テラヘルツ時間領域分光法における複数のサンプル点にわたるインパルス波形平均化による散乱関連特性の抑制
対象を検査する方法であって、(a)対象に、光学的に生じた電磁放射線のパルスを照査するステップであって、前記パルスは、100GHzから100THzの範囲の複数の周波数を有するステップと、(b)時間領域波形を得るため、前記対象を透過したおよび/または前記対象から反射された放射線を検出するステップと、(c)前記対象の複数の点に対して、ステップ(a)および(b)を繰り返すステップと、(d)ステップ(c)からのデータを組み合わせて、前記複数の点にわたって平均化された、前記対象の時間領域波形を形成するステップと、を有する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全般に100GHzから100THzの範囲の遠赤外(遠IR)/テラヘルツ(THz)周波数範囲における、サンプルの画像化および/または検査用の機器ならびに方法の分野に関する。特に、利用される放射線は、周波数範囲が500GHzから100THzの範囲にあることが好ましく、1THzから100THzの範囲にあることがより好ましく、700GHzから10THzの範囲にあることがさらに好ましい。
【背景技術】
【0002】
多くの化学薬品および調合薬がTHz領域において特徴的なスペクトルを有することは、よく知られている。この周波数領域のスペクトル信号には、分子間もしくは分子内結晶振動または集合的なフォノン振動が関連しているものと考えられる。THz分光法では、透過および/または散乱放射線のスペクトル情報を用いることにより、材料を同定することができることはよく知られている。ほとんどの材料は、ある程度テラヘルツ波と相互作用し、各材料は、それ自身の周波数パターンを有し、これは、「指紋」の一種と見なすことができる。
【0003】
近年、安全保障に関する高まりによって、人の衣類の下、人のスーツケースの中または郵便小包などに隠された爆発物を特定することが可能なシステムの要望が高まっている。
【0004】
米国特許出願第2001/0033636号には、手荷物内の爆発物を検出する方法が示されており、この技術では、X線を使用して、材料の平均原子番号を判断する。次に、平均原子番号が既知の爆発性材料の平均原子番号と比較され、その被検査材料が爆発物であるかどうかが判断される。しかしながら、この技術ではその放射線が電離するため、人々の日々の安全上の検査には不向きである。
【0005】
ファンデルウエッジ(D. W. van der Weide)らのProc Spie、3828、1999年の「電子テラヘルツ技術による分光法」という題目の論文では、最大450GHzのマイクロ波領域の電子パルスを用いて、爆発物が検査される。これらのパルスは、半導体上にパターン化されたバラクター(varactor)ダイオードに結合された、非直線状伝送線路を用いることによって電子的に生じる。伝送線路に正弦波が印加されると、他の端部に、急速な(1〜2ps)電圧ステップが得られ、この電圧ステップを用いることにより、半導体装置からマイクロ波パルスが生成される。この論文では、爆発物のスペクトル特性が評価されているが、その領域は、サブテラヘルツまたはマイクロ波周波数領域である。
【0006】
THz放射線は、非電離性であるため、人々およびその所有物のスクリーニングに適しており、衣類、紙類、ボール紙、木材、石、プラスチックおよびセラミックを透過することができる。従って、これは、X線よりも安全である。
【0007】
爆発性有機分子の性質およびそれらの結晶構造は、好適な形態であるため、THz放射線を使用して、爆発性材料のスペクトル情報を得ることができるものと推測されている。しかしながら、今日までこれは実現していない。
【0008】
THzシステムの多くの実際の実施例では、検査時に、THz放射線がサンプルを透過して検出器に至るというTHz放射線の透過性が利用される。実験室条件では、サンプルは、減衰の影響を回避するように調製することができる。しかしながら、実際には、サンプルはしばしば粒状であり、この場合、照射放射線は散乱してしまう。テラヘルツパルス分光装置は、干渉性の検出システムであり、これは、この装置が大きなダイナミックレンジを有することを意味する。しかしながら、この散乱または減衰の影響は、THz信号が極めて弱くなり、あるサンプルでは検出が不可能になることを意味する。
【0009】
サンプルからのTHz放射線の反射を利用するTHzシステムは、透過型のシステムのような減衰の影響による制約を受けない。しかしながら、反射型のシステムは、異なる問題を有しており、これは、実際には、THz反射型の分光測定を有効に行うことは難しいことを意味する。
【0010】
いかなるTHzシステムにおいても、放射されるTHz放射線は、検査時には対象表面に衝突する。対象の表面とは、第1の屈折率を有する媒体(通常空気)と対象自身(第1の屈折率とは異なる第2の屈折率を有する)の間の界面を意味する。
【0011】
屈折率の違いは、放射線のある割合が対象内を透過し(空気/ポリエチレン界面の場合、この量は、入射放射線の約96%である)、ある割合が反射される(従って、例えば、空気/PEの場合、この量は、入射放射線の約4%に等しい)ことを意味する。
【0012】
従って、反射ビームは、常時、透過ビームよりも弱い強度となることは明らかである。これは、反射ビームが散乱放射線のようなノイズの影響をより受けやすくなることを意味する。
【0013】
検査の際に、サンプルが対象を透過するいかなる放射線をも散乱し得る、散乱中心を有する場合、別の問題が生じる。透過型および反射型のシステムでは、対象表面と散乱中心から検出器に到達する放射線の到達時間は、異なっている。反射の場合、到達時間は、散乱中心の対象表面からの深さに依存する。透過型システムの場合、到達時間は、対象を直接透過する放射線に対する、散乱放射線が通る追加経路長に依存する。この到達時間の拡張によって、人工的なスペクトル特性が生じ、実際の特性が隠され、または偽の特性が発生する。
【0014】
散乱の影響を緩和する一つの技術は、検出手段で検出される放射線をウインドウ化することである。システムが光子を検出するまでの時間内で、到達時間を開閉化することにより、(散乱事象によって)いかなる速度で到達するフォトンも検出されなくなる。しかしながら、そのような技術では、スペクトル情報の損失は避けられず、いかなる検査対象サンプルの分光分析の効率も低下してしまう。
【特許文献1】米国特許出願第2001/0033636号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
前述の問題に鑑み、本発明の目的は、透過型および反射型の従来のシステムの両方に関する、少なくともいくつかの問題を克服または軽減することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の第1の態様では、対象を検査する方法であって、
(a)対象に、光学的に生じた電磁放射線のパルスを照査するステップであって、前記パルスは、100GHzから100THzの範囲の複数の周波数を有するステップと、
(b)時間領域波形を得るため、前記対象を透過したおよび/または前記対象から反射された放射線を検出するステップと、
(c)前記対象の複数の点に対して、ステップ(a)および(b)を繰り返すステップと、
(d)ステップ(c)からのデータを組み合わせて、前記複数の点にわたって平均化された、前記対象の時間領域波形を形成するステップと、
を有する方法が提供される。
【0017】
本発明は、透過型システムと反射型システムの両方での使用に適している。当該方法は、被検査対象に照射を行うステップと、対象の測定点から反射/透過された放射線を検出するステップとを有する。その後、複数の測定点で、放射/検出ステップが繰り返され、対象の平均時間領域波形が算定される。
【0018】
本発明の方法は、散乱による信号が対象内の散乱中心の形状に強く依存するのに対して、直接反射または透過される信号は、そのような依存性を有さないことを利用する。測定を繰り返すことにより、散乱の影響によって生じる無秩序な信号要素が除去され、その後、対象の形状に対して位相依存性を有さない正しい反射/透過信号が残るようになる。
【0019】
従来の光学的分光測定では、入射放射線強度(Io(ν))および透過放射線強度(It(ν))が測定される。次に、以下の式から光吸収係数α(ν)が算出される:
【0020】
【数1】
ここでνは、周波数である。
【0021】
しかしながら、テラヘルツパルス分光測定(TPS)では、(THz)放射線の強度の代わりに電界が測定される。透過THz放射線の電界は、
【0022】
【数2】
で表される。
【0023】
他の分光測定システムのような放射線の強度ではなく、電界が測定されることにより、本発明のこの態様での請求項では、検出放射線を「平均化」することが可能となる。これは、強度が常時加算されるのに対して、電界Eは、正負両方の値を取ることができるため、十分に広いサンプリング点の範囲で、散乱事象が相互に相殺され易くなるからである。
【0024】
電界の測定によって、強度と位相の両方の情報が得られるため、単一の測定から、吸収係数α(ν)および屈折率(n(ν))の両方が算定されることは明らかである。
【0025】
吸収ピークでは、透過率は、100%から数%に著しく低下する。従って、透過率測定は、吸収に対して極めて敏感である。主として屈折率の差によって定まる、空気/サンプル界面での反射損失によって、透過スペクトルのベースラインのシフトのみが生じる。
【0026】
