説明

テンターおよびその異常検出方法

【課題】延伸ムラ等の処理ムラ、シワ、フィルム破れ等の問題をより確実に解決する手段を提供する。
【解決手段】複数のテンタークリップにより構成されるチェーンおよびテンターレールとを有して成るテンターにおいて、少なくとも1つのテンタークリップがテンターレールで生じる異常の有無と相関する信号を検出するセンサーを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テンター(または幅出機もしくは延伸機)、例えば布用幅出機、フィルム用幅出機、プラスチックフィルム延伸機、あるいは2軸延伸機等に関する。詳しくは、テンターレールの異常を検出できるそのようなテンター、また、そのようなテンターにおけるテンターレールの異常検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テンターは、通常、シート状物の進行方向に向かってシート状物の両縁に沿って位置するクリップチェーンを有し、クリップチェーンを構成する各クリップがシート状物の両縁を把持しつつテンターレールに沿って走行して、シート状物を延伸処理、引伸処理、熱処理等する。
【0003】
従って、均一に処理されたシート状物を得るために、このテンタークリップによるフィルムの把持は、正しい幅および間隔、高さ方向の均一性、張力等に関して確実に行う必要がある。しかしながら、テンターを長時間運転すると、多数のテンタークリップの中にはがたつき、ゆるみ、機械的損耗等が生じ、テンターレールに接して走行する、テンタークリップにより構成されるクリップチェーンが走行不良を起こし、また、シート状物の把持不良を起こすものがでてくる。その結果、フィルムの搬送が不安定になり、延伸ムラ等の処理ムラ、シワ、フィルム破れ等の問題を引き起こす要因となる。
【0004】
このような問題を解決するために、クリップチェーンに発生した異常を検出することを目的として、クリップチェーンを支持する部分の少なくとも一箇所に生じた異常を検出し、異常の発生タイミングにその箇所を通過するテンタークリップを同定することができる、クリップチェーンの異常検出方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2005−41595号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、延伸ムラ等の処理ムラ、シワ、フィルム破れ等の問題を解決すべく、上述の異常検出方法について検討を重ねた結果、そのような問題は、クリップチェーンに生じた異常を検出することでは、必ずしも十分に解決できないことが見出された。従って、そのような問題をより確実に解決することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の課題を解決すべく、本発明者が更に検討を重ねた結果、テンターレールに発生した異常を的確に把握することが重要であるとの結論に到った。そのようなテンターレールに発生した異常の把握ために、例えば、テンターレールのある箇所にセンサーを設置し、テンタークリップがその箇所を通過したときに発生する信号を検出し、異常の有無を確認する方法を想到した。しかし、この方法では、テンターレールの多数の箇所にセンサーを配置することが必要となり、その結果、センサーの脱着に時間を要し、また、センサーのための費用も大きい。他方、センサーの数を制限すると、異常箇所を大まかには検知できるが、詳細な異常箇所の把握が困難であり、異常箇所の検出に時間を要し、生産ロスを最小限にとどめることは容易ではない。従って、本発明者の判断では、この方法は、必ずしも十分ではない場合があるとの結論に到った。
【0007】
そこで、これらをも考慮して検討を重ねた結果、本発明者は、テンターにおけるテンターレールの異常、好ましくは異常の兆しを、より効率的に早期発見し、それによって、重大な問題が発生する前に対策を実施すると、生産性を向上させることができることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0008】
第1の要旨において、本発明は、複数のテンタークリップにより構成されるテンターチェーンおよびテンターレールとを有して成るテンターであって、少なくとも1つのテンタークリップがテンターレールで生じる異常の有無と相関する信号を検出するセンサーを有することを特徴とするテンターを提供する。
【0009】
