説明

デオキシリボフラノース化合物の製造方法

【課題】デオキシリボフラノース化合物の製造方法の提供。
【解決手段】本発明は、化合物(2)などのデオキシリボフラノース化合物を製造する方法に関する。上記デオキシリボフラノース化合物は、5−アミノ−3−(2’−O−アセチル−3’−デオキシ−β−D−リボフラノシル)−3H−チアゾロ[4,5−d]ピリミジン−2−オンなどの医薬化合物の製造における有用な中間体である。
[化1]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、5−アミノ−3−(2’−O−アセチル−3’−デオキシ−β−D−リボフラノシル)−3H−チアゾロ[4,5−d]ピリミジン−2−オンなどの医薬化合物の製造における有用な中間体であるデオキシリボフラノース化合物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヌクレオシドアナログは、疾患の治療において有用な化合物のうち重要な部類のものである。例えば、ヌクレオシドアナログは癌及びウイルス感染症の治療に用いられてきた。細胞内に入ると、ヌクレオシドアナログは、ヌクレオシドサルベージ経路により高頻度でリン酸化を受け、当該アナログは、対応する一−、二−、及び三リン酸エステルへとリン酸化される。三リン酸化ヌクレオシドアナログは、その細胞内運命のなかでも、DNA又はRNAポリメラーゼの基質として機能することが多く、DNA及び/又はRNA中に取り込まれることとなる。三リン酸化ヌクレオシドアナログは強力なポリメラーゼ阻害剤であり、未完成の核酸分子を中途終止させることがある。三リン酸化ヌクレオシドアナログが核酸複製物又は転写産物に取り込まれる場合、遺伝子は発現することもあるが、機能が妨害されることもある。
【0003】
ヌクレオシドアナログの中には、アデノシンキナーゼ阻害能を有するために薬効を有するものもある。アデノシンキナーゼは、アデノシンからアデノシン5’−一リン酸(AMP)へのリン酸化を触媒する。アデノシンキナーゼを阻害すると、ヒトにおいてアデノシンの細胞外濃度が効果的に上昇することによって、脳卒中などの虚血状態、炎症、関節炎、発作及び癲癇の治療に役立つ場合がある。
【0004】
過去20〜30年間、ヌクレオシドアナログの治療的使用の可能性を探る多大な努力がなされてきた。例えば、ある種のピリミド[4,5−d]ピリミジンヌクレオシド類が、BDF1マウス中のL1210に対する治療において有効であるとして、Robinsらの特許文献1に開示されている。さらに、マウス脾臓細胞増殖、及び、セムリキ森林ウイルスに対するインビボ活性といった免疫活性を有意に示す3−β−D−リボフラノシルチアゾロ[4,5−d]ピリミジン類が、Robinsらの特許文献2及び3に開示されている。また、幾つかの刊行物には、チアゾロ[4,5−d]ピリミジン部分の非グリコシル誘導体が記載されている。例えば、特許文献4及び5、非特許文献1及び2を参照されたい。
【0005】
3,5−二置換−3H−チアゾロ[4,5−d]ピリミジン−2−オン化合物は免疫調節活性を有することが分かっている。この種の化合物の製造法や有用性は特許文献6及び7にて考察されており、両文献の全てを本明細書に引用して援用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5,041,542号明細書
【特許文献2】米国特許第5,041,426号明細書
【特許文献3】米国特許第4,880,784号明細書
【特許文献4】米国特許第5,994,321号明細書
【特許文献5】米国特許第5,446,045号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2006/0160830号明細書(米国出願No.11/304,691)
【特許文献7】米国出願No.11/873,202
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Revankar et al.,J.HET.CHEM.,30,1341−49(1993)
【非特許文献2】Lewis et al.,J.HET.CHEM.,32,547−56(1995)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、化合物(2):
【0009】
【化1】

を製造する方法であって、
(i)化合物(4):
【0010】
【化2】

を、アルキルケテンアセタール及び触媒的酸と反応させて、式(5)の環式化合物:
【0011】
【化3】

(式中、Rは低級アルキル)を形成し、
(ii)式(5)の化合物を、水、及び、触媒量又は理論量の酸で加水分解して、モノアシルで置換された化合物(6)及び(7)の混合物:
【0012】
【化4】

を形成し、
(iii)上記モノアシルで置換された化合物(6)及び(7)の混合物を平衡化して、化合物(6)を過剰とし、
(iv)上記化合物(6)及び(7)の混合物を酸化して、化合物(8)のケトン及び化合物(9)の水和ケトンの混合物:
【0013】
【化5】

を形成し、
(v)上記化合物(8)のケトン及び化合物(9)の水和ケトンの混合物を還元して、化合物(10):
【0014】
【化6】

を形成するか、又は、化合物(8)及び化合物(9)を別々に還元して、化合物(10)を形成し、
(vi)化合物(10)を、塩基の存在下、スルホン化剤でスルホン化して、式(11)の化合物:
【0015】
【化7】

(式中、Rは置換されていてもよいアルキル又はアリール)を形成し、
(vii)上記式(11)のスルホン酸エステル化合物をハロゲン原子で置換して、式(12)のハロゲン化合物:
【0016】
【化8】

(式中、Xはハロゲン基)を形成し、
(viii)式(12)の化合物のハロゲンを水素原子へと還元して、化合物(13):
【0017】
【化9】

を形成し、
(ix)化合物(13)を酸触媒及びアシル化剤で処理して、化合物(2)を形成する、方法に関する。
【0018】
本発明の一実施形態において、Rは−CH又は−CHCHである。
【0019】
本発明の一実施形態において、Rは、置換されていてもよいC〜Cアルキル又はフェニルである。別の実施形態において、Rは−CF、−CH又は−CCHである。別の実施形態において、Rは−CFである。
【0020】
別の実施形態において、本発明は、酢酸イソプロピル中、触媒的メタンスルホン酸の存在下、ケテンジメチルアセタールと化合物(4)を反応させて、三環式化合物(5A)を形成する方法に関する。
【0021】
【化10】

