説明

テンションレベラー

【課題】被圧延材に縦筋模様等を付けることなく、表面が平坦で高品質の圧延材を得ることができ、また、ロールを長寿命化して交換頻度を低減することができるテンションレベラーを提供する。
【解決手段】被圧延材に接するワークロールと、そのバックアップロールとを備えるテンションレベラーであって、バックアップロール4は、複数の小ロール11が長さ方向に連結されるとともに、各小ロール11の外周面は、長さ方向の中央部を半径方向外方に凸状に膨出させかつ両端に向かうにしたがって漸次外径を縮小させてなるクラウン形状に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅合金条材等の圧延によって生じる歪みを矯正するためのテンションレベラーに関する。
【背景技術】
【0002】
リードフレーム等に用いられる銅合金条材には厳しい平坦度が要求される。このため、圧延加工の最後に、圧延によって生じた歪みをテンションレベラーによって矯正することが行われる。
このテンションレベラーは、ワークロール、中間ロール、バックアップロールを複数段積み重ねたロールユニットを上下に対向配置し、両ロールユニットのワークロール間に被圧延材を通過させ、張力を付与しながら圧延する構造である。
【0003】
このようなテンションレベラーとしては、例えば特許文献1記載のもののように、テンションレベラーの入側と出側に、複数のロールにより構成されたブライドル部が設けられており、これらブライドル部で被圧延材の張力を調整することができるようになっている。
【0004】
また、特許文献2には歪み矯正のテンションレベラーではなく通常の多段圧延機として、被圧延材を圧延するセラミックロール(ワークロール)の圧延加工面のショア硬さを100〜130にし、かつセラミックロールに転接してバックアップする中間ロールの転接面のショア硬さを、セラミックロールの圧延加工面のショア硬さよりも30〜50低硬度に設定した構成とされている。そして、このような構成とすることにより、セラミックロールの圧延加工面に異物が付着したとしても、付着した異物が中間ロールの転接面に食い込み状態に転写され、セラミックロールに異物マークが生じるようなことがないとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−252719号公報
【特許文献2】特開2001−179312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、通常の多段圧延機においては潤滑のために圧延油が使用されるが、テンションレベラーは、複数のロールが被圧延材に接触しており、全てのロールに均一な油膜を形成させることが困難であるため、油膜形成として圧延油を使用することはできない。このため、ロールにわずかな異物や疵等が付着すると、油膜による保護がなされないので、それらが被圧延材に転写され易い。
【0007】
通常、ワークロール及び中間ロールは被圧延材の幅方向に亘る長尺なロールから構成されるが、バックアップロールは、幅方向に若干の間隔を開けて複数の小ロールを配置した構成とされる。したがって、このバックアップロールの各小ロールの両端は中間ロールの表面に当接することになり、中間ロールにバックアップロールの両端による圧痕が付くおそれがある。この圧痕が中間ロールに付くと、これが順次転写されて被圧延材に圧延方向に沿う縦筋模様が形成されてしまう。
各ロールは定期的に交換して表面を再研磨することが行われるが、圧痕が付くと短時間で交換する必要が生じる。特に、バックアップロール、中間ロール、ワークロール相互間に硬度差が設けられている場合には顕著になる。
なお、圧延中に中間ロールを軸方向に往復スライドさせる機構を備えた場合は、バックアップロールが同じ位置で連続して接触することがないため、圧痕の付着防止効果があるが、ロール数の多いテンションレベラーでは構造が複雑になるため実施が困難である。
【0008】
本発明は、前述の事情に鑑みてなされたものであって、被圧延材に縦筋模様等を付けることなく、表面が平坦で高品質の圧延材を得ることができ、ロールを長寿命化して交換頻度を低減することができるテンションレベラーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のテンションレベラーは、被圧延材に接するワークロールと、そのバックアップロールとを備えるテンションレベラーであって、前記バックアップロールは、複数の小ロールが長さ方向に連結されるとともに、各小ロールの外周面は、長さ方向の中央部を半径方向外方に凸状に膨出させかつ両端に向かうにしたがって漸次外径を縮小させてなるクラウン形状に形成されていることを特徴とする。
