説明

テルル含有粗鉛の電解方法

【課題】 テルルを含有する粗鉛から、効率よく、テルル品位の極めて低い高純度鉛を回収することができるテルル含有粗鉛の電解方法、及び電気電子部品用に好適な高純度鉛を提供する。
【解決手段】 陽極と、陰極と、珪フッ化鉛及び珪フッ酸を含む電解液とを用いる鉛電解方法において、
テルル(Te)を0.1質量ppm以上含有する粗鉛を前記陽極とし、
前記陽極の粗鉛中のアンチモン(Sb)含有量を、該陽極の粗鉛中のテルル含有量に対し、質量比で30倍以上とすることを特徴とするテルル含有粗鉛の電解精製方法である。該方法により得られた電気電子部品用の高純度鉛である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粗鉛の電解方法に関し、特に、テルルを含有する粗鉛から、テルル品位の低い高純度鉛を得るための電解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛は、鉛蓄電池、無機薬品等の用途の他、電子機器の回路の組立て用のハンダ材料、合金として各種LSIのダイボンディングや部材接合用のろう材、ガラス成分としてパッケージの封止材料等の各種電気電子部品に用いられている。これらの電気電子部品用途においては、不純物が含まれることにより電気特性が劣化し、安定性の欠如につながるため、不純物が極力少ない鉛が求められており、市場におけるその要求は、極めて高いものとなってきている。
【0003】
従来より、鉛精鉱から乾式法により製造された粗鉛を、電解精製することにより高純度電気鉛が製造されてきた。前記粗鉛に含まれる不純物としては、例えば、テルル、ビスマス、錫、銀、銅、鉄、アンチモン、ヒ素等が挙げられる。これらの不純物のうち、特にビスマスを含む粗鉛の精製方法としては、電解法であるベッツ法(Betts法)が知られている。
【0004】
前記ベッツ法による電解精製において、より純度の高い精製鉛を取得する方法として、不純物を含有する粗鉛をハリス法により処理し、該不純物の含有量を一定の範囲に調整して所望の品質とした後、該粗鉛を陽極に鋳造し、電解精製する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、前記特許文献1に記載の方法は、電解精製を行う前の粗鉛をハリス法により処理する必要があるため、発生する滓の処理工程を要し、精製時間もコストもかかるため、工業的には不利である。
【0005】
一方、鉛は超伝導材料の添加物等の高機能材料の開発にも用いられ、このような用途においては、特に、テルル含有量が極めて少ない高純度鉛が求められている。また、前記超伝導材料の添加物の用途においては、ビスマス酸化物を製造する場合に、ビスマスの組成挙動を明確にするために、ビスマスの含有量が少ない高純度鉛であることが望ましい。
しかしながら、粗鉛からのテルルの除去は、上記のように、陽極鋳造前の粗鉛をハリス法で処理し、さらに電解精製することにより行われており、効率よく、テルル品位の極めて低い高純度鉛、及びビスマス品位が極めて低い高純度鉛を得る方法は、未だ提案されていないのが現状である。
【0006】
【特許文献1】特開昭50−115120号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は従来における前記問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、テルルを含有する粗鉛から、効率よく、テルル品位の極めて低い高純度鉛を回収することができるテルル含有粗鉛の電解方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、テルルを含有する粗鉛の電解精製において、陽極の粗鉛中のアンチモン含有量を、テルル含有量に対し、質量比で30倍以上とすることにより、粗鉛中のテルルがアンチモンに固定されて電解液中へ溶出しにくくなり、その結果、陰極に析出する電着鉛中のテルル品位が極めて低くなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、本発明者による前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 陽極と、陰極と、珪フッ化鉛及び珪フッ酸を含む電解液とを用いる鉛電解方法において、
テルル(Te)を0.1質量ppm以上含有する粗鉛を前記陽極とし、
