説明

ディップ成形用組成物及びディップ成形物

【課題】本発明は、表面電気抵抗が低いディップ成形物を形成することが可能なディップ成形用組成物を提供すること主目的とする。
【解決手段】本発明は、共役ジエン単量体30質量%〜89.9質量%、エチレン性不飽和ニトリル単量体10質量%〜50質量%、エチレン性不飽和酸単量体0.1質量%〜20質量%、及び、これらの単量体と共重合可能な他の単量体0質量%〜20質量%が共重合されてなる共役ジエン系共重合体(A)と、
上記共役ジエン系共重合体(A)100質量部に対して、1質量部〜100質量部の、エチレンオキサイド50モル%〜99.9モル%、不飽和エポキサイド0.1モル%〜15モル%、並びに上記エチレンオキサイド及び上記不飽和エポキサイドと共重合可能な他のオキシラン化合物0モル%〜35モル%が共重合されてなるポリエーテル系共重合体(B)と、を含むディップ成形用組成物を提供することにより、上記課題を解決するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はディップ成形法に用いられるディップ成形用組成物、及び、ディップ成形法によって形成されたディップ成形物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゴム手袋、指サックなどのディップ成形物は、柔軟で十分な機械的強度を有することから、様々な分野で用いられている。ここで、ディップ成形物とは、ディップ成形法によって形成された成形物を指すものであり、一般的に、手、指などの所定の形状を有する成形型を、ディップ成形用組成物に浸漬(ディップ)して引き上げることにより、当該成形型の表面に塗膜(ディップ成形層)を形成させた後、該成形型を加熱してディップ成形層を架橋(加硫)することにより成形される。
【0003】
このようなディップ成形物の用途は医療分野、電子・半導体部品分野、精密工業分野等の広範な分野に渡るが、なかでも種々の産業分野におけるゴム手袋としての用途が代表的である。ディップ成形物であるゴム手袋は主として医療分野等において使用されてきたが、近年では精密化学工業の発展に伴い、クリーンルーム用の手袋としても広く用いられるに至っている。
【0004】
ディップ成形物に求められる物性としては、例えば、引張強度、破断点伸度及び応力保持率等の機械的物性、導電性や酸素透過性等の物理的特性、表面物性や化学的物性は勿論のこと、その用途によって人の皮膚に接した際のアレルギー反応の有無までもが求められており、その要求特性は用途によって大きく異なるものである。換言するとディップ成形物には、その用途に応じて種々の物性を両立させることが求められている。ここで、上述したクリーンルーム用の手袋を例に挙げると、従来のゴム手袋に要求されてきた機械的物性及び物理的物性等以外に表面の電気抵抗が低いこと、すなわち表面の導電性が高いことが求められている。これはクリーンルーム内ではその性質上、精密電子部品等を取り扱うことが多いことから、手袋に帯電された静電気によって上記精密電子部品が損傷を受けることを防止するためである。
【0005】
ディップ成形物の物性を制御する方法としては、対象となる物性の種類によって様々な方法が知られているが、上記表面電気抵抗を低下させる方法としてはディップ成形用組成物に表面電気抵抗を低下させることに寄与する添加剤を含有させ、当該添加剤が混合されたディップ成形物を形成する方法が知られている。例えば、特許文献1には、カルボキシル基を有する単量体を共重合して成るアクリロニトリル−ブタジエンゴムラテックスに予め特定の両性界面活性剤を配合することによって、表面電気抵抗が低くされたディップ成形物が開示されている。また、特許文献2にはカチオン性界面活性剤を配合することにより表面電気抵抗が低いディップ成形物を得ることができる旨が開示されている。このように、所定の添加剤を配合することによって表面電気抵抗の低いディップ成形物を得る方法は単一の工程で表面電気抵抗の低いディップ成形物を得ることができる点においては有用である。しかしながら、上記特許文献1及び2に開示されたような、添加剤として界面活性剤を用いる方法では表面電気抵抗を十分に低下させることが困難である場合があり、ディップ成形物の用途によっては所望の表面電気抵抗値を達成することができないという問題点があった。
【0006】
【特許文献1】特開2004−300386号公報
【特許文献2】特開2004−238450号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記のような事情に鑑みてなされたものであり、表面電気抵抗が低いディップ成形物を形成することが可能なディップ成形用組成物を提供することを主目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の単量体が共重合されてなる共役ジエン系共重合体(A)と、特定の単量体が共重合されてなるポリエーテル系共重合体(B)とをそれぞれ特定割合で組み合わせたディップ成形用組成物を用いることにより、表面電気抵抗が低いディップ成形物を形成することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
かくして本発明によれば、以下の1〜3の発明が提供される。
1. 共役ジエン単量体30質量%〜89.9質量%、エチレン性不飽和ニトリル単量体10質量%〜50質量%、エチレン性不飽和酸単量体0.1質量%〜20質量%、及び、これらの単量体と共重合可能な他の単量体0質量%〜20質量%が共重合されてなる共役ジエン系共重合体(A)と、前記共役ジエン系共重合体(A)100質量部に対して、1質量部〜100質量部の、エチレンオキサイド50モル%〜99.9モル%、不飽和エポキサイド0.1モル%〜15モル%、並びに前記エチレンオキサイド及び前記不飽和エポキサイドと共重合可能な他のオキシラン化合物0モル%〜35モル%が共重合されてなるポリエーテル系共重合体(B)と、を含むディップ成形用組成物。
2. 前記ポリエーテル系共重合体(B)のムーニー粘度が250以下であることを特徴とする、前記1に記載のディップ成形用組成物。
3. 前記1又は2に記載のディップ成形用組成物を、ディップ成形して得られるディップ成形物。
【発明の効果】
【0010】
本発明のディップ成形用組成物は、表面電気抵抗の小さいディップ成形物を形成することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のディップ成形用組成物は、共役ジエン単量体30質量%〜89.9質量%、エチレン性不飽和ニトリル単量体10質量%〜50質量%、エチレン性不飽和酸単量体0.1質量%〜20質量%、及び、これらの単量体と共重合可能な他の単量体0質量%〜20質量%が共重合されてなる共役ジエン系共重合体(A)と、上記共役ジエン系共重合体(A)100質量部に対して、1質量部〜100質量部の、エチレンオキサイド50モル%〜99.9モル%、不飽和エポキサイド0.1モル%〜15モル%、並びに上記エチレンオキサイド及び上記不飽和エポキサイドと共重合可能な他のオキシラン化合物0モル%〜35モル%が共重合されてなるポリエーテル系共重合体(B)と、を含むことを特徴とするものである。
