説明

デプスフィルタシート材及びその製造方法

【課題】改善された濾過性能を有するデプスフィルタシート材製造方法の提供。
【解決手段】繊維状材料と結合剤とを含む流動性水性パルプ組成物を調製するステップと、流動性水性パルプ組成物を透水性支持体30上に単位面積当たり所定量ずつ吐出するステップと、透水性支持体30,38を通して水性パルプ組成物の水分を少なくとも部分的に排水させるステップと、少なくとも部分的に排水されたパルプ組成物に昇温での乾燥工程36を受けさせて、シート原材の上面及び下面をそれぞれ形成する第1及び第2表面部分並びに中間に位置し第1及び第2表面部分と一体的に形成された中間部分を備え、中間部分の透過率が第1及び第2表面部分より大きい、デプスフィルタシート原材40、50を形成するステップと、シート原材の第1又は第2表面部分の一方の少なくとも一部分を除去又は転置させるために、シート原材に処理を受けさせるステップとを備える方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維パルプを使用する湿式堆積(wet-laying:一般的には「湿式」とのみいう)プロセスに由来するデプスフィルタシート材、特に可撓性及び/又は自己支持性のシート材を製造するための方法、並びにかかる方法によって得られるデプスフィルタシート材に関する。
【背景技術】
【0002】
パルプに由来する湿式堆積フィルタシート材は、種々のサイズを非常に信頼できる品質で容易に大量生産することができる。さらに、これらのシート材は多数の濾過用途のニーズに容易に適応させることができる。加えて、それらは、さらに食品及び医薬品の領域で使用するのにも適する、環境に優しい材料から製造することができる。
【0003】
かかる湿式堆積フィルタシート材を作成するための典型的な方法は、例えばDD276427A1及びDE19956665A1に開示されている。
【0004】
このようなタイプのフィルタシート材は、飲料、食用油、医薬品のみならず、化学工業の原料、中間生成物、及び最終製品、鉱物油及び油圧作動油、血清、抗生物質、発酵ブロス、化粧品を含め、それらに限らず、種々の濾過用途に幅広く使用される。
【0005】
かかるフィルタシート材の濾過性能の重要な側面として、例えばそれらの粒子保持量及びそれらが被濾過流体に対して示す流体流通抵抗がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、改善された濾過性能を有する上述したデプスフィルタシート材を製造するための方法を提供することである。
【0007】
本発明のより具体的な目的は、粒子保持量を増大したデプスフィルタシート材を製造するための方法を提供することである。
【0008】
本発明の別のより具体的な目的は、被濾過流体に対する流体流通抵抗の低いデプスフィルタシート材を製造するための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は、請求項1に記載の方法によって達成される。
【0010】
湿式堆積プロセスで製造されたデプスフィルタシート材は、1つのパルプ材から単一のプロセスで作成されているのにも拘わらず、常に不均質な断面構造を有することに本発明の発明者らは気付いた。
【0011】
この構造は第1及び第2表面部分のみならず中間部分をも含み、それらは透過率が異なる。
【0012】
湿式堆積フィルタ材の製造プロセスでは、流体パルプ材は、任意選択的に有機性又は無機性の添加物、例えば充填材及び/又は活性成分を含む、例えばセルロース繊維及び結合剤の水性懸濁液として提供され、脱水工程で水分の大部分の排水を可能にする、透水性支持体、例えばエンドレスベルト上に吐出される。続いて、脱水されたが依然として湿ったシート材は、それを最終的に乾燥させるために熱処理を受ける。熱処理中に、さらに結合剤が活性化され、シート材の繊維間の結合が形成される。
【0013】
湿式堆積製造手順の脱水及びその後の乾燥工程のため、支持体に当接する下方のより密な部分が形成され、反対側の頂面にはより密な部分が形成される。脱水中に、重力及び/又は吸引力によって推進される流体の流通により、懸濁液の水分の大部分は支持体を通して除去される。このタイプの流体の流通は運搬又はマイグレーション効果を必然的に伴い、その結果、繊維状組成物の透過率が低下し、無機添加物が存在する場合には、フィルタシート材全体の灰分含有量と比較して、以下で底面部と呼ぶ支持体に当接する部分の灰分含有量が高くなる。
【0014】