【0010】
バックアップロールの各小ロールの外形をクラウン形状とすることにより、その両端が隣接ロールの表面から離間するので、小ロールの先端が押圧されることによる圧痕の発生を防止することができる。
この場合、小ロールを円柱状に形成し両端部をR面取りする程度では、圧痕防止効果がなく、中央部を半径方向外方に凸状に膨出させかつ両端に向かうにしたがって漸次外径を縮小させたクラウン形状とすることにより、圧痕を有効に防止することができる。
【0011】
本発明のテンションレベラーにおいて、前記バックアップロールの各小ロールは、その最大外径をD、両端の最小外径をd、長さをLとしたときに、1000×(D−d)/Lが1〜10であるとよい。
小ロールの最大外径と最小外径との差(D−d)が小さいと、圧痕防止効果が期待できず、逆に大きいと、中央部での接触圧力が強くなり過ぎて、中央部での圧痕の問題が生じるおそれがある。また、小ロールの長さが短い場合には、長い小ロールよりも大きな圧力が作用するので、クラウン形状の傾斜(D−d)が小さいと圧痕が発生するおそれがある。このため、小ロールの長さが短い場合には、長い小ロールを使用する場合に比べてクラウン形状の傾斜を大きく設定しておく必要がある。
そこで、小ロールの最大外径D、両端の最小外径d、長さLとの関係を1000×(D−d)/Lが1〜10となるように設定することにより、圧痕の発生を確実に防止することができる。1000×(D−d)/Lが1未満であると、バックアップの圧力等によっては圧痕防止効果が期待できず、10を超えると両端による圧痕は防止できるが、高いバックアップ圧力の場合は中央部での圧痕発生のおそれが生じる。
【0012】
本発明のテンションレベラーにおいて、前記ワークロールと前記バックアップロールとの間に中間ロールが設けられるとともに、前記ワークロールの圧延加工面のショア硬さをH1、前記バックアップロールの各小ロールの前記中間ロールへの接触面のショア硬さをH2、前記中間ロールの前記ワークロールへの接触面のショア硬さをH3としたときに、H1>H2>H3となる関係に設定されているとよい。
【0013】
各ロールのショア硬さをH1>H2>H3となる関係に設定することにより、ワークロールに異物が付着しても中間ロールに転写されるので、被圧延材に転写されることを抑制することができる。そして、この中間ロールは、硬度が比較的低いために圧痕が付き易い表面状態であるが、バックアップロールの小ロールがクラウン形状とされていることにより、硬度の低い中間ロールであっても圧痕の発生を防止することができる。
また、バックアップロールは中間ロールよりもショア硬さが高いので、変形等生じることなく強固にバックアップすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のテンションレベラーによれば、バックアップロールによる圧痕の発生を防止して、被圧延材を縦筋模様等のない表面が平坦で高品質に仕上げることができ、また、テンションレベラーとして、ロールを長寿命化して交換頻度を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のテンションレベラーに用いられるワークロールの実施形態を示す(a)が全体斜視図、(b)が一つの小ロールの平面図である。
【図2】本発明のテンションレベラーの実施形態を模式的に示す正面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明の一実施形態について説明する。
この実施形態のテンションレベラー1は、図2に全体を示したように、平面状に配置した複数のワークロール2と、これらワークロール2の背部を支持する複数の中間ロール3と、これら中間ロール3の背部を支持する複数のバックアップロール4とにより構成される2組のロールユニット5,6を備えている。これらロールユニット5,6は、ワークロール2の互いの前後位置をずらした状態で上下に対向して配置され、両ロールユニット5,6のワークロール2の間に被圧延材7を走行させながら矯正する構成である。
【0017】
また、ワークロール2及び各中間ロール3は、被圧延材7の幅よりも大きい長さの1本のロールによってそれぞれ構成されているが、バックアップロール4は、図1(a)に示すように、ワークロール2等よりも短い複数本の小ロール11を間隔をあけて連結した構成とされている。この場合、各小ロール11の外周面11aは、長さ方向の中央部で最も外径が大きくて、半径方向外方に凸状に膨出し、その中央部から両端に向かうほど外径が小さくなるクラウン形状に形成されている。
