説明

チロシンベースのポリカーボネートとポリ(酸化アルキレン)とのコポリマ

【課題】チロシンベースのポリカーボネートとポリ(酸化アルキレン)とのコポリマーを提供する。
【解決手段】


を有するランダムブロックコポリマであって、Rは−CH=CH−または(−CH−)であり、jは零または1乃至8の整数であり、Rは水素、18個以下の炭素原子を含む直鎖および枝分れアルキルおよびアルキルアリール基並びに前記コポリマに共有結合された活性化合物の誘導体よりなる群から選ばれ、各Rは、4個以下の炭素原子を含むアルキレン基であって独立しており、yは約5乃至約3000である。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
技術分野
本発明は、チロシンベースのポリカーボネートとポリ(酸化アルキレン)とのコポリマおよびかかるコポリマを合成する方法に関する。
背景技術
ビスフェノールAのようなジフェノールから誘導される線状芳香族ポリカーボネートは、重要な等級の縮合ポリマを提供する。かかるポリカーボネートは、強力で、強靱な高融点材料となる。これらは、文献で周知であるとともに、商業的に大量に生産されている。
ポリ(ビスフェノールAカーボネート)とポリ(酸化アルキレン)とのブロックコポリマに関する初期の研究は1961年に始まり、MerrillとGoldbergのグループにより行われた。先づ、J.Polym.Sci.、第55巻、第343−52頁(1961年)に掲載のMerrillの論文には、ポリ(酸化アルキレン)ブロックをポリ(ビスフェノールAカーボネート)に導入することが記載されている。このMerrillの論文には、(塩化メチレンに溶解した)ポリ(ビスフェノールAカーボネート)と(水酸化ナトリウム水溶液に溶解した)ポリ(酸化アルキレン)ビスクロロホルメートとの界面共重合が記載されている。ポリ(酸化アルキレン)の軟質ブロックが存在することにより、ポリカーボネートの結晶化を促進し、これにより高融点の軟質ポリマーが得られている。その後、J.Polym.Sci.,Part C、第4巻、第707−30頁(1964年)に掲載のGoldbergの論文で、ポリ(ビスフェノールAカーボネート)とポリ(酸化アルキレン)とのブロックコポリマに関する更なる研究が報告された。軟質で極性を有する水溶性ブロックセグメントを剛性のある線状の芳香族ポリカーボネート鎖に組み込むことにより、これまでとは異なる熱および可塑特性を有するエラストマが得られている。特に、Goldbergの論文には、コモノマとしてのポリ(酸化エチレン)をビスフェノールAとともに使用することが記載されている。この合成は、ホスゲンをピリジン中でモノマの混合物と反応させるものであり、次いで、イソプロパノール中で沈降させることによりコポリマを精製するものである。コポリマは、ポリ(酸化エチレン)の分子量とコポリマの組成との関数としての構造−特性相関関係に関して研究された。著しい強度と大きな弾性が、3モル%を越えるポリ(酸化エチレン)ブロック濃度で観察された。これらの熱可塑性エラストマはまた、高軟化点(>180℃)と、約700%に達する引張伸びとを呈している。ガラス転移温度と軟化点の双方が、ポリ(酸化エチレン)のモル比とともに直線変化している。初期の研究では、これらのコポリマは良好なエラストマであることが確立されたが、医療上の用途は検討されていない。
その後、Polym.J.、第17(3)巻、第499−508頁(1985年)に掲載のTanisugiの論文、Polym.J.、第16(8)巻、第633−40頁(1984年)に掲載のTanisugiの論文、Polym.J.、第17(8)巻、第909−18頁(1984年)に掲載のTanisugiの論文、Polym.J.、第16(2)巻、第129−38頁(1983年)に掲載のSuzukiの論文およびPolym.J.、第15(1)巻、第15−23頁(1982年)に掲載のSuzukiの論文には、緩和、形態、水収着、膨潤、並びに、このコポリマから形成された膜を介しての水およびエタノール蒸気の拡散が報告されている。
Biomaterials、第12(4)巻、第369−73頁(1991年)に掲載のMandenius等の論文には、血液浄化用の膜としてのポリスルホン、ポリアミドおよびポリアクリロニトリルと比較したこのコポリマの血漿蛋白質吸収が報告されている。コポリマのラングミュア溶液流延フィルムに対する血小板の付着もまた、J.Biomed.Mat.Res.、第27巻、第199−206頁(1993年)に掲載のCho等の論文に報告されている。ポリ(ビスフェノールAカーボネート)とポリ(酸化アルキレン)のコポリマを血液透析膜または血漿セパレータとして使用することが、米国特許第4,308,145号および第5,084,173号、ヨーロッパ特許第46,817号、並びに、ドイツ特許第2,713,283号、第2,932,737号および第2,932,761号に開示されている。
これまでは、ポリカーボネートとポリ(酸化アルキレン)とのブロックコポリマは、医療用移植材料としては研究されていなかった。文献についての広範な調査によってもインビトロまたはインビボ分解の研究は明らかにされなかったが、ポリ(ビスフェノールAカーボネート)とポリ(酸化アルキレン)との現在公知のブロックコポリマは分解性移植片の形成に適した速度の生理学的条件の下で分解を行うことを当業者が予期していたとは考えられない。
米国特許第5,198,507号および第5,216,115号には、チロシン誘導のジフェノールモノマが開示されており、このモノマの化学構造はポリカーボネート、ポリイミノカーボネートおよびポリアリーレートの重合において特に有用であるように構成されている。得られるポリマは、一般的には分解性ポリマとして、特に生体医療用の組織適合性生体浸食材料として有用である。かかる最終用途に対するこれらのポリマの安定性は、自然で生ずる代謝産物、特に、アミノ酸L−チロシンからの誘導によるものである。
チロシンベースのポリカーボネートは、生理学的条件の下で緩慢に分解する強力で、強靱な疎水材料である。薬剤配給体、非血栓形成コーティング、血管移植片、傷処置材、人工皮膚のような多くの医療用途には、入手可能なチロシンベースのポリカーボネートよりも親水性がありかつ迅速に分解を行う比較的軟質の材料が必要とされる。
発明の概要
本発明においては、ポリ(酸化アルキレン)セグメントをチロシンベースのポリカーボネートの主鎖に導入すると、有意に増大した分解速度を呈する一層軟質で、より親水性のポリマが得られることがわかった。ポリ(ビスフェノールAカーボネート)とポリ(酸化アルキレン)とのこれまで公知のブロックコポリマは、生理学的条件下では感知可能な程度には分解しないのは明らかであるので、ポリ(酸化アルキレン)をチロシンベースのポリカーボネートに組み込むと分解速度を有意に増大させることができるという知得は、予期し得ないものである。更にまた、チロシンベースのポリカーボネートとポリ(酸化エチレン)との、この開示されているコポリマは、各単量体繰り返し単位にアルキルエステル側鎖(pendent chain)を有する。この側鎖は、ポリ(ビスフェノールAカーボネート)とポリ(酸化アルキレン)との現在公知のコポリマの中では、先例のない構造上の特徴を形成している。以下において詳細に説明するように、側鎖の長さを変えることにより、ポリマの特性を微調整することができる。この種の研究は、他のポリマ系の文献において公知であるが、ポリ(ビスフェノールAカーボネート)とポリ(酸化アルキレン)とのブロックコポリマおいて行われることはなかった。更に、側鎖を含むカルボン酸が存在すると、生物学的および薬学的に活性な成分をポリマの主鎖に容易に取着させることができる。これはまた、ビスフェノールAとポリ(酸化アルキレン)とのこれまで公知のコポリマの中では先例にない特徴である。
従って、本発明の一の観点によれば、下記の式1の構造を有する、チロシン誘導ジフェノールモノマとポリ(酸化アルキレン)とのランダムブロックコポリマが提供されており、

