説明

デフ装置

【課題】摺動部が少ない小型のデフ装置を提供する。
【解決手段】両端が開口したデフケース20と、デフケース20内に固定されたピニオンシャフト31と、ピニオンシャフト31を回転中心として回転自在であるピニオンギヤ32と、ドライブシャフト401と一体で回転するサイドギヤ40と、第1軸受50と、を備え、サイドギヤ40は、ピニオンギヤ32に噛合するギヤ部41と、ギヤ部41から軸方向外側に延びるボス部42とを有し、第1軸受50は、ボス部42に外接すると共に、デフケース20に内接している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、四輪車、三輪車等の車両のデフ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
後輪駆動又は四輪駆動の四輪車において、変速装置からの動力は、車幅方向中央で前後方向に延びる推進軸(プロペラシャフト)を介して、左右の後輪の中央に設けられた終減速装置に伝達される。詳細には、推進軸の動力は、ドライブピニオンギヤを介して、ハイポイドギヤからなるリングギヤ(デフリングギヤ)に90°偏向かつ減速されつつ伝達され、リングギヤと一体であるデフケースに伝達される。
【0003】
また、四輪車がカーブを走行した場合、内輪と外輪との回転数に差が生じるため、終減速装置内にデフ装置(差動装置)を設けることで解決している。
【0004】
図6に示すように、デフ装置500は、リングギヤ601が固定された鋳造製又は鍛造製のデフケース501内に、噛合した状態のピニオンギヤ502及びサイドギヤ503を収容している。ピニオンギヤ502は、デフケース501に固定されたピニオンシャフト504に回転自在で保持されている。サイドギヤ503には、ドライブシャフト602がスプライン結合している。
【0005】
そして、四輪車がカーブを走行すると、左右のサイドギヤ503が差動回転し、サイドギヤ503がピニオンギヤ502と噛合しながらデフケース501に対して相対回転する。よって、サイドギヤ503及びピニオンギヤ502の噛合部と、サイドギヤ503及びデフケース501の摺動部(摺動面)とに、潤滑油を供給して、サイドギヤ503やデフケース501の磨耗の防止が必要となる。なお、サイドギヤ503とデフケース501との間には、スラストワッシャ505(スラスト軸受)が設けられている。
【0006】
また、デフケース501の両端側にそれぞれ形成された円筒状のボス部506には、ドライブシャフト602の一端部が極小隙間を形成しつつ挿通されている。そして、四輪車がカーブを走行すると、ボス部506とドライブシャフト602とが相対回転するので、この極小隙間、つまり、ボス部506とドライブシャフト602との摺動部に潤滑油を供給し、ボス部506やドライブシャフト602の磨耗の防止が必要となる。
【0007】
ところで、近年、燃費向上の要求が高まっており、終減速装置における一解決方法としては、ハウジング603(キャリア)内における潤滑油を少なくし、つまり、ハウジング603内における潤滑油溜まりの油面を下げ、リングギヤ601による潤滑油の撹拌抵抗を低減する方法がある。しかしながら、単に潤滑油を少なくすると、前記した摺動部(潤滑油必要箇所)に潤滑油が十分に供給されない虞がある。
【0008】
そこで、回転するリングギヤ601で掻き上げられた後、ハウジング603の内壁面を流れ落ちる潤滑油を捕集し、鋳抜き溝を介して、前記した潤滑油必要箇所に供給する構成がある。
この場合において、潤滑油を効率的に捕集する方法として、ハウジング603内の上方に、ハウジング603と一体成形した又は別部品で構成した箱状を呈する潤滑油の貯溜部を設け、この貯溜部で掻き上げられた潤滑油や流れ落ちる潤滑油を捕集した後、前記した潤滑油必要箇所に潤滑油を自然落下させ供給する技術が提案されている(特許文献1参照)。
【0009】
