説明

テープ状超電導線材とテープ状安定化材とのハンダ付け方法、及び、安定化材付きテープ状超電導線材

【課題】コイルを密に巻くのに適し、巻線時の劣化等が生じにくい断面形状を有する安定化材付きテープ状超電導線材が得られる、テープ状超電導線材とテープ状安定化材とのハンダ付け方法と、この方法により得た安定化材付きテープ状超電導線材を得る。
【解決手段】テープ状超電導線材1とテープ状安定化材2とをハンダ浴22に給送する工程と、ハンダ浴内において、ハンダを間に介して前記テープ状超電導線材と前記テープ状安定化材とを重ねて一体化して安定化材付きテープ状超電導線材3を形成する工程と、前記ハンダ浴から前記安定化材付きテープ状超電導線材を送り出す前後において、前記安定化材付きテープ状超電導線材を所定形状に矯正する工程と、前記テープ状超電導線材と前記テープ状安定化材との間のハンダを固化する工程とを有しているものである。このハンダ付け方法を用いて安定化材付きテープ状超電導線材を得るハンダ付け方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テープ状超電導線材とテープ状安定化材とのハンダ付け方法、及び、安定化材付きテープ状超電導線材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、下記非特許文献1(第32頁の図1)に記載されているようなテープ状超電導線材が公知となっている。このテープ状超電導線材は、金属基板と、該金属基板上に形成された中間層と、該中間層上に形成された超電導体層と、該超電導体層上に形成された安定化層とを順に備えている。
【0003】
【非特許文献1】「低温ジャーナル 2007」第32頁 図1 (社)低温工学協会 2007年3月発行
【0004】
上記非特許文献1(第32頁の図1)に記載されているようなテープ状超電導線材においては、超電導状態を安定にする目的、及び、より機械的補強をする目的のため、さらに安定化層の上にテープ状銅線材などのテープ状安定化材をハンダ付けすることがある。このハンダ付けは、図9に示すように、スプール111、112からそれぞれテープ状超電導線材101とテープ状銅線材などのテープ状安定化材102とを、一部がハンダ槽201のハンダ浴202に浸漬されたガイドローラー113を介して、ハンダ浴202内に同時に給送することによって行われる。そして、ハンダ付けがされた安定化材付きテープ状超電導線材100は、一部がハンダ浴202に浸漬されたガイドローラー114を介して、固化後にスプール115に巻き取られる。ここで、ガイドローラー113、114は、図10に示す側断面図のように、周回りに、テープ状超電導線材101及びテープ状安定化材102のガイドとなる溝が設けられている。なお、中心の穴は、回転軸を挿入するためのものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のテープ状超電導線材101は、通常、何らかの矯正をしない限り、幅方向に平らな断面を有するテープ状の線材ではなく、図11(a)に示すように、湾曲を有するものとなっている。このような湾曲が発生する理由は、以下の通りであると考えられる。すなわち、テープ状超電導線材101を構成する金属基板、中間層、及び安定化層それぞれの物理的性質の差によって、製造時にテープ状超電導線材101が湾曲してしまったと考えられる。ここで、具体的な湾曲の例を示すと、厚み0.1mm×幅10mmの断面を有するテープ状超電導線材において、図11(a)に示すhは0.1mm〜0.2mm程度になる。なお、図11(a)のテープ状超電導線材101の断面図においては、説明の便宜上、「湾曲」を誇張して表現している。
【0006】
したがって、図9に示す構成の装置を用いて、所定の張力をかけながら、図11(a)に示したテープ状超電導線材101の安定化層の上に、テープ状銅線材などであるテープ状安定化材102をハンダ付けすると、ハンダ付け直後は図11(b)に示したように平らなものとなる。しかし、固化させた完成品は、図11(c)に示したように、テープ状超電導線材101の影響を受けて、湾曲した状態のものとなってしまう。特に、平らなテープ状安定化材102が、幅方向の両端部付近でやや形状が異なるものの、テープ状超電導線材101の断面形状と略相似形状の断面を有するものとなってしまう。加えて、テープ状超電導線材101とテープ状安定化材102との間のハンダ層103は、幅方向の中央から両端部付近にかけて厚みが厚くなってしまう。