は−CH=CH−または(−CH−)であり、jは零または1乃至8の整数であり、
は水素、18個以下の炭素原子を含む直鎖(straight)および枝分れアルキルおよびアルキルアリール基並びにコポリマに共有結合された生物学的および薬学的活性化合物の誘導体から選ばれ、
各Rは、1乃至4個の炭素原子を含むアルキレン基から独立して選ばれ、
yは、約5乃至約3000であり、
fは、コポリマの酸化アルキレンのモル分率パーセントであって、約1乃至約99モルパーセントの範囲にある。
コポリマに関して観察された別の重要な現象は、水性媒体におけるポリマゲルまたはポリマ溶液の温度依存逆相転移(inverse phase transition)である。逆温度転移は、Tissure Engineering:Current Perspective(ニューヨーク州に所在するBoston Birkhauser)第199−206頁においてUrryにより説明されているしている蛋白質および蛋白質ベースのポリマ、Nature、第355巻、第430−32頁(1992年)に掲載のAnnaka等の論文、Phys.Rev.Lett.、第45(20)巻、第1636−39頁(1980年)に掲載のTanaka等の論文およびJ.Chem.Phys.、第81(12)巻、第6379−80頁(1984年)に掲載のHirokawa等の論文に記載されているポリ(アクリル酸)誘導コポリマ、並びに、Macromol、Reports、第A31(補6および7)巻、第1299−306頁(1994年)に掲載のArmstrong等の論文に記載されているポリ(エチレングリコール)−ポリ(プロピレングリコール)コポリマのような幾つかの天然および合成ポリマ系に関して観察されている。これらのポリマのポリマゲルおよび溶液は、温度、溶媒組成、pHまたはイオン組成の変化により連続した、または不連続の体積変化を行うことが知られている。相変化の駆動力は、吸引または反発静電相互作用、水素結合または疎水作用とすることができる。
蛋白質ベースの生体弾性材料、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)およびポリ(エチレングリコール)−ポリ(プロピレングリコール)コポリマのような非イオン合成ポリマ、並びに、本発明のコポリマの場合には、相転移の駆動力は、水素結合および疎水作用の組み合わせとなる。温度が上昇すると、これらのポリマのゲルは膨潤した状態からつぶれた状態に相転移を行い、ポリマ溶液はある温度またはある温度範囲内で沈降を行う。本発明のコポリマを含むこれらのポリマ、特に、加熱すると約30−40℃で相転移を行うポリマは、薬剤解放材料および臨床移植材料用の生体材料として使用することができる。特定の用途には、接着の防止および組織再構成が含まれる。
従って、本発明はまた、本発明のランダムブロックコポリマを含む移植可能な医療装置を含む。本発明の一の実施の形態においては、コポリマは、J.Biomater.Res.、第29巻、第811−21頁(1995年)に掲載のGutowska等の論文およびJ.Controlled Release、第6巻、第297−305頁(1987年)に掲載のHoffmanの論文に記載されているような治療に有効な部位特定または全身薬剤配給のために、十分に生物学的および薬学的活性な所定量の化合物と組み合わされる。本発明の別の実施の形態においては、コポリマは、Mat.Res.Soc.Symp.Proc.、第292巻、第253−64頁(1993年)に掲載のUrry等の論文に記載されているような外科的な接着防止用のバリヤとして使用される、露出した損傷組織に被着されるシートまたはコーティングの形態をなしている。
更にまた、本発明の別の観点によれば、治療有効量の生物学的または生理学的に活性な化合物を本発明のランダムブロックコポリマと組み合わせて含む埋込可能な薬剤配給装置を、所要の場合に、患者の身体に移植することによる部位特定または全身薬剤配給方法が提供されている。本発明の更に別の観点によれば、損傷を受けた組織間にバリヤとして本発明のランダムブロックコポリマのシートまたはコーティングを挿入することにより、損傷を受けた組織間の接着の形成を防止する方法が提供されている。
上記したように、チロシン誘導ジフェノールモノマはまた、ポリアリーレートの重合において有用である。ポリ(酸化アルキレン)セグメントをチロシンベースのポリアリーレートの主鎖に導入することにより、分解速度が有意に増大した、より軟質で、より親水性のポリマを提供することが期待されている。従って、本発明の更に別の観点によれば、脂肪族および芳香族ポリアリーレートが提供され、ジカルボン酸とチロシン誘導ジフェノールとのランダムブロックコポリマとして重合され、この場合には、等モル組み合わせ量のジフェノールとポリ(酸化アルキレン)が、ジカルボン酸と、約1:99乃至約99:1のジフェノール対ポリ(酸化アルキレン)のモル比で反応される。この場合、チロシン誘導ジフェノールは下記の式II

