説明

デジアナ信号軌道回路装置

【課題】低周波軌道回路装置の耐雑音性を飛躍的に高めるとともに使用周波数帯域を広げることなく多現示を図る。
【解決手段】送信器2bは、交流電化区間の基本周波数とその高次調波の複数の周波数の間隙にある搬送周波数に対してFSK方式で変調してデジタル変調波を生成し、生成したデジタル変調波を信号現示情報に基づいたアナログ変調波により、デジタル変調波の必要最小限の振幅成分を残す程度の振幅変調度で、かつ一定周期の振幅変調周波数で振幅変調してデジアナ信号波を生成して軌道回路2Tに送信して多現示化を図る。受信器3bは軌道回路2Tに送信されているデジアナ信号波を受信してデジタル変調成分を分離し、分離したデジタル変調成分の周波数の周期と順番を検定して耐雑音性を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、レールを用いて列車の在線を検知するデジアナ信号軌道回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の低周波軌道回路は、送信信号との位相差と受信レベルの双方を検定する2元式軌道回路と、特許文献1に示すように、送信端では列車検知用の低周波信号を情報種別により変調周波数を切り換えて振幅変調してインピーダンスボンドを介してレールに送電し、受信端では受信した信号の振幅変調の電圧変動を除去した信号のレベルを検定して列車の在線を検知するとともに、受信した信号の変調周波数を選別判定して情報種別を出力する断続波振幅変調・多現示方式が使用されている。
【0003】
これらの低周波軌道回路を使用して制御区間における列車を検知するとき、従来からの抵抗制御車のノッチ変化等の過渡雑音や車輪短絡によるホィールアーキング雑音等の電気車雑音による誤動作がある。また、近年急速に普及しているインバータ制御車からのインバータ制御雑音の影響を受けた誤動作が報告されている。この誤動作はいずれも制御区間に列車が在線しているときの車両雑音による誤動作のため、列車在線を非在線と判断する危険側誤動作である。
【0004】
抵抗車やインバータ制御車等の電気車は、牽引力や走行速度、加減速度等には一定の範囲があり、これらの要因から発生する電気車雑音の周波数特性、時間特性等にも一定の範囲がある。これまで得られた電気車雑音の特性からは、図6(a)に示すように、車輪短絡時のホィールアーキング等の周期性がない雑音や、図6(b)に示すように、チョッパー制御車等の周期性がある雑音、VVVF車等の周波数が連続して変化する雑音等の各種の雑音が報告されている。列車在線を非在線とする危険側誤動作を確実に防止するためには、これらの全ての雑音の影響を排除する必要がある。
【0005】
これらの電気車雑音を排除して耐雑音性を飛躍的に高める低周波軌道回路装置が特許文献2に開示されている。特許文献2に示された低周波軌道回路装置は、送信端から交流電化区間の基本周波数とその高次調波の間の周波数を基本周波数として周波数離隔の少ない2種類の周波数の信号に交互に低周期で切替えたFSK波の信号を軌道回路のレールに送信し、受信端は、レールに送信された列車検知信号を2種類の周波数の信号に分離し、分離した2種類の周波数の信号に相補性があるかどうかの相補性検定を行ない、2種類の周波数の信号に相補性を有する場合、軌道回路に列車なしと判定し、列車検知信号を受信しないとき及び受信した2種類の周波数の信号に相補性を有しない場合は軌道回路に列車有りと判定して電気車雑音を排除し、耐雑音性が飛躍的に向上するようにしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に示された低周波軌道回路装置は、耐雑音性は向上するが、多現示化を図ることはできなかった。
【0007】
