テラヘルツ分光用デバイスおよびその製造方法、ならびにテラヘルツ分光装置
【課題】被測定対象物がテラヘルツ波に対する吸収係数の小さい気体であっても、構成を大型化することなく良好にテラヘルツ透過スペクトル測定を行うことができるようにする。
【解決手段】被測定対象物が収容される内部空間15を有すると共に、入射口11Aを介して入射したテラヘルツ波を内部空間15で複数回内部反射させた後、出射口側に導くフォトニック結晶型の共振器構造を有する基板を用いる。テラヘルツ波を内部空間内で複数回内部反射させることによって測定に必要とされる伝搬距離が十分に確保される。これにより、テラヘルツ波に対する吸収係数の小さい気体であっても、構成を大型化することなく良好にテラヘルツ透過スペクトル測定を行うことが可能となる。
【解決手段】被測定対象物が収容される内部空間15を有すると共に、入射口11Aを介して入射したテラヘルツ波を内部空間15で複数回内部反射させた後、出射口側に導くフォトニック結晶型の共振器構造を有する基板を用いる。テラヘルツ波を内部空間内で複数回内部反射させることによって測定に必要とされる伝搬距離が十分に確保される。これにより、テラヘルツ波に対する吸収係数の小さい気体であっても、構成を大型化することなく良好にテラヘルツ透過スペクトル測定を行うことが可能となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テラヘルツ波を用いた気体試料のスペクトル分析を行うのに好適なテラヘルツ分光用デバイスおよびその製造方法、ならびにテラヘルツ分光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、テラヘルツ波を利用した技術が注目を集めており、テラヘルツ波を用いた分光やイメージングが産業応用として期待されている。例えば、テラヘルツ波の応用分野として、フォトンエネルギーがX線に比べて極めて小さいことを利用して安全な透視検査装置としてテラヘルツイメージングを行う技術や、分子の振動準位や回転準位に起因する物質の吸収スペクトルや複素誘電率を求めて物質の状態や同定を行う分光技術がある。また、半導体基板のキャリア濃度や移動度の評価、またLSIチップにフェムト秒レーザを照射することにより発生するテラヘルツから配線欠陥位置を検知する技術などが開発されている。
【0003】
中でも特許文献1に開示されているように、テラヘルツ波を用いて分光光学的手法によりガスセンシングを行う方法が知られている。これは、テラヘルツ波を被測定対象試料としての気体に照射し、透過したテラヘルツ波のスペクトルを得ることで分析を行うものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−222598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで一般にテラヘルツ波は気体に対して吸収係数が低いため、気体のテラヘルツ分光を行うには数m〜数100m程度の長い距離を伝搬させる必要がある。このため、装置構成が巨大で複雑、かつ高価になってしまうという問題があった。
【0006】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、被測定対象物がテラヘルツ波に対する吸収係数の小さい気体であっても、構成を大型化することなく良好にテラヘルツ透過スペクトル測定を行うことができるようにしたテラヘルツ分光用デバイスおよびその製造方法、ならびにテラヘルツ分光装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によるテラヘルツ分光用デバイスは、テラヘルツ波が入力される入射口と、テラヘルツ波が出力される出射口と、入射口と出射口との間に設けられ、被測定対象物が収容される内部空間を有すると共に、入射口を介して入射したテラヘルツ波を内部空間で複数回内部反射させた後、出射口側に導くフォトニック結晶型の共振器とを備えたものである。
【0008】
本発明によるテラヘルツ分光装置は、テラヘルツ波を発生する発生手段と、発生手段で発生されたテラヘルツ波が入力されるテラヘルツ分光用デバイスと、テラヘルツ分光用デバイスを伝搬した後のテラヘルツ波を検出する検出手段とを備えている。
そして、そのテラヘルツ分光用デバイスを、上記本発明のテラヘルツ分光用デバイスで構成したものである。
【0009】
本発明によるテラヘルツ分光用デバイスまたはテラヘルツ分光装置では、テラヘルツ波をフォトニック結晶型の共振器に入力し、被測定対象物が収容された内部空間内で複数回内部反射させた後、出射口側に導く。テラヘルツ波を内部空間内で複数回内部反射させることによって測定に必要とされる伝搬距離が十分に確保される。これにより、テラヘルツ波に対する吸収係数の小さい気体であっても、構成を大型化することなく良好にテラヘルツ透過スペクトル測定を行うことが可能となる。
【0010】
本発明によるテラヘルツ分光用デバイスの製造方法は、上記本発明のテラヘルツ分光用デバイスを、紫外線硬化樹脂を含む材料を用いて、インプリント成型または光造形により製造するようにしたものである。
【0011】
本発明によるテラヘルツ分光用デバイスの製造方法では、上記本発明のテラヘルツ分光用デバイスを、インプリント成型または光造形により大量生産することが可能となる。インプリント成型または光造形により製造可能であるのは、本発明のテラヘルツ分光用デバイスが、例えば数μmの基板製造誤差が分光性能に大きな影響を与えるということはなく、基板製造時の寸法公差による分光性能への影響を低減できるような構造とされているためである。本発明のテラヘルツ分光用デバイスで用いられているテラヘルツ領域でのフォトニック結晶構造は、例えば光通信帯のフォトニック結晶構造と比べて数10倍から数100倍の結晶格子サイズと結晶格子間隔であるため紫外線硬化樹脂を含む材料を用いた光造形やインプリント成型による大量製造生産が可能である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のテラヘルツ分光用デバイスまたはテラヘルツ分光装置によれば、テラヘルツ波をフォトニック結晶型の共振器に入力し、被測定対象物が収容された内部空間内で複数回内部反射させた後、出射口側に導くようにしたので、テラヘルツ波に対する吸収係数の小さい気体であっても、構成を大型化することなく良好にテラヘルツ透過スペクトル測定を行うことができる。