【0022】
別の実施形態において、本発明は、化合物(5A)を水及び1モル%のメタンスルホン酸で処理することにより、モノアセチル化化合物(6)及び(7)の混合物を製造する方法に関する。
【0023】
別の実施形態において、本発明は、70℃よりも高温で加熱することにより、化合物(6)及び(7)の混合物を平衡化して、化合物(6)を過剰とする方法に関する。
【0024】
別の実施形態において、本発明は、化合物(6)及び(7)の混合物の平衡化して、化合物(6)を化合物(7)に対して90%超過剰とする方法に関する。
【0025】
別の実施形態において、本発明は、酢酸イソプロピル及び水の存在下、70℃よりも高温で加熱することにより、化合物(6)及び(7)の混合物を平衡化して、化合物(6)を優勢とする方法に関する。
【0026】
別の実施形態において、本発明は、化合物(6)及び(7)の混合物を酸化して、化合物(8)及びその水和型(9)を形成する方法に関する。
【0027】
別の実施形態において、本発明は、TEMPO、及び、酢酸イソプロピルとの2相系の酢酸ナトリウムの存在下、次亜塩素酸ナトリウムにより化合物(6)及び(7)の混合物を酸化して、化合物(8)及びその水和型(9)を形成する方法に関する。
【0028】
別の実施形態において、本発明は、化合物(8)又は(9)又はそれらの混合物を還元して、化合物(10)を単一の異性体として形成する方法に関する。
【0029】
別の実施形態において、本発明は、ナトリウムトリアセトキシボロヒドリドを使用して化合物(8)及び(9)の混合物を還元して、化合物(10)を単一の異性体として形成する方法に関する。
【0030】
別の実施形態において、本発明は、含水酢酸イソプロピル中でナトリウムトリアセトキシボロヒドリドを使用して化合物(8)及び(9)の混合物を還元して、化合物(10)を単一の異性体として形成する方法に関する。
【0031】
別の実施形態において、本発明は、化合物(9)から化合物(8)を単離する方法に関する。
【0032】
別の実施形態において、本発明は、化合物(8)を還元して、化合物(10)を単一の異性体として形成する方法に関する。
【0033】
別の実施形態において、本発明は、水素の存在下、炭素担持白金触媒を使用して化合物(8)を還元して、化合物(10)を単一の異性体として形成する方法に関する。
【0034】
別の実施形態において、本発明は、DMAPの存在下、スルホン化剤で化合物(10)をスルホン化して、式(11)の化合物を形成する方法に関する。
【0035】
別の実施形態において、本発明は、ハロゲン化溶媒を使用しないか又は温度を0℃以上として、DMAPの存在下、トリフルオロメタンスルホン酸無水物で化合物(10)をスルホン化して、化合物(11A)を形成する方法に関する。
【0036】
【化11】

【0037】
別の実施形態において、本発明は、5〜10℃で酢酸イソプロピル及びジメトキシエタンの混合物中、DMAPの存在下、トリフルオロメタンスルホン酸無水物で化合物(10)をスルホン化して、化合物(11A)を形成する方法に関する。
【0038】
別の実施形態において、本発明は、低沸点有機溶媒中、60℃未満でスルホニル置換化合物(11A)をヨウ化物で置換して、化合物(12A)を形成する方法に関する。
【0039】
【化12】

