説明

ディスクドライブ装置

【課題】ディスク状記録媒体を高速回転した場合にも回転系の振動・騒音を低レベルに抑制可能なディスクドライブ装置を提供する。
【解決手段】ディスクドライブ装置に、ディスク状記録媒体11の回転部3と、ディスク状記録媒体11を回転部3に押し付けるディスク押さえ具5と、ディスク押さえ具5を回転部3に接近させる方向又は前記回転部から離隔させる方向に移動する開閉操作部4とを備える。ディスク押さえ具5の内部に適量の流動体9を封入した密閉空間5dを形成すると共に、開閉操作部4にディスク押さえ具5を揺動可能に取り付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスクドライブ装置に係り、特に、ディスク状記録媒体のインバランスに起因する振動や騒音の軽減手段に関する。
【背景技術】
【0002】
従来よりコンピュータ用情報、音声情報、静止画像情報又は動画像情報などを記録するためのディスク状記録媒体として市場に提供されているものの多くは、樹脂の射出成形品からなる基板の表面に所要の情報記録層を形成してなる。
【0003】
ディスク状記録媒体は、ディスクドライブ装置に装着され、高速で回転駆動した状態で情報の記録再生を行うので、ディスク状記録媒体及びディスクドライブ装置に備えられた回転部を含む回転系の振動及び騒音を抑制し、回転系の耐久性の向上と高速かつ安定な記録再生特性を実現するためには、ディスク状記録媒体の動的バランスの狂い、即ちインバランスが小さいほど好ましい。
【0004】
しかるに、樹脂の射出成形品からなる基板は、射出成形時の気温や原材料ペレットのロッドの違いそれに経時的に変化する金型温度の不均一などによって金型キャビティ内に流れ込むときの樹脂の流れの方向や圧力が不均一になるため、射出成形に関する諸条件を工夫しても、部分的に密の部分と粗の部分とが生じて面方向に厚みむらが生じることを防止できない。
【0005】
このような事情から、樹脂の射出成形品からなる基板を備えたディスク状記録媒体は、ディスクドライブ装置に装着して回転駆動したときのインバランスをある程度以下に抑制することが困難であるが、現状においては、ディスク状記録媒体が比較的低い回転域で使用されているため、ディスク状記録媒体のインバランスが重大な不都合を生じる原因とはなっていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、近年、ディスク状記録媒体については、より一層の記録密度の高密度化及び転送速度の高速化が求められており、かかる要請に対処するため、記録再生時における回転数がますます増加される傾向にある。
【0007】
記録再生時におけるディスク状記録媒体の回転数が増加されると、ディスク状記録媒体に作用する遠心力が大きくなるので、ディスク状記録媒体にインバランスがあると、回転系の振動が大きくなって回転系より発生する騒音が大きくなると共に、ディスク状記録媒体に作用する不正なせん断応力や曲げ応力が大きくなって安定な記録再生動作を維持することが困難になったり、最悪の場合にはディスク状記録媒体が破壊するという重大な不都合を発生するおそれがある。
【0008】
本発明は、かかる従来技術の不備を解消するためになされたものであり、その目的は、ディスク状記録媒体を高速回転した場合にも回転系の振動・騒音を低レベルに抑制可能なディスクドライブ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記の課題を解決するため、ディスク状記録媒体の回転部と、前記ディスク状記録媒体を前記回転部に押し付けるディスク押さえ具と、前記ディスク押さえ具を前記回転部に接近させる方向又は前記回転部から離隔させる方向に移動する開閉操作部とを備えたディスクドライブ装置において、前記ディスク押さえ具の内部に適量の流動体を封入した密閉空間を形成すると共に、前記開閉操作部に前記ディスク押さえ具を揺動可能に取り付けるという構成にした。
【0010】
前記したように、樹脂の射出成形品からなる基板を備えたディスク状記録媒体には、基板の厚みむらに起因するインバランスが必然的に生じている。したがって、このインバランスを生じているディスク状記録媒体をディスクドライブ装置に備えられた回転部と開閉操作部に対して揺動可能に取り付けられているディスク押さえ具との間でクランプすると、基板の厚みむらを生じている方向とは逆側に、基板の厚みむらに応じた量だけディスク押さえ具が傾斜し、密閉空間内に封入された流動体がディスク押さえ具の傾斜に沿って一方向に移動するので、基板の厚みむらに起因するディスク状記録媒体のインバランスが流動体の移動によって緩和又は解消される。したがって、ディスク状記録媒体を高速で回転した場合にも、回転系の振動が緩和されると共に、回転系の振動に起因する騒音及び記録再生特性の劣化が抑制され、さらにはディスク状記録媒体の破壊が防止される。