【0013】
本発明のテラヘルツ分光用デバイスの製造方法によれば、上記本発明のテラヘルツ分光用デバイスを、紫外線硬化樹脂を含む材料を用いて、インプリント成型または光造形により製造するようにしたので、大量生産が可能である。これは、上記本発明のテラヘルツ分光用デバイスが、例えば光通信用のフォトニック結晶構造に比べて高精度な製造公差が要求されないことなどによる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施の形態に係るテラヘルツ分光用デバイスの全体構成を模式的に示す斜視図である。
【図2】図1に示したテラヘルツ分光用デバイスにおける第1の基板の一構成例を示す平面図である。
【図3】図1に示したテラヘルツ分光用デバイスにおける第2の基板の一構成例を示す平面図である。
【図4】図1に示したテラヘルツ分光用デバイスにおける第3の基板の一構成例を示す平面図である。
【図5】図1に示したテラヘルツ分光用デバイスを組み込んだテラヘルツ分光装置の一例を示す構成図である。
【図6】図1に示したテラヘルツ分光用デバイスをテラヘルツ分光装置に導入する場合の密閉容器の一例を示す斜視図である。
【図7】図1に示したテラヘルツ分光用デバイスの収容部に被測定対象物が収容されていない状態で得られるテラヘルツ波のスペクトル波形の一例を示す波形図である。
【図8】図1に示したテラヘルツ分光用デバイスの収容部に被測定対象物を収容した状態で得られるテラヘルツ波のスペクトル波形の一例を示す波形図である。
【図9】図7のスペクトル波形と図8のスペクトル波形とから求められる被測定対象物のテラヘルツ波に対する吸収スペクトル波形を示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
[テラヘルツ分光用デバイス1の構成]
図1は、本発明の一実施の形態に係るテラヘルツ分光用デバイス1の構成例を示している。このテラヘルツ分光用デバイス1は、測定を行おうとするテラヘルツ波の波長に対して透明もしくは所定の透過率を持つ材料からなる第1の基板13、第2の基板16、および第3の基板17を備えている。各基板は、全体として例えば単一の材料(紫外線硬化樹脂を含む材料等)からなる。各基板は全体として平板状であり、図1に示したように、厚みが例えば0.1mm〜10mm程度、横方向および縦方向の長さが例えば300mm程度となっている。第2の基板16および第3の基板17は、第1の基板13に対して上方向および下方向の双方においてそれぞれ、少なくとも1枚ずつ、交互に積層配置されている。各基板間の保持は例えば接着剤を用いても良いし、上下方向から第1の基板13を構造的に押さえ込むようなものであっても良い。
【0017】
第1の基板13には、図2に示したように、入射口11Aと出射口11Bとが設けられている。また、入射口11Aと出射口11Bとの間で、フォトニック結晶型の共振器構造が形成され、その共振器構造によって水平面内(XY面内)でテラヘルツ波を複数回内部反射させた後、出射口11B側に導くようになっている。入射口11Aには、例えばフェムト秒レーザと光伝導アンテナとを用いて発生させたテラヘルツ波10が入力される。出射口11Bからは共振器構造部分を伝搬した後のテラヘルツ波14が出力される。第1の基板13には、被測定対象物(例えば気体試料)が収容(充満)される内部空間15が形成され、この内部空間15内でテラヘルツ波が複数回内部反射するようになっている。第1の基板13は、テラヘルツ波を水平面内で複数回内部反射させるために、水平面内で曲線状に湾曲した1次元的な屈折率周期構造部分12A,12Bを有している。曲線状の湾曲は、内部反射させるために内部空間15側が凹形状となるような形状とされている。屈折率周期構造部分12A,12Bは、曲線スリット状の空隙部と基板材料との屈折率周期構造とされている。この屈折率周期構造は、テラヘルツ波を伝搬するためにその周期が10mm未満とされている。
【0018】
なお、図1では各基板の積層構造を模式的に示すために便宜上、各基板の外形形状をすべて単純な四角形状で描いている。実際には、第1の基板13の外形形状は、図2に示したように曲線状の部分を有している。
【0019】
第1の基板13において、入射口11Aと出射口11B、および内部空間15と屈折率周期構造部分12A,12Bの空隙部は、原理的には、第1の面(表面)と第2の面(裏面)とを完全に貫通し、空間的には何もない状態で良い。ただし、それらすべての部分を完全に上下貫通した構造にすると、図2における主として右上側部分の第1の構造部分13Aと、主として左下側部分の第2の構造部分13Bとが、構造的に分離したものとなり、共振器構造部分を同一面内に保持するのが困難になる。そこで、共振器構造部分を形状的に保持するために、例えば入射口11A付近と出射口11B付近とを部分的に上下方向には貫通していない状態にすることが好ましい。例えば、入射口11A付近と出射口11B付近とが、基板13における第1の面(表面)側が開放されると共に、第1の面に対向する第2の面(裏面)側が閉じた領域とされた掘り込み型の構造を有していることが好ましい。
【0020】
第2の基板16は、図3に示したように、直線スリット状の空隙部16Aを有する直線格子型のフォトニック結晶構造を有している。第2の基板16は、直線スリット状の空隙部16Aと基板材料との屈折率周期構造とされている。テラヘルツ波に対するフォトニック結晶構造にするために、その周期は10mm未満とされている。
【0021】
