説明

ディップコーティング装置、複合型ディップコーティング装置、およびディップコーティング方法

【課題】多量のボルトやナット等の被処理物を、効率的にディップコーティングすることができるとともに、効率的に余分な被覆処理液を除去し、個々の被処理物に対し、均一な被覆層を安定的に形成できるディップコーティング装置、それを備えた複合型ディップコーティング装置およびディップコーティング方法を提供する。
【解決手段】被覆処理液を収容してなる浸漬槽と、被処理物を収容した状態で、当該被処理物を被覆処理液に対して浸漬させるための収容手段と、収容手段を、鉛直方向の回転軸を中心として回転させるための回転手段と、を備えたディップコーティング装置等であって、収容手段の底面における中央部が、回転軸を中心軸とし、収容手段の内部方向に延びる凸状部を有するとともに、収容手段における周面および凸状部が、複数の開口部を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディップコーティング装置、複合型ディップコーティング装置、およびディップコーティング方法に関する。
特に、遠心力および気流を利用することによって、多量の被処理物を一括処理した場合であっても、余分な被覆処理液を効率的に除去することが可能なディップコーティング装置、そのようなディップコーティング装置に対して、被処理物の投入機構および回収機構をさらに備えた複合型ディップコーティング装置、および遠心力および気流を利用して、余分な被覆処理液を効率的に除去することが可能なディップコーティング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被処理物の表面に塗膜を形成する方法として、被処理物を被覆処理液中に浸漬させた後、引き上げ、次いで、余分な被覆処理液を除去しつつ、被処理物に塗布された被覆処理液を乾燥・硬化等させてなるディップコーティング方法(浸漬塗布方法)が広く実施されている
そして、規定のディップ量の塗料を塗布することを目的として、所定構造を有するディップコーティング装置が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
より具体的には、図13に示すように、ポールネジ202に沿って、原点リミットスイッチ207と、下限オーバーランリミットスイッチ208と、の間を、ポールネジナット203を介して、被コーティング基材Aを昇降可能に支持する被コーティング基材支持部204と、該被コーティング基材支持部204を昇降自在に駆動させる駆動部201と、被コーティング基材Aに塗料をディップする塗料槽212を備えたディップコーティング装置200において、塗料槽212の液面までの距離を検知する非接触式変位センサー209を被コーティング基材支持部204に設け、該非接触式変位センサー209からの検知信号に基づき、駆動部201の駆動を制御する駆動部制御手段としての非接触式変位センサーアンフ゜210およびシーケンサー211を設けたディップコーティング装置200である。
【0003】
また、ディップコーティング方法における、液切り時間を短縮させることを目的として、昇降部材の下方に、気流を生じさせる気流発生手段を備えたディップコーティング装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
より具体的には、図14に示すように、揮発性溶剤成分を含む塗布液をタンク301に充填するとともに、回路基板等の塗布対象物302を、タンク301内の塗布液に浸漬した後、昇降部材303に連なる吊り下げ手段305によって、その液面から引き上げ、塗布対象物302の表面に、塗布膜を安定液に形成するディップコーティング装置300である。
そして、支持棒304に連結した昇降部材3によって、塗布対象物302が完全に引き上げられるとき、ブロアー311、フィルター312および伸縮チューブ313を備えた昇降部材303の下方箇所に、気流を生じさせる気流発生手段309を備えていることから、エア吐出口306に向かって、矢印で表される気流を生じさせ、この気流によって溶剤成分が揮発するように構成したディップコーティング装置300である。
【0004】
一方、ディップコーティング方法における、ボルト、ナット等の小型金属製品における液切りの問題を解決できる装置として、撹拌状態の被処理物に対して被覆処理液を、噴霧した直後に、硬化処理させる工程を繰り返すことにより、塗膜を形成するタンブラー塗布装置が提案されている(例えば、特許文献3)。
より具体的には、図15に示すタンブラー塗布装置400において、小型金属製品403を撹拌および処理するためのチャンバー405を備えており、その底部は、内部方向に凹んだ凹み部406を中心として、連続回転運動の中心軸407を有しており、さらに、チャンバー405の内部に位置するように、被覆処理液402を、所定時期に噴霧するための固定噴霧ノズル408およびその循環経路410が設けられている。
そして、中心軸407によって、30〜60rpm程度で、チャンバー405をゆっくりと回転させながら、固定噴霧ノズル408から被覆処理液402を噴霧するとともに、その直後に硬化させ、その噴霧処理および硬化処理を数時間以上にわたって繰り返し、所定厚さの塗膜を形成するタンブラー塗布装置400である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−248507号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2007−38210号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特表2003−516841号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されたディップコーティング装置(図13参照)は、自然落下を利用して、余分な被覆処理液を被処理物から除去するため、いわゆる液切り時間が、非常に長くなるという問題が見られた。
また、液切りするまでの過程で、被処理物の表面において、余分な被覆処理液が重力によって下方に移動していくことから、被処理物の上部と下部における塗膜の厚さが不均一になりやすいという問題も見られた。
【0007】
また、特許文献2(図14参照)のディップコーティング装置は、遠心力を利用していないことから、多量のボルトやナット等の被処理物を一括してディップコーティング処理しようとすると、被処理物が重なりあって、内部に位置する被処理物には気流が届かず、液切りを効率的に行うことが困難になったり、塗膜の厚さが不均一になったりするという問題が見られた。
【0008】
一方、特許文献3(図15参照)のタンブラー装置は、少量の被覆処理液を、長時間に渡って噴霧するとともに、その都度硬化処理を行う必要があり、タンブラー装置を用いて、一括して処理できる被処理物量が極めて少ないという問題が見られた。
【0009】
そこで、本発明の発明者は鋭意検討した結果、ディップコーティング装置等において、所定の浸漬槽と、収容手段と、回転手段と、を備えることによって、遠心力および気流を効率的に利用することができ、その結果、多量の被処理物を一括処理した場合であっても、余分な被覆処理液を効率的に除去でき、かつ、均一な厚さの被覆層を安定的に形成できることを見出し、本発明を完成させたものである。
また、複合ディップコーティング装置において、所定のディップコーティング装置のみならず、所定の被処理物の投入装置や、所定の処理物の回収装置等を設けることによって、生産効率が著しく向上することを見出し、本発明を完成させたものである。
すなわち、本発明の目的は、多量の被処理物に対して、一括的にディップコーティング処理できるとともに、余分な被覆処理液を効率的に除去し、個々の被処理物に対し、均一な厚さの被覆層を安定的に形成できるディップコーティング装置やディップコーティング方法、およびそのようなディップコーティング装置を備えてなる複合型ディップコーティング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、所定量の被処理物を、収容手段に収容した状態で、浸漬槽に収容してある被覆処理液中に浸漬させて、被覆層を備えた処理物とするディップコーティング装置であって、被処理物を収容した状態の収容手段を、被覆処理液中に浸漬させるための駆動手段と、収容手段を、鉛直方向の回転軸を中心として回転または往復回転(一方方向の正回転および、その逆方向回転を含む組合わせ回転を意味する。以下、同様である。)させて、余分な被覆処理液を除去するための回転手段と、を備えており、収容手段の底面に、所定空間を内部に有する凸状部を設けるとともに、収容手段における周面および凸状部に、被覆処理液が連通するための複数の開口部を設け、前記収容手段の回転または往復回転によって、遠心力、および、気流を発生させて、余分な被覆処理液を除去することを特徴とするディップコーティング装置が提供され、上述した問題を解決することができる。
【0011】
すなわち、かかるディップコーティング装置であれば、所定の開口部および凸状部を有する収容手段を備えることから、多量の被処理物に対し、一括してディップコーティング処理を行う場合であっても、かかる収容手段を浸漬槽内の被覆処理液中に浸漬させることで、被処理物に対して、被覆処理液を効率的に塗布することができる。
また、収容手段を被覆処理液から引き上げた後、所定の回転手段によって回転または往復回転させることにより、遠心力を利用して、被処理物に付着した余分な被覆処理液を効率的に除去することができる。
そればかりか、収容手段を回転または往復回転させることにより、特別な気流発生装置を設けることなく、収容手段内において、凸状部から収容手段の内部を介して、外部方向に向かって移動する気流が発生することから、そのような気流を利用して、被処理物に付着した余分な被覆処理液を効率的に除去することができる。
よって、本発明のディップコーティング装置であれば、多量の被処理物を一括処理した場合であっても、個々の被処理物に対し、均一な厚さの被覆層を安定的に形成することができる。
