説明

ディールス・アルダー反応触媒及び不斉環化付加生成物の製造方法

【課題】α−アシロキシアクロレインをジエノフィルとする不斉ディールス・アルダー反応に好適なディールス・アルダー反応触媒を提供する。
【解決手段】(S)−1,1’−ビナフチル−2,2’−ジアミン(0.02mmol)とTfNH(0.038mmol)のトルエン溶液を調製した後トルエンを減圧留去することによって得られた触媒を、プロピオニトリル(0.8mL)に溶解し、水を添加したあとα−(シクロヘキサンカルボニルオキシ)アクロレイン(0.4mmol)を加えた。この溶液を−78℃に冷却した後、シクロペンタジエン(1.6mmol)をゆっくり加え、−78℃で24時間撹拌した。反応混合物にトリエチルアミンを加えて反応を止めた後、室温に昇温し、反応溶媒を減圧留去した。これにより、環化付加生成物のエキソ体を高エナンチオ選択的に得ることができた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディールス・アルダー反応触媒及びそれを利用した不斉環化付加生成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エナンチオ選択的なディールス・アルダー(Diels-Alder)反応は、不斉炭素を有する環化付加生成物を構築できるため、合成化学上、最も重要な炭素−炭素結合形成反応の一つである。一方、α−アシロキシアクロレイン類はディールス・アルダー反応の活性ジエノフィルとして有効であり、このα−アシロキシアクロレイン類と適当なジエンとのディールス・アルダー反応によって得られる環化付加生成物は、アシロキシ基やホルミル基を様々な官能基に変換が可能なことから、プロスタグランジンE2をはじめとする多くの有用化合物の鍵合成中間体として利用可能であり、合成化学上の有用性は極めて高い。また、α−アシロキシアクロレイン類は合成が容易であり常温でも安定に存在することができる。更に、α−アシロキシアクロレイン類は、アシロキシ基の種類によってその反応性を制御することができると考えられる。このように、α−アシロキシアクロレイン類は不斉ディールス・アルダー反応のジエノフィルとして種々の利点を有しているが、現在のところ、α−アシロキシアクロレイン類の不斉ディールス・アルダー反応に成功した例は、本発明者らの知る限り、非特許文献1の報告例が存在するに過ぎない。非特許文献1では、ジペプチドから得られるキラル1級アミンのアンモニウム塩を触媒に用いることにより、α−アシロキシアクロレイン類の不斉ディールス・アルダー反応に成功した。
【非特許文献1】J. Am. Chem. Soc., 2005, vol127, p10504-10505
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、非特許文献1において、プロスタグランジンなどの有用化合物への変換が可能な生成物を与えるシクロペンタジエン系のジエンとα−アシロキシアクロレイン類とのディールス・アルダー反応は、エナンチオ選択性が十分高いとはいえなかった。
【0004】
本発明はこのような問題を解決するためになされたものであり、α−アシロキシアクロレインをジエノフィルとする不斉ディールス・アルダー反応に好適なディールス・アルダー反応触媒を提供することを目的の一つとする。また、このディールス・アルダー反応触媒を使用して不斉環化付加生成物を高エナンチオ選択的に製造することのできる不斉環化付加生成物の製造方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した目的を達成するために、本発明者らは、種々のジアミン類と強酸とによって生成する塩の存在下でシクロペンタジエンと様々なα−アシロキシアクロレイン類とのディールス・アルダー反応を検討したところ、光学活性な1,1’−ビナフチル−2,2’−ジアミンとトリフルオロメタンスルホンイミドとによって生成するアンモニウム塩の存在下でディールス・アルダー反応を行ったときに高エナンチオ選択的に不斉環化付加生成物が得られることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明のディールス・アルダー反応触媒は、α−アシロキシアクロレイン類をジエノフィルとする不斉ディールス・アルダー反応に用いられる触媒であって、式(1)又は式(2)で表されるジアミンとプロトンに隣接する元素の価数が3以上の強酸との塩を有効成分として含有することを要旨とする。
【0007】
【化1】

