説明

ディスク駆動装置

【課題】ディスクを高速回転させたときに発生する振動を抑制する。
【解決手段】ディスクDを高速に回転駆動させたときに、ディスクDと一体に回転するディスククランパ30の内部に設けた中空環状部31b内に移動自在に収納した複数の鋼球34によりディスクDの偏重心量を補正する際、ディスク規格に基づいて許容されるディスクDの最大許容偏重心量をW、複数の鋼球34が遠心力により中空環状部31b内を外周側に向かって移動する速度でディスクDを回転させたときの複数の鋼球34の偏重心量をW、スピンドルモータ14を取り付けたベース13からターンテーブル15上に載置されたディスクDまでの距離をH、ベース13から鋼球34の中心までの距離をH、としたときに、複数の鋼球34の偏重心量Wが、W≒W×H/H の式を満たすように設定されているディスク駆動装置10を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスクを高速に回転駆動させたときに、ディスクと一体に回転するディスククランパ及びターンテーブルのいずれか一方の内部に移動自在に収納した複数の鋼球によりディスクの偏重心量を補正するディスク駆動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、ディスクは、映像データとか音声データやコンピュータデータなどの情報信号をディスク基板上に螺旋状又は同心円状に形成したトラックを有する信号面に高密度に記録し、且つ、記録済みの情報信号を再生する際に所望のトラックを高速にアクセスできることから多用されている。
【0003】
この種のディスクとして、CD(Compact Disc)やDVD(Digital Versatile Disc)などの光ディスクが市販され、最近では、より一層高密度化を図った超高密度光ディスクの一種であるBD(Blu−ray Disc)が流通している。そして、これらのディスクは周知のディスク駆動装置を用いて記録又は再生可能になっている。
【0004】
ところで、ディスク駆動装置内でディスクを記録又は再生する際に、近年、記録又は再生信号への高転送レート化に伴って、ディスク駆動装置内でディスクが高速に回転駆動されるようになってきており、その回転数は当初では考えられていなかった7000rpmを超えるものとなっている。
【0005】
この際、ディスクには、製造時のばらつきなどによりディスクのセンター孔の位置ずれによる偏心や、ディスクの厚さムラによる偏重心などが生じる場合がある。このような、偏重心を有するディスクを例えば7000rpmを超えた高速で回転駆動させたときに、ディスクのアンバランスが原因で振動が発生し、記録又は再生に悪影響を及ぼすことになる。
【0006】
このディスクのアンバランスが原因で発生する振動を抑制する技術を搭載した装置の一例として、ディスクをターンテーブルとディスククランパとの間で挟持しながら回転駆動させる際に、ディスククランパ内にマグネットと複数の磁性球体とを収納したディスク装置がある(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
また、他例として、ディスクをターンテーブル上に搭載して回転駆動させる際に、ターンテーブル内に複数の球体を収納したディスク駆動装置がある(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平10−208374号公報
【特許文献2】特開平11−96661号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、ディスクが高速に回転したときにディスクのアンバランス量によって生じる振動を抑制するために、上記した一例のディスク装置では複数の磁性球体をディスククランパ内に移動自在に収納し、一方、上記した他例のディスク駆動装置では複数の球体をターンテーブル内に移動自在に収納しているが、ターンテーブルを回転軸に固着したスピンドルモータが取り付けられたベースからターンテーブル上に載置されたディスクまでの回転軸方向に沿った距離と、上記したベースからディスククランパ(又はターンテーブル)内に収納した複数の磁性球体(又は複数の球体)の中心までの回転軸方向に沿った距離とが異なっているので、スピンドルモータの回転軸の倒れなどにより振動が発生する。
【0009】
