説明

ディスプレイ用赤外線遮蔽フィルタ及び画像表示装置

【課題】ディスプレイパネルの前面に配置してディスプレイパネルから放出される赤外線を遮蔽するディスプレイ用赤外線遮蔽フィルタについて、可視光領域での透過率の低下を抑制しつつ効率的に近赤外線を遮蔽する。
【解決手段】ディスプレイ用赤外線遮蔽フィルタ10は、観察者V側から順に、可視光線は透過して近赤外線を反射する近赤外線反射層1と、可視光線は透過して近赤外線を吸収する近赤外線吸収層2とをこの順に少なくとも有するものとする。近赤外線反射層は右円偏光又は左円偏光の一方の円偏光を選択的に反射し他方の円偏光を透過する層を利用できる。更に電磁波遮蔽層4を近赤外線吸収層よりもディスプレイパネル3側に設けることができる。画像表示装置20は、このディスプレイ用赤外線遮蔽フィルタをプラズマディスプレイパネルの前面に配置した構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はディスプレイの前面に配置して、ディスプレイから出る赤外線を遮蔽するフィルタに関し、特に可視光線の透過率はなるべく高く保ちつつ赤外線を効果的に遮蔽できるフィルタに関する。また、当該フィルタを用いた画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイ(以後PDPとも言う)などの各種薄型ディスプレイが普及してきており、また、最近では低消費電力化の流れが強まっている。
また、プラズマディスプレイは、ディスプレイパネルの前面に光学フィルタを配置し、光学フィルタにより、電磁波遮蔽機能、赤外線遮蔽機能、ネオン光遮蔽機能、調色機能、コントラスト向上機能、反射防止機能、耐衝撃機能などの各種機能を実現している。これら機能のうち、赤外線をカットする赤外線遮蔽機能を実現する物としては、リモートコントローラが使用する波長域と干渉する近赤外線領域の光をカットする近赤外線吸収色素(以下、NIRA色素とも言う)が広く使われている(特許文献1、特許文献2)。
【0003】
特許文献1及び特許文献2に記載の赤外線遮蔽フィルタは、樹脂シート中に、フタロシアニン系化合物、ベンゾピラン系化合物、ジイモニウム系化合物、フッ化アンチモン系有機化合物等のNIRA色素について、1種単独で用いるのでなく、2種以上を用いている。これにより、吸収帯域を広くして、PDPの前面から放出される近赤外線の波長帯域800〜1100nmの一部又は全部の波長域に於いて赤外線を吸収させている。
【0004】
また、近赤外線吸収色素(略して、NIRA(Near InfraRed Absoubing)色素とも呼称する)を用いて赤外線を吸収するのではなく、ディスプレイパネルから放出された赤外線を、前面に設けたフィルタで反射して元の方向に戻すことで観察者に届く赤外線をカットする、赤外線遮蔽フィルタも提案されている(特許文献3)。特許文献3記載の赤外線遮蔽フィルタは、コレステリック液晶を固化させたコレステリック液晶固化層が、コレステリック液晶の螺旋軸の回転方向によって、右(又は左)円偏光を反射する一方、回転方向が逆向きの左(又は右)円偏光は透過する性質を利用することで、赤外線を元の方向に反射するものである。
【0005】
なお、PDPに対する電磁波遮蔽機能として、銀やITO(インジウム錫酸化物)などの導電材料を多層スパッタした導電体層を設けた部材を使う場合は、導電体層に近赤外線吸収機能を持たせることが一般的である。しかしながら、スパッタ形成した導電体層の場合は、電磁波遮蔽性能が通常用いられている金属メッシュによる導電体層に比べて劣るため、適用できる機種が限られるという問題がある。そこで、電磁波遮蔽性能を上げるためには、スパッタによる薄膜積層回数を増やせばよいが、その場合、可視光領域の透過率も低下し、且つ製造コストも高くなり、実用的ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3457132号公報
【特許文献2】特許第3689998号公報
【特許文献3】特開2000−28827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、特許文献1、特許文献2に記載の様な、NIRA色素を用いる近赤外線遮蔽フィルタは、該NIRA色素が可視光領域に於いて完全に透明ではなく、可視光領域にも吸収がある。これは、実在のNIRA色素の中には、可視光線領域の長波長端側(大体680〜780nm帯域)と近赤外線領域の短波長端側(大体780〜900nm帯域)との境界(780nm)で透過率が急峻に立ち上がる(乃至は吸収率が急峻に降下する)理想的な特性の透過スペクトル(乃至は吸収スペクトル)を持つものがない為である。このため、吸収すべき近赤外線の帯域の最低波長近傍(780nm近傍)が、可視光領域の最大波長近傍(780nm近傍)と近接する為、近赤外線領域のカット率を高く(透過率を低く)しようとすると、これに合わせて可視光領域の一部で透過率も下がってしまい、表示画像の明るさが低下したり、画像の色相が設計値からシフトしたりするといった、問題がある。また、画像の明るさ低下、画像の色相シフトを防ごうとすると、今度は、近赤外線領域の透過率が上がって吸収率が低下する問題がある。しかも、可視光領域の透過率が高いNIRA色素は限られており、価格や信頼性などの点で未だ課題が多い。そのため、NIRA色素を用いて近赤外線を吸収するタイプの近赤外線遮蔽フィルタは、ディスプレイパネルの発光を効率良く利用できているとは言いがたく、低消費電力化の観点に於いて発光エネルギーが無駄に使われていた。
【0008】
一方、特許文献3に記載の様な、コレステリック液晶固化層を用いた近赤外線遮蔽フィルタは、円偏光の特性によって選択反射する波長帯域がNIRA色素に比べて狭い為に、NIRA色素を複数種用いる場合よりも、より多くの種類の、選択反射する波長帯域を変えた複数種類のコレステリック液晶固化層を積層する必要がある。従って、近赤外線遮蔽フィルタの全体の厚みが厚くなり嵩高となり、また、積層工程も増える為、コレステリック液晶固化層によるフィルタはNIRA色素によるフィルタよりも高価となる問題もある。