【0011】
また、本発明は、前記構成のディスクドライブ装置において、前記ディスク押さえ具のディスク押さえ面を弾性シートにて形成するという構成にした。
【0012】
このように、ディスク押さえ具のディスク押さえ面を弾性シートにて形成すると、ディスク状記録媒体の振動を吸収することができるので、回転駆動時における回転系の振動及び騒音をより軽減することができる。
【0013】
また、本発明は、前記構成のディスクドライブ装置において、前記弾性シートの外周に当該弾性シートを構成する弾性体よりも硬質の材料からなるガードリングを設けるという構成にした。
【0014】
前記のように、ディスク押さえ具のディスク押さえ面を弾性シートにて形成すると、回転駆動時における回転系の振動及び騒音の軽減に効果があるが、基板の厚みむらが弾性シートの弾力性によって吸収されるため、ディスク状記録媒体のインバランスを緩和する効果が弱くなると共に、ディスク状記録媒体とディスク押さえ具との一体性が損なわれるため、ディスク押さえ具の回転安定性が不安定になる。そこで、弾性シートの外周にガードリングを設けると、かかる不都合が解消される。
【発明の効果】
【0015】
本発明のディスクドライブ装置は、ディスク状記録媒体を回転部に押し付けるディスク押さえ具に適量の流動体を封入した密閉空間を形成すると共に、当該ディスク押さえ具を回転部に接近させる方向又は回転部から離隔させる方向に移動する開閉操作部にディスク押さえ具を揺動可能に取り付けたので、回転部に装着されたディスク状記録媒体の表面にディスク押さえ具を押し付けたとき、基板の厚みむらを生じている方向とは逆側に、基板の厚みむらに応じた量だけディスク押さえ具が傾斜し、密閉空間内に封入された流動体をディスク押さえ具の傾斜の方向に移動させることができる。よって、基板の厚みむらに起因するディスク状記録媒体のインバランスを流動体の移動によって緩和又は解消することができ、ディスク状記録媒体の高速回転特性を良好なものにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係るディスクドライブ装置の実施形態例を図1乃至図4に基づいて説明する。図1は第1実施形態例に係るディスクドライブ装置の構成図、図2は第1実施形態例に係るディスクドライブ装置の使用状態の説明図、図3は第2実施形態例に係るディスクドライブ装置の構成図、図4は第3実施形態例に係るディスクドライブ装置の構成図である。
【0017】
図1及び図2に示すように、第1実施形態例に係るディスクドライブ装置1Aは、基体2上に設定された回転部3と、開閉操作部4によって回転部3と接近する方向又は回転部3から離隔する方向に移動されるディスク押さえ具5とから構成されている。
【0018】
回転部3は、基体2上に設定された回転モータ6と、当該回転モータ6の主軸である回転スピンドル7と、当該回転スピンドル7に固着されたターンテーブル8とからなり、回転モータ6は、基体2の下方に配置された図示しない電源部及び回転制御部に接続されている。また、ターンテーブル8には、ディスク押さえ具5を吸着するためのマグネット8aが内蔵されている。
【0019】
開閉操作部4は、基体2に対して上下動可能に構成されており、ユーザにより手動又は自動で開閉操作される。この開閉操作部4の下面には、ディスク押さえ具5を脱落不能に保持する孔あき円筒形の保持部4aが形成されている。
【0020】
ディスク押さえ具5は、本体部5aと、本体部5aの上面中心部より起立された軸部5bと、軸部5bの上端より径方向に張り出された係合部5cとから構成されており、本体部5aの外径は、ターンテーブル8の外径とほぼ同程度に形成される。このディスク押さえ具5は、軸部5bを保持部4aに開設された透孔内に貫通し、係合部5cを保持部4aの内部下面に係合させることによって保持部4aに取り付けられ、回転部3と対向に配置される。本体部5aは、磁性体をもって構成されており、その内部には適量の流動体9が封入された密閉空間5dが形成されている。密閉空間5d内における流動体9の封入量は、密閉空間5dを満たさない適宜の量に設定される。