【0012】
また、本発明のディップコーティング装置を構成するにあたり、凸状部の形状を、尖端部を有する円筒型、あるいは円錐型とすることが好ましい。
このように構成することにより、収容手段内において凸状部から収容手段の外部方向に向かって気流が発生しやすくなるとともに、収容手段に対して被処理物を収容する際に、被処理物と、凸状部との衝突による凸状部における機械的ダメージを軽減することができる。
【0013】
また、本発明のディップコーティング装置を構成するにあたり、収容手段の底面が、周縁部から中央部に向かって下方に傾斜してなる傾斜部を有することが好ましい。
このように構成することにより、被処理物に対する衝撃度を向上させることができ、ナットのように開口部を有する小型の被処理物に対しても、より均一な厚さの被覆層を安定的に形成することができる。
【0014】
また、本発明のディップコーティング装置を構成するにあたり、収容手段の周面および凸状部が、複数の開口部としてのパンチング孔を有する金属板から構成してあることが好ましい。
このように構成することにより、収容手段の機械的強度を一定以上に維持しつつも、収容手段を浸漬槽内の被覆処理液に対して浸漬させる際に、収容手段内に被覆処理液が侵入し易くなる。
また、このように構成することにより、収容手段を被覆処理液から引き上げた後、回転部材によって回転させる際には、効率的に余分な被覆処理液を除去することができる。
さらに、このように構成することにより、収容手段の強度を向上させることができ、例えば、合計重量が80kg以上にもなる多量の被処理物を収容した場合であっても、安定的に回転させることができる。
【0015】
また、本発明のディップコーティング装置を構成するにあたり、回転手段が、回転方向を切り替え可能であるとともに、収容手段を回転中に、急停止させるためのディスクブレーキを備えることが好ましい。
このように構成することにより、余分な被覆処理液を、より効果的に除去することができる。
【0016】
また、本発明の別の態様は、所定量の被処理物の投入装置と、所定量の被処理物を、収容手段に収容した状態で、浸漬槽に収容してある被覆処理液中に浸漬させて、被覆層を備えた処理物とするディップコーティング装置と、処理物の回収装置と、を仮想円の円周上に、所定間隔で備えるとともに、被処理物を、収容手段に収容した状態で、第1の鉛直方向の回転軸を中心として、仮想円の円周上に沿って回転移動させながら、被処理物の投入、被処理物のディップコーティング、および処理物の回収を行うための複合型ディップコーティング装置であって、
被処理物の投入装置が、被処理物の収容手段に対し、被処理物を所定量投入するための斜路を有する搬送装置を備えており、
ディップコーティング装置が、被処理物を収容した状態の収容手段を、被覆処理液中に浸漬させるための駆動手段と、収容手段を、第2の鉛直方向の回転軸を中心として回転または往復回転させて、余分な被覆処理液を除去するための回転手段と、を備え、収容手段の底面に、所定空間を内部に有する凸状部を設けるとともに、収容手段における周面および凸状部に、被覆処理液が連通するための複数の開口部を設けており、
さらに、処理物の回収装置が、処理物を収容した収容手段を傾けて、処理物を取り出すための回転手段を有すること、
を特徴とする複合ディップコーティング装置である。
【0017】
すなわち、本発明の複合型ディップコーティング装置であれば、所定のディップコーティング装置を備えることから、多量の被処理物を、一括してディップコーティングすることができ、その際、遠心力が利用できるばかりか、収容手段内において凸状部から収容手段の内部を介して、外部方向に向かって移動する気流が発生することから、それを利用して、余分な被覆処理液を効率的に除去し、個々の被処理物に対し、均一な厚さの被覆層を安定的に形成できる。
また、所定の投入装置および所定の回転落下装置を備えるとともに、これらを所定間隔、例えば、それぞれのなす中心角が120°(±20°)となるように、仮想円の円周上に3分割して配置していることから、被処理物を、所定場所を効率的に順次移動させて、ディップコーティング工程と、その前工程および後工程と、それぞれ同期させながら、短いタクト時間で、処理物を効率的に製造することができる。
【0018】
また、本発明の複合型ディップコーティング装置を構成するにあたり、移動手段を有しており、当該移動手段によって、仮想円の円周上の回転停止位置から、仮想円周外の所定位置まで水平移動させた後、収容手段を、第2の鉛直方向の回転軸を中心として回転させることが好ましい。
このように構成することにより、移動手段によって未処理の被処理物を収容した、全体として相当の重量物である収容手段のみをスムーズに移動させて、回転手段に取り付けることが容易になるとともに、処理済みの被処理物を収容した収容手段を回転手段から取り外して、スムーズに移動させることも容易になる。
【0019】
また、本発明の複合型ディップコーティング装置を構成するにあたり、処理物の回収装置の端部に、乾燥装置が設けてあり、かつ、当該乾燥装置の途中に、被覆層を備えた処理物を重力方向に落下させる衝撃付与装置が設けてあることが好ましい。
このように構成することにより、処理物をすぐに加熱処理することが可能になって、隣接する処理物同士が、被処理物を介して接着することを防止できる。
また、仮に、隣接する処理物同士が、被処理物を介して接着したとしても、衝撃付与装置によって、有効に分離することができる。
【0020】
また、本発明のさらに別の態様は、被処理物を収容した状態の収容手段を、被覆処理液中に浸漬させるための駆動手段と、収容手段を、鉛直方向の回転軸を中心として回転または往復回転させて、余分な被覆処理液を除去するための回転手段と、を備え、収容手段の底面に、所定空間を内部に有する凸状部を設けるとともに、収容手段における周面および凸状部に、被覆処理液が連通するための複数の開口部を設けたディップコーティング装置を用い、所定量の被処理物を、収容手段に収容した状態で、浸漬槽に収容してある被覆処理液中に浸漬させて、被覆層を備えた処理物とするディップコーティング方法であって、下記工程(a)〜(d)を含むことを特徴とするディップコーティング方法である。
(a)被処理物を、収容手段に収容する工程
(b)被処理物を収容した状態の収容手段を、浸漬槽に収容された被覆処理液中に浸漬させる工程
(c)収容手段を、被覆処理液から引き上げる工程
(d)収容手段を、浸漬槽内において回転手段により回転させ、遠心力、および、収容手段内において凸状部から当該収容手段の外部方向に向かって発生する気流を利用して、被処理物に付着した余分な被覆処理液を除去する工程
【0021】
すなわち、本発明のディップコーティング方法であれば、所定のディップコーティング装置を用いることから、多量の被処理物を、一括してディップコーティングすることができ、その際、遠心力を利用することができる。
そればかりか、収容手段内において凸状部から収容手段の内部を介して、外部方向に移動する気流が発生することから、それを利用して、余分な被覆処理液を効率的に除去し、個々の被処理物に対し、均一な厚さの被覆層を安定的に形成できる。
【0022】
また、本発明のディップコーティング方法を実施するにあたり、工程(b)において、収容手段を被覆処理液に対して浸漬させた状態で、回転手段により回転させることが好ましい。
このように実施することによって、被覆処理液の濃度むら等に起因した被覆層の厚さのばらつきを少なくすることができるとともに、ナット等の開口部を有する小型被処理物に対しても、均一な厚さの被覆層を安定的に形成できる。
【0023】
また、本発明のディップコーティング方法を実施するにあたり、工程(d)において、回転状態の収容手段を、急停止させた後、回転方向を切り替えることが好ましい。
このように実施することにより、収容手段に収容された多量の被処理物のうち、内部に埋もれているような小型の被処理物や、開口部を有する被処理物に対しても、効果的に被覆処理液を被覆させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、本発明のディップコーティング装置の動作を説明するために供する図である(その1)。
【図2】図2は、本発明のディップコーティング装置の別の動作を説明するために供する図である(その2)。
【図3】図3は、本発明のディップコーティング装置のさらに別の動作を説明するために供する図である(その3)。
【図4】図4(a)〜(b)は、収容手段の構成例を説明するために供する図である。
【図5】図5(a)は、レール状部材を含む移動手段を説明するために供する図であり、図5(b)は、レール状部材の平面図であり、図5(c)は、レール状部材を含む移動手段に、収容手段を取り付けた状態の正面図である。
【図6】図6は、レール状部材を含む移動手段による収容手段の動作を説明するために供する図である。
【図7】図7は、浸漬槽の高さ位置を調整する位置調整部材を説明するために供する図である。
【図8】図8は、複合ディップコーティング装置の平面状態を説明するために供する図である。
【図9】図9(a)〜(b)は、収容手段の傾き等を防止する水平位置調整手段を説明するために供する図である。
【図10】図10は、加熱装置を端部に含む複合ディップコーティング装置の平面状態を説明するために供する図である。
【図11】図11は、処理物の回収装置における収容手段の動作を説明するために供する図である。
【図12】図12は、複合ディップコーティング装置の端部に結合されている加熱装置を説明するために供する図である。
【図13】図13は、従来のディップコーティング装置を説明するために供する図である(その1)。
【図14】図14は、従来のディップコーティング装置を説明するために供する図である(その2)。
【図15】図15は、従来のタンブラーコーティング装置を説明するために供する図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[第1の実施形態]
