説明

デジタル無線機及びその制御方法

【課題】占有帯域幅や変調度、ベースバンドフィルタ帯域、ビットレート等が異なる複数の規格の無線信号が混在する場合においても、夫々について同時受信待受けを可能とするデジタル無線機及びその制御方法を提供する。
【解決手段】ベースバンド処理を行う前に、同期検出処理を行うとともに、着信信号の規格パラメータを決定し、そのデータをベースバンド処理ブロックに供給して、フィルタ帯域、クロック周波数、変調度等必要な処理パラメータを設定した上で、ベース何度処理を行うように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタル無線機及びその制御方法に関し、詳しくは、占有周波数帯域幅や変調度等が異なる複数の規格の送信信号を同時に受信の待ち受けが可能なデジタル無線機、及びデジタル無線機の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、業務用無線機(Land Mobile Radio)を始めとして各種無線通信システムでは周波数利用効率の観点から一チャネル当たりの占有周波数帯域の狭帯域化とデジタル化が推進されている。デジタル化に際し、例えば業務用無線システムにおいては、従来のアナログ方式との併存や共用が容易なFSK(Frequency Shift Keying:周波数偏移変調)、PSK(Phase Shift Keying:位相偏移変調)等が採用されている。
一方、占有周波数帯域の狭帯域化に伴って、伝送すべき情報(データ)により変調する周波数偏移量や位相偏移量が小さくなり、所謂、変調度が浅くなる。過去に実施された狭帯域化の例としては、一チャネル当たりの占有帯域として25kHz(ワイド)であったものが、半分の12.5kHz(ナロー)となり、更に、その半分の6.25kHz(ベリーナロー)になると云うように、段階的に狭帯域化が推進されている。ベリーナロー化が進められている現在においても、今なお、ナローバンド用無線機のみならず、それ以前のワイドバンド用無線機も一部に使用されている。
【0003】
図6は、従来のデジタル無線機のヘテロダイン型受信機の一般的な構成を示すブロック図である。この構成の無線機の動作について簡単に説明する。先ず、アンテナANTに着信した信号を受信RF部(受信高周波部)40に供給し、その高周波増幅器(AMP)41により増幅した後、混合器(ミキサー)42において局部発振器43出力と混合し、混合信号から必要な中間周波数信号(IF)信号を分離(周波数変換)するとともに、中間周波増幅器44にて所要レベルに増幅する。
更に、増幅された中間周波信号は、復調器(検波器)45において高周波信号に重畳された元の信号に復調される。従来のアナログ変調方式の無線システムでは復調信号が音声信号となるが、デジタルシステムでは、帯域制限フィルタ46を通過後、アナログ/デジタル変換器47によってデジタル信号に変換し、DSP等のデジタル信号処理プロセッサを含むベースバンド処理部50において同期検出を含む種々のデジタル処理が行われる。
【0004】
ところで、デジタル移動無線システムのように伝送路にノイズが多く混入するシステムでは、ベースバンド処理部50の同期フレーム検出処理における復号ワードデータには誤りが多く含まれているのでフレーム検出処理精度が劣化する。また、シンボルタイミングを予め獲得してからフレーム同期ワードを検出する方法では時間が掛かり過ぎるので、音声通話のように即時接続性が必要な場合は、例えば、デコードする前の復調信号波形と予め既知のフレーム同期ワードとの相関関係に基づいてフレーム同期ワードを検出する手法が使用されている。
この方法を簡単に説明すると、フレーム同期ワードの各シンボル値をS、受信検波された信号の復調波形から検出されたシンボル値をaとすると、両者の相関値Rは、波形の「ずらし量」τの関数R(τ)として(式1)で表され、その値R(τ)が最大値のとき、フレーム同期ワード検出タイミングとなる。
R(τ)=Lim1/T∫a(t+τ)S(t)dt ・・ (式1)
但し、Tは∞で、積分範囲はTが0から∞
今、フレーム同期ワードのシンボル数をn、それらのデータ(シンボル値)をS1〜Sn、復調波形から読み取ったフレーム同期ワード候補のシンボルサンプリングデータをa1〜anとすると、上記(式1)は、次の(式2)として表すことができる。
C=Σ(ai*Si) 但し、iは1からnまで ・・・ (式2)
なお、実際にはサンプル数nで(式2)を割り算する必要があるが、これは定数であり、原理的説明に影響がないので、ここでは省略する。