しかしながら、一例のディスク装置及び他例のディスク駆動装置は共に、ベースからターンテーブル上に載置されたディスクまでの回転軸方向に沿った距離と、ベースから複数の磁性球体(又は複数の球体)の中心までの回転軸方向に沿った距離との異なりに対して何らの考慮も図られていないために、高速回転時にディスクのアンバランス量を確実に補正できない場合がある。
【0010】
また、ディスククランパ(又ターンテーブル)内で複数の磁性球体(又は複数の球体)が移動する半径方向の大きさを抑えようとすると複数の磁性球体(又は複数の球体)の径を大きくするか、又は、個数を増やす必要がり、特に複数の磁性球体(又は複数の球体)の径を大きくしようとした場合に、複数の磁性球体(又は複数の球体)の距離が大きくなってしまい、ディスクの距離との差が広がってしまう。
【0011】
そこで、ディスクを高速に回転駆動させたときに、ディスクと一体に回転するディスククランパ及びターンテーブルのいずれか一方の内部に移動自在に収納した複数の鋼球によりディスクの偏重心量を補正するディスク駆動装置において、ベースからターンテーブル上に載置されたディスクまでの距離と、ベースから複数の鋼球の中心までの距離とが異なったとしても効果的に振動を抑制することが可能なディスク駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、第1の発明は、モータを取り付けたベースと、
前記モータの回転軸に固着され、載置されたディスクと一体に回転するターンテーブルと、
前記ターンテーブル上に載置された前記ディスクを前記ターンテーブルとの間に挟持して前記ディスクと一体に回転するディスククランパと、
前記ディスククランパ又は前記ターンテーブルの内部に設けた中空環状部内に移動自在に収納された複数の鋼球とを備え、
ディスク規格に基づいて許容される前記ディスクの最大許容偏重心量をW
前記複数の鋼球が遠心力により前記中空環状部内を外周側に向かって移動する速度で前記ディスクを回転させたときの前記複数の鋼球の偏重心量をW
前記ベースから前記ターンテーブル上に載置された前記ディスクまでの距離をH
前記ベースから前記鋼球の中心までの距離をH
としたときに、前記複数の鋼球の偏重心量Wが、W≒W×H/H を満たすように設定されていることを特徴とするディスク駆動装置である。
【0013】
また、第2の発明は、モータを取り付けたベースと、
前記モータの回転軸に固着され、載置されたディスクと一体に回転するターンテーブルと、
前記ターンテーブル側で前記ディスクの径方向に移動自在に設けられ、前記ディスクに対して情報信号を記録又は再生する光ピックアップと、
前記ターンテーブル上に載置された前記ディスクを前記ターンテーブルとの間に挟持して前記ディスクと一体に回転するディスククランパと、
前記ディスククランパの内部に設けた中空環状部内に移動自在に収納された複数の鋼球とを備え、
ディスク規格に基づいて許容される前記ディスクの最大許容偏重心量をW
前記複数の鋼球が遠心力により前記中空環状部内を外周側に向かって移動する速度で前記ディスクを回転させたときの前記複数の鋼球の偏重心量をW
前記ベースから前記ターンテーブル上に載置された前記ディスクまでの距離をH
前記ベースから前記鋼球の中心までの距離をH
としたときに、前記複数の鋼球の偏重心量Wが、W≒W×H/H を満たすように設定されていることを特徴とするディスク駆動装置である。
【発明の効果】
【0014】
上記した第1の発明のディスク駆動装置によると、ディスクを高速に回転駆動させ、ディスクと一体に回転するディスククランパ及びターンテーブルのいずれか一方の内部に設けた中空環状部内に移動自在に収納した複数の鋼球によりディスクの偏重心量を補正する際、ディスク規格に基づいて許容されるディスクの最大許容偏重心量をW、複数の鋼球が遠心力により中空環状部内を外周側に向かって移動する速度でディスクを回転させたときの複数の鋼球の偏重心量をW、モータを取り付けたベースからターンテーブル上に載置されたディスクまでの距離をH、ベースから鋼球の中心までの距離をH、としたときに、複数の鋼球の偏重心量Wが、W≒W×H/H の式を満たすように設定されているので、ベースからターンテーブル上に載置されたディスクまでの距離Hと、ベースから複数の鋼球の中心までの距離Hとが異なっていても、ディスクを高速に回転駆動したときの複数の鋼球の偏重心量Wを、ディスクの最大許容偏重心量WのH/H倍に略設定することにより、偏重心を有するディスクのアンバランスを補正できることになるので、偏重心を有するディスクによって生じる振動を良好に抑制することができる。
【0015】