【0009】
すなわち、本発明の課題は、可視光領域、特にその長波長端側での透過率の低下を抑制しつつ且つ効率的に近赤外線領域、特にその短波長端側を遮蔽できる、ディスプレイ用赤外線遮蔽フィルタを提供することである。また、この様なディスプレイ用赤外線遮蔽フィルタを用いた画像表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明では、ディスプレイ用赤外線遮蔽フィルタの構成を次の様にした。
(1)ディスプレイパネルの前面に配置してディスプレイパネルから放出される赤外線を遮蔽するディスプレイ用赤外線遮蔽フィルタに於いて、観察者側から順に、可視光線は透過して近赤外線を反射する近赤外線反射層と、可視光線は透過して近赤外線を吸収する近赤外線吸収層とをこの順に少なくとも有する構成とした。
(2)また本発明は上記構成に於いて、上記近赤外線反射層が右円偏光又は左円偏光の一方の円偏光を選択的に反射し他方の円偏光を透過する層である構成とした。
(3)また本発明は上記いずれかの構成に於いて、更に電磁波遮蔽層を近赤外線吸収層よりもディスプレイパネル側に有する構成とした。
【0011】
また、本発明の画像表示装置の構成は、上記いずれかのディスプレイ用赤外線遮蔽フィルタを、プラズマディスプレイパネルの前面に配置した構成とした。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、可視光領域での透過率の低下を抑制しつつ効率的に近赤外線を遮蔽できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明による、ディスプレイ用赤外線遮蔽フィルタの一形態(a)と、ディスプレイ用赤外線遮蔽フィルタをプラズマディスプレイパネルの前面に配置した画像表示装置の2形態(b)及び(c)、を例示する断面図。
【図2】本発明による、ディスプレイ用赤外線遮蔽フィルタについて、(透明基材5を明示した)別の形態例を例示する断面図。
【図3】本発明によるディスプレイ用赤外線遮蔽フィルタのメカニズムを説明する説明図。
【図4】赤外線反射層のみの赤外線遮蔽フィルタのメカニズムを説明する説明図。
【図5】赤外線反射層の透過率と反射率のスペクトルの一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0015】
[要旨]
本発明のディスプレイ用赤外線遮蔽フィルタは、図1(a)にその一形態を例示するディスプレイ用赤外線遮蔽フィルタ10の様に、観察者V側から順に、可視光線を透過し近赤外線を反射する近赤外線反射層1と、可視光線を透過し近赤外線を吸収する近赤外線吸収層2とを、この順に、少なくとも有する構成のフィルタである。
そして、本発明の画像表示装置20は、図1(b)の様に、上記の様なディスプレイ用赤外線遮蔽フィルタ10をディスプレイパネル3としてプラズマディスプレイパネルの前面に配置した構成とする。
その結果、ディスプレイパネル3から近赤外線が観察者側に放出されても、画像を構成する可視光領域の透過率はなるべく落とさずに、近赤外線を効率的に遮蔽することができる。従って、可視光線の透過率低下によって画面が暗くなるのを防げることになる。また、同じ明るさであれば、低消費電力にできることになる。
なお、「可視光線を透過し近赤外線を反射する」、「可視光線を透過し近赤外線を吸収する」とは、可視光線と近赤外線とに対する吸収・反射特性を相対的に示したものであり、可視光線は全て透過し近赤外線は全て反射乃至は吸収することを意味するものではない。
【0016】
また、図1(b)では、ディスプレイ用赤外線遮蔽フィルタ10とディスプレイパネル3とは間に空間(空気層)を空けずに密着配置してあるが、間に空間を空けて配置してもよい。例えば、下記する図1(c)の画像表示装置20である。
図1(c)に例示する画像表示装置20は、ディスプレイ用赤外線遮蔽フィルタ10が、更に電磁波遮蔽層4もディスプレイパネル3側に有する構成のものであるが、ここでのディスプレイ用赤外線遮蔽フィルタ10は、空間を空けて間に空気層を設けてディスプレイパネル3の前面に配置してある。
【0017】
また、ディスプレイ用赤外線遮蔽フィルタ10は、透明基材を有するものでも良く、この場合、透明基材は、赤外線反射層にも赤外線吸収層にも属さない別の層として、或いは属する層として、或いは属する上兼用する層として有するものでも良い。
例えば、図2(a)に例示のディスプレイ用赤外線遮蔽フィルタ10は、赤外線反射層1と赤外線吸収層2との間に、これらに属さない支持体として透明基材5を有する構成である。また、図2(b)に例示のディスプレイ用赤外線遮蔽フィルタ10は、赤外線反射層1が観察者V側から透明基材5aと赤外線反射層1aとからなり、赤外線吸収層2が観察者V側から赤外線吸収層2aと透明基材5bとからなり、赤外線反射層1aと赤外線吸収層2aとで接している構成である。
なお、透明基材を用いる構成は、この図2の層構成に限定されるものではない。
【0018】
以下、更に本発明を詳述する。
【0019】
[近赤外線を遮蔽するメカニズム]
本発明は、鋭意研究の結果、近赤外線吸収層と近赤外線反射層との両方を所定の位置関係で組み合わせることによって、可視光透過率を落とさず効率的に近赤外線を遮蔽出来ることを見出したものであり、そのメカニズムについて図3を参照して説明する。
先ず、本発明では上記所定の位置関係として、図3に示すとおり、赤外線を放射するディスプレイパネル3と、近赤外線反射層1との間に、近赤外線吸収層2を配置することに特徴を有する。そして、図3の説明では、近赤外線反射層3は、円偏光として近赤外線を反射する場合で説明する。
【0020】