【0040】
別の実施形態において、本発明は、含水酢酸イソプロピル及びジメトキシエタン中、55℃でスルホニル置換化合物(11A)をヨウ化ナトリウムで置換して、化合物(12A)を形成する方法に関する。
【0041】
別の実施形態において、本発明は、化合物(12A)を還元して、水素化合物(13)を形成する方法に関する。
【0042】
別の実施形態において、本発明は、接触水素化によって化合物(12A)を還元して、水素化合物(13)を形成する方法に関する。
【0043】
別の実施形態において、本発明は、水素の存在下、炭素担持水酸化パラジウム(パールマン触媒)を使用して化合物(12A)を還元して、水素化合物(13)を形成する方法に関する。
【0044】
別の実施形態において、本発明は、ジイソプロピルエチルアミン又はトリエチルアミンなどのアミン塩基の存在下、水素及び触媒的炭素担持水酸化パラジウム(パールマン触媒)を使用して化合物(12A)を還元して、水素化合物(13)を形成する方法に関する。
【0045】
別の実施形態において、本発明は、エタノール及び酢酸イソプロピル中、ジイソプロピルエチルアミンの存在下、水素及び触媒的炭素担持水酸化パラジウム(パールマン触媒)を使用して化合物(12A)を還元して、水素化合物(13)を形成する方法に関する。
【0046】
別の実施形態において、本発明は、酢酸エチル中、トリエチルアミンの存在下、水素及び触媒的炭素担持パラジウムを使用して化合物(12A)を還元して、水素化合物(13)を形成する方法に関する。
【0047】
別の実施形態において、本発明は、触媒量の硫酸で化合物(13)を処理し、酢酸中、アシル化剤として無水酢酸を12時間かけて添加して、化合物(2)を形成する方法に関する。
【0048】
本発明の方法は、本明細書中に記載される化合物を工業的に量産するのに特に有用である。上記方法は操作が単純で、手堅く、さらに効率的である。具体的には、上記方法は、デオキシ糖の量産に特に有用である。さらに、上記方法は、費用対効果及び処理量が高く、さらに、本技術分野で使用されている製造方法に比べて全収率が著しく高い。
【発明を実施するための形態】
【0049】
本明細書中の用語「含む(含有する)(comprising)」(及びその文法上の変形)は、「有する(having)」又は「含む(including)」といった包括的な意味で用いられ、「のみからなる(consisting only of)」といった排他的な意味では用いられない。本明細書中の用語「1つの(a)」(不定冠詞)及び「その(the)」(定冠詞)は、単数形のみならず複数形も包含すると解釈する。
【0050】
本明細書中では、「ハロゲン化物」フッ化物、塩化物、臭化物及びヨウ化物をいう。「ハロゲン基(halo)」という用語は、フッ素基、塩素基、臭素基及びヨウ素基をいう。ハロゲンという用語は、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素をいう。
【0051】
「アルキル(基)」という用語には、特に断りがない限り、本明細書中では、直鎖、分枝又は環状部分(縮合状の二環及びスピロ環部分、並びに、橋かけ構造を有する二環及びスピロ環部分を含む)、あるいは上記部分の組み合わせの構造を有する一価の飽和炭化水素基が含まれる。環状部分を有するアルキル基においては3個以上の炭素原子を有していなければならない。
【0052】
「アリール(基)」という用語は、特に断りがない限り、本明細書中では、芳香族炭化水素から一個の水素を取り除いた有機基(例えばフェニル基又はナフチル基等)を包含する。
【0053】
上記「アルキル」及び「アリール」基は、所望により、−OH、ハロゲン基、−CN、C〜Cアルキル、アリールアルキル、C〜Cアルコキシ、C〜Cアルケニル、C〜Cヒドロキシル、C〜Cヒドロキシアルキル、アミノ、C〜Cアルキルアミン、C〜Cジアルキルアミンから選択される1〜5個の置換基で置換されていてもよい。上記置換基について、アルキル基は1個以上のハロゲンでさらに置換されていてもよい。
【0054】
「Ac」という用語はアセチルを意味する。
【0055】
「アルキルケテンアセタール」という用語は1,1−ジアルコキシエテンを意味する。
【0056】
「触媒的(catalytic)」という用語は、触媒として関与又は作用することを意味する。
【0057】
「理論量の」という用語は当量を意味する。
【0058】
本開示の化合物は、単一の立体異性体として、ラセミ体として、並びに/又は、エナンチオマー及び/若しくはジアステレオマーの可変(variable)混合物として存在してもよい。そのような単一の立体異性体、ラセミ体、並びに/又は、エナンチオマー及び/若しくはジアステレオマーの可変混合物は全て、本開示の範囲に属するものであると意図される。
【0059】
本明細書中では、「酸化剤」という用語は、化学反応において電子を得る物質又は化学種をいう。「還元剤」という用語は、化学反応において電子を失う物質をいう。
【0060】
「免疫調節剤」という用語は、刺激又は抑制を通して正常な又は異常な免疫システムを調節(modify)する能力のある天然物又は合成物をいう。
【0061】
「R」及び「S」という用語は、描かれた化学構造中の不斉炭素原子における置換基の特定の立体化学的配置を示すものである。
【0062】
本発明の化合物は互変異性現象を示すものであってもよい。本明細書中に表される化学式は、全ての考え得る互変異性形態を明確には描いていないものの、描かれた化合物のあらゆる互変異性形態を表すことを意図しており、化学式の図式に描かれた特定の化合物形態だけに限定されるものではない、と理解して頂きたい。
【0063】
当業者によって一般的に理解されるように、1つの不斉中心(すなわち1個の不斉炭素原子)を有する光学的に純粋な化合物は、2つの可能なエナンチオマーのうちの1つから本質的になる〔すなわち、鏡像異性的に純粋(enantiomerically pure)である〕ものである。また2つ以上の不斉中心を有する光学的に純粋な化合物は、ジアステレオマー的に純粋で、かつ、鏡像異性的にも純粋なものである。好ましくは、本発明の化合物は、その他のエナンチオマー又はジアステレオマーを10%以上は含んでいない形態、すなわち90%以上単一の異性体を含む形態〔80%鏡像体過剰率(「e.e.」)又はジアステレオマー過剰率(「d.e.」)以上〕で使用され、より好ましくは95%(90%e.e.又はd.e.)以上、さらにより好ましくは97.5%(95%e.e.又はd.e.)以上、最も好ましくは99%(98%e.e.又はd.e.)以上単一の異性体を含む形態で使用される。
【0064】
化合物(2)は、5−アミノ−3−(2’−O−アセチル−3’−デオキシ−β−D−リボフラノシル)−3H−チアゾロ[4,5−d]ピリミジン−2−オン(3)及びその薬学的に許容される塩などの医薬化合物の製造における中間体として有用である。米国出願No.11/873,202に記載されるように、デオキシリボフラノース化合物(2)は、5−アミノ−3H−チアゾロ[4,5−d]ピリミジン−2−オン(1)と結合して、化合物(3)を形成する。
【0065】
【化13】

