説明

テロメラーゼ活性を調節する化合物の同定方法

本発明は、テロメラーゼの活性を調節する化合物を同定するための方法に関する。本発明の化合物は、テロメラーゼのTRBD、「サム」、「フィンガー」、および/または「パーム」ドメインの少なくとも1つのアミノ酸残基に結合する化合物を設計またはスクリーニングすること、および、該化合物を、テロメラーゼの活性を調節するその能力について試験することにより、同定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
緒言
本出願は、2008年8月21日出願の米国特許仮出願第61/090,726号および2007年10月22日出願の同第60/981,548号の優先権を主張し、これらの内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
直鎖状染色体を有する全ての生物は、そのDNAの末端配列を維持するのに大きな障害に直面し、これはしばしば「末端複製問題」と呼ばれる(Blackburn (1984) Annu. Rev. Biochem. 53:163-194;Cavalier-Smith (1974) Nature 250:467-470;Cech & Lingner (1997) Ciba Found. Symp. 211:20-34;Lingner, et al. (1995) Science 269:1533-1534;Lundblad (1997) Nat. Med. 3:1198-1199;Ohki, et al. (2001) Mol. Cell. Biol. 21:5753-5766)。真核細胞はこの問題を、テロメラーゼと呼ばれる特殊なDNAポリメラーゼを用いることにより克服する。テロメラーゼは、直列型のGが豊富なDNA反復(テロメア)を、直鎖状染色体の3’末端に付加し、これは、染色体の遺伝子情報の損失、染色体末端間の融合、ゲノムの不安定性、および老化などを防ぐように機能する(Autexier & Lue (2006) Annu. Rev. Biochem. 75:493-517;Blackburn & Gall (1978) J. Mol. Biol. 120:33-53;Chatziantoniou (2001) Pathol. Oncol. Res. 7:161-170;Collins (1996) Curr. Opin. Cell Biol. 8:374-380;Dong, et al. (2005) Crit. Rev. Oncol. Hematol. 54:85-93)。
【0003】
コアテロメラーゼホロ酵素は、テロメア配列の付加のための鋳型として機能するRNA分子(TER)と対になっている、RNA依存性DNAポリメラーゼ(TERT)である(Blackburn (2000) Nat. Struct. Biol. 7:847-850;Lamond (1989) Trends Biochem. Sci. 14:202-204;Miller & Collins (2002) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99:6585-6590;Miller, et al. (2000) EMBO J. 19:4412-4422;Shippen-Lentz & Blackburn (1990) Science 247:546-552)。TERTは4つの機能ドメインから構成され、これらの1つは、タンパク質のこのファミリーの特徴であるキーシグネチャーモチーフ(key signature motif)を含有する点において、HIV逆転写酵素(RT)と類似点を共有する(Autexier & Lue (2006)上記;Bryan, et al. (1998) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:8479-8484;Lee, et al. (2003) J. Biol. Chem. 278:52531-52536;Peng, et al. (2001) Mol. Cell 7:1201-1211)。テロメラーゼの活性部位を含むRTドメインは、RNA鋳型とのゆるい会合に関与すると考えられている(Collins & Gandhi (1998) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:8485-8490;Jacobs, et al. (2005) Protein Sci. 14:2051-2058)。
【0004】
しかしTERTは、他の逆転写酵素に比べた場合、RTドメインに対するN末端に、機能に関して重要な2つのドメインを含む点でユニークである。これらは遠N末端ドメイン(TEN)を含み、これは、系統発生群(phylogenetic group)の中で最も保存されていないが、適正なヒト、酵母および繊毛原生動物のin vitroでのテロメラーゼ活性、およびin vivoでのテロメアの維持に必要とされる(Friedman & Cech (1999) Genes Dev. 13:2863-2874;Friedman, et al. (2003) Mol. Biol. Cell 14:1-13)。TENドメインはDNA結合特性およびRNA結合特性の両方を有する。DNA結合は、テロメラーゼの染色体上への負荷を促進し、一方RNA結合は非特異的であり、その相互作用の役割は明らかでない(Hammond, et al. (1997) Mol. Cell. Biol. 17:296-308;Jacobs, et al. (2006) Nat. Struct. Mol. Biol. 13:218-225;Wyatt, et al. (2007) Mol. Cell. Biol. 27:3226-3240)。第3のドメインであるテロメラーゼRNA結合ドメイン(TRBD)は、TENおよびRTドメインの間にあり、TENドメインとは異なり、系統発生群の中で高度に保存され、in vitroおよびin vivoの両方におけるテロメラーゼ機能に必須である(Lai, et al. (2001) Mol. Cell. Biol. 21:990-1000)。
【0005】
TRBDは、RNA認識および結合に関連するキーシグネチャーモチーフ(CP−およびT−モチーフ)を含み、両方とも鋳型の上流に位置する、TERのステムIおよびTBEと広範囲に接触する(Bryan, et al. (2000) Mol. Cell 6:493-499;Cunningham & Collins (2005) Mol. Cell. Biol. 25:4442-4454;Lai, et al. (2002) Genes Dev. 16:415-420; Lai, et al. (2001)上記;Miller, et al. (2000)上記;O'Connor, et al. (2005) J. Biol. Chem. 280:17533-17539)。TRBD−TER相互作用は、in vitroおよびin vivoの両方におけるホロ酵素の適切なアセンブリーおよび酵素活性に必要であり、染色体の末端における、複数の同一のテロメア反復の正確な付加に(間接的ではあるが)重要な役割を果たすと考えられている(Lai, et al. (2002)上記;Lai, et al. (2003) Mol. Cell 11:1673-1683; Lai, et al. (2001)上記)。
【0006】
TERTと異なり、TERは種によってかなりサイズが異なる。例えば、Tetrahymena thermophilaにおいて、TERはただの159ヌクレオチド長であり(Greider & Blackburn (1989) Nature 337:331-337)、一方酵母は、特別に長い1167ヌクレオチド長のTERを有する(Zappulla & Cech (2004) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101:0024-10029)。サイズおよび構造における顕著な違いにもかかわらず、TERのコアの構造要素は系統発生群間で保存されており、生物間でのテロメア複製の共通のメカニズムの存在を示唆する(Chen, et al. (2000) Cell 100:503-514;Chen & Greider (2003) Genes Dev. 17:2747-2752;Chen & Greider (2004) Trends Biochem. Sci. 29:183-192;Ly, et al. (2003) Mol. Cell. Biol. 23:6849-6856;Theimer & Feigon (2006) Curr. Opin. Struct. Biol. 16:307-318)。これらには鋳型が含まれ、鋳型はRTドメインとゆるく会合し、テロメア合成のコードおよび、テロメラーゼの反復付加の処理能力(processivity)を部分的に調節するTBEを提供する。Tetrahymena thermophilaにおいて、TBEはステムIIおよび隣接する一本鎖領域により形成され、鋳型近くの上流に位置する(Lai, et al. (2002)上記;Lai, et al. (2003)上記;Licht & Collins (1999) Genes Dev. 13:1116-1125)。低親和性TERT結合部位はまた、Tetrahymena thermophilaTERのらせんIXおよび鋳型認識要素(TRE)中に見出される。
【0007】
TERT機能は多数のタンパク質により調節され、それらのいくつかは、TERT/TER複合体との直接会合により作用し、他は、テロメラーゼの染色体末端への、テロメアDNAとの会合を介したアクセスを調節することにより作用する(Aisner, et al. (2002) Curr. Opin. Genet. Dev. 12:80-85;Cong, et al. (2002) Microbiol. Mol. Biol. Rev. 66:407-425;Dong, et al. (2005)上記;Loayza & de Lange (2004) Cell 117:279-280;Smogorzewska & de Lange (2004) Annu. Rev. Biochem. 73:177-208;Smogorzewska, et al. (2000) Mol. Cell. Biol. 20:1659-1668;Witkin & Collins (2004) Genes Dev. 18:1107-1118;Witkin, et al. (2007) Mol. Cell. Biol. 27:2074-2083)。例えば、繊毛原生動物であるTetrahymena thermophilaにおけるp65またはEuplotes aediculatusにおけるその相同体p43は、テロメラーゼホロ酵素の一体化要素(integral component)である(Aigner & Cech (2004) RNA 10:1108-1118;Aigner, et al. (2003) Biochemistry 42:5736-5747;O'Connor & Collins (2006) Mol. Cell. Biol. 26:2029-2036;Prathapam, et al. (2005) Nat. Struct. Mol. Biol. 12:252-257;Witkin & Collins (2004)上記;Witkin, et al. (2007)上記)。p65とp43の両方は、TERに結合してこれを折りたたむと考えられており、これはホロ酵素の適切なアセンブリーと完全な活性に必要な過程である。
【0008】
酵母において、テロメラーゼ活性の漸増および続く上方調節には、テロメラーゼ関連タンパク質Est1が必要である(Evans & Lundblad (2002) Genetics 162:1101-1115;Hughes, et al. (1997) Ciba Found. Symp. 211:41-52;Lundblad (2003) Curr. Biol. 13:R439-441;Lundblad & Blackburn (1990) Cell 60:529-530;Reichenbach, et al. (2003) Curr. Biol. 13:568-574;Snow, et al. (2003) Curr. Biol. 13:698-704)。Est1はテロメラーゼのRNA要素に結合し、これは、テロメア結合タンパク質Cdc13との相互作用を介した、真核性染色体末端へのホロ酵素の漸増を促進する相互作用である(Chandra, et al. (2001) Genes Dev. 15:404-414;Evans & Lundblad (1999) Science 286:117-120;Lustig (2001) Nat. Struct. Biol. 8:297-299;Pennock, et al. (2001) Cell 104:387-396)。
【0009】
テロメラーゼおよび関連する調節因子がいかにして互いに物理的に相互作用し機能して、適切なテロメア長を維持するかは、研究途中である。これらの因子の構造的および生化学的特性を、単離された状態、および互いに複合化された状態の両方において用いることにより、TRBDドメインと、TERのステムIおよびTBEとの相互作用が、どのようにして適切なアセンブリーを促進し、ホロ酵素の反復付加の処理能力を促進するかを、決定することができる。
【0010】
in vitroおよびin vivoのスクリーニングアッセイが開発され、テロメラーゼ活性またはテロメア結合を調節する剤が同定されているが、その焦点は、特定のドメインまたは基質ポケットについて一定の特異性を有する剤を同定することではない。米国特許番号第7,067,283号;第6,906,237号;第6,787,133号;第6,623,930号;第6,517,834号;第6,368,789号;第6,358,687号;第6,342,358号;第5,856,096号;第5,804,380号;および第5,645,986号を参照。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、テロメラーゼの活性を調節する化合物を同定するための方法を特徴とする。本発明のこの方法は、(a)テロメラーゼのTRBDドメインの少なくとも1つのアミノ酸残基、「サム(thumb)」ドメインの少なくとも1つのアミノ酸残基、「パーム(palm)」ドメインの少なくとも1つのアミノ酸残基、および/または「フィンガー(finger)」ドメインの少なくとも1つのアミノ酸残基に結合する化合物を、設計またはスクリーニングすること;および(b)(a)において設計またはスクリーニングした化合物を、テロメラーゼの活性を調節するその能力について試験し、それによりテロメラーゼの活性を調節する化合物を同定すること;を含む。1つの態様において、テロメラーゼのTRBDドメインは、表1に記載のアミノ酸残基を含む。他の態様において、「サム」、「パーム」および/または「フィンガー」ドメインは、表2に記載のアミノ酸残基を含む。他の態様において、ステップ(a)は、in silicoまたはin vitroで実施される。この方法で同定された化合物もまた、本発明に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1A−1B】図1は、テロメラーゼ(TERT)の構造を示す。図1Aは、ヒト、酵母、およびTetrahymena thermophilaのTERTの一次構造であって、機能ドメインおよび保存モチーフを示す。図1Bは、Tribolium castaneumのTERTの一次構造および保存モチーフを示す。