また、ハウジング603内に、断面U字状でガーターと称される樋部材を設け、この樋部材で潤滑油の飛沫を捕集し、そして、前記した潤滑油必要箇所に潤滑油を供給する技術が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−30743号公報
【特許文献2】特許第3719582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1、2では、ハウジング603内において回転するデフケース501(回転体)の上方に貯溜部や樋部材を設ける構成であるので、貯溜部等の取付用の空間が必要となり、ハウジング603が大型化してしまう。
【0012】
そこで、本発明は、摺動部が少ない小型のデフ装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するための手段として、本発明は、両端が開口したデフケースと、前記デフケース内に固定されたピニオンシャフトと、前記ピニオンシャフトを回転中心として回転自在であるピニオンギヤと、ドライブシャフトと一体で回転するサイドギヤと、第1軸受と、を備え、前記サイドギヤは、前記ピニオンギヤに噛合するギヤ部と、前記ギヤ部から軸方向外側に延びるボス部とを有し、前記第1軸受は、前記ボス部に外接すると共に、前記デフケースに内接していることを特徴とするデフ装置である。
【0014】
このような構成によれば、第1軸受がボス部に外接すると共にデフケースに内接しているので、第1軸受によってボス部(サイドギヤ)とデフケースとは相対回転自在となっている。すなわち、ボス部(サイドギヤ)とデフケースとは直接に接触しておらず、ボス部とデフケースとが直接に接触することで構成される摺動部はない。
【0015】
このようにして、デフ装置は、ボス部(サイドギヤ)とデフケースとの摺動部を備えない構成であるので、潤滑油必要箇所が少ない。これにより、デフケース内に取り込まれる潤滑油を少なくできる。また、ボス部(サイドギヤ)とデフケースとが摺動しないので、これらが摺動によって焼き付かず磨耗することもない。
【0016】
また、潤滑油を貯溜する貯溜部や潤滑油を案内する樋部材を備えない構成であるので、デフケースを収容するハウジングを小型化できる。これにより、デフ装置も小型化でき、軽量となる。
【0017】
また、前記デフ装置において、前記デフケースを収容するハウジングと、第2軸受と、を備え、前記ボス部は前記デフケースの開口よりも軸方向外側に突出しており、前記第1軸受は、前記デフケースの開口よりも軸方向内側の前記ボス部に外接し、前記第2軸受は、前記デフケースの開口よりも軸方向外側の前記ボス部に外接すると共に、前記ハウジングに内接していることが好ましい。
【0018】
このような構成によれば、第2軸受がデフケースの開口よりも軸方向外側のボス部に外接すると共にハウジングに内接しているので、ボス部(サイドギヤ)は第2軸受を介してハウジングに回転自在で支持されている。すなわち、ボス部(サイドギヤ)とハウジングとは直接に接触しておらず、ボス部とハウジングとが直接に接触することで構成される摺動部はない。
【0019】
このようにして、デフ装置は、ボス部(サイドギヤ)とハウジングとの摺動部を備えない構成であるので、滑油必要箇所が少ない。これにより、潤滑油の供給構造を簡略化できる。また、ボス部(サイドギヤ)とハウジングとが摺動しないので、これらが摺動によって焼き付かず磨耗することもない。
【0020】
また、前記デフ装置において、前記ボス部は、軸方向内側から軸方向外側に向かって、大ボス部と、前記大ボス部よりも小径の小ボス部と、を備え、前記第1軸受の第1内輪は、前記大ボス部に外接すると共に、前記ギヤ部の軸方向外側端面に当接し、前記第2軸受の第2内輪は、前記小ボス部に外接すると共に、前記大ボス部の軸方向外側端面に当接していることが好ましい。
【0021】
このような構成によれば、第1軸受の第1内輪が大ボス部に外接すると共にギヤ部の軸方向外側端面に当接しているので、第1内輪とギヤ部との間におけるスラストワッシャが不要となる。