第1の実施形態は、図1〜図3に示すように、所定量の被処理物を、収容手段12に収容した状態で、浸漬槽30に収容してある被覆処理液31の中に浸漬させて、被覆層を備えた処理物とするディップコーティング装置10であって、被処理物を収容した状態の収容手段12を、被覆処理液31の中に浸漬させるための浸漬槽移動手段32と、収容手段12を、鉛直方向の回転軸23を中心として回転または往復回転させて、余分な被覆処理液を除去するための回転手段25と、を備えており、収容手段12の底面12aに、所定空間を内部に有する凸状部14を設けるとともに、収容手段12における周面12cおよび凸状部14に、被覆処理液が連通するための複数の開口部(図示せず)を設けることを特徴とするディップコーティング装置10である。
以下、図面を適宜参照しつつ、第1の実施形態としてのディップコーティング装置および、その対象としての被処理物や構成手段(浸漬槽、収容手段、駆動手段、回転手段)について、具体的に説明する。
【0026】
なお、図1は、ディップコーティング装置10の動作例を説明するために供する図であって、ディップコーティング装置10における収容手段12が、移動手段(第1の鉛直方向の回転軸42)40によって、仮想円(図8中のφ)の円周上に沿って回転移動して、被覆処理液31が収容してある浸漬槽30に対して、所定の停止位置(図8中のP2)における状態を示す図である。
【0027】
また、図2は、ディップコーティング装置10の別の動作例を説明するために供する図であって、収容手段12が、図1の所定の停止位置(図8中のP2)から、浸漬槽30に近接する位置(図8中のP3)に水平移動した際に、収容手段12の移動手段の一部であるレール状部材(第1のレール状部材)18が、水平方向に伸びて、回転駆動部27の下方に設けてある別のレール状部材(第2のレール状部材)24と、接合した状態を示す図である。
【0028】
さらに、図3は、ディップコーティング装置10のさらに別の動作例を説明するために供する図であって、連結したレール状部材18、24に沿って、収容手段12が、押圧手段(図示せず)によって水平移動し、回転部材22の下方に移動した後、第1のレール状部材のみが、第2のレール状部材と離れて、初期位置(図8中のP2)に戻った状態を示す図である。
【0029】
1.被処理物
ディップコーティング装置に適用できる被処理物としては、特に制限されるものではないが、例えば、ボルト、ナット、ワッシャー、プレート状物、棒状物、異形成形品、モーターコア等の金属部品やセラミック部品、さらには樹脂部品等が好ましく挙げられる。
また、ディップコーティング装置は、一旦、大まかに表面処理加工した金属部品やセラミック部品、さらには樹脂部品等の表面処理物につき、表面をさらに均一化したり、厚膜化するためにも使用できることから、そのような表面処理物もまた、被処理物の一つとなる。
【0030】
また、収容手段に収容される被処理物の合計重量を、被処理物の形態や材質等にもよるが、通常、1〜150kgの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、一括して処理を行う被処理物の合計重量をかかる範囲内の値とすることにより、被処理物に付着した余分な被覆処理液を効率的に除去し、個々の被処理物に対し、均一な被覆層を安定的に形成することができるためである。
すなわち、かかる被処理物の合計重量が1kg未満の値となると、一括してディップコーティングできる被処理物の量が少なくなって、処理効率が過度に低下する場合があるためである。一方、かかる被処理物の合計重量が150kgを超えた値となると、収容手段を安定的に回転させることが困難になって、被処理物に付着した余分な被覆処理液を効率的に除去することが困難になる場合があるためである。
したがって、収容手段に収容される被処理物の合計重量を、10〜100kgの範囲内の値とすることがより好ましく、50〜80kgの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0031】
2.収容手段
(1)基本的構成
また、図1〜図3に示すように、ディップコーティング装置10は、基本的構成として、被処理物を収容した状態で、当該被処理物を被覆処理液31に対して浸漬させるとともに、被処理物と、被覆処理液31とが、均一に接触するように、被処理物を回転移動させる際の容器としての収容手段12を備えることを特徴とする。
そして、具体的には、底面12a、底面における斜面12b、および周面12cに複数の開口部(図示せず)を有するとともに、収容手段12の底面12aにおける中央部が、収容手段12の内部方向に延びる凸状部14を形成してなる収容手段12を備えることを特徴とする。
この理由は、かかる収容手段12を備えることにより、多量の被処理物に対し、一括してディップコーティング処理を行う場合であっても、かかる収容手段12を浸漬槽内の被覆処理液31の中に浸漬させることで、被処理物に対して容易に被覆処理液31を塗布することができるためである。
【0032】
また、かかる収容手段12であれば、ディップコーティング処理を行った後、収容手段12を被覆処理液31から引き上げた後、回転手段25によって回転させることにより、被処理物に付着した余分な被覆処理液31を効率的に除去することができる。
より具体的には、かかる収容手段12であれば、回転手段25によって回転させることにより、遠心力、および、収容手段12の内部において凸状部14から収容手段12の周面方向に向かって発生する気流を利用して、被処理物に付着した余分な被覆処理液31を飛散させながら、除去することができる。
したがって、ディップコーティング装置10によって、大量の被処理物を一括して塗布処理した場合であっても、個々の被処理物に対し、均一な厚さの被覆層を安定的に形成することができる。
【0033】
(2)開口部
また、図4(a)に示す平面図および図4(b)に示す側面図から理解されるように、収容手段12の底面12aおよび周面12cが金属板からなるとともに、複数の開口部15が、パンチング加工等により設けてあることが好ましい。
この理由は、このような収容手段の構成とすることによって、収容手段を浸漬槽内の被覆処理液に対して浸漬させる際には、収容手段内に被覆処理液が侵入し易くなり、また、収容手段を被覆処理液から引き上げた後、回転部材によって回転させる際には、効率的に余分な被覆処理液を除去することができるためである。
一方、このような収容手段の構成であれば、複数の開口部を設けた場合であっても、さらには、多量の被処理物を投入した場合であっても、過度に変形することなく、所定の形態を維持できるためである。
【0034】
また、収容手段の周面および底面を構成する金属板としては、例えば、アルミニウム板、アルミニウム合金板、ステンレス板、ニッケル板、鉄板、亜鉛板、銅板、およびこれらの金属板の表面にメッキ処理したメッキ金属板や、表面を樹脂被覆した樹脂コート金属板等が挙げられる。
また、かかる金属板の厚さを、通常、0.2〜10mmの範囲内の値とすることが好ましく、0.5〜8mmの範囲内の値とすることがより好ましく、1〜5mmの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0035】
そして、収容手段が有する開口部の直径(円相当径)を、0.1〜5mmの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる開口部の直径が0.1mm未満の値となると、浸漬時において、収容手段内に被覆処理液が侵入しにくくなり、回転部材によって回転させる際には、収容手段内から被覆処理液を飛散および除去すること困難になる場合があるためである。
一方、かかる開口部の直径が5mmを超えた値となると、比較的小さな被処理物を収容することが困難になったり、収容手段の機械的強度が過度に低下しやすくなったりする場合があるためである。
従って、収容手段における開口部の直径を、0.5〜3mmの範囲内の値とすることがより好ましく、1.0〜2mmの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
なお、収容手段が有する開口部の平面形状としては、特に制限されるものではなく、例えば、円形、楕円形、三角形、四角形、その他の多角形および不定形等であってもよい。
【0036】
その他、収容手段が有する開口部の合計面積の割合についても特に制限されるものではないが、通常、収容手段の周面および底面における合計表面積に対し、5〜80%の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる合計面積の割合が1%未満の値となると、浸漬時には、収容手段内に被覆処理液の侵入量が低下し易くなり、回転部材によって回転させる際には、収容手段内から被覆処理液を十分に飛散および除去することが困難になる場合があるためである。一方、かかる合計面積の割合が80%を超えた値となると、収容手段の機械的強度が過度に低下しやすくなる場合があるためである。
したがって、収容手段が有する開口部の合計面積の割合を、10〜60%の範囲内の値とすることがより好ましく、20〜40%の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0037】
(3)凸状部
また、図4(a)〜(b)に示すように、所定の内部空間14aを有する凸状部14の形状を、先端が細くなった円筒型、あるいは円錐型とすることが好ましい。
この理由は、凸状部をこのような形状とすることにより、収容手段に対して被処理物を収容する際に、被処理物と、凸状部との衝突による凸状部における機械的ダメージを軽減することができるためである。
【0038】
また、凸状部の内容積を1000〜500,000cm3の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、凸状部の内容積が1000cm3未満の値となると、凸状部の内部において発生する気流、すなわち、収容手段の内部を通過して、外部方向に向かって移動する気流の発生量が過度に少なくなって、被処理物に付着した余分な被覆処理液を飛散および除去することが困難になる場合があるためである。
