リパーゼ製剤Aを得た。
リパーゼ製剤B:
天野エンザイム社の商品:リパーゼDF“Amano”15−K(リパーゼDともいう)の酵素溶液(150000U/ml)に、予めオートクレーブ滅菌(121℃、15分)を行い、室温程度に冷やした脱臭全脂大豆粉末(脂肪含有量が23質量%、商品名:アルファプラスHS−600、日清コスモフーズ(株)社製)10%水溶液を攪拌しながら3倍量加え、0.5N NaOH溶液でpH7.8に調整後、噴霧乾燥(東京理科器械(株)社、SD−1000型)を行い、粉末リパーゼ製剤Bを得た。
【0030】
〔油脂組成物の調製〕
油脂組成物A:
パーム油中融点画分1(組成 POP 62.3質量%、POP/P2O=0.84、PPP 3.2重量%、マレーシアISF社製)を油脂組成物Aとした。
油脂組成物B:
パーム油中融点画分1(組成 POP 62.3質量%、POP/P2O=0.84、PPP 3.2質量%、マレーシアISF社製)1200gに、リパーゼ製剤Aを0.2質量%添加し、70℃で2時間攪拌反応した。ろ過処理によりリパーゼ製剤Aを除去し、反応物を1184g得た。得られた反応物、1132gに、アセトン5660gを加え溶解した後、20℃に冷却し得られた固形部を除去した。液状部をさらに5℃まで冷却して得られた固形部を濾別した後、定法によりアセトン除去および精製を行い、油脂組成物B(組成 POP 78.1質量%、POP/P2O=0.98、PPP 1.3質量%)を792g得た。
油脂組成物C:
油脂組成物Bにパームハードステアリン(ヨウ素価13、マレーシアISF社製)を対油2%添加して、油脂組成物C(組成 POP 78.0質量%、POP/P2O=0.98、PPP 3.1質量%)を得た。
油脂組成物D:
パーム油中融点画分2(組成 POP 71.5質量%、POP/P2O=0.92、PPP 1.8質量%、マレーシアISF社製)350gに、リパーゼ製剤Bを0.3質量%添加し、50℃で2時間攪拌反応した。ろ過処理によりリパーゼ製剤Bを除去し、反応物337gを得た。得られた反応物を定法により精製を行い、油脂組成物D(組成 POP 72.1質量%、POP/P2O=0.96、PPP 3.7質量%)を283g得た。
【0031】
上記油脂組成物A〜DのP2O及びPPP含量はGLC(島津製作所製 GC−2010)で、POP/P2O比はLC−MS/MS(日本ウォーターズ社製 Quattro micro)にて分析を行った。
【0032】
GLCを用いたTAG組成分析法についてさらに詳しく説明する。GLC分析条件を以下に挙げる。
カラム Rtx−65TG (Restek社製) 15 m×0.1 μm×0.25 mm
検出器 FID
キャリアガス He
スプリット比 60:1
カラム温度℃ 350 ℃(1min)→(1 ℃/min)→ 365℃(4min)
注入口温度 365 ℃
検出器温度 365 ℃
【0033】
LC−MS/MSを用いたPOP/P2Oの分析法についてさらに詳しく説明する。LC−MS/MSの分析条件を以下に挙げる。
カラム 一般的なODSカラム(4.6mm×25cm)2本連結
溶出溶剤 アセトン/アセトニトリルの混合系
80/20〜100/0グラージェントモード
流速 0.5ml/min
イオン源 APCI
質量分析部 MRMモード
まず、POPと(PPO+OPP)との比を、POPとPPOの標準(フナコシ株式会社製)から作成した検量線を用いて算出した。POPとPPOとを比率を振って混合し、上記条件にてLC−MS/MSに供した。M/Z=833(PO)のプロダクトイオンM/Z=551(PO)とM/Z=557(PP)の比率(PO/PP)を算出し、これとPOPとPPOの標準混合比との間の検量線を作成した。試料を標準と同様に上記条件にて分析してPO/PP比を求め、検量線よりPOPと(PPO+OPP)との比を算出し、POP/P2O比に換算した。
【0034】
〔チョコレート生地における粘度抑制効果検証〕
油脂組成物A〜Dを使用して、表1の配合に従ってチョコレート生地1300gを調製し(比較参考例、比較例1、実施例1〜3)、卓上型テンパリングマシンを用いて50℃/3分 ⇒ 29℃/1分 ⇒32℃/3分の条件でテンパリング後、温調付きミキサーに移し、32℃における粘度変化を経時的に記録した。粘度はBH型粘度計を用い、ローターNo.6、回転数4rpmで計測した。測定結果を表2に示した(表2の粘度の単位;mPas)。
また、別途、テンパリング後のチョコレート生地を型に流し込み、剥離性を見ることでコーティングまたはエンローバー後の乾きの速さの指標とした。得られたチョコレートは20℃にて1週間保存した後に口溶けの評価を行った。結果は表2に記した。