【0007】
このように、テープ状超電導線材101、テープ状安定化材102、及びハンダ層103を備えている安定化材付きテープ状超電導線材100は、全体的に湾曲したものとなってしまうとともに、幅方向の中央と幅方向の両端部とで厚みが不均一になってしまう(図11(c)参照)。その結果、図11(c)に示したように、安定化材付きテープ状超電導線材100は、Hで表された厚み、又は、幅方向の端部の厚みを有するものとなる。したがって、安定化材付きテープ状超電導線材100は、コイルを密に巻くのに適さないことの他、巻線時の幅方向に存在する厚さの違いにより局所的な歪みが生じ、剥離、Ic(臨界電流)の低下などの劣化、接触不良による安定化効果の減少などの原因になる、断面形状を有するものになってしまうことがあった。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、コイルを密に巻くのに適し、巻線時の劣化等が生じにくい断面形状を有する安定化材付きテープ状超電導線材が得られる、テープ状超電導線材とテープ状安定化材とのハンダ付け方法、及び、安定化材付きテープ状超電導線材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0009】
本発明において、以下の特徴は単独で、若しくは、適宜組合わされて備えられている。前記課題を解決するための本発明のテープ状超電導線材とテープ状安定化材とのハンダ付け方法は、テープ状超電導線材とテープ状安定化材とをハンダ浴に給送する工程と、前記ハンダ浴内において、ハンダを間に介して前記テープ状超電導線材と前記テープ状安定化材とを重ねて一体化して安定化材付きテープ状超電導線材を形成する工程と、前記ハンダ浴から前記安定化材付きテープ状超電導線材を送り出す前後において、前記安定化材付きテープ状超電導線材を所定形状に矯正する工程と、前記テープ状超電導線材と前記テープ状安定化材との間のハンダを固化する工程とを有しているものである。
【0010】
上記構成によれば、コイルを密に巻くのに適した断面形状を有する安定化材付きテープ状超電導線材が得られる、テープ状超電導線材とテープ状安定化材とのハンダ付け方法を提供できる。すなわち、コイルを密に巻くのに適し、巻線時の劣化等が生じにくい断面形状を有する安定化材付きテープ状超電導線材を製造できる。
【0011】
また、本発明のハンダ付け方法は、前記安定化材付きテープ状超電導線材を所定形状に矯正する工程において、前記安定化材付きテープ状超電導線材に所定の張力をかけながら、前記安定化材付きテープ状超電導線材の一方の面を第1の曲面を有した部材の該曲面に沿って摺動させるものであることが好ましい。
【0012】
上記構成によれば、全層が平らとなるようにテープ状超電導線材とテープ状安定化材とをハンダ付けできる方法を提供できる。すなわち、全層が平らとなって、厚みが均一化された安定化材付きテープ状超電導線材を製造できる。また、ハンダ付けに用いられたハンダの使用量を低減できるとともに、テープ状超電導線材とテープ状安定化材との間のハンダ層を薄くすることができるので、従来に比べて薄い厚さの安定化材付きテープ状超電導線材を容易に製造できる。なお、このように、薄い厚さの安定化材付きテープ状超電導線材は、コイルを巻くために曲げる際に、テープ状超電導線材を構成する超電導層及び中間層に、無理な力がかかりにくいので、テープ状超電導線材の性能劣化及び破損の抑制にもつながる。また、電極への接続時にはハンダの層が薄くなれば、接続抵抗を低減することができ、コイルへの通電時の損失を低減することができる。
【0013】
また、本発明のハンダ付け方法は、前記安定化材付きテープ状超電導線材の一方の面を第1の曲面を有した部材の該曲面に沿って摺動させた後、前記安定化材付きテープ状超電導線材の他方の面を第2の曲面を有した部材の該曲面に沿って摺動させることを、連続して行うことが好ましい。
【0014】
上記構成によれば、より全層が平らとなるようにテープ状超電導線材とテープ状安定化材とをハンダ付けできる方法を提供できる。また、安定化材付きテープ状超電導線材の厚みをより均一化できる。
【0015】
また、本発明のハンダ付け方法は、前記第1の曲面を有する部材又は/及び前記第2の曲面を有する部材が、中心を軸として回転自在なローラーであることが好ましい。
【0016】