第2の要旨において、本発明は、複数のテンタークリップにより構成されるテンターチェーンおよびテンターレールを有して成り、少なくとも1つのテンタークリップがテンターレールで生じる異常の有無と相関する信号を検出するセンサーを有するテンターにおける、テンターレールに生じる異常を検出する方法であって、センサーが検出した信号を処理して異常が生じている、または異常の兆しが生じていると判断した時における、センサーを有するテンタークリップのテンターレールにおける位置を決定する(そして、その位置を「異常またはその兆し」が発生した箇所と特定する)ことを特徴とする、テンターレールに生じる異常検出方法を提供する。
【0010】
本発明において、センサーとは、テンターレールで生じる異常の有無と相関する信号を検出し、好ましくは定量的に検出する機能を少なくとも有する。検出した信号の処理は、センサー自体内で実施しても、あるいはセンサーとは別の処理装置で処理してもよい。一般的には、別の処理装置で処理するのが好ましく、センサーによって信号を得、その信号を電気的信号に変換し、あるいは直接的に電気信号を得、例えば無線で信号を別の処理装置に伝送するのが好ましい。この場合、テンタークリップは、センサーに加えて、例えば、信号を発信する発信機および発信のために必要な電源(必要な場合)等の信号を発信するために必要な追加の要素を有する。このような追加の要素は、センサーと同じテンタークリップに設けても、あるいはセンサーを有するテンタークリップに隣接または近接するテンタークリップに設けてもよい。
【0011】
テンターレールで生じる異常とは、テンターレールに起因してテンターの正常な運転を妨げる状態であり、例えば、レールのがたつきの発生、ゆるみの発生、傾きの発生、機械的損耗の発生等、レールにおけるゴミの存在、ゴミの詰まり等を挙げることができる。尚、異常の兆しとは、異常に到る前の状態を意味する。尚、異常の兆しとは、異常に到る手前の状態を意味し、どのような状態を異常と判断するかによって、異常の兆しが定義されるが、これらは相対的な概念であり、異常の兆しは異常に含まれると考えてよい。従って、本明細書における説明において、文脈的に不適切である場合を除いて、「異常」なる用語を「異常の兆し」と読み替えることができる。
【0012】
尚、テンターレールで生じる異常の有無と相関する信号とは、異常状態にあるテンターレールの箇所をテンタークリップが通過する時に検出される場合と、正常状態にあるテンターレールの箇所をテンタークリップが通過する時に検出される場合との間で明らかに有意差が存在する(即ち、相関する)物理量に由来する信号を意味する。具体的には、そのような物理量は、テンタークリップの位置またはそれに由来する物理量、例えばテンタークリップの移動速度、加速度、振動等である。このような物理量は、テンターレールの状態によって影響を受ける。即ち、テンターレールが正常であるか、異常であるかによって物理量は異なる。このような物理量に由来する信号は、種々のセンサーで電気信号として得ることができる。好ましい態様では、テンターレールで生じる異常の有無と相関する信号は、テンタークリップの振動であり、本発明において、センサーとして種々の振動計を用いるのが好適である。
【0013】
上述のように、本発明のテンターは、センサーが検出する信号の処理装置、好ましくは無線で信号を受け取る処理装置を有することが好ましく、そのような装置は、受け取った信号を処理して異常の有無、あるいは異常の兆しの有無を判定するのが好ましい。処理装置のより好ましい態様では、異常が有る、あるいは異常の兆しが有ると判定した場合には、そのような判定に到る信号を検出した時のセンサーの位置、従って、それを有するテンタークリップのテンターレールにおける位置を決定する機能を有する。
【0014】
尚、異常の有無、または異常に近い状態にあるか否かの判定は、例えば、次のように実施できる:正常なテンターレールをテンタークリップが走行した時にセンサーが検出する信号(即ち、正常運転時信号)および異常またはその兆しが有る、テンターレールをテンタークリップが走行した時にセンサーが検出する信号(即ち、異常運転時信号)を予め取得しておく。このように予め取得したこれらの信号と、実際のテンターの運転に際してセンサーが検出する信号を比較して、検出した信号が、正常運転時信号および異常運転時信号のどちらに対応するのかについて判断することによって異常またはその兆しの有無を判定する。また、このように信号を比較すると、検出した信号が、異常運転時信号ではないが、完全な正常運転時信号でもないと判断できる場合がある。この時、テンターは、完全に正常運転と異常運転との間の遷移的な状態にあると判断できる。特に、異常運転時信号により近い場合、テンターは正常運転状態ではなく、異常運転状態に近い、即ち、異常の兆しがあると判断できる場合がある。この場合、遷移的状態の程度に応じて(例えば異常運転時信号に相当または非常に近い場合)、テンターの運転中の場合は運転を停止した後、あるいはテンターの運転前の場合はそのまま、テンターの保守・点検等を実施して、テンターが異常状態で運転されるのを未然に防止できる。
