説明

チルブロック

【課題】自身の破損を防止するとともに溶湯の湯吹きを適切に防止するチルブロックを提供する。
【解決手段】金型10のキャビティ3と、減圧源6と、の間を連通するガス抜き通路5に設けられたチルブロック7であって、チルブロック7に流入した溶湯を、溶湯の流入方向と略垂直な2方向に分岐させる分岐部91と、分岐部91により2方向に分岐された溶湯を、再び合流させる合流部92と、分岐部91と合流部92とを連通する2つの連通路83、84と、が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型内に設けられるチルブロックに関する。
【背景技術】
【0002】
金型のキャビティ内にアルミ等の金属の溶湯を圧入することにより、高い精度の鋳物を短時間に大量に生産するダイカスト鋳造と呼ばれる金型鋳造法が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には、このようなダイカスト鋳造用の金型に設けられたガス抜き通路の一部を蛇行通路として構成することで、溶湯の湯吹きを防止する技術が開示されている。ここでいうガス抜き通路とはキャビティ内のガスを抜くための通路である。しかしながら一方で、キャビティ内に圧入された溶湯もこのガス抜き通路を通って金型の外へ噴出(すなわち湯吹き)し得る。そこで、蛇行通路によってガス抜き通路に流入した溶湯の速度を低減させることで、かかる溶湯の湯吹きを防止しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−114280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された技術では、蛇行通路を形成する各凹凸部を破損させてしまう問題があった。これは、蛇行通路の流路断面積がガス抜き通路の流路断面積よりも小さいために、蛇行通路を流れる溶湯の速度が各凹凸部を破損させてしまう程度(例えば約40m/s)に速くなるからである。
【0006】
また、溶湯の湯吹きを適切に防止できない問題があった。これは、蛇行通路を流れる溶湯の速度が速いことに加えて、蛇行通路が通路入口から通路出口に向かって直線的になっていることから蛇行通路の特に流路中央において溶湯の速度を低減させることができないためである。
【0007】
さらに、蛇行通路の流路外側に溶湯の固まった粉が残ってしまう状況が生じていた。これは、蛇行通路の流路中央における溶湯の速度が流路外側よりも速いために蛇行通路の流路中央から流路外側に向かって渦流が発生し、この渦流の影響等を受けたものと考えられる。
【0008】
本発明は、このような技術的課題を鑑みてなされたもので、自身の破損を防止するとともに溶湯の湯吹きを適切に防止するチルブロックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、金型のキャビティと、減圧源と、の間を連通するガス抜き通路に設けられたチルブロックであって、当該チルブロックに流入した溶湯を、溶湯の流入方向と略垂直な2方向に分岐させる分岐部と、前記分岐部により2方向に分岐された溶湯を、再び合流させる合流部と、前記分岐部と前記合流部とを連通する2つの連通路と、が形成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、まずチルブロックに流入した溶湯を、溶湯の流入方向と略垂直な2方向に分岐させることで、溶湯の圧力を分散させている。加えて、分岐された溶湯を2つの連通路に通流させることで、溶湯が通流する通路の表面積を実質的に増大させている。これにより、溶湯の冷却性を向上させるとともに溶湯の速度を低減させている。そのため、チルブロック自身の破損を防止するとともに溶湯の湯吹きを適切に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係るチルブロックを有する金型の一例を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るチルブロックの概略構成を示す図である。
【図3】第一の実施形態に係る可動型ブロックの斜視図である。
【図4】第一の実施形態に係る固定型ブロックの斜視図である。
【図5】第一の実施形態に係るチルブロックの断面図である。