【0008】
【化2】

【0009】
(式中、R,R,R,Rはそれぞれ独立して水素、ハロゲン、置換基を有していてもよい炭化水素基である)
【0010】
本発明の不斉環化付加生成物の製造方法は、上述した本発明のディールス・アルダー反応触媒の存在下でジエンとジエノフィルとしてのα−アシロキシアクロレイン類とのディールス・アルダー反応を進行させることにより、対応する不斉環化付加生成物を製造することを要旨とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明のディールス・アルダー反応触媒や不斉環化付加生成物の製造方法によれば、α−アシロキシアクロレインをジエノフィルとする不斉ディールス・アルダー反応を好適に進行させることができ、その結果、高エナンチオ選択的に不斉環化付加生成物を製造することができる。特に、ジエンとしてシクロペンタジエンやシクロヘキサジエンなどの環状ジエンを用いたときに高エナンチオ選択的に不斉環化付加生成物を得ることができる。本発明のディールス・アルダー反応触媒は、非特許文献1の触媒よりも活性が高いため、少ない触媒量により低温で不斉ディールス・アルダー反応を好適に進行させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のディールス・アルダー反応触媒において、式(1),(2)のR,R,R,Rはそれぞれ独立して水素、ハロゲン又は置換基を有していてもよい炭化水素基である。ここで、ハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などが挙げられる。また、炭化水素基としては、特に限定されるものではないが、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基等の飽和脂肪族炭化水素基;ビニル基、1−プロペニル基、アリル基、2−プロペニル基等の不飽和脂肪族炭化水素基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、1−シクロヘキセニル基等の脂環式炭化水素基;フェニル基、トリル基、キシリル基、メシチル基、ベンジル基、フェネチル基等の芳香族炭化水素基などが挙げられる。炭化水素基が有する置換基としては、特に限定されるものではないが、例えば、上述した飽和脂肪族炭化水素基や不飽和脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基などのほか、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アシロキシ基、ニトロ基、シアノ基、ハロゲンなどが挙げられる。
【0013】
本発明のディールス・アルダー反応触媒において、ジアミンは1,1’−ビナフチル−2,2’−ジアミンの(S)体又は(R)体であることが好ましい。このジアミンは市販されているので入手が極めて容易だからである。また、このジアミンと強酸との塩を有効成分として含有するディールス・アルダー反応触媒は、ジエンとしてシクロペンタジエンやシクロヘキサジエンなどの環状ジエンを用い、ジエノフィルとしてα−アシロキシアクロレイン類を用いたときに非常に高いエナンチオ選択性をもって不斉環化付加生成物を得ることができるからである。
【0014】
本発明のディールス・アルダー反応触媒において、強酸は、隣接する元素の価数が3以上(例えば窒素、炭素、ホウ素など)の強酸であれば特に限定されないが、超強酸であることが好ましく、例えば、ペルフルオロアルカンスルホニルイミド、トリス(ペルフルオロアルカンスルホニル)メタン、ペンタフルオロフェニルビス(ペルフルオロアルカンスルホニル)メタン及びテトラキス[3,5−ビス(ペルフルオロアルキル)フェニル]ボラートからなる群より選ばれた1種以上の化合物であることが好ましい。ここで、ペルフルオロアルカン(アルキル)の炭素数は、特に限定されるものではないが、1つ又は2つが好ましい。具体的には、トリフルオロメタンスルホニルイミド(以下TfNHという)、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メタン、ペンタフルオロフェニルビス(トリフルオロメタンスルホニル)メタン及びテトラキス[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ボラートなどが好ましい。ジアミンと強酸との混合モル比は、ジアミン:強酸=1:1〜2とするのが好ましく、ジアミン:強酸=1:1.8〜2とするのがより好ましく、ジアミン:強酸=1:1.9とするのが更に好ましい。
【0015】
本発明のディールス・アルダー反応触媒は、トルエンやキシレンなどの低極性溶媒中で式(1)又は式(2)で表されるジアミンと強酸とを混合したあと溶媒を減圧留去することにより単離することができる。
【0016】
本発明の不斉環化付加生成物の製造方法において、ジエンとしては、特に限定するものではないが、例えばシクロペンタジエンやシクロヘキサジエンなどの環状ジエンを用いた場合に、従来に比べてエキソ/エンドの選択性やエナンチオ選択性が向上するため好ましい。また、ジエノフィルであるα−アシロキシアクロレイン類としては、例えば式(3)で示される化合物を用いることができる。多くのα−アシロキシアクロレイン類は、室温で保存可能であるため、取り扱いやすい。式(3)において、炭化水素基としては、特に限定されるものではないが、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基等の飽和脂肪族炭化水素基;ビニル基、1−プロペニル基、アリル基、2−プロペニル基等の不飽和脂肪族炭化水素基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、1−シクロヘキセニル基等の脂環式炭化水素基;フェニル基、トリル基、キシリル基、メシチル基、ベンジル基、フェネチル基等の芳香族炭化水素基などが挙げられる。炭化水素基が有する置換基としては、特に限定されるものではないが、例えば、上述した飽和脂肪族炭化水素基や不飽和脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基などのほか、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アシロキシ基、ニトロ基、シアノ基、ハロゲンなどが挙げられる。Rとしてどのような置換基を選択するかについては、反応に供するジエンや触媒の種類に応じて収率やエナンチオ選択性を考慮して適宜選択するのが好ましい。
【0017】
【化3】