ディスプレイパネル3から観察者V側に放射された近赤外線(1)は、近赤外線吸収層2で吸収される。近赤外線吸収層2で吸収されずに通過した近赤外線(2)は、近赤外線反射層1で左右円偏光のうち片方の円偏光が反射され全体では最大50%が反射し残りの回転方向が逆の円偏光の近赤外線(3)が観察者Vの目に届く。一方、近赤外線反射層1で反射された近赤外線(4)は、再度、近赤外線吸収層2に進みこれを透過するときに再吸収される。近赤外線吸収層2を再透過した近赤外線(5)は、ディスプレイパネル3で反射し再度観察者V方向に向かい、繰り返し近赤外線吸収層2を通過し、更に減衰することになる。なお、概念図である図3では、各部材間には空間があるように見えるが、通常は、粘着層や他の部材、透明基材などが存在するのが普通である。但し、本発明としては空間が存在しても良く、存在しなくても良い。
【0021】
また、ディスプレイパネル3に戻った近赤外線(5)が、その面で正反射した場合、その反射した近赤外線の円偏光の向きは逆向きになる。従って、近赤外線反射層で反射された光が右円偏光だとすると、その右円偏光の近赤外線(5)はディスプレイパネルで反射されて再度、近赤外線反射層に来たときは、左円偏光になっている。そして、この左円偏光の近赤外線は近赤外線反射層を透過してしまうが、ディスプレイパネルと近赤外線反射層との間には近赤外線吸収層が存在するから、近赤外線反射層まで戻るまで往復で2回も通過して減衰しているので、近赤外線反射層のみの場合に比べて、より効果的に近赤外線を遮蔽できることになる。
なお、近赤外線反射層1と近赤外線吸収層2との位置関係が逆の場合には、近赤外線反射層で反射させても、近赤外線は近赤外線反射層を透過した光として近赤外線吸収層を一回しか通らないので、上記の様には効果的に近赤外線を遮蔽できない。
【0022】
この様な構成によって、近赤外線吸収層2だけを使用する構成と比較して、ディスプレイパネル3から放出され近赤外線を単純計算で更に約半分近くまで減衰させることができる。逆に、目的とする近赤外線遮蔽性能を上げずに一定のままで良い場合では、近赤外線吸収層の近赤外線吸収性能を半分まで落としても、所定の近赤外線遮蔽性能が確保できる。そしてこの場合、可視光領域のうち長波長端側に於いて、近赤外線吸収層によって吸収されていた可視光の吸収量も半分に減衰する。このため、近赤外線吸収層中での近赤外線吸収色素の濃度を落として、可視光透過率を上げることができる。また、近赤外線吸収層に添加する高価な近赤外線吸収色素の使用量を減らすことができるので、コスト低減効果も期待できることなる。
【0023】
一方、図4に示す様に、近赤外線反射層1のみの場合では次の様になり、それほど近赤外線遮蔽性能は期待できない。なお、図4でも近赤外線反射層1は図3の場合と同様に円偏光を利用して近赤外線を反射するものである。すなわち、ディスプレイパネル3から観察者V側に放射された赤外線(1)は、近赤外線反射層1で左右円偏光のうち片方の円偏光が反射され全体では最大50%が反射し残り50%の近赤外線(3)が観察者Vの目に届く。この時点で既に、ディスプレイパネル3が放射する近赤外線の50%は透過を許すことになる。一方、近赤外線反射層1で反射された近赤外線(2)は、ディスプレイパネルに戻りそこで反射した近赤外線(4)が再度、近赤外線反射層1に向かいそこで再度反射することを繰り返し、そのうちの円偏光の旋回方向が反転した一部の赤外線(5)が近赤外線吸収層1を透過して観察者Vの目に届く。従って、両者の透過近赤外線(3)及び(5)を合計すると、図4の形態に於いては、ディスプレイパネル3が放射する近赤外線の50%超は透過してしまい、近赤外線の遮蔽性能はあまり高くない。
【0024】
以上の様にして、本発明では従来になく可視光の透過率は落とさずに効率的に、近赤外線を遮蔽できることになる。次に、各層、各部材について更に詳述する。
【0025】
[近赤外線反射層]
近赤外線反射層1には、可視光を透過するが近赤外線は反射する層であれば特に制限はなく、公知の層を利用できる。例えば、近赤外線反射層には、多層干渉膜、コレステリック液晶固化層、ワイヤグリッド偏光分離膜などを用いることができる。
【0026】
多層干渉膜からなる偏光分離膜の例としては、例えば、特許第3709402号公報の〔0015〕〜〔0020〕、図4等に開示されるような物である。これは、所定の波長領域の光に於ける屈折率が表裏面と平行な面内で異方性を有し、或る方向で最大屈折率を有し、これと直交する方向で最小屈折率を有する樹脂Aと、所定の波長領域の光に於ける屈折率が表裏面内の方向如何によらず等方的な樹脂層Bとを交互に、A/B/A/B/A/B/A/Bの如く100〜500層程度で多層積層したものである。ここで、樹脂Aとしては、例えば、ポリエチレンナフタレートが挙げられる。樹脂Bとしては、例えば、エチレングリコール―ナフタレンジカルボン酸―テレフタル酸共重合体等が挙げられる。
そして、A層の最小屈折率値をB層の屈折率値と合致させ場合、該多層干渉膜に入射する光のうち、A層の最小屈折率を示す面内方向(進相軸方向)に振動する(電場を持つ)偏光成分は該多層干渉膜を透過する。一方、A層の最大屈折率を示す面内方向(遅相軸方向)に振動する(電場を持つ)偏光成分は該多層干渉膜で反射される。
【0027】
コレステリック液晶固化層の例としては、例えば、特開2002−357717号公報等に開示されるような物である。これは、コレステリック液晶層を架橋反応、冷却固化等によって固化させた層から成る。コレステリック液晶層は、該液晶分子の分子軸の配向方向が、該層の表裏面に平行な面内の特定方向を向き、しかも該層の厚み方向の裏面から表面に進むに従って、該液晶分子の配向方向が連続的に一方向に回転する結果、厚み方向の裏面から表面に進むに従って、該液晶分子軸が螺旋階段の踏板の如く配向した構造(helix(立体螺旋)構造)を有する。そして、該コレステリック液晶固化層は、この様な螺旋的分子配向状態を維持したままで固化されている。この様なコレステリック液晶固化層は、該層の表(乃至裏)面に入射した光のうち、該液晶分子軸螺旋の回転方向と同じ向きに回転する円偏光成分は選択的に反射される。一方、該液晶分子軸螺旋の回転方向と逆きに回転する円偏光成分は選択的に透過する。