また、第2軸受の第2内輪が小ボス部に外接すると共に大ボス部の軸方向外側端面に当接しているので、第2内輪と大ボス部との間におけるスラストワッシャが不要となる。
【0022】
また、前記デフ装置において、軸方向において前記第1内輪と前記第2内輪とを所定間隔で保持するスペーサを備えることが好ましい。
【0023】
このような構成によれば、スペーサによって、第1内輪と第2内輪とを所定間隔で保持できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、摺動部が少ない小型のデフ装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本実施形態に係る終減速装置を模式的に示した構成図である。
【図2】本実施形態に係る終減速装置を車幅方向から見て入力軸と出力軸の位置関係を示す概略説明図である。
【図3】図2に示す本実施形態に係る終減速装置のA−A線断面図である。
【図4】図3に示す本実施形態に係る終減速装置の要部の拡大図である。
【図5】図2に示す本実施形態に係る終減速装置のB−B線断面図である。
【図6】従来に係るデフ装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の一実施形態について、図1〜図5を参照して説明する。
【0027】
≪終減速装置の構成≫
図1、図3に示すように、本実施形態に係る終減速装置1は、車両に搭載され、電動式のモータ301の動力を減速する減速装置100と、左右のドライブシャフト401、401(図示しない左右の駆動輪)を差動回転させるデフ装置10(差動装置)と、減速装置100及びデフ装置10を収容するハウジング200と、を備えている。
【0028】
すなわち、ここでは、動力源が電動式のモータ301である構成を例示するが、その他に例えば、内燃機関(レシプロエンジン等)、油圧式のモータでもよい。そして、動力源と減速装置100との間に動力を変速する変速装置が介在する構成でもよい。また、動力源の出力軸とドライブシャフト401とが平行でなく、前後方向に延びる推進軸の動力がドライブピニオン及びリングギヤを介して90°偏向されて伝達する構成でもよい。さらに、車両の種類は、例えば、四輪車、三輪車であり、駆動輪は前輪、後輪のどちらでもよい。
【0029】
≪減速装置≫
減速装置100は、モータ301の出力軸302に連結した入力軸101と、入力軸101に固定されたインプットギヤ102と、インプットギヤ102に噛合したアイドラドリブンギヤ103と、アイドラドリブンギヤ103と一体に回転する中間軸104と、中間軸104に固定されたアイドラドライブギヤ105と、アイドラドライブギヤ105と噛合し後記するデフケース20と一体であるリングギヤ106(デフリングギヤ)と、を備えている。
【0030】
そして、モータ301の動力は、インプットギヤ102とアイドラドリブンギヤ103とのギヤ比、アイドラドライブギヤ105とリングギヤ106とのギヤ比、に従って減速され、デフケース20に入力されるようになっている。
なお、インプットギヤ102、アイドラドリブンギヤ103、アイドラドライブギヤ105及びリングギヤ106は、図2に示すように、車幅方向から見て、ハウジング200内において、略水平に並んでいる。
【0031】
≪デフ装置≫
図4、図5に示すように、デフ装置10は、リングギヤ106と一体成形されたデフケース20と、ピニオンシャフト31と、2つのピニオンギヤ32と、2つのサイドギヤ40と、2つの第1軸受50、50と、2つの第2軸受60、60と、を備えている。なお、デフ装置10は、車幅方向において、ピニオンシャフト31を中心として対称構造である。また、ピニオンギヤ32の数は3つ以上でもよく、そして、軸方向視におけるピニオンシャフト31の形状はピニオンギヤ32の数に対応して十字形等に変更される。
【0032】
<デフケース>
デフケース20は、車幅方向(左右方向、軸方向)に延びる略円筒状を呈しており、その両端は開口している。そして、デフケース20は、車幅軸方向を回転軸Oとして、ハウジング200に回転自在で収容されている。