表面張力効果は、繊維を含めより小さい粒子を流体表面すなわちパルプ表面に保持する傾向がある。それにより、頂面部に構造が形成され、それは透過率の低下をも示し、無機添加物、例えば充填材又は活性成分が存在する場合には、フィルタシート材全体と比較して灰分含有量も高くなる。
【0015】
加えて、懸濁液の水分の一部は頂面から蒸発し、それは支持体を通して下向きに流通する水分とは反対方向の搬送又はマイグレーション効果を含むことがある。
【0016】
2つの表面部分の間の部分では、繊維塊が異なる透過率を有する。そのような部分を以下では中間部分と呼ぶ。中間部分で観察される透過率は、頂面部及び底面部より多少大きく、無機添加物が存在する場合、灰分含有量はより低レベルになる。
【0017】
さらに、2つの表面部分も通常相互に異なり、頂面部は底面部より大きい透過率を有する。
【0018】
かかる現象は、湿式堆積フィルタシート材をフィルタモジュールに2つの異なる向きに配置することによって、容易に実証することができる。頂面及び底面がそれぞれ上流部として使用されると、異なる濾過挙動が観察される。
【0019】
本発明の発明者らは、表面部分の一方を部分的に又は完全に除去し、被濾過流体の中間部分への通過障害を少なくすると、濾過性能の実質的な増加がもたらされることに気付いた。驚いたことに、一方の表面部分をフィルタの上流側としたときに、劇的に増大する粒子保持量が観察され、結果的に全体的なスループットが増大する。
【0020】
加えて、又は代替的に、従来のフィルタシート材と比較して、流体流通抵抗を増大することなく、より密なフィルタシート材を使用することができる。それによって、分離の明確さが改善された濾過プロセスを達成することができる。
【0021】
さらに、本発明のフィルタ材を利用する濾過プロセスでは、濾過性能に悪影響を及ぼすことなく、圧力差を低減することができる。
【0022】
デプスフィルタ材ではデプスフィルタ塊の部分的除去は通常濾過能力を低下させるので、特に濾過能力に対する効果は目覚しい。たとえ中間部分の本体が実質的に悪影響を受けないように慎重かつ選択的に1つの表面部分が完全に除去されても、全く予想外に、濾過能力すなわち粒子保持量の増大を獲得することができる。
【0023】
したがって、本発明の第1態様では、デプスフィルタシート材は、それが一体的に形成された第1及び第2部分から実質的に構成されるように、湿式堆積繊維塊から製造され、上記第1部分は第2部分の厚さより大きい厚さを有し、上記第1部分は第2部分の透過率より高い透過率を有する。第1部分は実質的に、湿式堆積プロセスで得られた中間部分に相応する。第2部分は頂面部又は底面部に相応する。表面部分のそれぞれの反対側は完全に除去される。
【0024】
本発明の第2態様では、デプスフィルタシート材は、湿式堆積された繊維塊から製造され、第1及び第2表面部分、並びにその間に位置しかつ第1及び第2部分と一体的に形成された中間部分を含む。すなわち、湿式堆積プロセスから得られるフィルタシート材の不均質断面構造は実質的に保持される。上記第1表面部分は、濾過プロセスにおいてシート材の上流側表面を構成し、シート材の上流側表面から中間部分に向かって第1表面部分内に延びる複数のアパーチャーを含む。アパーチャーは、上流側表面から中間部分へのより直接的かつ障害の少ない流体通路をもたらす。
【0025】
上記第2表面部分は下流側表面を画成し、上記中間部分は第1及び第2表面部分の透過率より高い透過率を有し、粒子保持量の主要部になる。
【0026】
本発明の第2態様の実施形態では、アパーチャーは好ましくは第1表面部分を横断し、中間部分の本体内に続く。
【0027】
粒子保持量の増加及び流体流通抵抗の低減に対する効果が、底面部にアパーチャーを含む場合と比較してより顕著であることから、第1表面部分は頂面部に相応することが好ましい。
【0028】
フィルタシート材の透過率は一般的に、1998年にMEBAK,85350 Freising‐Weihenstephan,Germany,Editor:Dr.Heinrich Pfenningerによって発行された「Brautechnische Analysenmethoden」,Vol.IV、pages 1〜2に記載された方法によって決定される。
【0029】
本発明の方法で使用される水性パルプ組成物は、セルロース由来の繊維及び/又は合成ポリマ繊維から選択することが好ましい繊維状材料を含む。合成ポリマ繊維はポリプロピレン繊維及びポリエチレン繊維から選択することが好ましい。
【0030】
