ディスク読出信号を前処理する方法および光ディスクドライブ
本発明は、光ドライブのディスク読出信号rkを、低域通過フィルタの組に基づいて前処理する方法、および光ドライブを開示するものである。より具体的には、フィルタwkのカットオフ周波数fcを光帯域幅内に設定し、それにより、高速ドライブ動作の場合におけるビタビ検出性能を改善することができる。3つのタイプのフィルタを説明する。そのうちタイプI整形フィルタが、ビット検出器に関し限られたハードウェアコストの下では、最も良好に機能する。これは、他のより高度なノイズホワイト化技術と比較して、単に速度依存のものであり、チャネルおよびノイズの事前知識をほとんど必要とせず、したがって設計容易かつ安価である。本発明は、光ディスクドライブに関して適用することができ、とりわけ高周波ノイズが支配的である場合、たとえば高速動作の場合に適用することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスク読出信号rkを前処理するプリプロセッサ手段と、前処理されたディスク読出信号ykに基づいてビット判定を行う検出器手段とを含む、光ディスクドライブに関するものである。
【0002】
本発明はさらに、光ドライブのディスク読出信号rkを前処理する方法にも関するものである。
【背景技術】
【0003】
光ディスクドライブでは、検出器は、適切に前処理されたディスク読出信号に対して、ビット判定を行う。この前処理には、たとえば、DC変動ならびに高周波(電子)ノイズを除去するための低域通過ならびに高域通過フィルタリング、自動ゲイン制御、(適応型)チャネルイコライゼーション、およびタイミングリカバリが含まれる。この前処理は、ビット判定に先立って、信号対雑音比(SNR)を最適化することを目的としている。この前処理は、低域通過および高域通過フィルタリングを用いる場合のように固定されたやり方で行われてもよいし、適応型チャネルイコライゼーションを用いる場合のように動的なやり方で行われてもよい。読出処理は、図1に示すように、離散時間領域中においてモデリングすることができ、ここで、ak、nkおよびrkは、それぞれ二値入力信号、添加されるノイズ、および読出信号を表している。hkは光学的チャネルのシンボル応答を表し、wkは信号前処理のためのフィルタであり、ykは検出器へと出力される出力信号である。
【0004】
SNRは、検出のタイプに応じて、異なる態様で最適化される。閾値検出においては、閾値を超えるデータサンプルに対して1が検出され、閾値未満のデータサンプルに対して0が検出される。ここで、ディスク上における最も短いエフェクト(すなわちランレングス)、たとえば、ブルーレイにおける2つの連続する1または0(いわゆるI2)や、CDまたはDVDにおける3つの連続する0または1(いわゆるI3)は、光学的チャネルの低域通過特性のため最も低い振幅を有し、したがってノイズに最も弱いため、かかる最も短いエフェクトの読出しは最も重要である。この場合、全周波数帯に亘る合計のSNRが与える有意性がより低いときには、単にイコライザ−を用いてI2(またはI3)の振幅を増強することにより、SNRを改善することができる。
【0005】
一方、最尤シーケンス検出(MLSD)やビタビ検出のようなシーケンス検出では、ビット判定は、シーケンスごとに行われる。これは、異なるデータ周波数が、等しい重要性を有するものとされ、最適化に際してすべての周波数に亘るSNRの積分量が考慮に入れられなくてはならないことを意味する。
【0006】
J.W.M.Bergmans、「Digital Baseband Transmission and Recording(デジタルベースバンド送信および記録)」、Kluwer Academic Publishers、1996年では、いわゆるマッチドフィルタ境界(matched filter bound)ρMFBが規定されている。これは、検出前の信号対雑音比の上限境界である。図1にモデリングされている光読出し(通常、負の過剰帯域幅によって特徴づけられる)においては、ρMFBは、
と規定することができる。ここでTは、サンプリング期間、またはそれと等価な空間的表現であるチャネルビット長TCBLを表す。H(f)およびN(f)はそれぞれ、hkのフーリエ変換、およびnkのパワースペクトル密度(PSD)を表す。ノイズがホワイトノイズである場合、すなわちN(f) = N0である場合には、マッチドフィルタ境界は、
と簡略化される。ワンショット受信器については、wkがフーリエ変換
を伴うマッチドフィルタに等しく、かつシンボル間干渉(ISI)が存在しない場合(すなわち単一のビットを送信している場合)には、ρMFBを実現することができる。ここで記号「*」は、時間反転と類似の空間領域表現である、複素共役を表している。
【0007】
MLSDまたはビタビ検出については、検出のための必要なモデル出力を生成するのに、(検出器までの)厳密なチャネル応答、すなわち(h * w)k(「*」は線形畳込みを表す)が採用されるものと仮定すると、具体的な検出前信号対雑音比ρMLSDとして、以下の形式を有するρMLSDを規定することができる[1]。
ここで、
は許容されるすべてのビットエラーパターンを含む組Sからの、1つの入力を表している。十分高いSNRにおいては、MLSDの検出性能は、式(3)の規定による具体的なビットエラーパターンに対応する、最も低い検出前SNRによって決定されることが分かっている。閾値検出においてはそうではないが、ここでは、ノイズのPSDがチャネルスペクトルによって整形されることが分かる。単一ビットのエラーが優勢であり(すなわち
であり)、wkが
であるようなノイズホワイト化フィルタの形態をとる場合には、式(3)は、(定数までが)式(1)と同一となり、これはρMFBが得られることを意味する。詳細な理由づけについては、[1]のチャプター3を参照されたい。
【0008】
実際には、多くの理由のため、ρMFBは容易に実現できるものではない。ノイズは、ドライブごと、ディスクごと、さらには異なる動作条件に応じて駆動ごとに異なるため、ノイズを理想的にホワイト化することはできない。すなわち、ビタビ検出器内では、通常、参照モデル出力を生成するため、実際のチャネル応答(h * w)k(またはwk = 1の場合はhk)の近似として、有限インパルス応答(FIR)フィルタが使用される。FIRフィルタのタップ数は、検出における計算の複雑さを直接決定し、5タップまたは7タップのモデルあたりが現実的なコストのモデルである。したがって、余剰のノイズ成分として、残存ISIに起因するモデリングエラーがチャネル内に現れる。加えて、たとえば高密度チャネルのために、時として複数ビットのエラーが優勢となることもある。
【0009】
チャネルおよびノイズの知識を利用することを要さずにノイズのホワイト化を実現しようとする、適応型の方法がいくつか知られている。たとえば、Eleftheriou、W.Hirt、「Noise−Predictive Maximum−Likelihood Detection for Magnetic Recording Channel(磁気記録チャネルのためのノイズ予測最尤検出)」、IEEE会議記録ICC '96、第556−560頁、1996年6月、およびH.Yamagishi、M.Noda、「Evaluation of RLL codes using simulation and experimental data(シミュレーションおよび実験データを利用したRLLコードの評価)」、フィリップス−ソニー QTBミーティング、東京、2005年9月より、かかるアプローチの2つの例が知られている。前者は、ノイズシーケンスを推定し、そのノイズシーケンスを、非相関シーケンスに向かってサンプルベースで補正する方法である。後者は、同様にノイズ推定を取得して、その後、ノイズをホワイト化するために信号(データとノイズとの両方)をフィルタリングする方法である。いずれの方法もビット判定を目的とするものであり、したがってビット同期領域において実行される必要がある。第1の例は、ビットエラーに対して極度に敏感であり、実用という観点からは不利である。第2の例は、内在する低帯域幅のパラメータ更新のため、ビットエラーに対しては幾分ロバスト性が高いが、この方法はチャネル特性を変更するものであり、通常、許容できないほど広いチャネルスパンをもたらしてしまう。
【0010】