【0012】
本発明に用いられるポリエーテル系共重合体(B)は、エチレンオキサイド50モル%〜99.9モル%、不飽和エポキサイド0.1モル%〜15モル%、並びに上記エチレンオキサイド及び上記不飽和エポキサイドと共重合可能な他のオキシラン化合物0モル%〜35モル%が共重合されてなるものであり、本発明のディップ成形用組成物を用いて形成されるディップ成形物の表面電気抵抗を低下させる機能を有するものである。
【0013】
本発明に用いられる不飽和エポキサイドとしては、分子内に少なくとも一つのエチレン性不飽和結合と、少なくとも一つのエポキシ基を有する化合物であれば特に限定されるものではない。したがって、本発明に用いられる不飽和エポキサイドとしては、分子内に2以上のエチレン性不飽和結合を有するものであってもよく、あるいは、2以上のエポキシ基を有するものであってもよい。本発明に用いられる不飽和エポキサイドの具体例としては、アリルグリシジルエーテル、ブテニルグリシジルエーテル、オクテニルグリシジルエーテルなどのアルケニルグリシジルエーテル;グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレートなどのグリシジルエステル;3,4−エポキシ−1−ブテン、1,2−エポキシ−5−ヘキセン、1,2−エポキシ−9−デセンなどのアルケニルエポキサイド;ビニルシクロヘキセンモノオキサイド;などを挙げることができる。本発明においてはなかでも引張強さに優れるディップ成形物を得られる点から、アルケニルグリシジルエーテルを用いることが好ましく、特にアリルグリシジルエーテルを用いることが好ましい。
【0014】
なお、本発明に用いられる不飽和エポキサイドは1種類のみであってもよく、あるいは、2種類以上であってもよい。
【0015】
本発明に用いられるポリエーテル系共重合体(B)を得るための全単量体中に占める不飽和エポキサイドの割合は、0.1モル%〜15モル%の範囲内である。不飽和エポキサイドの割合が上記範囲よりも多いと、ポリエーテル系共重合体(B)による表面電気抵抗を低下させる効果が小さくなり、表面電気抵抗を所望の程度に制御することが難しくなる。一方、不飽和エポキサイドの割合が上記範囲よりも少ないと、本発明のディップ成形用組成物を用いて所定の表面電気抵抗を有するディップ成形物を得ることが困難になる。すなわち、後述するように本発明のディップ成形用組成物は、ディップ成形法によってディップ成形物を形成するために用いられるものであるが、通常、ディップ成形法においてはディップ成形用組成物中に所定の成形型を浸漬して引揚げることによって当該組成物の塗膜を形成する工程と、当該塗膜を架橋(加硫)する工程と、塗膜を水洗する工程とが用いられる。ここで、上記不飽和エポキサイドの割合が上記範囲よりも少ないと、上記水洗の工程においてポリエーテル系共重合体(B)が溶出されてしまい、当初予定した表面電気抵抗を実現できなくなる。
【0016】
本発明に用いられるポリエーテル系共重合体(B)を得るための全単量体中に占める不飽和エポキサイドの割合は、好ましくは0.5モル%〜12.5モル%、より好ましくは1モル%〜10モル%の範囲内である。
【0017】
本発明に用いられるポリエーテル系共重合体(B)を得るための全単量体中に占めるエチレンオキサイドの割合は、50モル%〜99.9モル%の範囲内である。エチレンオキサイドの割合が上記範囲よりも少ないと表面電気抵抗を所望の程度に制御することが難しくなる。また、エチレンオキサイドの割合が上記範囲よりも多いと、上述の水洗の工程においてポリエーテル系共重合体が溶出されてしまい、ポリエーテル系共重合体(B)を用いて所望の表面電気抵抗を有するディップ成形物を形成することが困難になる。
【0018】
本発明に用いられるポリエーテル系共重合体(B)を得るための全単量体中に占めるエチレンオキサイドの割合は、好ましくは60モル%〜98.5モル%、より好ましくは70モル%〜97モル%の範囲内である。
【0019】
任意成分である、エチレンオキサイド及び不飽和エポキサイドと共重合可能な他のオキシラン化合物としては、例えば、エピハロヒドリン類や、エチレンオキサイドを除くアルキレンオキサイド類を挙げることができる。
【0020】
エピハロヒドリン類としては、例えば、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、エピヨードヒドリン及びエピフルオロヒドリン等を挙げることができる。
【0021】
エチレンオキサイドを除くアルキレンオキサイド類としては、例えば、プロピレンオキサイド、1,2−エポキシブタン、1,2−エポキシイソブタン、2,3−エポキシブタン、1,2−エポキシヘキサン、1,2−エポキシオクタン、1,2−エポキシデカン、1,2−エポキシテトラデカン、1,2−エポキシヘキサデカン、1,2−エポキシオクタデカン等を挙げることができる。
【0022】
また、他のオキシラン化合物としては、上記エピハドリン類や、上記エチレンオキサイドを除くアルキレンオキサイド類以外にも、例えば、シクロヘキセンオキサイド等の環式脂肪族エポキサイド類;スチレンエポキシド、グリシジルフェニルエーテルなどのアリールエポキサイド類;メチルグリシジルエーテル、エチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル等のグリシジルエーテル類;p−クロロスチレンオキサイド、ジブロモフェニルグリシジルエーテルのようなハロゲン置換オキシラン化合物が挙げられる。さらには、ブタジエンジオキサイド、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ビニルシクロヘキセンジオキサイドなどの重合体に分岐構造を導入させるジエポキシ化合物等も用いることができる。
【0023】
他のオキシラン化合物を併用することにより、ポリエーテル系共重合体(B)中のエチレンオキサイド単位に由来する結晶性を低下させることができ、より低抵抗化される。但し、使用上、ポリエーテル系共重合体の水溶性を維持することが肝要であり、このような観点からすると、本発明においては、他のオキシラン化合物のなかでも、エチレンオキサイドを除くアルキレンオキサイド類を用いることが好ましい。そのなかでも、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、イソブチレンオキサイド等の低級アルキレンオキサイドを用いることがより好ましく、低電気抵抗層の機械強度を向上させることができる点で特にプロピレンオキサイドを用いることが好ましい。
なお、本発明に用いられる水溶性オキシラン化合物は1種類のみであってもよく、あるいは、2種類以上であってもよい。
【0024】