【図1C】図1は、テロメラーゼ(TERT)の構造を示す。図1Cは、RNA結合ドメイン(TRBD)、「フィンガー」および「パーム」サブドメインから構成される逆転写酵素ドメイン、および「サム」ドメインを有する、TERTドメインの構成を示す。
【図2A】図2Aは、Tetrahymena thermophilaのTRBD(TETTH;配列番号1)の配列アラインメントおよび二次構造の模式図を、ALSCRIPT Barton (1993) Protein Eng. 6:37-40)により作製された、Euplotes aediculatus(EUPAE;配列番号2)およびOxytricha trifallax(OXYTR;配列番号3)などの繊毛原生動物;ヒト(配列番号4)およびマウス(配列番号5)などの哺乳類;Schizosaccharomyces pombe(SCHPO;配列番号6)およびSaccharomyces cerevisiae(YEAST;配列番号7)などの真菌類;およびArabidopsis thaliana(ARATH;配列番号8)などの植物からのTRBDと比較して示した図である。キーシグネチャーモチーフの保存残基を示し、またRNA結合およびテロメラーゼ機能に影響する変異残基も示す。三角形の印は、本明細書の研究で用いられたTRBDコンストラクトの境界を規定する。
【図2B】図2Bは、Tetrahymena thermophilaのTRBD(TETTH;配列番号1)の配列アラインメントおよび二次構造の模式図を、ALSCRIPT Barton (1993) Protein Eng. 6:37-40)により作製された、Euplotes aediculatus(EUPAE;配列番号2)およびOxytricha trifallax(OXYTR;配列番号3)などの繊毛原生動物;ヒト(配列番号4)およびマウス(配列番号5)などの哺乳類;Schizosaccharomyces pombe(SCHPO;配列番号6)およびSaccharomyces cerevisiae(YEAST;配列番号7)などの真菌類;およびArabidopsis thaliana(ARATH;配列番号8)などの植物からのTRBDと比較して示した図である。キーシグネチャーモチーフの保存残基を示し、またRNA結合およびテロメラーゼ機能に影響する変異残基も示す。三角形の印は、本明細書の研究で用いられたTRBDコンストラクトの境界を規定する。
【0013】
【図3A】図3Aは、Tribolium castaneumのTERT(TRICA;配列番号9)の配列アラインンメントおよび表面保存を、種々の系統発生群からのTERTと比較して示したものであり、これには、マウス(配列番号10)およびヒト(配列番号11)などの哺乳類; Arabidopsis thaliana(ARATH;配列番号12)などの植物;Saccharomyces cerevisiae(YEAST;配列番号13)およびSchizosaccharomyces pombe(SCHPO;配列番号14)などの真菌類;およびTetrahymena thermophila(TETTH;配列番号15)およびEuplotes aediculatus(EUPAE;配列番号16)などの原生動物から、ClustalW2により(Larkin et al. (2007) Bioinformatics 23:2947-2948)作製されたものを含む。キーシグネチャーモチーフの保存残基も示す。DNA基質の骨格に直接接触しているとされる「サム」ドメインのらせんα10のK210および極性残基(K406、K416、K418、N423)も示す。
【図3B】図3Bは、Tribolium castaneumのTERT(TRICA;配列番号9)の配列アラインンメントおよび表面保存を、種々の系統発生群からのTERTと比較して示したものであり、これには、マウス(配列番号10)およびヒト(配列番号11)などの哺乳類; Arabidopsis thaliana(ARATH;配列番号12)などの植物;Saccharomyces cerevisiae(YEAST;配列番号13)およびSchizosaccharomyces pombe(SCHPO;配列番号14)などの真菌類;およびTetrahymena thermophila(TETTH;配列番号15)およびEuplotes aediculatus(EUPAE;配列番号16)などの原生動物から、ClustalW2により(Larkin et al. (2007) Bioinformatics 23:2947-2948)作製されたものを含む。キーシグネチャーモチーフの保存残基も示す。DNA基質の骨格に直接接触しているとされる「サム」ドメインのらせんα10のK210および極性残基(K406、K416、K418、N423)も示す。
【図3C】図3Cは、Tribolium castaneumのTERT(TRICA;配列番号9)の配列アラインンメントおよび表面保存を、種々の系統発生群からのTERTと比較して示したものであり、これには、マウス(配列番号10)およびヒト(配列番号11)などの哺乳類; Arabidopsis thaliana(ARATH;配列番号12)などの植物;Saccharomyces cerevisiae(YEAST;配列番号13)およびSchizosaccharomyces pombe(SCHPO;配列番号14)などの真菌類;およびTetrahymena thermophila(TETTH;配列番号15)およびEuplotes aediculatus(EUPAE;配列番号16)などの原生動物から、ClustalW2により(Larkin et al. (2007) Bioinformatics 23:2947-2948)作製されたものを含む。キーシグネチャーモチーフの保存残基も示す。DNA基質の骨格に直接接触しているとされる「サム」ドメインのらせんα10のK210および極性残基(K406、K416、K418、N423)も示す。
【図4】図4は、Tetrahymena thermophilaからのテロメラーゼのRNA要素(TER)の、一次構造の模式図である。ステムI、TBEおよび鋳型も示す。
【0014】
発明の詳細な説明
リボ核タンパク質複合体であるテロメラーゼは、真核染色体の直鎖末端を複製して、「末端複製問題」に対処する。TERTは必須の普遍的に保存されるドメイン(TRBD;図1A)を含み、これは、ホロ酵素のRNA(TER)要素と広範に接触し、この相互作用がTERT/TERアセンブリーおよび反復付加の処理能力を促進する。TRBDドメインは系統発生群の中で高度に保存され、テロメラーゼの機能に必須である。広範囲の生化学的および変異原性試験により、TERT/TER複合体の適切なアセンブリーおよび安定化、ならびにホロ酵素の反復付加の処理能力に対して重要と考えられている相互作用である、TRBDのステムIおよびTEBへの結合が局在化された。TRBDドメインの原子構造は現在同定されており、TERT/TER結合についての情報を提供する。TRBDのRNA結合部位は、部分的に親水性で部分的に疎水性の性質を持ち、かつ以前に同定され、テロメラーゼ機能に重要であることが示されたT−およびCPモチーフにより形成されているタンパク質の、表面上の伸長された溝である。この溝のサイズ、構成および化学的性質は、TRBDドメインが二本鎖および一本鎖両方の核酸、おそらくステムIまたはIIならびにそれらを結合するssRNAと相互作用することを示す。
【0015】
TRBDドメインの構造に加えて、3つの高度に保存されたドメイン、すなわちTRBD、逆転写酵素(RT)ドメイン、およびTERTの推定「サム」ドメインを示すと考えられるC末端伸長が、リング状に構成され、この構造が、レトロウイルス逆転写酵素、ウイルスRNAポリメラーゼ、およびBファミリーDNAポリメラーゼと共通の特徴を有することが示されている。ドメインの構成により、基質結合と触媒に関連するモチーフがリングの内部に配置され、二本鎖核酸の7〜8個の塩基を収容することができる。このリング内でのRNA/DNAヘテロ二本鎖のモデル化により、タンパク質と核酸基質が完全に適合すること、またDNAプライマーの3’末端が酵素の活性部位にあることが明らかとなり、活性なテロメラーゼ伸長複合体の形成の証拠を提供する。
【0016】
TRBDドメインおよび、RTと「サム」ドメインは、系統発生群間で高度に保存されているドメインである。したがって、これらのドメインはテロメラーゼ阻害剤についての理想的な候補となる。この点で、テロメラーゼは、例えば癌などの、細胞増殖および老化に関連するヒト疾患を処置するための、理想的な標的である。
【0017】
したがって、本発明は、Tetrahymena thermophilaおよびTribolium castaneumテロメラーゼの高分解能構造の使用であって、テロメラーゼの活性を調節するエフェクター分子を同定するための前記使用に関する。用語「エフェクター」は、任意の作用物質、拮抗物質、リガンドまたは他の剤であって、テロメラーゼの活性に影響を及ぼすものをいう。エフェクターは、ペプチド、炭水化物、核酸、脂質、脂肪酸、ホルモン、有機化合物、および無機化合物であることができるが、これらに限定されない。本発明の結晶構造から得られた情報は、テロメラーゼ活性を調節する可能性のある化合物の設計、単離、スクリーニングおよび決定に有用な詳細情報を明らかにする。TRBDドメインに結合する、および、例えばTER結合を立体的にブロックする、またはRNPアセンブリーをブロックする化合物は、有効なテロメラーゼ特異的阻害剤として作用し、一方、TER結合またはRNPアセンブリーを模倣するまたは促進する化合物は、有効なテロメラーゼ特異的アクチベーターとして作用する。活性部位またはヌクレオチド結合部位に結合しこれをブロックする化合物はまた、テロメラーゼ活性を調節することができる。
【0018】
同様に、DNAに直接接触しているテロメラーゼの1または2以上のアミノ酸残基と相互作用する化合物は、DNA結合をブロックすることができ、有効なテロメラーゼ特異的阻害剤として作用し、一方、DNAを模倣する化合物は、テロメラーゼ特異的アクチベーターとして作用する。本発明のエフェクター分子は、多様な使用を有する。例えば、テロメラーゼモジュレーターは、ヒト疾患の処置用の有効な治療剤であることが意図される。作用物質のスクリーニングは、細胞内でテロメラーゼ活性(テロメア依存性複製能力、または部分的テロメラーゼ活性を含む)を増加させる組成物を提供する。かかる作用物質組成物は、有用なタンパク質を発現可能な細胞を含む、それ以外は正常な非形質転換細胞を不死化する方法を提供する。かかる作用物質はまた、細胞の老化を制御する方法も提供することができる。逆に、拮抗物質活性についてのスクリーニングは、テロメア依存性複製能力を低下させる組成物を提供し、これにより癌細胞などの、そうでなければ不死の細胞を死滅させる(mortalize)。拮抗物質活性のスクリーニングは、テロメラーゼ活性を低下させる組成物を提供し、これにより、癌細胞などの調節されない細胞成長を示す細胞の、無制限の細胞分割を防ぐ。一般に、本発明のエフェクター分子は、細胞または生物中でテロメラーゼ活性を増加または低下させることが望ましい場合には、いつでも用いることができる。
【0019】
概括的に言えば、本発明の方法は、本明細書に開示された、必須テロメラーゼドメインの少なくとも1つのアミノ酸残基に結合する試験化合物を、設計またはスクリーニングする方法;および設計またはスクリーニングした化合物を、テロメラーゼ活性を調節するその能力について試験する方法を含む。ある態様において、本発明の方法は、種々の、in silico、in vitro、および/またはin vivoアッセイを用いて、テロメラーゼの1または2以上のドメインまたはドメイン残基と、試験化合物との間の相互作用を検出することに基づいて、実施される。
【0020】
本発明の文脈において、テロメラーゼは、テロメア反復TTAGGGの付加によりテロメア末端を維持する酵素のファミリーをいう。テロメラーゼは、例えばNakamura, et al. (1997) Science 277(5328):955-9およびO’Reilly, et al. (1999) Curr. Opin. Struct. Biol. 9(1):56-65により記載されている。本発明に従って用いるテロメラーゼ酵素の例は、本明細書において配列番号1〜16(図2A〜2B、図3A〜3C)に記載されており、テロメラーゼ酵素の全長配列は、当分野においてGENBANKアクセッション番号AAC39140(Tetrahymena thermophila)、NP_197187(Arabidopsis thaliana)、NP_937983(Homo sapiens)、CAA18391(Schizosaccharomyces pombe)、NP_033380(Mus musculus)、NP_013422(Saccharomyces cerevisiae)、AAC39163(Oxytricha trifallax)、CAE75641(Euplotes aediculatus)およびNP_001035796(Tribolium castaneum)として知られている。本発明の目的のために、テロメラーゼへの言及は、テロメラーゼの突然変異体および合成変異体、ならびにテロメラーゼの断片をさす。合成変異体は、本明細書に開示されたテロメラーゼと、少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%の相同性を有するものを含む。さらに好ましくは、かかる変異体は、本明細書に提供されたテロメラーゼの配列に対応するが、しかし1または2以上、例えば1〜10、例えば1〜5のアミノ酸の置換、欠失、または挿入を有するものである。
【0021】
テロメラーゼおよびその変異体の断片は、好ましくは少なくとも20の、より好ましくは少なくとも50の、および最も好ましくは少なくとも200のアミノ酸のサイズである。例示の断片としては、テロメラーゼのTRBDドメインを包含する約250のアミノ酸残基を含む。他の断片は、「サム」ドメインおよび逆転写酵素ドメインおよびそのサブドメイン、すなわち、「フィンガー」および「パーム」サブドメインを含む。図1Aおよび図2A、2Bに示すように、TRBDドメインは、T. thermophilaテロメラーゼのおよそ254〜519におけるアミノ酸残基を包含する。図1Bおよび図3A〜3Cに示すように、逆転写酵素ドメインは、T. castaneumテロメラーゼのおよそ160〜403におけるアミノ酸残基を包含し、「サム」ドメインは、T. castaneumテロメラーゼのおよそ404〜596におけるアミノ酸残基を包含する。図2A、2B、3A、および3Bに記すアミノ酸配列の比較に基づき、他の種からのテロメラーゼの好適なドメインおよび断片を、別の種からのテロメラーゼにおける等価なアミノ酸残基の位置に基づいて、容易に得ることができる。