また、上記した第2の発明のディスク駆動装置によると、ディスクに対して光ピックアップにより情報信号を記録又は再生する場合には、ディスクを高速に回転駆動させ、ディスクと一体に回転するディスククランパの内部に設けた中空環状部内に移動自在に収納した複数の鋼球によりディスクの偏重心量を補正する際、ディスク規格に基づいて許容されるディスクの最大許容偏重心量をW、複数の鋼球が遠心力により中空環状部内を外周側に向かって移動する速度でディスクを回転させたときの複数の鋼球の偏重心量をW、モータを取り付けたベースからターンテーブル上に載置されたディスクまでの距離をH、ベースから鋼球の中心までの距離をH、としたときに、複数の鋼球の偏重心量Wが、W≒W×H/H の式を満たすように設定されているので、上記した第1の発明と同様の効果が得られる他に、複数の鋼球をディスククランパの内部に設けた中空環状部内に収納することにより、ディスククランパの外形サイズをターンテーブル側に設けられてディスクの内周側に移動する光ピックアップに影響することなく設定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に本発明に係るディスク駆動装置の一実施例について図1〜図8を参照して、実施例1,実施例2の順に詳細に説明する。
【0017】
尚、以下の実施例1,2では、ディスクとして光ディスクを用い、この光ディスクを光ピックアップにより記録又は再生するディスク駆動装置の場合について説明するが、これに限定されるものでなく、HD(Hard Disc)を磁気ヘッドにより記録又は再生するHDD(Hard Disc Drive)装置などにも適用可能である。
【実施例1】
【0018】
図1は本発明に係る実施例1のディスク駆動装置の全体を示した全体斜視図である。
【0019】
また、図2は本発明に係る実施例1のディスク駆動装置において、図1に示した状態からディスククランパとディスクを取り外してトラバースメカを示した斜視図である。
【0020】
また、図3は本発明に係る実施例1のディスク駆動装置において、実施例1の要部となるディスククランパを示した斜視図である。
【0021】
更に、図4は本発明に係る実施例1のディスク駆動装置において、実施例1の要部となるディスククランパを分解して示した分解斜視図である。
【0022】
図1及び図2に示した如く、本発明に係る実施例1のディスク駆動装置10では、メインベース11上に複数のインシュレータ12を介してトラバースメカTMを取り付けたトラバースベース13が弾性支持されており、且つ、トラバースメカTMはトラバースベース13上に後述する複数の構成部品(14〜22)を組み立てたものである。
【0023】
この際、複数のインシュレータ12は、弾性変位可能なゴム材とか、圧縮バネなどを用いてメインベース11及びトラバースベース13の各四隅に取り付けられており、トラバースメカTMで生じた振動などに対して防振している。
【0024】
また、トラバースベース13上で図示手前側にスピンドルモータ14が取り付けられ、且つ、このスピンドルモータ14の回転軸14aにターンテーブル15が固着されている。
【0025】
そして、ターンテーブル15上に載置されたディスク(光ディスク)Dの上方からこのディスクDの中心部位を後述するディスククランパ30でターンテーブル15側に押圧することで、ディスクDがターンテーブル15とディスククランパ30との間に挟持されるので、ディスクD及びディスククランパ30がターンテーブル15と一体となってスピンドルモータ14の回転軸14aを回転中心にして高速に回転できるようになっている。
【0026】
この際、ターンテーブル15は、ディスクDの内周部位を載置する円板状のディスク載置部15aと、このディスク載置部15aの中心部位に略円錐状に突出してディスクDの中心孔Dh(図5)に嵌合するセンターコーン部15bと、センターコーン部15bの中心部上方部位に嵌め込まれたリング状のマグネット16とで一体的に構成されている。
【0027】
また、トラバースベース13の図示後方側に貫通して大きく穿設した逃げ孔13a内でターンテーブル15側に、ディスクDに対して情報信号を記録又は再生するための光ピックアップ17を取り付けた光ピックアップ支持台18が間隔を離して互いに平行な2本のガイドシャフト19,20に沿ってディスクDの径方向(矢印X1,X2方向)に移動自在に設けられており、光ピックアップ支持台18はトラバースベース13に取り付けたモータ21によって駆動されている。
【0028】