反射率測定では、事情が異なる。反射率は、測定されたTHz放射線の電界から、以下の式により算出される:
【0027】
【数3】
システム構成物に関する検出放射線の特徴を除去するステップを採用することが好ましい。すなわち、サンプルを用いずに、照合測定が行われることが好ましい。次に、サンプルを使用しない測定で検出された信号は、サンプルの存在する測定で検出された信号から差し引かれる。
【0028】
あるいは、照合測定は、既知のTHz特性を有する照合サンプルの存在下で実施しても良い。そのような照合サンプルは、空気、水またはポリエチレンであっても良い。
【0029】
対象の吸収プロファイルは、フーリエ変換により、平均時間領域波形を周波数領域に変換することによって定めることが好ましい。サンプルの組成は、この吸収プロファイルから得ることができる。
【0030】
いかなる吸収特性においても、吸収プロファイルには最大および最小が生じる。周波数に対する吸収プロファイルの導関数(微分値)が定められることが望ましい。
【0031】
平均化処理されるサンプルの面積が大きくなるほど、散乱特性が良好に除去されることは明らかである。しかしながら、最大面積にわたる平均化処理は、サンプルの正しい吸収特性を得る上で必ずしも必要ではない。従って、本発明の第1の態様による方法は、検査対象の特徴を定めるため、さらに、散乱に関する影響が十分に抑制されるまで、照射される測定点の数を徐々に増やすステップを有することが好ましい。
【0032】
対象が放射線のインパルスで照射されると、その後検出される放射線は、初期のインパルス特性とその後の受信信号とを有する。初期のインパルス関数に続く信号は、「遅延時間応答」として知られている。この「遅延時間応答」は、サンプルに関する有益な情報を提供すると考えられるため、本発明の第1の態様による方法は、直接反射/透過放射線に対応する平均時間領域波形の一部を除去するステップと、対象に関する組成情報を得るため、検出放射線の残りに対して、フーリエ変換を行うステップとを有することが好ましい。
【0033】
本発明の第2の態様では、「遅延時間応答」が解析され、従って、対象を検査する方法であって、
(a)対象に、光学的に生じた電磁放射線のパルスを照査するステップであって、前記パルスは、100GHzから100THzの範囲の複数の周波数を有するステップと、
(b)時間領域波形を得るため、前記対象を透過したおよび/または前記対象から反射された放射線を検出するステップと、
(c)直接反射されまたは透過した放射線に対応する検出放射線の部分を分離して、前記検出放射線の残りの部分にフーリエ変換を適用するステップと、
を有する方法が提供される。
【0034】
本発明の第3の態様では、対象を検査する機器であって、
(a)光学的に生じた電磁放射線のパルスを対象の点に照射するための電磁放射線の光源であって、前記パルスは、100GHzから100THzの範囲の複数の周波数を有する、光源と、
(b)時間領域波形を得るため、前記対象を透過したおよび/または前記対象から反射された放射線を検出する検出器と、
(c)前記対象の複数の点に連続的に照射するための走査手段と、
(d)前記複数の点の各々からの時間領域波形を結合するための手段であって、これにより前記複数の点にわたって平均化された、前記対象の時間領域波形が形成される、手段と、
を有する機器が提供される。
【0035】
サンプルの組成に関する情報は、本発明の第1の態様による方法を用いてサンプルを検査することにより定めることができる。次に、サンプルの一つ(または2つ以上)の成分に関する放射線のみを検出器に向かって透過させるように配置されたスペクトルフィルタを通して、サンプルを画像化することにより、サンプルの組成に関する画像が得られる。従って、本発明の第4の態様では、サンプルを画像化する方法であって、
a)本発明の第1の態様による方法によって、前記サンプルを検査するステップと、
b)ステップ(a)で得られた前記時間領域波形からスペクトル波形を得るステップと、
c)ステップ(b)での前記スペクトル波形から、前記サンプルの成分を同定するステップと、
d)光学的に生じた電磁放射線のパルスを用いて、前記サンプルに再照射を行うステップであって、前記パルスは、100GHzから100THzの範囲の複数の周波数を有するステップと、
e)時間領域波形を得るため、前記対象を透過したおよび/または前記対象から反射された放射線を検出するステップであって、前記検出された放射線は、最初に、前記サンプルの少なくとも一つの成分に対応した少なくとも一つのバンドパスフィルタを透過したものであるステップと、
f)ステップ(e)で検出された放射線から画像を形成するステップと、
を有する方法が提供される。
【0036】
散乱の影響を抑制する別の方法は、放射線として拡散照射ビームを利用するものである。従って、本発明の第5の態様では、対象を検査する方法であって、
(a)光学的に生じた電磁放射線のパルスを対象に照射するステップであって、前記パルスは、100GHzから100THzの範囲の複数の周波数を有するステップと、
(b)時間領域波形を得るため、前記対象上もしくは内部の第1の点を透過したおよび/または第1の点から反射された放射線を検出するステップと、
を有し、放射線の照射パルスは、前記対象上もしくは内部の第2の点に集束されることを特徴とする方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、添付図面を参照して本発明を説明する。
【0038】
図1を参照すると、この図にはテラヘルツパルス検査配置が示されている。この配置は、超短パルスレーザ10を有し、このレーザは、例えばTi:サファイア、Yb:Erドープファイバ、Cr:LiSAF、Yb:シリカ、Nd:YLF、Nd:ガラス、Nd:YAG、アレクサンドライトYb:リン酸ガラスQX、Yb:GdCOB、Yb:YAG、Yb:KGd(WO4)またはYb:BOYSレーザである。このレーザ10は、平行パルスビームのような、各々が複数の周波数を有する放射線11のパルスを放射する。パルスは、200fs未満のパルス時間を有するレーザによって生じることが好ましい。
【0039】
発生したパルスビームは、ビームスプリッタ12の方に誘導される。ビームスプリッタは、ビームを、サンプルの照射に利用されるポンプビーム13と、検出の際に利用されるプローブビーム14とに分割する。
【0040】
プローブビーム14は、平坦ミラー15を介して、走査遅延ライン16の方に誘導される。走査遅延ライン16は、様々な光遅延器であって良いが、最も簡単な形態のものは、ビームの180゜反射をサポートする2枚のミラーを有する。制御器としてコンピュータを用いて、これらのミラーを速やかに前方および後方に掃引することにより、プローブビーム14の光路を変化させることができる。この方法では、走査遅延ライン16は、ポンプビームとプローブビームの相対光路長の整合を助長する。その後、プローブビームは、受光器26に焦点化され、テラヘルツビームと結合される。
【0041】
ポンプビーム13は、光源17上に誘導される。パルス法の場合、この光源17は、GaAs系光伝導性スイッチを有することが好ましい。GaAs系装置では、光伝導性混合の原理が利用され、THz出力が生じる。
【0042】
エミッタ17によって放射されるTHz放射線18は、ハイパー半球レンズ(図示されていない)を介して、第1の放物面ミラーの方に誘導される。このミラーは、軸外放物面(OAP)ミラーであることが好ましい。本願では、全ての放物面ミラーは、軸外放物面(OAP)ミラーとする。次に、ビームは、第1の放物面ミラー19から反射され、第2の放物面ミラー20に入り、サンプル21に向かって放射線が誘導される。
【0043】
特定のサンプルをin-situで解析するため、サンプル21は、THzビームの焦点面を通る放射線ビームに対して可動であっても良く、あるいはビームがサンプルに対して可動であっても良く、その両方であっても良い。図1に示すように、サンプルは、該サンプルを適切に移動させることができる移動ステージ上に設置される。この移動ステージは、サンプルを一つの移動軸に沿って一次元的に動かしたり、2または3軸に沿って動かしたりすることができる。
【0044】
サンプル21から反射したTHz放射線は、第3の放物面ミラー22によって収集され、平坦ミラー23を介して第4の放物面ミラー24上に誘導される。第4の放物面ミラー24は、第2のハイパー半球レンズ(図示されていない)、および光電検出器または光伝導性検出器等の検出器26上に、反射放射線25を誘導する。
【0045】
光伝導性検出器は、例えば、GaAs、InGaAs、Siオンサファイア等からなる検出部材を有する。検出器部材26を用いて、サンプル20から放射された放射線の振幅と位相の両方が検出される。これらの検出器では、サンプルからのTHz放射線25は、検出器部材26の背面に入射される。放射線は、半球状または別の形状のレンズ(図示されていない)によって収集される。検出器部材26に入射したテラヘルツ放射線25は、検出器部材26のレーザ放射線によって照射される側に、対向するように設置された電極26aと26bの間の領域に光電流を誘起する。検出器は、発生器17から生じた放射線の位相に関する情報を把握する必要があるため、電極26aと26bの間の領域を照射する放射線は、そのような情報を運搬するプローブビーム14であることが好ましい。さらに、電極によって検出された電流が、THz場25の強度と比例するようになる。
【0046】
電極26a、26bは、伝送線路に埋設された単純なダイオードで形成されても良い。あるいは、これらの電極は、三角形状であって、ボウタイ形状に配置され、いわゆるボウタイアンテナを形成しても良い。