結合剤は一般的に、例えばエピクロルヒドリン樹脂及び/又はメラミンホルムアルデヒド樹脂から選択される。
【0031】
任意選択的に、パルプ組成物はさらに1つ以上の活性成分及び/又は充填材を含むことができる。
【0032】
活性成分の例として、濾過助剤、イオン交換体、及び活性炭素がある。濾過助剤は一般的に珪藻土、パーライト、及び微結晶セルロースから選択される。
【0033】
本発明の第1態様に係るシート材の表面部分の一方の除去は、種々の方法で実施することができる。
【0034】
本発明の一実施形態では、表面部分の一方は研磨によって除去される。別の実施形態では、一方の表面部分を除去するためにピーリング又はスケーリングによる剥離が使用される。また、一方の表面部分を除去するためにエッチング工程を使用することもできる。他方の維持される表面部分は頂面側又は底面側表面部分に相応する。
【0035】
表面部分の一方の完全の除去と同等なものとして、ニードリング手順で頂面部を処理して完全に重なり合うアパーチャーを一方の表面部分に形成するプロセスがある。それによって、一方の表面部分の繊維状構造はほぼ完全にばらばらに分解され、もはやフィルタシートの上流側に被濾過流体のための目立つ障壁は無くなる。本発明の観点では、表面部分は除去されているとも言える。そのようなフィルタシート材に対して測定された透過率は実質的に、表面部分が完全に研磨又は他の方法で剥落されたフィルタシート材に対して測定された透過率と一致する。
【0036】
前記ニードリング手順では、処理される表面部分の構成成分は必ずしもフィルタシート材から除去されない。以前に表面部分を構成していたそのかなりの部分は依然としてフィルタシート材の一部であり続け、単に転置又は変位しただけである。驚いたことに、これは、粒子保持量の増加及び流体流通抵抗の低下に対する本発明の効果を獲得するのに充分である。
【0037】
本発明の効果が底面部の場合より顕著であることから、除去される一方の表面部分は頂面部であることが好ましい。
【0038】
シート材が実質的に2つの部分だけから構成される本発明の第1態様に係るデプスフィルタシート材では、第1部分は好ましくは第2部分の厚さの約2倍以上、より好ましくは約5倍以上、さらにいっそう好ましくは約10倍以上になる厚さを有する。濾過手順において、フィルタシート材は第1部分が上流側表面を構成するように配置される。
【0039】
より低い透過率を有する第2部分の厚さは、濾過能力すなわち粒子保持量に寄与する必要が無いので重要性は低い。第2部分の厚さは、第1部分に最大限の厚さを提供するために、可能な限り小さくすることが好ましい。
【0040】
したがって、シート材の体積の最大部分は、粒子保持能力を提供するために利用可能である。
【0041】
本発明の第1態様とは対照的に、第2態様に係るデプスフィルタ材は一般的に、シート材の一方の表面部分を完全に湿式堆積プロセスによって設けられた通りに維持し、かつ他方の表面部分を部分的に同様に維持する。
【0042】
上述の通り、上流側表面を表わす一方の表面部分に設けられたアパーチャーは、中間部分に対して改善されたより直接的かつ障害の少ない通過を提供する。
【0043】
中間部分はその構造が、本発明の第1態様に係るデプスフィルタシート材の第1部分に相応する。
【0044】
中間部分の濾過能力を最大限に活用するために、アパーチャーはシート材の上流側表面に規則的パターン状に分散される。
【0045】
アパーチャーが上流側表面部分を部分的に研磨することによって設けられる場合、上流側表面部分が湿式堆積フィルタシート材の頂面部に相応するときは、多少不規則なパターン状のアパーチャーが形成される。これは、頂面部の不規則な表面位相によって引き起こされる。それにもかかわらず、このような実施形態でも、濾過能力の実質的な増加及びフィルタシート全体の圧力降下の低減が確実に得られる。
【0046】
アパーチャーが占める上流側表面部分の表面積が合計して表面全体の約5%のパーセンテージに達するときに、顕著な効果が観察される。アパーチャーは、第1表面部分を形成する材料を除去及び/又は転置することによって形成される。
【0047】
複数のアパーチャーが占める上流側の表面積の割合が総面積の約10%以上になるシート材がさらに好ましい。
【0048】
本発明の第1態様の上記説明から、アパーチャー表面積を約100%まで増大することができることは容易に理解されるであろう。
【0049】
他方、複数のアパーチャーが占める上流側表面積の割合は、粒子保持量及び圧力降下にあまり悪影響を及ぼすことなく、約80%以下に制限することができる。