上記構成によれば、線材にかかる負荷を低減しながら、確実且つ容易に、全層が平らとなるようにテープ状超電導線材とテープ状安定化材とをハンダ付けできる。その結果として、無理な力がかかりにくいので、テープ状超電導線材の性能劣化及び破損の抑制にもつながる。また、安定化材付きテープ状超電導線材の厚みをより均一化できる。
【0017】
また、前記第1の曲面を有した部材の曲面又は/及び前記第2の曲面を有した部材の曲面が、円弧形状であることが好ましい。
【0018】
上記構成によれば、確実且つ容易に、全層が平らとなるようにテープ状超電導線材とテープ状安定化材とをハンダ付けできる。また、安定化材付きテープ状超電導線材の厚みをより均一化できる。
【0019】
また、本発明のハンダ付け方法は、ハンダが固化するまで、前記安定化材付きテープ状超電導線材を前記第1の曲面を有する部材に係回させることが好ましい。
【0020】
上記構成によれば、全層が平らのままハンダが固化されるので、確実に、薄い厚さの安定化材付きテープ状超電導線材を提供できる。
【0021】
また、別の観点として、本発明のハンダ付け方法は、前記安定化材付きテープ状超電導線材を所定形状に矯正する工程において、前記安定化材付きテープ状超電導線材の両面を挟み込みつつ摺動させることが好ましい。
【0022】
上記構成によれば、確実且つ容易に、全層が平らとなるようにテープ状超電導線材とテープ状安定化材とをハンダ付けできる方法を提供できる。また、安定化材付きテープ状超電導線材の厚みをより均一化できる。
【0023】
また、他の観点として、本発明のハンダ付け方法は、前記安定化材付きテープ状超電導線材を所定形状に矯正する工程において、前記ハンダ浴内において、前記安定化材付きテープ状超電導線材に所定の張力をかけながら、前記安定化材付きテープ状超電導線材の一方の面を、R形状を側部に有した部材の該側部に沿って摺動させることが好ましい。
【0024】
上記構成によれば、全層が湾曲しているが相似形状となるように、テープ状超電導線材とテープ状安定化材とをハンダ付けできる方法を提供できる。すなわち、厚みが均一化された安定化材付きテープ状超電導線材を製造できる。
【0025】
また、本発明のハンダ付け方法は、前記R形状を側部に有した部材が、中心を軸として回転自在な円盤状ローラーであることが好ましい。
【0026】
上記構成によれば、線材にかかる負荷を低減しながら、全層が湾曲しているが相似形状となるように、テープ状超電導線材とテープ状安定化材とをハンダ付けできる方法を提供できる。また、安定化材付きテープ状超電導線材の厚みをより均一化できる。
【0027】
また、本発明のハンダ付け方法は、前記R形状を側部に有した部材が円弧形状を有した部材であり、該円弧形状部分に前記R形状を有していることが好ましい。
【0028】
上記構成によれば、確実に、全層が湾曲しているが相似形状となるように、テープ状超電導線材とテープ状安定化材とをハンダ付けできる方法を提供できる。また、安定化材付きテープ状超電導線材の厚みをより均一化できる。
【0029】
また、本発明のハンダ付け方法は、前記テープ状超電導線材が、金属基板と、前記金属基板の上に形成された中間層と、前記中間層の上に形成された超電導体層と、前記超伝導体層の上に形成された金属薄膜層とを有していることが好ましい。なお、ここでの中間層は、1層からなるものだけでなく、2層以上のものを含む。本発明は、このようなテープ状超電導線材にテープ状安定化材をハンダ付けするのに、より適した方法である。
【0030】
また、本発明の安定化材付きテープ状超電導線材は、上述のハンダ付け方法のうち少なくとも1つを用いて、テープ状超電導線材とテープ状安定化材とをハンダ付けすることによって得られたものである。この安定化材付きテープ状超電導線材は、上述のハンダ付け方法を行うことで得られる効果を享受することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明に係るテープ状超電導線材とテープ状安定化材とのハンダ付け方法、及び、安定化材付きテープ状超電導線材の実施形態について、図面を用いて説明する。
【0032】