第3の基板17も同様に、図4に示したように、直線スリット状の空隙部17Aを有する直線格子型のフォトニック結晶構造を有している。第3の基板17は、直線スリット状の空隙部17Aと基板材料との屈折率周期構造とされている。テラヘルツ波に対するフォトニック結晶構造にするために、その周期は10mm未満とされている。
【0022】
第2の基板16と第3の基板17は、図3および図4に示したように、互いの格子方向が直交するようにして第1の基板13に対して上方向および下方向に交互に積層配置される。このようなwood pile型のフォトニック結晶構造によって、第1の基板13に入射したテラヘルツ波を第1の基板13に対して上下方向に閉じこめる構造とされている。すなわち、このテラヘルツ分光用デバイス1では、第1の基板13の入射口11Aから入射したテラヘルツ波の伝搬方向が、水平方向には第1の基板13のフォトニック結晶型の共振器構造によって規制される。一方、上下方向の伝搬は第2の基板16と第3の基板17とによるフォトニック結晶構造によって規制される。
【0023】
なお、各基板は、上述したように空隙部を有しているので、被測定対象物が気体であっても、それら空隙部を介して第1の基板13の内部空間15に気体を流入させ、充満させることが可能である。また、第1の基板13の入射口11Aと出射口11Bからも気体を流入させることが可能となっている。
【0024】
[テラヘルツ分光用デバイス1による作用および効果]
このテラヘルツ分光用デバイス1では、テラヘルツ波をフォトニック結晶型の共振器に入力し、被測定対象物が収容された内部空間15内で複数回内部反射させた後、出射口11B側に導く。このテラヘルツ分光用デバイス1では、例えば数μmの基板製造誤差が分光性能に大きな影響を与えるということはなく、基板製造時の寸法公差による分光性能への影響を低減できる。また、このテラヘルツ分光用デバイス1で用いられているテラヘルツ領域でのフォトニック結晶構造は、例えば光通信帯のフォトニック結晶構造と比べて数10倍から数100倍の結晶格子サイズと結晶格子間隔であるため、比較的高精度な製造公差は要求されず、各基板は、紫外線硬化樹脂を含む材料を用いた光造形やインプリント成型による大量製造生産が可能である。また基板製造後は、3種類の基板を積み重ねるだけでよく、またその際に求められる組み合わせの位置精度は数mm程度で良いため、デバイス全体としても製造が簡便であり、大量製造生産が可能となる。
【0025】
このテラヘルツ分光用デバイス1は、図2〜図4に示したフォトニック結晶構造の基板を図1に示したように積層して全体としてスラブ型の導波路構造にしている。これにより、第1の基板13の水平方向および上下方向にテラヘルツ波を閉じ込める領域を作り出し、限られた内部空間15の中をテラヘルツ波が複数回反射するようにしている。従って、被測定対象物がテラヘルツ波に対する吸収係数の小さい気体であっても、十分に吸収を起こさせるだけの内部距離を確保することができる。
【0026】
以上のように本実施の形態に係るテラヘルツ分光用デバイス1によれば、テラヘルツ波をフォトニック結晶型の共振器に入力し、被測定対象物が収容された内部空間15内で複数回内部反射させた後、出射口11B側に導くようにしたので、テラヘルツ波に対する吸収係数の小さい気体であっても、構成を大型化することなく良好にテラヘルツ透過スペクトル測定を行うことができる。
【0027】
[テラヘルツ分光装置への適用例]
図5は、テラヘルツ分光用デバイス1を用いたテラヘルツ分光装置の一例を示している。このテラヘルツ分光装置は、フェムト秒レーザ90と、ビームスプリッタ91と、光伝導アンテナ92A,92Bと、シリコンレンズ93A,93Bと、放物面鏡94,96と、シリコンレンズ95A,95Bと、反射鏡97と、時間遅延器98とを備えている。
フェムト秒レーザ90と光伝導アンテナ92Aは、本発明における「発生手段」の一具体例に相当する。また、主として光伝導アンテナ92Bが、本発明における「検出手段」の一具体例に相当する。
【0028】
図6は、図1に示したテラヘルツ分光用デバイス1を図5に示したテラヘルツ分光装置に導入する場合の気体の密閉方法の一例を示している。被測定対象物が気体である場合、テラヘルツ分光用デバイス1を図6に示したような気体密閉容器60の内部に収容すると共に、テラヘルツ分光用デバイス1を収容した状態で気体密閉容器60の内部に被測定対象物の気体を充満させる。気体密閉容器60は、テラヘルツ波用窓61A,61Bと、被測定気体試料入力口62と、真空ポンプ用気体入出力口63と、デバイス挿入用扉64とを備えている。テラヘルツ波用窓61A,61Bが、図5に示したようにシリコンレンズ95A,95Bの間に配置されるようにする。デバイス挿入用扉64からテラヘルツ分光用デバイス1を内部に設置した後、扉を閉めた状態にして図示しない真空ポンプによって、容器内部の空気(真空ポンプ用気体66)を排出する。その後、被測定気体試料65を、被測定気体試料入力口62から充填する。このようにして、テラヘルツ分光用デバイス1の内部空間15(図2)に被測定対象物が十分に収容(充満)された状態で測定を行う。
【0029】
[テラヘルツ分光装置による測定動作]
図5に示したテラヘルツ分光装置において、フェムト秒レーザ90から100fs(フェムト秒)程度のパルス幅を持つレーザパルスを発生させる。そのレーザパルスをビームスプリッタ91で分け、一方を低温成長させたGaAs(ガリウムヒ素)等で作製され、バイアスされた光伝導アンテナ92Aのギャップ部に照射してテラヘルツ波を発生させる。そのテラヘルツ波を、光伝導アンテナ92Aの直後に設置したシリコンレンズ93Aで集め、放物面鏡94およびシリコンレンズ95Aを経て、テラヘルツ分光用デバイス1の入射口11A(図2)に入射させ、内部の共振器構造部分に結合する。テラヘルツ分光用デバイス1に入力されたテラヘルツ波は、共振器構造部分を伝搬する間に被測定対象物との相互作用がなされて、出射口11Bから出力される。テラヘルツ分光用デバイス1から出力されたテラヘルツ波は、シリコンレンズ95B、放物面鏡96、およびシリコンレンズ93Bを経て光伝導アンテナ92Bに結合する。