【0050】
本発明のシート材のアパーチャーのサイズは、ある種の濾過効果を回避しかつ被濾過流体の中間部分への容易な通過を可能にするように充分大きくする必要があり、したがって被濾過流体に含まれる特定の粒状物質に従って選択することができる。
【0051】
したがって1アパーチャーが占める平均面積は、約1μm以上に相応することが好ましい。約1μm以上程度の小さいアパーチャーは、フィルタシート材のレーザ処理によって容易に得られる。
【0052】
アパーチャーが機械的に例えばニードリングによって作成される場合、約5μm以上のアパーチャーが好ましい。
【0053】
特定サイズを超えるアパーチャーでは、さらに単位面積当たりのアパーチャーの個数によっても異なるが、上流側表面部分はその結合力を失うかもしれない。
【0054】
1アパーチャーが占める平均面積の好適な上限は約100mmである。
【0055】
上流側表面部分内に延びるアパーチャーは、濾過能力を増強するのにすでに充分であるかもしれないが、アパーチャーの延長はシート材の厚さ全体の約5%になることが好ましい。これは、アパーチャーがシート材の全ての部分で上流側表面部分を充分に横断することを確実にするだけでなく、濾材の上流側の表面積をもさらに著しく増大させることにもなる。
【0056】
好適なシート材では、アパーチャーの延長又は深さは平均でシート材の厚さの約10%以上になる。これは表面積のさらなる増大をもたらす。
【0057】
これは、アパーチャーの延長が平均でシート材の厚さの約40%になる場合に、さらにいっそう顕著になる。
【0058】
濾過プロセスの安全性を危険に曝さないために、アパーチャーは平均でシート材の厚さの約90%以下になる延長を有する。
【0059】
ある程度の穿通の上限は第2表面部分の特性に依存し、その高い密度は、アパーチャーの延長が大きい場合でもバイパスを防止するセキュリティ部として役立つ。
【0060】
本発明のさらに好適なシート材は、平均でシート材の厚さの約80%以下になるアパーチャーの延長を示す。
【0061】
多数のシート材において、増大する濾過能力の最大の効果は、アパーチャーの延長が平均でシート材の厚さの約75%以下になるときに得られる。
【0062】
シート材の厚さの約50%の深さまでのアパーチャーの穿通は一般的に、上流側表面部分にアパーチャーを持たないシート材と比較して、15%の濾過能力の増大をもたらすが、シート材の厚さの75%までアパーチャーの平均深さを増大すると、濾過能力の30%の増大すなわち2倍の効果をもたらす。
【0063】
さらなるパラメータによると、アパーチャーを含まないシート材の上流側表面と比較して、約300%以下の上流側表面積の増大をもたらすアパーチャーがシート材に含まれる場合に、有利な性能が得られる。
【0064】
アパーチャーの平均個数の好適な下限は、1平方cm当たりにアパーチャー1個以上、特に5個以上である。
【0065】
第1表面部分で1平方cm当たりのアパーチャーの平均個数は約600以下であることが好ましい。
【0066】
アパーチャーの形状は最重要ではなく、好適なシート材では多種多様な形状が同程度の結果をもたらすが、アパーチャーは本質的に円形断面を有する。そのような構造はニードリング又は打抜き工程によって容易に得られる。
【0067】
円錐形のニードルは上流側表面部分の繊維状構造を容易に分裂させ、転置させ、かつ少なくとも部分的にばらばらに分解させるので、ニードリングはアパーチャーを設けるための好適な方法である。
【0068】
アパーチャーの平均直径は、シート材内へのアパーチャーの平均延長より小さいことが好ましい。
【0069】
シート材は実質的に均質な構造を持つ中間部分を有することが好ましい。
【0070】
シート材への垂直方向のアパーチャーの延長が頂面部のおおよその厚さに制限される場合、中間部分は、第1表面部分から第2表面部分への方向に、密度が増大する(透過率が低下する)構造を有することが好ましいであろう。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明のフィルタシート材用の製造設備の略図である。
【図2a】従来の湿式堆積フィルタシート材の頂面の拡大写真を示す。
【図2b】従来の湿式堆積フィルタシート材の底面の拡大写真を示す。
【図3】本発明の第1実施形態に係るデプスフィルタシートの斜視図である。