この式で、相関値Cは、理想的な同期状態において最大値をとるので、許容できるビットエラーを加味して適宜設定した「しきい値」と比較して同期判定を行うことにより迅速な同期検出を行うのが一般的である。一定の許容値を加味してしきい値を設定する方法については、特許文献1に開示されているので参照できる。
【0005】
また、上述した波形相関に代わり、既知のフレーム同期ワードシンボル値と、受信波形から取り出したフレーム同期ワード候補の各シンボル値との誤差、即ち両者の相違度(誤差)に基づいてフレーム同期ワード検出を行う方法も使用されることが多く、これは(式3)に示す計算値Eによる。
E=Σ(ai−Si2 但し、iは1からnまで ・・・ (式3)
このようなデジタル無線機において、占有周波数帯域が異なると、例えば、ビットレート、ベースバンドフィルタの通過帯域、変調度等が異なる。
そこで、上記図6のベースバンド処理部50において、規格に適合するように変調度の調整処理を行い、同様にその規格の通過帯域に合致するベースバンドフィルタを経由した後、含まれる信号に基づいて、クロック再生処理、同期検出、及びデータ検出処理を行うことができれば、得られたデータをデータ解析部51、音声データデコーダ52に供給することができる。
【0006】
図7は、同一出願人が出願した発明(特許文献2)において引用した上記(式2)、(式3)の計算例を示す同期ワード波形図であり、詳細には後述するが、(式2)では同期点(タイミングt8)において相関値が最大となり、(式3)の相違度(誤差)は、同期点(タイミングt8)の値(レベル)がゼロ(0)となることが理解できる。
なお、図7は、変調方式が4値FSK(周波数シフトキーイング:Frequency Shift Keying)あるいは4値PSK(Phase Shift Keying)で、ここでは説明を簡単にするためにフレーム同期ワードSの数を四とし、夫々の値をS1=−3、S2=1、S3=−1、S4=3として、デジタル受信信号を復調した後の波形図である。横軸は時間、縦軸は受信復調信号の振幅値であり、フレーム同期ワードのシンボル値(偏移量)を示している。
シンボルタイミングをt1〜t11としたとき、図中のa1〜a4は、シンボルタイミングt4におけるフレーム同期ワード候補で、時間経過に伴って受信タイミングがシフトする毎に、図中右側に一シンボル分ずれたものとなる。なお、この例ではフレーム同期ワード数を四としたので、a1〜a4の四つであるが、実際にはもっと多く、例えばAPCO P25では24シンボルとなる。更に詳細な説明は特許文献2を参照することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平3−70226号公報
【特許文献2】特開2007−150472公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、従来から業務用無線に限らないが、多数の通信チャネルについて、緊急通信や緊急連絡を受信するために受信待ち受け状態で使用することが多く、そのための手段として種々の方法が使用されている。デジタル無線機においても同様の要請があるが、上述したようにチャネル当たりの占有周波数帯域の規格が複数混在する無線システムおいて、同様の受信待ち受けを実現する場合を考えると、従来の方法では、必ずしも使い勝手の良いものではなかった。
例えば、異なる規格の夫々に対応する複数の受信機を必要数併設する方法が考えられるが、設備が大型、高価になるので、特殊な場合以外採用困難である。特に、移動無線用の無線機としては不向きである。
【0009】
他の方法としては、一台の受信機で複数の規格に対応するために規格の影響を受けない部分を共用し、それ以外の部分にについて夫々の規格に対応可能な受信ユニットを複数備え、順次高速スキャンするものが考えられる。しかしながら、時分割的にスキャンする方式では、全てを同時に受信(モニタ)することが出来ないので、一つの規格の受信チャネルをモニタ中に他の規格の受信チャネルに着信があっても、それを感知することが出来ない。また、出来たとしても受信開始が遅延する結果、通話の頭部が欠落する(話頭切断)等の不具合を生じるので、緊急を要する通信に迅速に対応する上で支障をきたしていた。