図2には、1Xの回転速度で回転する25GBのBDにおける、信号およびノイズのスペクトルがプロットされている。データ曲線は、データスペクトル
を表しており、これは記録されたビットシーケンスに対するd = 1の制約を考慮に入れなければ、
に近似的に等しい。このノイズ曲線は、主として媒体ノイズ(主に低周波数において)および電子ノイズ(主に高周波数において)に起因する、ノイズN(f)のPSDである。チャネルビット長がTCBL = 74.5nmである25GBの形態では、ボーレートfbaud = 1/TCBLの単位でいうと、光学的カットオフfoptは0.313に等しく、臨界周波数fI2は0.25に等しい(図中に垂直矢印で示されている)。
【0011】
データスペクトルとノイズスペクトルとの関係は、ドライブがより速い速度で動作すると変化する。一例として、8Xのディスク回転速度におけるスペクトルが、図3にプロットされている。より速い回転速度は、より多くの電子ノイズが信号帯に入り込むことを許し、その振幅は回転速度に比例するため、合計のノイズレベル(媒体ノイズは基本的に変わらないままである)は、とりわけ高周波数帯において、顕著に高くなる。8X速における電子ノイズレベルは、1Xにおける電子ノイズレベルと比較して、約27dB大きくなる。このため、ノイズスペクトルの重心が、高周波数帯にシフトする。さらに高い動作速度においては、このシフトがさらに顕著になることが想像できよう。
【0012】
最初に述べたように、ビタビ検出において必要とされるFIRチャネルモデルのタップ数は、コスト的に許容可能な計算の複雑さにより制約される。通常は、5タップのFIRフィルタが適用され、このことは、追加のノイズ源としてモデリングエラーが常に存在することを意味する。図2および図3におけるノイズ+モデルエラーの曲線は、ビタビ検出器が5タップモデルを使用した場合のノイズスペクトルを示している。元々のノイズスペクトルの上に、いくつかのローブが加わっていることが見て取れよう。これは、信号とノイズとの関係を顕著に変えてしまうものである。
【0013】
これらの曲線から、2つのことが見て取れる。第1の点は、ρMFBを実現するために必要とされるノイズのホワイト度は、そのチャネルモデルに与えられる異なるタップ数、および異なる速度によって、非常に異なるという点である。第2の点は、より速い速度を求めると、ノイズの重心が高周波数帯の方向により大きくシフトするという点である。8X速においては、高周波ノイズのレベルは、I2データ信号レベルを超えるまでに大きくなる。このことは、ビタビ検出器は、最大の検出前SNRを目指しながら、依然として全周波数帯の情報を考慮に入れるものであるという直感に、相反するものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の1つの目的は、冒頭で述べたタイプの方法および光ドライブをさらに発展させて、最終的な目標(すなわちρMFB)に可能な限り近づくよう、上記の式(3)の形式による検出前SNRを改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の目的は、独立請求項に記載の特徴により解決することができる。好ましい実施形態およびさらなる発展形態は、従属請求項で規定されている。
【0016】
本発明の第1の側面によれば、ディスク読出信号rkを前処理するプリプロセッサ手段と、前処理されたディスク読出信号ykに基づいてビット判定を行う検出器手段とを含む光ディスクドライブであって、上記のプリプロセッサ手段が、フーリエ変換W(f)と、光帯域幅内のカットオフ周波数fcとを有する、低域通過フィルタ手段wkを含んでいることを特徴とする光ディスクドライブが提供される。本発明によって用いられる低域通過フィルタは、理想的でありそれがゆえに複雑なノイズのホワイト化を行わずに、(モデリングエラーを含む)可能な限り多くのノイズをしぼり出して除去することにより最適な検出前SNRを目指し、一方では、処理中におけるデータ情報の損失を、たとえばビタビ検出によって回復可能な状態に保持し、それらによっても可能な限り平坦なノイズスペクトルを獲得するものである。低域通過フィルタは、好ましくは、ビット非同期領域において作用でき(したがってタイミングリカバリに有利であり)、かつビット判定の助けを借りずに作用できる(したがってエラー伝搬の問題を有さない)ものとされる。好ましいカットオフ周波数としては、たとえば、4Xを超える速度においてTCBL = 74.5nm(25GB)である場合には、
の範囲内の周波数が挙げられる。
【0017】
少なくとも一部の実施形態においては、低域通過フィルタ手段wkは、IIRタイプの低域通過フィルタ、FIRタイプの低域通過フィルタ、および等リプルタイプの低域通過フィルタ
の各フィルタタイプのうちの、少なくとも1つを含んでいることが好ましい。たとえば、カットオフ周波数を超える周波数成分のみが抑制され、かつ通過帯域の変形は最小限に保たれるように、等リプル低域通過フィルタを設計することが可能である。かかる等リプル低域通過フィルタをディスク読出信号の前処理に用いることは、ハードカットオフを有する仮想的な新しい光学的チャネルをもたらす。いくつかのケースではFIRタイプの低域通過フィルタを用いた方がより良好な結果が得られるが、IIRタイプの低域通過フィルタの方が複雑性が低く、とりわけ複雑性が重要な要素である場合においては、IIRタイプの低域通過フィルタを用いることもできる。
【0018】
また、低域通過フィルタ手段wkが、
で近似されるフーリエ変換を有する少なくとも1つのノイズホワイト化タイプの低域通過フィルタ
を有する形態も可能である。ここで、N(f)は、添加されるノイズnkのパワースペクトル密度を表している。ノイズのPSD N(f)は厳密には分からないのが通常であるので、近似が必要である。しかしながら、チャネルおよびノイズの事前知識に基づいて、良好な近似を行うことが可能である。それにより、(等リプル低域通過フィルタと比較して)緩やかなロールオフを有する低域通過フィルタの組を設計し、したがって時間領域内におけるタップ数をより少なくすることが可能である。
【0019】
本発明に係るディスクドライブの少なくとも一部の実施形態では、低域通過フィルタ手段wkが、少なくとも1つの
タイプの低域通過フィルタを含んでいることが好ましい。ここで、記号*は線形畳込演算を表している。これが好ましいのは、トリプル成分(triples)の存在のため、
タイプの低域通過フィルタの光帯域外での減衰は、一般的に、
タイプの低域通過フィルタの光帯域外での減衰ほど強くないためである。このことは、たとえばモデリングエラーの存在下において、ビタビ検出が帯域外ノイズに敏感であるような場合には、性能の損失に繋がり得る。そのため、
タイプの低域通過フィルタを用いれば改善が可能であり、その際、
のカットオフ周波数は、最も単純なケースではfoptに等しい周波数とされ得る。
【0020】
全般的に、検出器手段は、最尤シーケンス検出器またはビタビ検出器を含んでいることが好ましい。これらの検出器は当業者にはよく知られているので、ここでさらなる説明を加える必要はない。
【0021】
本発明の第2の側面によれば、光ドライブのディスク読出信号rkを前処理する方法であって、当該前処理が、フーリエ変換W(f)と光帯域幅内のカットオフ周波数fcとを有する低域通過フィルタ手段wkを用いて、上記のディスク読出信号rkを低域通過フィルタリングする処理を含むことを特徴とする方法が提供される。これにより、光ドライブに関連して上記で説明した特徴および利点が、方法に従っても実現される。
【0022】
提案されるフィルタはすべて、低域通過特性を有するものである。これらのフィルタは、検出前SNRを改善するべく、検出前において、データチャネルとノイズチャネルとの両方を再整形する。ノイズの抑制とモデリングエラーとの間のトレードオフに応じて、とりわけ、上記で説明され以下において図面を参照してさらに詳細に説明される、3つのタイプのフィルタを用いることができる。
【0023】
本発明の上記およびその他の側面は、以下で説明される実施形態を参照することにより、明らかとされる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】光ディスク読出処理の離散時間領域モデルを示した図
【図2】1X速におけるBD信号およびノイズスペクトルを示した図
【図3】8X速におけるBD信号およびノイズスペクトルを示した図