一方、凸状部の内容積が500,000cm3を超えた値となると、収容手段内に収容できる被処理物の量や形状が、過度に制限される場合があるためである。
したがって、凸状部の内容積を5,000〜300,000cm3の範囲内の値とすることがより好ましく、10,000〜100,000cm3の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0039】
また、凸状部の高さは、収容手段の大きさにもよるが、通常、底面から5〜80cmの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、凸状部の高さが5cm未満の値となると、凸状部の内部を通って、収容手段の外部方向に向かう気流が過度に少なくなって、被処理物に付着した余分な被覆処理液を飛散および除去することが困難になる場合があるためである。
一方、凸状部の高さが80cmを超えた値となると、収容手段に対して被処理物を収容する際に、被処理物と、凸状部との衝突により、凸状部が破損しやすくなる場合があるためである。
したがって、凸状部の高さを、収容手段の底面から10〜60cmの範囲内の値とすることがより好ましく、20〜40cmの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0040】
(4)収容手段の全体形状
また、収容手段の全体的な形状としては、特に制限されるものではないが、図4(a)〜(b)に示すように、実質的に円筒形の周面12cを有するとともに、底面12aの中心部には、凸状部14が設けてあり、さらに、凸状部14に向かって、下方に傾斜した底面12bを有することが好ましい。
この理由は、このような周面および底面を有することにより、小型の被処理物であっても、内部に開口部を有する被処理物であっても、さらには、異形の被処理物であっても、回転手段によって、所定の衝撃力を付与することができ、より均一に塗布することができるためである。
【0041】
また、図4(a)〜(b)に示すように、収容手段の底面12aとは反対側に、概ね多角形(六角形)であって、両側方に、レール状部材18、24と嵌合するためのレール接触部材(溝部)21bを備えたフレーム部材21が設けてあることが好ましい。
すなわち、収容手段の外形が円形等の曲線を含む場合であっても、収容手段の一部に、溝部を備えた直線部分を有する多角形(概ね四角形等)のフレーム部材を、溶接や接着剤等によって、取り付けることが好ましい。
このように構成することにより、収容手段に対する所定の補強効果が発揮できるとともに、フレーム部材の直線部分を利用して、移動部材や回転部材との間の接触を強固かつ容易なものとすることができる。
その他、図4(a)〜(b)に示すように、フレーム部材21の下方であって、収容手段12の周囲に、さらに補強のためにフランジ21aが設けてあることが好ましい。
【0042】
なお、収容手段が実質的に円筒形の場合、通常、その直径を20〜160cmの範囲内の値とすることが好ましく、40〜120cmの範囲内の値とすることがより好ましく、60〜80cmの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
また、周面の高さを、通常、40〜180cmの範囲内の値とすることが好ましく、50〜150cmの範囲内の値とすることがより好ましく、60〜120cmの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
したがって、収容手段の容量を10〜10,000リットルの範囲内の値とすることが好ましく、100〜5,000リットルの範囲内の値とすることがより好ましく、500〜1,000リットルの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0043】
また、底面が傾斜部を有する場合の傾斜角θを、水平方向に対して、5〜45°の範囲内の値とすることが好ましく、10〜30°の範囲内の値とすることがより好ましく、15〜25°の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
さらに、被処理物の態様によって、傾斜角θを変えることが好ましい。
例えば、被処理物がボルトや金属プレート板のように、内部に開口部もなく、比較的表面積が大きい場合には、表面に被処理液を付着させやすいことから、回転処理によって、生じる衝撃を比較的抑制したほうが、被処理液が均一に付着しやすいという特徴がある。したがって、被処理物がボルトや金属プレート板等の場合、傾斜角θを5〜15°の範囲内の値とすることが好ましい。
一方、被処理物がナットやネジのように、内部に開口部や溝があったり、比較的表面積が小さい場合には、内部に被処理液が過度に侵入しやすかったり、表面に付着しやすいことから、回転処理によって、生じる衝撃を比較的大きくしたほうが、隣接する被処理物同士が接着しにくくなるという特徴がある。したがって、被処理物がナットやネジ等の場合、傾斜角θを15超〜45°の範囲内の値とすることが好ましい。
【0044】
3.回転手段
また、図1に示すように、ディップコーティング装置10は、収容手段12を、固定手段(図示せず)によって固定するとともに、鉛直方向の回転軸(第2の鉛直方向の回転軸)23を中心として、回転駆動部27を介して、収容手段12を回転させるための回転駆動手段22を含む回転手段25を備えることを特徴とする。
この理由は、このように構成することによって、被処理物が収容された状態の収容手段を被覆処理液から引き上げた後、かかる回転駆動部を有する回転手段によって回転させることにより、被処理物に付着した余分な被覆処理液を効率的に除去することができるためである。
また、被処理物が収容された状態の収容手段を被覆処理液に浸漬させる際に、かかる回転手段によって回転させることで、大量の被処理物のうち、内部に埋もれたものに対しても、効率的に被覆処理液を塗布することができるためである。
【0045】
また、図1に示すように、かかる回転手段25は、収容手段12を固定しやすいように、その外形に近似させ、例えば、矩形状の回転駆動部27や、収容手段12を強固に固定するための固定手段(図示せず)を有しているとともに、矩形状の回転駆動部27等が、後述する浸漬槽30の上方に位置するように構成してあることが好ましい。
この理由は、このように構成することによって、被処理物が収容された状態の相当の重量物である収容手段を、固定手段を介して回転駆動部に強固に固定し、その状態で浸漬槽内の被覆処理液に対して被処理物を浸漬させたり、引き上げたりするためである。
なお、上述した回転駆動手段22としては、電気モーター、エアーモーターおよびエンジン等を用いることができる。
【0046】
また、図1に示すように、かかる回転手段25における回転駆動部27は、フックやクランプ部材、あるいはガイドレール等の固定手段(図示せず)を介して、収容手段12を取り外し可能に固定してあることが好ましい。
この理由は、未処理の被処理物が収容された収容手段を、固定手段(図示せず)を介して、回転手段に強固に固定して、被覆処理液への浸漬および余分な被覆処理液の除去を行った後、収容手段を、回転部材から取り外して、例えば、乾燥工程等の次工程へと効率的に移行することができるためである。
【0047】
また、図1に示すように、回転手段25における回転駆動部27が、その回転方向を切り替え可能であるとともに、回転状態の収容手段を急停止させるためのディスクブレーキ26をさらに備えることが好ましい。
この理由は、このように構成することにより、余分な被覆処理液を、より効果的に除去することができるためである。
すなわち、遠心力、および、収容手段内において凸状部から当該収容手段の外部方向に向かって発生する気流に加えて、さらに、回転状態の収容手段を急停止させることにより発生する慣性力によって、被処理物に付着した余分な被覆処理液を、さらに効率的に飛散および除去することができるためである。
また、収容手段内における被処理物の位置を、慣性力によってずらし、被処理物同士の位置的な関係で飛散および除去しきれず残留していた被覆処理液を、飛散および除去しやすい状態に変化させることができる。
したがって、回転状態の収容手段を急停止させた後、回転方向を切り替えることで、飛散および除去しやすい状態になった被覆処理液を、より効率的に飛散および除去することができる。
なお、上述した効果は、被処理物に対して、被覆処理液を浸漬塗布する際に、塗布効率を向上させる効果として、発揮される。
【0048】
4.浸漬槽
また、図1に示すように、ディップコーティング装置10は、被処理物(図示せず)を被覆処理液31に対して浸漬させるための浸漬槽30を備えている。
この理由は、このように構成することによって、未処理の被処理物が収容された状態の収容手段を、浸漬槽内に収容された被覆処理液に対して浸漬させることにより、大量の被処理物に対して、一括して被覆処理液を塗布することができるためである。
【0049】
また、図7に示すように、浸漬槽30を、位置調整部材(ジャッキ)である浸漬槽移動手段32によって、上下動可能とすることが好ましい。
この理由は、浸漬槽をこのように上下動可能とすることにより、回転部材に固定された収容手段を、容易に浸漬槽内の被覆処理液に浸漬させたり、引き上げたりすることができるためである。
但し、同様の効果を得ることができることから、浸漬槽を固定して、回転部材を上下動可能としてもよい。
【0050】
なお、浸漬槽の高さを、少なくとも収容手段の高さの2倍以上の値とすることが好ましい。
この理由は、このように構成することにより、浸漬槽内の被覆処理液に対して、被処理物を収容した状態の収容手段を浸漬させた後、収容手段を浸漬槽の外部に露出させることなく引き上げ、その状態で回転手段により回転させることができるためである。
また、除去すべき余分な被覆処理液を、浸漬槽の内壁によってそのまま浸漬槽内に回収することもできるためである。
【0051】