上記他のオキシラン化合物の使用量は、本発明に用いられるポリエーテル系共重合体を得るための全単量体に対して0モル%〜35モル%、好ましくは1モル%〜30モル%、より好ましくは2モル%〜25モル%である。
【0025】
本発明に用いられるポリエーテル系共重合体(B)は、上記エチレンオキサイド、不飽和エポキサイド、及び、必要に応じて水溶性オキシラン化合物が上記所定の割合で用いられて共重合されてなるものであれば特に限定されるものではない。本発明に好適に用いられるポリエーテル系共重合体(B)としては、例えば、エチレンオキサイド・不飽和エポキサイド共重合体、及びエチレンオキサイド・プロピレンオキサイド・不飽和エポキサイド三元共重合体を挙げることができ、より具体的には、エチレンオキサイド・アリルグリシジルエーテル共重合体、エチレンオキサイド・プロピレンオキサイド・アリルグリシジルエーテル三元共重合体などを挙げることができる。
【0026】
なお、本発明に用いられるポリエーテル系共重合体(B)は1種類のみであってもよく、あるいは、2種類以上であってもよい。
【0027】
本発明に用いられるポリエーテル系共重合体(B)の分子量は、本発明のディップ成形用組成物を用いてディップ成形物を形成する方法や、当該ディップ成形物に付与する機械強度等に応じて適宜調整することができるものである。なかでも本発明に用いられるポリエーテル系重合体(B)の分子量は、ムーニー粘度(ML1+4,100℃)が250以下となる程度が好ましく、1〜200の範囲内となる程度がより好ましく、2〜150の範囲内となる程度であることがさらに好ましい。ムーニー粘度が上記範囲内であることにより、本発明のディップ成形用組成物を用いて、より厚みの薄いディップ成形物を形成することが可能になる。
【0028】
本発明に用いられるポリエーテル系共重合体(B)は、溶液重合法又は溶媒スラリー重合法などにより、単量体中のオキシラン環を開環共重合して得られる。重合触媒としては、例えば、有機アルミニウムに水、アセチルアセトンを反応させた系(特公昭35−15797号公報)、トリイソブチルアルミニウムにリン酸、トリエチルアミンを反応させた系(特公昭46−27534号公報)、トリイソブチルアルミニウムにリン酸、ジアザビシクロウンデセンの有機酸塩を反応させた系(特公昭56−51171号公報)などの均一系触媒;アルミニウムアルコキシドの部分加水分解物と有機亜鉛化合物とからなる系(特公昭43−2945号公報)、有機亜鉛化合物と多価アルコールとからなる系(特公昭45−7751号公報)、ジアルキル亜鉛と水とからなる系(特公昭36−3394号公報)などの不均一系触媒が挙げられる。溶媒スラリー重合法を採用する場合には、重合溶媒に可溶な重合体を与える単量体と、該重合溶媒に不溶な重合体を与える単量体との両者を用いて、予め処理した触媒を用いる方法(特開平10−195190号公報)が、重合反応系の安定性の観点から好ましい。
【0029】
上記溶重合媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレンなどの芳香族炭化水素;n−ペンタン、n−ヘキサン、n−オクタン、イソオクタンなどの脂肪族炭化水素;シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、シクロオクタンなどの脂環式炭化水素;などが用いられる溶媒スラリー重合法を採用する場合には、例えば、溶媒に不溶な重合体を与えるエチレンオキサイド等と、溶媒に可溶な重合体を与えるプロピレンオキサイド等とを用いて、予め触媒を処理しておくことが、重合反応系の安定性の観点から好ましい。触媒の処理は、触媒成分と少量の各単量体とを混合し、0℃〜100℃、好ましくは30℃〜80℃の温度で熟成させればよい。
【0030】
重合反応は、単量体成分、触媒成分、重合溶媒などを反応器内に仕込み、0〜100℃、好ましくは30〜80℃の温度で、回分式、半回分式、連続式など任意の方式で行うことができる。
【0031】
本発明のディップ形成用組成物は、ポリエーテル系共重合体(B)の含有量を後述する共役ジエン系共重合体(A)100質量部に対して、1質量部〜100質量部の範囲内とする。ポリエーテル系共重合体(B)の含有量が上記範囲よりも少ないとポリエーテル系共重合体(B)を添加することによって得られる表面電気抵抗の低下効果が顕著に乏しくなってしまう。一方、ポリエーテル系共重合体(B)の含有量が上記範囲よりも多いと本発明のディップ成形用組成物の製膜性が低下し、当該ディップ成形用組成物を用いて形成されるディップ成形物の表面状態が悪化してしまう。
【0032】
本発明のディップ成形用組成物に含まれるポリエーテル系共重合体(B)の含有量は、後述する共役ジエン系共重合体(A)100質量部に対して、好ましくは1.5質量部〜90質量部、より好ましくは2質量部〜80質量部の範囲内である。
【0033】
本発明に用いられる共役ジエン系共重合体(A)は、共役ジエン単量体30質量%〜89.9質量%、エチレン性不飽和ニトリル単量体10質量%〜50質量%、エチレン性不飽和酸単量体0.1質量%〜20質量%、及び、これらの単量体と共重合可能な他の単量体0質量%〜20質量%が共重合されてなるものである。
【0034】
本発明におけるエチレン性不飽和酸単量体としては、酸としての性質を示す官能基を有する単量体であれば特に限定されるものではない。本発明に用いられるエチレン性不飽和酸単量体としては、例えば、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体、スルホン酸基含有エチレン性不飽和単量体、リン酸基含有エチレン性不飽和単量体等を挙げることができる。
【0035】
カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸;フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等のエチレン性不飽和多価カルボン酸及びその無水物;マレイン酸メチル、イタコン酸メチル等のエチレン性不飽和多価カルボン酸の部分エステル化物等を挙げることができる。
【0036】
また上記スルホン酸基含有エチレン性不飽和単量体としては、例えば、ビニルスルホン酸、メチルビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、(メタ)アクリル酸−2−スルホン酸エチル、2−アクリルアミド−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸等を挙げることができる。
【0037】
上記リン酸基含有エチレン性不飽和単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸−3−クロロ−2−リン酸プロピル、(メタ)アクリル酸−2−リン酸エチル、3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパンリン酸等を挙げることができる。
【0038】