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係るハンダ付け方法を実施するためのハンダ付け装置の構成概略図である。ハンダ付け装置10は、テープ状超電導線材1が巻きつけられたスプール11と、テープ状銅線材などのテープ状安定化材2が巻きつけられたスプール12と、ハンダ浴22を備えたハンダ槽21と、一部がハンダ槽21のハンダ浴22に浸漬されたガイドローラー13、14と、ハンダ浴22外に設けられたガイドローラー15と、最後に安定化材付きテープ状超電導線材3の完成品を巻き取るためのスプール(図示せず)とを有している。なお、ガイドローラー13、14、15は、図10に示したガイドローラー113、114と同構成のものであり、溝(ガイド)により、テープ状超電導線材1とテープ状安定化材2とのズレを防止できる。また、ガイドローラー13、14、15の材質は、ハンダのつきにくいものであって、ある程度、熱伝導のよいものが用いられるが、目的によって、アルミニウム、テフロン(登録商標)などを用いる。
【0033】
スプール11、12には、必要な場合に、線材に対して張力を加えることができるように、張力付加装置(図示せず)が取り付けられている。張力付加装置として代表的なものには、トルク制御のモータ、エアモータなどがある。
【0034】
テープ状超電導線材1は、図示しないが、(1)超電導体層(例えば、イットリウム系超電導体からなるものがあるがこれに限られず、希土類酸化物超電導体であればよい。)を補強するための金属基板(例えば、ハステロイ(登録商標)などからなるものがあるがこれに限られない。)、(2)超電導体層と金属基板との接合を確実にするために形成された中間層(例えば、セリア(CeO)からなるものがあるが、これに限られない。)、(3)中間層の上に形成された超電導体層、(4)電極に取り付ける際にハンダ付けを容易にする目的、及び、クエンチ時に電流・熱を逃がすための通電・伝熱を確実にする目的、で形成された安定化層(例えば、銀からなるような金属被覆層があるが、これに限られない。)、を順に備えている。
【0035】
次に、このハンダ付け装置10の使用方法及び本実施形態に係るハンダ付け方法について説明する。まず、スプール11、12からそれぞれテープ状超電導線材1とテープ状安定化材2とを、所定の張力をかけながらガイドローラー13を介して、ハンダ浴22内に同時に給送する。続いて、テープ状超電導線材1とテープ状安定化材2とをハンダ付けして一体化し、安定化材付きテープ状超電導線材3を形成する。その後、安定化材付きテープ状超電導線材3を、ガイドローラー14を介して、ハンダ浴22から浴外へと給送する。そして、安定化材付きテープ状超電導線材3におけるガイドローラー14と当接した面と反対側の面を、ガイドローラー14と反対方向に回転するガイドローラー15の曲面に当接・摺動させながら、安定化材付きテープ状超電導線材3を平らに且つ厚みを均一に矯正する。ここで、図1の点線で囲んだ位置5部分においては、テープ状安定化材2が厚さ均一のハンダ層4によって平らにハンダ付けされた安定化材付きテープ状超電導線材3(図2参照)となっており、このままの状態で、ガイドローラー15にかかる前後付近でハンダを固化させ固化させる。固化後の安定化材付きテープ状超電導線材3の完成品は、駆動手段が設けられているスプール(図示せず)によって巻き取られる。
【0036】
上記構成のハンダ付け方法によれば、テープ状安定化材2がハンダ層4によって平らにハンダ付けされた安定化材付きテープ状超電導線材3が得られる。すなわち、全層が平らとなって、厚みが均一化され、コイルを密に巻くのに適し、巻線時の劣化等が生じにくい断面形状を有する安定化材付きテープ状超電導線材3を製造できる。
【0037】
また、テープ状超電導線材1とテープ状安定化材2との間のハンダ層4を薄くすることができるので、従来に比べて薄い厚さの安定化材付きテープ状超電導線材3を容易に製造できる。なお、このように、薄い厚さの安定化材付きテープ状超電導線材3は、コイルを巻くために曲げる際に、テープ状超電導線材1を構成する超電導層及び中間層に、無理な力がかかりにくいので、テープ状超電導線材1の性能劣化及び破損の抑制にもつながる。
【0038】
また、ガイドローラーを用いているので、線材にかかる負荷を低減しながら、全層が平らとなるようにテープ状超電導線材1とテープ状安定化材2とをハンダ付けできる。その結果として、無理な力がかかりにくいので、さらにテープ状超電導線材1の性能劣化及び破損の抑制にもつながる。
【0039】
ここで、変形例として、ガイドローラー14を用いる代わりに、図3(a)〜(c)に示すような、固定されて回転しない円弧形状を側部に有した部材31、33、35を用いてもよい。具体的に説明すると、図3(a)に示した部材は、円弧形状を側部に有した扇状部材であり、第1実施形態と同様に、安定化材付きテープ状超電導線材32を円弧形状に沿って摺動させることで、全層が平らとなって、厚みが均一化され、コイルを密に巻くのに適した断面形状を有する安定化材付きテープ状超電導線材32を得ることができる。