の構造を有し、
とRは、式Iに関して上記したものと同じであり、
ジカルボン酸は、下記の式III

の構造を有し、
Rは、炭素原子が18個以下の飽和および不飽和で、置換および未置換のアルキル、アリールおよびアルキルアリール基から選ばれ、
ポリ(酸化アルキレン)は下記の式IV
(−0−R−)y (IV)
の構造を有し、
各Rは4個以下の炭素原子を含むアルキレン基から独立して選ばれ、yは約5乃至約3000である。
チロシン−誘導ジフェノールおよびポリ(酸化アルキレン)をベースとするコポリマは、逆温度転移を示す新しいグループの非イオンポリマを提供する。これらのコポリマは構成単位として天然のアミノ酸を含み、生理学的条件の下で分解可能であり、しかも生体適合性があることが示された。チロシン誘導ジフェノール、ポリ(酸化アルキレン)およびこれら2つの成分の比率を変えることにより、コポリマは所望の転移温度を呈するように構成しかつ合成することができる。
図面の簡単な説明
図1は、PEG含量が異なる本発明のポリ(DTEコ(co)PEG1.000カーボネート)(0)、ポリ(DTBコPEG1.000カーボネート)(△)およびポリ(DTHコPEG1.000カーボネート)(◇)のガラス転移温度を、対応するポリカーボネートホモポリマと比較して示す。
図2は、燐酸塩緩衝塩水(saline)における37℃での培養時間の関数として測定したポリ(DTEコ5%PEG1.000カーボネート)(0)、ポリ(DTEコ15%PEG1.000カーボネート)(◇)およびポリ(DTEコ30%PEG1.000カーボネート)(△)の水取り込みを示す。
図3は、燐酸塩緩衝液における37℃での培養時間の関数として測定したポリ(DTBカーボネート)(0)、ポリ(DTBコ1%PEG1.000カーボネート)(△)およびポリ(DTBコ5%PEG1.000カーボネート)(◇)微小球からのpNA解放を示す。
図4は、燐酸塩緩塩水における37℃での培養時間の関数としてのポリ(DTBカーボネート)(△)、ポリ(DBTコ1%PEG1.000カーボネート)(◇)およびポリ(DTBコ5%PEG1.000カーボネート)(0)から解放されるFITC−デキストランを示す。
図5は、燐酸塩緩塩水における37℃での培養時間の関数としてのポリ(ビスフェノールAコ5%PEG1.000カーボネート)(△)、ポリ(DTEコ5%PEG1.00カーボネート)(◇)およびポリ(DTEコ30%PEG1.000カーボネート)(0)の分子量残率を示す。
図6は、水中のポリ(DTEコ70%PEG1.000カーボネート)の500nmにおけるの濁り曲線を示す。
発明を実施するための最良の形態
上記した式Iのポリマは、上記した式Iのチロシン誘導ジフェノールと、上記した式IVのポリ(酸化アルキレン)とのランダムブロックコポリマである。チロシン誘導ジフェノールとポリ(酸化アルキレン)の限定された単位は、式Iの構造の範囲内において限定されたブロックの存在を意味するものではない。コポリマにおける酸化アルキレンのモル分率パーセントfは、約1乃至約99モルパーセントの範囲とすることができ、約5乃至約99モルパーセントの酸化アルキレンのモル分率が好ましい。酸化アルキレンのモルパーセントは全範囲に亘って変えることができ、5モルパーセントよりも高いレベルの酸化アルキレンを有するポリマが耐細胞結合性(resistant to cell attachment)を有する。70モルパーセントよりも高いレベルの酸化アルキレンを有するポリマは、水溶性である。あらゆるレベルの酸化アルキレンを含むポリマは薬剤配給に有用であり、水溶性組成物は薬剤を目的とする用途に好ましい。
式IIに示すジフェノールは、1995年3月31日付で出願された、同時係属する、譲受入が同じ米国特許出願第08/414,339号に記載されている。本明細書においては、この特許出願を引用してその説明に代える。
式II、従って、式Iにおいて、Rは−CH−CH−であるのが好ましく、Rは直鎖のエチル、ブチル、ヘキシルまたはオクチル基であるのが好ましい。Rが−CH−CH−である場合には、式Iのジフェノール化合物はデスアミノチロシルーチロシンアルキルエステルと呼ばれる。デスアミノチロシル−チロシンアルキルエステルの群の最も好ましいものは、デスアミノチロシル−チロシンヘキシルエステル即ちDTHと呼ばれるヘキシルエステルである。
ジフェノール化合物は、上記した米国特許出願第08/414,339号に記載のようにして得ることができる。米国特許第5,099,060号に記載の方法も使用することができ、本明細書においてはこの米国特許を引用してその説明に代える。
式IVに示すポリ(酸化アルキレン)は、本技術分野において公知の広く使用されている酸化アルキレンとすることができ、ポリ(酸化エチレン)、ポリ(酸化プロピレン)またはポリ(酸化テトラメチレン)が好ましい。酸化エチレン、酸化プロピレンまたは酸化テトラメチレン単位を種々の組み合わせで含むポリ(酸化アルキレン)もまた、本発明の範囲内において可能な成分である。
ポリ(酸化アルキレン)は、式IVのyが約20乃至約200の好ましいポリ(酸化エチレン)である。最も好ましい実施の形態は、約1,000乃至約20,000g/モルの分子量を有するポリ(酸化エチレン)が使用される場合に得られる。これらの好ましい実施の形態に関しては、式IVの構造においては、R基は双方とも水素であり、yは約22乃至約220の値を有する。約22乃至約182の範囲にあるyの値がより一層好ましい。
式Iのランダムブロックコポリマは、上記した米国特許第5,099,060号に記載されている、ジフェノールをポリカーボネートに重合する従来の方法により得ることができる。本明細書においては、この方法を引用してその説明に代える。これは、触媒の存在下で、所望の比率のチロシン誘導ジフェノールおよびポリ(酸化アルキレン)とホスゲンまたはホスゲン先駆物質(例えば、ジホスゲンまたはトリホスゲン)との反応を含む。かくして、式Iのコポリマは、界面重縮合、均質相における重縮合により、あるいはエステル交換により得ることができる。適宜の方法、関連する触媒および溶媒は、本技術分野において公知であり、Chemistry and Physics of Polycarbonates(ニューヨーク州に所在するInterscience、1964年)においてSchnellにより教示されている。本明細書においては、かかる記載を引用してその説明に代える。当業者であれば、開示されているこの技術を、チロシン誘導ジフェノールとポリ(酸化アルキレン)とのランダムブロック共重合に、過度の実験を行うことなく展開することができる。