この際、光ピックアップ17はフレキシブル配線基板22に結線されており、このフレキシブル配線基板22を介して情報信号の送受を行なっている。
【0029】
次に、実施例1の要部となるディスククランパ30は、図3に拡大して示した如く、厚みが薄い円筒状に形成されており、ロアー・クランパ31とアッパー・クランパ32とを蓋合わせして両者31,32を3本のネジ33で締結した内部空間にディスクアンバランス補正機構となる複数の鋼球34を移動自在に収納して構成されている。
【0030】
上記した実施例1の要部となるディスククランパ30について、図4を用いてより具体的に説明すると、ロアー・クランパ31は、円板状底板部31aの上方内部に中空環状部31bが設けられており、この中空環状部31b内に複数の鋼球34が移動自在に収納され、且つ、中空環状部31bの上方をリング状に形成したアッパー・クランパ32で蓋合わせして閉蓋されて、両者31,32を3本のネジ33で締結している。
【0031】
この際、複数の鋼球34は、同一径で例えば6個がロアー・クランパ31の内部に設けた中空環状部31b内に移動自在に収納されている。
【0032】
また、リング状のアッパー・クランパ32の中心部位に穿設した中心孔32a内には、ディスクDに対してディスクランパ30を接離させるための不図示のクランパ・アームが取り付けられて中心孔32aが閉じられるので、中空環状部31b内に移動自在に収納された複数の鋼球34は外部に飛び出すことができないようになっている。
【0033】
また、ロアー・クランパ31の円板状底板部31aの裏面凹部31a1にリング状のヨーク35が3つ爪嵌め合わせなどにより一体的に取り付けられており、このリング状のヨーク35はターンテーブル15(図2)のセンターコーン部15bに嵌め込んだリング状のマグネット16(図2)と対向している。
【0034】
ここで、上記のように構成した実施例1のディスク駆動装置10の動作について、図5〜図7を用いて説明する。
【0035】
図5は本発明に係る実施例1のディスク駆動装置において、ターンテーブル上に載置したディスクを複数の鋼球を収納したディスククランパで押圧している状態を一部断面して示した縦断面図である。
【0036】
また、図6は本発明に係る実施例1のディスク駆動装置において、ディスクを回転させたときの動作を摸式的に示した図である。
【0037】
また、図7は本発明に係る実施例1のディスク駆動装置において、ディスククランパ内に収納した複数の鋼球に作用する遠心力の方向と、ディスクの偏重心の方向とを摸式的に示した図である。
【0038】
図5に示した如く、前述したように、スピンドルモータ14を回転自在に取り付けたトラバースベース13は、複数のインシュレータ12を介してメインベース11上に弾性支持されている。
【0039】
この状態で、ターンテーブル15の上方からディスクDの中心孔Dhをターンテーブル15のセンターコーン部15bに挿入して、ディスクDの内周部位をターンテーブル15のディスク載置部15a上に載置した後、ディスクDの上方からディスククランパ30をディスクDの内周部位部上に搭載すると、ターンテーブル15に設けたマグネット16とディスククランパ30に設けたヨーク35との間に生じる磁力によりディスククランパ30がディスクDを挟んでターンテーブル15に引きつけられるので、ディスククランパ30によってディスクDがターンテーブル15上にしっかりと押圧されている。
【0040】
ここで、ディスクDと、ディスククランパ30内に収納した複数の鋼球34とに対してトラバースベース13からの回転軸方向に沿った距離に注目して説明すると、図5及び図6に示した如く、メインベース11上にインシュレータ12を介して弾性支持されたトラバースベース13からターンテーブル15上に載置されたディスクDまでの回転軸方向に沿った距離をHとし、且つ、トラバースベース13から複数の鋼球34の中心までの回転軸方向に沿った距離をHとすると、H<Hである。
【0041】
また、図6に示した如く、ディスク規格に基づいて許容されるディスクDの最大許容偏重心量をWとし、ディスクDの最大許容偏重心量Wが図の左矢印方向に作用するものとする。
【0042】
また、ディスククランパ30内に収納した複数の鋼球34がディスクDの偏重心とは回転中心を挟んで反対側に移動するのは、全体の系の共振点以上の回転数であり、以下の説明において、全体の系の共振点以上の回転数で回転する場合を高速回転駆動と称し、一方、複数の鋼球34がディスクDの偏重心とは回転中心を挟んで反対側に移動できない場合を低速回転駆動と称することにする。