【0022】
TRBDのほぼ全てのらせん構造は、TER結合に適した核酸結合折りたたみを提供する。2つの保存モチーフ(CPモチーフおよびTモチーフ)により形成される、タンパク質表面の伸長されたポケットは、TRBDのRNA結合ポケットを提供する。このポケットの幅および化学的性質は、これが一本鎖および二本鎖両方のRNA、またおそらくステムIおよび鋳型境界要素(TBE)に結合することを示す。T thermophilaテロメラーゼのRNPアセンブリーに関与する必須アミノ酸残基および、T thermophilaテロメラーゼTRBDとTERの間の相互作用を、表1に挙げる。他の生物からのテロメラーゼにおけるこれら残基の位置も、表1に示す。特定の態様において、本発明の化合物は表1に記載の1または2以上のアミノ酸残基に結合し、これによりテロメラーゼの活性を調節する。
【0023】
【表1】

【0024】
本明細書に開示されているように、T. castaneumテロメラーゼの構造には、逆転写酵素および「サム」ドメインのキーアミノ酸残基が同定された。特に、ヌクレオチド結合ポケットのキーアミノ酸残基および、DNA基質の骨格と直接接触するようにみえるアミノ酸残基を同定した。したがって、本発明はまた、テロメラーゼのヌクレオチド結合ポケットの少なくとも1つのアミノ酸残基に、またはDNAと直接接触している残基に、結合する化合物を包含する。これらの残基は、T. castaneumテロメラーゼの逆転写酵素ドメインの「パーム」および「フィンガー」サブドメインならびに「サム」ドメインに見出され、表2に挙げられている。他の種におけるこれらアミノ酸残基の位置もまた、表2に示す。
【0025】
【表2】

【0026】
1つの態様において、本発明の化合物は、表2に示した1または2以上のアミノ酸残基に結合し、これによりテロメラーゼの活性を調節する。他の態様において、化合物は、テロメラーゼのヌクレオチド結合ポケットの1または2以上のアミノ酸残基(すなわち、T. castaneumテロメラーゼのK189、R194、Y256、Q308、V342、およびK372、または他の種からのテロメラーゼにおけるこれらと等価のアミノ酸残基)に結合して、ヌクレオチド結合を調節する。さらなる態様において、化合物は、DNAと直接接触するテロメラーゼの1または2以上のアミノ酸残基(すなわち、T. castaneumテロメラーゼのK210、K406、K416、K418、またはN423、または他の種からのテロメラーゼにおけるこれらと等価のアミノ酸残基)に結合して、DNA結合を調節する。
【0027】
本発明に従って設計またはスクリーニングされた化合物は、本明細書に開示された1または2以上のドメインの少なくとも1つのアミノ酸残基と、種々の不均一相互作用を介して相互作用することができ、これらには、ファンデルワールス接触、水素結合、イオン性相互作用、極性接触、またはその組合せを含むが、これに限定されない。一般に、化合物は、本明細書に開示されたドメインの2、3、4、5、6、または7以上のアミノ酸残基と相互作用して、該化合物の、1または2以上のテロメラーゼタンパク質に対する特異性を増強することが望ましい。1つの態様において、化合物は、QFPモチーフ、TモチーフまたはCPモチーフの1または2以上の必須アミノ酸と相互作用する。他の態様において、化合物は、TモチーフおよびCPモチーフの1または2以上の必須アミノ酸と相互作用する
【0028】
さらなる態様において、化合物は、表1に記載の1または2以上の必須アミノ酸と相互作用する。特定の態様において、化合物は、表1に記載の1または2以上の必須アミノ酸であって、RNA結合およびテロメラーゼ活性に対して変異により影響を与えると以前に同定されていなかったものと、相互作用する。他の態様において、化合物は、ヌクレオチド結合ポケットの1または2以上の必須アミノ酸と相互作用する。さらなる態様において、化合物は、DNAと直接接触しているテロメラーゼの1または2以上の必須アミノ酸と相互作用する。さらに別の態様において、化合物は、表2に記載の1または2以上の必須アミノ酸と相互作用する。特定の態様において、化合物は、表2に記載の1または2以上の必須アミノ酸であって、ヌクレオチド結合、DNA結合またはテロメラーゼ活性に影響を及ぼすことが以前に変異により同定されていなかったものと、相互作用する。
【0029】
本発明により、分子設計技術を、テロメラーゼの1または2以上のアミノ酸に結合することができる阻害性および刺激性の化合物を含む、化学物質および化合物の、設計、同定および合成に用いることができる。テロメラーゼのドメインの構造を、GRAM、DOCK、HOOKまたはAUTODOCK(Dunbrack, et al. (1997) Folding& Design 2:27-42)などのドッキングプログラムを用いたコンピューターモデリングと共に用いて、テロメラーゼタンパク質の潜在的なモジュレーターを同定することができる。この手順には、化合物を本明細書に開示されたドメインに適合させて、例えば以下を行うことを含み得る:化合物の形状および化学構造が、TRBDドメインをいかに良好に補うかを確認すること;または、化合物を、TRBDにおけるTERの結合と比較すること;または、化合物を、DNA分子の「サム」ドメインへの結合と比較すること;または、化合物を、ヌクレオチド基質のヌクレオチド結合ポケットへの結合と比較すること。コンピュータープログラムはまた、テロメラーゼタンパク質およびエフェクター化合物の、引力、反力、立体障害を推定するために用いることもできる。一般に、適合が強いほど、立体障害は弱い。引力が強いほど、および特異性が高いほど、これらは特異的エフェクター化合物には重要な特徴であるが、他のクラスのタンパク質よりもテロメラーゼタンパク質と相互作用する可能性が高い。本発明が、基質結合に特異的に関与するアミノ酸残基を同定した範囲において、本発明は、従来のスクリーニングアッセイではこれまで不可能であった特性を提供する。
【0030】
代替的に、化学的プローブのアプローチを、テロメラーゼモジュレーターまたはエフェクターの設計に用いることができる。例えば、Goodford((1985) J. Med. Chem. 28:849)は、GRID(Molecular Discovery Ltd., Oxford, UK)などのいくつかの市販のソフトウェアパッケージを記載しており、これを用いて、例えば水、メチル基、アミン窒素、カルボキシル酸素、およびヒドロキシルなどの異なる化学的プローブにより、テロメラーゼドメインを探索することができる。テロメラーゼドメインのこれらの領域または部位と、各プローブの相互作用に好ましい部位をこうして決定し、得られたかかる領域または部位の3次元パターンから、推定の相補的分子を生成することができる。
【0031】
本発明の化合物はまた、テロメラーゼドメインの3次元構造を目視的に検査することにより設計して、さらに有効な阻害剤またはアクチベーターを決定することができる。この種類のモデル化は、一般に「手動(manual)」薬物設計と呼ばれる。手動薬物設計には、目視検査および例えば「O」(Jones, et al. (1991) Acta Crystallographica Section A A47:110-119)などの画像可視化プログラムを用いた解析を用いることができる。
【0032】
最初に、エフェクター化合物を手動薬物設計により選択することができる。こうして設計された構造的アナログを次に、コンピューターのモデル化プログラムにより修飾して、もっとも可能性のある有効な候補をよりよく定義する。可能性のある候補の数の減少は有用であり、なぜならば、既知の阻害分子といくらかの類似性を有する可能性のある多数の化合物の変種を、合成してスクリーニングすることは、不可能であるかも知れないからである。かかる解析は、HIVプロテアーゼ阻害剤の開発において有効であることが示された(Lam, et al. (1994) Science 263:380-384;Wlodawer, et al. (1993) Ann. Rev. Biochem. 62:543-585;Appelt (1993) Perspectives in Drug Discovery and Design 1:23-48;Erickson (1993) Perspectives in Drug Discovery and Design 1:109-128)。代替的に、小分子ライブラリのランダムなスクリーニングでモジュレーターを導き、その活性を次に、上記のようにコンピューターモデル化により解析して、それらの阻害剤またはアクチベーターとしての有効性をより良好に決定することが可能である。
【0033】
3次元データベースの探索に好適なプログラムとしては、MACCS-3DおよびISIS/3D(Molecular Design Ltd, San Leandro, CA)、ChemDBS-3D(Chemical Design Ltd., Oxford, UK)、およびSybyl/3 DB Unity(Tripos Associates, St Louis, MO)が挙げられる。化合物の選択および設計に好適なプログラムとしては、例えば、DISCO(Abbott Laboratories, Abbott Park, IL)、Catalyst(Bio-CAD Corp., Mountain View, CA)、およびChemDBS-3D(Chemical Design Ltd., Oxford, UK)が挙げられる。
本発明の情報を用いて設計した化合物は、テロメラーゼのTRBDドメイン、ヌクレオチド結合ドメイン、おおび/または「サム」ドメインの全体または一部に結合することができ、テロメラーゼの既知の阻害剤より、より強力で、より特異的で、毒性は弱く、より有効である可能性がある。設計された化合物はまた、より強力ではないが、in vivoおよび/またはin vitroでより長い半減期を有することができ、したがってin vivoおよび/またはin vitroでのテロメラーゼ活性を、より長い期間調節するのに有効である。このように設計されたモジュレーターは、テロメラーゼ活性を、例えば細胞の寿命を変えるために、または増殖能力を変えるために、テロメラーゼ活性を阻害または活性化するのに有用である。
【0034】
本発明はまた、テロメラーゼにその天然の基質と同様の様式で結合可能な化学物質または化合物について、小分子データベースをコンピューターによりスクリーニングするための、分子設計技術の使用も提供する。かかるコンピュータースクリーニングは、本明細書に開示されたドメインの1または2以上のアミノ酸残基と相互作用する種々の基を同定でき、本発明のモジュレーターを合成するために用いることができる。
in vitro(例えば溶液中)のスクリーニングアッセイもまた、本発明に包含される。例えばかかるアッセイは、テロメラーゼ、テロメラーゼTRBDドメイン(例えば本明細書に開示されたもの)、またはテロメラーゼTRBDドメインの一部を、溶液中のTERの存在または不在において混合すること、および試験化合物が、テロメラーゼ活性をブロックできるか、または強化できるかを決定することを含む。同様に、in vitroスクリーニングアッセイを実施して、試験化合物の存在または不在において、ヌクレオチドまたはDNA結合をモニタリングすることができる。
【0035】
本発明の方法によりスクリーニングすることができる化合物は、一般に、剤または化合物のライブラリに由来する。かかるライブラリは、純粋な剤の集合か、または剤の混合物の集合を含むことができる。純粋な剤の例には、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、核酸、オリゴヌクレオチド、炭水化物、脂質、合成または半合成化学物質、および精製された天然の産物が挙げられるが、これに限定されない。剤の混合物の例としては、原核または真核性の細胞または組織の抽出物、および発酵ブロスおよび細胞または組織培養物上清などが挙げられるが、これに限定されない。化学構造のデータベースもまた、多くの源から利用可能であり、Cambridge Crystallographic Data Centre(Cambridge, UK)およびChemical Abstracts Service (Columbus, OH)などを含む。デノボ設計プログラムには、Ludi(Biosym Technologies Inc., San Diego, CA)、Sybyl(Tripos Associates)およびAladdin(Daylight Chemical Information Systems, Irvine, CA)が含まれる。
【0036】
ライブラリのスクリーニングは、任意の従来の方法を用いて実施でき、複数の反応を迅速に調製し操作可能である任意の様式で実施できる。in vitroスクリーニングアッセイにおいて、試験化合物のストック溶液およびアッセイ要素は、手動で調製でき、続く全てのピペット操作、希釈、混合、洗浄、インキュベーション、試料読み取りおよびデータ収集は、市販のロボット分注装置、自動ワークステーション、およびアッセイが生成したシグナルを検出する分析装置を用いて実施される。かかる検出器には、照度計、分光光度計、および蛍光光度計、および放射性同位体の崩壊を計測する装置が挙げられるが、これに限定されない。
【0037】
本明細書に開示されたドメインの少なくとも1つのアミノ酸残基に結合する化合物を、設計またはスクリーニングした後、化合物を続いて、テロメラーゼの活性を調節するその能力について試験する。かかるテロメラーゼの活性は、テロメラーゼ触媒活性(これは、前進性(processive)または非前進性の活性のどちらかである);テロメラーゼ処理能力;従来の逆転写酵素活性;核酸分解活性;プライマーまたは基質(テロメアまたは合成テロメラーゼ基質またはプライマー)結合活性;dNTP結合活性;RNA(すなわち、TER)結合活性;およびタンパク質結合活性(例えば、テロメラーゼ関連タンパク質、テロメラ結合タンパク質、またはタンパク質−テロメアDNA複合体などに結合するもの)などを含む。例えば、米国特許第7,262,288号に開示されたアッセイを参照。
【0038】