この発明は、耐雑音性を飛躍的に高めるとともに使用周波数帯域を広げることなく多現示を図ることができるデジアナ信号軌道回路装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明のデジアナ信号軌道回路装置は、各軌道回路の一方の端部に接続された送信器と、他方の端部に接続された受信器とを有し、前記送信器は、デジタル変調波生成部とアナログ変調波発生部と振幅変調部及び送信部を有し、前記デジタル変調波生成部は、交流電化区間の基本周波数とその高次調波の複数の周波数の間隙にある搬送周波数に対して振幅変調を伴わない変調によりデジタル変調波を生成し、前記アナログ変調波発生部は、信号現示情報に基づいてアナログ変調波を生成し、前記振幅変調部は、前記デジタル変調波生成部で生成したデジタル変調波を前記アナログ変調波生成部で生成したアナログ変調波により、少なくともデジタル変調波の必要最小限の振幅成分を残す程度の振幅変調度で、かつ一定周期の振幅変調周波数で振幅変調して信号波を生成し、前記送信部は前記振幅変調部で生成した信号波を各軌道回路に送信し、前記受信器は、列車検知処理部と信号現示検知処理部を有し、前記列車検知処理部は軌道回路から受信した信号波から振幅変調を伴わない変調成分を検出して復調して軌道回路における列車の非在線を検出し、前記信号現示検知処理部は、軌道回路から受信した信号波から一定周期の振幅変調周波数の変調成分を復調して該当する区間の信号現示を検出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
この発明は、交流電化区間の基本周波数とその高次調波の複数の周波数の間隙にある搬送周波数に対して振幅変調を伴わない変調によりデジタル変調波を生成し、生成したデジタル変調波を搬送信号波とすることにより、耐雑音性を確保することができる。
【0010】
また、デジタル変調波を生成するとともに信号現示情報に基づいてアナログ変調波を生成し、生成したデジタル変調波を生成したアナログ変調波により、少なくともデジタル変調波の必要最小限の振幅成分を残す程度の振幅変調度で、かつ一定周期の振幅変調周波数で振幅変調して信号波を生成して軌道回路に送信するから多現示化を図ることができる。
【0011】
さらに、軌道回路に送信されているデジアナ信号波を受信してデジタル変調成分を分離し、分離したデジタル変調成分の周波数の周期と順番を検定することにより、VVVF車等の速度に比例して周波数成分が変わる場合であっても、加速,減速,加速あるいは減速,加速,減速が一定短時間に切り換らない限り擬似信号とはならないから、電気車雑音を排除することができ、耐雑音性を飛躍的に向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明のデジアナ信号軌道回路装置の構成を示すブロック図である。
【図2】送信器の構成を示すブロック図である。
【図3】デジタル変調波の構成を示す説明図である。
【図4】受信器の構成を示すブロック図である。
【図5】デジアナ信号波の構成を示す説明図である。
【図6】電気車により発生する雑音を示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、この発明のデジアナ信号軌道回路装置の構成を示すブロック図である。図に示すように、デジアナ信号軌道回路装置は、列車1が走行するレールを利用した各軌道回路1T〜4Tの列車進出側の境界に接続された送信器2a〜2cと、各軌道回路1T〜4Tの列車進入側の境界側に接続された受信器3a〜3dを有する。
【0014】
送信器2は、図2のブロック図に示すように、デジタル変調波生成部4とアナログ変調波発生部5と振幅変調部6及び送信部7を有する。デジタル変調波生成部4は、交流電化区間の基本周波数50Hz又は60Hzとその高次調波(100Hz,150Hz,・・,120Hz,180Hz・・)の間にある搬送周波数に対して振幅変調を伴わない変調によりデジタル変調波を生成する。例えば交流電化区間の基本周波数50Hz又は60Hzとその高次調波(100Hz,150Hz,・・,120Hz,180Hz・・)の間にある周波数fcHzと、周波数fcに対して周波数離隔が少ない、少なくとも2波の周波数を搬送周波数として周波数偏移変調(FSK)方式で変調してデジタル変調波を生成する。すなわち図3(a)のスペクトラムに示すように、周波数fcと遷移周波数Δf=±fsで生成される周波数(fc−fs)と周波数(fc+fs)の2波の周波数を搬送周波数としてFSK方式で変調して、図3(b)の波形図に示すように、周波数(fc−fs)の信号と周波数(fc+fs)の信号の順番で一定のKeying周期fkに配列した振幅一定のデジタル変調波を振幅変調部6に出力する。