前記陽極の粗鉛中のアンチモン(Sb)含有量を、該陽極の粗鉛中のテルル含有量に対し、質量比で30倍以上とすることを特徴とするテルル含有粗鉛の電解精製方法である。
<2> 陽極の粗鉛中のアンチモン含有量を、該陽極の粗鉛中のテルル含有量に対し、質量比で30〜45倍とする前記<1>に記載のテルル含有粗鉛の電解精製方法である。
<3> 陽極の粗鉛中のアンチモン含有量を1.8質量%以上とする前記<1>から<2>のいずれかに記載のテルル含有粗鉛の電解精製方法である。
<4> 陽極の粗鉛中のアンチモン含有量を1.8〜2.4質量%とする前記<1>から<3>のいずれかに記載のテルル含有粗鉛の電解精製方法である。
<5> 陽極が、アンチモンを添加した粗鉛からなる前記<1>から<4>のいずれかに記載のテルル含有粗鉛の電解方法である。
<6> 粗鉛を陽極に鋳造する前に、アンチモン、前記陽極の鋳返し、及びアンチモン含有量が1質量%未満の粗鉛のいずれか添加し、前記粗鉛のアンチモン含有量を調整する請求項<1>から<5>のいずれかに記載のテルル含有粗鉛の電解方法である。
<7> 電解液中のテルル濃度が、0.01mg/L以下である前記<1>から<6>のいずれかに記載のテルル含有粗鉛の電解方法である。
<8> 電解液中の鉛濃度が50〜100g/L、遊離珪フッ酸濃度が100〜180g/Lである前記<1>から<7>のいずれかに記載のテルル含有粗鉛の電解方法である。
<9> 電気分解により陰極に析出した電着鉛を、ハリス法により精製する前記<1>から<8>のいずれかに記載のテルル含有鉛の電解方法である。
【0010】
<10> テルルの含有量が0.1質量ppm未満であり、かつ、鉛の含有量が99.999質量%以上であることを特徴とする電気電子部品用の高純度鉛である。
<11> テルルの含有量が0.1質量ppm未満であり、ビスマスの含有量が1質量ppm未満であり、かつ鉛の含有量が99.999質量%以上である前記<10>に記載の電気電子部品用の高純度鉛である。
<12> 前記<1>から<9>のいずれかに記載のテルル含有粗鉛の電解方法により得られ、テルルの含有量が0.1質量ppm未満であり、かつ、鉛の含有量が99.999質量%以上であることを特徴とする電気電子部品用の高純度鉛である。
<13> テルルの含有量が0.1質量ppm未満であり、ビスマスの含有量が1質量ppm未満であり、かつ鉛の含有量が99.999質量%以上である前記<12>に記載の電気電子部品用の高純度鉛である。
<14> テルルの含有量が、0.01質量ppm未満である前記<10>から<13>のいずれかに記載の電気電子部品用の高純度鉛である。
<15> テルル、鉄、銀、錫、銅、及びアンチモンの含有量の総和が5質量ppm以下である前記<10>から<14>のいずれかに記載の電気電子部品用の高純度鉛である。
<16> 超伝導材料に用いられる前記<10>から<15>のいずれかに記載の電気電子部品用の高純度鉛である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、テルルを含有する粗鉛から、効率よく、テルル品位の極めて低い高純度鉛を回収することができるテルル含有粗鉛の電解方法、及び、テルル品位の極めて低い電気電子部品の高純度鉛を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(テルル含有粗鉛の電解方法)
本発明のテルル含有粗鉛の電解方法は、陽極と、陰極と、珪フッ化鉛及び珪フッ酸を含む電解液とを用い、テルルを0.1質量ppm以上含有する粗鉛を前記陽極とし、前記陽極の粗鉛中のアンチモン含有量を、該陽極の粗鉛中のテルル含有量に対し、質量比で30倍以上とする方法である。
なお、前記質量比とは、前記陽極の粗鉛中のアンチモン含有量(質量%)を分子とし、前記陽極の粗鉛中のテルル含有量(質量%)を分母として求めた値である。
また、前記陽極の粗鉛中のアンチモン含有量は1.8質量%以上であることが好ましい。
【0013】
前記テルル含有粗鉛の電解方法における工程としては、例えば、(1)溶融粗鉛受入工程、(2)錫・銅除去工程、(3)アンチモン品位調整工程、(4)陽極鋳造工程、(5)電解工程、(6)陽極処理工程、(7)回収電解液処理工程、及び(8)陰極処理工程を含み、必用に応じてその他の工程を含む。これらの工程の流れの一例を、図1に示す。
図1は、本発明のテルル含有粗鉛の電解方法を、工業的に有利に実施するのに好適な具体例である。
【0014】