【0015】
上述の本発明のテンターにおいて、センサーが少なくとも1つのテンタークリップに装備されているのが好ましい。通常、1つのセンサーを設けることで十分である。複数のセンサーを設ける場合、テンターチェーンにおいて間隔を隔てて、好ましくは等間隔で、センサーを設ける。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、テンターにおけるテンターレールの異常またはその兆しを検知でき、その結果、問題が発生する前にその異常またはその兆しを解消する対策を実施でき、その結果、テンターの生産性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明について、適宜図面を参照して、より詳細に説明するが、本発明は、図面に記載された態様のみに限定されるものではない。
【0018】
本発明のテンターは、複数のクリップを連結してなるクリップチェーンを有し、このチェーンがテンターレールに沿って走行する。テンターを構成するこれらの要素は、常套のものであってよく、図1にテンタークリップを例示する(側方から見た様子)。クリップ2は、クリップ台5に載置固定されており、クリップレバー3は支軸7で回動可能に支持されている。シート状物はクリップレバー3とクリップ台5により把持部6で把持するようになっている。
【0019】
図2にテンターの上面図を模式的に示す。複数に連なったテンタークリップがテンターチェーン12を構成し、このチェーン12がテンターレール14に沿って走行する。このチェーン12は、テンター8のテンター入口部9aからテンター出口部9bに向かって所定の速度で移動し、出口部9bで反転して入口部9aに向かって戻るようになっている。シート状物11は、テンターレール14に沿って摺動するチェーン形態のクリップに把持されながら共に移動し、テンター8を通過する間に横断方向(左右方向、図2では上下方向)に所定の倍率に延伸される。
【0020】
テンター8の出口部9b、入口部9aにはターンホイール10が設置されている。複数連なったテンタークリップが入口部9aに来ると、クリップレバー3がターンホイール10に接触することにより、ばね(図示せず)の収縮力によってクリップは把持部6と接するように回動し、シート状物11の両縁部を把持するようになっている。把持されたシート状物11は、出口部9bにあるターンホイール10によりテンタークリップから解放され、次の工程に送り出される。
【0021】
本発明のテンターは、上述のようなテンタークリップチェーンとテンターレールを有するテンターであって、テンターレールに生じる異常の有無と相関する信号を検出するセンサーが少なくとも1つのテンタークリップに備えられていることが重要である。
【0022】
また、本発明のテンターレールに生じる異常を検出する方法は、上述の本発明のテンターにおいて、センサーが検出した信号を処理して異常である、またはその兆しがあると判断した時における、センサーを有するテンタークリップのテンターレールにおける位置を決定することを特徴とする。この方法を用いると、最低1つのセンサーを設けるだけで十分であり、従って、センサーを多数必要とせず、センサーの脱着に時間を要しない。また、異常箇所を詳細に把握でき、異常箇所の検出に時間がかからず、異常を早期発見し、問題が発生する前に事前に対策を実施できる。その結果、生産ロスを最小限にとどめることができる。
【0023】
テンターレールに生じる異常の有無と相関する信号は、1つの態様では、上述のようにテンタークリップの振動をセンサーによって検知することによって得ることができる。例えば、センサーとしての振動計を有するテンタークリップが正常なテンターレールを通過する場合、振動計から得られる信号としての電圧の変化幅は、−2.0〜2.0Vの範囲内である。従って、テンターの実際の運転時において、振動計により測定される電圧の変化幅が−2.0〜2.0Vの範囲を超える場合を異常が発生したと判定することができる。
【0024】
但し、測定される電圧の変化幅が−2.0〜2.0Vの範囲を超える場合、直ちに異常が発生していると判定することは極端過ぎる場合もある。その場合、異常状態に近づく遷移的な状態(異常の兆し)が存在することを考慮して、電圧の変化幅が−2.5〜2.5V以内の場合は、異常発生の可能性がある管理領域とし、電圧の変化幅が−2.5〜2.5Vを超えた場合に異常が発生したと判定するのが好ましい場合がある。通常、用いるテンターに応じて、正常な電圧の変化幅を随時設定し、管理領域の電圧の変化幅および異常発生とみなす電圧の変化幅はその目的としてテンターにより処理して得るシート状物の仕様の精度によって変更できる。