【0040】
図3(b)に示した部材33は、側部の一部(角部)に円弧形状を有し、円弧形状の始端及び終端に平面部が接続され、該平面部の一端にも該円弧形状よりもRが小さい別の円弧形状を備えた部材であり、第1実施形態と同様に、安定化材付きテープ状超電導線材32を平面部及び円弧形状に沿って摺動させることで、全層が平らとなって、厚みが均一化され、コイルを密に巻くのに適し、巻線時の劣化等が生じにくい断面形状を有する安定化材付きテープ状超電導線材34を得ることができる。
【0041】
図3(c)に示した部材35は、円弧形状を側部に有した半円状部材であり、第1実施形態と同様に、安定化材付きテープ状超電導線材36を円弧形状に沿って摺動させることで、全層が平らとなって、厚みが均一化され、コイルを密に巻くのに適し、巻線時の劣化等が生じにくい断面形状を有する安定化材付きテープ状超電導線材36を得ることができる。
【0042】
これら図3(a)〜(c)の変形例は、下記各実施形態において、適宜用いてもよい。また、図3(a)の扇の角度は90°であるが、これに限られず適宜変更してもよい。
【0043】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態に係るハンダ付け方法、及び、安定化材付きテープ状超電導線材について説明する。図4は、本発明の第2実施形態に係るハンダ付け方法を実施するためのハンダ付け装置の構成概略図である。ここで、図4における符号41〜43、51〜54、61、62の部材は、第1実施形態における符号1〜3、11〜14、21、22の部材と順に同様のものであるので、説明を省略することがある。
【0044】
本実施形態で用いるハンダ付け装置40は、ガイドローラー15に相当するガイドローラーがなく、安定化材付きテープ状超電導線材43が、ハンダが固化する程度までガイドローラー54に係回している点で、第1実施形態と異なっている。
【0045】
次に、このハンダ付け装置40の使用方法及び本実施形態に係るハンダ付け方法について説明する。まず、スプール51、52からそれぞれテープ状超電導線材41とテープ状安定化材42とを、所定の張力をかけながらガイドローラー53を介して、ハンダ浴62内に同時に給送する。続いて、テープ状超電導線材41とテープ状安定化材42とをハンダ付けして一体化し、安定化材付きテープ状超電導線材43を形成する。その後、安定化材付きテープ状超電導線材43を、ガイドローラー54を介して、ハンダ浴62から浴外へと給送する。そして、安定化材付きテープ状超電導線材43におけるハンダ層が固化するまで、ガイドローラー54に係回・摺動させながら、第1実施形態と同様、図2に示すような断面を有するように、安定化材付きテープ状超電導線材43を平らに且つ厚みを均一に矯正する。固化後の安定化材付きテープ状超電導線材43の完成品は、駆動手段が設けられているスプール(図示せず)によって巻き取られる。
【0046】
上記構成のハンダ付け方法によれば、安定化材付きテープ状超電導線材43における全層が平らのまま、ハンダが固化されるので、第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0047】
<第3実施形態>
次に、第3実施形態に係るハンダ付け方法、及び、安定化材付きテープ状超電導線材について説明する。図5は、本発明の第3実施形態に係るハンダ付け方法を実施するためのハンダ付け装置の構成概略図である。ここで、図5における符号71〜73、81〜84、91、92の部材は、第1実施形態における符号1〜3、11〜14、21、22の部材と順に同様のものであるので、説明を省略することがある。
【0048】
本実施形態で用いるハンダ付け装置70は、ガイドローラー15に相当するガイドローラーがない代わりに、ピン85c、85dと、ピン85cを中心に回動可能な第1アーム85aと、ピン85dを中心に回動可能な第2アーム85bとを有している挟み込み機構85が設けられている点で、第1実施形態と異なっている。
【0049】