【0033】
デフケース20の右端部から径方向外向きで延出するように、リングギヤ106が設けられている。デフケース20とリングギヤ106とは一体鋳造品であり、部品点数の削減が図られている。ただし、デフケース20とリングギヤ106とが別部品であって、リングギヤ106がデフケース20にボルトで締結された構成でもよい。
【0034】
鋳鉄としては、例えば、熱処理により疲労強度を向上させた球状黒鉛鋳鉄が使用される。球状黒鉛鋳鉄の熱処理手法としては、例えば特公昭61−19698号公報、特許第3723706号等に記載されたものを利用できる。
【0035】
略円筒状を呈するデフケース20の中空部は、ピニオンギヤ32及びサイドギヤ40を収容するギヤ収容室21として機能している。
【0036】
デフケース20には、その一径方向(図4では上下方向)において回転軸Oを中心とした一対のピニオンシャフト孔22、22が形成されている。そして、一対のピニオンシャフト孔22、22に、ピニオンシャフト31が嵌入されている。なお、ピニオンシャフト31は、車幅方向で挿入されたピン(図示しない)によってデフケース20に固定されており、デフケース20から脱落しないようになっている。
【0037】
また、デフケース20には、周方向に所定間隔で排出孔23(窓とも称される)が形成されている(図5参照)。そして、ギヤ収容室21の潤滑油が排出孔23を通ってデフケース20外に排出され、ギヤ収容室21における潤滑油が適量となるように設計されている。
【0038】
<ピニオンギヤ>
各ピニオンギヤ32の貫通孔にはピニオンシャフト31が挿通されている。そして、各ピニオンギヤ32は、ピニオンシャフト31を回転中心として回転自在に取り付けられている。
【0039】
<サイドギヤ>
各サイドギヤ40は、ピニオンシャフト31の左側又は右側のそれぞれにおいて、回転軸Oを中心として回転自在に配置されると共に、2つのピニオンギヤ32、32と噛合している。詳細には、各サイドギヤ40は、デフケース20の開口よりも軸方向内側において第1軸受50を介してデフケース20に相対回転自在に取り付けられており、デフケース20の開口よりも軸方向外側において第2軸受60を介してハウジング200に回転自在に取り付けられている。
【0040】
ここで、「軸方向内側」とは、車幅方向(左右方向)において、ピニオンシャフト31側(中心側)を意味する。これに対して、「軸方向外側」とは、車幅方向において、ピニオンシャフト31から遠ざかる側(背面側)を意味する。
【0041】
サイドギヤ40は、外形が円錐台状を呈し外周面にピニオンギヤ32と噛合するギヤ歯が形成されたギヤ部41と、ギヤ部41の背面から軸方向外側に延出すると共にデフケース20の開口から幅方向外側に突出した円筒状のボス部42と、を備えている。
【0042】
このようなサイドギヤ40は、回転軸O線上に、中空部43を備えている。中空部43にはドライブシャフト401の軸方向内側端部が差し込まれ、サイドギヤ40とドライブシャフト401とはスプライン結合している。これにより、サイドギヤ40とドライブシャフト401とは一体で回転するようになっている。
【0043】
また、サイドギヤ40とドライブシャフト401との間に形成される極小隙間は、油路空間205からギヤ収容室21(デフケース20内)に向かう潤滑油の供給路として機能している。
【0044】
<サイドギヤ−ボス部>
ボス部42は、段違いの外周面を有しており、中心側から軸方向外側に向かって、その外径が大径の大円筒部44(大ボス部)と、その外径が大円筒部44よりも小径の小円筒部45(小ボス部)と、を備えている。そして、大円筒部44はデフケース20の開口よりも軸方向内側(中心側)、つまり、デフケース20内に配置されており、小円筒部45はデフケース20の開口よりも軸方向外側、つまり、前記開口から突出している。
【0045】
<第1軸受、第2軸受>