本発明においてはこれらのいずれのエチレン性不飽和酸単量体であっても好適に用いることができるが、なかでもカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体を用いることが好ましく、エチレン性不飽和モノカルボン酸を用いることがより好ましく、メタクリル酸を用いることがさらに好ましい。
【0039】
なお、エチレン性不飽和酸単量体は1種類のみであってもよく、あるいは、2種類以上であってもよい。さらに上述したエチレン性不飽和酸単量体をアルカリ金属塩又はアンモニウム塩として用いてもよい。
【0040】
本発明に用いられる共役ジエン系共重合体(A)を得るための全単量体中のエチレン性不飽和酸単量体が占める割合は、0.1質量%〜20質量%、好ましくは0.5質量%〜18質量%、より好ましくは1質量%〜16質量%の範囲内である。エチレン性不飽和酸単量体が占める割合が低過ぎると、ディップ成形物の引張強さに劣り、一方、エチレン性不飽和酸単量体が占める割合が高過ぎると、ディップ成形用組成物の安定性に劣る。
【0041】
本発明に用いられるエチレン性不飽和ニトリル単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、2−クロロプロペンニトリル、2−ブテンニトリル等を挙げることができる。本発明においてはこれらのいずれのエチレン性不飽和ニトリル単量体であっても好適に用いることができるが、なかでもアクリロニトリル及びメタクリロニトリルを用いることが好ましく、アクリロニトリルを用いることがより好ましい。
【0042】
なお、本発明に用いられるエチレン性不飽和ニトリル単量体は、1種類のみであってもよく、あるいは、2種類以上であってもよい。
【0043】
本発明に用いられる共役ジエン系共重合体(A)を構成する全単量体単位中のエチレン性不飽和ニトリル単量体が占める割合は、10質量%〜50質量%、好ましくは15質量%〜47質量%、より好ましくは20質量%〜45質量%の範囲内である。エチレン性不飽和ニトリル単量体が占める割合が低過ぎると、ディップ成形物の耐油性に劣り、一方、エチレン性不飽和ニトリル単量体が占める割合が高過ぎると、ディップ成形物が硬くなってしまう。
【0044】
また、本発明に用いられる共役ジエン単量体としては、共役ジエン部分を有する炭素数4〜12の化合物であれば特に限定されない。かかる共役ジエン単量体の例としては、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-エチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン及びクロロプレンなどが挙げられる。なかでも、1,3-ブタジエン及びイソプレンが好ましい。
【0045】
なお、本発明に用いられる共役ジエン単量体は、1種類のみであってもよく、あるいは、2種類以上であってもよい。
【0046】
本発明に用いられる共役ジエン系共重合体(A)を得るための全単量体中の共役ジエン単量体が占める割合は、30質量%〜89.9質量%好ましくは35質量%〜84.5質量%、より好ましくは39質量%〜79質量%の範囲内である。共役ジエン単量体が占める割合が低過ぎると、ディップ成形物が硬くなってしまい、一方、共役ジエン単量体が占める割合が高過ぎると、ディップ成形物の耐油性に劣る。
【0047】
本発明に用いられる共役ジエン系共重合体(A)は、少なくとも上記共役ジエン単量体、エチレン性不飽和酸単量体、及び、エチレン性不飽和ニトリル単量体が共重合されてなるものであるが、必要に応じてこれらの単量体と共重合可能な他の単量体が共重合されているものであってもよい。本発明に用いられる他の単量体としては、本発明のディップ成形用組成物を用いて形成するディップ成形物に所定の性質を付与できるものであれば特に限定されるものではない。
【0048】
このような他の単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、モノクロルスチレン、ジクロルスチレン、トリクロルスチレン、モノメチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、ヒドロキシメチルスチレン等の芳香族ビニル単量体;アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド等のエチレン性不飽和カルボン酸アミド単量体;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等のエチレン性不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル単量体;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル単量体;エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等のオレフィン単量体;メチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル等のビニルエーテル単量体;酢酸アリル、酢酸メタリル、塩化アリル、塩化メタリル等の(メタ)アリル化合物;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;ビニルピリジン;N−ビニルピロリドン;などを挙げることができる。本発明においては、これらの他の単量体は1種類のみであってもよく、あるいは、2種類以上であってもよい。本発明においては上記他の単量体のなかでも引張強さや柔軟性に優れるディップ成形物が得られる点で、芳香族ビニル単量体、エチレン性不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体が好ましく、中でもスチレン、α−メチルスチレン、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルが好ましい。
【0049】
本発明に用いられる共役ジエン系共重合体(A)を得るための全単量体中の他の単量体が占める割合は、0質量%〜20質量%、好ましくは0質量%〜15質量%、より好ましくは0質量%〜10質量%の範囲内である。
【0050】
本発明に用いられる共役ジエン系共重合体(A)を構成する単量体の好適な組み合わせとしては、例えば、アクリロニトリル/1,3−ブタジエン/メタクリル酸、アクリロニトリル/イソプレン/メタクリル酸、アクリロニトリル/1,3−ブタジエン/イソプレン/メタクリル酸を挙げることができる。
【0051】
なお、本発明に用いられる共役ジエン系共重合体(A)は1種類のみであってもよく、あるいは、2種類以上であってもよい。
【0052】
本発明に用いられる共役ジエン系共重合体(A)は、例えば、各単量体の混合物を、乳化重合することによって製造することができる。乳化重合方法としては、従来公知の乳化重合法を用いることができ、また、乳化重合するに際しては、乳化剤、重合開始剤、分子量調整剤等の通常用いられる重合副資材を使用することができる。