【0043】
この際、ディスクDを低速回転させたときの複数の鋼球34による合計の偏重心量をW’とすると、この偏重心量W’は例えば図の左矢印方向に作用するが、ディスクDを高速回転させたときの複数の鋼球34による合計の偏重心量をWとすると、この高速回転時の速度で複数の鋼球34が遠心力によりディスククランパ30内を外周側に向かって移動するので、偏重心量Wは図の右矢印方向に作用する。
【0044】
また、メインベース11上にインシュレータ12を介して弾性支持されているトラバースベース13上に取り付けられたトラバースメカTM(図1,図2)の全体の系の0次共振周波数は、トラバースメカTMの全体質量とインシュレータ12の弾性により決定される。
【0045】
この際、スンドルモータ14の低速回転駆動によりターンテーブル15上のディスクD及びディスククランパ30が一体に低速回転して、0次共振周波数よりも低い周波数では、ディスククランパ30のロアー・クランパ31の内部に設けた中空環状部31b内に収納した複数の鋼球34による偏重心量W’は例えば図6中で破線矢印に示した方向となり、つまりこの低速回転ではディスクDのアンバランスを補正することができない。
【0046】
何とならば、スンドルモータ14の回転数が低いために、ディスククランパ30内に移動自在に収納した複数の鋼球34の位置は定まらず、ディスククランパ30と相対的に移動しているか、又は、ディスクDの偏重心の方向とは無関係な方向にとどまっている状態になるからである。従って、ディスクDの偏重心に起因して生じる遠心力は小さいので振動成分も無視しうる大きさである。
【0047】
一方、スンドルモータ14の高速回転駆動によりターンテーブル15上のディスクD及びディスククランパ30が一体に高速回転すると、0次共振周波数で振動が最も大きくなり、ディスククランパ30のロアー・クランパ31の内部に設けた中空環状部31b内に収納した複数の鋼球34は遠心力によりディスクDの偏重心の方向と回転中心を挟んで略反対の方向へ移動する。このとき、複数の鋼球34による偏重心量Wは図6中で実線矢印に示した方向となるので、ディスクDのアンバランスを補正することができ、高速回転時に生じる振動の発生を抑制できる。
【0048】
ここで、高速回転時に生じるディスクDのアンバランスを補正するために、ディスククランパ30内に備えたディスクアンバランス補正機構となる複数の鋼球34に対して、下記の式1又は式2が成立するように複数の鋼球34の径、鋼球34の数量、複数の鋼球34が収納されるディスククランパ30の内部に設けた中空環状部31bの径を決定する。
【0049】
[数1]
×H≒W×H ………(式1)。
【0050】
この際、トラバースベース13からターンテーブル15上に載置されたディスクDまでの距離Hと、トラバースベース13から複数の鋼球34の中心までの距離Hは、全体の設計から決定される。また、ディスクDの最大許容偏重心量Wは、前述したように、ディスク規格に基づいて許容される数値である。
【0051】
よって、式1を変形すると、ディスクDが高速回転したときに、複数の鋼球34の偏重心量Wは下記の式2から求めることができる。
【0052】
[数2]
≒W×H/H ………(式2)。
【0053】
この際、Wは、W×H/Hの値に対して−0.9〜+0.9の範囲内の値に設定することが望ましいものである。
【0054】
次に、複数の鋼球34の個数と、その径と、複数の鋼球34が収納されるディスククランパ30の内部に設けた中空環状部31bの径とを決定する方法に関して、図7を用いて説明する。
【0055】
図7中において、
R:ロアー・クランパ31の内部に設けた中空環状部31bの半径、
r:鋼球34の半径、
M:鋼球34の質量、
w:一つの鋼球34に作用する遠心力、
θ〜θ:各鋼球34の遠心力の方向と、ディスクDの偏重心による遠心力と平行な
方向とがなす角度(但し、鋼球の数n=6)、
ω:角速度、
とすると、下記の式3及び式4が成立する。
【0056】
[数3]
w=M×(R−r)×ω ………(式3)。
【0057】
[数4]
=Σw×cosθ ………(式4)。
【0058】
ここで、上記した式1〜式4に対して、具体的な数字を挙げて実施例1の技術的思想に基づく具体例について、国際単位系(SI単位系)を用いて説明する。
【0059】
即ち、トラバースベース1からターンテーブル15上に載置されたディスクDまでの距離HをH=9.2mmとし、トラバースベース1から複数の鋼球34の中心までの距離HをH=13.39mmとする。
【0060】
また、ディスクDとしてDVD(Digital Versatile Disc)適用した場合に、DVDのディスク規格書にはダイナミックバランスの量として直径が12cmの場合に最大値が0.010g・mであると記載されているので、この最大値0.010g・mを国際単位系(SI単位系)に変換して、ディスク規格に基づいて許容されるディスクDの最大許容偏重心量Wを、下記の式5から求めることができる。
【0061】
[数5]
=10/1000kg・m×ω(偏重心量の最大許容値)………(式5)。
【0062】
また、スピンドルモータ14の回転数を全体の系の共振点以上の回転数で例えば9000rpmとすると、角速度ωは、下記の式6から求めることができる。
【0063】
[数6]
ω=2π×9000/60=942.5 rad/sec ………(式6)。
【0064】
従って、上記した式2,式5,式6より、ディスクDが高速回転したときに、複数の鋼球34の偏重心量Wは、下記の式7から求めることができる。
【0065】
≒W×H/H=(10/1000)×942.5×(9.2/13.39)≒6.1N (但し、Nはニュートン) ………(式7)。
【0066】
従って、想定されるディスクDの偏重心量の約70%の補正量で効果が得られることになる。
【0067】
次に、複数の鋼球34のサイズは、全て同一径であるが、鋼球34のサイズは規格として決まっており、この規格の中から大きさに見合った径の鋼球34を選ぶと共に、鋼球34の個数も決定する。これは、式3及び式4に基づくものである。
【0068】
ここで、ディスククランパ30の外形サイズを極端な大きさにしないために、ディスククランパ30の内部に設けた中空環状部31bの半径RをR=12.2mmとする。また、鋼球34の個数は6個とし、鋼34球の半径rをr=1.59とすると、その質量MはM=0.13gである。
【0069】
従って、一つの鋼球34に作用する遠心力wは、上記した式3から
w=M×(R−r)×ω
=0.13/1000×(12.2−1.59)×942.5=1.23N
となる。
【0070】
また、上記した式4と、図7から各鋼球34の遠心力のうちでディスクDの偏重心による遠心力と平行な分力の合計とから複数の鋼球34の偏重心量Wを求めると、
=Σw×cosθ (但し、n=1〜6)
=1.23×2×(cos43.1°+cos25.86°+cos8.62°)
=6.44N
となる。
【0071】
これにより、トラバースベース13からターンテーブル15上に載置されたディスクDまでの距離Hと、トラバースベース13から複数の鋼球34の中心までの距離Hとが異なっていても、ディスクDを高速に回転駆動したときの複数の鋼球34の偏重心量WをディスクDの最大許容偏重心量WのH/H倍に略設定することにより、偏重心を有するディスクDのアンバランスを補正できることになるので、偏重心を有するディスクDによって生じる振動を良好に抑制することができる。
【0072】
上記から実施例1では、ディスククランパ30内に複数の鋼球34を移動自在に収納しているので、ディスククランパ30の外形サイズをターンテーブル15側に設けられてディスクDの内周側に移動する光ピックアップ17(図2)に影響することなく設定でき、且つ、上記した式1又は式2が成立するべく鋼球34の大きさを設定できるのでいたずらに鋼球34の径を大きくする必要がない。とくに、上記したHに対するHの寸法をやや高めにすることで、鋼球34の径を抑えることができる。
【実施例2】
【0073】
図8は本発明に係る実施例2のディスク駆動装置において、複数の鋼球を収納したターンテーブル上に載置したディスクをディスククランパで押圧している状態を一部断面して示した縦断面図である。
【0074】
図8に示した本発明に係る実施例2のディスク駆動装置50は、先に説明した実施例1のディスク駆動装置10の構成と一部を除いて同様の構成であり、ここでは説明の便宜上、先に示した構成部材に対しては同一の符号を付し、且つ、先に示した構成部材は必要に応じて適宜説明し、実施例1と異なる構成部材に新たな符号を付して説明する。
【0075】
図8に示した如く、本発明に係る実施例2のディスク駆動装置50は、実施例2の要部となるターンテーブル51内にディスクアンバランス補正機構となる複数の鋼球52を移動自在に収納して構成されている点が実施例1に対して異なっている。
【0076】
この実施例2でも、実施例1と同様に、スピンドルモータ14を回転自在に取り付けたトラバースベース13は、複数のインシュレータ12を介してメインベース11上に弾性支持されている。
【0077】
ここで、本発明に係る実施例2のディスク駆動装置50において、実施例1に対して異なる点を説明すると、スピンドルモータ14の回転軸14aに実施例2の要部となるターンテーブル51が固着され、且つ、このターンテーブル51上に載置したディスクDの内周部位をディスククランパ54で押圧している。
【0078】
上記したターンテーブル51は、ディスクDの内周部位を載置する円板状のディスク載置部51aと、このディスク載置部51aの中心部位に略円錐状に突出してディスクDの中心孔Dhに嵌合するセンターコーン部51bと、複数の鋼球(例えば6個)52を移動自在に収納する中空環状部51cと、この中空環状部51cを閉蓋するために接着又は溶着されるリング状底板部51dと、センターコーン部15bの中心部位に嵌め込まれたリング状のマグネット53とで一体的に構成されている。
【0079】
一方、上記したディスククランパ54は、この裏面凹部54aにヨーク55が一体的に取り付けられており、このヨーク55はターンテーブル51のセンターコーン部51bに嵌め込んだリング状のマグネット53と対向している。
【0080】
この実施例2において、メインベース11上にインシュレータ12を介して弾性支持されたトラバースベース13からターンテーブル15上に載置されたディスクDまでの回転軸方向に沿った距離をHとし、且つ、トラバースベース13から複数の鋼球52の中心までの回転軸方向に沿った距離をH’とすると、実施例1とは異なって、H>H’となるが、先に示した式1,式2においてH=H’と置き換えれば、この実施例2でも実施例1と全く同じように前記した式1〜式6を適用することが可能である。
【0081】
そして、この実施例2でも、実施例1の技術的思想と略同様に、高速回転時に生じるディスクDのアンバランスを補正するために、ターンテーブル51内に備えたディスクアンバランス補正機構による複数の鋼球52に対して、前記した式1又は式2が成立するように複数の鋼球52の径、鋼球52の数量、複数の鋼球52が収納されるターンテーブル51の内部に設けた中空環状部51cの径を決定すれば良いものである。
【0082】
この際、実施例2の場合では、実施例1と異なって、ディスクアンバランス補正機構となる複数の鋼球52をターンテーブル51内に設けることにより、実施例1よりも部品点数が少なくなるために組み立て工数では有利となる。
【0083】
一方、ターンテーブル51側に設けられた光ピックアップ17(図2)をディスクDの最内周側まで移動させる関係からスピンドルモータ14(図2)及びターンテーブル51の各外形サイズに制限があるために、このターンテーブル51内に収納される複数の鋼球52のサイズも制約されるが、高速回転時に複数の鋼球52によってディスクDのアンバラスを補正することができるので、高速回転時に生じる振動の発生を抑制できる。
【0084】
尚、ここでの図示を省略するものの、実施例2の構造形態を、HD(Hard Disc)をこの上面側に設けた磁気ヘッドにより記録又は再生するHDD(Hard Disc Drive)装置に適用した場合には、HDよりも下方に位置するスピンドルモータ及びターンテーブルの各外形サイズに制限がないので、各寸法の設定に自由度を持つことができる。
【0085】
尚、実施例1,2のディスク駆動装置10,50では、スピンドルモータ14をメインベース11上にインシュレータ12を介して弾性支持されたトラバースベース13に取り付けた場合について説明したが、インシュレータ12を用いることなく、スピンドルモータ14を単なるベース(図示せず)に取り付けるように構成しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明に係る実施例1のディスク駆動装置の全体を示した全体斜視図である。
【図2】本発明に係る実施例1のディスク駆動装置において、図1に示した状態からディスククランパとディスクを取り外してトラバースメカを示した斜視図である。
【図3】本発明に係る実施例1のディスク駆動装置において、実施例1の要部となるディスククランパを示した斜視図である。
【図4】本発明に係る実施例1のディスク駆動装置において、実施例1の要部となるディスククランパを分解して示した分解斜視図である。
【図5】本発明に係る実施例1のディスク駆動装置において、ターンテーブル上に載置したディスクを複数の鋼球を収納したディスククランパで押圧している状態を一部断面して示した縦断面図である。