式Iのランダムブロックコポリマは、約20,000ダルトンを越える、好ましくは、約30,000ダルトンを越える重量平均分子量を有する。式Iのランダムブロックコポリマの数平均分子量は、約10,000ダルトンを越え、好ましくは約20,000ダルトンを越える。分子量の測定値は、ポリスチレン標準に対するゲル透過クロマトグラフィから、更なる補正を必要とせずに算出される。
上記したように、式IのランダムブロックコポリマのRと、式IIのチロシン誘導ジフェノールは、コポリマまたはジフェノールに共有結合された生物学的または薬学的に活性な化合物の誘導体とすることができる。Rは、未誘導体化の生物学的または薬学的に活性な化合物において、第1または第2アミンが誘導体におけるアミド結合の位置に存在するときには、アミド結合によりコポリマまたはジフェノールに共有結合される。Rは、未誘導体化の生物学的または薬学的に活性な化合物において、第1ヒドロキシルが誘導体におけるエステル結合の位置にあるときには、エステル結合によりコポリマまたはジフェノールに共有結合される。生物学的または薬学的に活性な化合物はまた、アミドまたはエステル結合によりコポリマまたはジフェニルに共有結合される結合成分を有するケトン、アルデヒドまたはカルボン酸基において誘導体化することができる。
本発明において使用するのに適した生物学的または薬学的に活性な化合物には、例えば、アシクロビル、セフラジン、マルファレン、プロケイン、エフェドリン、アドリアマイシン、ダウノマイシン、プラムバジン(plumbagin)、アトロピン、キニン、ジゴキシン、キニジン、生物学的に活性なペプチド、クロリンe、セフラジン、セファロチン、メルファラン、ペニシリンV、アスピリン、ニコチン酸、ケモデオキシコリン酸、クロラムブシルなどが含まれる。これらの化合物は、当業者により十分に理解される方法により、コポリマまたはジフェノールに共有結合される。薬剤配給配合物は、配給されるべき生物学的または薬学的に活性のある化合物を本発明のランダムブロックコポリマと、当業者に周知の通常の技術を使用して物理的に混合することにより形成することもできる。
式IIのチロシン誘導ジフェノール化合物と、式IVのポリ(酸化アルキレン)はまた、米国特許第5,216,115号に開示の方法に従って反応させて、ポリアリーレートを形成することができる。本明細書においては、この米国特許を引用してその説明に代える。米国特許第5,216,115号に開示されているように、ジフェノール化合物は、触媒として4−(ジメチルアミノ)ピリジニウム−p−トルエンスルホネート(DPTS)を使用するカルボジイミド媒介直接ポリエステル化において、式IIIの脂肪族または芳香族ジカルボン酸と反応されて、脂肪族または芳香族ポリアリーレートを形成する。ポリ(酸化アルキレン)とのランダムブロックコポリマは、ランダムブロックコポリマにおいてジフェノールとポリ(酸化アルキレン)との比率を所望のものにするのに十分な量のポリ(酸化アルキレン)を、チロシン誘導ジフェノールの代わりに使用することにより形成することができる。本発明のランダムブロックコポリマは、合成ポリマの分野において広く使用されている公知の方法により仕上げることができる。
産業上の利用可能性
有用な物理的および化学的特性を有する種々の有用な物品を、組織適合性モノマに基づく本発明のランダムブロックコポリマから得ることができる。かかる有用な物品は、押出成形、圧縮成型、射出成形、溶液流延、スピンキャスティング(spin casting)などのような従来のポリマ成形技術により成形することができる。かかるポリマから得られる成形物品は、特に、医療移植用の分解性生体材料として有用である。このような用途には、血管移植片、ステント、骨板、縫合線、植込みセンサ、外科接着防止用バリヤ、植込み薬剤配給装置、組織再生用の基礎材、その他の既知時間内に無害に分解する治療助材および物品が含まれる。ポリマはまた、従来の浸漬または噴霧被着技術により移植片の表面のコーティングとして形成することにより、移植片に対する接着の形成を防止することができる。
本発明のランダムブロックコポリマから形成される移植物品は、無菌とすることができる。無菌状態は、照射または気体もしくは熱による処理のような従来の方法により形成することができる。
以下に記載の、本発明を限定するものではない実施例は、本発明のある観点を例示するものである。部およびパーセントは全て、別に特定しない限り重量であり、温度は全て摂氏温度である。
材料および方法
材料
L−チロシン、塩化チオニル、ピリジン、塩化メチレン、テトラヒドロフラン(THF)、エタノール、ブタノール、ヘキサノール、オクタノール、3−(4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸(デスアミノチロシン、Dat)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)およびヒドロキシベンゾトリアゾル(HOBt)はAldrichから入手し、ホスゲン(トルエン溶液)はFlukaから入手した。溶媒は全てHPLC等級であり、受け入れたままで使用した。
スピンキャスティング
デュアルチャンバユニットの底部ガラススライド(#177380、Nunc,Inc.)を、先づ、J.Biomat.Sci.Polym.Edn.、第3巻、第163−83頁(1991年)においてErtel等が説明するようにして、カップリング剤として作用するスチレンシランコポリマ溶液を用い、次いで、ポリマ溶液を用いて800rpmで30秒間スピンキャスティングに供した。コーティングが形成されたスライドの乾燥を、細胞培養の前に1週間真空下で行った。ポリ(ビスフェノールAカーボネート)を同様にしてスピンキャスティングに供し、細胞成長研究における対照とした。
圧縮成型
薄いポリマフィルムを圧縮成型により得た。処理温度は、各ポリマのTgよりも高い30−35℃であった。型の金属プレートに対するポリマの接着を最小にするために、2枚のテフロンシートをポリマと型の金属プレートとの間に配置した。
分光分析
FT−IRスペクトルを、Matson Cygnus 100分光計に記録した。ポリマのサンプルを塩化メチレンに溶解し、フィルムをNaClプレート上に直接流延した。全てのスペクトルを、2cm−1の分解能による16回のスキャン後に集めた。UV/Visスペクトルを、Perkin−Elmer Lambda 3B分光光度計に記録した。ポリマのジュウテリウム置換クロロホルム溶液のNMRスペクトルをVarian