【0053】
乳化剤としては、例えば、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、及び、両性界面活性剤等を挙げることができる。本発明においてはこれらの乳化剤のなかでも、アルキルベンゼンスルホン酸塩、脂肪族スルホン酸塩、高級アルコールの硫酸エステル塩、α−オレフィンスルホン酸塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩等のアニオン性界面活性剤が好適に用いられる。また、乳化剤の使用量は、全単量体100質量部に対して0.5質量部〜10質量部の範囲内であることが好ましく、1質量部〜8質量部の範囲内であることがより好ましい。
【0054】
重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤を好適に用いることができる。ラジカル重合開始剤としては、例えば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過リン酸カリウム、過酸化水素等の無機過酸化物;t−ブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル等のアゾ化合物;などを挙げることができる。本発明においては、これらのラジカル重合開始剤を、単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。これらラジカル重合開始剤のなかでも無機過酸化物又は有機過酸化物を用いることが好ましく、無機過酸化物を用いることがより好ましく、過硫酸塩を用いることがさらに好ましい。
【0055】
なお、重合開始剤の使用量は、全単量体100質量部に対して0.01質量部〜2質量部の範囲内であることが好ましく、特に0.05質量部〜1.5質量部の範囲内であることが好ましい。
【0056】
また、分子量調整剤としては、例えば、α−メチルスチレンダイマー;t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン等のメルカプタン類;四塩化炭素、塩化メチレン、臭化メチレン等のハロゲン化炭化水素;テトラエチルチウラムダイサルファイド、ジペンタメチレンチウラムダイサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンダイサルファイド等の含硫黄化合物等を挙げることができる。本発明においてはこれらの分子量調整剤を単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。なかでも本発明においてはメルカプタン類を用いることが好ましく、メルカプタン類のなかでもt−ドデシルメルカプタンを用いることがより好ましい。分子量調整剤の使用量は、その種類によって異なるが、全単量体100質量部に対して、0.1質量部〜0.8質量部の範囲内であることが好ましく、0.2質量部〜0.7質量部の範囲内であることがより好ましい。
【0057】
本発明においては、さらに必要に応じて、上記以外の重合副資材を用いてもよい。このような重合副資材としては、例えば、キレート剤、分散剤、pH調整剤、脱酸素剤及び粒子径調整剤等を挙げることができる。
【0058】
乳化重合は、上記各単量体及び各重合副資材を用い、通常、水媒体中で行われ、重合温度は、通常、0℃〜95℃、好ましくは5℃〜70℃である。重合反応を停止した後、所望により、未反応の単量体を除去し、固形分濃度やpHを調整することにより共役ジエン系共重合体(A)を含有するラテックスを得ることができる。
【0059】
本発明のディップ成形用組成物は、少なくとも上記共重合物(A)と、ポリエーテル系共重合体(B)とを含むものであるが、必要に応じて他の任意の添加剤を含むものであってもよい。本発明に用いられる任意の添加剤としては本発明のディップ成形用組成物を用いて形成されるディップ成形物の表面電気抵抗を損なわないものであれば特に限定されるものではなく、本発明のディップ成形用組成物を用いてディップ成形物を形成する方法や、形成されるディップ成形物の用途等に応じて任意の添加剤を用いることができる。このような添加剤としては、例えば、架橋剤(加硫剤)、加硫促進剤、加硫助剤、防腐剤、抗菌剤、ワックス、サイズ剤、pH調整剤、増粘剤、老化防止剤、分散剤、顔料、充填剤、補強剤及び軟化剤等を挙げることができる。本発明のディップ成形用組成物には必要に応じてこれらの添加剤のいずれであっても好適に用いることができるが、なかでも架橋剤(加硫剤)及び加硫促進剤を用いることが好ましい。
【0060】
本発明に用いられる架橋剤(加硫剤)としては、ディップ成形法において通常用いられるものであれば特に制約なく用いることができる。このような加硫剤としては、例えば、粉末硫黄、硫黄華、沈降硫黄、コロイド硫黄、表面処理硫黄、不溶性硫黄などの硫黄;1,1-ビス(t−ヘキシルパーオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサンなどのパーオキシケタール類、ジクミルパーオキサイドなどのジアルキルパーオキサイド類、ジイソブチリルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイドなどのジアシルパーオキサイド類、t-ブチルハイドロオキサイドなどのハイドロパーオキサイド類、パーオキシジカーボネート類、t−ブチルパーオキシイソブチレートなどのパーオキシエステル類、などの有機化酸化物;ヘキサメチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミンなどのポリアミン類;等を挙げることができる。なかでも本発明においては硫黄、ジベンゾイルパーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイドを用いることが好ましい。これらの加硫剤は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0061】
本発明のディップ成形用組成物に加硫剤を用いる場合、その使用量は、共役ジエン系共重合体(A)とポリエーテル系共重合体(B)の合計量100質量部に対して、通常、0.1質量部〜10質量部、好ましくは0.3質量部〜5質量部、より好ましくは0.5質量部〜4質量部である。使用量が上記範囲よりも少ないと、本発明のディップ成形用組成物を用いて形成されるディップ成形物の引張強度が低下する傾向にある。また上記範囲よりも多いと、本発明のディップ成形用組成物を用いて形成されるディップ成形物の風合いが悪化する傾向にある。
【0062】