【0047】
図2には、別のパルス配置を示す。サンプルは、反射放射線の代わりに透過放射線を用いて検査され、検出器は、光伝導性検出器ではなく、EOS検出器である。図1の説明との不必要な繰り返しを避けるため、同様の特徴物には、同様の参照符号を使用している。
【0048】
図2から、プローブビーム14は、各種遅延器に導入され、ポンプビーム13は、図1と同様の方法により、サンプル上に照射されることは明らかである。ただし図2では、放射線の透過を最大化するため、サンプルは、入射ポンプビームに対してほぼ垂直である。透過放射線25は、プローブビーム14と結合される。これを行うための特に普遍的なある方法では、光電気サンプリング法(EOS)が利用される。この技術では、透過THzビーム25およびプローブビーム14は、同一線形順に並んでEOS検出器28に向かって伝播する。透過放射線25は、検出器28を透過し、プローブビーム14を変調する。
【0049】
EOS検出器28は、良好な非線形特性を示すいかなる材料で構成されても良く、例えば、GaAsまたはSi系半導体、およびNH4H2PO4、ADP、KH2PO4、KH2ASO4、石英、AlPO4、ZnO、CdS、GaP、BaTiO3、LiTaO3、LiNbO3、Te、Se、ZnTe、ZnSe、Ba2NaNb5O15、AgAsS3、プロウスタイト(淡紅銀鉱)、CdSe、CdGeAs2、AgGaSe2、AgSbS3、ZnS、DAST(4−N−メチルスチルバゾリウム)のような有機結晶である。
【0050】
次に、変調されたビームは、1/4波長板30に到達する。この波長板は、放出放射線を円偏向する役割を果たす。その後、円偏向された光は、ウォラストンプリズム32に供給され、このプリズムによって、光の偏向が2つの直交成分に分離される。次に、これらの2つの直交成分は、平衡型光ダイオード組立体34の方に誘導される。平衡型光ダイオード組立体は、2つの光ダイオードを有し、これらは、それぞれ、ウォラストンプリズム32からの直交成分の一方を検出する。次に、光ダイオードの出力が結合され、2つの光ダイオードの値に差異がある場合、平衡型光ダイオード組立体34のみが電気信号を出力する。この出力信号は、透過したTHzビーム25の強度に対応する。
【0051】
これは、THzビームが存在しない場合、2つの直交信号の間に差異は生じないからである。しかしながら、THzビーム25が存在する場合、THzビーム25によって、検出器28を出た放射線は、僅かに楕円状に偏向される。この偏向の変化は、放射線が1/4波長板30を透過した後も残存する。プリズム32を用いて、この放射線の直交成分を抽出することにより、2つの光ダイオードで異なる信号が測定されるようになり、これにより平衡型光ダイオード組立体34は、THz場の強度に対応する信号を出力する。
【0052】
従って、EOS検出では、透過放射線の位相および振幅を検出することができる。この種類の解析は、いかなる検出器で実施しても良いことは、当業者には明らかである。
【0053】
また、図1と図2の配置を組み合わせて、サンプルから放射される反射と透過の両方の放射線を測定しても良いことは明らかである。
【0054】
さらに、プローブビーム14とともにサンプルから反射されたまたはサンプルを透過したビームを組み合わせる代わりに、THzビーム、および実質的に同じ波長または最大10GHzだけ周波数が異なる波長を有する、別の放射線ビームを組み合わせることも可能である。そのような組み合わされた放射線は、ボロメータ、ショットキーダイオード等を用いることにより、検出することができる。
【0055】
図3には、各種反射、透過および散乱成分を呈する、空気/ポリエチレン界面40の概略図を示す。透過信号42は、反射信号44よりもずっと高強度である(96%と4%である)ことがわかる。
【0056】
散乱中心46によって、追加の散乱信号48が導入される。反射ビームは強度が弱いため、これらの散乱パルスに対してより敏感である。ただし、透過および反射の両方において、散乱事象によって、偽のスペクトル特性が生じる。
【0057】
図4aには、60mgのソース源と260mgのPE粉末とで構成されたサンプルの、4つの時間領域波形を示す。各サンプルは、粉末セル内で測定される。曲線1は、空の粉末セルの照合トレースについての記録された波形を示している。曲線2には、粒子寸法が53〜75μmのスクロースサンプルの結果が示されている。曲線3には、粒子寸法が250μmよりも大きなスクロースサンプルの結果が示されている。曲線4は、同様に、250μmを超える粒子での結果であるが、粒子の粉末セル内の位置が異なっている。
【0058】
次に、サンプルのみによる波形を示すため、図4aの記録波形から、照合トレース(曲線1)分を差し引いた。差し引かれたTHz波形を図4bに示す。図4aおよび4bの双方において、曲線は、明確化のためずらされていることに留意する必要がある。また、曲線1の信号強度は、1/4倍に縮小されている。
【0059】
図4bでは、散乱による特性の存在が明確に認められ(矢印50、52および54)、これは、スクロース粒子の寸法の増加とともに、より明確になっている。(データのフーリエ変換によって)図4bのデータが周波数領域において解析された場合、これらの散乱特性によって、偽スペクトル特性が生じる。
【0060】
図5には、微細ラクトース粒子と大きなスクロース粒子(800μmの寸法/直径)の混合物で測定された、一連の波形トレースを示す。曲線2、3および4は、サンプルの3つの異なる測定点から得られた結果を示している。この図から明らかなように、主要な初期パルスの後、サンプルの吸収/反射特性に起因した、一連の波(リップル)が存在する。ただし、これらの曲線には、3つの追加の特徴(曲線2の矢印56、曲線3の矢印58、曲線4の矢印60で示されている)が認められる。これらの追加の特性は、散乱事象に起因しており、データのフーリエ変換後に、偽のスペクトル特性が生じる原因となる。
【0061】
曲線1には、5mm2の面積で得られた平均化波形(3つの曲線2、3および4を含む)が示されている。この場合、特性に関連する散乱は、波形からは認められなくなっている。
【0062】
図6aおよび6bには、周波数領域に対する、単一測定点での分光測定結果(図6a)と、平均化データ組の結果(図6b)の比較を示す。図6aには、波形トレース(図5の曲線2乃至4とほぼ等しい)のフーリエ変換結果がプロットされている。従って、これは、吸収プロファイルに相当する。
【0063】
図6bには、まず波形データが平均化されてから、その平均化されたデータがフーリエ変換されたときの結果がプロットされている。この結果から、図6bとの比較から、図6aのトレースは、多数の偽のスペクトル特性を有していることがわかる。
【0064】
図6bのトレースでは、波長の増加とともに、吸収のレベルが上昇していくことが示されている。これは、サンプルによる吸収および/またはポリエチレン(PE)の散乱によるものである。また、照合測定とサンプル測定の間の位相差によって、吸収スペクトルにも同様のずれが生じている。この影響を除去するため、およびスペクトル特性を把握するため、図7aおよび7bには、いわゆる「一次導関数」(d(吸収)/a(周波数))がプロットされている。図7aは、図6aに対応しており、図7bは、図6bに対応していることに留意する必要がある。
【0065】
図7aおよび7bから、図7aでのスペクトル特性では、スペクトル解析を行うことは事実上難しいことは明らかである。
【0066】
図8aおよび8bには、波数に対する屈折率のプロットを示す。屈折率は、時間領域および位相の情報から算出される。また、図8aは、図6aおよび図7aに対応する。図8bは、図6bおよび図7bに対応する。図8bとの比較から明らかなように、図8aにおける散乱事象の存在は、屈折率の微分値に多くの誤差を生じさせる。
【0067】
図9には、異なる寸法のサンプル面積にわたって平均化することにより得られた、同じサンプルの各種THz反射スペクトルを示す。サンプルは、スクロースとラクトースの粒子の混合物で構成されている。
【0068】
各スペクトルの隣には、平均化の際の測定点(画素)の数が記載されており、図は、明確化のため、ずらして示されている。大きなサンプル面積にわたって平均化処理を行うことにより、改良された結果が得られることは明らかである。ただし、この例では、13×13画素のサンプル面積において、ラクトースとスクロースの吸収特性を十分に判断することができることがわかる。
【0069】
反射分光法を用いて検査されるサンプルからは、サンプル表面からの反射に対応する初期のインパルス特性と、その後の波形データとを有する時間波形が得られる。初期のインパルス特性に続く波形トレースを解析することにより、サンプルに関する更なる情報が得られる。この種類の解析は、しばしばサンプルの「遅延時間応答」と呼ばれる。
【0070】
図10には、層状サンプル62を示す。ラクトースとスクロースの混合物の中心層64は、2つのポリエチレン層66、68の間に挟まれている。テラヘルツ放射線70は、ポリエチレン層のいずれかの上に入射され、反射放射線72が検出される。サンプルは、空気/PE界面74と、2つのPE/LT界面76、78とを有する。
【0071】