【0030】
一方で、ビームスプリッタ91で分割された他方のレーザパルスが、時間遅延器98、および反射鏡97を経て、到達時間がずれた状態で光伝導アンテナ92Bに結合する。この到達時間のずらされた各遅延時間における光伝導アンテナ92Bからの光電流を測定することで、テラヘルツ波の電界時間波形を得ることができる。これをフーリエ変換することで、例えば図7、図8に示すようなテラヘルツ波のスペクトル波形20,21を得ることができる。
【0031】
次に、図7〜図9を参照して、被測定対象物のスペクトルが得られる測定手順を説明する。図7は、テラヘルツ分光用デバイス1の内部空間15に被測定対象物が収容(充満)されていない状態で、図5のテラヘルツ分光装置によって得られるテラヘルツ波のスペクトル波形20を模式的に示している。図8は、テラヘルツ分光用デバイス1の内部空間15に被測定対象物を収容(充満)した状態で得られるテラヘルツ波のスペクトル波形21を模式的に示している。
【0032】
このように、被測定対象物を充満していない状態で得られたスペクトル波形20と、被測定対象物を充満した状態で得られたスペクトル波形21とを測定し、さらにそれらの比を求める。これにより、例えば図9に示したように、被測定対象物のテラヘルツ波に対する吸収スペクトル波形22を得ることができる。
【0033】
<他の実施の形態>
本発明は、上記実施の形態に限定されず種々の変形実施が可能である。
例えば、テラヘルツ波の発生手段は、図5に示したようなフェムト秒レーザ90と光伝導アンテナ92Aとを用いたものに限らない。例えば量子カスケードレーザや光パラメトリック発振によって発生させたものを用いても良い。
【符号の説明】
【0034】
1…テラヘルツ分光用デバイス、10,14…テラヘルツ波、11A…入射口、11B…出射口、12A,12B…1次元的な屈折率周期構造部分、13…第1の基板(1次元フォトニック結晶構造を有する共振器)、13A…第1の構造部分、13B…第2の構造部分、15…内部空間、16…第2の基板(直線格子型のフォトニック結晶)、17…第3の基板(直線格子型のフォトニック結晶)、16A,17A…空隙部、60…気体密閉容器、61A,61B…テラヘルツ波用窓、62…被測定気体試料入力口、63…真空ポンプ用気体入出力口、64…デバイス挿入用扉、65…被測定気体試料、66…真空ポンプ用気体、90…フェムト秒レーザ、91…ビームスプリッタ、92A,92B…光伝導アンテナ、93A,93B…シリコンレンズ、94,96…放物面鏡、95A,95B…シリコンレンズ、97…反射鏡、98…時間遅延器。
【技術分野】
【0001】
本発明は、テラヘルツ波を用いた気体試料のスペクトル分析を行うのに好適なテラヘルツ分光用デバイスおよびその製造方法、ならびにテラヘルツ分光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、テラヘルツ波を利用した技術が注目を集めており、テラヘルツ波を用いた分光やイメージングが産業応用として期待されている。例えば、テラヘルツ波の応用分野として、フォトンエネルギーがX線に比べて極めて小さいことを利用して安全な透視検査装置としてテラヘルツイメージングを行う技術や、分子の振動準位や回転準位に起因する物質の吸収スペクトルや複素誘電率を求めて物質の状態や同定を行う分光技術がある。また、半導体基板のキャリア濃度や移動度の評価、またLSIチップにフェムト秒レーザを照射することにより発生するテラヘルツから配線欠陥位置を検知する技術などが開発されている。
【0003】
中でも特許文献1に開示されているように、テラヘルツ波を用いて分光光学的手法によりガスセンシングを行う方法が知られている。これは、テラヘルツ波を被測定対象試料としての気体に照射し、透過したテラヘルツ波のスペクトルを得ることで分析を行うものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−222598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで一般にテラヘルツ波は気体に対して吸収係数が低いため、気体のテラヘルツ分光を行うには数m〜数100m程度の長い距離を伝搬させる必要がある。このため、装置構成が巨大で複雑、かつ高価になってしまうという問題があった。
【0006】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、被測定対象物がテラヘルツ波に対する吸収係数の小さい気体であっても、構成を大型化することなく良好にテラヘルツ透過スペクトル測定を行うことができるようにしたテラヘルツ分光用デバイスおよびその製造方法、ならびにテラヘルツ分光装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によるテラヘルツ分光用デバイスは、テラヘルツ波が入力される入射口と、テラヘルツ波が出力される出射口と、入射口と出射口との間に設けられ、被測定対象物が収容される内部空間を有すると共に、入射口を介して入射したテラヘルツ波を内部空間で複数回内部反射させた後、出射口側に導くフォトニック結晶型の共振器とを備えたものである。
【0008】
本発明によるテラヘルツ分光装置は、テラヘルツ波を発生する発生手段と、発生手段で発生されたテラヘルツ波が入力されるテラヘルツ分光用デバイスと、テラヘルツ分光用デバイスを伝搬した後のテラヘルツ波を検出する検出手段とを備えている。
そして、そのテラヘルツ分光用デバイスを、上記本発明のテラヘルツ分光用デバイスで構成したものである。
【0009】
本発明によるテラヘルツ分光用デバイスまたはテラヘルツ分光装置では、テラヘルツ波をフォトニック結晶型の共振器に入力し、被測定対象物が収容された内部空間内で複数回内部反射させた後、出射口側に導く。テラヘルツ波を内部空間内で複数回内部反射させることによって測定に必要とされる伝搬距離が十分に確保される。これにより、テラヘルツ波に対する吸収係数の小さい気体であっても、構成を大型化することなく良好にテラヘルツ透過スペクトル測定を行うことが可能となる。