本発明に用いられる加硫促進剤としては、ディップ成形法において通常用いられるものを特に制約なく用いることができる。本発明に用いられる加硫促進剤としては、例えば、ジエチルジチオカルバミン酸、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジブチルジチオカルバミン酸、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジ−2−エチルヘキシルジチオカルバミン酸、ジシクロヘキシルジチオカルバミン酸、ジフェニルジチオカルバミン酸、ジベンジルジチオカルバミン酸などのジチオカルバミン酸系加硫促進剤;2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール亜鉛、2−メルカプトチアゾリン、ジベンゾチアジル・ジスルフィド、2−(2,4−ジニトロフェニルチオ)ベンゾチアゾール、2−(N,N−ジエチルチオ・カルバイルチオ)ベンゾチアゾール、2−(2,6−ジメチル−4−モルホリノチオ)ベンゾチアゾール、2−(4’−モルホリノ・ジチオ)ベンゾチアゾール、4−モルホリニル−2−ベンゾチアジル・ジスルフィドなどのチアゾール系加硫促進剤等を挙げることができる。これらの加硫促進剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0063】
本発明のディップ成形用組成物に上記加硫促進剤が用いられる場合、その使用量は、共役ジエン系共重合体(A)とポリエーテル系共重合体(B)の合計量100質量部に対して、通常、0.1質量部〜5質量部、好ましくは0.2質量部〜4質量部、より好ましくは0.3質量部〜3.5質量部である。使用量が上記範囲よりも少ないと、本発明のディップ成形用組成物を用いて形成されるディップ成形物の引張強度が低下する傾向にある。また上記範囲よりも多いと、本発明のディップ成形用組成物を用いて形成されるディップ成形物の風合いが悪化する傾向にある。
【0064】
本発明のディップ成形用組成物は、通常、上記共役ジエン系共重合体(A)のラテックスを構成する水媒体中に、上記ポリエーテル系共重合体(B)が溶解された状態で用いられる。本発明のディップ成形用組成物がこのような状態で用いられる場合、固形分濃度は5質量%〜40質量%の範囲内であることが好ましく、10質量%〜35質量%の範囲内であることがより好ましい。
また、本発明のディップ成形用組成物がこのような状態で用いられる場合、pHの値は、8以上であることが好ましく、9〜11の範囲であることがより好ましい。
【0065】
なお、本発明のディップ成形用組成物の調製法は特に限定されるものではなく、例えば、ボールミル等の分散機を用いることによって調製することができる。
【0066】
本発明のディップ成形物は上記のディップ成形用組成物をディップ成形して得られるものである。
【0067】
次に、本発明のディップ成形物の製造方法について説明する。本発明のディップ成形物は、例えば、上記共役ジエン系共重合体(A)及び上記ポリエーテル系共重合体(B)を含有するディップ成形用組成物を用い、当該組成物中に成形型を浸漬して引き上げることにより、成形型の表面にディップ成形用組成物の塗膜を形成させた後、該成形型を加熱して上記塗膜を乾燥及び架橋(加硫)することよって形成することができる。
【0068】
ここで、上記ディップ成形法の詳細については、一般的に公知のディップ成形法と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0069】
本発明のディップ成形物の用途としては、例えば、哺乳瓶用乳首、スポイト、同感、水枕等の医療用品;風船、人形、ボール等の玩具や運動具;加工成形用バッグ、ガス貯蔵用バッグ等の工業用品;手術用、家庭用、農業用、漁業用及び工業用のアンサポート型手袋又はサポート型手袋;指サック等を挙げることができる。なかでも本発明のディップ成形物は表面電気抵抗が小さいという特徴を有するものであるため、精密電子部品用、半導体部品製造用の手袋として好適に用いることができる。
【0070】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0071】
以下、実施例を示すことにより、本発明についてさらに具体的に説明する。なお、実施例において、「%」及び「部」は特に断らない限りすべて質量基準である。
【0072】
各物性の評価は、以下の方法にて行った。
(1)破断時の引張強さ及び破断時伸び
ASTM D412に準じてディップ成形品としての得られたゴム手袋をダンベルDie−Cで打ち抜いて、引張速度500mm/分で引っ張り、破断時の引張強さ及び伸びを測定した。
(2)表面電気抵抗
ディップ成形物(手袋)の掌部分から、10cm×10cmの試験片を切り抜き、試験片を温度20℃、相対湿度65%の恒温恒湿室で24時間以上放置した後、ASTM D257−93に準じて、測定電圧250Vで試験片(ディップ成形時に手袋用手型に接触していない層)の表面電気抵抗率を測定した。なお、この測定における測定上限界値は、5.65×1010Ω/squareである。
(3)製膜性
ディップ成形物として得られたゴム手袋の表面を目視で観察して、不均一な部分やディップ成形用組成物の垂れの跡などが2箇所以下の場合を○とし、3〜5箇所ある場合を△、6箇所以上ある場合を×とした。
(4)厚み
ディップ成形物(手袋)の掌部分の平らなところを一部切り取り、その平坦な面に対して、垂直に切断した。その切断面が上を向くように測定用の台に張りつけ、光学顕微鏡(キーエンス社製:デジタルマイクロスコープVHX-200)を用いて写真を撮影した。写真から、ディップ成形物の厚みを任意に10点計測し、それを単純平均して、厚みとした。
【0073】
(製造例1) (ポリエーテル系重合体A1の製造)
(触媒溶液の調整)
攪拌機付オートクレーブを乾燥して窒素置換し、トリイソブチルアルミニウム158.7部、トルエン1170部及びジエチルエーテル296.4部を仕込んだ。内部温度を30℃に設定し、攪拌しながら、正リン酸23.5部を徐々に添加し、その後、トリエチルアミン12.1部を添加し60℃で2時間反応させて、触媒溶液を得た。
【0074】
(シードの形成)
攪拌機付オートクレーブを乾燥して窒素置換し、n−ヘキサン2100部と上記で調製した触媒溶液73.1部を仕込んだ。内部温度を30℃に設定し、撹拌しながら、エチレンオキサイドを4部加えて反応させ、次いで、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとの等重量混合物8.5部を加えて反応させ、シードを形成した。
【0075】
(ポリエーテル系共重合体の調整)
オートクレーブの内部温度を60℃にして、上記シードを含有する触媒分散溶液に、エチレンオキサイド347部(シードと合わせて355.25部、90.2モル%)、プロピレンオキサイド16.4部(シードと合わせて20.7部、4.0モル%)、アリルグリシジルエーテル59.8部(5.9モル%)、n−ヘキサン300部からなる混合溶液を5時間かけて連続的に添加した(単量体の合計モル%は小数点第2位以下を四捨五入しているため、合計が100.0モル%とはならない場合がある。)。添加終了後、2時間反応を行った。重合反応率は98%であった。得られた重合体はきれいなスラリー状態であり、オートクレーブ内壁及び撹拌翼は非常にきれいであった。得られたスラリーに老化防止剤として4,4’−チオビス(6−ターシャリーブチルクレゾール)の5%トルエン溶液42.4部を添加撹拌した。粉体状の重合体を金網で濾過し、40℃で真空乾燥して、粉末状のポリエーテル系共重合体A1を得た。ポリエーテル系重合体A1のムーニー粘度は105.2であった。