第1軸受50、第2軸受60は、例えば、ボールベアリング、テーパーローラーベアリングで構成される。そして、第1軸受50、第2軸受60は、軸方向において、中心側から軸方向外側に向かって、第1軸受50、第2軸受60、の順で並んでいる。
【0046】
第1軸受50は、サイドギヤ40の大円筒部44とデフケース20との間に配置されており、サイドギヤ40とデフケース20とを相対回転自在にしている。第2軸受60は、サイドギヤ40の小円筒部45とハウジング200との間に配置されており、ハウジング200に対して回転自在となるようにサイドギヤ40を支持している。
【0047】
さらに具体的に説明する。
第1軸受50は、大円筒部44の外周面に外接すると共に、デフケース20の内周面に内接している。言い換えると、第1軸受50の第1内輪51は大円筒部44に外嵌しており、第1軸受50の第1外輪52はデフケース20に内嵌している。
【0048】
なお、大円筒部44は、第1軸受50の第1内輪51のみに接触しており、第1外輪52に接触していない。また、デフケース20は、第1軸受50の第1外輪52のみに接触しており、第1内輪51に接触していない。これにより、第1内輪51と第1外輪52とは、相対回転自在となっている。
【0049】
第2軸受60は、小円筒部45の外周面に外接すると共に、ハウジング200の内周面に内接している。言い換えると、第2軸受60の第2内輪61は小円筒部45に外嵌しており、第2軸受60の第2外輪62はハウジング200に内嵌している。
【0050】
なお、小円筒部45は、第2軸受60の第2内輪61のみに接触しており、第2外輪62に接触していない。また、ハウジング200は、第2軸受60の第2外輪62のみに接触しており、第2内輪61に接触していない。これにより、第2内輪61と第2外輪62とは、相対回転自在となっている。
【0051】
第2軸受60は、軸方向において、ハウジング200の径方向内向きに延出すると共に軸方向視でリング状の延出部211と、大円筒部44とで挟まれている。これにより、第2軸受60は軸方向において規制されている。そして、大円筒部44(サイドギヤ40)の軸方向外向きのスラスト荷重が、第2軸受60の第2外輪62に作用するようになっている。
【0052】
また、軸方向において、第2内輪61のみが大円筒部44の軸方向外側端面に当接している。これにより、第2内輪61と大円筒部44との間においてスラスト軸受が不要となっている。
【0053】
軸方向において、第1軸受50と第2軸受60との間には、リング状のスペーサ71が配置されている。これにより、第1軸受50と第2軸受60との間隔は、スペーサ71の厚さ(軸方向長さ)で保持されるようになっている。ただし、スペーサ71はリング状に限定されず、その他の形状に適宜変更してよい。
【0054】
第1軸受50は、軸方向において、スペーサ71と、サイドギヤ40のギヤ部41及びデフケース20の段差部24とで挟まれている。これにより、第1軸受50は軸方向において規制されている。そして、ギヤ部41(サイドギヤ40)の軸方向外向きのスラスト荷重が、第1軸受50、スペーサ71、第2軸受60を順に介して、ハウジング200に作用するようになっている。
【0055】
また、軸方向において、第1内輪51のみがギヤ部41のリング状を呈する軸方向外側端面(背面)に当接している。これにより、第1内輪51とギヤ部41との間においてスラスト軸受が不要となっている。
【0056】
≪ハウジング≫
ハウジング200は、図3に示すように、モータ301、減速装置100及びデフ装置10を収容するケースであると共に、その底部で潤滑油を貯溜する機能を備えている。ハウジング200は、本実施形態では、軸方向両側が開口したハウジング本体201と、ハウジング本体201の左側開口に蓋をする左蓋202と、ハウジング本体201の右側開口に蓋をする右蓋203と、を備えている。
【0057】
ハウジング200に形成されたドライブシャフト挿通孔204とドライブシャフト401との間には、オイルシール221(シール部材)が介設されている。
【0058】
