説明

デスモプレシンを含有するブリスターパック及び固形製剤

本発明はデスモプレシン又は医薬的に許容可能なその塩の固形製剤を充填したブリスターを含む医薬用ブリスターパックと前記固形製剤に関する。1態様において、本発明は特に医薬的に許容可能なアジュバント、希釈剤及び/又はキャリヤーを添加したデスモプレシン又は医薬的に許容可能なその塩の固形製剤を充填したブリスターを含む医薬用ブリスターパックに関し、前記固形製剤は前記デスモプレシンの水分に関連する劣化を防ぐように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はデスモプレシン又は医薬的に許容可能なその塩の固形製剤を充填したブリスターを含む医薬用ブリスターパックと前記固形製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
デスモプレシン(dDAVPとも言う)はノナペプチドであり、特に鼻腔スプレーや錠剤として販売されている医薬品Minirin(登録商標)の治療活性成分である(その酢酸塩として)。デスモプレシンは主に一次性夜尿症、即ち小児のおねしょの治療に使用されているが、夜間多尿症や尿崩症の治療にも認可されている。錠剤はスウェーデンで1987年に最初に販売された。デスモプレシンの市販錠剤形態の組成は現在まで変わっていない。
【0003】
デスモプレシンの錠剤形態は米国特許第5,047,398号に記載されているように最初に開示された。その後に販売認可が下りたものとしては例えば米国特許第5,047,398号に例示されているマンニトール、タルク及びセルロース成分をジャガイモ澱粉に置き換えた錠剤が挙げられる。酢酸デスモプレシンとジャガイモ澱粉に加え、本錠剤成分はラクトース、ポリビニルピロリドン(PVP)及びステアリン酸マグネシウムであり、これらを混合して顆粒から圧縮し、均質錠剤を形成している。水とエタノールの混合物を顆粒製造の造粒液として使用しているので、得られる錠剤はこれらの2種の溶媒の微量の残留分、一般には水5〜6%とエタノール0.1%(重量百分率)も含有している。固形製剤を完全に乾燥する条件は工業規模ではコストが高過ぎるか又はデスモプレシンが熱損傷する可能性があるので、残留溶媒を完全に除去する必要はなく、実際的でもない。
【0004】
PVDC(ポリ塩化ビニリデン)をコーティングしたポリ塩化ビニル(PVC)ブリスターを含むブリスターパックに充填したMinirin(登録商標)錠剤が従来販売されている。ヒートシールラッカーを備えるアルミ箔蓋材が使用されている。ブリスターパック製品は長期保存中の酢酸デスモプレシンの劣化に付随する問題により2002年に市場から撤退した。
【0005】
瓶入りスプレー又は錠剤に比較したブリスターパックの利点はよく知られている。これらの利点は主に治療医が特定数の用量単位を選択する際に融通性があることと、用量単位を摂取したか否かがブリスターの外観から患者に実際に分かるという点にある。医薬用ブリスターパックに関するより一般的な手引きは“Pharmaceutics−The science of dosage form design”;Ed.M.E.Aulton,Churchill Livingstone,Edinburgh,London,Melbourne and New York,1988に記載されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
保存安定性の問題のないデスモプレシンを含有するブリスターパックを提供することが必要とされている。
【0007】
米国特許第5,763,405号はデスモプレシンの固形製剤を開示している。この製剤はデスモプレシンを小腸で放出させるように構成された腸溶コーティングを備えており、約2〜約6のpHに緩衝する緩衝剤を含むキャリヤーと薬剤を混合している。米国特許第5,763,405号は胃腸放出を制御すると共にデスモプレシンの酵素分解を確保することによりデスモプレシンバイオアベイラビリティを増加するという目的を開示している。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は医薬的に許容可能なアジュバント、希釈剤及び/又はキャリヤーを添加したデスモプレシン又は医薬的に許容可能なその塩の固形製剤を充填したブリスターを含む医薬用ブリスターパックに関し、前記固形製剤は前記デスモプレシンの水分に関連する劣化を防ぐように構成されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の固形製剤は場合により一般に崩壊剤、結合剤、滑沢剤、香味剤、防腐剤、着色剤及び適切なその任意混合物から選択される少なくとも1種の他の添加剤を添加することができる。本発明の実施に考慮することができる添加剤の例は“Handbook of Pharmaceutical Excipients”;Ed.A.H.Kibbe,3rd Ed.,American Pharmaceutical Association,USA and Pharmaceutical Press UK,2000に記載されている。