【0066】
化合物(3)は、疾患の治療又は予防方法に使用される。例えば、化合物(3)は、腫瘍又は癌の発症及び/又は進行を治療又は予防する方法に使用される。また、例えばB型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスを含むウイルスなどの病原体による感染症を治療又は予防する方法が開示されている。化合物(3)は、サイトカインの免疫活性を調節する方法にも使用される。
【実施例】
【0067】
下記実施例は、本発明の説明を目的としたものでしかなく、本願の特許請求の範囲を限定するものではない。
【0068】
下記に示す合成スキームにおいては、特に断りがない限り、温度は全て摂氏度であり、部は全て重量部、百分率は全て重量百分率である。
【0069】
試薬はAldrich Chemical Company又はLancaster Synthesis Ltd.等の民間の供給元から購入し、特に断りがない限り、購入したものをさらに精製することなく使用した。溶媒は全てAldrich、EMD Chemicals又はFisher等の民間の供給元から購入し、納入されたものをそのまま使用した。
【0070】
以下に述べる反応は、概ね、無水溶媒中、(特に断りのない限り)室温で、窒素又はアルゴンの正圧下で行った。反応フラスコにはゴム製のセプタムをつけて、シリンジ又は液体用滴下漏斗又は固体用粉末漏斗で基質や試薬を投入できるようにした。
【0071】
反応はTLCでアッセイするか、及び/又は、LC−MSで分析し、出発物質の消費を判定して反応を終了させた。分析用薄層クロマトグラフィー(TLC)は、シリカゲル60 F254でプレコートされたガラスプレートの0.25mmプレート(EMD Chemicals)上で行い、紫外線(254nm)、及び/又は、シリカゲル上のヨウ素、及び/又は、エタノール性リンモリブデン酸、酸添加p−アニスアルデヒド溶液、ニンヒドリン溶液、過マンガン酸カリウム溶液若しくは硫酸セリウム溶液等のTLC染色を用いた加熱により可視化した。分取薄層クロマトグラフィー(prep TLC)は、シリカゲル60 F254でプレコートされたガラスプレートの0.5mmプレート(20×20cm、Thomson Instrument Companyより入手)上で行い、紫外線(254nm)で可視化した。
【0072】
H−NMRスペクトル及び13C−NMRスペクトルは、Varian Mercury−VX400機器(400MHzで操作)で記録した。NMRスペクトル(ppmで示す)は、クロロホルムを参照標準(プロトン:7.27ppm、カーボン:77.00ppm)として用いたCDCl溶液として、CDOD(プロトン:3.4及び4.8ppm、カーボン:49.3ppm)溶液として、又はDMSO−d(プロトン:2.49ppm)溶液として、適宜内部標準のテトラメチルシラン(0.00ppm)を用いて得た。必要に応じて他のNMR溶媒も使用した。多様なピークを報告するのに、以下の略号:s(一重線)、d(二重線)、t(三重線)、q(四重線)、m(多重線)、br(ブロード)、bs(ブロードな一重線)、dd(二重線の二重線)、dt(三重線の二重線)を用いた。カップリング定数は測定時、ヘルツ(Hz)で表した。
【0073】
赤外(IR)スペクトルはATR FT−IR分光計で、ニート(neat)油状液体又は固体として記録し、測定時には波数(cm−1)で表している。報告するマススペクトルはAnadys Pharmaceuticals,Inc.の分析化学部門で行った(+)−ES又はAPCI(+)LC/MSである。元素分析は、ジョージア州ノークロスにあるAtlantic Microlab,Inc.で行った。融点(mp)はオープンキャピラリー装置で測定したものであり、値の補正はしていない。
【0074】
記載した合成経路及び実験手順には多くの一般的な化学略号を用いていることもある。例えば、DME(1,2−ジメトキシエタン)、MTBE(メチルtert−ブチルエーテル)、TEMPO(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシル)、2,2−DMP(2,2−ジメトキシプロパン)、Ac(アセチル)、ACN(アセトニトリル)、Bn(ベンジル)、BOC(tert−ブトキシカルボニル)、Bz(ベンゾイル)、DBU(1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデカ−7−エン)、DCC(N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド)、DCE(1,2−ジクロロエタン)、DCM(ジクロロメタン)、DEAD(ジエチルアゾジカルボキシレート)、DIEA(ジイソプロピルエチルアミン)、DMA(N,N−ジメチルアセトアミド)、DMAP〔4−(N,N−ジメチルアミノ)ピリジン〕、DMF(N,N−ジメチルホルムアミド)、DMSO(ジメチルスルホキシド)、EDC〔1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド塩酸塩〕、Et(エチル)、EtOAc(酢酸エチル)、EtOH(エタノール)、HATU〔O−(7−アザベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート〕、HBTU(O−ベンゾトリアゾール−1−イル−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート)、HF(フッ化水素)、HOBT(1−ヒドロキシベンゾトリアゾール水和物)、HPLC(高圧液体クロマトグラフィー)、IPA(イソプロピルアルコール)、KOBu(カリウムtert−ブトキシド)、LDA(リチウムジイソプロピルアミド)、MCPBA(3−クロロ過安息香酸)、Me(メチル)、MeCN(アセトニトリル)、MeOH(メタノール)、NaH(水素化ナトリウム)、NaOAc(酢酸ナトリウム)、NaOEt(ナトリウムエトキシド)、Phe(フェニルアラニン)、PPTS(ピリジニウムp−トルエンスルホネート)、PS(ポリマーに担持された)、Py(ピリジン)、pyBOP〔(ベンゾトリアゾール−1−イルオキシ)トリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスフェート〕、TEA(トリエチルアミン)、TFA(トリフルオロ酢酸)、TFAA(無水トリフルオロ酢酸)、THF(テトラヒドロフラン)、TLC(薄層クロマトグラフィー)、Tol(トルオイル)、Val(バリン)等である。
【0075】
実施例1:化合物(6)(主生成物)及び化合物(7)(副生成物)の製造法
【0076】
(a)工程1:三環式化合物(5A)の形成
【0077】
【化14】

【0078】
窒素吸入口、滴下漏斗、温度計、及びメカニカルスターラーを取り付けた4L容4口フラスコに、モノアセトンキシロース(152.16g、800mmol)及び酢酸イソプロピル(1200mL)を投入し、固体が溶解するまで攪拌し、わずかに白濁した溶液を得た。ケテンジメチルアセタール(3.36mL、35.5mmol)を添加し、氷浴を用いて反応液を3℃まで冷却した。メタンスルホン酸(0.52mL、8mmol)を添加した後、ケテンジメチルアセタール(80mL、844.5mmol)を45分かけて滴下した。添加中に反応温度が10℃に達した。添加完了時に、80%MTBEヘキサン溶液を使用したTLCを行うことによって、溶出のより速い三環化合物5Aに、完全にかつ純粋に変換されていることが確認できた。氷浴を取り除いた。
【0079】
(b)工程2:モノ酢酸エステルの混合物への化合物5Aの加水分解
【0080】
【化15】