【0010】
本発明によるテラヘルツ分光用デバイスの製造方法は、上記本発明のテラヘルツ分光用デバイスを、紫外線硬化樹脂を含む材料を用いて、インプリント成型または光造形により製造するようにしたものである。
【0011】
本発明によるテラヘルツ分光用デバイスの製造方法では、上記本発明のテラヘルツ分光用デバイスを、インプリント成型または光造形により大量生産することが可能となる。インプリント成型または光造形により製造可能であるのは、本発明のテラヘルツ分光用デバイスが、例えば数μmの基板製造誤差が分光性能に大きな影響を与えるということはなく、基板製造時の寸法公差による分光性能への影響を低減できるような構造とされているためである。本発明のテラヘルツ分光用デバイスで用いられているテラヘルツ領域でのフォトニック結晶構造は、例えば光通信帯のフォトニック結晶構造と比べて数10倍から数100倍の結晶格子サイズと結晶格子間隔であるため紫外線硬化樹脂を含む材料を用いた光造形やインプリント成型による大量製造生産が可能である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のテラヘルツ分光用デバイスまたはテラヘルツ分光装置によれば、テラヘルツ波をフォトニック結晶型の共振器に入力し、被測定対象物が収容された内部空間内で複数回内部反射させた後、出射口側に導くようにしたので、テラヘルツ波に対する吸収係数の小さい気体であっても、構成を大型化することなく良好にテラヘルツ透過スペクトル測定を行うことができる。
【0013】
本発明のテラヘルツ分光用デバイスの製造方法によれば、上記本発明のテラヘルツ分光用デバイスを、紫外線硬化樹脂を含む材料を用いて、インプリント成型または光造形により製造するようにしたので、大量生産が可能である。これは、上記本発明のテラヘルツ分光用デバイスが、例えば光通信用のフォトニック結晶構造に比べて高精度な製造公差が要求されないことなどによる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施の形態に係るテラヘルツ分光用デバイスの全体構成を模式的に示す斜視図である。
【図2】図1に示したテラヘルツ分光用デバイスにおける第1の基板の一構成例を示す平面図である。
【図3】図1に示したテラヘルツ分光用デバイスにおける第2の基板の一構成例を示す平面図である。
【図4】図1に示したテラヘルツ分光用デバイスにおける第3の基板の一構成例を示す平面図である。
【図5】図1に示したテラヘルツ分光用デバイスを組み込んだテラヘルツ分光装置の一例を示す構成図である。
【図6】図1に示したテラヘルツ分光用デバイスをテラヘルツ分光装置に導入する場合の密閉容器の一例を示す斜視図である。
【図7】図1に示したテラヘルツ分光用デバイスの収容部に被測定対象物が収容されていない状態で得られるテラヘルツ波のスペクトル波形の一例を示す波形図である。
【図8】図1に示したテラヘルツ分光用デバイスの収容部に被測定対象物を収容した状態で得られるテラヘルツ波のスペクトル波形の一例を示す波形図である。
【図9】図7のスペクトル波形と図8のスペクトル波形とから求められる被測定対象物のテラヘルツ波に対する吸収スペクトル波形を示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
[テラヘルツ分光用デバイス1の構成]
図1は、本発明の一実施の形態に係るテラヘルツ分光用デバイス1の構成例を示している。このテラヘルツ分光用デバイス1は、測定を行おうとするテラヘルツ波の波長に対して透明もしくは所定の透過率を持つ材料からなる第1の基板13、第2の基板16、および第3の基板17を備えている。各基板は、全体として例えば単一の材料(紫外線硬化樹脂を含む材料等)からなる。各基板は全体として平板状であり、図1に示したように、厚みが例えば0.1mm〜10mm程度、横方向および縦方向の長さが例えば300mm程度となっている。第2の基板16および第3の基板17は、第1の基板13に対して上方向および下方向の双方においてそれぞれ、少なくとも1枚ずつ、交互に積層配置されている。各基板間の保持は例えば接着剤を用いても良いし、上下方向から第1の基板13を構造的に押さえ込むようなものであっても良い。
【0017】
第1の基板13には、図2に示したように、入射口11Aと出射口11Bとが設けられている。また、入射口11Aと出射口11Bとの間で、フォトニック結晶型の共振器構造が形成され、その共振器構造によって水平面内(XY面内)でテラヘルツ波を複数回内部反射させた後、出射口11B側に導くようになっている。入射口11Aには、例えばフェムト秒レーザと光伝導アンテナとを用いて発生させたテラヘルツ波10が入力される。出射口11Bからは共振器構造部分を伝搬した後のテラヘルツ波14が出力される。第1の基板13には、被測定対象物(例えば気体試料)が収容(充満)される内部空間15が形成され、この内部空間15内でテラヘルツ波が複数回内部反射するようになっている。第1の基板13は、テラヘルツ波を水平面内で複数回内部反射させるために、水平面内で曲線状に湾曲した1次元的な屈折率周期構造部分12A,12Bを有している。曲線状の湾曲は、内部反射させるために内部空間15側が凹形状となるような形状とされている。屈折率周期構造部分12A,12Bは、曲線スリット状の空隙部と基板材料との屈折率周期構造とされている。この屈折率周期構造は、テラヘルツ波を伝搬するためにその周期が10mm未満とされている。
【0018】
なお、図1では各基板の積層構造を模式的に示すために便宜上、各基板の外形形状をすべて単純な四角形状で描いている。実際には、第1の基板13の外形形状は、図2に示したように曲線状の部分を有している。
【0019】