この様な円偏光の選択反射の反射率は、次の〔式1〕の波長λ0 で最大値を示す。
λ0 =nav・p 〔式1〕
なお、ここで、pは螺旋ピッチ(Herical Pitch;ヘリカルピッチとも言う)、navは螺旋軸に直交する平面内の平均屈折率である。これを選択反射波長とも呼称する。
このときの円偏光選択反射の生じる波長帯域幅Δλは、次の〔式2〕で示される。
Δλ=Δn・p 〔式2〕
なお、ここで、Δn=n(‖)−n(直角)であり、n(‖)は螺旋軸に直交する面内における最大の屈折率、n(直角)は螺旋軸に平行な面内における最大の屈折率である。
コレステリック液晶固化層については、別途、具体的に、後述する。
【0028】
ワイヤグリッド偏光分離膜の例としては、例えば、特開昭58−42003号公報、特開昭63−168626号公報、特開2006―330616号公報、米国特許第7158302号公報等に開示されるような物である。これは、所定の波長領域の光の波長よりも長さが長く、且つ所定の波長領域の光の波長よりも幅が狭い金属線条を、多数、間に空隙を介して、平行に配列した構造からなる。通常、硝子板、樹脂シート等の透明基材上に該金属線条群の配列が積層されてなる。
そして、該ワイヤグリッド偏光分離膜に入射する光のうち、該金属線条の長手方向に振動する(電場を持つ)偏光成分は該ワイヤグリッド偏光分離膜で反射する。一方、該金属線条の幅方向に振動する(電場を持つ)偏光成分は該ワイヤグリッド偏光分離膜を透過する。
【0029】
なお、以上で例示の文献自体は、可視光領域中に於いて所定の波長帯域幅内での偏光分離層を開示する。一方、本発明の近赤外線反射層に、これらの技術を適用する際には、これら文献開示の各形態の偏光分離層に於いて、偏光分離の生じる波長を決定する諸元(パラメータ等)を調整して、特定の偏光の選択反射が生じる波長帯域を所望の近赤外線帯域に設定することによって、赤外線選択反射層として機能する。これらの赤外線選択反射層のうち何を用いるかは要求物性やコスト等を含めて総合的に選択すれば良いが、なかでも、コレステリック液晶固化層は多層干渉膜やワイヤグリッド偏光膜に比較してコスト的に有利である。
【0030】
コレステリック液晶固化層は、コレステリック液晶を架橋反応、重合反応等によって固化させて液晶状態を固定した層であり、前記のように、該層の一方の面から入射する光線のうち、右円偏光成分(又は左円偏光成分)を選択的に反射し、残りの成分である円偏光の向きが逆向きの左円偏光成分(又は右円偏光成分)を透過する光学特性を有する。この様な光学特性は、層がコレステリック構造を有し、該コレステリック構造の螺旋構造に於ける旋回方向を適宜設定することで、その旋回方向と同一の旋光方向を有する円偏光が選択的に反射されるので、旋回方向の設定によって反射する光線を右円偏光又は左円偏光にすることができることが知られている。反射光線の波長、つまり選択反射波長は、螺旋構造のヘリカルピッチに等しく、また、反射光線の選択反射波長に対するバンド幅は層の複屈折率が関係する。この為、コレステリック液晶固化層は一般に狭い波長域の波長帯域(バンド)幅で近赤外線を反射し、また透過する。また、選択反射波長を中心としたバンド幅の範囲外の光線は、反射せずに透過する。
【0031】
従って、コレステリック液晶固化層のみを用いて、ディスプレイから放出される近赤外線をカットしようとすると、異なる複数の選択反射波長に対応して、ヘリカルピッチの異なるコレステリック液晶固化層を複数層、重ねて使用しないと実用的でないことは、既に前記〔発明が解決しようとする課題〕で述べた通りである。しかし、本発明では、このコレステリック液晶固化層による近赤外線反射層と近赤外線吸収層の両方の層を所定の配置で用いることで、可視光線は透過しつつ効率的に近赤外線を遮蔽したものであるので、例えば、近赤外線吸収層と近赤外線反射層の両方で最終的な遮蔽性能を出せればよいことになる。
また、バンド幅が狭い光学特性を利用して、近赤外線領域に選択反射波長を持ってくれば、可視光領域での(反射による)透過率低下も効果的に回避できることになる。
【0032】
ここで、図5は、コレステリック液晶固化層を用いた近赤外線反射層の反射スペトクル及び透過スペクトルの一例を示す図であり、同図では大よそ1000nmを中心とした反射及び透過スペクトルを示す。
なお、このスペクトルを示す近赤外線反射層はコレステリック液晶固化層が単層で、実施例1の近赤外線反射層に相当するものである。
【0033】
ところで、選択反射波長は、要求性能に応じて設定すれば良く、特に限定されるものではないが、リモートコントローラの誤動作を効果的に抑制する観点から、リモートコントローラの受光器の感度特性を考慮するのが好ましい。従って、選択反射波長は850〜1100nmの範囲とするのが好ましい。また、選択反射波長に於ける光線(近赤外線)の反射率は、なるべく大きい方が好ましいが、円偏光の選択反射特性を利用する点では、右又は左円偏光の一方が反射し他方が透過するのであるから、理想的には半分の50%が最大であるので(この最大値を更に挙げられる点については更に後で詳述する)、40%以上あることが好ましい。
【0034】
なお、コレステリック液晶固化層に用いるコレステリック液晶材料としては、公知のものを適宜使用すれば良く、例えば、重合性モノマー化合物、重合性オリゴマー化合物等の重合性液晶化合物、液晶ポリマーなどの液晶化合物を使用することができる。なお、重合性液晶化合物に於いて重合性を発現する重合性官能基としては、代表的にはアクリレート基、つまり、アクリロイルオキシ基乃至アクリロイル基、などであるが、特に制限はない。この様な重合性官能基は液晶分子の通常、片末端又は両末端に有する。また、コレステリック液晶材料としては、1種又は2種以上の液晶化合物が使用される。
また、コレステリック液晶材料としては、ネマテック液晶性を呈する化合物と、カイラル剤とを併用した液晶材料も好適である。カイラル剤としては、公知の化合物を適宜使用することができる。