5.移動手段
また、ディップコーティング装置は、収容手段を取り外し可能に、補強支持部材に載置した状態で、収容手段を所定場所に移動させるための移動手段を備えている。
より具体的には、図5(a)に示すように、移動手段40の主要部としての回転軸(第1の鉛直方向の回転軸)42と、当該回転軸42と連結するとともに、概三角形の補強支持部材(補強板)16等を介して、収容手段12を片持ちするための収容手段の支持部材43と、を有している。
また、図5(b)に示すように、移動手段40は、平面形状が概ねU字状またはコの字状であるレール状部材18を、備えており、収容手段12の水平方向の移動を容易ならしめている。
さらに、図5(c)に示すように、移動手段40は、収容手段12を、そのフランジ21aおよびフレーム部材21の両側に設けてあるレール接触部材(溝部)21bを利用して、水平方向に保持するとともに、四角柱状の補強部材16aを有するとともに、その表面にベアリング部材20を備え、それを介して、レール状部材18(18b、18c、18d)を移動可能に保持している。
【0052】
すなわち、図8に示すように、仮想円(φ)の円周上に沿って、被処理物の投入場所(P1)からディップコーティング位置(P2)まで、あるいはディップコーティング位置(P2)から回収位置(P4)まで、さらには、ディップコーティング処理をする際の停止位置(P2)から、ディップコーティング処理をする位置(P3)まで、それぞれスムーズに移動させるための移動手段40を備えている。
このような移動手段を備えることにより、被処理物を収容した相当の重量物である収容手段をスムーズに移動させ、ディップコーティング位置では、回転手段に正確に取り付けることができるとともに、処理済みの被処理物を収容した収容手段を回転手段から取り外して移動させ、次の乾燥工程等に移すことができるためである。
ここで、移動手段による収容手段の移動動作(一部、ディップコーティング処理も含む。)について、以下、具体的に説明する。
【0053】
(1)まず、図8に示すように、所定位置(P1)において、所定の収容手段12を準備し、未処理の被処理物を、重さ測定手段(はかり)13によって秤量しながら収容する。なお、この収容動作については、第2の実施形態において、より具体的に説明する。
【0054】
(2)次いで、図8に示すように、収容手段12を、水平状態を維持したまま、ディップコーティング装置10の浸漬槽30に対して、仮想円(φ)の円周上の所定位置(P2)となるように回転移動させる。
【0055】
その際、所定の水平位置調整手段を設けて、収容手段が左右方向にぶれたり、前後位置がずれたりすることを防止することが好ましい。
例えば、図8に示すように、収容手段12を、仮想円(φ)の円周上に沿って、所定位置(P1)から、所定位置(P2)に回転移動させた場合に、収容手段12の位置(水平位置や左右の傾き等を含む)がずれていると、図6に示すように、収容手段12やレール状部材18を、押さえ部材駆動装置46の操作によって、収容手段押さえ46aやレール押さえ46bが、ディップコーティングをするための所定位置(P3)まで、スムーズに水平移動させることが困難となる。
一方で、ディップコーティングを実施した後、収容手段12の位置がずれていると、図6に示すように、収容手段12やレール状部材18を、押さえ部材駆動装置46の操作によって、収容手段押さえ46aやレール押さえ46bが、ディップコーティングを開始する前の所定位置(P3)まで、スムーズに水平移動して、戻ってくることが困難となる。
【0056】
そのため、図9(a)に示すような水平位置調整手段としての位置決めピン33が設けてあれば、収容手段12の位置を正確かつ簡易に決定することができる。
より具体的には、位置決めピン33が、移動手段40の一部に設けてあり、収容手段12が移動して、所定場所に来たときに、かかる位置決めピン33が所定方向に前進し、位置決めピン受け34と、物理的に嵌合することにより、収容手段12の位置を正確かつ簡易に決定することができる。
また、このような位置決めピン33と、位置決めピン受け34とを含む水平位置調整手段であれば、簡易な構成であっても、被処理物を収容した相当の重量物である収容手段を、回転移動等させた場合に、極めて正確かつ迅速に位置決めすることができる。
【0057】
また、図9(b)に示すように、V溝34a´、34b´を平行して二つ有する位置決め部材34´と、それに嵌合する二つの位置決め用回転ベアリング33a´を有する位置決め部材33´とから、水平位置調整手段が構成されていることも好ましい。
すなわち、二つの位置決め用回転ベアリング33a´を有する位置決め部材33´が、収容手段12の一部や、移動手段40の一部に設けてあり、平行してなる二つのV溝34a´、34b´を有する位置決め部材34´が、所定場所に設置してあるものである。
このような水平位置調整手段であれば、被処理物を収容した相当重量の収容手段12であっても、平行してなる二つのV溝34a´、34b´と、二つの位置決め用回転ベアリング33a´との嵌合によって、左右方向に横振れすることなく、所定位置に対して、迅速に、位置決めすることができる。
よって、収容手段12を上下動させたような場合であっても、二つの位置決め用回転ベアリング33a´が、平行してなる二つのV溝34a´、34b´の間に、容易に侵入して、嵌合することによって、収容手段12の位置を、迅速かつ正確に決定することができる。
【0058】
(3)次いで、図6に示すように、収容手段12の水平状態を維持したまま、移動手段40の一部としてのレール状部材(以降、第1のレール状部材と称する場合がある。)18を、レール押さえ46bがクランプする。
すなわち、図6に示すように、押さえ部材駆動装置46の操作によって、レール押さえ46bが、矢印Aの左方向に移動した後、さらに、矢印Bの下方向に降下して、レール状部材18の端部18aをクランプする。
このように、動作することによって、レール押さえ46bによる、第1のレール状部材18の水平移動が可能となる。
【0059】
なお、第1のレール状部材18は、図5(b)に示すように、例えば、平面形状が実質的にU字状またはコの字状であって、右レール部18bと、左レール部18cと、それらを繋ぐ連結部18dとから構成されており、中心箇所には、収容手段12と干渉しないように空間部18eを備えている。
そして、図5(c)に示すように、第1のレール状部材18は、例えば、ベアリング部材20を介して、移動手段42の一部であって、補強支持部材(補強板)16の内側に配置された四角柱状の補強部材16aに接触するように設けてあることから、第1のレール状部材18の単独での水平移動や、収容手段12の単独での水平移動が可能となる。
【0060】
(4)次いで、図6に示すように、収容手段12の水平状態を維持したまま、収容手段12の取手(図示せず、但し、図4中の21dで表わされる部材)を、収容手段押さえ46aが、クランプする。
すなわち、押さえ部材駆動装置46の操作によって、収容手段押さえ46aが矢印Cの左方向に移動した後、さらに、矢印Dの下方向に降下して、収容手段12の取手をクランプする。
このように、動作させることによって、収容手段押さえ46aにより、収容手段12の水平移動が可能となる。
なお、フレーム部材21は、図4(b)や図5(c)に示すように、進行方向から眺めた場合、断面がコの字状のレール接触部材21bを、両側に備えており、かつ、レール状部材18、24との接触面に、ベアリング部材21cを設けていることから、レール状部材18、24に沿った、収容手段12の単独での水平移動がさらに容易となる。
【0061】
(5)次いで、図6に示すように、収容手段12の取手が、収容手段押さえ46aによってクランプされたまま、レール押さえ46bが、矢印Aの左方向に移動し、それに対応して、第1のレール状部材18が、矢印Fの左方向に前進する。
そして、第1のレール状部材18が、回転部材22の一部に水平方向であって、かつ第1のレール状部材18と同じ高さ位置に設けてある、第1のレール状部材とは異なるレール状部材(第2のレール状部材物)24と接触しつつ、係合する。
【0062】
なお、第1のレール状部材18と、第2のレール状部材24とが、強固に係合するととものに、一方で、容易に分離することができ、その上、レール状物の表面に凹凸を形成しないように、図5(b)に示すように、所定の係合部材18fを、レール状部材18、24の側方部に、それぞれ有することが好ましい。
そしてさらに、第1のレール状部材18と、第2のレール状部材24とが係合する際の精密な位置合わせが不要となるように、図1〜図3に示すように、係合箇所の近傍に、ガイド部材24aが設けてあることが好ましい。
したがって、係合したレール状部材18、24に沿って、収容手段押さえ46aが、矢印Cの左方向に移動することから、それに対応して、収容手段12が前進し、回転手段25の直下まで移動することになる。
すなわち、このように、動作させることによって、相当な重量物であっても、係合した第1のレール状部材18および第2のレール状部材24に沿って、収容手段12がスムーズに水平移動することが可能となる。
【0063】
(6)次いで、図3に示すように、収容手段12のフレーム部材21と、回転駆動部27の一部に設けてある所定止具(図示せず)が係合し、収容手段12が、回転駆動部27の所定位置に配置される。
そして、図6の矢印Gの下方向に、回転駆動部27が下降し、次いで、所定止具によって、収容手段12を強固にクランプすることによって、収容手段12の水平状態が維持されるとともに、回転駆動部27を介した、スムーズな回転動作や往復回転動作が可能となる。
すなわち、この状態で、図7に示すように、浸漬槽30の位置調整部材である浸漬槽移動手段(ジャッキ)32によって、浸漬槽30が上昇し、所定位置に移動することにより、所定のディップコーティング処理を効率的に行うことができる。さらに言えば、ディスクブレーキ等によって、急停止させたとしても、収容手段12を安定的に保持することができる。
【0064】
(7)ディップコーティング処理