【0018】
(式中、Rは置換基を有していてもよい炭化水素基であり,R,Rはそれぞれ独立して水素又は置換基を有していてもよい炭化水素基である)
【0019】
本発明の不斉環化付加生成物の製造方法において、ディールス・アルダー反応触媒の使用量は特に限定されるものではないが、例えばジエン及びジエノフィルのうちモル数の少ない方に対して0.1〜30mol%が好ましく、0.5〜20mol%がより好ましく、1〜10mol%が特に好ましい。ジエノフィルに対して0.1mol%未満ではディールス・アルダー反応の収率やエナンチオ選択性が低下するおそれがあるため好ましくなく、30mol%を超えても結果が大きく改善されることがなく経済的でないため好ましくない。
【0020】
本発明の不斉環化付加生成物の製造方法において、ジエン及びジエノフィルのうちモル数の少ない方に対して1〜20mol%の水を存在させることが好ましい。反応系内に水を存在させると、ディールス・アルダー反応が進行しやすくなるからである。なお、反応系においては、特に水を存在させなくても反応が良好に進行することがある。例えば、ニトロエタンなどのニトロアルカン系溶媒を用いる反応系では、水を存在させなくても反応が良好に進行することがある。
【0021】
本発明の不斉環化付加生成物の製造方法において、反応温度は特に限定されるものではなく、例えば−100℃〜室温(25℃程度)の範囲で適宜設定すればよいが、エナンチオ選択性を考慮すれば−100℃〜0℃が好ましく、−100℃〜−50℃がより好ましい。
【0022】
本発明の不斉環化付加生成物の製造方法において、反応溶媒として反応中に固化することのないニトリル系溶媒又はニトロアルカン系溶媒を使用することが好ましい。例えば、ニトリル系溶媒としては、プロピオニトリルなどが挙げられ、ニトロアルカン系溶媒としては、ニトロエタンなどが挙げられる。
【実施例】
【0023】
[実施例1]
(S)−1,1’−ビナフチル−2,2’−ジアミン(和光純薬社製,0.02mmol)とTfNH(アルドリッチ社製,0.038mmol,ジアミンに対して1.9当量)のトルエン溶液を調製した後トルエンを減圧留去することによって得られた触媒を、プロピオニトリル(0.8mL)に溶解し、水(ジアミンに対して10mol%)を添加した後、α−(シクロヘキサンカルボニルオキシ)アクロレイン(0.4mmol)を加えた。この溶液を−78℃に冷却した後、シクロペンタジエン(1.6mmol)をゆっくり加え、−78℃で24時間撹拌した。反応混合物にトリエチルアミンを加えて反応を止めた後、室温に昇温し、反応溶媒を減圧留去した。生成物は、シリカゲルカラム(展開溶媒:ヘキサン−酢酸エチル)で精製し、H NMR分析を行うことによってエキソ体(9.53ppm,s,1H,CO)とエンド体(9.38ppm,s,1H,CO)との比を決定した。その結果を表1に示す。なお、エキソ体のスペクトルデータは以下のとおり。H NMR(300 MHz,CDCl)δ1.12−1.51(m,7H),1.55−1.81(m,4H),1.81−2.00(m,2H),2.30(tt,J=3.6,10.8Hz,1H),2.50(dd,J=3.6,12.9Hz,1H),2.96(m,1H),3.16(m,1H),6.08(dd,J=3.0,5.7Hz,1H),6.42(dd,J=3.0,5.7Hz,1H),9.53(s,1H)(単位:ppm)。
【0024】
一方、得られた生成物をTHF中、0℃で2当量の水素化アルミニウムリチウムを用いて2−ヒドロキシ−2−ヒドロキシメチルビシクロ[2.2.1]−5−ヘプテンに還元した後、この還元生成物をCHCl中、0℃で1.3当量の塩化ベンゾイルと2当量のN,N−ジイソプロピルエチルアミンとを用いて1級水酸基(2位のヒドロキシル基)をベンゾイル化して既知化合物である(2−ヒドロキシビシクロ[2.2.1]−5−ヘプテン−2−イル)メチルベンゾアートへと変換し、そのエナンチオ選択性をキラルHPLC分析によって決定した。その結果を表1に示す。なお、HPLC分析条件と保持時間は以下のとおり。HPLC分析条件:ダイセル化学工業(株)製のDaicel Chiralcel OJ−Hカラム(φ4.6×250mm)、ヘキサン−イソプロピルアルコール(40:1)、流速1mL/min,保持時間:20.9((2R)−エキソ体)min、23.4((2S)−エキソ体)min。
【0025】
また、(S)−1,1’−ビナフチル−2,2’−ジアミン(0.02mmol)とTfNH(0.04mmol,ジアミンに対して2当量)のトルエン溶液を調製した後トルエンを減圧留去することによって得られた触媒(式(4)参照)のスペクトルデータは以下のとおり。H NMR(300 MHz,CDCN)δ7.08(d,J=8.4Hz,2H),7.54(dd,J=7.5,8.4Hz,2H),7.71(d,J=8.4Hz,2H),7.73(dd,J=7.5,8.4Hz,2H),8.20(d,J=8.4Hz,2H),8.39(d,J=8.4Hz,2H)(単位:ppm)。13C NMR(125MHz,CDCN)δ120.2(q,J=320Hz),121.6,124.7,125.5,127.9,128.8,129.3,129.6,132.6,133.2,134.2(単位:ppm)。
【0026】
【化4】