軸方向において、オイルシール221と第2軸受60との間には、ドライブシャフト挿通孔204よりも大径の空間である油路空間205が形成されている。そして、ハウジング200の内壁面を伝って落ちる潤滑油の一部は、第2軸受60に外嵌するハウジング200の部分に軸方向で形成された溝(図示しない)を通じて油路空間205に案内され、オイルシール221を潤滑したり、ドライブシャフト401とサイドギヤ40との隙間を通って、ギヤ収容室21(デフケース20内)に供給されたりするようになっている。なお、ギヤ収容室21に供給された潤滑油は、ピニオンギヤ32とサイドギヤ40との噛合部を潤滑するようになっている。
【0059】
≪終減速装置の動作・効果≫
次に、終減速装置1の動作・効果を説明する。
モータ301の動力が、減速装置100で減速後、デフ装置10に入力され、リングギヤ106及びデフケース20が回転すると、ピニオンシャフト31、サイドギヤ40、ドライブシャフト401及び駆動輪(図示しない)が回転する。そして、車両がカーブを走行した場合、左右のサイドギヤ40、40が異なる回転数で回転し、デフ装置10が左右の駆動輪の回転数の差を吸収する。
【0060】
また、リングギヤ106が回転すると、ハウジング200内の潤滑油溜まりの潤滑油が掻き上げられ、掻き上げられた潤滑油はハウジング200の内壁面を伝って流れ落ち、潤滑油溜まりに戻る。潤滑油の一部は、第1軸受50、第2軸受60を潤滑し、第2軸受60に外嵌するハウジング200の部分に軸方向で形成された溝(図示しない)を通って、油路空間205に流れ込み、オイルシール221を潤滑する。
【0061】
さらに、潤滑油の一部は、油路空間205からドライブシャフト401とサイドギヤ40との隙間を通ってギヤ収容室21に供給され、ピニオンギヤ32とサイドギヤ40との噛合部や、ピニオンギヤ32及びサイドギヤ40の摺動部を潤滑する。その後、潤滑油は、排出孔23を通ってデフケース20外に流出し、ハウジング200内の潤滑油溜まりに戻る。
【0062】
また、サイドギヤ40が、第1軸受50を介してデフケース20と相対回転自在であり、第2軸受60を介してハウジング200に回転自在に支持されているので、つまり、サイドギヤ40とデフケース20とが摺動せず、そして、デフケース20とドライブシャフト401とが摺動しない構成であるので、サイドギヤ40及びデフケース20の間と、デフケース20及びドライブシャフト401の間とにおける磨耗(焼き付き)は抑制され、これらを潤滑するための潤滑油が不要となり、デフケース20内に供給される潤滑油の量を少なくできる。これにより、図6に示すように、一般に、デフケース501のボス部506の内周面に形成されデフケース501内への潤滑油の供給用の螺旋溝が不要となり、デフケースの形状が簡略化される。
【0063】
また、サイドギヤ40の軸方向外向きのスラスト荷重が、第1軸受50の第1外輪52と、第2軸受60の第2外輪62とに作用する構成であるので、つまり、サイドギヤ40とデフケース20とが摺動せず、サイドギヤ40の軸方向外向きのスラスト荷重がデフケース20に作用しない構成であるので、デフケース20とサイドギヤ40との間における磨耗(焼き付き)は抑制される。これにより、一般に、サイドギヤ40とデフケース20との間に設けられるスラストワッシャ505(スラスト軸受、図6参照)が不要となる。したがって、前記スラスト軸受に潤滑油を供給するための油溝も不要となる。
【0064】
また、径方向において、ボス部42(大円筒部44、小円筒部45)と、デフケース20又はハウジング200との間に、第1軸受50、第2軸受60が設けられ、ボス部42とデフケース20との隙間が大きく、ボス部42とデフケース20とが摺動しない構成であるので、ボス部42とデフケース20との相対回転による磨耗(焼き付き)を抑制できる。
【0065】