【0081】
上記反応液に、水(72mL、4000mmol)を一度に全て添加して、混合液を周囲温度で90分間攪拌した。80%MTBEヘキサン溶液を使用してこの反応液のTLCを行うことによって、中間極性を有する2種類の新たな生成物が生成し、その2種類のうち溶出の遅い方が主生成物であることが確認できた。
【0082】
反応液を2L容分液漏斗に移し、水溶液(1.0M NaHCO60mL、30%NaCl60mL)120mLとともに振盪し、相分離を行い、有機相を丸底フラスコに移し、揮発性物質を減圧下で留去した。
【0083】
(c)工程3:化合物(6)への平衡化
【0084】
蒸発により単離した物質を、未使用の酢酸イソプロピル(1200mL)及び水(72mL)に溶かして再構成し、77℃まで12時間加熱し、その後、周囲温度まで冷却した。80%MTBEヘキサン溶液を使用したTLC分析によって、2種類の生成物のうち溶出の速い方が主生成物であり、それ以外に溶出の遅い異性体が存在するものの痕跡量でしかないことが確認できた。
【0085】
反応混合液のサンプル0.2mLを蒸発乾固させ、固体37mgを得た。H NMRによって、所望の酢酸エステル化合物(6)がほとんど大部分の主生成物であることが確認された。
H NMR(400MHz,CDCl)δ:5.92(1H,d,J=3.3Hz),4.51−4.56(2H,m),4.24−4.28(1H,m),4.13−4.19(2H,m),2.98(1H,d,J=4.0Hz),2.11(3H,s),1.51(3H,s),1.33(3H,s).
【0086】
実施例2:化合物(8)及び(9)の製造法
【0087】
上記工程で得た、含水酢酸イソプロピル中の化合物(6)約0.8モルが既に入っている4L容フラスコに、窒素吸入口、温度計、滴下漏斗、及びメカニカルスターラーを取り付けた。TEMPO(800mg)を添加し、混合液を攪拌し、氷浴中で冷却した。別のフラスコ中で、脱イオン水320mLに臭化ナトリウム64.3g及び酢酸ナトリウム98.4gを溶解させた水溶液を5℃まで冷却した。反応温度が5℃に達したとき、上記の予め冷却した水溶液を上記混合液に添加して、2相系の反応混合液を形成した。発熱を伴う添加を7℃以下で行うように温度を保ちつつ、この冷溶液に次亜塩素酸ナトリウム水溶液(使用前に直接滴定、10.15%又は1.36M、1.002モル、1.25当量)735mLを2時間かけて滴下した。添加完了後も30分間攪拌し続け、TLC(80%MTBE−ヘキサン)を行うことによって、溶出のより遅いケトンへと完全に変換されていることが確認できた。
【0088】
上記反応液を4L容分液漏斗に移し、相分離を行った。暗色の有機相を2.5%チオ硫酸ナトリウム水溶液160mLで1回洗浄した。得られた淡黄色の有機相を30%塩化ナトリウム溶液160mLで洗浄した。水相を集めて、固体の塩化ナトリウム44.1gを添加し、その塩が全て溶解するまで攪拌した。得られた水溶液を酢酸イソプロピル400mLずつで2回抽出し、有機抽出物を集めて、30%塩化ナトリウム溶液50mLで1回洗浄した。有機相を全て集めて、わずかに白濁した溶液を得た。
【0089】
上記溶液の0.25mL分を蒸発させて、固体14mgを得た。H NMRによって、ケトン体と水和体の両方が約1:1混合物として存在することが確認された。
H NMR(400MHz,CDCl)δ:6.09(1H,d,J=4.4Hz,化合物8),5.84(1H,d,J=3.9Hz,化合物9),4.61(1H,dd,J=11.7Hz,J=6.3Hz,化合物9),4.56(1H,t,J=3.3Hz,化合物8),4.36−4.42(2H,m,化合物8及び9),4.20−4.24(2H,m,化合物8及び9),4.06−4.15(2H,m,化合物8及び9),2.11(3H,s,化合物9),2.05(3H,s,化合物8),1.58(3H,s,化合物9),1.50(3H,s,化合物8),1.43(3H,s,化合物8),1.36(3H,s,化合物9).
【0090】
実施例3:化合物(10)の製造法
【0091】
【化16】