【図4】図3のデプスフィルタシートの部分拡大図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係るデプスフィルタシートの斜視図である。
【図6】図5のデプスフィルタシートの部分拡大図である。
【図7】本発明の第3実施形態に係るデプスフィルタシートの部分拡大図である。
【図8】本発明の第4実施形態に係るデプスフィルタシートの部分拡大図である。
【図9】本発明の第5実施形態に係るデプスフィルタシートの部分拡大図である。
【図10】本発明の第6実施形態に係るデプスフィルタシートの部分断面部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0072】
図1は、本発明のフィルタシート材用の典型的な製造設備10の略図を示す。
【0073】
製造設備10は、供給ライン14、16、18、20から水、パルプ、結合剤、及び他の添加物を受け取る混合容器12を備える。これらの構成成分は容器12内で均質に混合されてパルプ懸濁液を形成する。
【0074】
パルプ懸濁液は容器12の底部から排液ライン22を介して取り出される。排液ライン22は、パルプを制御された方式で吐出装置26に供給するポンプ24を具備する。
【0075】
パルプ懸濁液は、コンベア装置28の連続的に動作するエンドレスベルト30上に均等に吐出される。エンドレスベルト30は透水性スクリーン又はメッシュ材で作られる。水はパルプ懸濁液からベルトを介して排水され、受け器34に回収される一方、部分的に脱水されたパルプ懸濁液は、帯状の脱水パルプシート32に変形する。
【0076】
排水は吸引(図示せず)によって支援することができる。
【0077】
帯状パルプシート32は転動ベルト30によって支持され、熱乾燥機36まで移動し、そこでさらに透水性材料のエンドレスベルト38上に支持される。熱乾燥機36内の滞留時間中に、さらなる量の水が蒸発によって脱水パルプシート又は帯状シート32から除去される。結合剤物質は熱活性化され、パルプシート32を自己支持性湿式堆積繊維状フィルタシート材40に変形させる。
【0078】
下でより詳細に説明するように、湿式堆積プロセスは、より密な頂面部及び底面部並びにあまり密でない中間部分を含む、3区分化構造を持つシート材40を生成する。
【0079】
図2a及び2bは、シート材40から得られた頂面及び底面構造の拡大写真を示す。頂面は、厳密に均質ではない脱水プロセスの結果生じた、多少でこぼこした又は波打った構造を有する(図2a)。底面は、ベルト30のメッシュの表面構造を反映する格子状パターンを示す。
【0080】
表面積を基準にするかあるいは表面積の比率を取り扱う場合、頂面部の表面積の正確な決定は骨の折れる作業であるので、ここでは仮想的中央平面の面積を計算の基礎として使用する。その場合、頂面部に形成されたアパーチャーが占める面積は、そのような中央平面に対してそれらを投影した面積を指す。同じ概念は、底面を上流側表面部分として使用する場合にも当てはまる。
【0081】
本発明に係るシート材を得るために、シート材40は、本発明の第1態様では表面部分の一方を完全に除去するさらなるプロセスを受ける。そのようなタイプのシート材を製造するための設備では、中間部分が完全に露出するように一方の表面部分を研磨、スケーリング又はピーリングにより剥離させる装置42が使用される。本発明のシート材48を表わす最終シート材はロール52上に巻き付けられるか、あるいはサイズに合わせて裁断される。
【0082】
代替的に、シート材は重なり合うニードリングプロセスを受けて、一方の表面部分を実質的に完全にばらばらに分解される。得られる効果は、研磨又は剥落プロセスに匹敵する。
【0083】
本発明の第2態様では、シート材40は、中間部分が部分的に露出するように、表面部分の一方が部分的に除去又は穿刺される。
【0084】
典型的な実施形態では、上流側表面部分は、装置44で規則的パターン状にエッチングされる。代替的に、装置46における機械的処理により、上流側表面部分にアパーチャーを設けることができる。
【0085】
再び、本発明に係るシート材50が得られ、ロール52上に巻き付けられるか、あるいはサイズに合わせて裁断される。
【0086】
以下では、パルプ懸濁液の調製のための例示的配合処方を提示し、得られるシート材の特徴を記載する。
【実施例】
【0087】
例えば上記プロセスで湿式堆積繊維状フィルタシート材を製造するために、次の構成成分のパルプ懸濁液を調製する。
【0088】
セルロース系繊維40部(例えばCEASA/ENCEのタイプCeasaの短繊維20部及びRayonierのタイプGeorianierの長繊維20部)、