【0015】
アナログ変調波発生部5は、条件連絡回路8を介して送られる信号現示情報に基づいてアナログ変調波を生成して振幅変調部6に出力する。振幅変調部6はデジタル変調波生成部4で生成したデジタル変調波をアナログ変調波発生部5で生成したアナログ変調波により、少なくともデジタル変調波である搬送信号波の必要最小限の振幅成分を残す程度の振幅変調度で、かつ一定周期の振幅変調周波数fmで振幅変調して、図5(a)のスペクトラムと(b)の波形図に示すように、多現示化のための振幅変調を伴う側帯波成分を含む帯域のデジアナ信号波を生成する。送信部7は振幅変調部6で生成したデジアナ信号波を各軌道回路1T〜4Tに送信する。
【0016】
受信器3は、図4のブロック図に示すように、列車検知処理部9と信号現示検知処理部10を有する。列車検知処理部9はBPF11とデジタル変調波復調部12及び論理部13を有する。BPF11は軌道回路1T〜4Tから受信したデジアナ信号波から振幅変調を伴わないデジタル変調成分を検出してデジタル変調波復調部12に出力する。デジタル変調波復調部12は入力したデジタル変調成分を例えばFSK方式で復調して論理部13に出力する。論理部13は入力したデジタル信号により各軌道回路1T〜4Tに列車1が在線しているか否を検出する。例えばデジタル信号の周波数の周期と順番を検定し、周波数の周期と順番があらかじめ定められた一定周期、一定順番に配列している場合、軌道回路に列車なしと判定し、軌道回路1T〜4Tに送信された信号波を受信しないとき及び受信した周波数の受信時間が一定周期、一定順番に配列していない場合は軌道回路に列車有りと判定する。
【0017】
信号現示検知処理部10はBPF14とアナログ変調波復調部15及び論理部16を有する。BPF14は各軌道回路1T〜4Tから受信したデジアナ信号波から一定周期の振幅変調周波数fmのアナログ変調成分を検出してアナログ変調波復調部15に出力する。アナログ変調波復調部15は入力したアナログ変調成分を復調して論理部16に出力する。論理部16は入力したアナログ信号により該当する区間の信号現示を検出して出力する。
【0018】
このデジアナ信号軌道回路装置で例えば軌道回路2Tに列車1が在線しているか否を検知するときの処理を説明する。
【0019】
送信器2bは軌道回路2Tに列車1が在線していないとき、デジタル変調波生成部4は例えばfc=80Hzを基本周波数とし、遷移周波数fs=5Hzで生成される周波数(fc−fs)=75Hと周波数(fc+fs)=85Hzの2波の周波数を搬送周波数としてFSK方式で変調して周波数(fc−fs)の信号と周波数(fc+fs)の信号の順番で一定のKeying周期fk=1Hzに配列した振幅一定のデジタル変調波を振幅変調部6に出力する。一方、アナログ変調波発生部5は、条件連絡回路8を介して送られる信号現示情報に基づいてアナログ変調波を生成して振幅変調部6に出力する。振幅変調部6はデジタル変調波生成部4で生成したデジタル変調波をアナログ変調波発生部5により生成されたアナログ変調波により、少なくともデジタル変調波である搬送信号波の振幅成分を必要最小限残す程度の振幅変調度で、かつ一定周期の振幅変調周波数fm=5Hzで振幅変調して多現示化のための振幅変調を伴う側帯波成分を含む帯域のデジアナ信号波を生成して送信部7に出力して送信部7からデジアナ信号波を軌道回路2Tに送信する。
【0020】
このように送信器2bから多現示化のための振幅変調を伴う側帯波成分を含む帯域のデジアナ信号波を軌道回路2Tに送信することにより多現示化を図ることができる。
【0021】
この軌道回路2Tに送信されたデジアナ信号を受信器2で受信する。受信器2の列車検知処理部9は軌道回路2Tから受信したデジアナ信号波から振幅変調を伴わないデジタル変調成分を検出し、検出したデジタル変調成分をFSK方式で復調し、復調したデジタル信号の周波数の周期と順番を検定し、周波数の周期と順番があらかじめ定められた一定周期、一定順番に配列している場合、軌道回路2Tに列車なしと判定して軌道回路2Tに列車在線なしの信号を出力する。
【0022】