【0092】
窒素吸入口、粉末漏斗、温度計、及びメカニカルスターラーを取り付けた4L容4口フラスコに、上記ケトン(8)とその水和物(9)の白濁有機溶液を投入した。氷浴を用いて上記溶液を攪拌下で4℃まで冷却した。この冷溶液に固体のナトリウムトリアセトキシボロヒドリドを42.4gずつ15分間隔で4回に分けて添加した。最後の分を添加した後、反応液を5℃で60分間攪拌した。
【0093】
5℃で攪拌しつつ、1.0M炭酸ナトリウム水溶液(800mL)を速やかに添加した。反応温度が12℃まで上昇し、少量のガスが発生した。混合液が大幅に濃くなった。15分攪拌した後、反応液を4L容分液漏斗に移し、相分離を行うと、水相は固体を含んでいた。有機相を2.0M炭酸ナトリウム水溶液(400mL)とともに10分間攪拌し、相分離を行い、両方の水相を合わせた。水相中の固体を濾別した後、水(600mL)に溶解させ、得られた均一なもとの水相に添加し戻した。水相を酢酸イソプロピル200mLずつで2回抽出し、有機相を集めた。有機相の全量は2370.5gであった。
【0094】
上記有機相の5g分を蒸発させて、油状液体243mgを得、減圧下で結晶化した。
算出された収率:2370.5g(溶液)×0.243g(生成物)/5g(溶液)=115.2g(496.15mmol、62%)(化合物10)
H NMRによって、上記物質が非常に純粋なサンプルであることが確認できた。
H NMR(400MHz,CDCl)δ:5.82(1H,d,J=3.9Hz),4.58(1H,t,J=4.3Hz),4.43(1H,dd,J=12.4Hz,J=2.4Hz),4.16−4.20(1H,m),3.93−3.97(1H,m),3.81−3.87(1H,m),2.45(1H,d,J=10.8Hz),2.10(3H,s),1.58(3H,s),1.38(3H,s).
【0095】
短経路型蒸留器ヘッド、温度プローブ、及びメカニカルスターラーを取り付けた4L容4口フラスコに上記有機相2370.5gを投入した。この有機相を加熱し、大気圧下で留出物2400mLを留去した。未使用の酢酸イソプロピル(1500mL)を上記フラスコに添加し、1500mLを留去した。その後、反応フラスコを酢酸イソプロピル920mLで希釈して、わずかに白濁した溶液を得た。この溶液は、そのまま次の工程において使用することができる。
【0096】
実施例4:化合物(8)及び(10)の別の製造法
【0097】
(a)工程1:化合物(8)の製造
【0098】
上記実施例1で得た、含水酢酸イソプロピル中の化合物(6)(約0.2mol)が入っているフラスコに、窒素吸入口、温度計、滴下漏斗、及びマグネチックスターラーを取り付けた。TEMPO(200mg)を添加し、混合液を攪拌し、0℃の氷浴中で冷却した。別のフラスコ中で、脱イオン水(80mL)に臭化ナトリウム(16.08g)及び酢酸ナトリウム(24.6g)を溶解させた水溶液を5℃まで冷却した。反応温度が5℃に達したとき、上記の予め冷却した水溶液を上記混合液に添加して、2相系の反応混合液を形成した。
【0099】
発熱を伴う添加を7℃以下で行うように温度を保ちつつ、この冷混合液に次亜塩素酸ナトリウム水溶液(標示量10〜15%;180mL)を1時間かけて滴下した。添加完了時に、TLC(80%MTBE−ヘキサン)を行うことによって、Rf値がより低いケトンへと完全に変換されていることが確認できた。冷却浴を取り除き、固体のNaCl(25g)を添加した。30分間攪拌した後、混合液を1L容分液漏斗に移し、その後相分離を行った。暗色の有機相を1.0M NaHCO(25mL)とともに振盪し、次いで、2.0M NaSO(30mL)を添加し、色が全て消失するまで振盪し続けた(何らかのガス放出が起こった)。
【0100】
得られた透明な有機相を15%NaCl水溶液(20mL)で1回洗浄した。温度プローブ、蒸留器ヘッド、及びマグネチックスターラーを取り付けた1L容フラスコに上記透明な有機相を移した。温度を85℃に設定し、溶媒を蒸留した。蒸留終了時、温度は105℃まで上昇し、蒸留が完了した。蒸留フラスコを周囲温度まで冷却し、混合液を酢酸イソプロピル(100mL)で希釈した。活性炭(Darco G60;5g)を添加し、混合液を周囲温度で90分間攪拌した。混合液をCelite(登録商標)を使用して濾過し、固体を酢酸イソプロピル(2×30mL)で洗浄した。淡黄色の濾液の重量は220.5gであった。この溶液2mL(重量=1.826g)を蒸発させて、淡黄色の油状液体0.189gを得た。計算から、化合物8の溶液濃度は0.41Mであり、全収量は22.86g(モノアセトンキシロースからみて49.6%)であることが確認できた。
H NMR(400MHz,CDCl)δ:1.43(3H,s),1.50(3H,s),2.05(3H,s),4.21(1H,dd,J=11.9Hz,J=3.9Hz),4.37(1H,d,J=4.7Hz),4.40(1H,dd,J=12.5Hz,J=3.2Hz),4.56(1H,t,J=3.1Hz),6.09(1H,d,J=3.8Hz).
H−NMRによって、化合物8だけが存在する(化合物9は存在しない)ことが分かった。
【0101】
(b)工程2:化合物(10)の製造
【0102】
【化17】

【0103】
温度プローブ、水素ガスを充填した風船、及びマグネチックスターラーを取り付けた250mL容3口丸底フラスコに、上記の通り製造した化合物8の0.41M溶液62mL及び含水3%Pt−C(2.05g、Johnson Matthey型B101018−3、ロットC−9264、水分量58.25%)を投入した。温度を26℃に平衡化し、混合液をハウスバキュームで減圧し、水素ガスを3回フラッシュし、その後、水素雰囲気下、混合液を激しく16時間攪拌した。GC分析によれば、化合物10へと完全に変換されていることが分かった。上記溶液をCelite(登録商標)濾過助剤を通して濾過し、固体を酢酸イソプロピル(2×30mL)で洗浄し、次いで、無色透明な濾液を蒸発させて、油状液体5.74gを得、結晶化した。H−NMRによって、化合物(10)が唯一の生成物であることが確認された。
【0104】
実施例5:化合物(11A)の製造法
【0105】
【化18】

【0106】
上記実施例3で得た、無水酢酸イソプロピル中の化合物10約496.15mmolが既に入っている4L容フラスコに、窒素吸入口、温度計、ゴム製セプタム、及びメカニカルスターラーを取り付けた。別のフラスコ中で、温DME255mLにDMAP(90.92g、744.23mmol、1.5当量)を溶解させた。この温溶液を上記反応フラスコに添加し、反応液を氷浴中で5℃まで冷却した。シリンジポンプを用いて、トリフルオロメタンスルホン酸無水物(104.34mL、620.19mmol、1.25当量)を1.17mL/分の割合で添加した。添加中に到達した最大温度は7℃であった。添加を完了し、反応温度を5℃に戻し、TLC(20%EtOAc−トルエン)を行うと、溶出のより速いトリフラートへと完全にかつ純粋に変換されていることが確認できた。
【0107】
上記5℃の反応液に1.0M HCl(745mL)を添加すると、発熱して9℃になった。5分間攪拌した後、反応液を分液漏斗に移し、相分離を行った。有機相を1.0M HCl(300mL)で2回、水溶液(1.0M NaHCO120mL、30%塩化ナトリウム120mL)240mLで1回洗浄した。水相を全て集めて、酢酸イソプロピル500mLで1回抽出した。抽出物を1.0M HCl100mLずつで2回、水溶液(1.0M NaHCO40mL、30%塩化ナトリウム40mL)80mLで1回洗浄した。有機相を全て集めて、わずかに白濁したトリフラート11A溶液を得た。
【0108】
上記溶液の0.25mL分を蒸発させて、油状液体22mgを得た。H NMRによって、この油状液体が、少量の残存酢酸イソプロピルを伴った、非常に純度の高いトリフラートのサンプルであることが確認できた。
H NMR(400MHz,CDCl)δ:5.85(1H,d,J=3.9Hz),,4.85(1H,dd,J=8.6Hz,J=4.6Hz),4.77(1H,t,J=4.3Hz),4.37−4.42(2H,m),4.22−4.26(1H,m),2.11(3H,s),1.61(3H,s),1.40(3H,s).
【0109】
実施例6:化合物(12A)の製造法
【0110】
【化19】