【0021】
以下、このように構成された第1実施形態例に係るディスクドライブ装置1Aの動作を図2に基づいて説明する。
【0022】
まず、開閉操作部4を上昇し、ディスク押さえ具5を回転部3から離隔した状態で、回転部3のターンテーブル8にディスク状記録媒体11を装着する。ディスク状記録媒体11は、樹脂の射出成形品からなる基板12に例えば光記録材料、磁気記録材料、光磁気記録材料又はホログラム材料などからなる情報記録層13を形成したもので、基板12の中心部には、直径が回転スピンドル7の外径よりもやや大きいセンタ孔12aが開設されている。ターンテーブル8へのディスク状記録媒体11の装着は、センタ孔12a内に回転スピンドル7を挿入し、ディスク状記録媒体11の下面をターンテーブル8に密着させることにより行われる。これにより、ターンテーブル8へのディスク状記録媒体11の装着と、回転スピンドル7に対するディスク状記録媒体11の心出しとが完了する。なお、図2の例では、単板構造のディスク状記録媒体11が用いられているが、本発明の要旨はこれに限定されるものではなく、2枚の記録単板を接着剤を介して貼り合わせた密着貼り合わせ構造のディスク状記録媒体など、公知に属する任意のディスク状記録媒体を用いることができる。
【0023】
次いで、開閉操作部4を下降し、ディスク押さえ具5の下面をターンテーブル8上に装着されたディスク状記録媒体11の上面に当接する。開閉操作部4は、ディスク押さえ具5の下面がディスク状記録媒体11の上面に当接した後も下降を継続し、図2の状態になった段階で、図示しないドライブ装置の本体部に保持される。したがって、開閉操作部4がドライブ装置の本体部に保持された状態においては、開閉操作部4とディスク押さえ具5との係合が解除され、ディスク押さえ具5は、ターンテーブル8に備えられたマグネット8aに吸引されて、ディスク状記録媒体11をクランプする。ディスク押さえ具5は、ターンテーブル8及びディスク状記録媒体11と共に回転駆動される。
【0024】
図2に示すように、樹脂の射出成形品からなる基板12を備えたディスク状記録媒体11には、基板の厚みむらdに起因するインバランスが必然的に生じている。したがって、このインバランスを生じているディスク状記録媒体11をターンテーブル8とディスク押さえ具5との間でクランプすると、ディスク押さえ具5は、基板12の厚みむらdを生じている方向とは逆側に、基板11の厚みむらdに応じた量だけ傾斜し、密閉空間5d内に封入された流動体9がディスク押さえ具5の傾斜に沿って一方向に移動する。これにより、基板12の厚みむらdに起因するディスク状記録媒体11のインバランスが流動体9の移動によって緩和又は解消されるので、第1実施形態例に係るディスクドライブ装置1Aによれば、ディスク状記録媒体11を高速で回転した場合にも、回転系の振動が緩和されると共に、回転系の振動に起因する騒音及び記録再生特性の劣化が抑制され、さらにはディスク状記録媒体11の破壊が防止される。
【0025】
市販されているディスク状記録媒体を第1実施形態例に係るディスクドライブ装置1Aとディスク押さえ具内に流動体が内蔵されていない従来例に係るディスクドライブ装置とに装着して12000rpmで回転したところ、従来例に係るディスクドライブ装置を用いた場合には、ディスク状記録媒体の振幅が約100μmで、ディスクドライブ装置の騒音レベルが約70dBであったのに対し、第1実施形態例に係るディスクドライブ装置1Aを用いた場合には、ディスク状記録媒体の振幅が約70μmで、ディスクドライブ装置の騒音レベルが約50dBとなり、第1実施形態例に係るディスクドライブ装置1Aは、記録再生時におけるディスク状記録媒体の振動及びディスクドライブ装置の騒音の抑制に顕著な効果があることがわかった。
【0026】
次に、第2実施形態例に係るディスクドライブ装置1Bについて説明する。図3に示すように、第2実施形態例に係るディスクドライブ装置1Bは、ディスク押さえ具5の下面に弾性シート21を設け、当該弾性シート21をディスク状記録媒体11の上面に当接するようにしたことを特徴とする。
【0027】
弾性シート21としては、所要の厚みを有するゴムシートや合成樹脂シートを用いることができる。また、ディスク押さえ具5への取付方法としては、接着や融着などを用いることができる。その他の部分については、第1実施形態例に係るディスクドライブ装置1Aと同じであるので、対応する部分に同一の符号を付して説明を省略する。