第1アーム85aと第2アーム85bとは、それぞれ略L字型の断面を有する部材である。第1アーム85aと第2アーム85bそれぞれの一端付近(図5中ではハンダ槽91側)間に、安定化材付きテープ状超電導線材73を挟入できるように、対称配置されている。また、第1アーム85aと第2アーム85bとは、図示しないバネ機構などを用いて適度な力で、安定化材付きテープ状超電導線材73を挟み込むようになっている。
【0050】
なお、挟み込み機構85は、安定化材付きテープ状超電導線材73のハンダ層が固化する位置に配設されていればよい。ただし、ハンダの融点が高い場合には、ハンダ槽91と離したほうがよい場合がある。また、第1アーム85aと第2アーム85bとで、安定化材付きテープ状超電導線材73を挟み込んでいる部分においては、適宜、幅や長さを調整する。また、第1アーム85aと第2アーム85bとを自然冷却するだけでなく、強制空冷、若しくは、液体又は冷却機などを用いた冷却を行ってもよい。
【0051】
次に、このハンダ付け装置70の使用方法及び本実施形態に係るハンダ付け方法について説明する。まず、スプール81、82からそれぞれテープ状超電導線材71とテープ状安定化材72とを、所定の張力をかけながらガイドローラー83を介して、ハンダ浴92内に同時に給送する。続いて、テープ状超電導線材71とテープ状安定化材72とをハンダ付けして一体化し、安定化材付きテープ状超電導線材73を形成する。その後、安定化材付きテープ状超電導線材73を、ガイドローラー84を介して、ハンダ浴92から浴外へと給送する。そして、安定化材付きテープ状超電導線材73におけるハンダ層が固化するまで、挟み込み機構85で挟み込みながら、第1実施形態と同様、図2に示すような断面を有するように、安定化材付きテープ状超電導線材73を平らに且つ厚みを均一に矯正する。固化後の安定化材付きテープ状超電導線材73の完成品は、駆動手段が設けられているスプール(図示せず)によって巻き取られる。
【0052】
上記構成のハンダ付け方法によれば、安定化材付きテープ状超電導線材73における全層が平らのまま、ハンダが固化されるので、第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0053】
<第4実施形態>
次に、第4実施形態に係るハンダ付け方法、及び、安定化材付きテープ状超電導線材について説明する。図5は、本発明の第4実施形態に係るハンダ付け方法を実施するためのハンダ付け装置で用いるローラーの側断面図である。
【0054】
本実施形態で用いるハンダ付け装置は、図示しないが、第1実施形態で説明したハンダ付け装置のガイドローラー14の代わりに、図6に示した断面を有するローラー93を用いている点で異なっているのみで、他の部材は同様のものを用いている。したがって、第1実施形態と同様のものの説明は省略する。
【0055】
ローラー93は、側部にR形状を有した円盤状部材である。なお、中心の穴は、回転軸を挿入するためのものである。また、R形状は、テープ状超電導線材が最初から有している湾曲形状に合わせたものとしてもよいし、所望する程度の湾曲形状に合わせた形状としてもよい。
【0056】
次に、本実施形態に係るハンダ付け方法について説明する。ほぼ第1実施形態と同様であるが、ガイドローラー14の代わりに用いたローラー93の作用が異なる。詳細には、ローラー93に当接・摺動された安定化材付きテープ状超電導線材97は、図7に示したように断面が弓なり(湾曲形状)に矯正される。図7に示したように、安定化材付きテープ状超電導線材97を構成する、テープ状超電導線材94、ハンダ層95、テープ状安定化材96のそれぞれが相似する形状になるとともに、ハンダ層95は、幅方向に均一な厚さに矯正される。これらの形状のまま、安定化材付きテープ状超電導線材97を固化させることによって、厚みが一定の安定化材付きテープ状超電導線材97を製造できる。
【0057】
上記構成のハンダ付け方法によれば、コイルを密に巻くのに適した断面形状を有する安定化材付きテープ状超電導線材97を製造できる。また、薄い厚さの安定化材付きテープ状超電導線材97は、コイルを巻くために曲げる際に、テープ状超電導線材94を構成する超電導層及び中間層に、無理な力がかかりにくいので、テープ状超電導線材94の性能劣化及び破損の抑制にもつながる。さらに、ローラー93を用いているので、線材にかかる負荷を低減しながら、安定化材付きテープ状超電導線材97を製造できる。
【0058】
ここで、一変形例として、ローラー93の代わりに、図8に示すような、側部の曲面部にローラー93と同様のR形状部98aを有した扇形部材98を用いてもよい。ここで、図8(a)は扇形部材の正面図、図8(b)は図8(a)のI−I矢視図である。