(1)溶融粗鉛受入工程
前記溶融鉛受入工程(1)は、原料としての粗鉛(図1中の粗鉛A)を、精製鍋に溶体のまま受け入れ、生成したドロスを除去する工程である。
前記粗鉛Aは、不純物として少なくともテルルを0.01質量%以上含有する粗鉛である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、鉛精鉱から製造された粗鉛であってもよく、各種鉛屑等から再生により得られた粗鉛であってもよい。
前記粗鉛A中に含まれるテルル以外の不純物としては、例えば、アンチモン、ビスマス、銀、銅、及び錫などが挙げられる。
【0015】
前記粗鉛Aを、溶解炉等で溶融された800〜900℃の溶体として前記精製鍋に受入れ、該精製鍋中で400〜480℃まで冷却する。この冷却により、不純物(例えば、銅、錫、アンチモン等)の一部を析出させてドロス(図1中のドロス(A))を生成させ、これを除去する。前記ドロス(A)は、溶体表面に浮上しているため、例えば、グラブクレーン、コンベヤー式のドロス揚げ機などを用いて除去することが好ましい。
【0016】
次いで、前記ドロス(A)が除去された前記粗鉛Aを、ポンプ等を用いて脱錫・脱銅鍋へ移送する。
【0017】
(2)錫・銅除去工程
前記錫・銅除去工程(2)は、前記粗鉛Aに含まれる不純物である錫及び銅を、前記脱錫・脱銅鍋中で除去する工程である。
錫は、前記脱錫・脱銅鍋中で前記粗鉛Aを600〜630℃まで加熱し、温度を維持しながら攪拌することにより、錫の酸化物を生成させ、該酸化物をドロス(図1中のドロス(B))として除去するか、揮発させることにより除去することが好ましい。
【0018】
銅は、前記錫の除去を行った後、前記脱錫・脱銅鍋中で前記粗鉛Aを350〜380℃まで冷却することにより析出させ、ドロス(図1中のドロス(C))として除去することが好ましい。なお、冷却とともにアンチモン品位を低下させる目的で、アンチモン含有量が1質量%未満である粗鉛(図1中の粗鉛B)を添加してもよい。
前記粗鉛Bは、常温で保管されているインゴットとして添加することが好ましい。
【0019】
次いで、前記ドロス(B)及び前記ドロス(C)が除去された前記粗鉛Aを、ポンプ等を用いて調合鍋へ移送する。
【0020】
(3)アンチモン品位調整工程、及び(4)陽極鋳造工程
前記アンチモン品位調整工程(3)は、前記粗鉛Aに、アンチモン、前記陽極の鋳返し、及びアンチモン含有量が1質量%未満である粗鉛(前記粗鉛B)の少なくともいずれかを添加することにより、前記調合鍋中で、前記粗鉛Aのアンチモン含有量を、前記粗鉛中のテルル含有量に対し、質量比で30倍以上に調整する工程である。前記アンチモン含有量の前記粗鉛中のテルル含有量に対する質量比としては、30〜45倍以上であることが好ましい。
【0021】
前記粗鉛A(前記粗鉛Aからなる陽極)のアンチモン含有量としては、1.8質量%以上であることが好ましく、1.8〜2.4質量%であることがより好ましい。アンチモン含有量が2.4質量%を超えると、電解により陽極に生成するスライムが強固なものとなり、後述の電解工程における陽極表面からの鉛の溶出を著しく低下させることがあり、また、後述の陽極処理工程における該スライムの剥離が困難となることがある。
【0022】
また、前記陽極鋳造工程(4)は、前記アンチモン品位調整工程(3)により、アンチモン含有量を、テルル含有量に対し、質量比で30倍以上に調整してなる前記粗鉛A、又は、アンチモン含有量を1.8質量%以上とした粗鉛Aを、鋳造鍋で400〜450℃に加温し、鋳造機を用いて陽極に鋳造する工程である。
アンチモンは、前記アンチモン品位調整工程(3)以外に、粗鉛の製造工程において添加されてもよい。
なお、アンチモンは、精錬されたものであってもよく、未精錬(例えば、鉛が含まれた状態)のアンチモンであってもよい。
【0023】
前記粗鉛Aのアンチモンの含有量は、ICP(高周波プラズマ発光分析装置)、蛍光X線分析装置、及び高周波プラズマ質量分析装置などにより測定することができる。
アンチモン含有量を、テルル含有量に対し、質量比で30倍以上に調整してなる前記粗鉛A、及び、アンチモン含有量を1.8質量%以上とした粗鉛Aのいずれかを鋳造してなる陽極を使用することにより、電解時に、前記粗鉛A中のテルルがアンチモンに効率よく固定されるため、テルルの電解液への溶出を抑制することができる。
【0024】