ディップコーティング処理を実施する際の回転動作(浸漬時および液切り時)については、ディップコーティング方法の項で説明する。
なお、ディップコーティング処理の際に、回転手段が所定の回転動作を行った後、第1のレール状部材18と、第2のレール状部材24と、が再び係合して、連結できるように、収容手段12を固定した回転駆動部27を、所定位置に戻す必要がある。
そのため、図9に示すように、所定位置に停止するための位置決め機構としてのノックピン33や、二つのV溝34a´、34b´を有する位置決め部材34´と嵌合する回転可能な位置決め用回転ベアリング33a´等を準備しておき、当該ノックピン33や位置決め用回転ベアリング33a´等が挿入できる位置に戻ってきているか否かを確認することが好ましい。
【0065】
(8)次いで、浸漬槽30が、図7の矢印Hの下方向に移動し、初期位置まで下降する。その後、図6に示すように、レール押さえ46bにクランプされた状態の第1のレール状部材18が、所定位置まで前進し、第2のレール状部材24と再び連結する。次いで、収容手段押さえ46aが、水平移動して、収容手段12の取手をクランプするとともに、収容手段12を後退させて、初期位置まで戻す。そして、レール押さえ46bおよび収容手段押さえ46aが、それぞれクランプを解除して、初期状態に戻る。
よって、このようにして、被処理物に対するディップコーティング処理が一旦終了し、次工程の硬化工程に、被処理物を移送することができるようになる。
【0066】
6.被覆処理液
また、被覆処理液は、被処理物の表面に硬化塗膜を形成するための被覆成分を含有しており、かかる被覆成分を被処理物の表面に付着させた後、硬化させることにより、被処理物の表面に、所定の硬化塗膜を形成可能な液状物である。
このような被覆処理液は、被覆成分として、各種熱可塑成分、熱硬化成分、光硬化成分、あるいはこれらの組み合わせを含むことができる。
そして、かかる被覆成分としては、より具体的には、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリイミド系樹脂、エポキシ系樹脂、オキセタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、フェノール系樹脂、シリコーン系樹脂等の一種単独または二種以上の組み合わせが挙げられる。
さらに言えば、被処理物が、ディスクブレーキの場合、ポリアミド酸等のポリイミド樹脂前駆体や、ポリイミド樹脂と、エポキシ化合物やエポキシ樹脂等のポリイミド樹脂と重合可能な1種又は2種以上の硬化成分とを含むポリイミド樹脂組成物を含有する溶液又は分散液であることが好ましい。
【0067】
また、溶媒として、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、フェノール、クレゾール、キシノール、ハロゲン化フェノール、カテコール、ヘキサメチルホスホルアミド、γ−ブチロラクトン(GBL)、テトラヒドロフラン等の極性溶剤が挙げられるが、これらのかわりに、あるいは一部として、水またはアルコール(グリコールを含む)等を用いることがより好ましい。
すなわち、溶媒として、水等を用いることにより、被覆処理液を水性とすることができるため、製造コストが安くなるばかりか、環境問題にも配慮することができるためである。
よって、これらの被覆処理液に含まれる被覆成分が固化することによって、ポリイミド樹脂やエポキシ樹脂等からなる所定塗膜を形成することが可能である。
なお、被覆処理液における溶媒又は分散媒の濃度を、例えば、被覆処理液の全体量に対して、5〜50重量%の希薄液とするのが好ましく、10〜35重量%の範囲内の値とするのがより好ましく、15〜25重量%の範囲内の値とするのがさらに好ましい。
【0068】
また、被覆処理液の粘度(測定温度:25℃、以下同様である。)を、通常、10〜10000mPa・secの範囲内の値とするのが好ましい。
この理由は、このような粘度を有する被覆処理液であれば、液滴を被処理物に対して、均一に付着させることができるためである。
すなわち、被覆処理液の粘度が、10mPa・sec未満の値になると、表面張力の関係で、全体として、均一な厚さの塗膜を形成することが困難となる場合があるためである。
一方、被覆処理液の粘度が、10000mPa・secを超えた値になると、余分な被覆処理液を遠心力により除去することが困難となる場合があるためである。
したがって、被覆処理液の粘度を、50〜5000mPa・secの範囲内の値とするのがより好ましく、100〜1000mPa・secの範囲内の値とするのがさらに好ましい。
【0069】
7.ディップコーティング方法
また、上述したディップコーティング装置を用い、所定量の被処理物を、収容手段に収容した状態で、浸漬槽に収容してある被覆処理液中に浸漬させて、被覆層を備えた処理物とするディップコーティング方法であって、下記工程(a)〜(d)を含むことが好ましい。
(a)被処理物を、収容手段に収容する工程
(b)被処理物を収容した状態の収容手段を、浸漬槽に収容された被覆処理液中に浸漬させる工程
(c)収容手段を、被覆処理液から引き上げる工程
(d)収容手段を、浸漬槽内において回転手段により回転させ、遠心力、および、収容手段内において凸状部から当該収容手段の外部方向に向かって発生する気流を利用して、被処理物に付着した余分な被覆処理液を除去する工程
【0070】
(1)工程(a)
工程(a)は、被処理物を、収容手段に収容する工程であるが、第2の実施形態において、具体的に説明する。
【0071】
(2)工程(b)
工程(b)は、収容手段を被覆処理液に対して浸漬させた状態で、回転手段により所定回転させ、被覆処理液を均一に付着させる工程、すなわち、ディップコーティング処理工程である。
かかる工程(b)により、被覆処理液の濃度むら等に起因した被覆層の厚さのばらつきを少なくすることができるとともに、ナット等の開口部を有する小型被処理物に対しても、均一な厚さの被覆層を安定的に形成することができる。
なお、かかる回転部材の回転動作および往復回転動作については、特に制限されるものではないが、例えば、時計周りに、複数回、低速で正回転し、次いで、停止した後、反時計周りに、複数回、低速で回転させ、さらに停止した後、この回転サイクルを1回〜10回繰り返すことが好ましい。
【0072】
(3)工程(c)
工程(c)は、収容手段を、被覆処理液から引き上げる工程である。すなわち、図7の矢印Hの下方向に、浸漬槽移動手段32(ジャッキ)が縮小し、浸漬槽30の位置を降下させ、収容手段12の中の被処理物を非浸漬状態とする工程である。
【0073】
(4)工程(d)
工程(d)は、遠心力および気流を利用して、回転部材によって、収容手段を高速回転させて、余分な被覆処理液を除去するための液切れ工程である。
すなわち、収容手段を、浸漬槽内ではあるが、非浸漬状態において、回転手段により、高速回転させ、遠心力、および、収容手段内において凸状部から当該収容手段の外部方向に向かって発生する気流を利用して、被処理物に付着した余分な被覆処理液を除去する工程である。
具体的には、図4(b)に示すように、収容手段12が高速回転させられると、所定の遠心力が発生するとともに、減圧状態となって、外気が、矢印Rで示されるように、下方の凸状部14に対応した開口部から、凸状部14の内部に侵入する。
次いで、凸状部14の内部に侵入した外気は、遠心力によって、さらに、凸状部14の開口部および周面12cを通過して、矢印R´で示されるように、外側に押し出されることになる。
したがって、このように収容手段の外部方向に向かって発生した気流は、重なり合った被処理物同士の間にも侵入して、被処理物に付着した余分な被覆処理液を効率的に除去することができる。
なお、被処理物に付着した余分な被覆処理液を除去する際の回転部材の回転条件については特に制限されるものではないが、例えば、時計周りに、複数回、高速で正回転させ、次いで、停止した後、反時計周りに、複数回、高速で回転させ、さらに停止した後、この回転サイクルを1回〜10回繰り返すことが好ましい。
【0074】
その他、工程(d)において、回転状態の収容手段を、ディスクブレーキ等により、急停止させた後、回転方向を切り替えることが好ましい。
この理由は、このように実施することにより、収容手段に収容された多量の被処理物のうち、内部に埋もれているような小型の被処理物や開口部を有する被処理物に対しても、効果的に被覆処理液を被覆させることができるためである。
【0075】
[第2の実施形態]
第2の実施形態は、図8あるいは図10に示すように、所定量の被処理物の投入装置50と、被処理物を収容手段12に収容した状態で、浸漬槽30に収容してある被覆処理液中に浸漬させて、被覆層を備えた処理物とするディップコーティング装置10と、処理物の回収装置12´(80)と、を仮想円(φ)の円周上に、所定間隔で備えるとともに、被処理物を、収容手段12に収容した状態で、第1の鉛直方向の回転軸42を中心として、仮想円(φ)の円周上に沿って回転移動させながら、被処理物の投入、被処理物のディップコーティング、および処理物の回収を行うための複合型ディップコーティング装置100である。
そして、以下の構成(1)〜(3)を有することを特徴とする複合型ディップコーティング装置100である。
(1)図8に示すように、被処理物の投入装置50が、被処理物の収容手段12に対し、被処理物を所定量投入するための斜路を有する被処理物運搬手段52を備えている。
(2)図1に示すように、ディップコーティング装置10が、被処理物を収容した状態の収容手段12を、被覆処理液中に浸漬させるための浸漬槽移動手段32と、収容手段12を、第2の鉛直方向の回転軸23を中心として回転または往復回転させて、余分な被覆処理液を除去するための回転手段25と、を備え、収容手段12の底面12aに、所定空間を内部に有する凸状部14を設けるとともに、収容手段12における周面12cおよび凸状部14に、被覆処理液が連通するための複数の開口部を有している。
(3)図11に示すように、処理物の回収装置44が、処理物を収容した収容手段12を、横方向に傾けて、処理物を取り出すための回転手段43を有している。