【0027】
[実施例2]
実施例2では、TfNHを(S)−1,1’−ビナフチル−2,2’−ジアミンに対して2当量用いたこと以外は、実施例1と同様にして反応を行った。その結果を表1に示す。
【0028】
[実施例3]
実施例3では、TfNHを(S)−1,1’−ビナフチル−2,2’−ジアミンに対して1当量用いたこと及び水を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして反応を行った。その結果を表1に示す。
【0029】
[実施例4]
実施例4では、α−(シクロヘキサンカルボニルオキシ)アクロレインの代わりにα−(シクロペンタンカルボニルオキシ)アクロレインを用いたこと以外は、実施例1と同様にして反応を行った。その結果を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
表1から明らかなように、実施例1〜4のいずれのディールス・アルダー反応においても、高い収率(72〜99%)で環化付加生成物が得られた。また、その環化付加生成物はエキソ体が高選択的に得られ、そのエキソ体は(2S)体が高選択的に得られた。なお、TfNHをジアミンに対して過剰に用いると生成物のエナンチオ選択性が低下するおそれがあるため、TfNHをジアミンに対して1.9当量用いるのが適切であると考えた。また、実施例3では、ジアミン中の一方のアミンがアンモニウム塩を形成したものが触媒として作用したと考えられる。
【0032】
[実施例5〜7]
実施例5〜7では、ジアミンを(S)−6,6’−ジブロモ−1,1’−ビナフチル−2,2’−ジアミンに変更して表2に示す各種のα−アシロキシアクロレインを用いたこと、水を添加しなかったこと及び表2に示す反応時間で反応を行ったこと以外は、実施例1と同様にして反応を行った。その結果を表2に示す。なお、(S)−6,6’−ジブロモ−1,1’−ビナフチル−2,2’−ジアミンは以下のようにして調製した。すなわち、まず、(S)−1,1’−ビナフチル−2,2’−ジアミン(1mmol)と酢酸(2mmol)の1,4−ジオキサン(1mL)溶液に、N−ブロモコハク酸イミド(3mmol)を加え、室温で12時間撹拌した。続いて、反応溶液を酢酸エチルで希釈し、10%チオ硫酸ナトリウム水溶液を加えた。その後、分液するまで静置し、有機層を1M水酸化ナトリウム水溶液及び飽和食塩水で洗浄した後、硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮した。そして、得られた粗生成物をシリカゲルカラム(展開溶媒:トルエン−酢酸エチル)で精製し、(S)−6,6’−ジブロモ−1,1’−ビナフチル−2,2’−ジアミンを収率41%で得た。
【0033】
【表2】