デジタル無線機において、異なる規格の信号が混在する複数チャネルの同時待受けを行うためには、変調度、ベースバンドフィルタ帯域幅、シンボルレート(ビットレート)等が不明の状態において、フレーム同期検出を行う手段を確立する必要がある。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、占有帯域幅や変調度、ビットレート等が異なる複数の規格の無線信号が混在する場合においても、同時受信待受けを可能とするデジタル無線機及びその制御方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明はかかる課題を解決するために、請求項1記載のデジタル無線機は、受信検波した信号からフレーム同期信号を検出する同期ワード検出手段と、ビットレート、ベースバンド信号周波数帯域、変調度の少なくとも一つが夫々異なる複数の規格に基づく信号に応じて処理パラメータを変更可能な、変調度調整手段、ベースバンドフィルタ処理部、クロック再生処理部、データ取得処理部のうちの少なくとも一つを備えたデータ取得処理ブロックを含むデジタル無線機において、上記同期ワード検出手段は、異なる複数の規格の同期ワードを検出するための複数の既知同期ワードデータと、受信検波信号と前記複数の既知同期ワードデータとを比較して同期ワード検出を行う複数の同期ワード検出処理ブロックと、検出した同期ワードから所要規格パラメータを決定する規格パラメータ決定手段と、決定した規格パラメータに基づいて前記データ取得処理ブロックの変調度調整手段、ベースバンドフィルタ処理部、クロック再生処理部、データ処理部の、少なくとも一つの処理パラメータを制御する手段を備えたことを特徴とする。
【0011】
請求項2記載の発明では、請求項1記載のデジタル無線機において、上記同期ワード検出手段が、既知の同期ワードを予め記憶しておく同期ワード記憶手段と、受信検波した受信信号波形から同期ワード候補シンボルデータを取得する同期ワード候補取得手段と、同期ワード候補取得手段によって得た同期ワード候補の各シンボル値と記憶した同期ワードの各シンボル対応値とのシンボル誤差を求めるシンボル誤差演算手段と、シンボル誤差演算手段によって求めた全シンボルに対するシンボル誤差平均値を求めるシンボル誤差平均演算手段と、シンボル誤差演算手段によって求めた、同期ワード候補の各シンボル誤差から上記シンボル誤差平均値を減算してオフセット補正値を求めるシンボル誤差平均減算手段と、同期ワード候補の各シンボルについて上記シンボル誤差平均減算手段によって求めたオフセット補正値を自乗する補正値自乗演算手段と、補正値自乗演算手段によって求めた結果を同期ワード候補全シンボルについて加算して同期ワードシンボル誤差を求めるシンボル誤差合算手段と、同期シンボル誤差合算手段によって求めた同期ワードシンボル誤差と予め設定したしきい値と比較し、当該同期ワード候補が同期ワードであるか否かを判断する同期ワード判断手段を備えたことを特徴とする。
【0012】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載のデジタル無線機において、上記同期ワード検出手段は、複数の規格に対応する既知同期ワードデータ及びデジタル処理パラメータを記憶したメモリを更に含むことを特徴とする。
請求項4記載の発明はデジタル無線機の制御方法に関するもので、受信検波した信号からフレーム同期信号を検出する同期ワード検出手段と、ビットレート、ベースバンド信号周波数帯域、変調度の少なくとも一つが夫々異なる複数の規格に基づく信号に応じて処理パラメータを変更可能な、変調度調整処理、ベースバンドフィルタ処理、クロック再生処理、データ取得処理のうちの少なくとも一つを備えたデータ取得処理を含むデジタル無線機の制御方法において、上記同期ワード検出手段は、デジタル無線機の制御方法に関するもので、異なる複数の規格の同期ワードを検出するための複数の既知同期ワードデータと、受信検波信号と前記複数の既知同期ワードデータとを比較して同期ワード検出を行う複数の同期ワード検出処理と、検出した同期ワードから所要規格パラメータを決定する規格パラメータ決定処理と、決定した規格パラメータに基づいて前記データ取得処理の変調度調整処理、ベースバンドフィルタ処理、クロック再生処理、データ処理部の、少なくとも一つの処理パラメータを制御する処理を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明は上述したように、異なる複数の規格に基づく信号に応じて処理パラメータを変更可能な、変調度調整手段、ベースバンドフィルタ処理部、クロック再生処理部、データ取得処理部、を備えたデータ取得処理ブロックを含むデジタル無線機において、ベースバンド処理を行う前に、先ず、同期検出を行うことによって、そのときの受信信号に関する規格情報を取得し、上記データ取得処理ブロックの各処理パラメータを設定した上で、ベースバンド処理を実行するように構成し、又は、処理する。従って、複数の規格に対応して備えるべき処理ブロックは、同期検出処理ブロック(同期処理装置)となり、その他の部分は一つのもので共有できるので、コストの上昇や、装置の大型化を伴うことなく、同時受信待ち受けが可能となる。