【0010】
特定理論に結び付けるものではないが、本発明者らはデスモプレシンの固形製剤中の残留水分の存在が(例えば密閉瓶に比較して)ブリスターパック内の潜在的水分流入増加と相俟って保存時にデスモプレシンの上記劣化加速を生じたと仮定する。保存中には他の形態の失活デスモプレシンも形成されるが、固形製剤中の水分の存在はデスモプレシンの二量体形成、即ち失活を促進すると思われる。
【0011】
より詳細には、デスモプレシンの固形製剤におけるpHレベルを目的に合わせて選択及び制御することがブリスターパック保存時の劣化防止に特に有効であることが判明した。
【0012】
本発明の1好適態様は、前記固形製剤が前記固形製剤を水と接触させたときに測定した場合に3.0〜6.2のpHを提供する物質を含有している前記ブリスターパックに関する。別の好適態様において、前記pHは3.0〜6.0である。本明細書で使用する「水と接触」なる用語は25℃のHO 2ml中に固形製剤1gを含有するスラリーの調製を意味し、このスラリーで従来のpH測定を実施する。Radiometer Analytical S.A.(フランス)製品pHC3359−9型pHメーターを測定に使用した。HO 2ml中に従来公知のMinirin(登録商標)錠剤1gを含有するスラリーは25℃でpH約6.6である。
【0013】
前記pHは3.5〜5.5であることが好ましい。前記pHは4.0〜5.0、好ましくは4.5〜4.8であることがより好ましい。
【0014】
前記pHを提供する前記物質は好ましくは酸、好ましくはクエン酸、塩酸及びリンゴ酸から構成される群から選択される酸である。適切な酸の他の例はステアリン酸、酢酸、リン酸、アジピン酸、酒石酸、グルタミン酸及びアスパラギン酸である。本発明はpH調節剤として1種類の物質だけ使用すればよいので特に簡便に実施することができる。
【0015】
本発明のブリスターパックにおいて、前記ブリスターと適宜その蓋材箔は好ましくはPVC、PVC/PVDCブレンド、PE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、ポリスチレン、ポリエステル(例えばポリエステルテレフタレート)、紙、ポリアミド、PET(ポリエチレンテレフタレート)、COC(環状オレフィンコポリマー)及びアルミ箔又はその任意ブレンドから選択される材料から構成される。本明細書で使用する「ブレンド」なる用語は積層複合体も含む。PVCが好ましい材料である。
【0016】
典型的なアルミニウムブリスターは底材ウェブが通常は延伸ポリアミド(OPA)、アルミニウム及びポリプロピレン又はPVCの積層複合体であるブレンドから構成され、蓋材箔がアルミニウムから構成される。蓋材箔は一般に例えばポリプロピレンと共働して密閉するためのヒートシールラッカーを備える。典型的なCOCブリスターは底材ウェブがPP/COC/PPから構成され、上記型のアルミ箔蓋材を使用することができる。PVCブリスターは一般にPVCと共働して密閉するように構成された従来のヒートシールラッカーを備えるアルミ箔蓋材で密閉される。本発明の実施に利用されるブリスターパック製造技術自体は当業者に公知である。製造業者の例としては、アルミニウムとCOCについてはthe Alcan Packaging Group(Singen,DE)、PVCについてはRiblex Film A/S(デンマーク)、PVDCについてはPerlen Converting AG(スイス)が挙げられる。
【0017】
最も好ましい態様において、前記固形製剤は腸溶コーティングをもたない。腸溶コーティングをもつ固形製剤を完全に回避することにより、固形製剤の製造が実質的に簡単になり、この点は本特定態様の大きな実用上の利点である。
【0018】
前記固形製剤は好ましくは錠剤、粒状粉末、トローチ剤、カシェ剤、乾燥粉末、ウェハースシート及びカプセル剤から構成される群から選択される。錠剤が最も好ましい。
【0019】
