説明

テトラフルオロホウ酸第四級アンモニウム塩の製造方法

【課題】有機第四級アンモニウム塩、特に、テトラフルオロホウ酸第四級アンモニウム塩の製造において、生産の安全性、環境面とコスト面に優れる製造方法を提供すること。
【解決手段】同一温度における、テトラフルオロホウ酸第四級アンモニウム塩との水への溶解度の比がいずれも1.0以上であり、且つ、水に対する溶解度がいずれも0.15mol/100g水以上である原料のテトラフルオロホウ酸塩および第四級アンモニウム塩とを水溶媒で反応させ、冷却後、遠心分離して目的物を回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機第四級アンモニウム塩の製造方法、特に、テトラフルオロホウ酸第四級アンモニウム塩の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テトラフルオロホウ酸第四級アンモニウム塩は、新規な材料として各分野に使用されつつあり、特に、テトラフルオロホウ酸テトラエチルアンモニウム及びテトラフルオロホウ酸メチルトリエチルアンモニウムはアルミ電解コンデンサ及びスーパーキャパシタとして多く使用されている。
【0003】
伝統的な製造方法として、テトラフルオロホウ酸第四級アンモニウム塩は、有機溶媒に合成されたものであって、例えば、テトラフルオロホウ酸アンモニウム塩或いはアルカリ金属塩とハロゲン化第四級アンモニウム塩をジメチルホルムアミド(DMF)或いはメタノールに溶解して反応させ、有機溶媒中に溶解しにくいハロゲン化合物を濾除し、溶媒を蒸発除去して得るものである(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。製造過程において、溶媒として、多量の有機溶媒を使用し、DMF及びメタノールは毒性と汚染性があるため、その伝統的な製造過程では、環境に汚染をもたらすことが避けられない、その上、有機溶媒、例えばDMF及びメタノールは燃焼性と毒性の特徴があるので、危険を有効的に防止するために、企業は必要な費用を投入しなければならない、また、操作者は操作過程で常にこれら危険な有機溶媒に接触するため、操作者に厳重な損害を与える。
【特許文献1】特開平5−286981号公報
【特許文献2】特開2001−348388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記のような問題を生じることなく、生産操作の難しさを低下するために、生産過程における有機溶媒を使わない合成方法を提供し、汚染と製造操作の複雑性を低下すると共に、安全的、低汚染的、簡単なテトラフルオロホウ酸第四級アンモニウム塩の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記目的を達成するために、下記のような解決手段を提供する。
【0006】
前記テトラフルオロホウ酸第四級アンモニウム塩は、下記の一般式による得られ、
【化1】

(ここで、反応物MにおけるMはアルカリ金属イオンまたはNHを示し、
反応物MにおけるR、R、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜5の炭化水素基を示し、
Xは、Cl、Br、I若しくは硫酸モノアルキルエステル酸基を示す。)
前記物質は、水中に溶解度Sが以下の関係を満たしており:
M1/SM4及びSM2/SM4は1.0以上で、且つSM1とSM2は0.15mol/100g水以上であり、
具体的に、以下の
(1)適量の反応物MとMを秤量し、適量の水に入れ、
(2)ステップ(1)における前記反応物を混合し、撹拌で加熱反応を行い、
(3)反応システムは所定の温度まで加熱し、30℃まで自然冷却し、
(4)遠心分離して、テトラフルオロホウ酸第四級アンモニウム塩の粗製品である固体を回収する、ステップで得られたものである。
【0007】
反応物Mにおいて、Mはアルカリ金属イオンまたはNHを示し、
反応物Mにおいて、R、R、R、Rは炭素数1〜5の炭化水素基を示し、ここで、これらR、R、R、Rの二つが互いに連結されていてもよく、連結されなくてもよい。分岐を含んでもよく、分岐を含まなくてもよい。ヒドロキシ基、エーテル基若しくはエステル基などの官能基を有することができる。Xは、Cl、Br、I若しくは硫酸モノアルキルエステル酸基である。
【0008】
MBFの水に対する溶解度をSM1(単位mol/100g水)とし、
【化2】