VXR−200分光計に記録した(スキャン64回)。
ゲル透過クロマトグラフィ(GPC)
クロマトグラフ系は、Perkin−Elmer Model 410ポンプ、Waters Model 410 RI検出器およびPE−Nelson Model 2600コンピュータ化データステーションからなるものであった。2つのPL−ゲルGPCカラム(細孔サイズ105および103Å)を、THFを使用して1ml/分の流速で直列にして操作を行った。分子量は、ポリスチレン標準に対して更なる補正なしに算出した。
熱分析
ガラス転移温度(Tg)を、インジウムで検量したDuPont910DSC装置の差動走査熱量計(DSC)により測定した。各試験片を連続する2回のDSC走査に供した。最初の走査後に、試験片を液体窒素で急冷し、2回目の走査はその後直ちに行った。Tgは、2回目のDSC走査において中点値として測定した。全てのポリマの加熱速度は10℃/分であり、平均サンプルサイズは10mgであった。
水の取り込み
1片のコポリマ(15−20mg)を、37℃のPBSにおいて培養したフィルムから切り出し、サンプルの表面の水を拭って除去した。水含有量(WC%)を、10℃/分の加熱速度で、DuPont951TGA装置での熱重量分析(TGA)により測定し、200℃未満で失われた重量パーセントとして報告した。水の取り込みは、WC/(1−WC)として算出した。
加水分解の検討
サンプルを圧縮成型したフィルムから切り出し、200mg/lのアジ化ナトリムを含む燐酸塩緩衝塩水(PBS)(0.1M、pH7.4)において37℃で培養を行って細菌の成長を阻止した。分解処理の後に、ポリマの分子量の変化を週ごとに記録した。結果は、ポリマ当たり2つの異なる試験片の平均である。
微小球処理
微小球を、J.App.Polym.Sci.、第35巻、第755−74頁(1988年)に掲載のMathiowitzの論文に記載のようにして溶媒蒸発によりつくった。コポリマ0.05gを塩化メチレン1mlに溶解した。このポリマ溶液を、3枚のそらせ板を有する150mlのビーカにおいてポリ(ビニルアルコール)(PVA)の水溶液50mlに注入した。この混合物を、プロペラを有するオーバーヘッド攪拌器により1300rpmで攪拌した。4時間の攪拌後に、微小球を膜ろ過により集め、水で6回洗浄してPVAを可能な限り除去した。次に、微小球を高真空下で一定の重量になるまで乾燥した。
薬剤の装填および解放
p−ニトロアニリン(pNA)をポリマ溶液に溶解し、次いで、上記のようにして微小球を形成した。正確に秤量した量の微小球を塩化メチレンに完全に溶解した後に、nPAの装填をUV分光分析(λ=380nm)により測定した。
FITC−デキストランを水50mlに溶解し、音波処理(w/o/w法)によりポリマ溶液に分散させ、次いで、上記のようにして微小球を形成した。FITC−デキストランの装填を測定するために、微小球を塩化メチレンに溶解し、FITC−デキストランを燐酸塩緩衝水溶液(0.1M、pH7.4)に抽出し、次に、蛍光吸光分光分析(励起:495nm、発光:520nm)を行った。
正確に秤量した量のpNAまたはFITC−デキストランを装填した微小球を、水振とう機浴において、正確に容量を測定した37℃の燐酸緩衝溶液(0.1M、pH7.4)に入れた。緩衝溶液中に解放されたpNAまたはFITC−デキストランの量は、上記のようにして測定した。
細胞の成長
胎児のラットの肺の線維芽細胞(#CCL192、American Tissue Culture Collection)を、50mg/mlのアスコルビン酸ナトリウムと10%の胎児の牛の血清とを含むRyan Red培養基において、Amino Acids、第4巻、第237−48頁(1993年)に掲載のPoiani等の論文およびJ.Tiss.Cult.Meth.、第10巻、第3−5頁(1986年)に掲載のRyan等の論文に記載のようにして成長させた。ポリマの評価のために、デュアルチャンバユニット(#177380、Nunc,Inc.)を、先づ、カップリング剤として作用するスチレンシランコポリマ溶液(2.5%w/v酢酸エチル)を用い、次いで、問題のポリマ溶液を用いてスピンキャスティングに供した。未改質のプラスチック(#177429、Nunc)と、ガラスのデュアルチャンバユニット(#177380、Nunc)を、受け入れたままの状態で対照として使用した。細胞の接種に先立ち、全ての表面をペニシリン−ストレプトマイシンを5%含むPBSを用いて3時間培養した。パッセージ(passage)5からの細胞を次に10細胞/cmの密度で接種した。培養の1または5日後に、細胞をPBSで穏やかにすすぎ、3つの異なる室から抗トリプシン性を破壊した(trypsinized)。懸濁体を、血球計において4回計数した。
逆温度転移の測定
逆相転移の検出は、加熱したときの初期可溶ポリマ沈降物としての濁り点の増大に基づくものである。濁り点の増大は、以下に説明するように、視認分光分析により監視される。
ポリマ溶液:0.05%(w/v)のポリマ水溶液の光学濃度(OD)の測定を、冷却循環浴(Neslab、モデルRTE−8)と結合された水ジャケット付細胞ホルダを有するダイオードアレイ分光光度計(Hewlett Packard、Model8452−A)を用いて500nmで行った。温度は、0.5℃/分の速度で手動により制御し、マイクロプロセッサ温度計(Omega、モデルHH22)により監視した。得られた光学濃度対温度曲線における初期の区切り点を、転移の温度の開始として得た。
命名法
コポリマの構造と組成は、以下のようにして表される。ポリ(DTXコfPEGMwカーボネート)においては、Xはアルキルエステル側鎖の長さに関する。以下の実施例においては、E(エチル)、B(ブチル)およびH(ヘキシル)を使用した。コポリマのポリ(酸化エチレン)のモル分率パーセントは、文字fで示してある。下記のサンプルにおいては、fの値は1乃至70モル%で変化した。Mwは、コポリマの合成において使用されたPEGブロックの平均分子量を示す。かくして、ポリ(DTEコ5%PEG1.000カーボネート)は、デスアミノチロシルーチロシンと、1000g/モルの平均分子量を有するPEGブロックの5モル%とのエチルエーテルから得られるコポリマを示す。
実施例