【0111】
窒素吸入口、温度プローブ、コンデンサー、及びメカニカルスターラーを取り付けた4L容4口フラスコに、上記トリフラート(推定量496.15mmol)の酢酸イソプロピル溶液及びDME255mLを投入した。固体のヨウ化ナトリウム(111.55g、744.23mmol、1.5当量)を添加し、混合液を55℃で17時間攪拌した。TLC(10%EtOAc−トルエン)を行うことにより、ヨウ化物へと完全に変換されたことが確認できた。
【0112】
水(400mL)を添加し、混合液を速やかに5分間攪拌した。混合液を分液漏斗に移し、相分離を行った。有機相を水溶液(1.0M NaHCO200mL及び30%NaCl200mL)400mLで1回洗浄した。水相を集めて、酢酸イソプロピル(400mL)で1回抽出した。抽出物を水(100mL)で1回、水溶液(1.0M NaHCO50mL及び30%NaCl50mL)100mLで1回洗浄した。有機相を全て集めた。
【0113】
短経路型蒸留器ヘッドを取り付けた3L容丸底フラスコに上記化合物12Aの溶液を移した。溶媒2Lを単蒸留により留去した。混合液を周囲温度まで冷却すると、残留物の容量は500mLと測定された。これに酢酸イソプロピル183mL及び200プルーフエタノール208mLを添加し、20%エタノール/酢酸イソプロピル溶液中の化合物12Aの0.5M溶液を形成した。
【0114】
0.2mLアリコートを取り出し、蒸発させて、油状液体42mgを得た。H NMRによって、この油状液体が非常に純度の高い化合物12Aのサンプルであることが確認できた。
H NMR(400MHz,CDCl)δ:6.02(1H,d,J=2.9Hz),5.04(1H,d,J=2.9Hz),4.35(1H,d,J=3.1Hz),4.15−4.24(2H,m),3.77−3.80(1H,m),2.10(3H,s),1.52(3H,s),1.33(3H,s).
【0115】
実施例7:化合物(13)の製造法
【0116】
【化20】

【0117】
大きなマグネチック攪拌子を備えた3L容丸底フラスコに、上記化合物12Aの溶液(推定量:20%エタノール/酢酸イソプロピル中の0.5M溶液として496.15mmol)、ジイソプロピルエチルアミン(112.34mL、644.8mmol、1.3当量)及び20%Pd(OH)/C(パールマン触媒)20.37gを投入した。速やかに攪拌しつつ、反応液をライトバキュームにより減圧した後、水素ガスを3回充填した。次いで反応液を水素雰囲気下で18時間攪拌した。TLC(10%EtOAc−トルエン)によって、溶出のより遅い水素化合物へと完全にかつ純粋に変換されたことが確認できた。
【0118】
上記反応液をCelite(登録商標)を通して濾過し、暗色の固体を酢酸イソプロピル200mLずつで2回洗浄した。濾液を4L容分液漏斗に移し、1.0M HCl(645mL)で1回、水溶液(2.5%チオ硫酸ナトリウム100mL、1.0M NaHCO100mL)200mLで1回、30%NaCl200mLで1回洗浄した。水相を全て集め、酢酸イソプロピル200mLずつで2回抽出した。抽出物を集めて、水溶液(2.5%チオ硫酸ナトリウム40mL、1.0M NaHCO40mL)80mLで1回、30%NaCl80mLで1回洗浄した。有機相を集め、3L容丸底フラスコに移し、常圧蒸留により溶媒1.5Lを留去した。冷却した残留物の容量は450mLであった。酢酸イソプロピル50mLを添加して、ほぼ1.0Mの溶液を形成し、Norit炭10g添加し、混合液を周囲温度で2時間攪拌した。
【0119】
次いで、上記混合液をCelite(登録商標)を通して濾過して、透明な金色の濾液を得た。この濾液を減圧下で濃縮して、透明な金色の油状液体103.47g(478.52mmol)を得た。H NMRによって、化合物13の純度が非常に高いことが確認できた。
H NMR(400MHz,CDCl)δ:5.83(1H,d,J=3.7Hz),4.74(1H,t,J=4.2Hz),4.39−4.45(1H,m),4.28(1H,dd,J=11.8Hz,J=3.1Hz),4.08(1H,dd,J=12.5Hz,J=6.2Hz),2.07−2.12(4H,m),1.62−1.69(1H,m),1.52(3H,s),1.33(3H,s).
【0120】
化合物13は、必要であれば、減圧蒸留によりさらに精製することもできる。BP=70℃(0.025mmHg)
【0121】
実施例8:化合物(2)の製造法
【0122】
【化21】