テロメラーゼ触媒活性は、テロメラーゼの能力であって、鋳型核酸(例えばTER)によりコードされた、部分的な1または2以上の配列の反復(例えばTTAGGG)を付加することにより、テロメラーゼ基質として機能するDNAプライマーを伸長させる該能力を、包含することを意図する。この活性は、前進性または非前進性であることができる。前進性の活性は、テロメラーゼRNPが複数の反復を、DNAが酵素複合体により放出される前に、プライマーまたはテロメラーゼに付加する場合に生じる。非前進性の活性は、テロメラーゼが、部分的、またはただ1つの反復をプライマーに付加し、次に放出する場合に生じる。しかしin vivoでは、非前進性の反応が、会合、伸長、または分裂の連続的ラウンドによって複数の反復を付加することができる。これはin vitroでも起こり得るが、しかし標準アッセイにおいては典型的には観察されず、その理由は、標準のアッセイ条件下における、テロメラーゼに対する、プライマーの非常に大きなモル過剰のためである。テロメラーゼ触媒活性を決定するための従来のアッセイは、例えば、Morin (1989) Cell 59:521;Morin (1997) Eur. J. Cancer 33:750;米国特許第5,629,154号;WO 97/15687;WO 95/13381;Krupp, et al. (1997) Nucleic Acids Res. 25:919;Wright, et al. (1995) Nuc. Acids Res. 23:3794;Tatematsu, et al. (1996) Oncogene 13:2265に開示されている。
【0039】
テロメラーゼの従来の逆転写酵素活性は、例えば、Morin (1997)上記、およびSpence, et al. (1995) Science 267:988に記載されている。テロメラーゼは、逆転写酵素の触媒活性に必要な保存アミノ酸モチーフを含むため、テロメラーゼは一定の外因性(例えば、非TER)RNAを転写する能力を有する。従来のRTアッセイは、酵素の、アニールされたDNAプライマーを伸長することにより、RNA鋳型を転写する能力を計測する。逆転写酵素活性は、当分野に知られた多数の方法で測定することができ、例えば、標識核酸プライマー(例えばRNAまたはDNA)のサイズの増加をモニタリングすることにより、または標識dNTPの組み込みにより、測定することができる。例えば、Ausubel, et al. (1989) Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York, NYを参照。
【0040】
テロメラーゼはTERと特異的に会合するために、従来のRTアッセイのためのDNAプライマー/RNA鋳型を修飾して、TERおよび/またはテロメアDNAプライマーに関連する特性を有し得ることが理解される。例えば、RNAは配列(CCCTAA)nを有することができ、ここでnは少なくとも1、または少なくとも3、または少なくとも10またはそれ以上である。1つの態様において、(CCCTAA)n領域はRNAの5’末端かその近傍である(テロメラーゼRNAにおける鋳型領域の5’位置に類似)。同様に、DNAプライマーはTTAGGGテロメラ配列の部分を含む3’末端を有することができ、例えば、XnTTAG、XnAGGGなどであり、ここでXは非テロメア配列であり、nは6〜30である。他の態様において、DNAプライマーはRNA鋳型に非相補的である5’末端を有し、このとき、プライマーがRNAにアニールされている場合には、プライマーの5’末端は非結合で残るような様式である。本発明の方法に適用してよい、標準の逆転写アッセイの追加の修正は、当分野に知られている。
【0041】
テロメラーゼの核酸分解活性は、例えばMorin (1997) supra and Collins & Grieder (1993) Genes Dev. 7:1364に記載されている。テロメラーゼは選択的にヌクレオチドを除去し、DNAの3’末端がDNA鋳型配列の5’境界にある場合には、通常は1つのみをオリゴヌクレオチドの3’末端から除去し、ヒトおよびTetrahymenaにおいては、このヌクレオチドはテロメア反復(ヒトにおいてはTTAGG)の最初のGである。テロメラーゼは選択的にG残基を除去するが、しかし、他のヌクレオチドに対しては、核酸分解活性を有する。この活性は、当分野に知られた従来方法を用いてモニタリング可能である。
【0042】
テロメラーゼプライマー(テロメア)結合活性は、例えばMorin (1997)上記;およびCollins, et al. (1995) Cell 81:677;Harrington, et al. (1995) J. Biol. Chem. 270:8893に記載されている。プライマー結合活性をアッセイする複数の方法が存在する;しかし、ほとんどの方法に共通するステップは、標識DNAプライマーをテロメラーゼまたはテロメラーゼ/TERと、適切な結合条件下でインキュベートすることである。また、ほとんどの方法は、非結合DNAをタンパク質結合DNAから分離する方法を用いる。かかる方法としては、例えばゲルシフトアッセイまたはマトリクス結合アッセイが挙げられる。DNAプライマーはテロメラーゼに親和性である任意のDNAであることができ、例えば、(TTAGGG)nなどのテロメアDNAプライマーであって、ここでnは1〜10であり、典型的には3〜5である。3’および5’末端は、反復配列の任意の位置で終わることができる。プライマーはまた、非テロメアDNAの5’および3’末端を有することができ、これは、標識化または検出を促進することもできる。プライマーはまた、例えば検出または単離を促進するために、誘導体化することができる。
【0043】
テロメラーゼのdNTP結合活性は、例えばMorin (1997)上記、およびSpence, et al. (1995)上記に記載されている。テロメラーゼは、DNAの合成のためにdNTPを必要とする。テロメラーゼタンパク質はヌクレオチド結合活性を有し、dNTP結合について、他のヌクレオチド結合タンパク質と同様の様式でアッセイすることができる(Kantrowitz, et al. (1980) Trends Biochem. Sci. 5:124)。典型的には、標識dNTPまたはdNTPアナログの結合は、非テロメラーゼRTタンパク質に対して当分野で知られているように、モニタリング可能である。
テロメラーゼRNA(すなわちTER)の結合活性は、例えばMorin (1997)上記;Harrington, et al. (1997) Science 275:973;Collins, et al. (1995) Cell 81:677に記載されている。本発明のテロメラーゼタンパク質のRNA結合活性は、上に記載のDNAプライマー結合アッセイと類似の様式で、標識RNAプローブを用いてアッセイしてもよい。結合および非結合のRNAを分離する方法およびRNAを検出する方法は、当分野に知られており、本発明の活性アッセイに、DNAプライマー結合アッセイについて記載されたものと同様の様式で、適用可能である。RNAは、全長TER、TERの断片、またはテロメラーゼまたはTRBDに親和性を有することが実証された他のRNAであってよい。米国特許第5,583,016号およびWO 96/40868を参照。
【0044】
本発明の方法を用いて同定した化合物の有効性をさらに評価するために、当業者は、テロメラーゼが関与する任意の特定の疾患または疾病のモデル系を利用して、化合物の吸着、分散、代謝および分泌、ならびに急性、亜慢性、および慢性試験におけるその毒性の可能性を評価することができる。例えば、エフェクターまたは調節化合物を、Saccharomyces cerevisiaeにおける複製寿命のアッセイで試験することができる(Jarolim, et al. (2004) FEMS Yeast Res. 5(2):169-77)。 McChesney, et al. (2005) Zebrafish 1(4):349-355およびNasir, et al. (2001) Neoplasia 3(4):351?359も参照のこと、これは、テロメラーゼ活性を解析するための海洋哺乳類およびイヌの組織モデル系について記載する。
【0045】
本明細書に開示された1または2以上のテロメラーゼの少なくとも1つのアミノ酸残基に結合する化合物を、テロメラーゼを調節する(すなわち、ブロックするかまたは阻害する、または強化するか活性化する)ための方法に用いることができる。かかる方法は、テロメラーゼをin vitroまたはin vivoのどちらかで、本発明のドメインの少なくとも1つのアミノ酸残基と相互作用する化合物の、有効量と接触させることを含み、これにより、テロメラーゼ活性が調節される。エフェクターまたはモジュレーター化合物の有効量とは、テロメラーゼの活性を、化合物と接触させなかったテロメラーゼと比較して、少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、または100%、減少または増加させる量である。かかる活性は、テロメラーゼの活性を検出する酵素アッセイにより、またはテロメラーゼに会合するか、またはこれにより調節されることが知られている、タンパク質の発現または活性をモニタリングすることにより、モニタリング可能である。
【0046】
当業者は、テロメラーゼの活性を調節することは、モデル系におけるテロメラーゼのシグナリング事象を選択的に解析することにおいて、および、テロメラーゼが関与する疾患または疾病を予防または処置することにおいて、有用であることを理解する。特定の疾患または疾病を予防または処置するために用いる化合物の選択は、特定の疾患または疾病に依存する。例えば、ヒトテロメラーゼは癌に関与し、したがってテロメラーゼを阻害する化合物は、以下を含む癌の予防または処置において有用である:固体腫瘍(例えば、乳房、前立腺、および結腸の腺癌;黒色腫;非小細胞肺癌;膠腫;ならびに骨、乳房、消化系、直腸結腸、肝臓、膵臓、下垂体、睾丸、眼窩、頭部および頸部、中枢神経系、聴覚、骨盤、呼吸器官、および泌尿生殖器の新生物)および白血病(例えば、B細胞、混合細胞、ヌル細胞、T細胞、T細胞慢性、リンパ球性急性、リンパ球性慢性、マスト細胞、および骨髄)。テロメラーゼ活性を示す癌細胞(例えば、悪性腫瘍細胞)(テロメラーゼ陽性細胞)は、内因性のテロメラーゼ活性を低減または抑制することにより、死滅させることができる。さらに、テロメラーゼのレベルが、転移の可能性などの疾患の特性と相関するために(例えば、米国特許第号5,639,613号;第5,648,215号;第5,489,508号;Pandita, et al. (1996) Proc. Am. Ass. Cancer Res. 37:559)、テロメラーゼ活性における任意の低減は、癌の攻撃的な性質を低下させて、より管理可能な疾患状態にする(伝統的な介入の有効性が増加する)。
【0047】
例示により、例3は、本発明の1または2以上の化合物による、腫瘍細胞増殖の阻害を評価するのに用いることができる、細胞ベースのアッセイおよび動物モデル系について記載する。本発明の化合物の抗癌活性を評価するのに有用な他の方法は、米国国立癌研究所による複数ヒト癌細胞株スクリーニングアッセイを含む(例えば、Boyd (1989) in Cancer: Principles and Practice of Oncology Updates, DeVita et al., eds, pp. 1-12を参照のこと)。このスクリーニングパネルは、およそ60種の異なるヒト癌細胞株を含み、広範囲の腫瘍種類に対するin vivoでの抗腫瘍活性の有用な指標であり(Grever, et al. (1992) Seminars Oncol. 19:622;Monks, et al. (1991) Natl. Cancer Inst. 83:757-766)、腫瘍の種類としては例えば、白血病、非小細胞肺癌、結腸癌、黒色腫、卵巣癌、腎臓癌、前立腺癌、および乳癌などである。抗腫瘍活性はED50(またはGI50)で表わすことができ、ここでED50は、細胞増殖を50%減少させるのに有効な化合物のモル濃度である。ED50値の低い化合物は、ED50値の高い化合物より、高い抗癌活性を有する傾向がある。
【0048】
1または2以上のin vitroアッセイにおける、化合物の潜在的活性の確認により、さらなる評価は、典型的にはin vivoで実験動物において行われ、例えば、B16黒色腫を有するマウスにおける、肺結節転移の減少を測定することなどである(例えば、Schuchter, et al. (1991) Cancer Res. 51:682-687)。本発明の化合物のそれのみの、または薬物の組合せ化学療法としての有効性も評価することができ、例えば、マウスにおいてヒトB−CLL異種移植モデルを用いて行う(例えば、Mohammad, et al. (1996) Leukemia 10:130-137)。かかるアッセイは、典型的には、一次腫瘍細胞または腫瘍細胞株を、免疫低下したマウス(例えばSCIDマウスまたは他の好適な動物)に注射すること、および腫瘍を成長させることを含む。腫瘍を有するマウスを次に、本発明の化合物で処置し、腫瘍のサイズを測定して、処置の効果を追跡する。代替的に、本発明の化合物を、腫瘍細胞の注射に先立って投与して、腫瘍の予防を評価する。究極的には、本発明の化合物の安全性および有効性を、ヒト臨床試験で評価する。
【0049】
テロメラーゼ活性を活性化または刺激する化合物を、対象の細胞老化により誘発されるか、または悪化する疾患または異常を処置または予防するための方法;対象の老化の速度を、例えば、老化の開始後に低下させる方法;対象の寿命を延長させる方法;寿命に関連する疾患または異常を処置または予防する方法;細胞の増殖能力に関連する疾患または異常を処置または予防する方法;および、細胞損傷または細胞死による疾患または異常を処置または予防する方法、において用いることができる。老化による一定の疾患は、テロメア長の減少(若い細胞に比較した)による細胞の老化に関連する変化を特徴とし、これは、細胞におけるテロメラーゼ活性の不在(またはその非常に低いレベル)の結果である。テロメラーゼ活性およびテロメア長は、例えば、細胞内でのテロメラーゼ活性を増加させることにより、増加することができる。
【0050】
テロメラーゼ活性の増加が治療法となる、細胞老化に関連する異常のリストの一部としては、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、および脳卒中;外皮の年齢関連疾患、例えば皮膚の萎縮、弾性線維症(elastolysis)および皮膚のしわ、白髪および抜け毛、慢性皮膚潰瘍、および加齢関連の創傷治癒の障害;変性関節疾患;骨粗しょう症;加齢関連免疫系障害(例えば、BおよびTリンパ球、単球、好中球、好酸球、好塩基球、NK細胞などの細胞、およびそれらの前駆細胞を含む);血管系の加齢関連疾患;糖尿病;および加齢関連黄斑変性などを含む。さらに、テロメラーゼアクチベーターは、細胞の増殖能力または細胞の不死化を増加させるために用いることができ、例えば、新しい細胞株(例えばほとんどのヒト胃細胞)の産生である。
【0051】