【0076】
(製造例2) (ポリエーテル系重合体A2の製造)
製造例1の触媒溶液の調整工程において、正リン酸を35部、トリエチルアミンを6.0部に変えたこと以外は、製造例1と同様にしてポリエーテル系共重合体A2を得た。ポリエーテル系重合体A2のムーニー粘度は7であり、粉末状であった。
【0077】
(製造例3) (ポリエーテル系重合体A3の製造)
製造例1のシードの形成工程において、エチレンオキサイドを4部仕込んで反応させ、次いで、添加する単量体をエチレンオキサイド9.75部に変えた。また、製造例1のポリエーテル系共重合体の調製工程において、添加する単量体をエチレンオキサイド333部(シードと合わせて346.75部、90.9モル%)、アリルグリシジルエーテル90部(9.1モル%)に変えたこと以外は、製造例1と同様にしてポリエーテル系共重合体A3を得た。このポリエーテル系重合体A3のムーニー粘度は95であり、粉末状であった。
【0078】
(製造例4) (ポリエーテル系重合体A4の製造)
製造例1の重合体の調製工程において、添加する単量体をエチレンオキサイド286部(シードと合わせて294.25部、80.1モル%)、プロピレンオキサイド46部(シードと合わせて50.25部、10.4モル%)、アリルグリシジルエーテル91部(9.6モル%)に変えたこと以外は、製造例1と同様にしてポリエーテル系共重合体A4を得た(単量体の合計モル%は小数点第2位以下を四捨五入しているため、合計が100.0モル%とはならない場合がある。)。
ポリエーテル系重合体A4のムーニー粘度は80であり、粉末状であった。
【0079】
(製造例5) (ポリエーテル系共重合体B2の製造)
製造例1の重合体の調製工程において、添加する単量体をエチレンオキサイド368部(シードと合わせて376.25部、89.3モル%)、プロピレンオキサイド55部(シードと合わせて59.25部、10.7モル%)に変えたこと以外は、製造例1と同様にしてポリエーテル系共重合体B2を得た。ポリエーテル系共重合体B2のムーニー粘度は80であり、粉末状であった。
【0080】
上述したような方法によって製造したポリエーテル系共重合体A1〜A4及びB2の組成を以下の表1に示す。なお、表1中のB1はアルドリッチ社製のポリエチレンオキサイド(分子量30万)である。
【0081】
【表1】

【0082】
(製造例6) (共役ジエン系共重合体ラテックスの製造)
重合反応器に、アクリロニトリル27部、1,3-ブタジエン66部、メタクリル酸6部、t-ドデシルメルカプタン0.3部、イオン交換水132部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム3部、β-ナフタリンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩0.5部,過硫酸カリウム0.3部及びエチレンジアミン四酢酸ナトリウム0.05部を仕込み、重合温度を37℃に保持して重合を開始した。
次に、重合転化率が60%になった時点で、t-ドデシルメルカプタン0.15部を添加して、重合温度を40℃に昇温し、その後、重合転化率が80%になった時点で、t-ドデシルメルカプタン0.15部を添加して重合反応を継続し、重合転化率が94%に達するまで反応させた。その後、重合停止剤としてジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム0.1部を添加して重合反応を停止した。
【0083】
このようにして得られた共役ジエン系共重合体ラテックスから減圧、加熱によって未反応単量体を除去した後、アンモニア水でラテックスのpH及び固形分濃度を調整して、固形分濃度45、pH8の、共役ジエン系共重合体ラテックス(L1)(カルボキシ変性NBRラテックス)を得た。
【0084】
(実施例1)
(加硫剤分散液の調整)
硫黄1部、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛0.5部、酸化亜鉛1.5部、酸化チタン1.5部、β−ナフタリンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩の45%水溶液0.67部、水酸化カリウムの5%水溶液0.03部、水3.8部をボールミルで混合して加硫剤分散液(V1)を得た。
【0085】
(ポリエーテル系共重合体水溶液の調整)
製造例1で得られたポリエーテル系共重合体A1を固形分濃度が4%になるようにイオン交換水に溶解した。
【0086】
(ディップ成形用組成物の調整)
製造例6で得られた共役ジエン系共重合体ラテックス(L1)に、共役ジエン系共重合体ラテックス(L1)の固形分100部に対し、上記ポリエーテル系共重合体A1の水溶液を、ポリエーテル系共重合体A1の固形分が1部となるように添加・混合し、アンモニア水とイオン交換水を添加して混合物の固形分濃度を30%、pHを9.5に調整した。次いで、25℃の攪拌下で混合物の固形分100部に対し、上記加硫剤分散液を固形分換算で9部添加し、25℃にて24時間攪拌して熟成し、ディップ成形用組成物(PA1)を得た。
【0087】
(ディップ成形物の製造)
80℃に加熱した手袋用手型を、硝酸カルシウム25%水溶液(凝固剤溶液)に浸漬した後、80℃で10分間乾燥した。この凝固剤が付着した手袋用手型を、上記のディップ成形用組成物(PA1)に10秒間浸漬し、手袋用手型上にディップ成形組成物層を形成した。80℃で10分間乾燥し、次いで40℃のイオン交換水で5分間洗浄を行い、その後120℃で20分間加熱した。得られた成形物を、手袋用手型から取り外し、30℃の純水中で60分間洗浄した後、80℃で20分乾燥し、ディップ成形物(P1)としてのゴム手袋を得た。得られたディップ成形物(P1)についての評価結果を表2に示す。
【0088】
(実施例2)
共役ジエン系共重合体ラテックス(L1)に、共役ジエン系共重合体ラテックス(L1)の固形分100部に対し、上記ポリエーテル系共重合体A1の水溶液を、ポリエーテル系共重合体A1の固形分が3部となるように添加・混合し、また、共役ジエン系共重合体ラテックス(L1)と上記ポリエーテル系共重合体A1との混合物の固形分濃度を24%に調整したこと以外は実施例1と同様にして、ディップ成形物(P2)としてのゴム手袋を得た。得られたディップ成形物(P2)についての評価結果を表2に示す。
【0089】
(実施例3)