図11には、図10に示したサンプルから得られた時間波形トレースを示す。曲線1は、入射放射線を別の照合サンプルに集束させることにより得られた、ポリエチレン照合トレースである。曲線2は、入射放射線を空気/PE界面に集束させることにより得られたトレースである。曲線3および4は、入射放射線を第1のPE/LT界面に集束させることにより得られたトレースである(曲線4は、単一の画素で得られたものであり、曲線3は、全面積にわたる平均化によって得られたものである)。第1のPE/LT界面から反射されたTHz信号は、空気/PEからの信号に比べて著しく弱い。「×5」は、対応する信号が5倍に拡大されていることを意味している。
【0072】
図12には、図10のサンプルからの全応答と、このサンプルで測定された遅延時間応答との、高速フーリエ変換後の比較を示す。いずれの場合も、入射放射線は、LT/PE界面で集束されている。
【0073】
曲線1および2は、全応答に関するものである。曲線1は、サンプルからの平均化応答を表しており、曲線2は、一つの画像化点からの典型的な応答を示している。曲線3および4は、サンプルからの遅延時間応答を示したものである。ラクトースのスペクトル特性が、18cm-1に明確に現れていることは明らかである。曲線3は、遅延時間応答と平均化処理の組み合わせを示している。
【0074】
本発明に関する方法を用いることにより、サンプルの正しいスペクトル成分を同定することが可能となる。一度これらの特性が同定されると、サンプルの成分に対応する波長で、サンプルを画像化することが可能となる。この方法では、サンプルのスペクトル画像が蓄積される。図13には、(a)スクロースおよび(b)ラクトースのスペクトル特性を利用した、スクロース/ラクトース/ポリエチレンサンプルの化学マッピング画像を示す。
【0075】
さらに図14aには、サンプル表面の化学分布画像を示す。スクロース、ラクトースおよびポリエチレンのスペクトル特性を用いて、サンプル表面の成分の位置が同定される。スクロースは符号80で、ラクトースは符号82で、ポリエチレンは符号84で示されている。符号86の領域は、ラクトースとスクロースの両方を含む。対応するTHzスペクトルは、図14bに示されている。
【0076】
散乱の影響を抑制する別の方法は、拡散照射ビームを用いることである。そのような配置は、図15に示されている。通常のシステム構成では、エミッタ光学素子88は、THz放射線90をサンプル94の単一点92に集束させるように配置される。しかしながら、別の方法では、焦点95は、意図的に動かされ、「拡散」THz照射ビーム96によってサンプルが走査される。これにより、本発明の第1の態様である「平均化処理」法と同様の効果が得られ、結果的に、ビームの幅にわたって散乱の影響が相互に相殺され易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の第1の実施例に使用される、パルステラヘルツ反射検査技術の概略を示した図である。
【図2】本発明の第2の実施例に使用される、パルステラヘルツ透過検査技術の概略を示した図である。
【図3】各種反射、透過および散乱成分を呈する、空気/ポリエチレン界面の概略を示した図である。
【図4】スクロースとPE粉末からなるサンプルの時間領域波形を示した図である。
【図5】ラクトース粒子と大きなスクロース粒子(500〜800μmの寸法/直径)の混合物から測定された一連の波形トレースを示した図である。
【図6a】単一点での吸収プロットを示した図である。
【図6b】平均化されたデータ組での吸収プロットを示した図である。
【図7a】図6aの吸収プロットの一次微分を示した図である。
【図7b】図6bの吸収プロットの一次微分を示した図である。
【図8a】図6aの画像化サンプルの屈折率プロットを示した図である。
【図8b】図6bの画像化サンプルの屈折率プロットを示した図である。
【図9】同一サンプルの各種サンプル領域における、各種THz反射スペクトルを示した図である。
【図10】層状PE/ラクトース/PEサンプルの概略を示した図である。
【図11】図10に示したサンプルで得られた各種時間波形トレースを示した図である。
【図12】図10に示したサンプルで得られた各種スペクトルプロットを示した図である。
【図13】スクロース/ラクトース/ポリエチレンサンプルの化学マッピング画像を示した図である。
【図14】サンプル表面の別の化学分布画像(a)と、(a)に示した画像に対応する時間波形を示した図(b)である。
【図15】THzシステム用の画像化配置を示した図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、全般に100GHzから100THzの範囲の遠赤外(遠IR)/テラヘルツ(THz)周波数範囲における、サンプルの画像化および/または検査用の機器ならびに方法の分野に関する。特に、利用される放射線は、周波数範囲が500GHzから100THzの範囲にあることが好ましく、1THzから100THzの範囲にあることがより好ましく、700GHzから10THzの範囲にあることがさらに好ましい。
【背景技術】
【0002】
多くの化学薬品および調合薬がTHz領域において特徴的なスペクトルを有することは、よく知られている。この周波数領域のスペクトル信号には、分子間もしくは分子内結晶振動または集合的なフォノン振動が関連しているものと考えられる。THz分光法では、透過および/または散乱放射線のスペクトル情報を用いることにより、材料を同定することができることはよく知られている。ほとんどの材料は、ある程度テラヘルツ波と相互作用し、各材料は、それ自身の周波数パターンを有し、これは、「指紋」の一種と見なすことができる。
【0003】
近年、安全保障に関する高まりによって、人の衣類の下、人のスーツケースの中または郵便小包などに隠された爆発物を特定することが可能なシステムの要望が高まっている。
【0004】
米国特許出願第2001/0033636号には、手荷物内の爆発物を検出する方法が示されており、この技術では、X線を使用して、材料の平均原子番号を判断する。次に、平均原子番号が既知の爆発性材料の平均原子番号と比較され、その被検査材料が爆発物であるかどうかが判断される。しかしながら、この技術ではその放射線が電離するため、人々の日々の安全上の検査には不向きである。
【0005】
ファンデルウエッジ(D. W. van der Weide)らのProc Spie、3828、1999年の「電子テラヘルツ技術による分光法」という題目の論文では、最大450GHzのマイクロ波領域の電子パルスを用いて、爆発物が検査される。これらのパルスは、半導体上にパターン化されたバラクター(varactor)ダイオードに結合された、非直線状伝送線路を用いることによって電子的に生じる。伝送線路に正弦波が印加されると、他の端部に、急速な(1〜2ps)電圧ステップが得られ、この電圧ステップを用いることにより、半導体装置からマイクロ波パルスが生成される。この論文では、爆発物のスペクトル特性が評価されているが、その領域は、サブテラヘルツまたはマイクロ波周波数領域である。
【0006】
THz放射線は、非電離性であるため、人々およびその所有物のスクリーニングに適しており、衣類、紙類、ボール紙、木材、石、プラスチックおよびセラミックを透過することができる。従って、これは、X線よりも安全である。
【0007】
爆発性有機分子の性質およびそれらの結晶構造は、好適な形態であるため、THz放射線を使用して、爆発性材料のスペクトル情報を得ることができるものと推測されている。しかしながら、今日までこれは実現していない。
【0008】
THzシステムの多くの実際の実施例では、検査時に、THz放射線がサンプルを透過して検出器に至るというTHz放射線の透過性が利用される。実験室条件では、サンプルは、減衰の影響を回避するように調製することができる。しかしながら、実際には、サンプルはしばしば粒状であり、この場合、照射放射線は散乱してしまう。テラヘルツパルス分光装置は、干渉性の検出システムであり、これは、この装置が大きなダイナミックレンジを有することを意味する。しかしながら、この散乱または減衰の影響は、THz信号が極めて弱くなり、あるサンプルでは検出が不可能になることを意味する。
【0009】
サンプルからのTHz放射線の反射を利用するTHzシステムは、透過型のシステムのような減衰の影響による制約を受けない。しかしながら、反射型のシステムは、異なる問題を有しており、これは、実際には、THz反射型の分光測定を有効に行うことは難しいことを意味する。
【0010】
いかなるTHzシステムにおいても、放射されるTHz放射線は、検査時には対象表面に衝突する。対象の表面とは、第1の屈折率を有する媒体(通常空気)と対象自身(第1の屈折率とは異なる第2の屈折率を有する)の間の界面を意味する。
【0011】
屈折率の違いは、放射線のある割合が対象内を透過し(空気/ポリエチレン界面の場合、この量は、入射放射線の約96%である)、ある割合が反射される(従って、例えば、空気/PEの場合、この量は、入射放射線の約4%に等しい)ことを意味する。
【0012】
従って、反射ビームは、常時、透過ビームよりも弱い強度となることは明らかである。これは、反射ビームが散乱放射線のようなノイズの影響をより受けやすくなることを意味する。
【0013】
検査の際に、サンプルが対象を透過するいかなる放射線をも散乱し得る、散乱中心を有する場合、別の問題が生じる。透過型および反射型のシステムでは、対象表面と散乱中心から検出器に到達する放射線の到達時間は、異なっている。反射の場合、到達時間は、散乱中心の対象表面からの深さに依存する。透過型システムの場合、到達時間は、対象を直接透過する放射線に対する、散乱放射線が通る追加経路長に依存する。この到達時間の拡張によって、人工的なスペクトル特性が生じ、実際の特性が隠され、または偽の特性が発生する。