の水に対する溶解度をSM2(単位mol/100g水)とし、
MXの水に対する溶解度をSM3(単位mol/100g水)とし、
【化3】

の水に対する溶解度をSM4(単位mol/100g水)とし、
同一温度におけるSM1/SM4及びSM2/SM4のいずれかが1以上である場合には、この温度で水の量及び反応物の量を適宜選択すれば、目的産物Mが水から析出する。ここで、SM1/SM4及びSM2/SM4が大きいほど、Mの析出量は多くなり、また、目的産物Mは、水に対する溶解度より、塩溶液に対する溶解度の方が低い。
【0009】
前記化合物MとMのモル比は1:1である。
同一温度におけるSM1/SM4及びSM2/SM4のいずれかが1.1以上で、この温度におけるS1、S2が0.15mol/100g水以上であることが好ましい。
M3/SM4は1以上であることが好ましく、1以上でないと、水からMが析出するおそれがあり、目的産物Mの不純物が多くなる。
【0010】
前記Mはテトラフルオロホウ酸アンモニウム或いはテトラフルオロホウ酸ナトリウムであることが好ましい。前記Mはハロゲン化テトラエチルアンモニウム、ハロゲン化メチルトリn−ブチルアンモニウム、ハロゲン化エチルトリn−ブチルアンモニウム、及びハロゲン化プロピルトリn−ブチルアンモニウムのいずれか一つであることが好ましい。
【0011】
前記ステップ(3)において、温度は室温〜100℃であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法は、従来の製造方法と比べると、有機溶媒を使わないため、汚染と製造操作の複雑性を低下すると共に、操作者に安全な操作環境を与える。
【実施例】
【0013】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0014】
実施例1
塩化テトラエチルアンモニウム300g(即ち、1.181mol)と、テトラフルオロホウ酸アンモニウム190g(即ち、1.181mol)と、純水450gとを混合し、撹拌しつつ80℃に加熱して完全に溶解させ、30℃付近まで自然冷却し、遠心分離でテトラフルオロホウ酸テトラエチルアンモニウムの粗製品300gの固体を得た。含水率は約3.5%であり、収率は73%であった。
【0015】
以下は、反応物と生成物の水に対する溶解度のパラメータである。
NHClの水に対する溶解度は30℃で0.77mol/100g水であり、温度上昇とともに溶解度は大きくなる。
NHBFの水に対する溶解度は30℃で0.35mol/100g水であり、温度上昇とともに溶解度は大きくなる。
N(CBFの水に対する溶解度は30℃で0.22mol/100g水であり、温度上昇とともに溶解度は大きくなる。
N(CClの水に対する溶解度は30℃で1.41mol/100g水であり、温度上昇とともに溶解度は大きくなる。
【0016】
上記4つの塩において、NHClは、30℃で水に対する溶解度S3=0.77mol/100g水であり、NHBFは、30℃で水に対する溶解度S1=0.35mol/100g水であり、N(CBFは、30℃で水に対する溶解度S2=0.22mol/100g水であり、N(CClは、30℃で水に対する溶解度S2=1.41mol/100g水であり、また、K1=S1/S4=1.59、K2=S2/S4=6.4、K3=S3/S4=4.05であった。
【0017】
実施例2
臭化メチルトリn−ブチルアンモニウム220g(即ち、0.79mol)と、テトラフルオロホウ酸アンモニウム82.5g(即ち、0.79mol)と、純水280gとを混合し、撹拌しつつ60℃まで加熱し、30℃付近まで自然冷却し、遠心分離でテトラフルオロホウ酸テトラエチルアンモニウムの粗製品280gの個体を得た。含水率は約9.2%であり、収率は92%であった。
【0018】
以下は、反応物と生成物の水に対する溶解度のパラメータである。
臭化メチルトリn−ブチルアンモニウムの水に対する溶解度は−3℃で1.19mol/100g水であり、温度上昇とともに溶解度は大きくなる。即ち、30℃の場合は、S2>1.19mol/100g水であった。
テトラフルオロホウ酸アンモニウムは、30℃で水に対する溶解度S2=0.22mol/100g水であり、温度上昇とともに溶解度は大きくなる。
臭化アンモニウムは、30℃で水に対する溶解度S3=0.85mol/100g水であり、温度上昇とともに溶解度は大きくなる。
テトラフルオロホウ酸メチルトリn−ブチルアンモニウムの水に対する溶解度は30℃で0.012mol/100g水であり、温度上昇とともに溶解度は大きくなる。
【0019】
実施例3
臭化エチルトリn−ブチルアンモニウム262g(即ち、0.89mol)と、テトラフルオロホウ酸アンモニウム93.6g(即ち、0.89mol)と、純水300gとを混合し、撹拌しつつ70℃まで加熱し、30℃付近まで自然冷却し、遠心分離してテトラフルオロホウ酸エチルトリn−ブチルアンモニウムの粗製品252gの個体を得た。含水率は約10.4%であり、収率は84%であった。
【0020】
以下は、反応物と生成物の水に対する溶解度のパラメータである。
臭化エチルトリn−ブチルアンモニウムの水に対する溶解度は0℃で2.32mol/100g水であり、温度上昇とともに溶解度は大きくなる。即ち、30℃の場合は、S2>2.32mol/100g水であった。
テトラフルオロホウ酸アンモニウムは、30℃で水に対する溶解度S1=0.22mol/100g水であり、温度上昇とともに溶解度は大きくなる。
臭化アンモニウムは、30℃で水に対する溶解度S3=0.85mol/100g水であり、温度上昇とともに溶解度は大きくなる。
テトラフルオロホウ酸エチルトリn−ブチルアンモニウムの水に対する溶解度は30℃で0.015mol/100g水であり、温度上昇とともに溶解度は大きくなる。
【0021】
実施例4
臭化プロピルトリn−ブチルアンモニウム515g(即ち、1.67mol)と、テトラフルオロホウ酸アンモニウム175g(即ち、1.67mol)と、純水500gとを混合し、撹拌しつつ80℃まで加熱し、完全に溶解させ、30℃付近まで自然冷却し、遠心分離でテトラフルオロホウ酸プロピルトリn−ブチルアンモニウム粗製品415gの固体を得た。含水率は約5%であり、収率は78%であった。
【0022】
以下は、反応物と生成物の水に対する溶解度のパラメータである。
臭化プロピルトリn−ブチルアンモニウムの水に対する溶解度は0℃で3.05mol/100g水であり、温度上昇とともに溶解度は大きくなる。即ち、30℃の場合は、S2>3.05mol/100g水であった。
テトラフルオロホウ酸アンモニウムは、30℃で水に対する溶解度S1=0.22mol/100g水であり、温度上昇とともに溶解度は大きくなる。
臭化アンモニウムは、30℃で水に対する溶解度S3=0.85mol/100g水であり、温度上昇とともに溶解度は大きくなる。
テトラフルオロホウ酸プロピルトリn−ブチルアンモニウムの水に対する溶解度は0℃で0.0086mol/100g水であり、温度上昇とともに溶解度は大きくなる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラフルオロホウ酸第四級アンモニウム塩の製造方法であって、下記の一般式
【化1】