結合剤1.5部(例えばエピクロルヒドリン樹脂)、
Kieselgur40部(例えばCECAのCBL3)、
パーライト20部(例えばLehmann&VossのH‐800)、
及び水。
【0089】
上に特定した構成成分は水中に懸濁し、含水率は約90重量%である。
【0090】
そのように形成されたパルプ懸濁液は、透水性ベルト上に約5mmの厚さに吐出される。吐出されたパルプ懸濁液はベルト表面上に支持される一方、当初の水分の大まかに約50%がベルトを通して排水される。
【0091】
その後、部分的に排水された脱水パルプ懸濁液は、依然としてベルトに支持されて熱乾燥機内を移動し、そこで水分は約1%以下まで低減される。ひとたび繊維塊の温度が上昇すると、結合剤は活性化されて繊維塊を結合する。自己支持性シート材が形成される。シート材の厚さは約3.7mmである。そのようなシート材は一般的に、20℃及び1バールのデルタpで約150l/m×minの透過率を示す。
【0092】
ベルトを介する水分の排水中のみならず熱乾燥手順中にも、水は、ベルトの表面に載っているその下面までパルプ懸濁液の懸濁成分の一部を同伴しながら、ベルト表面へ下向きに流通する。熱乾燥工程中に、パルプ材の頂面は最初に、パルプ材の下方部分より高温に加熱される。
【0093】
表面張力効果は、繊維をはじめとするより小さい粒子を上昇させて、パルプ表面に保持させる。その後、毛管作用に支えられて、水はパルプ懸濁液の頂面に輸送され、加えてパルプ材の構成成分を頂面部まで同伴するかもしれない。乾燥が進行し、パルプ材の固化が進行すると、結合剤の熱活性化のため、毛管作用及び下向きの排水は終了する。
【0094】
その結果、得られた最終フィルタシート材は、より密な頂部及び底部の部分又は帯域並びにあまり密でない中間帯域又は部分を持つ3区分化構造を有する。以上のことから、区分構造は明瞭に識別可能であるが、これらの部分が一体的な単一構造を形成することは明らかである。
【0095】
図3は本発明に係るデプスフィルタ材60を示す。デプスフィルタ材60は、図1に関連して概説した通り、水性繊維塊を用いて湿式堆積プロセスによって製造された。
【0096】
デプスフィルタ材60は、図4から最も良く分かるように、第1部分62及び第2部分64から構成される。部分62は部分64の厚さより大きい厚さを有する。さらに、部分64の比重は部分62の比重より大きい。
【0097】
2つの部分62及び64は、上述の湿式堆積プロセス中に単一工程で一体的に形成され、同一出発材料から作られる。それにもかかわらず、湿式堆積プロセスの特異性のため、第2部分64の透過率及び最終的に組成は、部分62の特性とは異なってくる。部分64の高い密度は、部分62の透過性に比較してこの部分のより低い透過性に相応する。
【0098】
第1及び第2部分62及び64は単一工程中に同一塊状材料から製造されるので、部分62及び部分64の特性は、図4に破線66で略示される細い遷移帯域内で徐々に変化する。
【0099】
部分62は、本発明のフィルタシート材の濾過能力をもたらす部分の1つである。したがって部分64の厚さは、部分62の厚さと比較して小さいことが好ましい。
【0100】
一般的に第1部分62の厚さは、第2部分64の厚さの約5倍以上に上り、より好ましくは約10倍以上である。
【0101】
部分62の透過率は、第2部分64の透過率より大きい。上述した3区分材の透過率と比較してシート材60の透過率の増大は多少限定されるが、驚いたことにかなり高い粒子保持量又は能力が本発明によって生じる。
【0102】
第2部分64は追加的な機械的安定性をもたらす。
【0103】
2つの部分62及び64が形成される単一プロセス工程で、第1部分62より密な構造及びしたがってより低い透過率を有する頂面部が形成されことは、湿式堆積プロセスのさらなる特異性である。本発明の発明者らは、この頂面部が部分的に下層の第1部分62への非濾過液の通過障害を形成することを発見した。したがって、第1部分62を非濾過液に直接露出させるために、そのような頂面部は完全に除去した。
【0104】
本発明の第2態様では、図5〜10の本発明のさらなる実施形態の図示に関連して説明するように、非濾過液の直接通過を異なる方法で達成する。
【0105】
底面は、図2bの写真に示す通り、ベルトの表面構造の結果生じるわずかにでこぼこした構造を有する。頂面は、図2aの写真に示す通り、わずかにでこぼこした又は波打った構造を示す。
【0106】