なお、コレステリック液晶材料としては、入手のし易さ、コスト等の観点から、右螺旋方向を有するコレステリック液晶材料を用いるのが好ましい。
【0035】
コレステリック液晶固化層の厚みは、液晶材料、必要な反射特性等に応じて適宜に設定すれば良く特に限定されないが、例えば0.1〜100μm、より好ましくは0.5〜20μm更に好ましくは1〜10μmである。
【0036】
コレステリック液晶固化層は、その層単独で近赤外線反射層としても良いが、任意の基材に積層したもの、つまり該基材とコレステリック液晶固化層とから、近赤外線反射層を構成してもよい。また、基材は、近赤外線吸収層、電磁波遮蔽層などの他の層と共有しても良い。一例を例示すれば、図2(a)は、近赤外線反射層1と近赤外線吸収層2との間にこれら2層に共に属さない層として透明基材5を有し、これら3層が密接して積層された構成である。
なお、基材としては基本的には透明な透明基材5が好ましいが、透明基材は、例えば、色素添加で調色機能を持たせた着色された透明基材でもよい。
【0037】
この他、各種機能層(後述する)の面にコレステリック液晶固化層を積層しても良い。例えば、反射防止層が備える基材の裏面に積層したり、コントラスト向上層が備える基材の裏面に積層したり、電磁波遮蔽層が備える基材の裏面に積層したり、塗工形成した近赤外線吸収層が備える基材の裏面に積層したり、しても良い。なお、ここで「裏面」とは該基材に反射防止層等の機能層が積層された側とは反対側の面を意味し、ディスプレイ側、観察者側とは別の概念である。
或いはまた、機能層の上にコレステリック液晶固化層を積層しても良い。また、コレステリック液晶固化層の上に、各種機能層を積層しても良く、例えば、コレステリック液晶固化層の上に近赤外線吸収層を塗工形成しても良い。
なお、コレステリック液晶固化層の形成は、公知の形成方法、例えば上記の様なコレステリック液晶材料を含む組成物をロールコート、グラビアロールコート、バーコート等の公知の塗工法等によって形成することができる。
【0038】
なお、コレステリック液晶固化層を用いた近赤外線反射層としては、更に反射する円偏光の向きが逆向きの層を含んだものとしても良い。これにより、第一のコレステリック液晶固化層で右(又は左)円偏光を反射させ、当該層を通過した左(又は右)円偏光は、第一のコレステリック液晶固化層とは反射する円偏光が逆向きの第二のコレステリック液晶固化層で反射させることで、近赤外線反射層全体としては、右(又は左)円偏光の一方の円偏光のみではなく、右及び左の両方の円偏光を反射させることもできる。つまり全反射型の近赤外線選択反射層である。
【0039】
この際、第二のコレステリック液晶固化層として、第一のコレステリック液晶固化層と反射する円偏光の向きが同じものを使い、且つこれら第一と第二のコレステリック液晶固化層の間に位相差層を介在させて、位相差層によって円偏光の向きを逆方向にすることでも、同様に全反射型の近赤外線選択反射層とすることができる。位相差層の位相差、平均リタデーションReは半波長の1/2λでも良いが、これに更に1以上の整数を加えた値、つまり1.5λ、2.5λ、3.5λ、4.5λ等のものが、波長による反射率変化が少ない点で好ましい。また、上記1.5λ等の値は±0.2程度ずれていても良い。
つまり、
Re={(2n+1)/2±0.2}×λ 〔式3〕
である。なお、この構成は、後述する実施例2、実施例3などの構成でもある。
【0040】
[近赤外線吸収層]
近赤外線吸収層2には、可視光を透過するが近赤外線は吸収する層であれば特に制限はなく、公知の層を利用できる。例えば、近赤外線を吸収する近赤外線吸収色素(NIRA色素)をマトリック中に分散させた層であり、マトリックスとしては樹脂バインダが代表的である。また、スパッタによる多層スパッタ膜等も利用できる。これらの中でも、樹脂バインダ中に近赤外線吸収色素を分散させた層が代表的である。なお、近赤外線吸収色素としては、有機系、無機系などの色素から適宜選択すれば良く、1種単独又は2種併用するが、吸収波長帯域を広くするには2種以上を併用するのが好ましい。
【0041】
また、近赤外線吸収色素を樹脂バインダ中に分散させた近赤外線吸収層2は、他の機能と複合化した層としても良い。例えば、近赤外線吸収色素を添加する層を、粘着層、電磁波遮蔽層として導電性組成物層を後述の引抜プライマ方式凹版印刷で形成する際のプライマ層、コントラスト向上層等として、これらの層と近赤外線吸収層を複合化しても良い。複合化により層数を減らせるので製造工程数が減り、低コスト化に繋がる。或いは、他の機能層と積層しても良く、例えば、反射防止層と積層しても良い。
【0042】
なお、上記した近赤外線吸収色素(NIRA色素)、及び樹脂バインダとしては、公知の材料を適宜選択すればよく、例えば、近赤外線吸収色素としては、有機系化合物としては、アントラキノン系化合物、ナフトキノン系化合物、フタロシアニン系化合物、ジイモニウム系化合物、ジチオニール錯体等が挙げられ、また無機系化合物としては、インジウム錫酸化物、チタン酸化物、特開2006−154516号公報等に開示のセシウム含有タングステン酸化物等が挙げられる。更に、2種以上併用する場合を例示すれば、フタロシアニン系化合物を複数種類併用する以外に、フタロシアニン系化合物とジイモニウム系化合物の併用などは好ましい一例である。フタロシアニン系化合物は吸収帯域が780〜1000nmであり、ジイモニウム系化合物は900〜1100nmでの吸収が大きく可視光透過率も高い為、これらにより、可視光透過率を高くして、効率的に近赤外線を吸収できる。
【0043】
また、樹脂バインダの樹脂としては、粘着層とする場合も含めて、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂等挙げられる。
なお、近赤外線吸収色素の樹脂バインダ等マトリックス中の割合は、通常0.001〜15質量%である。また、必要に応じて公知の各種添加剤、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光反応防止剤などを添加してもよい。