実施例1
ポリ(DTEコ5%PEG1.000カーボネート)を次のようにしてつくった。
DTE10.85gとPEG1.0001.57g(1.59ミリモル)とを、250mlのフラスコに入れた。次いで、乾燥塩化メチレン60mlと無水ピリジン9.6mlとを加えた。この溶液に、室温で、ホスゲンの1.93Mトルエン溶液20.6mlを、オーバーヘッド攪拌を90分間行いながら加えた。THF180mlを加え、反応混合物を希釈した。この混合物をエチルエーテル2400mlにゆっくり加えることによりコポリマを沈降させた。コポリマをTHF(5%w/v溶液)220mlに再溶解し、ポリマ溶液を水2200mlにゆっくり加えることによりコポリマを再沈降させた。
白色のコポリマ10.8gを得た。溶媒としてTHFを使用するGPCにより測定したところ、コポリマは127,000ダルトンの重量平均分子量と、84,000ダルトンの数平均分子量と、1.5の多分散度(polydispersity)とを有していた。
実施例2
ポリ(DTEコ30%PEG1.000カーボネート)を次のようにして合成した。
DTE5.23g(14.6ミリモル)と、PEG1.0006.20g(6.27ミリモル)とを250mlのフラスコに入れた。乾燥塩化メチレン60mlと無水ピリジン6.7mlとを加えた。室温で、ホスゲンの1.93Mトルエン溶液13.5mlをオーバーヘッド攪拌器を用い、90分かけて溶液にゆっくりと加えた。THF180mlを加えて反応混合物を希釈した。この混合物をエチルエーテル2400mlにゆっくり加えてコポリマを沈降させた。コポリマをTHF(5%w/v溶液)200mlに再溶解し、このポリマ溶液を水2000mlにゆっくり加えることにより再沈降させた。
白色のコポリマ8.9gが得られた。溶媒としてTHFを使用したGPCにより測定を行ったところ、コポリマは41,000ダルトンの重量平均分子量と、31,000ダルトンの数平均分子量と、1.3の多分散度を有していた。
実施例3
ポリ(DTOコ5%PEG1.000カーボネート)を次のようにして合成した。
DT09.23g(20.9ミリモル)と、PEG1.0001.09g(1.1ミリモル)とを250mlのフラスコに入れた。次に、乾燥塩化メチレン50mlと無水ピリジン7.0mlとを加えた。室温で、ホスゲンの1.93Mトルエン溶液14.3mlをオーバーヘッド攪拌器を用い90分かけて溶液にゆっくりと加えた。THF150mlを加えて反応混合物を希釈した。この混合物をエチルエーテル2000mlにゆっくり加えてコポリマを沈降させた。コポリマをTHF(5%w/v溶液)200mlに再溶解し、このポリマ溶液を水2000mlにゆっくり加えることにより再沈降させた。
白色のコポリマ9.1gが得られた。溶媒としてTHFを使用したGPCにより測定を行ったところ、コポリマは32,000ダルトンの重量平均分子量と、13,000ダルトンの数平均分子量と、2.5の多分散度を有していた。
実施例4
ポリ(DTEコ0.262%PEG20.000カーボネート)を次のようにして合成した。
DTE10.24g(28.6ミリモル)と、PEG20.0001.5g(0.075ミリモル)とを250mlのフラスコに入れた。乾燥塩化メチレン60mlと無水ピリジン8.7mlとを加えた。室温で、ホスゲンの1.93Mトルエン溶液18.6mlをオーバーヘッド攪拌器を用い90分かけて溶液にゆっくり加えた。THF180mlを加えて反応混合物を希釈した。この混合物をエチルエーテル2400mlにゆっくり加えてコポリマを沈降させた。コポリマをTHF(5%w/v溶液)220mlに再溶解し、このポリマ溶液を水2200mlにゆっくり加えることにより再沈降させた。
白色のコポリマ10.1gが得られた。溶媒としてTHFを使用したGPCにより測定を行ったところ、コポリマは178,000ダルトンの重量平均分子量と、84,000ダルトンの数平均分子量と、2.1の多分散度を有していた。
実施例5
ポリ(DTEコ70%PEG1.000カーボネート)は水溶性であり、従って、最終精製工程において、水の代わりにイソプロパノールを使用した。
DTE1.29g(3.60ミリモル)と、PEG1.0008.31g(8.40ミリモル)とを250mlのフラスコに入れた。乾燥塩化メチレン50mlと無水ピリジン3.6mlとを加えた。室温で、ホスゲンの1.93Mトルエン溶液7.8mlをオーバーヘッド攪拌器を用い90分かけてこの溶液にゆっくり加えた。THF150mlを加えて反応混合物を希釈した。この混合物をエチルエーテル2000mlにゆっくり加えてコポリマを沈降させた。コポリマをTHF(5%w/v溶液)70mlに再溶解し、このポリマ溶液を水700mlにゆっくり加えることにより再沈降させた。
白色のコポリマ6.4gが得られた。溶媒としてTHFを使用したGPCにより測定を行ったところ、コポリマは47,000ダルトンの重量平均分子量と、37,000ダルトンの数平均分子量と、1.3の多分散度を有していた。
ポリ(DTBコ1%PEG1.000カーボネート)、ポリ(DTBコ5%PEG1.000カーボネート)、ポリ(DTBコ10%PEG1.000カーボネート)、ポリ(DTHコ1%PEG1.000カーボネート)、ポリ(DTHコ5%PEG1.000カーボネート)、ポリ(DTHコ10%PEG1.000カーボネート)、ポリ(DTHコ20%PEG1.000カーボネート)およびポリ(ビスフェノールAコ5%PEG1.000カーボネート)を同様の方法により合成し、異なる検討に供した。
ポリマの特徴
ガラス転移温度
コポリマを上記した実施例に従ってつくった。これらのポリマおよび対応するポリカーボネートホモポリマのガラス転移温度(Tg)を測定した(図1)。各シリーズのポリマにおいて、コポリマのTgは、PEG1.000のモル分率の増加にともない減少した。機械的特性
引張弾性率:ポリ(DTEコ5%PEG1.000カーボネート)の乾燥試験片は、1.3Gpaの引張弾性率を有していたが、これは1.2−1.6Gpaの範囲内の引張弾性率を有する全てのチロシン誘導ポリカーボネートに匹敵するものである。J.Biomed.Mater.Res.、第28巻、第919−930頁(1994年)に記載のErtelの論文を参照されたい。培養の24時間後に、試験片は、10%の水取り入れを呈し、引張弾性は0.58Gpaに低下した。