【0034】
表2から明らかなように、実施例5〜7のいずれのディールス・アルダー反応においても、高い収率(78〜>99%)で環化付加生成物が得られた。また、その環化付加生成物はエキソ体が高選択的に得られ、そのエキソ体は(2S)体が高選択的に得られた。
【0035】
[実施例8]
実施例8では、ジエンをシクロヘキサジエンに変更し反応時間を48時間に変更した以外は、実施例1と同様にして反応を行った。反応生成物は、シリカゲルカラム(展開溶媒:ヘキサン−酢酸エチル)で精製し、H NMR分析を行うことによってエキソ体(9.38ppm,s,1H,CO)とエンド体(9.29ppm,s,1H,CO)との比を決定した。その結果を表3に示す。なお、エンド体のスペクトルデータは以下のとおり。H NMR(300 MHz,CDCl)δ1.10−1.71(m,10H),1.71−1.85(m,2H),1.85−2.02(m,2H),2.09(tdd,J =3.0,9.3,12.6 Hz,1H),2.30(td,J=3.0,14.1Hz,1H),2.39(tt,J=3.6,10.8Hz,1H),2.74(m,1H),2.85(m,1H),6.03(t,J=7.2Hz,1H),6.40(t,J=7.2Hz,1H),9.29(s,1H)(単位:ppm)。
【0036】
一方、得られた生成物を実施例1と同様にして(2−ヒドロキシビシクロ[2.2.2]−5−オクテン−2−イル)メチルベンゾアートへと変換し、そのエナンチオ選択性をキラルHPLC分析によって決定した。その結果を表3に示す。なお、HPLC分析条件と保持時間は以下のとおり。HPLC分析条件:ダイセル化学工業(株)製のDaicel Chiralcel OD−Hカラム(φ4.6×250mm)、ヘキサン−イソプロピルアルコール(40:1)、流速1mL/min,保持時間:13.6((2R)−エキソ体)min、16.9((2S)−エキソ体)min。
【0037】
[実施例9]
実施例9では、反応溶媒をプロピオニトリルからニトロエタンに変更したこと及び水を添加しなかったこと以外は、実施例8と同様にして反応を行った。その結果を表3に示す。
【0038】
[実施例10]
実施例10では、反応溶媒をプロピオニトリルからニトロエタンに変更したこと、水を添加しなかったこと及びジアミンをα−アシロキシアクロレインに対して5mol%用いたこと以外は、実施例8と同様にして反応を行った。その結果を表3に示す。
【0039】
[実施例11]
実施例11では、α−(シクロヘキサンカルボニルオキシ)アクロレインの代わりにα−(シクロペンタンカルボニルオキシ)アクロレインを用いたこと、反応溶媒をプロピオニトリルからニトロエタンに変更したこと、水を添加しなかったこと及び反応時間を24時間にしたこと以外は、実施例8と同様にして反応を行った。その結果を表3に示す。
【0040】
【表3】