【0014】
散乱の影響を緩和する一つの技術は、検出手段で検出される放射線をウインドウ化することである。システムが光子を検出するまでの時間内で、到達時間を開閉化することにより、(散乱事象によって)いかなる速度で到達するフォトンも検出されなくなる。しかしながら、そのような技術では、スペクトル情報の損失は避けられず、いかなる検査対象サンプルの分光分析の効率も低下してしまう。
【特許文献1】米国特許出願第2001/0033636号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
前述の問題に鑑み、本発明の目的は、透過型および反射型の従来のシステムの両方に関する、少なくともいくつかの問題を克服または軽減することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の第1の態様では、対象を検査する方法であって、
(a)対象に、光学的に生じた電磁放射線のパルスを照査するステップであって、前記パルスは、100GHzから100THzの範囲の複数の周波数を有するステップと、
(b)時間領域波形を得るため、前記対象を透過したおよび/または前記対象から反射された放射線を検出するステップと、
(c)前記対象の複数の点に対して、ステップ(a)および(b)を繰り返すステップと、
(d)ステップ(c)からのデータを組み合わせて、前記複数の点にわたって平均化された、前記対象の時間領域波形を形成するステップと、
を有する方法が提供される。
【0017】
本発明は、透過型システムと反射型システムの両方での使用に適している。当該方法は、被検査対象に照射を行うステップと、対象の測定点から反射/透過された放射線を検出するステップとを有する。その後、複数の測定点で、放射/検出ステップが繰り返され、対象の平均時間領域波形が算定される。
【0018】
本発明の方法は、散乱による信号が対象内の散乱中心の形状に強く依存するのに対して、直接反射または透過される信号は、そのような依存性を有さないことを利用する。測定を繰り返すことにより、散乱の影響によって生じる無秩序な信号要素が除去され、その後、対象の形状に対して位相依存性を有さない正しい反射/透過信号が残るようになる。
【0019】
従来の光学的分光測定では、入射放射線強度(Io(ν))および透過放射線強度(It(ν))が測定される。次に、以下の式から光吸収係数α(ν)が算出される:
【0020】
【数1】
ここでνは、周波数である。
【0021】
しかしながら、テラヘルツパルス分光測定(TPS)では、(THz)放射線の強度の代わりに電界が測定される。透過THz放射線の電界は、
【0022】
【数2】
で表される。
【0023】
他の分光測定システムのような放射線の強度ではなく、電界が測定されることにより、本発明のこの態様での請求項では、検出放射線を「平均化」することが可能となる。これは、強度が常時加算されるのに対して、電界Eは、正負両方の値を取ることができるため、十分に広いサンプリング点の範囲で、散乱事象が相互に相殺され易くなるからである。
【0024】
電界の測定によって、強度と位相の両方の情報が得られるため、単一の測定から、吸収係数α(ν)および屈折率(n(ν))の両方が算定されることは明らかである。
【0025】
吸収ピークでは、透過率は、100%から数%に著しく低下する。従って、透過率測定は、吸収に対して極めて敏感である。主として屈折率の差によって定まる、空気/サンプル界面での反射損失によって、透過スペクトルのベースラインのシフトのみが生じる。
【0026】
反射率測定では、事情が異なる。反射率は、測定されたTHz放射線の電界から、以下の式により算出される:
【0027】
【数3】
システム構成物に関する検出放射線の特徴を除去するステップを採用することが好ましい。すなわち、サンプルを用いずに、照合測定が行われることが好ましい。次に、サンプルを使用しない測定で検出された信号は、サンプルの存在する測定で検出された信号から差し引かれる。
【0028】
あるいは、照合測定は、既知のTHz特性を有する照合サンプルの存在下で実施しても良い。そのような照合サンプルは、空気、水またはポリエチレンであっても良い。
【0029】
対象の吸収プロファイルは、フーリエ変換により、平均時間領域波形を周波数領域に変換することによって定めることが好ましい。サンプルの組成は、この吸収プロファイルから得ることができる。
【0030】
いかなる吸収特性においても、吸収プロファイルには最大および最小が生じる。周波数に対する吸収プロファイルの導関数(微分値)が定められることが望ましい。
【0031】
平均化処理されるサンプルの面積が大きくなるほど、散乱特性が良好に除去されることは明らかである。しかしながら、最大面積にわたる平均化処理は、サンプルの正しい吸収特性を得る上で必ずしも必要ではない。従って、本発明の第1の態様による方法は、検査対象の特徴を定めるため、さらに、散乱に関する影響が十分に抑制されるまで、照射される測定点の数を徐々に増やすステップを有することが好ましい。
【0032】
対象が放射線のインパルスで照射されると、その後検出される放射線は、初期のインパルス特性とその後の受信信号とを有する。初期のインパルス関数に続く信号は、「遅延時間応答」として知られている。この「遅延時間応答」は、サンプルに関する有益な情報を提供すると考えられるため、本発明の第1の態様による方法は、直接反射/透過放射線に対応する平均時間領域波形の一部を除去するステップと、対象に関する組成情報を得るため、検出放射線の残りに対して、フーリエ変換を行うステップとを有することが好ましい。
【0033】
本発明の第2の態様では、「遅延時間応答」が解析され、従って、対象を検査する方法であって、
(a)対象に、光学的に生じた電磁放射線のパルスを照査するステップであって、前記パルスは、100GHzから100THzの範囲の複数の周波数を有するステップと、
(b)時間領域波形を得るため、前記対象を透過したおよび/または前記対象から反射された放射線を検出するステップと、
(c)直接反射されまたは透過した放射線に対応する検出放射線の部分を分離して、前記検出放射線の残りの部分にフーリエ変換を適用するステップと、
を有する方法が提供される。
【0034】
本発明の第3の態様では、対象を検査する機器であって、
(a)光学的に生じた電磁放射線のパルスを対象の点に照射するための電磁放射線の光源であって、前記パルスは、100GHzから100THzの範囲の複数の周波数を有する、光源と、
(b)時間領域波形を得るため、前記対象を透過したおよび/または前記対象から反射された放射線を検出する検出器と、
(c)前記対象の複数の点に連続的に照射するための走査手段と、
(d)前記複数の点の各々からの時間領域波形を結合するための手段であって、これにより前記複数の点にわたって平均化された、前記対象の時間領域波形が形成される、手段と、
を有する機器が提供される。
【0035】
サンプルの組成に関する情報は、本発明の第1の態様による方法を用いてサンプルを検査することにより定めることができる。次に、サンプルの一つ(または2つ以上)の成分に関する放射線のみを検出器に向かって透過させるように配置されたスペクトルフィルタを通して、サンプルを画像化することにより、サンプルの組成に関する画像が得られる。従って、本発明の第4の態様では、サンプルを画像化する方法であって、
a)本発明の第1の態様による方法によって、前記サンプルを検査するステップと、
b)ステップ(a)で得られた前記時間領域波形からスペクトル波形を得るステップと、
c)ステップ(b)での前記スペクトル波形から、前記サンプルの成分を同定するステップと、
d)光学的に生じた電磁放射線のパルスを用いて、前記サンプルに再照射を行うステップであって、前記パルスは、100GHzから100THzの範囲の複数の周波数を有するステップと、
e)時間領域波形を得るため、前記対象を透過したおよび/または前記対象から反射された放射線を検出するステップであって、前記検出された放射線は、最初に、前記サンプルの少なくとも一つの成分に対応した少なくとも一つのバンドパスフィルタを透過したものであるステップと、
f)ステップ(e)で検出された放射線から画像を形成するステップと、
を有する方法が提供される。
【0036】
散乱の影響を抑制する別の方法は、放射線として拡散照射ビームを利用するものである。従って、本発明の第5の態様では、対象を検査する方法であって、
(a)光学的に生じた電磁放射線のパルスを対象に照射するステップであって、前記パルスは、100GHzから100THzの範囲の複数の周波数を有するステップと、
(b)時間領域波形を得るため、前記対象上もしくは内部の第1の点を透過したおよび/または第1の点から反射された放射線を検出するステップと、
を有し、放射線の照射パルスは、前記対象上もしくは内部の第2の点に集束されることを特徴とする方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、添付図面を参照して本発明を説明する。
【0038】
図1を参照すると、この図にはテラヘルツパルス検査配置が示されている。この配置は、超短パルスレーザ10を有し、このレーザは、例えばTi:サファイア、Yb:Erドープファイバ、Cr:LiSAF、Yb:シリカ、Nd:YLF、Nd:ガラス、Nd:YAG、アレクサンドライトYb:リン酸ガラスQX、Yb:GdCOB、Yb:YAG、Yb:KGd(WO4)またはYb:BOYSレーザである。このレーザ10は、平行パルスビームのような、各々が複数の周波数を有する放射線11のパルスを放射する。パルスは、200fs未満のパルス時間を有するレーザによって生じることが好ましい。