このように送信器2bから軌道回路2Tにデジアナ信号波を送信し、受信器3bで軌道回路2Tに送信されているデジアナ信号波を受信してデジタル変調成分を分離し、分離したデジタル変調成分の周波数の周期と順番を検定することにより、VVVF車等の速度に比例して周波数成分が変わる場合であっても、加速,減速,加速あるいは減速,加速,減速が一定短時間に切り換らない限り擬似信号とはならないから、電気車雑音を排除することができ、耐雑音性を飛躍的に向上することができる。
【0023】
一方、受信器2の信号現示検知処理部10は軌道回路2Tから受信したデジアナ信号波から一定周期の振幅変調周波数fm=5Hzのアナログ変調成分を検出し、検出したアナログ変調成分を復調し、復調したアナログ信号により軌道回路2Tの区間の信号現示を検出して出力する。
【0024】
この状態で列車1が軌道回路2Tに進入して受信器3bで軌道回路2Tに送信されているデジアナ信号波を受信しないとき及び受信したデジアナ信号波の各周波数の周期が一定周期で順番に配列していない場合、列車検知処理部9は軌道回路2Tに列車有りと判定して、軌道回路2Tに列車1が在線していることを示す信号を出力する。
【0025】
この状態で、図6(a)に示すように、列車1の車輪短絡時のホィールアーキング等の周期性がない雑音や、図6(b)に示すように、チョッパー制御車等の周期性がある雑音、VVVF車等の周波数が連続して変化する雑音等の各種の雑音が受信器3bに侵入した場合でも、受信器3bは周波数の周期が一定周期で順番に配列したデジアナ信号波を受信しないから、軌道回路2Tに列車有りと判定して、軌道回路2Tに列車1が在線しているときに雑音による誤動作のため、列車在線を非在線とする危険側誤動作が生じることを防止することができる。
【0026】
前記説明では、列車検知信号として送信器2のデジタル変調波生成部4で交流電化区間の基本周波数とその高次調波の間の周波数fcHzをFSK方式で変調してデジタル信号波を生成した場合について説明したが、位相偏移変調(PSK)方式や狭帯域FSK方式の一種であるMSK方式で変調してデジタル信号波を生成しても良い。
【符号の説明】
【0027】
1;列車、2;送信器、3;受信器、4;デジタル変調波生成部、
5;アナログ変調波発生部、6;振幅変調部、7;送信部、8;条件連絡回路、
9;列車検知処理部、10;信号現示検知処理部、11;BPF、
12;デジタル変調波復調部、13;論理部、14;BPF、
15;アナログ変調波復調部、16;論理部。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0028】
【特許文献1】特公平4−74225号公報
【特許文献2】特開2009−179214号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各軌道回路の一方の端部に接続された送信器と、他方の端部に接続された受信器とを有し、
前記送信器は、デジタル変調波生成部とアナログ変調波発生部と振幅変調部及び送信部を有し、前記デジタル変調波生成部は、交流電化区間の基本周波数とその高次調波の複数の周波数の間隙にある搬送周波数に対して振幅変調を伴わない変調によりデジタル変調波を生成し、前記アナログ変調波発生部は、信号現示情報に基づいてアナログ変調波を生成し、前記振幅変調部は、前記デジタル変調波生成部で生成したデジタル変調波を前記アナログ変調波生成部で生成したアナログ変調波により、少なくともデジタル変調波の必要最小限の振幅成分を残す程度の振幅変調度で、かつ一定周期の振幅変調周波数で振幅変調して信号波を生成し、前記送信部は前記振幅変調部で生成した信号波を各軌道回路に送信し、
前記受信器は、列車検知処理部と信号現示検知処理部を有し、前記列車検知処理部は軌道回路から受信した信号波から振幅変調を伴わない変調成分を検出して復調して軌道回路における列車の非在線を検出し、前記信号現示検知処理部は、軌道回路から受信した信号波から一定周期の振幅変調周波数の変調成分を復調して該当する区間の信号現示を検出することを特徴とする低周波デジアナ信号軌道回路装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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