ポリエーテル系共重合体A1に代えてポリエーテル系共重合体A2を用い、上記ポリエーテル系共重合体A2の固形分濃度が20%になるようにイオン交換水に溶解させ、共役ジエン系共重合体ラテックス(L1)に、共役ジエン系共重合体ラテックス(L1)の固形分100部に対し、上記ポリエーテル系共重合体A2の水溶液を、ポリエーテル系共重合体A2の固形分が20部となるように添加・混合したこと以外は実施例1と同様にして、ディップ成形物(P3)としてのゴム手袋を得た。得られたディップ成形物(P3)についての評価結果を表2に示す。
【0090】
(実施例4)
共役ジエン系共重合体ラテックス(L1)に、共役ジエン系共重合体ラテックス(L1)の固形分100部に対し、上記ポリエーテル系共重合体A2の水溶液を、ポリエーテル系共重合体A2の固形分が50部となるように添加・混合し、また、共役ジエン系共重合体ラテックス(L1)と上記ポリエーテル系共重合体A1との混合物の固形分濃度を26%に調整したこと以外は実施例3と同様にして、ディップ成形物(P4)としてのゴム手袋を得た。得られたディップ成形物(P4)についての評価結果を表2に示す。
【0091】
(実施例5)
共役ジエン系共重合体ラテックス(L1)に、共役ジエン系共重合体ラテックス(L1)の固形分100部に対し、上記ポリエーテル系共重合体A2の水溶液を、ポリエーテル系共重合体A2の固形分が100部となるように添加・混合し、また、共役ジエン系共重合体ラテックス(L1)と上記ポリエーテル系共重合体A1との混合物の固形分濃度を20%に調整したこと以外は実施例3と同様にして、ディップ成形物(P5)としてのゴム手袋を得た。得られたディップ成形物(P5)についての評価結果を表2に示す。
【0092】
(実施例6)
ポリエーテル系共重合体A2に代えてポリエーテル系共重合体A3を用い、また、共役ジエン系共重合体ラテックス(L1)と上記ポリエーテル系共重合体A3との混合物の固形分濃度を20%に調整したこと以外は実施例3と同様にして、ディップ成形物(P6)としてのゴム手袋を得た。得られたディップ成形物(P6)についての評価結果を表2に示す。
【0093】
(実施例7)
ポリエーテル系共重合体をA3に代えてポリエーテル系共重合体A4を用いたこと以外は実施例6と同様にして、ディップ成形物(P7)としてのゴム手袋を得た。得られたディップ成形物(P7)についての評価結果を表2に示す。
【0094】
(比較例1)
ポリエーテル系共重合体を使用しないこと以外は、実施例1と同様にして、ディップ成形物(CP1)としてのゴム手袋を得た。得られたディップ成形物(CP1)についての評価結果を表2に示す。
【0095】
(比較例2)
共役ジエン系共重合体ラテックス(L1)に、共役ジエン系共重合体ラテックス(L1)の固形分100部に対し、上記ポリエーテル系共重合体A1の水溶液を、ポリエーテル系共重合体A1の固形分が0.5部となるように添加・混合したこと以外は実施例1と同様にして、ディップ成形物(CP2)としてのゴム手袋を得た。得られたディップ成形物(CP2)についての評価結果を表2に示す。
【0096】
(比較例3)
共役ジエン系共重合体ラテックス(L1)に、共役ジエン系共重合体ラテックス(L1)の固形分100部に対し、上記ポリエーテル系共重合体A2の水溶液を、ポリエーテル系共重合体A2の固形分が150部となるように添加・混合したこと以外は実施例5と同様にして、ディップ成形物(CP3)としてのゴム手袋を得た。得られたディップ成形物(CP3)についての評価結果を表2に示す。
【0097】
(比較例4)
ポリエーテル系共重合体A2に代えて市販のポリエチレンオキサイドB1を用いたこと以外は実施例3と同様にして、ディップ成形物(CP4)としてのゴム手袋を得たが、得られたディップ成形物(CP4)は、30℃の純水中で60分間洗浄した際に、ポリエーテル系共重合体B1が溶出してしまっていた。得られたディップ成形物(CP4)についての評価結果を表2に示す。
【0098】
(比較例5)
ポリエーテル系共重合体A3に代えてポリエーテル系共重合体B2を用いたこと以外は実施例6と同様にして、ディップ成形物(CP5)としてのゴム手袋を得たが、得られたディップ成形物(CP5)は、30℃の純水中で60分間洗浄した際に、ポリエーテル系共重合体B2が溶出してしまっていた。得られたディップ成形物(CP5)についての評価結果を表2に示す。
【0099】
【表2】

【0100】
表2の結果から、以下のことがいえる。
ポリエーテル系共重合体として、不飽和エポキサイドを共重合していないものを使用したもの(比較例4及び比較例5)、ポリエーテル系共重合体を用いなかったもの(比較例1)、並びにポリエーテル系共重合体を、共役ジエン系共重合体ラテックス(L1)の固形分100部に対し、固形分換算で0.5部用いたもの(比較例2)では、表面電気抵抗が1×1010を超える高いものとなってしまった。
また、ポリエーテル系共重合体を、共役ジエン系共重合体ラテックス(L1)の固形分100部に対し、固形分換算で150部用いたもの(比較例3)では、表面電気抵抗は低くなっているものの、製膜性に劣る結果となった。
これに対し、本願規定の条件を満足する実施例1〜7では、製膜性、破断時の引張強さ及び破断時の伸びに優れる(実施例5では製膜性はやや劣る)のみならず、表面電気抵抗が1×1010未満の適正な値(概ね1×10〜1×1010)まで下がっており、表面電気抵抗を小さくできることが分かる。また、ポリエーテル系共重合体における組成の変化や、ディップ成形用組成物の固形分濃度を調整することにより、得られるディップ成形物の表面電気抵抗を調整できることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共役ジエン単量体30質量%〜89.9質量%、エチレン性不飽和ニトリル単量体10質量%〜50質量%、エチレン性不飽和酸単量体0.1質量%〜20質量%、及び、これらの単量体と共重合可能な他の単量体0質量%〜20質量%が共重合されてなる共役ジエン系共重合体(A)と、
前記共役ジエン系共重合体(A)100質量部に対して、1質量部〜100質量部の、エチレンオキサイド50モル%〜99.9モル%、不飽和エポキサイド0.1モル%〜15モル%、並びに前記エチレンオキサイド及び前記不飽和エポキサイドと共重合可能な他のオキシラン化合物0モル%〜35モル%が共重合されてなるポリエーテル系共重合体(B)と、を含むディップ成形用組成物。
【請求項2】
前記ポリエーテル系共重合体(B)のムーニー粘度が250以下であることを特徴とする、請求項1に記載のディップ成形用組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のディップ成形用組成物を、ディップ成形して得られるディップ成形物。

【公開番号】特開2008−231206(P2008−231206A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−71092(P2007−71092)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】