剥離性 ◎:冷却後15分で剥がれる(乾きが速い)
○:冷却後20分で剥がれる
△:上記時間で剥がれない(乾きが遅い)

口溶け ◎:口どけが良好である
○:口どけが良好であるが、少し後に残る
△:口どけが悪い
【0035】
【表1】

*ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル:商品名サンソフトNo.818DG(太陽化学株式会社製)
【0036】
【表2】


表2より明らかな様に、実施例1〜3のチョコレート生地は、テンパリング直後の生地粘度が通常のチョコレートである比較参考例より低減されるだけではなく、生地粘度の低い状態を5〜6時間持続することができた。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明のテンパー型チョコレート類は、テンパリング後の粘度が低く抑えられるために、コーティング、特にエンローバー(上掛け)用途に最適であり、また、低油分であることから、経済性にも優れたものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,3−ジパルミトイル−2−オレオイルグリセリン(POP)の含有量が65質量%以上であり、オレオイルジパルミチン(P2O)に対するPOPの質量比(POP/P2O)が0.90以上である油脂組成物を2〜19質量%含有し、かつ、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有することを特徴とする油分が29〜38質量%であるテンパー型チョコレート類。
【請求項2】
前記油脂組成物のPOPの含有量が72質量%以上であり、POP/P2Oが0.92以上であることを特徴とする請求項1記載のテンパー型チョコレート類。
【請求項3】
前記油脂組成物のトリパルミチン(PPP)含有量が2〜6質量%であることを特徴とする請求項1又は2記載のテンパー型チョコレート類。
【請求項4】
コーティングまたはエンローバー用である請求項1〜3何れか1項記載のテンパー型チョコレート類。
【請求項5】
請求項1〜4何れか1項に記載のテンパー型チョコレート類を使用した菓子類またはパン類。
【請求項6】
1,3−ジパルミトイル−2−オレオイルグリセリン(POP)の含有量が65質量%以上であり、オレオイルジパルミチン(P2O)に対するPOPの質量比(POP/P2O)が0.90以上である油脂組成物とポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルとからなるテンパー型チョコレート類の粘度低減持続剤。
【請求項7】
1,3−ジパルミトイル−2−オレオイルグリセリン(POP)の含有量が65質量%以上であり、オレオイルジパルミチン(P2O)に対するPOPの質量比(POP/P2O)が0.90以上である油脂組成物とポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルとを配合することを特徴とするテンパー型チョコレート類の粘度低減持続方法。
【請求項8】
1,3−ジパルミトイル−2−オレオイルグリセリン(POP)の含有量が65質量%以上であり、オレオイルジパルミチン(P2O)に対するPOPの質量比(POP/P2O)が0.90以上である油脂組成物を2〜19質量%配合し、かつ、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを配合することを特徴とする油分が29〜38質量%であるテンパー型チョコレート類の製造法。

【公開番号】特開2010−22310(P2010−22310A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−189581(P2008−189581)
【出願日】平成20年7月23日(2008.7.23)
【出願人】(000227009)日清オイリオグループ株式会社 (251)
【Fターム(参考)】