【図4】本発明に係る方法を実行するのに適した、本発明に従う光ドライブの概略ブロック図
【図5】それぞれ50dB、30dBおよび13.5dBのストップバンド減衰を有する、3つのタイプIのFIR低域通過フィルタのスペクトルを示した図
【図6】複数の異なる速度におけるΔρMLSDとfcとの関係を示した図(1X、8X、10Xおよび12Xにつき、fc = 0.5におけるρMLSDは、それぞれ15.1dB、17dB、14.3dBおよび12.1dBに等しくなっている)
【図7】複数の異なる速度におけるΔρMLSDとfcとの関係を示した図(1X、8X、10Xおよび12Xにつき、fc = 0.5におけるρMLSDは、それぞれ14.2dB、15.4dB、13.45dBおよび11.56dBに等しくなっており、ビタビ検出のため、5タップのチャネルモデルが使用されている)
【図8】タイプIIの整形フィルタwIIkのスペクトルを示した図
【図9】タイプIおよびタイプIIの整形フィルタにつき、ビタビチャネルモデルのスパンの関数として、ρMLSDを示した図
【図10】3つのタイプIIIのFIR整形フィルタのスペクトルを示した図(畳込みのため、fc = 0.3と50dBのストップバンド減衰とを有する201タップのw(I)kが採用されている)
【図11】8X速の25GBのBDにつき、異なる整形フィルタを用いたビタビ検出のチャネルビットエラーレートを示した図
【発明を実施するための形態】
【0025】
図4は、本発明に係る方法を実行するのに適した、本発明に従う光ドライブの概略ブロック図である。光ディスクドライブ10は、図1を参照して既に説明したような、光ディスク読出処理の離散時間領域モデルを実現する。ここで、ak、nkおよびrkは、それぞれ二値入力信号、添加されるノイズ、および読出信号を表している。hkは光学的チャネルのシンボル応答を表す。前処理手段12は、光帯域幅内においてカットオフ周波数fcを有する低域通過フィルタとしてwkを含んでいる。ykは、検出器14(好ましくはビタビ検出器)へと出力される出力信号である。低域通過フィルタwkは、以下で説明するような低域通過フィルタ
として実現することができる。
【0026】
図5には、比較的急なロールオフを有する等リプルタイプの3つのFIRフィルタのスペクトルがプロットされている。光学的チャネルに対するフィルタの通過帯域(パスバンド)およびストップバンドの関係を示すため、同図には、8XのBD信号およびノイズスペクトルもプロットされている。必要条件に応じて、ストップバンドにおける減衰係数およびロールオフの速さを、異なる設計とすることができる。一般的に、より急なロールオフおよびより激しいストップバンド減衰は、より多くのタップを必要とする。複雑さを減らすため(より低次とするため)、無限インパルス応答(IIR)型のフィルタを用いることも考えられる。チャネル位相特性の非線形の変形を生じさせないようにするため、フィルタの位相周波数応答は、線形タイプの応答とするべきである。
【0027】
タイプI整形フィルタ
は、カットオフfcを超える周波数成分のみが抑制され、通過帯域の変形が最小限に保たれるように設計されている。これにより、
の「ハード」カットオフを有する新たな光学的チャネルが、人工的に生成されたように見える。ここで、この基準で設計されたフィルタを、タイプI整形フィルタ
と呼ぶこととする。カットオフ周波数fcは、検出前SNRすなわちρMLSDが、最適化されるように選択されるべきである。図6には、異なる複数のディスク回転速度について、相対的なρMLSDの値(ΔρMLSD)が、fcの関数としてプロットされている。ΔρMLSDは、fc = 0.5のときの値(すなわち、整形フィルタが適用されていない場合の値)に対する、ρMLSDのずれとして定義されている。ρMLSDの計算に際しては、31タップのFIRモデルがビタビ検出器内で使用されると仮定しており、このことはモデリングエラーは無視できることを意味する。シミュレーションには、201タップのフィルタが選択された。1X速においては、20dBの媒体ノイズが付加されて、ある特定のビットエラーレートを有することとなるが、他の速度においては、媒体ノイズは存在しない。1X速においては、ノイズをある程度ホワイト化する、[−5,0,32,0,−5]/32なる固定の5タップイコライザ−が使用される。
【0028】
モデリングエラーがない場合には、ビタビ検出器は基本的にチャネル外のノイズに対して敏感でないので、fc ≧ foptのときは何も起こらない。fc < foptになると、高速におけるρMLSDは、まずより高くなってから、fcがさらに低すぎる値になると顕著に落ち込む。一方、低速におけるρMLSDは、fcと共に単調減少する。このことは、以下のように説明することができる。媒体ノイズが支配的である低速であろうと、電子ノイズがより問題となる高速であろうと、fc < foptの場合の
は、一般的に、ノイズスペクトルをより平坦な形状に、すなわちよりホワイト状態に近い形状に再整形する。このことは、ビタビ検出にとって有利であり、ρMLSDの増大へと繋がる。一方、fc < foptのときには、データ情報の一部が破棄される。ビタビ検出器は、その特性のため、I2情報のみが損なわれた場合には依然としてデータを取り出すことができるが、一般的には、I3関連の情報も損なわれた場合には故障が生じてしまう。しかしながら、データの損失に起因して、ρMLSDは減少する傾向がある。ノイズのホワイト化による増大が優勢である限りは、ρMLSDでいうところの検出性能は改善する。これがまさに、高速状態で起きている事象である。高速においては、ρMLSDはノイズのフラット化の利益をより多く受け、比較的多くのノイズ成分がカットされるので、最適なfcの位置は、速度が高まるにつれて、より低周波数の位置にシフトする。このことも、高速におけるより大きなρMLSDのゲインに繋がる。
【0029】
図7では、チャネルモデルのタップ数を5タップに制限して、図6に示されたΔρMLSDの値が再計算され、プロットされている。ここでは、追加のノイズ源として、モデリングエラーを考慮しなくてはならない。そのため、ρMLSDは約1.5〜2dB落ち込む。しかしながら、モデリングエラーの存在が、ノイズスペクトルをいくらかホワイト化し(図3参照)、したがって
のノイズ平坦化効果を弱める。このことは、図6に示した状況と比較して、高速ではより高いfcにおいて最適なρMLSDが生じ、低速ではfcが減少するにつれてρMLSDがより速く落ち込む状況をもたらす。ここで、ノイズとモデリングエラーとの両方、すなわちより多くのノイズ成分がカットされるため、ρMLSDのゲインは、より大きくなるのが一般的である。興味深いことに、ρMLSDは、常にfc < 0.5のときに増大し始める。これは、モデリングエラーが存在する際には、ビタビ検出器は、帯域外のノイズに敏感になるためである。
【0030】
結論として、カットオフ周波数がfc < foptである、またはより強力にはfc < fI2(ただし依然としてfc < fI3)であるところの単純な
フィルタは、高周波数ノイズが支配的である高速において、ビタビ性能を改善する。
【0031】
従来より、ディスクの回転速度は、ユーザデータレートによって規定される。たとえば、1XのBDは36Mb/s、すなわちレーザー走査速度にして4.95m/sといった具合である。CLV(線速度一定)のモードでは、1つのディスク全体に亘って速度は一定のままであるが、CAV(角速度一定)またはゾーンCAVモードでは、内径側から外径側に進むにつれて、速度は(2倍を超える大きさに)増大する。このことは、ユーザデータレートで表すところのディスク回転速度が変化することを意味する。図5および図6より、全般的に、最適なfcは速度の関数であり、fcが最適値からずれていくとρMLSDが急激に落ち込み、とりわけfcが小さくなりすぎると急激に落ち込むことが分かる。これは、目標速度よりも高い速度において使用されるフィルタとして解釈することができる。この場合、最も高い設計速度を満足するフィルタ、または各フィルタが1つの速度向けに設計されており半径方向位置に応じてドライブの動作中に切り換えられるようなフィルタ群を、設計することが可能である。
【0032】
ノイズ平坦化の観点からいうと、(h * w)kがビタビ検出におけるチャネルモデルとして使用される場合、高速においては、