前述の通り、上記の3区分材は約3.7mmの厚さのフィルタシート材を形成し、20℃時に1バールのデルタpで算出して150l/m×minの透過率を有する。
【0107】
図3及び4に示す本発明の実施形態に係るフィルタシート材を生産するために、頂面部は、例えばそれを剥離又は研磨することによって除去された。結果的に得られたフィルタシート材は2区分構造のみを有し(図3及び4と比較されたい)、厚さは約3.2mmである。上面部が研磨される場合、上記透過率は多少増加する一方、能力又は粒子保持量はずっと大きく増加する。底面部が研磨される場合、粒子保持量の多少小さくなるが依然として大きい増加が得られる。
【0108】
さらなる代替法として、ニードルがフィルタシート材の表面の100%に重なり合うように穿刺するニードリングプロセスが挙げられる。頂面を構成する物質はシート材から除去されるのではなく、むしろばらばらに分解されるが、フィルタシート材の濾過特性は、頂面が完全に除去されたシート材の特性に相応する。
【0109】
図5〜10の実施形態のフィルタシート材を生産するために、頂面部は剥離されず研磨もされず、底面部も維持される。これらの実施形態は本発明の第2態様に対応する。
【0110】
アパーチャーを設けるために多数の技術を使用することができるが、それについて、図5〜10に関連して以下で説明する。
【0111】
図5は、上述したプロセスで得られる、上流側表面部分が除去されていない円板状のフィルタシート材70を示す。したがってそれは、第1及び第2表面部分72、74並びに中間部分76を備えた3区分化構造を示す。シート材は別々の製造工程を受け、第1表面部分72には、図5の拡大詳細図である図6からより容易に明らかであるアパーチャー78が設けられる。アパーチャー78は、第1又は上流側表面部分72を完全に横断するように設けられる。
【0112】
1平方cm当たり約100の平均アパーチャー個数及び約50%の深さを持つ上記の湿式堆積プロセスで得られるシート材のニードリングは、約5%の透過率の増大をもたらし、アパーチャーの平均断面積は約8μmになる。再び、驚いたことに、非修正3区分材と比較して約30%の能力又は粒子保持量の劇的増大が得られる。
【0113】
図7〜9のさらに拡大した表現に、アパーチャー78の種々の断面が示される。
【0114】
図7は、断面が円形であり被濾過流体が中間部分76の最上部まで自由に通過する
深さを有するアパーチャー78を示す。その変形で、アパーチャー80は、中間部分の最上部内に延びて被濾過流体に呈される中間部分の面積を増大させたアパーチャーを示す。
【0115】
同様に、図8は、第1表面部分72を貫通して延び、被濾過流体を中間部分76の最上部まで通過させる、正方形断面を持つアパーチャー82を示す。
【0116】
再び、変異形が、中間部分76の最上部分内に延び、それによって被濾過流体に呈される中間部分の表面積を増大させた、アパーチャー84の形で図9に示される。
【0117】
最後に図10は、アパーチャーの中心軸と平行に切ったアパーチャーの断面がどのように見えるかを示す。図10に示す断面は一般的に、ニードリングプロセスの結果生じる。
【符号の説明】
【0118】
10…製造設備、12…混合容器、14…供給ライン、16…供給ライン、18…供給ライン、20…供給ライン、22…排液ライン、24…ポンプ、26…吐出装置、30…エンドレスベルト、32…帯状パルプシート、34…受け器、36…熱乾燥機、38…エンドレスベルト、40…湿式堆積繊維状フィルタシート材、44…表面除去装置、48…フィルタシート材、50…シート材、52…巻取りロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デプスフィルタシート材を製造するための方法であって、
繊維状材料と結合剤とを含む流動性水性パルプ組成物を調製するステップと、
前記流動性水性パルプ組成物を透水性支持体上に単位面積当たり予め定められた量ずつ吐出するステップと、
前記透水性支持体を通して前記流動性水性パルプ組成物の水分を少なくとも部分的に排水させるステップと、
前記少なくとも部分的に排水されたパルプ組成物に昇温での乾燥工程を施して、デプスフィルタシート原材を形成するステップであり、前記デプスフィルタシート原材が、該デプスフィルタシート原材の上面及び下面をそれぞれ形成する第1表面部分及び第2表面部分、並びに、中間に位置し前記第1表面部分及び前記第2表面部分と一体的に形成された中間部分を備え、前記中間部分が、前記第1表面部分及び前記第2表面部分の透過率より大きい透過率を有する、ステップと、