【図6】第一の実施形態に係る可動型ブロックの冷却水通路を示す斜視図である。
【図7】第一の実施形態に係る固定型ブロックの冷却水通路を示す斜視図である。
【図8】第二の実施形態に係る可動型ブロックの斜視図である。
【図9】第二の実施形態に係る固定型ブロックの斜視図である。
【図10】第二の実施形態に係るチルブロックの断面図である。
【図11】第二の実施形態に係る可動型ブロックの冷却水通路を示す斜視図である。
【図12】第二の実施形態に係る固定型ブロックの冷却水通路を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0013】
[第一の実施形態]
まず、本発明の第一の実施形態について説明する。
【0014】
(金型10の構成)
図1は、本発明の一実施形態に係るチルブロック7を有する金型10の一例を示す図である。図1に示す金型10は、可動型1、固定型2、キャビティ3、射出部4、ガス抜き通路5、真空バルブ6、チルブロック7等を有する構成である。
【0015】
可動型1は、固定型2に対して移動可能な金型である。固定型2は、位置が固定されている金型である。キャビティ3は、可動型1と固定型2とによって形成され、この金型10による成形品と略同一形状を有する空間である。このキャビティ3には、射出部4により射出された溶湯が溶湯路42から流れ込む。
【0016】
射出部4は、固定型2に設けられ、キャビティ3にアルミ等の金属の溶湯を射出する。この射出部4は、溶湯を給湯する給湯口41、給湯口41から給湯された溶湯の流路である溶湯路42、溶湯路42の溶湯をキャビティ3に向かって射出する射出ブランジャ43、射出ブランジャ43が溶湯路42の内部を摺動するために設けられた射出スリーブ44により構成される。
【0017】
ガス抜き通路5は、可動型1と固定型2とによって形成され、キャビティ3の内部のガスを抜くために形成された通路である。このガス抜き通路5は、金型10の外に設けられた真空バルブ6に通じている。
【0018】
真空バルブ6は、金型10の外に設けられた減圧源であって、ガス抜き通路5に通じる開閉型のバルブである。この真空バルブ6は、真空吸引装置61に接続されている。この金型10を用いて鋳造する際には、真空吸引装置61は真空バルブ6を介してキャビティ3内のガスを吸引することでキャビティ3の内部を真空及び減圧した状態にする。空気の巻き込みや酸化物の生成を抑制するためである。
【0019】
チルブロック7は、ガス抜き通路5において真空バルブ6とキャビティ3との間に設けられたブロックである。本実施形態に係るこのチルブロック7は、自身の破損を防止するとともに溶湯の湯吹きを適切に防止することができることを特徴の一つとしている。以下、このようなチルブロック7について説明する。
【0020】
(チルブロック7の概略構成)
図2は、本発明の一実施形態に係るチルブロック7の概略構成を示す図である。図2に示すようにチルブロック7は、可動型ブロック8と固定型ブロック9とが合わさって構成される。可動型ブロック8は、図1の可動型1に設けられるブロック片である。固定型ブロック9は、図1の固定型2に設けられるブロック片である。
【0021】
また、このチルブロック7には溶湯通路11が形成されている。ここでいう溶湯通路11とはチルブロック7の内部における溶湯の通路であり、チルブロック7の前後のガス抜き通路5に通じている。この溶湯通路11は、可動型ブロック8及び固定型ブロック9によって形成される。
【0022】
(チルブロック7の詳細構成)
図3は、第一の実施形態に係る可動型ブロック8の斜視図である。図4は、第一の実施形態に係る固定型ブロック9の斜視図である。図5は、第一の実施形態に係るチルブロック7の断面図である。
【0023】
図3に示す可動型ブロック8では、合わせ面80において入口溝81、出口溝82、第1連通溝83、第2連通溝84が形成されている。
【0024】