であるノイズホワイト化フィルタwkが、最も良好なρMLSDの値を与える。このwkは、ずっと緩やかなロールオフを有するので、タイプI整形フィルタよりも低次のFIRフィルタにより近似することができる。通常、厳密なノイズのPSD N(f)は分からないので、理想的なwkを得ることはできない。しかしながら、チャネルおよびノイズの事前知識に基づいて、良好な近似を行うことが可能である。それにより、緩やかなロールオフを有する低域通過フィルタの組、したがって時間領域内におけるより少ないタップ数が提供される。ここでは、これらのフィルタをタイプII整形フィルタ
と呼ぶこととする。
【0033】
図8には、8XのBDに関する3つの具体例、具体的には[1,2.4,3,2.4,1]、[1,2,2.5,2,1]および[1,2,2,2,1]が示されている。これらは5タップのFIRフィルタであり、異なる周波数において、スペクトルの最初のノッチを有するフィルタである。スペクトルのノッチの位置が異なるので、ノイズの高周波コンテンツの減衰度合いは異なる。通過帯域においてほぼ平坦なスペクトルを有するタイプI整形フィルタとは異なり、タイプII整形フィルタは、原則として、ちょうどDCから減衰を開始させる。これにより、低域通過の効果がより高くなり、結果として得られるチャネルのスパン(h * w)kは、より顕著に増大する。図9には、ビタビ検出のために使用されるチャネルモデルのタップ数の関数として、ρMLSDの値がプロットされている。実際のチャネルスパンがモデルに組み込まれた場合には、201タップの
と比較して、3つの
フィルタのすべてが、より高いρMLSDの値を提供する。これは、一般的に、
フィルタの方がより良好なノイズホワイト化を行うためである。モデルのタップ数が実用的な範囲(すなわち5個程度)になると、大きなモデリングエラーのため、
フィルタについてはρMLSDが顕著に下がる一方、
フィルタについては、最適に近いレベルが保たれる。
【0034】
したがって、検出系において、チャネルモデルのタップ数が7個を超え得るようなより複雑なハードウェア構成が、コスト的に許容可能となれば、タイプII整形フィルタを使用することが好ましい。
【0035】
図8では、リプルの存在のため、タイプII整形フィルタの光帯域外における減衰は、全般的に、タイプI整形フィルタにおける同減衰ほど強くはないことが見て取れる。このことは、(たとえばモデリングエラーの存在のため)ビタビ検出が帯域外ノイズに敏感な際には、性能低下に繋がり得る。そのため、フィルタが
の形式をとれば改善が図られる。ここで、
のカットオフ周波数は、最も単純なケースでは、foptに等しくなり得る。ここでは、
をタイプIII整形フィルタと呼ぶこととする。8XのBDに対するいくつかのフィルタ例のスペクトルが、図10に示されている。ここで、タイプIIIフィルタは、タイプIフィルタの通過帯域においては、タイプIIフィルタのスペクトル形状を呈し、その他の個所では、強い減衰を有することが見て取れる。必要とされるフィルタのタップ数は、他の2つのタイプのフィルタにおけるタップ数の中間の数となる。チャネルスパンの変化は、タイプIIフィルタにおける変化と類似している。
【0036】
[シミュレーション例]
信号のデータ部分が、ブラート−ホプキンスモデル(Braat−Hopkins model)を用いて生成され、その上に媒体ノイズおよび電子ノイズが加えられた。媒体ノイズのレベルは20dBである。電子ノイズのレベルは、8Xの回転速度におけるレベルに対応する(ここで、1Xにおいて39dBである;T.P.H.G.Jansen、A.Stek、「Signal to Noise calculation model for Blu−ray Disc system(ブルーレイディスクシステムのための信号対雑音計算モデル)」、Philips Research Technical Note、2002/360、2002年参照)。5タップモデルを用いたビタビ検出器が、2組の信号に対して実行される。第1の組は、「オリジナル」と呼ぶこととする。これは、整形フィルタありおよび整形フィルタなしの4つの信号シーケンスを含んでいる。第2の組である「ISI補償済」では、低域通過フィルタリングのチャネルスパン増大が検出性能に与える影響を除去するため、いわゆるISI打消し技術を用いて、4つの信号シーケンスが前処理されている。「タイプI」は、最適化されたfcを伴う101タップの
を指す。「タイプII」は、図7に示した5タップのFIRフィルタ[1,2.4,3,2.4,1]を指す。「タイプIII」は、それら2つの線形畳込みを指す。
【0037】
結果として得られたチャネルビットエラーレート(CBER)が、図11に記録されている。タイプIの整形は、緩やかなチャネルスパンの増大を伴うノイズのホワイト度の改善のため、両方のデータセットに対するCBERを低減させているが、他の2つの整形フィルタでは、ISI打消し技術が適用された場合にのみ、CBERの低下が目に見えて認められることが見て取れる。これは、このケースでは、チャネルスパンの増大が、ノイズのホワイト度の改善を台無しにしてしまっていることを示唆している。この点は、このISI打消し技術により、またはビタビ検出のチャネルモデルに関しより多くのタップを用いることにより、解決することができる。しかしながら、後者の対策は、より多くのハードウェアコストを必要とする。
【0038】
タイプIIおよびIIIの整形フィルタは、原則としてタイプIフィルタよりも良好なノイズホワイト化を行うため、チャネル拡張の影響が補償されている場合には、電子ノイズレベルがさらに増大すると、タイプIIおよびIIIの整形フィルタを用いた際のCBERは、タイプIフィルタを用いた際のCBERよりも低くなることが予想できよう。
【0039】
本発明は、光ドライブのディスク読出信号rkを、低域通過フィルタの組に基づいて前処理する方法、および光ドライブを開示するものである。より具体的には、フィルタwkのカットオフ周波数fcを光帯域幅内に設定し、それにより、高速ドライブ動作の場合におけるビタビ検出性能を改善することができる。3つのタイプのフィルタを説明した。そのうちタイプI整形フィルタが、ビット検出器に関し限られたハードウェアコストの下では、最も良好に機能する。これは、他のより高度なノイズホワイト化技術と比較して、単に速度依存のものであり、チャネルおよびノイズの事前知識をほとんど必要とせず、したがって設計容易かつ安価である。本発明は、光ディスクドライブに関して適用することができ、とりわけ高周波ノイズが支配的である場合、たとえば高速動作の場合に適用することができる。
【0040】
最後に、上記では説明しなかった等価形態および変更形態も、特許請求の範囲で規定される本発明の技術的範囲から逸脱することなく、採用可能である点に留意されたい。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスク読出信号rkを前処理するプリプロセッサ手段と、前処理されたディスク読出信号ykに基づいてビット判定を行う検出器手段とを含む、光ディスクドライブに関するものである。
【0002】
本発明はさらに、光ドライブのディスク読出信号rkを前処理する方法にも関するものである。
【背景技術】
【0003】
光ディスクドライブでは、検出器は、適切に前処理されたディスク読出信号に対して、ビット判定を行う。この前処理には、たとえば、DC変動ならびに高周波(電子)ノイズを除去するための低域通過ならびに高域通過フィルタリング、自動ゲイン制御、(適応型)チャネルイコライゼーション、およびタイミングリカバリが含まれる。この前処理は、ビット判定に先立って、信号対雑音比(SNR)を最適化することを目的としている。この前処理は、低域通過および高域通過フィルタリングを用いる場合のように固定されたやり方で行われてもよいし、適応型チャネルイコライゼーションを用いる場合のように動的なやり方で行われてもよい。読出処理は、図1に示すように、離散時間領域中においてモデリングすることができ、ここで、ak、nkおよびrkは、それぞれ二値入力信号、添加されるノイズ、および読出信号を表している。hkは光学的チャネルのシンボル応答を表し、wkは信号前処理のためのフィルタであり、ykは検出器へと出力される出力信号である。
【0004】
