説明

テトラヒドロピランを溶媒とするカチオン重合方法

【課題】カチオン重合に有利な溶媒の極性の高さとカチオン触媒の安定化を同時に実現する溶媒を用いてカチオン重合の溶媒の課題(極性が低い溶媒は生成ポリマーが析出しやすく高分子量のポリマーの合成が困難であること、ハロゲン系溶媒は環境への悪影響の問題があること、中極性の溶媒であるジエチルエーテル等のエーテル系溶媒は特殊引火物で安全性に問題があること)を解決する。
【解決手段】モノマー(ビニルエーテル化合物、N−ビニル化合物、スチレン化合物)のカチオン重合反応の溶媒にテトラヒドロピランを用い、触媒としてプロトン酸またはルイス酸を用いることを特徴とするカチオン重合方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカチオン重合反応において、テトラヒドロピランを反応溶媒として用いて反応を行う方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カチオン重合はアニオン重合反応、ラジカル重合反応と並んで最も基本的な重合反応である(大学院高分子化学,講談社サイエンティフィック;非特許文献1)。カチオン重合は塊状重合より溶液重合が一般的である。とりわけ重合活性の高いビニルエーテル類では反応暴走の抑制のために希釈、分散の目的で溶剤が用いられる(特開平6−234814号公報;特許文献1)。溶剤としては、カチオンに不活性なヘキサン、トルエンなどの炭化水素系溶媒やジクロロメタンやクロロホルムなどのハロゲン系溶媒が用いられる(新実験化学講座19,高分子化学[I],p74,日本化学会編;非特許文献2)。極性が低い溶媒では生成したポリマーが析出しやすく高分子量のポリマー合成することは困難である。また、ハロゲン系溶媒は毒性や環境への悪影響の問題がある。中極性の溶媒としてジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒がカチオン重合に使用される場合がある。エーテルは特殊引火物で安全性に問題があり、テトラヒドロフランはカチオン重合条件下でテトラヒドロフラン自体が重合する問題がある。
【0003】
【非特許文献1】大学院高分子化学,講談社サイエンティフィック
【特許文献1】特開平6−234814号公報
【非特許文献2】新実験化学講座19,高分子化学[I],p74,日本化学会編
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、カチオン重合に有利な溶媒の極性の高さとカチオン触媒の安定化を同時に実現する溶媒を用いて、カチオン重合の溶媒の課題を解決することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、カチオン重合反応の溶媒としてテトラヒドロピランを用いることにより前記課題が解決できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は下記1〜12のテトラヒドロピランを反応溶媒とするカチオン重合反応に関する。
【0006】
1.カチオン重合反応の溶媒にテトラヒドロピランを用いることを特徴とするカチオン重合方法。
2.プロトン酸またはルイス酸を用いる前項1に記載のカチオン重合方法。
3.カチオン重合がビニルエーテル化合物の重合である前項1または2記載のカチオン重合方法。
4.ビニルエーテル化合物が、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、ヘキシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、メチルプロペニルエーテル、エチルプロペニルエーテル、ブチルプロペニルエーテル、メチルブテニルエーテル、及びエチルブテニルエーテルから選択される前項3に記載のカチオン重合方法。
5.カチオン重合がN−ビニル化合物の重合である前項1または2記載のカチオン重合方法。
6.N−ビニル化合物が、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルピペリドン、及びN−ビニルカルバゾールから選択される前項5記載のカチオン重合方法。
7.カチオン重合がスチレン化合物の重合である前項1または2記載のカチオン重合方法。
8.スチレン化合物が、p−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メトキシスチレン、m−メトキシスチレン、α−メチル−p−メトキシスチレン、及びα−メチル−m−メトキシスチレンから選択される前項7記載のカチオン重合方法。
9.プロトン酸が、塩酸、硫酸、過塩素酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、クロロスルホン酸、及びフルオロスルホン酸から選択される前項2記載のカチオン重合方法。
10.ルイス酸が、三フッ化ホウ素、塩化アルミニウム、四塩化チタン、塩化第二スズ、及び塩化第二鉄から選択される前項2記載のカチオン重合方法。
11.ルイス酸と共にルイス酸と同モル程度のプロトン供給源を用いる前項2または10に記載のカチオン重合方法。
12.ルイス酸として、三フッ化ホウ素テトラヒドロピラン錯体を使用する前項2、10または11に記載のカチオン重合方法。
13.触媒をモノマーに対して、0.00001〜0.1mol%量使用する前項2記載のカチオン重合方法。
【発明の効果】
【0007】
反応の溶媒にテトラヒドロピランを用いることを特徴とする本発明のカチオン重合反応方法によれば、テトラヒドロピランの極性によりカチオン種が安定化され高分子量のポリマーが生成する。テトラヒドロピランの高い溶解力により生成したポリマーを溶解し、均一系で速やかな重合反応を行うことができる。テトラヒドロピランの高い耐カチオン性と溶解力により広範なカチオン触媒を使用できる。また、テトラヒドロピランは水と分離するので、触媒の分解、ポリマーの洗浄などで、水を使用する際、容易に分液でき、生産性が向上するなどの利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に本発明の具体的内容について詳細に説明する。
本発明のカチオン重合法では溶媒にテトラヒドロピランを用いる。テトラヒドロピランを使用することにより、急激な重合反応進行による反応暴走と急激な発熱、生成するポリマーの溶解または分散による分子量の制御が行える。
【0009】
テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)などのエーテル系溶媒、トルエン、キシレンなどの炭化水素系溶媒との混合溶媒も使用することができるが、回収、再利用をする観点からテトラヒドロピランを単独で用いることが望ましい。
【0010】
テトラヒドロピランは通常、蒸留、脱水剤処理をして使用される。
テトラヒドロピランはカチオン重合に用いるモノマーに対して0.1〜50倍質量用いられる。
【0011】
反応温度はテトラヒドロピランとモノマーとの融点から沸点の範囲の温度で行われる。通常−45℃から88℃の範囲で重合反応を行う。一般的にカチオン重合反応では、ポリマーの成長反応に比べ活性種のカチオン種の連鎖移動、停止反応の活性化エネルギーが大きいので、低温で重合を行うほど連鎖移動や停止反応などの副反応が抑えられ生成するポリマーの分子量が増大する。高分子量ポリマーを合成する際には、反応温度は室温以下、好ましくは0℃以下で行われる。
【0012】
反応時間はモノマーの重合速度と生成するポリマーの分子量により選ばれる。
重合反応終了後に触媒のカチオンを水、アルカリ水溶液を加えて分解することがある。
ポリマーはテトラヒドロピランに溶解または析出するが、テトロヒドロピランと水は分離するので、水層に移った触媒残渣(プロトン酸あるいはルイス酸)を容易に分液操作で分離することができ、テトラヒドロピランに溶解したポリマーはテトラヒドロピランを留去することにより容易に単離することができる。
【0013】
潤滑油などに用いられるポリビニルエーテルは分液の際、一般的に重合溶媒として使用されるヘキサン、トルエンなどの炭化水素系溶媒では、エマルジョンになり、分液が困難となる。テトラヒドロピランを用いるとエマルジョンが生成せず速やかに分液が行え、生産性を向上させることができる。
【0014】
また、蒸留回収したテトラヒドロピランは脱水処理をして再使用することができ、これにより溶媒の使用量を低減することができる。
【0015】
本発明で用いられるカチオン重合触媒について説明する。
モノマーと反応してカチオン種を生成する触媒なら制限なく使用できる。用いることができる触媒として、塩酸、硫酸、過塩素酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、クロロスルホン酸、フルオロスルホン酸などのプロトン酸、三フッ化ホウ素、塩化アルミニウム、四塩化チタン、塩化第二スズ、塩化第二鉄などのルイス酸などを用いることができる。ルイス酸を触媒に用いる場合には触媒と同モル程度の酸、水、アルコールなどのプロトン供給源が存在するとカチオン重合活性が向上する。
触媒はモノマーに対して、0.00001〜0.1mol%量使用される。
【0016】
本発明で用いられるモノマーについて説明する。
本発明では、カチオン重合を起こすモノマーなら制限なく使用できる。用いることができるモノマーとして、p−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メトキシスチレン、m−メトキシスチレン、α−メチル−p−メトキシスチレン、α−メチル−m−メトキシスチレンなど電子過剰なスチレン化合物;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、ヘキシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、メチルプロペニルエーテル、エチルプロペニルエーテル、ブチルプロペニルエーテル、メチルブテニルエーテル、エチルブテニルエーテルなどのビニルエーテル化合物;N−ビニルアセトアミド、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルピペリドン、N−ビニルカルバゾールなどのN−ビニル化合物が用いられ、ビニルエーテル化合物が特に好適である。
【0017】
本願におけるスチレン化合物とは、スチレンの芳香環の水素がアルキル基、アルキルオキシ基もしくはハロゲン原子によって置換された構造の化合物、スチレン、またはα−アルキルスチレンを意味する。
【0018】
本願におけるビニルエーテル化合物とは、
【化1】

(ここで、R1は単結合またはアルキレン基を表わし、R2はアルキル基またはシクロアルキル基を表わす。)
で示される構造の化合物を意味する。
【0019】
本願におけるN−ビニル化合物とは、
【化2】

(ここでR3は水素原子またはアルキル基を表わす。)、または
【化3】

で示される構造を有する化合物を意味する。
【実施例】
【0020】
以下に本発明について代表的な例を示し具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら制限されるものではない。
なお、実施例における各成分の分析は高速液体クロマトグラフ装置(GPC)を用い、分析カラムとしてSHODEX製GPC用カラムKF8025→KF802→KF801(三連)を用い、展開液としてTHFを用いた。
【0021】
実施例1:
300ml四口セパラブルフラスコにメカニカルスターラー、ジムロート、滴下ロート、温度計をつけ、テトラヒドロピラン(THP)を15ml加え氷冷した。メカニカルスターラーで撹拌し、三フッ化ホウ素テトラヒドロピラン(BF3−THP)錯体77mg(0.5mmol)を加え、エチルビニルエーテル54g(750mmol)を3時間で滴下しながら重合反応を行なった。反応時温度は25〜44℃であった。10%水酸化ナトリウム溶液1mlを加え触媒を分解した。水40mlで2回、飽和食塩水で1回分液した。テトラヒドロプラン層を硫酸ナトリウムで乾燥し、テトラヒドロフランを留去し、残渣としてポリビニルエーテル(51g)を得た。GPCにより測定したポリビニルエーテルの重量平均分子量(ポリスチレン換算;以下同様)は17809であった。
【0022】
比較例1:
溶媒としてテトラヒドロピランの代わりにトルエンを用いた他は、実施例1と同じ手順で操作を行った。反応時温度は15〜22℃であった。反応結果を表1に示す。
【0023】
比較例2:
溶媒としてテトラヒドロピランの代わりに1,2−ジクルロエタン(1,2−DCE)を用いた他は、実施例1と同じ手順で操作を行った。反応時温度は20〜28℃であった。反応結果を表1に示す。
【0024】
比較例3:
溶媒を用いない他は、実施例1と同じ手順で操作を行った。発熱が激しく、環流した。ビニルエーテルを半量添加した時に固化した。反応結果を表1に示す。
【0025】
実施例2:
触媒として三フッ化ホウ素テトラヒドロピラン錯体の代わりに三フッ化ホウ素ジエチルエーテル(BF3−Et2O)錯体を用いた他は、実施例1と同じ手順で操作を行った。反応時温度は25〜42℃であった。反応結果を表1に示す。
【0026】
実施例3
触媒として三フッ化ホウ素テトラヒドロピラン錯体の代わりに塩化アルミニウム(0.5mmol)を用いた他は、実施例1と同じ手順で操作を行った。反応時温度は26〜47℃であった。反応結果を表1に示す。
【0027】
実施例4:
触媒として三フッ化ホウ素テトラヒドロピラン錯体の代わりにメタンスルホン酸(0.5mmol)を用いた他は、実施例1と同じ手順で操作を行った。反応時温度は25〜46℃であった。反応結果を表1に示す。
【0028】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノマーのカチオン重合反応の溶媒にテトラヒドロピランを用いることを特徴とするカチオン重合方法。
【請求項2】
触媒にプロトン酸またはルイス酸を用いる請求項1に記載のカチオン重合方法。
【請求項3】
カチオン重合がビニルエーテル化合物の重合である請求項1または2記載のカチオン重合方法。
【請求項4】
ビニルエーテル化合物が、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、ヘキシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、メチルプロペニルエーテル、エチルプロペニルエーテル、ブチルプロペニルエーテル、メチルブテニルエーテル、及びエチルブテニルエーテルから選択される請求項3に記載のカチオン重合方法。
【請求項5】
カチオン重合がN−ビニル化合物の重合である請求項1または2記載のカチオン重合方法。
【請求項6】
N−ビニル化合物が、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルピペリドン、及びN−ビニルカルバゾールから選択される請求項5記載のカチオン重合方法。
【請求項7】
カチオン重合がスチレン化合物の重合である請求項1または2記載のカチオン重合方法。
【請求項8】
スチレン化合物が、p−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メトキシスチレン、m−メトキシスチレン、α−メチル−p−メトキシスチレン、及びα−メチル−m−メトキシスチレンから選択される請求項7記載のカチオン重合方法。
【請求項9】
プロトン酸が、塩酸、硫酸、過塩素酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、クロロスルホン酸、及びフルオロスルホン酸から選択される請求項2記載のカチオン重合方法。
【請求項10】
ルイス酸が、三フッ化ホウ素、塩化アルミニウム、四塩化チタン、塩化第二スズ、及び塩化第二鉄から選択される請求項2記載のカチオン重合方法。
【請求項11】
ルイス酸と共にルイス酸と同モル程度のプロトン供給源を用いる請求項2または10に記載のカチオン重合方法。
【請求項12】
ルイス酸として、三フッ化ホウ素テトラヒドロピラン錯体を使用する請求項2、10または11に記載のカチオン重合方法。
【請求項13】
触媒をモノマーに対して、0.00001〜0.1mol%量使用する請求項2記載のカチオン重合方法。