なお、前記陽極鋳造工程(4)において、鋳造温度400〜450℃の範囲では、アンチモンは粗鉛中で安定であり、鋳造時の処理に起因した析出や揮発による減少を生じることがないため、前記アンチモン品位調整工程(3)において調整された含有量は、陽極中の含有量と同じである。
【0025】
(5)電解工程
前記電解工程(5)は、前記陽極鋳造工程(4)により製造された陽極と、電解精製により得られた鉛からなる陰極とを、珪フッ化鉛及び珪フッ酸を含む電解液を循環させた電解槽に懸吊して浸漬し、前記陽極及び前記陰極に直流電流を通電する工程である。
【0026】
前記陰極としては、陰極として通電し、高純度鉛を析出可能であれば、特に制限はなく、前記電解液に不溶性の不溶性電極であってもよいが、電解後、析出した電着鉛とともに溶解及び精製して高純度鉛を得る観点から、本発明のテルル含有粗鉛の電解方法により得られた高純度鉛が好ましく、電着鉛を、水酸化ナトリウムを添加して精製して得た高純度鉛がより好ましい。
【0027】
前記電解液は、珪フッ化鉛(PbSiF)及び珪フッ酸(HSiF)を含む限り、特に制限はなく、ベッツ法に用いられる公知の電解液から適宜選択することができるが、鉛濃度は、50〜100g/Lであることが好ましく、遊離珪フッ酸濃度は、100〜180g/Lであることが好ましく、前記電解液中のテルル濃度が0.01mg/Lであることがより好ましい。
電解工程中の前記電解液の液温としては、30〜40℃が好ましい。
また、前記電解液は、膠等の分散剤が添加されて使用されることが好ましい。
【0028】
前記陰極の電流密度としては、148A/m以下であることが好ましく、80〜130A/mであることがより好ましい。
また、電流効率は、90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。
【0029】
前記電解工程(5)においては、前記陰極は4〜6日間電解を行った後、前記電解槽から取り出すことが好ましく、取り出した前記陰極は、洗浄機に移送し、後述の陰極処理工程(6)において処理を行う。一方、前記陽極は8〜12日間電解を行った後、前記電解槽から取り出すことが好ましく、取り出した前記陽極は、スライム剥離槽に移送し、後述の陽極処理工程(6)において処理を行う。
【0030】
(6)陽極処理工程
前記陽極処理工程(6)は、前記電解工程(5)を経た前記陽極を、スライム剥離槽中でスライムを剥離し、鋳返しとスライムとに分離し、更に分離した前記スライムから残存する電解液を分離回収する工程である。
【0031】
前記スライムの剥離方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、水洗により剥離する方法が好ましい。
前記スライムが剥離除去された前記陽極は、鋳返しとして、新たな陽極を製造する際の前記アンチモン品位調整工程(3)において、前記粗鉛Aに添加されることが好ましい。
【0032】
前記スライムを、剥離に用いられた洗浄水とともにフィルタープレスに通し、固形分と、ろ液(洗浄水及び電解液を含む。以下、「回収電解液」という)とに分離し、それぞれ回収する。前記回収電解液は、洗浄槽に移送され、後述の回収電解液処理工程において処理を行う。
【0033】
(7)回収電解液処理工程
前記回収電解液処理工程(7)は、前記回収電解液を、洗浄槽中で、前記陽極鋳造工程(4)により製造された陽極と、精製鉛からなる陰極とを用いて電解を行う工程である。電解を行うことにより、前記回収電解液中に含まれるビスマス、銅、アンチモン等の不純物は、前記陰極上に析出する。
電解後の前記陰極は、析出した不純物とともに、新たな陽極を製造する際の前記アンチモン品位調整工程(3)において、前記粗鉛Aに添加されることが好ましい。
電解後の前記回収電解液は、清浄化された電解液として電解液循環槽に送り、前記電解工程(5)で用いられる電解液として使用されることが好ましい。
【0034】
(8)陰極処理工程
前記陰極処理工程(8)は、前記電解工程(5)を経て電着鉛が析出した前記陰極を、洗浄し、溶解し、精製した後、高純度鉛、又は新たな前記電解工程(5)において用いられる陰極に鋳造する工程である。
【0035】
前記精製方法としては、特に制限はなく、公知の方法から適宜選択することができ、例えば、NaOHを用いたハリス法等が好ましい。該精製方法により生成した滓は、前記溶融粗鉛受入工程(1)より前の工程、例えば、鉛原料を処理する工程に戻すことが好ましい。
【0036】