入口溝81は、合わせ面80の下縁部80aの中央において下縁部80aに対して垂直方向に形成された凹部である。この入口溝81は、下縁部80aから離れるほど溝の深さが浅くなるよう形成されている。また、チルブロック7よりもキャビティ3の側のガス抜き通路5に通じている。出口溝82は、合わせ面80の上縁部80bの中央において上縁部80bに対して垂直方向に形成された凹部である。この出口溝82は、上縁部80bから離れるほど溝の深さが浅くなるよう形成されている。また、チルブロック7よりも真空バルブ6の側のガス抜き通路5に通じている。第1連通溝83は、合わせ面80において入口溝81(又は出口溝82)と平行に且つ入口溝81(又は出口溝82)から一定距離をオフセットして形成された略直方体状の凹部である。第2連通溝84は、合わせ面80において入口溝81(又は出口溝82)を挟んで第1連通溝83と対向する側に平行に且つ入口溝81(又は出口溝82)から一定距離をオフセットして形成された略直方体状の凹部である。
【0025】
図4に示す固定型ブロック9では、合わせ面90において分岐溝91、合流溝92が形成されている。
【0026】
分岐溝91は、合わせ面90の下縁部90aから一定距離離れた位置に形成されたT字状の凹部91aと、分岐の略中心である分岐点91bから図4の上方に向かって凹んだ位置に壁面を有する壁部91cと、から構成された十字路状の凹部である。合流溝92は、合わせ面90の上縁部90bから一定距離離れた位置に形成された逆T字状の凹部である。
【0027】
以上図3及び図4を用いて可動型ブロック8、固定型ブロック9の各々の構成について説明してきた。このような可動型ブロック8の合わせ面80と固定型ブロック9の合わせ面90を合わせることで、図5に示すチルブロック7及び溶湯通路11が形成される。
【0028】
(溶湯通路11における溶湯の流れ(チルブロック7の作用))
図5(a)は、第一の実施形態に係るチルブロック7を図2の側方方向Aから見た断面図である。図5(b)は、第一の実施形態に係るチルブロック7を図2の鉛直方向Bから見た断面図である。
【0029】
図5(a)、(b)に示すチルブロック7において溶湯通路11は、可動型ブロック8の各溝81乃至84、及び、固定型ブロック9の各溝91、92によって形成されている。この溶湯通路11は、チルブロック7の内部において以下説明するような溶湯の流れを作り出す。
【0030】
まず、溶湯は可動型ブロック8の入口溝81から流入し、入口溝81に対向している固定型ブロック9の分岐溝91(凹部91a)に流入する。分岐溝91に流入した溶湯は、そのまま流入方向に沿って進んで壁部91cに衝突する。壁部91cに衝突した溶湯は、凹部91aを構成する第1分岐溝91d、第2分岐溝91eの2方向に分岐して通流する。
【0031】
第1分岐溝91dに向かって分岐した溶湯は、この第1分岐溝91dに対向している可動型ブロック8の第1連通溝83(ポケット部83a)に流入する。第1連通溝83に流入した溶湯は、そのまま第1連通溝83の内部を進んでポケット部83bの壁部83cに衝突する。壁部83cに衝突した溶湯は、ポケット部83bに対向している固定型ブロック9の合流溝92(第1合流溝92a)に流入する。
【0032】
一方、分岐溝91において第2分岐溝91eに向かって分岐した溶湯は、この第2分岐溝91eに対向している可動型ブロック8の第2連通溝84(ポケット部84a)に流入する。第2連通溝84に流入した溶湯は、そのまま第2連通溝84の内部を進んでポケット部84bの壁部84cに衝突する。壁部84cに衝突した溶湯は、ポケット部84bに対向している固定型ブロック9の合流溝92(第2合流溝92b)に流入する。
【0033】
このようにして第1合流溝92a、第2合流溝92bのそれぞれから合流溝92に流入した溶湯は、合流溝92の合流点92cで合流する。この合流した溶湯は、この合流溝92に対向している可動型ブロック8の出口溝82を通ってガス抜き通路5に流出する。
【0034】
以上のように、可動型ブロック8の入口溝81、出口溝82は、それぞれ、溶湯を流入する入口路、流出する出口路として機能している。また可動型ブロック8の第1連通溝83、第2連通溝84は、固定型ブロック9の分岐溝91と合流溝92とを連通する連通路として機能している。一方、固定型ブロック9の分岐溝91、合流溝92は、それぞれ、チルブロック7に流入した溶湯をその流入方向に対して垂直な2方向に分岐させる分岐部、分岐溝91において分岐された溶湯の流れを合流させる合流部として機能している。さらに、各壁部91c、83c、84c(図5(b)参照)は、溶湯の通流方向に向かって凹んだ位置に壁面を有する凹部であり、流入してきた溶湯の圧力を弱める圧力低減手段及び溶湯の速度を低減させる速度低減手段として機能している。
【0035】