【0018】
この場合、図1(b)に示すように、各小ロール11の最大外径をD、両端の最小外径をd、長さをLとしたときに、1000×(D−d)/Lが1〜10となる寸法関係に設定されている。
バックアップロール4の各小ロール11は中間ロール3に比べて短いために、その両端が中間ロール3の表面上に配置されるので、小ロールがストレートの円柱状であると、中間ロール3の表面に小ロールの両端が当接して、連続して圧延しているうちに、小ロールの両端が中間ロールに食い込み、その部分に圧痕が生じ易いが、各小ロール11の外形がクラウン形状に形成されていることにより、両端が中間ロール3の表面から離間し、圧痕の発生を抑制することができる。
また、小ロールの最大外径と最小外径との差(D−d)が小さいと、圧痕防止効果が期待できず、逆に大きいと、中央部での線接触状態が強くなり過ぎて、その中央部による圧痕の問題が生じるおそれがある。小ロールの中央部による圧痕の場合も、被圧延材7には縦筋状の模様となってあらわれる。
【0019】
このクラウン形状を1000×(D−d)/Lが1〜10となる寸法関係に設定したことにより、圧痕の発生を確実に防止することができ、1000×(D−d)/Lが1未満であると、バックアップの圧力等によっては圧痕防止効果が期待できず、10を超えると両端による圧痕は防止できるが、高いバックアップ圧力の場合は中央部での圧痕発生のおそれが生じる。
各小ロール11の具体的な寸法は限定されるものではないが、例えば、中間ロールの外径が25〜35mm、長さが400〜700mmに対して、Lが50〜100mm、Dが25〜35mm、dが24.00〜34.95mmに設定される。
【0020】
また、ロールユニット5,6の各ロール2〜4の表面硬度に関して、ワークロール2の圧延加工面のショア硬さをH1、バックアップロール4の各小ロール11の中間ロール3への接触面のショア硬さをH2、中間ロール3のワークロール2への接触面のショア硬さをH3としたときに、H1>H2>H3となる関係に設定されている。
例えば、ワークロール2のショア硬さH1が90〜130、中間ロール3のショア硬さH3が70〜100、バックアップロール4の各小ロール11のショア硬さH2が75〜105とされ、その範囲の中でH1>H2>H3となる関係に設定される。その硬度差としては、ワークロール2と中間ロール3との硬度差H1−H3が20〜45、バックアップロール4の各小ロール11と中間ロール3との硬度差H2−H3が5〜20とされる。
各ロール2〜4のショア硬さをH1>H2>H3となる関係に設定することにより、H1>H3であるから、ワークロール2に異物が付着してもすぐに中間ロール3に転写されるので、その異物が被圧延材7に転写されることを抑制することができる。また、H2>H3であるから、バックアップロール4に変形等生じることなく強固にバックアップすることができる。
【0021】
このように構成したテンションレベラー1において、被圧延材7に張力を付与しつつ、ロールユニット5,6の間で圧延して矯正する。
このロールユニット5,6において、バックアップロール4が複数の小ロール11を連結した構成とされ、各小ロール11の両端が図1(a)の鎖線で示すように中間ロール3の表面上に配置される。この場合、ワークロール2表面のショア硬さH1、中間ロール3表面のショア硬さH3、バックアップロール4の小ロール11表面のショア硬さH2がH1>H2>H3の関係とされ、中間ロール3表面のショア硬さH3がバックアップロール4の小ロール11表面のショア硬さH2よりも低く設定されているため、バックアップロール4からの圧痕を受け易い状態であるが、バックアップロール4の小ロール11の外周面11aがクラウン形状に形成され、1000×(D−d)/Lを1〜10とする寸法関係に設定されていることにより、小ロール11の両端が中間ロール3から離間し、中間ロール3に小ロール11による圧痕が付くことが防止され、中間ロール3の表面を平滑に維持することができる。
【0022】
また、この中間ロール3表面のショア硬さH3がワークロール2表面のショア硬さH1よりも低いため、ワークロール2の表面に異物が付着した場合には、すぐに中間ロール3に食い込んで転写され、ワークロール2表面上の異物は除去される。
このように、このテンションレベラー1は、中間ロール3にはバックアップロール4からの圧痕の付着が防止されることから、中間ロール3の表面を平滑に維持することができ、一方、ワークロール2上に付着した異物はすぐに中間ロール3に転写されるので、ワークロール2表面に異物が付着したままとなるのを防止することができ、これにより、被圧延材7に圧痕による縦筋模様や異物痕等が付くことなく、被圧延材7を平滑な表面に仕上げることができる。