【図6】本発明に係る実施例1のディスク駆動装置において、ディスクを回転させたときの動作を摸式的に示した図である。
【図7】本発明に係る実施例1のディスク駆動装置において、ディスククランパ内に収納した複数の鋼球に作用する遠心力の方向と、ディスクの偏重心の方向とを摸式的に示した図である。
【図8】本発明に係る実施例2のディスク駆動装置において、複数の鋼球を収納したターンテーブル上に載置したディスクをディスククランパで押圧している状態を一部断面して示した縦断面図である。
【符号の説明】
【0087】
10…実施例1のディスク駆動装置、
11…メインベース、12…インシュレータ、13…トラバースベース、
14…スピンドルモータ、14a…回転軸、
15…ターンテーブル、15a…ディスク載置部、15b…センターコーン部、
16…マグネット、17…光ピックアップ、18…光ピックアップ支持台、
19,20…ガイドシャフト、21…モータ、22…フレキシブル配線基板、
30…ディスククランパ、
31…ロアー・クランパ、31a…円板状底板部、31b…中空環状部、
32…アッパー・クランパ、33…ネジ、34…鋼球、35…ヨーク、
50…実施例2のディスク駆動装置、
51…ターンテーブル、51a…ディスク載置部、51b…センターコーン部、
51c…中空環状部、51d…リング状底板部、
52…鋼球、53…マグネット、54…ディスククランパ、55…ヨーク、
D…ディスク、Dh…中心孔、TM…トラバースメカ、
…トラバースベースからターンテーブル上に載置されたディスクまでの距離、
,H’…トラバースベースから鋼球の中心までの距離、
…ディスク規格に基づいて許容されるディスクの最大許容偏重心量、
…複数の鋼球が遠心力により中空環状部内を外周側に向かって移動する速度でディスクを回転させたときの複数の鋼球の偏重心量。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを取り付けたベースと、
前記モータの回転軸に固着され、載置されたディスクと一体に回転するターンテーブルと、
前記ターンテーブル上に載置された前記ディスクを前記ターンテーブルとの間に挟持して前記ディスクと一体に回転するディスククランパと、
前記ディスククランパ又は前記ターンテーブルの内部に設けた中空環状部内に移動自在に収納された複数の鋼球とを備え、
ディスク規格に基づいて許容される前記ディスクの最大許容偏重心量をW
前記複数の鋼球が遠心力により前記中空環状部内を外周側に向かって移動する速度で前記ディスクを回転させたときの前記複数の鋼球の偏重心量をW
前記ベースから前記ターンテーブル上に載置された前記ディスクまでの距離をH
前記ベースから前記鋼球の中心までの距離をH
としたときに、前記複数の鋼球の偏重心量Wが、下記の式を満たすように設定されていることを特徴とするディスク駆動装置。
≒W×H/H
【請求項2】
モータを取り付けたベースと、
前記モータの回転軸に固着され、載置されたディスクと一体に回転するターンテーブルと、
前記ターンテーブル側で前記ディスクの径方向に移動自在に設けられ、前記ディスクに対して情報信号を記録又は再生する光ピックアップと、
前記ターンテーブル上に載置された前記ディスクを前記ターンテーブルとの間に挟持して前記ディスクと一体に回転するディスククランパと、
前記ディスククランパの内部に設けた中空環状部内に移動自在に収納された複数の鋼球とを備え、
ディスク規格に基づいて許容される前記ディスクの最大許容偏重心量をW
前記複数の鋼球が遠心力により前記中空環状部内を外周側に向かって移動する速度で前記ディスクを回転させたときの前記複数の鋼球の偏重心量をW
前記ベースから前記ターンテーブル上に載置された前記ディスクまでの距離をH
前記ベースから前記鋼球の中心までの距離をH
としたときに、前記複数の鋼球の偏重心量Wが、下記の式を満たすように設定されていることを特徴とするディスク駆動装置。
≒W×H/H

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−97667(P2010−97667A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−269096(P2008−269096)
【出願日】平成20年10月17日(2008.10.17)
【出願人】(000004329)日本ビクター株式会社 (3,896)
【Fターム(参考)】