なお、夫々異なる複数の規格に基づく信号に応じて処理パラメータを変更可能な、変調度調整手段、ベースバンドフィルタ処理部、クロック再生処理部、データ取得処理部、を備えたデータ取得処理ブロックを含むデジタル無線機としては、CPU、DSP、メモリ等を備え、受信待ち受けを行う規格に応じたデジタル処理プログラムをインストールするように構成すれば、既存の技術で実現可能である。特に、近年のソフトウエアラジオ技術を使用すれば実現容易であろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係るデジタル無線機の一実施例を示すブロック図。
【図2】本発明において使用する同期検出処理部の一例を示すブロック図。
【図3】本発明の実施例の処理例を説明するための図で、(a)、(b)、(c)はともに、フレーム同期ワード信号波形図。
【図4】本発明のデジタル無線機の制御例を示すフローチャート。
【図5】本発明のデジタル無線機の他の制御例を示すフローチャート。
【図6】従来のデジタル無線機の構成例を示すブロック図。
【図7】特許文献2に示された同期信号波形図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載される構成要素、種類、組み合わせ、形状、その相対配置などは特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する主旨ではなく単なる説明例に過ぎない。
本発明は、複数規格の受信信号の同期検出を行うために、受信信号の規格が未知の状態、即ち、ベースバンドフィルタ帯域、クロック周波数、変調度等の少なくとも一つが不明の状況において、同期検出処理を行い、受信した信号が如何なる規格に該当するものであるかを検知するとともに、その規格信号のデジタル処理を行う上で必要な処理パラメータを決定することによって、その後のベースバンド処理を確実に行うようにしたデジタル無線機及びその制御方法を提供するもので、以下その実施例について説明する。
【0016】
図1は本発明に係るデジタル無線機の受信部のブロック図である。
この例では、アンテナからA/D変換器までは図6に示した従来の無線機とほぼ同様である。即ち、アンテナANT1に着信した信号を受信RF部(受信高周波部)2の、高周波増幅器(AMP)3により所要レベルに増幅し、混合器(ミキサー)4において局部発振器5の出力と混合するとともに、その混合信号からフィルタリングした所望の中間周波数信号(IF)信号を中間周波増幅器6にて所要レベルまで増幅する。
この中間周波信号は、更に、復調器(検波器)7において復調され、帯域制限フィルタ8を経て、アナログ/デジタル変換器(A/D変換器)9によってデジタル信号に変換される。なお、この例における帯域制限フィルタ8は、受信を予定する種々の規格信号のうち、最も広帯域の信号を通過できるフィルタとするが、必要な検波信号を通過し不要ノイズを除去する目的で使用し、規格信号帯域に影響のないフィルタであれば、従来のものであっても構わない。
【0017】
この例に示すデジタル無線機は、A/D変換器9以降のベースバンド処理ブロック10の機能構成及び処理方法に特徴がある。
即ち、この例では、図6に示したブロック図におけるベースバンド処理部50の機能ブロックのうち同期検出処理を他の処理に先行して行い、同期検出によって受信した信号のパラメータを決定するとともに、それらに基づいて他の処理ブロックの処理パラメータを制御することによって、変調度調整、クロック再生及びデータ取得等を可能にしている。
このためにベースバンド処理ブロック10では、同期(フレーム)検出処理部11と、変調信号(検波信号)経路切替用スイッチSWと、同期処理以外のベースバンド処理を行う処理ブロック(以下、データ取得処理ブロック)12とを備えている。
なお、データ取得処理ブロック12は、スイッチSWを介して変調信号を供給する乗算器13と、乗算器13に変調度調整用信号を供給する変調度調整処理部14と、変調度調整を行った信号から所望信号を取り出すベースバンドフィルタ処理部15と、ベースバンド信号からクロック信号を取り出すクロック再生部16と、目的とするデータを検出するデータ取得処理部17とを含んでいる。