第1の基板13において、入射口11Aと出射口11B、および内部空間15と屈折率周期構造部分12A,12Bの空隙部は、原理的には、第1の面(表面)と第2の面(裏面)とを完全に貫通し、空間的には何もない状態で良い。ただし、それらすべての部分を完全に上下貫通した構造にすると、図2における主として右上側部分の第1の構造部分13Aと、主として左下側部分の第2の構造部分13Bとが、構造的に分離したものとなり、共振器構造部分を同一面内に保持するのが困難になる。そこで、共振器構造部分を形状的に保持するために、例えば入射口11A付近と出射口11B付近とを部分的に上下方向には貫通していない状態にすることが好ましい。例えば、入射口11A付近と出射口11B付近とが、基板13における第1の面(表面)側が開放されると共に、第1の面に対向する第2の面(裏面)側が閉じた領域とされた掘り込み型の構造を有していることが好ましい。
【0020】
第2の基板16は、図3に示したように、直線スリット状の空隙部16Aを有する直線格子型のフォトニック結晶構造を有している。第2の基板16は、直線スリット状の空隙部16Aと基板材料との屈折率周期構造とされている。テラヘルツ波に対するフォトニック結晶構造にするために、その周期は10mm未満とされている。
【0021】
第3の基板17も同様に、図4に示したように、直線スリット状の空隙部17Aを有する直線格子型のフォトニック結晶構造を有している。第3の基板17は、直線スリット状の空隙部17Aと基板材料との屈折率周期構造とされている。テラヘルツ波に対するフォトニック結晶構造にするために、その周期は10mm未満とされている。
【0022】
第2の基板16と第3の基板17は、図3および図4に示したように、互いの格子方向が直交するようにして第1の基板13に対して上方向および下方向に交互に積層配置される。このようなwood pile型のフォトニック結晶構造によって、第1の基板13に入射したテラヘルツ波を第1の基板13に対して上下方向に閉じこめる構造とされている。すなわち、このテラヘルツ分光用デバイス1では、第1の基板13の入射口11Aから入射したテラヘルツ波の伝搬方向が、水平方向には第1の基板13のフォトニック結晶型の共振器構造によって規制される。一方、上下方向の伝搬は第2の基板16と第3の基板17とによるフォトニック結晶構造によって規制される。
【0023】
なお、各基板は、上述したように空隙部を有しているので、被測定対象物が気体であっても、それら空隙部を介して第1の基板13の内部空間15に気体を流入させ、充満させることが可能である。また、第1の基板13の入射口11Aと出射口11Bからも気体を流入させることが可能となっている。
【0024】
[テラヘルツ分光用デバイス1による作用および効果]
このテラヘルツ分光用デバイス1では、テラヘルツ波をフォトニック結晶型の共振器に入力し、被測定対象物が収容された内部空間15内で複数回内部反射させた後、出射口11B側に導く。このテラヘルツ分光用デバイス1では、例えば数μmの基板製造誤差が分光性能に大きな影響を与えるということはなく、基板製造時の寸法公差による分光性能への影響を低減できる。また、このテラヘルツ分光用デバイス1で用いられているテラヘルツ領域でのフォトニック結晶構造は、例えば光通信帯のフォトニック結晶構造と比べて数10倍から数100倍の結晶格子サイズと結晶格子間隔であるため、比較的高精度な製造公差は要求されず、各基板は、紫外線硬化樹脂を含む材料を用いた光造形やインプリント成型による大量製造生産が可能である。また基板製造後は、3種類の基板を積み重ねるだけでよく、またその際に求められる組み合わせの位置精度は数mm程度で良いため、デバイス全体としても製造が簡便であり、大量製造生産が可能となる。
【0025】
このテラヘルツ分光用デバイス1は、図2〜図4に示したフォトニック結晶構造の基板を図1に示したように積層して全体としてスラブ型の導波路構造にしている。これにより、第1の基板13の水平方向および上下方向にテラヘルツ波を閉じ込める領域を作り出し、限られた内部空間15の中をテラヘルツ波が複数回反射するようにしている。従って、被測定対象物がテラヘルツ波に対する吸収係数の小さい気体であっても、十分に吸収を起こさせるだけの内部距離を確保することができる。
【0026】
以上のように本実施の形態に係るテラヘルツ分光用デバイス1によれば、テラヘルツ波をフォトニック結晶型の共振器に入力し、被測定対象物が収容された内部空間15内で複数回内部反射させた後、出射口11B側に導くようにしたので、テラヘルツ波に対する吸収係数の小さい気体であっても、構成を大型化することなく良好にテラヘルツ透過スペクトル測定を行うことができる。
【0027】
[テラヘルツ分光装置への適用例]
図5は、テラヘルツ分光用デバイス1を用いたテラヘルツ分光装置の一例を示している。このテラヘルツ分光装置は、フェムト秒レーザ90と、ビームスプリッタ91と、光伝導アンテナ92A,92Bと、シリコンレンズ93A,93Bと、放物面鏡94,96と、シリコンレンズ95A,95Bと、反射鏡97と、時間遅延器98とを備えている。
フェムト秒レーザ90と光伝導アンテナ92Aは、本発明における「発生手段」の一具体例に相当する。また、主として光伝導アンテナ92Bが、本発明における「検出手段」の一具体例に相当する。
【0028】
図6は、図1に示したテラヘルツ分光用デバイス1を図5に示したテラヘルツ分光装置に導入する場合の気体の密閉方法の一例を示している。被測定対象物が気体である場合、テラヘルツ分光用デバイス1を図6に示したような気体密閉容器60の内部に収容すると共に、テラヘルツ分光用デバイス1を収容した状態で気体密閉容器60の内部に被測定対象物の気体を充満させる。気体密閉容器60は、テラヘルツ波用窓61A,61Bと、被測定気体試料入力口62と、真空ポンプ用気体入出力口63と、デバイス挿入用扉64とを備えている。テラヘルツ波用窓61A,61Bが、図5に示したようにシリコンレンズ95A,95Bの間に配置されるようにする。デバイス挿入用扉64からテラヘルツ分光用デバイス1を内部に設置した後、扉を閉めた状態にして図示しない真空ポンプによって、容器内部の空気(真空ポンプ用気体66)を排出する。その後、被測定気体試料65を、被測定気体試料入力口62から充填する。このようにして、テラヘルツ分光用デバイス1の内部空間15(図2)に被測定対象物が十分に収容(充満)された状態で測定を行う。