また、この様な材料からなる近赤外線吸収層の形成は、ロールコート、グラビアロールコート、バーコート等の公知の塗工法によって形成することができる。
【0044】
[透明基材]
透明基材5は、図2で例示した様に、近赤外線反射層1や、近赤外線吸収層2に含まれる層として、或いは含まれない層として使用することがあり、形状維持の為の支持体としての機能等を有する。
透明基材5としては、特に制限はなく公知のものを適宜選択使用すれば良い。例えば、樹脂フィルム(乃至シート)、樹脂板、或いは無機材料板等が代表的である。樹脂フィルム(乃至シート)の樹脂は例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリイミド系樹脂、或いは、シクロオレフィン重合体などのポリオレフィン系樹脂、トリアセチルセルロースなどのセルロース系樹脂等である。樹脂板の樹脂としては、例えば、前記の樹脂フィルムと同様の樹脂である。無機材料板の材料としては、例えば、硝子、石英、透明セラミックス等である。なかでも、2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムはコスト、透明性、機械的強度等の点で好適な材料である。なお、透明基材の厚みは通常12〜5000μm程度である。
【0045】
[電磁波遮蔽層]
電磁波遮蔽層4としては、公知のものを適宜採用すれば良く特に制限はない。例えば、一般によく使われている銅エッチングメッシュ等の金属メッシュの他、導電ペースト等による印刷メッシュ、或いはメッシュではなく全面形成の多層スパッタ膜等などの導電性層である。
なお、銅エッチングメッシュは例えば銅箔をケミカルエッチングでメッシュ状にしたものが使用される。なお、銅以外にもアルミニウムなどの金属も可能である。また、導電ペーストには例えば、銀等の導電性粒子を樹脂バインダ中に分散させた導電性組成物が使用される、導電性組成物層として印刷メッシュが形成される。
多層スパッタ膜には、例えばITO(酸化インジウム錫酸化物)、銀などが使用される。また、電磁波遮蔽性能をあまり重視しない場合、或いは電磁波自体がディスプレイパネルからあまり発生しない場合などでは、電磁波遮蔽層は省略したり、或いは多層スパッタ膜を用い、これを近赤外線吸収層と兼用させたりすることもできる。その場合、スパッタ積層数を減らして低コスト化を図ることもできる。
【0046】
なお、印刷メッシュとして導電性組成物層を形成する場合、引抜プライマ方式凹版印刷法によって形成したものは、高精細なメッシュが形成できる点で好ましい。引抜プライマ方式凹版印刷法は、本出願人が、国際公開WO2008/149969号公報に開示した印刷法であり、凹版版面の凹部内部に充填したインキを引き抜いて被印刷物へのインキの転移を促進させる、「転移促進層」とも言える「プライマ層」を、印刷の最中に流動状態で作用させる点に特徴がある凹版印刷法である。なお、プライマ層には紫外線や電子線で硬化させる電離放射線硬化性樹脂が好適には使用される。
【0047】
また、電磁波遮蔽層の配置位置は基本的には特に制限はない。例えば、近赤外線吸収層よりもディスプレイパネル側とする。こうすると、電磁波遮蔽層に銅エッチングメッシュや、印刷メッシュ等のメッシュ状のものを用いた場合、そのメッシュ面に透明樹脂層等を積層すること保護せずに、むき出しのままで配置した時に、メッシュをディスプレイパネル側に向けて空間を空けて配置しておけば、不意の外力でメッシュが破損することを防げる。
【0048】
[その他の層]
なお、本発明によるディスプレイ用赤外線遮蔽フィルタは、本発明の主旨を逸脱しない範囲内であれば、上記した以外のその他の層を含んでもよい。例えば、各種光学フィルタ機能を付与する光学フィルタ層、光学フィルタ機能以外の機能を付与する機能層などである。これらの層には公知の層を適宜採用することができる。
なお、光学フィルタ層としては、紫外線吸収層、PDPのネオン光を吸収するネオン光吸収層、表示画像を好みの色調に補正する色補正層、反射防止層(防眩、反射防止、防眩及び反射防止兼用のいずれか)、明所コンストラストを向上させる特開2007−272161号公報等に記載のコントラスト向上層(微小ルーバ層など)などである。また、光学フィルタ機能以外の機能を付与する機能層としては、防汚層、帯電防止層、ハードコート層、粘着剤層、該粘着剤層を使用時まで保護する離型フイルム、接着剤層、プライマ層、耐衝撃層などである。なお、これらの層は単層で2以上の機能を兼用することもある。
【0049】
[位置関係]
本発明では、上記した各層は、近赤外線反射層1を近赤外線吸収層2よりも観察者V側に配置する位置関係を必須とするが、これ以外の制限はなく、任意の位置関係で各層を配置することができる。但し、当然であるが、外光反射を抑制する反射防止層は近赤外線反射層よりも観察者側が好ましく、また表面傷付きを防ぐハードコート層は(1層であれば)、これも近赤外線反射層よりも観察者側が好ましい。この様な、従来からディスプレイパネルの前面に配置する部材に於ける好ましい位置関係を採用するのがよいことは言うまでもない。
【0050】
[画像表示装置]
本発明による画像表示装置20は、図1(b)及び(c)などで説明したとおり、上記の様なディスプレイ用赤外線遮蔽フィルタ10を、ディスプレイパネル3としてプラズマディスプレイパネルの前面に配置した構成である。ディスプレイパネル3としては、特にプラズマディスプレイパネルが、原理的にディスプレイパネル自体からの赤外線放射が無視できず、本発明による効果は、プラズマディスプレイパネルに適用する場合に、より顕著である。
なお、近赤外線をディスプレイパネルから観察者側に放出するものであれば、本発明のディスプレイ用赤外線遮蔽フィルタは有用であり、この様なディスプレイパネルに応用しても良い。
【0051】
[用途]