SNRは、検出のタイプに応じて、異なる態様で最適化される。閾値検出においては、閾値を超えるデータサンプルに対して1が検出され、閾値未満のデータサンプルに対して0が検出される。ここで、ディスク上における最も短いエフェクト(すなわちランレングス)、たとえば、ブルーレイにおける2つの連続する1または0(いわゆるI2)や、CDまたはDVDにおける3つの連続する0または1(いわゆるI3)は、光学的チャネルの低域通過特性のため最も低い振幅を有し、したがってノイズに最も弱いため、かかる最も短いエフェクトの読出しは最も重要である。この場合、全周波数帯に亘る合計のSNRが与える有意性がより低いときには、単にイコライザ−を用いてI2(またはI3)の振幅を増強することにより、SNRを改善することができる。
【0005】
一方、最尤シーケンス検出(MLSD)やビタビ検出のようなシーケンス検出では、ビット判定は、シーケンスごとに行われる。これは、異なるデータ周波数が、等しい重要性を有するものとされ、最適化に際してすべての周波数に亘るSNRの積分量が考慮に入れられなくてはならないことを意味する。
【0006】
J.W.M.Bergmans、「Digital Baseband Transmission and Recording(デジタルベースバンド送信および記録)」、Kluwer Academic Publishers、1996年では、いわゆるマッチドフィルタ境界(matched filter bound)ρMFBが規定されている。これは、検出前の信号対雑音比の上限境界である。図1にモデリングされている光読出し(通常、負の過剰帯域幅によって特徴づけられる)においては、ρMFBは、
と規定することができる。ここでTは、サンプリング期間、またはそれと等価な空間的表現であるチャネルビット長TCBLを表す。H(f)およびN(f)はそれぞれ、hkのフーリエ変換、およびnkのパワースペクトル密度(PSD)を表す。ノイズがホワイトノイズである場合、すなわちN(f) = N0である場合には、マッチドフィルタ境界は、
と簡略化される。ワンショット受信器については、wkがフーリエ変換
を伴うマッチドフィルタに等しく、かつシンボル間干渉(ISI)が存在しない場合(すなわち単一のビットを送信している場合)には、ρMFBを実現することができる。ここで記号「*」は、時間反転と類似の空間領域表現である、複素共役を表している。
【0007】
MLSDまたはビタビ検出については、検出のための必要なモデル出力を生成するのに、(検出器までの)厳密なチャネル応答、すなわち(h * w)k(「*」は線形畳込みを表す)が採用されるものと仮定すると、具体的な検出前信号対雑音比ρMLSDとして、以下の形式を有するρMLSDを規定することができる[1]。
ここで、
は許容されるすべてのビットエラーパターンを含む組Sからの、1つの入力を表している。十分高いSNRにおいては、MLSDの検出性能は、式(3)の規定による具体的なビットエラーパターンに対応する、最も低い検出前SNRによって決定されることが分かっている。閾値検出においてはそうではないが、ここでは、ノイズのPSDがチャネルスペクトルによって整形されることが分かる。単一ビットのエラーが優勢であり(すなわち
であり)、wkが
であるようなノイズホワイト化フィルタの形態をとる場合には、式(3)は、(定数までが)式(1)と同一となり、これはρMFBが得られることを意味する。詳細な理由づけについては、[1]のチャプター3を参照されたい。
【0008】
実際には、多くの理由のため、ρMFBは容易に実現できるものではない。ノイズは、ドライブごと、ディスクごと、さらには異なる動作条件に応じて駆動ごとに異なるため、ノイズを理想的にホワイト化することはできない。すなわち、ビタビ検出器内では、通常、参照モデル出力を生成するため、実際のチャネル応答(h * w)k(またはwk = 1の場合はhk)の近似として、有限インパルス応答(FIR)フィルタが使用される。FIRフィルタのタップ数は、検出における計算の複雑さを直接決定し、5タップまたは7タップのモデルあたりが現実的なコストのモデルである。したがって、余剰のノイズ成分として、残存ISIに起因するモデリングエラーがチャネル内に現れる。加えて、たとえば高密度チャネルのために、時として複数ビットのエラーが優勢となることもある。
【0009】
チャネルおよびノイズの知識を利用することを要さずにノイズのホワイト化を実現しようとする、適応型の方法がいくつか知られている。たとえば、Eleftheriou、W.Hirt、「Noise−Predictive Maximum−Likelihood Detection for Magnetic Recording Channel(磁気記録チャネルのためのノイズ予測最尤検出)」、IEEE会議記録ICC '96、第556−560頁、1996年6月、およびH.Yamagishi、M.Noda、「Evaluation of RLL codes using simulation and experimental data(シミュレーションおよび実験データを利用したRLLコードの評価)」、フィリップス−ソニー QTBミーティング、東京、2005年9月より、かかるアプローチの2つの例が知られている。前者は、ノイズシーケンスを推定し、そのノイズシーケンスを、非相関シーケンスに向かってサンプルベースで補正する方法である。後者は、同様にノイズ推定を取得して、その後、ノイズをホワイト化するために信号(データとノイズとの両方)をフィルタリングする方法である。いずれの方法もビット判定を目的とするものであり、したがってビット同期領域において実行される必要がある。第1の例は、ビットエラーに対して極度に敏感であり、実用という観点からは不利である。第2の例は、内在する低帯域幅のパラメータ更新のため、ビットエラーに対しては幾分ロバスト性が高いが、この方法はチャネル特性を変更するものであり、通常、許容できないほど広いチャネルスパンをもたらしてしまう。
【0010】
図2には、1Xの回転速度で回転する25GBのBDにおける、信号およびノイズのスペクトルがプロットされている。データ曲線は、データスペクトル
を表しており、これは記録されたビットシーケンスに対するd = 1の制約を考慮に入れなければ、
に近似的に等しい。このノイズ曲線は、主として媒体ノイズ(主に低周波数において)および電子ノイズ(主に高周波数において)に起因する、ノイズN(f)のPSDである。チャネルビット長がTCBL = 74.5nmである25GBの形態では、ボーレートfbaud = 1/TCBLの単位でいうと、光学的カットオフfoptは0.313に等しく、臨界周波数fI2は0.25に等しい(図中に垂直矢印で示されている)。
【0011】
データスペクトルとノイズスペクトルとの関係は、ドライブがより速い速度で動作すると変化する。一例として、8Xのディスク回転速度におけるスペクトルが、図3にプロットされている。より速い回転速度は、より多くの電子ノイズが信号帯に入り込むことを許し、その振幅は回転速度に比例するため、合計のノイズレベル(媒体ノイズは基本的に変わらないままである)は、とりわけ高周波数帯において、顕著に高くなる。8X速における電子ノイズレベルは、1Xにおける電子ノイズレベルと比較して、約27dB大きくなる。このため、ノイズスペクトルの重心が、高周波数帯にシフトする。さらに高い動作速度においては、このシフトがさらに顕著になることが想像できよう。
【0012】
最初に述べたように、ビタビ検出において必要とされるFIRチャネルモデルのタップ数は、コスト的に許容可能な計算の複雑さにより制約される。通常は、5タップのFIRフィルタが適用され、このことは、追加のノイズ源としてモデリングエラーが常に存在することを意味する。図2および図3におけるノイズ+モデルエラーの曲線は、ビタビ検出器が5タップモデルを使用した場合のノイズスペクトルを示している。元々のノイズスペクトルの上に、いくつかのローブが加わっていることが見て取れよう。これは、信号とノイズとの関係を顕著に変えてしまうものである。
【0013】
これらの曲線から、2つのことが見て取れる。第1の点は、ρMFBを実現するために必要とされるノイズのホワイト度は、そのチャネルモデルに与えられる異なるタップ数、および異なる速度によって、非常に異なるという点である。第2の点は、より速い速度を求めると、ノイズの重心が高周波数帯の方向により大きくシフトするという点である。8X速においては、高周波ノイズのレベルは、I2データ信号レベルを超えるまでに大きくなる。このことは、ビタビ検出器は、最大の検出前SNRを目指しながら、依然として全周波数帯の情報を考慮に入れるものであるという直感に、相反するものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の1つの目的は、冒頭で述べたタイプの方法および光ドライブをさらに発展させて、最終的な目標(すなわちρMFB)に可能な限り近づくよう、上記の式(3)の形式による検出前SNRを改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の目的は、独立請求項に記載の特徴により解決することができる。好ましい実施形態およびさらなる発展形態は、従属請求項で規定されている。