【0123】
マグネチックスターラー及びゴム製セプタムを取り付けた25mL容丸底フラスコに、化合物13(640mg、2.96mmol)及び酢酸5mLを投入した。別のフラスコ中で、無水酢酸(0.562mL、6mmol、2当量)を酢酸で希釈して、全容量を2.0mLとし、この無水酢酸溶液のうち0.1mLを上記反応混合液に添加した。反応液に硫酸(1.0M酢酸溶液として0.15mL、0.15mmol、0.05当量)を添加し、次いで、シリンジポンプを用いて上記無水酢酸溶液の残り(1.9mL)を12時間かけて添加した。TLC(30%EtOAc−ヘキサン)によって、所望の化合物2へと非常に純粋に変換されていることが確認できた。
【0124】
反応液をトルエンで希釈し、減圧下で蒸発させた。残留物をMTBEに溶解させ、10%炭酸ナトリウムとともに15分間攪拌し、相分離を行った。有機相を乾燥(MgSO)させ、小さなシリカゲルパッドを通して濾過し、蒸発させて、透明な油状液体680mg(2.61mmol)を得た。H NMRによって、この油状液体が両アノマーの純粋な混合液であることが確認できた。
【0125】
なお、実施形態の例で示される方法及び工程の構成や組み立ては説明的なものでしかないことに留意されたい。本開示のわずかな実施形態しか詳細に記載していないが、当業者であれば、本願の特許請求の範囲に記載される主題が有する新たな教示及び利点を実質的に失うことなく、多くの改変が可能であることを容易に理解するであろう。従って、そのような改変は全て、添付される本願の特許請求の範囲において規定される本開示の範囲に含まれるものである。いずれの方法又はいずれの方法の工程においても、その順序や一連の流れは別の実施形態に応じて変更あるいは組み立て直すことができる。添付される本願の特許請求の範囲に表される本開示の趣旨から逸脱することなく、実施形態の設計、操作条件及び構成に関して他の置換、改変、変更及び省略を行うこともできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物(2):
【化1】

を製造する方法であって、
(i)化合物(4):
【化2】

を、アルキルケテンアセタール及び触媒的酸と反応させて、式(5)の環式化合物:
【化3】

(式中、Rは低級アルキル)を形成し、
(ii)式(5)の化合物を、水、及び、触媒量又は理論量の酸で加水分解して、モノアシルで置換された化合物(6)及び(7)の混合物:
【化4】

を形成し、
(iii)前記モノアシルで置換された化合物(6)及び(7)の混合物を平衡化して、化合物(6)を過剰とし、
(iv)前記化合物(6)及び(7)の混合物を酸化して、化合物(8)のケトン及び化合物(9)の水和ケトンの混合物:
【化5】

を形成し、
(v)前記化合物(8)のケトン及び化合物(9)の水和ケトンの混合物を還元して、化合物(10):
【化6】

を形成するか、又は、化合物(8)及び化合物(9)を別々に還元して、化合物(10)を形成し、
(vi)化合物(10)を、塩基の存在下、スルホン化剤でスルホン化して、式(11)の化合物:
【化7】

(式中、Rは置換されていてもよいアルキル又はアリール)を形成し、
(vii)前記式(11)のスルホン酸エステル化合物をハロゲン原子で置換して、式(12)のハロゲン化合物:
【化8】

(式中、Xはハロゲン基)を形成し、
(viii)式(12)の化合物のハロゲンを水素原子へと還元して、化合物(13):
【化9】

を形成し、
(ix)化合物(13)を酸触媒及びアシル化剤で処理して、化合物(2)を形成する、方法。
【請求項2】
は−CH又は−CHCHである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
は−CF、−CH又は−CCHである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
工程(i)において、化合物(4)を、酢酸イソプロピル中、触媒的メタンスルホン酸の存在下、ケテンジメチルアセタールと反応させて、三環式化合物(5A)を形成する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
工程(iii)において、さらに、70℃よりも高温で加熱することにより、前記化合物(6)及び(7)の混合物を平衡化して、化合物(6)を過剰とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
化合物(6)及び(7)の混合物の平衡化によって、化合物(6)が化合物(7)に対して90%超過剰となる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
工程(iv)において、前記化合物(6)及び(7)の混合物を、TEMPO、及び、酢酸イソプロピルとの2相系の酢酸ナトリウムの存在下、次亜塩素酸ナトリウムにより酸化する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
工程(v)において、ナトリウムトリアセトキシボロヒドリドを使用して、化合物(10)を単一の異性体として形成する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記化合物(8)及び化合物(9)の混合物から化合物(8)を単離する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
さらに、化合物(8)を還元して、化合物(10)を単一の異性体として形成する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記還元は、水素の存在下、炭素担持白金触媒を使用して行う、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
工程(vi)において、前記塩基はDMAPである、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
工程(viii)において、前記式(12)の化合物の還元は、水素の存在下、炭素担持水酸化パラジウム(パールマン触媒)を使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
式(11)の化合物を製造する方法であって、
(i)化合物(6)を酸化して、化合物(8):
【化10】

を形成し、
(ii)化合物(8)を還元して、化合物(10):
【化11】

を形成し、
(iii)化合物(10)を、塩基の存在下、スルホン化剤でスルホン化して、式(11)の化合物:
【化12】

(式中、Rは置換されていてもよいアルキル又はアリール)を形成する、方法。
【請求項15】
は−CF、−CH又は−CCHである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
化合物(6)を、TEMPO、及び、酢酸イソプロピルとの2相系の酢酸ナトリウムの存在下、次亜塩素酸ナトリウムにより酸化する、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記化合物(8)の還元によって、化合物(10)の単一の異性体を形成する、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記還元は、水素の存在下、炭素担持白金触媒を使用して行う、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記スルホン化剤はトリフルオロメタンスルホン酸無水物であり、前記塩基はDMAPである、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
さらに、前記式(11)のスルホン酸エステル化合物をハロゲン原子で置換して、式(12)のハロゲン化合物:
【化13】

(式中、Xはハロゲン基)を形成し、
式(12)の化合物のハロゲンを水素原子へと還元して、化合物(13):
【化14】

を形成し、
化合物(13)を酸触媒及びアシル化剤で処理して、化合物(2):
【化15】

を形成する、請求項14に記載の方法。
【請求項21】
前記式(12)の化合物の還元は、水素の存在下、炭素担持水酸化パラジウム(パールマン触媒)を使用する、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記酸触媒は硫酸であり、前記アシル化剤は無水酢酸である、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
以下から選択される化合物。
【化16】


【公表番号】特表2012−509268(P2012−509268A)
【公表日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−536559(P2011−536559)
【出願日】平成21年11月16日(2009.11.16)
【国際出願番号】PCT/US2009/064605
【国際公開番号】WO2010/057103
【国際公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(504204443)アナディス ファーマシューティカルズ インク (13)
【Fターム(参考)】