本発明の第2の側面は医薬的に許容可能なアジュバント、希釈剤及び/又はキャリヤーを添加したデスモプレシン又は医薬的に許容可能なその塩の固形製剤に関し、前記固形製剤は前記固形製剤を水と接触させたときに測定した場合に4.5〜5.5のpHを提供する物質を含有しており、但し、前記固形製剤は魚ゼラチン又は腸溶コーティングをもたない。
【0020】
この第2の側面において、前記pHは4.5〜5.0、好ましくは4.5〜4.8であることが好ましい。前記物質は一般に酸、好ましくはクエン酸、塩酸及びリンゴ酸から構成される群から選択される酸である。酸の他の例は上記のものである。固形製剤自体は好ましくは上記のものから選択される。錠剤が最も好ましい選択例である。
【0021】
従って、本発明は本発明の第2の側面に定義した固形製剤を充填したブリスターを含む医薬用ブリスターパックに関する。前記ブリスターと適宜蓋材箔は好ましくは上記のものから選択される材料から構成される。
【0022】
固形製剤としての本発明の医薬組成物は一般に経口投与可能な錠剤である。錠剤は当分野の定着法に従って適切な顆粒の圧縮により製造することができる。適切な打錠機の例をいくつか挙げると、Elizabeth−Hata International,米国やCourtoy NV,BEから販売されているロータリープレスが挙げられる。医薬錠剤製造の総合概要については、前記“Pharmaceutics−The science of dosage form design”中の“Tableting”(N.A.Armstrong著)参照。
【0023】
以下、実施例により本発明をより詳細に例証する。以下の実施例は本発明の実施方法を限定するものではない。
【実施例1】
【0024】
dDAVPの酸含有(「低pH」;02K24−01)固形製剤の製造
ラクトース(900g,DMV,NL製品Pharmatose 150M)と澱粉(550g,Lyckeby Starkelse AB,SE製品AmylSolVat)を混合し、1mmシーブで篩分けした。リンゴ酸(1.88g)、水(75ml)及びPVP(13.8g,BASF GmbH,DE製品Kollidon(登録商標)25)から構成される造粒液を調製し、これにdDAVP(0.75g;PolyPeptide Laboratories AB,SE製品)とエタノール(225g)を加えた。次に造粒液をラクトース/澱粉混合物に加えた。篩分け(1.4mm)し、20〜25時間40℃で乾燥し、更に篩分け(1.4mm)した後、得られた顆粒をステアリン酸マグネシウム(11.3g,1.0mm篩分け;Peter Greven NV,NL製品)と混合した後、シングルパンチ打錠機(Fette Exacta 1)を使用して7500錠に打錠した。dDAVP 0.1mgを含有する典型的な製造後の錠剤は厚さ3〜4mm及び目標重量192mgの白色凸状卵形(6.8×9.6mm)であった。表面は滑らかで引っ掻き傷や縁部の破損がなく、ラミネーション(所謂キャッピング)傾向もなかった。残留含水率は6.1重量%であった。製造後の錠剤の水スラリーのpHは25℃で4.6であった。乾燥顆粒即ち固形製剤自体としても使用することができる錠剤前駆体のpHは4.3であった。
【実施例2】
【0025】
dDAVPの無酸(「標準pH」;DK7333)固形製剤の製造
リンゴ酸を省略した以外は実施例1と同様に錠剤を製造した。製造後の錠剤の水スラリーのpHは25℃で6.6であった。残留含水率は6.1重量%であり、即ち、実施例1の錠剤と意図的に同一にした。
【実施例3】
【0026】
実施例1及び2の錠剤のPVCブリスター充填と安定性試験A
Inpac AB,Lund,SEにより提供される従来のパッケージング技術を使用してブリスターパックを製造した。PVCブリスター(RN23−A,バッチ#26145−1;Riblex Film A/S製品)と蓋材アルミ箔(K7606002,バッチ#771297;前記Alcan Packaging Group製品)を密閉用ヒートシールラッカー(Termolack LA723)と併用した。
【0027】
実施例1及び2の錠剤を充填したブリスターパッケージを人工気象室に入れ、40℃、相対湿度(RH)75%で保存した。水/水分(重量%)と無傷dDAVP(0ケ月の出発時含有率100%)の含有率を経時的にモニターし、結果を表1に要約した。
【0028】
水分とデスモプレシンに使用した分析法は夫々カールフィッシャー法とLC/UV法であった。
【0029】
【表1】

【実施例4】
【0030】
PVC/PVDCブリスター内のdDAVP錠剤の安定性試験B