予防または処置は、典型的には、処置の必要な対象に対して、本発明のスクリーニング方法において同定された化合物の有効量を含有する医薬組成物を、投与することを含む。多くの場合、これはヒトであるが、しかし農場動物、例えば家畜および家禽、およびコンパニオン動物、例えばイヌ、ネコおよびウマなどの処置も、本明細書に明示的に包含される。化合物の投与量および有効量の選択は、処置する疾患または疾病の少なくとも1つの兆候または症状を、予防する、低減するまたは逆転する、所望の結果をもたらすものである。ヒトにおける癌および他のテロメラーゼ関連疾患を処置する方法は、米国特許第号5,489,508号、第5,639,613号、および第5,645,986号に記載されている。例として、癌を有する対象(例えば、癌腫、黒色腫、肉腫、リンパ腫、および白血病を含む)は、説明できない体重減少、疲労、発熱、痛み、皮膚の変化、治癒しないただれ、乳房または体の他の部分における肥大または腫れ物、またはおさまらない咳またはかすれ声を経験することがあり、ここで本発明の化合物による処置は、これらの症状の1または2以上を予防、低減または逆転することができる。
【0052】
医薬組成物は、薬学的に許容し得る塩および複合体の形態であることができ、薬学的に許容し得る担体中において、適切な用量で提供することができる。かかる医薬組成物は、当分野でよく知られた方法により調製でき、よく知られた担体を含有する。かかる方法および成分の一般に認められた概要は、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, Alfonso R. Gennaro, editor, 20th ed. Lippincott Williams & Wilkins: Philadelphia, PA, 2000にある。薬学的に許容し得る担体、組成物またはビヒクル、例えば脂質または固体の充填剤、希釈剤、賦形剤、または溶媒カプセル封入材料は、対象化合物を身体の1つの器官または部分から、身体の他の器官または部分へと、運搬するまたは移動させることに関与する。各々の担体は、処方の他の成分と適合性であるとの意味において、許容し得るものでなければならず、処置を受ける対象に有害であってはならない。
【0053】
薬学的に許容し得る担体として機能できる材料の例としては、糖類、例えばラクトース、グルコース、およびスクロース;でんぷん、例えばコーンスターチおよびジャガイモでんぷん;セルロースおよびその誘導体、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロースおよび酢酸セルロース;粉末トラガカント;麦芽;ゼラチン;タルク;賦形剤、例えばカカオバターおよび座薬ワックス;油類、例えばピーナッツ油、綿実油、サフラワー油、ゴマ油、オリーブ油、コーン油および大豆油;グリコール類、例えばプロピレングリコール;ポリオール類、例えばグリセリン、ソルビトール、マンニトール、およびポリエチレングリコール;エステル類、例えばオレイン酸エチルおよびラウリル酸エチル;寒天;緩衝剤、例えば水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウム;アルギン酸;パイロジェン非含有水;等張食塩水;リンガー溶液;エチルアルコール;pH緩衝液;ポリエステル、ポリカーボネートおよび/またはポリアンヒドリド;および医薬製剤で用いられるその他の非毒性適合性物質を含む。湿潤剤、乳化剤および潤滑剤、例えばラウリル硫酸ナトリウムおよびステアリン酸マグネシウム、および着色剤、放出剤、被覆剤、甘味、風味および香味剤、保存剤、および抗酸化剤もまた、組成物中に存在することができる。
【0054】
本発明の組成物は、非経口的に(例えば静脈内、腹腔内、皮下または筋肉内注射により)、局所的に(口腔および舌下を含む)、経口的、経鼻的、経膣的、または直腸内に、標準の医療行為に従って、投与することができる。
選択された投与量レベルは種々の要因に依存し、これらには以下が含まれる:用いる本発明の特定の化合物の活性、投与経路、投与時間、用いる特定化合物の排泄率または代謝率、処置の期間、用いる特定の化合物と一緒に用いられる他の薬剤、化合物および/または材料、処置される患者の年齢、性別、体重、状態、一般健康状態および前の病歴、および医療分野によく知られている同様の因子など。
【0055】
当業者の医師および獣医師は、必要な医薬組成物の有効量を、容易に決定および処方することができる。例えば、医師および獣医師は、所望の治療効果を達成するのに必要な量より低いレベルの化合物の用量から開始して、次第にその投与量を、所望の効果が達成されるまで増加することができる。これは、当業者の技量内にあると考えられ、特定の化合物または類似の化合物についての存在する文献を参照して、最適な用量を決定することができる。
本発明を、以下の非限定的例により、さらに詳細に記載する。
【0056】
例1:Tetrahymena thermophila TERTの構造
タンパク質発現と精製。
T. thermophila TERTの残基254〜519を、タンパク質限定加水分解により同定し、切断可能なヘキサヒスチジンタグをそのN末端に含有するpET28bベクターの修飾形態内にクローニングした。タンパク質を、大腸菌BL21(pLysS)中で、20℃で4時間過剰発現させた。細胞を、50mMのトリス−HCl、10%グリセロール、0.5MのKCl、5mMのβ−メルカプトエタノール、および1mMのPMSF、pH7.5中で氷上にて、超音波処理により溶解した。タンパク質を最初にNi−NTAカラム上で精製し、次にヘキサヒスチジンタグのTEV切断を4℃で一晩行った。TRBD/TEV混合物を希釈して、イミダゾールの濃度が15mMとなるようにし、タンパク質混合物をNi−NTAカラムに通して、TEV、切断されたタグ、および任意のタグ化タンパク質を除去した。Ni−NTA流を1mlに濃縮し、0.15Mの塩濃度に希釈した。希釈TRBD試料を次にPOROS-HSカラム(PerSeptive Biosystems, Framingham, MA)に通した。この段階で、タンパク質は99%以上の純度であった。タンパク質を最終的に、50mMのトリス−HCl、10%グリセロール、0.5MのKCl、および2mMのDTT、pH7.5で予め平衡させたSEPHADEX-S200サイジングカラム(sizing column)に通して、任意のTRBD凝集物を除去した。SDS−pageおよび動的光散乱それぞれにより示された純粋な単一分散タンパク質を、AMICON 10Kカットオフ(MILLIPORE, Billerica, MA)を用いて8mg/mlに濃縮し、続く試験のために、タンパク質を4℃にて保管した。ストックタンパク質を、5mMのトリス−HCl、500mMのKCl、1mMのTCEP、pH7.5により、結晶化試行の前に透析した。
【0057】
タンパク質の結晶化およびデータ収集。
弱い回折(〜4Å分解能)のTRBDのはじめのプレート様クラスターを、4℃で、シッティングドロップ法(sitting drop method)を用い、1容量の透析タンパク質を、20%のPEG 3350、0.2MのNaNOを含有する1容量の貯蔵溶液と混合することにより成長させた。単一の良好に回折する結晶を、マイクロバッチトレイ内、パラフィン油の下で、1容量の透析タンパク質を、等容量の50mMのHEPES(pH7.0)、44%PEG 400、0.4MのNaNO、0.4MのNaBrおよび1mMのTCEPと4℃で混合することにより、成長させた。結晶を、25mMのHEPES(pH7.0)、25%PEG 400、0.2MのNaNO、0.2MのNaBrおよび1mMのTCEPを含有する凍結保護物質溶液中に収穫し、液体窒素中で瞬間凍結させた。データをNSLS、ビーム線X6Aにて収集し、HKL-2000(Minor (1997) Meth. Enzymol. Macromole. Crystallogr. Part A 276:307-326)で処理した(表3)。結晶は、非対称ユニットに1つのモノマーを有する単斜空間群(monoclinic space group)P2に属している。
【0058】
【表3】

【0059】
構造決定および精製。
初期位相は、タンパク質を5mMのHoClと共結晶化させることにより調製した、2波長MADホルミウム(Ho)誘導体から得た。重原子部位は、SOLVE(Terwilliger (2003) Methods Enzymol. 374:22-37)を用いて配置させ、この部位を精密にして、新しい位相をELVES(olton & Alber (2004) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101:1537-1542)により実施されたようにして、MLPHARE(CCP4 (1994) Acta Crystallogr. D 50:760-763)を用いて計算した。初期マップは、良好に規定された密度を、分子の大きな部分についてのみ示した。分子の小さな部分についての密度は弱く、その理由はほぼ、分子の大きな部分に対するその本来の移動性のためであった。密度のモデルを構築することに関連する問題は、セレノメチオニンなどの特定の側鎖の位置に関する情報が欠如していることにより、より悪化させられていた。完全モデルを構築するためのキーとなる要因は、RESOLVE(Terwilliger (2002) Acta Crystallogr. D Biol. Crystallogr. 58:1937-1940)におけるPRIMEおよびSWITCHの連続するラウンドと、続くCOOT(Emsley & Cowtan (2004) Acta Crystallogr. D Biol. Crystallogr. 60:2126-2132)での手動構築である。モデルは、CNS-SOLVE(Brunger, et al. (1998) Acta Crystallogr. D Biol. Crystallogr. 54:905-921)およびREFMAC5(Murshudov, et al. (1997) Acta Crystallogr. D Biol. Crystallogr. 53:240-255)の両方を用いて精密化した。精密化の最後のサイクルは、REFMAC5 (表4)で実施されたようにして、TLSの拘束を用いて行った。図は、PYMOL(DeLano (2002))で作製し、静電表面はAPBS(Baker, et al. (2001) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98:10037-10041)で作製した。
【0060】
【表4】

【0061】
TRBD構造。
テロメラーゼの重要なRNA結合ドメイン(TRBD)の役割を探るために、タンパク質限定加水分解により同定された、T. thermophila(図1A)からの254〜519の残基を含むコンストラクトを、精製して均一にした。このタンパク質コンストラクトは、ゲルろ過および動的光散乱の両方が示すように、溶液中で単量体であった。このコンストラクトの結晶は容易に成長し、1.71Åの分解能に回折された(表3)。タンパク質は、複数波長異常分散法(multiwavelength anomalous dispersion method)(MAD)により、ホルミウム誘導体を用いて、2.7Åの分解能に位相され、および、位相は天然のデータセットにより1.71Åの分解能に伸長された(表3)。精密化された構造において、残基257〜266および277〜519について、明白な密度が存在した。
【0062】
構造は、数個の長いループおよび2つの短いβ鎖により一緒に結合した12個のαらせんを含む。らせんの配置は、分子が、3つの伸長されたループにより結合された、2つの非対称部分に分割されるように配置されている。大きな部分は、9つのαらせんから構成され、これらの1つ(α11)は、ドメインの真中に沿って走り、その全長が他の8つのらせん全てと接触している。分子の小さな部分は、3つのらせん(α4、α5およびα12)から構成され、これらは全て、タンパク質の大きな部分の面に対して〜120°の角度で配置されている。タンパク質の小さな部分は、この領域固有の移動性を反映する、その高いB因子により示唆されるように、大きな部分よりいくらか柔軟性があり、これは、RNA基質との観察可能な接触の不在からもたらされている可能性がある。構造の興味深い性質は、大きな部分と小さな部分それぞれのらせんα11とα12を結合する15の残基により形成される、βヘアピンである。βヘアピンは、タンパク質の2つの部分により形成される間隙の基部から突き出て、分子の小さな部分の面に対して45°の角度で立ち上がっている。このヘアピンの位置およびこれが密度内に良好に規定されているとの事実は、らせんα7と、これをらせんα8に結合するループによる可能性がある。これらの要素両方は、このヘアピンの背後に便利に配置されて、ヘアピンをその位置に保っている。Dali server(Holm & Sander (1996) Science 273:595-603)を用いたタンパク質構造データベースの探索からは、構造的相同体は作製されず、テロメラーゼのTRBDドメインが、新規な核酸結合折りたたみであることを示唆する。本タンパク質の2つの部分の全体的な構成は、核酸認識および結合についての重要な意味合いを有する。
【0063】
TRBDのRNA結合モチーフ。
TRBDドメインの、TERと相互作用する能力は、CPおよびTモチーフとして知られている2つの保存モチーフのためであり、一方、QFPモチーフとして知られている第3のモチーフは、RNPアセンブリーに重要であると考えられている(図2Aおよび2B)(Bosoy, et al. (2003) J. Biol. Chem. 278:3882-3890;Bryan, et al. (2000)上記;Jacobs, et al. (2005)上記;Xia, et al. (2000) Mol. Cell. Biol. 20:5196-5207)。TRBD構造は、QFPモチーフがほぼ疎水性の数個の残基により形成され、これらは分子の大きな部分上に配置され、ドメインのコア内に埋められており、周囲の残基と延長された広範な疎水性の接触を行い、タンパク質の折りたたみを支援していることを示している。これらの残基には、Gln375、Ile376、Leu380、Ile383、Ile384、Cys387、Val388、Pro389、Leu392、Leu393、Asn397、Leu405、Phe408、Tyr422、Ile423、Met426、Trp433、およびPhe434が含まれる。QFP残基の配置および接触は、これらが核酸結合に直接関与していないことを示す。
【0064】