【0041】
表3から明らかなように、実施例8〜11のいずれのディールス・アルダー反応においても、高い収率(90〜>99%)で環化付加生成物が得られた。また、その環化付加生成物はエンド体が高選択的に得られ、そのエンド体は(2S)体が高選択的に得られた。更に、反応溶媒をプロピオニトリルからニトロエタンに変更すると反応性が向上し、水を添加しなくても反応が効率よく進行した。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、主に薬品化学産業に利用可能であり、例えば医薬品や農薬、化粧品の中間体として利用される種々の環状化合物を製造する際に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−アシロキシアクロレイン類をジエノフィルとする不斉ディールス・アルダー反応に用いられる触媒であって、
式(1)又は式(2)で表されるジアミンとプロトンに隣接する元素の価数が3以上の強酸との塩を有効成分として含有する、ディールス・アルダー反応触媒。
【化1】

【化2】

(式中、R,R,R,Rはそれぞれ独立して水素、ハロゲン又は置換基を有していてもよい炭化水素基である)
【請求項2】
前記ジアミンが1,1’−ビナフチル−2,2’−ジアミンの(S)体又は(R)体である、請求項1に記載のディールス・アルダー反応触媒。
【請求項3】
前記強酸が、ペルフルオロアルカンスルホニルイミド、トリス(ペルフルオロアルカンスルホニル)メタン、ペンタフルオロフェニルビス(ペルフルオロアルカンスルホニル)メタン及びテトラキス[3,5−ビス(ペルフルオロアルキル)フェニル]ボラートからなる群より選ばれた1種以上の化合物である、請求項1又は2に記載のディールス・アルダー反応触媒。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のディールス・アルダー反応触媒の存在下でジエンとジエノフィルとしてのα−アシロキシアクロレイン類とのディールス・アルダー反応を進行させることにより、対応する不斉環化付加生成物を製造する、不斉環化付加生成物の製造方法。
【請求項5】
前記ジエンは、シクロペンタジエン又はシクロヘキサジエンである、請求項4に記載の不斉環化付加生成物の製造方法。
【請求項6】
前記ジエン又は前記ジエノフィルのうちモル数の少ない方に対して前記ディールス・アルダー反応触媒を0.1〜30mol%使用する、請求項4又は5に記載の不斉環化付加生成物の製造方法。
【請求項7】
前記ジエン又は前記ジエノフィルのうちモル数の少ない方に対して1〜20mol%の水の存在下で前記ディールス・アルダー反応を進行させる、請求項4〜6のいずれかに記載の不斉環化付加生成物の製造方法。
【請求項8】
前記ディールス・アルダー反応を−100℃〜−50℃で進行させる、請求項4〜7のいずれかに記載の不斉環化付加生成物の製造方法。
【請求項9】
反応溶媒として反応中に固化することのないニトリル系溶媒又はニトロアルカン系溶媒を使用する、請求項4〜8のいずれかに記載の不斉環化付加生成物の製造方法。

【公開番号】特開2007−222850(P2007−222850A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−50063(P2006−50063)
【出願日】平成18年2月27日(2006.2.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 掲載者名 社団法人日本化学会 掲載年月日 平成18年2月20日 掲載アドレス http://www.chemistry.or.jp/nenkai/86haru/prog−86.pdf
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】