【0039】
発生したパルスビームは、ビームスプリッタ12の方に誘導される。ビームスプリッタは、ビームを、サンプルの照射に利用されるポンプビーム13と、検出の際に利用されるプローブビーム14とに分割する。
【0040】
プローブビーム14は、平坦ミラー15を介して、走査遅延ライン16の方に誘導される。走査遅延ライン16は、様々な光遅延器であって良いが、最も簡単な形態のものは、ビームの180゜反射をサポートする2枚のミラーを有する。制御器としてコンピュータを用いて、これらのミラーを速やかに前方および後方に掃引することにより、プローブビーム14の光路を変化させることができる。この方法では、走査遅延ライン16は、ポンプビームとプローブビームの相対光路長の整合を助長する。その後、プローブビームは、受光器26に焦点化され、テラヘルツビームと結合される。
【0041】
ポンプビーム13は、光源17上に誘導される。パルス法の場合、この光源17は、GaAs系光伝導性スイッチを有することが好ましい。GaAs系装置では、光伝導性混合の原理が利用され、THz出力が生じる。
【0042】
エミッタ17によって放射されるTHz放射線18は、ハイパー半球レンズ(図示されていない)を介して、第1の放物面ミラーの方に誘導される。このミラーは、軸外放物面(OAP)ミラーであることが好ましい。本願では、全ての放物面ミラーは、軸外放物面(OAP)ミラーとする。次に、ビームは、第1の放物面ミラー19から反射され、第2の放物面ミラー20に入り、サンプル21に向かって放射線が誘導される。
【0043】
特定のサンプルをin-situで解析するため、サンプル21は、THzビームの焦点面を通る放射線ビームに対して可動であっても良く、あるいはビームがサンプルに対して可動であっても良く、その両方であっても良い。図1に示すように、サンプルは、該サンプルを適切に移動させることができる移動ステージ上に設置される。この移動ステージは、サンプルを一つの移動軸に沿って一次元的に動かしたり、2または3軸に沿って動かしたりすることができる。
【0044】
サンプル21から反射したTHz放射線は、第3の放物面ミラー22によって収集され、平坦ミラー23を介して第4の放物面ミラー24上に誘導される。第4の放物面ミラー24は、第2のハイパー半球レンズ(図示されていない)、および光電検出器または光伝導性検出器等の検出器26上に、反射放射線25を誘導する。
【0045】
光伝導性検出器は、例えば、GaAs、InGaAs、Siオンサファイア等からなる検出部材を有する。検出器部材26を用いて、サンプル20から放射された放射線の振幅と位相の両方が検出される。これらの検出器では、サンプルからのTHz放射線25は、検出器部材26の背面に入射される。放射線は、半球状または別の形状のレンズ(図示されていない)によって収集される。検出器部材26に入射したテラヘルツ放射線25は、検出器部材26のレーザ放射線によって照射される側に、対向するように設置された電極26aと26bの間の領域に光電流を誘起する。検出器は、発生器17から生じた放射線の位相に関する情報を把握する必要があるため、電極26aと26bの間の領域を照射する放射線は、そのような情報を運搬するプローブビーム14であることが好ましい。さらに、電極によって検出された電流が、THz場25の強度と比例するようになる。
【0046】
電極26a、26bは、伝送線路に埋設された単純なダイオードで形成されても良い。あるいは、これらの電極は、三角形状であって、ボウタイ形状に配置され、いわゆるボウタイアンテナを形成しても良い。
【0047】
図2には、別のパルス配置を示す。サンプルは、反射放射線の代わりに透過放射線を用いて検査され、検出器は、光伝導性検出器ではなく、EOS検出器である。図1の説明との不必要な繰り返しを避けるため、同様の特徴物には、同様の参照符号を使用している。
【0048】
図2から、プローブビーム14は、各種遅延器に導入され、ポンプビーム13は、図1と同様の方法により、サンプル上に照射されることは明らかである。ただし図2では、放射線の透過を最大化するため、サンプルは、入射ポンプビームに対してほぼ垂直である。透過放射線25は、プローブビーム14と結合される。これを行うための特に普遍的なある方法では、光電気サンプリング法(EOS)が利用される。この技術では、透過THzビーム25およびプローブビーム14は、同一線形順に並んでEOS検出器28に向かって伝播する。透過放射線25は、検出器28を透過し、プローブビーム14を変調する。
【0049】
EOS検出器28は、良好な非線形特性を示すいかなる材料で構成されても良く、例えば、GaAsまたはSi系半導体、およびNH4H2PO4、ADP、KH2PO4、KH2ASO4、石英、AlPO4、ZnO、CdS、GaP、BaTiO3、LiTaO3、LiNbO3、Te、Se、ZnTe、ZnSe、Ba2NaNb5O15、AgAsS3、プロウスタイト(淡紅銀鉱)、CdSe、CdGeAs2、AgGaSe2、AgSbS3、ZnS、DAST(4−N−メチルスチルバゾリウム)のような有機結晶である。
【0050】
次に、変調されたビームは、1/4波長板30に到達する。この波長板は、放出放射線を円偏向する役割を果たす。その後、円偏向された光は、ウォラストンプリズム32に供給され、このプリズムによって、光の偏向が2つの直交成分に分離される。次に、これらの2つの直交成分は、平衡型光ダイオード組立体34の方に誘導される。平衡型光ダイオード組立体は、2つの光ダイオードを有し、これらは、それぞれ、ウォラストンプリズム32からの直交成分の一方を検出する。次に、光ダイオードの出力が結合され、2つの光ダイオードの値に差異がある場合、平衡型光ダイオード組立体34のみが電気信号を出力する。この出力信号は、透過したTHzビーム25の強度に対応する。
【0051】
これは、THzビームが存在しない場合、2つの直交信号の間に差異は生じないからである。しかしながら、THzビーム25が存在する場合、THzビーム25によって、検出器28を出た放射線は、僅かに楕円状に偏向される。この偏向の変化は、放射線が1/4波長板30を透過した後も残存する。プリズム32を用いて、この放射線の直交成分を抽出することにより、2つの光ダイオードで異なる信号が測定されるようになり、これにより平衡型光ダイオード組立体34は、THz場の強度に対応する信号を出力する。
【0052】
従って、EOS検出では、透過放射線の位相および振幅を検出することができる。この種類の解析は、いかなる検出器で実施しても良いことは、当業者には明らかである。
【0053】
また、図1と図2の配置を組み合わせて、サンプルから放射される反射と透過の両方の放射線を測定しても良いことは明らかである。
【0054】
さらに、プローブビーム14とともにサンプルから反射されたまたはサンプルを透過したビームを組み合わせる代わりに、THzビーム、および実質的に同じ波長または最大10GHzだけ周波数が異なる波長を有する、別の放射線ビームを組み合わせることも可能である。そのような組み合わされた放射線は、ボロメータ、ショットキーダイオード等を用いることにより、検出することができる。
【0055】
図3には、各種反射、透過および散乱成分を呈する、空気/ポリエチレン界面40の概略図を示す。透過信号42は、反射信号44よりもずっと高強度である(96%と4%である)ことがわかる。
【0056】
散乱中心46によって、追加の散乱信号48が導入される。反射ビームは強度が弱いため、これらの散乱パルスに対してより敏感である。ただし、透過および反射の両方において、散乱事象によって、偽のスペクトル特性が生じる。
【0057】
図4aには、60mgのソース源と260mgのPE粉末とで構成されたサンプルの、4つの時間領域波形を示す。各サンプルは、粉末セル内で測定される。曲線1は、空の粉末セルの照合トレースについての記録された波形を示している。曲線2には、粒子寸法が53〜75μmのスクロースサンプルの結果が示されている。曲線3には、粒子寸法が250μmよりも大きなスクロースサンプルの結果が示されている。曲線4は、同様に、250μmを超える粒子での結果であるが、粒子の粉末セル内の位置が異なっている。
【0058】
次に、サンプルのみによる波形を示すため、図4aの記録波形から、照合トレース(曲線1)分を差し引いた。差し引かれたTHz波形を図4bに示す。図4aおよび4bの双方において、曲線は、明確化のためずらされていることに留意する必要がある。また、曲線1の信号強度は、1/4倍に縮小されている。
【0059】
図4bでは、散乱による特性の存在が明確に認められ(矢印50、52および54)、これは、スクロース粒子の寸法の増加とともに、より明確になっている。(データのフーリエ変換によって)図4bのデータが周波数領域において解析された場合、これらの散乱特性によって、偽スペクトル特性が生じる。
【0060】
図5には、微細ラクトース粒子と大きなスクロース粒子(800μmの寸法/直径)の混合物で測定された、一連の波形トレースを示す。曲線2、3および4は、サンプルの3つの異なる測定点から得られた結果を示している。この図から明らかなように、主要な初期パルスの後、サンプルの吸収/反射特性に起因した、一連の波(リップル)が存在する。ただし、これらの曲線には、3つの追加の特徴(曲線2の矢印56、曲線3の矢印58、曲線4の矢印60で示されている)が認められる。これらの追加の特性は、散乱事象に起因しており、データのフーリエ変換後に、偽のスペクトル特性が生じる原因となる。