(チルブロック7の効果)
以上、図5を用いて溶湯通路11における溶湯の流れ(チルブロック7の作用)について説明してきた。続いて、このようなチルブロック7の効果を説明する。
【0036】
このチルブロック7では、まず入口溝81から流入してきた溶湯を流入方向に対して凹んで形成された壁部91cに当てることで、流入してきた溶湯の圧力を弱めるとともに溶湯の速度を低減させている。また、壁部91cに当てた溶湯を第1分岐溝91d、第2分岐溝91eの方向(溶湯の流入方向に対して垂直な2方向)に分岐させることで、溶湯の圧力を分散させるとともに溶湯の冷却性を向上させている。溶湯の冷却性が向上するのは、溶湯が通流する通路の表面積が実質的に増大するからである。そのため、チルブロック7自身の破損を防止するとともに溶湯の湯吹きを適切に防止することができる。
【0037】
またこのチルブロック7では、2方向に分岐させた溶湯のそれぞれを、壁部83c、84cにさらに当てることで、流入してきた溶湯の圧力をさらに弱めるとともに溶湯の速度をさらに低減させている。そのため、チルブロック7自身の破損をより適切に防止するとともに溶湯の湯吹きをより適切に防止することができる。
【0038】
またこのチルブロック7では、溶湯通路11は図3乃至図5に示すように2層構造である。すなわち、可動型ブロック8に形成される各溝81乃至84と、固定型ブロック9に形成される各溝91、92とにより2層状に構成されている。これにより1層構造である場合よりも溶湯の流路長を長くすることができる。溶湯の流路長が長いほど溶湯の冷却性を高めることができるので、チルブロック7自身の破損をより適切に防止するとともに溶湯の湯吹きをより適切に防止することができる。
【0039】
またこのチルブロック7では、溶湯の流れ方向が入口溝81から出口溝82に向かって直線的になっていない。そのため、内部を通流する溶湯の速度に位置間の偏りを生じるのを防ぐとともに、渦流の影響等を受けて内部に溶湯の固まった粉が残ってしまう状況を防ぐことができる。さらに、溶湯の流路方向を2方向に分岐させてその後に再び合流させるという簡易な構成にしているため、レイアウト性を高めることができる。
【0040】
なお、可動型ブロック8及び固定型ブロック9には、図6及び図7に示すように冷却水通路88、98を設けるのが好ましい。図6は、第一の実施形態に係る可動型ブロック8の冷却水通路を示す斜視図である。図7は、第一の実施形態に係る固定型ブロック9の冷却水通路を示す斜視図である。
【0041】
図6に示す冷却水通路88は、可動型ブロック8の第1連通溝83及び第2連通溝84の真下を通る構成である。また図7に示す冷却水通路98は、固定型ブロック9の分岐溝91の真下を通る構成である。これにより、各溝83、84、91を通流する溶湯の冷却性を向上させることができる。また、溶湯が冷却されると粘度が上がって溶湯の速度が低減するため、溶湯の速度を低減させることもできる。
【0042】
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
【0043】
第2の実施形態に係る金型10の全体構成とチルブロック7の概略構成は、前述の第1の実施形態と同様であるとしてここでは説明を省略する(図1、2参照)。
【0044】
(チルブロック7の詳細構成)
図8は、第二の実施形態に係る可動型ブロック8の斜視図である。図9は、第二の実施形態に係る固定型ブロック9の斜視図である。図10は、第二の実施形態に係るチルブロック7の断面図である。
【0045】
図8に示す可動型ブロック8では、合わせ面80において入口溝85、出口溝86が形成されている。
【0046】
入口溝85は、合わせ面80の下縁部80aの中央において下縁部80aに対して垂直方向に形成された略T字状の凹部である。この入口溝85は、下縁部80aから離れるほど溝の深さが浅くなるよう形成されている。また、この入口溝85は、分岐の略中心である分岐点85aを中心に同図の下方(手前側)に傾斜して開脚形状となるヘの字状に形成されている。さらに、チルブロック7よりもキャビティ3の側のガス抜き通路5に通じている。出口溝86は、合わせ面80の上縁部80bの中央において上縁部80bに対して垂直方向に形成された略逆T字状の凹部である。この出口溝86は、上縁部80bから離れるほど溝の深さが浅くなるよう形成されている。また、この出口溝86は、合流の略中心である合流点86aを中心に同図の下方(手前側)に傾斜して開脚形状となる逆ヘの字状に形成されている。この出口溝86はチルブロック7よりも真空バルブ6の側のガス抜き通路5に通じている。