(ここで、反応物MにおけるMはアルカリ金属イオンまたはNHを示し、
反応物MにおけるR、R、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜5の炭化水素基を示し、
Xは、Cl、Br、I若しくは硫酸モノアルキルエステル酸基を示す。)に従って、
前記物質の水に対する溶解度Sは、SM1/SM4及びSM2/SM4が1.0以上であり、且つ、SM1及びSM2が0.15mol/100g水以上である、という関係を満たし、
(1)適量の反応物MとMを秤量し、適量の水に入れ、
(2)ステップ(1)における反応物を混合し、撹拌で加熱反応を行い、
(3)反応系を所定の温度まで加熱し、30℃付近まで自然冷却し、
(4)遠心分離し、テトラフルオロホウ酸第四級アンモニウム塩の粗製品である固体を回収するステップを通じて、テトラフルオロホウ酸第四級アンモニウム塩を得る製造方法。
【請求項2】
前記炭化水素基R、R、R、Rのうちの二つは互いに連結されている請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記炭化水素基R、R、R、Rは分岐を含む請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
前記炭化水素基R、R、R、Rはヒドロキシ基、エーテル基若しくはエステル基を有する請求項1記載の製造方法。
【請求項5】
前記MとMの溶解度の比SM3/SM4は1以上である請求項1記載の製造方法。
【請求項6】
前記Mはテトラフルオロホウ酸アンモニウム或いはテトラフルオロホウ酸ナトリウムである請求項1記載の製造方法。
【請求項7】
前記Mはハロゲン化テトラエチルアンモニウム、ハロゲン化メチルトリn−ブチルアンモニウム、ハロゲン化エチルトリn−ブチルアンモニウム、及びハロゲン化プロピルトリn−ブチルアンモニウムのいずれか一つである請求項1記載の製造方法。
【請求項8】
前記ステップ(3)における前記所定の温度は室温〜100℃である請求項1記載の製造方法。

【公開番号】特開2009−269917(P2009−269917A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−111188(P2009−111188)
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(507184498)シンセン新宙邦科技株式会社 (5)
【Fターム(参考)】