【0016】
本発明の第1の側面によれば、ディスク読出信号rkを前処理するプリプロセッサ手段と、前処理されたディスク読出信号ykに基づいてビット判定を行う検出器手段とを含む光ディスクドライブであって、上記のプリプロセッサ手段が、フーリエ変換W(f)と、光帯域幅内のカットオフ周波数fcとを有する、低域通過フィルタ手段wkを含んでいることを特徴とする光ディスクドライブが提供される。本発明によって用いられる低域通過フィルタは、理想的でありそれがゆえに複雑なノイズのホワイト化を行わずに、(モデリングエラーを含む)可能な限り多くのノイズをしぼり出して除去することにより最適な検出前SNRを目指し、一方では、処理中におけるデータ情報の損失を、たとえばビタビ検出によって回復可能な状態に保持し、それらによっても可能な限り平坦なノイズスペクトルを獲得するものである。低域通過フィルタは、好ましくは、ビット非同期領域において作用でき(したがってタイミングリカバリに有利であり)、かつビット判定の助けを借りずに作用できる(したがってエラー伝搬の問題を有さない)ものとされる。好ましいカットオフ周波数としては、たとえば、4Xを超える速度においてTCBL = 74.5nm(25GB)である場合には、
の範囲内の周波数が挙げられる。
【0017】
少なくとも一部の実施形態においては、低域通過フィルタ手段wkは、IIRタイプの低域通過フィルタ、FIRタイプの低域通過フィルタ、および等リプルタイプの低域通過フィルタ
の各フィルタタイプのうちの、少なくとも1つを含んでいることが好ましい。たとえば、カットオフ周波数を超える周波数成分のみが抑制され、かつ通過帯域の変形は最小限に保たれるように、等リプル低域通過フィルタを設計することが可能である。かかる等リプル低域通過フィルタをディスク読出信号の前処理に用いることは、ハードカットオフを有する仮想的な新しい光学的チャネルをもたらす。いくつかのケースではFIRタイプの低域通過フィルタを用いた方がより良好な結果が得られるが、IIRタイプの低域通過フィルタの方が複雑性が低く、とりわけ複雑性が重要な要素である場合においては、IIRタイプの低域通過フィルタを用いることもできる。
【0018】
また、低域通過フィルタ手段wkが、
で近似されるフーリエ変換を有する少なくとも1つのノイズホワイト化タイプの低域通過フィルタ
を有する形態も可能である。ここで、N(f)は、添加されるノイズnkのパワースペクトル密度を表している。ノイズのPSD N(f)は厳密には分からないのが通常であるので、近似が必要である。しかしながら、チャネルおよびノイズの事前知識に基づいて、良好な近似を行うことが可能である。それにより、(等リプル低域通過フィルタと比較して)緩やかなロールオフを有する低域通過フィルタの組を設計し、したがって時間領域内におけるタップ数をより少なくすることが可能である。
【0019】
本発明に係るディスクドライブの少なくとも一部の実施形態では、低域通過フィルタ手段wkが、少なくとも1つの
タイプの低域通過フィルタを含んでいることが好ましい。ここで、記号*は線形畳込演算を表している。これが好ましいのは、トリプル成分(triples)の存在のため、
タイプの低域通過フィルタの光帯域外での減衰は、一般的に、
タイプの低域通過フィルタの光帯域外での減衰ほど強くないためである。このことは、たとえばモデリングエラーの存在下において、ビタビ検出が帯域外ノイズに敏感であるような場合には、性能の損失に繋がり得る。そのため、
タイプの低域通過フィルタを用いれば改善が可能であり、その際、
のカットオフ周波数は、最も単純なケースではfoptに等しい周波数とされ得る。
【0020】
全般的に、検出器手段は、最尤シーケンス検出器またはビタビ検出器を含んでいることが好ましい。これらの検出器は当業者にはよく知られているので、ここでさらなる説明を加える必要はない。
【0021】
本発明の第2の側面によれば、光ドライブのディスク読出信号rkを前処理する方法であって、当該前処理が、フーリエ変換W(f)と光帯域幅内のカットオフ周波数fcとを有する低域通過フィルタ手段wkを用いて、上記のディスク読出信号rkを低域通過フィルタリングする処理を含むことを特徴とする方法が提供される。これにより、光ドライブに関連して上記で説明した特徴および利点が、方法に従っても実現される。
【0022】
提案されるフィルタはすべて、低域通過特性を有するものである。これらのフィルタは、検出前SNRを改善するべく、検出前において、データチャネルとノイズチャネルとの両方を再整形する。ノイズの抑制とモデリングエラーとの間のトレードオフに応じて、とりわけ、上記で説明され以下において図面を参照してさらに詳細に説明される、3つのタイプのフィルタを用いることができる。
【0023】
本発明の上記およびその他の側面は、以下で説明される実施形態を参照することにより、明らかとされる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】光ディスク読出処理の離散時間領域モデルを示した図
【図2】1X速におけるBD信号およびノイズスペクトルを示した図
【図3】8X速におけるBD信号およびノイズスペクトルを示した図
【図4】本発明に係る方法を実行するのに適した、本発明に従う光ドライブの概略ブロック図
【図5】それぞれ50dB、30dBおよび13.5dBのストップバンド減衰を有する、3つのタイプIのFIR低域通過フィルタのスペクトルを示した図
【図6】複数の異なる速度におけるΔρMLSDとfcとの関係を示した図(1X、8X、10Xおよび12Xにつき、fc = 0.5におけるρMLSDは、それぞれ15.1dB、17dB、14.3dBおよび12.1dBに等しくなっている)
【図7】複数の異なる速度におけるΔρMLSDとfcとの関係を示した図(1X、8X、10Xおよび12Xにつき、fc = 0.5におけるρMLSDは、それぞれ14.2dB、15.4dB、13.45dBおよび11.56dBに等しくなっており、ビタビ検出のため、5タップのチャネルモデルが使用されている)
【図8】タイプIIの整形フィルタwIIkのスペクトルを示した図
【図9】タイプIおよびタイプIIの整形フィルタにつき、ビタビチャネルモデルのスパンの関数として、ρMLSDを示した図
【図10】3つのタイプIIIのFIR整形フィルタのスペクトルを示した図(畳込みのため、fc = 0.3と50dBのストップバンド減衰とを有する201タップのw(I)kが採用されている)
【図11】8X速の25GBのBDにつき、異なる整形フィルタを用いたビタビ検出のチャネルビットエラーレートを示した図
【発明を実施するための形態】
【0025】
図4は、本発明に係る方法を実行するのに適した、本発明に従う光ドライブの概略ブロック図である。光ディスクドライブ10は、図1を参照して既に説明したような、光ディスク読出処理の離散時間領域モデルを実現する。ここで、ak、nkおよびrkは、それぞれ二値入力信号、添加されるノイズ、および読出信号を表している。hkは光学的チャネルのシンボル応答を表す。前処理手段12は、光帯域幅内においてカットオフ周波数fcを有する低域通過フィルタとしてwkを含んでいる。ykは、検出器14(好ましくはビタビ検出器)へと出力される出力信号である。低域通過フィルタwkは、以下で説明するような低域通過フィルタ
として実現することができる。
【0026】
図5には、比較的急なロールオフを有する等リプルタイプの3つのFIRフィルタのスペクトルがプロットされている。光学的チャネルに対するフィルタの通過帯域(パスバンド)およびストップバンドの関係を示すため、同図には、8XのBD信号およびノイズスペクトルもプロットされている。必要条件に応じて、ストップバンドにおける減衰係数およびロールオフの速さを、異なる設計とすることができる。一般的に、より急なロールオフおよびより激しいストップバンド減衰は、より多くのタップを必要とする。複雑さを減らすため(より低次とするため)、無限インパルス応答(IIR)型のフィルタを用いることも考えられる。チャネル位相特性の非線形の変形を生じさせないようにするため、フィルタの位相周波数応答は、線形タイプの応答とするべきである。