【0047】
図9に示す固定型ブロック9では、合わせ面90において第1連通溝93、第2連通溝94が形成されている。
【0048】
第1連通溝93は、合わせ面90において下縁部90aから上縁部90bに向かって外側に拡がるよう斜めに形成された略直方体状の凹部である。第2連通溝94は、第1連通溝93と同様に、合わせ面90の内側において下縁部90aから上縁部90bに向かって外側に拡がるよう斜めに形成された略直方体状の凹部である。
【0049】
以上図8及び図9を用いて可動型ブロック8、固定型ブロック9の各々の構成について説明してきた。このような可動型ブロック8の合わせ面80と固定型ブロック9の合わせ面90を合わせることで、図10に示すチルブロック7及び溶湯通路11が形成される。
【0050】
(溶湯通路11における溶湯の流れ(チルブロック7の作用))
図10(a)は、第二の実施形態に係るチルブロック7を図2の側方方向Aから見た断面図である。図10(b)は、第二の実施形態に係るチルブロック7を図2の鉛直方向Bから見た断面図である。
【0051】
図10(a)、(b)に示すチルブロック7において溶湯通路11は、可動型ブロック8の各溝85、86、及び、固定型ブロック9の各溝93、94によって形成されている。この溶湯通路11は、チルブロック7の内部において以下に説明するような溶湯の流れを作り出す。
【0052】
まず、溶湯は可動型ブロック8の入口溝85から流入し、そのまま流入方向に沿って進んで分岐点85aの壁部85bに衝突する。壁部85bに衝突した溶湯は、溶湯の流入方向に対向して開脚形状となるヘの字状に形成された入口溝85の壁部85bに沿って第1分岐溝85c、第2分岐溝85eの2方向に分岐して通流する。
【0053】
第1分岐溝85cに向かって分岐した溶湯は、そのまま第1分岐溝85cの壁部85dに衝突する。壁部85dに衝突した溶湯は、第1分岐溝85cに対向している固定型ブロック9の第1連通溝93(ポケット部93a)に流入する。第1連通溝93に流入した溶湯は、そのまま第1連通溝93の内部を進んでポケット部93bの壁部93cに衝突する。壁部93cに衝突した溶湯は、ポケット部93bに対向している可動型ブロック8の出口溝86(第1合流溝86b)に流入する。
【0054】
一方、入口溝85において第2分岐溝85eに向かって分岐した溶湯は、そのまま第2分岐溝85eの壁部85fに衝突する。壁部85fに衝突した溶湯は、第2分岐溝85eに対向している固定型ブロック9の第2連通溝94(ポケット部94a)に流入する。第2連通溝94に流入した溶湯は、そのまま第2連通溝94の内部を進んでポケット部94bの壁部94cに衝突する。壁部94cに衝突した溶湯は、ポケット部94bに対向している可動型ブロック8の出口溝86(第2合流溝86c)に流入する。
【0055】
このようにして第1合流溝86b、第2合流溝86cのそれぞれから出口溝86に流入した溶湯は、出口溝86の内部で合流する。この合流した溶湯は、この出口溝86を通ってガス抜き通路5に流出する。
【0056】
以上のように、可動型ブロック8の入口溝85、出口溝86は、それぞれ、溶湯を流入する入口路、流出する出口路として機能している。加えて、チルブロック7に流入した溶湯をその流入方向に対して略垂直な2方向に分岐させる分岐部、入口溝85において分岐された溶湯の流れを合流させる合流部として機能している。一方、固定型ブロック9の第1連通溝93、第2連通溝94は、可動型ブロック8の入口溝85と出口溝86とを連通する連通路として機能している。さらに、各壁部85b、85d、85f、93c、94c(図10(b)参照)は、溶湯の通流方向に向かって凹んだ位置に壁面を有する凹部であり、流入してきた溶湯の圧力を弱める圧力低減手段及び溶湯の速度を低減させる速度低減手段として機能している。
【0057】
(チルブロック7の効果)
以上、図10を用いて溶湯通路11における溶湯の流れ(チルブロック7の作用)について説明してきた。続いて、このようなチルブロック7の効果を説明する。
【0058】