Tモチーフは、タンパク質の2つの部分が会合する分子の中心に位置し、これはβヘアピンとらせんα12の両方の部分を形成する残基から構成される。これらの構造要素は一緒になって、いくつかの溶媒に暴露されて高度に保存されている残基(Phe476、Tyr477、Thr479、Glu480、Tyr491、Arg492、Lys493、および Trp496)に囲まれた、狭く(〜10Å)かつ良好に規定されたポケット(Tポケット)を形成する。特に留意すべきであるのは、不変残基Tyr477とTrp496の側鎖であり、これらはそれぞれ、βヘアピンおよびらせんα12の一部である。これら残基は一緒になって、相互作用するRNAヌクレオチドのプリン/ピリミジン部分を挟み込む、「疎水性はさみ(pincer)」を形成する。この構造において、Tyr477とTrp496の側鎖はたったの4Å離れているのみであり、これはヌクレオチド塩基を収容するには不十分である。2つの側鎖の間に塩基を挿入するには、Tポケットの構造的再配置が必要であり、おそらく、分子の2つの部分を広げることが必要である。その疎水性部分に加えて、Tポケットはまた、Arg492およびLys493などのいくつかの親水性残基も含有し、これらは両方とも溶媒に暴露され、2つを一緒に連結しているTおよびCPポケットの境界に位置する。
【0065】
CPモチーフは、らせんα3と続くループから形成される。狭く良好に規定されたTモチーフとは対照的に、CPモチーフは、Tポケットの入り口に隣接してこの下に位置する、浅くて広い(〜20Å)、高度に正に荷電された空洞(cavity)である。CPモチーフを形成するいくつかの保存残基には、Phe323、Leu327、Lys328、Lys329、Cys331、Leu333、およびPro334が含まれる。これらの残基は、大きな部分のコア、または分子の2つの部分を結合する領域に埋め込まれており、タンパク質の折りたたみに寄与している。特に興味深いのは残基Leu327、Cys331、Leu333およびPro334であり、これらは全て埋められていて、Tモチーフの構造要素と直接接触し、こうしてCPおよびTポケット両方の形成を支援する。
【0066】
例えば、Leu327とCys331は、不変Phe476の大きな疎水性側鎖および保存されているArg492の側鎖の脂肪部分のファンデルワールス力内にあり、これら2つは、βヘアピンの一部を形成する。興味深いことには、Arg492はらせんα12のベースに位置し、そのLeu327、Cys331、およびLeu333との接触は、このらせんを、分子の大きな部分と並行して走る面上に45°の角度で配置するのを支援し、こうしてTポケットの形成をさらに促進する。さらに、Arg492とLeu327、Cys331、およびLeu333との相互作用は、この残基のたった1つの溶媒暴露部分であるグアニジン部分の配置を支援する。CPポケットはまた、主に親水性の性質である、いくつかの表面暴露された保存残基も含む。これらはLys328およびLys329を含み、両方ともTポケットの下にArg492とLys493に非常に近接して位置し、それらと一緒になって、分子のほぼ全側面にわたる1つの大きな正に荷電された表面領域を形成する。
【0067】
TRBD構造および存在する変異体。
RNA結合およびテロメラーゼ活性に影響をおよぼす、TERTのいくつかの変異体が単離されている。これらの変異体のいくつかはTRBDドメインに見出され、具体的には、TおよびCPモチーフ内に見出される。これら2つのモチーフ内での、4〜10アミノ酸アラニン置換の1つ、2つおよびストレッチ(stretch)は、野生型酵素と比べて、RNA結合親和性およびポリメラーゼ活性の、中程度から重度の損失(20〜100%)を示した(Bryan, et al. (2000)上記;Lai, et al. (2002)上記;Miller, et al. (2000)上記)。
【0068】
1セットの変異体、すなわちPhe476Ala、Tyr477Ala、Thr479Ala、Glu480Ala、Arg492AlaおよびTrp496Alaは、RNA結合親和性およびポリメラーゼ活性の重度の損失(80〜100%)を示し、これらの残基がRNA基質との直接の接触に介在することを示唆した(Bryan, et al. (2000)上記;Lai, et al. (2002)上記)。5つの残基は全て、Phe476を例外としてTモチーフの一部であり、それらの側鎖は全て、溶媒に暴露されている。構造において、Tyr477とTrp496の両方はTポケットのベースに配置され、それらの側鎖は「疎水性はさみ」を形成する。これら残基の溶媒に暴露された側鎖が、ssRNAとのスタッキング相互作用に関与すると仮定すると、これらを小さなアラニンに変異させることは基質結合を損なう(compromise)可能性があり、このことは、RNA結合親和性およびテロメラーゼ機能の重大な損失を説明する。Try477およびTrp496と対照的に、Phe476は埋められており、核酸基質との相互作用のためにアクセス可能ではない。その代わりに、Phe476はβヘアピンのベースに位置しており、Tポケット形成に大きな寄与をなす。この残基の大きな疎水性側鎖を、小さなアラニンへと変異させることは、おそらく、このポケットの構造的再配置および、RNA結合親和性とテロメラーゼ活性の損失を導く可能性がある。
【0069】
アラニン変異体の第2のセットであり、RNA結合親和性とテロメラーゼ活性の中程度の損失を示したLeu327Ala、Lys329Ala、Cys331Ala、およびPro334Alaもまた単離された(Bryan, et al. (2000)上記;Miller, et al. (2000)上記)。Leu327とCys331の両方は、Phe476およびArg492の脂肪部分と直接接触し、これらの両方は、Tモチーフのベースに位置する。より小さいアラニン残基への変異は、Tポケットの再配置をもたらし得て、核酸基質との相互作用の損失および機能の損失を導く可能性がある。同様にPro334はらせんα12の背後に位置し、この構造要素の残基と直接接触している。らせんα12は、不変Trp496および保存されたLys493を含み、これらの両方はTポケットの一部を形成する。Pro334のアラニンへの変異は、らせんα10の変位とTポケットの再配置をもたらし得て、機能の損失を導く可能性がある。Lys329もらせんα3に位置し、Leu327Ala、Cys331Ala、およびPro334Alaと異なり、溶媒に暴露されていて、核酸基質と直接接触している可能性がある。これをアラニンに変異させることは、RNA相互作用の損失と、RNA結合親和性およびテロメラーゼ活性の損失を導く。
【0070】
安定なRNP複合体のTRBDドメインの介在による形成、および反復付加処理能力。
in vivoにおいて、テロメラーゼは安定なリボ核タンパク質複合体として存在し、タンパク質(TERT)とRNA要素(TER)との間の接触は、TEN、TRBDおよびRTドメインにより介在される。大規模な生化学的および変異誘発性試験により、TRBDが、TERのステムIとTBEとの広範囲の特異的相互作用に関与することが示された(Lai, et al. (2001)上記;O'Connor, et al. (2005)上記)(図4)。TRBDとTERの間の接触は、RNP複合体の適切なアセンブリーおよび安定化を促進し、反復付加の処理能力を高めると考えられる。(Lai, et al. (2003)上記)。繊毛虫類において、TRBDに加えて、TRBDドメインのN末端に位置する保存されたモチーフ(CP2)が、TERT−TERアセンブリーおよび鋳型境界の規定に必要であると考えられている(Lai, et al. (2002上記;Miller, et al. (2000)上記)。
【0071】
しかし、現在まで、テロメラーゼのTRBDがこのプロセスをいかにして行うかについては明らかではなかった。本解析によれば、TRBDドメインが、ブーメランのような形状をした数個の長いループにより結合された2つの非対称部分に分割されていることが示され、この配置は、RNA認識および結合について重要な意味を有する。分子の2つの半球の全体的な構成は、溶媒に暴露されたいくつかの不変/保存残基からなるタンパク質の表面に、2つの良好に規定された空洞(CPおよびTポケット)の形成をもたらした。Tポケットは、分子の2つの部分の接合部に位置する、狭く深い空洞であり、その一部は疎水性の性質であり、CPポケットに隣接する部分は正に荷電されている。興味深いことには、Tyr477およびTrp496の疎水性側鎖は溶媒に暴露されており、互いに積み重ねられて、この構造においては核酸塩基を収容不可能である、狭い「疎水性はさみ」を形成している。しかし、Trp496を含むらせんα12が、Tyr477を含むβヘアピンに関していくらか柔軟性であることは、注目に値する。
【0072】
らせんα12の、およびしたがってTrp496の移動する能力は、2つの側鎖を広げて離すことができ、こうしてこれらの間にヌクレオチド塩基を収容するのに必要なスペースを可能とする。別の可能性としては、Tyr477およびTrp496の極性部分がヌクレオチド塩基として共に作用し、これが、入ってくるヌクレオチド塩基と共に擬似ワトソンクリック相互作用の形成を可能とする。擬似ワトソンクリック相互作用は前に、Rho転写終結因子(Bogden, et al. (1999) Mol. Cell 3:487-493)およびシグナル認識粒子(Wild, et al. (2001) Science 294:598-601)を含む、多くのタンパク質核酸複合体について観察されている。Tポケットの疎水部分の幅および配置は、これがssRNAに、おそらくはTBEに、おそらくスタッキング相互作用のネットワークの介在により結合することを示す。
【0073】
Tポケットとは対照的に、CPポケットは、正に荷電された、分子の側に位置する浅い空洞であり、Tポケットの伸長を形成している。Tポケットの親水性部分とCPポケットは共に、いくつかのリジンおよびアルギニンにより囲まれ、これらの側鎖は溶媒に暴露され、二本鎖RNAの骨格との直接的接触に関与する可能性がある。このポケットの幅および化学的性質は、これが二本鎖RNAに、最も可能性が高いのはステムIまたはステムIIに結合することを示す(図4)。TRBD結合ポケットが介在するタンパク質/核酸相互作用の特性および程度は、機能性リボ核タンパク質酵素の適切なアセンブリーに必要な安定性を提供し、TERTをTER結合部位(ステムIとIIの間)へと導き、これは、テロメラーゼ機能に対して重要な関連を有する。
【0074】
テロメラーゼは、直鎖状染色体の末端に複数の短いオリゴヌクレオチド反復を付加するその能力において、ユニークである。酵素の、これを行う能力は、TRBDドメインのTBEとの相互作用および、繊毛類においては、TRBDおよびCP2モチーフの両方(Lai, et al. (2002)上記; Lai, et al. (2003) 上記; Miller, et al. (2000) 上記)に部分的に起因している。TBEはステムIIと隣接するssRNA領域から構成され、これは、ステムIの下流、RNA鋳型からたったの数個上流に位置する(図4)。TRBD構造は、タンパク質の表面上に位置する、ssRNAのみを収容できる狭い疎水性の空洞であるTポケットが、このプロセスに重要な役割を果たすだろうことを示す。Tポケットが、ステムIおよびステムIIを結合するssRNAに結合すると仮定すると、この相互作用は、ステムIIが立体的ブロックとして作用するように強制し、これは次に、TRBDドメインがステムIとステムIIの境界の内部にとどまるように強制する可能性がある。
【0075】
ステムIおよびステムIIでロックされたTRBDドメインは次に、RTドメインが移動できる距離を制限するアンカーとして作用でき、これが、RNA鋳型の境界を越えて動くことを防ぎ、こうして、テロメラーゼ付加の処理能力を促進する。しかし繊毛類において、TRBDドメインのみでは鋳型境界の規定について十分ではなく、CP2モチーフの作用を必要とする((Lai, et al. (2002)上記;Miller, et al. (2000)上記)。CP2のTERへの結合は、RNP複合体の安定化に影響することにより、または、TRBD同様、RTドメインの活性部位が、RNA鋳型を越えて滑るのを防ぐアンカーとして作用できることにより、鋳型の境界の規定を促進することが意図される。
【0076】
例2:Tribolium castaneum TERTの構造
タンパク質の発現および精製。
T. castaneumの全長TERTの合成遺伝子を、切断可能ヘキサヒスチジンタグをそのN末端に含む、pET28bベクターの修飾形態内にクローニングした。タンパク質を、大腸菌BL21(pLysS)内で30℃で4時間過剰発現させた。細胞を、50mMのトリス−HCl、10%グリセロール、0.5MのKCl、5mMのβ−メルカプトエタノール、および1mMのPMSF、pH7.5中で氷上にて、超音波処理により溶解した。タンパク質は、最初にNi−NTAカラム上で精製し、次にヘキサヒスチジンタグのTEV切断を、一晩4℃で行った。TERT/TEV混合物を透析して、過剰なイミダゾールを除去し、タンパク質をさらに、全てのヒスタグされた産物を除去するために用いた第2のNi−NTAカラム上で精製した。Ni−NTA流を次にPOROS-HSカラム(PerSeptive Biosystems, Framingham, MA)に通して、任意の微量のタンパク質不純物を除去した。この段階で、タンパク質は99%以上の純度であった。タンパク質を最終的に、50mMのトリス−HCl、10%グリセロール、0.5MのKCl、および1mMのトリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)、pH7.5で予め平衡させたSEPHADEX-S200サイジングカラムを通して精製し、任意のTERT凝集物を除去し、タンパク質を、AMICON 30K カットオフ(MILLIPORE)を用いて10mg/mlに濃縮し、続く試験のために4℃で保管した。ストックタンパク質を、10mMのトリス−HCl、200mMのKCl、1mMのTCEP、pH7.5により、結晶化試行の前に透析した。
【0077】
タンパク質結晶化およびデータ収集。
タンパク質のみの最初の結晶化試行は、結晶を生成しなかった。タンパク質と一本鎖テロメアDNA((TCAGG)3)との共結晶化により、2つのロッド状の結晶形態であって、その1つは斜方空間群P2に属し、2.71Åで回折し、もう1つは6角空間群P6に属し、3.25Åの分解能で回折する、前記結晶形態が生成された。タンパク質核酸混合物は、結晶試行物のセットの前に、1容量の透析タンパク質を1.2倍過剰なDNA基質と混合物することにより、調製した。両方の結晶形態は、蒸気拡散およびシッティングドロップ法で、1容量のタンパク質―DNA混合物を1容量の貯蔵溶液と混合して成長させた。斜方結晶は、50mMのHEPES(pH7.0)および1.5MのNaNOの存在下で、一方6角結晶は、100mMのトリス(pH8.0)および2M(NHSOの存在下で、両方とも室温にて成長させた。斜方結晶は、50mMのHEPES(pH7.0)、25%グリセロール、1.7MのNaNO、0.2MのKClおよび1mMのTCEPを含有する凍結保護物質溶液中に収穫し、液体窒素中で瞬間凍結させた。6角結晶は、100mMのトリス(pH8.0)、25%グリセロール、2Mの(NHSO、0.2MのKClおよび1mMのTCEPを含有する凍結保護物質溶液中に収穫し、同様に液体窒素中で瞬間凍結させた。データをNSLS、ビーム線X6Aにて収集し、HKL-2000(Minor (1997) Meth. Enzymol. Macromole. Crystallogr. Part A 276:307-326)で処理した(表5)。結晶形態は共に、非対称ユニットに二量体を有する。