【0027】
タイプI整形フィルタ
は、カットオフfcを超える周波数成分のみが抑制され、通過帯域の変形が最小限に保たれるように設計されている。これにより、
の「ハード」カットオフを有する新たな光学的チャネルが、人工的に生成されたように見える。ここで、この基準で設計されたフィルタを、タイプI整形フィルタ
と呼ぶこととする。カットオフ周波数fcは、検出前SNRすなわちρMLSDが、最適化されるように選択されるべきである。図6には、異なる複数のディスク回転速度について、相対的なρMLSDの値(ΔρMLSD)が、fcの関数としてプロットされている。ΔρMLSDは、fc = 0.5のときの値(すなわち、整形フィルタが適用されていない場合の値)に対する、ρMLSDのずれとして定義されている。ρMLSDの計算に際しては、31タップのFIRモデルがビタビ検出器内で使用されると仮定しており、このことはモデリングエラーは無視できることを意味する。シミュレーションには、201タップのフィルタが選択された。1X速においては、20dBの媒体ノイズが付加されて、ある特定のビットエラーレートを有することとなるが、他の速度においては、媒体ノイズは存在しない。1X速においては、ノイズをある程度ホワイト化する、[−5,0,32,0,−5]/32なる固定の5タップイコライザ−が使用される。
【0028】
モデリングエラーがない場合には、ビタビ検出器は基本的にチャネル外のノイズに対して敏感でないので、fc ≧ foptのときは何も起こらない。fc < foptになると、高速におけるρMLSDは、まずより高くなってから、fcがさらに低すぎる値になると顕著に落ち込む。一方、低速におけるρMLSDは、fcと共に単調減少する。このことは、以下のように説明することができる。媒体ノイズが支配的である低速であろうと、電子ノイズがより問題となる高速であろうと、fc < foptの場合の
は、一般的に、ノイズスペクトルをより平坦な形状に、すなわちよりホワイト状態に近い形状に再整形する。このことは、ビタビ検出にとって有利であり、ρMLSDの増大へと繋がる。一方、fc < foptのときには、データ情報の一部が破棄される。ビタビ検出器は、その特性のため、I2情報のみが損なわれた場合には依然としてデータを取り出すことができるが、一般的には、I3関連の情報も損なわれた場合には故障が生じてしまう。しかしながら、データの損失に起因して、ρMLSDは減少する傾向がある。ノイズのホワイト化による増大が優勢である限りは、ρMLSDでいうところの検出性能は改善する。これがまさに、高速状態で起きている事象である。高速においては、ρMLSDはノイズのフラット化の利益をより多く受け、比較的多くのノイズ成分がカットされるので、最適なfcの位置は、速度が高まるにつれて、より低周波数の位置にシフトする。このことも、高速におけるより大きなρMLSDのゲインに繋がる。
【0029】
図7では、チャネルモデルのタップ数を5タップに制限して、図6に示されたΔρMLSDの値が再計算され、プロットされている。ここでは、追加のノイズ源として、モデリングエラーを考慮しなくてはならない。そのため、ρMLSDは約1.5〜2dB落ち込む。しかしながら、モデリングエラーの存在が、ノイズスペクトルをいくらかホワイト化し(図3参照)、したがって
のノイズ平坦化効果を弱める。このことは、図6に示した状況と比較して、高速ではより高いfcにおいて最適なρMLSDが生じ、低速ではfcが減少するにつれてρMLSDがより速く落ち込む状況をもたらす。ここで、ノイズとモデリングエラーとの両方、すなわちより多くのノイズ成分がカットされるため、ρMLSDのゲインは、より大きくなるのが一般的である。興味深いことに、ρMLSDは、常にfc < 0.5のときに増大し始める。これは、モデリングエラーが存在する際には、ビタビ検出器は、帯域外のノイズに敏感になるためである。
【0030】
結論として、カットオフ周波数がfc < foptである、またはより強力にはfc < fI2(ただし依然としてfc < fI3)であるところの単純な
フィルタは、高周波数ノイズが支配的である高速において、ビタビ性能を改善する。
【0031】
従来より、ディスクの回転速度は、ユーザデータレートによって規定される。たとえば、1XのBDは36Mb/s、すなわちレーザー走査速度にして4.95m/sといった具合である。CLV(線速度一定)のモードでは、1つのディスク全体に亘って速度は一定のままであるが、CAV(角速度一定)またはゾーンCAVモードでは、内径側から外径側に進むにつれて、速度は(2倍を超える大きさに)増大する。このことは、ユーザデータレートで表すところのディスク回転速度が変化することを意味する。図5および図6より、全般的に、最適なfcは速度の関数であり、fcが最適値からずれていくとρMLSDが急激に落ち込み、とりわけfcが小さくなりすぎると急激に落ち込むことが分かる。これは、目標速度よりも高い速度において使用されるフィルタとして解釈することができる。この場合、最も高い設計速度を満足するフィルタ、または各フィルタが1つの速度向けに設計されており半径方向位置に応じてドライブの動作中に切り換えられるようなフィルタ群を、設計することが可能である。
【0032】
ノイズ平坦化の観点からいうと、(h * w)kがビタビ検出におけるチャネルモデルとして使用される場合、高速においては、
であるノイズホワイト化フィルタwkが、最も良好なρMLSDの値を与える。このwkは、ずっと緩やかなロールオフを有するので、タイプI整形フィルタよりも低次のFIRフィルタにより近似することができる。通常、厳密なノイズのPSD N(f)は分からないので、理想的なwkを得ることはできない。しかしながら、チャネルおよびノイズの事前知識に基づいて、良好な近似を行うことが可能である。それにより、緩やかなロールオフを有する低域通過フィルタの組、したがって時間領域内におけるより少ないタップ数が提供される。ここでは、これらのフィルタをタイプII整形フィルタ
と呼ぶこととする。
【0033】
図8には、8XのBDに関する3つの具体例、具体的には[1,2.4,3,2.4,1]、[1,2,2.5,2,1]および[1,2,2,2,1]が示されている。これらは5タップのFIRフィルタであり、異なる周波数において、スペクトルの最初のノッチを有するフィルタである。スペクトルのノッチの位置が異なるので、ノイズの高周波コンテンツの減衰度合いは異なる。通過帯域においてほぼ平坦なスペクトルを有するタイプI整形フィルタとは異なり、タイプII整形フィルタは、原則として、ちょうどDCから減衰を開始させる。これにより、低域通過の効果がより高くなり、結果として得られるチャネルのスパン(h * w)kは、より顕著に増大する。図9には、ビタビ検出のために使用されるチャネルモデルのタップ数の関数として、ρMLSDの値がプロットされている。実際のチャネルスパンがモデルに組み込まれた場合には、201タップの
と比較して、3つの
フィルタのすべてが、より高いρMLSDの値を提供する。これは、一般的に、
フィルタの方がより良好なノイズホワイト化を行うためである。モデルのタップ数が実用的な範囲(すなわち5個程度)になると、大きなモデリングエラーのため、
フィルタについてはρMLSDが顕著に下がる一方、
フィルタについては、最適に近いレベルが保たれる。
【0034】
したがって、検出系において、チャネルモデルのタップ数が7個を超え得るようなより複雑なハードウェア構成が、コスト的に許容可能となれば、タイプII整形フィルタを使用することが好ましい。
【0035】
図8では、リプルの存在のため、タイプII整形フィルタの光帯域外における減衰は、全般的に、タイプI整形フィルタにおける同減衰ほど強くはないことが見て取れる。このことは、(たとえばモデリングエラーの存在のため)ビタビ検出が帯域外ノイズに敏感な際には、性能低下に繋がり得る。そのため、フィルタが
の形式をとれば改善が図られる。ここで、
のカットオフ周波数は、最も単純なケースでは、foptに等しくなり得る。ここでは、