このチルブロック7では、まず入口溝85から流入してきた溶湯を流入方向に対して垂直な壁部85bに当てることで、流入してきた溶湯の圧力を弱めるとともに溶湯の速度を低減させている。また、壁部85bに当てた溶湯を第1分岐溝85c、第2分岐溝85eの方向(溶湯の流入方向に対して略垂直な2方向)に分岐させることで、溶湯の圧力を分散させるとともに溶湯の冷却性を向上させている。溶湯の冷却性が向上するのは、溶湯が通流する通路の表面積が実質的に増大するからである。そのため、チルブロック7自身の破損を防止するとともに溶湯の湯吹きを適切に防止することができる。
【0059】
またこのチルブロック7では、2方向に分岐させた溶湯のそれぞれを、壁部85d及び壁部93c、壁部85f及び壁部94cの複数の壁部にさらに当てることで、流入してきた溶湯の圧力を前述の第一の実施形態よりもさらに弱めるとともに溶湯の速度をさらに低減させている。そのため、チルブロック7自身の破損をより適切に防止するとともに溶湯の湯吹きをより適切に防止することができる。
【0060】
またこのチルブロック7では、図8に示すように入口溝85、出口溝86をヘの字状に形成したり、図9に示すように第1連通溝93、第2連通溝94をチルブロック7ヘの溶湯の流入方向に対して斜めに形成したりすることで、溶湯の流路長を前述の第一の実施形態よりも長くしている。溶湯の流路長が長いほど溶湯の冷却性を高めることができるので、チルブロック7自身の破損をより適切に防止するとともに溶湯の湯吹きをより適切に防止することができる。
【0061】
またこのチルブロック7では、溶湯の流れ方向が入口溝85から出口溝86に向かって直線的になっていない。そのため、内部を通流する溶湯の速度に位置間の偏りを生じるのを防ぐとともに、渦流の影響等を受けて内部に溶湯の固まった粉が残ってしまう状況を防ぐことができる。さらに、溶湯の流路方向を2方向に分岐させてその後に再び合流させるという簡易な構成にしているため、レイアウト性を高めることができる。
【0062】
なお、可動型ブロック8及び固定型ブロック9には、図11及び図12に示すように冷却水通路89、99を設けるのが好ましい。図11は、第二の実施形態に係る可動型ブロック8の冷却水通路89を示す斜視図である。図12は、第二の実施形態に係る固定型ブロック9の冷却水通路99を示す斜視図である。
【0063】
図11に示す冷却水通路89は、可動型ブロック8の入口溝85及び出口溝86の真下を通る構成である。また図12に示す冷却水通路99は、固定型ブロック9の第1連通溝93及び第2連通溝94の真下を通る構成である。これにより、各溝85、86、93、94を通流する溶湯の冷却性を向上させることができる。また、溶湯が冷却されると粘度が上がって溶湯の速度が低減するため、溶湯の速度を低減させることもできる。
【0064】
(まとめ)
上記第一の実施形態に係るチルブロック7によれば、まずチルブロック7に流入した溶湯を、第1分岐溝91d、第2分岐溝91eの方向(溶湯の流入方向と略垂直な2方向)に分岐させることで、溶湯の圧力を分散させている。加えて、分岐された溶湯を2つの連通路83、84に通流させることで、溶湯が通流する通路の表面積を実質的に増大させている。これにより、溶湯の冷却性を向上させるとともに溶湯の速度を低減させている。そのため、チルブロック7自身の破損を防止するとともに溶湯の湯吹きを適切に防止することができる(請求項1に記載の発明の効果)。
【0065】
また、上記第一の実施形態に係るチルブロック7によれば、分岐溝91、合流溝92が形成された固定型ブロック9と、第1連通路83、第2連通路84が形成された可動型ブロック8と、から構成される2層構造にしている。2層状に構成することで1層状の場合に比べて溶湯の流路長を長くすることができる。溶湯の流路長が長いほど溶湯の冷却性を高めることができるので、チルブロック7自身の破損をより適切に防止するとともに溶湯の湯吹きをより適切に防止することができる(請求項2に記載の発明の効果)。
【0066】
また、上記第一の実施形態に係るチルブロック7によれば、分岐溝91は、その分岐点91bに溶湯の流入方向に向かって凹んだ壁部91cが形成されている。この壁部91cに入口溝81から流入してきた溶湯を当てることで、流入してきた溶湯の圧力を弱めるとともに溶湯の速度を低減させることができる(請求項3に記載の発明の効果)。
【0067】