【0028】
本例のディスクドライブ装置1Bは、ディスク押さえ具5の下面に弾性シート21を設け、当該弾性シート21をディスク状記録媒体11の上面に当接するようにしたので、ディスク状記録媒体11の振動を吸収することができ、回転駆動時における回転系の騒音をより軽減することができる。市販されているディスク状記録媒体を第2実施形態例に係るディスクドライブ装置1Bとディスク押さえ具の下面に弾性シートが設けられていない従来例に係るディスクドライブ装置とに装着して10000rpmで回転したところ、従来例に係るディスクドライブ装置を用いた場合には、ディスク状記録媒体の振幅が約150μmであったのに対し、第2実施形態例に係るディスクドライブ装置1Bを用いた場合には、ディスク状記録媒体の振幅が約60μmとなり、第2実施形態例に係るディスクドライブ装置1Bも、記録再生時におけるディスク状記録媒体の振動及びディスクドライブ装置の騒音の抑制に顕著な効果があることがわかった。
【0029】
次に、第3実施形態例に係るディスクドライブ装置1Cについて説明する。図4に示すように、第3実施形態例に係るディスクドライブ装置1Cは、ディスク押さえ具5の下面に弾性シート21を設けると共に、その外周に当該弾性シート21を構成する弾性体よりも硬質の材料からなるガードリング22を設けたことを特徴とする。
【0030】
ガードリング22は、硬質の合成樹脂材料や金属材料をもって形成することができ、ディスク押さえ具5と不可分の一体に形成することもできるし、ディスク押さえ具5と別体に形成したものをディスク押さえ具5の外周に嵌合することもできる。その他の部分については、第2実施形態例に係るディスクドライブ装置1Bと同じであるので、対応する部分に同一の符号を付して説明を省略する。
【0031】
本例のディスクドライブ装置1Cは、ディスク押さえ具5の下面に弾性シート21を設けたので、回転駆動時における回転系の騒音を軽減できると共に、その外周に硬質のガードリング22を設けたので、ディスク状記録媒体11の厚みむらdに応じた角度だけディスク押さえ具5を正確に傾斜させることができ、ディスク状記録媒体11のインバランスに起因する振動や騒音を抑制する効果を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】第1実施形態例に係るディスクドライブ装置の構成図である。
【図2】第1実施形態例に係るディスクドライブ装置の使用状態の説明図である。
【図3】第2実施形態例に係るディスクドライブ装置の構成図である。
【図4】第3実施形態例に係るディスクドライブ装置の構成図である。
【符号の説明】
【0033】
1A,1B,1C ディスクドライブ装置
2 基体
3 回転部
4 開閉操作部
5 ディスク押さえ具
5d 密閉空間
6 回転モータ
7 回転スピンドル
8 ターンテーブル
9 流動体
11 ディスク状記録媒体
21 弾性シート
22 ガードリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスク状記録媒体の回転部と、前記ディスク状記録媒体を前記回転部に押し付けるディスク押さえ具と、前記ディスク押さえ具を前記回転部に接近させる方向又は前記回転部から離隔させる方向に移動する開閉操作部とを備えたディスクドライブ装置において、前記ディスク押さえ具の内部に適量の流動体を封入した密閉空間を形成すると共に、前記開閉操作部に前記ディスク押さえ具を揺動可能に取り付けたことを特徴とするディスクドライブ装置。
【請求項2】
前記ディスク押さえ具のディスク押さえ面を弾性シートにて形成したことを特徴とする請求項1に記載のディスクドライブ装置。
【請求項3】
前記弾性シートの外周に当該弾性シートを構成する弾性体よりも硬質の材料からなるガードリングを設けたことを特徴とする請求項2に記載のディスクドライブ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−18674(P2007−18674A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−201887(P2005−201887)
【出願日】平成17年7月11日(2005.7.11)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】