本発明によるディスプレイ用赤外線遮蔽フィルタは、各種用途に使用可能である。特に、PDP、LCDなどの各種ディスプレイパネル、なかでも特に赤外線放射が顕著なPDP用の前面フィルタ用として好適である。また、この様なディスプレイ用赤外線遮蔽フィルタを、PDPなどディスプレイパネルの前面に配置した画像表示装置は、テレビジョン受像装置、測定機器や計器類、事務用機器、医療機器、電算機器、電話機、電子看板、遊戯機器等の表示部等に用いられる。
【実施例】
【0052】
次に、本発明を実施例及び比較例によって更に詳述する。
【0053】
[実施例1]
(近赤外線反射層)
近赤外線反射層1として、透明基材5を支持体としてこの上にコレステリック液晶固化層を積層したものを作製した。
透明基材5としては、厚み188μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(ルミラー(登録商標)U35、東レ株式会社製)を用意した。
なお、この透明基材の位相差は、平均リタデーションReが約4083nmであり、近赤外線の波長1200nmに対して、4083/1200=3.4となり、前記した〔式1〕、つまり、Re={(2n+1)/2±0.2}×λ、を満足するものであった。
【0054】
コレステリック液晶固化層の作製は、コレステレック液晶材料として、分子の両末端に重合可能なアクリレート(アクリロイルオキシ基、以下同様)を有し中央部にはメソゲンと前記アクリレートとの間にスペーサを有する、液晶性モノマー分子(Paliocolor(登録商標)LC1057(BASF社製))96.95部と、分子の両末端に重合可能なアクリレートを有するカイラル剤(Paliocolor(登録商標)LC756(BASF社製))3.05部とを溶解させたシクロヘキサノン溶液を準備した。なお、当該シクロヘキサノン溶液は、前記液晶性モノマー分子に対して2.5重量%の光重合開始剤(物質名;1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、商品名;イルガキュア(登録商標)184、製造元;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)を添加した固形分40重量%の溶液である。
【0055】
そして、前記透明基材の一方の面に、配向膜を介さずにバーコーターにて、上記シクロヘキサノン溶液を塗布した後、120℃で2分間加熱し溶液中のシクロヘキサノンを蒸発させて、液晶性モノマー分子を配向させた塗膜を得た。次に、該塗膜に紫外線を照射して、液晶性モノマー分子中のアクリレート及びカイラル剤分子中のアクリレートを3次元架橋してポリマー化し、透明基材上にコレステリック構造を固定化することにより膜厚5μmのコレステリック液晶固化層を形成し、透明基材5とコレステリック液晶固化層とからなる近赤外線反射層1を作製した。

この近赤外線反射層の反射特性(分光光度計で正反射角5°で計測)は、850nm付近から立ち上がり、約1000nm付近に反射ピークを持つ反射スペクトルが得られ、反射ピークでの反射率は45%、ベース(反射率が大きくなっていない波長領域)の反射率は14%であった。
【0056】
(近赤外線吸収層)
近赤外線吸収層2として、NIRA色素(近赤外線吸収色素)を含有する厚み25μmの粘着層を、離型フィルム上に作製した。
【0057】
粘着層を形成する為の粘着剤組成物には、先ず、アクリル系粘着剤(ヒドロキシルキ基を有しカルボキシル基を実質的に含まないアクリル系共重合体、総研化学株式会社製SK−1811L)100質量部に対して、三種類のNIRA色素(全て株式会社日本触媒製)として、フタロシアニン系化合物(エクスカラー(登録商標)IR−14)0.064質量部、フタロシアニン系化合物(エクスカラー(登録商標)IR12)0.090質量部、フタロシアニン系化合物(エクスカラー(登録商標)IR910)0.162質量部を添加し十分分散した。また、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤として2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン(CYTEC INDUSTRIES製、サイアソーブ(登録商標)UV24)を3.34質量部と、ヒンダードアミン系光安定剤(チバ・ジャパン株式会社製、TINUVIN(登録商標)144)1.66質量部を添加した。
更に、芳香族系イソシアネート(キシレンジイソアネートとトリメチロールプロパンとのアダクト体)を固形分で2質量部添加し、希釈剤30質量部で希釈して、粘着剤組成物を調製した。
【0058】
上記粘着剤組成物を、離型フィルムとして厚み100μmの離型処理済みポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡績株式会社製、E7002)の離型面に、乾燥時膜厚25μmとなるようにアプリケーターにて塗工し、70℃で3分乾燥させた後、塗膜の上から、離型フィルムとして厚み75μmの離型処理済みポリエチレンテレフタレートフィルムをラミネートして、近赤外線吸収層と兼用する粘着層の両面に、離型フィルムを積層した粘着フィルムを得た。
なお、この粘着フィルムの粘着層の可視光透過率は56%、近赤外線領域の850nm〜1000nmの透過率は25%であった。
【0059】
(ディスプレイ用赤外線遮蔽フィルタ)
上記で作製した透明基材を備えた近赤外線反射層1と、厚み100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡績株式会社製A4300)とを、上記で作製した透明基材を備えた近赤外線吸収層(兼粘着層)2は両面の離型フィルムを剥がして、該近赤外線吸収層(兼粘着層)を介してラミネートすることにより、ディスプレイ用赤外線遮蔽フィルタ10を作成した。
【0060】
(近赤外線の遮蔽性能の評価)