以下、図面を適宜参照しつつ、第2の実施形態としての複合型ディップコーティング装置100について、第1の実施形態のディップコーティング装置10と重複する内容は適宜省略して、それ以外の部分を中心に、具体的に説明する。
【0076】
1.投入装置
(1)基本構成
図8あるいは図10に示す複合型ディップコーティング装置100は、未処理の被処理物を、重量を測定しながら、収容手段12に対して投入するための投入装置50を備えることを特徴とする。
この理由は、かかる投入装置を備えることにより、収容手段に対して、常に一定重量の被処理物を、安定的に収容することができ、ひいては、大量の被処理物を一括して処理した場合であっても、個々の被処理物に対し、均一な被覆層を安定的に形成することができるためである。
【0077】
(2)被処理物運搬手段
また、投入装置は、被処理物を収容手段の上方まで運搬するとともに、運搬した被処理物を収容手段に収容させるための被処理物運搬手段を備えている。
すなわち、図8に示すように、投入装置50は、被処理物運搬手段52を有しており、そして、かかる被処理物運搬手段52は、被処理物を積載するための積載部材(平面的ロート状物)52´と、積載部材52´を上下動させるための駆動部材(チェーン式クレーン)53と、上下動する積載部材52´を支持するための支持部材54と、を備えることが好ましい。
この理由は、投入装置50が、かかる被処理物運搬手段52を備えることにより、大量かつ相当重量の未処理の被処理物であっても、効率的に収容手段に収容させることができるためである。
【0078】
(3)重さ測定手段
また、図8に示すように、投入装置50は、収容手段12に収容された被処理物の重量を測定するための重さ測定手段(はかり)13を備えることが好ましい。
すなわち、かかる重さ測定手段は、収容手段を載置するための載置部を有するとともに、被処理物運搬手段により上方に運搬された積載部材の下方に位置している。
【0079】
2.ディップコーティング装置
また、複合型ディップコーティング装置においても、ディップコーティング装置としては、第1の実施形態のディップコーティング装置と同様の構成とすることができる。
したがって、ディップコーティング装置の態様の説明については、第1の実施形態の態様の説明と重複するため、ここでは省略する。
【0080】
3.回収装置
(1)位置関係
また、図8に示すように、処理物の回収装置12´を、仮想円(φ)の円周上の所定位置(P4)に設けることが好ましい。
すなわち、処理物の回収装置12´と、所定の投入装置50とがなす中心角が120°±20°となるように、それぞれ仮想円(φ)の円周上に設けてあることが好ましい。より具体的には、図8に示すように、仮想中心ラインL1と、L3とのなす角が、約120°となることが好ましい。
また、同様に、処理物の回収装置12´と、所定のディップコーティング装置10とがなす中心角が120°(±20°)となるように、それぞれ仮想円の円周上に設けてあることが好ましい。より具体的には、図8に示すように、仮想中心ラインL1と、L2とのなす角が、約120°となることが好ましい。
【0081】
(2)回転落下動作
ここで、図11に示すように、回収装置80において、処理物を収容した収容手段12を、水平方向の回転軸43に沿って回転動作させ、横方向に傾けて、処理物を落下させることによって取り出す構成の回転落下装置を有することが好ましい。
より具体的には、処理物を収容した、相当重量の収容手段12を矢印方向に回転させるにあたり、低速で、かつスムーズに回転させるために、ラックアンドピニオン機構を利用して、収容手段12の回転軸に対して歯車(ピニオン)を設け、かつ、この歯車(ピニオン)と噛み合うギア(図示せず)を有する回転用送り装置(ラック)44と、その回転用送り装置44を、矢印Eの下方向に、駆動するための駆動装置45と、を備えることが好ましい。
【0082】
すなわち、収容手段12を、図11中の矢印Nの方向に回転させるには、矢印Eの下方向に、回転用送り装置44を引っ張ることになる。
一方、収容手段12を矢印Nの方向とは逆に回転させるには、矢印Eの上方向に、回転用送り装置44を押し上げることになる。
そして、回転用送り装置44と、駆動装置45とは、位置センサーとしての機能も果たしている。すなわち、回転用送り装置44の下端部には、概ね矩形状や円形のフック状物44aが設けてあり、駆動装置45の先端部45aと、係合する構成としてある。
したがって、収容手段12が、回転移動されて、回収部における所定位置に停止したとしても、正しい位置でなければ、回転用送り装置44の下端部に設けてあるフック状物44aと、駆動装置45の先端部45aと、は係合することがない。よって、誤って、回転用送り装置44を動作させ、収容手段12を回転させることを防止することができる。
【0083】
(3)落下後の処理
なお、処理物11´を落下させる先の態様としても、特に制限されるものでなく、所定容器や、図8に示すように、収容手段と同一または類似形態の容器12´であっても良く、あるいは、図10や図12に示すように、所定の搬送装置(例えば、ステンレスベルトコンベヤ)122であっても良い。
【0084】
4.移動手段
複合ディップコーティング装置100は、第1の実施形態で説明した移動手段40を有している。
したがって、図8に示すように、移動手段40によって、収容手段12は、仮想円(φ)の円周上の回転停止位置(P2)に回転移動された後、仮想円(φ)の円周外の所定位置(P3)まで水平移動される。
そして、収容手段12を、回転手段25における回転軸(第2の鉛直方向の回転軸)23を中心として回転させ、ディップコーティング処理等を行うことになる。
【0085】
5.乾燥装置
また、処理物の回収装置の端部に、乾燥装置が設けてあることが好ましい。そして、当該乾燥装置の途中に、被覆層を備えた処理物を重力方向に落下させる衝撃付与装置が設けてあることが好ましい。
すなわち、図12に示すように、複合ディップコーティング装置100の端部に、処理物の移動装置122を含む乾燥装置110(120、140)を設けることが好ましい。
【0086】
また、図12に示すように、乾燥装置110を第1の乾燥装置120と、第2の乾燥装置140と、に二分してあることが好ましい。
すなわち、かかる第1の乾燥装置120における処理物の第1の移動装置122は、実質的に水平方向に設けてあり、矢印Jの方向に移送されながら、乾燥処理が実施される。その際、第1の乾燥装置120における乾燥温度を比較的低温、例えば、60〜150℃の温度範囲として、主として、被覆層に含まれる溶剤等を除去することが好ましい。
また、第2の乾燥装置140における処理物の第2の移動装置142は、傾斜形成部材144によって、進行方向(矢印K)に沿って、位置が上昇するような傾斜(水平方向に対して、傾斜角が3〜20°)を有している。そして、第2の乾燥装置140における乾燥温度を比較的高温、例えば、180〜300℃の温度範囲として、主として、被覆層に含まれる熱硬化成分を完全に硬化させることが好ましい。
【0087】
また、第1の乾燥装置120と、第2の乾燥装置140と、の間に、衝撃付与装置160としての段差(高さ:10〜100cm)が設けてあって、被覆層を備えた処理物を重力方向に落下させる構成としてあることが好ましい。
この理由は、このように落下方式の衝撃付与装置を設けることにより、被覆層を備えた処理物の複数個が接着して、塊を形成している場合であっても、所定の衝撃力によって、個々の処理物に、効率的に分離することができるためである。
また、このような落下方式の衝撃付与装置を設けることによって、乾燥装置の長さを実質的に長くすることができ、より完全に硬化処理を行うことができる。
【0088】
6.複合ディップコーティング方法
また、上述した複合ディップコーティング装置を用い、所定量の被処理物を、収容手段に収容した状態で、浸漬槽に収容してある被覆処理液中に浸漬させて、被覆層を備えた処理物とするディップコーティング方法であって、下記工程(a´)〜(e´)を含むことが好ましい。
(a´)被処理物を、秤量しながら、収容手段に収容する工程
(b´)被処理物を収容した状態の収容手段を、移動手段により、仮想円の円周上に添って、所定位置に回転移動させた後、浸漬槽に収容された被覆処理液中に浸漬させる工程
(c´)収容手段を、被覆処理液から引き上げる工程
(d´)収容手段を、非浸漬状態において回転手段により回転させ、遠心力、および、収容手段内において凸状部から当該収容手段の内部を介して、外部方向に向かって移動する気流を利用して、被処理物に付着した余分な被覆処理液を除去する工程
(e´)収容手段を、移動手段により、仮想円の円周上に添って、所定位置に回転移動させた後、処理物を回収する工程
【0089】
(1)工程(a´)〜(d´)
工程(a´)〜(d´)は、収容手段を所定位置に回転移動させる動作に関しては、第1の実施形態で説明した工程(a)〜(d)とは異なるものの、その他は実質的に等しいため、ここでの説明は省略する。
【0090】
(2)工程(e´)
工程(e´)は、収容手段を、移動手段により、所定位置に回転移動させた後、処理物を回収する工程であって、処理物の回収装置が、処理物を収容した収容手段を傾けることによって、処理物を落下させて取り出す工程である。
すなわち、図8に示すように、第1の回転軸42を含む移動手段40により、仮想円(φ)の円周上に添って、ディップコーティング場所(P2、P3)から、回収場所(P4)まで、収容手段12を回転移動させる。その際、収容手段12およびレール状部材18は、それぞれ移動手段40に固定してあればよい。
したがって、収容手段押さえ46aや、レール押さえ46bは、アンクランプしておけば、次工程における回収動作を迅速に行うことができる。
【0091】
次いで、図11に示すように、処理物を収容した収容手段12を矢印方向Nに、ラックアンドピニオン方式により、一定速度で、徐々に回転させて、処理物を落下させ、それにより、大量の処理物を効率的に回収することができる。