この例に示す同期(フレーム)検出処理部11では、従来のベースバンド処理部と異なり、ベースバンドフィルタ処理を行う前の信号から同期検出を行うことから、シンボル点が明確に確定された状況ではなく、隣接するフレームの数シンボルの影響(符号間干渉)を受けた状態となるが、同期ワードが多数(通常、数十シンボル)配列しているので、他のデータの影響を受けるのは同期ワードの最初と最後の数シンボルに留まり、同期検出が不可能となる訳ではない。
【0018】
また、このようにベースバンドフィルタを通過していない検波信号から同期検出するので、既知のワードデータ(S1乃至Sn)として、ベースバンドフィルタを通過しない状態のパターンに類似したものとなるように、予め計算しておくことが同期検出の可能性を大きくする上で有効である。
更に、同期検出処理機能としては、従来のものと同様のもので良いが、各式に示すa1乃至anの規格が未知の状態(規格が不明の状態)であり、単に、デジタルに変換された電圧信号として見えることから、これと比較する既知のフレーム同期ワードデータのシンボル値(S1乃至Sn)についても、−3乃至+3等の整数ではなく、電圧値として用意しておくことが好ましい。
【0019】
図2は、図1の同期検出処理部11の具体的な実施例を示す機能ブロック図である。この例では、説明を簡単にするために、待受け受信を行う異なる規格数が二つの場合を示しているが、同様の方法で、三以上の任意の数について実施可能である。
この例に示す同期検出処理部11は、異なる複数の規格の同期ワードを検出するための複数の既知同期ワードデータと、受信検波信号と上記複数の既知同期ワードデータとを比較して同期ワード検出を行う複数の同期ワード検出処理ブロックと、検出した同期ワードから所要規格パラメータを決定する規格パラメータ決定手段と、決定した規格パラメータに基づいてデータ取得処理ブロックの変調度調整手段、ベースバンドフィルタ処理部、クロック再生処理部、データ処理部の、少なくとも一つの処理パラメータを制御する手段を備えている。
【0020】
図2を参照しながら、具体的に説明する。この例に示す同期検出処理部11は、復調器(検波器)7の出力信号である変調信号を二つの同期検出計算部21と22に供給する。各同期検出計算部には、夫々、異なる規格に対応する既知の(固定)同期ワードデータS1乃至Snが記憶されたメモリ23、24が付加されており、このメモリには、夫々の規格に対応する処理パラメータが記憶されている。そして、これら複数の同期検出計算部21、22は入力する変調信号に対して同時に同期検出計算を行い、その結果を、同期判定を行うしきい値(閾値)判定部25に供給する。このような構成、又は処理によって、受信信号の規格が未知の状態、即ち、ベースバンドフィルタ帯域、クロック周波数、変調度等が不明の状況において、同期検出処理を行い、受信した信号が如何なる規格に該当するものであるかを検知するとともに、その規格信号のデジタル処理を行う上で必要な処理パラメータを決定するので、異なる複数の規格について同時に同期検出が可能であり、従って、同時受信待ち受けができる。
【0021】
図3は、異なる規格に基づく受信信号に対応して同期検出を行う場合の例を示す同期検出波形図である。同図(a)と(b)は共に同期ワードパターンは同一であるが、占有周波数待機が異なるので、変調度とシンボルレートが相違している。このような場合においても、検波した信号波形を所要の周波数でサンプリングして信号波形の特徴を抽出し、上記メモリ23、24に予め記憶している各規格の同期シンボル波形データと照合すれば、如何なる規格の信号波形であるかを判断することが可能である。この際、シンボルレートの違いや変調度の違いがあっても、同期ワード信号の波形は相似形となる場合は、波形の特徴を検出することによって、規格の検出が可能である。また、相似形でなく、縦軸や横軸方向の圧縮や伸張があっても、波形の特徴や、最大値点、最小値点、中間値点の並び方から、同様に規格を類推することが可能であろう。
このような処理に基づけば、図3(c)に示すように、他の同期ワード波形であっても、同様に、予め同期ワード信号波形の特徴が既知であれば(記憶してあれば)、如何なる規格の同期ワードであるかが判別できる。そして検出した規格に基づいて所要のパラメータをデータ取得処理ブロック12に供給するとともに、上記スイッチSWを制御して、変調信号をデータ取得処理ブロック12にも供給する。必要なパラメータを受取ったデータ取得処理ブロック12の各処理部は、それらのパラメータに一致させた変調度調整値の発生、ベースバンドフィルタ帯域の設定、クロック再生を行い、供給される変調信号から必要なデータを取得する。
【0022】