【0078】
【表5】

【0079】
構造決定および精製。
斜方結晶に対する初期位相は、2つの異なる波長(Hg1:1.00850Å;Hg2:1.00800Å)における2つの異なる水銀(CHHgCl)誘導体化結晶から収集された2つのデータセットを用いて、異常シグナルによる単一同形置換の方法(SIRAS)を用いて得た(表5)。誘導体は、結晶を5mMの塩化メチル水銀(CHHgCl)に15分間浸すことにより、調製した。はじめに、12の重原子部位をSOLVE(Terwilliger (2003) Methods Enzymol. 374:22-37)を用いて位置づけし、精密化し、新しい位相をMLPHARE(Collaborative Computational Project 4 (1994) Acta Crystallogr. D 50:760-763)により計算した。MLPHAREで改善した位相を用いて、残りの重原子部位(全22)を、異常な差異マップを3.5Åの分解能まで計算することにより、同定した。
【0080】
全ての重原子部位を用いて得たMLPHARE位相を、次に2倍のNCSによるDMで用い、高分解能(2.71Å)データセットを用いた位相拡張を1.00800Åの波長にて収集して、出発実験マップを算出した。これらのマップは、COOTで行われたモデル構築について十分良好であった(Emsley & Cowtan (2004) Acta Crystallogr D Biol Crystallogr 60:2126-32)。電子密度マップは、タンパク質の全596残基についての明確な密度を明らかにした。しかし、構造中の核酸基質についての密度は観察されなかった。モデルを、CNS-SOLVE(Brunger, et al. (1998) Acta Crystallogr D Biol Crystallogr 54:905-21)およびREFMAC5(Murshudov, et al. (1997) Acta Crystallogr D Biol Crystallogr 53:240-55)の両方を用いて、精密化した。精密化の最後のサイクルは、REFMAC5で実施されたようにTLS拘束により実施した(表5)。P2精密化モデルを用いて、P6結晶形態に結晶化したTERTの構造を、PHASER(Potterton, et al. (2003) Acta Crystallogr D Biol Crystallogr 59:1131-7)による分子置換により解決した(データは0.97980Åにて収集)。
【0081】
TERT構造の構築。
T. castaneum活性テロメラーゼTERTの全長触媒サブユニットの構造を、2.71Åの分解能まで決定した。示されるように、非対称ユニット(AU)に二量体が存在したが、しかしタンパク質のみは、ゲルろ過および動的光散乱法により示されるように、溶液中で明確に単量体であり、結晶中に観察される二量体は、結晶の充填化の結果であることを示唆する。これはさらに、同じタンパク質の異なる結晶形態(表5)もまた、異なる構造のAU中に二量体を含むとの事実によっても支持された。この生物からのTERTは、テロメラーゼの低い保存領域であるTENドメインを含まないことは、注目に値する(図1B)。
【0082】
TERTの構造は、3つの特徴的なドメイン、すなわちTER結合ドメイン(TRBD)、逆転写酵素(RT)ドメイン、およびTERTの推定の「サム」ドメインを表すと考えられるC末端伸長、から構成される(図1Aおよび1B)。本明細書において示されるように、TRBDはほぼらせん状であり、その表面上に、それぞれが二本鎖および一本鎖RNAを結合する、2つの保存モチーフ(CPおよびT)により形成されるへこみを有する;TRBDは、テロメラーゼのRNA基質TERの鋳型境界要素として定義されている。T. castaneumからのTRBDドメインとT. thermophilaからのその構造との構造的比較により、2つの構造は類似であることが示され(RMSD:2.7Å)、多様な系統発生群の生物にわたる、これらのドメイン間の高度な構造的保存を示唆する。
【0083】
RTドメインは、2つのサブドメインに配置されたαらせんとβ鎖の混合であり、これらのサブドメインは、HIV逆転写酵素(PDBコードID:1N5Y;Sarafianos, et al. (2002) EMBO J. 21:6614-24)などのレトロウイルス逆転写酵素、C型肝炎ウイルスポリメラーゼ(コードID:2BRL;Di Marco, et al. (2005) J Biol. Chem. 280:29765-70)などのウイルスRNAポリメラーゼ、およびRB69(PDBコードID:1WAF;Wang, et al. (1997) Cell 89:1087-99)などのBファミリーDNAポリメラーゼの、「フィンガー」および「パーム」サブドメインにもっとも類似しており、これらのタンパク質ファミリーの特徴であるキーシグネチャーモチーフを含んでいる(Lingner, et al. (1997) Science 276:561-7)(図3A〜3C)。TERTとHIVのRTとの構造比較により、TERTの「フィンガー」サブドメイン(すなわちモチーフ1および2)は、「パーム」サブドメイン(すなわちモチーフA、B’、C、DおよびE)に対して開いた構造に配置されており、結合ヌクレオチドおよび核酸基質の不在における、HIVのRTにより採用された構造と良好に整合する(Ding, et al. (1998) J. Mol. Biol. 284:1095-111)。
【0084】
TERTの推定「パーム」ドメインと、HIV逆転写酵素のそれとの間の大きな違いの一つは、テロメラーゼ処理能力に必要な、IFDモチーフと呼ばれる、TERTのモチーフAとB’との間の長い挿入物(insertion)である(Lue, et al. (2003) Mol. Cell Biol. 23:8440-9)。TERT構造において、IFD挿入物は、リング周囲の外側および「フィンガー」と「パーム」サブドメインの境界に位置する、2つの平行でないαらせん(α13とα14)から構成される。これら2つのらせんは、リングの面の中心軸に対してほぼ平行な位置にあり、らせんα10およびα15に広範に接触し、RTドメインのこの部分の構造的配置において重要な役割を果たしている。同様の構造的配置はウイルスポリメラーゼにも存在し、これらの構造のらせんα10等価物も、核酸基質との直接接触に関与している(Ferrer-Orta, et al. (2004) J. Biol. Chem. 279:47212-21)。
【0085】
RTドメインと対照的に、C末端伸長は、表面が露出したいくつかの長いループを含む、伸長されたらせん束である。ソフトウェアSSM(Krissinel & Henrick (2004) Acta Cryst. D60:2256-2268;Krissinel (2007) Bioinformatics 23:717-723)を用いたタンパク質構造データベースの探索では、構造的相同体は生成されず、テロメラーゼのCTEドメインが、新規な折りたたみを採用していることを示唆する。TERTとHIVのRTとの構造比較により、ウイルスRNAポリメラーゼおよびBファミリーDNAポリメラーゼが、これらの酵素の「サム」ドメインとTERTのCTEドメインを、「フィンガー」および「パーム」サブドメインに関して同一の空間的位置に配置することが示され、テロメラーゼのCTEドメインが、この酵素の「サム」ドメインであることを示唆し、これは、前の生化学的研究と良好に一致する所見である(Hossain, et al. (2002) J. Biol. Chem. 277:36174-80)。
【0086】
TERTドメインの構成は、分子の末端ドメインを構成するTRBDおよび「サム」ドメインを一緒にして、ドーナツ形状に似たリング状構造の形成を導く配置にしている(図1C)。いくつかの証拠の系統は、本明細書に記載されたTERT構造のドメイン構成が、生物学的に関連することを示す。最初に、2つの異なる結晶形態中に観察される4つのTERTモノマーのドメイン(それぞれの非対称ユニット中に2つずつ)が、同じように構成される(全4つのモノマー間の平均RMSD=0.76Å)。第2に、TERTのNおよびC末端ドメイン間の接触は広範囲であり(1677Å)、アミノ酸残基Tyr4、Lys76、Thr79、Glu84、Ser81、His87、Asn142、His144、Glu145、Tyr411、His415、Phe417、Trp420、Phe422、Ile426、Phe434、Thr487、Ser488、Phe489、およびArg592を含んで、高度に疎水性である。
【0087】
この観察は、前の生化学的研究と良好に一致する(Arai, et al. (2002) J. Biol. Chem. 277:8538-44)。第3に、TERTドメインの構成は、その最も近い相同体である、HIV逆転写酵素(Sarafianos, et al. (2002)上記)、ウイルスRNAポリメラーゼ(Di Marco, et al. (2005)上記)、およびBファミリーDNAポリメラーゼ、および、特にRB69(Wang, et al. (1997)上記)のポリメラーゼドメイン(p66からRNアーゼHドメインを引いたもの)のそれと類似している。TERTドメインの配置は、粒子内部に幅〜26Å、深さ〜21Åの穴を形成し、これはおよそ7〜8塩基長の二本鎖核酸を収容するのに十分であり、これは、存在する生化学的データと良好に一致する(Forstemann & Lingner (2005) EMBO Rep. 6:361-6;Hammond & Cech (1998) Biochemistry 37:5162-72)。
【0088】
TERTリングは二本鎖核酸を結合する。
TERTリングがいかにしてRNA/DNAと会合して、機能性伸長複合体を形成するかを理解するために、二本鎖核酸を、TERTの最も近い構造的相同体であるHIV逆転写酵素−DNA複合体を用いて内部へモデル化した(Sarafianos, et al. (2002)上記)。TERT−RNA/DNAモデルは、直ちに、TERT−核酸会合のモデルを支持する驚くべき特徴を示した。TERTリングの穴および、核酸ヘテロ二本鎖が突き出て結合するところが、このファミリーのポリメラーゼの特徴であり、かつ核酸会合、ヌクレオチド結合およびDNA合成に関連するとされているいくつかのキーシグネチャーモチーフで囲まれていた。さらに、これらモチーフの構成が、二本鎖核酸の骨格の形状に似ている、リング内部のらせんの形成をもたらした。DNA基質との接触点として同定されたいくつかのモチーフは、正に荷電された残基により部分的に形成され、この側鎖は、リングの中心に向かって伸び、DNA基質の骨格との直接接触について準備されていた。
【0089】
例えば、らせんα10の一部を形成する、高度に保存されたK210の側鎖は、モデル化DNAの骨格の配位距離(coordinating distance)内であり、こうして機能性テロメラーゼ酵素に必要な安定性を提供する。らせんα10はRTドメインの上部にあり、リングの内部に向いている。このらせんの位置および安定性は、テロメラーゼ処理能力と関連するIFDモチーフとの広範囲の接触により大きく影響される(Lue, et al. (2003) Mol. Cell Biol. 23:8440-9)。IFDのらせんα10との接触を、このモチーフの欠失または変異を通して障害することは、らせんα10をその現在の位置から変位させ、これはその結果、DNA結合およびテロメラーゼ機能に影響を及ぼす。
【0090】
リング内部に局在している「サム」ドメインの構造要素も、モデル化DNA基質といくつかの接触を行った。特に、「パーム」を「サム」ドメインに結合してEモチーフの伸長を構成する、テロメラーゼの「プライマーグリップ」領域としても知られているループ(「サム」ループ)は、二本鎖核酸の骨格の形状を相当程度保存する。このループの一部を形成するいくつかのリジン(例えばLys406、Lys416、Lys418)およびアスパラギン(例えばAsn423)の側鎖は、TERT分子の中心に向かって伸び、モデル化二本鎖核酸の骨格の配位距離内であった。特に興味深いのは、Lys406であった。このリジンは、モチーフEの近傍にあり、その側鎖は核酸へテロ二本鎖に向かって伸び、入ってくるDNAプライマーの3’末端に位置するヌクレオチドの骨格との直接の接触用に準備されていた。
【0091】
したがって、このリジンの側鎖とモチーフEとが一緒になって、テロメラーゼ伸長の間において、入ってくるDNA基質の3’末端を酵素の活性部位に配置することが可能である。広範囲の発生系統群からのTERTの「サム」ドメインの配列アラインメントは、DNA基質との接触が予想される残基が、常に極性であることを示した(図3A〜3C)。二本鎖核酸結合を支持する「サム」ドメインの他の特徴は、らせんα19であり、これは、リングの内部に伸長し、それ自体がモデル化二本鎖核酸の小さな溝の中に収容されている、310らせんであり(「サム」310らせん)、こうして、RNA/DNAハイブリッド結合および安定化を促進する。酵母およびヒトTERT両方における、対応する残基の欠失または変異は、TERTの処理能力の重篤な損失をもたらし、このモチーフのTERT機能における重要な役割を明白に示す(Hossain, et al. (2002) J. Biol. Chem. 277:36174-80;Huard, et al. (2003) Nucleic Acids Res. 31:4059-70;Banik, et al. Mol. Cell Biol. 22:6234-46)。
【0092】
TERTの活性部位およびヌクレオチド結合。
本明細書に記載のT. castaneumのTERT構造は、ヌクレオチド基質およびマグネシウムの不在のもとで結晶化したが、TERTの活性部位およびヌクレオチド結合ポケットの位置および構成は、既存の生化学的データ(Lingner, et al. (1997)上記)および、最も近い相同体であるHIV逆転写酵素のポリメラーゼドメインとの構造的比較(Das, et al. (2007) J. Mol. Biol. 365:77-89)に基づいて決定された。TERTの活性部位は、モチーフAおよびC、すなわち、TERTの「パーム」サブドメインに位置して「フィンガー」に隣接する2つの短いループを形成する、3つのアスパラギン酸(Asp251、Asp343およびAsp344)から構成されている。TERTとHIV逆転写酵素およびRNAとDNAポリメラーゼの構造的比較は、これらのタンパク質ファミリーの活性部位の間に高度の類似性を示し、テロメラーゼもまた、触媒に対して2種金属機構を利用していることを示す。これらTERTアスパラギン酸のアラニン変異体には、TERT活性の完全な損失が生じ、これは、テロメラーゼ機能におけるこれら残基の本質的な役割を示している(Lingner, et al. (1997)上記)。