【0029】
[テラヘルツ分光装置による測定動作]
図5に示したテラヘルツ分光装置において、フェムト秒レーザ90から100fs(フェムト秒)程度のパルス幅を持つレーザパルスを発生させる。そのレーザパルスをビームスプリッタ91で分け、一方を低温成長させたGaAs(ガリウムヒ素)等で作製され、バイアスされた光伝導アンテナ92Aのギャップ部に照射してテラヘルツ波を発生させる。そのテラヘルツ波を、光伝導アンテナ92Aの直後に設置したシリコンレンズ93Aで集め、放物面鏡94およびシリコンレンズ95Aを経て、テラヘルツ分光用デバイス1の入射口11A(図2)に入射させ、内部の共振器構造部分に結合する。テラヘルツ分光用デバイス1に入力されたテラヘルツ波は、共振器構造部分を伝搬する間に被測定対象物との相互作用がなされて、出射口11Bから出力される。テラヘルツ分光用デバイス1から出力されたテラヘルツ波は、シリコンレンズ95B、放物面鏡96、およびシリコンレンズ93Bを経て光伝導アンテナ92Bに結合する。
【0030】
一方で、ビームスプリッタ91で分割された他方のレーザパルスが、時間遅延器98、および反射鏡97を経て、到達時間がずれた状態で光伝導アンテナ92Bに結合する。この到達時間のずらされた各遅延時間における光伝導アンテナ92Bからの光電流を測定することで、テラヘルツ波の電界時間波形を得ることができる。これをフーリエ変換することで、例えば図7、図8に示すようなテラヘルツ波のスペクトル波形20,21を得ることができる。
【0031】
次に、図7〜図9を参照して、被測定対象物のスペクトルが得られる測定手順を説明する。図7は、テラヘルツ分光用デバイス1の内部空間15に被測定対象物が収容(充満)されていない状態で、図5のテラヘルツ分光装置によって得られるテラヘルツ波のスペクトル波形20を模式的に示している。図8は、テラヘルツ分光用デバイス1の内部空間15に被測定対象物を収容(充満)した状態で得られるテラヘルツ波のスペクトル波形21を模式的に示している。
【0032】
このように、被測定対象物を充満していない状態で得られたスペクトル波形20と、被測定対象物を充満した状態で得られたスペクトル波形21とを測定し、さらにそれらの比を求める。これにより、例えば図9に示したように、被測定対象物のテラヘルツ波に対する吸収スペクトル波形22を得ることができる。
【0033】
<他の実施の形態>
本発明は、上記実施の形態に限定されず種々の変形実施が可能である。
例えば、テラヘルツ波の発生手段は、図5に示したようなフェムト秒レーザ90と光伝導アンテナ92Aとを用いたものに限らない。例えば量子カスケードレーザや光パラメトリック発振によって発生させたものを用いても良い。
【符号の説明】
【0034】
1…テラヘルツ分光用デバイス、10,14…テラヘルツ波、11A…入射口、11B…出射口、12A,12B…1次元的な屈折率周期構造部分、13…第1の基板(1次元フォトニック結晶構造を有する共振器)、13A…第1の構造部分、13B…第2の構造部分、15…内部空間、16…第2の基板(直線格子型のフォトニック結晶)、17…第3の基板(直線格子型のフォトニック結晶)、16A,17A…空隙部、60…気体密閉容器、61A,61B…テラヘルツ波用窓、62…被測定気体試料入力口、63…真空ポンプ用気体入出力口、64…デバイス挿入用扉、65…被測定気体試料、66…真空ポンプ用気体、90…フェムト秒レーザ、91…ビームスプリッタ、92A,92B…光伝導アンテナ、93A,93B…シリコンレンズ、94,96…放物面鏡、95A,95B…シリコンレンズ、97…反射鏡、98…時間遅延器。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
テラヘルツ波が入力される入射口と、
前記テラヘルツ波が出力される出射口と、
前記入射口と前記出射口との間に設けられ、被測定対象物が収容される内部空間を有すると共に、前記入射口を介して入射した前記テラヘルツ波を前記内部空間で複数回内部反射させた後、前記出射口側に導くフォトニック結晶型の共振器と
を備えたテラヘルツ分光用デバイス。
【請求項2】
前記共振器は、水平面内で曲線状に湾曲した1次元的な屈折率周期構造を有する
請求項1に記載のテラヘルツ分光用デバイス。
【請求項3】
前記入射口と前記出射口とが設けられると共に、前記入射口と前記出射口との間に前記フォトニック結晶型の共振器が形成され、前記共振器によって水平面内で前記テラヘルツ波を複数回内部反射させる第1の基板と、
直線格子型のフォトニック結晶構造を有し、前記第1の基板に対して上方向および下方向に積層配置された第2の基板と、
直線格子型のフォトニック結晶構造を有し、前記第1の基板に対して上方向および下方向に積層配置され、かつ、前記第2の基板に対して格子方向が互いに直交するように積層配置された第3の基板と
をさらに備えた請求項1または2に記載のテラヘルツ分光用デバイス。
【請求項4】
前記被測定対象物は気体であり、
前記第2の基板および前記第3の基板はそれぞれ、直線スリット状の空隙部を有する直線格子型のフォトニック結晶構造であり、
前記入射口と前記出射口、および前記空隙部を介して前記第1の基板の前記内部空間に前記被測定対象物の気体が流入する構造とされている
請求項3に記載のテラヘルツ分光用デバイス。
【請求項5】
前記入射口または前記出射口の少なくとも一方は、前記第1の基板における第1の面側が開放されると共に、前記第1の面に対向する第2の面側が閉じた領域とされた掘り込み型の構造を有している
請求項3に記載のテラヘルツ分光用デバイス。
【請求項6】
前記第1の基板、前記第2の基板および前記第3の基板はそれぞれ、周期が10mm未満の屈折率周期構造を有する