市販のプラズマテレビから前面のガラスフィルタを取り外し、そのプラズマディスプレイパネル(PDP)3に映像として白画面を表示させた状態で、上記ディスプレイ用赤外線遮蔽フィルタ10を近赤外線反射層1側が観察者V側を向くように配置して、可視光領域と近赤外領域の輝度を測定した。なお、輝度測定は可視光領域では分光放射輝度計を使用し、近赤外領域では近赤外分光放射計を使用した。測定は、ディスプレイ用赤外線遮蔽フィルタ10が設置されたときと、設置される前(ブランク)の両方を測定し、設置前後での輝度変化から、所定の波長での透過率を算出した。
その結果、可視光領域の透過率は48%、850〜1000nmの透過率は15%であった。
【0061】
[比較例1](近赤外線反射層なし近赤外線吸収層のみで色素濃度増量)
実施例1において、近赤外線反射層1は省略し、近赤外線吸収層2のみの構成のディスプレイ用赤外線遮蔽フィルタを作成した。但し、近赤外線吸収層2は層中のNIRA色素の色素濃度を増やした。その結果、ディスプレイ用赤外線遮蔽フィルタの可視光透過率は30%、近赤外線領域の850nm〜1000nmの透過率は5%であった。
【0062】
[実施例2](近赤外線反射層が透明基材(位相差層)を挟んだ2層のコレステリック液晶固化層)
実施例1において、近赤外線反射層として作成した、〔コレステリック液晶固化層/透明基材〕の層構成の積層フィルムを、更に2枚積層した〔コレステリック液晶固化層/透明基材(位相差層)/コレステリック液晶固化層/透明基材〕構成の2枚積層フィルムを、本実施例に於ける近赤外線反射層として作製した。
この近赤外線反射層の反射特性を実施例1同様に測定したところ、850nm付近から立ち上がり、約1000nm付近に反射ピークを持つ反射スペクトルが得られ、反射ピークでの反射率は88%、ベースの反射率は14%であった。
【0063】
また、近赤外線吸収層は、実施例1と同一にした近赤外線吸収層について層中のNIRA色素の色素濃度を変えて、可視光透過率を45%、近赤外線領域の850nm〜1000nmの透過率は15%とした近赤外線吸収層を用いた。なお、NIRA色素の色素濃度は、実施例1の配合量において、フタロシアニン系化合物(エクスカラー(登録商標)IR−14)0.09質量部、フタロシアニン系化合物(エクスカラー(登録商標)IR12)0.126質量部、フタロシアニン系化合物(エクスカラー(登録商標)IR910)0.226質量部、に変更した。
【0064】
後は、実施例1と同様にして、近赤外線反射層が備える透明基材の面に近赤外線吸収層(粘着層)が接する様な向きでラミネートして、ディスプレイ用赤外線遮蔽フィルタを作製した。その結果、ディスプレイ用赤外線遮蔽フィルタの可視光透過率は38%、近赤外線領域の850nm〜1000nmの透過率は4%であった。
【0065】
[実施例3](実施例2でNIRA色素濃度を減量)
実施例2において、実施例1と同一にした近赤外線吸収層について層中のNIRA色素の色素濃度を減らし、可視光透過率を67%に上げて、近赤外線領域の850nm〜1000nmの透過率は39%の近赤外線吸収層とした以外は、実施例2と同様にして、ディスプレイ用赤外線遮蔽フィルタを作製した。その結果、ディスプレイ用赤外線遮蔽フィルタの可視光透過率は58%、近赤外線領域の850nm〜1000nmの透過率は10%であった。
【0066】
[比較例2](近赤外線吸収層のみでNIRA色素濃度減量)
実施例1において、近赤外線反射層は省略し、近赤外線吸収層のみの構成のディスプレイ用赤外線遮蔽フィルタを作成した。但し、近赤外線吸収層は層中のNIRA色素の色素濃度は減らして可視光透過率を58%にしたところ、ディスプレイ用赤外線遮蔽フィルタは近赤外線領域の850nm〜1000nmの透過率が28%に上がった。したがって、実施例3と同程度の可視光領域透過率を確保した場合において、近赤外線領域の透過率は2倍以上に高く近赤外線の遮蔽性能が悪化した。
【0067】
[比較例3](実施例2で近赤外線吸収層なし)
実施例2において、近赤外線反射層のみとし近赤外線吸収層は省略した構成のディスプレイ用赤外線遮蔽フィルタを作成した。その結果、ディスプレイ用赤外線遮蔽フィルタの近赤外線領域の850nm〜1000nmの透過率は87%であった。
【符号の説明】
【0068】
1 近赤外線反射層
2 近赤外線吸収層
3 ディスプレイパネル(プラズマディスプレイパネル)
4 電磁波遮蔽層
5、5a、5b 透明基材
10 ディスプレイ用赤外線遮蔽フィルタ
20 画像表示装置
V 観察者


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスプレイパネルの前面に配置してディスプレイパネルから放出される赤外線を遮蔽するディスプレイ用赤外線遮蔽フィルタに於いて、
観察者側から順に、可視光線は透過して近赤外線を反射する近赤外線反射層と、可視光線は透過して近赤外線を吸収する近赤外線吸収層とをこの順に少なくとも有するディスプレイ用赤外線遮蔽フィルタ。
【請求項2】
上記近赤外線反射層が右円偏光又は左円偏光の一方の円偏光を選択的に反射し他方の円偏光を透過する層である請求項1記載のディスプレイ用赤外線遮蔽フィルタ。
【請求項3】
電磁波遮蔽層を近赤外線吸収層よりもディスプレイパネル側に有する請求項1又は2記載のディスプレイ用赤外線遮蔽フィルタ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のディスプレイ用赤外線遮蔽フィルタを、プラズマディスプレイパネルの前面に配置した画像表示装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−107321(P2011−107321A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−260920(P2009−260920)
【出願日】平成21年11月16日(2009.11.16)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】