図4は、本発明に係るデジタル無線機における同期処理の制御方法の一例を示すフローチャートである。図1、図2を参照しながら説明する。処理が開始されると、受信・検波した変調信号が、先ずは、同期(フレーム)検出処理部11に供給される(ST1)。同期(フレーム)検出処理部11は、図2に示したように、受信信号(変調信号)から取り出した同期ワード候補シンボルデータが、複数規格の既知ワードデータ夫々が設定された複数の同期検出計算部に供給され、同時に同期検出計算処理が実行される(ST2)。
この同期検出計算処理においては、上述したように同期検出が行われ、複数の同期検出計算処理部のなかの何れかにおいて同期が検出されると、該当する規格の受信信号が着信されたものと判断し(ST3、Yes)、同期検出できた規格のパラメータをデータ取得処理ブロック12に供給し、内部の各処理部に、該当する規格の信号処理に必要な処理パラメータ、例えば、ベースバンドフィルタの通過帯域幅を決定するパラメータや、変調度調整処理に必要なパラメータ、クロック再生に必要なパラメータ等を設定する(ST4)。この処理が完了すると、受信検波信号(変調信号)をデータ取得処理ブロック12に供給するために経路切替スイッチSWを制御し(ST5)、各ブロックのパラメータが調整されたデータ取得処理ブロック12において、既に説明したような変調度調整、ベースバンドフィルタ処理、クロック再生処理、データ取得処理が実行される(ST6)。なお、上記処理ST3において、同期検出できる規格の同期ワードが含まれていない場合は、処理ST1に戻って、同様のステップ処理を行う(ST3、No)。
【0023】
以上説明したように、規格が明確でない状態で同期検出を行う手段として、(式3)に示す相違度(誤差)の利用が有用であることを説明したが、更に、同一出願人が提案した特許文献2の発明(「特許文献2記載発明」と云う)を利用すれば、より一層確実に同期(フレーム)検出処理が可能である。
特許文献2記載発明に示した同期検出手段は、従来のように既知同期ワードデータと受信した同期ワード候補との相関値を計算する代わりに、(式3)に示した相違度(誤差)から、更に、DCオフセット成分を除去する計算を行い、その結果に基づいて同期判断を行うもので、受信品質が劣悪な状態においても正確に同期判断が可能であるので、本発明を実現する上で極めて有用である。なお、特許文献2記載発明は、その公開公報に詳細に説明があり、その全てを参照可能であるので、ここでは基本的な考え方のみを説明する。また、以下の説明では、特許文献2に記載された処理ブロックや装置の名称を使用するが、本発明の説明における同様の機能ブロックに置き換えて参照することができる。
【0024】
特許文献2記載発明の同期ワード検出装置の一実施態様例では、既知の同期ワードを予め記憶しておく同期ワード記憶手段と、受信信号波形から同期ワード候補シンボルデータを取得する同期ワード候補取得手段と、同期ワード候補取得手段によって得た同期ワード候補の各シンボル値と記憶した同期ワードの各シンボル対応値とのシンボル誤差を求めるシンボル誤差演算手段と、シンボル誤差演算手段によって求めた全シンボルに対するシンボル誤差平均値を求めるシンボル誤差平均演算手段と、シンボル誤差演算手段によって求めた、同期ワード候補の各シンボル誤差から前記シンボル誤差平均値を減算してオフセット補正値を求めるシンボル誤差平均減算手段と、同期ワード候補の各シンボルについて上記シンボル誤差平均減算手段によって求めたオフセット補正値を自乗する補正値自乗演算手段と、補正値自乗演算手段によって求めた結果を同期ワード候補全シンボルについて加算して同期ワードシンボル誤差を求めるシンボル誤差合算手段と、同期シンボル誤差合算手段によって求めた同期ワードシンボル誤差と予め設定したしきい値と比較し、当該同期ワード候補が同期ワードであるか否かを判断する同期ワード判断手段を備えたことを特徴としている。
【0025】
また、上記同期ワード検出装置には、受信信号から抽出したクロック信号に基づいてクロック信号を再生するクロック再生部と、該クロック再生部の発振周波数を調整する周波数調整部とを備え、上記シンボル誤差平均演算手段によって求めた同期ワード候補の全シンボルに対するシンボル誤差平均値を受信信号の周波数オフセット量とみなして、シンボル判定を行う手段を備えることもできる。
このような同期ワード検出手段では、上記誤差平均値は、受信信号の周波数ずれ等に起因する直流オフセット量となるので、このオフセット量を、同期ワード候補の各シンボル誤差から減算することによって、直流オフセットの影響を除去したオフセット補正値を求めることができる。従って、受信信号中に周波数のずれ等に起因するオフセット成分が含まれる場合であっても、その影響を除去して正確に同期ワードを検出することができる。しかも、簡単な演算によってこの目的を達成することが可能なことから、同期ワードを検出して同期するまでの時間も短縮する効果もある。