【0025】
上述のように、1つの態様では、テンターレールに生じる異常の有無と相関する信号はセンサーが振動することに基づく信号であり、従って、センサーとしては振動計を好ましく採用することができる。振動計としては、渦電流型、容量型、電子光学型、ホール素子型等の非接触式のものと、圧電型、サーボ型、ストレインゲージ型、動電型等の接触式のものとがあり、中でも接触式が好ましく、とりわけ圧電型がより好ましい。
【0026】
本発明において、センサーはテンタークリップに配置される。従って、テンターレールに生じた異常がテンタークリップに直接伝わるためより精度良く異常を検出できる。また、センサーは、クリップに積載できる大きさのものであることが好ましく、クリップの走行中にセンサーがテンターの他の部分に接触して走行不良を起こすことなく精度よく異常を検知できる。
【0027】
また、センサーは、耐熱性があるものが好ましく、その場合、テンター内の高熱によってセンサーが動作不良を起こすことを防止できる。例えば120℃までの耐熱性があるのが好ましい。それより高い温度までの耐熱性があるセンサーを用いるのがより好ましく、テンター内温度を下降させる時間をより削減でき、生産時間もより向上する。
【0028】
本発明のテンターにおいて、テンターレールに生じる異常の検出は、センサーの耐熱性が許容する場合には、テンターによって製品を製造する際に(即ち、オンラインで)、間欠的に、あるいは連続的に実施できる。しかしながら、一般的には、製品の製造を停止した時(例えば生産品の品位維持等でテンターを停台させる時)に、即ち、テンターの運転を止めてオフラインで、好ましくはテンター内温度を下げた状態で(例えば120℃以下で)、検出を実施するのが好ましい。製品の製造を停止した時に、テンターレールの異常を検出することを目的とする場合、本発明のテンターにおいて、センサーは脱着可能にテンタークリップに配置できることが好ましい。即ち、テンタークリップは、製品の製造時にはセンサーを有さず、異常を検出する時に一時的にセンサーを有してよい。
【0029】
また、「異常」が発生した箇所を特定する方法は、例えば、以下のとおりである:
正常なテンターレール状態にあるテンターにおいて、所定箇所(例えばテンターの予熱工程入口部)をスタート地点(即ち、ゼロ点)として、そこに振動計を載せたテンタークリップを位置させ、その後、テンターチェーンを一定速度で走行させて、スタート後の時間とセンサーにより測定した電圧を記録して、例えば、図3(a)のグラフを予め得ておく。尚、グラフの横軸は、スタート地点からの距離である。チェーンが一定速度で走行するため、スタート後の時間と速度から距離に換算したものである。
【0030】
次に、異常が有り得るテンターレールを有するテンターついて、先と同様にして、センサーを載せたテンタークリップを有するテンターチェーンを走行させ、電圧の時間的変化を測定すると、例えば図3(b)のグラフが得られる。明らかなように、3m付近で電圧の変化幅が大きくなっている。この箇所では、テンターレールに異常があるためにセンサーが大きく振動したことを意味する。従って、この箇所を異常箇所と特定する。
【0031】
本発明のテンターにおいて、センサーが検出する信号の処理および異常が発生したテンターレールの箇所の特定は、常套的な方法で実施でき、例えば、処理手段としてはパーソナルコンピューター等の電子演算手段を用いることが好ましい。例えば、検出データを蓄積することにより、テンターレールの異常をより詳細に把握できるようになるためである。
【0032】
本発明のテンターの一例を、センサーが検出した信号の処理装置も含めて図4に模式的に示す。図4において、テンターチェーンは、センサーとして振動計15を有するテンタークリップ2、バッテリー16を有するテンタークリップ2’および発信機17を有するテンタークリップ2’’を有して成り、更に、送信アンテナ18を有している。振動計15の大きさはクリップに積載できる大きさが好ましい。振動計15で得られた信号は、発信機17、送信アンテナ18を介して電波として発信される。また、図4において発信された電波は、受信アンテナ20、受信機21および信号処理装置22を有する処理装置により受信されて処理され、受信されたデータは、例えば演算機を通して電圧vs距離として数値化されて蓄積できる。
【0033】