使用したPVDCはPerlen Converting AG製品Perlalux−Duplex(バッチ#39942)であり、上記のようなPVCブリスターにコーティングした。蓋材アルミ箔K7606002を使用した。
【0031】
比較の目的で、別のバッチのジャガイモ澱粉(KMC,デンマーク製品)の使用により水と接触させたときの錠剤のpHが6.5となるようにした以外は実施例2と同様に錠剤CC6545を製造した。
【0032】
pH4.5とするために十分な量の酸を造粒液に加えた以外は前記CC6545と同様の本発明の2種の錠剤を製造した。リンゴ酸又は塩酸を加え、得られた錠剤夫々45/059及び45/061は水と接触させたときのpHが夫々6.1及び6.2であった。実施例3と同様に40℃/75%RHで実施した安定性試験を下表2に要約する。
【0033】
【表2】

【0034】
要約すると、pHが低いほどブリスターパック内のデスモプレシンの固形製剤の保存安定性が増すことが上記結果から明らかである。
【0035】
全引用文献は本明細書の一体部分とみなす。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬的に許容可能なアジュバント、希釈剤及び/又はキャリヤーを添加したデスモプレシン又は医薬的に許容可能なその塩の固形製剤を充填したブリスターを含む医薬用ブリスターパックであって、前記固形製剤が前記デスモプレシンの水分に関連する劣化を防ぐように構成されている前記ブリスターパック。
【請求項2】
前記固形製剤が前記固形製剤を水と接触させたときに測定した場合に3.0〜6.2のpHを提供する物質を含有している請求項1に記載のブリスターパック。
【請求項3】
前記pHが3.5〜5.5である請求項2に記載のブリスターパック。
【請求項4】
前記pHが4.0〜5.0、好ましくは4.5〜4.8である請求項3に記載のブリスターパック。
【請求項5】
前記物質が酸、好ましくはクエン酸、塩酸及びリンゴ酸から構成される群から選択される酸である請求項1から4のいずれか一項に記載のブリスターパック。
【請求項6】
前記ブリスターがPVC、PVC/PVDCブレンド、PE、PP、ポリスチレン、ポリエステル、紙、ポリアミド、PET、COC、アルミ箔及びそのブレンドから選択される材料から構成される請求項1から5のいずれか一項に記載のブリスターパック。
【請求項7】
前記固形製剤が腸溶コーティングをもたない請求項1から6のいずれか一項に記載のブリスターパック。
【請求項8】
前記固形製剤が錠剤、粒状粉末、トローチ剤、カシェ剤、乾燥粉末、カプセル剤及びウェハースシートから構成される群から選択される請求項1から7のいずれか一項に記載のブリスターパック。
【請求項9】
医薬的に許容可能なアジュバント、希釈剤及び/又はキャリヤーを添加したデスモプレシン又は医薬的に許容可能なその塩の固形製剤であって、前記固形製剤が前記固形製剤を水と接触させたときに測定した場合に4.5〜5.5のpHを提供する物質を含有しており、但し、前記固形製剤は魚ゼラチン又は腸溶コーティングをもたない前記固形製剤。
【請求項10】
前記pHが4.5〜5.0、好ましくは4.5〜4.8である請求項9に記載の固形製剤。
【請求項11】
前記物質が酸、好ましくはクエン酸、塩酸及びリンゴ酸から構成される群から選択される酸である請求項9又は10に記載の固形製剤。
【請求項12】
錠剤、粒状粉末、トローチ剤、カシェ剤、乾燥粉末、カプセル剤及びウェハースシートから構成される群から選択される請求項9から11のいずれか一項に記載の固形製剤。
【請求項13】
請求項9から12のいずれか一項に記載の固形製剤を充填したブリスターを含む医薬用ブリスターパック。
【請求項14】
前記ブリスターがPVC、PVC/PVDCブレンド、PE、PP、ポリスチレン、ポリエステル、紙、ポリアミド、PET、COC、アルミ箔及びそのブレンドから選択される材料から構成される請求項13に記載のブリスターパック。

【公表番号】特表2007−521327(P2007−521327A)
【公表日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−538867(P2006−538867)
【出願日】平成16年11月12日(2004.11.12)
【国際出願番号】PCT/EP2004/052940
【国際公開番号】WO2005/046646
【国際公開日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(500297535)フェリング ベスローテン フェンノートシャップ (36)
【Fターム(参考)】