このようにして同期ワード検出ができれば、その結果に基づいて、同期ワード検出装置のクロック周波数が、受信信号から抽出したクロック信号の周波数とズレている場合においても、その周波数を自動的に補正することができるので、より一層同期確率までの時間を短縮する効果が得られる。
【0026】
図5は特許文献2に記載された同期ワード検出方法の一例を示すフローチャート(特許文献2の図1)である。以下、この図を用いて、特許文献2記載発明の概要を説明する。
図5に示す例では、受信高周波部の出力が復調器により検波されて(ST11)、例えば図3や図7に示したような信号波形となり、この信号波形から同期ワード候補データを得て、これらの受信信号波形から同期ワード候補のシンボルデータ(ai)を取得する(ST12)。同期ワード候補のシンボルデータが得られると、この(ai)から、予め記憶されている同期ワードの対応する値(Si)を減算してシンボル誤差(ai−Si)を演算する(S13)。
次に、シンボル誤差平均値を計算するが、これはシンボル誤差の演算と同様の考え方に基づいて、n個のシンボル値について(aj−Sj)を計算し、jを1からnにつて全てを加算した上で、シンボル数nで割り算することによってシンボル誤差平均値を求める(ST14)。
なお、この計算は、Foff=Σ(aj−Sj)/n (但し、jは1からn)の式に基づいて行う。この式は、既に説明した式2 E=Σ(ai−Si2をシンボル数nで除して平均したもので、周波数のずれ等によるオフセット量に該当する。
【0027】
このシンボル誤差平均値(オフセット量)Foffを、上記ST13において計算したシンボル誤差から減算して、受信信号波形から同期ワードの候補として抽出した波形のオフセット補正値である(ai−Si)−{Σ(aj−Sj)/n}の値を求める(ST15)。更に、この値の自乗値を求め(ST16)、次に、D=Σ[(ai−Si)−{Σ(aj−Sj)/n}]2(但し、i、jは1からnの値をとる)の計算式に基づいてワードシンボル誤差Dを求める。この値Dは、オフセットが排除された同期ワード候補のシンボル値と、既知の正規の同期ワードとの相違度を示すもので、同期の度合い(相関)を示す値となる。
そこで、これを予め設定したしきい値と比較して(ST19)、しきい値より小さい場合は(ST19 Yes)、当該同期ワード候補が正しい同期ワードであると判断して、次の処理に移行する(ST20)。また、上記処理ST19の判定において、しきい値より大きい場合は、当該同期ワード候補が同期ワードではないと判断し(ST19 No)、受信信号波形から1シンボル分シフトして新たな同期ワード候補を取り出し(ST21)、上記処理ST11に戻って、以下同様の処理を行う。
以上説明したように、特許文献2記載発明は、
off=Σ(aj−Sj)/nの計算によってオフセット成分を検出し、その影響を除去して同期検出を行うので、多分にオフセット成分の発生が予測される受信検波信号から同期検出を行う際に極めて有用であり、本発明において行う同期検出手段として利用可能である。
【0028】
本発明は以上説明した例に限らず、種々変形が可能である。
例えば、同期検出処理部11において複数の規格の信号に対する同期検出を同時に行う場合を説明したが、一挙に同期検出が出来ない場合は、先ず、受信した信号が如何なる規格に対応するものであるかを判断するために必要な情報を検出するに留め、規格が判明した後に所要パラメータを設定して、正確な同期検出を行うように構成することも可能であろう。つまり、同期検出ができる程度に受信品質が良好ではない場合に、例えば、Foff=Σ(aj−Sj)/nの計算によってオフセット成分を検出し、その影響を除去した上で、再度同期検出を行えば、同期検出の可能性が高くなるであろう。その場合は、図1、図2に示した処理ブロックは若干の変更が必要である。
また、同期検出処理部11の構成においても種々変形や、同様に機能する他のブロック構成や機能処理の組合せが可能である。特にこれらの処理は、CPUやDSP、メモリを含むデジタル処理ユニットであれば、種々異なる実現方法が考えられる。例えば、上述した、複数規格の既知同期ワードデータと受信信号との比較を同時に行う処理を、高速に時分割処理を実行し、受信処理が実質的に同時に行われる場合と等価なものであってもよい。