尚、振動計により得られた信号は送信アンテナ18より発信されるが、送信不良によるノイズを減少させるために、送信アンテナは導電体(例えば金属製のテンタークリップ)から引き離したほうが好ましい。更には、送信アンテナ18を樹脂製のダミークリップ19(例えばナイロン樹脂またはガラス強化エポキシ樹脂のテンタークリップ)に取り付けたほうがノイズ抑制の点からより好ましい。例えば、図4に示すように、振動計15、バッテリー16および発信機17をそれぞれ有するテンタークリップ(2、2’および2’’)に隣接して、樹脂製のテンタークリップ19(1つ、好ましくは複数)を接続し、これらの上に送信アンテナ18を沿うように取り付けることが好ましい。尚、ダミークリップを用いる態様は、テンターを運転して製品を製造する前に異常を検知する方法に用いることができる。
【0034】
本発明のテンターレールに生じる異常を検出する方法は、上述のような特徴を有し、その結果、テンターの始動前にテンターレールに生じた異常を検出することが可能である。そして、このようにいわゆるオフラインで異常を検出することが、不良品の発生量を抑える等、コスト低減やシート状物の品質向上の点からも好ましい。
【0035】
従って、本発明は、本発明のテンターレールに生じる異常を検出する方法を予め実施し、異常が存在する場合は、異常を解消した後、あるいは異常が存在しない場合には、そのままの状態で、テンターによって幅出してシート状物を製造することを特徴とするシート状物の製造方法をも提供する。このシート状物の製造方法は、シート状物の品質や生産性を向上させることができる。
【0036】
本発明のテンターは、例えば、延伸フィルムを製造するに際して、逐次延伸工程に好適に適用することができる。また、逐次延伸タイプのフィルムの製造に際して、本発明のテンターを使用でき、例えば、ダイから押し出された溶融ポリマを冷却ロールで固化させて延伸用原反とし、この延伸用原反を延伸温度まで加熱してロールにより縦方向に延伸した後に冷却し、次いで、縦方向に延伸したフィルムの両縁をテンタークリップで把持して横延伸装置に導入し、加熱下で横方向に延伸し、引き続き緊張のまま適当な温度で熱処理して配向を固定した後両端の未延伸部を除去して巻取り機で巻き取る。
【実施例】
【0037】
(フィルム製造)
ポリエチレンテレフタレートのチップを280℃で溶融し、ろ過後口金から吐き出し、冷却ロールの上にキャストして未延伸フィルムとする。
【0038】
上記未延伸フィルムをロール延伸機に搬送し、80〜90℃の余熱ロールで余熱後、周速差のあるロール間で3〜4倍に延伸し30℃まで冷却する。
【0039】
次いで、テンター式横延伸機にフィルムを搬送し、温度100℃で幅方向に3倍延伸し、230℃の熱処理を施して厚さ12μmの二軸延伸フィルムを得る。
このようにして、フィルムを逐次二軸延伸できるフィルム装置を使用した。
【0040】
(テンター式横延伸機)
予熱、延伸、熱処理、冷却が可能な工程を備えるテンターでクリップチェーンが走行するテンターレールは片道12.5mの長さを有する。テンタークリップは片側クリップチェーンに489個装着されている。テンタークリップ走行速度は10m/minで走行させる。測定実施タイミングは樹脂流路異物除去フィルターの交換、または延伸ロール掃除等によりテンター内温度が120℃以下に降温できるタイミングで実施した。
【0041】
(センサー及び信号の送信)
次のようなものを使用した。発信機、振動計、電池は、図4に示すように、テンタークリップに設置し、受信アンテナはテンター内部にテンターレールに沿って設置し、アンテナ受信機、信号処理機はテンター出口に設置した。発信アンテナは複数個取り替えられた樹脂製クリップに通して電波を発信できるようにした。
【0042】
1)発信機
振動測定ピエゾ用トランスミッタ―
立山電子製、モデル8344
【0043】
2)受信機
振動測定用レシーバー
立山電子製、モデル560B
【0044】
3)振動センサー
リオン製、形式PV―65
【0045】
4)電池
立山電子製、モデル1256
【0046】
5)データ演算機
NEC製LOGGERSTATION PL2400
【0047】
(異常の判定)
このようなテンターを用いて、先に説明したように、テンターレールが正常である場合について、テンターチェーンをテンターレールに沿って移動させてテンタークリップの振動を測定し、その時に測定された電圧vs時間と速度に基づき、電圧とテンターレールの距離(テンターの予熱工程入り口をテンターレールのゼロ点とする)との関係のデータを得て、図3(a)のグラフを予め求めた。正常な状態でテンターレールに発生する電圧の変化幅は−2.0〜2.0Vであり電圧振幅が4V以内であった。先に説明したように、テンターレールが異常である場合、電圧の変化幅が−2.5〜2.5V以上であったことから、異常検出の電圧の変化幅を5V以上として異常の有無を判定する。
【0048】
(異常箇所の同定)