また、被覆層を備えた処理物の複数個が接着して、塊を形成しているような場合であっても、所定の落下衝撃力を付与することができるため、個々の処理物に、効率的に分離することができる。
よって、このように回収した被覆層を備えた処理物を、次工程である乾燥装置に対して、容易に搬送することができる。
【0092】
その他、図8に示すように、工程(e´)を実施するための所定の回収装置(回転落下装置)80と、ディップコーティング装置10とが、所定間隔、例えば、それぞれのなす中心角が120°(±20°)となるように、仮想円(φ)の円周上に配置されていることが好ましい。
この理由は、このように配置してあることから、被処理物を、所定場所を効率的に順次移動させて、ディップコーティング工程と、その後工程と、それぞれ同期させながら、短いタクト時間で実施することができるためである。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明のディップコーティング装置およびディップコーティング方法によれば、所定の浸漬槽、収容手段、および回転手段を備えることから、多量のボルトやナット等の被処理物を、一括してディップコーティングすることができる。
その際、回転手段によって生じる遠心力および収容手段の内部に発生する気流によって、余分な被覆処理液を効率的に除去し、個々の被処理物の表面に対し、均一な厚さの被覆層を安定的かつ迅速に形成することができる。
すなわち、投入場所において、例えば、100Kgの被処理物を投入してから、被処理物の表面に対し、被覆層を形成するまで、合計タクト時間を3分で行うことができ、したがって、時間当たりの処理物の生産重量を2000Kgとすることができるようになった。
【0094】
また、本発明の複合ディップコーティング装置によれば、所定のディップコーティング装置のみならず、所定の投入装置および所定の回転落下装置を備え、かつ、これらを仮想円の円周上に、実質的に3分割して配置していることから、被処理物を、所定場所を効率的に順次移動させて、ディップコーティング工程と、その前工程および後工程と、それぞれ同期させながら、短いタクト時間で、処理物を効率的に製造することができる。
【0095】
よって、本発明のディップコーティング装置、複合型ディップコーティング装置およびディップコーティング方法は、ボルトやナットをはじめとする各種機械部品等の表面処理の効率化に、著しく寄与することが期待される。
【符号の説明】
【0096】
10:ディップコーティング装置、11:被処理物、11´:処理物、12:収容手段、12a:底面、12b:下方に傾斜した斜面、12c:周面、13:重さ測定手段(はかり)、14:凸状部、14a:内部空間、16:補強支持部材(補強板)、16a:四角柱状の両袖,18:レール状部材(第1のレール状部材)、18a:レール状部材の端部、18b:右レール部、18c:左レール部、18d:レール連結部、18e:空間部、18f:係合部材、20(20a、20b):ベアリング部材、21:フレーム部材、21a:フランジ、21b:レール接触部材(溝部)、21c:ベアリング部材、22:回転駆動手段、23:鉛直方向の回転軸(第2の鉛直方向の回転軸)、24:レール状部材(第2のレール状部材)、24a:ガイド部材、25:回転手段、26:ディスクブレーキ、27:回転駆動部、28:ディップコーティング装置の支持部材、30:浸漬槽、31:被覆処理液、32:浸漬槽移動手段、33:位置決めピン、33´:位置決め部材、33a´:位置決め用回転ベアリング、34:位置決めピン受け、34´:位置決め部材、34a´、34b´:V溝、40:移動手段、42:回転軸(第1の鉛直方向の回転軸)、43:収容手段の支持部材、44:回転用送り装置、46:押さえ部材駆動装置、46a:収容手段押さえ、46b:レール押さえ、48:移動手段の支持部材、50:投入装置、52:被処理物運搬手段、53:駆動部材(チェーン式クレーン)、54:支持部材、80:回収装置、100:複合型ディップコーティング装置、120:第1の乾燥装置、122:第1の処理物の移動装置、140:第2の乾燥装置、142:第2の処理物の移動装置、144:傾斜形成部材、160:衝撃付与装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定量の被処理物を、収容手段に収容した状態で、浸漬槽に収容してある被覆処理液中に浸漬させて、被覆層を備えた処理物とするディップコーティング装置であって、
前記被処理物を収容した状態の収容手段を、前記被覆処理液中に浸漬させるための駆動手段と、
前記収容手段を、鉛直方向の回転軸を中心として回転または往復回転させて、余分な被覆処理液を除去するための回転手段と、
を備えており、
前記収容手段の底面に、所定空間を内部に有する凸状部を設けるとともに、前記収容手段における周面および凸状部に、前記被覆処理液が連通するための複数の開口部を設け、前記収容手段の回転または往復回転によって、遠心力、および、気流を発生させて、余分な被覆処理液を除去することを特徴とするディップコーティング装置。
【請求項2】
前記凸状部の形状を、尖端部を有する円筒型、あるいは円錐型とすることを特徴とする請求項1に記載のディップコーティング装置。
【請求項3】
前記収容手段の底面が、周縁部から中央部に向かって下方に傾斜してなる傾斜部を有することを特徴とする請求項1または2に記載のディップコーティング装置。
【請求項4】
前記収容手段の周面および凸状部が、前記複数の開口部としてのパンチング孔を有する金属板から構成してあることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のディップコーティング装置。
【請求項5】
前記回転手段が、回転方向を切り替え可能であるとともに、前記収容手段を回転中に、急停止させるためのディスクブレーキを備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のディップコーティング装置。
【請求項6】
所定量の被処理物の投入装置と、
所定量の被処理物を、収容手段に収容した状態で、浸漬槽に収容してある被覆処理液中に浸漬させて、被覆層を備えた処理物とするディップコーティング装置と、
処理物の回収装置と、
を仮想円の円周上に、所定間隔で備えるとともに、
前記被処理物を、収容手段に収容した状態で、第1の鉛直方向の回転軸を中心として、仮想円の円周上に沿って回転移動させながら、被処理物の投入、被処理物のディップコーティング、および処理物の回収を行うための複合型ディップコーティング装置であって、
前記被処理物の投入装置が、被処理物の収容手段に対し、前記被処理物を所定量投入するための斜路を有する搬送装置を備えており、
前記ディップコーティング装置が、前記被処理物を収容した状態の収容手段を、前記被覆処理液中に浸漬させるための駆動手段と、前記収容手段を、第2の鉛直方向の回転軸を中心として回転または往復回転させて、余分な被覆処理液を除去するための回転手段と、を備え、前記収容手段の底面に、所定空間を内部に有する凸状部を設けるとともに、前記収容手段における周面および凸状部に、前記被覆処理液が連通するための複数の開口部を設けており、
さらに、前記処理物の回収装置が、前記処理物を収容した収容手段を傾けて、前記処理物を落下させて取り出すための回転落下装置を有すること、
を特徴とする複合ディップコーティング装置。
【請求項7】
前記ディップコーティング装置が、移動手段を有しており、当該移動手段によって、前記仮想円の円周上の回転停止位置から、仮想円周外の所定位置まで水平移動させた後、前記収容手段を、第2の鉛直方向の回転軸を中心として回転させることを特徴とする請求項6に記載の複合型ディップコーティング装置。
【請求項8】
前記処理物の回収装置の端部に、乾燥装置が設けてあり、当該乾燥装置の途中に、前記被覆層を備えた処理物を重力方向に落下させる衝撃付与装置が設けてあることを特徴とする請求項7に記載の複合型ディップコーティング装置。
【請求項9】
被処理物を収容した状態の収容手段を、被覆処理液中に浸漬させるための駆動手段と、前記収容手段を、鉛直方向の回転軸を中心として回転または往復回転させて、余分な被覆処理液を除去するための回転手段と、を備え、前記収容手段の底面に、所定空間を内部に有する凸状部を設けるとともに、前記収容手段における周面および凸状部に、前記被覆処理液が連通するための複数の開口部を設けたディップコーティング装置を用い、所定量の被処理物を、収容手段に収容した状態で、浸漬槽に収容してある被覆処理液中に浸漬させて、被覆層を備えた処理物とするディップコーティング方法であって、
下記工程(a)〜(d)を含むことを特徴とするディップコーティング方法。
(a)前記被処理物を、前記収容手段に収容する工程
(b)前記被処理物を収容した状態の収容手段を、前記浸漬槽に収容された前記被覆処理液中に浸漬させる工程
(c)前記収容手段を、前記被覆処理液から引き上げる工程
(d)前記収容手段を、非浸漬状態において前記回転手段により回転させ、遠心力、および、前記収容手段内において前記凸状部から当該収容手段の外部方向に向かって発生する気流を利用して、前記被処理物に付着した余分な被覆処理液を除去する工程
【請求項10】
前記工程(b)において、前記収容手段を前記被覆処理液に対して浸漬させた状態で、前記回転手段により、回転させることを特徴とする請求項9に記載のディップコーティング方法。
【請求項11】
前記工程(d)において、回転状態の前記収容手段を、急停止させた後、回転方向を切り替えることを特徴とする請求項9または10に記載のディップコーティング方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2012−16640(P2012−16640A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−153658(P2010−153658)
【出願日】平成22年7月6日(2010.7.6)
【出願人】(000150512)株式会社仲田コーティング (40)
【Fターム(参考)】