精製された前記陰極は、陰極鋳造機、及び陰極加工機を経て、本発明のテルル含有粗鉛の電解方法に用いられる新たな陰極として鋳造されてもよく、本発明の高純度鉛として鋳造されてもよい。
【0037】
−その他の工程−
前記その他の工程としては、例えば、前記陽極処理工程(6)で回収された固形分から有価金属を回収する有価金属回収工程等が挙げられる。
前記有価金属を回収する方法としては、例えば、乾式製錬により得られた粗銀を電解精製することにより、銀等を回収する方法等が挙げられる。
【0038】
(高純度鉛)
本発明の電気電子部品用の高純度鉛は、上述の本発明のテルル含有粗鉛の電解方法により得られ、テルルの含有量が0.1質量ppm未満であり、かつ、鉛の含有量が99.999質量%以上である。更に、他の不純物、例えば、アンチモン、ヒ素、錫の含有量は0.5ppm未満であり、テルル、鉄、銀、錫、銅、及びアンチモンの含有量の総和が5質量ppm以下である。
また、本発明の高純度鉛は、上述の本発明のテルル含有粗鉛の電解方法により得られ、テルルの含有量が0.1質量ppm未満であり、ビスマスの含有量が1質量ppm未満であり、かつ、鉛の含有量が99.999質量%以上であることが好ましい。
さらに、本発明の高純度鉛は、テルルの含有量が0.01質量ppm未満であることがより好ましい。
【0039】
前記高純度鉛のテルル及び他の不純物の含有量は、公知の化学分析方法、ICP分析(高周波プラズマ発行分析装置)、高周波プラズマ質量分析装置等により測定することができる。
また、前記高純度鉛の鉛含有量、すなわち純度は、前記不純物含有量の総和から、減算により計算値として求めることができる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこの実施例に何ら限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
テルルを0.059質量%含有する粗鉛を原料として、図1の工程の流れに従い、粗鉛中のアンチモン含有量を、テルル含有量に対し質量比で30倍以上となるように調整し、陽極を製造した。得られた陽極中の粗鉛のアンチモン含有量は、1.84質量%であり、テルル含有量に対し質量比で31倍であった。
該陽極の粗鉛中の組成を表1に示す。
【0042】
前記陽極と、電解精製により得た純度99.99質量%以上の鉛からなる陰極とを、遊離珪フッ酸136g/Lを含む電解液を循環させた電解槽に懸吊し、浸漬し、表1に示す陰極電流密度で直流電流を通電し、電解を行った。電解中の前記電解液の液温は30〜40℃に制御した。
【0043】
電解を4日間行った後、前記陰極を取り出し、得られた電着鉛を分析し、不純物の含有量、及び鉛の純度を測定した。この結果、得られた電着鉛中の不純物含有量は、テルル0.01質量ppm未満(分析限界の下限値以下)、銀0.5質量ppm未満、銅0.5質量ppm、鉄0.2質量ppm未満、ビスマス0.3質量ppm、アンチモン0.5質量ppmであり、鉛の純度は99.999質量%であった。テルル含有量及びビスマス含有量の極めて低い高純度鉛が得られたことがわかった。結果を表1にあわせて示す。
【0044】
(実施例2)
実施例1において、陰極電流密度を148A/mとした以外は、実施例1と同様にしてテルル含有粗鉛の電解を行った。
この結果、得られた電着鉛中の不純物含有量は、テルル0.01質量ppm未満(分析限界の下限値以下)、銀0.5質量ppm未満、銅0.8質量ppm、鉄0.7質量ppm未満、ビスマス0.6質量ppm、アンチモン1.1質量ppmであり、鉛の純度は99.999質量%であった。テルル含有量及びビスマス含有量の極めて低い高純度鉛が得られたことがわかった。結果を表1にあわせて示す。
【0045】
(実施例3)
実施例2において、粗鉛中のアンチモン含有量をテルル含有量に対し質量比で30倍以上となるように調整した結果、アンチモン含有量が2.22質量%、テルル含有量に対し質量比で37倍の陽極が得られ、これを用いた以外は、実施例2と同様にしてテルル含有粗鉛の電解を行った。
この結果、得られた電着鉛中の不純物含有量は、テルル0.01質量ppm未満(分析限界の下限値以下)、銀0.5質量ppm未満、銅0.5質量ppm、鉄0.4質量ppm未満、ビスマス3.4質量ppm、アンチモン2質量ppmであり、鉛の純度は99.999質量%であった。テルル含有量の極めて低い高純度鉛が得られたことがわかった。結果を表1にあわせて示す。
【0046】
(実施例4)