【0059】
また、他の変形例として、図示しないが、ローラー93と同様のローラーをさらにローラー93の後段に設けてもよい。このとき、ローラー93から給送されるテープ状超電導線材94と該ローラーの側部形状とを合わせて、該ローラーにテープ状超電導線材94を係回させることで、所望する形状のテープ状超電導線材94を、より確実に得ることができる。
【0060】
なお、本発明は、特許請求の範囲を逸脱しない範囲で設計変更できるものであり、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、第1実施形態においてガイドローラー13を用いているが、用いずに、スプール11、12からそれぞれテープ状超電導線材1とテープ状安定化材2とを、直接、矯正するためのガイドローラー14に架けることとしてもよい。他の実施形態や変形例においても、同様である。
【0061】
また、第4実施形態においては、第1実施形態におけるガイドローラー14の代わりにローラー93を用いたが、第2実施形態におけるガイドローラー54の代わりに、ローラー93と同様の部材を用いることとしてもよい。
【0062】
また、第1実施形態においては、ガイドローラー13、14にテープ状超電導線材1を当接し、テープ状安定化材2をハンダ付けしているが、逆に、ガイドローラー13、14にテープ状安定化材2を当接し、テープ状超電導線材1をハンダ付けすることとしてもよい。他の実施形態や変形例においても同様である。
【0063】
また、各実施形態や各変形例を適宜組み合わせたテープ状超電導線材とテープ状安定化材とのハンダ付け方法としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の第1実施形態に係るハンダ付け方法を実施するためのハンダ付け装置の構成概略図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係るハンダ付け方法によって矯正された安定化材付きテープ状超電導線材を示す断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係るハンダ付け方法を実施するためのハンダ付け装置の変形例で用いる部材を示す図であって、(a)が円弧形状を側部に有した扇状部材を示す図、(b)が側部の一部(角部)に円弧形状を有し、円弧形状の始端及び終端に平面部が接続された部材を示す図、(c)が円弧形状を側部に有した半円状部材を示す図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係るハンダ付け方法を実施するためのハンダ付け装置の構成概略図である。
【図5】本発明の第3実施形態に係るハンダ付け方法を実施するためのハンダ付け装置の構成概略図である。
【図6】本発明の第4実施形態に係るハンダ付け方法を実施するためのハンダ付け装置で用いるローラーを示す断面図である。
【図7】本発明の第4実施形態に係るハンダ付け方法の作用を説明するための図である。
【図8】(a)は扇形部材の正面図、(b)は(a)のI−I矢視図である。
【図9】従来のテープ状超電導線材とテープ状安定化材とのハンダ付け方法を実施するためのハンダ付け装置の構成概略図である。
【図10】図9のハンダ付け装置で用いるガイドローラーの側断面図である。
【図11】(a)が通常時のテープ状超電導線材の断面図、(b)が図9のハンダ付け装置を用いてハンダ付けした直後(固化前)の安定化材付きテープ状超電導線材の断面図、(c)が図9のハンダ付け装置を用いてハンダ付けした固化後の安定化材付きテープ状超電導線材の断面図である。
【符号の説明】
【0065】
1、32、34、36、41、71、94、101 テープ状超電導線材
2、42、72、96、102 テープ状安定化材
3、43、73、97、100 安定化材付きテープ状超電導線材
4、95、102 ハンダ層
5 位置
10、40、70 ハンダ付け装置
11、12、51、52、81、82、111、112、115 スプール
13、14、15、53、54、83、84、113、114 ガイドローラー
21、61、91、201 ハンダ槽
22、62、92、202 ハンダ浴
31、33、35 円弧形状を側部に有した部材
85a 第1アーム
85b 第2アーム
85c、85d ピン
85 挟み込み機構