すなわち、径方向においてドライブシャフト401とデフケース20との間には、ドライブシャフト401及びボス部42の隙間と、第1軸受50とが介在することなり、図6に示す従来におけるドライブシャフト602とデフケース501との隙間(距離)よりも大きくなる。そして、ドライブシャフト401及びボス部42の隙間と、第1軸受50とは、軸方向における潤滑油の通流路としても機能するから、軸方向における潤滑油の流量が増加し、デフ装置10全体が良好に潤滑され易くなる。
【0066】
また、潤滑油を一時的に貯溜する貯溜部や、潤滑油を案内する樋部材を備えない構成であるので、デフ装置10を小型化かつ軽量化できる。
さらに、デフケース20は、軸方向に開放されて内部が閉塞した形状ではないため、リングギヤ106と一体の状態で鍛造や鋳造で成形することが容易となり、製造コストを低減できる。
【0067】
≪変形例≫
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されず、例えば、次のように変更してもよい。
【0068】
前記した実施形態では、ボス部42の外周面が段違いである構成を例示したが、その他に例えば、外周面が段違いでない構成でもよい。
【0069】
前記した実施形態では、図4、図5に示すように、第2軸受60が小円筒部45とハウジング200との間に配置された構成を例示したが、その他に例えば、第2軸受60が、第1軸受50と同一の輪切り断面上において、デフケース20とハウジング200との間に配置された構成でもよい。そして、このような構成の場合、サイドギヤ40が小円筒部45を備えない構成、つまり、サイドギヤ40のボス部42がデフケース20の開口から軸方向外側に突出しない構成でもよい。
【符号の説明】
【0070】
1 終減速装置
10 デフ装置
20 デフケース
31 ピニオンシャフト
32 ピニオンギヤ
40 サイドギヤ
41 ギヤ部
42 ボス部
44 大円筒部(大ボス部)
45 小円筒部(小ボス部)
50 第1軸受
51 第1内輪
60 第2軸受
61 第2内輪
71 スペーサ
200 ハウジング
401 ドライブシャフト
O 回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端が開口したデフケースと、
前記デフケース内に固定されたピニオンシャフトと、
前記ピニオンシャフトを回転中心として回転自在であるピニオンギヤと、
ドライブシャフトと一体で回転するサイドギヤと、
第1軸受と、
を備え、
前記サイドギヤは、前記ピニオンギヤに噛合するギヤ部と、前記ギヤ部から軸方向外側に延びるボス部とを有し、
前記第1軸受は、前記ボス部に外接すると共に、前記デフケースに内接している
ことを特徴とするデフ装置。
【請求項2】
前記デフケースを収容するハウジングと、
第2軸受と、
を備え、
前記ボス部は前記デフケースの開口よりも軸方向外側に突出しており、
前記第1軸受は、前記デフケースの開口よりも軸方向内側の前記ボス部に外接し、
前記第2軸受は、前記デフケースの開口よりも軸方向外側の前記ボス部に外接すると共に、前記ハウジングに内接している
ことを特徴とする請求項1に記載のデフ装置。
【請求項3】
前記ボス部は、軸方向内側から軸方向外側に向かって、大ボス部と、前記大ボス部よりも小径の小ボス部と、を備え、
前記第1軸受の第1内輪は、前記大ボス部に外接すると共に、前記ギヤ部の軸方向外側端面に当接し、
前記第2軸受の第2内輪は、前記小ボス部に外接すると共に、前記大ボス部の軸方向外側端面に当接している
ことを特徴とする請求項2に記載のデフ装置。
【請求項4】
軸方向において前記第1内輪と前記第2内輪とを所定間隔で保持するスペーサを備える
ことを特徴とする請求項3に記載のデフ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−87888(P2013−87888A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229935(P2011−229935)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000146010)株式会社ショーワ (715)
【Fターム(参考)】