実施例2において、粗鉛中のアンチモン含有量をテルル含有量に対し質量比で30倍以上となるように調整した結果、アンチモン含有量が2.46質量%、テルル含有量に対し質量比で41倍の陽極が得られ、これを用いた以外は、実施例2と同様にしてテルル含有粗鉛の電解を行った。
この結果、得られた電着鉛中の不純物含有量は、テルル0.01質量ppm未満(分析限界の下限値以下)、銀0.5質量ppm未満、銅0.9質量ppm、鉄0.2質量ppm未満、ビスマス3.8質量ppm、アンチモン2.9質量ppmであり、鉛の純度は99.999質量%であった。テルル含有量の極めて低い高純度鉛が得られたことがわかった。結果を表1にあわせて示す。
【0047】
なお、実施例1〜4で得た電着鉛を、ハリス法で精製することにより、アンチモン含有量を0.5質量ppm未満にすることができた。
【0048】
(比較例1〜2)
粗鉛中のアンチモン含有量が1.67質量%、テルル含有量に対し質量比で28倍の陽極を用いた以外は、実施例2と同様にしてテルル含有粗鉛の電解を行った得られた電着鉛中のテルル含有量は、0.03質量ppmであった。結果を表1にあわせて示す。
【0049】
【表1】

【0050】
表1の結果から、陽極の粗鉛中のアンチモン含有量をテルル含有量に対し質量比で30倍以上として電解したことにより得られた実施例1〜4の電着鉛は、陽極の粗鉛中のアンチモン含有量がテルル含有量に対し質量比で30倍未満の比較例1〜2の電着鉛に比べ、テルル品位が極めて低く、特に、実施例1及び2の電着鉛は、ビスマス品位も極めて低く、高純度であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のテルル含有粗鉛の電解方法は、テルルを含有する粗鉛から、あらかじめハリス法等による不純物の除去を行うことなく、効率よく、テルル品位の極めて低い高純度鉛、更には、ビスマス品位の極めて低い高純度鉛を回収することができるため、工業的な電気電子部品用の高純度鉛の製造方法として好適である。
また、前記テルル含有粗鉛の電解方法により得られた高純度鉛は、テルル品位が極めて低いため、高純度鉛原料として好適であり、特に、電気電子部品用、超伝導材料における添加成分として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】図1は、本発明のテルル含有粗鉛の電解方法における各工程の流れを説明した概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と、陰極と、珪フッ化鉛及び珪フッ酸を含む電解液とを用いる鉛電解方法において、
テルル(Te)を0.1質量ppm以上含有する粗鉛を前記陽極とし、
前記陽極の粗鉛中のアンチモン(Sb)含有量を、該陽極の粗鉛中のテルル含有量に対し、質量比で30倍以上とすることを特徴とするテルル含有粗鉛の電解精製方法。
【請求項2】
陽極の粗鉛中のアンチモン含有量を、該陽極の粗鉛中のテルル含有量に対し、質量比で30〜45倍とする請求項1に記載のテルル含有粗鉛の電解精製方法。
【請求項3】
陽極の粗鉛中のアンチモン含有量を1.8質量%以上とする請求項1から2のいずれかに記載のテルル含有粗鉛の電解精製方法。
【請求項4】
陽極の粗鉛中のアンチモン含有量を1.8〜2.4質量%とする請求項1から3のいずれかに記載のテルル含有粗鉛の電解精製方法。
【請求項5】
陽極が、アンチモンを添加した粗鉛からなる請求項1から4のいずれかに記載のテルル含有粗鉛の電解精製方法。
【請求項6】
テルルの含有量が0.1質量ppm未満であり、かつ、鉛の含有量が99.999質量%以上であることを特徴とする電気電子部品用の高純度鉛。
【請求項7】
テルルの含有量が0.1質量ppm未満であり、ビスマス(Bi)の含有量が1質量ppm未満であり、かつ鉛の含有量が99.999質量%以上である請求項6に記載の電気電子部品用の高純度鉛。

【図1】
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【公開番号】特開2007−77418(P2007−77418A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−263330(P2005−263330)
【出願日】平成17年9月12日(2005.9.12)
【出願人】(000224798)DOWAホールディングス株式会社 (550)
【Fターム(参考)】