請求項3に記載のテラヘルツ分光用デバイス。
【請求項7】
前記第1の基板、前記第2の基板および前記第3の基板はそれぞれ、前記テラヘルツ波を透過する単一の材料からなる
請求項3に記載のテラヘルツ分光用デバイス。
【請求項8】
テラヘルツ波を発生する発生手段と、
前記発生手段で発生されたテラヘルツ波が入力されるテラヘルツ分光用デバイスと、
前記テラヘルツ分光用デバイスを伝搬した後のテラヘルツ波を検出する検出手段と
を備え、
前記テラヘルツ分光用デバイスは、
前記テラヘルツ波が入力される入射口と、
前記テラヘルツ波が出力される出射口と、
前記入射口と前記出射口との間に設けられ、被測定対象物が収容される内部空間を有すると共に、前記入射口を介して入射した前記テラヘルツ波を前記内部空間で複数回内部反射させた後、前記出射口側に導くフォトニック結晶型の共振器と
を有するテラヘルツ分光装置。
【請求項9】
前記被測定対象物は気体であり、
前記テラヘルツ分光用デバイスを内部に収容すると共に、前記テラヘルツ分光用デバイスを収容した状態で内部に前記被測定対象物の気体を充満させる密閉容器をさらに備えた
請求項8に記載のテラヘルツ分光装置。
【請求項10】
テラヘルツ波が入力される入射口と、
前記テラヘルツ波が出力される出射口と、
前記入射口と前記出射口との間に設けられ、被測定対象物が収容される内部空間を有すると共に、前記入射口を介して入射した前記テラヘルツ波を前記内部空間で複数回内部反射させた後、前記出射口側に導くフォトニック結晶型の共振器と
を備えたテラヘルツ分光用デバイスを、
紫外線硬化樹脂を含む材料を用いて、インプリント成型または光造形により製造する
テラヘルツ分光用デバイスの製造方法。
【請求項1】
テラヘルツ波が入力される入射口と、
前記テラヘルツ波が出力される出射口と、
前記入射口と前記出射口との間に設けられ、被測定対象物が収容される内部空間を有すると共に、前記入射口を介して入射した前記テラヘルツ波を前記内部空間で複数回内部反射させた後、前記出射口側に導くフォトニック結晶型の共振器と
を備えたテラヘルツ分光用デバイス。
【請求項2】
前記共振器は、水平面内で曲線状に湾曲した1次元的な屈折率周期構造を有する
請求項1に記載のテラヘルツ分光用デバイス。
【請求項3】
前記入射口と前記出射口とが設けられると共に、前記入射口と前記出射口との間に前記フォトニック結晶型の共振器が形成され、前記共振器によって水平面内で前記テラヘルツ波を複数回内部反射させる第1の基板と、
直線格子型のフォトニック結晶構造を有し、前記第1の基板に対して上方向および下方向に積層配置された第2の基板と、
直線格子型のフォトニック結晶構造を有し、前記第1の基板に対して上方向および下方向に積層配置され、かつ、前記第2の基板に対して格子方向が互いに直交するように積層配置された第3の基板と
をさらに備えた請求項1または2に記載のテラヘルツ分光用デバイス。
【請求項4】
前記被測定対象物は気体であり、
前記第2の基板および前記第3の基板はそれぞれ、直線スリット状の空隙部を有する直線格子型のフォトニック結晶構造であり、
前記入射口と前記出射口、および前記空隙部を介して前記第1の基板の前記内部空間に前記被測定対象物の気体が流入する構造とされている
請求項3に記載のテラヘルツ分光用デバイス。
【請求項5】
前記入射口または前記出射口の少なくとも一方は、前記第1の基板における第1の面側が開放されると共に、前記第1の面に対向する第2の面側が閉じた領域とされた掘り込み型の構造を有している
請求項3に記載のテラヘルツ分光用デバイス。
【請求項6】
前記第1の基板、前記第2の基板および前記第3の基板はそれぞれ、周期が10mm未満の屈折率周期構造を有する
請求項3に記載のテラヘルツ分光用デバイス。
【請求項7】
前記第1の基板、前記第2の基板および前記第3の基板はそれぞれ、前記テラヘルツ波を透過する単一の材料からなる
請求項3に記載のテラヘルツ分光用デバイス。
【請求項8】
テラヘルツ波を発生する発生手段と、
前記発生手段で発生されたテラヘルツ波が入力されるテラヘルツ分光用デバイスと、
前記テラヘルツ分光用デバイスを伝搬した後のテラヘルツ波を検出する検出手段と
を備え、
前記テラヘルツ分光用デバイスは、
前記テラヘルツ波が入力される入射口と、
前記テラヘルツ波が出力される出射口と、
前記入射口と前記出射口との間に設けられ、被測定対象物が収容される内部空間を有すると共に、前記入射口を介して入射した前記テラヘルツ波を前記内部空間で複数回内部反射させた後、前記出射口側に導くフォトニック結晶型の共振器と
を有するテラヘルツ分光装置。
【請求項9】
前記被測定対象物は気体であり、
前記テラヘルツ分光用デバイスを内部に収容すると共に、前記テラヘルツ分光用デバイスを収容した状態で内部に前記被測定対象物の気体を充満させる密閉容器をさらに備えた
請求項8に記載のテラヘルツ分光装置。
【請求項10】
テラヘルツ波が入力される入射口と、
前記テラヘルツ波が出力される出射口と、
前記入射口と前記出射口との間に設けられ、被測定対象物が収容される内部空間を有すると共に、前記入射口を介して入射した前記テラヘルツ波を前記内部空間で複数回内部反射させた後、前記出射口側に導くフォトニック結晶型の共振器と
を備えたテラヘルツ分光用デバイスを、
紫外線硬化樹脂を含む材料を用いて、インプリント成型または光造形により製造する
テラヘルツ分光用デバイスの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2011−169637(P2011−169637A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−31511(P2010−31511)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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