93 ローラー
98 扇形部材
98a R形状部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テープ状超電導線材とテープ状安定化材とをハンダ浴に給送する工程と、
前記ハンダ浴内において、ハンダを間に介して前記テープ状超電導線材と前記テープ状安定化材とを重ねて一体化して、安定化材付きテープ状超電導線材を形成する工程と、
前記ハンダ浴から前記安定化材付きテープ状超電導線材を送り出す前後において、前記安定化材付きテープ状超電導線材を所定形状に矯正する工程と、
前記テープ状超電導線材と前記テープ状安定化材との間のハンダを固化する工程とを有していることを特徴とするテープ状超電導線材とテープ状安定化材とのハンダ付け方法。
【請求項2】
前記安定化材付きテープ状超電導線材を所定形状に矯正する工程において、
前記安定化材付きテープ状超電導線材に所定の張力をかけながら、前記安定化材付きテープ状超電導線材の一方の面を第1の曲面を有した部材の該曲面に沿って摺動させることを特徴とする請求項1に記載のハンダ付け方法。
【請求項3】
前記安定化材付きテープ状超電導線材の一方の面を第1の曲面を有した部材の該曲面に沿って摺動させた後、前記安定化材付きテープ状超電導線材の他方の面を第2の曲面を有した部材の該曲面に沿って摺動させることを、連続して行うことを特徴とする請求項2に記載のハンダ付け方法。
【請求項4】
前記第1の曲面を有する部材又は/及び前記第2の曲面を有する部材が、中心を軸として回転自在な円盤状ローラーであることを特徴とする請求項3に記載のハンダ付け方法。
【請求項5】
前記第1の曲面を有した部材の曲面又は/及び前記第2の曲面を有した部材の曲面が、円弧形状であることを特徴とする請求項3に記載のハンダ付け方法。
【請求項6】
ハンダが固化するまで、前記安定化材付きテープ状超電導線材を前記第1の曲面を有する部材に係回させることを特徴とする請求項2に記載のハンダ付け方法。
【請求項7】
前記安定化材付きテープ状超電導線材を所定形状に矯正する工程において、
前記安定化材付きテープ状超電導線材の両面を挟み込みつつ摺動させることを特徴とする請求項1に記載のハンダ付け方法。
【請求項8】
前記安定化材付きテープ状超電導線材を所定形状に矯正する工程において、
前記ハンダ浴内において、前記安定化材付きテープ状超電導線材に所定の張力をかけながら、前記安定化材付きテープ状超電導線材の一方の面を、R形状を側部に有した部材の該側部に沿って摺動させることを特徴とする請求項1に記載のハンダ付け方法。
【請求項9】
前記R形状を側部に有した部材が、中心を軸として回転自在な円盤状ローラーであることを特徴とする請求項8に記載のハンダ付け方法。
【請求項10】
前記R形状を側部に有した部材が円弧形状を有した部材であり、該円弧形状部分に前記R形状を有していることを特徴とする請求項8に記載のハンダ付け方法。
【請求項11】
前記テープ状超電導線材が、金属基板と、前記金属基板の上に形成された中間層と、前記中間層の上に形成された超電導体層と、前記超伝導体層の上に形成された金属薄膜層とを有していることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載のハンダ付け方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載のハンダ付け方法を用いて、テープ状超電導線材とテープ状安定化材とをハンダ付けすることによって得られた安定化材付きテープ状超電導線材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−43468(P2009−43468A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−205072(P2007−205072)
【出願日】平成19年8月7日(2007.8.7)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、超電導電力ネットワーク制御技術開発委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(502147465)ジャパンスーパーコンダクタテクノロジー株式会社 (56)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【Fターム(参考)】