をタイプIII整形フィルタと呼ぶこととする。8XのBDに対するいくつかのフィルタ例のスペクトルが、図10に示されている。ここで、タイプIIIフィルタは、タイプIフィルタの通過帯域においては、タイプIIフィルタのスペクトル形状を呈し、その他の個所では、強い減衰を有することが見て取れる。必要とされるフィルタのタップ数は、他の2つのタイプのフィルタにおけるタップ数の中間の数となる。チャネルスパンの変化は、タイプIIフィルタにおける変化と類似している。
【0036】
[シミュレーション例]
信号のデータ部分が、ブラート−ホプキンスモデル(Braat−Hopkins model)を用いて生成され、その上に媒体ノイズおよび電子ノイズが加えられた。媒体ノイズのレベルは20dBである。電子ノイズのレベルは、8Xの回転速度におけるレベルに対応する(ここで、1Xにおいて39dBである;T.P.H.G.Jansen、A.Stek、「Signal to Noise calculation model for Blu−ray Disc system(ブルーレイディスクシステムのための信号対雑音計算モデル)」、Philips Research Technical Note、2002/360、2002年参照)。5タップモデルを用いたビタビ検出器が、2組の信号に対して実行される。第1の組は、「オリジナル」と呼ぶこととする。これは、整形フィルタありおよび整形フィルタなしの4つの信号シーケンスを含んでいる。第2の組である「ISI補償済」では、低域通過フィルタリングのチャネルスパン増大が検出性能に与える影響を除去するため、いわゆるISI打消し技術を用いて、4つの信号シーケンスが前処理されている。「タイプI」は、最適化されたfcを伴う101タップの
を指す。「タイプII」は、図7に示した5タップのFIRフィルタ[1,2.4,3,2.4,1]を指す。「タイプIII」は、それら2つの線形畳込みを指す。
【0037】
結果として得られたチャネルビットエラーレート(CBER)が、図11に記録されている。タイプIの整形は、緩やかなチャネルスパンの増大を伴うノイズのホワイト度の改善のため、両方のデータセットに対するCBERを低減させているが、他の2つの整形フィルタでは、ISI打消し技術が適用された場合にのみ、CBERの低下が目に見えて認められることが見て取れる。これは、このケースでは、チャネルスパンの増大が、ノイズのホワイト度の改善を台無しにしてしまっていることを示唆している。この点は、このISI打消し技術により、またはビタビ検出のチャネルモデルに関しより多くのタップを用いることにより、解決することができる。しかしながら、後者の対策は、より多くのハードウェアコストを必要とする。
【0038】
タイプIIおよびIIIの整形フィルタは、原則としてタイプIフィルタよりも良好なノイズホワイト化を行うため、チャネル拡張の影響が補償されている場合には、電子ノイズレベルがさらに増大すると、タイプIIおよびIIIの整形フィルタを用いた際のCBERは、タイプIフィルタを用いた際のCBERよりも低くなることが予想できよう。
【0039】
本発明は、光ドライブのディスク読出信号rkを、低域通過フィルタの組に基づいて前処理する方法、および光ドライブを開示するものである。より具体的には、フィルタwkのカットオフ周波数fcを光帯域幅内に設定し、それにより、高速ドライブ動作の場合におけるビタビ検出性能を改善することができる。3つのタイプのフィルタを説明した。そのうちタイプI整形フィルタが、ビット検出器に関し限られたハードウェアコストの下では、最も良好に機能する。これは、他のより高度なノイズホワイト化技術と比較して、単に速度依存のものであり、チャネルおよびノイズの事前知識をほとんど必要とせず、したがって設計容易かつ安価である。本発明は、光ディスクドライブに関して適用することができ、とりわけ高周波ノイズが支配的である場合、たとえば高速動作の場合に適用することができる。
【0040】
最後に、上記では説明しなかった等価形態および変更形態も、特許請求の範囲で規定される本発明の技術的範囲から逸脱することなく、採用可能である点に留意されたい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスク読出信号を前処理するプリプロセッサ手段と、前処理されたディスク読出信号に基づいてビット判定を行う検出器手段とを含む光ディスクドライブであって、
前記プリプロセッサ手段が、フーリエ変換W(f)と、光帯域幅内のカットオフ周波数fcとを有する、低域通過フィルタ手段を含んでいることを特徴とする光ディスクドライブ。
【請求項2】
前記低域通過フィルタ手段が、IIRタイプの低域通過フィルタ、FIRタイプの低域通過フィルタ、および等リプルタイプの低域通過フィルタ
の各フィルタタイプのうちの、少なくとも1つを含んでいることを特徴とする請求項1記載の光ディスクドライブ。
【請求項3】
前記低域通過フィルタ手段が、添加されるノイズのパワースペクトル密度をN(f)として、
で近似されるフーリエ変換を有する、少なくとも1つのノイズホワイト化タイプの低域通過フィルタ
を含んでいることを特徴とする請求項1記載の光ディスクドライブ。
【請求項4】
記号*が線形畳込演算を表すものとして、前記低域通過フィルタ手段が、少なくとも1つの
タイプの低域通過フィルタを含んでいることを特徴とする請求項1または2記載の光ディスクドライブ。
【請求項5】
前記検出器手段が、最尤シーケンス検出器またはビタビ検出器を含んでいることを特徴とする請求項1記載の光ディスクドライブ。
【請求項6】
光ドライブのディスク読出信号を前処理する方法であって、当該前処理が、フーリエ変換W(f)と光帯域幅内のカットオフ周波数fcとを有する低域通過フィルタ手段を用いて、前記ディスク読出信号を低域通過フィルタリングする処理を含むことを特徴とする方法。
【請求項1】
ディスク読出信号を前処理するプリプロセッサ手段と、前処理されたディスク読出信号に基づいてビット判定を行う検出器手段とを含む光ディスクドライブであって、
前記プリプロセッサ手段が、フーリエ変換W(f)と、光帯域幅内のカットオフ周波数fcとを有する、低域通過フィルタ手段を含んでいることを特徴とする光ディスクドライブ。
【請求項2】
前記低域通過フィルタ手段が、IIRタイプの低域通過フィルタ、FIRタイプの低域通過フィルタ、および等リプルタイプの低域通過フィルタ
の各フィルタタイプのうちの、少なくとも1つを含んでいることを特徴とする請求項1記載の光ディスクドライブ。
【請求項3】
前記低域通過フィルタ手段が、添加されるノイズのパワースペクトル密度をN(f)として、
で近似されるフーリエ変換を有する、少なくとも1つのノイズホワイト化タイプの低域通過フィルタ
を含んでいることを特徴とする請求項1記載の光ディスクドライブ。
【請求項4】
記号*が線形畳込演算を表すものとして、前記低域通過フィルタ手段が、少なくとも1つの
タイプの低域通過フィルタを含んでいることを特徴とする請求項1または2記載の光ディスクドライブ。
【請求項5】
前記検出器手段が、最尤シーケンス検出器またはビタビ検出器を含んでいることを特徴とする請求項1記載の光ディスクドライブ。
【請求項6】
光ドライブのディスク読出信号を前処理する方法であって、当該前処理が、フーリエ変換W(f)と光帯域幅内のカットオフ周波数fcとを有する低域通過フィルタ手段を用いて、前記ディスク読出信号を低域通過フィルタリングする処理を含むことを特徴とする方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2010−506344(P2010−506344A)
【公表日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−531944(P2009−531944)
【出願日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際出願番号】PCT/IB2007/054028
【国際公開番号】WO2008/044169
【国際公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際出願番号】PCT/IB2007/054028
【国際公開番号】WO2008/044169
【国際公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】
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