降伏点および破断点引張強さ:PEGをチロシン誘導ポリマの主鎖に組み込むことにより、ポリマの引張強さと延性に大きな影響を及ぼした。ポリ(DTEカーボネート)は著しく脆く、4%伸び後に降伏することなく壊れた(上記したJ.Biomed.Mater.Res.、第28巻、第919−930頁(1994年)に記載のErtelの論文参照)が、ポリ(DTEコ5%PEG1.000カーボネート)は破壊前に153%まで伸びることができた。降伏点引張強さは41MPaであり、破断点引張強さは22MPaであった。培養されたコポリマは著しい延性を呈した。フィルム試験片は、6%の伸び後に降伏し、650%の伸びになった後に破壊した。降伏点引張強さは15MPaであり、破断点引張強さは19MPaであった。
水の取り込み
ポリ(DTEコPEG1.000カーボネート)の薄い圧縮成型されたフィルムにより取り込まれた水の量を、実験の部分において説明したようにして測定した。圧縮成形された試験片はそれぞれ、5モル%、15モル%または30モル%のペGを含んでいた。ポリ(DTEコ5%PEG1.000カーボネート)は、5時間をかけて10%の平衡水取り込みに達した。ポリ(DTEコ15%PEG1000カーボネート)の場合には、1時間後の平衡水取り込みは25%であった。ポリ(DTEコ30%PEG1000カーボネート)は、わずか1時間後の平衡水取り込みは92%であった。水取り込みの速度および平衡含水量は、ポリ(酸化エチレン)のモル分率の増大にともない増加した(図2)。ポリ(酸化エチレン)の含有量が20%を越えると、コポリマはヒドロゲルと著しく似た挙動を示していた。
微小球の形成および薬剤の解放
ポリ(DTBコPEG1000カーボネート)を使用して、微小球形成の検討を行った。この検討においては、ホモポリマであるポリ(DTBカーボネート)を対照とした。次に、pNAまたはFITC−デキストランを含む微小球を配合した。これらの配合物はそれぞれ、低分子量の疎水性薬剤および高分子量の親水性薬剤の有用なモデルである。一般的な原則として、微小球は、PEG含有量が10%未満である場合にのみ単離することができた。この値を超えると、微小球が先づ形成されるが、微小球は互いに接着し易くなって、仕上げの際にガム状の沈降物を形成した。かくして、ポリ(DTBカーボネート)並びにポリ(DTBコ1%PEG1000カーボネート)およびポリ(DTBコ5%PEG1000カーボネート)については、易流動性の微小球が形成された。ポリ(DTBコ10%PEG1000カーボネート)の場合には、微小球は単離することができなかった。
著しく小さいモル分率のポリ(酸化アルキレン)が存在しても、薬剤解放速度に有意の影響を及ぼすという予期し得ない事実が判明した。これは図3に示されているが、DTBおよびPEG1000の一連のコポリマからpNAが累加的に解放されていることがわかる。
ホモポリマからつくられた微小球からのFITC−デキストランの解放は、著しく緩慢であった。ホモポリマからのFITC−デキストランの典型的な解放プロファイルは、短いバースト作用があること、次いで微小球からの更なるFITC−デキストランの解放がない著しく長い遅れ時間があることを特徴としている。ポリマ組成物に1乃至5%のPEG1.000を含有させると、微小球から迅速に解放されるFITC−デキストランの量を有意に高めることができた(図4)。かくして、開示されているコポリマは、親水性の高分子量の薬剤用の制御された薬剤解放系の配合を促進することができる。
インビトロ分解
対照としてポリ(ビスフェノールAコ5%PEG1.000カーボネート)を使用し、2つのポリ(DTEコPEG1.000カーボネート)に関して分解の検討を行った。37℃の緩衝液において1日培養を行った後は、全てのコポリマの薄膜試験片が水を吸着し、飽和に達した。産業上使用される著しく緩慢に分解するポリ(ビスフェノールAコPEGカーボネート)とは異なり、チロシン誘導(DTXコPEGカーボネート)は、GPCにより示されたように、インビトロの生理学的条件下で迅速に分解した。
時間に対する分子量の変化が、3つのポリマの全てにおいて起こった。この変化を分子量残率パーセント対時間としてプロットしたところ、図5においてポリ(ビスフェノールAコ5%PEG1.000カーボネート)、ポリ(DTEコ5%PEG1.000カーボネート)およびポリ(DTEコ30%PEG1.000カーボネート)に関して示されているように、3つのポリマ全てが同様の分解プロファイルを有していた。9週間の観察において、ポリ(ビスフェノールAコ5%PEG1.000カーボネート)は分子量のわずか約15%を失ったに過ぎないが、ポリ(DTEコ5%PEG1.000カーボネート)およびポリ(DTEコ30%PEG1.000カーボネート)は分子量の約60%および約75%を失った。
逆温度転移
図6は、ポリ(DTEコ70%PEG1.000カーボネート)の逆温度転移を示す。このポリマは、500nmにおける低い吸光度により示されるように、当初は溶液である。加熱すると、ポリマは、吸光度の増大からわかるように沈降する。この特定の場合には、相転移は57±1℃で開始している。
細胞成長
ポリマと生きている細胞との相互作用により、医療上可能性のある用途に関して重要な情報を得ることができる。細胞の成長についてのインビトロ研究によっても、ポリマの細胞障害の可能性についての情報が得られる。かかる研究は、FDA3部構成生体適合性(Tripartide Biocompatibility)のガイドラインに従って医療移植材料の生体適合性の評価における最初の選別試験として認識されている。
細胞の成長と拡散は、コポリマに存在するPEGのモル分率が増加すると減少した(表1)。これは、ポリマ表面におけるPEGブロックの大きい移動度により減少する細胞の付着により説明することができる。別の説明として、表面に対する蛋白質の吸着を阻止するPEGの一般的な傾向に基づくものがある。かくして、PEGがポリマ構造の一部である場合には、ポリマの表面に吸着する蛋白質は少なくなり、従って、細胞が表面に付着する能力を少なくすることができる。予期し得なかったことであるが、コポリマ中のPEG1.000の5%という少ない量は、ラットの肺の線維芽細胞芽コポリマの表面に付着して成長する能力をほとんど完全になくすのに十分な量であることがわかった。付着しなかった細胞は媒体中に浮遊し、互いに凝集する。トリパン青およびカルセイン(calcein)AMを使用した生育性試験では、これらの細胞は5日後であっても生育していることが示されている。これは、コポリマが非細胞障害性であることを示している。
【表I】