更に、上述した実施形態のデジタル処理や機能ブロックを実現する処理を、それぞれプログラム化し、CPUやDSP、メモリを含むデジタル処理ユニットに格納し、それを実行することによって、本発明の目的が達成されることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0029】
1 アンテナ、2 受信RF部(受信高周波部)、3 高周波増幅器、4 混合器、5 局部発振器、6 中間周波増幅器、7 復調器(検波器)、8 帯域制限フィルタ、9 アナログ/デジタル変換器、10 ベースバンド処理ブロック、11 同期(フレーム)検出処理部、12 データ取得処理ブロック、13 乗算器、14 変調度調整処理部、15 ベースバンドフィルタ処理部、16 クロック再生部、17 データ取得処理部、21、22 同期検出計算部、23、24 同期ワードデータ記憶メモリ、25 しきい値(閾値)判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信検波した信号からフレーム同期信号を検出する同期ワード検出手段と、ビットレート、ベースバンド信号周波数帯域、変調度の少なくとも一つが夫々異なる複数の規格に基づく信号に応じて処理パラメータを変更可能な、変調度調整手段、ベースバンドフィルタ処理部、クロック再生処理部、データ取得処理部のうちの少なくとも一つを備えたデータ取得処理ブロックを含むデジタル無線機において、
前記同期ワード検出手段は、異なる複数の規格の同期ワードを検出するための複数の既知同期ワードデータと、受信検波信号と前記複数の既知同期ワードデータとを比較して同期ワード検出を行う複数の同期ワード検出処理ブロックと、検出した同期ワードから所要規格パラメータを決定する規格パラメータ決定手段と、決定した規格パラメータに基づいて前記データ取得処理ブロックの変調度調整手段、ベースバンドフィルタ処理部、クロック再生処理部、データ処理部の、少なくとも一つの処理パラメータを制御する手段を備えたことを特徴とするデジタル無線機。
【請求項2】
請求項1記載のデジタル無線機において、前記同期ワード検出手段は、
既知の同期ワードを予め記憶しておく同期ワード記憶手段と、受信検波した受信信号波形から同期ワード候補シンボルデータを取得する同期ワード候補取得手段と、同期ワード候補取得手段によって得た同期ワード候補の各シンボル値と記憶した同期ワードの各シンボル対応値とのシンボル誤差を求めるシンボル誤差演算手段と、シンボル誤差演算手段によって求めた全シンボルに対するシンボル誤差平均値を求めるシンボル誤差平均演算手段と、シンボル誤差演算手段によって求めた、同期ワード候補の各シンボル誤差から前記シンボル誤差平均値を減算してオフセット補正値を求めるシンボル誤差平均減算手段と、同期ワード候補の各シンボルについて前記シンボル誤差平均減算手段によって求めたオフセット補正値を自乗する補正値自乗演算手段と、補正値自乗演算手段によって求めた結果を同期ワード候補全シンボルについて加算して同期ワードシンボル誤差を求めるシンボル誤差合算手段と、同期シンボル誤差合算手段によって求めた同期ワードシンボル誤差と予め設定したしきい値と比較し、当該同期ワード候補が同期ワードであるか否かを判断する同期ワード判断手段を備えたことを特徴としたデジタル無線機。
【請求項3】
請求項1又は2記載のデジタル無線機において、前記同期ワード検出手段は、複数の規格に対応する既知同期ワードデータ及びデジタル処理パラメータを記憶したメモリを更に含むことを特徴とするデジタル無線機。
【請求項4】
受信検波した信号からフレーム同期信号を検出する同期ワード検出手段と、ビットレート、ベースバンド信号周波数帯域、変調度の少なくとも一つが夫々異なる複数の規格に基づく信号に応じて処理パラメータを変更可能な、変調度調整処理、ベースバンドフィルタ処理、クロック再生処理、データ取得処理のうちの少なくとも一つを備えたデータ取得処理を含むデジタル無線機の制御方法において、
前記同期ワード検出手段は、異なる複数の規格の同期ワードを検出するための複数の既知同期ワードデータと、受信検波信号と前記複数の既知同期ワードデータとを比較して同期ワード検出を行う複数の同期ワード検出処理と、検出した同期ワードから所要規格パラメータを決定する規格パラメータ決定処理と、決定した規格パラメータに基づいて前記データ取得処理の変調度調整処理、ベースバンドフィルタ処理、クロック再生処理、データ処理部の、少なくとも一つの処理パラメータを制御する処理を含むことを特徴とするデジタル無線機の制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate