説明

テトラフェニルホウ酸ナトリウムの回収方法及び再利用方法

【課題】テトラフェニルホウ酸ナトリウムにより不純物のカリウムを除去する精製方法において、テトラフェニルホウ酸ナトリウムを簡便に回収する方法を提供すること。
【解決手段】ナトリウム化合物の水溶液にテトラフェニルホウ酸ナトリウムを添加し、アルカリ性条件下において、テトラフェニルホウ酸カリウム及び未反応のテトラフェニルホウ酸ナトリウムを含む残渣を沈殿させる工程(1)、前記残渣を分離する工程(2)、及び、分離した残渣に水を接触させて、未反応のテトラフェニルホウ酸ナトリウムを回収する工程(3)、を含むことを特徴とするテトラフェニルホウ酸ナトリウムの回収方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テトラフェニルホウ酸ナトリウムの回収方法及び再利用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工業用ナトリウム化合物の原塩は、各種不純物を含んでいるため、電気分解反応の妨害となる不溶解物、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、硫酸イオン等をあらかじめ除去・精製する。原塩には、原産国により異なるが、一般に100〜500ppm程度カリウム化合物が含まれている。原塩を水に溶解すると、例えば、原塩が塩化カリウムである場合、カリウムイオンと塩化物イオンに解離するが、このカリウムイオンは、ナトリウムイオンと化学的に類似した性質を有するため、通常の精製工程で除去できず、また、電気分解反応においても除去できない。よって、電気分解反応で製造したナトリウム化合物は、原塩中に含まれるナトリウムイオンとカリウムイオンの比と同程度でカリウムイオンが含まれている。
【0003】
非特許文献1には、カリウム含有量の少ない水酸化ナトリウムを得る方法として、水酸化ナトリウム水溶液を晶析させ、NaOH・3.5H2Oを選択的に析出させる方法が開示されているが、反応装置が非常大きくコストがかかる。
電気分解反応を行なう前の原塩水溶液を精製する方法もある。原塩水溶液中のカリウムイオン濃度を低下させるには、ゼオライトのような選択的吸着作用を有する吸着剤で精製する方法があるが、従来のゼオライトにおけるナトリウムイオンに対するカリウムイオンの選択係数の理論値は約100なので、高濃度原塩水溶液中のカリウムイオンの除去性能は極めて低い。
特許文献1には、カリウムイオンを選択的に吸着する吸着剤と、カリウムイオン含有塩化ナトリウム水溶液を接触させ、カリウムイオン濃度の希薄な溶出液から塩化ナトリウム結晶を晶出させることによりカリウム含有量を低下させる技術が開示されている。よってこの方法で得たカリウム含有量の少ない塩化ナトリウム水溶液を電気分解反応することにより、カリウム含有量の少ない水酸化ナトリウム水溶液を得ることができるが、通常の電気分解反応装置とは別に専用の電気分解反応装置を設置する必要がある。すなわち、非常にコストがかかるため、工業的に見た場合、好ましい方法ではない。
原塩水溶液の再結晶を繰り返し実施し、カリウムを分離する方法もあるが、上記同様、別に専用の電気分解反応装置を設置する必要がある。
さらに、特許文献2には、水酸化ナトリウム水溶液と塩素を反応させることにより得られる次亜塩素酸ナトリウム水溶液中の塩化ナトリウム濃度を低減させるため、晶析により塩化ナトリウムを析出・分離する方法が開示されている。この塩化ナトリウム中に含まれる塩化カリウム濃度は比較的低いことが知られているため、これを水に溶かして電気分解反応を行なうことにより、カリウム含有量の少ない水酸化ナトリウム水溶液を得ることができるが、別に専用の電気分解反応装置を設置する必要があることは同じである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−262766号公報
【特許文献2】特開2007−169129号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】ソーダハンドブック1975年版、日本ソーダ工業会編、281〜286頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、テトラフェニルホウ酸ナトリウムにより不純物のカリウムを除去する精製方法において、テトラフェニルホウ酸ナトリウムを簡便に回収する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記課題は、以下の<1>に記載の手段により解決された。好ましい実施態様である<2>〜<7>とともに以下に記載する。
<1>ナトリウム化合物の水溶液にテトラフェニルホウ酸ナトリウムを添加し、アルカリ性条件下において、テトラフェニルホウ酸カリウム及び未反応のテトラフェニルホウ酸ナトリウムを含む残渣を沈殿させる工程(1)、前記残渣を分離する工程(2)、及び、分離した残渣に水を接触させて、未反応のテトラフェニルホウ酸ナトリウムを回収する工程(3)、を含むことを特徴とするテトラフェニルホウ酸ナトリウムの回収方法、
<2>前記アルカリ性条件がpH9以上である、<1>に記載のテトラフェニルホウ酸ナトリウムの回収方法、
<3>工程(1)において、5〜50重量%のナトリウム化合物の水溶液を使用する、<1>又は<2>に記載のテトラフェニルホウ酸ナトリウムの回収方法、
<4>工程(1)において、1〜10重量%のテトラフェニルホウ酸ナトリウム水溶液を添加する、<1>〜<3>いずれか1つに記載のテトラフェニルホウ酸ナトリウムの回収方法、
<5>工程(1)において、カリウムイオンに対し1.5モル当量以上のテトラフェニルホウ酸ナトリウムを添加する、<1>〜<4>いずれか1つに記載のテトラフェニルホウ酸ナトリウムの回収方法、
<6>工程(1)において、テトラフェニルホウ酸ナトリウム水溶液を添加した後、10〜70℃において5〜30分間にわたり撹拌して、テトラフェニルホウ酸カリウム及び未反応のテトラフェニルホウ酸ナトリウムを含む残渣を沈殿させる、<1>〜<5>いずれか1つに記載のテトラフェニルホウ酸ナトリウムの回収方法、
<7>前記ナトリウム化合物が水酸化ナトリウムである、<1>〜<6>いずれか1つに記載のテトラフェニルホウ酸ナトリウムの回収方法、
<8><1>に記載の、沈殿させる工程(1)、分離する工程(2)、及び回収する工程(3)に引き続いて、回収されたテトラフェニルホウ酸ナトリウムを別のナトリウム化合物からカリウムイオンを除去する工程に再使用するテトラフェニルホウ酸ナトリウムの再利用方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、テトラフェニルホウ酸ナトリウムを使用してカリウムイオンを除去する精製方法において、未反応のテトラフェニルホウ酸ナトリウムを簡便に回収することができた。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のテトラフェニルホウ酸ナトリウムの回収方法は、ナトリウム化合物の水溶液にテトラフェニルホウ酸ナトリウムを添加し、アルカリ性条件下において、テトラフェニルホウ酸カリウム及び未反応のテトラフェニルホウ酸ナトリウムを含む残渣を沈殿させる工程(1)、前記残渣を分離する工程(2)、及び、分離した残渣に水を接触させて、未反応のテトラフェニルホウ酸ナトリウムを回収する工程(3)、を含むことを特徴とする。ここで、「沈殿」とは、溶液中の化学変化によって生じる反応生成物が非晶質の微粒子又は微結晶となって溶液から不均一に沈積することをいう。「沈殿」は、これらの沈積物が容器の底に沈んでたまることまでを必ずしも意味しない。
以下に本発明を詳細に説明する。なお、明細書中、数値範囲を表す「A〜B」の記載は「A以上B以下」と同義である。
【0010】
<ナトリウム化合物の水溶液を準備する工程(準備工程)>
本発明のテトラフェニルホウ酸ナトリウムの回収方法は、カリウムイオンを含むナトリウム化合物の水溶液を準備する準備工程が先行する。
本発明に用いることができるナトリウム化合物としては、水溶液とすることが可能なものであれば特に制限はないが、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、硫化ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、亜ジチオン酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、重硫酸ナトリウム、塩素酸ナトリウム、亜塩素酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、フッ化ナトリウム、シアン化ナトリウム、ヘキサフルオロリン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、ギ酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、亜鉛酸ナトリウム、アルミン酸ナトリウム、スズ酸ナトリウム、クロム酸ナトリウム、珪酸ナトリウム、及び、水酸化ナトリウム等が例示できる。
これらの中でも、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酢酸ナトリウム、ギ酸ナトリウム、亜鉛酸ナトリウム、アルミン酸ナトリウム、及び、スズ酸ナトリウムが好ましく、水酸化ナトリウムが特に好ましく例示できる。
【0011】
カリウムイオンを含むナトリウム化合物の水溶液を準備する際に、水溶液の形態で入手してもよく、固体のナトリウム化合物を水に溶解してもよい。前記ナトリウム化合物の水溶液の濃度は、特に制限はなく適宜選択できるが、5〜50重量%であることが好ましく、8〜45重量%であることがより好ましく、10〜40重量%であることが更に好ましい。
【0012】
前記ナトリウム化合物の水溶液の不純カリウム濃度については、特に制限はないが、本発明の回収方法は、従来の方法では精製が難しいレベルまでカリウムを低減させるためには、10,000ppm以下であることが好ましく、1,000ppm以下であることがより好ましく、10〜500ppmであることが更に好ましく、40〜200ppmであることが特に好ましい。
また、前記ナトリウム化合物の水溶液が沈殿物や分散物等の異物を有する場合は、ろ過やデカンテーション、遠心分離等により除去しておくことが好ましい。
【0013】
<沈殿工程>
本発明のテトラフェニルホウ酸ナトリウムの回収方法は、準備したナトリウム化合物の水溶液にテトラフェニルホウ酸ナトリウムを添加し、テトラフェニルホウ酸カリウム及び未反応のテトラフェニルホウ酸ナトリウムを含む残渣を沈殿させる工程を含む。
カリウムイオンとテトラフェニルホウ酸ナトリウムとの反応式は、次の通りである。
K+ + NaB(C6H5)4 → Na+ + KB(C6H5)4
生成したテトラフェニルホウ酸カリウムはナトリウム化合物の水溶液に不溶であり、この水溶液中に沈殿する。テトラフェニルホウ酸ナトリウムは、カリウムイオンの他に、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、銀(Ag)、タリウム(Tl)、銅(CuI)など1価の金属イオン及びNH4とも同様に難溶性の沈殿を形成する。
【0014】
カリウムに対するテトラフェニルホウ酸ナトリウムの添加量は、前記ナトリウム化合物の水溶液中に含まれるカリウムの含有量に対し、1.0モル当量以上であることが好ましく、1.5モル当量以上であることがより好ましく、1.5〜10モル当量であることが更に好ましく、1.5〜3モル当量であることが特に好ましい。上記範囲であると、ナトリウム化合物の水溶液中のカリウム濃度をより低減することができる。
ナトリウム化合物又はその水溶液中に存在するカリウムの量は、原子吸光法、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP−AES)等により定量することができる。
【0015】
また、過剰のテトラフェニルホウ酸ナトリウムは、ナトリウム化合物の水溶液中では溶解度が低いため、テトラフェニルホウ酸カリウムと共に沈殿する。特に、前記水溶液がアルカリ性の場合は、テトラフェニルホウ酸ナトリウムの溶解度が更に低くなる。また、前述したように、前記水溶液のナトリウム化合物の濃度が高い場合も、更にテトラフェニルホウ酸ナトリウムの溶解度が低くなる。このために、テトラフェニルホウ酸ナトリウムの添加量を、ナトリウム化合物水溶液中のカリウム量に対して過剰に加えても、精製されたナトリウム化合物の水溶液中で未反応のテトラフェニルホウ酸ナトリウムをテトラフェニルホウ酸カリウムと共に沈殿させることができる。
【0016】
また、前記ナトリウム化合物の水溶液のpHは、9以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましい。また、前記ナトリウム化合物は、水に溶解させた場合にpH9以上の水溶液とすることが可能な化合物であることが好ましい。弱酸または中性のナトリウム塩がこの化合物に該当する。
前記ナトリウム化合物の水溶液のpHをpH9以上にするため、例えば、ギ酸ナトリウムの水溶液は、水酸化ナトリウム水溶液により予めpHを10以上に調節することが好ましい。
【0017】
前記沈殿工程において、テトラフェニルホウ酸ナトリウムは、ナトリウム化合物の水溶液中に、例えば、固体又は水溶液として添加することができるが、ナトリウム化合物の水溶液中に均一に分散させ、また、速やかにカリウムイオンと反応させるために、水溶液として添加することが好ましい。
テトラフェニルホウ酸ナトリウムの水溶液濃度は、適宜選択できるが、0.3〜20重量%であることが好ましく、1〜10重量%であることがより好ましく、1〜5重量%であることが特に好ましい。上記範囲であると、テトラフェニルホウ酸ナトリウムを過剰に添加しても、ナトリウム化合物の水溶液中に残存して逆汚染することを抑制でき、且つ、カリウム濃度を効果的に低減することができる。
前記沈殿工程において、テトラフェニルホウ酸カリウムを沈殿させる際の水溶液の温度(反応温度)は、適宜選択できるが、10℃〜70℃であることが好ましく、20℃〜60℃であることがより好ましい。沈殿させる時間(反応時間)も適宜選択できるが、5〜60分であることが好ましく、5〜30分であることがより好ましい。上記の温度範囲内及び/又は時間範囲内であると、水分蒸発を抑制して、短時間に、かつ安全に、カリウムイオンを低減することができる。
【0018】
<分離工程>
本発明の回収方法は、前記の沈殿工程において沈殿させたテトラフェニルホウ酸カリウム及び未反応のテトラフェニルホウ酸ナトリウムの残渣を分離する工程(分離工程)を含む。
前記分離工程におけるテトラフェニルホウ酸カリウム及び未反応のテトラフェニルホウ酸ナトリウムを含む残渣を分離する方法としては、特に制限はなく、ろ過やデカンテーション、遠心分離等の公知の方法を用いることができるが、中でも、残渣をろ別することが好ましい。
ろ別に使用するフィルターは適宜選択できるが、ポリプロピレン(PP)フィルター、金属フィルター、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルター等が好ましく使用できる。
また、テトラフェニルホウ酸カリウム及び未反応のテトラフェニルホウ酸ナトリウムを含む残渣を遠心分離器により分離することも好ましい。
【0019】
分離回収した沈殿物中に含まれるテトラフェニルホウ酸ナトリウムは、残渣に水を接触させることにより水溶液として溶解させることができ、再び原料として使用することができる。この場合に、純水を使用しても、テトラフェニルホウ酸ナトリウムの水溶液を使用してもよい。
本発明の回収方法により回収されたテトラフェニルホウ酸ナトリウムは、所望に応じ、カリウムイオンを除去する別の精製に使用することができる。
【0020】
本発明の別の側面は、<1>に記載の、沈殿させる工程(1)、分離する工程(2)、及び回収する工程(3)に引き続いて、回収されたテトラフェニルホウ酸ナトリウムを別のナトリウム化合物からカリウムイオンを除去する工程に再使用するテトラフェニルホウ酸ナトリウムの再利用方法に係る。
【0021】
本発明により回収されたテトラフェニルホウ酸ナトリウムは、純品のテトラフェニルホウ酸ナトリウムと同様に、カリウムイオンの除去等に再使用することができる。また、常法により水分を蒸発させ固形状のテトラフェニルホウ酸ナトリウムとしてもよい。
【0022】
再利用する場合、水溶液中の回収したテトラフェニルホウ酸ナトリウムの含有量を分析した上で使用することが好ましい。テトラフェニルホウ酸ナトリウムの含有量は、沈殿吸着指示薬としてチタン黄やカルマガイトを加え、ゼフィラミン(Zephiramine)(ベンジルテトラデシルジメチルアミニウム・クロリド)により滴定して定量することが好ましい。
【0023】
本発明の回収方法において、テトラフェニルホウ酸カリウムをろ取した、ナトリウム化合物のろ液中のカリウム濃度(ナトリウム化合物の固体換算)は、好ましくは精製前の1/2以下、より好ましくは1/3以下に低減することができる。また、テトラフェニルホウ酸塩の残存もほとんどない。
また、精製対象のナトリウム化合物の水溶液中のカリウム濃度(ナトリウム化合物の固体換算)は、100ppm以下であることが好ましく、50ppm以下であることがより好ましく、30ppm以下であることが更に好ましく、10ppm以下であることが特に好ましい。
【実施例】
【0024】
以下に実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、特に断り書きがない限り、「ppm」は「重量ppm」、「%」は「重量%」を意味するものとする。
【0025】
(実施例1)
73ppmのカリウムイオンを含有する32%水酸化ナトリウム水溶液を試験液として用いた。水酸化ナトリウム水溶液のカリウムイオン濃度は、水酸化ナトリウムを塩酸で中和した後、ICP−AESで測定した。そして、カリウムイオンの1molに対してテトラフェニルホウ酸ナトリウムの1molを1当量であると定義して、濃度2%のテトラフェニルホウ酸ナトリウム水溶液をカリウムイオンに対して2当量になる量を添加した。60℃で30分にわたり撹拌した。
生じた沈殿をADVANTEC社製親水性PTFEタイプメンブレンフィルターH100A090Cを通してろ別した。ろ液のカリウム濃度をICP−AESで分析をしたところ、1ppm未満であった。次にろ取した残渣を水洗してろ液(テトラフェニルホウ酸ナトリウム回収液)を得て、そのテトラフェニルホウ酸ナトリウム濃度をゼフィラミン(Zephiramine)(ベンジルテトラデシルジメチルアミニウム・クロリド)溶液で滴定分析した。この滴定結果から、回収液に回収されたテトラフェニルホウ酸ナトリウム(TPB−Na)の回収率を<式1>により算出し、表1に示した。
【0026】
TPB−Na回収率=[TPB−Na回収液中のTPB−Na量(mol)]/([試験液に加えたTPB−Na量(mol)]−[試験液に含まれていたKイオン量(mol)])×100(%) ‥ <式1>
【0027】
水洗して得られたろ液(テトラフェニルホウ酸ナトリウム回収液)を上記の試験液と同量の新たな試験液に用いることにして、テトラフェニルホウ酸ナトリウム(固体)を上記の水溶液に適宜追加して溶解し、テトラフェニルホウ酸ナトリウム濃度を2%に調整し、テトラフェニルホウ酸ナトリウムが試験液に含まれるカリウムイオンに対して2当量になる量を添加した。60℃で30分にわたり撹拌した。
この操作を5回繰り返した。この方法によって回収されたテトラフェニルホウ酸ナトリウムは、性能の劣化を起こすことはなく、再利用ができることが確かめられた。そして、再利用をしない従来の方法では、水酸化ナトリウム水溶液中の1molのカリウムイオンを除去するために、2molのテトラフェニルホウ酸ナトリウムを用いていたのに対して、本実施例では、実質的に1.25molのテトラフェニルホウ酸ナトリウムしか消費しないことになり、<式1>で定義した回収率は平均75%であり、コスト低減の効果が著しかった。
【0028】
【表1】

【0029】
(実施例2)
105ppmのカリウムイオンを含有する30%炭酸ナトリウム水溶液(pH12.0)に、濃度2%のテトラフェニルホウ酸ナトリウムをカリウムイオンに対して2当量に相当する量を添加し、テトラフェニルホウ酸カリウムを沈殿させた。沈殿反応の温度は60℃とし、反応時間は30分とした。
生じた沈殿をろ別し、ろ取した残渣を水洗した。水洗により得られたテトラフェニルホウ酸ナトリウム水溶液をゼフィラミン溶液で滴定分析し、テトラフェニルホウ酸ナトリウムの濃度を求めた。
2当量に不足する分のテトラフェニルホウ酸ナトリウム(試薬グレード、固体)を回収した水溶液に追加溶解した。この水溶液を用いて別の炭酸ナトリウム水溶液中のカリウムイオンを除去した。同様の操作を5回繰り返した。
テトラフェニルホウ酸ナトリウム消費量を、回収しない場合に必要な2mol/mol−Kから平均1.35mol/mol−Kに減少させることができた。
精製した炭酸ナトリウムろ液中のK濃度は平均3.5ppmであった。
【0030】
(実施例3)
実施例1と同様にして、炭酸水素ナトリウム、酢酸ナトリウム、亜鉛酸ナトリウム、アルミン酸ナトリウム及びスズ酸ナトリウムの水溶液を、必要に応じて水酸化ナトリウム水溶液でpH10に調整した後、テトラフェニルホウ酸ナトリウムを添加、撹拌、及びろ過を行なった。次いで、ろ取した残渣を水洗して得られたろ液中のテトラフェニルホウ酸ナトリウム濃度をゼフィラミン(Zephiramine)(ベンジルテトラデシルジメチルアミニウム・クロリド)溶液で滴定分析した結果、沈殿残渣から未反応のテトラフェニルホウ酸ナトリウムの回収が確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナトリウム化合物の水溶液にテトラフェニルホウ酸ナトリウムを添加し、アルカリ性条件下において、テトラフェニルホウ酸カリウム及び未反応のテトラフェニルホウ酸ナトリウムを含む残渣を沈殿させる工程(1)、
前記残渣を分離する工程(2)、及び、
分離した残渣に水を接触させて、未反応のテトラフェニルホウ酸ナトリウムを回収する工程(3)、を含むことを特徴とする
テトラフェニルホウ酸ナトリウムの回収方法。
【請求項2】
前記アルカリ性条件がpH9以上である、請求項1に記載のテトラフェニルホウ酸ナトリウムの回収方法。
【請求項3】
工程(1)において、5〜50重量%のナトリウム化合物の水溶液を使用する、請求項1又は2に記載のテトラフェニルホウ酸ナトリウムの回収方法。
【請求項4】
工程(1)において、1〜10重量%のテトラフェニルホウ酸ナトリウム水溶液を添加する、請求項1〜3いずれか1つに記載のテトラフェニルホウ酸ナトリウムの回収方法。
【請求項5】
工程(1)において、カリウムイオンに対し1.5モル当量以上のテトラフェニルホウ酸ナトリウムを添加する、請求項1〜4いずれか1つに記載のテトラフェニルホウ酸ナトリウムの回収方法。
【請求項6】
工程(1)において、テトラフェニルホウ酸ナトリウム水溶液を添加した後、10〜70℃において5〜30分間にわたり撹拌して、テトラフェニルホウ酸カリウム及び未反応のテトラフェニルホウ酸ナトリウムを含む残渣を沈殿させる、請求項1〜5いずれか1つに記載のテトラフェニルホウ酸ナトリウムの回収方法。
【請求項7】
前記ナトリウム化合物が水酸化ナトリウムである、請求項1〜6いずれか1つに記載のテトラフェニルホウ酸ナトリウムの回収方法。
【請求項8】
請求項1に記載の、沈殿させる工程(1)、分離する工程(2)、及び回収する工程(3)に引き続いて、回収されたテトラフェニルホウ酸ナトリウムを別のナトリウム化合物からカリウムイオンを除去する工程に再使用するテトラフェニルホウ酸ナトリウムの再利用方法。

【公開番号】特開2012−92072(P2012−92072A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−242119(P2010−242119)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(000215615)鶴見曹達株式会社 (49)
【Fターム(参考)】