上記した実施例および好ましい実施の形態についての説明は、請求の範囲に記載の本発明を限定するのではなく、例示するものとして理解されるべきである。容易に理解することができるように、上記した構成について数多くの変更と組み合わせを、請求の範囲に記載の本発明から逸脱することなく利用することができる。かかる変更は、本発明の精神と範囲とから逸脱するものとみなされるのではなく、かかる修正は請求の範囲内に含まれるものである。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
1.式

を有するランダムブロックコポリマであって、
は−CH=CH−または(−CH−)であり、jは零または1乃至8の整数であり、Rは水素、18個以下の炭素原子を含む直鎖および枝分れアルキルおよびアルキルアリール基並びに前記コポリマに共有結合された生物学的および薬学的活性化合物の誘導体よりなる群から選ばれ、
各Rは、4個以下の炭素原子を含むアルキレン基から独立して選ばれ、
yは約5乃至約3000であり、
fは前記コポリマの酸化アルキレンのモル分率パーセントであって約1乃至約99モルパーセントの範囲にあることを特徴とするランダムブロックコポリマ。
【請求項2】
2.Rは−CH−CH−であることを特徴とする請求の範囲第1項に記載のランダムブロックコポリマ。
【請求項3】

3.Rはエチル、ブチル、ヘキシルおよびオクチル基よりなる群から選ばれる直鎖アルキル基であることを特徴とする請求の範囲第1項に記載のランダムブロックコポリマ。
【請求項4】

4.Rはヘキシル基であることを特徴とする請求の範囲第3項に記載のランダムブロックコポリマ。
【請求項5】

5.Rはエチレンであることを特徴とする請求の範囲第1項に記載のランダムブロックコポリマ。
【請求項6】

6.yは約20乃至約200であることを特徴とする請求の範囲第1項に記載のランダムブロックコポリマ。
【請求項7】

7.fは約5乃至約95モルパーセントであることを特徴とする請求の範囲第1項に記載のランダムブロックコポリマ。
【請求項8】

8.ジカルボン酸とチロシン誘導ジフェノールおよびポリ(酸化アルキレン)とのランダムブロックコポリマとして重合され、かつ、等モル組み合わせ量の前記ジフェノールおよび前記ポリ(酸化アルキレン)を前記ジフェノール対前記ポリ(酸化アルキレン)のモル比を約1:99乃至約99:1にして前記ジカルボン酸と反応させ、
前記ジカルボン酸は、

の構造を有し、
Rは18個以下の炭素原子を含む飽和および不飽和の置換および未置換アルキル、アリールおよびアルキルアリール基よりなる群から選ばれ、前記チロシン誘導ジフェノールは

の構造を有し、
は−CH=CH−または(−CH−)であり、jは零または1乃至8の整数であり、Rは水素、18個以下の炭素原子を含む直鎖および枝分れアルキルおよびアルキルアリール基並びに前記コポリマに共有結合された生物学的および薬学的活性化合物の誘導体よりなる群から選ばれ、
前記ポリ(酸化アルキレン)は、
(−O−R−)
の構造を有し、
各Rは、4個以下の炭素原子を含むアルキレン基から独立して選ばれ、yは約5乃至約3000であることを特徴とするポリアリーレート。
【請求項9】
9.Rは−CH−CH−であることを特徴とする請求の範囲第8項に記載のポリアリーレート。
【請求項10】


10.Rはエチル、ブチル、ヘキシルおよびオクチル基よりなる群から選ばれる直鎖アルキル基であることを特徴とする請求の範囲第8項に記載のポリアリーレート。
【請求項11】

11.Rはヘキシル基であることを特徴とする請求の範囲第8項に記載のポリアリーレート。
【請求項12】

12.Rはエチレンであることを特徴とする請求の範囲第8項に記載のポリアリーレート。
【請求項13】

13.yは約20乃至約200であることを特徴とする請求の範囲第8項に記載のポリアリーレート。
【請求項14】

14.前記コポリマの酸化アルキンンのモル分率パーセントは約5乃至約95モルパーセントの範囲にあることを特徴とする請求の範囲第8項に記載のポリアリーレート。
【請求項15】

15.請求の範囲第1項または第8項に記載のランダムブロックコポリマを特徴とする移植医療装置。
【請求項16】

16.前記装置は血管移植片およびステント、骨板、縫合糸及び組織再生用の基礎材より成る群から選ばれることを特徴とする請求の範囲第15項に記載の移植医療装置。
【請求項17】

17.前記装置の表面に前記ランダムブロックコポリマがコーティングされていることを特徴とする請求の範囲第15項に記載の移植医療装置。
【請求項18】
18.生物学的または生理学的に活性な化合物を前記ランダムブロックコポリマと組み合わせ、前記活性化合物は治療に有効な部位特定または全身薬剤配給に十分な量存在することを特徴とする請求の範囲第15項に記載の移植医療装置。
【請求項19】
19.前記生物学的または生理学的に活性な化合物は前記コポリマに共有結合されていることを特徴とする請求の範囲第18項に記載の移植医療装置。
【請求項20】
20.請求の範囲第1項または第8項に記載のランダムブロックコポリマを主成分とし、外科癒着防止用のバリヤとして使用するシートの形態をなすことを特徴とする移植医療装置。
【請求項21】
21.部位特定または全身的な薬剤配給装置を必要とする患者の身体に移植する薬剤配給装置のための、請求の範囲第1項または第8項に記載のランダムブロックコポリマと組み合わせた治療有効量の生物学的または生理学的に活性な化合物の用途。
【請求項22】
22.前記生物学的または生理学的に活性な化合物は前記コポリマに共有結合されていることを特徴とする請求の範囲第21項に記載の化合物の用途。
【請求項23】
23.損傷を受けた組織の間の癒着防止用に損傷組織間にバリヤとして挿入するシートのための、請求の範囲第1項または第8項に記載のランダムブロックコポリマの用途。

【公開番号】特開2008−56925(P2008−56925A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−221741(P2007−221741)
【出願日】平成19年8月1日(2007.8.1)
【分割の表示】特願平9−520704の分割
【原出願日】平成8年11月27日(1996.11.27)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(502074035)ラトガーズ,ザ・ステート・ユニバーシィティ (1)
【Fターム(参考)】