【0093】
テロメラーゼヌクレオチド結合ポケットは、TERTの「フィンガー」および「パーム」サブドメインの境界に位置し、鋳型およびヌクレオチド結合に関連するモチーフ1、2、A、C、B’およびDを形成する保存残基から構成される(Bosoy & Lue (2001) J. Biol. Chem. 276:46305-12;Haering, et al. (2000) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97:6367-72)。TERTと、ATPに結合するウイルスHIV逆転写酵素との構造的比較は(Das, et al. (2007)上記)、この位置におけるヌクレオチド基質の存在を支持する。2つの高度に保存された、モチーフAおよびCそれぞれの表面露出残基Tyr256とVal342は、3つの触媒アスパラギン酸塩に隣接するその上の疎水性ポケットを形成し、ヌクレオチド基質の塩基を収容することができる。この油性ポケットでのヌクレオチド結合は、Mg2+イオンの1つとの配位用に三リン酸部位を酵素の活性部位の近傍に配置し、一方、リボース基を、基質特異性の重要な決定因子と考えられているモチーフB’の一部を形成する不変グルタミン(Gln308)の、配位距離内に配置する(Smith, et al. (2006) J. Virol. 80:7169-78)。
【0094】
ヌクレオチドの三リン酸部分とタンパク質の接触は、酵素の活性部位の下に位置する長いループである、モチーフDにより媒介される。特に、不変Lys372の側鎖は、ヌクレオチドのγリン酸の配位距離内にあり、触媒の間、三リン酸基を配置し安定化することを支援する可能性の高い相互作用である。モチーフ1および2の高度に保存されたLys189およびArg194の側鎖は、一緒になって、「フィンガー」サブドメインの一部を形成する長いβヘアピンを形成するが、これもまた、モデル化ヌクレオチドの糖および三リン酸部分の両方の配位距離内にある。ヌクレオチド基質の糖部分および三リン酸のどちらか、または両方との接触は、ヌクレオチド結合および入ってくるDNAプライマーの3’末端への配位に対する配置を促進する。
【0095】
TRBDはTERTの活性部位における鋳型の配置を促進する。
多くのDNAおよびRNAポリメラーゼについてと同様に、テロメラーゼによる核酸合成は、TERと入ってくるDNAプライマーの鋳型領域(通常は7〜8塩基またはそれ以上)の対合を必要とする(Lee & Blackburn (1993) Mol. Cell Biol. 13:6586-99)。TRBD−RTドメイン構成は、分子の壁の全幅にわたってタンパク質表面に深い空洞を形成し、その側面からリングの穴内へ入ることを可能とする間隙を形成する。この空洞の、リングの中心穴に対する配置は、TERT−TERアセンブリーにおいて、酵素の活性部位が位置するリングの内部における、RNA鋳型の配置についてのエレガントな機構を提供する。
【0096】
特に重要なのは、Tモチーフの一部を形成する、βヘアピンの配置である。このヘアピンは、RNA結合ポケットから突き出て、モチーフ1および2の「サム」ループと広範に接触する。このヘアピンの、「フィンガー」および「サム」ドメイン両方との接触は、リングの内部に向いたTRBDポケットの開口部を、酵素の活性部位近傍に配置させる。したがって、このβヘアピンが、リング内部でのRNA結合と、酵素の活性部位におけるRNA鋳型の配置をつなぐ、アロステリックエフェクタースイッチとして作用する。分子内部への鋳型の配置は、入ってくるDNA基質とのその対合を促進し、これらが一緒になって、テロメア伸長に必要なRNA/DNAハイブリッドを形成する。
【0097】
RNA/DNA対合は、これが、ヘテロ二本鎖のRNA要素が、染色体の末端においてDNAの同一の反復を正確に付加するために鋳型を提供する一方で、ヌクレオチド付加のために、入ってくるDNAプライマーの3’末端を酵素の活性部位の近傍に運ぶという点において、テロメア合成の必要条件である。驚くべきことには、TERTリングの内部でのRNA/DNAヘテロ二本鎖のモデル化は、RNA基質の5’末端を、RNA結合ポケットが入るところに配置させ、TERTがTERと会合することが予想される場合、入ってくるDNAプライマーの3’末端を、TERTの活性部位に配置させて、機能的テロメラーゼ伸長複合体の構成のスナップショットを提供する。
【0098】
例3:テロメラーゼ阻害剤の有効性
本発明の新規なテロメラーゼ阻害剤は、種々の系において評価することができる。化合物は、細胞透過性、毒性、および薬学動態効果を評価するために用いられる、規定のよく知られたモデル系において、評価することができる。これらのアッセイは、細胞ベースおよび動物ベースのアッセイの両方を含む。
【0099】
細胞ベースアッセイ。
P388細胞株(CellGate, Inc., Sunnyvale, CA)またはヒト悪性黒色腫細胞株SK−MEL−2からの細胞を、ウシ胎仔血清(10%)、Lグルタミン、ペニシリン、ストレプトマイシンを含有するRPMI1640細胞培地中で増殖させ、毎週2回分割させる。全化合物は最初にDMSOで希釈する。後の連続希釈は、リン酸緩衝生理食塩水で行う。全ての希釈はガラス製バイアル中で行い、最終DMSO濃度は一般に容量で0.5%未満である。最終2倍希釈を96ウェルプレートで細胞培地を用いて行い、各ウェルが50μlを含むようにする。全ての化合物は複数の濃度でアッセイする。細胞濃度は、血球計を用いて測定し、最終細胞濃度を細胞培地により1×10細胞/mLに調節する。得られた細胞溶液(50μL)を次に各ウェルに加え、プレートを37℃、5%CO、加湿インキュベーター内で、5日間インキュベートする。
【0100】
MTT溶液(3−[4,5−ジメチルチアゾール−2−イル]−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミド、10μL)を次に各ウェルに加え、プレートを同一条件下で2時間、再度インキュベートする。各ウェルに、酸性化イソプロパノール(0.05NのHClを含有する150μLのi−PrOH溶液)を加え、完全に混合する。プレートを次に595nmでスキャンし、吸収を読み取る(Wallac Victor 1420 Multilabel Counter)。得られたデータを解析して、ED50値を決定する。癌細胞は殺すが、正常細胞は殺さない化合物は、癌の予防または処置に用途が見出される。
【0101】
マウス卵巣腫瘍異種移植片モデル。
本発明の化合物を、癌の卵巣腫瘍異種移植片において、Davis, et al.((1993) Cancer Research 53:2087-2091)の記載に基づいて評価した。簡単に述べると、このモデルは、雌のnu/nuマウスに1×10のOVCAR3−icr細胞を腹腔内に接種することを含む。1または2以上の試験化合物を、例えば腫瘍細胞の注射の前または後に、経口経路で1%メチルセルロース中の懸濁液として、または腹腔内に0.01%TWEEN−20中のリン酸緩衝生理食塩水中の懸濁液として、投与する。実験の最後に(4〜5週間)、腹膜細胞の数を計測し、任意の固形腫瘍蓄積物を計量する。いくつかの実験においては、腫瘍の発達を腫瘍特異的抗原の測定によりモニタリングする。
【0102】
ラット乳癌モデル。
本発明の化合物を、HOSP.1ラットの癌の乳癌モデルにおいて評価する(Eccles, et al. (1995) Cancer Res. 56:2815-2822)。このモデルは、2×10の腫瘍細胞の、雌CBH/cbiラットの頚静脈への静脈内接種を含む。1または2以上の試験化合物を、例えば腫瘍細胞の注射の前または後に、経口経路で1%メチルセルロース中の懸濁液として、または腹腔内にリン酸緩衝生理食塩水および0.01%TWEEN−20中の懸濁液として、投与する。実験の最後に(4〜5週間)、動物を死亡させ、肺を取り出し、個々の腫瘍を、メタカーン(methacarn)中に20時間固定した後に計量する。
【0103】
マウスB16黒色腫モデル。
本発明の化合物の抗転移能力を、C57BL/6中のB16黒色腫モデルにおいて評価する。マウスに、in vitro培養物中で収穫した2×10B16/F10ネズミ腫瘍細胞を静脈内に注射する。阻害剤は、経口経路で1%メチルセルロース中の懸濁液として、または腹腔内にリン酸緩衝生理食塩水、pH7.2および0.01%TWEEN−20中の懸濁液として、投与する。細胞接種の14日後にマウスを死亡させ、肺を取り出し、ブワン固定液中に固定する前に計量する。肺の各セットの表面上に存在するコロニー数を次に計測する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テロメラーゼの活性を調節する化合物を同定するための方法であって、
(a)テロメラーゼのTRBDドメインの少なくとも1つのアミノ酸残基に結合する化合物を、設計またはスクリーニングすること;および
(b)(a)において設計またはスクリーニングした化合物を、テロメラーゼの活性を調節するその能力について試験し、それによりテロメラーゼの活性を調節する化合物を同定すること;
を含む、前記方法。
【請求項2】
TRBDドメインが、T. thermophilaテロメラーゼのアミノ酸残基254〜519、または他の種のテロメラーゼにおけるそれと等価のアミノ酸残基を包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
化合物が、TRBDドメインのCPモチーフ、Tモチーフ、および/またはQFPモチーフの少なくとも1つのアミノ酸残基に結合する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
化合物が、表1に記載の少なくとも1つのアミノ酸残基に結合する、請求項1、2または3に記載の方法。
【請求項5】
テロメラーゼの活性を調節する化合物を同定するための方法であって、
(a)ヌクレオチド結合ポケットの少なくとも1つのアミノ酸残基に結合する化合物を、設計またはスクリーニングすること;および
(b)(a)において設計またはスクリーニングした化合物を、テロメラーゼの活性を調節するその能力について試験し、それによりテロメラーゼの活性を調節する化合物を同定すること;
を含む、前記方法。
【請求項6】
化合物が、表1に記載のフィンガーサブドメインおよび/またはパームサブドメインの少なくとも1つのアミノ酸残基に結合する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
化合物が、T. castaneumテロメラーゼのK189、R194、Y256、Q308、V342、およびK372の群から選択される少なくとも1つのアミノ酸残基、または他の種のテロメラーゼにおけるそれと等価のアミノ酸残基に結合する、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
テロメラーゼの活性を調節する化合物を同定するための方法であって、
(a)DNAと直接接触している少なくとも1つのアミノ酸残基に結合する化合物を、設計またはスクリーニングすること;および
(b)(a)において設計またはスクリーニングした化合物を、テロメラーゼの活性を調節するその能力について試験し、それによりテロメラーゼの活性を調節する化合物を同定すること;
を含む、前記方法。
【請求項9】
化合物が、表2に記載のサムサブドメインおよび/またはパームサブドメインの少なくとも1つのアミノ酸残基に結合する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
化合物が、T. castaneumテロメラーゼのK210、K406、K416、K418、およびN423の群から選択される少なくとも1つのアミノ酸残基、または他の種のテロメラーゼにおけるそれと等価のアミノ酸残基に結合する、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
化合物が、少なくとも2、3、4、5、6または7以上のアミノ酸残基に結合する、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
テロメラーゼが、Tetrahymena thermophila、Arabidopsis thaliana、Homo sapiens、Schizosaccharomyces pombe、Mus musculus、Saccharomyces cerevisiae、Oxytricha trifallax、Euplotes aediculatusまたはTribolium castaneumのテロメラーゼである、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
ステップ(a)がin silicoで実施される、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
ステップ(a)がin vitroで実施される、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
化合物が、テロメラーゼ活性を阻害する、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
化合物が、テロメラーゼ活性を促進する、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
化合物が、ヌクレオチド結合、RNA結合、DNA結合またはテロメラーゼ活性に影響を及ぼすことが変異では同定されなかったアミノ酸残基に結合する、請求項1〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
化合物が、テロメラーゼの活性を、該化合物と接触しないテロメラーゼと比べて少なくとも30%調節する、請求項1〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれか一項に記載の方法により同定された化合物。

【図1A−1B】
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【図1C】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−500087(P2011−500087A)
【公表日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−531163(P2010−531163)
【出願日】平成20年10月21日(2008.10.21)
【国際出願番号】PCT/US2008/080604
【国際公開番号】WO2009/055364
【国際公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(500379428)ザ ウィスター インスティテュート (2)
【Fターム(参考)】