前記デプスフィルタシート原材における前記第1表面部分又は前記第2表面部分の一方の少なくとも一部分を除去又は転置させるために、前記デプスフィルタシート原材に処理を施すステップと、
を備える、方法。
【請求項2】
前記処理により前記第1表面部分の少なくとも一部分が除去又は転置される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記処理により前記デプスフィルタシート原材の前記第1表面部分が、前記上部表面の面積の約5%以上に相当する程度まで除去又は転置される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記デプスフィルタシート原材の前記第1表面部分が、前記表面積の約100%に相当する程度まで除去される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記処理が、研磨、剥離、エッチング、ニードリング、及び/又はレーザ処理を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記処理が、前記第1表面部分又は前記第2表面部分の一方に複数のアパーチャーを形成し、前記アパーチャーが、前記デプスフィルタシート材の対応の表面全体に規則的パターン状に分散されている、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
1アパーチャーが占める平均面積が約1μm以上である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
1アパーチャーが占める平均面積が約100mm以下である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記処理が、前記表面部分の一部分を前記デプスフィルタシート材の厚さの約5%以上になる程度まで除去又は転置させる、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記処理が、前記表面部分の一部分を前記デプスフィルタシート材の厚さの約90%以下になる程度まで除去又は転置させる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記流動性水性パルプ組成物の前記繊維状材料が、セルロース由来及び/又は合成ポリマの繊維を含み、かつ任意選択的にさらに活性成分及び/又は充填材を含む、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法に従って得られるデプスフィルタシート材。
【請求項13】
前記第1表面部分が当該デプスフィルタシート材の上流側表面を構成し、かつ前記第2表面部分が下流側表面を画成し、前記中間部分が前記第1表面部分の透過率より高い透過率を有する、請求項12に記載のデプスフィルタシート材。
【請求項14】
当該デプスフィルタシート材の前記上流側表面から前記第1表面部分を貫通して前記中間部分内まで延びて前記上流側表面から前記中間部分まで障害の無い直接流体通路をもたらす複数のアパーチャーを備える、請求項13に記載のデプスフィルタシート材。
【請求項15】
前記アパーチャーが、アパーチャーを含まない表面積と比較して前記上流側表面積の約300%以下の増大をもたらす、請求項14に記載のデプスフィルタシート材。
【請求項16】
当該デプスフィルタシート材の前記第1表面部分に1平方cm当たり約600個のアパーチャーを備える、請求項14又は15に記載のデプスフィルタシート材。
【請求項17】
前記中間部分が実質的に均質な構造を有する、請求項11〜16のいずれか一項に記載のデプスフィルタシート材。
【請求項18】
前記中間部分が、前記第1表面部分から前記第2表面部分への方向に密度が低下する構造を有する、請求項11〜16のいずれか一項に記載のデプスフィルタシート材。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−77585(P2010−77585A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−193348(P2009−193348)
【出願日】平成21年8月24日(2009.8.24)
【出願人】(509238410)ポール フィルターシステムズ ゲーエムベーハー (1)
【Fターム(参考)】