また、上記第二の実施形態に係るチルブロック7によれば、入口溝85は、溶湯の流入方向に対向して開脚形状となるヘの字状に形成されている。このヘの字状の入口溝85の中心の分岐点85aの壁部85bに入口溝85から流入してきた溶湯を当てることで、流入してきた溶湯の圧力を弱めるとともに溶湯の速度を低減させることができる(請求項4に記載の発明の効果)。
【0068】
また、上記第一の実施形態に係るチルブロック7によれば、2つの連通路83、84の各々には、連通路83、84と合流溝92との接続部であるポケット部83b、84bより溶湯の通流方向に向かって凹んだ壁部83c、84cが形成されている。この壁部83c、84cに各々の連通路83、84を通流する溶湯を当てることで、溶湯の圧力をさらに弱めるとともに溶湯の速度をさらに低減させることができる(請求項5に記載の発明の効果)。
【0069】
また、上記第二の実施形態に係るチルブロック7によれば、2つの連通路93、94は、溶湯の流入方向に対して斜めに形成されている。そのため、溶湯の流路長を長くし、これに伴い溶湯の冷却性を高めることができる(請求項6に記載の発明の効果)。
【0070】
以上、本発明の各実施形態について説明したが、上記各実施形態は本発明の適用例の一つを示したものであり、本発明の技術的範囲を上記各実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0071】
例えば、上記説明においては、図5の第1連通溝83、第2連通溝84が、固定型ブロック9の分岐溝91と合流溝92とを連通する連通路として機能していると説明したが、この場合に限らない。すなわち、特許請求の範囲に示す連通路とは、分岐点91bから合流点92cまでの溶湯の流路の全部又は一部を示すものであってよい。
【0072】
また例えば、上記説明においては、図10の第1連通溝93、第2連通溝94が、可動型ブロック8の入口溝85と出口溝86とを連通する連通路として機能していると説明したが、この場合に限らない。すなわち、特許請求の範囲に示す連通路とは、分岐点85aから合流点86aまでの溶湯の流路の全部又は一部を示すものであってよい。
【符号の説明】
【0073】
1 可動型
2 固定型
3 キャビティ
5 ガス抜き通路
6 真空バルブ(減圧源)
7 チルブロック
10 金型
11 溶湯通路
83 第1連通溝(第1連通路)
83b ポケット部(接続部)
83c 壁部
84 第2連通溝(第2連通路)
84b ポケット部(接続部)
84c 壁部
91 分岐溝(分岐部)
91b 分岐点
91c 壁部
92 合流溝(合流部)
92c 合流点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型のキャビティと、減圧源と、の間を連通するガス抜き通路に設けられたチルブロックであって、
当該チルブロックに流入した溶湯を、溶湯の流入方向と略垂直な2方向に分岐させる分岐部と、
前記分岐部により2方向に分岐された溶湯を、再び合流させる合流部と、
前記分岐部と前記合流部とを連通する2つの連通路と、
が形成されたことを特徴とするチルブロック。
【請求項2】
前記分岐部及び前記合流部が形成された第一の金型と、前記連通路が形成された第二の金型と、から構成されることを特徴とする請求項1に記載のチルブロック。
【請求項3】
前記分岐部は、前記溶湯の流入方向に凹んだ壁部が形成されたことを特徴とする請求項1又は2に記載のチルブロック。
【請求項4】
前記分岐部は、前記溶湯の流入方向に対向して開脚形状となるヘの字状に形成されたことを特徴とする請求項1又は2に記載のチルブロック。
【請求項5】
前記2つの連通路の各々には、前記連通路と前記合流部との接続部より前記溶湯の通流方向に凹んだ壁部が形成されたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のチルブロック。
【請求項6】
前記2つの連通路は、前記溶湯の流入方向に対して斜めに形成されたことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のチルブロック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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