【0061】
曲線1には、5mm2の面積で得られた平均化波形(3つの曲線2、3および4を含む)が示されている。この場合、特性に関連する散乱は、波形からは認められなくなっている。
【0062】
図6aおよび6bには、周波数領域に対する、単一測定点での分光測定結果(図6a)と、平均化データ組の結果(図6b)の比較を示す。図6aには、波形トレース(図5の曲線2乃至4とほぼ等しい)のフーリエ変換結果がプロットされている。従って、これは、吸収プロファイルに相当する。
【0063】
図6bには、まず波形データが平均化されてから、その平均化されたデータがフーリエ変換されたときの結果がプロットされている。この結果から、図6bとの比較から、図6aのトレースは、多数の偽のスペクトル特性を有していることがわかる。
【0064】
図6bのトレースでは、波長の増加とともに、吸収のレベルが上昇していくことが示されている。これは、サンプルによる吸収および/またはポリエチレン(PE)の散乱によるものである。また、照合測定とサンプル測定の間の位相差によって、吸収スペクトルにも同様のずれが生じている。この影響を除去するため、およびスペクトル特性を把握するため、図7aおよび7bには、いわゆる「一次導関数」(d(吸収)/a(周波数))がプロットされている。図7aは、図6aに対応しており、図7bは、図6bに対応していることに留意する必要がある。
【0065】
図7aおよび7bから、図7aでのスペクトル特性では、スペクトル解析を行うことは事実上難しいことは明らかである。
【0066】
図8aおよび8bには、波数に対する屈折率のプロットを示す。屈折率は、時間領域および位相の情報から算出される。また、図8aは、図6aおよび図7aに対応する。図8bは、図6bおよび図7bに対応する。図8bとの比較から明らかなように、図8aにおける散乱事象の存在は、屈折率の微分値に多くの誤差を生じさせる。
【0067】
図9には、異なる寸法のサンプル面積にわたって平均化することにより得られた、同じサンプルの各種THz反射スペクトルを示す。サンプルは、スクロースとラクトースの粒子の混合物で構成されている。
【0068】
各スペクトルの隣には、平均化の際の測定点(画素)の数が記載されており、図は、明確化のため、ずらして示されている。大きなサンプル面積にわたって平均化処理を行うことにより、改良された結果が得られることは明らかである。ただし、この例では、13×13画素のサンプル面積において、ラクトースとスクロースの吸収特性を十分に判断することができることがわかる。
【0069】
反射分光法を用いて検査されるサンプルからは、サンプル表面からの反射に対応する初期のインパルス特性と、その後の波形データとを有する時間波形が得られる。初期のインパルス特性に続く波形トレースを解析することにより、サンプルに関する更なる情報が得られる。この種類の解析は、しばしばサンプルの「遅延時間応答」と呼ばれる。
【0070】
図10には、層状サンプル62を示す。ラクトースとスクロースの混合物の中心層64は、2つのポリエチレン層66、68の間に挟まれている。テラヘルツ放射線70は、ポリエチレン層のいずれかの上に入射され、反射放射線72が検出される。サンプルは、空気/PE界面74と、2つのPE/LT界面76、78とを有する。
【0071】
図11には、図10に示したサンプルから得られた時間波形トレースを示す。曲線1は、入射放射線を別の照合サンプルに集束させることにより得られた、ポリエチレン照合トレースである。曲線2は、入射放射線を空気/PE界面に集束させることにより得られたトレースである。曲線3および4は、入射放射線を第1のPE/LT界面に集束させることにより得られたトレースである(曲線4は、単一の画素で得られたものであり、曲線3は、全面積にわたる平均化によって得られたものである)。第1のPE/LT界面から反射されたTHz信号は、空気/PEからの信号に比べて著しく弱い。「×5」は、対応する信号が5倍に拡大されていることを意味している。
【0072】
図12には、図10のサンプルからの全応答と、このサンプルで測定された遅延時間応答との、高速フーリエ変換後の比較を示す。いずれの場合も、入射放射線は、LT/PE界面で集束されている。
【0073】
曲線1および2は、全応答に関するものである。曲線1は、サンプルからの平均化応答を表しており、曲線2は、一つの画像化点からの典型的な応答を示している。曲線3および4は、サンプルからの遅延時間応答を示したものである。ラクトースのスペクトル特性が、18cm-1に明確に現れていることは明らかである。曲線3は、遅延時間応答と平均化処理の組み合わせを示している。
【0074】
本発明に関する方法を用いることにより、サンプルの正しいスペクトル成分を同定することが可能となる。一度これらの特性が同定されると、サンプルの成分に対応する波長で、サンプルを画像化することが可能となる。この方法では、サンプルのスペクトル画像が蓄積される。図13には、(a)スクロースおよび(b)ラクトースのスペクトル特性を利用した、スクロース/ラクトース/ポリエチレンサンプルの化学マッピング画像を示す。
【0075】
さらに図14aには、サンプル表面の化学分布画像を示す。スクロース、ラクトースおよびポリエチレンのスペクトル特性を用いて、サンプル表面の成分の位置が同定される。スクロースは符号80で、ラクトースは符号82で、ポリエチレンは符号84で示されている。符号86の領域は、ラクトースとスクロースの両方を含む。対応するTHzスペクトルは、図14bに示されている。
【0076】
散乱の影響を抑制する別の方法は、拡散照射ビームを用いることである。そのような配置は、図15に示されている。通常のシステム構成では、エミッタ光学素子88は、THz放射線90をサンプル94の単一点92に集束させるように配置される。しかしながら、別の方法では、焦点95は、意図的に動かされ、「拡散」THz照射ビーム96によってサンプルが走査される。これにより、本発明の第1の態様である「平均化処理」法と同様の効果が得られ、結果的に、ビームの幅にわたって散乱の影響が相互に相殺され易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の第1の実施例に使用される、パルステラヘルツ反射検査技術の概略を示した図である。
【図2】本発明の第2の実施例に使用される、パルステラヘルツ透過検査技術の概略を示した図である。
【図3】各種反射、透過および散乱成分を呈する、空気/ポリエチレン界面の概略を示した図である。
【図4】スクロースとPE粉末からなるサンプルの時間領域波形を示した図である。
【図5】ラクトース粒子と大きなスクロース粒子(500〜800μmの寸法/直径)の混合物から測定された一連の波形トレースを示した図である。
【図6a】単一点での吸収プロットを示した図である。
【図6b】平均化されたデータ組での吸収プロットを示した図である。
【図7a】図6aの吸収プロットの一次微分を示した図である。
【図7b】図6bの吸収プロットの一次微分を示した図である。
【図8a】図6aの画像化サンプルの屈折率プロットを示した図である。
【図8b】図6bの画像化サンプルの屈折率プロットを示した図である。
【図9】同一サンプルの各種サンプル領域における、各種THz反射スペクトルを示した図である。
【図10】層状PE/ラクトース/PEサンプルの概略を示した図である。
【図11】図10に示したサンプルで得られた各種時間波形トレースを示した図である。
【図12】図10に示したサンプルで得られた各種スペクトルプロットを示した図である。
【図13】スクロース/ラクトース/ポリエチレンサンプルの化学マッピング画像を示した図である。
【図14】サンプル表面の別の化学分布画像(a)と、(a)に示した画像に対応する時間波形を示した図(b)である。
【図15】THzシステム用の画像化配置を示した図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象を検査する方法であって、
(a)対象に、光学的に生じた電磁放射線のパルスを照査するステップであって、前記パルスは、100GHzから100THzの範囲の複数の周波数を有するステップと、
(b)時間領域波形を得るため、前記対象を透過したおよび/または前記対象から反射された放射線を検出するステップと、
(c)前記対象の複数の点に対して、ステップ(a)および(b)を繰り返すステップと、
(d)ステップ(c)からのデータを組み合わせて、前記複数の点にわたって平均化された、前記対象の時間領域波形を形成するステップと、
を有する方法。
【請求項2】
さらに、
(c)(i)対象のない状態で実施された照合測定結果を得るステップと、
(c)(ii)対象のない状態で放射線を検出するステップと、
(c)(iii)ステップ(c)の際に検出器によって測定された信号から、ステップ(c)(ii)の際に前記検出器によって測定された信号を差し引くステップと、
を有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ(d)から、前記平均化された時間領域波形のフーリエ変換値が算定されることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
さらに、得られたスペクトルの一次微分を得るステップを有することを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(c)での複数の点は、ステップ(d)からの波形が実質的に変化しなくなるまで、繰り返し増加することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