【0023】
以下、バックアップロールにおける小ロールのクラウン形状の諸寸法を変えて図2に示す構造と同様のテンションレベラーを構成し、被圧延材としてCu−Fe−P系の厚さ0.15mmの銅合金条材をほぼ連続的に矯正して、その表面状態を観察し、ロールの交換を必要とする程度の縦筋が表面に認められるまでの時間を測定した。銅合金条材の表面状態は、光学顕微鏡で任意の複数箇所の観察領域について監察し、縦筋状模様が発生しているか否かを判定した。
その結果を表1に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
この表1に示されるように、比較例1及び比較例2のテンションレベラーを用いて矯正した場合は100時間に達する迄の間に縦筋模様が発生した。比較例3及び比較例4の場合は、100時間は超えていたものの、バックアップロールの中央部の圧痕に起因する縦筋模様の発生が認められた。これら比較例に対して、実施例のテンションレベラーの場合は、連続して200時間を超えても縦筋状模様の発生は認められなかった。したがって、バックアップロールを1000×(D−d)/Lが1〜10となる寸法関係に設定することにより、ロールを長寿命化して交換頻度を少なくすることができ、メンテナンスを容易にすることができる。
【0026】
また、実施例2の形状のバックアップロールを使用して各ロールのショア硬さを変えて、異物噛みこみによる被圧延材の表面状態への影響を観察した。異物としては80〜120μmの直径の銅粉を使用し、ワークロール表面に銅粉を付着させて銅合金条材の表面に異物マークが発生したか否かを観察した。
その結果を表2に示す。
【0027】
【表2】

【0028】
表2からわかるように、ワークロール、バックアップロールの各小ロール、中間ロールの各ショア硬さがH1>H2>H3となる関係とすることにより、ワークロールに異物が付着したとしても、すぐに中間ロールに転写され、被圧延材に異物マークが発生することを防止することができる。
【0029】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこの記載に限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、ロールユニットをワークロール、中間ロール、バックアップロールからなる構成としたが、中間ロールを第1中間ロール、第2中間ロールに分けて多段に構成してもよい。
【符号の説明】
【0030】
1 テンションレベラー
2 ワークロール
3 中間ロール
4 バックアップロール
5,6 ロールユニット
11 小ロール
11a 外周面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被圧延材に接するワークロールと、そのバックアップロールとを備えるテンションレベラーであって、前記バックアップロールは、複数の小ロールが長さ方向に連結されるとともに、各小ロールの外周面は、長さ方向の中央部を半径方向外方に凸状に膨出させかつ両端に向かうにしたがって漸次外径を縮小させてなるクラウン形状に形成されていることを特徴とするテンションレベラー。
【請求項2】
前記バックアップロールの各小ロールは、その最大外径をD、両端の最小外径をd、長さをLとしたときに、1000×(D−d)/Lが1〜10であることを特徴とする請求項1記載のテンションレベラー。
【請求項3】
前記ワークロールと前記バックアップロールとの間に中間ロールが設けられるとともに、前記ワークロールの圧延加工面のショア硬さをH1、前記バックアップロールの各小ロールの前記中間ロールへの接触面のショア硬さをH2、前記中間ロールの前記ワークロールへの接触面のショア硬さをH3としたときに、H1>H2>H3となる関係に設定されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のテンションレベラー。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−245520(P2011−245520A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−121905(P2010−121905)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(000176822)三菱伸銅株式会社 (116)
【Fターム(参考)】