次に、実際に長時間運転した後のテンターについて、先と同様に振動を測定し(オフライン)、図3(b)のグラフを得た。この結果から、テンターレールのゼロ点より2.7〜3.3mの下流の箇所にて電圧の振幅5V以上が確認でき、この箇所をテンターレールの異常箇所と特定した。
【0049】
(テンターレール部品の確認)
ゼロ点より2.7〜3.3m付近の箇所のテンターレールを観察したところ、レールの継ぎ目にフィルム屑がひっかかっていた。これがテンターレールの異常を引き起こした原因であった。このフィルム屑を除いて、テンターチェーンをテンターレールに沿って移動させてテンターを運転して振動を再度測定したところ、ゼロ点より2.7〜3.3m付近の箇所においても大きな電圧の変化は認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明のテンターは、センサーを多数必要とせず、従って、装置の脱着に時間を要しない。また、異常箇所を詳細に把握でき、異常箇所の検出に時間がかからず、異常を早期発見し、生産を開始し、問題が発生する前に事前に対策を実施できるようにすることで生産ロスを最小限にとどめることができ、産業界に大きく寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】クリップの概略を示す図である。
【図2】テンターの模式的上面図である。
【図3】実施例において得た、(a)正常なテンターレールの場合の電圧vs.距離のグラフおよび(b)異常を有するテンターレールの場合の電圧vs.距離のグラフである。
【図4】本発明のテンターの一例を、その信号の処理装置も含めて模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0052】
1…テンターレール、2,2’,2’’…テンタークリップ、3…クリップレバー、
4…テンターチェーン、5…クリップ台、6…把持部、7…支軸、8…テンター、
9a…テンター入口、9b…テンター出口、10…ターンホイール、11…シート状物、
12…クリップチェーン、14…テンターレール、15…振動計、16…バッテリー、
17…発信機、18…送信アンテナ、19…ダミークリップ、20…受信アンテナ、
21…受信機、22…信号処理装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のテンタークリップにより構成されるチェーンおよびテンターレールとを有して成るテンターであって、少なくとも1つのテンタークリップがテンターレールで生じる異常の有無と相関する信号を検出するセンサーを有することを特徴とするテンター。
【請求項2】
テンターレールで生じる異常の有無と相関する信号を検出するセンサーが振動計であることを特徴とする請求項1に記載のテンター。
【請求項3】
センサーが検出する信号を無線によって受け取り、そして、処理する信号処理装置を更に有して成ることを特徴とする請求項1または2に記載のテンター。
【請求項4】
複数のテンタークリップにより構成されるチェーンおよびテンターレールを有して成り、少なくとも1つのテンタークリップがテンターレールで生じる異常の有無と相関する信号を検出するセンサーを有するテンターにおける、テンターレールに生じる異常を検出する方法であって、センサーが検出した信号を処理して異常であると判断した時における、センサーを有するテンタークリップのテンターレールにおける位置を決定することを特徴とする、テンターレールに生じる異常の検出方法。
【請求項5】
テンターレールで生じる異常の有無と相関する信号を検出するセンサーが振動計であることを特徴とする請求項4に記載の異常の検出方法。
【請求項6】
無線を介してセンサーが検出する信号を受け取り、そして、処理する信号処理装置を更に有して成ることを特徴とする請求項4または5に記載の異常の検出方法。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれかに記載の異常の検出方法を予め実施した後、異常が存在する場合は、異常を解消した後、あるいは異常が存在しない場合には、そのままの状態で、テンターによって幅出してシート状物を製造することを特徴とするシート状物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−107148(P2009−107148A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−279246(P2007−279246)
【出願日】平成19年10月26日(2007.10.26)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】