ステップ(d)で得られた信号の直接反射または直接透過部分が除去され、前記波形の残りの部分に対して、フーリエ変換が適用されることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項7】
対象を検査する方法であって、
(d)対象に、光学的に生じた電磁放射線のパルスを照査するステップであって、前記パルスは、100GHzから100THzの範囲の複数の周波数を有するステップと、
(e)時間領域波形を得るため、前記対象を透過したおよび/または前記対象から反射された放射線を検出するステップと、
(f)直接反射されまたは透過した放射線に対応する検出放射線の部分を分離して、前記検出放射線の残りの部分にフーリエ変換を適用するステップと、
を有する方法。
【請求項8】
対象を検査する機器であって、
(e)光学的に生じた電磁放射線のパルスを対象の点に照射するための電磁放射線の光源であって、前記パルスは、100GHzから100THzの範囲の複数の周波数を有する、光源と、
(f)時間領域波形を得るため、前記対象を透過したおよび/または前記対象から反射された放射線を検出する検出器と、
(g)前記対象の複数の点に連続的に照射するための走査手段と、
(h)前記複数の点の各々からの時間領域波形を結合するための手段であって、これにより前記複数の点にわたって平均化された、前記対象の時間領域波形が形成される、手段と、
を有する機器。
【請求項9】
サンプルを画像化する方法であって、
a)請求項1乃至6のいずれか一つに記載の方法によって、前記サンプルを検査するステップと、
b)ステップ(a)で得られた前記時間領域波形からスペクトル波形を得るステップと、
c)ステップ(b)での前記スペクトル波形から、前記サンプルの成分を同定するステップと、
d)光学的に生じた電磁放射線のパルスを用いて、前記サンプルに再照射を行うステップであって、前記パルスは、100GHzから100THzの範囲の複数の周波数を有するステップと、
e)時間領域波形を得るため、前記対象を透過したおよび/または前記対象から反射された放射線を検出するステップであって、前記検出された放射線は、最初に、前記サンプルの少なくとも一つの成分に対応した少なくとも一つのバンドパスフィルタを透過したものであるステップと、
f)ステップ(e)で検出された放射線から画像を形成するステップと、
を有する方法。
【請求項10】
対象を検査する方法であって、
(c)光学的に生じた電磁放射線のパルスを対象に照射するステップであって、前記パルスは、100GHzから100THzの範囲の複数の周波数を有するステップと、
(d)時間領域波形を得るため、前記対象上もしくは内部の第1の点を透過したおよび/または第1の点から反射された放射線を検出するステップと、
を有し、放射線の照射パルスは、前記対象上もしくは内部の第2の点に集束されることを特徴とする方法。
【請求項11】
実質的に添付図面を参照して示された方法。
【請求項12】
実質的に添付図面を参照して示された機器。
【請求項1】
対象を検査する方法であって、
(a)対象に、光学的に生じた電磁放射線のパルスを照査するステップであって、前記パルスは、100GHzから100THzの範囲の複数の周波数を有するステップと、
(b)時間領域波形を得るため、前記対象を透過したおよび/または前記対象から反射された放射線を検出するステップと、
(c)前記対象の複数の点に対して、ステップ(a)および(b)を繰り返すステップと、
(d)ステップ(c)からのデータを組み合わせて、前記複数の点にわたって平均化された、前記対象の時間領域波形を形成するステップと、
を有する方法。
【請求項2】
さらに、
(c)(i)対象のない状態で実施された照合測定結果を得るステップと、
(c)(ii)対象のない状態で放射線を検出するステップと、
(c)(iii)ステップ(c)の際に検出器によって測定された信号から、ステップ(c)(ii)の際に前記検出器によって測定された信号を差し引くステップと、
を有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ(d)から、前記平均化された時間領域波形のフーリエ変換値が算定されることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
さらに、得られたスペクトルの一次微分を得るステップを有することを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(c)での複数の点は、ステップ(d)からの波形が実質的に変化しなくなるまで、繰り返し増加することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
ステップ(d)で得られた信号の直接反射または直接透過部分が除去され、前記波形の残りの部分に対して、フーリエ変換が適用されることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項7】
対象を検査する方法であって、
(d)対象に、光学的に生じた電磁放射線のパルスを照査するステップであって、前記パルスは、100GHzから100THzの範囲の複数の周波数を有するステップと、
(e)時間領域波形を得るため、前記対象を透過したおよび/または前記対象から反射された放射線を検出するステップと、
(f)直接反射されまたは透過した放射線に対応する検出放射線の部分を分離して、前記検出放射線の残りの部分にフーリエ変換を適用するステップと、
を有する方法。
【請求項8】
対象を検査する機器であって、
(e)光学的に生じた電磁放射線のパルスを対象の点に照射するための電磁放射線の光源であって、前記パルスは、100GHzから100THzの範囲の複数の周波数を有する、光源と、
(f)時間領域波形を得るため、前記対象を透過したおよび/または前記対象から反射された放射線を検出する検出器と、
(g)前記対象の複数の点に連続的に照射するための走査手段と、
(h)前記複数の点の各々からの時間領域波形を結合するための手段であって、これにより前記複数の点にわたって平均化された、前記対象の時間領域波形が形成される、手段と、
を有する機器。
【請求項9】
サンプルを画像化する方法であって、
a)請求項1乃至6のいずれか一つに記載の方法によって、前記サンプルを検査するステップと、
b)ステップ(a)で得られた前記時間領域波形からスペクトル波形を得るステップと、
c)ステップ(b)での前記スペクトル波形から、前記サンプルの成分を同定するステップと、
d)光学的に生じた電磁放射線のパルスを用いて、前記サンプルに再照射を行うステップであって、前記パルスは、100GHzから100THzの範囲の複数の周波数を有するステップと、
e)時間領域波形を得るため、前記対象を透過したおよび/または前記対象から反射された放射線を検出するステップであって、前記検出された放射線は、最初に、前記サンプルの少なくとも一つの成分に対応した少なくとも一つのバンドパスフィルタを透過したものであるステップと、
f)ステップ(e)で検出された放射線から画像を形成するステップと、
を有する方法。
【請求項10】
対象を検査する方法であって、
(c)光学的に生じた電磁放射線のパルスを対象に照射するステップであって、前記パルスは、100GHzから100THzの範囲の複数の周波数を有するステップと、
(d)時間領域波形を得るため、前記対象上もしくは内部の第1の点を透過したおよび/または第1の点から反射された放射線を検出するステップと、
を有し、放射線の照射パルスは、前記対象上もしくは内部の第2の点に集束されることを特徴とする方法。
【請求項11】
実質的に添付図面を参照して示された方法。
【請求項12】
実質的に添付図面を参照して示された機器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6a】
【図6b】
【図7a】
【図7b】
【図8a】
【図8b】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6a】
【図6b】
【図7a】
【図7b】
【図8a】
【図8b】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公表番号】特表2008−510980(P2008−510980A)
【公表日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−528982(P2007−528982)
【出願日】平成17年8月26日(2005.8.26)
【国際出願番号】PCT/GB2005/003333
【国際公開番号】WO2006/021799
【国際公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【出願人】(505078870)テラビュー リミテッド (6)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年8月26日(2005.8.26)
【国際出願番号】PCT/GB2005/003333
【国際公開番号】WO2006/021799
【国際公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【出願人】(505078870)テラビュー リミテッド (6)
【Fターム(参考)】
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